説明

メタリック調樹脂成型品、その製造方法及び金型

【課題】成型品の意匠面に矩形の溝部があるものであっても、当該溝部による意匠性と、塗装と同様の高いメタリック感による意匠性とを両立させる。
【解決手段】熱可塑性樹脂100重量部に対して、光輝材を0.1から4重量部添加し、アスペクト比をYとし、意匠面での矩形を含む溝部の深さをXd [mm] としたとき、Y ≧ 30とXd ≧ 0.3と Y ≦ -100 Xd + 80との条件を満たす範囲内とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成型品を射出成形する技術分野に関連し、特に、外観不良を防止しつつ光輝材によるメタリック感等の意匠性に優れたメタリック調樹脂成型品、その製造方法及び金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マニュアル・トランスミッション(MT)の四輪車は、MTの歯車の組み合わせをドライバーが選択するためのシフトレバーを有する。シフトレバーは、車室内のフロアーや、インパネ(計器盤)や、ハンドルを支持するコラムなどに装着される。そして、シフトレバーは、ドライバーが握るシフトノブを備える。シフトノブは、シフトガーニッシュやシフトノブガーニッシュ等といわれる飾り・装飾(ガーニッシュ)を有する。シフトガーニッシュは、MTのギア・ポジション等を示す文字や直線と、色と、意匠性の高いメタリック調の光輝感とを有する。
【0003】
この四輪車のMTシフトガーニッシュは、運転席の印象を決定づける要素であり、太陽光及び室内光の両者での鑑賞対象となるため、シルバーメタリック色のような非常に意匠性の高い光輝感のある塗装部品が多用されている。しかしながら、塗装により発生する揮発性有機化合物(VOC)には環境負荷があり、近年、排出が規制されている(2004年改正大気汚染防止法等)。このため、シフトガーニッシュについても無塗装化が要請されている。
【0004】
無塗装化の手法として、顔料や染料などの着色剤で樹脂材料を着色し、射出成形する方法がある。光輝感の高いシルバーメタリック色に着色するためには、樹脂材料にアルミ粉やマイカ粉などの光輝材を添加する手法が一般的であり、特に、意匠性が高いメタリック感やパール感を得るためには、光輝材を添加する必要がある。
【0005】
しかし、これらの光輝材を添加した樹脂材料は、成形時、金型内での樹脂の衝突や乱流などの発生により流動性が悪化し、光輝材が配向し、「ウエルドライン」や「フローマーク」などの外観不具合が発生し易いことが知られている。
【0006】
特許文献1には、最大外径10 [μm] から1 [mm] の光輝材0.1から20.0重量部を光輝材粒子平均間隔Dとウエルド巾HとがD≧Hとなるように、熱可塑性樹脂100重量部に混合する手法が開示されている。しかしながら、特許文献1記載の手法では、ウエルドラインを抑制させることはできるが、完全に消失させることはできない。また、最大外径10 [μm] 未満の光輝材には適用することができない。
【0007】
特許文献2には、ウエルド消去剤と呼ばれる酸化チタン、酸化鉛、酸化亜鉛などを樹脂に添加することにより、ウエルドラインの消失を図る手法が開示されている。しかしながら、特許文献2の手法では、コストアップがあり、色合わせが難しくなる、という不都合があった。また、特許文献2には、メタリック調やパール調などの高級色調が得られると記述されているが、ウエルド消去剤を添加すると、実際には、メタリック感は大きく低下する。
【0008】
特許文献3には、成型品を塗装することなく、メタリック調の成型品を得ることができ、さらに、ウエルドラインが発生しない外観的に優れたポリアミド樹脂成型品を得ることを目的として、アスペクト比3から15で平均粒子径10から300[μm]の金属粉末を0.05から10重量部を添加し、さらに、ウエルドラインを抑制するポリアミド樹脂以外の反応基を有する熱可塑性樹脂(例えばポリエチレンやポリプロピレン)を一定重量部加える手法が開示されている。しかしながら、特許文献3には、成型品に矩形の溝部がある場合や、メタリック感の意匠性の程度については、何ら開示されていない。
【0009】
【特許文献1】特公平4-27932号公報
【特許文献2】特開平8-239505号公報
【特許文献3】特開2000-86889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
[技術的課題1]上記従来例では、自動車部品のガーニッシュなど意匠面の形状が複雑でありながら高い意匠性が求められる成型品について、塗装と同様なメタリック感及び高い意匠性を確保することが難しい、という不都合があった。
[技術的課題2]さらに、上記従来例では、意匠面に矩形の溝部がある樹脂成型品について高い意匠性を射出成形により得ることができない、という不都合があった。
例えば、MTシフトガーニッシュ等の意匠面に矩形を含む溝部があると、ウエルドラインやフローマーク等の外観不具合が発生し易く、樹脂成形では塗装のような高級感の高いシルバーメタリック調による意匠性の高さを維持することができない、という不都合があった。
すなわち、シルバーメタリック調とするためには、塗装をせざるを得なかった。無塗装化をしようとすると、光輝材が添加されていない黒色などに限定され、この場合、意匠性が低下してしまう、という不都合があった。
【0011】
[発明の目的] 本発明は、成型品の意匠面に矩形の溝部があるものであっても、当該溝部による意匠性と、塗装と同様の高いメタリック感による意匠性とを両立させることのできるメタリック調樹脂成型品、その製造方法及び金型を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[着眼点]本発明の複数の発明者は、様々な思考、研究及び実験を行い、溝部と外観不具合との関係を究明したところ、光輝材のアスペクト比の範囲と溝部深さの範囲とに条件をつけることで、溝部の意匠性とメタリック感による意匠性とを両立させ、無塗装化が可能となるのではないか、との着想に至った。
【0013】
[課題解決手段1]そこで、実施例1に対応する第1群の本発明は、メタリック調樹脂成型品であって、熱可塑性樹脂100重量部に対して、アスペクト比30から50の光輝材を0.1から4重量部添加し、意匠面での矩形を含む溝部深さの下限を0.3 [mm] とし、深さの上限を0.5 [mm]とした、という構成を採っている。
これにより、上記技術的課題を解決した。
【0014】
[課題解決手段2]実施例2に対応する第2群の本発明は、複数のプレートを重ね合わせることで、意匠面での矩形を含む溝部を有する成型品の形状に応じたキャビティーと、当該キャビティーに樹脂を流し込むゲートとを形成する工程と、熱可塑性樹脂100重量部に対して光輝材を0.1から4重量部有する樹脂を前記ゲートを介して前記キャビティーに射出する工程と、前記樹脂を硬化させる工程と、前記プレートを分離させて樹脂成型品を取り出す工程とを備えている。
さらに、前記射出する工程が、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲にある前記ゲートから前記樹脂を流し込む、という構成を採っている。
これにより、上記技術的課題を解決した。
【0015】
[課題解決手段3]実施例3に対応する第3群の本発明は、意匠面での矩形を含む溝部を有する成型品の形状に応じたキャビティーと、このキャビティーに光輝材を含む樹脂を供給するゲートと、流路を介して樹脂を前記ゲートに射出するスプルーと、前記キャビティー52を形成する複数のプレートとを備えている。さらに、前記ゲート26を、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲に設けた、という構成を採っている。
これにより、上記技術的課題を解決した。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、本明細書の記載及び図面を考慮して各請求項記載の用語の意義を解釈し、各請求項に係る発明を認定すると、下記のように作用し、上記背景技術等との関連において次の有利な効果を奏する。
【0017】
[発明の作用効果1] 課題解決手段1の樹脂成型品は、光輝材のアスペクト比Yを30から50と高くしつつ、溝部深さを絶対的に条件付けたため、光輝材による高いメタリック感を発揮させ、かつ、ウエルドラインやフローマークという外観不具合の発生を防止することができる。
これにより、自動車部品の各種ガーニッシュなど高い意匠性が求められる部品について、塗装を不要とすることができる。
【0018】
[発明の作用効果2] 課題解決手段2の製造方法は、溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲にある前記ゲートから前記樹脂を流し込む。
このゲート角度で光輝材を含む樹脂を供給すると、他の角度ではウエルドラインやフローマーク等の外観不具合が発生する場合であっても、この外観不具合の程度を低下させ、または防止することができる。
【0019】
[発明の作用効果3] 課題解決手段3の金型は、ゲート26を、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲に設けた。このため、課題解決手段2と同様に、このゲート角度で光輝材を含む樹脂を供給すると、他の角度ではウエルドラインやフローマーク等の外観不具合が発生する場合であっても、この外観不具合の程度を低下させ、または防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明を実施するための最良の形態として、3つの実施例を開示する。実施例1はメタリック調樹脂成型品11であり、実施例2は図15等に示すメタリック調樹脂成型品11の製造方法であり、実施例3は図16等に示すメタリック調樹脂成型品用の金型である。実施例1から3までを含めて実施形態という。
【0021】
本実施形態では、非常に高いメタリック感と、非常に高い意匠性とを得るために、従前使用されていないアスペクト比Yの光輝材10について、ウエルドライン30及びフローマーク32が発生しやすい状態にて実験をした(図6、表1及び表2)。さらに、意匠面12にて矩形となる溝部14を有する樹脂成型品11にて成形材料を工夫してウエルドライン30及びフローマーク32の発生状況を評価した(図10、表3及び表4)。その結果、次の要素について、それぞれの範囲とすると、高い意匠性又は非常に高い意匠性を得ることができる。
【0022】
<メタリック調樹脂:条件1>
本実施形態では、高い意匠性を得るために、光輝材10のアスペクト比Yを、30から50とする。非常に高い意匠性を得るには、アスペクト比Yを40から50とすることが好ましい。
アスペクト比Yを高くするとウエルドライン30やフローマーク32など樹脂の流動性に起因する外観不具合が生じる。本実施形態では、意匠面12にて矩形となる成型品の溝部深さXdを、溝部14による意匠の視認性の下限となる0.3 [mm] から0.5 [mm] とする。溝部14である矩形の長辺18方向の長さによっては、0.3 [mm] から0.4 [mm] とすることが好ましい。
光輝材10の添加は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.1から4.0重量部とする。この範囲内では、強度(衝撃強さ)に支障はない(後述表1)。不透明の熱可塑性樹脂(例えば、AES樹脂)の場合、メタリック感との関係では2.0から4.0重量部とすることが好ましいが、透明な樹脂(PMMA樹脂やPC樹脂)では0.1から0.5重量部の間でもメタリック感を確保できる。また、非常に高い意匠性を得るためには1.5重量部から4.0重量部とすることが好ましい。後述表3及び4では2.0重量部とした。
平均粒子径よりもアスペクト比Yがメタリック感に寄与するが、本実施形態では平均粒子径5 [μm] から40 [μm]の範囲とした。5 [μm]であってもアスペクト比Yが高ければ非常に高いメタリック感を得ることができる。一方、平均粒子径を40 [μm]としてもアスペクト比Yを10とするとメタリック感がなくプラスチック感が非常に強い。
【0023】
上記のように、本実施形態のメタリック調樹脂成型品11は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、アスペクト比Yが30から50の光輝材10を0.1から4重量部添加し、意匠面12での矩形を含む溝部深さXdの下限を0.3 [mm] とした(条件1)。
図1を参照すると、条件1は、縦軸のアスペクト比Yと、横軸の溝部深さXdとの関係を、図中点ABCDの範囲とするものである。
【0024】
メタリック調は、メタリック感をもたらす素材の性質であり、意匠面12に照射される自然光又は人工光の面及び立体での反射により人間の視覚を刺激する性質である。メタリック調は、光源色(例えばRGB)で特定することも、反射色(マンセルやCMYK)で特定することもできない。少なくとも一定面積での反射の程度とその乱雑さによる。このため、メタリック調の有無及び程度については、物理的な測定ではなく、人間の視覚による測定をする。
【0025】
塗装の場合には、マンセル表色系やCMYK表色系で特定される反射色と、反射の輝度及び光源位置に応じた影の出具合の変化について非常に意匠性を高くすることができる。一方、樹脂成型品の場合には、色材を添加することで一定の反射色とすることはできるが、上述のように、メタリック調とし、さらに意匠性を高めることは困難であった。
【0026】
光輝材10は、アルミ粉等の金属粉や、マイカ粉(雲母)等塗装に用いられる鉱物等の物質や、粉砕ガラス等に金属蒸着した物等を使用することができる。実施例では、アルミ粉を使用する。光輝材10の形状は、本発明では、球や正多面体ではなく、図2に示すアスペクト比Y=a/bを有する。
【0027】
熱可塑性樹脂は、汎用樹脂や汎用エンジニアリングプラスチックを使用することができる。汎用樹脂としては、PMMA樹脂(メタクリル樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを主成分とする)、ABS樹脂のうちAES樹脂(ブタジエンに代えてエチレン系ゴムを使用)などがある。汎用エンジニアリングプラスチックとしては、PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)、PA樹脂(ポリアミド樹脂)などがある。熱可塑性樹脂というときには、これらの樹脂と、目的とする性質や着色のために添加する物質を含む。なお、本実施形態及び実施例では、ウエルド消去剤は使用しない。
【0028】
図3に、樹脂成型品11の一部の断面斜視図を示す。樹脂成型品11は、意匠面12にて短辺16と長辺18とからなる矩形を含む溝部14を有している。
意匠面12は、樹脂成型品の外観となる表面であり、平面又は曲面である。意匠面12の形状は、射出成形の金型のキャビティー52の形状に対応する。意匠面12での矩形は、意匠面12である平面上又は曲面上での長方形である。
【0029】
矩形を含む溝部14は、意匠面12での樹脂成型品の凹部であり、凹部と意匠面12とが接する平面又は曲面での形状に矩形を含む。この矩形となる長方形の端部に曲率があっても、全体の形状として矩形を含むため、矩形を含む溝部14となる。
【0030】
溝部深さXdは、意匠面12の法線で樹脂成型品の内側に向かう方向での意匠面12から凹部の底面までの長さである。溝部深さXdは、0.5 [mm] 以内で0.3 [mm] 以上とする。溝部14の断面形状は、図3に示す矩形としても良いし、図4に示す台形又は楕円の一部としても良い。
【0031】
・条件1の作用効果
図5を参照すると、溝部14の溝部深さXdが長い場合には、光輝材10を含む樹脂の流れ20と溝部14の断面形状との関係で、図5の符号24で示す領域にて光輝材10が配向し易く、光輝材10の向きがそろってしまい反射の具合がよろしくなく、外観不具合が発生し易くなってしまう。また、この領域24では、フローマーク32が発生し易い。この性質は、溝部14の長辺18が長いほど顕著となる。そして、高い意匠性を発揮させる注目されるべき溝部14の近傍にて外観不具合が発生すると、高い意匠性を確保することができなくなってしまう。すなわち、溝部14による表現も光輝材10によるメタリック感の表現もどちらも達成しない。すると、結局、意匠性を得るには塗装によるしかなくなる。
しかし、上述したように条件1では、光輝材10のアスペクト比Yを30から50と高くしつつ、溝部深さXdを条件付けたため、光輝材10による高いメタリック感を発揮させ、溝部14近傍の配向性による外観不具合を防止することができる。これにより、自動車部品の各種ガーニッシュなど高い意匠性が求められる部品についても、塗装を不要とすることができる。
【0032】
<メタリック調樹脂:条件2>
条件2及び3は、アスペクト比Yと溝部深さXdとの関係について、条件1をより具体化したものである。
本実施形態の条件2は、アスペクト比をYとし、意匠面12での矩形を含む溝部深さをXd [mm] としたとき、アスペクト比Yと溝部深さXd [mm] とを次式1又は2の条件を満たす範囲内としたものである。
【0033】
Y ≧ 30; Xd ≧ 0.3; Y ≦ −100Xd + 80 (式1)
【0034】
再度図1を参照すると、条件2の意匠面12の溝深さXdと光輝材10のアスペクト比Yとの範囲は、図中点ACDを結んだ三角形の範囲である。この条件2は、条件1の範囲をXdの一次式で区切り、例えばアスペクト比Y=50で溝深さ0.5 [mm] の組み合わせ等の点ABCを頂点とする三角形の範囲を除外したものである。この条件2では、矩形を含む溝部14と当該溝部14の長辺18より短く他の意匠のための溝部(他溝部15という。図10参照)とがあるような複雑な成型品であっても、高い意匠性を確保しつつ樹脂の流動性による外観不具合を防止することができる。
【0035】
式(1)は、Xd=0.5のときにY=30であり、Xd=0.3のときにY=50であることから、Y=a Xd + b の連立方程式をたててa, bについて解くことで求められる。意匠面12に溝部14や他溝部15が多数あるような際に、外観不具合を安定して防止する観点からは、アスペクト比Yの上限を40としても良い。一方、溝深さの下限の0.3 [mm] は視認性により定まる値であるため、Xd = 0.3 [mm] の際にアスペクト比Yの上限は40となる。この連立方程式を解くと、式1に代えて次式2を得る。
【0036】
Y ≧ 30; Xd ≧ 0.3; Y ≦ −50Xd + 55 (式2)
【0037】
同様に、アスペクト比Yの上限を調整する際には、溝深さの下限と対応づけて連立方程式を解き式1及び式2に相当する式を導出すれば良い。
式1、式2及び当該導出する式を、アスペクト比関数という。アスペクト比関数は一次式である。
【0038】
・条件2の作用効果
溝部深さXdを上記式1又は式2により、アスペクト比Yに応じた長さとする条件2は、アスペクト比Yと溝部14の深さXdの一方が大きくなる際には他方を小さくする条件(アスペクト比関数)であるため、樹脂成型品11が、複数の溝部14が交差するような複雑な意匠面12や、意匠面12で矩形となる溝部14意外に文字やマーク等の他溝部15を有するような複雑な意匠面12を有していても、非常に高い意匠性を確保しつつ外観不具合の発生を防止することができる。これにより、複雑な意匠面12を持つガーニッシュであっても、塗装を不要とすることができる。
【0039】
<メタリック調樹脂:条件3>
本実施形態の条件3は、光輝剤10の平均粒子径を 5 [μm] から20 [μm] としたものである。
【0040】
すなわち、条件3は、光輝剤10の平均粒子径を最適化するものである。下限を5 [μm] としたのは、この平均粒子径よりも小さい粒子径の光輝剤10を使用すると、外観不具合が発生しやすいためである。すなわち、例えば1 [μm] の光輝剤10を同一重量部添加すると、5 [μm] の場合と比較してメタリック調が同程度であるにもかかわらず、粒子数が増加することで、外観不具合が目立ちやすくなる。
【0041】
また、平均粒子径の上限を 20 [μm] としたのは、この平均粒子径でアスペクト比30程度を得ることができることによる。すなわち、平均粒子径27 [μm]とすると、アスペクト比が低くなるためか、メタリック感が低下する。すなわち、アスペクト比と無関係に平均粒子径のみを大きくしても、メタリック感の向上は得られない。
【0042】
・条件3の作用効果
条件3では、平均粒子径を5 [μm] から20 [μm] としたことで、平均粒子径を比較的小さめとすることで低コストとしつつ、アスペクト比によるメタリック感を得ることができる。
【0043】
上述したように本実施形態によると、アスペクト比Yが約30から50の範囲の光輝材10を添加した樹脂材料とし、意匠面12に溝部14がある部品を成形するとき、光輝材10のアスペクト比Yと溝深さが、図1に示す斜線の範囲内で成形することにより、部品の視認性を確保しながら、ウエルドライン30およびフローマーク32の発生を防止することができる。
【0044】
この樹脂材料の工夫により、本実施形態では、従来外観不具合の問題で量産化が困難であった光輝感の高い光輝材10(アスペクト比Yが30から50)を添加した樹脂材料を使用することができる。従って、塗装をしなくても塗装のようなメタリック感と高い意匠性とを得ることができる。これにより、塗装を不要とし、塗装にて発生する揮発性有機化合物(VOC)の発生及び排出を無くすことができる。また、塗装工程を不要とできるため、工程数削減およびコストダウンが可能となる。
【実施例1】
【0045】
次に、本実施形態の実施例1を開示する。実施例1では、上記条件1から3を詳細に説明し、加えて、条件4を適用する。まず、光輝材10の添加量(重量部)を検討し、次に、条件4となるゲート角度を説明する。この条件4は、実施例2(製造方法)及び実施例3(金型)の特徴ともなる。
【0046】
<光輝材添加量(重量部)>
図6に示すテストピース28を作製し、アスペクト比Yの大きい光輝材10を含む樹脂成型品を試作して、光輝材10の添加量と強度との関係を確認した。また、テストピース28には、ウエルドライン30の発生程度を評価できるように、穴部29を設けた。そして、ゲート26近傍にてフローマーク32を発生しやすくした。熱可塑性の基本樹脂として上記AES樹脂を選定し、着色剤を添加した。
光輝材10の添加量は、材料の耐衝撃性、着色の発色性、材料コストを考慮して選定する必要がある。光輝材10の添加量を増大させるにつれて、メタリック感は高くなり高級感のあるメタリック調を確保できるが、耐衝撃性が低下し、材料コストも高くなる。このため、より少ない添加量でメタリック感を得ることが望まれる。
【0047】
AES樹脂及びその他の材料100重量部に対して、効果的な光輝材の添加量を特定するために、光輝材10(平均粒子径5μm、アスペクト比Yを約30)を0.5、1.0、2.0、4.0重量部添加し、シャルピー衝撃強さ、メタリック感およびウエルドライン30やフローマーク32などの外観不具合の発生程度を評価した。シャルピー衝撃強さは、破壊をもたらすエネルギーで表され、その評価は、ISO 179(タイプAノッチISO179/1eA、23℃)に従い行った。この結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
シャルピー衝撃強さ(23℃)は、光輝材を添加することにより低下した。しかし、添加量0.5〜4重量部の範囲内で値に有意差は見られず、シフトガーニッシュで使用する上で支障はない範囲となった。メタリック感については、1.0重量部では確保できず、2.0重量部以上添加する必要があった。なお、AES樹脂は、基材が不透明のため、最低2.0重量部添加する必要があったが、PMMA樹脂やPC樹脂のような基材が透明の樹脂については、光輝材10の添加量が0.1〜0.5重量部でもメタリック感を確保できる。ウエルドライン30およびフローマーク32については、0.5〜4.0重量部の範囲では、発生の程度に差は見られなかった。以上の結果から、光輝材の添加量を2重量部に決定した。
【0050】
光輝材の添加量を2重量部として、他の要素を変化させた成形材料の詳細を表2に示す。基材樹脂はAES樹脂を選定し、平均粒子径およびアスペクト比Yが異なる4種類の光輝材を添加した。表2に示すように、アスペクト比Yが大きいほどメタリック感があり意匠性が高くなるが、ウエルドライン30やフローマーク32などの外観不具合が発生し易い。
【0051】
【表2】

【0052】
<条件4:ゲート角度>
次に、樹脂成型品の溝部14と、ゲート位置(角度)と、射出成形時の樹脂の流動性との関係を説明する。
図7は、意匠面12の溝の長辺方向にゲートを配置した一例を示す説明図である。溝部14は、短辺16と長辺18とを有する。長辺18方向に向けて樹脂を供給する角度にゲート26を配置すると、樹脂の流れは、溝部14の外側で速い樹脂流れ20Aとなり、溝部14の内側で遅い樹脂流れ20Bとなる。その結果、ゲート26型とは逆の長辺18の端部にて、流動している樹脂の衝突が発生し、この衝突位置が特定の領域内となりやすく、かつ、比較的速い速度での衝突となるため、ウエルドライン30が発生しやすい。
【0053】
図8は、意匠面12の溝の短辺方向にゲートを配置した一例を示す説明図である。この例では、短辺16方向に向けて樹脂を供給する角度にゲート26を配置すると、樹脂の流れは、同様に、溝部14の外側で速い樹脂流れ20Aとなり、溝部14の内側で遅い樹脂流れ20Bとなる。しかし、樹脂の衝突位置が特定の領域内とならず衝突速度も比較的遅いため、ウエルドライン30は図7との比較では発生しづらい。特に、溝部14の内部での樹脂流れの速さ低下時間が短く速さの差が小さく、そして、溝部14の外側で短辺16の近傍の速い樹脂流れ20Aが衝突するまでに、溝部14内の遅い樹脂流れ20Bとほぼ同様の速度となる配置と考えられ、樹脂の衝突の強さを弱める。図8に示す角度では、溝部深さXdによっては、図5に示す符号24でのフローマーク32等の外観不具合が発生し易い。
【0054】
次に、溝部の長辺18及び短辺16と樹脂流れ20との角度を調整するために、ゲート位置(ゲート角度)の最適化を試みる。ウエルドライン30は樹脂の衝突速度と衝突領域の大きさとを要因として発生する。これらから、樹脂流れを速度ベクトルとして検討し、溝部14の存在にかかわらず樹脂の流れ速度を均質化することが望ましい。また、溝部14の内部では樹脂流れが遅くなるという性質を加味するようにしてもよい。
【0055】
図9に溝部14とゲート位置の関係(ゲート角度)を示す。図9の白抜き矢印で示す3つのゲート26から樹脂を供給することとし、各ゲート位置を、溝部14の長辺18方向に対する角度として、90度、70度及び45度とした。この各ゲート角度での樹脂の流れの速度ベクトルは図9に示す通りとなる。第1ゲート26Aは、図8に示すゲートと同様の配置である。第3ゲート26Cは、長辺18方向に対して45度方向の角度を形成する。第2ゲート26Bは、第1ゲート26Aと第3ゲート26Cによる角度の範囲内で、やや第3ゲート26Cの角度側とした。この例では、第3ゲート位置26Cの45度では速度ベクトルが短くなるため、ウエルドライン30の発生を最も抑制できると考えられる。
【0056】
図10にMTシフトガーニッシュの一例を示す。MTシフトガーニッシュは、図10(A)に示すように、シフトレバーの操作位置と方向を示す図中縦方向及び横方向の矩形を含む溝部14、文字を表示するための他溝部15とを備えている。他溝部15は、ギアポジションを示す1から5までの数字と、後進のポジションを示すRとである。図10(B)は、図10(A)のAA断面図である。樹脂成型品11の引っ掛け部13は、アンダーカットとなるが、スライドコアで抜きだし、当該引っ掛け部13により当該ガーニッシュを装着する。
【0057】
図11に示すように、シフトガーニッシュには、図中縦方向の矩形を含む縦溝部14aと、横方向の横溝部14bと、文字を表す他溝部15とがある。縦溝部14aは、端部に曲率を有するが、長辺18及び短辺16からなる矩形を含むため溝部14である。横溝部14bは、端部が他の溝部と接合しているが、同様に矩形を含むため溝部14である。
【0058】
図12に示す例では、シフトガーニッシュの中心位置の図中上下方向の縦溝部14aを軸として、図9に示す3種類のゲート角度で射出できるように金型を作製した。図12に示すように、第1ゲート26Aは、横直線14bの延長線上の端部に設置し、第2ゲート26Bおよび第3ゲート26Cは、部品中心部に対して、第1ゲート26Aからそれぞれ22.5度、45度となる位置に設置した。
【0059】
表2に示す4種類の材料を用いて、各ゲート26から射出した場合におけるウエルドライン30およびフローマーク32の有無を評価した。溝深さXdは、視認性の下限と考える0.3 [mm] と視認性がより良好な0.4 [mm]、0.5 [mm] の3通りである。その結果を表3及び表4に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
成形材料[1](平均粒子径40μm、アスペクト比Y約10)で成形したときは、溝深さおよびゲート位置に関係なく、溝形状部からウエルドライン30およびフローマーク32は発生しなかった。しかし、外観は、メタリック感が全く無く、プラスチック感が非常に強かった。
【0063】
成形材料[2](平均粒子径5μm、アスペクト比Y約30)で成形したときは、溝深さ0.3 [mm] と0.4 [mm] では、いずれのゲート26から射出しても、ウエルドライン30およびフローマーク32は発生しなかった。しかし、溝深さが0.5 [mm] では、第1ゲート26Aから射出したときに、ウエルドライン30およびフローマーク32が発生した。外観については、メタリック感があり、塗装部品と同等の意匠性が得られた。
【0064】
成形材料[3](平均粒子径10μm、アスペクト比Y約40)で成形したときは、溝深さ0.3 [mm]、0.4 [mm] では、第1ゲート26Aから射出したときのみウエルドライン30が発生した。溝深さが0.5 [mm] では、いずれのゲート26から射出してもウエルドライン30およびフローマーク32が発生した。外観については、成形材料[2]よりもさらに明度が高く、非常にメタリック感があり、塗装部品と同等の意匠性が得られた。
【0065】
成形材料[4](平均粒子径20μm、アスペクト比Y約50)で成形したときは、溝深さ0.3 [mm] では、第1ゲート26Aから射出したときのみウエルドライン30が発生した。溝深さが0.4 [mm] と0.5 [mm] では、いずれのゲート26から射出してもウエルドライン30およびフローマーク32が発生した。外観については、成形材料[2]よりもさらに明度が高く、非常にメタリック感があり、塗装部品と同等の意匠性が得られた。
【0066】
なお、本評価結果から、ウエルドライン30は、樹脂の流動方向が溝部の長辺方向と平行方向に流動した場合に発生し易く、また長辺方向が長いほど発生し易いという傾向がある。フローマーク32においては、樹脂の流動方向が溝形状部の長辺方向と直交方向に流動した場合に発生し易く、また長辺方向が長いほど発生し易いという傾向がある。成形時は、極力、溝形状部の長辺方向と水平方向あるいは垂直方向に樹脂が流動しないような位置にゲートを設置することが望ましい。
【0067】
・第1ゲート26Aと第2ゲート26Bの相違
表3及び4の成形材料[2]では、溝深さXdが0.5 [mm] のとき、第1ゲート26Aと26Bとで不具合発生の結果が異なっている。また、成形材料[3]の溝深さXdが0.4 [mm] 及び0.5 [mm] のとき、ウエルドライン30の発生結果が異なっている。
このため、ゲート角度として、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲とすると、アスペクト比Y及び不具合発生を防止することができる。この角度の範囲を図9のθ1で示す。なお、ゲート26Cの角度が「溝部の長辺方向を0度とした45度の方向」であり、45度に90度を加算する角度は同一角度である。この方向の前後30度内の範囲がθ1である。
【0068】
・第2ゲート26Bと第3ゲート26Cの相違
表3では、成形材料[3]で溝深さXdが0.5 [mm]の際、溝部14bのウエルドライン30発生結果が異なっている。また、成形材料[4]で溝深さXdが0.4 [mm] 及び0.5 [mm] のとき、溝部14bでのウエルドライン30の発生結果が異なっている。
表4では、成形材料[4]で溝深さXdが0.4 [mm] 及び0.5 [mm] のとき、フローマーク32の発生結果が異なっている。
このため、 ゲート角度として、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±10度内の範囲とすると、アスペクト比Y及び不具合発生を防止することができる。この角度の範囲を図9のθ2で示す。
【0069】
・条件4の作用効果
以上より、条件4での樹脂流動角度θ1又はθ2を適用すると、アスペクト比Yの大きい光輝材を使用することで非常に高い意匠性を発揮させつつ、ウエルドライン30及びフローマーク32等の外観不具合を有効に防止することができる。そして、光輝材のアスペクト比Yと樹脂成型品の肉厚Xtに対する溝深さXdを、条件2の範囲内で成形することにより、部品の視認性を確保しながら、ウエルドライン30およびフローマーク32の発生を防止することができ、さらに塗装と同等の意匠性の高い部品を得ることができる。
【0070】
この条件4及び条件4と条件2の組み合わせは、樹脂部品の無塗装化などにより、部品外観の良化が必要となる場合に応用できる。特に、アルミ粉やマイカ分などの光輝材を添加した成形材料における樹脂部品の無塗装化に応用できる。
【実施例2】
【0071】
次に、本実施形態の実施例2を開示する。
<製造方法:条件4>
図13は実施例2及び3で使用するプレート50の一例を示す一部断面図である。プレート50は、図示しない他のプレートと重ね合わせることで、図10に示す意匠面12に応じた形状のキャビティー52を形成する。キャビティー52内に樹脂が供給され、充填し、冷却等により硬化することで製品(樹脂成型品、例えばMTシフトガーニッシュ)を成形する。
また、溝部14の長辺18方向との関係で樹脂の供給角度(ゲート角度)を条件4でのθ1及びθ2の範囲内とするために、射出成形装置のランナー54とプレート50とを接続するゲートを図13に示す角度(45度)で配置している。
【0072】
図14を参照すると、実施例2の製造方法は、まず、複数のプレート50を重ね合わせることで、意匠面12での矩形を含む溝部14を有する成型品11の形状に応じたキャビティー52と、当該キャビティーに樹脂を流し込むゲート26とを形成する(ステップS1)。
【0073】
次に、熱可塑性樹脂100重量部に対してアルミ粉等の光輝材を0.1から4重量部有する樹脂を前記ゲート26を介して前記キャビティー52に射出する(ステップS2)。このとき、実施例2では、ゲート角度を、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内(図9に示すθ1)の範囲とし、この角度の前記ゲート26から前記樹脂を流し込む。また、意匠面12の複雑さやメタリック比Yをより大きくし非常に高い意匠性を発揮させる際には、このゲート角度を±10度内(図9に示すθ2)とすると良い。
【0074】
続いて、前記樹脂を冷却等により硬化させ(ステップS3)、プレート50を分離させて樹脂成型品を取り出す(ステップS4)。
【0075】
このゲート角度θ1又はθ2の範囲内で光輝材10を含む樹脂を供給すると、他の角度(例えば図9のゲート26Aの角度)ではウエルドライン30やフローマーク32等の外観不具合が発生する場合であっても、この外観不具合の程度を低下させ、または防止することができる。
【0076】
<製造方法:条件4、条件2及び3>
樹脂成型品の製造方法として、非常に高い意匠性を得るために、成形材料、溝部深さXd及びゲート角度を最適化しても良い。この場合、上述した条件2に従って、アスペクト比Yと溝部深さXdとを一定の範囲内とする。
すなわち、前記光輝材のアスペクト比をYとし、前記溝部深さをXd [mm] としたとき、当該アスペクト比Y及び溝部深さXdについて、上記式1又は2の範囲内とする。すなわち、条件2の範囲内とする。溝部の深さは金型のプレートにより実現される。
この場合、図14に示すステップS1にて、プレートを重ね合わせると、上記条件2又は3の範囲内となる溝部深さXdを含むキャビティー52を形成する。そして、ステップS2にて、条件2又は3の範囲内となる当該アスペクト比Yの光輝材を含む樹脂を流し込む。
そして、光輝剤10の平均粒子径は、条件3の範囲内とすると良い。
【0077】
この条件2,3及び4の範囲内とすると、意匠面12の形状が図10に示すように複雑であっても、表3及び4に示すように外観不具合の発生を防止することができる。
【実施例3】
【0078】
次に、本実施形態の実施例3を開示する。
<金型:条件4>
図15は、樹脂成型品を2個取りする金型の一例を示す説明図であり、一方のプレート50に樹脂成型品を乗せた状態を示す平面図である。図15に示すように、実施例3のメタリック調樹脂成型品用の金型は、意匠面12での矩形を含む溝部14を有する成型品11の形状に応じたキャビティー52と、このキャビティー52に光輝材12を含む樹脂を供給するゲート26と、流路(ランナー)54を介して樹脂を前記ゲートに射出するスプルー56と、前記キャビティー52を形成する複数のプレート50と、を備えている。
【0079】
そして、実施例3では、条件4として、前記ゲート26を、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内(図9に示すθ1)の範囲に設けている。また、意匠面12の複雑さやメタリック比Yをより大きくし非常に高い意匠性を発揮させる際には、このゲート角度を±10度内(図9に示すθ2)とすると良い。
【0080】
図16に、図15のAA線での断面図を示す。2つのプレート50を重ね合わせ、パーティング58を一致させるようにプレートを重ね合わせると、キャビティー52が形成される。図14に示す製造方法にてこのキャビティー52に光輝材10を添加した樹脂を注入し、硬化させると樹脂成型品11となる。続いて、図16の上下方向にプレート50を分離し、樹脂成型品を取り出す。
【0081】
図17に、図15に示す金型を組み合わせ4個取りとする実施例3での合理的な金型を示す。この例では、金型の面積及び体積を最小としつつ1度の成形で4個取りをすることができるため、生産性をより向上させることができる。
【0082】
また、図17に示す例では、金型は、スプルー56を中心として、スプルー56から同一距離で、かつ、45度間隔に4つのキャビティー52を有し、スプルー54からキャビティー52に樹脂を供給する同一の形状及び長さの流路(ランナー)54を45度間隔に有し、このランナー54はキャビティー52へのゲート26と接続されている。そして、各ゲートの方向に応じて、キャビティー52での樹脂成型品の方向を条件4のゲート角度θ1又はθ2の範囲内になるようキャビティー52の方向を定めている。
【0083】
図17に示す例では、樹脂成型品の数字「3」を上部、数字「4」を下部として、この上下方向に対して135度(45度+90度)となるようにキャビティー52での意匠面12の向きを定めている。これにより、4個取りの金型としつつ、全てのキャビティー52にてゲート角度を同一としつつ、金型の面積を最小とすることができる。
さらに、4つのキャビティー52へのランナー54を45度間隔で同一形状及び同一長さとしているため、樹脂の供給状態や熱変化を同一とすることができる。
【0084】
なお、8個取りや16個取りとする場合、金型及び成型機をスケールアップしなければならなくなる。そして、スケールアップすると、ランナー54が長くなり、ランナー54の途中で樹脂の一部が冷え、その冷えた樹脂が後から充填される樹脂に押されて製品に入ると、冷えた樹脂の塊のようなものが意匠面12に現れ、外観不具合となる。そして、流動長が長くなると、樹脂によってはショートショット(未充填)が発生してしまい歩留まりが悪化する。
この点、図17に示す構成では、複数個取りとしてもランナー54の長さは短く、かような不都合は生じない。
【0085】
<金型:条件4、条件2及び3>
また、樹脂成型品用の金型として、実施例2と同様、非常に高い意匠性を得るために、成形材料及び溝部深さXdとを最適化しても良い。この場合、上述した条件2又は3に従って、アスペクト比Yと溝部深さXdとを一定の範囲内とする。
すなわち、前記光輝材10のアスペクト比をYとし、前記溝部深さをXd [mm] としたとき、当該アスペクト比Y及び溝部深さXdについて、上記式1又は2の範囲内とする。すなわち、条件2の範囲内とする。アスペクト比Yは成形材料として実現する。
この場合、図10(B)に示す溝部深さXdをアスペクト比Yに応じて実施例3の金型のプレート50により調整する。
光輝剤10の平均粒子径については、条件3の範囲内とすると良い。
【0086】
この条件2,3及び4の範囲内とすると、意匠面12の形状が図10に示すように複雑であっても、表3及び4に示すように外観不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明での意匠面の溝深さと光輝材のアスペクト比との範囲を示す説明図である。(実施例1から3)
【図2】アスペクト比の定義例を示す説明図である。(実施例1から3)
【図3】樹脂成型品の溝部部分の一部断面形状の一例を示す一部断面の斜視図である。(実施例1から3)
【図4】溝部の断面形状の他の例を示す断面図である。(実施例1から3)
【図5】溝部深さと外観不具合の関係を示す説明図である。(実施例1から3)
【図6】テストピースの一例を示す説明図である。(実施例1から3)
【図7】溝部の長辺方向に樹脂を流す例を示す説明図である。(実施例1)
【図8】溝部の短辺方向に樹脂を流す例を示す説明図である。(実施例1)
【図9】意匠面の溝とゲートとの関係例を示す説明図である。(実施例1)
【図10】MTシフトガーニッシュの意匠面の一例を示す説明図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。(実施例1から3)
【図11】MTシフトガーニッシュの意匠面に含まれる溝部を示す説明図である。(実施例1)
【図12】MTシフトガーニッシュの金型とゲートとの関係例を示す説明図である。(実施例1から3)
【図13】プレートの一例を示す説明図である。(実施例2及び3)
【図14】本発明の製造方法の一例を示すフローチャートである。(実施例2)
【図15】本発明の2個取りの金型の一例を示す説明図である。(実施例3)
【図16】図15に示す金型の断面図である。(実施例3)
【図17】本発明の2個取りの金型の一例を示す説明図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0088】
Y アスペクト比
Xd 溝部深さ
Xt 成型品の肉厚
θ1,θ2 ゲート角度
10 光輝材
11 メタリック調樹脂成型品
12 意匠面
14 溝部
14a 縦溝部
14b 横溝部
15 他溝部
16 短辺
18 長辺
20 樹脂流れ
20A 速い樹脂流れ
20B 遅い樹脂流れ
26 ゲート
26A 第1ゲート
26B 第2ゲート
26C 第3ゲート
28 テストピース
29 穴部
30 ウエルドライン
32 フローマーク
50 複数のプレート
52 キャビティー
54 流路(ランナー)
56 スプルー
58 パーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、アスペクト比30から50の光輝材を0.1から4重量部添加し、意匠面での矩形を含む溝部深さの下限を0.3 [mm] とし、深さの上限を0.5 [mm]としたことを特徴とするメタリック調樹脂成型品。
【請求項2】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、光輝材を0.1から4重量部添加し、アスペクト比をYとし、意匠面での矩形を含む溝部深さをXd [mm] としたとき、
Y ≧ 30; Xd ≧ 0.3; Y ≦ −100Xd + 80
の条件を満たす範囲内としたことを特徴とするメタリック調樹脂成型品。
【請求項3】
前記光輝剤の平均粒子径を5 [μm] から20 [μm] としたことを特徴とするメタリック調樹脂成型品。
【請求項4】
複数のプレートを重ね合わせることで、意匠面での矩形を含む溝部を有する成型品の形状に応じたキャビティーと、当該キャビティーに樹脂を流し込むゲートとを形成する工程と、
熱可塑性樹脂100重量部に対して光輝材を0.1から4重量部有する樹脂を前記ゲートを介して前記キャビティーに射出する工程と、
前記樹脂を硬化させる工程と、
前記プレートを分離させて樹脂成型品を取り出す工程とを備え、
前記射出する工程が、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲にある前記ゲートから前記樹脂を流し込む、
ことを特徴とするメタリック調樹脂成型品の製造方法。
【請求項5】
前記光輝材のアスペクト比をYとし、前記溝部深さをXd [mm]、成型品の肉厚をXt [mm] としたとき、当該アスペクト比及び溝部深さについて、
Y ≧ 30; Xd ≧ 0.3; Y ≦ −100Xd + 80
との条件を満たす範囲内であり、
前記プレートを重ね合わせる工程が、当該Xd [mm] の溝部に応じたキャビティーを形成し、
前記射出する工程が、当該アスペクト比Yの光輝材を含む樹脂を流し込む、
ことを特徴とする請求項4記載のメタリック調樹脂成型品の製造方法。
【請求項6】
意匠面での矩形を含む溝部を有する成型品の形状に応じたキャビティーと、このキャビティーに光輝材を含む樹脂を供給するゲートと、流路を介して樹脂を前記ゲートに射出するスプルーと、前記キャビティー52を形成する複数のプレートとを備え、
前記ゲート26を、前記溝部の長辺方向を0度とした45度の方向を中心として±30度内の範囲に設けたことを特徴とするメタリック調樹脂成型品用の金型。
【請求項7】
前記光輝材のアスペクト比をYとし、前記溝部深さをXd [mm]、成型品の肉厚をXt [mm] としたとき、当該アスペクト比及び溝部深さについて、
Y ≧ 30; Xd ≧ 0.3; Y ≦ −100Xd + 80
との条件を満たす範囲内としたことを特徴とする請求項6記載のメタリック調樹脂成型品用の金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−220545(P2009−220545A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70801(P2008−70801)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】