説明

ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、塗料、缶又はチューブ内面コーティング用塗料及びこの塗料を用いた缶又はチューブ

【課題】高加工性、高密着性及び高耐溶剤性を有するコーティングを形成することのできるポリアミドイミド樹脂を提供する。
【解決手段】塩基性極性溶媒中で、(1)芳香族ジアミン化合物及び/又は芳香族ジイソシアネート化合物からなる芳香族アミン成分と、(2)芳香族ジカルボン酸化合物、芳香族ジオール化合物、芳香族三塩基酸無水物、芳香族三塩基酸無水物モノクロライド及び芳香族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる芳香族酸成分と、(3)脂肪族構造を有し、芳香族アミン成分又は芳香族酸成分と共重合しうる共重合成分とを重合させて得られるポリアミドイミド樹脂であって、芳香族ポリアミドイミド樹脂構造に脂肪族構造が導入されたポリアミドイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、このポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分とした塗料、このポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物又は塗料を使用する缶又はチューブ内面コーティング用塗料並びにこの塗料を用いた缶又はチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、高絶縁性、高耐熱性、高強度性、高耐摩耗性、高耐溶剤性等の優れた特性を多数有し、かつ、樹脂骨格中のアミド結合及び樹脂末端の酸基が各種基材表面と水素結合を形成し優れた密着性を示すことから、各種工業分野の様々な用途において金属、ガラス等多様な基材表面用の優れた保護コーティング材として広く使用されている。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂の密着性は、特にアルミに対して優れていることから、アルミ製品表面の保護コーティング材としての使用が多く、ポリアミドイミド樹脂の有する優れた耐溶剤性と合わせて、化粧品、医薬品、食品、化学製品等向けのアルミ缶又はチューブの内面コーティング材として古くから活用されている。
【0004】
ポリアミドイミド樹脂の一般的な製造法については公知(例えば、特許文献1参照))であり、従来のポリアミドイミド樹脂は、ジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸を材料に使用し、大量のポリアミドイミド樹脂を連続的かつ安価に製造できるという工業的に優れたイソシアネート法により製造されている。
【特許文献1】特公昭44−19274号公報
【0005】
近年、特にエアゾール缶の内面コーティング材としてポリアミドイミド樹脂の需要が拡大している。これは、1988年に施行された「特定物質の規制などによるオゾン層の保護に関する法律(オゾン層保護法)」により、従来から使用されてきたフロンガスに変わる新たな噴射剤としてLPガス(LPG、液化石油ガス)及びジメチルエーテル(DME)が使用されるようになったが、従来からエアゾール缶の内面コーティング材として主流であったエポキシ、フェノール系コーティングがDMEに腐食されるため、より耐溶剤性の高いポリアミドイミド樹脂が使用されるようになった。
【0006】
現在、このエアゾール缶をはじめとして、化粧品、医薬品、食品、化学製品等向けの各種アルミ缶又はチューブを様々な形状に加工したいという市場ニーズが高まっているが、従来のジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸からなるポリアミドイミド樹脂コーティングでは加工性及び密着性の不足から、加工時の基材の変形にコーティングが追従できず、剥離、うき、亀裂の発生等様々な不良が発生してしまう。
【0007】
この対策として、高加工性、高密着性及び高耐溶剤性を有するコーティングを形成することのできるポリアミドイミド樹脂の開発が強く求められているが、様々な形状への加工に耐えうる高加工性及び高密着性を有し、かつ高耐溶剤性を有するポリアミドイミド樹脂は現在まで実用化に至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、エアゾール缶をはじめとして、様々な形状に加工されるアルミ缶又はチューブの内面コーティング用途、高加工性、高密着性及び高耐溶剤性の要求される多種多様な用途向けに、高加工性、高密着性及び高耐溶剤性を有するコーティングを形成することのできるポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、このポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分とした塗料、このポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物又は塗料を使用する缶又はチューブ内面コーティング用塗料並びにこの塗料を用いた缶又はチューブを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の高加工性、高密着性及び高耐溶剤性を有するコーティングを形成することのできるポリアミドイミド樹脂組成物に関して検討した結果、特定の脂肪族構造を芳香族ポリアミドイミド樹脂構造中に導入することによって、従来のポリアミドイミド樹脂からなるコーティングと比較して飛躍的に加工性及び密着性が向上し、かつ耐溶剤性を保持することが可能であることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、塩基性極性溶媒中で、(1)芳香族ジアミン化合物及び/又は芳香族ジイソシアネート化合物からなる芳香族アミン成分と、(2)芳香族ジカルボン酸化合物、芳香族ジオール化合物、芳香族三塩基酸無水物、芳香族三塩基酸無水物モノクロライド及び芳香族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる芳香族酸成分と、(3)脂肪族構造を有し、芳香族アミン成分又は芳香族酸成分と共重合しうる共重合成分とを重合させて得られるポリアミドイミド樹脂であって、芳香族ポリアミドイミド樹脂構造に脂肪族構造が導入されたポリアミドイミド樹脂に関する。
【0011】
また、本発明は、脂肪族構造がカーボネート結合を有することを特徴とする前記のポリアミドイミド樹脂に関する。
【0012】
また、本発明は、共重合成分が、(3−1)脂肪族ジアミン化合物及び/又は脂肪族ジイソシアネート化合物からなる脂肪族アミン成分、並びに、(3−2)脂肪族ジカルボン酸化合物、脂肪族ジオール化合物、脂肪族三塩基酸無水物、脂肪族三塩基酸無水物モノクロライド及び脂肪族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる脂肪族酸成分からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記のポリアミドイミド樹脂に関する。
【0013】
また、本発明は、共重合成分が、少なくとも脂肪族ポリカーボネートジオール又はその誘導体からなるものであることを特徴とする前記のポリアミドイミド樹脂に関する。
【0014】
また、本発明は、ポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基を示し、複数個のXは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜20の整数を示し、Yは三価の脂肪族基又は芳香族基を示し、少なくとも1個のX及び/又はYは芳香族基を示す。)
で表される繰り返し単位を含有してなることを特徴とする前記のポリアミドイミド樹脂に関する。
【0015】
また、本発明は、前記のポリアミドイミド樹脂100重量部に対して1種類以上の硬化剤を1〜100重量部含むことを特徴とするポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、硬化剤が多官能型エポキシ化合物であることを特徴とする前記のポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、前記のポリアミドイミド樹脂又は前記のポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する塗料に関する。
【0018】
また、本発明は、前記のポリアミドイミド樹脂、前記のポリアミドイミド樹脂組成物又は前記の塗料を使用する缶内面コーティング用塗料に関する。
【0019】
また、本発明は、缶がアルミ製である前記の缶内面コーティング用塗料に関する。
【0020】
また、本発明は、缶がエアゾール缶である前記の缶内面コーティング用塗料に関する。
【0021】
また、本発明は、前記の缶内面コーティング用塗料を用いて内面に塗膜を形成した缶チューブに関する。
【0022】
また、本発明は、前記のポリアミドイミド樹脂、前記のポリアミドイミド樹脂組成物又は前記の塗料を使用するチューブ内面コーティング用塗料に関する。
【0023】
また、本発明は、チューブがアルミ製である前記のチューブ内面コーティング用塗料に関する。
【0024】
また、本発明は、前記のチューブ内面コーティング用塗料を用いて内面に塗膜を形成したチューブに関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリアミドイミド樹脂を用いることで、従来のジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸からなるポリアミドイミド樹脂から得られるコーティングと比較して、飛躍的に加工性及び密着性が向上し、かつ耐溶剤性を保持することできるコーティングを形成することが可能となる。これらは、エアゾール缶をはじめとして、様々な形状に加工される缶、特にアルミ缶又はチューブの内面コーティング塗料及び高加工性、高密着性及び高耐溶剤性の要求される缶又はチューブのように、多種多様な用途向けに、多大な有益性を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、塩基性極性溶媒中で、(1)芳香族ジアミン化合物及び/又は芳香族ジイソシアネート化合物からなる芳香族アミン成分と、(2)芳香族ジカルボン酸化合物、芳香族ジオール化合物、芳香族三塩基酸無水物、芳香族三塩基酸無水物モノクロライド及び芳香族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる芳香族酸成分と、(3)脂肪族構造を有し、芳香族アミン成分又は芳香族酸成分と共重合しうる共重合成分とを重合させて得られるポリアミドイミド樹脂であって、芳香族ポリアミドイミド樹脂構造に脂肪族構造が導入されたものである。
【0027】
上記の共重合成分としては、例えば、脂肪族ジアミン化合物及び/又は脂肪族ジイソシアネート化合物からなる脂肪族アミン成分、脂肪族ジカルボン酸化合物、脂肪族ジオール化合物、脂肪族三塩基酸無水物、脂肪族三塩基酸無水物モノクロライド及び脂肪族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる脂肪族酸成分が挙げられる。これらの共重合成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記製造法に用いられる代表的な化合物を次に列挙する。
【0029】
まず、芳香族ジアミン化合物としては、例えば、トリジン、ジヒドロキシベンジジン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノジフェニル、トリジンスルホン、ジアミノベンゾフェノン、チオジアニリン、スルホニルジアニリン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ジアミノベンジジン等が挙げられる。
【0030】
脂肪族ジアミン化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数1〜18のポリメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0031】
芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の炭素数1〜18のポリメチレン基を有するポリメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0033】
また、芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0034】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、セバシン酸、アジピン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ブラシル酸、シュウ酸(無水物)、イタコン酸、ドデカン二酸、3,3′−ジチオジプロピオン酸、3,3′−チオジプロピオン酸等が挙げられる。
【0035】
芳香族ジオール化合物としては、例えば、レゾルシノール、ヒドロキノン、ビフェニルジオール、ビスフェノールA、ナフタレンジオール、芳香族ポリカーボネートジオール、芳香族ポリカーボネートジオール−クロロギ酸二エステル等の芳香族ポリカーボネートジオールの誘導体などが挙げられる。
【0036】
脂肪族ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、脂肪族ポリカーボネートジオール、脂肪族ポリカーボネートジオール−クロロギ酸二エステル等の脂肪族ポリカーボネートジオールの誘導体などが挙げられる。
【0037】
芳香族三塩基酸無水物及び芳香族三塩基酸無水物モノクロライドとしては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等が挙げられる。
【0038】
脂肪族三塩基酸無水物及び脂肪族三塩基酸無水物モノクロライドとしては、例えば、無水クエン酸、無水クエン酸モノクロライド等が挙げられる。
【0039】
芳香族四塩基酸二無水物としては、例えば、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0040】
また、上記の化合物以外にも、必要に応じ、ヒドロキシナフトエ酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシビフェニルカルボン酸、1,2−アミノドデカン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DL−リンゴ酸、キシリトール、D−ソルビトール、DL−アラニン等を用いてもよい。
【0041】
なお、本発明のポリアミドイミド樹脂の製造に使用される芳香族及び脂肪族ジアミン化合物、芳香族及び脂肪族ジイソシアネート化合物、芳香族及び脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族及び脂肪族ジオール化合物、芳香族及び脂肪族三塩基酸無水物、芳香族及び脂肪族三塩基酸無水物モノクロライド並びに芳香族及び脂肪族四塩基酸二無水物は上記の化合物に限定されるものではなく、主骨格となる芳香族構造を形成するため及び加工性を向上させるための脂肪族構造を導入するために多種多様な化合物を使用出来ることは言うまでもない。
【0042】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、脂肪族構造を導入することでジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸からなる従来のポリアミドイミド樹脂と比較して飛躍的に加工性及び密着性を向上させ、かつ耐溶剤性を保持させるものであり、このポリアミドイミド樹脂を製造するにあたり上記の化合物のいずれを使用しても良いが、加工性及び密着性を向上させるためにはカーボネート結合を含有する脂肪族構造を導入することが好ましい。
【0043】
また、カーボネート結合を含有する脂肪族構造を導入するためには、脂肪族ポリカーボネートジオール又はそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のモノマを共重合させることがより好ましい。
さらに、加工性及び密着性を向上させ、かつ耐溶剤性を保持するためには、ポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(II)
【0044】
【化2】

(式中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基を示し、複数個のXは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜20の整数を示し、Yは三価の脂肪族基又は芳香族基、好ましくは芳香族基を示し、少なくとも1個のX及び/又はYは芳香族基を示す。)
で表される繰り返し単位を含有してなることがより好ましい。
【0045】
上記一般式(II)で表される繰り返し単位を導入するために使用される脂肪族ポリカーボネートジオール又はその誘導体の配合量は特に制限するものではないが、加工性、密着性の向上及び耐溶剤性の保持のためには、ポリアミドイミド樹脂が原料の全酸成分中に脂肪族ポリカーボネートジオール又はその誘導体を1〜50モル%含んで重合されていることが好ましい。
【0046】
脂肪族ポリカーボネートジオール又はその誘導体の量が1モル%未満では従来のポリアミドイミド樹脂と比較して加工性及び密着性の向上が不十分となる傾向があり、また50モル%を超える量では耐溶剤性が低下する傾向がある。加工性及び密着性を向上させ、かつ耐溶剤性を保持するためには、脂肪族ポリカーボネートジオール又はその誘導体の量を5〜30モル%とすることがより好ましい。
【0047】
また、重合に用いられる芳香族アミン成分、芳香族酸成分及び脂肪族構造を有する重合成分の総量中、脂肪族構造を有する重合成分の量は、0.5〜50モル%とすることが好ましく、2〜40モル%とすることがより好ましい。
【0048】
本発明になるポリアミドイミド樹脂を重合するために使用しうる脂肪族ポリカーボネートジオール類としては、例えば、ダイセル化学(株)製、商品名PLACCEL CD−205、205PL、205HL、210、210PL、210HL、220、220PL、220HLとして市販されているものが挙げられ、これらを単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
前記アミン成分(芳香族アミン成分及び脂肪族アミン成分の合計)と酸成分(芳香族酸成分及び脂肪族アミン成分の合計)の配合量は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量、架橋度の観点から、酸成分の総量1.0モルに対してアミン成分を0.8〜1.2モルとすることが好ましく、0.95〜1.1モルとすることがより好ましい。
【0050】
本発明になるポリアミドイミド樹脂の重合に使用される塩基性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等を用いることが出来るが、アミドイミド化反応を高温で短時間に行うためには、N−メチル−2−ピロリドンなどの高沸点溶媒を用いることが好ましい。
【0051】
また、溶媒の使用量には得に制限はないが、イソシアネート成分又はアミン成分と酸成分の総量100重量部に対して50〜500重量部とすることが好ましい。
ポリアミドイミド樹脂の合成条件は多様であり、一概に特定できないが、通常、120〜155℃の温度で行われ、空気中の水分の影響を低減するため、窒素などの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0052】
本発明になるポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が5,000〜50,000のものが好ましい。数平均分子量が5,000未満では、塗膜としたときの、塗膜の耐溶剤性が低下する傾向があり、50,000を超えると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解した時に粘度が高くなり、塗装時の作業性に劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は10,000〜30,000とすることがより好ましい。
【0053】
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプルリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定して、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0054】
このようにして得られたポリアミドイミド樹脂は、使用する際に必要に応じて適当な濃度に希釈される。希釈溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、キシレン、ジメチルスルホキサイドなどの極性溶媒の他に、助溶媒として、ポリオール類、これらの低級アルキルエーテル化物、アセチル化物等を用いても良い。
【0055】
例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、イソプロピルアルコール又はそれらのモノメチルエーテル化物、モノエチルエーテル、モノイソプロピルエーテル化物、モノブチルエーテル化物、ジメチルエーテル化物及びこれらのモノアセチル化物などが使用される。
【0056】
本発明になるポリアミドイミド樹脂は、通常、十分な耐溶剤性を得るために、加熱硬化時における樹脂同士の重合反応及び架橋反応を促進させる目的で、多官能型エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、メラミン化合物、ポリエステル化合物等の硬化剤を配合し、ポリアミドイミド樹脂組成物として用いることが好ましい。
【0057】
硬化剤としては、本発明になるポリアミドイミド樹脂との反応性及び得られる塗膜特性から、特に多官能型エポキシ化合物の併用が好ましい。多官能型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、アミン型、アルコール型、ビフェニル型、エステル型等特に制限はなく、複数のものを同時に併用することができる。
【0058】
多官能型エポキシ化合物等の硬化剤の配合量は、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して1〜100重量部とすることが好ましい。硬化剤の量が1重量部未満であると重合反応及び架橋反応の促進効果が十分に得られない傾向があり、100重量部を超えると得られる塗膜の耐溶剤性が低下する傾向がある。このことから、多官能型エポキシ化合物等の硬化剤の配合量は10〜60重量部とすることがより好ましい。
【0059】
本発明のポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する塗料には、通常、前記の溶媒に加え、必要に応じ、揺変性付与剤、顔料、充填材、硬化促進剤、重合禁止剤、等を配合することができる。揺変性付与剤としては、例えば、微粒子シリカ、有機ベントナイト、有機高分子微粒子等が挙げられる。顔料、充填材としては、例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレーシリカ等が挙げられる。
【0060】
本発明になるポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物及びこのポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料は、被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に塗膜を形成する。特に本発明になるポリアミドイミド樹脂組成物は、従来のポリアミドイミド樹脂と比較して飛躍的に優れた加工性及び密着性を有する柔軟な塗膜を形成することができ、かつ耐溶剤性保持することができることから、高加工性、高密着性及び高耐溶剤性の要求される多種多様な用途において多大な有益性を有しており、特にエアゾール缶をはじめとして、様々な形状に加工されるアルミ缶又はチューブの内面コーティング材向けの塗料として多大な有益性を有している。
【実施例】
【0061】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
実施例1
アミン成分として4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸0.8モル、脂肪族ポリカーボネートジオール(ダイセル化学(株)製、商品名PLACCEL CD−220)0.20モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して300重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。
【0062】
反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら温度を130℃に保持し、このまま8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た(ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量:25000)。このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対してアミン型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート604)25重量部を添加した。
【0063】
実施例2
アミン成分としてo−トリジンジイソシアネート0.2モル、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.8モル、酸成分として無水トリメリット酸0.5モル、セバシン酸0.4モル、脂肪族ポリカーボネートジオール(ダイセル化学(株)製、商品名PLACCEL CD−220PL)0.1モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して300重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。
【0064】
反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら温度を130℃に保持し、このまま6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液(ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量:22000)を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対してビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート828)35重量部を添加した。
【0065】
実施例3
イソシアネート成分として1,6−ヘキサンジイソシアネート0.3モル、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.7モル、酸成分としてビフェニル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸0.2モル及び無水トリメリット酸0.6モル、ポリカーボネートジオール(ダイセル化学(株)製、商品名PLACCEL CD−220)0.2モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して300重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。
【0066】
反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら温度を130℃に保持し、このまま7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液(ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量:19000)を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対してビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート828)35重量部を添加した。
【0067】
比較例1
イソシアネート成分として4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して300重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。
【0068】
反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら温度を130℃に保持し、このまま8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液(ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量:25000)を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対してアミン型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート604)25重量部を添加した。
【0069】
(試験例)
上記の実施例1、2、3及び比較例1で得られたポリアミドイミド樹脂組成物溶液からそれぞれポリアミドイミドフィルムを作製し、硬化性、初期及びエリクセン試験機で5mm押し出した後の密着性及び曲げ性に関しての比較試験を行った。その試験結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
1) N,N−ジメチルホルムアミド中にて室温で、1時間超音波処理した後の塗膜重量減少率を測定。
2) 旧JIS K 5400(%、クロスカット残率)に準拠し、クロスカット後にテープ剥離5回行った後の残率。
N=2の基板で各2回測定し、計4つの測定値を範囲で示す。
(100は全てのデータが100であったことを示し、0は全てのデータが0であったことを示す)。
3) エリクセン試験機により押し出し。
【0072】
4) Tベント法。t=0.5mmのアルミ基板に塗布硬化させ、T=0.5mmのアルミ基板を間に挟んで折り曲げた際の塗膜の剥離、うき及び亀裂の発生を確認。
5) 間にアルミ基板を挟まずそのまま折り曲げても、塗膜の剥離、うき及び亀裂は発生せず。
6) 間にアルミ基板を2枚挟んで折り曲げると塗膜に亀裂及びうきが生じた。3枚では塗膜の剥離、うき及び亀裂は発生せず。
ポリアミドイミドフィルム作製条件を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表1に示されるように、実施例1、2及び3で得られたポリアミドイミド樹脂組成物溶液から作製されたポリアミドイミドフィルムは、比較例1で得られた従来のポリアミドイミド樹脂組成物溶液から作製されたポリアミドイミドフィルムに比較して、加工性及び密着性が飛躍的に向上しており、耐溶剤性を保持していることが明らかである。
【0075】
また、本発明になるポリアミドイミド樹脂組成物及びこのポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料が、比較例に代表される従来のポリアミドイミド樹脂と比較して、飛躍的に優れた加工性及び密着性を有する柔軟な塗膜を形成し、かつ耐溶剤性を保持していることが明らかである。このことから高加工性、高密着性及び高耐溶剤性の要求される多種多様な用途において多大な有益性を有しており、特にエアゾール缶をはじめとして、様々な形状に加工されるアルミ缶又はチューブの内面コーティング材向けの塗料として多大な有益性を有していることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性極性溶媒中で、(1)芳香族ジアミン化合物及び/又は芳香族ジイソシアネート化合物からなる芳香族アミン成分と、(2)芳香族ジカルボン酸化合物、芳香族ジオール化合物、芳香族三塩基酸無水物、芳香族三塩基酸無水物モノクロライド及び芳香族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる芳香族酸成分と、(3)脂肪族構造を有し、芳香族アミン成分又は芳香族酸成分と共重合しうる共重合成分とを重合させて得られるポリアミドイミド樹脂であって、芳香族ポリアミドイミド樹脂構造に脂肪族構造が導入されたポリアミドイミド樹脂。
【請求項2】
脂肪族構造がカーボネート結合を有することを特徴とする請求項1記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項3】
共重合成分が、(3−1)脂肪族ジアミン化合物及び/又は脂肪族ジイソシアネート化合物からなる脂肪族アミン成分、並びに、(3−2)脂肪族ジカルボン酸化合物、脂肪族ジオール化合物、脂肪族三塩基酸無水物、脂肪族三塩基酸無水物モノクロライド及び脂肪族四塩基酸二無水物からなる群から選ばれる脂肪族酸成分からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
共重合成分が、少なくとも脂肪族ポリカーボネートジオール又はその誘導体からなるものであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項5】
ポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基を示し、複数個のXは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜20の整数を示し、Yは三価の脂肪族基又は芳香族基を示し、少なくとも1個のX及び/又はYは芳香族基を示す。)
で表される繰り返し単位を含有してなることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂100重量部に対して1種類以上の硬化剤を1〜100重量部含むことを特徴とするポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項7】
硬化剤が多官能型エポキシ化合物であることを特徴とする請求項6記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜5いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂又は請求項6又は7記載のポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する塗料。
【請求項9】
請求項1〜5いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂、請求項6又は7記載のポリアミドイミド樹脂組成物或いは請求項8記載の塗料を使用する缶内面コーティング用塗料。
【請求項10】
缶又がアルミ製である請求項9記載の缶内面コーティング用塗料。
【請求項11】
缶がエアゾール缶である請求項9又は10記載の缶内面コーティング用塗料。
【請求項12】
請求項9、10又は11記載の缶内面コーティング用塗料を用いて内面に塗膜を形成した缶。
【請求項13】
請求項1〜5いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂、請求項6又は7記載のポリアミドイミド樹脂組成物或いは請求項8記載の塗料を使用するチューブ内面コーティング用塗料。
【請求項14】
チューブがアルミ製である請求項13記載のチューブ内面コーティング用塗料。
【請求項15】
請求項13又は14記載のチューブ内面コーティング用塗料を用いて内面に塗膜を形成したチューブ。

【公開番号】特開2007−291334(P2007−291334A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19304(P2007−19304)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】