モータ制御装置およびそれを用いた電動パワーステアリング装置
【課題】複数相のモータを制御するモータ制御装置において、対象とする相に開放状態の故障が発生した場合に、いずれの相に開放状態の故障が発生したか否かを、迅速かつ正確に検知するモータ制御装置およびそれを用いた電動パワーステアリング装置を得る。
【解決手段】電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上、かつ、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下、かつ、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でなく、かつ、対象とするx相の電流Ixが所定電流Iu_thr以下、かつ、制御誤差が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とするx相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【解決手段】電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上、かつ、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下、かつ、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でなく、かつ、対象とするx相の電流Ixが所定電流Iu_thr以下、かつ、制御誤差が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とするx相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インバータを備えたモータ制御装置およびそれを用いた電動パワーステアリング装置に関し、特に、インバータからモータまでの経路の開放故障を検知する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータ制御装置においては、モータに流れている電流の測定値(以下、「電流検出値」という)を帰還させるフィードバックループ線路が断線した場合において、電流指令と電流検出値との電流偏差に基づいて、フィードバックループ線路の断線を検出する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の従来装置として、電源電圧が適正な範囲内において、モータ回転速度が判定対象範囲内であって、実電流値が所定値以下で、かつ、印加電圧または電圧指令が所定の対応範囲から逸脱した状態が継続した場合に、モータへの電力供給線が断線したものと判定する技術も知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に記載の技術の場合、3相のモータコイルを有するモータにおいて、3相の各々について上記判定処理を行うことにより、いずれの相に断線が発生したかを検知することができる。
この方式においては、電圧指令の所定の対応範囲の閾値を、電流の閾値である所定電流値とモータ回転速度の判定対象範囲の閾値とに対応させることにより、N−T特性(回転速度−トルク特性)と称されるモータの出力限界を示す特性に基づいた判定を実現している。すなわち、モータの出力限界を超えたか否かに基づき、断線の有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000―177610号公報
【特許文献2】特開2007―244028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のモータ制御装置は、上記特許文献1に記載の技術によれば、電流偏差を用いて異常状態の検出が可能であるものの、複数相を有する永久磁石型同期モータや誘導モータのような交流モータの場合には、各相の個別評価が不可能な電流偏差に基づく判定であることから、どの相にどのような異常が発生しているかを特定することができないという課題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の技術では、バッテリの負電位や正電位への短絡故障(地絡故障や天絡故障)が発生した場合にも、異常を検出する可能性があるので、断線などの開放故障と区別が付かないという課題があった。
さらに、この結果、故障した相とその故障内容とに対応した異常時の処置に移行できないという課題もあった。
【0008】
一方、上記特許文献2に記載の技術によれば、複数相の各々について判定を行い、断線が生じた相を特定可能であるものの、N−T特性(モータ出力限界を示す特性)の限界を超えるか否かに基づき判定条件や判定閾値を設定していることから、誤検出する可能性が低い一方で、異常な範囲に対する余裕が過度に大きく設定されているので、故障が発生してから実際に検知するまでの期間が長くなり、検知タイミングが遅くなるという課題があった。
【0009】
なお、特許文献2においては、電圧方程式に基づいて求めたアドミッタンスを用いた判定方法も示唆されているが、どのような閾値に設定するかについては明記されておらず、検知精度や検知速度は不明であるが、開示されたN−T特性に基づく閾値設定方法を変換して適用するものと考えられるので、上述のように検知速度が遅いという課題があるものと予想される。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、通常の出力範囲のみを考慮した故障検知を可能にして異常状態を早く判定することのできるモータ制御装置およびそれを用いた電動パワーステアリング装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るモータ制御装置は、複数相のモータへの電流および印加電圧を制御するモータ制御装置であって、電源からの電力をモータに供給するインバータと、電流指令に応じた電圧指令を生成してモータへの電流を制御する電流制御手段と、電圧指令に応じてインバータを駆動してモータへの印加電圧を制御するインバータ駆動回路と、電圧指令、電源の電源電圧、モータのモータ回転速度、および複数相の電流に基づいて故障発生状態を検知する故障検知手段と、を備え、故障検知手段は、電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、モータ回転速度が所定速度以下であって、かつ、対象とする相の電圧指令がゼロ付近でなく、かつ、対象とする相の電流が所定電流以下であって、かつ、電流指令または電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、電源電圧およびモータ回転速度による判定条件を適用することにより、モータの出力限界を超えたか否かによる従来の異常判定処理を不要とし、通常の出力範囲のみを考慮した故障検知を可能にし、電圧指令がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)という判定条件と、電流が小さいという判定条件とから、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかを判定するとともに、制御誤差の判定条件から、制御誤差の増大に基づき異常状態を早く判定することができる。これにより、断線などの開放状態の故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができ、故障の検知タイミングを早くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るモータ制御装置を周辺構成とともに示すブロック図である。
【図2】図1内の電流制御手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図3】一般的なモータの出力限界を示すN−T特性図である。
【図4】一般的な3相の波形図であり、対象とする相の電圧指令がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)領域を示している。
【図5】一般的な外乱電圧が電流偏差に影響するまでの振幅増幅率を示すゲイン特性図である。
【図6】この発明の実施の形態1による故障検知手段の具体的な動作を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態1においてU相の上側のスイッチング素子が開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答波形を示すタイミングチャートである。
【図8】この発明の実施の形態2においてU相の上側のスイッチング素子が開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答波形を示すタイミングチャートである。
【図9】この発明の実施の形態3に係るモータ制御装置を周辺構成とともに示すブロック図である。
【図10】図9内の電流制御手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態3による故障検知手段の具体的な動作を示すフローチャートである。
【図12】この発明の実施の形態3による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態3による電源電圧およびモータ回転速度の判定動作を示すフローチャートである。
【図14】この発明の実施の形態4による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図15】この発明の実施の形態5による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図16】この発明の実施の形態6による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図17】この発明の実施の形態7に係る電動パワーステアリング装置を概略的に示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1は、この発明の実施の形態1に係るモータ制御装置1を周辺構成とともに示すブロック図である。
【0015】
図1において、モータ制御装置1の周辺には、制御対象とする複数相(3相)のモータ2と、モータ回転角度θを検出するモータ回転角度センサ3と、電源(バッテリ)4と、電流指令I*(d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*)を生成する電流指令生成手段(図示せず)とが設けられている。
【0016】
モータ制御装置1は、電源4からの電力を調整し、モータ回転角度θに基づき、モータ2への電流(相電流)および印加電圧を制御する。
モータ2は、たとえば、永久磁石型同期モータや誘導モータのような3相の交流モータからなり、ここでは、U、V、W相の3相を備えているものとする。
【0017】
モータ制御装置1は、モータ回転速度ωを演算するモータ回転速度演算器21と、モータ2への供給電力を制御するインバータ22と、電流指令I*に応じた3相電圧指令V*を生成する電流制御手段23と、インバータ22を駆動するインバータ駆動回路24と、故障を検知して故障検知結果Fを出力する故障検知手段25と、電源電圧Vbを検出する電源電圧検出器26と、を備えている。
【0018】
モータ制御装置1内の上記構成要素のうち、モータ回転速度演算器21、電流制御手段23および故障検知手段25は、通常、マイコンのソフトウエアとして実装される。
マイコンは、周知の中央処理装置(CPU)、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、インターフェース(IF)などからなり、ROMに収納されたプログラムを順次抽出してCPUで所望の演算を行うとともに、演算結果をRAMに一時保存するなどにより、ソフトウエアを実行して所定の制御動作を行う。
【0019】
インバータ22は、各相U、V、Wの高電位側および低電位側に対応したスイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNと、各スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードDUP、DUN、DVP、DVN、DWP、DWNと、各相U、V、Wの電流Iu、Iv、Iwを検出する電流検出器CT1、CT2、CT3と、を備えている。
【0020】
3相電流Iu、Iv、Iwの検出値は、電流制御手段23および故障検知手段25に入力される。また、モータ回転角度センサ3からのモータ回転角度θは、電流制御手段23およびモータ回転速度演算器21に入力される。
【0021】
電流制御手段23からの3相電圧指令V*は、インバータ駆動回路24および故障検知手段25に入力され、故障検知手段25からの故障検知結果Fは、電流制御手段23に入力される。
また、電流制御手段23内で算出された制御誤差すなわちdq軸電流偏差Ed、Eq(図2とともに後述する)は、故障検知手段25に入力される。
【0022】
次に、図1に示したモータ制御装置1の概略動作について説明する。
モータ制御装置1は、モータ回転角度センサ3からのモータ回転角度θを取り込み、モータ回転速度演算器21によりモータ回転速度ωを算出する。
また、インバータ22内の電流検出器CT1、CT2、CT3により、モータ2の各相U、V、Wに流れる電流Iu、Iv、Iwを検出し、電源電圧検出器26により、電源4の電源電圧Vbを検出する。
【0023】
電流制御手段23は、モータトルクTmの目標値に相当するq軸電流指令Iq*と、等価的な界磁磁束の目標値に相当するd軸電流指令Id*と、モータ2の3相電流(検出値)Iu、Iv、Iwと、モータ回転角度(検出値)θとに応じて、3相電圧指令V*を決定する。なお、正常時においては、電流制御手段23に故障検知結果Fが入力されることはない。
【0024】
インバータ駆動回路24は、3相電圧指令V*をPWM変調して、インバータ22内の各スイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNに対するスイッチング操作信号(ON/OFF)を生成する。
【0025】
インバータ22は、インバータ駆動回路24からのスイッチング操作信号に応じてスイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNのチョッパ制御を実現し、モータ2の各相への印加電圧を決定するとともに、電源4から供給される電力により各相への電流Iu、Iv、Iwを決定し、各相電流Iu、Iv、Iwにより、モータトルクTmを発生させる。
【0026】
なお、電流検出器CT1、CT2、CT3は、3相のスイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNに対し、それぞれ直列に配置されているが、インバータ22とモータ2との間の経路、または、電源4とインバータ22との間の経路などに配置されてもよい。また、電源4とインバータ22との間の経路に1つの電流検出器が配置される例として、スイッチング操作信号のON/OFFタイミングに応じて、1つの電流検出器から各相の電流を検出する構成も適用可能である。
【0027】
また、各スイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNには、それぞれダイオードDUP、DUN、DVP、DVN、DWP、DWNが逆並列接されているが、これは、各スイッチング素子を保護する目的で、一般的に配置されるものである。
また、電流制御手段23からインバータ駆動回路24に対し、3相電圧指令V*を直接入力しているが、3相電圧指令V*を電源電圧Vbの検出値で除算した値をデューティとし、このデューティ値を指令としてインバータ駆動回路24に入力してもよい。
【0028】
次に、図2を参照しながら、電流制御手段23の具体的な構成および動作について説明する。
図2は電流制御手段23の具体的構成を示すブロック図であり、正常時での入出力信号を示している。電流制御手段23は、たとえば、一般に用いられるdq制御と称される手法により実現され得る。
【0029】
図2において、電流制御手段23は、3相電流(検出値)を2相電流(検出値)に変換する2相変換手段31と、電流指令と2相電流とのdq軸電流偏差Ed、Eqを演算する減算器32、33と、dq軸電流偏差Ed、Eqからdq軸電圧指令Vd*、Vq*を生成するdq軸制御器34、35と、dq軸電圧指令Vd*、Vq*からU、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を生成する3相変換手段36と、を備えている。
【0030】
2相変換手段31は、モータ回転角度θを用いて、3相電流(検出値)Iu、Iv、Iwをdq軸上のdq軸電流(検出値)Id、Iqに変換する。
減算器32、33は、dq軸電流指令Id*、Iq*から、dq軸電流Id、Iqをそれぞれ減算し、dq軸電流偏差Ed、Eqを算出して、dq軸制御器34、35にそれぞれ供給する。
【0031】
dq軸制御器34、35は、具体的な機能構成については図示を省略するが、一般的なPI制御などで構成され得る。
たとえば、dq軸制御器34、35は、それぞれ、dq軸電流偏差Ed、Eqに比例ゲインを乗算する比例項と、dq軸電流偏差Ed、Eqの積分値に積分ゲインを乗算する積分項とを含み、各乗算値をそれぞれ加算してdq軸電圧指令Vd*、Vq*を生成する。
【0032】
3相変換手段36は、dq軸電流指令Id*、Iq*を、モータ回転角度θに応じて3相変換し、U、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を生成する。
以下、インバータ駆動回路24およびインバータ22は、U、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に応じて、モータ2への供給電力を制御する。
以上の動作により、dq軸電流指令Id*、Iq*に応じて、モータ2の相電流をdq軸上の電流に換算したdq軸電流Id、Iqを制御し、また、dq軸電流Id、Iqによってモータ2への相電流を制御し、その結果、モータ2が出力するモータトルクTmを制御することができる。
【0033】
次に、故障検知手段25の概略機能について説明する。
故障検知手段25は、複数相(3相)のうちのどの相に、開放状態の故障が発生したかを検知するものである。
故障検知手段25に対しては、電源電圧Vbと、モータ回転速度ωと、各相電流Iu、Iv、Iwと、電流制御手段23内で算出されたdq軸電流偏差Ed、Eqと、電流制御手段23からの3相電圧指令V*(U、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*)と、が入力される。
【0034】
故障検知手段25は、上記入力情報の各値に基づいて、各相において開放状態の故障が発生したか否かを判定する。
なお、故障とは、各相が開放状態になる故障を指しており、U相の場合で説明すると、U相におけるモータ線の断線、または、U相におけるインバータ22からモータ2までの経路中のいずれかの部品が開放状態になる故障(インバータ22内のスイッチング素子UP、UNが開放状態になる故障など)である。
【0035】
故障検知手段25は、故障発生を検知すると、故障検知結果Fを生成して電流制御手段23に入力する。
これにより、電流制御手段23は、故障に応じた処置へ移行することが可能となる。なお、故障に応じた処置とは、インバータ駆動回路24に対する制御の停止、または、故障に応じた異常時制御などが挙げられるが、任意の公知処理なので、ここでは詳述を省略する。
【0036】
故障検知手段25は、電源電圧Vbが所定電圧以上(Vb≧Vthr)、かつ、モータ回転速度ωが所定速度以下(ω≦ωthr)、かつ、対象とするx相(U、V、W相のいずれかの相)のx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相の電圧指令に比べて大きい)ときに、x相の電流Ixの絶対値|Ix|が所定電流Ix_thr以下(|Ix|≦Ix_thr)で、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、x相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0037】
すなわち、概して表現すると、制御誤差に基づき異常状態を判定したときに、x相の電流Ixが小さい状態である場合に、x相に開放状態の故障が発生したものと判定する。この判定は、x相に開放状態の故障が発生すると、x相に電流Ixが流れない状態が継続するという現象に基づいている。
【0038】
次に、図3〜図5を参照しながら、故障検知手段25における各判定条件について具体的に説明する。
まず、図3を参照しながら、「電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であって、かつ、モータ回転速度ωが定格速度ω1以下であること」の判定条件について説明する。
図3は一般的なモータ2の出力限界を示すN−T特性図である。
【0039】
図3に示すN−T特性(モータ回転速度ω−モータトルクTmの特性)において、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上(Vb≧Vthr)であって、かつ、モータ回転速度ωが定格速度ω1以下の領域(点線矢印参照)であれば、モータトルクTmは定格トルクT1まで出力することができ、通常行われる定格トルクT1までの指令であれば、電圧指令が飽和することがなく、さらに、モータ出力が飽和することもない。
【0040】
すなわち、所定速度ωthrを定格速度ω1以下に設定し、点線矢印の領域に限定すれば、異常判定を行う際に、モータ2の出力限界を超えたか否かに基づく異常判定を不要にすることができ、以下に示す故障検知を、モータ2の通常の出力範囲のみにおける制御の追従性を考慮したものにすることができる。
【0041】
一方、前述の従来方法では、モータ2の状態量が、図3の右側の右肩下がりの線よりも右側の領域に達するので、電圧指令が飽和してモータ出力も飽和する領域を超えたか否かを判定しなければならず、故障検知が遅くなる原因となっていた。
【0042】
次に、「対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)こと」の判定条件について説明する。
図4は一般的な3相の波形図であり、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)領域A1、A2(1点鎖線枠、点線枠参照)を示している。
【0043】
図4において、横軸はモータ回転角度θ[deg]、縦軸は3相電圧指令V*であり、ここでは、モータ回転角度θに対するU相電圧指令Vu*(太実線)、V相電圧指令Vv*(細実線)およびW相電圧指令Vw*(点線)の各値の変化を相対的に示している。
【0044】
3相電圧指令V*(Vu*、Vv*、Vw*)は、電流制御手段23内の3相変換手段36において、dq軸電圧指令Vd*、Vq*を、モータ回転角度θに応じて3相変換することにより得られる。
したがって、図4に示すように、各相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の値は、モータ回転角度θに応じて、周期的に大小を繰り返しながら、相対的に大小関係を入れ替えるように変化する。
【0045】
各相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の値はゼロ付近を通過することがあり、ゼロ付近では、相電流を流さないように制御する状態にあるので、その相電流もゼロに近い値になる。
たとえば、U相(太実線)に注目した場合、0degおよび180degの付近でゼロを通過する。したがって、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近にない場合(x相に電流を流す指令を出力している場合)に限定して、相電流が小さいか否かを判定する必要がある。
【0046】
図4内の領域A1、A2(0degおよび180degの付近を除く領域)において、U相電圧指令Vu*は、ゼロ付近でないことが分かる。各領域A1、A2を3相電圧指令V*(Vu*、Vv*、Vw*)の不等式で表すと、以下のようになる。
領域A1:(Vu*>Vv*、かつ、Vu*>Vw*)、または、
(Vu*<Vv*、かつ、Vu*<Vw*)
領域A2:|Vu*|>|Vv*|、かつ、|Vu*|>|Vw*|
【0047】
したがって、x相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)ことを判定条件にすることにより、電圧指令値がゼロ付近の状態(相電流Ixをゼロ付近に制御している電圧指令の状態)を除外することができる。なお、この判定条件は、特定の閾値と比較することとは異なり、相電圧を相対的に比較するという点で新規な特徴がある。
【0048】
次に、図5を参照しながら、故障により異常状態になっていることを判定するための条件「制御誤差が所定誤差以上であること」について説明する。
図5は一般的な外乱電圧がdq軸電流偏差Ed、Eqに応答するまでの振幅増幅率を示すゲイン特性図である。
【0049】
図5においては、外乱電圧がモータ2のコイルに重畳されてから、モータ制御装置1内のPI制御系を介してdq軸電流偏差Ed、Eqに応答するまでの経路中における振幅増幅率の周波数特性を示している。
【0050】
すなわち、制御誤差の異常範囲を示すために、モータ2に作用する外乱電圧からdq軸電流偏差Ed、Eqまでの振幅増幅率を、通常の電流制御における電流追従性を表す周波数特性により示している。
この場合、100[Hz]付近の外乱電圧が最大応答(レベルG1)となってdq軸電流偏差Ed、Eqに影響することが分かる。
【0051】
ここで、異常判定に用いられる制御誤差は、dq軸電流偏差Ed、Eqである。
図5において、横軸は周波数[Hz]、縦軸はゲイン(振幅増幅率)である。
電流を状態量とする系に対しては、モータ回転速度ωに比例する誘起電圧が外乱電圧として作用し、図5のゲイン特性に基づいてdq軸電流偏差Ed、Eqへと応答する。このとき、図5内のレベルG1で示した応答ゲインが最大の応答となる。
また、考慮すべき外乱電圧の最大値は、モータ回転速度ωの判定条件の閾値である所定速度ωthrに誘起電圧定数Keを乗算した値(=Ke×ωthr)となる。
【0052】
したがって、最大の電流偏差は、レベルG1の応答ゲインと、外乱電圧の最大値Ke×ωthrとを乗算した値(=G1×Ke×ωthr)になる。
なお、dq軸電流偏差Ed、Eqの発生要因としては、他に、電流指令I*の値の変化に対する追従性も挙げられるが、これは、外乱電圧の応答に比べると十分に小さいので、無視することができる。
【0053】
このようにして、故障の発生していない正常時における通常出力範囲の最大の電流偏差G1×Ke×ωthrが求まるので、dq軸電流偏差Ed、Eqの異常状態を示す閾値(所定誤差Ethr)は、上述した最大の電流偏差G1×Ke×ωthrよりも大きな値に設定すればよい。
なお、最大の電流偏差G1×Ke×ωthrよりもいくらか大きな値に設定することにより、誤検知に対する余裕も得られる。
【0054】
また、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)は、2つの信号からなるので、単一の制御誤差として評価するためには、2乗和の平方根√(Ed^2+Eq^2)を演算して用いればよい。
なお、電流の応答ゲインの最大値を見積る際に、回路定数などのパラメータ変動(ばらつき)の幅を考慮することにより、さらに精度を向上させることが可能である。
【0055】
最後に、電流が流れていない状態を判定する条件として、対象とするx相の電流の絶対値|Ix|が所定電流Ix_thr以下(|Ix|≦Ix_thr)を付与することにより、x相に異常が生じ、x相の異常内容が「相電流Ixが流れないことである」と特定することができる。
なお、所定電流Ix_thrは、相電流(検出値)のノイズや分解能などを考慮して設定すればよい。
【0056】
次に、図6のフローチャートを参照しながら、故障検知手段25の具体的な動作について説明する。
図6においては、代表的にU相に注目して、U相のモータ線の断線、または、U相におけるインバータ22からモータ2までの経路中のいずれかの部品(スイッチング素子UP、UNなど)が開放状態になる故障を検知する手段を示している。
なお、図示しないが、故障検知手段25は、V相、W相に関しても図6と同様の手段を備えており、それぞれ、V相、W相が開放状態になる故障を検知する。
【0057】
まず、判定条件の成立回数をカウントする計測期間の範囲内を表す計測フラグがOFF状態であるか否かを判定し(ステップS1)、OFF状態(すなわち、Yes)と判定されれば、計測期間ではないので、時間信号tm、tcに対応したカウンタを初期化し(ステップS2)、ステップS3に進む。
具体的には、ステップS2において、計測期間内の時間を計数するための時間信号tmと、判定条件の成立時間の積算値を示す時間信号tcとを、それぞれゼロに初期化する。
【0058】
一方、ステップS2において、計測フラグがON状態(すなわち、No)と判定されれば、計測期間であるので、ステップS2をスキップして、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上(Vb≧Vthr)であるか否かを判定する(ステップS3)。
ステップS3において、Vb<Vthr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進む。
【0059】
一方、ステップS3において、Vb≧Vthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下(ω≦ωthr)であるか否かを判定し(ステップS4)、ω>ωthr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進む。
【0060】
一方、ステップS4において、ω≦ωthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、U相電圧指令Vu*がゼロ付近でない(U相電圧指令Vu*が最大)か否かを判定する(ステップS5)。
ステップS5は、U相電圧指令Vu*の値が図4内の領域A1(または領域A2)に入っているか否かの判定に相当する。
【0061】
ステップS5において、U相電圧指令Vu*がゼロ付近である(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、U相電圧指令Vu*がゼロ付近ではない(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、U相電流Iuの絶対値が所定電流Iu_thr以下(|Iu|≦Iu_thr)であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0062】
ステップS6において、|Iu|>Iu_thr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、|Iu|≦Iu_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、制御誤差が過大(dq軸電流偏差Ed、Eqが所定誤差Ethr以上)であるか否かを判定する(ステップS7)。
【0063】
ステップS7において、制御誤差が過大でない(たとえば、√(Ed^2+Eq^2<Ethr)(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、制御誤差が過大(√(Ed^2+Eq^2≧Ethr)(すなわち、Yes)と判定されれば、計測フラグをON状態にする(ステップS8)。
【0064】
続いて、判定成立時間カウンタをカウントアップする(ステップS9)。
具体的には、ステップS9において、判定条件の成立時間の積算値である時間信号tcを、現在値に演算周期τを加算する(tc=tc+τとする)ことにより、カウントアップを行う。
【0065】
次に、判定成立の時間信号tcが所定時間tc_thrに達した(tc≧tc_thr)か否かを判定し(ステップS10)、tc<tc_thr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、tc≧tc_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、確定フラグをON状態にする(ステップS11)。
ステップS11において、確定フラグがON状態に設定されることにより、U相に開放状態の故障が発生したことを検知したことになる。
【0066】
続いて、ステップS12において、計測期間カウンタをカウントアップする(ステップS12)。
具体的には、ステップS12において、計測期間内の時間を計数する時間信号tmを、現在値に演算周期τを加算する(tm=tm+τとする)ことにより、カウントアップを行う。
【0067】
最後に、計測期間内の時間を数える時間信号tmが計測期間tm_thrに達した(tm≧tm_thr)か否かを判定し(ステップS13)、tm<tm_thr(すなわち、No)と判定されれば、図6の処理を終了してリターンする。
【0068】
一方、ステップS13において、tm≧tm_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、計測フラグをOFF状態にし(ステップS14)、図6の処理を終了してリターンする。
以下、再び図6内のスタートからの処理(ステップS1〜S14)を繰り返し実行する。
【0069】
なお、ステップS9のような積算による時間信号tcのカウント処理を実行することにより、判定条件が連続的に成立しなくても、計測期間内に、判定成立の積算時間が閾値以上に達すれば、故障検知を確定することができる。
【0070】
次に、図7を参照しながら、この発明の実施の形態1に係るモータ制御装置1において、U相の上側(高電位側)のスイッチング素子UPが開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答について説明する。
図7はスイッチング素子UPが開放状態となった場合の各状態量の時間応答波形を示すタイミングチャートであり、図6と同様に、代表的にU相の故障を検知する場合の動作波形を示している。
【0071】
図7において、横軸は時間tであり、縦軸として、3相電圧指令V*(Vu*、Vv*、Vw*)と、3相電流(検出値)Iu、Iv、Iwと、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)と、判定条件(H、L:正否)と、判定成立の積算時間(tc)と、モータ回転角度θ[deg]との各時間変化が示されている。
【0072】
3相電圧指令および3相電流(1、2段目波形)において、それぞれ、太実線はU相、実線はV相、破線はW相、の各波形を示している。
また、判定条件(4段目波形)において、実線はU相電圧指令Vu*の判定条件、1点鎖線はU相電流Iuの判定条件、太実線は制御誤差の判定条件、の各正否(H、L)波形を示している。
【0073】
ここでは、左端の故障発生時刻t0において、高電位(電源4)側のU相のスイッチング素子UPが開放状態となり、故障検知時刻t1において故障が検知された場合を示している。
【0074】
図7において、U相の上側のスイッチング素子UPが開放状態にあることから、U相電流Iu(2段目波形内の太線参照)は、本来ならば図中上側に電流を流すべき期間で、ゼロに固着している(電流が流れない)水平波形期間が存在することが分かる。
【0075】
また、上記水平波形期間とほぼ同じ期間において、U相電圧指令Vu*(1段目波形内の太線参照)が他の相よりも相対的に大きくなっており、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)(3段目波形参照)が増大していることが分かる。
【0076】
上記状態を反映して、判定条件(4段目波形)に示すように、U相電圧指令Vu*の判定条件(実線参照)と、U相電流Iuの判定条件(1点鎖線参照)と、制御誤差の判定条件(太実線参照)とが、それぞれ成立する(すべてHレベルとなる)様子が分かる。
また、ここでは図示していないが、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件は常に成立している。
【0077】
判定成立の時間信号tc(5段目波形内の実線参照)は、上記のように、すべての判定条件が成立する場合にカウントアップ(積算)されていくので、判定条件の成立期間中に時間tの経過とともに増加していく。
【0078】
故障検知時刻t1は、積算された時間信号tcが所定時間tc_thr(故障検知を確定させるための閾値)を超えた時刻であり、この故障検知時刻t1において、U相の開放状態の故障が確定される。
【0079】
一方、従来方法の積算時間(5段目波形内の破線参照)は、検知タイミングが遅くなることから増加ピッチが小さくなるので、故障検知時刻t2は、この発明の実施の形態1による故障検知時刻t1よりも、遅れていることが分かる。
【0080】
なお、モータ回転角度θ(6段目波形:最下段)の変化は、モータ2がほぼ等速度で回転している様子を示している。
モータ回転角度θ=350[deg]付近は、U相電流Iuが流れない水平波形期間の中心付近に対応しており、U相電流Iuが流れない期間は、モータ回転角度θに対してほぼ周期的に同期していることが分かる。したがって、U相電圧指令Vu*の判定条件などは、モータ回転角度θを用いて代用することも可能である。
【0081】
以下、この発明の実施の形態1による上記故障検知動作について、各判定条件の役割を要約して総括的に説明する。
まず、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件を適用することによって、モータ2の通常の出力範囲のみを考慮した故障検知とすることが可能となり、モータ2の出力限界に基づく異常判定を不要にすることができる。
【0082】
また、対象とするx相電圧指令Vx*が他の相よりも大きいという判定条件によって、電流をゼロ付近に制御している状態を除外することができ、かつ、電流の判定条件によって、x相の電流が流れない状態を検出することが可能となるので、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかを判定することができる。
【0083】
さらに、制御誤差の判定条件によって、異常な状態であるか否かを検出することができる。
したがって、これらすべての条件が成立したときに、x相に開放状態の故障が発生したことを検知することができる。また、すべての相について、上記と同様の判定処理を行うことにより、どの相に開放状態の故障が発生したかを検知することができる。
【0084】
また、モータ2に対する電流制御の追従性については、通常に用いられる適切な範囲に保つことにより、不要に制御誤差を拡大させないようにしている。
このように設計されたモータ制御の追従性において、外乱などにより発生する制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eqなど)の最大値は、モータ回転速度ωなどの判定条件の閾値や、パラメータ変動(ばらつき)の幅から見積もられる。
【0085】
こうして見積もられた制御誤差の最大値を、制御誤差における異常な範囲の閾値として決定することにより、誤った故障検知を回避することができる。
よって、出力限界を超えたか否かという判定を用いずに、制御誤差が通常か否かに基づいて異常判定を行うことにより、故障の検知を早くすることができる。
【0086】
さらに、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)か否かを判定することにより、x相電圧指令Vx*のゼロ付近における誤った検知を防止することができるので、検知精度の向上および検知の迅速化を両立することができる。
【0087】
この発明の実施の形態1(図1〜図7)に係るモータ制御装置1によれば、モータ2の出力限界に基づく異常状態の判定を行うことなく、モータ回転速度ωなどの判定条件の閾値から見積もった通常動作領域における制御誤差の最大値を閾値として、制御誤差に基づく異常状態を判定するので、いずれの相に開放状態の故障が発生したかを検知する際に、各相電流(検出値)Iu、Iv、Iwや3相電圧指令V*などの状態量が出力限界を超えた状態になるのを検出する必要がなく、制御誤差の増大によって異常状態を判定することができる。
【0088】
したがって、故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができ、故障の検知を早く行うことができるという効果が得られる。また、この結果、故障に応じた処置に早く移行することができる。
【0089】
なお、上記説明では、制御誤差として、dq軸電流偏差Ed、Eqを用いたが、これに代えてdq軸電流指令Id*、Iq*を用いてもよい。
【0090】
また、図2から明らかなように、電流偏差とは、電流指令から電流検出値を減算した値であり、電流偏差の値が故障時に増大するということは、電流指令が所定値以上であるにも関わらず、電流検出値が追従しない状態であることを示している。
よって、電流指令が所定値以上であり、かつ、相電圧が相対的に大きい状態であるにも関わらず、相電流が流れない状態が検出されれば、その相に開放状態の故障が発生しているものと判定することができるので、dq軸電流偏差Ed、Eqに代えて、dq軸電流指令Id*、Iq*の2乗平方根を制御誤差としても、前述と同様の作用効果を奏する。
【0091】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図7)に係るモータ制御装置1は、複数相のモータ2への電流(3相電流Iu、Iv、Iw)および印加電圧を制御するために、電源4からの電力をモータ2に供給するインバータ22と、電流指令I*に応じた3相電圧指令V*を生成してモータ2への電流(3相電流Iu、Iv、Iw)を制御する電流制御手段23と、3相電圧指令V*に応じてインバータ22を駆動してモータ2への印加電圧を制御するインバータ駆動回路24と、3相電圧指令V*、電源4の電源電圧Vb、モータ2のモータ回転速度ω、および複数相の電流Iu、Iv、Iwに基づいて故障発生状態を検知する故障検知手段25と、を備えている。
【0092】
故障検知手段25は、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であって、かつ、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下であって、かつ、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でなく(他の相よりも大きく)、かつ、x相の電流Ixが所定電流Ix_thr以下であって、かつ、dq軸電流偏差Ed、Eq(電流指令または電圧指令に対する制御誤差)が所定誤差Ethr以上である状態が所定時間tc_thr以上検出された場合に、x相に開放状態の故障が発生したものと判定し、故障検知結果Fを生成して電流制御手段23に入力する。
【0093】
また、制御誤差は、電流指令I*に応じた値、または、電流指令I*の値と電流(dq軸電流Id、Iq)との電流偏差(dq軸電流偏差Ed、Eq)に応じた値である。
【0094】
このように、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件を適用することにより、モータ2の出力限界を超えたか否かによる異常判定を不要とし、通常の出力範囲のみを考慮した故障検知を可能にすることができる。
また、3相電圧指令V*がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)という判定条件と、3相電流Iu、Iv、Iwが小さいという判定条件とによって、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかを判定することができる。
【0095】
さらに、制御誤差の判定条件によって、制御誤差の増大に基づき異常状態を早く判定することができる。
したがって、断線などの開放状態の故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができ、迅速に故障を検知することができる。
【0096】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図7)では、電流制御手段23から故障検知手段25に入力される制御誤差としてdq軸電流偏差Ed、Eqを用いたが、図8に示すように、dq軸電圧偏差Evd、Evqを用いてもよい。
図8はこの発明の実施の形態2による故障検知動作を示すタイミングチャートであり、前述(図7参照)と同様に、U相の上側のスイッチング素子UP(図2)が開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答波形を示している。
【0097】
図8においては、前述(図7)のdq軸電流偏差Ed、Eqをdq軸電圧偏差Evd、Evq(3段目波形参照)に変更したのみであり、他のパラメータは前述(図7)と同様である。
また、この発明の実施の形態2に係るモータ制御装置の全体構成は図1に示した通りであり、故障検知処理も基本的に図6に示した通りである。ただし、この場合、制御誤差の判定条件において、dq軸電圧偏差Evd、Evqが用いられる。
【0098】
モータ2の1つの相に開放状態の故障が発生した場合は、相電流が電流指令I*に追従しなくなるのみでなく、3相電圧指令V*に対する実際の印加電圧の誤差が過大になる。したがって、3相電圧指令V*と印加電圧との電圧偏差を監視することにより、異常状態を判定することができる。
【0099】
ここで、dq軸上における印加電圧の値をdq軸電圧値Vd、Vqとし、dq軸電圧指令Vd*、Vq*からdq軸電圧値Vd、Vqをそれぞれ減算した値を、dq軸電圧偏差Evd、Evqとする。なお、dq軸電圧値Vd、Vqの具体的な算出方法については、後述する。
【0100】
dq軸電圧偏差Evd、Evqを、単一の値として評価するためには、前述と同様に、2乗和の平方根√(Evd^2+Evq^2)を制御誤差とすればよい。
また、制御誤差の判定条件の閾値である所定誤差Ethrの具体的な決定方法についても、後述する。
【0101】
以下、dq軸電圧値Vd、Vqを求めるための、第1〜第6の算出方法について説明する。
(1)まず、第1の算出方法においては、インバータ22からモータ2までの経路中に、3相電圧を個別に検出するための3個の電圧センサ(図示せず)を設け、各電圧センサの検出値を、モータ回転角度θに基づき2相変換してdq軸上の電圧値に変換し、これらの変換電圧値をdq軸電圧値Vd、Vqとする。
【0102】
この場合、制御誤差の判定条件の閾値である所定誤差Ethrは、通常時に発生し得る電圧偏差の最大値を考慮して設定される。
すなわち、3相電圧指令V*をPWM変調する際に必要な極短時間スイッチングを停止するデッドバンド(不感帯)や、2相変換に用いられる電源電圧Vbの検出誤差や、インバータ22内のスイッチング素子のスイッチング時の損失や、モータ2のコイル以外の配線や部品の抵抗による電圧降下など、通常時の電圧偏差の最大値を見積もり、見積もられた値よりも大きな値で所定誤差Ethrを設定すればよい。
【0103】
このとき、所定誤差Ethrを通常時の最大の電圧偏差よりもいくらか大きな値に設定することにより、誤った検知に対する余裕も得られる。
また、部品のばらつきを考慮することにより、誤差の見積り精度を向上させることができる。
【0104】
(2)次に、第2の算出方法について説明する。
この場合、上記電圧センサを用いずに、以下の式(1)のように、dq軸上の電圧方程式に基づく推定演算により、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0105】
【数1】
【0106】
ただし、式(1)において、R、L、Ψaは、それぞれ既知の回路定数であり、Rはインバータ22からモータ2までの抵抗値、Lはモータ2のインダクタンス、Ψaはモータ2内の永久磁石による電機子鎖交磁束である。
【0107】
また、式(1)の右辺の状態量、すなわち、dq軸電流Id、Iqおよびモータ回転速度ωは、前述(図1、図2)のように、モータ制御装置1において検出または算出され得る。
したがって、この場合、モータ制御装置1は、dq軸電流Id、Iqおよびモータ回転速度ωの検出値に基づき、式(1)の右辺に示す演算処理を行うことにより、dq軸電圧値Vd、Vqを算出することができる。
【0108】
このように、第2の算出方法を適用した場合、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrは、以下のように設定される。
まず、通常時におけるdq軸電圧値Vd、Vqの演算誤差の最大値を、回路定数R、L、Ψaのばらつきの最大値と、dq軸電流Id、Iqと、モータ回転速度ωの検出誤差とに基づき、dq軸電圧値Vd、Vqの演算誤差が最大となる組み合わせにより決定する。
【0109】
続いて、dq軸電圧値Vd、Vqの演算誤差の最大値に、前述の3相電圧指令V*から実際の印加電圧までのdq軸電圧偏差Evd、Evqの最大値を加算した値を求め、この加算値よりも大きな値で所定誤差Ethrを設定する。また、加算値よりもいくらか大きな値に設定することにより、誤った検知に対する余裕も得られる。
【0110】
(3)次に、第3の算出方法について説明する。
第3の算出方法は、前述の式(1)の右辺から、微分項以外のd軸電流Idの項を削除した方法であり、以下の式(2)の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0111】
【数2】
【0112】
また、この場合、所定誤差Ethr(通常時における最大の制御誤差の判定閾値)は、第2の算出方法で説明した値に設定すればよい。
なぜなら、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下の領域において、d軸電流Idは、通常、ほぼゼロに制御されており、d軸電流Idの項を削除(無視)した際の算出値への影響は十分に小さいからである。
【0113】
(4)次に、第4の算出方法について説明する。
第4の算出方法は、第3の算出方法における式(2)から、モータ回転速度ωの項を削除した方法であり、以下の式(3)の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0114】
【数3】
【0115】
この場合、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrの設定時においては、モータ回転速度ωを所定速度ωthrとした場合に、式(3)で削除したモータ回転速度ωの項の値を、第3の算出方法で説明した値に加算する形で反映させればよい。
【0116】
(5)次に、第5の算出方法について説明する。
第5の算出方法は、第3の算出方法における式(2)から、右端の微分項を削除した方法であり、以下の式(4)の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0117】
【数4】
【0118】
この場合、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrの設定時においては、式(4)で削除した微分項の最大値を、第3の算出方法で説明した値に加算する形で反映させればよい。
【0119】
なお、微分項の最大値については、前述の実施の形態1と同様に、外乱などにより発生する最大の振幅を、モータ回転速度ωの上限値である所定速度ωthrによって決定する最大の電流応答の微分により決定すればよい。
【0120】
(6)次に、第6の算出方法について説明する。
第6の算出方法は、第5の算出方法における式(4)から、モータ回転速度ωの項を削除した方法であり、以下の式(5)の下段(q軸電圧値Vq)側の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0121】
【数5】
【0122】
この場合、d軸電圧値Vdは常にゼロなので、演算する必要はない。
なお、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrの設定時においては、モータ回転速度ωを所定速度ωthrとした場合に、式(4)で削除したモータ回転速度ω項の値を、第5の算出方法で説明した値に加算する形で反映させればよい。
【0123】
以下、第6の算出方法における所定誤差Ethrの設定について、まとめて説明する。
まず、通常時における最大のdq軸電圧値Vd、Vqを、回路定数R、L、Ψaのばらつきの最大値と、dq軸電流Id、Iqの最大値と、モータ回転速度ωの最大値である所定速度ωthrとに基づいて、dq軸電圧値Vd、Vqの大きさが最大となる組み合わせにより決定する。
また、式(1)の右辺の最後の微分項については、前述の実施の形態1と同様に、所定速度ωthrによって決定する最大の振幅により決定すればよい。
【0124】
次に、通常時における最大のdq軸電圧値Vd、Vqに、3相電圧指令V*と実際の印加電圧とのdq軸電圧偏差Evd、Evqの最大値を加算した値を求め、この加算値よりも大きな値で所定誤差Ethrを設定する。
また、その加算値よりもいくらか大きな値に設定することにより、誤った検知に対する余裕も得られる。
【0125】
以上の第1〜第6の算出方法のうち、第2〜第6の算出方法は、式(1)〜式(5)に基づき、dq軸電圧値Vd、Vqの推定値を演算するものである。
また、第3〜第6の算出方法のように、式(2)〜式(5)において右辺の項を減らすことにより、演算量を削減することができる。
【0126】
特に、第6の算出方法の式(5)が最も演算量が少ないが、省略した項が最も多いことから、制御誤差の判定条件の閾値である所定誤差Ethrを大きく設定する必要があるので、故障の検知に要する時間は、上記算出方法の中では比較的長くなる。
【0127】
次に、図1および図8を参照しながら、この発明の実施の形態2による故障検知動作について説明する。
図8においては、前述(図7)と同様に、図1内のU相の上側のスイッチング素子UPが開放状態となる故障が発生した場合における状態量の時間応答を示しており、図中の左端が故障発生時刻t0である。
なお、dq軸電圧値Vd、Vqについては、式(3)(第4の算出方法)を用いたが、他の算出方法を適用しても、同等以上の検知が可能なことは言うまでもない。
【0128】
この場合、U相の上側のスイッチング素子UPが開放状態にあるので、U相電流Iu(図8内の2段目波形内の太実線)は、前述と同様に、電流が流れずにゼロに固着している水平波形期間があることが分かる。
また、U相電流Iuの水平波形期間とほぼ同じ期間において、U相電圧指令Vu*(1段目波形)が他の相よりも相対的に大きくなり、制御誤差すなわちdq軸電圧偏差Evd、Evq(3段目波形)が増大していることが分かる。
【0129】
上記状態を反映して、3相電圧指令V*の判定条件と、3相電流の判定条件と、制御誤差の判定条件とが、それぞれ成立する様子が分かる(4段目波形参照)。
なお、図示しないが、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件は常に成立している。
【0130】
すべての判定条件の成立時に、判定成立を確定させるための時間信号tc(5段目波形内の実線参照)は、カウントアップされて増加していく。
故障検知時刻t3は、時間信号tcが所定時間tc_thr(故障検知を確定させるための閾値)を超えた時刻であり、故障検知時刻t3において、U相の開放状態の故障が確定する。
【0131】
一方、従来方法の積算時間(5段目波形内の破線参照)は、前述のように、検知タイミングが遅くなることから増加ピッチが小さくなるので、故障検知時刻t4は、この発明の実施の形態1による故障検知時刻t3よりも、遅れていることが分かる。
【0132】
以下、この発明の実施の形態2による上記故障検知動作について、各判定条件の役割を要約して総括的に説明する。
まず、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件を適用することによって、モータ2の通常の出力範囲のみを考慮した故障検知とし、モータ2の出力限界に基づいた異常判定を不要にすることができる。
【0133】
また、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)という判定条件によって、相電流をゼロ付近に制御している状態を除外することができ、かつ、相電流の判定条件によって、x相の電流が流れない状態を検出することができるので、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかが判定できる。
【0134】
さらに、制御誤差(dq軸電圧偏差Evd、Evq)の判定条件により、異常な状態であるか否かを検出することができる。
したがって、これらすべての条件が成立したときに、x相に開放状態の故障が発生した検知できる。また、すべての相について同様の判定処理を行うことにより、どの相に開放状態の故障が発生したかを検知することができる。
【0135】
また、電流制御の追従性については、通常に用いられる適切な範囲に保つことにより、不要に制御誤差を拡大させないようにしている。
このように設計された追従性において、3相電圧指令V*と実際の印加電圧との誤差や、3相電圧指令V*と推定電圧との推定誤差を、外乱などにより発生する相電流などの最大値を、判定条件の閾値やパラメータ変動(ばらつき)の幅から見積もって、制御誤差における異常な範囲の閾値を決定する。
【0136】
これにより、誤った検知を回避するとともに、出力限界を超えたか否かという判定を用いずに、制御誤差が通常か否かで異常の発生を判定することにより、故障の検知を早くすることができる。
また、相電圧が他の相よりも大きいか否かを判定することにより、相電圧指令のゼロ付近における誤った検知を防止することができるので、検知精度の向上および検知の迅速化を両立することができる。
【0137】
この発明の実施の形態2によるモータ制御装置1は、モータ2の出力限界に基づく異常状態の判定を行わずに、モータ回転速度ωなどの判定条件の閾値から見積もった通常動作領域における制御誤差の最大値を閾値として、制御誤差に基づいて異常状態を判定している。
【0138】
この結果、いずれの相に開放状態の故障が発生したかを検知する際に、相電流や電圧指令などの状態量が出力限界を超えた状態になるのを検出する必要がなく、制御誤差の増大によって異常状態を判定することができ、故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができる。
すなわち、故障の検知が早いという効果が得られるので、故障に応じた処置に早く移行することができる。
【0139】
なお、図6内のステップS7において、この発明の実施の形態2に示した制御誤差(電圧偏差)に関する判定条件と、前述の実施の形態1に示した制御誤差(電流偏差)に関する判定条件と組み合わせて、2つの判定条件のうち少なくとも一方が成立した場合に、制御誤差が過大であるという判定条件が成立するように変更してもよい。これにより、制御誤差の異常をより早く検知することができる。
【0140】
以上のように、この発明の実施の形態2(図8)によれば、制御誤差は、電圧指令値とモータ2への印加電圧との電圧偏差に応じた値であり、印加電圧は推定値とすることができる。
また、印加電圧の推定値は、電流およびモータ回転速度ωの少なくとも一方に応じた値である。
これにより、電圧センサを用いなくても、他の状態量から推定した印加電圧値に応じて判定条件を設定することができる。
【0141】
なお、上記実施の形態1、2においては、x相電流Ixをゼロ付近に制御しているx相電圧指令Vx*の状態(x相電圧指令Vx*がゼロ付近にある状態)を除外するために、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でないという判定条件として、x相電圧指令Vx*が他の相に比べて大きいことに設定したが、これに限定されることはない。
たとえば、3相電圧指令V*の符号(正負)が前回と等しいか否かを判定条件とすることにより、3相電圧指令V*がゼロ付近の状態(ゼロを跨ぐ前後の状態)を除外することができる。
【0142】
また、3相のコイルを有するモータ2について述べたが、たとえば、3相中の1相が故障して正常に動かせるモータ2の相が2相の状態になった場合においても、適用可能であることは言うまでもない。
【0143】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1、2では、モータ2の巻線やインバータ22が1組のみの場合を示したが、図9のように、モータ2が複数相からなる巻線を複数組備えた構成であってもよい。
【0144】
図9はこの発明の実施の形態3に係るモータ制御装置1の全体構成を概略的に示すブロック図であり、前述と同様のものに対しては、前述と同一符号を付すとともに、符号の後に系統番号を付している。ここでは、2系統の場合を例にとり、第1、第2系統に対して「1、2」または「A、B」を付している。
【0145】
図9において、この発明の実施の形態3によるモータ2は、第1、第2系統に対応した複数(ここでは、2組)の巻線組15、16を備えている。
巻線組15は、第1系統側のU1、V1、W1相の3相の巻線からなり、巻線組16は、第2系統側のU2、V2、W2相の3相の巻線からなり、各巻線組15、16は、それぞれスター型結線で各相を結合している。
また、モータ回転角度センサ3は、2系統のモータ2の各回転角度θを検出して、モータ制御装置1内のモータ回転速度演算器21および電流制御手段23に入力する。
【0146】
なお、具体的には図示しないが、巻線組15、16は、ステータを構成しており、モータ2は、ステータと、ロータと、ロータに固定された回転軸と、により構成されている。
なお、ここでは、代表的に、モータ2が、ロータに永久磁石を配置した永久磁石同期モータであって、巻線組15、16がそれぞれ3相の場合を例にとって説明するが、図9の構成に限定されることはなく、3相以上の多相交流で回転駆動するモータ2に対しても、この発明が適用可能なことは言うまでもない。
【0147】
モータ制御装置1は、2系統の巻線組15、16を有するモータ2に対する供給電流および印加電圧を制御するために、電流制御手段23と、巻線組15、16ごとの各相に印加する電圧を制御するインバータ駆動回路24A、24Bおよびインバータ22A、22Bと、を備えている。
【0148】
第1、第2系統に対応したインバータ22A、22Bは、それぞれ、各相の印加電圧を制御するスイッチング素子UP1、UN1、VP1、VN1、WP1、WN1、UP2、UN2、VP2、VN2、WP2、WN2と、各スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードDUP1、DUN1、DVP1、DVN1、DWP1、DWN1、DUP2、DUN2、DVP2、DVN2、DWP2、DWN2と、相電流検出値I1dtc、I2dtcを生成する電流検出器CT11、CT21、CT31、CT12、CT22、CT32と、を各相に有し、巻線組15、16ごとの各相への供給電流を制御する。
【0149】
以下、この発明の実施の形態3によるモータ制御装置1の動作について、具体的に説明する。
モータ制御装置1は、モータ2の各巻線に印加する電圧を制御して、電源4からの電力をモータ2に供給し、各巻線に流す電流を制御することにより、電流にほぼ比例したモータ2の出力トルクを制御する。
【0150】
モータ制御装置1において、モータ回転速度演算器21は、モータ回転角度センサ3からの検出信号(モータ回転角度θ)を取り込み、モータ2の回転速度信号を算出する。
また、電流検出器CT11、CT21、CT31、CT12、CT22、CT32は、モータ2の各相に流れる相電流を検出し、相電流検出値I1dtc、I2dtcを取得する。
【0151】
具体的には、巻線組15側(第1系統側)の相電流検出値I1dtcは、U1、V1、W1相ごとの相電流検出値Iu1dtc、Iv1dtc、Iw1dtcからなる。
同様に、巻線組16側(第2系統側)の相電流検出値I2dtcは、U2、V2、W2相ごとの相電流検出値Iu2dtc、Iv2dtc、Iw2dtcからなる。
なお、ここでは、3相の検出値を総称して、単に相電流検出値I1dtc、I2dtcと表記する。
【0152】
電流制御手段23は、後述するように、モータトルクの目標値に相当する総合トルク電流要求値Is*と、モータ2の各相の相電流検出値I1dtc、I2dtcと、モータ回転角度θとに応じて、相電圧指令V1*、V2*を決定する。
なお、相電圧指令V1*は、U1、V1、W1相電圧指令V1u*、V1v*、V1w*を示し、相電圧指令V2*は、U2、V2、W2相電圧指令V2u*、V2v*、V2w*を示している。
【0153】
インバータ駆動回路24Aは、相電圧指令V1*をPWM変調して、インバータ22Aに対してスイッチング操作を指示する。
インバータ22Aは、インバータ駆動回路24Aからのスイッチング操作信号を受けて、スイッチング素子UP1、VP1、WP1、UN1、VN1、WN1のチョッパ制御を実現し、電源4から供給される電力により、モータ2内の巻線組15の各相U1、V1、W1に目標電流を供給する。
同様に、インバータ駆動回路24Bおよびインバータ22Bは、相電圧指令V2*に応じて、モータ2内の巻線組16の各相U2、V2、W2に目標電流を供給する。
【0154】
次に、図10の具体的なブロック図を参照しながら、この発明の実施の形態3による電流制御手段23の動作について、さらに詳細に説明する。
図10において、この発明の実施の形態3による電流制御手段23は、正常時に使用する通常の制御方式を実行する正常時電流制御手段41、42と、トルク電流分配手段43と、を備えており、2系統の巻線組15、16およびインバータ22A、22B(以下、「第1、第2の巻線駆動系」とも言う)をそれぞれ制御可能に構成されている。
【0155】
トルク電流分配手段43は、総合トルク電流要求値Is*を、第1の巻線駆動系と第2の巻線駆動系とのそれぞれに発生させたい各トルク要求値であるトルク電流指令値Iq1*、Iq2*に分配する。
【0156】
なお、各巻線駆動系に対応したトルク電流指令値Iq1*、Iq2*は、総合トルク電流要求値Ism*の2分の1の値に設定される。
すなわち、トルク電流分配手段43は、各巻線駆動系で等しいトルクを発生して、その合計で目標の出力トルクを得るような設定を行う。
【0157】
続いて、第1系統側の正常時電流制御手段41は、トルク電流指令値Iq1*および相電流検出値I1dtcに基づきdq制御を行い、相電圧指令V1*を生成してインバータ駆動回路24Aに入力する。
同様に、第2系統側の正常時電流制御手段42は、トルク電流指令値Iq2*および相電流検出値I1dtcに基づきdq制御を行い、相電圧指令V2*を生成してインバータ駆動回路24Bに入力する。
【0158】
正常時電流制御手段41、42の各々は、たとえば、前述(図2)の電流制御手段のように構成されており、一般的に用いられるdq制御を実行し、滑らかなモータトルクの発生を実現する。
なお、q軸電流とは、トルクに比例する電流成分(「トルク電流」ともいう)である。一方、界磁磁束を制御するd軸電流については、ここでは零に制御するが、他の値を用いてもよい。
【0159】
このようにして、正常時においては、第1、第2系統の各トルク電流指令値Iq1*、Iq2*に追従するように、第1、第2巻線駆動系のトルク電流が各巻線組15、16に供給され、モータ2において所望の出力トルクを得ることができる。
【0160】
次に、図9内の故障検知手段25の概略機能について説明する。
この発明の実施の形態3による故障検知手段25は、各3相を備える2系統(合計6相)のうちのどの相に、開放状態の故障が発生したかを検知する。
【0161】
図9において、故障検知手段25に対しては、電源4の端子電圧Vbaに対応した電源電圧Vbと、モータ回転速度ωと、相電流検出値I1dtc、I2dtcと、電流制御手段23(正常時電流制御手段41、42)で算出されたdq軸電流偏差Ed(Ed1、Ed2)、Eq(Eq1、Eq2)および相電圧指令V1*、V2*と、が入力される。
【0162】
故障検知手段25は、各入力情報値に基づいて、各相において開放状態の故障が発生したか否かを判定する。
各相が開放状態になる故障とは、U相の場合で説明すると、U相におけるモータ線の断線、または、U相におけるインバータ22A、22Bからモータ2までの経路中のいずれかの部品が開放状態になる故障(インバータ22A、22B内のスイッチング素子UP、UNが開放状態になる故障など)である。
【0163】
故障検知手段25は、故障発生を検知すると、故障検知結果Fを生成して電流制御手段23に入力する。
これにより、電流制御手段23は、故障に応じた処置へ移行することが可能となる。なお、故障に応じた処置とは、インバータ駆動回路24に対する制御の停止、または、故障に応じた異常時制御などが挙げられるが、任意の公知処理なので、ここでは詳述を省略する。
【0164】
故障検知手段25は、概して表現すると、異常疑義判定処理により、どの系統のどの相に異常疑義が生じたかを判定し、異常疑義が生じたx相における電流Ixの絶対値が小さい状態である場合に、x相に開放状態の故障が発生したものと判定する。
【0165】
具体的には、故障検知手段25は、電源電圧Vbが所定電圧以上(Vb≧Vthr)、かつ、モータ回転速度ωが所定速度以下(ω≦ωthr)、かつ、対象とするx相(U、V、W相のいずれかの相)のx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相の電圧指令に比べて大きい)ときに、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)が所定誤差以上である場合に、異常の疑義があると判定する。
【0166】
また、対象とするx相(U、V、W相のいずれかの相)のx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相の電圧指令に比べて大きい)ときに、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)が所定誤差以上である状態という条件については、x相電圧指令Vx*が所定印加電圧以上(Vx*>Vxthr)であることに置き換えてもよい。
【0167】
次に、前述の実施の形態1、2(図6)に対応した図11のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3による故障検知手段25の動作について詳細に説明する。
故障検知手段25は、各3相を備える2系統(合計6相)のそれぞれについて、図11の処理手順により各相の故障を検知する。
【0168】
図11において、ステップS20、S21およびステップS6からステップS8への処理は、前述(図6)と異なるが、他の処理(ステップS1、S2、S8〜S14)については、前述と同様なので詳述を省略する。
なお、図11においては、代表的な一例として、第1系統のU相を故障検知対象としているが、他の系統の他の相についても、図11と同様の処理手順が実行される。
【0169】
図11において、まず前述と同様に、計測フラグ判定処理(ステップS1)および時間信号の初期化処理(ステップS2)に続いて、どの系統のどの相に異常の疑義があるかを判定する異常疑義判定処理(ステップS20)を行う。
異常疑義判定処理(ステップS20)の詳細については、図12を参照しながら後述する。
【0170】
続いて、異常疑義判定処理(ステップS20)の判定結果に基づき、対象とする系統(第1系統)の対象とする相(U相)が異常か否かを判定し(ステップS21)、当該系統の当該相に異常なし(すなわち、No)と判定されれば、計測期間カウンタのインクリメント処理(ステップS12)に進む。
【0171】
一方、ステップS21において、当該系統の当該相が異常(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、|Iu|≦Iu_thrを満たすか否かを判定し(ステップS6)、|Iu|>Iu_thr(すなわち、No)と判定されれば、ステップS12に進む。
一方、ステップS6において、|Iu|≦Iu_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、計測フラグON処理(ステップS8)に進む。
ステップS8以降の処理は、前述の通りである。
【0172】
次に、図12のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3による異常疑義判定処理(ステップS20)の具体的手順について説明する。
図12において、故障検知手段25は、まず、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理(ステップS101)を行い、電源電圧Vbが所定電圧Vtr以上、かつ、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下(所定範囲内)であるか否かを判定する。
電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理(ステップS101)の詳細については、図13を参照しながら後述する。
【0173】
続いて、ステップS101の判定結果が所定範囲内であるか否かを判定し(ステップS102)、所定範囲外(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常疑義なしを示すフラグを立てて(ステップS107)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0174】
一方、ステップS102において、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定結果が所定範囲内(すなわち、Yes)と判定されれば、指令誤差が過大であるか否かの判定処理(ステップS103、S105)に進む。
【0175】
ステップS103においては、第1系統において指令誤差が過大であるか否かを判定する。すなわち、「第1系統の制御誤差が過大で、かつ相電圧指令がゼロ付近ではない」という条件が成立するか否かを判定する。
なお、ステップS103の判定条件は、相電圧指令が過大という条件に置き換えてもよい。
【0176】
ステップS103において、「第1系統の制御誤差が過大」の条件が非成立(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常疑義なしを示すフラグを立てて(ステップS107)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0177】
一方、ステップS103において、上記条件が成立する(すなわち、Yes)と判定されれば、第1系統の異常疑義成立と見なし、第1系統の当該相における指令誤差が過大であって異常疑義有りを示すフラグを立てて(ステップS104)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0178】
同様に、ステップS105においては、第2系統について、「第2系統の制御誤差が過大」の条件の成否を判定し、条件が成立しない場合にはステップS107に進み、条件が成立する場合には、第2系統の異常疑義成立と見なし、第2系統の当該相における指令誤差が過大であって異常疑義有りを示すフラグを立てて(ステップS104)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0179】
なお、前述の通り、指令誤差判定処理(ステップS103、S105)は、制御誤差が過大であって、かつ相電圧指令がゼロ付近でないことを判定条件としているが、制御誤差は、前述の実施の形態1で述べたdq軸電流偏差Ed、Eqを用いてもよく、または、前述の実施の形態2で述べたdq軸電圧偏差Evd、Evqを用いればよい。
【0180】
前述の実施の形態1、2では、巻線駆動系が1組のみであったが、この発明の実施の形態3では、第1、第2系統において、それぞれ同様の演算を行えばよい。なお、dq軸電流偏差Ed、Eqおよびdq軸電圧偏差Evd、Evqの詳細な説明は、前述と同様なので、ここでは詳述を省略する。
【0181】
ステップS103において、たとえば、√(Ed^2+Eq^2)<Ethrが成立する場合には、制御誤差が過大でないと判定し、(√(Ed^2+Eq^2)≧Ethrが成立する場合には、制御誤差が過大であると判定する。
【0182】
また、相電流指令がゼロ付近でないか否かの判定は、U相電圧指令Vu*がゼロ付近でない(U相電圧指令Vu*が最大)か否かを判定することであり、U相電圧指令Vu*の値が図4内の領域A1(または、A2)に入っているか否かの判定に相当する。
【0183】
対象とする系統の制御誤差が過大であって、かつ対象とする相電圧指令Vx*がゼロ付近でない場合には、ステップS103において、指令誤差の過大条件が成立する(すなわち、Yes)と判定され、それ以外の場合、非成立(すなわち、No)と判定される。
【0184】
なお、ステップS103においては、制御誤差が過大であって、かつ相電圧指令がゼロ付近以外であることを判定条件としたが、対象とする相電圧指令が過大であるか否かの判定に置き換えてもよい。
この場合、当該相電圧指令(上記例では、U相電圧指令Vu*)の絶対値が、所定印加電圧Vxthr以上であるか否かにより誤差過大条件の成否を判定する。
【0185】
つまり、|Vu*|≧Vxthrが成立すれば、指令誤差過大が成立する(すなわち、Yes)と判定し、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定する。
なお、所定印加電圧Vxthrの値については、前述の実施の形態1における所定誤差Ethrの設定において述べたように、たとえば、外乱電圧から相電圧指令の応答を考慮して設計すればよい。
【0186】
次に、図13のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3による電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理(ステップS101)の具体的手順について説明する。
図13において、ステップS201、S202は、それぞれ、前述(図6)のステップS3、S4と同様の処理である。
【0187】
ステップS201においては、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であるか否かを判定し、Vb<Vthr(すなわち、No)と判定されれば、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωが所定範囲外であることを示すフラグを立てて(ステップS204)、図13の処理ルーチンを終了する。
【0188】
一方、ステップS201において、Vb≧Vthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下であるか否かを判定し(ステップS202)、ω>ωthr(すなわち、No)と判定されれば、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωが所定範囲外であることを示すフラグを立てて(ステップS204)、図13の処理ルーチンを終了する。
【0189】
一方、ステップS202において、ω≦ωthr(すなわち、Yes)と判定されれば、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωが所定範囲内であることを示すフラグを立てて(ステップS203)、図13の処理ルーチンを終了する。
【0190】
以上のように、図11内のステップS20、S21において、対象とする系統の対象とする相に異常の疑義があるか否かを判定することができ、異常の疑義がある場合には、ステップS6に進み、当該相の相電流の絶対値が過小であることを判定して、当該相に開放状態の故障が発生したことを検知することができる。
【0191】
また、図13内のステップS101の電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理を、各系統における判定処理で個別に実行することなく、共通して実行すればよく、その分、演算が簡略化することができるという効果がある。
【0192】
以上のように、この発明の実施の形態3(図9〜図13)に係るモータ制御装置は、
複数相の巻線からなる巻線組を複数系統(巻線組15、16)有するモータ2に対し、電源4から供給される電流および印加電圧を制御するために、複数系統の巻線組15、16の各相に対する印加電圧を制御する複数のスイッチング素子UP1〜WP1、UN1〜WN1、UP2〜WP2、UN2〜WN2を有し、電源4から複数系統の巻線組15、16の各相に供給する電流を制御する複数系統のインバータ22A、22Bと、複数系統の巻線組15、16の各相に供給する電流に対応した複数組の電流指令に応じて、複数系統のインバータ22A、22Bの各々に印加電圧に対応した複数組の電圧指令V1*、V2*を生成し、複数系統の巻線組15、16の各相に流す電流を制御する電流制御手段23と、複数系統の巻線組15、16の各相または複数系統のインバータ22A、22Bのいずれかの配線の断線、または、複数のスイッチング素子UP1〜WP1、UN1〜WN1、UP2〜WP2、UN2〜WN2のいずれかのオープン故障を検知する故障検知手段25と、を備えている。
【0193】
故障検知手段25は、複数系統のインバータ22A、22Bおよび複数系統の巻線組15」、16の各々で構成される複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する異常疑義判定処理を行い、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相の相電流が所定電流Ix_thr以下である状態が所定時間(計測期間tm_thr)以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0194】
これにより、図9のように、複数系統の巻線駆動系を備えた場合であっても、異常が生じた系統の判定と、相電流の過小状態の判定とにより、オープン故障を特定することができるので、相の開放状態の故障を正確に特定することができる。
また、故障検知手段25による異常疑義判定処理(図12)において、一部の判定処理を共通化や系統間の相互比較を行うことができ、この結果、故障の検知精度および検知速度を向上させつつ、簡易な演算による故障検知を可能とすることができる。
【0195】
また、故障検知手段25は、異常疑義判定処理(図12)において、複数の系統の各々に共通して、電源4の電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であって、かつ、モータ2のモータ回転速度ωが所定速度ωthr以下である条件が成立するか否かを判定し、条件が成立したときに、さらに、複数の系統の各々において、電流指令または電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定してもよい。
これにより、一部判定が共通化されるので、検知精度および検知速度を向上させつつ、演算を簡易化することができる。
【0196】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3(図9〜図13)では、故障検知手段25の異常疑義判定処理(図12)において、複数系統の電源電圧Vbの判定処理(ステップS101)を共通に実行したが、図14(ステップS302、S306)のように、複数の系統ごとに電源電圧Vb1、Vb2の判定処理を実行してもよい。
【0197】
図14はこの発明の実施の形態4による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートであり、ステップS303〜S305、S307、S308は、前述(図12参照)のステップS103、S104、S107、S105、S106と同様の処理である。
図14においては、各系統に対して、電源電圧Vb1、Vb2の判定処理(ステップS302、S306)を個別に実行する点が前述(図12)と異なる。
【0198】
なお、この発明の実施の形態4の構成は、図9および図10に示した通りであり、基本的な制御処理手順は、図11に示した通りである。
ただし、この場合、図9内の電源電圧検出器26は、第1系統側に供給される電源電圧Vba1と、第2系統側に供給される電源電圧Vba2を個別に計測する。
また、故障検知手段25は、電源電圧Vb1、Vb2の判定処理を系統ごとに個別に実行する。
【0199】
図14において、故障検知手段25は、まず、モータ回転速度ωが所定速度以下(ω≦ωthr)であるか否かを判定し(ステップS301)、ω>ωthr(すなわち、No)と判定されれば、前述(図12)のステップS107と同様に、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常疑義なしを示すフラグを立てて(ステップS305)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0200】
一方、ステップS302において、ω≦ωthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、各系統の電源電圧Vb1、Vb2の判定処理(ステップS302、S306)に進む。
ステップS302においては、第1系統側の電源電圧Vb1が所定電圧以上(Vb1≧Vthr)であるか否かを判定し、Vb1<Vthr(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なして(ステップS305)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0201】
一方、ステップS302において、Vb1≧Vthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、前述(図12)のステップS103と同様に、対象とする第1系統の指令誤差の過大判定処理(ステップS303)を行い、指令誤差が過大ではない(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なして(ステップS305)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0202】
一方、ステップS303において、指令誤差が過大である(すなわち、Yes)と判定されれば、前述(図12)のステップS104と同様に、第1系統の対象とする相における指令誤差が過大であって、異常の疑義があることを示すフラグを立てて(ステップS304)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0203】
図14内のステップS302〜S304は、第1系統についての処理であるが、ステップS306〜S308は、第2系統についての処理である。
ステップS306〜S308の詳細については、第2系統の各値に対して第1系統と同様の処理を実行するのみなので詳述を省略する。
【0204】
以上のように、この発明の実施の形態4(図9、図14)による故障検知手段25は、複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行う。
すなわち、故障検知手段25は、異常疑義判定処理(図14)において、各インバータ22A、22Bおよび各巻線組15、16の系統ごとに構成された複数の系統(第1系統、第2系統)のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する。
【0205】
具体的には、ステップS302、S306において、電源4の電源電圧Vb1、Vb2が所定電圧Vthr以上(すなわち、Yes)であって、かつ、ステップS301において、モータ2のモータ回転速度ωが所定速度ωthr以下(ステップS301)であったときに、電流指令または電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0206】
また、故障検知手段25は、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0207】
このように、異常疑義判定処理において、系統ごとに個別に状態検出および判定を行うことにより、複数系統の巻線駆動系を備えた場合であっても、相の開放状態の故障を正確に特定することができ、さらに、他の系統に依存せずに、検知精度を個別に高めることができる。
【0208】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態3、4(図12、図14)では、異常疑義判定処理において、電源電圧およびモータ回転速度を用いたが、図15(ステップS401、S402、S405、S406)のように、系統ごとの状態量(制御誤差や電圧指令など)を系統間で相互に比較してもよい。
【0209】
図15はこの発明の実施の形態5による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートであり、ステップS401、S403〜S405、S407は、前述(図14参照)のステップS303〜S305、S307、S308と同様の処理である。
図15においては、各系統における制御誤差や電圧指令などの状態量を、系統間で相互に比較(ステップS403、S406)することにより、どの系統に異常の疑義が生じているかを判定する点が前述(図14)と異なる。
【0210】
図15において、故障検知手段25は、まず、対象とする系統(ここでは、第1系統)における指令誤差が過大であるか否かを判定し(ステップS401)、指令誤差が過大ではない(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常の疑義がないことを示すフラグを立てて(ステップS404)、図15の処理ルーチンを終了する。
【0211】
ステップS401の指令誤差過大判定の詳細は、前述(図12、図14)のステップS103、S303とほぼ同様であるが、相違点に注目して後述する。
ステップS401において、制御誤差(または、相電圧指令)が過大である(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、他方の系統(第2系統)が正常状態であるか否かを判定する(ステップS402)。
【0212】
ステップS402において、他方の系統の制御誤差(または、相電圧指令)が十分に正常範囲(適正範囲内)にある(すなわち、Yes)と判定されれば、第1系統(対象とする系統)の異常疑義成立と見なし、第1系統の対象とする相において指令誤差が過大であり異常の疑義があることを示すフラグを立てて(ステップS403)、図15の処理ルーチンを終了する。
【0213】
一方、ステップS402において、他方の系統(第2系統)の制御誤差(または、相電圧指令)が適正範囲から逸脱している(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なして(ステップS404)、図15の処理ルーチンを終了する。
【0214】
図15内のステップS401〜S403は、第1系統についての処理であるが、ステップS405〜S407は、第2系統についてのフローである。
ステップS405〜S407の詳細については、第2系統の各値に対して第1系統と同様の処理を実行するのみなので詳述を省略する。
【0215】
ステップS401、S405における指令誤差の過大判定処理は、制御誤差が過大であって、かつ、相電圧指令がゼロ付近でないことを判定条件としている。
ここで、制御誤差は、前述の実施の形態1で述べたdq軸電流偏差Ed、Eq、または、前述の実施の形態2で述べたdq軸電圧偏差Evd、Evqを用いればよい。
【0216】
前述の実施の形態1、2では、巻線駆動系が1組のみであったが、この発明の実施の形態5では、第1、第2系統においてそれぞれ、同様の演算をすればよい。
なお、dq軸電流偏差Ed、Eqおよびdq軸電圧偏差Evd、Evqについては、前述と同様なので詳述を省略する。
【0217】
ステップS401において、たとえば、√(Ed^2+Eq^2)<Ethrが成立する場合は、制御誤差が過大でないと判定され、(√(Ed^2+Eq^2)≧Ethrが成立する場合は、制御誤差が過大と判定される。
なお、相電流指令がゼロ付近でないことの判定は、U相電圧指令Vu*がゼロ付近でない(U相電圧指令Vu*が最大)か否かを判定するものであり、U相電圧指令Vu*の値が前述(図4)の領域A1(または、A2)に入っているか否かの判定に相当する。
【0218】
したがって、ステップS401において、対象とする系統の制御誤差が過大であって、かつ、相電圧指令Vx*がゼロ付近でない場合には、指令誤差過大が成立(すなわち、Yes)と判定され、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定される。
【0219】
また、制御誤差の過大および相電圧指令のゼロ付近以外を判定条件としたが、制御誤差の過大のみを判定状態としてもよい。
なぜなら、相電圧指令がゼロ付近である場合を判定条件から除いた理由は、電流が正常であってもゼロクロスする場合があることから、正常状態を異常状態と誤判定することを回避するためであるが、この発明の実施の形態5においては、他系統との相互比較を用いているので、他系統の制御誤差が小さく正常であり(ステップS402)、かつ、対象とする系統の制御誤差が大きい場合に限定して、対象とする系統の異常疑義成立を判定するからである。このように、他系統との相互比較を用いることにより、制御誤差の過大条件のみから、異常の疑義を判定することができる。
【0220】
なお、この発明の実施の形態5において、制御誤差が適正範囲内を示す閾値すなわち適正制御誤差Erthrは、前述の実施の形態1における所定誤差Ethrよりも小さい値に設定するものとする。
たとえば、√(Ed^2+Eq^2)≦Erthrが成立する場合には、制御誤差が適正範囲内にあると判定され、(√(Ed^2+Eq^2)>Erthrが成立する場合には、制御誤差が適正範囲から逸脱したと判定される。
【0221】
前述の実施の形態1における所定誤差Ethrは、モータ回転速度ωの判定閾値である所定速度ωthr以下の外乱を仮定して設定したが、この発明の実施の形態5においては、各系統間の相対比較を用いているので、所定速度ωthrを考慮する必要はなく、適正制御誤差Erthrは、前述の所定誤差Ethrよりも小さい値に設定することが可能となる。
【0222】
この場合、適正制御誤差Erthrを所定誤差Ethrよりも小さい値に設定しても、他方の系統が正常であることを判定しているので、外乱により誤検知が生じる可能性はない。同様に、他方の系統における適正制御誤差Erthrについても、所定誤差Ethrよりも小さい値に設定すればよい。
【0223】
このように、異常に過大な状態を判定する閾値である適正制御誤差Erthrを、前述の所定誤差Ethrよりも小さい値に設定することができるので、故障検知精度を向上させるとともに、故障発生から検知までに要する時間を短縮(検知速度を速く)することができる。
【0224】
なお、図15内のステップS401においては、制御誤差の過大および相電圧指令のゼロ付近以外を判定条件としたが、対象とする相電圧指令が過大か否かの判定に置き換えてもよい。
この場合、対象とする相電圧指令(この例では、U相電圧指令Vu*)の絶対値が、所定印加電圧Vxthr以上であるか否かにより、制御誤差の過大状態を判定する。
【0225】
具体的には、ステップS401において、|Vu*|≧Vxthrの場合には、指令誤差過大が成立(すなわち、Yes)と判定し、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定することになる。
なお、所定印加電圧Vxthrの値については、前述の実施の形態1における所定誤差Ethrの設定で述べたように、たとえば、外乱電圧から相電圧指令の応答を考慮して設計すればよい。
【0226】
また、同時に、ステップS402においては、他の系統の相電圧指令が過大か否かを判定してもよい。具体的には、他方の系統のU相電圧指令Vu*の絶対値が、適正印加電圧Vrxthr以下か否かにより、他系統の正否を判定してもよい。
この場合、ステップS402において、|Vu*|≦Vrxthrが成立するときに、他系統の正常判定が成立(すなわち、Yes)と判定し、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定することになる。
なお、適正印加電圧Vrxthrについては、所定印加電圧Vxthrよりも小さい値に設定すればよい。
【0227】
所定印加電圧Vxthrについても、所定誤差と同様の議論が可能であり、前述の実施の形態3(図12)では、外乱電圧から相電圧指令の応答を考慮して設計したが、この発明の実施の形態5においては、各系統間の相対比較を用いていので、モータ回転速度ωなどで決まる外乱電圧を考慮する必要はなく、所定印加電圧Vxthrは、たとえば前述の実施の形態3における値よりも小さい値に設定することができる。
【0228】
この場合、所定印加電圧Vxthrを小さい値に設定しても、他方の系統が正常であることを判定しているので、外乱によって誤検知が生じる可能性はない。
同様に、他方の系統における適正印加電圧Vrxthrについても、前述の実施の形態3における所定印加電圧Vxthrよりも小さい値に設定すればよい。
【0229】
このように、異常に過大な状態を判定する閾値である所定印加電圧Vxthrを、前述の実施の形態3よりも小さい値に設定することができるので、故障検知精度を向上させるとともに、故障発生から検知までに要する時間を短縮(検知速度を速く)することができる。
【0230】
以上のように、この発明の実施の形態5による故障検知手段25は、各インバータ22A、22Bおよび各巻線組15、16で構成された複数の系統の各々について異常疑義判定処理(図15)を行い、複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する。
具体的には、複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が所定誤差以上で、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0231】
また、故障検知手段25は、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0232】
また、故障検知手段25は、複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令が所定印加電圧以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0233】
制御誤差は、電流指令に応じた値であり、具体的には、電流指令の値と電流との電流偏差(dq軸電流偏差Ed、Eq)に応じた値である。
または、制御誤差は、電圧指令値と印加電圧との電圧偏差(dq軸電圧偏差Evd、Evq)に応じた値であり、印加電圧は、電流およびモータ回転速度ωの少なくとも一方に応じた推定値である。
【0234】
これにより、前述の実施の形態3、4と同様に、複数系統の巻線駆動系を備えた場合であっても、相の開放状態の故障を正確に特定することができ、故障検知の精度および速度を向上させることができる。
【0235】
また、モータ回転速度ωの条件や電源電圧Vbの条件が不要となり、動作状態の限定を受けることがないので、広い動作範囲で故障の検知が可能となる。
さらに、各系統間で相互比較を行うので、単独で判定処理を行う場合よりも異常状態の閾値を小さい値(厳しい判定方向)に設定することができるので、さらに故障検知の精度および速度を向上させることができる。
【0236】
なお、上記説明では、指令誤差の過大判定処理(ステップS401)と他系統の正常判定処理(ステップS402)とを個別に実行したが、対象とする系統と他方の系統との差を判定するようにして、統合してもよい。
【0237】
この場合、故障検知手段25は、複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が、他方の系統における制御誤差よりも所定差分誤差以上大きい場合、または、対象とする系統における制御誤差から他方の系統における制御誤差を減算した値が所定差分誤差以上である場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0238】
具体的には、対象とする系統の制御誤差をE1とし、他方の系統の制御誤差をE2とすると、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値から、他方の系統の制御誤差E2の絶対値を減算した値が、所定差分誤差Ethrd以上であるか否かの条件に置き換えればよい。
【0239】
これを式で表現すると、ステップS402において、以下の式(6)が成立するならば、ステップS403に進み、対象とする系統(第1系統)に異常の疑義が生じていると見なす。
【0240】
|E1|−|E2|≧Ethrd ・・・(6)
【0241】
一方、式(6)が非成立ならば、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
【0242】
指令誤差過大判定処理(ステップS405)および他系統正常判定処理(ステップS406)についても、同様に置き換えればよい。
なお、所定差分誤差Ethrdは、所定誤差と適正制御誤差との差分に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0243】
また、制御誤差ではなく相電圧指令を用いた場合も同様であり、故障検知手段25は、対象とする系統における電圧指令が、他方の系統における電圧指令よりも所定差分印加電圧以上大きい場合、または、対象とする系統における電圧指令から他方の系統における電圧指令を減算した値が所定差分印加電圧以上である場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することができる。
【0244】
具体的には、対象とする系統(第1系統)の相電圧指令をVx1とし、他方の系統(第2系統)の相電圧指令をVx2とすると、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値から、他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値を減算した値が、所定差分印加電圧Vxthrd以上であるか否かの条件に置き換えればよい。
【0245】
これを式で表現すると、ステップS402において、以下の式(7)が成立するならば、ステップS403に進み、対象とする系統(第1系統)に異常の疑義が生じていると見なす。
【0246】
|Vx1|−|Vx2|≧Vxthrd ・・・(7)
【0247】
一方、式(7)が非成立ならば、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
【0248】
指令誤差過大判定処理(ステップS405)および他系統正常判定処理(ステップS406)についても、同様に置き換えればよい。
なお、所定差分印加電圧Vxthrdは、所定印加電圧と適正印加電圧との差分に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0249】
また、上記式(6)は、等価的変形が当然可能であり、たとえば、以下の式(8)のように表現することができる。
【0250】
|E1|≧|E2|+Ethrd ・・・(8)
【0251】
すなわち、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値が、他方の系統の制御誤差E2の絶対値に比べて所定差分誤差Ethrd分だけ大きいか否かという条件に置き換えることができる。
相電圧指令についても同様であり、上記式(7)は、以下の式(9)のように表現することができる。
【0252】
|Vx1|≧|Vx2|+Vxthrd ・・・(9)
【0253】
すなわち、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値が、他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値に比べて所定差分印加電圧Vxthrd分だけ大きいか否かという条件に置き換えることができる。
【0254】
また、上記説明では、指令誤差過大判定処理(ステップS401)において、対象とする系統のみの値を用いたが、対象とする系統の値と他方の系統の値との和を判定するようにしてもよい。
【0255】
具体的には、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値と、他方の系統の制御誤差E2の絶対値とを加算した値が、所定加算誤差Ethrs以上であるか否かの条件に置き換えればよい。
これを式で表現すると、ステップS401において、以下の式(10)が成立するならば、対象とする系統の指令誤差が過大であると判定する。
【0256】
|E1|+|E2|≧Ethrs ・・・(10)
【0257】
一方、式(10)が非成立ならば、指令誤差が過大でないので、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
【0258】
すなわち、故障検知手段25は、対象とする系統における制御誤差と、他方の系統における制御誤差との和が所定加算誤差Ethrs以上であって、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
なお、所定加算誤差は、所定誤差と適正制御誤差との和に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0259】
また、制御誤差ではなく相電圧指令を用いた場合も同様であり、具体的には、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値と、他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値とを加算した値が、所定加算印加電圧Vxthrs以上であるか否かに置き換えればよい。
【0260】
この場合、故障検知手段25は、対象とする系統における電圧指令と、他方の系統における電圧指令との和が所定加算印加電圧Vxthrs以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正引火電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0261】
これを式で表現すると、ステップS401において、以下の式(11)が成立するならば、対象とする系統の指令誤差が過大であると判定する。
【0262】
|Vx1|+|Vx2|≧Vxthrs ・・・(11)
【0263】
一方、式(11)が非成立ならば、指令誤差が過大でないので、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
ステップS405についても、ステップS401と同様に、上述の変形が可能である。
なお、所定加算印加電圧Vxthrsは、所定印加電圧と適正印加電圧との和に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0264】
また、上記式(10)は、等価的変形が当然可能であり、たとえば、以下の式(12)のように表現することができる。
【0265】
|E1|≧Ethrd−|E2| ・・・(12)
【0266】
すなわち、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値が、所定差分誤差Ethrdから他方の系統の制御誤差E2の絶対値を減算した値以上であるか否かという条件に置き換えることができる。
相電圧指令についても同様であり、上記式(11)は、以下の式(13)のように表現することができる。
【0267】
|Vx1|≧Vxthrd−|Vx2| ・・・(13)
【0268】
すなわち、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値が、所定差分印加電圧Vxthrdから他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値を減算した値以上であるか否かという条件に置き換えることができる。
【0269】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態5(図15)では、異常疑義判定処理において、対象とする系統の指令誤差の過大条件の成否を判定したが、図16(ステップS501、S505)のように、各系統の状態量(相電流など)を系統間で相互に比較してもよい。
【0270】
図16はこの発明の実施の形態6による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートであり、ステップS502〜S504、S506、S507は、前述(図15参照)のステップS402〜S404、S406、S407と同様の処理である。
図16においては、各系統における対応する相の相電流(状態量)を系統間で相互に比較することにより、どの系統に異常の疑義が生じているかを判定する点が前述(図15)と異なる。
【0271】
図16において、故障検知手段25は、まず、対象とする系統以外の他方の系統(ここでは、第2系統)に関して、他系統の対応する相の相電流が「ゼロ付近でない大きな値」であるか否かを判定する(ステップS501)。
【0272】
ステップS501は、系統間の相違によって異常の疑義を判定する処理であり、図11内のステップS6の判定処理(判定対象とする系統の当該相の相電流が過小状態か否かの判定処理)とは異なる。
【0273】
具体的には、ステップS501の判定処理においては、他方の系統の対応する相の相電流I2xの絶対値が所定通常電流Ixthrn以上(|I2x|≧Ixthrn)であるか否かを判定する。なお、所定通常電流Ixthrnは、所定電流Ix_thrよりも大きく設定すればよい。
【0274】
ステップS501において、他系統の相電流がゼロ付近(すなわち、No)と判定されれば正常と見なし(ステップS504)、図16の処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS501において、他系統の相電流が大きい(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、他方の系統(第2系統)が正常であるか否かを判定する(ステップS502)。
【0275】
ステップS502においては、前述(ステップS402)と同様に、対象とする系統以外の他系統(第2系統)の制御誤差(または、電圧指令)が過大を示す基準値よりも小さな適正範囲内にあるか否かを判定する。
なお、適正範囲とは、十分に正常と見なせる範囲を意味しており、実際の異常範囲からはマージンが設定されているので、適正範囲外がすべて異常という訳ではない。
【0276】
ステップS502において、他方の系統(第2系統)の制御誤差が十分正常な適正範囲内にない(すなわち、No)と判定されれば正常と見なし(ステップS504)、他系統の制御誤差が適性範囲内にある(すなわち、Yes)と判定されれば、対象とする系統(第1系統)の異常擬似条件が成立と見なして(ステップS503)、図16の処理ルーチンを終了する。
【0277】
正常状態判定時のステップS504においては、前述(ステップS107、S305、S404)と同様に、いずれの系統にも異常の疑義がないことを示すフラグを立てる。
また、ステップS503においては、前述(ステップS104、S304、S403)と同様に、第1系統の当該相の指令誤差が過大であって異常の疑義があることを示すフラグを立てる。
なお、第2系統の処理(ステップS505〜S507)については、上記第1系統の処理(ステップS501〜S503)と同様なので説明は省略する。
【0278】
以上のように、この発明の実施の形態6(図16)による故障検知手段25は、対象とする系統ではない他方の系統における対応する相の相電流が所定通常電流Ixthrn以上であって、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0279】
または、故障検知手段25は、他方の系統における対応する相電流が所定通常電流Ixthrn以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0280】
制御誤差は、電流指令に応じた値であり、具体的には、電流指令の値と電流との電流偏差(dq軸電流偏差Ed、Eq)に応じた値である。
または、制御誤差は、電圧指令値と印加電圧との電圧偏差(dq軸電圧偏差Evd、Evq)に応じた値であり、印加電圧は、電流およびモータ回転速度ωの少なくとも一方に応じた推定値である。
【0281】
また、前述の実施の形態3〜5と同様に、故障検知手段25は、インバータ22A、22Bおよび巻線組15、16で構成された複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する異常疑義判定処理(図16)を行い、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0282】
これにより、前述と同様に、複数の系統の巻線駆動系を備える場合にも、相の開放状態の故障を正確に特定することができ、かつ、モータ回転速度ωの条件や電源電圧の条件が不要となり、動作状態の限定がないので、広い動作範囲で故障の検知が可能となり、さらに、系統間で相互比較を行うので、外乱を考慮した判定閾値の設定をしなくてよいので、故障検知の速度を向上することができる。
【0283】
また、モータ回転速度ωなどで決まる外乱電圧を考慮することなく、所定通常電流Ixthrnを決定することができ、このように判定基準を設定しても、他方の系統が正常であることを判定可能なので、外乱による誤検知の可能性はない。
この結果、外乱を考慮した閾値設定にする必要がないので、故障検知速度を向上させることができる。
また、系統間で相互比較を行うので、単独で判定するよりも異常状態の閾値を小さい値(厳しい方向)に設定することができるので、故障検知の精度および速度を向上させることができる。
【0284】
また、他系統相電流大判定処理(ステップS501)において、他系統のみの値を用いたが、対象とする系統と他方の系統との和を用いて判定してもよい。
この場合、故障検知手段25は、対象とする系統の対象とする相の相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であって、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0285】
または、故障検知手段25は、対象とする系統の対象とする相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であて、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0286】
具体的には、対象とする系統の相電流I1xの絶対値と、他方の系統の相電流I2xの絶対値とを加算した値が、所定加算電流Ixthrs以上であるか否かに置き換えればよい。
これを式で表現すると、ステップS501において、以下の式(14)が成立するならば、他系統の相電流が大きいと判定する。
【0287】
|I1x|+|I2x|≧Ixthrs ・・・(14)
【0288】
一方、式(14)が非成立ならば、他系統の相電流がゼロ付近と判定して、ステップS504に進み、正常状態であると見なすことになる。
なお、所定加算電流Ixthrsは、所定電流と所定通常電流との和に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0289】
また、他系統相電流大判定処理(ステップS501)において、他系統のみの値を用いたが、対象とする系統と他方の系統との差を判定するようにしてもよい。
この場合、故障検知手段25は、他方の系統における対応する相電流が、対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0290】
または、故障検知手段25は、他方の系統における対応する相電流が、対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0291】
具体的には、他方の系統の相電流I2xの絶対値から対象とする系統の相電流I1xの絶対値を減算した値が、所定差分電流Ixthrd以上であるか否かに置き換えればよい。
これを式で表現すると、ステップS501において、以下の式(15)が成立するならば、他系統の相電流が大きいと判定する。
【0292】
|I2x|−|I1x|≧Ixthrd ・・・(15)
【0293】
一方、式(15)が非成立ならば、他系統の相電流がゼロ付近と判定して、ステップS504に進み、正常状態であると見なすことになる。
なお、所定差分電流Ixthrdは、所定通常電流から所定電流を減算した値に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0294】
また、上記式(15)は、等価的変形が当然可能であり、たとえば、以下の式(12)のように表現することができる。
【0295】
|I2x|≧|I1x|+Ixthrd ・・・(16)
【0296】
すなわち、他方の系統の相電流I2xの絶対値が、対象とする系統の相電流I1xの絶対値に比べて所定加算電流Ixthrs分だけ大きいか否かという条件に置き換えることができる。
【0297】
実施の形態7.
なお、上記実施の形態1〜6(図1〜図16)では、迅速処理が可能な故障検知手段25を備えたモータ制御装置1のみについて説明したが、図17のように、モータ2を操舵アシストモータに適用するとともに、モータ制御装置1を車両の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。
【0298】
図17はこの発明の実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置を概略的に示すブロック構成図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号が付されている。
【0299】
図17において、電動パワーステアリング装置は、モータトルクTm(補助力)を発生するモータ2と、モータ回転角度センサ3と、電源4と、車両の運転者が操作するステアリングホイール5と、ステアリングホイール5に連結されたステアリングシャフト6と、ステアリングホイール5に加わる運転者の操舵トルクTsを検出するトルクセンサ7と、モータ2とステアリングシャフト6との間に介在されたモータ減速ギヤ8と、ステアリングシャフト6の先端部に設けられたラック・ピニオンギヤ9と、ラック・ピニオンギヤ9を介してステアリングシャフト6からの操舵力が伝達される左右の車輪10、11と、モータ2の状態量および各センサ3、7からの入力情報に基づきモータ2を制御するコントロールユニット12と、を備えている。
【0300】
トルクセンサ7は、運転者がステアリングホイール5を操舵したときに、ステアリングホイール5からステアリングシャフト6に加わった操舵トルクTsを検出し、コントロールユニット12に入力する。
【0301】
また、モータ回転角度センサ3は、モータ2のモータ回転角度θを検出してコントロールユニット12に入力する。
モータ回転角度θの検出値は、コントロールユニット12内のモータ制御装置1(図1、図2参照)に入力されて、前述と同様に、電流制御手段23における3相電圧指令V*の決定に用いられるとともに、モータ回転速度ωの演算に用いられる。
【0302】
コントロールユニット12は、モータ制御装置1と、操舵トルクTsに基づきモータトルクTmの目標値に相当するトルク電流指令(q軸電流指令Iq*)を算出するマップ13と、を備えている。
コントロールユニット12内のマップ13は、モータ2から出力すべきモータトルクTmの目標値をあらかじめ記憶しており、トルクセンサ7からの操舵トルクTsに応じたモータトルクTmの方向と大きさを決定し、モータ2を制御するためのトルク電流指令を算出する。
【0303】
運転者からステアリングホイール5に加えられた操舵トルクTsは、ステアリングシャフト6からラック・ピニオンギヤ9を介してラックに伝達され、車輪10、11を転舵させる。
モータ2は、モータ減速ギヤ8を介してステアリングシャフト6と連結しており、モータ2から発生する補助力(モータトルクTm)は、モータ減速ギヤ8を介してステアリングシャフト6に伝達され、操舵時に運転者が加える操舵トルクTsを軽減させるように作用する。
【0304】
コントロールユニット12内のモータ制御装置1は、トルクセンサ7からの操舵トルクTsに応じて、マップ13からモータ2が付与すべき目標補助力の方向と大きさを決定し、目標補助力を発生させるために、電源4からモータ2に供給する電流を制御する。
すなわち、モータ制御装置1は、トルク電流指令(q軸電流指令Iq*)を実現するように、モータ2に流れる電流を制御する。
この電流により、モータ2からは、目標補助力と一致した補助力が発生する。
【0305】
図9の電動パワーステアリング装置においては、車両の走行中に故障が発生した場合に直ちに制御を停止すると、運転者の感じる違和感が大きくなるので、可能な限り制御を継続させることにより違和感を低減することが望ましい。
【0306】
したがって、コントロールユニット12において、モータ制御装置1内の電流制御手段23は、故障検知手段により何らかの故障が発生したことが検知された場合には、可能な限り良好な制御を継続させるために、故障した箇所と故障内容を短時間に特定し、故障箇所および故障内容に応じたモータ2の制御を行う。
【0307】
たとえば、モータ2のU相に開放状態の故障が特定された場合には、他のV相、W相のみの電流を制御することにより、モータ2の制御を継続する。
また、短時間で故障箇所と故障内容を特定することにより、故障発生後に早く故障状態に対応した制御に移行することが可能となる。
【0308】
以上のように、この発明の実施の形態7(図17)に係る電動パワーステアリング装置は、前述のモータ制御装置1を含むコントロールユニット12と、コントロールユニット12に電力を供給する電源4と、車両の運転者により操作されるステアリングホイール5と、ステアリングホイール5に連結されたステアリングシャフト6と、ステアリングホイール5からステアリングシャフト6に加わる操舵トルクTsを検出するトルクセンサ7と、ステアリングシャフト6に接続されて操舵トルクTsを軽減するためのモータトルクTm(補助力)を発生するモータ2と、を備えている。
【0309】
コントロールユニット12は、操舵トルクTsの検出値に基づき目標補助力を発生させるようにモータ2に対する供給電力を制御するとともに、モータ制御装置1からモータ2までの経路の開放故障が検知された場合には、故障検知内容に応じた制御により、モータ2の制御を継続させる。
【0310】
これにより、たとえば、モータ2の1相が開放状態になる故障を、短い時間で正確に特定することができるので、迅速かつ正確に、故障状態に対応した制御に移行することができ、運転者の感じる違和感を低減することができる。
【符号の説明】
【0311】
1 モータ制御装置、2 モータ、3 モータ回転角度センサ、4 電源、5 ステアリングホイール、6 ステアリングシャフト、7 トルクセンサ、8 モータ減速ギヤ、10、11 車輪、12 コントロールユニット、13 マップ、15、16 巻線組、21 モータ回転速度演算器、22、22A、22B インバータ、23 電流制御手段、24、24A、24B インバータ駆動回路、25 故障検知手段、26 電源電圧検出器、31 2相変換手段、32 減算器、34 d軸制御器、35 q軸制御器、36 3相変換手段、41、42 正常時電流制御手段、43 トルク電流分配手段、、CT1、CT2、CT3、CT11、CT21、CT31、CT12、CT22、CT32 電流検出器、DUP、DVP、DWP、DUN、DVN、DWN、DUP1、DUN1、DVP1、DVN1、DWP1、DWN1、DUP2、DUN2、DVP2、DVN2、DWP2、DWN2 ダイオード、Ed d軸電流偏差、Eq q軸電流偏差、Ethr 所定誤差、Evd d軸電圧偏差、Evq q軸電圧偏差、F 故障検知結果、I* 電流指令、Id d軸電流、Iq q軸電流、Id* d軸電流指令、Iq* q軸電流指令、Iu U相電流、Iv V相電流、Iw W相電流、Iq1*、Iq2* トルク電流指令値、Is* 総合トルク電流要求値、Iu_thr 所定電流、Ke 誘起電圧定数、t0 故障発生時刻、t1、t3 故障検知時刻、tc 時間信号、tc_thr 所定時間、Tm モータトルク、Ts 操舵トルク、UP、VP、WP、UN、VN、WN、UP1、UN1、VP1、VN1、WP1、WN1、UP2、UN2、VP2、VN2、WP2、WN2 スイッチング素子、V* 3相電圧指令、Vb 電源電圧、Vd* d軸電圧指令、Vq* q軸電圧指令、Vd d軸電圧値、Vq q軸電圧値、Vthr 所定電圧、Vu* U相電圧指令、Vv* V相電圧指令、Vw* W相電圧指令、θ モータ回転角度、ω モータ回転速度、ωthr 所定速度、S20 異常疑義判定処理。
【技術分野】
【0001】
この発明は、インバータを備えたモータ制御装置およびそれを用いた電動パワーステアリング装置に関し、特に、インバータからモータまでの経路の開放故障を検知する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータ制御装置においては、モータに流れている電流の測定値(以下、「電流検出値」という)を帰還させるフィードバックループ線路が断線した場合において、電流指令と電流検出値との電流偏差に基づいて、フィードバックループ線路の断線を検出する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の従来装置として、電源電圧が適正な範囲内において、モータ回転速度が判定対象範囲内であって、実電流値が所定値以下で、かつ、印加電圧または電圧指令が所定の対応範囲から逸脱した状態が継続した場合に、モータへの電力供給線が断線したものと判定する技術も知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に記載の技術の場合、3相のモータコイルを有するモータにおいて、3相の各々について上記判定処理を行うことにより、いずれの相に断線が発生したかを検知することができる。
この方式においては、電圧指令の所定の対応範囲の閾値を、電流の閾値である所定電流値とモータ回転速度の判定対象範囲の閾値とに対応させることにより、N−T特性(回転速度−トルク特性)と称されるモータの出力限界を示す特性に基づいた判定を実現している。すなわち、モータの出力限界を超えたか否かに基づき、断線の有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000―177610号公報
【特許文献2】特開2007―244028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のモータ制御装置は、上記特許文献1に記載の技術によれば、電流偏差を用いて異常状態の検出が可能であるものの、複数相を有する永久磁石型同期モータや誘導モータのような交流モータの場合には、各相の個別評価が不可能な電流偏差に基づく判定であることから、どの相にどのような異常が発生しているかを特定することができないという課題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の技術では、バッテリの負電位や正電位への短絡故障(地絡故障や天絡故障)が発生した場合にも、異常を検出する可能性があるので、断線などの開放故障と区別が付かないという課題があった。
さらに、この結果、故障した相とその故障内容とに対応した異常時の処置に移行できないという課題もあった。
【0008】
一方、上記特許文献2に記載の技術によれば、複数相の各々について判定を行い、断線が生じた相を特定可能であるものの、N−T特性(モータ出力限界を示す特性)の限界を超えるか否かに基づき判定条件や判定閾値を設定していることから、誤検出する可能性が低い一方で、異常な範囲に対する余裕が過度に大きく設定されているので、故障が発生してから実際に検知するまでの期間が長くなり、検知タイミングが遅くなるという課題があった。
【0009】
なお、特許文献2においては、電圧方程式に基づいて求めたアドミッタンスを用いた判定方法も示唆されているが、どのような閾値に設定するかについては明記されておらず、検知精度や検知速度は不明であるが、開示されたN−T特性に基づく閾値設定方法を変換して適用するものと考えられるので、上述のように検知速度が遅いという課題があるものと予想される。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、通常の出力範囲のみを考慮した故障検知を可能にして異常状態を早く判定することのできるモータ制御装置およびそれを用いた電動パワーステアリング装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るモータ制御装置は、複数相のモータへの電流および印加電圧を制御するモータ制御装置であって、電源からの電力をモータに供給するインバータと、電流指令に応じた電圧指令を生成してモータへの電流を制御する電流制御手段と、電圧指令に応じてインバータを駆動してモータへの印加電圧を制御するインバータ駆動回路と、電圧指令、電源の電源電圧、モータのモータ回転速度、および複数相の電流に基づいて故障発生状態を検知する故障検知手段と、を備え、故障検知手段は、電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、モータ回転速度が所定速度以下であって、かつ、対象とする相の電圧指令がゼロ付近でなく、かつ、対象とする相の電流が所定電流以下であって、かつ、電流指令または電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、電源電圧およびモータ回転速度による判定条件を適用することにより、モータの出力限界を超えたか否かによる従来の異常判定処理を不要とし、通常の出力範囲のみを考慮した故障検知を可能にし、電圧指令がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)という判定条件と、電流が小さいという判定条件とから、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかを判定するとともに、制御誤差の判定条件から、制御誤差の増大に基づき異常状態を早く判定することができる。これにより、断線などの開放状態の故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができ、故障の検知タイミングを早くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るモータ制御装置を周辺構成とともに示すブロック図である。
【図2】図1内の電流制御手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図3】一般的なモータの出力限界を示すN−T特性図である。
【図4】一般的な3相の波形図であり、対象とする相の電圧指令がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)領域を示している。
【図5】一般的な外乱電圧が電流偏差に影響するまでの振幅増幅率を示すゲイン特性図である。
【図6】この発明の実施の形態1による故障検知手段の具体的な動作を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態1においてU相の上側のスイッチング素子が開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答波形を示すタイミングチャートである。
【図8】この発明の実施の形態2においてU相の上側のスイッチング素子が開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答波形を示すタイミングチャートである。
【図9】この発明の実施の形態3に係るモータ制御装置を周辺構成とともに示すブロック図である。
【図10】図9内の電流制御手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態3による故障検知手段の具体的な動作を示すフローチャートである。
【図12】この発明の実施の形態3による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態3による電源電圧およびモータ回転速度の判定動作を示すフローチャートである。
【図14】この発明の実施の形態4による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図15】この発明の実施の形態5による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図16】この発明の実施の形態6による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートである。
【図17】この発明の実施の形態7に係る電動パワーステアリング装置を概略的に示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1は、この発明の実施の形態1に係るモータ制御装置1を周辺構成とともに示すブロック図である。
【0015】
図1において、モータ制御装置1の周辺には、制御対象とする複数相(3相)のモータ2と、モータ回転角度θを検出するモータ回転角度センサ3と、電源(バッテリ)4と、電流指令I*(d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*)を生成する電流指令生成手段(図示せず)とが設けられている。
【0016】
モータ制御装置1は、電源4からの電力を調整し、モータ回転角度θに基づき、モータ2への電流(相電流)および印加電圧を制御する。
モータ2は、たとえば、永久磁石型同期モータや誘導モータのような3相の交流モータからなり、ここでは、U、V、W相の3相を備えているものとする。
【0017】
モータ制御装置1は、モータ回転速度ωを演算するモータ回転速度演算器21と、モータ2への供給電力を制御するインバータ22と、電流指令I*に応じた3相電圧指令V*を生成する電流制御手段23と、インバータ22を駆動するインバータ駆動回路24と、故障を検知して故障検知結果Fを出力する故障検知手段25と、電源電圧Vbを検出する電源電圧検出器26と、を備えている。
【0018】
モータ制御装置1内の上記構成要素のうち、モータ回転速度演算器21、電流制御手段23および故障検知手段25は、通常、マイコンのソフトウエアとして実装される。
マイコンは、周知の中央処理装置(CPU)、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、インターフェース(IF)などからなり、ROMに収納されたプログラムを順次抽出してCPUで所望の演算を行うとともに、演算結果をRAMに一時保存するなどにより、ソフトウエアを実行して所定の制御動作を行う。
【0019】
インバータ22は、各相U、V、Wの高電位側および低電位側に対応したスイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNと、各スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードDUP、DUN、DVP、DVN、DWP、DWNと、各相U、V、Wの電流Iu、Iv、Iwを検出する電流検出器CT1、CT2、CT3と、を備えている。
【0020】
3相電流Iu、Iv、Iwの検出値は、電流制御手段23および故障検知手段25に入力される。また、モータ回転角度センサ3からのモータ回転角度θは、電流制御手段23およびモータ回転速度演算器21に入力される。
【0021】
電流制御手段23からの3相電圧指令V*は、インバータ駆動回路24および故障検知手段25に入力され、故障検知手段25からの故障検知結果Fは、電流制御手段23に入力される。
また、電流制御手段23内で算出された制御誤差すなわちdq軸電流偏差Ed、Eq(図2とともに後述する)は、故障検知手段25に入力される。
【0022】
次に、図1に示したモータ制御装置1の概略動作について説明する。
モータ制御装置1は、モータ回転角度センサ3からのモータ回転角度θを取り込み、モータ回転速度演算器21によりモータ回転速度ωを算出する。
また、インバータ22内の電流検出器CT1、CT2、CT3により、モータ2の各相U、V、Wに流れる電流Iu、Iv、Iwを検出し、電源電圧検出器26により、電源4の電源電圧Vbを検出する。
【0023】
電流制御手段23は、モータトルクTmの目標値に相当するq軸電流指令Iq*と、等価的な界磁磁束の目標値に相当するd軸電流指令Id*と、モータ2の3相電流(検出値)Iu、Iv、Iwと、モータ回転角度(検出値)θとに応じて、3相電圧指令V*を決定する。なお、正常時においては、電流制御手段23に故障検知結果Fが入力されることはない。
【0024】
インバータ駆動回路24は、3相電圧指令V*をPWM変調して、インバータ22内の各スイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNに対するスイッチング操作信号(ON/OFF)を生成する。
【0025】
インバータ22は、インバータ駆動回路24からのスイッチング操作信号に応じてスイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNのチョッパ制御を実現し、モータ2の各相への印加電圧を決定するとともに、電源4から供給される電力により各相への電流Iu、Iv、Iwを決定し、各相電流Iu、Iv、Iwにより、モータトルクTmを発生させる。
【0026】
なお、電流検出器CT1、CT2、CT3は、3相のスイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNに対し、それぞれ直列に配置されているが、インバータ22とモータ2との間の経路、または、電源4とインバータ22との間の経路などに配置されてもよい。また、電源4とインバータ22との間の経路に1つの電流検出器が配置される例として、スイッチング操作信号のON/OFFタイミングに応じて、1つの電流検出器から各相の電流を検出する構成も適用可能である。
【0027】
また、各スイッチング素子UP、UN、VP、VN、WP、WNには、それぞれダイオードDUP、DUN、DVP、DVN、DWP、DWNが逆並列接されているが、これは、各スイッチング素子を保護する目的で、一般的に配置されるものである。
また、電流制御手段23からインバータ駆動回路24に対し、3相電圧指令V*を直接入力しているが、3相電圧指令V*を電源電圧Vbの検出値で除算した値をデューティとし、このデューティ値を指令としてインバータ駆動回路24に入力してもよい。
【0028】
次に、図2を参照しながら、電流制御手段23の具体的な構成および動作について説明する。
図2は電流制御手段23の具体的構成を示すブロック図であり、正常時での入出力信号を示している。電流制御手段23は、たとえば、一般に用いられるdq制御と称される手法により実現され得る。
【0029】
図2において、電流制御手段23は、3相電流(検出値)を2相電流(検出値)に変換する2相変換手段31と、電流指令と2相電流とのdq軸電流偏差Ed、Eqを演算する減算器32、33と、dq軸電流偏差Ed、Eqからdq軸電圧指令Vd*、Vq*を生成するdq軸制御器34、35と、dq軸電圧指令Vd*、Vq*からU、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を生成する3相変換手段36と、を備えている。
【0030】
2相変換手段31は、モータ回転角度θを用いて、3相電流(検出値)Iu、Iv、Iwをdq軸上のdq軸電流(検出値)Id、Iqに変換する。
減算器32、33は、dq軸電流指令Id*、Iq*から、dq軸電流Id、Iqをそれぞれ減算し、dq軸電流偏差Ed、Eqを算出して、dq軸制御器34、35にそれぞれ供給する。
【0031】
dq軸制御器34、35は、具体的な機能構成については図示を省略するが、一般的なPI制御などで構成され得る。
たとえば、dq軸制御器34、35は、それぞれ、dq軸電流偏差Ed、Eqに比例ゲインを乗算する比例項と、dq軸電流偏差Ed、Eqの積分値に積分ゲインを乗算する積分項とを含み、各乗算値をそれぞれ加算してdq軸電圧指令Vd*、Vq*を生成する。
【0032】
3相変換手段36は、dq軸電流指令Id*、Iq*を、モータ回転角度θに応じて3相変換し、U、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を生成する。
以下、インバータ駆動回路24およびインバータ22は、U、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に応じて、モータ2への供給電力を制御する。
以上の動作により、dq軸電流指令Id*、Iq*に応じて、モータ2の相電流をdq軸上の電流に換算したdq軸電流Id、Iqを制御し、また、dq軸電流Id、Iqによってモータ2への相電流を制御し、その結果、モータ2が出力するモータトルクTmを制御することができる。
【0033】
次に、故障検知手段25の概略機能について説明する。
故障検知手段25は、複数相(3相)のうちのどの相に、開放状態の故障が発生したかを検知するものである。
故障検知手段25に対しては、電源電圧Vbと、モータ回転速度ωと、各相電流Iu、Iv、Iwと、電流制御手段23内で算出されたdq軸電流偏差Ed、Eqと、電流制御手段23からの3相電圧指令V*(U、V、W相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*)と、が入力される。
【0034】
故障検知手段25は、上記入力情報の各値に基づいて、各相において開放状態の故障が発生したか否かを判定する。
なお、故障とは、各相が開放状態になる故障を指しており、U相の場合で説明すると、U相におけるモータ線の断線、または、U相におけるインバータ22からモータ2までの経路中のいずれかの部品が開放状態になる故障(インバータ22内のスイッチング素子UP、UNが開放状態になる故障など)である。
【0035】
故障検知手段25は、故障発生を検知すると、故障検知結果Fを生成して電流制御手段23に入力する。
これにより、電流制御手段23は、故障に応じた処置へ移行することが可能となる。なお、故障に応じた処置とは、インバータ駆動回路24に対する制御の停止、または、故障に応じた異常時制御などが挙げられるが、任意の公知処理なので、ここでは詳述を省略する。
【0036】
故障検知手段25は、電源電圧Vbが所定電圧以上(Vb≧Vthr)、かつ、モータ回転速度ωが所定速度以下(ω≦ωthr)、かつ、対象とするx相(U、V、W相のいずれかの相)のx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相の電圧指令に比べて大きい)ときに、x相の電流Ixの絶対値|Ix|が所定電流Ix_thr以下(|Ix|≦Ix_thr)で、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、x相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0037】
すなわち、概して表現すると、制御誤差に基づき異常状態を判定したときに、x相の電流Ixが小さい状態である場合に、x相に開放状態の故障が発生したものと判定する。この判定は、x相に開放状態の故障が発生すると、x相に電流Ixが流れない状態が継続するという現象に基づいている。
【0038】
次に、図3〜図5を参照しながら、故障検知手段25における各判定条件について具体的に説明する。
まず、図3を参照しながら、「電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であって、かつ、モータ回転速度ωが定格速度ω1以下であること」の判定条件について説明する。
図3は一般的なモータ2の出力限界を示すN−T特性図である。
【0039】
図3に示すN−T特性(モータ回転速度ω−モータトルクTmの特性)において、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上(Vb≧Vthr)であって、かつ、モータ回転速度ωが定格速度ω1以下の領域(点線矢印参照)であれば、モータトルクTmは定格トルクT1まで出力することができ、通常行われる定格トルクT1までの指令であれば、電圧指令が飽和することがなく、さらに、モータ出力が飽和することもない。
【0040】
すなわち、所定速度ωthrを定格速度ω1以下に設定し、点線矢印の領域に限定すれば、異常判定を行う際に、モータ2の出力限界を超えたか否かに基づく異常判定を不要にすることができ、以下に示す故障検知を、モータ2の通常の出力範囲のみにおける制御の追従性を考慮したものにすることができる。
【0041】
一方、前述の従来方法では、モータ2の状態量が、図3の右側の右肩下がりの線よりも右側の領域に達するので、電圧指令が飽和してモータ出力も飽和する領域を超えたか否かを判定しなければならず、故障検知が遅くなる原因となっていた。
【0042】
次に、「対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)こと」の判定条件について説明する。
図4は一般的な3相の波形図であり、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)領域A1、A2(1点鎖線枠、点線枠参照)を示している。
【0043】
図4において、横軸はモータ回転角度θ[deg]、縦軸は3相電圧指令V*であり、ここでは、モータ回転角度θに対するU相電圧指令Vu*(太実線)、V相電圧指令Vv*(細実線)およびW相電圧指令Vw*(点線)の各値の変化を相対的に示している。
【0044】
3相電圧指令V*(Vu*、Vv*、Vw*)は、電流制御手段23内の3相変換手段36において、dq軸電圧指令Vd*、Vq*を、モータ回転角度θに応じて3相変換することにより得られる。
したがって、図4に示すように、各相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の値は、モータ回転角度θに応じて、周期的に大小を繰り返しながら、相対的に大小関係を入れ替えるように変化する。
【0045】
各相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の値はゼロ付近を通過することがあり、ゼロ付近では、相電流を流さないように制御する状態にあるので、その相電流もゼロに近い値になる。
たとえば、U相(太実線)に注目した場合、0degおよび180degの付近でゼロを通過する。したがって、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近にない場合(x相に電流を流す指令を出力している場合)に限定して、相電流が小さいか否かを判定する必要がある。
【0046】
図4内の領域A1、A2(0degおよび180degの付近を除く領域)において、U相電圧指令Vu*は、ゼロ付近でないことが分かる。各領域A1、A2を3相電圧指令V*(Vu*、Vv*、Vw*)の不等式で表すと、以下のようになる。
領域A1:(Vu*>Vv*、かつ、Vu*>Vw*)、または、
(Vu*<Vv*、かつ、Vu*<Vw*)
領域A2:|Vu*|>|Vv*|、かつ、|Vu*|>|Vw*|
【0047】
したがって、x相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相に比べて大きい)ことを判定条件にすることにより、電圧指令値がゼロ付近の状態(相電流Ixをゼロ付近に制御している電圧指令の状態)を除外することができる。なお、この判定条件は、特定の閾値と比較することとは異なり、相電圧を相対的に比較するという点で新規な特徴がある。
【0048】
次に、図5を参照しながら、故障により異常状態になっていることを判定するための条件「制御誤差が所定誤差以上であること」について説明する。
図5は一般的な外乱電圧がdq軸電流偏差Ed、Eqに応答するまでの振幅増幅率を示すゲイン特性図である。
【0049】
図5においては、外乱電圧がモータ2のコイルに重畳されてから、モータ制御装置1内のPI制御系を介してdq軸電流偏差Ed、Eqに応答するまでの経路中における振幅増幅率の周波数特性を示している。
【0050】
すなわち、制御誤差の異常範囲を示すために、モータ2に作用する外乱電圧からdq軸電流偏差Ed、Eqまでの振幅増幅率を、通常の電流制御における電流追従性を表す周波数特性により示している。
この場合、100[Hz]付近の外乱電圧が最大応答(レベルG1)となってdq軸電流偏差Ed、Eqに影響することが分かる。
【0051】
ここで、異常判定に用いられる制御誤差は、dq軸電流偏差Ed、Eqである。
図5において、横軸は周波数[Hz]、縦軸はゲイン(振幅増幅率)である。
電流を状態量とする系に対しては、モータ回転速度ωに比例する誘起電圧が外乱電圧として作用し、図5のゲイン特性に基づいてdq軸電流偏差Ed、Eqへと応答する。このとき、図5内のレベルG1で示した応答ゲインが最大の応答となる。
また、考慮すべき外乱電圧の最大値は、モータ回転速度ωの判定条件の閾値である所定速度ωthrに誘起電圧定数Keを乗算した値(=Ke×ωthr)となる。
【0052】
したがって、最大の電流偏差は、レベルG1の応答ゲインと、外乱電圧の最大値Ke×ωthrとを乗算した値(=G1×Ke×ωthr)になる。
なお、dq軸電流偏差Ed、Eqの発生要因としては、他に、電流指令I*の値の変化に対する追従性も挙げられるが、これは、外乱電圧の応答に比べると十分に小さいので、無視することができる。
【0053】
このようにして、故障の発生していない正常時における通常出力範囲の最大の電流偏差G1×Ke×ωthrが求まるので、dq軸電流偏差Ed、Eqの異常状態を示す閾値(所定誤差Ethr)は、上述した最大の電流偏差G1×Ke×ωthrよりも大きな値に設定すればよい。
なお、最大の電流偏差G1×Ke×ωthrよりもいくらか大きな値に設定することにより、誤検知に対する余裕も得られる。
【0054】
また、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)は、2つの信号からなるので、単一の制御誤差として評価するためには、2乗和の平方根√(Ed^2+Eq^2)を演算して用いればよい。
なお、電流の応答ゲインの最大値を見積る際に、回路定数などのパラメータ変動(ばらつき)の幅を考慮することにより、さらに精度を向上させることが可能である。
【0055】
最後に、電流が流れていない状態を判定する条件として、対象とするx相の電流の絶対値|Ix|が所定電流Ix_thr以下(|Ix|≦Ix_thr)を付与することにより、x相に異常が生じ、x相の異常内容が「相電流Ixが流れないことである」と特定することができる。
なお、所定電流Ix_thrは、相電流(検出値)のノイズや分解能などを考慮して設定すればよい。
【0056】
次に、図6のフローチャートを参照しながら、故障検知手段25の具体的な動作について説明する。
図6においては、代表的にU相に注目して、U相のモータ線の断線、または、U相におけるインバータ22からモータ2までの経路中のいずれかの部品(スイッチング素子UP、UNなど)が開放状態になる故障を検知する手段を示している。
なお、図示しないが、故障検知手段25は、V相、W相に関しても図6と同様の手段を備えており、それぞれ、V相、W相が開放状態になる故障を検知する。
【0057】
まず、判定条件の成立回数をカウントする計測期間の範囲内を表す計測フラグがOFF状態であるか否かを判定し(ステップS1)、OFF状態(すなわち、Yes)と判定されれば、計測期間ではないので、時間信号tm、tcに対応したカウンタを初期化し(ステップS2)、ステップS3に進む。
具体的には、ステップS2において、計測期間内の時間を計数するための時間信号tmと、判定条件の成立時間の積算値を示す時間信号tcとを、それぞれゼロに初期化する。
【0058】
一方、ステップS2において、計測フラグがON状態(すなわち、No)と判定されれば、計測期間であるので、ステップS2をスキップして、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上(Vb≧Vthr)であるか否かを判定する(ステップS3)。
ステップS3において、Vb<Vthr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進む。
【0059】
一方、ステップS3において、Vb≧Vthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下(ω≦ωthr)であるか否かを判定し(ステップS4)、ω>ωthr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進む。
【0060】
一方、ステップS4において、ω≦ωthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、U相電圧指令Vu*がゼロ付近でない(U相電圧指令Vu*が最大)か否かを判定する(ステップS5)。
ステップS5は、U相電圧指令Vu*の値が図4内の領域A1(または領域A2)に入っているか否かの判定に相当する。
【0061】
ステップS5において、U相電圧指令Vu*がゼロ付近である(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、U相電圧指令Vu*がゼロ付近ではない(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、U相電流Iuの絶対値が所定電流Iu_thr以下(|Iu|≦Iu_thr)であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0062】
ステップS6において、|Iu|>Iu_thr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、|Iu|≦Iu_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、制御誤差が過大(dq軸電流偏差Ed、Eqが所定誤差Ethr以上)であるか否かを判定する(ステップS7)。
【0063】
ステップS7において、制御誤差が過大でない(たとえば、√(Ed^2+Eq^2<Ethr)(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、制御誤差が過大(√(Ed^2+Eq^2≧Ethr)(すなわち、Yes)と判定されれば、計測フラグをON状態にする(ステップS8)。
【0064】
続いて、判定成立時間カウンタをカウントアップする(ステップS9)。
具体的には、ステップS9において、判定条件の成立時間の積算値である時間信号tcを、現在値に演算周期τを加算する(tc=tc+τとする)ことにより、カウントアップを行う。
【0065】
次に、判定成立の時間信号tcが所定時間tc_thrに達した(tc≧tc_thr)か否かを判定し(ステップS10)、tc<tc_thr(すなわち、No)と判定されれば、後述するステップS12に進み、一方、tc≧tc_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、確定フラグをON状態にする(ステップS11)。
ステップS11において、確定フラグがON状態に設定されることにより、U相に開放状態の故障が発生したことを検知したことになる。
【0066】
続いて、ステップS12において、計測期間カウンタをカウントアップする(ステップS12)。
具体的には、ステップS12において、計測期間内の時間を計数する時間信号tmを、現在値に演算周期τを加算する(tm=tm+τとする)ことにより、カウントアップを行う。
【0067】
最後に、計測期間内の時間を数える時間信号tmが計測期間tm_thrに達した(tm≧tm_thr)か否かを判定し(ステップS13)、tm<tm_thr(すなわち、No)と判定されれば、図6の処理を終了してリターンする。
【0068】
一方、ステップS13において、tm≧tm_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、計測フラグをOFF状態にし(ステップS14)、図6の処理を終了してリターンする。
以下、再び図6内のスタートからの処理(ステップS1〜S14)を繰り返し実行する。
【0069】
なお、ステップS9のような積算による時間信号tcのカウント処理を実行することにより、判定条件が連続的に成立しなくても、計測期間内に、判定成立の積算時間が閾値以上に達すれば、故障検知を確定することができる。
【0070】
次に、図7を参照しながら、この発明の実施の形態1に係るモータ制御装置1において、U相の上側(高電位側)のスイッチング素子UPが開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答について説明する。
図7はスイッチング素子UPが開放状態となった場合の各状態量の時間応答波形を示すタイミングチャートであり、図6と同様に、代表的にU相の故障を検知する場合の動作波形を示している。
【0071】
図7において、横軸は時間tであり、縦軸として、3相電圧指令V*(Vu*、Vv*、Vw*)と、3相電流(検出値)Iu、Iv、Iwと、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)と、判定条件(H、L:正否)と、判定成立の積算時間(tc)と、モータ回転角度θ[deg]との各時間変化が示されている。
【0072】
3相電圧指令および3相電流(1、2段目波形)において、それぞれ、太実線はU相、実線はV相、破線はW相、の各波形を示している。
また、判定条件(4段目波形)において、実線はU相電圧指令Vu*の判定条件、1点鎖線はU相電流Iuの判定条件、太実線は制御誤差の判定条件、の各正否(H、L)波形を示している。
【0073】
ここでは、左端の故障発生時刻t0において、高電位(電源4)側のU相のスイッチング素子UPが開放状態となり、故障検知時刻t1において故障が検知された場合を示している。
【0074】
図7において、U相の上側のスイッチング素子UPが開放状態にあることから、U相電流Iu(2段目波形内の太線参照)は、本来ならば図中上側に電流を流すべき期間で、ゼロに固着している(電流が流れない)水平波形期間が存在することが分かる。
【0075】
また、上記水平波形期間とほぼ同じ期間において、U相電圧指令Vu*(1段目波形内の太線参照)が他の相よりも相対的に大きくなっており、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)(3段目波形参照)が増大していることが分かる。
【0076】
上記状態を反映して、判定条件(4段目波形)に示すように、U相電圧指令Vu*の判定条件(実線参照)と、U相電流Iuの判定条件(1点鎖線参照)と、制御誤差の判定条件(太実線参照)とが、それぞれ成立する(すべてHレベルとなる)様子が分かる。
また、ここでは図示していないが、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件は常に成立している。
【0077】
判定成立の時間信号tc(5段目波形内の実線参照)は、上記のように、すべての判定条件が成立する場合にカウントアップ(積算)されていくので、判定条件の成立期間中に時間tの経過とともに増加していく。
【0078】
故障検知時刻t1は、積算された時間信号tcが所定時間tc_thr(故障検知を確定させるための閾値)を超えた時刻であり、この故障検知時刻t1において、U相の開放状態の故障が確定される。
【0079】
一方、従来方法の積算時間(5段目波形内の破線参照)は、検知タイミングが遅くなることから増加ピッチが小さくなるので、故障検知時刻t2は、この発明の実施の形態1による故障検知時刻t1よりも、遅れていることが分かる。
【0080】
なお、モータ回転角度θ(6段目波形:最下段)の変化は、モータ2がほぼ等速度で回転している様子を示している。
モータ回転角度θ=350[deg]付近は、U相電流Iuが流れない水平波形期間の中心付近に対応しており、U相電流Iuが流れない期間は、モータ回転角度θに対してほぼ周期的に同期していることが分かる。したがって、U相電圧指令Vu*の判定条件などは、モータ回転角度θを用いて代用することも可能である。
【0081】
以下、この発明の実施の形態1による上記故障検知動作について、各判定条件の役割を要約して総括的に説明する。
まず、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件を適用することによって、モータ2の通常の出力範囲のみを考慮した故障検知とすることが可能となり、モータ2の出力限界に基づく異常判定を不要にすることができる。
【0082】
また、対象とするx相電圧指令Vx*が他の相よりも大きいという判定条件によって、電流をゼロ付近に制御している状態を除外することができ、かつ、電流の判定条件によって、x相の電流が流れない状態を検出することが可能となるので、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかを判定することができる。
【0083】
さらに、制御誤差の判定条件によって、異常な状態であるか否かを検出することができる。
したがって、これらすべての条件が成立したときに、x相に開放状態の故障が発生したことを検知することができる。また、すべての相について、上記と同様の判定処理を行うことにより、どの相に開放状態の故障が発生したかを検知することができる。
【0084】
また、モータ2に対する電流制御の追従性については、通常に用いられる適切な範囲に保つことにより、不要に制御誤差を拡大させないようにしている。
このように設計されたモータ制御の追従性において、外乱などにより発生する制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eqなど)の最大値は、モータ回転速度ωなどの判定条件の閾値や、パラメータ変動(ばらつき)の幅から見積もられる。
【0085】
こうして見積もられた制御誤差の最大値を、制御誤差における異常な範囲の閾値として決定することにより、誤った故障検知を回避することができる。
よって、出力限界を超えたか否かという判定を用いずに、制御誤差が通常か否かに基づいて異常判定を行うことにより、故障の検知を早くすることができる。
【0086】
さらに、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)か否かを判定することにより、x相電圧指令Vx*のゼロ付近における誤った検知を防止することができるので、検知精度の向上および検知の迅速化を両立することができる。
【0087】
この発明の実施の形態1(図1〜図7)に係るモータ制御装置1によれば、モータ2の出力限界に基づく異常状態の判定を行うことなく、モータ回転速度ωなどの判定条件の閾値から見積もった通常動作領域における制御誤差の最大値を閾値として、制御誤差に基づく異常状態を判定するので、いずれの相に開放状態の故障が発生したかを検知する際に、各相電流(検出値)Iu、Iv、Iwや3相電圧指令V*などの状態量が出力限界を超えた状態になるのを検出する必要がなく、制御誤差の増大によって異常状態を判定することができる。
【0088】
したがって、故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができ、故障の検知を早く行うことができるという効果が得られる。また、この結果、故障に応じた処置に早く移行することができる。
【0089】
なお、上記説明では、制御誤差として、dq軸電流偏差Ed、Eqを用いたが、これに代えてdq軸電流指令Id*、Iq*を用いてもよい。
【0090】
また、図2から明らかなように、電流偏差とは、電流指令から電流検出値を減算した値であり、電流偏差の値が故障時に増大するということは、電流指令が所定値以上であるにも関わらず、電流検出値が追従しない状態であることを示している。
よって、電流指令が所定値以上であり、かつ、相電圧が相対的に大きい状態であるにも関わらず、相電流が流れない状態が検出されれば、その相に開放状態の故障が発生しているものと判定することができるので、dq軸電流偏差Ed、Eqに代えて、dq軸電流指令Id*、Iq*の2乗平方根を制御誤差としても、前述と同様の作用効果を奏する。
【0091】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図7)に係るモータ制御装置1は、複数相のモータ2への電流(3相電流Iu、Iv、Iw)および印加電圧を制御するために、電源4からの電力をモータ2に供給するインバータ22と、電流指令I*に応じた3相電圧指令V*を生成してモータ2への電流(3相電流Iu、Iv、Iw)を制御する電流制御手段23と、3相電圧指令V*に応じてインバータ22を駆動してモータ2への印加電圧を制御するインバータ駆動回路24と、3相電圧指令V*、電源4の電源電圧Vb、モータ2のモータ回転速度ω、および複数相の電流Iu、Iv、Iwに基づいて故障発生状態を検知する故障検知手段25と、を備えている。
【0092】
故障検知手段25は、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であって、かつ、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下であって、かつ、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でなく(他の相よりも大きく)、かつ、x相の電流Ixが所定電流Ix_thr以下であって、かつ、dq軸電流偏差Ed、Eq(電流指令または電圧指令に対する制御誤差)が所定誤差Ethr以上である状態が所定時間tc_thr以上検出された場合に、x相に開放状態の故障が発生したものと判定し、故障検知結果Fを生成して電流制御手段23に入力する。
【0093】
また、制御誤差は、電流指令I*に応じた値、または、電流指令I*の値と電流(dq軸電流Id、Iq)との電流偏差(dq軸電流偏差Ed、Eq)に応じた値である。
【0094】
このように、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件を適用することにより、モータ2の出力限界を超えたか否かによる異常判定を不要とし、通常の出力範囲のみを考慮した故障検知を可能にすることができる。
また、3相電圧指令V*がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)という判定条件と、3相電流Iu、Iv、Iwが小さいという判定条件とによって、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかを判定することができる。
【0095】
さらに、制御誤差の判定条件によって、制御誤差の増大に基づき異常状態を早く判定することができる。
したがって、断線などの開放状態の故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができ、迅速に故障を検知することができる。
【0096】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図7)では、電流制御手段23から故障検知手段25に入力される制御誤差としてdq軸電流偏差Ed、Eqを用いたが、図8に示すように、dq軸電圧偏差Evd、Evqを用いてもよい。
図8はこの発明の実施の形態2による故障検知動作を示すタイミングチャートであり、前述(図7参照)と同様に、U相の上側のスイッチング素子UP(図2)が開放状態となる故障が発生した場合における各状態量の時間応答波形を示している。
【0097】
図8においては、前述(図7)のdq軸電流偏差Ed、Eqをdq軸電圧偏差Evd、Evq(3段目波形参照)に変更したのみであり、他のパラメータは前述(図7)と同様である。
また、この発明の実施の形態2に係るモータ制御装置の全体構成は図1に示した通りであり、故障検知処理も基本的に図6に示した通りである。ただし、この場合、制御誤差の判定条件において、dq軸電圧偏差Evd、Evqが用いられる。
【0098】
モータ2の1つの相に開放状態の故障が発生した場合は、相電流が電流指令I*に追従しなくなるのみでなく、3相電圧指令V*に対する実際の印加電圧の誤差が過大になる。したがって、3相電圧指令V*と印加電圧との電圧偏差を監視することにより、異常状態を判定することができる。
【0099】
ここで、dq軸上における印加電圧の値をdq軸電圧値Vd、Vqとし、dq軸電圧指令Vd*、Vq*からdq軸電圧値Vd、Vqをそれぞれ減算した値を、dq軸電圧偏差Evd、Evqとする。なお、dq軸電圧値Vd、Vqの具体的な算出方法については、後述する。
【0100】
dq軸電圧偏差Evd、Evqを、単一の値として評価するためには、前述と同様に、2乗和の平方根√(Evd^2+Evq^2)を制御誤差とすればよい。
また、制御誤差の判定条件の閾値である所定誤差Ethrの具体的な決定方法についても、後述する。
【0101】
以下、dq軸電圧値Vd、Vqを求めるための、第1〜第6の算出方法について説明する。
(1)まず、第1の算出方法においては、インバータ22からモータ2までの経路中に、3相電圧を個別に検出するための3個の電圧センサ(図示せず)を設け、各電圧センサの検出値を、モータ回転角度θに基づき2相変換してdq軸上の電圧値に変換し、これらの変換電圧値をdq軸電圧値Vd、Vqとする。
【0102】
この場合、制御誤差の判定条件の閾値である所定誤差Ethrは、通常時に発生し得る電圧偏差の最大値を考慮して設定される。
すなわち、3相電圧指令V*をPWM変調する際に必要な極短時間スイッチングを停止するデッドバンド(不感帯)や、2相変換に用いられる電源電圧Vbの検出誤差や、インバータ22内のスイッチング素子のスイッチング時の損失や、モータ2のコイル以外の配線や部品の抵抗による電圧降下など、通常時の電圧偏差の最大値を見積もり、見積もられた値よりも大きな値で所定誤差Ethrを設定すればよい。
【0103】
このとき、所定誤差Ethrを通常時の最大の電圧偏差よりもいくらか大きな値に設定することにより、誤った検知に対する余裕も得られる。
また、部品のばらつきを考慮することにより、誤差の見積り精度を向上させることができる。
【0104】
(2)次に、第2の算出方法について説明する。
この場合、上記電圧センサを用いずに、以下の式(1)のように、dq軸上の電圧方程式に基づく推定演算により、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0105】
【数1】
【0106】
ただし、式(1)において、R、L、Ψaは、それぞれ既知の回路定数であり、Rはインバータ22からモータ2までの抵抗値、Lはモータ2のインダクタンス、Ψaはモータ2内の永久磁石による電機子鎖交磁束である。
【0107】
また、式(1)の右辺の状態量、すなわち、dq軸電流Id、Iqおよびモータ回転速度ωは、前述(図1、図2)のように、モータ制御装置1において検出または算出され得る。
したがって、この場合、モータ制御装置1は、dq軸電流Id、Iqおよびモータ回転速度ωの検出値に基づき、式(1)の右辺に示す演算処理を行うことにより、dq軸電圧値Vd、Vqを算出することができる。
【0108】
このように、第2の算出方法を適用した場合、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrは、以下のように設定される。
まず、通常時におけるdq軸電圧値Vd、Vqの演算誤差の最大値を、回路定数R、L、Ψaのばらつきの最大値と、dq軸電流Id、Iqと、モータ回転速度ωの検出誤差とに基づき、dq軸電圧値Vd、Vqの演算誤差が最大となる組み合わせにより決定する。
【0109】
続いて、dq軸電圧値Vd、Vqの演算誤差の最大値に、前述の3相電圧指令V*から実際の印加電圧までのdq軸電圧偏差Evd、Evqの最大値を加算した値を求め、この加算値よりも大きな値で所定誤差Ethrを設定する。また、加算値よりもいくらか大きな値に設定することにより、誤った検知に対する余裕も得られる。
【0110】
(3)次に、第3の算出方法について説明する。
第3の算出方法は、前述の式(1)の右辺から、微分項以外のd軸電流Idの項を削除した方法であり、以下の式(2)の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0111】
【数2】
【0112】
また、この場合、所定誤差Ethr(通常時における最大の制御誤差の判定閾値)は、第2の算出方法で説明した値に設定すればよい。
なぜなら、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下の領域において、d軸電流Idは、通常、ほぼゼロに制御されており、d軸電流Idの項を削除(無視)した際の算出値への影響は十分に小さいからである。
【0113】
(4)次に、第4の算出方法について説明する。
第4の算出方法は、第3の算出方法における式(2)から、モータ回転速度ωの項を削除した方法であり、以下の式(3)の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0114】
【数3】
【0115】
この場合、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrの設定時においては、モータ回転速度ωを所定速度ωthrとした場合に、式(3)で削除したモータ回転速度ωの項の値を、第3の算出方法で説明した値に加算する形で反映させればよい。
【0116】
(5)次に、第5の算出方法について説明する。
第5の算出方法は、第3の算出方法における式(2)から、右端の微分項を削除した方法であり、以下の式(4)の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0117】
【数4】
【0118】
この場合、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrの設定時においては、式(4)で削除した微分項の最大値を、第3の算出方法で説明した値に加算する形で反映させればよい。
【0119】
なお、微分項の最大値については、前述の実施の形態1と同様に、外乱などにより発生する最大の振幅を、モータ回転速度ωの上限値である所定速度ωthrによって決定する最大の電流応答の微分により決定すればよい。
【0120】
(6)次に、第6の算出方法について説明する。
第6の算出方法は、第5の算出方法における式(4)から、モータ回転速度ωの項を削除した方法であり、以下の式(5)の下段(q軸電圧値Vq)側の右辺を演算することにより、dq軸電圧値Vd、Vqを求める。
【0121】
【数5】
【0122】
この場合、d軸電圧値Vdは常にゼロなので、演算する必要はない。
なお、通常時における最大の制御誤差の判定閾値である所定誤差Ethrの設定時においては、モータ回転速度ωを所定速度ωthrとした場合に、式(4)で削除したモータ回転速度ω項の値を、第5の算出方法で説明した値に加算する形で反映させればよい。
【0123】
以下、第6の算出方法における所定誤差Ethrの設定について、まとめて説明する。
まず、通常時における最大のdq軸電圧値Vd、Vqを、回路定数R、L、Ψaのばらつきの最大値と、dq軸電流Id、Iqの最大値と、モータ回転速度ωの最大値である所定速度ωthrとに基づいて、dq軸電圧値Vd、Vqの大きさが最大となる組み合わせにより決定する。
また、式(1)の右辺の最後の微分項については、前述の実施の形態1と同様に、所定速度ωthrによって決定する最大の振幅により決定すればよい。
【0124】
次に、通常時における最大のdq軸電圧値Vd、Vqに、3相電圧指令V*と実際の印加電圧とのdq軸電圧偏差Evd、Evqの最大値を加算した値を求め、この加算値よりも大きな値で所定誤差Ethrを設定する。
また、その加算値よりもいくらか大きな値に設定することにより、誤った検知に対する余裕も得られる。
【0125】
以上の第1〜第6の算出方法のうち、第2〜第6の算出方法は、式(1)〜式(5)に基づき、dq軸電圧値Vd、Vqの推定値を演算するものである。
また、第3〜第6の算出方法のように、式(2)〜式(5)において右辺の項を減らすことにより、演算量を削減することができる。
【0126】
特に、第6の算出方法の式(5)が最も演算量が少ないが、省略した項が最も多いことから、制御誤差の判定条件の閾値である所定誤差Ethrを大きく設定する必要があるので、故障の検知に要する時間は、上記算出方法の中では比較的長くなる。
【0127】
次に、図1および図8を参照しながら、この発明の実施の形態2による故障検知動作について説明する。
図8においては、前述(図7)と同様に、図1内のU相の上側のスイッチング素子UPが開放状態となる故障が発生した場合における状態量の時間応答を示しており、図中の左端が故障発生時刻t0である。
なお、dq軸電圧値Vd、Vqについては、式(3)(第4の算出方法)を用いたが、他の算出方法を適用しても、同等以上の検知が可能なことは言うまでもない。
【0128】
この場合、U相の上側のスイッチング素子UPが開放状態にあるので、U相電流Iu(図8内の2段目波形内の太実線)は、前述と同様に、電流が流れずにゼロに固着している水平波形期間があることが分かる。
また、U相電流Iuの水平波形期間とほぼ同じ期間において、U相電圧指令Vu*(1段目波形)が他の相よりも相対的に大きくなり、制御誤差すなわちdq軸電圧偏差Evd、Evq(3段目波形)が増大していることが分かる。
【0129】
上記状態を反映して、3相電圧指令V*の判定条件と、3相電流の判定条件と、制御誤差の判定条件とが、それぞれ成立する様子が分かる(4段目波形参照)。
なお、図示しないが、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件は常に成立している。
【0130】
すべての判定条件の成立時に、判定成立を確定させるための時間信号tc(5段目波形内の実線参照)は、カウントアップされて増加していく。
故障検知時刻t3は、時間信号tcが所定時間tc_thr(故障検知を確定させるための閾値)を超えた時刻であり、故障検知時刻t3において、U相の開放状態の故障が確定する。
【0131】
一方、従来方法の積算時間(5段目波形内の破線参照)は、前述のように、検知タイミングが遅くなることから増加ピッチが小さくなるので、故障検知時刻t4は、この発明の実施の形態1による故障検知時刻t3よりも、遅れていることが分かる。
【0132】
以下、この発明の実施の形態2による上記故障検知動作について、各判定条件の役割を要約して総括的に説明する。
まず、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωによる判定条件を適用することによって、モータ2の通常の出力範囲のみを考慮した故障検知とし、モータ2の出力限界に基づいた異常判定を不要にすることができる。
【0133】
また、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相よりも大きい)という判定条件によって、相電流をゼロ付近に制御している状態を除外することができ、かつ、相電流の判定条件によって、x相の電流が流れない状態を検出することができるので、どの相に開放状態の故障の疑義が生じたかが判定できる。
【0134】
さらに、制御誤差(dq軸電圧偏差Evd、Evq)の判定条件により、異常な状態であるか否かを検出することができる。
したがって、これらすべての条件が成立したときに、x相に開放状態の故障が発生した検知できる。また、すべての相について同様の判定処理を行うことにより、どの相に開放状態の故障が発生したかを検知することができる。
【0135】
また、電流制御の追従性については、通常に用いられる適切な範囲に保つことにより、不要に制御誤差を拡大させないようにしている。
このように設計された追従性において、3相電圧指令V*と実際の印加電圧との誤差や、3相電圧指令V*と推定電圧との推定誤差を、外乱などにより発生する相電流などの最大値を、判定条件の閾値やパラメータ変動(ばらつき)の幅から見積もって、制御誤差における異常な範囲の閾値を決定する。
【0136】
これにより、誤った検知を回避するとともに、出力限界を超えたか否かという判定を用いずに、制御誤差が通常か否かで異常の発生を判定することにより、故障の検知を早くすることができる。
また、相電圧が他の相よりも大きいか否かを判定することにより、相電圧指令のゼロ付近における誤った検知を防止することができるので、検知精度の向上および検知の迅速化を両立することができる。
【0137】
この発明の実施の形態2によるモータ制御装置1は、モータ2の出力限界に基づく異常状態の判定を行わずに、モータ回転速度ωなどの判定条件の閾値から見積もった通常動作領域における制御誤差の最大値を閾値として、制御誤差に基づいて異常状態を判定している。
【0138】
この結果、いずれの相に開放状態の故障が発生したかを検知する際に、相電流や電圧指令などの状態量が出力限界を超えた状態になるのを検出する必要がなく、制御誤差の増大によって異常状態を判定することができ、故障が発生してから故障状態を特定するまでの期間を短くすることができる。
すなわち、故障の検知が早いという効果が得られるので、故障に応じた処置に早く移行することができる。
【0139】
なお、図6内のステップS7において、この発明の実施の形態2に示した制御誤差(電圧偏差)に関する判定条件と、前述の実施の形態1に示した制御誤差(電流偏差)に関する判定条件と組み合わせて、2つの判定条件のうち少なくとも一方が成立した場合に、制御誤差が過大であるという判定条件が成立するように変更してもよい。これにより、制御誤差の異常をより早く検知することができる。
【0140】
以上のように、この発明の実施の形態2(図8)によれば、制御誤差は、電圧指令値とモータ2への印加電圧との電圧偏差に応じた値であり、印加電圧は推定値とすることができる。
また、印加電圧の推定値は、電流およびモータ回転速度ωの少なくとも一方に応じた値である。
これにより、電圧センサを用いなくても、他の状態量から推定した印加電圧値に応じて判定条件を設定することができる。
【0141】
なお、上記実施の形態1、2においては、x相電流Ixをゼロ付近に制御しているx相電圧指令Vx*の状態(x相電圧指令Vx*がゼロ付近にある状態)を除外するために、対象とするx相電圧指令Vx*がゼロ付近でないという判定条件として、x相電圧指令Vx*が他の相に比べて大きいことに設定したが、これに限定されることはない。
たとえば、3相電圧指令V*の符号(正負)が前回と等しいか否かを判定条件とすることにより、3相電圧指令V*がゼロ付近の状態(ゼロを跨ぐ前後の状態)を除外することができる。
【0142】
また、3相のコイルを有するモータ2について述べたが、たとえば、3相中の1相が故障して正常に動かせるモータ2の相が2相の状態になった場合においても、適用可能であることは言うまでもない。
【0143】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1、2では、モータ2の巻線やインバータ22が1組のみの場合を示したが、図9のように、モータ2が複数相からなる巻線を複数組備えた構成であってもよい。
【0144】
図9はこの発明の実施の形態3に係るモータ制御装置1の全体構成を概略的に示すブロック図であり、前述と同様のものに対しては、前述と同一符号を付すとともに、符号の後に系統番号を付している。ここでは、2系統の場合を例にとり、第1、第2系統に対して「1、2」または「A、B」を付している。
【0145】
図9において、この発明の実施の形態3によるモータ2は、第1、第2系統に対応した複数(ここでは、2組)の巻線組15、16を備えている。
巻線組15は、第1系統側のU1、V1、W1相の3相の巻線からなり、巻線組16は、第2系統側のU2、V2、W2相の3相の巻線からなり、各巻線組15、16は、それぞれスター型結線で各相を結合している。
また、モータ回転角度センサ3は、2系統のモータ2の各回転角度θを検出して、モータ制御装置1内のモータ回転速度演算器21および電流制御手段23に入力する。
【0146】
なお、具体的には図示しないが、巻線組15、16は、ステータを構成しており、モータ2は、ステータと、ロータと、ロータに固定された回転軸と、により構成されている。
なお、ここでは、代表的に、モータ2が、ロータに永久磁石を配置した永久磁石同期モータであって、巻線組15、16がそれぞれ3相の場合を例にとって説明するが、図9の構成に限定されることはなく、3相以上の多相交流で回転駆動するモータ2に対しても、この発明が適用可能なことは言うまでもない。
【0147】
モータ制御装置1は、2系統の巻線組15、16を有するモータ2に対する供給電流および印加電圧を制御するために、電流制御手段23と、巻線組15、16ごとの各相に印加する電圧を制御するインバータ駆動回路24A、24Bおよびインバータ22A、22Bと、を備えている。
【0148】
第1、第2系統に対応したインバータ22A、22Bは、それぞれ、各相の印加電圧を制御するスイッチング素子UP1、UN1、VP1、VN1、WP1、WN1、UP2、UN2、VP2、VN2、WP2、WN2と、各スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードDUP1、DUN1、DVP1、DVN1、DWP1、DWN1、DUP2、DUN2、DVP2、DVN2、DWP2、DWN2と、相電流検出値I1dtc、I2dtcを生成する電流検出器CT11、CT21、CT31、CT12、CT22、CT32と、を各相に有し、巻線組15、16ごとの各相への供給電流を制御する。
【0149】
以下、この発明の実施の形態3によるモータ制御装置1の動作について、具体的に説明する。
モータ制御装置1は、モータ2の各巻線に印加する電圧を制御して、電源4からの電力をモータ2に供給し、各巻線に流す電流を制御することにより、電流にほぼ比例したモータ2の出力トルクを制御する。
【0150】
モータ制御装置1において、モータ回転速度演算器21は、モータ回転角度センサ3からの検出信号(モータ回転角度θ)を取り込み、モータ2の回転速度信号を算出する。
また、電流検出器CT11、CT21、CT31、CT12、CT22、CT32は、モータ2の各相に流れる相電流を検出し、相電流検出値I1dtc、I2dtcを取得する。
【0151】
具体的には、巻線組15側(第1系統側)の相電流検出値I1dtcは、U1、V1、W1相ごとの相電流検出値Iu1dtc、Iv1dtc、Iw1dtcからなる。
同様に、巻線組16側(第2系統側)の相電流検出値I2dtcは、U2、V2、W2相ごとの相電流検出値Iu2dtc、Iv2dtc、Iw2dtcからなる。
なお、ここでは、3相の検出値を総称して、単に相電流検出値I1dtc、I2dtcと表記する。
【0152】
電流制御手段23は、後述するように、モータトルクの目標値に相当する総合トルク電流要求値Is*と、モータ2の各相の相電流検出値I1dtc、I2dtcと、モータ回転角度θとに応じて、相電圧指令V1*、V2*を決定する。
なお、相電圧指令V1*は、U1、V1、W1相電圧指令V1u*、V1v*、V1w*を示し、相電圧指令V2*は、U2、V2、W2相電圧指令V2u*、V2v*、V2w*を示している。
【0153】
インバータ駆動回路24Aは、相電圧指令V1*をPWM変調して、インバータ22Aに対してスイッチング操作を指示する。
インバータ22Aは、インバータ駆動回路24Aからのスイッチング操作信号を受けて、スイッチング素子UP1、VP1、WP1、UN1、VN1、WN1のチョッパ制御を実現し、電源4から供給される電力により、モータ2内の巻線組15の各相U1、V1、W1に目標電流を供給する。
同様に、インバータ駆動回路24Bおよびインバータ22Bは、相電圧指令V2*に応じて、モータ2内の巻線組16の各相U2、V2、W2に目標電流を供給する。
【0154】
次に、図10の具体的なブロック図を参照しながら、この発明の実施の形態3による電流制御手段23の動作について、さらに詳細に説明する。
図10において、この発明の実施の形態3による電流制御手段23は、正常時に使用する通常の制御方式を実行する正常時電流制御手段41、42と、トルク電流分配手段43と、を備えており、2系統の巻線組15、16およびインバータ22A、22B(以下、「第1、第2の巻線駆動系」とも言う)をそれぞれ制御可能に構成されている。
【0155】
トルク電流分配手段43は、総合トルク電流要求値Is*を、第1の巻線駆動系と第2の巻線駆動系とのそれぞれに発生させたい各トルク要求値であるトルク電流指令値Iq1*、Iq2*に分配する。
【0156】
なお、各巻線駆動系に対応したトルク電流指令値Iq1*、Iq2*は、総合トルク電流要求値Ism*の2分の1の値に設定される。
すなわち、トルク電流分配手段43は、各巻線駆動系で等しいトルクを発生して、その合計で目標の出力トルクを得るような設定を行う。
【0157】
続いて、第1系統側の正常時電流制御手段41は、トルク電流指令値Iq1*および相電流検出値I1dtcに基づきdq制御を行い、相電圧指令V1*を生成してインバータ駆動回路24Aに入力する。
同様に、第2系統側の正常時電流制御手段42は、トルク電流指令値Iq2*および相電流検出値I1dtcに基づきdq制御を行い、相電圧指令V2*を生成してインバータ駆動回路24Bに入力する。
【0158】
正常時電流制御手段41、42の各々は、たとえば、前述(図2)の電流制御手段のように構成されており、一般的に用いられるdq制御を実行し、滑らかなモータトルクの発生を実現する。
なお、q軸電流とは、トルクに比例する電流成分(「トルク電流」ともいう)である。一方、界磁磁束を制御するd軸電流については、ここでは零に制御するが、他の値を用いてもよい。
【0159】
このようにして、正常時においては、第1、第2系統の各トルク電流指令値Iq1*、Iq2*に追従するように、第1、第2巻線駆動系のトルク電流が各巻線組15、16に供給され、モータ2において所望の出力トルクを得ることができる。
【0160】
次に、図9内の故障検知手段25の概略機能について説明する。
この発明の実施の形態3による故障検知手段25は、各3相を備える2系統(合計6相)のうちのどの相に、開放状態の故障が発生したかを検知する。
【0161】
図9において、故障検知手段25に対しては、電源4の端子電圧Vbaに対応した電源電圧Vbと、モータ回転速度ωと、相電流検出値I1dtc、I2dtcと、電流制御手段23(正常時電流制御手段41、42)で算出されたdq軸電流偏差Ed(Ed1、Ed2)、Eq(Eq1、Eq2)および相電圧指令V1*、V2*と、が入力される。
【0162】
故障検知手段25は、各入力情報値に基づいて、各相において開放状態の故障が発生したか否かを判定する。
各相が開放状態になる故障とは、U相の場合で説明すると、U相におけるモータ線の断線、または、U相におけるインバータ22A、22Bからモータ2までの経路中のいずれかの部品が開放状態になる故障(インバータ22A、22B内のスイッチング素子UP、UNが開放状態になる故障など)である。
【0163】
故障検知手段25は、故障発生を検知すると、故障検知結果Fを生成して電流制御手段23に入力する。
これにより、電流制御手段23は、故障に応じた処置へ移行することが可能となる。なお、故障に応じた処置とは、インバータ駆動回路24に対する制御の停止、または、故障に応じた異常時制御などが挙げられるが、任意の公知処理なので、ここでは詳述を省略する。
【0164】
故障検知手段25は、概して表現すると、異常疑義判定処理により、どの系統のどの相に異常疑義が生じたかを判定し、異常疑義が生じたx相における電流Ixの絶対値が小さい状態である場合に、x相に開放状態の故障が発生したものと判定する。
【0165】
具体的には、故障検知手段25は、電源電圧Vbが所定電圧以上(Vb≧Vthr)、かつ、モータ回転速度ωが所定速度以下(ω≦ωthr)、かつ、対象とするx相(U、V、W相のいずれかの相)のx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相の電圧指令に比べて大きい)ときに、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)が所定誤差以上である場合に、異常の疑義があると判定する。
【0166】
また、対象とするx相(U、V、W相のいずれかの相)のx相電圧指令Vx*がゼロ付近でない(他の相の電圧指令に比べて大きい)ときに、かつ、制御誤差(dq軸電流偏差Ed、Eq)が所定誤差以上である状態という条件については、x相電圧指令Vx*が所定印加電圧以上(Vx*>Vxthr)であることに置き換えてもよい。
【0167】
次に、前述の実施の形態1、2(図6)に対応した図11のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3による故障検知手段25の動作について詳細に説明する。
故障検知手段25は、各3相を備える2系統(合計6相)のそれぞれについて、図11の処理手順により各相の故障を検知する。
【0168】
図11において、ステップS20、S21およびステップS6からステップS8への処理は、前述(図6)と異なるが、他の処理(ステップS1、S2、S8〜S14)については、前述と同様なので詳述を省略する。
なお、図11においては、代表的な一例として、第1系統のU相を故障検知対象としているが、他の系統の他の相についても、図11と同様の処理手順が実行される。
【0169】
図11において、まず前述と同様に、計測フラグ判定処理(ステップS1)および時間信号の初期化処理(ステップS2)に続いて、どの系統のどの相に異常の疑義があるかを判定する異常疑義判定処理(ステップS20)を行う。
異常疑義判定処理(ステップS20)の詳細については、図12を参照しながら後述する。
【0170】
続いて、異常疑義判定処理(ステップS20)の判定結果に基づき、対象とする系統(第1系統)の対象とする相(U相)が異常か否かを判定し(ステップS21)、当該系統の当該相に異常なし(すなわち、No)と判定されれば、計測期間カウンタのインクリメント処理(ステップS12)に進む。
【0171】
一方、ステップS21において、当該系統の当該相が異常(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、|Iu|≦Iu_thrを満たすか否かを判定し(ステップS6)、|Iu|>Iu_thr(すなわち、No)と判定されれば、ステップS12に進む。
一方、ステップS6において、|Iu|≦Iu_thr(すなわち、Yes)と判定されれば、計測フラグON処理(ステップS8)に進む。
ステップS8以降の処理は、前述の通りである。
【0172】
次に、図12のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3による異常疑義判定処理(ステップS20)の具体的手順について説明する。
図12において、故障検知手段25は、まず、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理(ステップS101)を行い、電源電圧Vbが所定電圧Vtr以上、かつ、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下(所定範囲内)であるか否かを判定する。
電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理(ステップS101)の詳細については、図13を参照しながら後述する。
【0173】
続いて、ステップS101の判定結果が所定範囲内であるか否かを判定し(ステップS102)、所定範囲外(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常疑義なしを示すフラグを立てて(ステップS107)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0174】
一方、ステップS102において、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定結果が所定範囲内(すなわち、Yes)と判定されれば、指令誤差が過大であるか否かの判定処理(ステップS103、S105)に進む。
【0175】
ステップS103においては、第1系統において指令誤差が過大であるか否かを判定する。すなわち、「第1系統の制御誤差が過大で、かつ相電圧指令がゼロ付近ではない」という条件が成立するか否かを判定する。
なお、ステップS103の判定条件は、相電圧指令が過大という条件に置き換えてもよい。
【0176】
ステップS103において、「第1系統の制御誤差が過大」の条件が非成立(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常疑義なしを示すフラグを立てて(ステップS107)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0177】
一方、ステップS103において、上記条件が成立する(すなわち、Yes)と判定されれば、第1系統の異常疑義成立と見なし、第1系統の当該相における指令誤差が過大であって異常疑義有りを示すフラグを立てて(ステップS104)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0178】
同様に、ステップS105においては、第2系統について、「第2系統の制御誤差が過大」の条件の成否を判定し、条件が成立しない場合にはステップS107に進み、条件が成立する場合には、第2系統の異常疑義成立と見なし、第2系統の当該相における指令誤差が過大であって異常疑義有りを示すフラグを立てて(ステップS104)、図12の処理ルーチンを終了する。
【0179】
なお、前述の通り、指令誤差判定処理(ステップS103、S105)は、制御誤差が過大であって、かつ相電圧指令がゼロ付近でないことを判定条件としているが、制御誤差は、前述の実施の形態1で述べたdq軸電流偏差Ed、Eqを用いてもよく、または、前述の実施の形態2で述べたdq軸電圧偏差Evd、Evqを用いればよい。
【0180】
前述の実施の形態1、2では、巻線駆動系が1組のみであったが、この発明の実施の形態3では、第1、第2系統において、それぞれ同様の演算を行えばよい。なお、dq軸電流偏差Ed、Eqおよびdq軸電圧偏差Evd、Evqの詳細な説明は、前述と同様なので、ここでは詳述を省略する。
【0181】
ステップS103において、たとえば、√(Ed^2+Eq^2)<Ethrが成立する場合には、制御誤差が過大でないと判定し、(√(Ed^2+Eq^2)≧Ethrが成立する場合には、制御誤差が過大であると判定する。
【0182】
また、相電流指令がゼロ付近でないか否かの判定は、U相電圧指令Vu*がゼロ付近でない(U相電圧指令Vu*が最大)か否かを判定することであり、U相電圧指令Vu*の値が図4内の領域A1(または、A2)に入っているか否かの判定に相当する。
【0183】
対象とする系統の制御誤差が過大であって、かつ対象とする相電圧指令Vx*がゼロ付近でない場合には、ステップS103において、指令誤差の過大条件が成立する(すなわち、Yes)と判定され、それ以外の場合、非成立(すなわち、No)と判定される。
【0184】
なお、ステップS103においては、制御誤差が過大であって、かつ相電圧指令がゼロ付近以外であることを判定条件としたが、対象とする相電圧指令が過大であるか否かの判定に置き換えてもよい。
この場合、当該相電圧指令(上記例では、U相電圧指令Vu*)の絶対値が、所定印加電圧Vxthr以上であるか否かにより誤差過大条件の成否を判定する。
【0185】
つまり、|Vu*|≧Vxthrが成立すれば、指令誤差過大が成立する(すなわち、Yes)と判定し、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定する。
なお、所定印加電圧Vxthrの値については、前述の実施の形態1における所定誤差Ethrの設定において述べたように、たとえば、外乱電圧から相電圧指令の応答を考慮して設計すればよい。
【0186】
次に、図13のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3による電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理(ステップS101)の具体的手順について説明する。
図13において、ステップS201、S202は、それぞれ、前述(図6)のステップS3、S4と同様の処理である。
【0187】
ステップS201においては、電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であるか否かを判定し、Vb<Vthr(すなわち、No)と判定されれば、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωが所定範囲外であることを示すフラグを立てて(ステップS204)、図13の処理ルーチンを終了する。
【0188】
一方、ステップS201において、Vb≧Vthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、モータ回転速度ωが所定速度ωthr以下であるか否かを判定し(ステップS202)、ω>ωthr(すなわち、No)と判定されれば、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωが所定範囲外であることを示すフラグを立てて(ステップS204)、図13の処理ルーチンを終了する。
【0189】
一方、ステップS202において、ω≦ωthr(すなわち、Yes)と判定されれば、電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωが所定範囲内であることを示すフラグを立てて(ステップS203)、図13の処理ルーチンを終了する。
【0190】
以上のように、図11内のステップS20、S21において、対象とする系統の対象とする相に異常の疑義があるか否かを判定することができ、異常の疑義がある場合には、ステップS6に進み、当該相の相電流の絶対値が過小であることを判定して、当該相に開放状態の故障が発生したことを検知することができる。
【0191】
また、図13内のステップS101の電源電圧Vbおよびモータ回転速度ωの判定処理を、各系統における判定処理で個別に実行することなく、共通して実行すればよく、その分、演算が簡略化することができるという効果がある。
【0192】
以上のように、この発明の実施の形態3(図9〜図13)に係るモータ制御装置は、
複数相の巻線からなる巻線組を複数系統(巻線組15、16)有するモータ2に対し、電源4から供給される電流および印加電圧を制御するために、複数系統の巻線組15、16の各相に対する印加電圧を制御する複数のスイッチング素子UP1〜WP1、UN1〜WN1、UP2〜WP2、UN2〜WN2を有し、電源4から複数系統の巻線組15、16の各相に供給する電流を制御する複数系統のインバータ22A、22Bと、複数系統の巻線組15、16の各相に供給する電流に対応した複数組の電流指令に応じて、複数系統のインバータ22A、22Bの各々に印加電圧に対応した複数組の電圧指令V1*、V2*を生成し、複数系統の巻線組15、16の各相に流す電流を制御する電流制御手段23と、複数系統の巻線組15、16の各相または複数系統のインバータ22A、22Bのいずれかの配線の断線、または、複数のスイッチング素子UP1〜WP1、UN1〜WN1、UP2〜WP2、UN2〜WN2のいずれかのオープン故障を検知する故障検知手段25と、を備えている。
【0193】
故障検知手段25は、複数系統のインバータ22A、22Bおよび複数系統の巻線組15」、16の各々で構成される複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する異常疑義判定処理を行い、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相の相電流が所定電流Ix_thr以下である状態が所定時間(計測期間tm_thr)以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0194】
これにより、図9のように、複数系統の巻線駆動系を備えた場合であっても、異常が生じた系統の判定と、相電流の過小状態の判定とにより、オープン故障を特定することができるので、相の開放状態の故障を正確に特定することができる。
また、故障検知手段25による異常疑義判定処理(図12)において、一部の判定処理を共通化や系統間の相互比較を行うことができ、この結果、故障の検知精度および検知速度を向上させつつ、簡易な演算による故障検知を可能とすることができる。
【0195】
また、故障検知手段25は、異常疑義判定処理(図12)において、複数の系統の各々に共通して、電源4の電源電圧Vbが所定電圧Vthr以上であって、かつ、モータ2のモータ回転速度ωが所定速度ωthr以下である条件が成立するか否かを判定し、条件が成立したときに、さらに、複数の系統の各々において、電流指令または電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定してもよい。
これにより、一部判定が共通化されるので、検知精度および検知速度を向上させつつ、演算を簡易化することができる。
【0196】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3(図9〜図13)では、故障検知手段25の異常疑義判定処理(図12)において、複数系統の電源電圧Vbの判定処理(ステップS101)を共通に実行したが、図14(ステップS302、S306)のように、複数の系統ごとに電源電圧Vb1、Vb2の判定処理を実行してもよい。
【0197】
図14はこの発明の実施の形態4による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートであり、ステップS303〜S305、S307、S308は、前述(図12参照)のステップS103、S104、S107、S105、S106と同様の処理である。
図14においては、各系統に対して、電源電圧Vb1、Vb2の判定処理(ステップS302、S306)を個別に実行する点が前述(図12)と異なる。
【0198】
なお、この発明の実施の形態4の構成は、図9および図10に示した通りであり、基本的な制御処理手順は、図11に示した通りである。
ただし、この場合、図9内の電源電圧検出器26は、第1系統側に供給される電源電圧Vba1と、第2系統側に供給される電源電圧Vba2を個別に計測する。
また、故障検知手段25は、電源電圧Vb1、Vb2の判定処理を系統ごとに個別に実行する。
【0199】
図14において、故障検知手段25は、まず、モータ回転速度ωが所定速度以下(ω≦ωthr)であるか否かを判定し(ステップS301)、ω>ωthr(すなわち、No)と判定されれば、前述(図12)のステップS107と同様に、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常疑義なしを示すフラグを立てて(ステップS305)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0200】
一方、ステップS302において、ω≦ωthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、各系統の電源電圧Vb1、Vb2の判定処理(ステップS302、S306)に進む。
ステップS302においては、第1系統側の電源電圧Vb1が所定電圧以上(Vb1≧Vthr)であるか否かを判定し、Vb1<Vthr(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なして(ステップS305)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0201】
一方、ステップS302において、Vb1≧Vthr(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、前述(図12)のステップS103と同様に、対象とする第1系統の指令誤差の過大判定処理(ステップS303)を行い、指令誤差が過大ではない(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なして(ステップS305)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0202】
一方、ステップS303において、指令誤差が過大である(すなわち、Yes)と判定されれば、前述(図12)のステップS104と同様に、第1系統の対象とする相における指令誤差が過大であって、異常の疑義があることを示すフラグを立てて(ステップS304)、図14の処理ルーチンを終了する。
【0203】
図14内のステップS302〜S304は、第1系統についての処理であるが、ステップS306〜S308は、第2系統についての処理である。
ステップS306〜S308の詳細については、第2系統の各値に対して第1系統と同様の処理を実行するのみなので詳述を省略する。
【0204】
以上のように、この発明の実施の形態4(図9、図14)による故障検知手段25は、複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行う。
すなわち、故障検知手段25は、異常疑義判定処理(図14)において、各インバータ22A、22Bおよび各巻線組15、16の系統ごとに構成された複数の系統(第1系統、第2系統)のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する。
【0205】
具体的には、ステップS302、S306において、電源4の電源電圧Vb1、Vb2が所定電圧Vthr以上(すなわち、Yes)であって、かつ、ステップS301において、モータ2のモータ回転速度ωが所定速度ωthr以下(ステップS301)であったときに、電流指令または電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0206】
また、故障検知手段25は、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0207】
このように、異常疑義判定処理において、系統ごとに個別に状態検出および判定を行うことにより、複数系統の巻線駆動系を備えた場合であっても、相の開放状態の故障を正確に特定することができ、さらに、他の系統に依存せずに、検知精度を個別に高めることができる。
【0208】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態3、4(図12、図14)では、異常疑義判定処理において、電源電圧およびモータ回転速度を用いたが、図15(ステップS401、S402、S405、S406)のように、系統ごとの状態量(制御誤差や電圧指令など)を系統間で相互に比較してもよい。
【0209】
図15はこの発明の実施の形態5による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートであり、ステップS401、S403〜S405、S407は、前述(図14参照)のステップS303〜S305、S307、S308と同様の処理である。
図15においては、各系統における制御誤差や電圧指令などの状態量を、系統間で相互に比較(ステップS403、S406)することにより、どの系統に異常の疑義が生じているかを判定する点が前述(図14)と異なる。
【0210】
図15において、故障検知手段25は、まず、対象とする系統(ここでは、第1系統)における指令誤差が過大であるか否かを判定し(ステップS401)、指令誤差が過大ではない(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なし、第1、第2系統のいずれにも異常の疑義がないことを示すフラグを立てて(ステップS404)、図15の処理ルーチンを終了する。
【0211】
ステップS401の指令誤差過大判定の詳細は、前述(図12、図14)のステップS103、S303とほぼ同様であるが、相違点に注目して後述する。
ステップS401において、制御誤差(または、相電圧指令)が過大である(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、他方の系統(第2系統)が正常状態であるか否かを判定する(ステップS402)。
【0212】
ステップS402において、他方の系統の制御誤差(または、相電圧指令)が十分に正常範囲(適正範囲内)にある(すなわち、Yes)と判定されれば、第1系統(対象とする系統)の異常疑義成立と見なし、第1系統の対象とする相において指令誤差が過大であり異常の疑義があることを示すフラグを立てて(ステップS403)、図15の処理ルーチンを終了する。
【0213】
一方、ステップS402において、他方の系統(第2系統)の制御誤差(または、相電圧指令)が適正範囲から逸脱している(すなわち、No)と判定されれば、正常状態と見なして(ステップS404)、図15の処理ルーチンを終了する。
【0214】
図15内のステップS401〜S403は、第1系統についての処理であるが、ステップS405〜S407は、第2系統についてのフローである。
ステップS405〜S407の詳細については、第2系統の各値に対して第1系統と同様の処理を実行するのみなので詳述を省略する。
【0215】
ステップS401、S405における指令誤差の過大判定処理は、制御誤差が過大であって、かつ、相電圧指令がゼロ付近でないことを判定条件としている。
ここで、制御誤差は、前述の実施の形態1で述べたdq軸電流偏差Ed、Eq、または、前述の実施の形態2で述べたdq軸電圧偏差Evd、Evqを用いればよい。
【0216】
前述の実施の形態1、2では、巻線駆動系が1組のみであったが、この発明の実施の形態5では、第1、第2系統においてそれぞれ、同様の演算をすればよい。
なお、dq軸電流偏差Ed、Eqおよびdq軸電圧偏差Evd、Evqについては、前述と同様なので詳述を省略する。
【0217】
ステップS401において、たとえば、√(Ed^2+Eq^2)<Ethrが成立する場合は、制御誤差が過大でないと判定され、(√(Ed^2+Eq^2)≧Ethrが成立する場合は、制御誤差が過大と判定される。
なお、相電流指令がゼロ付近でないことの判定は、U相電圧指令Vu*がゼロ付近でない(U相電圧指令Vu*が最大)か否かを判定するものであり、U相電圧指令Vu*の値が前述(図4)の領域A1(または、A2)に入っているか否かの判定に相当する。
【0218】
したがって、ステップS401において、対象とする系統の制御誤差が過大であって、かつ、相電圧指令Vx*がゼロ付近でない場合には、指令誤差過大が成立(すなわち、Yes)と判定され、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定される。
【0219】
また、制御誤差の過大および相電圧指令のゼロ付近以外を判定条件としたが、制御誤差の過大のみを判定状態としてもよい。
なぜなら、相電圧指令がゼロ付近である場合を判定条件から除いた理由は、電流が正常であってもゼロクロスする場合があることから、正常状態を異常状態と誤判定することを回避するためであるが、この発明の実施の形態5においては、他系統との相互比較を用いているので、他系統の制御誤差が小さく正常であり(ステップS402)、かつ、対象とする系統の制御誤差が大きい場合に限定して、対象とする系統の異常疑義成立を判定するからである。このように、他系統との相互比較を用いることにより、制御誤差の過大条件のみから、異常の疑義を判定することができる。
【0220】
なお、この発明の実施の形態5において、制御誤差が適正範囲内を示す閾値すなわち適正制御誤差Erthrは、前述の実施の形態1における所定誤差Ethrよりも小さい値に設定するものとする。
たとえば、√(Ed^2+Eq^2)≦Erthrが成立する場合には、制御誤差が適正範囲内にあると判定され、(√(Ed^2+Eq^2)>Erthrが成立する場合には、制御誤差が適正範囲から逸脱したと判定される。
【0221】
前述の実施の形態1における所定誤差Ethrは、モータ回転速度ωの判定閾値である所定速度ωthr以下の外乱を仮定して設定したが、この発明の実施の形態5においては、各系統間の相対比較を用いているので、所定速度ωthrを考慮する必要はなく、適正制御誤差Erthrは、前述の所定誤差Ethrよりも小さい値に設定することが可能となる。
【0222】
この場合、適正制御誤差Erthrを所定誤差Ethrよりも小さい値に設定しても、他方の系統が正常であることを判定しているので、外乱により誤検知が生じる可能性はない。同様に、他方の系統における適正制御誤差Erthrについても、所定誤差Ethrよりも小さい値に設定すればよい。
【0223】
このように、異常に過大な状態を判定する閾値である適正制御誤差Erthrを、前述の所定誤差Ethrよりも小さい値に設定することができるので、故障検知精度を向上させるとともに、故障発生から検知までに要する時間を短縮(検知速度を速く)することができる。
【0224】
なお、図15内のステップS401においては、制御誤差の過大および相電圧指令のゼロ付近以外を判定条件としたが、対象とする相電圧指令が過大か否かの判定に置き換えてもよい。
この場合、対象とする相電圧指令(この例では、U相電圧指令Vu*)の絶対値が、所定印加電圧Vxthr以上であるか否かにより、制御誤差の過大状態を判定する。
【0225】
具体的には、ステップS401において、|Vu*|≧Vxthrの場合には、指令誤差過大が成立(すなわち、Yes)と判定し、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定することになる。
なお、所定印加電圧Vxthrの値については、前述の実施の形態1における所定誤差Ethrの設定で述べたように、たとえば、外乱電圧から相電圧指令の応答を考慮して設計すればよい。
【0226】
また、同時に、ステップS402においては、他の系統の相電圧指令が過大か否かを判定してもよい。具体的には、他方の系統のU相電圧指令Vu*の絶対値が、適正印加電圧Vrxthr以下か否かにより、他系統の正否を判定してもよい。
この場合、ステップS402において、|Vu*|≦Vrxthrが成立するときに、他系統の正常判定が成立(すなわち、Yes)と判定し、それ以外の場合には、非成立(すなわち、No)と判定することになる。
なお、適正印加電圧Vrxthrについては、所定印加電圧Vxthrよりも小さい値に設定すればよい。
【0227】
所定印加電圧Vxthrについても、所定誤差と同様の議論が可能であり、前述の実施の形態3(図12)では、外乱電圧から相電圧指令の応答を考慮して設計したが、この発明の実施の形態5においては、各系統間の相対比較を用いていので、モータ回転速度ωなどで決まる外乱電圧を考慮する必要はなく、所定印加電圧Vxthrは、たとえば前述の実施の形態3における値よりも小さい値に設定することができる。
【0228】
この場合、所定印加電圧Vxthrを小さい値に設定しても、他方の系統が正常であることを判定しているので、外乱によって誤検知が生じる可能性はない。
同様に、他方の系統における適正印加電圧Vrxthrについても、前述の実施の形態3における所定印加電圧Vxthrよりも小さい値に設定すればよい。
【0229】
このように、異常に過大な状態を判定する閾値である所定印加電圧Vxthrを、前述の実施の形態3よりも小さい値に設定することができるので、故障検知精度を向上させるとともに、故障発生から検知までに要する時間を短縮(検知速度を速く)することができる。
【0230】
以上のように、この発明の実施の形態5による故障検知手段25は、各インバータ22A、22Bおよび各巻線組15、16で構成された複数の系統の各々について異常疑義判定処理(図15)を行い、複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する。
具体的には、複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が所定誤差以上で、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0231】
また、故障検知手段25は、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0232】
また、故障検知手段25は、複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令が所定印加電圧以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0233】
制御誤差は、電流指令に応じた値であり、具体的には、電流指令の値と電流との電流偏差(dq軸電流偏差Ed、Eq)に応じた値である。
または、制御誤差は、電圧指令値と印加電圧との電圧偏差(dq軸電圧偏差Evd、Evq)に応じた値であり、印加電圧は、電流およびモータ回転速度ωの少なくとも一方に応じた推定値である。
【0234】
これにより、前述の実施の形態3、4と同様に、複数系統の巻線駆動系を備えた場合であっても、相の開放状態の故障を正確に特定することができ、故障検知の精度および速度を向上させることができる。
【0235】
また、モータ回転速度ωの条件や電源電圧Vbの条件が不要となり、動作状態の限定を受けることがないので、広い動作範囲で故障の検知が可能となる。
さらに、各系統間で相互比較を行うので、単独で判定処理を行う場合よりも異常状態の閾値を小さい値(厳しい判定方向)に設定することができるので、さらに故障検知の精度および速度を向上させることができる。
【0236】
なお、上記説明では、指令誤差の過大判定処理(ステップS401)と他系統の正常判定処理(ステップS402)とを個別に実行したが、対象とする系統と他方の系統との差を判定するようにして、統合してもよい。
【0237】
この場合、故障検知手段25は、複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が、他方の系統における制御誤差よりも所定差分誤差以上大きい場合、または、対象とする系統における制御誤差から他方の系統における制御誤差を減算した値が所定差分誤差以上である場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0238】
具体的には、対象とする系統の制御誤差をE1とし、他方の系統の制御誤差をE2とすると、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値から、他方の系統の制御誤差E2の絶対値を減算した値が、所定差分誤差Ethrd以上であるか否かの条件に置き換えればよい。
【0239】
これを式で表現すると、ステップS402において、以下の式(6)が成立するならば、ステップS403に進み、対象とする系統(第1系統)に異常の疑義が生じていると見なす。
【0240】
|E1|−|E2|≧Ethrd ・・・(6)
【0241】
一方、式(6)が非成立ならば、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
【0242】
指令誤差過大判定処理(ステップS405)および他系統正常判定処理(ステップS406)についても、同様に置き換えればよい。
なお、所定差分誤差Ethrdは、所定誤差と適正制御誤差との差分に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0243】
また、制御誤差ではなく相電圧指令を用いた場合も同様であり、故障検知手段25は、対象とする系統における電圧指令が、他方の系統における電圧指令よりも所定差分印加電圧以上大きい場合、または、対象とする系統における電圧指令から他方の系統における電圧指令を減算した値が所定差分印加電圧以上である場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することができる。
【0244】
具体的には、対象とする系統(第1系統)の相電圧指令をVx1とし、他方の系統(第2系統)の相電圧指令をVx2とすると、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値から、他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値を減算した値が、所定差分印加電圧Vxthrd以上であるか否かの条件に置き換えればよい。
【0245】
これを式で表現すると、ステップS402において、以下の式(7)が成立するならば、ステップS403に進み、対象とする系統(第1系統)に異常の疑義が生じていると見なす。
【0246】
|Vx1|−|Vx2|≧Vxthrd ・・・(7)
【0247】
一方、式(7)が非成立ならば、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
【0248】
指令誤差過大判定処理(ステップS405)および他系統正常判定処理(ステップS406)についても、同様に置き換えればよい。
なお、所定差分印加電圧Vxthrdは、所定印加電圧と適正印加電圧との差分に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0249】
また、上記式(6)は、等価的変形が当然可能であり、たとえば、以下の式(8)のように表現することができる。
【0250】
|E1|≧|E2|+Ethrd ・・・(8)
【0251】
すなわち、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値が、他方の系統の制御誤差E2の絶対値に比べて所定差分誤差Ethrd分だけ大きいか否かという条件に置き換えることができる。
相電圧指令についても同様であり、上記式(7)は、以下の式(9)のように表現することができる。
【0252】
|Vx1|≧|Vx2|+Vxthrd ・・・(9)
【0253】
すなわち、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値が、他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値に比べて所定差分印加電圧Vxthrd分だけ大きいか否かという条件に置き換えることができる。
【0254】
また、上記説明では、指令誤差過大判定処理(ステップS401)において、対象とする系統のみの値を用いたが、対象とする系統の値と他方の系統の値との和を判定するようにしてもよい。
【0255】
具体的には、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値と、他方の系統の制御誤差E2の絶対値とを加算した値が、所定加算誤差Ethrs以上であるか否かの条件に置き換えればよい。
これを式で表現すると、ステップS401において、以下の式(10)が成立するならば、対象とする系統の指令誤差が過大であると判定する。
【0256】
|E1|+|E2|≧Ethrs ・・・(10)
【0257】
一方、式(10)が非成立ならば、指令誤差が過大でないので、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
【0258】
すなわち、故障検知手段25は、対象とする系統における制御誤差と、他方の系統における制御誤差との和が所定加算誤差Ethrs以上であって、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
なお、所定加算誤差は、所定誤差と適正制御誤差との和に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0259】
また、制御誤差ではなく相電圧指令を用いた場合も同様であり、具体的には、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値と、他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値とを加算した値が、所定加算印加電圧Vxthrs以上であるか否かに置き換えればよい。
【0260】
この場合、故障検知手段25は、対象とする系統における電圧指令と、他方の系統における電圧指令との和が所定加算印加電圧Vxthrs以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正引火電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0261】
これを式で表現すると、ステップS401において、以下の式(11)が成立するならば、対象とする系統の指令誤差が過大であると判定する。
【0262】
|Vx1|+|Vx2|≧Vxthrs ・・・(11)
【0263】
一方、式(11)が非成立ならば、指令誤差が過大でないので、ステップS404に進み、正常状態であると見なすことになる。
ステップS405についても、ステップS401と同様に、上述の変形が可能である。
なお、所定加算印加電圧Vxthrsは、所定印加電圧と適正印加電圧との和に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0264】
また、上記式(10)は、等価的変形が当然可能であり、たとえば、以下の式(12)のように表現することができる。
【0265】
|E1|≧Ethrd−|E2| ・・・(12)
【0266】
すなわち、対象とする系統の制御誤差E1の絶対値が、所定差分誤差Ethrdから他方の系統の制御誤差E2の絶対値を減算した値以上であるか否かという条件に置き換えることができる。
相電圧指令についても同様であり、上記式(11)は、以下の式(13)のように表現することができる。
【0267】
|Vx1|≧Vxthrd−|Vx2| ・・・(13)
【0268】
すなわち、対象とする系統の相電圧指令Vx1の絶対値が、所定差分印加電圧Vxthrdから他方の系統の相電圧指令Vx2の絶対値を減算した値以上であるか否かという条件に置き換えることができる。
【0269】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態5(図15)では、異常疑義判定処理において、対象とする系統の指令誤差の過大条件の成否を判定したが、図16(ステップS501、S505)のように、各系統の状態量(相電流など)を系統間で相互に比較してもよい。
【0270】
図16はこの発明の実施の形態6による異常疑義判定処理を具体的に示すフローチャートであり、ステップS502〜S504、S506、S507は、前述(図15参照)のステップS402〜S404、S406、S407と同様の処理である。
図16においては、各系統における対応する相の相電流(状態量)を系統間で相互に比較することにより、どの系統に異常の疑義が生じているかを判定する点が前述(図15)と異なる。
【0271】
図16において、故障検知手段25は、まず、対象とする系統以外の他方の系統(ここでは、第2系統)に関して、他系統の対応する相の相電流が「ゼロ付近でない大きな値」であるか否かを判定する(ステップS501)。
【0272】
ステップS501は、系統間の相違によって異常の疑義を判定する処理であり、図11内のステップS6の判定処理(判定対象とする系統の当該相の相電流が過小状態か否かの判定処理)とは異なる。
【0273】
具体的には、ステップS501の判定処理においては、他方の系統の対応する相の相電流I2xの絶対値が所定通常電流Ixthrn以上(|I2x|≧Ixthrn)であるか否かを判定する。なお、所定通常電流Ixthrnは、所定電流Ix_thrよりも大きく設定すればよい。
【0274】
ステップS501において、他系統の相電流がゼロ付近(すなわち、No)と判定されれば正常と見なし(ステップS504)、図16の処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS501において、他系統の相電流が大きい(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、他方の系統(第2系統)が正常であるか否かを判定する(ステップS502)。
【0275】
ステップS502においては、前述(ステップS402)と同様に、対象とする系統以外の他系統(第2系統)の制御誤差(または、電圧指令)が過大を示す基準値よりも小さな適正範囲内にあるか否かを判定する。
なお、適正範囲とは、十分に正常と見なせる範囲を意味しており、実際の異常範囲からはマージンが設定されているので、適正範囲外がすべて異常という訳ではない。
【0276】
ステップS502において、他方の系統(第2系統)の制御誤差が十分正常な適正範囲内にない(すなわち、No)と判定されれば正常と見なし(ステップS504)、他系統の制御誤差が適性範囲内にある(すなわち、Yes)と判定されれば、対象とする系統(第1系統)の異常擬似条件が成立と見なして(ステップS503)、図16の処理ルーチンを終了する。
【0277】
正常状態判定時のステップS504においては、前述(ステップS107、S305、S404)と同様に、いずれの系統にも異常の疑義がないことを示すフラグを立てる。
また、ステップS503においては、前述(ステップS104、S304、S403)と同様に、第1系統の当該相の指令誤差が過大であって異常の疑義があることを示すフラグを立てる。
なお、第2系統の処理(ステップS505〜S507)については、上記第1系統の処理(ステップS501〜S503)と同様なので説明は省略する。
【0278】
以上のように、この発明の実施の形態6(図16)による故障検知手段25は、対象とする系統ではない他方の系統における対応する相の相電流が所定通常電流Ixthrn以上であって、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0279】
または、故障検知手段25は、他方の系統における対応する相電流が所定通常電流Ixthrn以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0280】
制御誤差は、電流指令に応じた値であり、具体的には、電流指令の値と電流との電流偏差(dq軸電流偏差Ed、Eq)に応じた値である。
または、制御誤差は、電圧指令値と印加電圧との電圧偏差(dq軸電圧偏差Evd、Evq)に応じた値であり、印加電圧は、電流およびモータ回転速度ωの少なくとも一方に応じた推定値である。
【0281】
また、前述の実施の形態3〜5と同様に、故障検知手段25は、インバータ22A、22Bおよび巻線組15、16で構成された複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する異常疑義判定処理(図16)を行い、異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定する。
【0282】
これにより、前述と同様に、複数の系統の巻線駆動系を備える場合にも、相の開放状態の故障を正確に特定することができ、かつ、モータ回転速度ωの条件や電源電圧の条件が不要となり、動作状態の限定がないので、広い動作範囲で故障の検知が可能となり、さらに、系統間で相互比較を行うので、外乱を考慮した判定閾値の設定をしなくてよいので、故障検知の速度を向上することができる。
【0283】
また、モータ回転速度ωなどで決まる外乱電圧を考慮することなく、所定通常電流Ixthrnを決定することができ、このように判定基準を設定しても、他方の系統が正常であることを判定可能なので、外乱による誤検知の可能性はない。
この結果、外乱を考慮した閾値設定にする必要がないので、故障検知速度を向上させることができる。
また、系統間で相互比較を行うので、単独で判定するよりも異常状態の閾値を小さい値(厳しい方向)に設定することができるので、故障検知の精度および速度を向上させることができる。
【0284】
また、他系統相電流大判定処理(ステップS501)において、他系統のみの値を用いたが、対象とする系統と他方の系統との和を用いて判定してもよい。
この場合、故障検知手段25は、対象とする系統の対象とする相の相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であって、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0285】
または、故障検知手段25は、対象とする系統の対象とする相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であて、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0286】
具体的には、対象とする系統の相電流I1xの絶対値と、他方の系統の相電流I2xの絶対値とを加算した値が、所定加算電流Ixthrs以上であるか否かに置き換えればよい。
これを式で表現すると、ステップS501において、以下の式(14)が成立するならば、他系統の相電流が大きいと判定する。
【0287】
|I1x|+|I2x|≧Ixthrs ・・・(14)
【0288】
一方、式(14)が非成立ならば、他系統の相電流がゼロ付近と判定して、ステップS504に進み、正常状態であると見なすことになる。
なお、所定加算電流Ixthrsは、所定電流と所定通常電流との和に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0289】
また、他系統相電流大判定処理(ステップS501)において、他系統のみの値を用いたが、対象とする系統と他方の系統との差を判定するようにしてもよい。
この場合、故障検知手段25は、他方の系統における対応する相電流が、対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0290】
または、故障検知手段25は、他方の系統における対応する相電流が、対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定する。
【0291】
具体的には、他方の系統の相電流I2xの絶対値から対象とする系統の相電流I1xの絶対値を減算した値が、所定差分電流Ixthrd以上であるか否かに置き換えればよい。
これを式で表現すると、ステップS501において、以下の式(15)が成立するならば、他系統の相電流が大きいと判定する。
【0292】
|I2x|−|I1x|≧Ixthrd ・・・(15)
【0293】
一方、式(15)が非成立ならば、他系統の相電流がゼロ付近と判定して、ステップS504に進み、正常状態であると見なすことになる。
なお、所定差分電流Ixthrdは、所定通常電流から所定電流を減算した値に設定すればよく、これにより、上述と同様の効果を奏することができる。
【0294】
また、上記式(15)は、等価的変形が当然可能であり、たとえば、以下の式(12)のように表現することができる。
【0295】
|I2x|≧|I1x|+Ixthrd ・・・(16)
【0296】
すなわち、他方の系統の相電流I2xの絶対値が、対象とする系統の相電流I1xの絶対値に比べて所定加算電流Ixthrs分だけ大きいか否かという条件に置き換えることができる。
【0297】
実施の形態7.
なお、上記実施の形態1〜6(図1〜図16)では、迅速処理が可能な故障検知手段25を備えたモータ制御装置1のみについて説明したが、図17のように、モータ2を操舵アシストモータに適用するとともに、モータ制御装置1を車両の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。
【0298】
図17はこの発明の実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置を概略的に示すブロック構成図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号が付されている。
【0299】
図17において、電動パワーステアリング装置は、モータトルクTm(補助力)を発生するモータ2と、モータ回転角度センサ3と、電源4と、車両の運転者が操作するステアリングホイール5と、ステアリングホイール5に連結されたステアリングシャフト6と、ステアリングホイール5に加わる運転者の操舵トルクTsを検出するトルクセンサ7と、モータ2とステアリングシャフト6との間に介在されたモータ減速ギヤ8と、ステアリングシャフト6の先端部に設けられたラック・ピニオンギヤ9と、ラック・ピニオンギヤ9を介してステアリングシャフト6からの操舵力が伝達される左右の車輪10、11と、モータ2の状態量および各センサ3、7からの入力情報に基づきモータ2を制御するコントロールユニット12と、を備えている。
【0300】
トルクセンサ7は、運転者がステアリングホイール5を操舵したときに、ステアリングホイール5からステアリングシャフト6に加わった操舵トルクTsを検出し、コントロールユニット12に入力する。
【0301】
また、モータ回転角度センサ3は、モータ2のモータ回転角度θを検出してコントロールユニット12に入力する。
モータ回転角度θの検出値は、コントロールユニット12内のモータ制御装置1(図1、図2参照)に入力されて、前述と同様に、電流制御手段23における3相電圧指令V*の決定に用いられるとともに、モータ回転速度ωの演算に用いられる。
【0302】
コントロールユニット12は、モータ制御装置1と、操舵トルクTsに基づきモータトルクTmの目標値に相当するトルク電流指令(q軸電流指令Iq*)を算出するマップ13と、を備えている。
コントロールユニット12内のマップ13は、モータ2から出力すべきモータトルクTmの目標値をあらかじめ記憶しており、トルクセンサ7からの操舵トルクTsに応じたモータトルクTmの方向と大きさを決定し、モータ2を制御するためのトルク電流指令を算出する。
【0303】
運転者からステアリングホイール5に加えられた操舵トルクTsは、ステアリングシャフト6からラック・ピニオンギヤ9を介してラックに伝達され、車輪10、11を転舵させる。
モータ2は、モータ減速ギヤ8を介してステアリングシャフト6と連結しており、モータ2から発生する補助力(モータトルクTm)は、モータ減速ギヤ8を介してステアリングシャフト6に伝達され、操舵時に運転者が加える操舵トルクTsを軽減させるように作用する。
【0304】
コントロールユニット12内のモータ制御装置1は、トルクセンサ7からの操舵トルクTsに応じて、マップ13からモータ2が付与すべき目標補助力の方向と大きさを決定し、目標補助力を発生させるために、電源4からモータ2に供給する電流を制御する。
すなわち、モータ制御装置1は、トルク電流指令(q軸電流指令Iq*)を実現するように、モータ2に流れる電流を制御する。
この電流により、モータ2からは、目標補助力と一致した補助力が発生する。
【0305】
図9の電動パワーステアリング装置においては、車両の走行中に故障が発生した場合に直ちに制御を停止すると、運転者の感じる違和感が大きくなるので、可能な限り制御を継続させることにより違和感を低減することが望ましい。
【0306】
したがって、コントロールユニット12において、モータ制御装置1内の電流制御手段23は、故障検知手段により何らかの故障が発生したことが検知された場合には、可能な限り良好な制御を継続させるために、故障した箇所と故障内容を短時間に特定し、故障箇所および故障内容に応じたモータ2の制御を行う。
【0307】
たとえば、モータ2のU相に開放状態の故障が特定された場合には、他のV相、W相のみの電流を制御することにより、モータ2の制御を継続する。
また、短時間で故障箇所と故障内容を特定することにより、故障発生後に早く故障状態に対応した制御に移行することが可能となる。
【0308】
以上のように、この発明の実施の形態7(図17)に係る電動パワーステアリング装置は、前述のモータ制御装置1を含むコントロールユニット12と、コントロールユニット12に電力を供給する電源4と、車両の運転者により操作されるステアリングホイール5と、ステアリングホイール5に連結されたステアリングシャフト6と、ステアリングホイール5からステアリングシャフト6に加わる操舵トルクTsを検出するトルクセンサ7と、ステアリングシャフト6に接続されて操舵トルクTsを軽減するためのモータトルクTm(補助力)を発生するモータ2と、を備えている。
【0309】
コントロールユニット12は、操舵トルクTsの検出値に基づき目標補助力を発生させるようにモータ2に対する供給電力を制御するとともに、モータ制御装置1からモータ2までの経路の開放故障が検知された場合には、故障検知内容に応じた制御により、モータ2の制御を継続させる。
【0310】
これにより、たとえば、モータ2の1相が開放状態になる故障を、短い時間で正確に特定することができるので、迅速かつ正確に、故障状態に対応した制御に移行することができ、運転者の感じる違和感を低減することができる。
【符号の説明】
【0311】
1 モータ制御装置、2 モータ、3 モータ回転角度センサ、4 電源、5 ステアリングホイール、6 ステアリングシャフト、7 トルクセンサ、8 モータ減速ギヤ、10、11 車輪、12 コントロールユニット、13 マップ、15、16 巻線組、21 モータ回転速度演算器、22、22A、22B インバータ、23 電流制御手段、24、24A、24B インバータ駆動回路、25 故障検知手段、26 電源電圧検出器、31 2相変換手段、32 減算器、34 d軸制御器、35 q軸制御器、36 3相変換手段、41、42 正常時電流制御手段、43 トルク電流分配手段、、CT1、CT2、CT3、CT11、CT21、CT31、CT12、CT22、CT32 電流検出器、DUP、DVP、DWP、DUN、DVN、DWN、DUP1、DUN1、DVP1、DVN1、DWP1、DWN1、DUP2、DUN2、DVP2、DVN2、DWP2、DWN2 ダイオード、Ed d軸電流偏差、Eq q軸電流偏差、Ethr 所定誤差、Evd d軸電圧偏差、Evq q軸電圧偏差、F 故障検知結果、I* 電流指令、Id d軸電流、Iq q軸電流、Id* d軸電流指令、Iq* q軸電流指令、Iu U相電流、Iv V相電流、Iw W相電流、Iq1*、Iq2* トルク電流指令値、Is* 総合トルク電流要求値、Iu_thr 所定電流、Ke 誘起電圧定数、t0 故障発生時刻、t1、t3 故障検知時刻、tc 時間信号、tc_thr 所定時間、Tm モータトルク、Ts 操舵トルク、UP、VP、WP、UN、VN、WN、UP1、UN1、VP1、VN1、WP1、WN1、UP2、UN2、VP2、VN2、WP2、WN2 スイッチング素子、V* 3相電圧指令、Vb 電源電圧、Vd* d軸電圧指令、Vq* q軸電圧指令、Vd d軸電圧値、Vq q軸電圧値、Vthr 所定電圧、Vu* U相電圧指令、Vv* V相電圧指令、Vw* W相電圧指令、θ モータ回転角度、ω モータ回転速度、ωthr 所定速度、S20 異常疑義判定処理。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のモータへの電流および印加電圧を制御するモータ制御装置であって、
電源からの電力を前記モータに供給するインバータと、
電流指令に応じた電圧指令を生成して前記モータへの電流を制御する電流制御手段と、
前記電圧指令に応じて前記インバータを駆動して前記モータへの印加電圧を制御するインバータ駆動回路と、
前記電圧指令、前記電源の電源電圧、前記モータのモータ回転速度、および前記複数相の電流に基づいて故障発生状態を検知する故障検知手段と、を備え、
前記故障検知手段は、
前記電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、
前記モータ回転速度が所定速度以下であって、かつ、
対象とする相の電圧指令がゼロ付近でなく、かつ、
前記対象とする相電流が所定電流以下であって、かつ、
前記電流指令または前記電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、
前記対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御誤差は、前記電流指令に応じた値であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御誤差は、前記電流指令の値と前記電流との電流偏差に応じた値であることを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御誤差は、前記電圧指令値と前記印加電圧との電圧偏差に応じた値であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記印加電圧は、推定値であることを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記印加電圧は、前記電流および前記モータ回転速度の少なくとも一方に応じた推定値であることを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記対象とする相の電圧指令がゼロ付近でないという条件は、前記対象とする相の電圧指令が他の相に比べて大きいという条件により設定されたことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
複数相の巻線からなる巻線組を複数系統有するモータに対し、電源から供給される電流および印加電圧を制御するモータ制御装置であって、
前記複数系統の巻線組の各相に対する印加電圧を制御する複数のスイッチング素子を有し、前記電源から前記複数系統の巻線組の各相に供給する電流を制御する複数系統のインバータと、
前記複数系統の巻線組の各相に供給する電流に対応した複数組の電流指令に応じて、前記複数系統のインバータの各々に前記印加電圧に対応した複数組の電圧指令を生成し、前記複数系統の巻線組の各相に流す電流を制御する電流制御手段と、
前記複数系統の巻線組の各相または前記複数系統のインバータのいずれかの配線の断線、または、前記複数のスイッチング素子のいずれかのオープン故障を検知する故障検知手段と、を備え、
前記故障検知手段は、
前記複数系統のインバータおよび前記複数系統の巻線組の各々で構成される複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する異常疑義判定処理を行い、
異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相の相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、前記対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
前記故障検知手段は、前記異常疑義判定処理において、
複数の系統の各々に共通して、前記電源の電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、前記モータのモータ回転速度が所定速度以下である条件が成立するか否かを判定し、前記条件が成立したときに、
前記複数の系統の各々において、前記電流指令または前記電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、前記対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記電源の電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、前記モータのモータ回転速度が所定速度以下であったときに、
前記電流指令または前記電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、前記対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が所定誤差以上で、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統ではない他方の系統における対応する相の相電流が所定通常電流以上であって、かつ、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差と、他方の系統における制御誤差との和が所定加算誤差以上であって、かつ、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項14】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が、他方の系統における制御誤差よりも所定差分誤差以上大きい場合、または、対象とする系統における制御誤差から前記他方の系統における制御誤差を減算した値が所定差分誤差以上である場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項15】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統の対象とする相の相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であって、かつ、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項16】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統ではない他方の系統における対応する相電流が、前記対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、前記他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項17】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令が所定印加電圧以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項18】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令と、他方の系統における電圧指令との和が所定加算印加電圧以上であって、かつ、前記他方の系統における電圧指令が適正引火電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項19】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令が、他方の系統における電圧指令よりも所定差分印加電圧以上大きい場合、または、対象とする系統における電圧指令から前記他方の系統における電圧指令を減算した値が所定差分印加電圧以上である場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項20】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統ではない他方の系統における対応する相電流が所定通常電流以上であって、かつ、前記他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項21】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統の対象とする相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であて、かつ、前記他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項22】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの他方の系統における対応する相電流が、対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、前記他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項23】
前記制御誤差は、前記電流指令に応じた値であることを特徴とする請求項9から請求項16までのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項24】
前記制御誤差は、前記電流指令の値と前記電流との電流偏差に応じた値であることを特徴とする請求項23に記載のモータ制御装置。
【請求項25】
前記制御誤差は、前記電圧指令値と前記印加電圧との電圧偏差に応じた値であることを特徴とする請求項9から請求項16までのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項26】
前記印加電圧は、推定値であることを特徴とする請求項25に記載のモータ制御装置。
【請求項27】
前記印加電圧は、前記電流および前記モータ回転速度の少なくとも一方に応じた推定値であることを特徴とする請求項26に記載のモータ制御装置。
【請求項28】
請求項1から請求項27までのいずれか1項に記載のモータ制御装置を含むコントロールユニットと、
前記コントロールユニットに電力を供給する電源と、
車両の運転者により操作されるステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングホイールから前記ステアリングシャフトに加わる操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記ステアリングシャフトに接続されて前記操舵トルクを軽減するための補助力を発生するモータと、
を備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記コントロールユニットは、
前記操舵トルクの検出値に基づき目標補助力を発生させるように前記モータに対する供給電力を制御するとともに、
前記モータ制御装置と前記モータまでの経路の開放故障が検知された場合には、前記モータの制御を継続させることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
複数相のモータへの電流および印加電圧を制御するモータ制御装置であって、
電源からの電力を前記モータに供給するインバータと、
電流指令に応じた電圧指令を生成して前記モータへの電流を制御する電流制御手段と、
前記電圧指令に応じて前記インバータを駆動して前記モータへの印加電圧を制御するインバータ駆動回路と、
前記電圧指令、前記電源の電源電圧、前記モータのモータ回転速度、および前記複数相の電流に基づいて故障発生状態を検知する故障検知手段と、を備え、
前記故障検知手段は、
前記電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、
前記モータ回転速度が所定速度以下であって、かつ、
対象とする相の電圧指令がゼロ付近でなく、かつ、
前記対象とする相電流が所定電流以下であって、かつ、
前記電流指令または前記電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上である状態が所定時間以上検出された場合に、
前記対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御誤差は、前記電流指令に応じた値であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御誤差は、前記電流指令の値と前記電流との電流偏差に応じた値であることを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御誤差は、前記電圧指令値と前記印加電圧との電圧偏差に応じた値であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記印加電圧は、推定値であることを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記印加電圧は、前記電流および前記モータ回転速度の少なくとも一方に応じた推定値であることを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記対象とする相の電圧指令がゼロ付近でないという条件は、前記対象とする相の電圧指令が他の相に比べて大きいという条件により設定されたことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
複数相の巻線からなる巻線組を複数系統有するモータに対し、電源から供給される電流および印加電圧を制御するモータ制御装置であって、
前記複数系統の巻線組の各相に対する印加電圧を制御する複数のスイッチング素子を有し、前記電源から前記複数系統の巻線組の各相に供給する電流を制御する複数系統のインバータと、
前記複数系統の巻線組の各相に供給する電流に対応した複数組の電流指令に応じて、前記複数系統のインバータの各々に前記印加電圧に対応した複数組の電圧指令を生成し、前記複数系統の巻線組の各相に流す電流を制御する電流制御手段と、
前記複数系統の巻線組の各相または前記複数系統のインバータのいずれかの配線の断線、または、前記複数のスイッチング素子のいずれかのオープン故障を検知する故障検知手段と、を備え、
前記故障検知手段は、
前記複数系統のインバータおよび前記複数系統の巻線組の各々で構成される複数の系統のうち、いずれの系統に異常の疑義が生じているかを判定する異常疑義判定処理を行い、
異常の疑義がある状態と判定され、かつ、対象とする相の相電流が所定電流以下である状態が所定時間以上検出された場合に、前記対象とする相に開放状態の故障が発生したと判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
前記故障検知手段は、前記異常疑義判定処理において、
複数の系統の各々に共通して、前記電源の電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、前記モータのモータ回転速度が所定速度以下である条件が成立するか否かを判定し、前記条件が成立したときに、
前記複数の系統の各々において、前記電流指令または前記電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、前記対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記電源の電源電圧が所定電圧以上であって、かつ、前記モータのモータ回転速度が所定速度以下であったときに、
前記電流指令または前記電圧指令に対する制御誤差が所定誤差以上であるか、または、前記対象とする相の電圧指令が所定相電圧以上である、という条件が成立する場合に、対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が所定誤差以上で、かつ、他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統ではない他方の系統における対応する相の相電流が所定通常電流以上であって、かつ、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差と、他方の系統における制御誤差との和が所定加算誤差以上であって、かつ、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項14】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における制御誤差が、他方の系統における制御誤差よりも所定差分誤差以上大きい場合、または、対象とする系統における制御誤差から前記他方の系統における制御誤差を減算した値が所定差分誤差以上である場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項15】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統の対象とする相の相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であって、かつ、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項16】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統ではない他方の系統における対応する相電流が、前記対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、前記他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、前記他方の系統における制御誤差が適正誤差範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項17】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令が所定印加電圧以上であって、かつ、他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項18】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令と、他方の系統における電圧指令との和が所定加算印加電圧以上であって、かつ、前記他方の系統における電圧指令が適正引火電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項19】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統における電圧指令が、他方の系統における電圧指令よりも所定差分印加電圧以上大きい場合、または、対象とする系統における電圧指令から前記他方の系統における電圧指令を減算した値が所定差分印加電圧以上である場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項20】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統ではない他方の系統における対応する相電流が所定通常電流以上であって、かつ、前記他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項21】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの対象とする系統の対象とする相電流と、他方の系統における対応する相電流との和が所定加算電流以上であて、かつ、前記他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項22】
前記故障検知手段は、
前記複数の系統の各々について異常疑義判定処理を行い、
前記複数の系統のうちの他方の系統における対応する相電流が、対象とする系統の対象とする相電流よりも所定差分電流以上大きいか、または、他方の系統における対応する相電流から対象とする系統の対象とする相電流を減算した値が所定差分電流以上であったときに、前記他方の系統における電圧指令が適正印加電圧範囲内にある場合に、前記対象とする系統に異常の疑義が生じていると判定することを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項23】
前記制御誤差は、前記電流指令に応じた値であることを特徴とする請求項9から請求項16までのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項24】
前記制御誤差は、前記電流指令の値と前記電流との電流偏差に応じた値であることを特徴とする請求項23に記載のモータ制御装置。
【請求項25】
前記制御誤差は、前記電圧指令値と前記印加電圧との電圧偏差に応じた値であることを特徴とする請求項9から請求項16までのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項26】
前記印加電圧は、推定値であることを特徴とする請求項25に記載のモータ制御装置。
【請求項27】
前記印加電圧は、前記電流および前記モータ回転速度の少なくとも一方に応じた推定値であることを特徴とする請求項26に記載のモータ制御装置。
【請求項28】
請求項1から請求項27までのいずれか1項に記載のモータ制御装置を含むコントロールユニットと、
前記コントロールユニットに電力を供給する電源と、
車両の運転者により操作されるステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングホイールから前記ステアリングシャフトに加わる操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記ステアリングシャフトに接続されて前記操舵トルクを軽減するための補助力を発生するモータと、
を備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記コントロールユニットは、
前記操舵トルクの検出値に基づき目標補助力を発生させるように前記モータに対する供給電力を制御するとともに、
前記モータ制御装置と前記モータまでの経路の開放故障が検知された場合には、前記モータの制御を継続させることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
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【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−31356(P2013−31356A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38893(P2012−38893)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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