説明

マルチビームアンテナ装置

【課題】ロトマンレンズの損失増加を抑制し、利得を向上するマルチビームアンテナ装置を提供する。
【解決手段】空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αであり、さらに、Fを入力端子(21)とS2との距離とし、2Lnをアレーアンテナの開口長とし、S3を、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離とし、2Lnを前記アレーアンテナの開口長としたき、η=(β/α)・(Ln/F)<1の関係式を満たし、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくするよう前記ロトマンレンズの形状を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の送受信に利用されるマルチビームアンテナ装置に用いられるロトマンレンズの設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、ロトマンレンズを用いた従来のアンテナ装置を示す平面図を図8に示す。図において(1)はロトマンレンズ、(21),(22),・・・(2m)はロトマンレンズ(1)に電力を供給する入力端子、(31),(32),・・・(3n)はロトマンレンズ(1)内の電力を取り出す出力端子、(41),(42),・・・(4n)は空間に電波を放射するアンテナ素子、(5)は複数個のアンテナ素子(41),(42),・・・(4n)が直線状に配列されたアレーアンテナ、(61),(62),・・・(6n)は上記出力端子と上記アンテナ素子を結ぶ伝送線路、(7)は長さの異なった伝送線路(61),(62),・・・(6n)からなる線路部、(8)は中心線であり、このアンテナ装置は、中心線(8)に対して線対称である。(9)は入力端子(21)の位置を表すための補助線であり、入力端子(21)は、座標系(X、Y)の原点となるS2から見て、中心線(8)から仰角αの方向にある。(10)は入力端子(21)を励振したときの空間でのビーム方向を示す直線であり、上記アレーアンテナの正面方向から角度βの方向に向いているが、基本設計では、通常β=αを条件に設計される。
【0003】
以上のように構成された従来のアンテナ装置では、入力端子(21),(22),・・・(2m)のうちの1つの入力端子を励振したとき、電力はロトマンレンズ(1)内に供給される。ロトマンレンズ(1)内の電力は出力端子(31),(32),・・・(3n)で取り出され、伝送線路(61),(62),・・・(6n)を通ってアンテナ素子(41),(42),・・・(4n)に至る。アレーアンテナ(5)の励振振幅、励振位相は、入力端子(21),(22),・・・(2m)のどの端子を励振するかによって決定され、アレーアンテナ(5)の励振位相に応じて空間でのビーム方向が決まる。
【0004】
ここで、図8の従来のアンテナ装置では、入力端子(21),(22),・・・(2m)は、ロトマンレンズ焦点S1位置を中心とする半径Rの円弧上に配置される。S2は、出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点で示し、座標系(X、Y)の原点である。S3は、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点を示す。なお、出力端子(31),(32),・・・(3n)のx座標、y座標、及び伝送線路(61),(62),・・・(6n)の電気長wは、それぞれ次式で表される。
【0005】





【0006】
ここで、








である。
【0007】
また、半径Rは次式で表される。

【0008】
ここで、GはS2とS3との距離でロトマンレンズの大きさであり、Fは入力端子(21)とS2との距離であり、2Lnはアレーアンテナ(5)の開口長である。通常、基本設計では、β=αの限定条件で設計され、0.8<η<1程度、すなわち、FがLnの1から1.25倍程度で、gは、1.137程度として設計することが、出力端子(31),(32),・・・(3n)の励振位相誤差が小さく設計でき、良好とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−93701号公報
【特許文献2】特開昭57−184305号公報
【特許文献3】特開昭56−123105号公報
【特許文献4】特開2000−124727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図8の従来のアンテナ装置において、線路部(7)が構成できるためには、第3式における平方根内が正あるいは零である必要がある。すなわち、次式となる。
【0011】

【0012】
この第5式が成立するためには、η=Ln/F≦1である必要があるが、このことから、アンテナ素子(41),(42),・・・(4n)の数が増えてアレーアンテナ(5)の開口2Lnが大きくなった場合は、入力端子(21)とS2との距離Fもアレーアンテナ(5)の開口2Lnに比例して大きくする必要があり、結果としてロトマンレンズの大きさGが大きくなってしまう。従って、アンテナ素子(41),(42),・・・(4n)の数が増えた場合、アンテナ素子の増加比率に合せてロトマンレンズの大きさGを大きくする必要があり、Gの拡大に伴って損失も増加してしまうため、アンテナ素子数を増やしても、その分の利得向上効果が得られないという問題があった。
【0013】
本発明は、空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向をβとしたとき、出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び中心線(8)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度αに対して、β<αの条件において、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさにすることができ、これによって、ロトマンレンズの損失増加を抑制し、利得を向上することが可能となる低損失マルチビームアンテナ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置においては、空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向βが、出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び中心線(8)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(8)との角度αに対して、β<αの条件において、S3は、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、Fは入力端子(21)とS2との距離、GはS2とS3との距離でロトマンレンズの大きさ、2Lnはアレーアンテナ(5)の開口長としたとき

の関係式を満足するようにロトマンレンズの形状を決定して、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさとしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置においては、ロトマンレンズをトリプレートで構成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置においては、アレーアンテナ(5) をトリプレートで構成したことを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置においては、個々の入力端子部を2分岐伝送線路として電力を分散供給したことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置は、電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるものであって、空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αであり、S3を、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離としたとき、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくするよう前記ロトマンレンズの形状を決定したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置は、電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるものであって、前記ロトマンレンズは、
前記入力端子または前記出力端子の素子列数nを決定する段階と、
前記素子列の配置間隔Pを決定する段階と、
前記ビームのビーム数及びビームステップ角を決定する段階と、
空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αとなるようαに対するβの比を設定する段階と、
2−4ac=0となるFxを算出する段階と、
F値を決定する段階と、
G値を決定する段階と、
前記素子数nに対応するN個の出力端子座標(x,y)、及び各出力端子の補正線路位相wを算出する段階と
からなる設計ステップによって設計されたことにより、
S3を、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離としたとき、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくなるよう前記ロトマンレンズの形状が決定されたことを特徴とする。
ただし、






であり、

である。
【0020】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置は、電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるものであって、空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αであることを特徴とする車載用マルチビームアンテナ装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置によれば、空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向βが、出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び中心線(8)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度αに対して、β<αの条件において、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさにすることができ、ロトマンレンズの損失増加を抑制し、利得を向上することが可能となる低損失マルチビームアンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成を説明する説明図である。
【図2】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成を斜視的に説明する説明図である。
【図3】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置におけるアンテナ基板平面の構成を説明する説明図である。
【図4】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置におけるロトマンレンズ基板平面の構成を説明する説明図である。
【図5】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置におけるロトマンレンズ入力端子の給電方式を説明する説明図である。
【図6】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の指向特性を説明する説明図である。
【図7】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の所定の入力端子に応じたアレーアンテナ開口面の位相傾斜を説明する説明図である。
【図8】従来例のマルチビームアンテナ装置の構成を説明する説明図である。
【図9A】従来例におけるマルチビームアンテナ装置におけるロトマンレンズの設計フローを説明する説明図である。
【図9B】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置におけるロトマンレンズの設計フローを説明する説明図である。
【図10】図2に示した本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成の一部を斜視的に説明する説明図である。
【図11】図2に示した本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成の一部を斜視的に説明する説明図である。
【図12】図2に示した本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成の一部を斜視的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施例1)
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において、空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向βが、出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び中心線(8)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(8)とがなす仰角αに対して、β<αの条件において、S3は、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、Fは入力端子(21)とS2との距離、GはS2とS3との距離でロトマンレンズの大きさ、2Lnはアレーアンテナ(5)の開口長としたとき、第6式の関係式を満足するようにロトマンレンズの形状を決定して、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさとしたことを特徴とする。
【0024】
すなわち、β=αの限定条件でロトマンレンズを設計した場合、第5式が成立するためには、η=Ln/F≦1である必要がある。さらに、0.8<η<1程度、すなわち、FがLnの1から1.25倍程度で、gは、1.137程度として設計すると、出力端子(31),(32),・・・(3n)の励振位相誤差が小さく設計でき、良好とされる。したがって、F及びGは、Lnに対して、それぞれ

の範囲が望ましい。また、アンテナ素子(41),(42),・・・(4n)の数が増えてアレーアンテナ(5)の開口2Lnが大きくなった場合は、入力端子(21)とS2との距離Fは、2Lnに比例して大きくなり、結果としてロトマンレンズの基本設計寸法Gは大きくなる。
【0025】
一方、本発明によれば、例えばβ=α/2の場合を考えると、第5式が成立するためには、η=Ln/2F≦1である必要があり、FがLnの0.5から0.625倍程度で、gは、1.137程度として設計すると、出力端子(31),(32),・・・(3n)の励振位相誤差が小さく設計でき、良好となる。したがって、F及びGは、Lnに対して、それぞれ

の範囲で望ましい設計が可能となる。この場合、β=αの限定条件で設計したロトマンレンズの基本設計寸法Gに対して、1/2倍の寸法で設計できる。
【0026】
また、この時、第1式〜第4式で求められた出力端子(31),(32),・・・(3n)のx座標及びy座標と、伝送線路(61),(62),・・・(6n)の電気長wとに基づいて設計された本発明のマルチビームアンテナ装置において、入力端子とS2との角度αの端子から給電した場合、アレーアンテナ(5)の開口中心の位相を基準としたアンテナ素子(41),(42),・・・(4n)における励振位相は、図7の直線2に示すように、β=αの限定条件で設計した基本設計マルチビームアンテナ装置のアンテナ素子(41),(42),・・・(4n)における励振位相を示す図7の直線1と比較して半分の位相傾斜となり、空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向βが、β=αの限定条件で設計した基本設計マルチビームアンテナ装置の空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向αの半分となる。
【0027】
従って、本発明によれば、β<αの条件において、第6式の関係式を満足するようにロトマンレンズの形状を決定することで、β=αの限定条件で設計したロトマンレンズの基本設計寸法Gに対して、β/α倍の大きさの小型のロトマンレンズが設計できる。これにより、ロトマンレンズの大きさに比例した損失の増加を抑制できると共に、アンテナ素子(41),(42),・・・(4n)の数が増えてアレーアンテナ(5)の開口2Lnが大きくなった場合は、入力端子(21)とS2との距離Fは、2Lnに比例して大きくなっても、ロトマンレンズの大きさを、β=αの限定条件で設計したロトマンレンズの基本設計寸法Gに対して、β/α倍に抑制した小型のロトマンレンズが設計でき、空間でのアレーアンテナ(5)のビーム形成方向βのマルチビームアンテナ装置を構成できる。
【0028】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置では、図2に示すように、ロトマンレンズをトリプレート構成とすることにより、複雑な入力端子部や出力端子部のテーパ形状や位相調整の伝送線路部7を、エッチング等の技術で容易に構成することができ、第1の地導体(53)に設けた第1の接続孔(59)を介して、アレーアンテナ(5)の第1の接続部(58)と伝送線路(7)の接続端子部(16)を電磁結合させることができる。さらに、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置では、アレーアンテナ(5)もトリプレート構成とすることにより、全ての部品の単純積層構成で低損失のマルチビームアンテナ装置が構成できる。つまり、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置におけるアレーアンテナは、図2に示されたスロット板(50)とアンテナ基板(52)の給電線路(57)と第1の地導体(53)とをそれぞれ誘電体(71a、71b)を介して重ね合わせることによって、トリプレート構成のアレーアンテナを形成し、この構成を採用することによって、全ての部品の単純積層構成で低損失のマルチビームアンテナ装置が構成できる。
【0029】
なお、ここまでの説明は、一般的な中空の平行平板ロトマンレンズや、ロトマンレンズ基板(12)をほぼ空気と同じ低εの誘電体で支持したトリプレート構成の場合を前提に説明したが、比誘電率εrの誘電体による平行平板やトリプレート構成の場合、本発明の第6式を、次式として扱えば良いことは、自明である。
【0030】

【0031】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において、図3に示すアンテナ基板(52)に形成された放射素子(56)は、図2に示された第1の地導体(53)とスロット板(50)に形成されたスロット(54)によって、アンテナ素子として機能し、所望の周波数の電波を放射することができる。また、このアンテナ素子を複数配置することで、全体としてアレーアンテナ(5)を形成している。また、図2に示された第1の地導体(53)とロトマンレンズ基板(12)と第2の地導体(13)とによって、トリプレート構成のロトマンレンズを形成している。つまり、より具体的に説明すると、図2に示されるとおり、第1の地導体(53)とロトマンレンズ基板(12)の伝送線路部(7)と第2の地導体(13)とをそれぞれ誘電体(71a、71b)を介して重ね合わせることによって、トリプレート構成のロトマンレンズが形成されるものである。
【0032】
アンテナ基板(52)に形成された第1の接続部(58)は、第1の地導体(53)に形成された第1の接続孔(59)を介して、図4に示すロトマンレンズ基板(12)に形成された伝送線路(7)の接続端子部(16)と、電磁結合し、ロトマンレンズ(1)の出力端子の所望の励振電力が、アレーアンテナ(5)に伝達される。
【0033】
その際、アンテナ基板(52)の上下に配置される金属スペーサ(51a,51b)及びロトマンレンズ基板(12)の上下に配置された金属スペーサ(11a,11b)が、アンテナ基板(52)及びロトマンレンズ基板(12)を中空に保持し、かつ、前記アンテナ基板(52)に形成された第1の接続部(58)とロトマンレンズ基板(12)に形成された伝送線路(7)の接続端子部(16)の電磁結合部の周囲に金属壁を形成し、電力を周囲に漏洩させずに、効率よく伝達されることに寄与し、高周波でも低損失特性が実現できる。
【0034】
なお、金属スペーサ(51a,51b)の空隙部(55a,55b)及び金属スペーサ(11a,11b)の空隙部(14a,14b)は、アンテナ基板(52)及びロトマンレンズ基板(12)を安定に保持するため、誘電体(71a,71b)を充填しても良い。
【0035】
また、アンテナ装置の入力端子部(17)は、金属スペーサ(11a,11b)で周囲に金属壁を形成し、第2の地導体(13)に形成した第2の接続孔(15)を介して、電力を周囲に漏洩させずに、効率よく高周波回路に伝達されることに寄与し、高周波でも低損失特性が実現できる。
【0036】
なお、第1の接続孔(59)及び第2の接続孔(15)は、利用周波数帯に適した導波管開口とすることができる。
【0037】
また、各構成部品を積層構成するのみでよく、送受信電力が電磁結合によって伝達されるため、組立時の位置精度も、従来の組立精度ほど、高精度でなくともよい。
【0038】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において用いるアンテナ基板(52)及びロトマンレンズ基板(12)は、ポリイミドフィルムに銅箔を貼り合わせたフレキシブル基板を用い、不要な銅箔をエッチングで除去して放射素子(56)、給電線路(57)、第1の接続部(58)及びロトマンレンズ(1)、伝送線路(7)、伝送線路(7)の接続端子部(16)、アンテナ装置の入力端子部(17)を形成することが好ましい。
【0039】
また、フレキシブル基板は、フィルムを基材とし、その上に銅箔等の金属箔を張り合わせた基板の不要な銅箔(金属箔)をエッチング除去することにより複数の放射素子やそれらを接続する給電線路が形成される。また、フレキシブル基板には、ガラスクロスに樹脂を含浸させた薄い樹脂板に銅箔を張り合わせた銅張り積層板でも構成できる。フィルムとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレンポリプロピレンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリメチルペンテンなどのフィルムが挙げられ、フィルムと金属箔との積層には接着剤を用いてもよい。耐熱性、誘電特性と汎用性からポリイミドフィルムに銅箔を積層したフレキシブル基板が好ましい。誘電特性からフッ素系フィルムが好ましく用いられる。
【0040】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において用いる地導体または金属スペーサには、金属板あるいはプラスチックにメッキした板を用いることができるが、特にアルミニウム板を用いれば、軽量で安価に製造でき好ましい。また、それらは、フィルムを基材とし、その上に銅箔を張り合わせたフレキシブル基板、さらにガラスクロスに樹脂を含浸させた薄い樹脂板に銅箔を張り合わせた銅張り積層板でも構成することができる。地導体に形成するスロットや結合口形成部は、機械プレスで打ち抜き加工するか、あるいはエッチングにより形成することができる。簡便性、生産性等から機械プレスでの打ち抜き加工が好ましい。
【0041】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において用いる基板支持誘電体(71a,71b)は、対空気比誘電率の小さい発泡体などを用いるのが好ましい。発泡体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系発泡体、ポリスチレン系発泡体、ポリウレタン系発泡体、ポリシリコーン系発泡体、ゴム系発泡体などが挙げられ、ポリオレフィン系発泡体が、対空気比誘電率がより小さいので好ましい。
【0042】
(実施例2)
次に、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における各部材の寸法等からみた実施例を、図2に沿って説明する。スロット板(50)、第1の地導体(53)、第2の地導体(13)、金属スペーサ(51a,51b)、金属スペーサ(11a,11b)は、厚さ0.3mmのアルミ板を用いた。また、基板支持誘電体(71a,71b)は、厚さ0.3mmで比誘電率約1.1の発泡ポリエチレンフォームを用いた。アンテナ基板(52)及びロトマンレンズ基板(12)は、ポリイミドフィルム(例えば、厚み25μm)に銅箔(例えば、厚み25μm)を貼り合わせたフレキシブル基板を用い、不要な銅箔をエッチングで除去して放射素子(56)、給電線路(57)、第1の接続部(58)及びロトマンレンズ(1)、伝送線路部(7)、伝送線路(7)の接続端子部(16)、入力端子部(17)を形成した。地導体とスロット板及び金属スペーサは、すべてアルミ板に機械プレスで打ち抜き加工したものを用いた。
【0043】
ここで、放射素子(41)は、周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.38倍となる1.5mm角の正方形とした。また、スロット板(50)に形成したスロット(54)は、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.58倍となる2.3mm角の正方形とし、第1の地導体(53)に形成した第1の接続孔(59)と第2の地導体(13)に形成した第2の接続孔(15)は、縦1.25mm×横2.53mmの導波管開口とした。図3に示すアンテナ基板(52)に形成された放射素子(56)と図2に示された第1の地導体(53)とスロット板(50)に形成されたスロット(54)と給電線路(57)とで形成されたアンテナ素子列を、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.77倍となる3.0mmピッチで24個配置することで、全体としてアンテナ開口2Lnが24×0.77λoのアレーアンテナ(5)を形成した。一辺長を所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.58倍となる2.3mmとした。
【0044】
さらに、図4に示すロトマンレンズ基板(12)に形成するロトマンレンズ(1)の大きさGを、第6式にてβ=α/2、すなわち、η=(1/2)・(Ln/F)<1の条件を満たすように0.568Ln<G<0.71Lnの範囲で、F=5λo、G=5.7λoとして、第1式〜第4式で求められた出力端子のx座標及びy座標と、伝送線路の電気長wとに基づいて24個の出力端子を有するロトマンレンズ(1)を設計した。ロトマンレンズ(1)の大きさGは、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約5.7倍、すなわち22.5mmとした。
【0045】
以上の各部材を図2に示すように順次重ねてマルチビームアンテナ装置を構成し、計測器を接続して特性を測定した結果、8個の各入力端子の反射損失は、−15dB以下で、図6に示したように8個の各入力端子に対応した利得指向性が得られ、表1に示すように入力ポートの角度αに対して、アレーアンテナ(5)のビーム方向βが、約半分の角度方向に形成できることが確認できた。このときまた、大きさG=22.5mmのロトマンレンズ(1)の挿入損失は、約2.5dBが得られた。
【表1】

【0046】
一方、β=αの限定条件、すなわち、η=Ln/F<1で、第5式の条件を満たすように1.137Ln<G<1.42Lnの範囲で設計した従来設計のロトマンレンズの大きさGが、少なくともG=1.137、Ln=10.5λoが必要であり、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約10.5倍、すなわち41.5mmとなり、このときのロトマンレンズ(1)の挿入損失は、約5dBとなった。
【0047】
以上、本実施例のマルチビームアンテナ装置は、従来設計で構成した時の損失を基準とした場合に比べて、相対利得で2.5dB以上改善され、良好な特性が実現できた。
【0048】
(実施例3)
さらに、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置では、図5に示すように、入力端子(521),(522),・・・(52m)の接続部を2分岐伝送線路として電力を分散供給することにより、各入力端子からロトマンレンズ(1)内部に給電された電力を出力端子(531),(532),・・・(53n)の中央部に集中させて、ロトマンレンズ(1)の出力端子が配置される部分曲線の出力端子(531),(532),・・・(53n)の無い領域への電力の拡散を抑制して、不要な内部反射成分を低減することで、アレーアンテナ(5)の放射ビームのサイドローブ特性の悪化を抑制することができる。また、特に入力端子(521)や(52m)のように入力端子が配置される部分曲線の端部から入力する場合、接続部の2分岐伝送線路に位相差を設けて電力供給することにより、ロトマンレンズ(1)内部に給電された電力の伝播方向性を制御することができ、出力端子(531),(532),・・・(53n)の中央部に集中させて、アレーアンテナ(5)の放射ビームのサイドローブ特性の悪化を抑制することができる。
なお、かかる効果は、図6に示した効果を何ら損なうものではなく、むしろ相乗するものである。
【0049】
(本発明の目的及び効果、及び従来技術の目的及び効果についての補足説明)
背景技術の欄で述べたように、ロトマンの考え方に基づくレンズ設計は、通常、β=αの条件のもとで設計される。また、本発明の特徴は、β<αの条件において、既に述べたロトマンの変形手法を用いて従来のロトマンレンズ設計に基づいたレンズ設計を可能としたことである。すなわち、β<αの条件においては、β(アンテナ素子側の放射角度)がα(ロトマンレンズ側のビーム角度)よりも小さいため、本発明は、狭角度に対して高い解像度を必要とする場合に特に有効である。例えば、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置を車両に搭載した場合、車両正面に対して垂直な向きを0度として左右15度程度までの範囲(つまり、左右トータルで30度程度までの開き角を有する)に対して鋭敏な検知能力を発揮できるので好適である。
すなわち、本発明にかかるアンテナ装置は、車載用アンテナ装置等に求められる理想的な電力分布及び位相分布を得ることができる。
【0050】
一方、本発明のようにβ<αの条件ではなく、β>αの条件のもとでレンズ設計を実施した従来技術(特許文献3)があるので念のために触れておく。特許文献3に記載された発明は、
個々に励振でき、電力を供給する複数個の入力素子と上記電力を取り出す複数個の出力素子を備えた平行平板と、
複数個の素子アンテナで構成され、空間に電波を放射するアレーアンテナとを結ぶ伝送線路と
からなり、
入力素子が配列される曲線上の三つの焦点をもとに、上記出力素子が配列される曲線および伝送線路の長さを決定し、
所定の入力素子を励振したときその入力素子に対応した角度方向にビームが放射されるようにしたアンテナ装置において、上記入力素子が配列される曲線の形状が円の一部でない
ことを特徴とするアンテナ装置、
である。
【0051】
上記からわかるように、β>αの条件(特許文献3の図2を参照)のもとでレンズ設計を実施したことにより、入力素子配列の曲線の形状が円の一部でなくなっており、ロトマンによる設計方法とは全く別の設計に基づくものであることがわかる。
そして、特許文献3に記載の発明について考察するに、β(アンテナ素子側の放射角度)をα(ロトマンレンズ側のビーム角度)よりも大きくする必要がある用途としては、例えば広角な範囲を少ない位相誤差で検知する軍事用レーダなどが考えられる。
【0052】
したがって、本発明にかかるアンテナ装置と、特許文献3に記載されたアンテナ装置とは、両者の構成(レンズ形状)及び解決すべき課題が全く異なるものである。
【0053】
また、既に出願人により出願された特許文献4についても言及しておく。特許文献4には、アンテナの薄型化、組立工程の簡略化に優れ、アンテナを小型化できるビームスキャン用平面アンテナが記載されており、システムとの接続部104とロトマンレンズ部103とビームスキャンアンテナ部102とをこの順に積層した平面アンテナであって、第3の地導体13、第4の誘電体34、ロトマンレンズパターン8と第2の接続部52と第3の接続部92とを有するロトマンレンズ基板62、第3の誘電体33、第2の地導体12、第2の誘電体32、放射素子50と給電線路40と第1の接続部51を組とするアンテナ群を複数形成した給電基板61、第1の誘電体31、第1の地導体11の順に積層して構成されたことを特徴とする。
このビームスキャン用平面アンテナにおけるロトマンレンズの設計にあたっては、従来どおりα=βの条件のものでの設計が行われていたが、同文献の図2の指向特性からも読み取れるように、同文献の平面アンテナの有する素子数は、本発明における素子数よりも少ないものであった。したがって、アンテナ素子の数が増えてアレーアンテナの開口2Lnが大きくなる場合は、入力端子とS2との距離Fもアレーアンテナの開口2Lnに比例して大きくする必要があり、結果としてロトマンレンズの大きさGが大きくなってしまうという課題を生じさせることとなっていたことはすでに述べたとおりである。そこで、本発明はかかる課題を解決し、損失増加を抑制するようなロトマンレンズ設計を可能にし、利得向上を可能とする低損失マルチビームアンテナ装置を提供することができたものである。
【0054】
(ロトマンレンズ設計フローから見た本発明の特徴)
本発明の特徴は、β<αの条件においてロトマンの変形手法を用いて従来のロトマンレンズ設計に基づいたレンズ設計を可能としたことであるが、本発明にかかるロトマンの変形手法を図9A及び図9Bに示すフローチャートに基づいて更に詳細に説明する。
【0055】
図9Aは、従来のロトマンの手法に基づいた設計フローである。S901において設計フローがスタートすると、S902に進み、アンテナ素子列の数nを設定する。次にS903に進み、n個のアンテナ素子列の配置間隔Pを設定する。ここで、アンテナ開口2Ln=(n−1)Pとなる。次にS904に進み、ビーム数及びビームステップ角を設定する。ここで、ビーム数とは、入力端子の数である。また、ビームステップ角とは、各入力端子No.に対するアンテナビーム角度β間の角度差である(例えば、表1において、ビームステップ角はおおむね4度前後になっている)。そして、S905に進み、b2−4ac=0となるF0を算出する。
【0056】
ここで、従来のロトマンの手法においては、α=βという条件のもとでの設計であるので、F0=Lnとなる。一方、FX=β・F0/αであるから、α>βといった本発明のような条件下では、FX<F0となることは明らかである。従って、α=βのときは、FXでは、η=Ln/F>1となる。このとき、式5のb2−4acは負となり、設計が破綻することを意味する。
【0057】
次に、S906において入力端子(21)とS2との距離Fを決定する。ここでは、F0<F<1.25F0の範囲に設定される。次に、S907に進み、レンズサイズGが決定される。ここでは、gF0<G<1.25gF0である。すなわち、形状ファクタg=G/Fを一般的な値1.136とした場合には、
1.136F0<G<1.4F0
となる。
【0058】
そして、S908において、素子列数nに対応するn個の出力端子座標(x,y)、及び各ポートの補正線路位相wが算出される。
【0059】
図9Bは、本発明にかかるロトマンの変形手法に基づいた設計フローである。図9Aとの相違は、S915においてαに対するβの比を設定可能とした点であるが、このとき、α>βとなるような比を設定することができる。この設定は、第6式に示されるように、ηに対する係数として使用される。すなわち、

の関係式を満たすようにロトマンレンズの形状が決定されるように各設計パラメータが制御され、各端子座標(X,Y)が算出される。
【0060】
以上をふまえて、本発明におけるロトマンの変形手法に基づいた設計フローは、次のとおりとなる。まず、S911において設計フローがスタートすると、S912に進み、アンテナ素子列の数nを設定する。次にS913に進み、n個のアンテナ素子列の配置間隔Pを設定する。次にS914に進み、ビーム数及びビームステップ角を設定する。次にS915においては、上述のとおりα>βとなるようなαに対するβの比を設定できる。そして、S916に進み、b2−4ac=0となるFXを算出する。ここで、α>βのとき、FX=β・Ln/αである。S917において入力端子(21)とS2との距離Fが決定される。ここでは、FX<F<1.25FXの範囲に設定される。次に、S918に進み、レンズサイズGが決定される。ここでは、gFX<G<1.25gFXである。すなわち、形状ファクタg=G/Fを一般的な値1.136とした場合には、
1.136FX<G<1.4FX
となる。
【0061】
そして、S919において、素子列数nに対応するn個の出力端子座標(x,y)、及び各ポートの補正線路位相wが算出される。
【0062】
(実施例1及び2に対する補足説明)
上記式6で示した条件

のもとで、具体的数値をともなった実施例1及び2を既にしめしたが、ここで若干の補足をしておく。好適な実施例のもとでは、β/αの数値範囲は、おおむね
0.33≦β/α<1
であり、ηが上限の場合、標準の場合、下限の場合を、それぞれ次のとおり想定している。
(1)ηが上限の場合
η=(β/α)・(Ln/F)≒1となる場合であり、このときFは最小(Fの選択範囲のうちで最小値)となる。
(2)ηが標準の場合
η=(β/α)・(Ln/F)=0.88となる場合であり、このときFは最適(Fの選択範囲のうちで最適値)となる。
(3)ηが下限の場合
η=(β/α)・(Ln/F)≦0.5〜0.7となる場合であり、このときFは最大(Fの選択範囲のうちで最大値)となる。
そして、ηが上限の場合、標準の場合、下限の場合におけるFの実測値は波長λの何倍となるか、表にまとめると次の表2のとおりとなる。
【表2】

従来例においては、η=1、α=βであり、従来のF値は最小であってその長さが9λであることを考慮すると、上の表2のいずれの場合においても従来の波長と同じか、あるいは小さい値が得られていることがわかる。なお、上の表2のうちηが標準の場合の5λとなっているところが、上述の実施例2に対応する数値結果である。
なお、2Ln(=(n−1)P)は、アレーアンテナ(5)の開口長であるが、アンテナ基板(52)に設けられる放射素子(56)の一方の端の列の素子(中心部)と他方の端の列の素子(中心部)との距離を示す。
角度βは、放射素子(56)からスロット板側に引いた垂線と放射素子からビームが放射される方向とのなす角度を示す。
本発明において、設定した入力端子のX、Y座標及び式5、式6等に基づいて算出した出力端子のX、Y座標からロトマンレンズを設計する際、例えば、図5において入力端子の接続部を2分岐伝送線路とする場合には、2分岐された先にある2つの山型入力端子接合点が設定位置となり、分岐しない場合には、接続先の山型入力端子の開口中央部が設定位置となる。なお、この設定位置に対する考え方は従来からなされてきたものであり、出力端子についても同様に適用される。そして、後述の表3においても同様に適用される。
また、本発明におけるGが従来技術におけるGと比べてどの程度小さくできるかについて、説明すると、従来技術におけるG0に対して本発明におけるG1は、
少なくとも、
0.25G0<G1<0.80G0
の範囲での実現が技術的には可能であり、表2に基づけば、
0.33G0<G1<0.67G0
の範囲になっていることが既出の式によって導出できるであろう。さらに、
0.33G0<G1<0.5G0
の範囲での実施において、非常に良好な結果が得られていることを述べておく。
【0063】
(実施例3に対する補足説明)
同様に、実施例3に対応する実測結果を次の表3にまとめる。
【表3】

従来例においては、η=1、α=βであり、従来のF値は最小であってその長さが6λであることを考慮すると、上の表3のいずれの場合においても従来の波長と同じか、あるいは小さい値が得られていることがわかる。
【0064】
(図2に対する補足説明)
最後に、図2に示した本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成について、補足的に説明しておく。すでに図2においても明らかであるが、スロット板50の拡大図を図10(A)に、アンテナ基板52の拡大図を図10(B)にそれぞれ示す。図10において、スロット板50には複数のスロット54が縦横に設けられている。各スロット54は、アンテナ基板52上の各放射素子56の配置と略一致するように配置されている。そして、スロット板50及びアンテナ基板52には重ね合わせたときに一致する位置にそれぞれリベット孔101が設けられており、後述する他の基板等とともに一体化するようリベット締めされる。
また、第1の地導体53を図11(A)に、ロトマンレンズ基板を図11(B)に、第2の地導体を図11(C)にそれぞれ示す。図11において、第1の地導体53上には、第1の接続孔59とリベット孔101とが設けられている。また、第2の地導体13上には、第2の接続孔15とリベット孔101が設けられている。リベット孔は積層された基板等を一体的にリベット締めするためのものである。
また、金属スペーサ51a、51bを図12(A)に、金属スペーサ11a、11bを図12(B)に示す。それぞれのスペーサ内側には、空隙部55a、55b、14a、14bが設けられるか、あるいは誘電体71a、71bが充填されている。スペーサ周辺部に設けられたリベット孔101は、重ねあわされたときに他の基板等に設けられたリベット孔と一致するように設けられ、積層された基板等を一体的にリベット締めするためのものである。
【符号の説明】
【0065】
1 ロトマンレンズ
5 アレーアンテナ
7 伝送線路部
8 ロトマンレンズの中心線
9 入力端子の位置を表す補助線
10 アレーアンテナの正面方向から見たビームの方向
11a、11b 金属スペーサ
12 ロトマンレンズ基板
13 第2の地導体
14a、14b 空隙部
15 第2の接続孔
16 伝送線路の接続端子部
17 マルチビームアンテナ装置の入力端子部
21、22、・・・2m ロトマンレンズ入力端子
31、32、・・・3n ロトマンレンズ出力端子
41、42、・・・4n アンテナ素子
50 スロット板
51a、51b 金属スペーサ
52 アンテナ基板
53 第1の地導体
54 スロット
55a、55b 空隙部
56 放射素子
57 給電線路
58 第1の接続部
59 第1の接続孔
61、61、・・・6n 出力端子とアンテナ素子とを結ぶ伝送線路
71a、71b 基板支持誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるマルチビームアンテナ装置において、
空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αであり、さらに
Fを入力端子(21)とS2との距離とし、2Lnをアレーアンテナの開口長とし、S3を、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離とし、2Lnを前記アレーアンテナの開口長としたき、

の関係式を満たし、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくするよう前記ロトマンレンズの形状を決定したことを特徴とするマルチビームアンテナ装置。
【請求項2】
前記ロトマンレンズをトリプレートで構成することを特徴とする請求項1に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項3】
前記アレーアンテナをトリプレートで構成することを特徴とする請求項2に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項4】
前記複数の入力端子部を2分岐伝送線路として電力を分散供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項5】
電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるマルチビームアンテナ装置において、
空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αであり、S3を、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離としたとき、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくするよう前記ロトマンレンズの形状を決定したことを特徴とするマルチビームアンテナ装置。
【請求項6】
前記ロトマンレンズをトリプレートで構成することを特徴とする請求項5に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項7】
前記アレーアンテナをトリプレートで構成することを特徴とする請求項6に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項8】
前記複数の入力端子部を2分岐伝送線路として電力を分散供給することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項9】
電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるマルチビームアンテナ装置であって、前記ロトマンレンズは、
前記入力端子または前記出力端子の素子列数nを決定する段階と、
前記素子列の配置間隔Pを決定する段階と、
前記ビームのビーム数及びビームステップ角を決定する段階と、
空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αとなるようαに対するβの比を設定する段階と、
2−4ac=0となるFxを算出する段階と、
F値を決定する段階と、
G値を決定する段階と、
前記素子数nに対応するN個の出力端子座標(x,y)、及び各出力端子の補正線路位相wを算出する段階と
からなる設計ステップによって設計されたことにより、
S3を、入力端子(21),(22),・・・(2m)の配置される部分曲線と中心線(8)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離としたとき、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくなるよう前記ロトマンレンズの形状が決定されたことを特徴とするマルチビームアンテナ装置。
ただし、






であり、

である。
【請求項10】
電力を供給する複数の入力端子(21),(22),・・・(2m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(31),(32),・・・(3n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ伝送線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記伝送線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるマルチビームアンテナ装置において、
空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(31),(32),・・・(3n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(8)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(8)とがなす角度をαとしたとき、β<αであることを特徴とする車載用マルチビームアンテナ装置。
【請求項11】
前記ロトマンレンズをトリプレートで構成することを特徴とする請求項10に記載の車載用マルチビームアンテナ装置。
【請求項12】
前記アレーアンテナをトリプレートで構成することを特徴とする請求項11に記載の車載用マルチビームアンテナ装置。
【請求項13】
前記複数の入力端子部を2分岐伝送線路として電力を分散供給することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載のマルチビームアンテナ装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−154522(P2010−154522A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271889(P2009−271889)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】