説明

ペロブスカイト型酸化物、強誘電体膜とその製造方法、強誘電体素子、及び液体吐出装置

【課題】PZT系のペロブスカイト型酸化物において、焼結助剤ややアクセプタイオンを添加することなく、Aサイトに5モル%以上のドナイオンを添加することを可能とする。
【解決手段】本発明のペロブスカイト型酸化物は、下記式(P)で表されることを特徴とするものである。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y)O・・・(P)
(式中、MはBi及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。0.05≦x≦0.4。0<y≦0.7。δ=0及びz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PZT系のペロブスカイト型酸化物、これを含む強誘電体膜とその製造方法、この強誘電体膜を用いた強誘電体素子及び液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電体と、圧電体に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電アクチュエータ等の用途に使用されている。圧電材料としては、ジルコンチタン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト型酸化物が広く用いられている。かかる圧電材料は電界無印加時において自発分極性を有する強誘電体である。
【0003】
被置換イオンの価数よりも高い価数を有する各種ドナイオンを添加したPZTでは、真性PZTよりも強誘電性能等の特性が向上することが1960年代より知られている。AサイトのPb2+を置換するドナイオンとして、Bi3+,及びLa3+等の各種ランタノイドのカチオンが知られている。BサイトのZr4+及び/又はTi4+を置換するドナイオンとして、V5+,Nb5+,Ta5+,Sb5+,Mo6+,及びW6+等が知られている。
【0004】
強誘電体は古くは、所望組成の構成元素を含む複数種の酸化物粉末を混合し、得られた混合粉末を成型及び焼成する、あるいは所望組成の構成元素を含む複数種の酸化物粉末を有機バインダに分散させたものを基板に塗布し焼成するなどの方法により製造されていた。かかる方法では、強誘電体は600℃以上、通常1000℃以上の焼成工程を経て、製造されていた。かかる方法では、高温の熱平衡状態で製造を行うため、本来価数が合わない添加物を高濃度ドープすることはできなかった。
【0005】
非特許文献1には、PZTバルクセラミックスに対する各種ドナイオンの添加についての研究が記載されている。図15に、非特許文献1のFig.14を示す。この図は、ドナイオンの添加量と誘電率との関係を示す図である。この図には、1.0モル%程度(図では0.5wt%程度に相当)で最も特性が良くなり、それ以上添加すると特性が低下することが示されている。これは、価数が合わないが故に固溶しないドナイオンが粒界等に偏析して、特性を低下させるためであると考えられる。
【0006】
近年、特許文献1〜4には、Aサイトに非特許文献1よりも高濃度のドナイオンをドープした強誘電体が開示されている。
【0007】
特許文献1には、Aサイトに0モル%超100モル%未満のBiをドープし、Bサイトに5モル%以上40モル%以下のNb又はTaをドープしたPZT系の強誘電体膜が開示されている(請求項1)。この強誘電体膜はゾルゲル法によって成膜されている。ゾルゲル法は熱平衡プロセスであり、特許文献1では、焼結を促進して熱平衡状態を得るために、焼結助剤としてSiを添加することが必須となっている(段落[0108]等参照)。
【0008】
特許文献1には、AサイトにBiをドープすることにより酸素欠損が低減されて、電流リークが低減されることが記載されている(段落[0040]等参照)。特許文献1にはまた、BiとNb又はTaとの添加量が増大するにつれて、分極−電界ヒステリシスの角形性が向上し、分極−電界ヒステリシスが良好となることが記載されている(段落[0114]等参照)。
【0009】
特許文献2には、0.01〜10重量%のBiと0.01〜10重量%のGeOとを含むPZT系バルク焼結体が開示されている。特許文献3には、0.01〜10重量%のBiと0.01〜10重量%のVとを含むPZT系バルク焼結体が開示されている。特許文献2及び3には、焼結助剤としてGe又はVを添加することで、比較的低温で焼結できることが記載されている。
【0010】
特許文献4には、価数を合わせるために、高価数のドナイオンであるBiと、低価数のアクセプタイオンであるSc又はInとを共ドープしたPZT系のバルク焼結体が開示されている。
【特許文献1】特開2006-96647号公報
【特許文献2】特開2001-206769号公報
【特許文献3】特開2001-253774号公報
【特許文献4】特開2006-188414号公報
【非特許文献1】S.Takahashi, Ferroelectrics(1981) Vol.41 p.143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に記載の強誘電体では、焼結を促進して熱平衡状態を得るために、焼結助剤としてSi,Ge,又はVを添加することが必須となっている。かかる焼結助剤を添加すると強誘電特性が低下するため、特許文献1〜3に記載の方法では、Aサイトのドナイオン添加の効果を充分に引き出すことができない。
【0012】
なお、特許文献3で用いられているVはBサイトのドナイオンであるが、Nb及びTaよりもイオン半径が小さく、Vのドナイオンとしての効果はNb及びTaより小さいと考えられる。また、Vは毒性も強く、使用を避けることが好ましい。
【0013】
特許文献4に記載の強誘電体では、価数を合わせるために、高価数のドナイオンと低価数のアクセプタイオンとを共ドープしている。しかしながら、低価数のアクセプタイオンは強誘電特性を下げることが知られており、アクセプタイオンを共ドープする系ではドナイオン添加の効果を充分に引き出すことができない。
【0014】
電子機器の小型軽量化・高機能化に伴い、これに搭載される圧電素子においても小型軽量化・高機能化が進められるようになってきている。例えば、インクジェット式記録ヘッドでは、高画質化のために、圧電素子の高密度化が検討されており、それに伴って圧電素子の薄型化が検討されている。強誘電体の形態としては、薄膜が好ましい。
【0015】
特許文献2〜4ではバルク焼結体が対象とされている。特許文献1ではゾルゲル法による強誘電体膜の成膜が記載されている。ゾルゲル法では、膜厚を厚くするとクラックが入るため、1μm以下の薄膜しか成膜することができない。強誘電体メモリ等の用途ではかかる薄膜でもよいが、圧電素子では充分な変位が得られないため、強誘電体膜の膜厚は3μm以上が好ましい。薄膜の積層を繰り返すことで膜厚を厚くすることはできなくはないが、実用的ではない。また、ゾルゲル法ではPb欠損が起こりやすい。Pb欠損が起こると、強誘電体性能が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、Aサイトに5モル%以上のドナイオンを添加することが可能なPZT系のペロブスカイト型酸化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、上記製造方法により、Aサイトに5モル%以上のドナイオンが添加され、強誘電性能に優れたPZT系のペロブスカイト型酸化物を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、Aサイト欠損がなく、Aサイトに5モル%以上のドナイオンが添加され、強誘電性能に優れたPZT系のペロブスカイト型酸化物を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、Aサイトに5モル%以上のドナイオンが添加され、強誘電性能に優れたPZT系のペロブスカイト型酸化物を含み、3.0μm以上の膜厚を有する強誘電体膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のペロブスカイト型酸化物は、下記式(P)で表されることを特徴とするものである。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y)O・・・(P)
(式中、MはBi及びランタニド元素(=元素番号57〜71の元素(La〜Lu))からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0.05≦x≦0.4。
0<y≦0.7。
δ=0及びz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
【0018】
本発明のペロブスカイト型酸化物において、MがBiであることが好ましい。この場合、0.05≦x≦0.25であることが好ましい。
【0019】
本発明では、0<δ≦0.2であるAサイト元素がリッチな組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができる。
本発明では、Si,Ge,及びVを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することができる。「Si,Ge,及びVを実質的に含まない」とは、ペロブスカイト型酸化物の表面(例えば、ペロブスカイト型酸化物膜である場合は膜表面)からの蛍光X線測定により検出される各元素の濃度が、Siの場合は0.1wt%未満,Ge及びVの場合は0.01%未満であることと定義する。
【0020】
本発明の強誘電体膜は、上記の本発明のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とするものである。
本発明では、バイポーラ分極−電界曲線において、正電界側の抗電界をEc1とし、負電界側の抗電界をEc2としたとき、(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)の値が25%以下である強誘電体膜を提供することができる。
本発明では、多数の柱状結晶からなる膜構造を有する強誘電体膜を提供することができる。
本発明では、3.0μm以上の膜厚を有する強誘電体膜を提供することができる。
【0021】
本発明の強誘電体膜は、非熱平衡プロセスにより成膜することができる。本発明の強誘電体膜の好適な成膜方法としては、スパッタ法が挙げられる。
【0022】
本発明の強誘電体膜をスパッタ法により成膜する場合、成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)及び(2)を充足する成膜条件で成膜を行うことが好ましく、下記式(1)〜(3)を充足する成膜条件で成膜を行うことが特に好ましい。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
【0023】
本明細書において、「成膜温度Ts(℃)」は、成膜を行う基板の中心温度を意味するものとする。
本明細書において、「プラズマ電位Vs及びフローティング電位Vf」は、ラングミュアプローブを用い、シングルプローブ法により測定するものとする。フローティング電位Vfの測定は、プローブに成膜中の膜等が付着して誤差を含まないように、プローブの先端を基板近傍(基板から約10mm)に配し、できる限り短時間で行うものとする。
プラズマ電位Vsとフローティング電位Vfとの電位差Vs−Vf(V)はそのまま電子温度(eV)に変換することができる。電子温度1eV=11600K(Kは絶対温度)に相当する。
【0024】
本発明の強誘電体素子は、上記の本発明の強誘電体膜と、該強誘電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の強誘電体素子からなる圧電素子と、
液体が貯留される液体貯留室及び該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口を有する液体貯留吐出部材とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、PZT系のペロブスカイト型酸化物において、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、Aサイトに5〜40モル%のドナイオンを添加することを実現したものである。本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに5〜40モル%の高濃度のドナイオンが添加されたものであるので、強誘電性能(圧電性能)に優れている。本発明のペロブスカイト型酸化物では、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、Aサイトにかかる高濃度のドナイオンを添加できるので、焼結助剤やアクセプタイオンによる強誘電性能の低下が抑制され、ドナイオンの添加による強誘電性能の向上が最大限引き出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
「ペロブスカイト型酸化物、強誘電体膜」
本発明者は、スパッタ法等の非熱平衡プロセスにより成膜を行うことにより、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、ジルコンチタン酸鉛(PZT)のAサイトに5モル%以上のドナイオンを添加できることを見出した。本発明者は具体的には、PZTのAサイトに5〜40モル%のドナイオンを添加できることを見出した。
【0027】
すなわち、本発明のペロブスカイト型酸化物は、下記式(P)で表されることを特徴とするものである。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y)O・・・(P)
(式中、MはBi及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0.05≦x≦0.4。
0<y≦0.7。
δ=0及びz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
【0028】
本発明の強誘電体膜は、上記の本発明のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とするものである。
本発明では、上記の本発明のペロブスカイト型酸化物を主成分とする強誘電体膜を提供することができる。本明細書において、「主成分」は80質量%以上の成分と定義する。
【0029】
特許文献1〜3では、焼結助剤としてSi,Ge,又はVを添加することが必須であるが、本発明ではSi,Ge,及びVを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することができる。焼結助剤としてはSnも知られているが、本発明ではSnを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することもできる。
【0030】
特許文献4では、ドナイオンを高濃度ドープするために、アクセプタイオンであるSc又はInを共ドープしているが、本発明ではかかるアクセプタイオンを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することができる。
【0031】
焼結助剤やアクセプタイオンによって強誘電性能の低下が抑制することが知られている。本発明では焼結助剤やアクセプタイオンを必須としないので、焼結助剤やアクセプタイオンによる強誘電性能の低下が抑制され、ドナイオンの添加による強誘電性能の向上が最大限引き出される。なお、本発明では、焼結助剤やアクセプタイオンを必須としないが、特性に支障のない限り、これらを添加することは差し支えない。
【0032】
本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに5〜40モル%のドナイオンが添加されたものであるので、真性PZTあるいはPZTのBサイトにドナイオンが添加されたものに比較して、Pb量が少なく、環境に対する負荷が少なく、好ましい。
【0033】
本発明者は、PZTのBサイトにドナイオンであるNb,Ta,又はWを添加したPZT膜では、バイポーラ分極-電界曲線(PE曲線)が正電界側に偏った非対称ヒステリシスを示すのに対して、Aサイトにドナイオンを添加した本発明のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜では、PE曲線の非対称ヒステリシスが緩和されて、対称ヒステリシスに近くなることを見出している。PEヒステリシスが非対称であることは、負電界側の抗電界Ec1の絶対値と正電界側の抗電界Ec2とが異なること(|Ec1|≠Ec2)により定義される。
【0034】
通常、強誘電体膜は、下部電極と強誘電体膜と上部電極とが順次積み重ねられた強誘電体素子の形態で使用され、下部電極と上部電極とのうち、一方の電極を印加電圧が0Vに固定されるグランド電極とし、他方の電極を印加電圧が変動されるアドレス電極として、駆動される。駆動しやすいことから、通常は下部電極をグランド電極とし、上部電極をアドレス電極として、駆動が行われる。「強誘電体膜に負電界が印加されている状態」とは、アドレス電極に負電圧を印加した状態を意味する。同様に、「強誘電体膜に正電界が印加されている状態」とは、アドレス電極に正電圧を印加した状態を意味する。
【0035】
正電界側に偏ったPE非対称ヒステリシスを有する強誘電体膜では、正電界を印加した場合は分極されにくく、負電界を印加した場合は分極されやすい。この場合、正電界印加では圧電特性が出にくく、負電界印加で圧電特性が出やすい。負電界を印加するには、上部電極の駆動ドライバICを負電圧用にする必要があるが、負電圧用は汎用されておらず、ICの開発コストがかかってしまう。下部電極をパターニングしてアドレス電極とし上部電極をグランド電極とすれば、汎用の正電圧用の駆動ドライバICを用いることができるが、製造プロセスが複雑になり、好ましくない。
【0036】
本発明の強誘電体膜では、PE曲線が対称ヒステリシスに近くなるため、駆動の観点から、好ましい。
PE曲線の非対称ヒステリシスのレベルは、(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)の値により評価でき、この数値が大きい程、PEヒステリシスの非対称性が大きいことを示す。本発明では、(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)の値が25%以下である強誘電体膜を提供することができる(後記実施例1、図8を参照)。
【0037】
本発明のペロブスカイト型酸化物において、式(P)中のMがBiであることが好ましい。本発明者は、MがBiのとき、PE曲線が対称ヒステリシスに近く、かつ、強誘電性能に優れた強誘電体膜が得られることを見出している。「背景技術」の項において、特許文献1には、BiとNb又はTaとを共ドープすることにより、PEヒステリシスの角形性が向上し、PEヒステリシスが良好となることが記載されていることを述べたが、本発明者はAサイトドナイオンであるBiとBサイトドナイオンであるNb又はTaとを共ドープする特許文献1よりも、Aサイトドナイオンのみをドープする本発明の系の方が、PEヒステリシスの対称性が良いことを見出している(後記実施例1、図7A及び図7Bを参照)。
【0038】
本発明のペロブスカイト型酸化物は特性に支障のない限り、異相を含むものであってもよいが、本発明者は、MがBiであるとき、XRD測定から、少なくとも0.05≦x≦0.30の範囲において単相構造のペロブスカイト型酸化物が得られることを確認している。
【0039】
本発明者はまた、MがBiであるとき、0.05≦x≦0.25の範囲おいて、特に誘電率ε及び最大分極値Pmax等が高く、強誘電性能に優れたペロブスカイト型酸化物が得られることを見出している(後記実施例1、図6を参照)。したがって、MがBiであるとき、強誘電性能の観点から、0.05≦x≦0.25であることが好ましい。この範囲より高濃度ドープの0.25≦x≦0.40の範囲は、Pb量低減による環境に対する負荷低減効果の観点から、好ましい。
【0040】
また、式(P)中、TiとZrの組成を示すyの値は、0<y≦0.7であればよいが、正方晶相と菱面体相との相転移点であるモルフォトロピック相境界(MPB)組成の近傍となる値であればより高い強誘電性能が得られ、好ましい。すなわち、0.45<y≦0.7であることが好ましく、0.47<y<0.57であることがより好ましい。
【0041】
特許文献1に記載のゾルゲル法ではPb欠損が起こりやすく、Pb欠損が起こると強誘電体性能が低下する傾向にあるが、本発明によれば、上記式(P)中のδがδ≧0であるAサイト元素の欠損のない組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができ、δ>0であるAサイト元素がリッチな組成のペロブスカイト型酸化物を提供することも可能である。本発明者は具体的には、上記式(P)中のδが0<δ≦0.2であるAサイト元素がリッチな組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができることを見出している。なお、本発明では、このようにδ≧0であるAサイト元素の欠損のない組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができるが、特性に支障のない限り、Aサイト欠損があっても構わない。
【0042】
本発明では、多数の柱状結晶からなる膜構造を有する強誘電体膜を提供することができる。特許文献1に記載のゾルゲル法では、かかる柱状結晶膜構造は得られない。基板面に対して非平行に延びる多数の柱状結晶からなる膜構造では、結晶方位の揃った配向膜が得られる。かかる膜構造では、高い圧電性能が得られ、好ましい。
【0043】
圧電歪には、
(1)自発分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致したときに、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の電界誘起圧電歪、
(2)電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転することで生じる圧電歪、
(3)電界印加強度の増減によって結晶を相転移させ、相転移による体積変化を利用する圧電歪、
(4)電界印加により相転移する特性を有する材料を用い、自発分極軸方向とは異なる方向に結晶配向性を有する強誘電体相を含む結晶配向構造とすることで、より大きな歪が得られるエンジニアードドメイン効果を利用する圧電歪(エンジニアードドメイン効果を利用する場合には、相転移が起こる条件で駆動してもよいし、相転移が起こらない範囲で駆動してもよい)などが挙げられる。
【0044】
上記の圧電歪(1)〜(4)を単独で又は組み合わせて利用することで、所望の圧電歪が得られる。また、上記の圧電歪(1)〜(4)はいずれも、それぞれの歪発生の原理に応じた結晶配向構造とすることで、より大きな圧電歪が得られる。したがって、高い圧電性能を得るには、強誘電体膜は結晶配向性を有することが好ましい。例えば、MPB組成のPZT系強誘電体膜であれば、(100)配向の柱状結晶膜が得られる。
【0045】
柱状結晶の成長方向は基板面に対して非平行であればよく、略垂直方向でも斜め方向でも構わない。
強誘電体膜をなす多数の柱状結晶の平均柱径は特に制限なく、30nm以上1μm以下が好ましい。柱状結晶の平均柱径が過小では、強誘電体として充分な結晶成長が起こらない、所望の強誘電性能(圧電性能)が得られないなどの恐れがある。柱状結晶の平均柱径が過大では、パターニング後の形状精度が低下するなどの恐れがある。
【0046】
本発明では、式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含み、3.0μm以上の膜厚を有する強誘電体膜を提供することができる。
【0047】
以上説明したように、本発明は、PZT系のペロブスカイト型酸化物において、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、Aサイトに5〜40モル%のドナイオンを添加することを実現したものである。本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに5〜40モル%の高濃度のドナイオンが添加されたものであるので、強誘電性能(圧電性能)に優れている。本発明のペロブスカイト型酸化物では、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、Aサイトにかかる高濃度のドナイオンを添加できるので、焼結助剤やアクセプタイオンによる強誘電性能の低下が抑制され、ドナイオンの添加による強誘電性能の向上が最大限引き出される。
【0048】
「強誘電体膜の製造方法」
AサイトにドナイオンMが5〜40モル%添加された上記式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含む本発明の強誘電体膜は、非熱平衡プロセスにより成膜することができる。本発明の強誘電体膜の好適な成膜方法としては、スパッタ法、プラズマCVD法、焼成急冷クエンチ法、アニールクエンチ法、及び溶射急冷法等が挙げられる。本発明の成膜方法としては、スパッタ法が特に好ましい。
【0049】
ゾルゲル法等の熱平衡プロセスでは、本来価数が合わない添加物を高濃度ドープすることが難しく、焼結助剤あるいはアクセプタイオンを用いるなどの工夫が必要であるが、非熱平衡プロセスではかかる工夫なしに、ドナイオンを高濃度ドープすることができる。
【0050】
図1A及び図1Bを参照して、スパッタリング装置の構成例と成膜の様子について説明する。ここでは、RF電源を用いるRFスパッタリング装置を例として説明するが、DC電源を用いるDCスパッタリング装置を用いることもできる。図1Aは装置全体の概略断面図、図1Bは成膜中の様子を模式的に示す図である。
【0051】
図1Aに示すように、スパッタリング装置1は、内部に、成膜基板Bを保持すると共に成膜基板Bを所定温度に加熱することができる静電チャック等の基板ホルダ11と、プラズマを発生させるプラズマ電極(カソード電極)12とが備えられた真空容器10から概略構成されている。
【0052】
基板ホルダ11とプラズマ電極12とは互いに対向するように離間配置され、プラズマ電極12上にターゲットTが装着されるようになっている。プラズマ電極12はRF電源13に接続されている。
【0053】
真空容器10には、真空容器10内に成膜に必要なガスGを導入するガス導入管14と、真空容器10内のガスの排気Vを行うガス排出管15とが取り付けられている。ガスGとしては、Ar、又はAr/O混合ガス等が使用される。
【0054】
図1Bに模式的に示すように、プラズマ電極12の放電により真空容器10内に導入されたガスGがプラズマ化され、Arイオン等のプラスイオンIpが生成する。生成したプラスイオンIpはターゲットTをスパッタする。プラスイオンIpにスパッタされたターゲットTの構成元素Tpは、ターゲットTから放出され中性あるいはイオン化された状態で基板Bに蒸着される。この蒸着を所定時間実施することで、所定厚の膜が成膜される。図中、符号Pがプラズマ空間を示している。
【0055】
本発明の強誘電体膜をスパッタ法により成膜する場合、成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)及び(2)を充足する成膜条件で成膜を行うことが好ましく、下記式(1)〜(3)を充足する成膜条件で成膜を行うことが特に好ましい(本発明者が先に出願している特願2006-263978号(本件出願時において未公開)を参照。)
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
【0056】
プラズマ空間Pの電位はプラズマ電位Vs(V)となる。通常、基板Bは絶縁体であり、かつ、電気的にアースから絶縁されている。したがって、基板Bはフローティング状態にあり、その電位はフローティング電位Vf(V)となる。ターゲットTと基板Bとの間にあるターゲットの構成元素Tpは、プラズマ空間Pの電位と基板Bの電位との電位差Vs−Vfの加速電圧分の運動エネルギーを持って、成膜中の基板Bに衝突すると考えられる。
【0057】
プラズマ電位Vs及びフローティング電位Vfは、ラングミュアプローブを用いて測定することができる。プラズマP中にラングミュアプローブの先端を挿入し、プローブに印加する電圧を変化させると、例えば図2に示すような電流電圧特性が得られる(小沼光晴著、「プラズマと成膜の基礎」p.90、日刊工業新聞社発行)。この図では電流が0となるプローブ電位がフローティング電位Vfである。この状態は、プローブ表面へのイオン電流と電子電流の流入量が等しくなる点である。絶縁状態にある金属の表面や基板表面はこの電位になっている。プローブ電圧をフローティング電位Vfより高くしていくと、イオン電流は次第に減少し、プローブに到達するのは電子電流だけとなる。この境界の電圧がプラズマ電位Vsである。
Vs−Vfは、基板とターゲットとの間にアースを設置するなどして、変えることができる(後記実施例2〜4を参照)。
【0058】
スパッタ法において、成膜される膜の特性を左右するファクターとしては、成膜温度、基板の種類、基板に先に成膜された膜があれば下地の組成、基板の表面エネルギー、成膜圧力、雰囲気ガス中の酸素量、投入電極、基板/ターゲット間距離、プラズマ中の電子温度及び電子密度、プラズマ中の活性種密度及び活性種の寿命等が考えられる。
【0059】
本発明者は多々ある成膜ファクターの中で、成膜される膜の特性は、成膜温度TsとVs−Vfとの2つのファクターに大きく依存することを見出し、これらファクターを好適化することにより、良質な膜を成膜できることを見出した。すなわち、成膜温度Tsを横軸にし、Vs−Vfを縦軸にして、膜の特性をプロットすると、ある範囲内において良質な膜を成膜できることを見出した(図14を参照)。
【0060】
Vs−Vfが基板Bに衝突するターゲットTの構成元素Tpの運動エネルギーに相関することを述べた。下記式に示すように、一般に運動エネルギーEは温度Tの関数で表されるので、基板Bに対して、Vs−Vfは温度と同様の効果を持つと考えられる。
E=1/2mv=3/2kT
(式中、mは質量、vは速度、kは定数、Tは絶対温度である。)
Vs−Vfは、温度と同様の効果以外にも、表面マイグレーションの促進効果、弱結合部分のエッチング効果などの効果を持つと考えられる。
【0061】
本発明者は、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(1)を充足しないTs(℃)<400の成膜条件では、成膜温度が低すぎてペロブスカイト結晶が良好に成長せず、パイロクロア相がメインの膜が成膜されることを見出している(図14を参照)。
【0062】
本発明者はさらに、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度TsとVs−Vfが上記式(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造及び膜組成が良好な良質な強誘電体膜を安定的に成膜することができることを見出している(図14を参照)。
【0063】
PZT系強誘電体膜のスパッタ成膜において、高温成膜するとPb抜けが起こりやすくなることが知られている。本発明者は、Pb抜けが、成膜温度以外にVs−Vfにも依存することを見出している。PZTの構成元素であるPb,Zr,及びTiの中で、Pbが最もスパッタ率が大きく、スパッタされやすい。例えば、「真空ハンドブック」((株)アルバック編、オーム社発行)の表8.1.7には、Arイオン300evの条件におけるスパッタ率は、Pb=0.75、Zr=0.48,Ti=0.65であることが記載されている。スパッタされやすいということは、スパッタされた原子が基板面に付着した後に、再スパッタされやすいということである。プラズマ電位と基板の電位との差が大きい程、すなわち、Vs−Vfの差が大きい程、再スパッタの率が高くなり、Pb抜けが生じやすくなると考えられる。
【0064】
成膜温度TsとVs−Vfがいずれも過小の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度TsとVs−Vfのうち少なくとも一方が過大の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。
すなわち、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度Tsが相対的に低い条件のときには、ペロブスカイト結晶を良好に成長させるためにVs−Vfを相対的に高くする必要があり、成膜温度Tsが相対的に高い条件のときには、Pb抜けを抑制するためにVs−Vfを相対的に低くする必要がある。これを表したのが上記式(2)である。
【0065】
本発明者はまた、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数の高い強誘電体膜が得られることを見出している。
【0066】
本発明者は、例えば、成膜温度Ts(℃)=約420の条件では、Vs−Vf(V)=約42とすることで、Pb抜けのないペロブスカイト結晶を成長させることができるが、得られる膜の圧電定数d31は100pm/V程度と低いことを見出している。この条件では、Vs−Vf、すなわち基板に衝突するターゲットの構成元素Tpのエネルギーが高すぎるために、膜に欠陥が生じやすく、圧電定数が低下すると考えられる。本発明者は、上記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数d31≧130pm/Vの強誘電体膜を成膜できることを見出している。
【0067】
「強誘電体素子(圧電素子)、インクジェット式記録ヘッド」
図3を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子(強誘電体素子)、及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図3はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0068】
本実施形態の圧電素子(強誘電体素子)2は、基板20上に、下部電極30と強誘電体膜(圧電体膜)40と上部電極50とが順次積層された素子であり、強誘電体膜40に対して、下部電極30と上部電極50とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。強誘電体膜40は上記式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含む本発明の強誘電体膜である。
【0069】
下部電極30は基板20の略全面に形成されており、この上に図示手前側から奥側に延びるライン状の凸部41がストライプ状に配列したパターンの強誘電体膜40が形成され、各凸部41の上に上部電極50が形成されている。
【0070】
強誘電体膜40のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、強誘電体膜40は連続膜でも構わない。但し、強誘電体膜40は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部41からなるパターンで形成することで、個々の凸部41の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0071】
基板20としては特に制限なく、シリコン、ガラス、ステンレス(SUS)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板20としては、シリコン基板の表面にSiO酸化膜が形成されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0072】
下部電極30の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
上部電極50の主成分としては特に制限なく、下部電極30で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0073】
下部電極30と上部電極50の厚みは特に制限なく、例えば200nm程度である。強誘電体膜40の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。強誘電体膜40の膜厚は3μm以上が好ましい。
【0074】
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、上記構成の圧電素子2の基板20の下面に、振動板60を介して、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)71及びインク室71から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)72を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)70が取り付けられたものである。インク室71は、強誘電体膜40の凸部41の数及びパターンに対応して、複数設けられている。
【0075】
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子2の凸部41に印加する電界強度を凸部41ごとに増減させてこれを伸縮させ、これによってインク室71からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0076】
基板20とは独立した部材の振動板60及びインクノズル70を取り付ける代わりに、基板20の一部を振動板60及びインクノズル70に加工してもよい。例えば、基板20がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板20を裏面側からエッチングしてインク室71を形成し、基板自体の加工により振動板60及びインクノズル70とを形成することができる。
本実施形態の圧電素子2及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。
【0077】
「インクジェット式記録装置」
図4及び図5を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図4は装置全体図であり、図5は部分上面図である。
【0078】
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
【0079】
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
【0080】
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
【0081】
ロール紙を使用する装置では、図4のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
【0082】
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
【0083】
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
【0084】
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図4上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図4の左から右へと搬送される。
【0085】
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
【0086】
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
【0087】
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図5を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0088】
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
【0089】
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
【0090】
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0091】
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0092】
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
【0093】
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0094】
本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
成膜基板として、25mm角のSi基板上に30nm厚のTi密着層と300nm厚のIr下部電極とが順次積層された電極付き基板を用意した。
上記基板に対して、RFスパッタリング装置を用い、真空度0.5Pa、Ar/O混合雰囲気(O体積分率2.5%)の条件下で、ターゲット組成を変えて、Bi添加量の異なる複数種のBiドープPZT強誘電体膜の成膜を実施した。いずれのターゲットも、Zr:Tiモル比=52:48とした。
【0095】
基板/ターゲット間距離は60mmとした。基板を浮遊状態にして、ターゲットと基板との間ではない基板から離れたところにアースを配して、成膜を行った。このときのプラズマ電位Vsとフローティング電位(基板近傍(=基板から約10mm)の電位)Vfを測定したところ、Vs−Vf(V)=約12であった。成膜温度Tsは525℃とした。強誘電体膜の膜厚は4μmとした。以降、BiドープPZTは「Bi−PZT」と略記する。
上記強誘電体膜上にPt上部電極をスパッタリング法にて100nm厚で形成し、本発明の強誘電体素子を得た。
【0096】
ターゲット組成を変える以外は上記と同様にして、La添加量が同一のLaドープPZT強誘電体膜の成膜を複数回実施し、それぞれについて強誘電体素子を得た。以降、LaドープPZTは「La−PZT」と略記する。
ターゲット組成を変える以外は上記と同様にして、Nb添加量の異なる複数種のNbドープPZT強誘電体膜の成膜を実施し、それぞれについて強誘電体素子を得た。以降、NbドープPZTは「Nb−PZT」と略記する。
ターゲット組成を変える以外は上記と同様にして、Bi添加量及びNb添加量の異なる複数種のBi,Nb共ドープPZT強誘電体膜の成膜を実施し、それぞれについて強誘電体素子を得た。以降、Bi,Nb共ドープPZTは「Bi,Nb−PZT」と略記する。
【0097】
ターゲット組成を変える以外は上記と同様にして、Ta添加量の異なる複数種のTaドープPZT強誘電体膜の成膜を実施し、それぞれについて強誘電体素子を得た。以降、TaドープPZTは「Ta−PZT」と略記する。
ターゲット組成を変える以外は上記と同様にして、W添加量の異なる複数種のWドープPZT強誘電体膜の成膜を実施し、それぞれについて強誘電体素子を得た。以降、WドープPZTは「W−PZT」と略記する。
いずれのターゲットも、Zr:Tiモル比=52:48とした。
【0098】
<EDX測定>
Bi添加量の異なる複数種のBi−PZT強誘電体膜について各々、EDXによる組成分析を実施した。
いずれの膜も(Pb1−x+δBi)(Zr0.52Ti0.48)Oで表される組成を有していた。x=0.06,0.10,0.11,0.14,0.16,0.21,0.30の膜が得られた。いずれの膜も1+δ=1.02〜1.10であり、Aサイト元素がリッチな組成であった。いずれの膜も、酸素のK線強度が弱いため、2<z≦3程度であることは分かったが、酸素量zの特定はできなかった。
他の強誘電体膜についても、同様にEDXによる組成分析を実施した。
【0099】
<SEM断面観察>
Bi添加量の異なる複数種のBi−PZT強誘電体膜について各々、SEM断面観察を実施したところ、いずれも基板面に対して略垂直方向に成長した多数の柱状結晶(平均柱径約150nm)からなる柱状結晶構造膜であった。
【0100】
<XRD測定>
Bi添加量の異なる複数種のBi−PZT強誘電体膜について各々、XRD測定を実施した。
Bi添加量6〜30モル%のBi−PZT膜はいずれも(100)配向のペロブスカイト単相構造の膜であった。
【0101】
<PEヒステリシス測定>
Bi添加量の異なる複数種のBi−PZT強誘電体膜(0.06≦x≦0.21)について各々、分極−電界ヒステリシス測定(PEヒステリシス測定)を行い、残留分極値Pr(μC/cm)、最大分極値Pmax(μC/cm)、及び誘電率εを求めた。分極値がほぼ飽和してくるE=100kV/cmにおける分極値をPmaxとして求めた。
【0102】
Bi添加量(Aサイト中のモル濃度)と、残留分極値Pr、最大分極値Pmax、及び誘電率εとの関係を図6に示す。図6に示すように、スパッタ法により成膜を行うことにより、焼結助剤やアクセプタイオンを添加することなく、PZTのAサイトに5モル%以上のドナイオンを添加でき、5〜25モル%の範囲内で高い強誘電性能を示すことが明らかとなった。
【0103】
Bi添加量14モル%のBi−PZT強誘電体膜のPEヒステリシス曲線、La添加量1モル%のLa−PZT強誘電体膜のPEヒステリシス曲線、Nb添加量12モル%のNb−PZT強誘電体膜のPEヒステリシス曲線、Bi添加量6モル%−Nb添加量14モル%のBi,Nb−PZT強誘電体膜のPEヒステリシス曲線、及び、Bi添加量9モル%−Nb添加量16モル%のBi,Nb−PZT強誘電体膜のPEヒステリシス曲線を図7A,図7Bに示す。
また、ドナイオンの種類、ドナイオンの添加量、及び(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)の値の関係を図8に示す。
【0104】
Bサイトに5モル%以上のドナイオンを添加したNb−PZT膜、Ta−PZT膜、及びW−PZT膜では、PEヒステリシスの非対称のレベルを示す(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)が大きく、25%を超えたのに対し、Aサイトにドナイオンを添加したBi−PZT膜、及びLa−PZT膜では、同パラメータ値が小さく、PEヒステリシスの対称性が良かった。Bi添加量6〜21モル%のBi−PZT膜、及びLa添加量1モル%のLa−PZT膜はいずれも、(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)≦25であった。
【0105】
また、Bサイトにのみドナイオンを添加したNb−PZT膜よりも、Aサイト及びBサイトにドナイオンを添加したBi,Nb−PZT膜の方がPEヒステリシスの非対称性は緩和されるが、Bi,Nb共ドープよりもBi単独ドープの方がPEヒステリシスの対称性が格段に良いことが明らかとなった。
【0106】
(実施例2)
特定の成膜条件を変える以外は実施例1と同様にして、真性PZT膜及びNb−PZT膜の成膜を実施し、それぞれについて強誘電体素子を得た。真性PZT強誘電体膜の成膜ではPb1.3Zr0.52Ti0.48ターゲットを用い、Nb−PZT膜の成膜ではPb1.3Zr0.43Ti0.44Nb0.13ターゲットを用いて、成膜を行った。
【0107】
基板/ターゲット間距離は60mmとした。基板を浮遊状態にして、ターゲットと基板との間ではない基板から離れたところにアースを配して、成膜を行った。このときのプラズマ電位Vsとフローティング電位(基板近傍(=基板から約10mm)の電位)Vfを測定したところ、Vs−Vf(V)=約12であった。
【0108】
このプラズマ条件下で、450〜600℃の範囲内で成膜温度Tsを変化させて、成膜を行った。成膜温度Ts=525℃ではNb−PZT膜を成膜し、それ以外の成膜温度TsではPZT膜を成膜した。得られた膜のXRD測定を実施した。得られた主な膜のXRDパターンを図9に示す。
【0109】
図9に示すように、Vs−Vf(V)=約12の条件では、成膜温度Ts=475〜575℃の範囲内において、結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が得られた。成膜温度Ts=450℃では、パイロクロア相がメインの膜が得られたので、「×」と判定した。成膜温度Ts=475℃は、同一条件で調製した他のサンプルではパイロクロア相が見られたため、「▲」と判定した。成膜温度Ts=575℃から配向性が崩れ始めたので、成膜温度Ts=575℃を「▲」と判定し、成膜温度Ts=600℃を「×」と判定した。成膜温度Ts=500〜550℃の範囲内において、良好な結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が安定的に得られたので、「●」と判定した。
【0110】
得られた各強誘電体膜について、XRFによる組成分析を実施した。結果を図10に示す。図10中の「Pb/Bサイト元素」は、Pbのモル量とBサイト元素の合計モル量(Zr+Ti、又はZr+Ti+Nb)との比を示している。
【0111】
図10に示すように、Vs−Vf(V)=約12の条件では、成膜温度Ts=350〜550℃の範囲において、1.0≦Pb/Bサイト元素≦1.3のPb抜けのないPZT膜又はNb−PZT膜を成膜することができた。ただし、成膜温度Tsが450℃以下では成膜温度不足のためペロブスカイト結晶が成長しなかった。また、成膜温度Tsが600℃以上では、Pb抜けのためペロブスカイト結晶が成長しなかった。
【0112】
例えば、Vs−Vf(eV)=約12、成膜温度Ts=525℃の条件で成膜したNb−PZT膜の組成は、Pb1.12Zr0.43Ti0.44Nb0.13であった。
上記Pb1.12Zr0.43Ti0.44Nb0.13のサンプルについて、強誘電体膜の圧電定数d31を片持ち梁法により測定したところ、圧電定数d31は250pm/Vと高く、良好であった。
【0113】
(実施例3)
装置のプラズマ状態を変えるため、基板の付近にアースを配して、成膜を行った。このときのプラズマ電位Vsとフローティング電位Vfを実施例2と同様に測定したところ、Vs−Vfは約42Vであった。このプラズマ条件下で、380〜500℃の範囲内で成膜温度Tsを変化させて、PZT膜の成膜を行い、得られた膜のXRD測定を実施した。得られた主な膜のXRDパターンを図11に示す。
【0114】
図11に示すように、Vs−Vf(V)=約42の条件では、成膜温度Ts=420℃において、良好な結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が得られたので、「●」と判定した。成膜温度Ts=400℃以下及び460℃以上では、パイロクロア相がメインの膜が得られたので、「×」と判定した。
【0115】
実施例2と同様に、得られた各PZT膜について組成分析を実施した。結果を図12に示す。図12に示すように、Vs−Vf(V)=約42の条件では、成膜温度Ts=350℃以上450℃未満の範囲において、1.0≦Pb/Bサイト元素≦1.3のPb抜けのないPZT膜を成膜することができた。ただし、成膜温度Tsが400℃以下では成膜温度不足のためペロブスカイト結晶が成長しなかった。
【0116】
(実施例4)
さらに、アースの位置を変えることでVs−Vf(V)を変えて、PZT膜又はNb−PZT膜の成膜を行い、実施例3と同様に評価した。Vs−Vf(V)=約22、約32、約45、約50の条件について、それぞれ成膜温度Tsを変えて、成膜を実施した。実施例2〜4を通して、成膜温度Ts=525℃であり、Vs−Vf(V)=約12、約32、約45の成膜条件で成膜したサンプルがNb−PZT膜であり、それ以外のサンプルがPZT膜である。
【0117】
XRD測定結果が「×」のサンプルのXRDパターン例を図13に示す。図13は、Vs−Vf(V)=約32、成膜温度Ts=525℃の条件で成膜したNb−PZT膜のXRDパターンである。パイロクロア相がメインであることが示されている。
【0118】
(実施例2〜4の結果のまとめ)
図14に、実施例2〜4のすべてのサンプルについて、成膜温度Tsを横軸にし、Vs−Vfを縦軸にして、XRD測定結果をプロットした。図14には、Vs−Vf=−0.2Ts+100の直線と、Vs−Vf=−0.2Ts+130の直線を引いてある。
【0119】
図14には、PZT膜又はNb−PZT膜においては、下記式(1)及び(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造及び膜組成が良好な良質な強誘電体膜を安定的に成膜できることが示されている。図14中のデータは真性PZT膜又はNb−PZT膜のデータのみであるが、Aサイトにドナイオンを添加する本発明のPZT系膜も好適な成膜条件は同様である。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の強誘電体膜は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電体メモリ等の強誘電体素子に好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1A】スパッタリング装置の概略断面図
【図1B】成膜中の様子を模式的に示す図
【図2】プラズマ電位Vs及びフローティング電位Vfの測定方法を示す説明図
【図3】本発明に係る実施形態の圧電素子(強誘電体素子)及びインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造を示す断面図
【図4】図3のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図
【図5】図4のインクジェット式記録装置の部分上面図
【図6】実施例1のBi−PZT膜について、Bi添加量と、残留分極値Pr、最大分極値Pmax、及び誘電率εとの関係を示す図
【図7A】実施例1の各種PZT系膜のPEヒステリシス曲線
【図7B】実施例1の各種PZT系膜のPEヒステリシス曲線
【図8】実施例1の各種PZT系膜について、ドナイオンの種類、ドナイオンの添加量、及び(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)の値の関係を示す図
【図9】実施例2で得られた主な強誘電体膜のXRDパターン
【図10】実施例2で得られた強誘電体膜の組成分析結果を示す図
【図11】実施例3で得られた主な強誘電体膜のXRDパターン
【図12】実施例3で得られた強誘電体膜の組成分析結果を示す図
【図13】実施例4において、Vs−Vf(V)=約32、成膜温度Ts=525℃の条件で成膜した強誘電体膜のXRDパターン
【図14】実施例2〜4のすべてのサンプルについて、成膜温度Tsを横軸にし、Vs−Vfを縦軸にして、XRD測定結果をプロットした図
【図15】非特許文献1のFig.14
【符号の説明】
【0122】
2 圧電素子(強誘電体素子)
3、3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
20 基板
30、50 電極
40 強誘電体膜(圧電体膜)
70 インクノズル(液体貯留吐出部材)
71 インク室(液体貯留室)
72 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(P)で表されることを特徴とするペロブスカイト型酸化物。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y)O・・・(P)
(式中、MはBi及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0.05≦x≦0.4。
0<y≦0.7。
δ=0及びz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
【請求項2】
MがBiであることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型酸化物。
【請求項3】
0.05≦x≦0.25であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト型酸化物。
【請求項4】
0<δ≦0.2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物。
【請求項5】
Si,Ge,及びVを実質的に含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする強誘電体膜。
【請求項7】
バイポーラ分極−電界曲線において、正電界側の抗電界をEc1とし、負電界側の抗電界をEc2としたとき、(Ec1+Ec2)/(Ec1−Ec2)×100(%)の値が25%以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の強誘電体膜。
【請求項8】
多数の柱状結晶からなる膜構造を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の強誘電体膜。
【請求項9】
3.0μm以上の膜厚を有することを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の強誘電体膜。
【請求項10】
非熱平衡プロセスにより成膜されたものであることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の強誘電体膜。
【請求項11】
スパッタ法により成膜されたものであることを特徴とする請求項10に記載の強誘電体膜。
【請求項12】
成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)及び(2)を充足する成膜条件で成膜されたものであることを特徴とする請求項11に記載の強誘電体膜。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)
【請求項13】
成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)〜(3)を充足する成膜条件で成膜されたものであることを特徴とする請求項11に記載の強誘電体膜。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
【請求項14】
請求項6〜9のいずれかに記載の強誘電体膜の製造方法において、
非熱平衡プロセスにより成膜を行うことを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項15】
スパッタ法により成膜を行うことを特徴とする請求項14に記載の強誘電体膜の製造方法。
【請求項16】
成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)及び(2)を充足する成膜条件で成膜を行うことを特徴とする請求項15に記載の強誘電体膜の製造方法。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)
【請求項17】
成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)〜(3)を充足する成膜条件で成膜を行うことを特徴とする請求項15に記載の強誘電体膜の製造方法。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
【請求項18】
請求項6〜13に記載の強誘電体膜と、該強誘電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする強誘電体素子。
【請求項19】
請求項18に記載の強誘電体素子からなる圧電素子と、
液体が貯留される液体貯留室及び該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口を有する液体貯留吐出部材とを備えたことを特徴とする液体吐出装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−62207(P2009−62207A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229785(P2007−229785)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】