モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
【課題】1シャント式でモータの電流検出を行い、作動音が少なく、トルクリップルを減少させたモータ制御装置及びそれを装填した電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】PWMの各相デューティ指令値に基づいてインバータでモータを駆動制御すると共に、1シャント式電流検出器で前記モータの各相モータ電流を検出するようになっているモータ制御装置において、インバータの電源電圧、各相デューティ指令値、モータの逆起電圧情報、電流検出器で検出された各相モータ電流、PWMの配置情報及びモータの電気的特性式より電流検出補正値を算出する電流検出補正部を具備し、電流検出補正値により電流検出器で検出された各相モータ電流をモータ平均電流に補正してモータを駆動制御する。
【解決手段】PWMの各相デューティ指令値に基づいてインバータでモータを駆動制御すると共に、1シャント式電流検出器で前記モータの各相モータ電流を検出するようになっているモータ制御装置において、インバータの電源電圧、各相デューティ指令値、モータの逆起電圧情報、電流検出器で検出された各相モータ電流、PWMの配置情報及びモータの電気的特性式より電流検出補正値を算出する電流検出補正部を具備し、電流検出補正値により電流検出器で検出された各相モータ電流をモータ平均電流に補正してモータを駆動制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWMのデユーティ指令値で駆動制御されるモータ制御装置及びモータ制御装置により車両の操舵系に操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、特に作動音が少なく、トルクリップルを減少させたモータ制御装置及びそれを装填した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵系をモータの回転力でアシストする電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助力を付勢するようになっている。そして、当該モータが所望のトルクを発生するようにモータに電流を供給するため、モータ駆動回路にインバータが用いられている。
【0003】
ここで、従来の電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)100には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット100は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流制御部で電流指令値に補償等を施した電圧指令値Eによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VsはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
コントロールユニット100は主としてCPU(MPU、MCUも含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図2のようになる。
【0005】
図2を参照してコントロールユニット100の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクT及び車速センサ12で検出された車速Vsは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部101に入力される。電流指令値演算部101は、入力された操舵トルクT及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を決定する。電流指令値Iref1は加算部102Aを経て電流指令値Iref2として電流制限部103に入力され、最大電流を制限された電流指令値Iref3が減算部102Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差Iref4(=Iref3−Im)が演算され、その偏差Iref4がPI制御等を行う電流制御部104に入力される。電流制御部104で特性改善された電圧指令値EがPWM制御部105に入力され、更に駆動部としてのインバータ106を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはインバータ106内の電流検出器106Aで検出され、減算部102Bにフィードバックされる。インバータ106はスイッチング素子として一般的にFETが用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0006】
また、加算部102Aには補償部110から補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によってシステム系の補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようようになっている。補償部110は、セルフアライニングトルク(SAT)113と慣性112を加算部114で加算し、その加算結果に更に収れん性111を加算部115で加算し、加算部115の加算結果を補償信号CMとしている。
【0007】
モータ20が3相(A,B,C)ブラシレスモータの場合、PWM制御部105及びインバータ106の詳細は例えば図3に示すような構成となっている。PWM制御部105は、電圧指令値Eを所定式に従って3相分のPWMデューティ指令値D1〜D6を演算するデューティ演算部105Aと、PWMデューティ指令値D1〜D6でFET1〜FET6の各ゲートを駆動してON/OFFするゲート駆動部105Bとで構成されており、インバータ106は、A相のハイサイドFET1及びローサイドFET4で成る上下アームと、B相のハイサイドFET2及びローサイドFET5で成る上下アームと、C相FET3及びFET6で成る上下アームとで成る3相ブリッジで構成されており、PWMデューティ指令値D1〜D6でON/OFFされることによってモータ20を駆動する。
【0008】
なお、A相のPWMデューティ指令値をDa、B相のPWMデューティ指令値をDb、C相のPWMデューティ指令値をDcとする。
【0009】
このような構成において、インバータ106の駆動電流ないしはモータ20のモータ電流を計測する必要があるが、コントロールユニット100のコンパクト化、軽量化、コストダウンの要求項目の1つとして、電流検出器106Aの単一化(1シャント式電流検出器)がある。電流検出器の単一化として1シャント式電流検出器が知られており、1シャント式の電流検出器106Aの構成は例えば図4に示すようになっている。即ち、FETブリッジの底部アームと接地との間に1シャントで抵抗R1が接続されており、FETブリッジに電流が流れたときの抵抗R1による降下電圧を演算増幅器106A−1及び抵抗R2〜R4で電流値Imaに換算し、A/D変換部106A−2で所定のタイミングにA/D変換し、ディジタル値の電流値Imを出力するようになっている。
【0010】
図5は電源(バッテリ)、インバータ106、電流検出器106A及びモータ20の結線図を示しており、図6は例として、A相ハイサイドのFET1がON(ローサイドのFET4はOFF)、B相ハイサイドのFET2がOFF(ローサイドのFET5はON)、C相ハイサイドのFET3がOFF(ローサイドのFET6はON)の状態時の電流経路(破線)を示している。また、図7は、A相ハイサイドのFET1がON(ローサイドのFET4はOFF)、B相ハイサイドのFET2がON(ローサイドのFET5はOFF)、C相ハイサイドのFET3がOFF(ローサイドのFET6はON)の状態時の電流経路(破線)を示している。これら図6及び図7の電流経路から分かるように、ハイサイドFETがONしている相の合計値が電流検出器106Aに検出電流として現れる。即ち、図6ではA相電流を検出することができ、図7ではA相及びB相電流を検出することができる。これは、電流検出器106Aがインバータ106の上段アームと電源との間に接続されている場合も同様である。
【0011】
このことより、いずれか1相がON状態及び2相がON状態のときに電流検出器106Aでモータ電流を検出し、電流3相和=0の特性を利用すると、ABC3相の各相電流を検出することが可能である。1シャント式の単一電流検出器による電流検出は、上記特性を利用することにより各相電流を検出することができる。この場合、FETのON直後に電流検出器に流れるリギングノイズ等のノイズ成分を除去しながら電流検出するためには、一定の時間が必要となる。即ち、1シャント式電流検出器で各相モータ電流を検出するためには、各相PWMの配置移動により、意図する相のPWMのON状態を所定時間保持した状態を作り、電流検出を行うことで各相のモータ電流を検出する。そのため、1相ON状態、2相ON状態を電流検出必要時間だけ継続する必要があるが、各相デューティが均衡する場合は、その継続時間を確保できない問題が生じる。
【0012】
このような問題を解決するための先行技術として、特開2009−118621号公報(特許文献1)又は特開2007−112416号公報(特許文献2)
に示されるものがある。
【0013】
特許文献1に開示された装置は、電流検出不可能と判定した時、PWM信号の位相を所定量だけ移動させてPWM位相をずらし、「PWM ON」となる時間を電流検出必要時間分だけ確保して電流検出を行っている。即ち、電流検出可否判定手段が電流検出不可と判定した場合に、上アームスイッチング素子の導通する個数が偶数か奇数を判定するスイッチング個数判定手段と、スイッチング個数判定手段が偶数と判定した場合に所定相のPWM信号を所定量だけ所定の移動方向に移動させ、奇数と判定した場合に所定相のPWM信号を所定量だけ逆方向に移動させ、或いは、各相のPWM信号の内デューティの大きさが最大のPWM信号の位相を所定量だけ所定の移動方向に移動させ、デューティの大きさが最小のPWM信号の位相を所定量だけ逆方向に移動させる位相移動手段とを備えたものである。
【0014】
また、特許文献2に開示された装置は、各相PWMで、それぞれ位相の異なるキャリアを持ち、PWM出力を行うことでPWM位相をずらし、「PWM ON」となる時間を電流検出必要時間分だけ確保して電流検出を行っている。即ち、モータ駆動回路とグランドとの間の電流経路上に、その電流経路を流れる電流値を検出するための単一の電流センサを設け、各相PWM信号を生成するための鋸波の位相をずらして、各相PWM信号のローレベルへの立ち下がりのタイミングをずらし、これにより、V相PWM信号がローレベルに立ち下がってから時間が経過するまでの期間における電流センサの出力信号に基づいて、モータを流れるU相電流の値を得るものである。
【0015】
特許文献1及び2の装置は共に、1相ON状態及び2相ON状態が、電流検出に必要な時間だけ維持するようにPWM位相をずらして電流検出行うことで、1シャント式電流検出器にてモータの各相電流を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−118621号公報
【特許文献2】特開2007−112416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1及び2の装置は共に、1相ON状態及び2相ON状態を意図的に維持するため、電流検出タイミング時でのモータ電流値は、電流過渡応答性により1PWM周期内でのモータ電流平均値と異なる値となってしまう問題がある。
【0018】
図8は、3シャント式にて電流検出を行う場合の従来のPWM駆動時のPWM(A相PWM、B相PWM、C相PWM)と、それらに対応するモータ電流(A相電流、B相電流、C相電流)の変化の様子を示しており、PWM周期の中心である時点t1が全相電流検出のタイミングであることを示している。また、A相電流の破線がA相平均電流を示し、B相電流の破線がB相平均電流を示し、C相電流の破線がC相平均電流を示している。この3シャント式電流検出では、1PWM周期内の電流変動が小さく、各相平均電流と各相電流検出値の差は小さいが、3相分の検出器が必要になってしまう問題がある。
【0019】
図9は、1シャント式にて電流検出を行う場合のPWM(A相PWM、B相PWM、C相PWM)と、それらに対応するモータ電流(A相電流、B相電流、C相電流)の変化の様子を示しており、PWM周期の中心を時点t1で示している。また、A相電流の破線がA相平均電流を示し、B相電流の破線がB相平均電流を示し、C相電流の破線がC相平均電流を示している。1シャント式の電流検出では検出タイミングが時点t2、t3のように変動するため、本例のA相電流に示すように1PWM周期内での電流変動が大きくなる問題がある。また、B相PWMが入力される時点t2がA相電流検出タイミングであり、C相PWMが入力される時点t3がC相電流検出タイミングであり、検出タイミングが瞬間的であるのに対し、モータ平均電流は1PWM周期内で算出されるため、検出タイミングにおいては平均電流を計測することができず、検出した電流値と平均電流との間に誤差が生じる。そのため補正処理を行う必要があり、図9ではA相電流に対して補正量CR1で補正することを示し、C相電流に対して補正量CR2で補正することを示している。
【0020】
通常モータの制御装置は、1PWM周期中のモータの平均電流を用いることを前提とするため、上述のような平均電流とモータ電流値との間に誤差が発生(そもそも平均値を計測し難いので誤差が生じる)すると、モータ作動音性能が悪化し、更にモータ制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した場合、ハンドルリップル発生の要因となってしまう問題がある。即ち、誤差が生じると所望のアシスト量が得られないので、音、トルクリップルが発生し、特に低速操舵(ハンドル中立付近)では顕著に現れる。
【0021】
本発明は上述のような事情からなされたものであり、本発明の目的は、1シャント式電流検出器でモータの各相電流検出を行い、コンパクト化、軽量化、コストダウンにも寄与し、作動音が少なく、トルクリップルを減少させたモータ制御装置及びそれを装填した電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、PWMの各相デューティ指令値に基づいてインバータでモータを駆動制御すると共に、1シャント式電流検出器で前記モータの各相モータ電流を検出するようになっているモータ制御装置に関し、本発明の上記目的は、前記インバータの電源電圧、前記各相デューティ指令値、前記モータの逆起電圧情報、前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流、前記PWMの配置情報及び前記モータの電気的特性式より電流検出補正値を算出する電流検出補正部を具備し、
前記電流検出補正値により前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流をモータ平均電流に補正して前記モータを駆動制御することにより達成される。
また、本発明の上記目的は、前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流に前記電流検出補正値を加算することにより前記補正を行うことにより、或いは前記電流検出補正部は、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出し、前記電気的特性式より相電流基準値を基準とした電流変化量を算出し、前記電流変化量から1PWM周期内での前記モータ平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求めるようになっていることにより、或いは前記電流検出補正部は、前記各相デューティ指令値及び前記PWMの配置情報より、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出するPWM−ON/OFFパターン継続時間算出部と、前記PWM−ON/OFFパターン、前記継続時間、前記電源電圧の検出値及び前記逆起電圧情報を入力してタイミング毎の印加電圧分電流変化量を算出する印加電圧分電流変化量算出部と、前記印加電圧分電流変化量及び前記各相モータ電流より、相電流検出値を基準とした電流変化量を算出する電流変化量算出部と、前記電流変化量から1PWM周期内での平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求める電流検出値算出部とで構成されていることにより、或いは前記所定タイミングは、1PWM周期内で各PWMが切り替わるタイミングであることにより、或いは前記所定タイミングは、1PWM周期内の開始点、中間点及び終点の3タイミングであることにより、より効果的に達成される。
【0023】
上記モータ制御装置を搭載することにより、高性能で高機能な電動パワーステアリング装置を達成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るモータ制御装置によれば、安価な1シャント式電流検出器を用いながら、1PWM周期内におけるPWMのON/OFFパターンとその継続時間より、各相にかかる電圧パターンを計算し、更にモータ抵抗等の電圧降下分を加味することで、検出電流に対するモータ電流変化パターンを算出することができ、1PWM周期内における検出電流を基準とした平均電流との変化量を算出することができるため、これを補正値として加算することで検出電流値をモータ平均電流値相当に補正することができる。この電流補正により、1シャント式電流検出で問題となる検出電流と平均電流との誤差を解消若しくは減少させることができるので、モータ作動音が少なく、トルクリップルを抑制したモータ制御装置を実現することができる。
【0025】
また、本発明のモータ制御装置を電動パワーステアリング装置へ適用した場合も、異常音やハンドルリップルの発生を抑制できるため、操舵性能を維持しながら1シャント式の電流検出を採用でき、コストダウン、軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一般的な電動パワーステアリング装置の構成例を示す図である。
【図2】コントロールユニットの一例を示すブロック構成図である。
【図3】PWM制御部及びインバータの構成例を示す結線図である。
【図4】1シャント式電流検出器の構成例を示す結線図である。
【図5】1シャント式電流検出器を備えたインバータの一例を示す結線図である。
【図6】1シャント式電流検出器を備えたインバータの動作例を示す電流経路図である。
【図7】1シャント式電流検出器を備えたインバータの動作例を示す電流経路図である
【図8】3シャント式の電流検出によるPWM波形とモータ電流波形の特性例を示すタイムチャート(1PWM周期)である。
【図9】1シャント式の電流検出によるPWM波形とモータ電流波形の特性例を示すタイムチャート(1PWM周期)である。
【図10】本発明の構成例を示すブロック図である。
【図11】所定タイミングとPWM、モータ電流波形の関係(実施形態1)を示すタイムチャ−ト(1PWM周期)である。
【図12】PWMON/OFFパターンとインバータ印加電圧Viとの関係を示すパターン図である。
【図13】電流検出補正部の構成例を示すブロック図である。
【図14】図13の例におけるPWMON/OFFパターン継続時間算出部の出力例を示す図である。
【図15】所定タイミングとPWM、モータ電流波形の関係(実施形態2)を示すタイムチャ−ト(1PWM周期)である。
【図16】図15の例におけるPWMON/OFFパターン継続時間算出部の出力例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明では、PWM制御部での各相デューティ指令値と、電源電圧検出部からの電源電圧検出値と、モータ逆起電圧情報と、PWM制御部でのPWM配置情報と、モータの電気的特性式とにより、1シャント式電流検出器で検出された各相モータ電流検出値をモータ1PWM平均電流相当に補正する電流検出補正部を設けている。電流検出補正部は、PWMの各相デューティ指令値及びPWM配置情報に基づいて、電流検出タイミング及び1PWM周期内の所定タイミングの間の各相ON/OFFパターンとその継続時間とを算出し、電源電圧検出値、逆起電圧情報及びモータの電気的特性式に基づいて、A/D変換した各相モータ電流検出値を基準とした電流変化量を計算し、電流変化量に基づいて1PWM周期での平均電流を算出することで補正電流値を算出する。算出された補正電流値を各相モータ電流検出値に加算して補正するようにしている。
【0028】
1PWM周期内におけるPWMのON/OFFパターンとその継続時間より、各相にかかる電圧パターンを計算し、更にモータ抵抗等の電圧降下分を加味することで、検出電流に対するモータ電流変化パターンを算出することができる。このモータ電流変化パターンより、1PWM周期内における検出電流を基準とした電流変化量を算出することができるため、これを補正値として加算することで各相モータ電流検出値をモータ平均電流値相当に補正することができる。この電流補正により、1シャント式電流検出で問題となる検出電流と平均電流との誤差を解消若しくは著しく減少させることができるので、モータ作動音が少なく、トルクリップルを抑制したモータ制御装置を実現することができる。
【0029】
また、本発明のモータ制御装置を電動パワーステアリング装置へ適用した場合も、異常音やハンドルリップルの発生を抑制できるため、操舵性能を維持しながら1シャント式の電流検出を採用でき、コンパクト化、コストダウン、軽量化を実現することができる。
【0030】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図10は本発明の構成例を図2に対応させて示しており、本発明では電流検出補正値Idct_hを算出して出力する電流検出補正部200を設けると共に、電源電圧V(Vr)を検出する電源電圧検出部210と、電流検出補正部200で算出された電流検出補正値Idct_hを電流検出値Imに加算し、その加算された電流値を減算部102Bに入力する加算部211とを設けている。電流検出補正部200は、電源電圧検出部210で検出された電源(バッテリ)の電源電圧Vr、電流検出器106Aで検出された電流検出値Im、各相PWM配置情報PWML、逆起電圧情報EMFを用いて、電流検出値Imをモータ平均電流値相当に補正する電流検出補正値Idct_hを算出して出力し、加算部211で電流検出値Imに加算されて減算部102Bにフィードバックされる。電流検出補正値Idct_hの算出は、1PWM周期内において任意に複数設定する所定タイミングに流れるモータ電流値の検出電流値に対する電流変化量を算出し、複数の所定タイミング毎に導かれる電流変化量の1PWM周期内の時間平均値を求めることで行う。
【0032】
図11に本発明の原理をタイムチャート(1PWM周期)として示すが、A相PWM、B相PWM、C相PWMに対してA相電流(実線)の変化の様子及びA相平均電流(破線)を示している。そして、複数の所定タイミングS0〜S6を1PWM周期の開始点(タイミングS0)、終点(タイミングS6)、各相ON/OFF切り替わり時(タイミングS1〜S5)とした場合を示しており、B相PWMの入力時のタイミングS1でA相電流検出タイミングとした場合、このタイミングS1におけるA相電流(タイミング電流)に対して、タイミングS0でのA相電流とタイミング電流との差、タイミングS0でのA相電流とタイミング電流との差ER1、タイミングS2でのA相電流とタイミング電流との差ER2、タイミングS3でのA相電流とタイミング電流との差ER3、タイミングS4でのA相電流とタイミング電流との差ER4、タイミングS5でのA相電流とタイミング電流との差ER5、タイミングS6でのA相電流とタイミング電流との差ER6をそれぞれ求める。その際、A相電流検出タイミングS1より前については後述する第1の理論式を用いて算出し、A相電流検出タイミングS1より後については後述する第2の理論式を用いて算出する。なお、図11において、τは電流検出必要時間を示している。
【0033】
各所定タイミング(S0〜S6)における電流検出補正値Idct_hの算出手法を以下に説明する。基本的にはモータ及びコントロールユニット(ECU)の電気的特性式より導かれ、電流検出のA/Dタイミングを基準とするため、所定タイミングが電流検出A/Dタイミングより前に存在するか後に存在するかで、算出方法が異なる。
【0034】
ここで、モータ及びコントロールユニット(ECU)の電気的特性式は下記数1で表わされる。
【0035】
【数1】
ただし、Vはモータ印加電圧(電源電圧)、EMFはモータの逆起電圧、Lはモータのインダクタンス、Rはモータの抵抗である。
数1を電流微分値について解くと、下記数2となる。
【0036】
【数2】
数2の右辺第1項は、モータの1相当たりの印加電圧による電流変化量を示し、第2項は電流により発生する電圧降下による電流変化量を示している。
【0037】
先ず、所定タイミングが電流検出A/Dタイミングより前に存在する場合の電流変化量を算出する第1の理論式について説明する。
【0038】
各電流検出A/Dタイミング(以下、単に「A/Dタイミング」とする)Tと、その時に検出される電流検出値I(T)とを基準値とすると、A/DタイミングよりTf[s]時間前での基準電流値に対する電流変化量ΔIfは、上記数2の微分式を数3のように後退差分近似することで近似的に求めることができる。
【0039】
【数3】
数3の右辺第1項の「1/L・[V(T)−EMF(T)]・Tf」は、A/Dタイミング〜Tfまでの印加電圧による電流変化量である。V(T)はA/Dタイミング〜TfまでのPWM側からの入力電圧変化パターンの時間総和で求めることができる。詳細は後述する。また、数3の右辺第2項の「R/L・I(T)・Tf」は、電流が流れることで生じる電圧降下分による電流変化量である。瞬間電流を用いて電流変化量を計算したいが、PWM周期内で変化する電流の瞬間電流は検出不可能であるため、A/Dタイミングで検出された基準電流値を用いて近似的に算出する。
【0040】
A/Dタイミングで検出された電流検出値をIdct、A/Dタイミング〜Tfでの印加電圧による電流変化量をFv(Tf)とすると、上記数3は下記数4のように変換することができる。数4より数5の電流変化量Fv(Tf)を求めることができる。
【0041】
【数4】
【0042】
【数5】
次に、所定タイミングがA/Dタイミングより後に存在する場合の電流変化量を算出する第2の理論式について説明する。
【0043】
A/DタイミングよりTb[s]時間後の基準電流値に対する電流変化量ΔIbは、数2の微分式を前進差分近似することで数6のように近似的に求めることができる。
【0044】
【数6】
第1の理論式で述べたと同様に、A/Dタイミングで検出された電流検出値をIdct、A/Dタイミング〜Tbでの印加電圧による電流変化量をFv(Tb)とすると、上記数6は下記数7のように変換することができる。数7より数8の電流変化量Fv(Tb)を求めることができる。
【0045】
【数7】
【0046】
【数8】
上述のように第1の理論式でA/Dタイミング前の電流変化量Fv(Tf)を求めることができ、第2の理論式でA/Dタイミング後の電流変化量Fv(Tb)を求めることができる。
次に、各点におけるインバータ印加電圧Viによる電流変化量(Fv(Tf)、Fv(Tb))の計算手法について説明する。
【0047】
インバータ印加電圧Viによる電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)は、インバータからの印加電圧分1/L・(V(t)・Tf)又は1/L・(V(t)・Tb)から逆起電圧EMF分1/L・EMF(t)・Tf又は1/L・EMF(t)・Tbを減算したものである。A/Dタイミング〜TfまでのPWM側からの入力電圧V(t)は複数のPWM−ON/OFFパターンで表わされるため、各PWM−ON/OFFパターンによる印加電圧・継続時間の時間総和である。即ち、印加電圧による電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)の計算は、時間区間Tf[Tb]内のPWM−ON/OFFパターンがm通り、各パターンの相に対する電圧値(インバータ印加電圧)をVi、継続時間をTi[s]とすると、A/DタイミングよりTf[s]時間前は下記数9で算出することができ、Tb[s]時間後は下記数10で算出することができる。
【0048】
【数9】
【0049】
【数10】
上記数9及び数10中のインバータ印加電圧ViはPWM−ON/OFFパターンにより値が異なり、電源電圧検出部210で検出された電源電圧をVrとすると、PWM−ON/OFFパターンは図12に示すように8種類にパターン化することができる(パターンNo1〜No8)。図12において「●」はPWMのONを示し、「−」はPWMのOFFを示している。
【0050】
上述の理論及び計算式より本発明の電流検出補正部200は、上記計算式や図12のPWMパターン、各相デューティ指令値Da〜Dc等を用いて電流検出補正値Idct_hを算出するが、その構成例は図13に示すようにPWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201と、印加電圧分電流変化量算出部202と、電流変化量算出部203と、電流検出補正量算出部204とで構成されている。以下にその動作を説明する。
【0051】
PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201は各相PWM配置情報PWML及び各相デューティ指令値Da〜Dcより、A/Dタイミング〜所定タイミングまでの時間内の各相PWM−ON/OFFパターンの継続時間T1〜Tmを算出する。図11のタイミング例では、各相PWM配置情報PWMLは、A相PWMはPWM開始点の配置、B相PWMはPWM開始点からτ経過後の配置、C相PWMはPWM開始点から2τ経過後の配置となっており、各所定タイミングS1〜S6におけるPWM−ON/OFFパターンの継続時間T1〜T8は図14に示すように出力される。即ち、PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201は各相PWM配置情報PWML及び各相デューティ指令値Da〜Dcに基づいてPWM−ON/OFFパターンの継続時間T1〜Tmを出力する。なお、図14において、DaはA相デューティ指令値、DbはB相デューティ指令値、DcはC相デューティ指令値であり、1PWM周期時間をTPWMで表わしている。
【0052】
PWM配置情報PWMLは図11のPWM配置形式を例とすると、1回目の電流検出では1相ON状態をτ時間、2回目の電流検出では2相ON状態をτ時間確保しなければならないため、下記2つの条件が必要になる。
【0053】
(1)PWM開始点の配置は、少なくとも2τ時間だけONしなければならない。
【0054】
(2)PWM開始点からτ時間経過後の配置は、少なくともτ時間だけONしなければならない。
【0055】
このことより、配置設定例としては、3相デューティ中で最大デューティ値となる相(ここではA相)をPWM開始点の配置とし、2番目に大きくなる相(ここではB相)をPWM開始点からτ時間経過後の配置として、PWM配置設定を行う。内容(情報)としては、例えばPWM開始点配置を「#1」、PWM開始点からτ時間経過後の配置を「#2」、PWM開始点から2τ時間経過後の配置を「#3」と表現すると、図11の例では、
A相:「#1」
B相:「#2」
C相:「#3」
のように情報表現する。
【0056】
印加電圧分電流変化量算出部202は、PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201から継続時間T1〜Tmを入力すると共に、電源電圧検出値Vr及び逆起電圧EMFを入力し、数9及び数10、図12の印加電圧パターンを用いて、所定タイミング毎の印加電圧分の電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)を算出する。図11の例では、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため数9を用いて算出され、タイミングS1〜S6はA/Dタイミングの後に位置するため数10を用いて算出される。タイミングS0の電流変化量FvをFvS0とし、A相逆起電圧をEMFA、A/Dタイミング〜S0までの時間をTS0とすると、下記数11によって電流変化量Fv(Tf)が算出される。
【0057】
【数11】
なお、逆起電圧情報EMFは種々の信号生成手段があるが、例えば次のようにして得ることができる。即ち、モータ逆起電圧EMFはモータ角度により波形形状が決定されており、かつ回転数に応じてその大きさに比例関係があることから、モータ角度情報と逆起電圧波形モデル、モータ角度情報を微分して得られる回転数情報に基づいて取得することができる。
【0058】
同様にA/Dタイミングより後のタイミングS2〜S6では、下記数12によって電流変化量Fv(Tb)が算出される。
【0059】
【数12】
電流変化量算出部203は印加電圧分電流変化量算出部202より電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)を入力すると共に、モータ電流Imを入力し、数4及び数7を用いて所定タイミング毎の電流検出値に対する電流変化量ΔIf又はΔIbを算出する。図11の例において、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため数4を用いて算出され、タイミングS1〜S6はA/Dタイミング後に位置するため数7を用いて算出される。タイミングS0の電流変化量をΔI0とすると、A/Dタイミング前の電流変化量ΔI0は下記数13によって算出される。
【0060】
【数13】
同様にA/Dタイミング後のタイミングS2〜S6の電流変化量ΔI1〜ΔI6は、下記数14によって算出される。
【0061】
【数14】
電流検出補正値算出部204は、タイミング毎に電流変化量算出部203より出力される各所定タイミング毎の電流変化量ΔIf又はΔIbを時間平均し、電流検出補正値Idct_hを算出して出力する。図11の例において、各所定タイミング間の電流変化を直線近似し、時間を横軸、電流変化量を縦軸とした台形面積の総和/1PWM周期時間を求めることで、下記数15に従って電流検出補正値Idct_hを算出することができる。
【0062】
【数15】
上述の実施形態1では、所定タイミングをPWM周期内に7点(S0〜S6)配置しているが、PWM周期の開始点、中間点、終点の3点のタイミングに限定することで内部演算が簡略化され、少ないタスクロードで電流検出補正値Idct_hを算出することが可能となる。
【0063】
所定タイミングを図15に示すように、A相電流検出タイミングより前のPWM周期の開始点(タイミングS0)、A相電流検出タイミング後の中間点(タイミングS1)及び終点(タイミングS2)の3点とする。所定タイミングを3点とする本実施形態2では、電流検出補正部200の内部構成の各部出力は以下のように変わり、演算自体が少なくなるため、タスクロードが大幅に削減される。
【0064】
即ち、PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201の出力は、図16に示すように簡略化される。印加電圧分電流変化量算出部202は、図15の例では、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため下記数16を用いて算出され、タイミングS1及びS2A/Dタイミング後に位置するため下記数17を用いて算出される。
【0065】
【数16】
【0066】
【数17】
電流変化量算出部203は所定タイミング毎の電流検出値に対する電流変化量を算出するが、図15の例において、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため下記数18を用いて算出され、タイミングS1及びS2はA/Dタイミング後に位置するため下記数19を用いて算出される。
【0067】
【数18】
【0068】
【数19】
電流検出補正値算出部204はタイミング毎に電流変化量算出部203より出力された各所定タイミング毎の電流変化量を時間平均し、電流検出補正値Idct_hを算出して出力する。図15の例において、各所定タイミング間の電流変化を直線近似し、時間を横軸、電流変化量を縦軸とした台形面積の総和/1PWM周期時間を求めることで、下記数20に従って電流検出補正値Idct_hを算出する。
【0069】
【数20】
なお、上述では3相モータについて説明したが、本発明は2相その他のモータについても同様に適用することができる。また、上述では補償部が設けられた電動パワーステアリング装置を説明しているが、補償部は必ずしも必要なものではない。
【符号の説明】
【0070】
1 ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20 モータ
100 コントロールユニット
101 電流指令値演算部
103 電流制限部
104 電流制御部
105 PWM制御部
106 インバータ
106A 電流検出器
110 補償部
200 電流検出補正部
201 PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部
202 タイミング毎印加電圧分電流変化量算出部
203 タイミング毎電流変化量算出部
204 電流検出補正値算出部
210 電源電圧検出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWMのデユーティ指令値で駆動制御されるモータ制御装置及びモータ制御装置により車両の操舵系に操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、特に作動音が少なく、トルクリップルを減少させたモータ制御装置及びそれを装填した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵系をモータの回転力でアシストする電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助力を付勢するようになっている。そして、当該モータが所望のトルクを発生するようにモータに電流を供給するため、モータ駆動回路にインバータが用いられている。
【0003】
ここで、従来の電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)100には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット100は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流制御部で電流指令値に補償等を施した電圧指令値Eによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VsはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
コントロールユニット100は主としてCPU(MPU、MCUも含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図2のようになる。
【0005】
図2を参照してコントロールユニット100の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクT及び車速センサ12で検出された車速Vsは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部101に入力される。電流指令値演算部101は、入力された操舵トルクT及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を決定する。電流指令値Iref1は加算部102Aを経て電流指令値Iref2として電流制限部103に入力され、最大電流を制限された電流指令値Iref3が減算部102Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差Iref4(=Iref3−Im)が演算され、その偏差Iref4がPI制御等を行う電流制御部104に入力される。電流制御部104で特性改善された電圧指令値EがPWM制御部105に入力され、更に駆動部としてのインバータ106を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはインバータ106内の電流検出器106Aで検出され、減算部102Bにフィードバックされる。インバータ106はスイッチング素子として一般的にFETが用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0006】
また、加算部102Aには補償部110から補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によってシステム系の補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようようになっている。補償部110は、セルフアライニングトルク(SAT)113と慣性112を加算部114で加算し、その加算結果に更に収れん性111を加算部115で加算し、加算部115の加算結果を補償信号CMとしている。
【0007】
モータ20が3相(A,B,C)ブラシレスモータの場合、PWM制御部105及びインバータ106の詳細は例えば図3に示すような構成となっている。PWM制御部105は、電圧指令値Eを所定式に従って3相分のPWMデューティ指令値D1〜D6を演算するデューティ演算部105Aと、PWMデューティ指令値D1〜D6でFET1〜FET6の各ゲートを駆動してON/OFFするゲート駆動部105Bとで構成されており、インバータ106は、A相のハイサイドFET1及びローサイドFET4で成る上下アームと、B相のハイサイドFET2及びローサイドFET5で成る上下アームと、C相FET3及びFET6で成る上下アームとで成る3相ブリッジで構成されており、PWMデューティ指令値D1〜D6でON/OFFされることによってモータ20を駆動する。
【0008】
なお、A相のPWMデューティ指令値をDa、B相のPWMデューティ指令値をDb、C相のPWMデューティ指令値をDcとする。
【0009】
このような構成において、インバータ106の駆動電流ないしはモータ20のモータ電流を計測する必要があるが、コントロールユニット100のコンパクト化、軽量化、コストダウンの要求項目の1つとして、電流検出器106Aの単一化(1シャント式電流検出器)がある。電流検出器の単一化として1シャント式電流検出器が知られており、1シャント式の電流検出器106Aの構成は例えば図4に示すようになっている。即ち、FETブリッジの底部アームと接地との間に1シャントで抵抗R1が接続されており、FETブリッジに電流が流れたときの抵抗R1による降下電圧を演算増幅器106A−1及び抵抗R2〜R4で電流値Imaに換算し、A/D変換部106A−2で所定のタイミングにA/D変換し、ディジタル値の電流値Imを出力するようになっている。
【0010】
図5は電源(バッテリ)、インバータ106、電流検出器106A及びモータ20の結線図を示しており、図6は例として、A相ハイサイドのFET1がON(ローサイドのFET4はOFF)、B相ハイサイドのFET2がOFF(ローサイドのFET5はON)、C相ハイサイドのFET3がOFF(ローサイドのFET6はON)の状態時の電流経路(破線)を示している。また、図7は、A相ハイサイドのFET1がON(ローサイドのFET4はOFF)、B相ハイサイドのFET2がON(ローサイドのFET5はOFF)、C相ハイサイドのFET3がOFF(ローサイドのFET6はON)の状態時の電流経路(破線)を示している。これら図6及び図7の電流経路から分かるように、ハイサイドFETがONしている相の合計値が電流検出器106Aに検出電流として現れる。即ち、図6ではA相電流を検出することができ、図7ではA相及びB相電流を検出することができる。これは、電流検出器106Aがインバータ106の上段アームと電源との間に接続されている場合も同様である。
【0011】
このことより、いずれか1相がON状態及び2相がON状態のときに電流検出器106Aでモータ電流を検出し、電流3相和=0の特性を利用すると、ABC3相の各相電流を検出することが可能である。1シャント式の単一電流検出器による電流検出は、上記特性を利用することにより各相電流を検出することができる。この場合、FETのON直後に電流検出器に流れるリギングノイズ等のノイズ成分を除去しながら電流検出するためには、一定の時間が必要となる。即ち、1シャント式電流検出器で各相モータ電流を検出するためには、各相PWMの配置移動により、意図する相のPWMのON状態を所定時間保持した状態を作り、電流検出を行うことで各相のモータ電流を検出する。そのため、1相ON状態、2相ON状態を電流検出必要時間だけ継続する必要があるが、各相デューティが均衡する場合は、その継続時間を確保できない問題が生じる。
【0012】
このような問題を解決するための先行技術として、特開2009−118621号公報(特許文献1)又は特開2007−112416号公報(特許文献2)
に示されるものがある。
【0013】
特許文献1に開示された装置は、電流検出不可能と判定した時、PWM信号の位相を所定量だけ移動させてPWM位相をずらし、「PWM ON」となる時間を電流検出必要時間分だけ確保して電流検出を行っている。即ち、電流検出可否判定手段が電流検出不可と判定した場合に、上アームスイッチング素子の導通する個数が偶数か奇数を判定するスイッチング個数判定手段と、スイッチング個数判定手段が偶数と判定した場合に所定相のPWM信号を所定量だけ所定の移動方向に移動させ、奇数と判定した場合に所定相のPWM信号を所定量だけ逆方向に移動させ、或いは、各相のPWM信号の内デューティの大きさが最大のPWM信号の位相を所定量だけ所定の移動方向に移動させ、デューティの大きさが最小のPWM信号の位相を所定量だけ逆方向に移動させる位相移動手段とを備えたものである。
【0014】
また、特許文献2に開示された装置は、各相PWMで、それぞれ位相の異なるキャリアを持ち、PWM出力を行うことでPWM位相をずらし、「PWM ON」となる時間を電流検出必要時間分だけ確保して電流検出を行っている。即ち、モータ駆動回路とグランドとの間の電流経路上に、その電流経路を流れる電流値を検出するための単一の電流センサを設け、各相PWM信号を生成するための鋸波の位相をずらして、各相PWM信号のローレベルへの立ち下がりのタイミングをずらし、これにより、V相PWM信号がローレベルに立ち下がってから時間が経過するまでの期間における電流センサの出力信号に基づいて、モータを流れるU相電流の値を得るものである。
【0015】
特許文献1及び2の装置は共に、1相ON状態及び2相ON状態が、電流検出に必要な時間だけ維持するようにPWM位相をずらして電流検出行うことで、1シャント式電流検出器にてモータの各相電流を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−118621号公報
【特許文献2】特開2007−112416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1及び2の装置は共に、1相ON状態及び2相ON状態を意図的に維持するため、電流検出タイミング時でのモータ電流値は、電流過渡応答性により1PWM周期内でのモータ電流平均値と異なる値となってしまう問題がある。
【0018】
図8は、3シャント式にて電流検出を行う場合の従来のPWM駆動時のPWM(A相PWM、B相PWM、C相PWM)と、それらに対応するモータ電流(A相電流、B相電流、C相電流)の変化の様子を示しており、PWM周期の中心である時点t1が全相電流検出のタイミングであることを示している。また、A相電流の破線がA相平均電流を示し、B相電流の破線がB相平均電流を示し、C相電流の破線がC相平均電流を示している。この3シャント式電流検出では、1PWM周期内の電流変動が小さく、各相平均電流と各相電流検出値の差は小さいが、3相分の検出器が必要になってしまう問題がある。
【0019】
図9は、1シャント式にて電流検出を行う場合のPWM(A相PWM、B相PWM、C相PWM)と、それらに対応するモータ電流(A相電流、B相電流、C相電流)の変化の様子を示しており、PWM周期の中心を時点t1で示している。また、A相電流の破線がA相平均電流を示し、B相電流の破線がB相平均電流を示し、C相電流の破線がC相平均電流を示している。1シャント式の電流検出では検出タイミングが時点t2、t3のように変動するため、本例のA相電流に示すように1PWM周期内での電流変動が大きくなる問題がある。また、B相PWMが入力される時点t2がA相電流検出タイミングであり、C相PWMが入力される時点t3がC相電流検出タイミングであり、検出タイミングが瞬間的であるのに対し、モータ平均電流は1PWM周期内で算出されるため、検出タイミングにおいては平均電流を計測することができず、検出した電流値と平均電流との間に誤差が生じる。そのため補正処理を行う必要があり、図9ではA相電流に対して補正量CR1で補正することを示し、C相電流に対して補正量CR2で補正することを示している。
【0020】
通常モータの制御装置は、1PWM周期中のモータの平均電流を用いることを前提とするため、上述のような平均電流とモータ電流値との間に誤差が発生(そもそも平均値を計測し難いので誤差が生じる)すると、モータ作動音性能が悪化し、更にモータ制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した場合、ハンドルリップル発生の要因となってしまう問題がある。即ち、誤差が生じると所望のアシスト量が得られないので、音、トルクリップルが発生し、特に低速操舵(ハンドル中立付近)では顕著に現れる。
【0021】
本発明は上述のような事情からなされたものであり、本発明の目的は、1シャント式電流検出器でモータの各相電流検出を行い、コンパクト化、軽量化、コストダウンにも寄与し、作動音が少なく、トルクリップルを減少させたモータ制御装置及びそれを装填した電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、PWMの各相デューティ指令値に基づいてインバータでモータを駆動制御すると共に、1シャント式電流検出器で前記モータの各相モータ電流を検出するようになっているモータ制御装置に関し、本発明の上記目的は、前記インバータの電源電圧、前記各相デューティ指令値、前記モータの逆起電圧情報、前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流、前記PWMの配置情報及び前記モータの電気的特性式より電流検出補正値を算出する電流検出補正部を具備し、
前記電流検出補正値により前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流をモータ平均電流に補正して前記モータを駆動制御することにより達成される。
また、本発明の上記目的は、前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流に前記電流検出補正値を加算することにより前記補正を行うことにより、或いは前記電流検出補正部は、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出し、前記電気的特性式より相電流基準値を基準とした電流変化量を算出し、前記電流変化量から1PWM周期内での前記モータ平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求めるようになっていることにより、或いは前記電流検出補正部は、前記各相デューティ指令値及び前記PWMの配置情報より、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出するPWM−ON/OFFパターン継続時間算出部と、前記PWM−ON/OFFパターン、前記継続時間、前記電源電圧の検出値及び前記逆起電圧情報を入力してタイミング毎の印加電圧分電流変化量を算出する印加電圧分電流変化量算出部と、前記印加電圧分電流変化量及び前記各相モータ電流より、相電流検出値を基準とした電流変化量を算出する電流変化量算出部と、前記電流変化量から1PWM周期内での平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求める電流検出値算出部とで構成されていることにより、或いは前記所定タイミングは、1PWM周期内で各PWMが切り替わるタイミングであることにより、或いは前記所定タイミングは、1PWM周期内の開始点、中間点及び終点の3タイミングであることにより、より効果的に達成される。
【0023】
上記モータ制御装置を搭載することにより、高性能で高機能な電動パワーステアリング装置を達成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るモータ制御装置によれば、安価な1シャント式電流検出器を用いながら、1PWM周期内におけるPWMのON/OFFパターンとその継続時間より、各相にかかる電圧パターンを計算し、更にモータ抵抗等の電圧降下分を加味することで、検出電流に対するモータ電流変化パターンを算出することができ、1PWM周期内における検出電流を基準とした平均電流との変化量を算出することができるため、これを補正値として加算することで検出電流値をモータ平均電流値相当に補正することができる。この電流補正により、1シャント式電流検出で問題となる検出電流と平均電流との誤差を解消若しくは減少させることができるので、モータ作動音が少なく、トルクリップルを抑制したモータ制御装置を実現することができる。
【0025】
また、本発明のモータ制御装置を電動パワーステアリング装置へ適用した場合も、異常音やハンドルリップルの発生を抑制できるため、操舵性能を維持しながら1シャント式の電流検出を採用でき、コストダウン、軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一般的な電動パワーステアリング装置の構成例を示す図である。
【図2】コントロールユニットの一例を示すブロック構成図である。
【図3】PWM制御部及びインバータの構成例を示す結線図である。
【図4】1シャント式電流検出器の構成例を示す結線図である。
【図5】1シャント式電流検出器を備えたインバータの一例を示す結線図である。
【図6】1シャント式電流検出器を備えたインバータの動作例を示す電流経路図である。
【図7】1シャント式電流検出器を備えたインバータの動作例を示す電流経路図である
【図8】3シャント式の電流検出によるPWM波形とモータ電流波形の特性例を示すタイムチャート(1PWM周期)である。
【図9】1シャント式の電流検出によるPWM波形とモータ電流波形の特性例を示すタイムチャート(1PWM周期)である。
【図10】本発明の構成例を示すブロック図である。
【図11】所定タイミングとPWM、モータ電流波形の関係(実施形態1)を示すタイムチャ−ト(1PWM周期)である。
【図12】PWMON/OFFパターンとインバータ印加電圧Viとの関係を示すパターン図である。
【図13】電流検出補正部の構成例を示すブロック図である。
【図14】図13の例におけるPWMON/OFFパターン継続時間算出部の出力例を示す図である。
【図15】所定タイミングとPWM、モータ電流波形の関係(実施形態2)を示すタイムチャ−ト(1PWM周期)である。
【図16】図15の例におけるPWMON/OFFパターン継続時間算出部の出力例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明では、PWM制御部での各相デューティ指令値と、電源電圧検出部からの電源電圧検出値と、モータ逆起電圧情報と、PWM制御部でのPWM配置情報と、モータの電気的特性式とにより、1シャント式電流検出器で検出された各相モータ電流検出値をモータ1PWM平均電流相当に補正する電流検出補正部を設けている。電流検出補正部は、PWMの各相デューティ指令値及びPWM配置情報に基づいて、電流検出タイミング及び1PWM周期内の所定タイミングの間の各相ON/OFFパターンとその継続時間とを算出し、電源電圧検出値、逆起電圧情報及びモータの電気的特性式に基づいて、A/D変換した各相モータ電流検出値を基準とした電流変化量を計算し、電流変化量に基づいて1PWM周期での平均電流を算出することで補正電流値を算出する。算出された補正電流値を各相モータ電流検出値に加算して補正するようにしている。
【0028】
1PWM周期内におけるPWMのON/OFFパターンとその継続時間より、各相にかかる電圧パターンを計算し、更にモータ抵抗等の電圧降下分を加味することで、検出電流に対するモータ電流変化パターンを算出することができる。このモータ電流変化パターンより、1PWM周期内における検出電流を基準とした電流変化量を算出することができるため、これを補正値として加算することで各相モータ電流検出値をモータ平均電流値相当に補正することができる。この電流補正により、1シャント式電流検出で問題となる検出電流と平均電流との誤差を解消若しくは著しく減少させることができるので、モータ作動音が少なく、トルクリップルを抑制したモータ制御装置を実現することができる。
【0029】
また、本発明のモータ制御装置を電動パワーステアリング装置へ適用した場合も、異常音やハンドルリップルの発生を抑制できるため、操舵性能を維持しながら1シャント式の電流検出を採用でき、コンパクト化、コストダウン、軽量化を実現することができる。
【0030】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図10は本発明の構成例を図2に対応させて示しており、本発明では電流検出補正値Idct_hを算出して出力する電流検出補正部200を設けると共に、電源電圧V(Vr)を検出する電源電圧検出部210と、電流検出補正部200で算出された電流検出補正値Idct_hを電流検出値Imに加算し、その加算された電流値を減算部102Bに入力する加算部211とを設けている。電流検出補正部200は、電源電圧検出部210で検出された電源(バッテリ)の電源電圧Vr、電流検出器106Aで検出された電流検出値Im、各相PWM配置情報PWML、逆起電圧情報EMFを用いて、電流検出値Imをモータ平均電流値相当に補正する電流検出補正値Idct_hを算出して出力し、加算部211で電流検出値Imに加算されて減算部102Bにフィードバックされる。電流検出補正値Idct_hの算出は、1PWM周期内において任意に複数設定する所定タイミングに流れるモータ電流値の検出電流値に対する電流変化量を算出し、複数の所定タイミング毎に導かれる電流変化量の1PWM周期内の時間平均値を求めることで行う。
【0032】
図11に本発明の原理をタイムチャート(1PWM周期)として示すが、A相PWM、B相PWM、C相PWMに対してA相電流(実線)の変化の様子及びA相平均電流(破線)を示している。そして、複数の所定タイミングS0〜S6を1PWM周期の開始点(タイミングS0)、終点(タイミングS6)、各相ON/OFF切り替わり時(タイミングS1〜S5)とした場合を示しており、B相PWMの入力時のタイミングS1でA相電流検出タイミングとした場合、このタイミングS1におけるA相電流(タイミング電流)に対して、タイミングS0でのA相電流とタイミング電流との差、タイミングS0でのA相電流とタイミング電流との差ER1、タイミングS2でのA相電流とタイミング電流との差ER2、タイミングS3でのA相電流とタイミング電流との差ER3、タイミングS4でのA相電流とタイミング電流との差ER4、タイミングS5でのA相電流とタイミング電流との差ER5、タイミングS6でのA相電流とタイミング電流との差ER6をそれぞれ求める。その際、A相電流検出タイミングS1より前については後述する第1の理論式を用いて算出し、A相電流検出タイミングS1より後については後述する第2の理論式を用いて算出する。なお、図11において、τは電流検出必要時間を示している。
【0033】
各所定タイミング(S0〜S6)における電流検出補正値Idct_hの算出手法を以下に説明する。基本的にはモータ及びコントロールユニット(ECU)の電気的特性式より導かれ、電流検出のA/Dタイミングを基準とするため、所定タイミングが電流検出A/Dタイミングより前に存在するか後に存在するかで、算出方法が異なる。
【0034】
ここで、モータ及びコントロールユニット(ECU)の電気的特性式は下記数1で表わされる。
【0035】
【数1】
ただし、Vはモータ印加電圧(電源電圧)、EMFはモータの逆起電圧、Lはモータのインダクタンス、Rはモータの抵抗である。
数1を電流微分値について解くと、下記数2となる。
【0036】
【数2】
数2の右辺第1項は、モータの1相当たりの印加電圧による電流変化量を示し、第2項は電流により発生する電圧降下による電流変化量を示している。
【0037】
先ず、所定タイミングが電流検出A/Dタイミングより前に存在する場合の電流変化量を算出する第1の理論式について説明する。
【0038】
各電流検出A/Dタイミング(以下、単に「A/Dタイミング」とする)Tと、その時に検出される電流検出値I(T)とを基準値とすると、A/DタイミングよりTf[s]時間前での基準電流値に対する電流変化量ΔIfは、上記数2の微分式を数3のように後退差分近似することで近似的に求めることができる。
【0039】
【数3】
数3の右辺第1項の「1/L・[V(T)−EMF(T)]・Tf」は、A/Dタイミング〜Tfまでの印加電圧による電流変化量である。V(T)はA/Dタイミング〜TfまでのPWM側からの入力電圧変化パターンの時間総和で求めることができる。詳細は後述する。また、数3の右辺第2項の「R/L・I(T)・Tf」は、電流が流れることで生じる電圧降下分による電流変化量である。瞬間電流を用いて電流変化量を計算したいが、PWM周期内で変化する電流の瞬間電流は検出不可能であるため、A/Dタイミングで検出された基準電流値を用いて近似的に算出する。
【0040】
A/Dタイミングで検出された電流検出値をIdct、A/Dタイミング〜Tfでの印加電圧による電流変化量をFv(Tf)とすると、上記数3は下記数4のように変換することができる。数4より数5の電流変化量Fv(Tf)を求めることができる。
【0041】
【数4】
【0042】
【数5】
次に、所定タイミングがA/Dタイミングより後に存在する場合の電流変化量を算出する第2の理論式について説明する。
【0043】
A/DタイミングよりTb[s]時間後の基準電流値に対する電流変化量ΔIbは、数2の微分式を前進差分近似することで数6のように近似的に求めることができる。
【0044】
【数6】
第1の理論式で述べたと同様に、A/Dタイミングで検出された電流検出値をIdct、A/Dタイミング〜Tbでの印加電圧による電流変化量をFv(Tb)とすると、上記数6は下記数7のように変換することができる。数7より数8の電流変化量Fv(Tb)を求めることができる。
【0045】
【数7】
【0046】
【数8】
上述のように第1の理論式でA/Dタイミング前の電流変化量Fv(Tf)を求めることができ、第2の理論式でA/Dタイミング後の電流変化量Fv(Tb)を求めることができる。
次に、各点におけるインバータ印加電圧Viによる電流変化量(Fv(Tf)、Fv(Tb))の計算手法について説明する。
【0047】
インバータ印加電圧Viによる電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)は、インバータからの印加電圧分1/L・(V(t)・Tf)又は1/L・(V(t)・Tb)から逆起電圧EMF分1/L・EMF(t)・Tf又は1/L・EMF(t)・Tbを減算したものである。A/Dタイミング〜TfまでのPWM側からの入力電圧V(t)は複数のPWM−ON/OFFパターンで表わされるため、各PWM−ON/OFFパターンによる印加電圧・継続時間の時間総和である。即ち、印加電圧による電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)の計算は、時間区間Tf[Tb]内のPWM−ON/OFFパターンがm通り、各パターンの相に対する電圧値(インバータ印加電圧)をVi、継続時間をTi[s]とすると、A/DタイミングよりTf[s]時間前は下記数9で算出することができ、Tb[s]時間後は下記数10で算出することができる。
【0048】
【数9】
【0049】
【数10】
上記数9及び数10中のインバータ印加電圧ViはPWM−ON/OFFパターンにより値が異なり、電源電圧検出部210で検出された電源電圧をVrとすると、PWM−ON/OFFパターンは図12に示すように8種類にパターン化することができる(パターンNo1〜No8)。図12において「●」はPWMのONを示し、「−」はPWMのOFFを示している。
【0050】
上述の理論及び計算式より本発明の電流検出補正部200は、上記計算式や図12のPWMパターン、各相デューティ指令値Da〜Dc等を用いて電流検出補正値Idct_hを算出するが、その構成例は図13に示すようにPWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201と、印加電圧分電流変化量算出部202と、電流変化量算出部203と、電流検出補正量算出部204とで構成されている。以下にその動作を説明する。
【0051】
PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201は各相PWM配置情報PWML及び各相デューティ指令値Da〜Dcより、A/Dタイミング〜所定タイミングまでの時間内の各相PWM−ON/OFFパターンの継続時間T1〜Tmを算出する。図11のタイミング例では、各相PWM配置情報PWMLは、A相PWMはPWM開始点の配置、B相PWMはPWM開始点からτ経過後の配置、C相PWMはPWM開始点から2τ経過後の配置となっており、各所定タイミングS1〜S6におけるPWM−ON/OFFパターンの継続時間T1〜T8は図14に示すように出力される。即ち、PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201は各相PWM配置情報PWML及び各相デューティ指令値Da〜Dcに基づいてPWM−ON/OFFパターンの継続時間T1〜Tmを出力する。なお、図14において、DaはA相デューティ指令値、DbはB相デューティ指令値、DcはC相デューティ指令値であり、1PWM周期時間をTPWMで表わしている。
【0052】
PWM配置情報PWMLは図11のPWM配置形式を例とすると、1回目の電流検出では1相ON状態をτ時間、2回目の電流検出では2相ON状態をτ時間確保しなければならないため、下記2つの条件が必要になる。
【0053】
(1)PWM開始点の配置は、少なくとも2τ時間だけONしなければならない。
【0054】
(2)PWM開始点からτ時間経過後の配置は、少なくともτ時間だけONしなければならない。
【0055】
このことより、配置設定例としては、3相デューティ中で最大デューティ値となる相(ここではA相)をPWM開始点の配置とし、2番目に大きくなる相(ここではB相)をPWM開始点からτ時間経過後の配置として、PWM配置設定を行う。内容(情報)としては、例えばPWM開始点配置を「#1」、PWM開始点からτ時間経過後の配置を「#2」、PWM開始点から2τ時間経過後の配置を「#3」と表現すると、図11の例では、
A相:「#1」
B相:「#2」
C相:「#3」
のように情報表現する。
【0056】
印加電圧分電流変化量算出部202は、PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201から継続時間T1〜Tmを入力すると共に、電源電圧検出値Vr及び逆起電圧EMFを入力し、数9及び数10、図12の印加電圧パターンを用いて、所定タイミング毎の印加電圧分の電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)を算出する。図11の例では、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため数9を用いて算出され、タイミングS1〜S6はA/Dタイミングの後に位置するため数10を用いて算出される。タイミングS0の電流変化量FvをFvS0とし、A相逆起電圧をEMFA、A/Dタイミング〜S0までの時間をTS0とすると、下記数11によって電流変化量Fv(Tf)が算出される。
【0057】
【数11】
なお、逆起電圧情報EMFは種々の信号生成手段があるが、例えば次のようにして得ることができる。即ち、モータ逆起電圧EMFはモータ角度により波形形状が決定されており、かつ回転数に応じてその大きさに比例関係があることから、モータ角度情報と逆起電圧波形モデル、モータ角度情報を微分して得られる回転数情報に基づいて取得することができる。
【0058】
同様にA/Dタイミングより後のタイミングS2〜S6では、下記数12によって電流変化量Fv(Tb)が算出される。
【0059】
【数12】
電流変化量算出部203は印加電圧分電流変化量算出部202より電流変化量Fv(Tf)又はFv(Tb)を入力すると共に、モータ電流Imを入力し、数4及び数7を用いて所定タイミング毎の電流検出値に対する電流変化量ΔIf又はΔIbを算出する。図11の例において、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため数4を用いて算出され、タイミングS1〜S6はA/Dタイミング後に位置するため数7を用いて算出される。タイミングS0の電流変化量をΔI0とすると、A/Dタイミング前の電流変化量ΔI0は下記数13によって算出される。
【0060】
【数13】
同様にA/Dタイミング後のタイミングS2〜S6の電流変化量ΔI1〜ΔI6は、下記数14によって算出される。
【0061】
【数14】
電流検出補正値算出部204は、タイミング毎に電流変化量算出部203より出力される各所定タイミング毎の電流変化量ΔIf又はΔIbを時間平均し、電流検出補正値Idct_hを算出して出力する。図11の例において、各所定タイミング間の電流変化を直線近似し、時間を横軸、電流変化量を縦軸とした台形面積の総和/1PWM周期時間を求めることで、下記数15に従って電流検出補正値Idct_hを算出することができる。
【0062】
【数15】
上述の実施形態1では、所定タイミングをPWM周期内に7点(S0〜S6)配置しているが、PWM周期の開始点、中間点、終点の3点のタイミングに限定することで内部演算が簡略化され、少ないタスクロードで電流検出補正値Idct_hを算出することが可能となる。
【0063】
所定タイミングを図15に示すように、A相電流検出タイミングより前のPWM周期の開始点(タイミングS0)、A相電流検出タイミング後の中間点(タイミングS1)及び終点(タイミングS2)の3点とする。所定タイミングを3点とする本実施形態2では、電流検出補正部200の内部構成の各部出力は以下のように変わり、演算自体が少なくなるため、タスクロードが大幅に削減される。
【0064】
即ち、PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部201の出力は、図16に示すように簡略化される。印加電圧分電流変化量算出部202は、図15の例では、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため下記数16を用いて算出され、タイミングS1及びS2A/Dタイミング後に位置するため下記数17を用いて算出される。
【0065】
【数16】
【0066】
【数17】
電流変化量算出部203は所定タイミング毎の電流検出値に対する電流変化量を算出するが、図15の例において、タイミングS0はA/Dタイミングより前に位置するため下記数18を用いて算出され、タイミングS1及びS2はA/Dタイミング後に位置するため下記数19を用いて算出される。
【0067】
【数18】
【0068】
【数19】
電流検出補正値算出部204はタイミング毎に電流変化量算出部203より出力された各所定タイミング毎の電流変化量を時間平均し、電流検出補正値Idct_hを算出して出力する。図15の例において、各所定タイミング間の電流変化を直線近似し、時間を横軸、電流変化量を縦軸とした台形面積の総和/1PWM周期時間を求めることで、下記数20に従って電流検出補正値Idct_hを算出する。
【0069】
【数20】
なお、上述では3相モータについて説明したが、本発明は2相その他のモータについても同様に適用することができる。また、上述では補償部が設けられた電動パワーステアリング装置を説明しているが、補償部は必ずしも必要なものではない。
【符号の説明】
【0070】
1 ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20 モータ
100 コントロールユニット
101 電流指令値演算部
103 電流制限部
104 電流制御部
105 PWM制御部
106 インバータ
106A 電流検出器
110 補償部
200 電流検出補正部
201 PWM−ON/OFFパターン継続時間算出部
202 タイミング毎印加電圧分電流変化量算出部
203 タイミング毎電流変化量算出部
204 電流検出補正値算出部
210 電源電圧検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWMの各相デューティ指令値に基づいてインバータでモータを駆動制御すると共に、1シャント式電流検出器で前記モータの各相モータ電流を検出するようになっているモータ制御装置において、
前記インバータの電源電圧、前記各相デューティ指令値、前記モータの逆起電圧情報、前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流、前記PWMの配置情報及び前記モータの電気的特性式より電流検出補正値を算出する電流検出補正部を具備し、
前記電流検出補正値により前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流をモータ平均電流に補正して前記モータを駆動制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流に前記電流検出補正値を加算することにより前記補正を行う請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流検出補正部は、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出し、前記電気的特性式より相電流基準値を基準とした電流変化量を算出し、前記電流変化量から1PWM周期内での前記モータ平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求めるようになっている請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記所定タイミングは、1PWM周期内で各PWMが切り替わるタイミングである請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記所定タイミングは、1PWM周期内の開始点、中間点及び終点のタイミングである請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記電流検出補正部は、前記各相デューティ指令値及び前記PWMの配置情報より、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出するPWM−ON/OFFパターン継続時間算出部と、前記PWM−ON/OFFパターン、前記継続時間、前記電源電圧の検出値及び前記逆起電圧情報を入力してタイミング毎の印加電圧分電流変化量を算出する印加電圧分電流変化量算出部と、前記印加電圧分電流変化量及び前記各相モータ電流より、相電流検出値を基準とした電流変化量を算出する電流変化量算出部と、前記電流変化量から1PWM周期内での平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求める電流検出値算出部とで構成されている請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記所定タイミングは、1PWM周期内で各PWMが切り替わるタイミングである請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記所定タイミングは、1PWM周期内の開始点、中間点及び終点の3タイミングである請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載されたモータ制御装置を搭載したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
PWMの各相デューティ指令値に基づいてインバータでモータを駆動制御すると共に、1シャント式電流検出器で前記モータの各相モータ電流を検出するようになっているモータ制御装置において、
前記インバータの電源電圧、前記各相デューティ指令値、前記モータの逆起電圧情報、前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流、前記PWMの配置情報及び前記モータの電気的特性式より電流検出補正値を算出する電流検出補正部を具備し、
前記電流検出補正値により前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流をモータ平均電流に補正して前記モータを駆動制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記電流検出器で検出された前記各相モータ電流に前記電流検出補正値を加算することにより前記補正を行う請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流検出補正部は、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出し、前記電気的特性式より相電流基準値を基準とした電流変化量を算出し、前記電流変化量から1PWM周期内での前記モータ平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求めるようになっている請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記所定タイミングは、1PWM周期内で各PWMが切り替わるタイミングである請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記所定タイミングは、1PWM周期内の開始点、中間点及び終点のタイミングである請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記電流検出補正部は、前記各相デューティ指令値及び前記PWMの配置情報より、電流検出タイミングと1PWM周期内の所定タイミングとの間の各相PWM−ON/OFFパターンとその継続時間を算出するPWM−ON/OFFパターン継続時間算出部と、前記PWM−ON/OFFパターン、前記継続時間、前記電源電圧の検出値及び前記逆起電圧情報を入力してタイミング毎の印加電圧分電流変化量を算出する印加電圧分電流変化量算出部と、前記印加電圧分電流変化量及び前記各相モータ電流より、相電流検出値を基準とした電流変化量を算出する電流変化量算出部と、前記電流変化量から1PWM周期内での平均電流を算出することで前記電流検出補正値を求める電流検出値算出部とで構成されている請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記所定タイミングは、1PWM周期内で各PWMが切り替わるタイミングである請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記所定タイミングは、1PWM周期内の開始点、中間点及び終点の3タイミングである請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載されたモータ制御装置を搭載したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−62913(P2013−62913A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198582(P2011−198582)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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