説明

マイクロ波プラズマ処理装置

【課題】 イオン分布を制御してイオンを含むマイクロプラズマにより面内均一性の高いプラズマ処理を実現することができるマイクロ波プラズマ処理装置を提供すること。
【解決手段】 誘電体からなるマイクロ波透過板28で天壁が構成されたチャンバー1内に、被処理体Wを載置する載置台2を設け、マイクロ波透過板28を透過したマイクロ波によってプラズマを形成し、該プラズマにより載置台2に載置された被処理体Wにプラズマ処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置において、マイクロ波透過板28は、載置台2と対向して設けられ、そのマイクロ波透過面の少なくとも載置台2に載置された被処理体Wの周縁部における被処理体Wのエッジまでの領域に対応する部分に凹凸状部42を有し、被処理体Wの中央部に対応する部分は平坦部43となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理は、半導体デバイスの製造に不可欠な技術であるが、近時、LSIの高集積化、高速化の要請からLSIを構成する半導体素子のデザインルールが益々微細化され、また、半導体ウエハが大型化されており、それにともなって、プラズマ処理装置においてもこのような微細化および大型化に対応するものが求められている。
【0003】
ところが、従来から多用されてきた平行平板型や誘導結合型のプラズマ処理装置では、電子温度が高いため微細素子にプラズマダメージを生じてしまい、また、プラズマ密度の高い領域が限定されるため、大型の半導体ウエハを均一かつ高速にプラズマ処理することは困難である。
【0004】
そこで、高密度で低電子温度のプラズマを均一に形成することができるRLSA(Radial Line Slot Antenna)マイクロ波プラズマ処理装置が注目されている(例えば特許文献1)。
【0005】
RLSAマイクロ波プラズマ処理装置は、チャンバーの上部に所定のパターンで多数のスロットが形成された平面アンテナ(Radial Line Slot Antenna)を設け、マイクロ波発生源から導かれたマイクロ波を、平面アンテナのスロットから放射させるとともに、その下に設けられた誘電体からなるマイクロ波透過板を介して真空に保持されたチャンバー内に放射し、このマイクロ波電界によりチャンバー内に導入されたガスをプラズマ化し、このように形成されたプラズマにより半導体ウエハ等の被処理体を処理するものである。
【0006】
このRLSAマイクロ波プラズマ処理装置では、アンテナ直下の広い領域に亘って高いプラズマ密度を実現でき、短時間で均一なプラズマ処理を行うことが可能である。また、低電子温度プラズマが形成されるため、素子へのダメージが小さい。
【0007】
このような低ダメージでかつ均一性の高い利点を利用して、酸化処理への適用が注目されており、ゲート酸化膜の形成等、シリコン基板を直接酸化する場合には、Si−Si結合エネルギーが2.3eV程度であるため、ラジカルが支配的な比較的高圧の領域で、比較的面内均一性の高い酸化処理を実現している。
【0008】
一方、近年、不揮発性メモリ素子のフローティングゲートとコントロールゲートとの間の絶縁膜として、酸化膜の上に窒化膜を形成し、さらにその上に酸化膜を形成した3層構造(ONO構造)のものが多用されており、窒化珪素(SiN)膜上の最終酸化膜をRLSAマイクロ波プラズマ処理することが試みられているが、その場合には、SiNの結合エネルギーが3.5eVであるため、ラジカルのみならず、よりエネルギーの高いイオンも必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/008519号パンフレット
【特許文献2】特開2006―40638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、プラズマ中のイオンが比較的多く存在する条件でプラズマを形成した場合には、イオン分布制御を十分に行うことができず、SiN膜上に形成された酸化膜は凸型の不均一な分布となってしまう。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、イオン分布を制御してイオンを含むマイクロ波プラズマにより面内均一性の高いプラズマ処理を実現することができるマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、誘電体からなり、その下面がマイクロ波透過面となるマイクロ波透過板で天壁が構成されたチャンバー内に、被処理体を載置する載置台を設け、前記マイクロ波透過板を透過したマイクロ波によってプラズマを形成し、該プラズマにより前記載置台に載置された被処理体にプラズマ処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置であって、前記マイクロ波透過板は、前記載置台と対向して設けられ、その前記マイクロ波透過面の少なくとも前記載置台に載置された被処理体の周縁部における被処理体のエッジまでの領域に対応する部分に凹凸状部を有し、被処理体の中央部に対応する部分は平坦部となっていることを特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置を提供する。
【0013】
上記構成において、前記凹凸状部により前記マイクロ波透過板内の半径方向の定在波を抑制して被処理体の周縁部に対応する部分のイオン密度を上昇させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロ波透過板を、そのマイクロ波透過面の少なくとも載置台に載置された被処理体の周縁部における被処理体のエッジまでの領域に対応する部分に凹凸状部を有するものとし、被処理体の中央部に対応する部分は平坦部としたので、この周縁部の凹凸状部により半径方向の定在波を抑制して被処理体の周縁部に対応する部分のイオン密度を上昇させて、面内均一性の高いイオン分布を得ることができ、イオンを含むマイクロ波プラズマにより面内均一性の高いプラズマ処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロ波プラズマ処理装置を示す概略断面図。
【図2】図1のマイクロ波プラズマ処理装置の平面アンテナ部材の構造を示す図面。
【図3】図1のマイクロ波プラズマ処理装置のマイクロ波透過板の構造を示す側面図および底面図。
【図4】図1のマイクロ波プラズマ処理装置のマイクロ波透過板の平坦部径とウエハ径との間の好ましい範囲を説明するための図。
【図5】本発明の装置の適用例を説明するための断面図。
【図6】比較装置と本発明装置におけるイオン密度分布を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロ波プラズマ処理装置を模式的に示す断面図である。このプラズマ処理装置は、複数のスロットを有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のマイクロ波プラズマを発生させ得るRLSAマイクロ波プラズマ処理装置として構成されており、例えば、プラズマ酸化処理に好適に用いられ、本実施形態では、窒化膜の酸化処理へ適用した例について示す。
【0017】
このプラズマ処理装置100は、気密に構成され、接地された略円筒状のチャンバー1を有している。チャンバー1の底壁1aの略中央部には円形の開口部10が形成されており、底壁1aにはこの開口部10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。
【0018】
チャンバー1内には被処理基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」と記す)Wを水平に支持するためのAlN等のセラミックスからなるサセプタ2が設けられている。このサセプタ2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状のAlN等のセラミックスからなる支持部材3により支持されている。サセプタ2の外縁部にはウエハWをガイドするためのガイドリング4が設けられている。また、サセプタ2には抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれており、このヒータ5はヒータ電源6から給電されることによりサセプタ2を加熱して、その熱で被処理体であるウエハWを加熱する。このとき、例えば室温から800℃までの範囲で処理温度が制御可能となっている。なお、チャンバー1の内周には、石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。このライナー7により金属などのコンタミを防止し、クリーンな環境を形成することができる。また、サセプタ2の外周側には、チャンバー1内を均一排気するため、多数の排気孔8aを有する石英製のバッフルプレート8が環状に設けられ、このバッフルプレート8は、複数の支柱9により支持されている。
【0019】
サセプタ2には、ウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0020】
チャンバー1の側壁には環状をなすガス導入部材15が設けられており、均等にガス放射孔が形成されている。このガス導入部材15にはガス供給系16が接続されている。ガス導入部材はシャワー状に配置してもよい。このガス供給系16は、例えばArガス供給源17、Oガス供給源18、Hガス供給源19を有しており、これらのガスが、それぞれガスライン20を介してガス導入部材15に至り、ガス導入部材15のガス放射孔からチャンバー1内に均一に導入される。ガスライン20の各々には、マスフローコントローラ21およびその前後の開閉バルブ22が設けられている。なお、Arガスに代えて他の希ガス、例えばKr、He、Ne、Xeなどのガスを用いてもよく、また、後述するように希ガスは含まなくてもよい。
【0021】
上記排気室11の側面には排気管23が接続されており、この排気管23には高速真空ポンプを含む排気装置24が接続されている。そしてこの排気装置24を作動させることによりチャンバー1内のガスが、排気室11の空間11a内へ均一に排出され、排気管23を介して排気される。これによりチャンバー1内を所定の真空度、例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0022】
チャンバー1の側壁には、プラズマ処理装置100に隣接する搬送室(図示せず)との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口25と、この搬入出口25を開閉するゲートバルブ26とが設けられている。
【0023】
チャンバー1の上部は開口部となっており、この開口部の周縁部に沿ってリング状の支持部27が設けられている。この支持部27に誘電体、例えば石英やAl等のセラミックスからなり、マイクロ波を透過するマイクロ波透過板28がシール部材29を介して気密に設けられている。したがって、チャンバー1内は気密に保持される。マイクロ波透過板28は、その下面すなわちマイクロ波透過面のウエハW(サセプタ2上のウエハW)の周縁部に対応する部分に凹凸が形成された凹凸状部42を有し、ウエハWの中央部に対応する部分は平坦部43となっている。なお、このマイクロ波透過板28については詳細を後述する。
【0024】
マイクロ波透過板28の上方には、サセプタ2と対向するように、円板状の平面アンテナ部材31が設けられている。この平面アンテナ部材31はチャンバー1の側壁上端に係止されている。平面アンテナ部材31は、例えば8インチサイズのウエハWに対応する場合には、直径が300〜400mm、厚みが0.1〜数mm(例えば1mm)の導電性材料からなる円板である。具体的には、例えば表面が銀または金メッキされた銅板またはアルミニウム板からなり、多数のマイクロ波放射孔32(スロット)が対をなして所定のパターンで貫通して形成された構成となっている。このマイクロ波放射孔32は、例えば図2に示すように長い形状をなすものが対をなし、典型的には対をなすマイクロ波放射孔32同士が「T」字状に配置され、これらの対が複数、同心円状に配置されている。マイクロ波放射孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定され、例えばマイクロ波放射孔32の間隔は、λg/4、λg/2またはλgとなるように配置される。なお、図2においては、同心円状に形成された隣接するマイクロ波放射孔32同士の間隔をΔrで示している。
【0025】
また、マイクロ波放射孔32は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず、同心円状のほか、例えば、螺旋状、放射状に配置することもできる。
【0026】
この平面アンテナ部材31の上面には、真空よりも大きい誘電率を有する例えば石英、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどの樹脂からなる遅波材33が設けられている。この遅波材33は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。なお、平面アンテナ部材31とマイクロ波透過板28との間、また、遅波材33と平面アンテナ部材31との間は、それぞれ密着して配置されているが、離間して配置されていてもよい。
【0027】
チャンバー1の上面には、これら平面アンテナ部材31および遅波材33を覆うように、例えばアルミニウムやステンレス鋼、銅等の金属材からなるシールド蓋体34が設けられている。チャンバー1の上面とシールド蓋体34とはシール部材35によりシールされている。シールド蓋体34には、冷却水流路34aが形成されており、そこに冷却水を通流させることにより、シールド蓋体34、遅波材33、平面アンテナ部材31、マイクロ波透過板28を冷却するようになっている。なお、シールド蓋体34は接地されている。
【0028】
シールド蓋体34の上壁の中央には開口部36が形成されており、この開口部には導波管37が接続されている。この導波管37の端部には、マッチング回路38を介してマイクロ波発生装置39が接続されている。これにより、マイクロ波発生装置39で発生した例えば周波数2.45GHzのマイクロ波が導波管37を介して上記平面アンテナ部材31へ伝搬されるようになっている。なお、マイクロ波の周波数としては、8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0029】
導波管37は、上記シールド蓋体34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。矩形導波管37bと同軸導波管37aとの間のモード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。同軸導波管37aの中心には内導体41が延在しており、この内導体41の下端部は、平面アンテナ部材31の中心に接続固定されている。これにより、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ部材31へ均一に効率よく伝播される。
【0030】
マイクロ波プラズマ処理装置100の各構成部は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ50に接続されて制御される構成となっている。プロセスコントローラ50には、オペレータがプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51と、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ50の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてプラズマ処理装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわちレシピが格納された記憶部52が接続されている。レシピは記憶部52の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクや半導体メモリであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0031】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意のレシピを記憶部52から呼び出してプロセスコントローラ50に実行させることで、プロセスコントローラ50の制御下で、プラズマ処理装置100での所望の処理が行われる。
【0032】
次に、マイクロ波透過板28について詳細に説明する。
マイクロ波透過板28は、図3(a)に示すように、そのマイクロ波透過面のウエハWの周縁部に対応する部分を含む領域に凸部42aおよび凹部42bが交互に形成された凹凸状部42を有し、ウエハWの中央部に対応する部分は平坦部43となっている。そして、凹凸状部42の凸部42aおよび凹部42bは、図3(b)に示すように同心円状をなしている。この凹凸状部42は、マイクロ波透過板28内の半径方向に形成される定在波の形成を抑制し、プラズマ密度を上昇させるとともに、プラズマ分布を均一にする作用を有する。したがって、平坦部43に比べてこの凹凸状部42が形成されているウエハWの周縁部に対応する部分のプラズマ密度(イオン密度)が上昇するようになっている。
【0033】
この凹凸状部42は、少なくともウエハW周縁部におけるイオン分布がウエハWの中央部に比べて低くなり始めた部分からウエハWのエッジまでの領域を含む部分に設ければよい。すなわち、イオン分布が凸状となる傾向を周縁部のイオン密度を持ち上げることにより均一化するのであり、ウエハWのイオン密度を上昇させる必要のない部分は平坦部43に対応させる。このような観点から、図4に示すように、ウエハWの直径をaとし、平坦部43の直径をbとすると、b/aが50〜80%となるようにすることが好ましい。換言すると、周縁部の凹凸状部42の幅がウエハWの半径の20〜50%となるようにすることにより、効果的にイオン分布を均一にすることができる。また、定在波を効率よく解消する観点からは、凸部42aの幅が4〜23mm、凹部42bの幅は3〜22mm、凸部42aの高さは1〜10mmが好ましい。より好ましくは、凸部42aの幅が6〜14mm、凹部42bの幅が5〜13mm、凸部42aの高さが3〜8mmが好ましい。また、マイクロ波透過板28の凹凸状部42は、マイクロ波28の取り付けマージンを除いてマイクロ波透過面の端部まで形成されていることが好ましく、凹凸状部42の面積を100%とした場合、平坦部43の面積が20〜40%であることが好ましい。
【0034】
このマイクロ波プラズマ処理装置100は、プラズマ酸化処理に好適であり、特にラジカルに加えてイオンアシストにより比較的高エネルギーのプラズマ処理が必要な窒化珪素(SiN)膜の酸化処理に適している。このような窒化珪素膜の酸化処理の好ましい例としては、図5に示すような不揮発性メモリ素子のフローティングゲートとコントロールゲートの間の窒化膜の酸化処理を挙げることができる。すなわち、このメモリ素子は、Si基板101の主面上に、トンネル酸化膜102が形成され、その上にポリシリコンからなるフローティングゲート104が形成され、このフローティングゲート104の上に、例えば酸化膜105、窒化膜106、酸化膜107からなるONO構造の絶縁膜108が形成され、さらにこの絶縁膜108の上にポリシリコン、またはポリシリコンとタングステンシリサイド等との積層膜からなるコントロールゲート109が形成され、コントロールゲート109の上にはSiNやSiO等の絶縁層110が形成され、フローティングゲート104とコントロールゲート109の側壁には酸化処理により側壁酸化膜111が形成された構造を有している。このような不揮発性メモリ素子の酸化膜105は熱CVD、プラズマCVD、プラズマ酸化処理等で形成され、窒化膜106は、熱CVDやプラズマCVDで形成される。そして、窒化膜106の上の酸化膜107を形成する際に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置100を好適に用いることができる。
【0035】
このような窒化珪素(SiN)膜をプラズマ酸化処理して酸化膜を形成するに際しては、まず、ゲートバルブ26を開にして搬入出口25から酸化処理すべき窒化膜が形成されたウエハWをチャンバー1内に搬入し、サセプタ2上に載置する。
【0036】
そして、ガス供給系16のArガス供給源17およびOガス供給源18から、ArガスおよびOガスを所定の流量でガス導入部材15を介してチャンバー1内に導入し、所定の処理圧力に維持する。この際に、SiNの結合エネルギーが3.5eVであり、Si−Si結合の2.3eVと比較して高いため、Si基板の直酸化プロセスのようなラジカルが支配的な比較的高圧領域でのプロセスでは酸化が進行し難い。そのため、イオンエネルギーを利用すべく、処理圧力を比較的低圧力にし、Oガス濃度を低くした、低圧力・低酸素濃度条件で酸化処理を行うことが好ましい。
【0037】
具体的には、チャンバー内の処理圧力は、1.3〜665Paが好ましく、1.3〜266.6Paがより好ましく、1.3〜133.3Paが望ましい。また、処理ガス中の酸素の割合(流量比すなわち体積比)が0.5%以上20%未満が好ましく、0.5〜5%がより好ましく、0.5〜2.5%が望ましい。 処理ガスの流量は、Arガス:0〜5000mL/min、好ましくは0〜1500mL/min(sccm)、Oガス:1〜500mL/min、好ましくは1〜50mL/min(sccm)の範囲から、全ガス流量に対する酸素の割合が上記値となるように選択することができる。
【0038】
また、Arガス供給源17およびOガス供給源18からのArガスおよびOガスに加え、Hガス供給源19からHガスを所定比率で導入することもできる。Hガスを供給することにより、プラズマ酸化処理における酸化レートを向上させることができる。これは、Hガスを供給することでOHラジカルが生成され、これが酸化レート向上に寄与するためである。この場合、Hの割合は、処理ガス全体の量に対して0.1〜10%となるようにすることが好ましく、0.1〜5%がより好ましく、0.1〜2%が望ましい。Hガスの流量は0.5〜650mL/min(sccm)が好ましく、より好ましくは0.5〜20mL/min(sccm)である。
【0039】
なお、処理温度は200〜800℃の範囲とすることができ、400〜600℃が好ましい。
【0040】
次いで、マイクロ波発生装置39からのマイクロ波を、マッチング回路38を経て導波管37に導く。マイクロ波は、矩形導波管37b、モード変換器40、および同軸導波管37aを順次通って平面アンテナ部材31に供給される。マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ部材31に向けて伝搬され、平面アンテナ部材31からマイクロ波透過板28を経てチャンバー1内におけるウエハWの上方空間に放射される。この際、マイクロ波発生装置39のパワーは、0.5〜5kWとすることが好ましい。
【0041】
このようなマイクロ波により、上述のようなイオンを含む高エネルギーのプラズマを形成する場合、従来の平坦なマイクロ波透過板を用いると、ウエハW中央部のイオン密度が高く、周縁部のイオン密度が低くなる傾向にある。一方、ラジカルが支配的なプラズマにおいては、マイクロ波透過板に同心円状の凹凸を形成して、マイクロ波透過板の面内方向に定在波が形成されるのを防止することにより、均一で高密度のプラズマを形成することができることが知られており、図6(a)に示すように、マイクロ波透過板28の透過面のほぼ全面に凹凸状部42を形成することが試みられているが、このようなマイクロ波透過板を用いたマイクロ波プラズマ処理装置を用いてイオンを含む高エネルギーのプラズマを形成した場合には、図6(a)に示すように、ラジカルの密度分布は均一であるが、イオンについてはやはり中央部でイオン密度が高く、周縁部でイオン密度が低い分布となりやすく、均一な酸化処理を行い難い。
【0042】
これに対して、本実施形態のように、マイクロ波透過板28におけるマイクロ波透過面のウエハWの周縁部に対応する部分に凹凸状部42を形成し、ウエハWの中央部に対応する部分を平坦部43とすることにより、図6(b)に示すように、イオン密度を上昇させたいウエハWの周縁部に対応する部分のみイオン密度を上昇させることができ、面内均一なイオン分布を形成して、窒化膜に均一な酸化処理を行うことができる。このため、形成される酸化膜の均一性を高くすることができる。
【0043】
次に、実際に本発明のマイクロ波プラズマ処理装置を用いて酸化処理を行った結果について説明する。
まず、図1の装置を用いて、以下の条件によりCVDにより形成したSiN膜にプラズマ酸化処理を施し、SiN膜の表面を酸化させて酸化膜を形成した。
・処理圧力:80Pa
・ガス流量:Ar/O/H=500/5/1.5(mL/min(sccm))
・処理時間:180sec
・マイクロ波パワー:4000W
・温度:600℃
【0044】
比較のため、マイクロ波透過板の透過面の実質的に全面に凹凸状部を設けた装置(比較装置)を用いて同様の条件でSiN膜の表面を酸化させて酸化膜を形成した。
【0045】
その結果、以下のような結果となった。
<本発明装置>
・酸化膜の平均膜厚:8.72nm
・膜厚変動のレンジ:1.34nm
・膜厚のばらつき(レンジ/2×平均):7.7%
<比較装置>
・酸化膜の平均膜厚:9.26nm
・膜厚変動のレンジ:3.88nm
・膜厚のばらつき(レンジ/2×平均):21.5%
【0046】
次に、本発明の装置およびマイクロ波透過板の透過面全面に凹凸状部を形成した装置(比較装置)を用いて、同じ条件でベアSiウエハの表面に酸化膜を形成した結果、以下のようになった。
<本発明装置>
・酸化膜の平均膜厚:11.26nm
・膜厚変動のレンジ:0.85nm
・膜厚のばらつき(レンジ/2×平均):3.8%
<比較装置>
・酸化膜の平均膜厚:12.48nm
・膜厚変動のレンジ:1.12nm
・膜厚のばらつき(レンジ/2×平均):4.5%
【0047】
以上の結果から、ベアSiウエハの表面を酸化処理して酸化膜を形成する場合には、比較装置を用いても十分な膜厚均一性が得られるのに対し、SiN膜表面に酸化膜を形成する場合には、比較装置では酸化膜厚のばらつきが極めて大きくなるが、本発明の装置を用いることにより、膜厚均一性が著しく改善されることが確認された。
【0048】
本発明の装置を用いてさらに条件を検討した結果、以下の条件が最もよいことが確認された。
・処理圧力:80Pa
・ガス流量:Ar/O/H=500/5/0.7(mL/min(sccm))
・処理時間:180sec
・マイクロ波パワー:3600W
・温度:600℃
【0049】
この際の酸化膜は以下のようなものとなった。
・酸化膜の平均膜厚:7.16nm
・膜厚変動のレンジ:0.94nm
・膜厚のばらつき(レンジ/2×平均):6.6%
【0050】
同じ条件でベアSiウエハに酸化処理を施して酸化膜を形成したところ、以下のようになった。
・酸化膜の平均膜厚:9.37nm
・膜厚変動のレンジ:0.72nm
・膜厚のばらつき(レンジ/2×平均):3.9%
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば上記実施形態では、窒化珪素(SiN)膜の酸化処理として不揮発性メモリ素子のONO絶縁膜を形成する際に本発明を適用する場合を例示したが、これに限るものではない。また、窒化膜の酸化処理に本発明の装置を適用した場合について示したが、RLSA方式のマイクロ波プラズマ処理装置を用いて酸化処理を行う場合であれば他の膜の酸化処理にも適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1;チャンバー(処理室)
2;サセプタ
3;支持部材
5;ヒータ
15;ガス導入部材
16;ガス供給系
17;Arガス供給源
18;Oガス供給源
19;Hガス供給源
23;排気管
24;排気装置
25;搬入出口
26;ゲートバルブ
28;マイクロ波透過板
29;シール部材
31;平面アンテナ部材
32;マイクロ波放射孔
37;導波管
37a;同軸導波管
37b;矩形導波管
39;マイクロ波発生装置
40;モード変換器
42;凹凸状部
42a;凸部
42b;凹部
43;平坦部
106;窒化膜
107;酸化膜
W…ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなり、その下面がマイクロ波透過面となるマイクロ波透過板で天壁が構成されたチャンバー内に、被処理体を載置する載置台を設け、前記マイクロ波透過板を透過したマイクロ波によってプラズマを形成し、該プラズマにより前記載置台に載置された被処理体にプラズマ処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置であって、
前記マイクロ波透過板は、前記載置台と対向して設けられ、その前記マイクロ波透過面の少なくとも前記載置台に載置された被処理体の周縁部における被処理体のエッジまでの領域に対応する部分に凹凸状部を有し、被処理体の中央部に対応する部分は平坦部となっていることを特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記凹凸状部により前記マイクロ波透過板内の半径方向の定在波を抑制して被処理体の周縁部に対応する部分のイオン密度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−33979(P2013−33979A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206585(P2012−206585)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【分割の表示】特願2007−157985(P2007−157985)の分割
【原出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】