説明

マスタシリンダ装置

【課題】 実用性の高いマスタシリンダ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のマスタシリンダ装置110は、前方が閉塞され、内部を前方室と後方室とに分ける隔壁を有するハウジング300と、前方室内で、作動液を加圧するための加圧室R1と高圧源118から作動液が導入される入力室R3とをそれぞれ区画する加圧ピストン302と、後方室内で、操作力によって前進する入力ピストン306と、その前進量に応じた操作反力を付与する操作反力付与機構446と、隔壁を貫通して配設され上記ピストンの一方に基端部が固定され、他方と先端部が上記前進のない状態で離間する伝達ロッド340とを備え、先端部が他方に当接しない状態で、高圧源の圧力に依存した加圧室の作動液の加圧が実現され、当接した状態で、高圧源の圧力に加えて操作力にも依存した加圧室の作動液の加圧が実現されるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に設けられたブレーキ装置に作動液を加圧して供給するためのマスタシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発の盛んなハイブリッド車両や電気自動車等では、車輪の回転によって回転させられる電気モータや発電機等の発生する抵抗力を、回生ブレーキに利用している。また、これらの車両でも、一般的な車両と同様に、マスタシリンダ装置で加圧された作動液によってブレーキ装置を作動させる液圧ブレーキが利用されている。このような車両では、ブレーキ操作量が小さい場合、つまり、必要な制動力が小さい場合には、回生ブレーキによって車両が制動され、ブレーキ操作量の増加とともに必要な制動力が大きくなると、液圧ブレーキによっても車両が制動されるようになっている。そのため、上記の車両では、回生ブレーキの制動力だけでは不充分な場合に液圧ブレーキで制動力が発生するように、各ブレーキが互いに協調しながら車両を制動することが可能となっている。このような協調を行うために、下記特許文献に記載されているマスタシリンダ装置は、運転者のブレーキ操作力ではなく、高圧源から導入される作動液の圧力に専ら依存して作動液を加圧することが可能となっている。つまり、運転者のブレーキ操作とは関係なく、任意に作動液を加圧することができるようになっているため、必要な場合だけブレーキ装置を作動させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−55588号公報
【特許文献2】特表2009−502623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、専ら高圧源に依存して作動液を加圧するマスタシリンダ装置の場合、急ブレーキ等、大きな制動力が必要とされる場合に、液圧ブレーキの制動力である液圧制動力が必要な大きさで発生するように、高圧源からマスタシリンダ装置に作動液が導入されなければならない。そのため、高圧源には、作動液を比較的高い圧力まで加圧する能力が求められる。したがって、高圧源では、例えば、作動液を加圧するポンプや、そのポンプを駆動するモータの大型化が避けられない。その結果、高圧源は大型化し、設置スペースの増加やコストの増加を招くことになる。このことは、マスタシリンダ装置の抱える問題の一つであり、マスタシリンダ装置には、他にも改良の余地が残された問題がある。したがって、それらの問題のいずれかを解決することができれば、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることが可能となる。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のマスタシリンダ装置は、(a)前方が閉塞され、内部を前方室と後方室とに分ける隔壁を有するハウジングと、(b)前方室内で、作動液を加圧するための加圧室と高圧源から作動液が導入される入力室とをそれぞれ区画する加圧ピストンと、(c)後方室内で、操作力によって前進する入力ピストンと、(d)その前進した量に応じた操作反力を付与する操作反力付与機構と、(e)隔壁を貫通して配設され上記ピストンの一方に基端部が固定され、上記前進のない状態で、上記ピストンの他方と先端部が離間する伝達ロッドとを備え、先端部がその他方に当接しない状態において、高圧源の圧力に依存した加圧室の作動液の加圧が実現され、当接した状態において、高圧源の圧力に加えて操作力にも依存した加圧室の作動液の加圧が実現されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のマスタシリンダ装置によれば、高圧源から導入される作動液の圧力に専ら依存する場合よりも、加圧室の作動液の圧力を高くすることができ、ブレーキ装置では、大きな液圧制動力が発生することになる。逆に言えば、本マスタシリンダ装置は、比較的小型の高圧源を採用する場合であっても、大きな液圧制動力が発生するように、ブレーキ装置に供給する作動液を加圧することができるのである。このことによって、マスタシリンダ装置の実用性を向上することが可能となっている。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(6)項が請求項5に、(8)項が請求項6に、(9)項が請求項7に、(10)項が請求項8に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)車輪に設けられて作動液の圧力によって作動するブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方が閉塞され、内部を前方室と後方室とに分ける隔壁を有するハウジングと、
前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が自身の前方に、高圧源からの作動液が導入される入力室が自身の後方に、それぞれ区画されるようにして、前記ハウジングの前方室内に配設された加圧ピストンと、
前記ハウジングの前記後方室内に配設され、後端部がブレーキ操作部材に連結され、そのブレーキ操作部材に加えられた操作力によって前進する入力ピストンと、
前記入力ピストンの前進量に応じた操作反力をその入力ピストンに付与する操作反力付与機構と、
前記ハウジングの隔壁を貫通し、基端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの一方に固定され、前記入力ピストンが前進していない状態において先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方と離間する伝達ロッドと
を備え、
前記伝達ロッドの先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方に当接しない状態において、前記高圧源の圧力に依存した前記加圧室の作動液の加圧が実現され、前記伝達ロッドの先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方に当接した状態において、前記高圧源の圧力に加えて前記操作力にも依存した前記加圧室の作動液の加圧が実現されるように構成されたマスタシリンダ装置。
【0010】
上記構成によれば、伝達ロッドの先端部が加圧ピストンと入力ピストンとの他方に当接していない状態では、ブレーキ操作部材に加えられた操作力は加圧ピストンに伝達されない。その状態で、高圧源から入力室に作動液が導入されると、その作動液の圧力(以下、「高圧源圧」という場合がある)に依存して加圧ピストンは前進し、加圧室内の作動液が加圧されることになる。換言すれば、マスタシリンダ装置は、専ら高圧源圧に依存して作動液を加圧する状態(以下、「高圧源圧依存加圧状態」という場合がある)となる。また、上記構成によれば、ブレーキ操作によって入力ピストンが前進すると、伝達ロッドの先端部が加圧ピストンと入力ピストンとの他方に当接し、操作力(厳密には、少なくともそれの一部)が入力ピストンから伝達ロッドを介して加圧ピストンへと伝達されることになる。つまり、加圧ピストンは、高圧源からの作動液の圧力に加えて、操作力によっても前進させられることになる。この状態で、マスタシリンダ装置は、高圧源圧と操作力との両方に依存して加圧室内の作動液を加圧する状態(以下、「高圧源圧・操作力依存加圧状態」という場合がある)となる。高圧源圧・操作力依存加圧状態では、高圧源圧と操作力とによって作動液を加圧することができるため、高圧源圧依存加圧状態よりも、加圧室の作動液の圧力(以下、「出力圧」若しくは「マスタ圧」という場合がある)を大きくすることができる。そのため、ブレーキ装置で発生する液圧制動力を大きくすることができる。したがって、本マスタシリンダ装置は、比較的高い圧力の作動液が高圧源から導入されなくても、大きな液圧制動力が発生するように、ブレーキ装置に供給する作動液を加圧することができるのである。そのため、本マスタシリンダ装置によれば、比較的小型の高圧源を採用することが可能であり、高圧源の設置スペースを低減することができ、また、コストを低減することもできる。
【0011】
また、例えば、本マスタシリンダ装置を含んだブレーキシステムにおいて電気的失陥等が生じ、高圧源から入力室に作動液が導入されないような場合に、伝達ロッドの先端部が加圧ピストンと入力ピストンとの他方に当接すれば、マスタシリンダ装置は専ら操作力に依存して作動液を加圧する状態(以下、「操作力依存加圧状態」という場合がある)となる。つまり、本マスタシリンダ装置は、高圧源に失陥等が発生している場合であっても、液圧制動力が発生するように作動液を加圧することが担保されたマスタシリンダ装置となっており、フェールセーフの観点において好ましいマスタシリンダ装置となっている。
【0012】
本マスタシリンダ装置のハウジングの隔壁は、ハウジング内を前方室と後方室とに分けることができるのであれば、それの形状は特に限定されるものではない。つまり、明確な壁としての形態を有さないものであってもよい。その意味においては、隔壁は、ハウジングの隔壁部と呼ぶことができる。より具体的にいえば、隔壁には伝達ロッドが貫通しているため、その伝達ロッドの断面形状によっても、隔壁は異なる形状となる。例えば、ハウジング内部が筒状に形成されており、伝達ロッドが隔壁の中心部を貫通する円柱形状に形成されている場合、隔壁は環状に形成されることになる。また、その伝達ロッドの外径が比較的大きい場合には、ハウジング内周面からの隔壁の高さが低くなるため、隔壁は、ハウジング内周面に小さく突出する環状の突起の形状を有することとなる。このような形状の隔壁を有するマスタシリンダ装置も、本マスタシリンダ装置の一態様と考えることができる。
【0013】
また、上記構成によれば、高圧源圧依存加圧状態、つまり、伝達ロッドの先端部が加圧ピストンと入力ピストンとの他方に当接しておらず、運転者が加圧室の作動液の圧力を操作反力として実感することができない状態であっても、操作反力付与機構によって、運転者は入力ピストンの前進量に応じた操作反力を実感することができる。そのため、運転者は違和感を感じずにブレーキ操作をすることが可能となっている。
【0014】
なお、本マスタシリンダ装置における「伝達ロッドの入力ピストンまたは加圧ピストンへの固定」は、前後方向、つまり、入力ピストンまたは加圧ピストンの移動方向における固定を意味している。換言すれば、伝達ロッドとそれの固定される入力ピストンまたは加圧ピストンとの移動方向における相対移動が禁止されていることを意味している。したがって、例えば、伝達ロッドとそれの固定される入力ピストンまたは加圧ピストンとが、上記移動方向に延びる軸線回りの相対回転等は、許容されていてもよい。
【0015】
本マスタシリンダ装置の操作反力付与機構の構造は特に限定されるものではなく、様々な構造のものを使用することができる。後述するような操作反力付与機構、つまり、加圧機構によって作動液を加圧し、その加圧された作動液の圧力が、入力ピストンを介して、ブレーキ操作部材に反力として伝達されるような操作反力付与機構であってもよい。また、後方室に設けられて、入力ピストンを後方に向かって付勢する弾性部材を主体とするものであってもよい。つまり、本マスタシリンダ装置では、操作反力付与機構が所謂ストロークシミュレータとして機能し、運転者は自身のブレーキ操作に対する操作反力を実感することができるのである。
【0016】
(2)前記入力ピストンと加圧ピストンとの他方に、前記伝達ロッドが嵌入する有底穴が設けられ、前記入力ピストンが前進していない状態においてその有底穴の底部と前記伝達ロッドとの間が離間している(1)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0017】
本マスタシリンダ装置では、入力室は、伝達ロッドの周囲に環状に形成されることとなる。本項の態様は、伝達ロッドが入力ピストンに固定され、有底穴が加圧ピストンに設けられているマスタシリンダ装置の場合に、特に有効である。詳しく説明すると、本マスタシリンダ装置では、有底穴に伝達ロッドが嵌入しているため、有底穴の内部は外部から遮断されている。つまり、有底穴が加圧ピストンに設けられている場合、有底穴の内部は入力室から遮断されることとなり、伝達ロッドの先端部に入力室の圧力が作用することはない。そのため、入力ピストンに入力室の圧力が作用することもないため、運転者は、入力室の作動液の圧力に影響されずにブレーキ操作をすることが可能となっている。
【0018】
また、後述するような操作反力付与機構、つまり、ハウジングの後方室に反力室が形成される操作反力付与機構が採用されているマスタシリンダ装置の場合には、伝達ロッドが加圧ピストンに固定され、有底穴が入力ピストンに設けられていてもよい。このようなマスタシリンダ装置の場合、有底穴の内部が反力室から遮断されることになる。そのため、伝達ロッドの先端部、すなわち、加圧ピストンに反力室の圧力が作用することはないため、加圧ピストンは、反力室の作動液の圧力に影響されずに移動することが可能となる。
【0019】
(3)前記有底穴の底部と前記伝達ロッドの先端部とによって、作動液で満たされるピストン間室が区画されており、
当該マスタシリンダ装置が、
前記ピストン間室を低圧源に連通するピストン間室連通路と、
そのピストン間室連通路を遮断することで前記ピストン間室を密閉するピストン間室密閉器と
を備えるように構成された(2)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0020】
本項の態様によれば、ピストン間室が低圧源に連通している場合に、加圧ピストンと入力ピストンとは、互いに影響を与えることなく移動することができる。つまり、加圧ピストンと入力ピストンとの相対移動が許容された状態となる。したがって、高圧源圧依存加圧状態においてピストン間室が低圧源に連通することで、ブレーキ操作部材の操作による入力ピストンの移動と、高圧源圧による加圧ピストンの移動とは、互いに影響を与えることなく行われることになる。つまり、運転者のブレーキ操作とは関係なく、加圧ピストンは専ら高圧源圧に依存して移動することになる。
【0021】
上記ピストン間室密閉器によってピストン間室が密閉されると、操作力は、ピストン間室の作動液を介して、加圧ピストンに伝達されることになる。つまり、前述のような、伝達ロッドの先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方に当接している状態に加えて、当接していない状態においても、加圧ピストンへの操作力の伝達が可能となる。例えば、高圧源の失陥時にピストン間室を密閉するようなマスタシリンダ装置であれば、ブレーキ操作の開始直後から、ピストン間室の作動液を介して操作力が伝達されることになる。したがって、失陥時であっても、ブレーキ操作開始直後から操作力依存加圧状態で液圧制動力が発生することになる。つまり、ブレーキ操作をしているにも拘らず液圧制動力の発生しない状態、いわゆる、空踏み状態のほとんどない、操作性に優れたマスタシリンダ装置とすることができる。
【0022】
高圧源が正常に作動している場合であっても、伝達ロッドの先端部が入力ピストンと加圧ピストンとの他方に当接していない状態でピストン間室を密閉すれば、その時点から、マスタシリンダ装置は、高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動することになる。例えば、前述のマスタシリンダ装置の場合、高圧源圧依存加圧状態で液圧制動力が最大になってから、伝達ロッドの先端部が加圧ピストンと入力ピストンとの他方に当接、すなわち、マスタシリンダ装置が高圧源圧・操作力依存加圧状態となるまでは、液圧制動力がさらに大きくなることはない。換言すれば、伝達ロッドの先端部が加圧ピストンと入力ピストンとの他方に当接するまでは、ブレーキ操作量が増加しているにも拘らず、液圧制動力は増加しないのである。本項の態様のマスタシリンダ装置は、ピストン間室の密閉によって、素早く高圧源圧・操作力依存加圧状態へと移行することができる。そのため、例えば、高圧源圧に依存した液圧制動力が最大となるタイミングでピストン間室を密閉すれば、高圧源圧依存加圧状態から高圧源圧・操作力依存加圧状態への移行において、操作量の増加に対して液圧制動力が滑らかに増加することになる。したがって、運転者は、操作量に対する制動力の変化に違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【0023】
(4)前記ピストン間室密閉器が、前記加圧室の作動液の圧力,前記入力室の作動液の圧力,前記操作力,前記ブレーキ操作部材の操作量のいずれかに基づいて前記ピストン間室を密閉するように構成された(3)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0024】
本項の態様における「加圧室の作動液の圧力,入力室の作動液の圧力,操作力,ブレーキ操作部材の操作量のいずれかに基づいて」とは、それらの圧力や力等だけをピストン間室を密閉するための指標として利用するのではなく、それらの圧力や力等を示す他の圧力や力等を、ピストン間室を密閉するための指標として利用することも含んだ概念である。つまり、他の圧力や力等であっても、それらが間接的に、加圧室の作動液の圧力,入力室の作動液の圧力,操作力,ブレーキ操作部材の操作量加圧量のいずれかを示すものであるならば、それら他の圧力や力等に基づいてピストン間室を密閉してもよい。例えば、加圧室からブレーキ装置に作動液を供給する連通路における作動液の圧力は、加圧室の作動液の圧力を間接的に示すものであり、その作動液の圧力に基づいてピストン間室を密閉してもよい。あるいは、高圧源から入力室に至る連通路における作動液の圧力は、入力室の作動液の圧力を間接的に示すものであり、その作動液の圧力に基づいてピストン間室を密閉してもよい。また、後述するように、反力付与機構が、加圧機構を有し、作動液を加圧して操作反力を発生するものである場合には、その作動液の圧力は、操作力を間接的に示すものであり、その作動液の圧力に基づいてピストン間室を密閉してもよい。
【0025】
ピストン間室密閉器は、例えば、後に説明するように、ピストン間室連通路を開閉する電磁弁と、その電磁弁を開閉する制御装置とによって構成されればよい。また、マスタシリンダ装置には、指標として利用される圧力や力等を検知するためのセンサが設けられていればよい。このように構成されたピストン間室密閉器では、センサによって検知された圧力や力等に基づいて、制御装置が電磁弁の開閉を制御する。その開閉によって、ピストン間室の密閉とそれの解除とが行われることになる。
【0026】
また、後に説明するように、機械式弁によって、ピストン間室密閉器を構成することも可能である。つまり、ピストン間室連通路に設置された機械式弁が、指標として利用される圧力等をパイロット圧として導入し、そのパイロット圧に基づいて開閉する機械式弁であればよい。
【0027】
(5)前記ピストン間室密閉器が、前記加圧室の作動液の圧力,前記入力室の作動液の圧力,前記操作力,前記ブレーキ操作部材の操作量のいずれかが設定値を超えた場合に前記ピストン間室を密閉するように構成された(4)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0028】
ブレーキ操作においては、加圧室の作動液の圧力,入力室の作動液の圧力,操作力,ブレーキ操作部材の操作量等の、ピストン間室を密閉するための指標が変化することになる。本マスタシリンダ装置では、例えば、その指標の値が設定値を超えた場合に、ピストン間室が密閉されることになる。例えば、高圧源依存加圧状態において、液圧制動力が大きくなるにつれて指標の値も大きくなるようなマスタシリンダ装置の場合、その指標の値が設定値を超えて大きくなった場合に、ピストン間室が密閉されればよい。その場合、マスタシリンダ装置は高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動することとなり、高圧源依存加圧状態よりも大きな液圧制動力が発生することとなる。つまり、必要な液圧制動力が大きくなる場合に、高圧源依存加圧状態から高圧源圧・操作力依存加圧状態へと移行するマスタシリンダ装置を構成することができる。
【0029】
このようなマスタシリンダ装置では、設定値には、高圧源圧依存加圧状態で液圧制動力が最大となる場合、あるいは、それに近づいた場合における上記指標の値が設定値として設定されればよい。つまり、そのような設定値が設定されれば、前述のような状態、つまり、高圧源圧依存加圧状態での液圧制動力が最大になり、操作量の増加に対して液圧制動力が増加しないという状態がなく、操作量に対して液圧制動力が滑らかに増加することになる。したがって、運転者は、操作量に対する制動力の変化に違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【0030】
なお、「設定値を超えた場合」とは、設定値よりも大きくなる場合だけではなく、設定値より小さくなる場合も含む概念である。つまり、ピストン間室密閉器は、上記指標の値が設定値を超えて小さくなる場合にピストン間室を密閉するものであってもよい。換言すれば、ピストン間室密閉器は、設定値を境にしてピストン間室を密閉、あるいは、その密閉を解除するものであればよい。
【0031】
(6)前記ピストン間室密閉器が、前記ピストン間室連通路に設けられた電磁式弁と、その電磁式弁を制御する弁制御装置とを含んで構成された(3)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0032】
本項の態様は、ピストン間室密閉器の構造に関して限定を加えた態様である。電磁式弁には、例えば、開閉弁を用いることができる。その場合、制御装置によって上記の圧力や力等の値と設定値とを比較し、その比較した結果に基づいて、制御装置が弁を開閉するように制御し、ピストン間室の密閉とそれの解除とを行うことができる。
【0033】
本項の態様のマスタシリンダ装置では、電磁式弁は、電気的失陥時に閉弁する常閉弁であることが望ましい。常閉弁であれば、前述のように、電気的失陥時にピストン間室が密閉されることになる。したがって、ブレーキ操作開始直後から、操作力依存加圧状態で液圧制動力が発生することになるため、失陥時においても空踏み状態のほとんどない、操作性に優れたマスタシリンダ装置とすることができる。
【0034】
(7)前記ピストン間室密閉器が、前記加圧室の作動液の圧力,前記入力室の作動液の圧力,前記操作力を指標する作動液の圧力をパイロット圧として作動する機械式弁によって構成された(3)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0035】
本項の態様は、ピストン間室密閉器に関して限定を加えた態様である。上記構成によれば、前述のように、比較的簡単な機械式弁によってピストン間室密閉器を構成することができる。例えば、操作反力付与機構が、加圧機構を有し、作動液を加圧して操作反力を発生するものである場合には、その作動液の圧力は操作力を指標するため、その作動液の圧力をパイロット圧として利用することもできるのである。
【0036】
(8)前記ハウジングの前記後方室内において、前記隔壁と前記入力ピストンとによって前記伝達ロッドの周りが区画されて作動液で満たされる環状の反力室が形成されており、かつ、当該マスタシリンダ装置が、前記反力室と連通して作動液で満たされる蓄圧室を有してその蓄圧室の作動液を弾性的に加圧する加圧機構を備えており、
前記操作反力付与機構が、前記反力室と加圧機構とを含んで構成された(2)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0037】
本項の態様は、操作反力付与機構に関して限定を加えた態様である。上記構成によれば、反力室の容積は、入力ピストンが前進すれば減少し、後退すれば増大することとなる。その容積の変化に応じて、反力室の作動液は、反力室へ流入または反力室から流出する。したがって、反力室と連通する蓄圧室では、反力室に流入する分の作動液が流出し、反力室から流出する分の作動液が流入することとなる。つまり、反力室と蓄圧室とは、それぞれ、互いの容積変化に応じて、自身の容積が変化するのである。蓄圧室の作動液の圧力は、加圧機構によって弾性的に加圧されているため、ブレーキ操作によって入力ピストンが前進し、反力室の作動液が蓄圧室に流入して蓄圧室の容積が増大すると、それに応じて作動液の圧力が増大することになる。また、作動液の圧力は、反力室を区画する入力ピストンに伝達される。そのため、運転者は、ブレーキ操作量の増加に応じて、ブレーキ操作部材からの反力が増加することを実感することができるのである。本マスタシリンダ装置では、上記加圧機構として、ハウジング外部に設けられた加圧機構、所謂、外部式のストロークシミュレータが採用されていてもよい。
【0038】
(9)当該マスタシリンダ装置が、前記反力室を低圧源に開放するための反力室開放器を備えた(8)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0039】
本項の態様のマスタシリンダ装置では、反力室が低圧源に開放されると、加圧機構は作動液を加圧することができないため、反力付与機構は機能しなくなる。このような反力室の開放は、前述の操作力依存加圧状態において行われるのが望ましい。つまり、反力室が開放されれば、操作力は、それの一部が加圧機構における作動液の加圧に利用されることなく、全部が加圧室の作動液の加圧に利用されることになる。つまり、操作力を有効に利用して加圧室の作動液を加圧することができるため、大きな液圧制動力が発生することとなるのである。
【0040】
(10)前記反力室開放器が、電気的失陥時において前記反力室を低圧源に開放するように構成された(9)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0041】
上記構成によれば、電気的失陥時に高圧源から作動液がマスタシリンダ装置に導入されない場合、つまり、マスタシリンダ装置が操作力依存加圧状態で作動する場合に、前述のように、反力付与機構が機能しなくなるため、操作力を有効に利用して加圧室の作動液が加圧されることになる。
【0042】
(11)前記反力室開放器が、前記反力室と低圧源とを連通するための反力室連通路と、その反力室連通路に設けられた常開の電磁式開閉弁とを含んで構成された(9)項または(10)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0043】
本項の態様は、電気的失陥時に反力室を低圧源に開放する手段に関して限定を加えた態様である。上記構成によれば、電気的失陥時に反力室を低圧源に開放することができるため、反力付与機構が機能しなくなり、操作力を有効に利用して加圧室の作動液が加圧されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】請求可能発明の第1実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】請求可能発明の第1実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図3】第1実施例のマスタシリンダ装置に採用される反力発生機構を示す図である。
【図4】第1実施例のマスタシリンダ装置におけるブレーキ操作量と出力圧との関係、ブレーキ操作量と伝達ロッドの先端部から前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方への距離との関係を示すグラフである。
【図5】第1実施例の変形例となるマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図6】変形例のマスタシリンダ装置に採用される機械式開閉弁を示す図である。
【図7】請求可能発明の第2実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図8】第2実施例の変形例となるマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0046】
≪車両の構成≫
図1に、第1実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10、電気モータ12、発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12の出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0047】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリ26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換させることができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0048】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL,18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL,18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生させられるとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキをエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御することで、制動されるのである。一方、発電機14は主にエンジン10の出力により発電をするが、インバータ24を介してバッテリ26から電力が供給されることで、電気モータとしても機能する。
【0049】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動は、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。
【0050】
メインECU40には、バッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。バッテリECU46は、バッテリ26の充電状態を監視しており、充電量が不足している場合には、メインECU40に対して充電要求指令を出力する。充電要求指令を受けたメインECU40は、バッテリ26を充電させるために、発電機14による発電の指令をモータECU44に出力する。
【0051】
また、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU48は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、液圧ブレーキシステム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0052】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
上述のように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキシステム100について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「前端」、「前進」や、「後側」、「後端」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0053】
図2に、本車両が備える液圧ブレーキシステム100を、模式的に示す。液圧ブレーキシステム100は、作動液を加圧するためのマスタシリンダ装置110を有している。車両の運転者は、マスタシリンダ装置110に連結された操作装置112を操作することでマスタシリンダ装置110を作動させることができ、マスタシリンダ装置110は、自身の作動によって作動液を加圧する。その加圧された作動液は、マスタシリンダ装置110に接続されるアンチロック装置114を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置116に供給される。ブレーキ装置116は、加圧された作動液の圧力(以下、「出力圧」と呼ぶ)、所謂マスタ圧に依存して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0054】
液圧ブレーキシステム100は、高圧源として作動液の圧力を高圧にするための高圧源装置118を有している。その高圧源装置118は、増減圧装置120を介して、マスタシリンダ装置110に接続されている。増減圧装置120は、高圧源装置118によって高圧とされた作動液の圧力(以下、「高圧源圧」と呼ぶ)を、その圧力以下の圧力に制御する装置であり、マスタシリンダ装置110へ入力される作動液の圧力(以下、「入力圧」と呼ぶ)を増加および減少する。つまり、入力圧は、高圧源圧が制御された圧力であって、制御高圧源圧と呼ぶこともできる。マスタシリンダ装置110は、その入力圧の増減によって作動可能に構成されている。マスタシリンダ装置110にはまた、液圧ブレーキシステム100は、低圧源として作動液を大気圧下で貯留するリザーバ122を有している。リザーバ122は、マスタシリンダ装置110、増減圧装置120、高圧源装置118の各々に接続されている。
【0055】
操作装置112は、操作部材としてのブレーキペダル150と、ブレーキペダル150に連結されるオペレーションロッド152とを含んで構成されている。ブレーキペダル150は、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド152は、後端部においてブレーキペダル150に連結され、前端部においてマスタシリンダ装置110に連結されている。また、操作装置112は、ブレーキペダル150の操作量を検出するための操作量センサ[SP]156と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]158とを有している。操作量センサ156および操作力センサ158は、ブレーキECU48に接続されており、ブレーキECU48は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0056】
ブレーキ装置116は、液通路200,202を介してマスタシリンダ装置110に接続されている。それら液通路200,202は、マスタシリンダ装置110によって出力圧に加圧された作動液をブレーキ装置116に供給するための液通路である。液通路202には出力圧センサ[Po]204(所謂マスタ圧センサ)が設けられている。詳しい説明は省略するが、各ブレーキ装置116は、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。液通路200,202は、アンチロック装置114を介して、各ブレーキ装置116のブレーキシリンダに接続されている。ちなみに、液通路200が、前輪側のブレーキ装置116FL,116FRに繋がるようにされており、また、液通路202が、後輪側のブレーキ装置116RL,116RRに繋がるようにされている。ブレーキシリンダは、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液の出力圧に依存して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置116では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0057】
アンチロック装置114は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態とされており、また、もう1つは減圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とされている。車輪がロックした場合に、増圧用開閉弁が、マスタシリンダ装置110からブレーキ装置116への作動液の流れを遮断するとともに、減圧用開閉弁が、ブレーキ装置116からリザーバへの作動液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0058】
高圧源装置118は、リザーバ122から作動液を吸込んでその作動液の液圧を増加させる液圧ポンプ220と、増圧された作動液が溜められるアキュムレータ222とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ220は電動のモータ224によって駆動される。また、高圧源装置118は、高圧とされた作動液の圧力を検出するための高圧源圧センサ[Ph]226を有している。ブレーキECU48は、高圧源圧センサ226の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ220は制御駆動される。この制御駆動によって、高圧源装置118は、常時、設定された圧力以上の作動液を増減圧装置120に供給する。
【0059】
増減圧装置120は、入力圧を増加させる電磁式の増圧リニア弁240と、入力圧を低減させる電磁式の減圧リニア弁242とを含んで構成されている。増圧リニア弁240は、高圧源装置118からマスタシリンダ装置110に至る液通路の途中に設けられている。一方、減圧リニア弁242は、リザーバ122からマスタシリンダ装置110に至る液通路の途中に設けられている。なお、増圧リニア弁240および減圧リニア弁242の各々からマスタシリンダ装置110に至る液通路は、1つの液通路とされて、マスタシリンダ装置110に接続されている。また、その液通路には、入力圧を検出するための入力圧センサ[Pc]246が設けられている。ブレーキECU48は、入力圧センサ246の検出値に基づいて、増減圧装置120を制御する。
【0060】
上記増圧リニア弁240は、電流が供給されていない状態では、つまり、非励磁状態では、閉弁状態とされており、それに電流を供給することによって、つまり、励磁状態とすることで、その供給された電流に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、供給される電流が大きい程、開弁圧が高くなるように構成されている。一方、減圧リニア弁242は、電流が供給されていない状態では、開弁状態となり、通常時、つまり、当該システムへの電力の供給が可能である時には、設定された範囲における最大電流が供給されて閉弁状態とされ、供給される電流が減少させられることで、その電流に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、電流が小さくなるほど開弁圧が低くなるように構成されている。
【0061】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置110は、マスタシリンダ装置110の筐体であるハウジング300と、ブレーキ装置116に供給する作動液を加圧する第1加圧ピストン302および第2加圧ピストン304と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン306とを含んで構成されている。なお、図2は、マスタシリンダ装置110が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。ちなみに、一般的なマスタシリンダ装置がそうであるように、本マスタシリンダ装置110も、内部に作動液が収容されるいくつかの液室、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0062】
ハウジング300は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材308と第2ハウジング部材310とから構成されている。第1ハウジング部材308は、前端部が閉塞された概して円筒形状とされており、後端部の外周にはフランジ312が形成され、そのフランジ312において車体に固定されている。第1ハウジング部材308は、内径が互いに異なる2つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の概して小さい前方小径部314と、後方側に位置して内径の概して大きい後方大径部316とに区分けされている。
【0063】
第2ハウジング部材310は、前端部318が内側に突出する鍔を有する形状とされてているが、前端部318の中心付近には、それを貫通する貫通穴320が設けられている。また、第2ハウジング部材310の外周部の一部は、ねじ山の形成された雄ねじ部322となっている。一方、第1ハウジング部材308の後方大径部316の内周面の後端部は、その雄ねじ部322と螺合する雌ねじ部324となっている。つまり、第2ハウジング部材310は、第1ハウジング部材308の内部にそれの後端から捩じ込まれた状態で、第1ハウジング部材308と一体となっている。第2ハウジング部材310の貫通穴320には、後述する伝達ロッドが挿通されている。したがって、ハウジング300は、第2ハウジング部材310の前端部318が隔壁として機能し、内部が前方室326および後方室327に分割された形状となっている。
【0064】
第2加圧ピストン304は、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材308の前方小径部314に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン302は、第2加圧ピストン304の後方に配設されている。第1加圧ピストン302は、概ね円筒形状とされているが、それの内部は、仕切壁部328によって、2つの部分に区画されている。つまり、第1加圧ピストン302は、前端,後端にそれぞれ開口する2つの有底穴を有する形状とされている。第1加圧ピストン302の前方で第2加圧ピストン304との間には、2つの後輪に設けられたブレーキ装置116RL,RRに供給される作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン304の前方には、2つの前輪に設けられたブレーキ装置116FL,FRに供給される作動液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン302と第2加圧ピストン304とは、第1加圧ピストン302の仕切壁部328の前方側の面に螺着立設された有頭ピン330と、第2加圧ピストン304の後端面に固設されたピン保持筒332とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)334、336が配設されており、それらスプリングによって、第1加圧ピストン302,第2加圧ピストン304はそれらが互いに離間する方向に付勢されつつ、後方に向かうように付勢されている。ちなみに、第1加圧ピストン302は、後端が第2ハウジング部材310の前端面に当接することで、それの後退が制限されている。また、第1加圧ピストン302の後端と第2ハウジング部材310の前端面との間には、高圧源装置118からの圧力が入力される液室(以下、「入力室」という場合がある)R3が区画形成されている。ちなみに、入力室R3は、図2では、ほとんど潰れた状態で示されている。
【0065】
入力ピストン306は後端部が塞がれて、前方に開口する有底穴338を有する有底円筒形状とされている。入力ピストン306は、第2ハウジング部材310の内周面に摺接する状態で嵌め込まれている。また、第1加圧ピストン302の後方に開口する有底穴には、後方に向かって延び出す棒状の伝達ロッド340が固定的に嵌め込まれている。具体的には、伝達ロッド340の基端部341が、第1加圧ピストン302の後方に開口する有底穴に嵌め込まれ、係止環342によって固定されている。そのため、伝達ロッド340は、第1加圧ピストン302に対しての前後方向への相対移動が禁止されている。ちなみに、伝達ロッド340は、自身の軸線回りに回転することは可能とされている。また、伝達ロッド340は、第2ハウジング部材310の前端部318、つまり、隔壁の貫通穴320を貫通して、それの先端部343が、入力ピストン306の有底穴338の内周面に摺接する状態で配設されている。なお、伝達ロッド340は、それの後方側に位置する先端部343と有底穴338の底部とが、ブレーキ操作が行われていない状態で離間するようにして設けられている。換言すれば、有底穴338と伝達ロッド340とによって、入力ピストン306の内部には、液室(以下「ピストン間室」という場合がある)R4が区画形成されている。また、入力ピストン306の前方であって伝達ロッド340の周囲には、入力ピストン306の前端面と第2ハウジング部材310の内周面とによって、環状の液室(以下「反力室」という場合がある)R5が区画形成されている。
【0066】
入力ピストン306の後端部には、ブレーキペダル150の操作力を入力ピストン306に伝達すべく、また、ブレーキペダル150の操作量に応じて入力ピストン306を進退させるべく、オペレーションロッド152の前端部が連結されている。ちなみに、入力ピストン306は、第2ハウジング部材310の内周部の後端に嵌め込まれた係止環344に係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド152には、円板状のスプリングシート345が付設されており、このスプリングシート345と第2ハウジング部材310との間には圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)346が配設されており、このリターンスプリング346によって、オペレーションロッド152は後方に向かって付勢されている。なお、第2ハウジング部材310の後端部とオペレーションロッド152の先端部とはブーツ348に覆われており、マスタシリンダ装置110の後部の防塵が図られている。
【0067】
第1加圧室R1は、開口が出力ポートとなる連通孔400を介して、アンチロック装置114に繋がる液通路202と連通しており、第1加圧ピストン302に設けられた連通孔402および開口がドレインポートとなる連通孔404を介して、リザーバ122に連通可能とされている。一方、第2加圧室R2は、開口が出力ポートとなる連通孔406を介して、アンチロック装置114に繋がる液通路200と連通しており、第2加圧ピストン304に設けられた連通孔408および開口がドレインポートとなる連通孔410を介して、リザーバ122に連通可能とされている。
【0068】
第1ハウジング部材308の内径は、第1加圧ピストン302の後方部において、第1加圧ピストン302の外径よりも若干大きくされている。そのため、第1ハウジング部材308の内周面と第1加圧ピストン302の外周面との間には、ある程度の流路面積を有し、後端において入力室R3と繋がる液通路415が形成されている。第1ハウジング部材308には、一端が外部に開口する連結ポートとされ、他端が液通路415に開口する連通孔416が形成されている。したがって、入力室R3は液通路415を介して外部に連通している。また、第1ハウジング部材308には、一端が外部に開口する連結ポートとされ、他端が第1ハウジング部材308の内周面に開口する連通孔418も形成されている。第2ハウジング部材310には、一端がその連通孔418の他端の開口に向かい合って開口し、他端が反力室R5に開口する連通孔420が形成されている。したがって、反力室R5は、連通孔418,420を介して外部に連通している。
【0069】
第2ハウジング部材310の中間部分は、第1ハウジング部材308の後方大径部316の内径よりある程度小さい外径とされている。そのため、第2ハウジング部材310の外周面と第1ハウジング部材308の内周面との間には、ある程度の流路面積を有する液通路422が形成されている。また、第2ハウジング部材310の中間部分は、入力ピストン306の外径よりある程度大きい外径とされている。そのため、第2ハウジング部材310の内周面と入力ピストン306の外周面との間には、ある程度の流路面積を有する液通路424が形成されている。第1ハウジング部材308には、一端が外部に開口する連結ポートとされ、他端が液通路422に開口する連通孔426が形成されている。また、第2ハウジング部材310には、一端が液通路422に開口し、他端が液通路424に開口する連通孔428が形成されている。さらに、入力ピストン306には、一端が液通路424に開口し、他端がピストン間室R4に開口する連通孔430が形成されている。したがって、ピストン間室R4は、連通孔430,液通路424,連通孔428,液通路422,連通孔426を介して、外部に連通している。
【0070】
また、入力ピストン306の前方には、一端が反力室R5に開口し、他端が入力ピストン306の外周面に開口する連通孔432が設けられている。ブレーキ操作がされていない状態では、連通孔432の開口はシール部材434の後方に位置するため、連通孔432は連通孔428と連通している。したがって、この状態では、反力室R5は、連通孔432,連通孔428,液通路422,連通孔426を介して、外部に連通する。しかしながら、ブレーキ操作がされている状態、つまり、入力ピストン306が前進している状態では、第2ハウジング部材310の内周面に嵌め込まれているシール部材434によって、連通孔432と連通孔428との連通が遮断される。つまり、反力室R5と外部との連通も遮断される。
【0071】
このように連通孔と液通路とが形成されたマスタシリンダ装置110において、連通孔416の連結ポートには、一端が増減圧装置120に繋げられて、入力圧とされた作動液を入力室R3に導入するための入力圧導入路436の他端が接続されている。
【0072】
連通孔426の連結ポートには、一端がリザーバ122連結される外部連通路438の他端が接続されている。その外部連通路438の途中には、電磁式の開閉弁440が設けられており、ピストン間室R4はリザーバ122に連通可能となっている。なお、開閉弁440は、非励磁状態で閉弁状態となる常閉弁とされており、弁制御装置であるブレーキECU48による電力の供給とそれの停止とによって開閉する。このように、マスタシリンダ装置110では、外部連通路438を含んで、ピストン間室R4をリザーバ122に連通するピストン間室連通路が形成されており、開閉弁440とブレーキECU48とによって、そのピストン間室連通路を遮断することでピストン間室R4を密閉するピストン間室密閉器が構成されている。
【0073】
なお、ピストン間室連通路が遮断されていない状態で、ブレーキ操作がされていない場合、反力室R5も外部連通路438を介してリザーバ122に連通することになる。言わば、マスタシリンダ装置110では、連通孔432とシール部材434とによって、ブレーキ操作がされていない場合の反力室R5のリザーバ122への連通を担保するための低圧源連通機構が構成されている。
【0074】
連通孔418の連結ポートには、リザーバ122に一端が接続されている外部連通路442の他端が接続されている。その外部連通路442の途中には、電磁式の開閉弁444が設けられており、反力室R5はリザーバ122に連通可能となっている。なお、開閉弁444は、非励磁状態で開弁状態となる常開弁とされている。外部連通路442の途中には、反力室R5の作動液の圧力を検出するための反力室圧センサ[Pr]446が設けられている。ブレーキECU48は、反力室圧センサ446の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、開閉弁444は開閉される。このように、マスタシリンダ装置110では、外部連通路442を含んで反力室連通路が形成されており、その外部連通路442と開閉弁444とを含んで、反力室R5を低圧源に開放するための反力室開放器が構成されている。また、外部連通路442の連通孔418と開閉弁444との間には、反力室R5内の作動液が流出入するストロークシミュレータ448が設けられている。
【0075】
図3は、ストロークシミュレータ448の断面図である。ストロークシミュレータ448は、筐体であるハウジング450と、そのハウジング450内部に配置された加圧ピストン452および圧縮コイルスプリング454を含んで構成されている。ハウジング450は、両端が閉塞された円筒形状とされている。加圧ピストン452は、円板状とされており、ハウジング450の内周面に摺動可能に配設されている。スプリング454は、それの一端がハウジング450の内底面に支持されており、他端が加圧ピストン452の一端面に支持されている。したがって、加圧ピストン452は、スプリング456によってハウジング450に弾性的に支持されている。また、ハウジング450の内部には、加圧ピストン452の他端面とハウジング450とによって、蓄圧室R6が区画形成されている。つまり、蓄圧室R6の作動液はスプリング454によって弾性的に加圧されており、ストロークシミュレータ448は、蓄圧室R6の作動液を弾性的に加圧する加圧機構として機能する。また、ハウジング450には、一端が蓄圧室R6に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔456が設けられている。その連通孔456の連結ポートには、外部連通路442から分岐する液通路が接続されている。したがって、蓄圧室R6は反力室R5に連通しており、反力室R5内の作動液も、圧縮コイルスプリング454によって弾性的に加圧可能とされている。したがって、ストロークシミュレータ448は、反力室R5の作動液を加圧することができ、入力ピストン306を後方へと向かわせる力、つまり、ブレーキ操作に対する操作反力を発生する操作反力付与機構とされている。
【0076】
なお、本マスタシリンダ装置110に採用されるストロークシミュレータは、所謂ダイアフラム式のストロークシミュレータであってもよい。つまり、蓄圧室R6が加圧ピストン452の代わりにダイアフラムによって区画されており、作動液がそのダイアフラムを介して加圧機構によって加圧されるようなストロークシミュレータを採用することも可能である。
【0077】
≪マスタシリンダ装置の作動≫
以下にマスタシリンダ装置110の作動について説明する。通常時、つまり、液圧ブレーキシステム100が正常に作動することができる場合、開閉弁444は励磁されて、閉弁させられている。したがって、運転者によってブレーキペダル150の踏込操作が開始され、操作力によって入力ピストン306が前進すると、反力室R5内の作動液がストロークシミュレータ448の蓄圧室R6へと流入する。その前進に応じて蓄圧室R6の容積が増加するため、スプリング456の弾性力が増加する。つまり、蓄圧室R6および反力室R5の作動液の圧力が上昇する。この作動液の圧力は、入力ピストン306に作用し、入力ピストン306の前進、つまり、ブレーキ操作に対する操作反力となる。また、通常時、開閉弁440は励磁されて、開弁させられているため、ピストン間室R4はリザーバ122に連通している。そのため、操作力によって入力ピストン306が前進しても、操作力がピストン間室R4の作動液を介して第1加圧ピストンに伝達されることはない。
【0078】
図4には、ブレーキペダル150の操作量に対する第1加圧室R1内の作動液の圧力、つまり、出力圧の変化が実線で示されている。また、図4には、操作量に対する有底穴338の底部と伝達ロッド340の先端部343との距離、つまり、離間距離の変化が一点鎖線で示されている。前述のように、本マスタシリンダ装置110の搭載されている車両では、ブレーキ操作の初期の段階では、回生ブレーキによって制動力が発生するため、液圧制動力は必要とされない。ブレーキ操作の途中で液圧制動力を発生させるには、高圧源装置118からの作動液が入力室R3に導入されればよい。この作動液の導入は、回生ブレーキの制動力を考慮して決定された操作量(図4に示す液圧制動開始操作量)から開始される。入力室R3に作動液が導入されると、専らその作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン302が前進して第1加圧室R1内の作動液を加圧し、その作動液の圧力に依存して、第2加圧ピストン304も前進して第2加圧室R2内の作動液を加圧する。つまり、マスタシリンダ装置110は、専ら高圧源装置118から入力室R3に導入される作動液の圧力に依存して加圧室内の作動液を加圧する高圧源圧依存加圧状態で作動することになり、各ブレーキ装置116には、アンチロック装置114を介して加圧された作動液が供給され、各ブレーキ装置116では液圧制動力が発生する。なお、増減圧装置120は、操作量の増加に伴って入力圧が上昇するように制御されているため、出力圧も操作量の増加に伴って上昇する。また、本マスタシリンダ装置110では、操作量に対する入力室の圧力上昇の割合が比較的大きくされている。つまり、ブレーキ操作において、入力ピストンの前進量が加圧ピストンの前進量よりも大きくなるように、入力室R3の圧力が制御されている。そのため、離間距離は、操作量の増加に伴って増加することとなる。
【0079】
このように高圧源圧依存加圧状態で作動するマスタシリンダ装置110において、高圧源装置118によって高圧とされた作動液が、増減圧装置120によって減圧されることなく入力室R3に導入されると、入力圧の大きさと高圧源圧の大きさとは等しくなる。したがって、入力圧は高圧源圧を超えて大きくなることはないため、それ以降の操作量の増加に対して、第1加圧ピストン302は入力圧に依存して前進することはできず、液圧制動力も増加しない。つまり、その操作量(図4に示す最大入力圧発生操作量)において、高圧源圧に依存した液圧制動力は最大となる。
【0080】
一方、離間距離は、最大入力圧発生操作量からの操作量の増加に対しては、第1加圧ピストン302が前進しないため、減少していくこととなる。その離間距離が0、つまり、有底穴338の底部に伝達ロッド340の先端部343が当接すると、それ以降のブレーキ操作に対しては、出力圧が上昇することになる。つまり、加圧ピストン302,304が、入力圧による力に加えて、操作力によっても前進させられるため、出力圧は最大入力圧発生操作量における出力圧よりも大きくなるのである。すなわち、マスタシリンダ装置110は、高圧源からの作動液の圧力に加えて、操作力に依存して加圧室内の作動液を加圧する高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動しており、各ブレーキ装置116では、高圧源圧と操作力とに依存して、高圧源圧依存加圧状態の場合よりも大きな液圧制動力が発生する。したがって、マスタシリンダ装置110は、比較的小型の高圧源装置118を採用することが可能であり、高圧源装置118の設置スペースを低減することができ、また、コストを低減することもできる。
【0081】
また、本マスタシリンダ装置110は、上記離間距離が0となる前に、高圧源圧依存加圧状態から高圧源圧・操作力依存加圧状態に移行することもできる。具体的には、入力ピストン306の有底穴338の底部に伝達ロッド340の先端部343が当接していない場合でも、開閉弁440が励磁されて閉弁させられると、ピストン間室R4は密閉され、ピストン間室R4の作動液を介して、操作力が第1加圧ピストン302に伝達されることとなる。つまり、ピストン間室R4は密閉された時点から、マスタシリンダ装置110は高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動するすることができ、各ブレーキ装置116では大きな液圧制動力が発生することになる。例えば、入力圧の大きさが設定値である高圧源圧の大きさに等しくなった場合に、開閉弁440が閉弁させられれば、出力圧は、図4に点線で示すように、操作量の増加に対して滑らかに増加し続ける。そのため、運転者は、操作量に対する制動力の変化に違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【0082】
また、急ブレーキ等の大きな液圧制動力が必要とされる場合には、入力圧の大きさに拘らず、ピストン間室R4が密閉されてもよい。マスタシリンダ装置110では、ブレーキECU48は、操作量を検知しており、その操作量の変化速度を常に監視している。したがって、操作量の変化速度が急激に増加した場合には、急ブレーキがされていると判定し、開閉弁440が閉弁させられればよい。その場合の出力圧は、図4に二点鎖線で示すように、出力圧が、高圧源圧依存状態における出力圧よりも大きくなるため、小さな操作量で比較的大きな液圧制動力が発生することとなる。つまり、比較的大きな液圧制動力を素早く発生させることができる。
【0083】
次に、電気的失陥のため、液圧ブレーキシステム100に電力が供給されていない状況下における作動について説明する。このような状況下で、開閉弁440は閉弁しているため、ピストン間室R4のリザーバ122への連通が遮断されて、ピストン間室R4は密閉される。したがって、密閉されたピストン間室R4の作動液を介して、操作力が第1加圧ピストン302へと伝達され、加圧室R1,R2内の作動液が加圧されることとなる。つまり、本マスタシリンダ装置110では、高圧源装置118が高圧とされた作動液を供給することができない場合に、加圧室R1,R2内の作動液が専ら操作力に依存して加圧される状態、すなわち、操作力依存加圧状態が実現される。
【0084】
一方、開閉弁444は、励磁されていないため、開弁している。つまり、反力室R5はリザーバ122に連通している。したがって、運転者によってブレーキペダル150の踏込操作が開始されると、反力室R5内の作動液をリザーバ122へと流出させながら、入力ピストン306は前進し、圧縮コイルスプリング454は、蓄圧室R6内の作動液を加圧することができない。したがって、操作力が、反力室R5および蓄圧室R6の作動液の加圧に利用されないため、操作力を有効に利用して加圧室R1,R2の作動液を加圧することができる。なお、ストロークシミュレータ448では操作反力が発生しないことになるが、運転者は、主に、加圧室R1,R2内の作動液の圧力による反力を操作反力として実感することができる。
【0085】
≪変形例≫
図5に、第1実施例のマスタシリンダ装置110に代えて、変形例のマスタシリンダ装置500を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。マスタシリンダ装置500は、大まかには、第1実施例のマスタシリンダ装置110の外部連通路438に設けられた電磁式の開閉弁440に代えて機械式の開閉弁502を採用していることを除いて、第1実施例のマスタシリンダ装置110と同じ構造とされている。以下の説明においては、この開閉弁502を中心に、第1実施例のマスタシリンダ装置110と異なる構成および作動についてのみ説明する。
【0086】
開閉弁502は、外部連通路438の途中に設けられている。図6は、開閉弁502の断面図である。開閉弁502は、筐体であるハウジング510と、そのハウジング510内部に配置された弁子部材512およびプランジャ514を含んで構成されている。ハウジング510は、両端が閉塞された円筒形状とされている。ハウジング510の内部には、内径の大きい大内径部520と内径の小さい小内径部522とが形成されており、それら内径部の境界には段差面524が形成されている。ハウジング510内には、概して円柱形状とされた仕切部材525が、段差面524に当接する状態で大内径部520に固定的に嵌入されている。なお、仕切部材525の中心部には、連通孔526が設けられている。また、仕切部材525の外周において段差面524に近い部分では、外径が小さくされており、ハウジング510の大内径部520と仕切部材525との間には、隙間528が形成されている。
【0087】
ハウジング510の大内径部520には、仕切部材525とによって液室R11が区画されている。その液室R11には、球形とされた弁子部材512と圧縮コイルスプリング530とが配置されており、弁子部材512はスプリング530の弾性反力によって連通孔526にそれを塞ぐようにして押し付けられている。なお、弁子部材512の直径は、連通孔526の直径より大きくされている。つまり、仕切部材525は弁座として機能し、弁子部材512が着座することで、連通孔526を塞ぐことができる。この状態で、開閉弁502は閉弁状態となる。ハウジング510の小内径部522には、概して円柱形状とされたプランジャ514が配置されている。プランジャ514は、一端が連通孔526の直径より小さな外径とされた先端部532とされており、他端が小内径部522の内径より若干小さな外径とされた基底部534とされている。したがって、プランジャ514は、基底部534が小内径部522に摺動可能な状態で、ハウジング510内部に嵌め込まれている。また、プランジャ514の前方には、小内径部522,仕切部材525,プランジャ514によって液室R12が区画されており、後方には、小内径部522,プランジャ514によって、後述するパイロット圧とされる作動液が導入されるパイロット圧室R13が区画されている。なお、パイロット圧室R13は図6では殆ど潰れた状態で示されている。また、前述の連通孔526によって、液室R12は液室R11に連通することが可能とされている。
【0088】
ハウジング510の大内径部520には、一端が液室R11に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔536が設けられている。また、大内径部520の段差面524の近くには、一端が隙間528に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔538が設けられている。また、仕切部材525には、隙間528と液室R12とを連通する連通孔540が設けられている。さらに、ハウジング510の小内径部522には、一端がパイロット圧室R13に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔542が設けられている。
【0089】
上述のように構成された開閉弁502は、連通孔536,538の各々の連結ポートにおいて外部連通路438に接続されている。つまり、連通孔536,液室R11,R12,連通孔540,隙間528,連通孔538は,外部連通路438の一部を構成していると言うこともでき、その外部連通路438によって、マスタシリンダ装置500のピストン間室R4はリザーバ122に連通することが可能とされている。また、連通孔542の連結ポートには、連通路442から分岐する連通路が繋げられており、連通孔542には、反力室R5内の作動液と同じ圧力の作動液が供給される。したがって、プランジャ514は、反力室R5内の作動液の圧力に応じて、自身の先端部532が連通孔526を挿通して弁子部材512を押圧するように作動することができる。その弁子部材512を押圧する力が、圧縮スプリング530の弁子部材512を押す力以上になると、プランジャ514は弁子部材512を連通孔526から離間させることができる。この状態で開閉弁502は開弁状態となり、ピストン間室R4はリザーバ122に連通する。つまり、開閉弁502は、反力室R5の作動液をパイロット圧として利用して作動する。
【0090】
マスタシリンダ装置500の作動について以下に説明する。通常時、開閉弁444は励磁されて閉弁状態とされているため、反力室R5が密閉されている。この状態で操作力が大きくなると、反力室R5の作動液の圧力は上昇する。そのため、開閉弁502では、弁子部材512が連通孔526から離間して、開閉弁502は開弁状態となり、液室R11とR12とが互いに連通する状態、つまり、ピストン間室R4がリザーバ122に連通する状態となる。したがって、マスタシリンダ装置500は、通常時、高圧源圧依存加圧状態で作動することができる。一方、操作力が小さくなるにつれて反力室R5の作動液の圧力が低下し、その圧力が略大気圧の大きさとされた設定値を超えて小さくなった場合には、開閉弁502は閉弁する。すなわち、開閉弁502は、操作力を指標する反力室R5の作動液の圧力をパイロット圧として利用して開閉する。このように、マスタシリンダ装置500では、比較的簡便な機構によってピストン間室密閉器が構成されている。
【0091】
なお、本マスタシリンダ装置500の開閉弁502では、パイロット圧室R13の作動液の圧力が作用するプランジャ514の基底部534の受圧面積が比較的大きくされている。そのため、反力室R5内の作動液の圧力がわずかに上昇すれば、開閉弁502は開弁することが可能とされている。したがって、マスタシリンダ装置500では、ブレーキ操作開始直後、つまり、反力室内R5内の作動液の圧力が操作力によってわずかに上昇するだけで、ピストン間室R4はリザーバ122に連通する。
【0092】
一方、開閉弁444が非励磁とされて開弁すると、反力室R5および連通路442の作動液の圧力は大気圧となり、パイロット圧室R13の作動液の圧力も大気圧となる。したがって、弁子部材512が連通孔526に当接し、開閉弁502は閉弁状態で維持される。つまり、ピストン間室R4のリザーバ122への連通が遮断されて、ピストン間室R4は密閉される。したがって、マスタシリンダ装置500は、高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動することができる。
【0093】
なお、本マスタシリンダ装置500では、反力室R5が負圧状態となるのを防止するため、高圧源圧・操作力依存加圧状態におけるブレーキ操作中、開閉弁444の閉弁が行われることはない。つまり、ブレーキ操作中に開閉弁444が閉弁されると、操作量の減少、つまり、入力ピストン306の後退において、反力室R5が負圧状態となってしまい、入力ピストン306の後退を妨げる力が入力ピストン306に作用してしまう。したがって、開閉弁444は、操作量が0、つまり、入力ピストン306の後退が係止環344によって制限されたときに、閉弁するように制御される。
【0094】
なお、マスタシリンダ装置500が高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動する場合、液室R12内の作動液には、ピストン間室R4内の作動液の圧力が作用するが、開閉弁502はその圧力によって開弁しないように構成されている。詳しく説明すると、液室R12内の作動液が弁子部材512に作用する部分の面積は相当に小さくされており、その作動液の圧力によって弁子部材512を仕切部材525から押し上げる力が、スプリング530によって弁子部材512を仕切部材525に押し付ける力より大きくなることがないように、開閉弁502は構成されている。したがって、高圧源圧・操作力依存加圧状態では、開閉弁502は閉弁状態に維持されるのである。
【0095】
一方、電気的失陥時においても、開閉弁444は開弁状態とさせられているため、開閉弁502は閉弁状態で維持される。したがって、ピストン間室R4のリザーバ122への連通が遮断されて、ピストン間室R4は密閉されている。そのため、シリンダ装置500は、操作力依存加圧状態で作動することができる。なお、本マスタシリンダ装置500が操作量依存加圧状態または高圧源圧・操作力依存加圧状態にある場合、ストロークシミュレータ448によって操作反力が発生することはないが、運転者は、主に、加圧室R1,R2内の作動液の圧力による反力を操作反力として実感することができる。
【0096】
ところで、本マスタシリンダ装置500では、開閉弁502に代えて他の機械式開閉弁を使用することもできる。例えば、通常、開弁されており、入力圧が上昇した場合に閉弁する機械式開閉弁を使用することもできる。このような機械式開閉弁であれば、第1実施例のマスタシリンダ装置110のように、入力圧が上昇した場合にピストン間室R4が密閉され、ピストン間室R4の作動液を介して、操作力が第1加圧ピストン302に伝達される。つまり、マスタシリンダ装置500は、入力圧が上昇した場合に、高圧源圧依存加圧状態から高圧源圧・操作力依存加圧状態に移行することができるのである。
【実施例2】
【0097】
図7に、第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置500に代えて、第2実施例のマスタシリンダ装置700を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。以下の説明においては、説明の簡略化に配慮し、第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置500と異なる構成および作動についてのみ説明し、第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置500と同じ構成および作動については説明を省略する。
【0098】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置700は、マスタシリンダ装置700の筐体であるハウジング702と、ブレーキ装置116に供給する作動液を加圧する第1加圧ピストン704および第2加圧ピストン706と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン708とを含んで構成されている。なお、図7は、マスタシリンダ装置700が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。
【0099】
ハウジング702は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材710と第2ハウジング部材712とから構成されている。第1ハウジング部材710は、前端部が閉塞された概して円筒形状とされており、後端部の外周にはフランジ714が形成され、そのフランジ714において車体に固定されている。第1ハウジング部材710は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の小さい前方小径部716、後方側に位置して内径の大きい後方大径部718、それら前方小径部716と後方大径部718との中間に位置しそれらの内径の中間の内径を有する中間部720に区分けされている。
【0100】
第2ハウジング部材712は、前端部721が内側に突出する鍔を有する形状とされてているが、前端部721の中心付近には、それを貫通する貫通穴722が設けられている。第2ハウジング部材712は、前端部721が第1ハウジング部材710の中間部720と後方大径部718との段差面に接する状態で、後方大径部718に嵌め込まれている。したがって、ハウジング702は、第2ハウジング部材712の前端部721が隔壁として機能し、内部が前方室723と後方室724とに分割された形状となっている。
【0101】
第2加圧ピストン706は、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材710の前方小径部716に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン704は、概ね円筒形状とされているが、それの内部は、前後方向における中間位置に設けられた仕切壁部722によって、2つの部分に区画されている。つまり、第1加圧ピストン704は、前端,後端にそれぞれ開口する2つの有底穴を有する形状とされている。ちなみに、第1加圧ピストン704は、後端が第2ハウジング部材712の前端面に当接することで、それの後退が制限されている。また、第1加圧ピストン704の後端と第2ハウジング部材712の前端面との間には、高圧源装置118からの圧力が入力される液室(以下、「入力室」という場合がある)R33が区画形成されている。ちなみに、入力室R33は、図7では、ほとんど潰れた状態で示されている。
【0102】
入力ピストン708は概ね円柱形状とされている。入力ピストン708は、前方側が外径の小さくされた前方小径部726、後方側が外径の大きくされた後方大径部728とされている。したがって、入力ピストン708は、伝達ロッドとして機能する前方小径部726が一体とされた形状となっている。入力ピストン708は、前方小径部726が貫通穴722を貫通し、先端部729が第1加圧ピストン704の後端に開口する有底穴の内周面に摺接し、後方大径部728が第2ハウジング部材712の内周面に摺接する状態で配設されている。なお、入力ピストン708は、先端部729と第1加圧ピストン704の有底穴の底部とが、ブレーキ操作が行われていない状態で離間するようにして設けられている。換言すれば、第1加圧ピストン704の有底穴の底部と前方小径部726とによって、第1加圧ピストン704の内部には、液室(以下「ピストン間室」という場合がある)R34が区画形成されている。また、後方大径部728の前端面と第2ハウジング部材712の内周面とによって、環状の液室(以下「反力室」という場合がある)R35が区画形成されている。
【0103】
第1加圧ピストン704の前方側は、第1ハウジング部材710の中間部720の内径よりある程度小さい外径とされている。そのため、第1加圧ピストン704の外周面と第1ハウジング部材710の内周面との間には、ある程度の流路面積を有する液通路730が形成されている。液通路730は、一端が外部に開口する連結ポートとされた連通孔732を介して外部に連通している。また、第1ハウジング部材710の内部には、液通路730をリザーバ122に連通する連通路734の一部が形成されており、液通路730は、その連通路734に連通している。したがって、液通路730はリザーバ122に連通しており、通路内の作動液の圧力は大気圧とされている。
【0104】
第1加圧ピストン704の周壁面には、一端がピストン間室R34に開口し、他端が液通路730に開口する連通孔736が形成されている。したがって、ピストン間室R34はリザーバ122に連通可能となっている。また、入力ピストン708の前方小径部726の先端部729の外周部には、その連通を遮断することができるシール部材738が嵌め込まれている。詳しく言えば、入力ピストン708が第1加圧ピストン704に対して前進し、シール部材738が連通孔736を通過すると、連通孔736を介してのピストン間室R34のリザーバ122への連通は遮断されるのである。ちなみに、入力ピストン708は、自身の後端部が第2ハウジング部材712の後端部に係止されることで、後退が制限されている。
【0105】
第1加圧ピストン704の後方側は、第1ハウジング部材710の中間部720の内径よりある程度小さい外径とされている。そのため、第1加圧ピストン704の外周面と第1ハウジング部材710の内周面との間には、ある程度の流路面積を有する液通路740が形成されている。液通路740は、一端が外部に開口する連結ポートとされた連通孔742を介して外部に連通している。また、第1加圧ピストン704の周壁面には、一端が液通路740に開口し、他端がピストン間室R34に開口する連通路744が形成されている。したがって、ピストン間室R34は、連通路744、液通路740、連通孔742を介して外部に連通している。なお、連通路744の他端の開口は、第1加圧ピストン704の有底穴の底部近傍に設けられており、入力ピストン708の先端部729が有底穴の底部に接近、あるいは、当接しても、ピストン間室R34は外部に連通することが可能とされている。
【0106】
第2ハウジング部材712の前方側に位置する部分は、第1ハウジング部材710の内径よりある程度小さい外径とされている。そのため、第2ハウジング部材712の外周面と第1ハウジング部材710の内周面との間には、ある程度の流路面積を有する液通路746が形成されている。その液通路746は一端が外部に開口する連結ポートとされた連通孔748を介して外部に連通している。また、第2ハウジング部材712には、一端が液通路746に開口し、他端が反力室R35に開口する連通孔750が設けられている。したがって、反力室R35は、連通孔750、液通路746、連通孔748を介して外部に連通している。その連通孔748の連結ポートには、外部連通路442の他端が接続されている。
【0107】
また、入力ピストン708には、一端が、前方小径部716と後方大径部718とによって形成される段差面において反力室R35に開口し、他端が後方大径部728の外周面に開口する連通孔752が設けられている。第2ハウジング部材712には、一端が内周面に開口し、他端が、第1ハウジング部材710と第2ハウジング部材712との間に形成される隙間754に開口する連通孔756が設けられている。なお、隙間754には、連通路734の一端も開口しており、隙間754はリザーバ122に連通している。ブレーキ操作がされていない状態では、連通孔752の開口がシール部材754の後方に位置するため、連通孔752は連通孔756と連通しており、反力室R35のリザーバ122への連通が許容される。しかしながら、ブレーキ操作がされている状態、つまり、入力ピストン708が前進している状態では、第2ハウジング部材712の内周面に嵌め込まれているシール部材758によって、連通孔752は連通孔756と連通することができない。つまり、反力室R35のリザーバ122への連通が禁止される。したがって、マスタシリンダ装置700では、これら連通孔752,連通孔756,シール部材758によって、ブレーキ操作がされていない状態での反力室R35のリザーバ122への連通を担保するための低圧源連通機構が構成されている。
【0108】
また、第1ハウジング部材710には、一端が外部に開口する連結ポートとされ、他端が入力室R33に開口する連通孔760が形成されている。その連通孔760の連結ポートには、入力圧導入路436の他端が接続されている。
【0109】
ハウジング702の外部には、一端が連通孔732の連結ポートに接続され、他端が連通孔742の連結ポートに接続される外部連通路762が設けられている。したがって、ピストン間室R34は、外部連通路762を介してリザーバ122に連通可能となっている。つまり、マスタシリンダ装置700では、外部連通路762を含んでピストン間室連通路が形成されており、その外部連通路762の途中には、機械式の開閉弁502が設けられている。
【0110】
≪マスタシリンダ装置の作動≫
前述のように構成されたマスタシリンダ装置700は、第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置500と同様の作動を行うことができる。つまり、通常時には、開閉弁444は励磁されて閉弁状態とされており、ブレーキ操作中、開閉弁502は開弁状態とされている。そのため、ピストン間室R34はリザーバ122に連通されており、マスタシリンダ装置700は、高圧源圧依存加圧状態で作動する。一方、開閉弁444が非励磁とされて開弁すると、開閉弁502は閉弁されて、ピストン間室R34は密閉される。したがって、マスタシリンダ装置700は、高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動する。また、電気的失陥時には、操作力依存加圧状態で作動することになる。
【0111】
ただし、本マスタシリンダ装置700では、高圧源圧・操作力依存加圧状態および操作力依存加圧状態で作動する場合に、開閉弁502は閉弁状態で維持されるが、ブレーキ操作がされていないとき、ピストン間室R34は密閉されない。詳しく説明すると、ブレーキ操作がされていない状態では、第1加圧ピストン704の連通孔736を介して、ピストン間室R34はリザーバ122に連通している。ブレーキ操作が開始されると、入力ピストン708が前進し、シール部材738が連通孔736を通過すると、ピストン間室R34が密閉される。ちなみに、ブレーキペダル150が操作されていない状態で、シール部材738は連通孔736から離れて後方に位置しているが、マスタシリンダ装置700では、その距離が比較的小さくされている。したがって、ブレーキペダル150を少し操作するだけでピストン間室R34が密閉され、ブレーキ装置116は液圧制動力を発生することができる。
【0112】
また、ブレーキ操作が解除されると、シール部材738が連通孔736の後方に戻るため、ピストン間室R34は再びリザーバ122に連通する。つまり、本マスタシリンダ装置700では、ブレーキ操作がされていない状態において、ピストン間室R34のリザーバ122への連通が確保されている。したがって、本マスタシリンダ装置700は、ブレーキ操作がされていない状態でのピストン間室R34内の残圧の発生を防止し、ブレーキ装置116での引き摺り現象、つまり、残圧によって加圧室R1,R2内の作動液が加圧されてしまうことのないマスタシリンダ装置とされているのである。
【0113】
ところで、第1実施例のマスタシリンダ装置110と第2実施例のマスタシリンダ装置700とを比較すると、実用性の観点おいて、マスタシリンダ装置110には優れている面がある。第1実施例のマスタシリンダ装置110では、第1加圧ピストン302に伝達ロッド340が固定されている。そのため、マスタシリンダ装置110では、入力ピストン708に伝達ロッドとして機能する前方小径部726が設けられている本マスタシリンダ装置700よりも、入力ピストンをハウジングから引き出すために必要な距離を小さくすることができる。したがって、第1実施例のマスタシリンダ装置110では、点検時等においてマスタシリンダ装置110を分解する場合の作業が容易になっている。
【0114】
また、第1実施例のマスタシリンダ装置110では、低圧源連通機構が入力ピストンの前方に設けられている。そのため、入力ピストン708の後方に低圧源連通機構が設けられている本マスタシリンダ装置700よりも、入力ピストンの後方部における長さを短くすることができる。したがって、マスタシリンダ装置110では、本マスタシリンダ装置700よりも、マスタシリンダ装置の全長を短くすることができる。
【0115】
≪変形例≫
図8は、機械式の開閉弁502に代えて、第1実施例のマスタシリンダ装置110に採用された電磁式の開閉弁440を採用した第2実施例の変形例のマスタシリンダ装置782を示す。開閉弁440は、外部連通路762の途中に設けられており、通常時、開弁させられている。このように構成されたマスタシリンダ装置782は、第1実施例のマスタシリンダ装置110と同様の作動を行うことができる。つまり、通常時には、開閉弁444および開閉弁440は、励磁されて、それぞれ閉弁状態および開弁状態とされている。したがって、ピストン間室R34はリザーバ122に連通されており、マスタシリンダ装置700は高圧源圧依存加圧状態で作動する。また、第1加圧ピストン704の後方に開口する有底穴の底部と、入力ピストン708の前方小径部726の先端部729との距離である離間距離が0、つまり、有底穴の底部に伝達ロッドの先端部729が当接すると、マスタシリンダ装置700は高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動する。また、電気的失陥時には、操作力依存加圧状態で作動することになる。
【0116】
また、本マスタシリンダ装置782でも、第1加圧ピストン704の有底穴の底部に入力ピストン708の先端部729が当接していない場合に開閉弁440が閉弁させられれば、マスタシリンダ装置700は高圧源圧・操作力依存加圧状態で作動することができる。したがって、入力圧の大きさが設定値である高圧源圧の大きさに等しくなった場合に、開閉弁440が閉弁させられれば、出力圧は、操作量の増加に対して滑らかに増加し続ける。そのため、運転者は、操作量に対する制動力の変化に違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【0117】
また、急ブレーキ等の大きな液圧制動力が必要とされる場合には、入力圧の大きさに拘らず、ピストン間室R34が密閉されればよい。操作量の変化速度が急激に増加した場合に開閉弁440が閉弁させられれば、出力圧が、高圧源圧依存状態における出力圧よりも大きくなる。そのため、比較的大きな液圧制動力を素早く発生させることができる。
【符号の説明】
【0118】
110:マスタシリンダ装置 116:ブレーキ装置 118:高圧源装置(高圧源) 122:リザーバ(低圧源) 150:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 300:ハウジング 302:第1加圧ピストン(加圧ピストン) 306:入力ピストン 438:外部連通路(ピストン間室連通路) 440:電磁式開閉弁(ピストン間室密閉器) 442:外部連通路(反力室開放器) 444:電磁式開閉弁(反力室開放器) 452:圧縮コイルスプリング(加圧機構) R1:第1加圧室(加圧室) R3:入力室 R4:ピストン間室 R5:反力室 R6:蓄圧室 500:マスタシリンダ装置 502:機械式開閉弁(ピストン間室密閉器) 700:マスタシリンダ装置 702:ハウジング 704:第1加圧ピストン(加圧ピストン) 708:入力ピストン 726:前方小径部(伝達ロッド) R33:入力室 R34:ピストン間室 R35:反力室 782:マスタシリンダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられて作動液の圧力によって作動するブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方が閉塞され、内部を前方室と後方室とに分ける隔壁を有するハウジングと、
前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が自身の前方に、高圧源からの作動液が導入される入力室が自身の後方に、それぞれ区画されるようにして、前記ハウジングの前方室内に配設された加圧ピストンと、
前記ハウジングの前記後方室内に配設され、後端部がブレーキ操作部材に連結され、そのブレーキ操作部材に加えられた操作力によって前進する入力ピストンと、
前記入力ピストンの前進量に応じた操作反力をその入力ピストンに付与する操作反力付与機構と、
前記ハウジングの隔壁を貫通し、基端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの一方に固定され、前記入力ピストンが前進していない状態において先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方と離間する伝達ロッドと
を備え、
前記伝達ロッドの先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方に当接しない状態において、前記高圧源の圧力に依存した前記加圧室の作動液の加圧が実現され、前記伝達ロッドの先端部が前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの他方に当接した状態において、前記高圧源の圧力に加えて前記操作力にも依存した前記加圧室の作動液の加圧が実現されるように構成されたマスタシリンダ装置。
【請求項2】
前記入力ピストンと加圧ピストンとの他方に、前記伝達ロッドが嵌入する有底穴が設けられ、前記入力ピストンが前進していない状態においてその有底穴の底部と前記伝達ロッドとの間が離間している請求項1に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項3】
前記有底穴の底部と前記伝達ロッドの先端部とによって、作動液で満たされるピストン間室が区画されており、
当該マスタシリンダ装置が、
前記ピストン間室を低圧源に連通するピストン間室連通路と、
そのピストン間室連通路を遮断することで前記ピストン間室を密閉するピストン間室密閉器と
を備えるように構成された請求項2に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項4】
前記ピストン間室密閉器が、前記加圧室の作動液の圧力,前記入力室の作動液の圧力,前記操作力,前記ブレーキ操作部材の操作量のいずれかに基づいて前記ピストン間室を密閉するように構成された請求項3に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項5】
前記ピストン間室密閉器が、前記ピストン間室連通路に設けられた電磁式弁と、その電磁式弁を制御する弁制御装置とを含んで構成された請求項3または請求項4に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項6】
前記ハウジングの前記後方室内において、前記隔壁と前記入力ピストンとによって前記伝達ロッドの周りが区画されて作動液で満たされる環状の反力室が形成されており、かつ、当該マスタシリンダ装置が、前記反力室と連通して作動液で満たされる蓄圧室を有してその蓄圧室の作動液を弾性的に加圧する加圧機構を備えており、
前記操作反力付与機構が、前記反力室と加圧機構とを含んで構成された請求項2ないし請求項5のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【請求項7】
当該マスタシリンダ装置が、前記反力室を低圧源に解放するための反力室開放器を備えた請求項6に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項8】
前記反力室開放器が、電気的失陥時において前記反力室を低圧源に開放するように構成された請求項7に記載のマスタシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66692(P2012−66692A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213048(P2010−213048)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【上記1名の代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
【Fターム(参考)】