リターダの制御装置、車両およびリターダ制御方法、並びにプログラム
【課題】走行条件に係らず補助ブレーキとしての機能を充分に発揮させ、ECUの共通化を図ること。
【解決手段】リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する補助ブレーキ力計算部71および減速度計算部72を有し、補助ブレーキ力計算部71および減速度計算部72が計算した減速度が取得した加速度情報よりも小さいときには、所定の閾値を、放熱手段(ドラム)の回転速度の変化に対応させて可変的に設定し、補助ブレーキ力計算部71および減速度計算部72が計算した減速度が取得した加速度情報よりも大きいときには、所定の閾値を、一定値に設定し、温度検出手段によって検出された放熱手段(ドラム)の温度が、回転速度検出手段によって検出された放熱手段(ドラム)の回転速度に対応する所定の閾値を超える温度であるときに、電気エネルギの発生を低減させる制御を行うリターダの制御装置を構成する。
【解決手段】リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する補助ブレーキ力計算部71および減速度計算部72を有し、補助ブレーキ力計算部71および減速度計算部72が計算した減速度が取得した加速度情報よりも小さいときには、所定の閾値を、放熱手段(ドラム)の回転速度の変化に対応させて可変的に設定し、補助ブレーキ力計算部71および減速度計算部72が計算した減速度が取得した加速度情報よりも大きいときには、所定の閾値を、一定値に設定し、温度検出手段によって検出された放熱手段(ドラム)の温度が、回転速度検出手段によって検出された放熱手段(ドラム)の回転速度に対応する所定の閾値を超える温度であるときに、電気エネルギの発生を低減させる制御を行うリターダの制御装置を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リターダの制御装置、車両およびリターダ制御方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバスなどの大型車両の減速装置として、主ブレーキであるサービスブレーキの他に、長い下り坂の走行時などで安定した減速を行い、かつサービスブレーキの焼損を防止するために補助ブレーキが使用されている。
【0003】
補助ブレーキには、一般的に、エンジンブレーキと、このエンジンブレーキの効きを増大させるための排気ブレーキまたはエンジンリターダと、トランスミッションの出力軸であるプロペラシャフトに備えられ、プロペラシャフトにフリクションを与えて制動力とするトランスミッションリターダとがある。以下では、トランスミッションリターダを単にリターダと称する。
【0004】
リターダは、トランスミッションの出力軸であるプロペラシャフトの回転エネルギを電気エネルギに変換し、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱するため、連続的に使用すると過熱するおそれがある。したがって、この過熱を防止するために、熱エネルギを放熱する放熱手段に温度センサを設け、この温度センサによって検出された温度が所定温度以上に達したときに、リターダの動作を停止させるような制御がなされている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−136636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているリターダは、所定の温度に到達すると、その動作を停止してしまうため、補助ブレーキとしての機能を充分に発揮できなくなってしまう。
【0007】
また、リターダは、車種等の仕様毎に複数の異なる型式が用意され、あるいは同じ型式のリターダであっても、リターダの動作を停止させる所定の温度は車種等の仕様毎に異なってくるため、仕様毎に所定温度を設け、ECU(Electric Control Unit)の品番を複数設ける必要が生じてしまう。
【0008】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、走行条件に係らず補助ブレーキとしての機能を充分に発揮でき、ECUの共通化を図ることができるリターダの制御装置、車両およびリターダ制御方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの観点は、リターダの制御装置としての観点である。本発明のリターダの制御装置は、回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、を有するリターダの制御装置において、制御手段は、自車両の加速度を計算する加速度計算手段と、リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算手段と、を有し、減速度計算手段が計算した減速度が加速度計算手段が計算した加速度よりも小さいときには、所定の閾値を、放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定し、減速度計算手段が計算した減速度が加速度計算手段が計算した加速度よりも大きいときには、所定の閾値を、一定値に設定し、温度検出手段によって検出された放熱手段の温度が、回転速度検出手段によって検出された放熱手段の回転速度に対応する所定の閾値を超える温度であるときに、電気エネルギの発生を低減させる制御を行うものである。たとえば、一定値は、所定の閾値が可変に設定されたときの最大値に相当する値であるとする。
【0010】
本発明の他の観点は、車両としての観点である。本発明の車両は、本発明のリターダの制御装置を有するものである。
【0011】
本発明のさらに他の観点は、回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、を有するリターダの制御装置のリターダ制御方法において、制御手段の処理として、自車両の加速度を計算する加速度計算ステップと、リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算ステップと、減速度計算ステップで計算した減速度が加速度計算ステップで計算した加速度よりも小さいときには、所定の閾値を、放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定するステップと、減速度計算ステップで計算した減速度が加速度計算ステップで計算した加速度よりも大きいときには、所定の閾値を、一定値に設定するステップと、温度検出手段によって検出された放熱手段の温度が、回転速度検出手段によって検出された放熱手段の回転速度に対応する所定の閾値を超える温度であるときに、電気エネルギの発生を低減させる制御を行うステップとを有するものである。
【0012】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、情報処理装置に、本発明のリターダの制御装置の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、走行条件に係らず補助ブレーキとしての機能を充分に発揮でき、ECUの共通化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る制御装置およびリターダの車両における配置位置を示す図である。
【図2】図1の制御装置およびリターダの構成を示す概略図である。
【図3】図2の制御部のブロック構成図である。
【図4】図1または図2中のエネルギ変換手段の構成を部分的に示す斜視図である。
【図5】図2中の回転ヨーク体の構成を示す斜視図である。
【図6】図2中のリターダがHIGHの状態にあるときの回転ヨーク体とポールピースの位置関係を示す図である。
【図7】図2中のリターダがOFFの状態にあるときの回転ヨーク体とポールピースの位置関係を示す図である。
【図8】図2中のリターダがLOWの状態にあるときの回転ヨーク体とポールピースの位置関係を示す図である。
【図9】図2のリターダ操作部の操作に伴う図2の電磁弁の開閉状態を示す図である。
【図10】図2のリターダ操作部の操作に伴う図2のシリンダのエアの状態を示す図である。
【図11】図3の切換温度閾値決定部の動作を示すフローチャートである。
【図12】リターダをHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラムの温度の可変閾値(L1)、ドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、およびドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3)を示す図である。
【図13】図10に示す可変閾値(L1)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L11)と、従来の可変閾値(L2)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L12)を示す図である。
【図14】本発明の第二の実施の形態の勾配保持性能判定部の判定結果を示す図である。
【図15】本発明の第二の実施の形態の切換温度閾値決定部の動作を示すフローチャートである。
【図16】リターダをHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラムの温度の第1の可変閾値(L1)、ドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、ドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3)、およびドラムの温度の第2の可変閾値(L4)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一の実施の形態)
以下、本発明の第一の実施の形態に係るリターダ2の制御装置1について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、リターダ2により大きな制動力が発揮される状態をHIGHと表記し、リターダ2によりHIGHの状態よりも小さな制動力が発揮される状態をLOWと表記する。また、リターダ2により制動力が発揮されない状態をOFFと表記する。
【0016】
図1は、本発明の第一の実施の形態に係る制御装置1およびリターダ2の車両50における配置位置を示す図である。図2は、図1の制御装置1およびリターダ2の構成を示す概略図である。図3は、制御装置1の制御部7(請求項でいう制御手段)のブロック構成図である。図4は、図1または図2中のエネルギ変換手段3の構成を部分的に示す斜視図である。図5は、図2中の回転ヨーク体10の構成を示す斜視図である。図6は、図2中のリターダ2がHIGHの状態にあるときの回転ヨーク体10とポールピース11の位置関係を示す図である。図7は、図2中のリターダ2がOFFの状態にあるときの回転ヨーク体10とポールピース11の位置関係を示す図である。図8は、図2中のリターダ2がLOWの状態にあるときの回転ヨーク体10とポールピース11の位置関係を示す図である。図9は、リターダ操作部9の操作に伴う電磁弁16,17の開閉状態を示す図である。図10は、リターダ操作部9の操作に伴うシリンダ14,15のエアの状態を示す図である。
【0017】
図1に示すように、車両50では、エンジン40の出力がトランスミッション41で適宜変速され、トランスミッション41の出力がプロペラシャフト42およびデファレンシャルギア(デフと図示)43を介して車輪44に伝達される。
【0018】
リターダ2は、回転エネルギを電気エネルギに変換するためのエネルギ変換手段3と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段の一例となるドラム4とを備える。図1に示すように、エネルギ変換手段3がトランスミッション41の後部に固定されており、ドラム4がプロペラシャフト42に取り付けられている。ドラム4は、プロペラシャフト42が回転するのに伴って回転する。制御装置1は、リターダ2の制動力を充分に発揮させるために、リターダ2の動作の制御を行うための装置である。
【0019】
図2に示すように、制御装置1は、ドラム4の温度を検出する温度検出手段の一例となる温度センサ5と、ドラム4の回転速度を検出する回転速度検出手段6と、ドラム4の温度とドラム4の回転速度の検出値に基づいてリターダ2による制動力の制御を行う制御部7と、操作者の操作によってリターダ2の状態を切り換えるためのリターダ操作部9と、を有する。なお、温度検出手段として、たとえば、ドラム4の温度を直接検知する温度センサ5の代わりに、リターダ2によって吸収したエネルギからドラム4の温度を推定する手段を採用するようにしてもよい。また、回転速度検出手段6には、ドラム4の回転速度を直接検知することができるセンサを用いてもよいが、エンジン回転速度とトランスミッション41の変速比からプロペラシャフト42の回転速度を推定する手段を採用するようにしてもよい。あるいは、プロペラシャフト42の回転速度を、車速とデファレンシャルギアのギア比(以下では、デフレシオと称する)と車輪44の半径から推定することもできる。この場合、デフレシオと車輪44の半径は予め固定値としてわかっているので、回転速度検出手段6は、デフレシオと車輪44の半径は不図示のメモリなどに記憶しておき、車速の情報だけを不図示の車速センサなどから取得すればよい。さらに、制御装置1は、車両質量推定装置30から加速度情報、車両質量推定情報、および下り勾配情報を取得する。
【0020】
上述した車両質量推定装置30は、特開2008−201401号公報に記載されているものであり、その動作原理を簡単に説明すると、変速操作開始前の車両加速度と、変速操作中の車両加速度と、から推定される車両推定質量(変速時車両推定質量)を得て、得られた変速時車両推定質量を平均化し、この平均化された変速時車両推定質量に基づいて車両走行路面の勾配を推定し、推定された勾配を加速式の質量公式に代入して車両推定質量を得て、これを平均化して平均値を得ることにより、車両推定質量を真値に近づけていくものである。なお、車両加速度は、プロペラシャフト42の回転速度情報から車速を計算し、この車速を時間微分することにより得ることができる。すなわち車両質量推定装置30によれば、制御装置1は、車両50の加速度情報、車両質量推定情報、および下り勾配情報を取得することができる(車両質量推定装置30は、請求項でいう加速度計算手段であり制御手段の一部に相当する)。
【0021】
図3に示すように、制御部7は、情報収集部70(請求項でいう制御手段の一部)、補助ブレーキ力計算部71(請求項でいう減速度計算手段の一部)、減速度計算部72(請求項でいう減速度計算手段)、勾配保持性能判定部73(請求項でいう制御手段の一部)、および切換温度閾値決定部74(請求項でいう制御手段の一部)を有する。
【0022】
情報収集部70は、主に補助ブレーキ力計算部71に必要な各種の情報(以下、各種情報と称する)を取り込むための通信手段であり、たとえば情報収集の対象となる車両の各部とCAN(Control Area Network)により接続されて通信を行い情報を収集する。情報収集部70が収集する各種情報として、たとえば車両50の車速、トランスミッション41に設定されているギア段のギアレシオ、車両50の補助ブレーキ全体で発生する制動トルク、車両50の周囲の気圧、車両50のデフレシオ、車両50のタイヤ径、車両50の走行抵抗を計算するために予め定められた抵抗係数、車両50の前面投影面積などの情報がある。
【0023】
たとえば車速の情報は、不図示の車速センサから取得してもよいし、車両質量推定装置30から取得してもよい。ギアレシオの情報は、不図示のギア位置センサから通知されるギア位置情報に基づき取得することができる。制動トルクの情報は、リターダ2については、リターダ操作部9の操作情報(HIGH、LOW、またはOFFのいずれであるか)に基づき取得することができる。また、エンジンブレーキの制動トルクの情報については、上述のギア位置センサから通知されるギア位置情報および不図示のアクセル開度センサから通知されるアクセル開度情報に基づき取得することができる。すなわちエンジンブレーキは、エンジン40への燃料の供給を停止(すなわちアクセル開度ゼロ)させることにより動作を開始するが、この際、いずれのギア段でエンジンブレーキを動作させるかによって、制動トルクは異なる。たとえばギア段が3速でのエンジンブレーキによる制動力は、ギア段が4速でのエンジンブレーキによる制動力よりも大きい。よって、アクセル開度情報からエンジンブレーキのON/OFFの状態を検出し、ギア位置情報からエンジンブレーキの制動トルクの情報を取得する。さらに、気圧の情報は、不図示の気圧センサから取得することができる。取得した気圧の情報は、後述する走行抵抗の計算において「空気の密度」に換算されて用いられる。なお、上述した各種情報のうち、デフレシオ、タイヤ径、抵抗係数、および前面投影面積の情報については車種毎に予め決まっているので、制御部7のメモリMに予め記憶させておくことができる。
【0024】
また、既に説明したように、エンジンブレーキの効きを増大させるために、排気ブレーキとエンジンリターダをさらに備える場合がある。排気ブレーキは、エンジン40の排気抵抗を増すことによって、エンジン40のフリクションを増加させ、エンジンブレーキの効きを増大させる。エンジンリターダは、エンジン40の吸気行程終期から圧縮行程開始期に排気弁を開き、排気管の高圧排気を気筒に逆流させ、気筒内の圧縮圧力を高めて排気ブレーキの効果を増大させる。以下では、説明を分かり易くするために、これらのエンジンブレーキの効きを増大させるための補助ブレーキについては説明を省略し、一括してエンジンブレーキと称することとする。
【0025】
補助ブレーキ力計算部71は、情報収集部70が収集した各種情報に基づいて補助ブレーキによる制動力(以下では、補助ブレーキ力と称する)および車両50の走行抵抗を計算する。
【0026】
減速度計算部72は、補助ブレーキ力計算部71が計算した補助ブレーキ力および走行抵抗と車両重量推定装置30が推定した車両質量推定情報とに基づいて運転者がリターダ2を含む補助ブレーキを動作させた際の車両50の減速度を計算する。
【0027】
勾配保持性能判定部73は、減速度計算部72が計算した車両50の減速度と車両質量推定装置30が計算した車両50の加速度とを比較し、その比較結果に基づいて車両50の勾配保持性能を判定する。ここで車両50の勾配保持性能とは、下り勾配を走行中の車両50がサービスブレーキの制動力によらず補助ブレーキ力のみで減速可能か否かの性能である。なお、勾配保持性能判定部73は、車両50が下り勾配を走行中であるか否かの情報についても車両質量推定装置30から取得することができる。
【0028】
切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73の判定結果に応じてリターダ2の能力を切り換える温度の閾値を決定する。
【0029】
次に、リターダ2の詳細な構成および動作について説明する。図2に示すように、ドラム4はリング状の形態を有しており、このドラム4はエネルギ変換手段3の外側にプロペラシャフト42の回転に伴って回転可能な形態で配置されている。図2および図4に示すように、エネルギ変換手段3は、略リング状の形態を有する回転ヨーク体10と、この回転ヨーク体10の外周側に配置されるポールピース11とを有する。回転ヨーク体10は、ポールピース11に対して相対回転可能な形態で配置されている。図4および図5に示すように、回転ヨーク体10は、リング状の形態を有するヨーク12の外周に複数(たとえば、12個)のN極およびS極の永久磁石13を交互に配置させることにより構成される。
【0030】
図4に示すように、ポールピース11が永久磁石13と対向する位置に存在するときは、図4中の矢示に示すように、N極の永久磁石13から発生する磁束は、対向するポールピース11およびドラム4(図4では不図示)を通過し、さらに、隣接するポールピース11を通過してS極の永久磁石13に入る。すなわち、N極の永久磁石13、ドラム4およびS極の永久磁石13を通過する渦状の磁力線が形成される。
【0031】
図2に示すように、リターダ2には、回転ヨーク体10を周方向に駆動させるための2つのシリンダ14,15が備えられている。このシリンダ14,15には、2つの電磁弁16,17の開閉に基づいて、エアタンク18からの空気が供給される。具体的には、図2に示すように、電磁弁16,17は、三方弁20を介してエアタンク18に接続されている。このため、エアタンク18から送出される空気は、三方弁20を介して電磁弁16,17を通過し、シリンダ14,15に供給される(黒塗りの矢印で示す)。
【0032】
一方、シリンダ14の底部14a側には弁21が配設されており、この弁21はチューブを介してシリンダ15の底部15a側に設けられる接続部15cに接続されている。また、シリンダ14におけるロッド14bが突出する側には弁22が配設されている。この弁22はチューブを介してシリンダ15においてロッド15bが突出する側に設けられる接続部15dに接続されている。そして、電磁弁16と弁22とはチューブを介して接続されており、電磁弁17と弁21とはチューブを介して接続されている。
【0033】
なお、以下の説明では、電磁弁16,17が「開状態」において、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16,17、弁21,22、および接続部15c,15dを経由するシリンダ14,15までの空気の流路が形成される。一方、電磁弁16,17が「閉状態」では、大気から電磁弁16,17、弁21,22、および接続部15c,15dを経由するシリンダ14,15までの空気の流路が形成される。したがって、電磁弁16,17が「開状態」では、大気よりも高い圧力であるエアタンク18内の空気圧とシリンダ14,15内の空気圧とがほぼ等しくなり、電磁弁16,17が「閉状態」では、大気圧とシリンダ14,15内の空気圧とがほぼ等しくなる(白抜き矢印で示す)。
【0034】
また、シリンダ14,15のロッド14b,15bの先端は、それぞれ回転ヨーク体10に連結されている。エアタンク18の空気が電磁弁17を通過し、弁21に供給されると、弁21に送り込まれた空気は底部14a側から第1のシリンダ14の内部空間A1に供給されるとともに、この弁21を介して接続部15cに供給される。そして、接続部15cに供給された空気は底部15a側から第2のシリンダ15の内部空間A2に供給される。すると、ピストン14e,15eがロッド14b,15bをシリンダ内部から押し出す方向へ移動し、回転ヨーク体10が図2における時計回り方向に移動する。
【0035】
一方、エアタンク18の空気が電磁弁16を通過し、弁22に供給されると、弁22に送り込まれた空気はロッド14b側からシリンダ14の内部空間B1に供給されるとともに、弁22を介して接続部15dに供給される。そして、接続部15dに供給された空気はシリンダ15の内部空間B2に供給される。すると、ピストン14e,15eがロッド14b,15bをシリンダ内部に引き込む方向に移動し、回転ヨーク体10が図2における反時計回り方向に移動する。
【0036】
ここで、リターダ2の回転ヨーク体10は、周方向に向かって、永久磁石13の周方向に沿う寸法の1/2に相当する回転角をもって回転可能に構成されている。回転ヨーク体10をこのような回転角をもって周方向に移動させることで、ドラム4を通過する磁束の強弱を切り換えたり、磁束がドラム4を通過しないように切り換えることが可能となる。このような磁束の切り換えにより、補助ブレーキとなるリターダ2は、第1の状態の一例となるHIGH、第2の状態の一例となるLOWおよび第3の状態の一例となるOFFの3つの状態に切り換えられる。リターダ2のHIGH、LOWおよびOFFの状態への切り換えは、操作者によるリターダ操作部9の操作により行うことが可能であると共に、制御部7の制御により行うことが可能である。
【0037】
ここで、リターダ2により制動力が発生する原理について説明する。回転ヨーク体10が上述した所定の回転角だけ回動し、図6に示すように、永久磁石13がポールピース11と全面対向するような位置に保持されると、永久磁石13が発生する磁界は広がり、ドラム4に及ぶ。このような状態で、ドラム4が回転すると、ドラム4は磁界を通過することになり、ドラム4に渦電流(誘導電流)が生じる。ドラム4に生じた渦電流と永久磁石が発生する磁界の作用によって電磁力が生じる。この電磁力がドラム4の回転を妨げる力(制動力)となる。この制動エネルギは熱エネルギに変換されて空気中に放出される。
【0038】
また、回転ヨーク体10が所定の回転角だけ回動し、図7に示すように、永久磁石13が、ポールピース11をまたぐ位置に保持されると、永久磁石13から発生する磁界は、ポールピース11でシールドされる。すなわちこの状態においてドラム4が回転しても、ドラム4に渦電流(誘導電流)が生じないことから、ドラム4の回転を妨げる力(制動力)は発生しない。
【0039】
また、回転ヨーク体10が所定の回転角だけ回動し、図8に示すように、永久磁石13の一端がポールピース11に架かるが、他の端がポールピース11に架からない位置に保持されると、図6の例の場合に比べ、永久磁石13が発生する磁界は広がらない。その結果、図6の例の場合に比べ、ドラム4が回転することによりドラム4に発生する渦電流(誘導電流)が小さくなるので、ドラム4の回転を妨げる力(制動力)が小さくなる。一方、図7の例の場合に比べ、ドラム4に渦電流(誘導電流)が発生する分、ドラム4の回転を妨げる力(制動力)が発生する。
【0040】
ドラム4の回転を妨げる力(制動力)が最も大きくなる図6に示す状態が、HIGHの状態となり、HIGHの状態に比べ弱い制動力が発生する図8に示す状態が、LOWの状態であり、制動力が発生しない図7に示す状態がOFFの状態となる。
【0041】
上述したように、リターダ2のHIGH、LOWおよびOFFの3つの状態は、リターダ操作部9の操作および制御部7の制御によって切り換えられる。
【0042】
リターダ操作部9によるリターダ2の切り換えについて説明する。リターダ操作部9によるリターダ2の切り換えは、操作者が車両に備えられているリターダ操作部9を手動でHIGH、LOWおよびOFFのうちのいずれかに切り換えることによりなされる。ここで、操作者によりリターダ操作部9の切り換えがなされると、その信号が制御部7に送信され、制御部7がリターダ操作部9から受信した信号に基づいて、第1の電磁弁16および第2の電磁弁17を開閉させる。第1の電磁弁16もしくは第2の電磁弁17の開閉により、第1のシリンダ14および第2のシリンダ15に空気が供給され、この空気の供給に基づいてロッド14b,15bがシリンダ内部から押し出される、またはシリンダ内部に引き込まれる。さらに、このロッド14b,15bの移動に伴って、回転ヨーク体10が周方向に移動し、リターダ2の切り換えがなされる。
【0043】
具体的には、たとえば、図9に示すように、リターダがOFFの状態であるとき、電磁弁16は開状態であり、電磁弁17は閉状態である。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。エアタンク18内の空気圧は、大気圧に比べると高い圧力になっている。よって、この状態を、図10に示すように、「エア有り」の状態と称することにする。一方、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は、大気から電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路により大気圧とほぼ同じ空気圧になる。この状態を、図10に示すように、「エア無し」の状態と称することにする。このように、シリンダ14,15の内部空間B1,B2が「エア有り」の状態であるため、ピストン14e,15eがロッド14e,15eをシリンダ内部に引き込む方向に力を加えられており、図2で示す回転ヨーク体10は、最も反時計周りに移動された位置になる。
【0044】
ここで、操作者がリターダ操作部9をLOWに設定すると、制御部7はリターダ操作部9から信号を受信し、図9に示すように、電磁弁16,17を共に開状態に動作させる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路、およびエアタンク18から三方弁20、電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。これにより、シリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2の空気圧は互いに均衡を保った状態になり、図10に示すように、全て「エア有り」の状態になる。これにより、OFF状態では「エア無し」であった内部空間A1,A2にエアタンク18から空気が供給されると共に、OFF状態でも「エア有り」であった内部空間B1,B2からは内部空間A1,A2に供給された分とほぼ同じ量の空気が追い出され、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動し、リターダ2は図7に示すOFFの状態から図8に示すLOWの状態となる。
【0045】
続いて、操作者がリターダ操作部9をHIGHに設定すると、図9に示すように、電磁弁16は閉状態であり、電磁弁17は開状態になる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間A1,A2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。一方、シリンダ14,15の内部空間B1,B2は、大気から電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路により大気圧とほぼ同じ空気圧になる。このようにして、図10に示すように、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は、「エア有り」の状態になり、シリンダ14,15の内部空間B1,B2は「エア無し」の状態になる。これによれば、LOW状態でも「エア有り」であった内部空間A1,A2にエアタンク18からさらに空気が供給されると共に、LOW状態では「エア有り」であった内部空間B1,B2から空気が追い出され、図2で示す回転ヨーク体10は、最も時計周りに移動された位置になる。その結果、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動し、リターダ2は図6に示すHIGHの状態となる。
【0046】
これに対し、たとえば、リターダ2がHIGHの状態において、操作者がリターダ操作部9をLOWに設定すると、制御部7はリターダ操作部9から信号を受信し、図9に示すように、電磁弁16,17を共に開状態に動作させる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路、およびエアタンク18から三方弁20、電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。これにより、シリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2の空気圧は互いに均衡を保ち、図10に示すように、全て「エア有り」の状態になる。これにより、HIGH状態では「エア無し」であった内部空間B1,B2にエアタンク18から空気が供給されると共に、HIGH状態でも「エア有り」であった内部空間A1,A2からは内部空間B1,B2に供給された分とほぼ同じ量の空気が追い出され、回転ヨーク体10が反時計回り方向に移動し、リターダ2は図6に示すHIGHの状態から図8に示すLOWの状態となる。
【0047】
さらに、リターダ2がLOWの状態において操作者がリターダ操作部をOFFに設定すると、図9に示すように、電磁弁16は開状態であり、電磁弁17は閉状態になる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。一方、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は、大気から電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路により大気圧とほぼ同じ空気圧になる。これにより、図10に示すように、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は「エア無し」の状態になり、シリンダ14,15の内部空間B1,B2は「エア有り」の状態になる。これによれば、LOW状態でも「エア有り」であった内部空間B1,B2にエアタンク18からさらに空気が供給されると共に、LOW状態では「エア有り」であった内部空間A1,A2から空気が追い出され、図2で示す回転ヨーク体10は、最も反時計周りに移動された位置になる。これにより、リターダ2は図7に示すOFFの状態となる。
【0048】
次に、制御部7におけるリターダ2の切り換え制御について説明する。
【0049】
制御部7におけるリターダ2の切り換え制御は、温度センサ5によって検出されるドラム4の温度情報、回転速度検出手段6によって検出されるドラム4の回転速度情報、車両質量推定装置30によって推定された車両質量推定情報、および同じく車両質量推定装置30によって計算された車両の加速度情報、および情報収集部70が収集するその他の各種情報(車速、ギアレシオ、制動トルク、気圧、デフレシオ、タイヤ径、抵抗係数、前面投影面積)に基づいて行われる。
【0050】
情報収集部70が車両の情報収集対象となる各部から必要な各種情報をCAN通信などにより収集して補助ブレーキ力計算部71に入力すると、補助ブレーキ力計算部71は、以下に説明する方法により、車両の補助ブレーキ力および走行抵抗を計算する。以下に、計算式の一例を示す。なお、走行抵抗の計算式は、「空気抵抗の計算式」として一般的に良く知られている計算式(0.5×空気の密度×車速2×前面投影面積)に抵抗係数の乗算の項を加えた計算式(抵抗係数×0.5×空気の密度×車速2×前面投影面積)の解を、車両50の車両質量で除算したものである。すなわち空気抵抗に抵抗係数を乗じることにより、車両50の空気抵抗に加えて車両50が走行する際に路面との間に生じる摩擦抵抗なども加味して走行抵抗を計算することができる。なお、抵抗係数は、車両50のテスト走行時などに収集したデータから適宜設定することができる。
【0051】
リターダ2の減速度=
(リターダ2の制動トルク×デフレシオ)/(車両質量×タイヤ半径)
エンジンブレーキの減速度=
(エンジンブレーキの制動トルク×デフレシオ×ギアレシオ)/(車両質量×タイヤ半径)
走行抵抗=
(抵抗係数×0.5×空気の密度×車速2×前面投影面積)/車両質量
【0052】
これにより減速度計算部72は、車両の減速度として、走行抵抗による減速度とリターダ2による減速度とエンジンブレーキによる減速度とを加算した値を計算する。
【0053】
勾配保持性能判定部73は、減速度計算部72が計算した車両50の減速度と車両質量推定装置30が推定した車両50の加速度の比較結果により車両50の勾配保持性能を判定する。具体的には、車両50の減速度が加速度よりも大きければ、車両50は補助ブレーキ力のみにより下り勾配で減速可能であると判定される。反対に、車両50の減速度が加速度よりも小さければ、車両50はサービスブレーキと補助ブレーキとを併用しなければ下り勾配で減速不可能であると判定される。
【0054】
切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73の判定結果に従って切換温度閾値を決定する。なお、切換温度閾値とは、リターダ2の能力(HIGH、LOW、OFF)を、切り換えるための閾値である。たとえばリターダ2がHIGHで動作中に、リターダ2の温度が上昇し、切換温度閾値に達すると、LOWに切り換えられる(ただし、リターダ操作部9の設定はHIGHのままである)。また、リターダ2がLOWで動作中に、リターダ2の温度が上昇し、切換温度閾値に達すると、OFFに切り換えられる(ただし、リターダ操作部9の設定はLOWのままである)。反対に、たとえばリターダ2がOFFであるとき(ただし、リターダ操作部9の設定はLOWになっている)、リターダ2の温度が下降し、切換温度閾値に達すると、LOWに切り換えられる。また、リターダ2がLOWで動作中に(ただし、リターダ操作部9の設定はHIGHになっている)、リターダ2の温度が下降し、切換温度閾値に達すると、HIGHに切換えられる。
【0055】
ここで図11のフローチャートを参照して切換温度閾値決定部74の動作を説明する。切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73からの判定結果を受け取ると処理を開始(START)する。
【0056】
ステップS1において、切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73の判定結果が補助ブレーキ力のみで減速可能か否かを判定する。ステップS1において、補助ブレーキ力のみで減速可能と判定されると手続きはステップS2に進む。一方、ステップS1において、補助ブレーキ力のみでは減速不可能と判定されると手続きはステップS3に進む。
【0057】
ステップS2において、切換温度閾値決定部74は、後述する一定閾値を選択することを決定して処理を終了する。
【0058】
ステップS3において、切換温度閾値決定部74は、後述する可変閾値を選択することを決定して処理を終了する。
【0059】
このようにして制御部7には、切換温度閾値が設定される。これにより、検出されたドラム4の温度が、検出されたドラム4の回転速度に対して設定される所定の温度(閾値)を超えると、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える。すなわち、温度センサ5によって検出されたドラム4の温度が回転速度検出手段6によって検出されたドラム4の回転速度に対応する所定の閾値を超えた場合に、このドラム4に発生する制動力を1段下げるような切り換えがなされる。
【0060】
図12は、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラム温度の可変閾値(L1:S3で設定される可変閾値)、ドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、およびドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3:S2で設定される一定閾値)を示す図である。
【0061】
勾配保持性能判定部73が補助ブレーキ力のみで車両50を減速不可能であると判定した場合、路面の下り勾配は急であり、補助ブレーキ力のみでは、運転者がサービスブレーキを踏まない限り、車両50は加速を続ける状態である。したがって、リターダ2は、下り勾配を脱するまでの区間で長時間にわたり使われ続けられる可能性が大きく、リターダ2の制動力は、長い時間にわたって持続することが要求される。この場合、切換温度閾値決定部74は、従来の一定閾値(L2)と比較してリターダ2の制動力を長い時間持続させることができる可変閾値(L1)を選択する。
【0062】
すなわちドラム温度の可変閾値(L1)は、ドラム4の回転速度に応じたものとなっている。図12の例では、ドラム4の回転速度が比較的低速の範囲では、閾値は高い温度に設定され、さらに、ドラム4の回転速度が大きくなるにつれて閾値が減少するように設定されている。たとえばドラム4の回転速度が比較的高速の範囲では、閾値は低い温度に設定されている。ドラム4の回転速度が大きいときには急激にドラム4の温度が上昇するため、切り換えがなされた後にも温度が上昇し続ける。このため、ドラム4の回転速度が大きい範囲ではドラム4が高温になるのを防止するために、比較的低い温度に設定されている。
【0063】
たとえば、リターダ2の状態がHIGHの状態になっている場合において、ドラム4の回転速度が比較的低速のときの閾値は高い温度となる。すなわちドラム4の回転速度が比較的低速の場合において、ドラム4の温度が閾値である高い温度に達したとき、制御部7の制御により、リターダ2の状態をHIGHからLOWに切り換えさせる。
【0064】
これらの制御は、温度センサ5および回転速度検出手段6からそれぞれの検出値を受信した制御部7が、受信したドラム4の温度およびドラム4の回転速度の検出値と、図10に示すドラム4の回転速度に対する温度の閾値とを比較することによりなされる。具体的には、制御部7が、温度センサ5から受信した検出値と、回転速度検出手段6により検出されたドラム4の回転速度に対応する閾値とを比較した結果、検出された温度が検出されたドラム4の回転速度に対応する閾値を超えている場合に、制御部7からリターダ2(電磁弁16,17)に向かって、リターダ2に発生する制動力を1段下げるように切り換える制御信号が送信される。すなわち、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換えるような制御信号が送信される。具体的には、制御部7から電磁弁16,17に対し、図9に示すように、電磁弁16,17を開状態または閉状態とする制御信号が送信される。これにより、リターダ2に発生する制動力が1段下がるような切り換えが行われる。
【0065】
なお、リターダ2がLOWからOFFに切り換えられるように制御されると、制動力はいったん途切れる。しかしながら、たとえばドラム4の回転速度が高い領域では、従来の一定閾値(L2)と比較して低いドラム4の温度でLOWからOFFに切り換えられるため、ドラム4は短時間で冷却され、リターダ2は再びOFFからLOWに切り換えられるように制御される。特に、ドラム4の周囲には不図示の冷却フィンが多数配設されており、ドラム4の冷却を促進させているが、ドラム4が高速で回転することによって、冷却フィンによる冷却効率は高くなる。これに加えて、リターダ2がいったんOFFに制御されると、これにより車両50の全体の制動力は小さくなり車速が上がるので、ドラム4は、さらに高速で回転し、ドラム4は効率良く冷却されることになる。これによりいったん途切れた制動力は短時間で復活するので、実質的に、リターダ2の補助ブレーキ力は、長い時間にわたって持続することと同じになる。すなわち、ここでいう「リターダ2の補助ブレーキ力が持続する」状態とは、リターダ2の制動力が弱まったり強まったり、あるいはいったん途切れたりしながらも所定の期間(たとえば数十秒間〜数分間)で制動力を平均化した場合、制動力が持続している状態である。
【0066】
以上のように構成された制御装置1では、リターダ2を切り換えるドラム4の温度(閾値)をドラム4の回転速度に対して可変にするようにしたので、各走行条件に対してリターダ2を適切に制御することが可能となる。
【0067】
ドラム4の回転速度が低速の場合には、ドラム4の温度の上昇速度が遅いので、閾値を、その上昇速度を考慮して高い温度に設定し、ドラム4の温度がその閾値に達したときにリターダ2の状態をLOWもしくはOFFに下げるようにしても、ドラム4が限界温度に達しない。そこで、図12に示す閾値(L1)のように、ドラム4の回転速度が比較的低速の場合には、閾値を高い温度に設定することにより、安全に、かつ、強い制動力を長い時間かけることができる。その結果、リターダ2の減速性能を向上させることができる。
【0068】
図13は、図12に示す可変閾値(L1)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L11)と、従来の一定閾値(L2)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L12)を示す図である。
【0069】
ドラム4の回転速度が低速の場合、ドラム4の温度が閾値に達した時点で、リターダ4の状態をLOWもしくはOFFに下げても限界温度に達しないのに対し、従来の一定閾値(L2)を利用した場合、比較的低い温度に達した時点でLOWもしくはOFFの状態に切り換えられる。すなわち図13に示すように、従来の一定閾値(L2)を利用した場合、可変閾値(L1)を利用した場合に比べ、リターダ2の減速性能が劣る。図13の例では、減速推移(L12)において、制動が開始されてから比較的短時間経過した後に、リターダ4の状態がLOWもしくはOFFに切り換えられている。一方、減速推移(L11)においては、制動が開始されてから比較的長時間経過するまで、リターダ4の状態がHIGHもしくはLOWに保持されている。
【0070】
ドラム4の回転速度が比較的高速の場合には、ドラム4の温度の上昇速度が早いので、閾値を、その上昇速度を考慮して低い温度に設定することによりドラム4が限界温度に達することを防止することができる。そこで、図12に示す可変閾値(L1)のように、ドラム4の回転速度が比較的高速の場合には、閾値を低い温度に設定することにより、ドラム4が高温になるのを防止できる。その結果、リターダ2の制動力を長く持続させることが可能となる。
【0071】
一方、勾配保持性能判定部73が補助ブレーキ力のみで車両50を減速可能であると判定した場合、路面の下り勾配は緩く、あるいは平坦路であり、補助ブレーキ力のみで車両50は減速する状態である。したがって、リターダ2は、減速のために、ごく短時間ずつ複数回にわたって使用される可能性が大きく、リターダ2の制動力を長い時間にわたって持続させる必要はない。その代わりに、サービスブレーキを使用しなくてもリターダ2を動作させることによって車両50を充分減速させられるように、リターダ2は、ドラム4の回転速度の広い範囲にわたり強い制動力を発生することが要求される。この場合、切換温度閾値決定部74は、従来の一定閾値(L2)と比較してリターダ2の制動力をドラム4の回転速度が高い状況下でもドラム4の温度が高くなるまで長い時間発生させることができる一定閾値(L3)を選択する。図12の例では、一定閾値(L3)は、可変閾値(L1)の最大値に設定されている。なお、一定閾値(L3)は、図12の例に限定されることなく様々に設定可能である。
【0072】
なお、実際の車両50の走行においては、路面の状況(平坦路、下り勾配、上り勾配など)および運転者による補助ブレーキ(リターダ2、エンジンブレーキ)の操作状況(リターダ2のHIGH、LOW、OFF、エンジンブレーキのギア段など)は、時々刻々変化する。したがって、図12に示した閾値(L1、L3)についても時々刻々設定が変更されながら運用されることになる。
【0073】
(効果について)
従来の一定閾値(L2)を利用した場合、回転速度が比較的高速のとき、ドラム4がより高温になるので、制動力が減少したり、リターダ2が損傷しやすくなる。これに対し、可変閾値(L1)を利用すれば、ドラム4の回転速度が比較的低速の場合に、制動時間を長く確保することにより、効果的に制動エネルギを熱エネルギに変換することが可能となる。このため、リターダ2からの吸収エネルギの向上を図ることが可能となる。また、ドラム4の回転速度が比較的高速の場合には、ドラム4が高温になるのを防止できる。その結果、リターダ2の制動力を長く持続させることが可能となる。また、リターダ2の寿命を延ばし、ひいてはサービスブレーキの消耗を軽減させることができる。
【0074】
また、可変閾値(L1)は、切り換え温度が一定値である従来の一定閾値(L2)の場合のように、車種等の仕様毎に切り換え温度を設定する必要がなく、ECUの共通化を図ることができ、その結果、ECUの設定品番を削減することが可能となる。
【0075】
また、従来の一定閾値(L2)を利用した場合、回転速度が比較的高速のとき、リターダ2は、ドラム4の温度がさほど高くなくても制動力を低減させられてしまう。これにより、リターダ2は、運転者が要求する制動力を満足させられない場合がある。これに対し、一定閾値(L3)を利用すれば、リターダ2は、ドラム4の温度が高くなっても大きな制動力を発生させられる。これにより、リターダ2は、運転者が要求する制動力を満足させることができる。また、このようにリターダ2のドラム4が高温になるまで使用しても良い走行条件か否かを制御部7が車両50の加速度と減速度とを比較して適切に判定しているのでリターダ2を損傷するようなことはない。また、これにより、リターダ2の寿命を延ばし、ひいてはサービスブレーキの消耗を軽減させることができる。
【0076】
また、制御装置1では、一定閾値(L3)は、全ての車種に対して同じ閾値としても、制御部7が車両50の加速度と減速度とを比較して必要に応じて可変閾値(L1)に閾値を切り換えるように制御する。このため、従来の一定閾値(L2)の場合のように、車種等の仕様毎に切り換え温度を設定する必要がなくなる。したがって、ECUの共通化を図ることができ、その結果、ECUの設定品番を削減することが可能となる。
【0077】
(第二の実施の形態)
本発明の第二の実施の形態の制御装置1Aについて説明する。制御装置1Aの構成は、図3に示す第一の実施の形態の制御装置1の構成と共通であるが、区別のために勾配保持性能判定部73A、切換温度閾値決定部74Aとして説明する。
【0078】
制御装置1Aは、勾配保持性能判定部73の判定種別をさらに細分化した勾配保持性能判定部73Aを設け、切換温度閾値決定部74Aが決定する温度閾値を複数設ける。図14は、勾配保持性能判定部73Aの判定種別を3とおりとした例を示している。図14の例では、判定種別♯1で「補助ブレーキ力+αで減速可能」、判定種別♯2で「補助ブレーキ力+β(<α)で減速可能」、判定種別♯3で「補助ブレーキ力のみで減速可能」という3種類の判定種別を有する。これらの判定種別♯1、♯2、♯3に対応してそれぞれ温度閾値L1,L4,L3が設定されている。なお、α、βは、補助ブレーキ力以外のサービスブレーキによる制動力であり、αは、βよりも大きな制動力である。
【0079】
すなわち補助ブレーキ力と強いサービスブレーキ力とを併用しなければ車両を減速させられない勾配保持性能を判定種別♯1とし、補助ブレーキ力と若干のサービスブレーキ力とを併用するだけで車両を減速させられる勾配保持性能を判定種別♯2とし、補助ブレーキ力のみで車両を減速させられる勾配保持性能を判定種別♯3とする。
【0080】
図15は、切換温度閾値決定部74Aの動作を示すフローチャートである。切換温度閾値決定部74Aは、勾配保持性能判定部73Aの判定結果に従って切換温度閾値を決定する。切換温度閾値決定部74Aは、勾配保持性能判定部73Aからの判定結果を受け取ると処理を開始(START)する。
【0081】
ステップS10において、切換温度閾値決定部74Aは、勾配保持性能判定部73Aの判定結果がいずれの判定種別♯1、♯2、♯3であるかを判定する。ステップS10において、判定種別♯1と判定されると手続きはステップS11に進む。ステップS10において、判定種別♯2と判定されると手続きはステップS12に進む。ステップS10において、判定種別♯3と判定されると手続きはステップS13に進む。
【0082】
ステップS11において、切換温度閾値決定部74Aは、第1の可変閾値(L1)を選択することを決定して処理を終了する。
【0083】
ステップS12において、切換温度閾値決定部74Aは、第2の可変閾値(L4)を選択することを決定して処理を終了する。
【0084】
ステップS13において、切換温度閾値決定部74Aは、一定閾値(L3)を選択することを決定して処理を終了する。
【0085】
図16は、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラム4の温度の第1の可変閾値(L1:ステップS11で設定される可変閾値)、ドラム4の温度の第2の可変閾値(L4:ステップS12で設定される可変閾値)、ドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、およびドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3:ステップS13で設定される一定閾値)を示す図である。
【0086】
図16の第1の可変閾値(L1)は、図12の可変閾値(L1)と同じである。第2の可変閾値(L4)は、第1の可変閾値(L1)と比較してドラム4の回転速度が大きな領域における温度閾値が高く設定されている。この第2の可変閾値(L4)によれば、第1の可変閾値(L1)を用いた場合よりもリターダ2の動作の持続時間は短くなるが、ドラム4の高い回転速度の領域において第1の可変閾値(L1)よりもドラム4の温度が高くなるまでリターダ2が使用可能になる。これにより、第1の可変閾値(L1)よりも長い時間、ドラム4の高い回転速度の領域で強い制動力を発生させることができる。なお、可変閾値(L4)は、図14の例に限定されることなく様々に設定可能である。
【0087】
(効果について)
このように、複数の可変閾値(L1、L4)を設定することにより、さらに木目細かく車両50の勾配保持性能の複数の段階に応じてリターダ2を適切に利用できる状況を拡張することができる。また、これにより、リターダ2の寿命を延ばし、ひいてはサービスブレーキの消耗を軽減させることができる。
【0088】
また、可変閾値(L1、L4)は、切り換え温度が一定値である従来の一定閾値(L2)の場合のように、車種等の仕様毎に切り換え温度を設定する必要がなく、ECUの共通化を図ることができ、その結果、ECUの設定品番を削減することが可能となる。
【0089】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0090】
上述の実施の形態では、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段上がるような切り換えが行われ、回転ヨーク体10が反時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段下がるような切り換えが行われるように構成されているが、このような構成に限定されるものではなく、たとえば、回転ヨーク体10が反時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段上がるように切り換わり、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段下がるように切り換わるような構成としてもよい。また、回転ヨーク体10を時計回り方向に移動させることで、HIGH、LOWおよびOFFの3つ状態の間で切り換えを行うようにしてもよい。
【0091】
また、上述の実施の形態では、回転速度に対するリターダ2の切り換え温度(閾値)は図12または図16に示すような形態とされているが、閾値の形態はこれに限定されるものではなく、異なる形態としてもよい。
【0092】
また、上述の実施の形態では、電磁弁16,17は、共にシリンダ14,15に向かって空気を圧送のみする構成とされているが、電磁弁16,17が、シリンダ14,15に空気を圧送するとともに、シリンダ14,15から空気を吸引し、この空気をエアタンク18に戻すような構成としてもよい。
【0093】
また、制御装置1では、制御部7の処理はハードウェアによって実行されているが、制御部7の処理をソフトウェアによって実行するようにしてもよい。具体的には、制御部7をコンピュータ装置(請求項でいう情報処理装置)によって構成し、リターダ2の制御をこのコンピュータ装置に所定のプログラムを実行させることにより行う構成とすることが挙げられる。すなわち、このコンピュータ装置が所定のプログラムを実行すると、このコンピュータ装置に、情報収集部70、補助ブレーキ力計算部71、減速度計算部72、勾配保持性能判定部73、および切換温度閾値決定部74に相当する機能が実現される。
【0094】
また、可変閾値(L1,L4)は、HIGHからLOWおよびLOWからOFFの双方の切り換えに利用されているが、可変閾値(L1,L4)をHIGHからLOWおよびLOWからOFFの内の一方の切り換えにのみ利用し、残りの他方の切り換えに関して別の閾値を利用するようにしてもよい。
【0095】
また、設定をHIGH、LOW、OFF3段階に限定せず、さらに多数の段階(OFF、レベル1、レベル2、…、レベルnなど)を設けてもよい。反対に、ON、OFFだけの2段階としてもよい。
【0096】
また、リターダ設定部9の設定はHIGHのままで、能力がHIGHからLOWさらにOFFへと切換えられるようにしてもよい。たとえばリターダ設定部9の設定がHIGHであるときに、ドラム4の温度が切換温度閾値に達するとLOWに切り換えられるが、比較的短い時間内に頻繁にHIGHとLOWとの間の切換が繰り返されるような場合には、リターダ設定部9の設定はHIGHのままであっても、自動的に、LOWとOFFとの間で切り換えが行われるように制御してもよい。
【0097】
また、上述の実施の形態では、リターダ2として永久磁石式のリターダが採用されているが、リターダ2として電磁式リターダもしくは流体式リターダ等、他の駆動形式のリターダを採用してもよい。
【0098】
また、下り勾配の程度や距離、または車速などの情報については、車両50に搭載されているカーナビゲーション装置の地図情報、または移動情報から制御装置1が取得するようにしてもよい。
【0099】
また、空気の密度の情報については、気圧センサが検出した気圧情報から換算すると説明したが、その日の天気の情報(晴天、曇天、雨天、台風などの情報)を運転者が制御装置1に入力するなどして大まかな気圧情報を取得するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…制御装置、2…リターダ、3…エネルギ変換手段、4…ドラム(放熱手段)、5…温度センサ(温度検出手段)、6…回転速度検出手段、7…制御部(制御手段)、30…車両質量推定装置(加速度計算手段)、71…補助ブレーキ力計算部(減速度計算手段の一部)、72…減速度計算部(減速度計算手段)、73…勾配保持性能判定部(制御手段の一部)、74…切換温度閾値決定部(制御手段の一部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、リターダの制御装置、車両およびリターダ制御方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバスなどの大型車両の減速装置として、主ブレーキであるサービスブレーキの他に、長い下り坂の走行時などで安定した減速を行い、かつサービスブレーキの焼損を防止するために補助ブレーキが使用されている。
【0003】
補助ブレーキには、一般的に、エンジンブレーキと、このエンジンブレーキの効きを増大させるための排気ブレーキまたはエンジンリターダと、トランスミッションの出力軸であるプロペラシャフトに備えられ、プロペラシャフトにフリクションを与えて制動力とするトランスミッションリターダとがある。以下では、トランスミッションリターダを単にリターダと称する。
【0004】
リターダは、トランスミッションの出力軸であるプロペラシャフトの回転エネルギを電気エネルギに変換し、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱するため、連続的に使用すると過熱するおそれがある。したがって、この過熱を防止するために、熱エネルギを放熱する放熱手段に温度センサを設け、この温度センサによって検出された温度が所定温度以上に達したときに、リターダの動作を停止させるような制御がなされている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−136636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているリターダは、所定の温度に到達すると、その動作を停止してしまうため、補助ブレーキとしての機能を充分に発揮できなくなってしまう。
【0007】
また、リターダは、車種等の仕様毎に複数の異なる型式が用意され、あるいは同じ型式のリターダであっても、リターダの動作を停止させる所定の温度は車種等の仕様毎に異なってくるため、仕様毎に所定温度を設け、ECU(Electric Control Unit)の品番を複数設ける必要が生じてしまう。
【0008】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、走行条件に係らず補助ブレーキとしての機能を充分に発揮でき、ECUの共通化を図ることができるリターダの制御装置、車両およびリターダ制御方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの観点は、リターダの制御装置としての観点である。本発明のリターダの制御装置は、回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、を有するリターダの制御装置において、制御手段は、自車両の加速度を計算する加速度計算手段と、リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算手段と、を有し、減速度計算手段が計算した減速度が加速度計算手段が計算した加速度よりも小さいときには、所定の閾値を、放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定し、減速度計算手段が計算した減速度が加速度計算手段が計算した加速度よりも大きいときには、所定の閾値を、一定値に設定し、温度検出手段によって検出された放熱手段の温度が、回転速度検出手段によって検出された放熱手段の回転速度に対応する所定の閾値を超える温度であるときに、電気エネルギの発生を低減させる制御を行うものである。たとえば、一定値は、所定の閾値が可変に設定されたときの最大値に相当する値であるとする。
【0010】
本発明の他の観点は、車両としての観点である。本発明の車両は、本発明のリターダの制御装置を有するものである。
【0011】
本発明のさらに他の観点は、回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、を有するリターダの制御装置のリターダ制御方法において、制御手段の処理として、自車両の加速度を計算する加速度計算ステップと、リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算ステップと、減速度計算ステップで計算した減速度が加速度計算ステップで計算した加速度よりも小さいときには、所定の閾値を、放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定するステップと、減速度計算ステップで計算した減速度が加速度計算ステップで計算した加速度よりも大きいときには、所定の閾値を、一定値に設定するステップと、温度検出手段によって検出された放熱手段の温度が、回転速度検出手段によって検出された放熱手段の回転速度に対応する所定の閾値を超える温度であるときに、電気エネルギの発生を低減させる制御を行うステップとを有するものである。
【0012】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、情報処理装置に、本発明のリターダの制御装置の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、走行条件に係らず補助ブレーキとしての機能を充分に発揮でき、ECUの共通化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る制御装置およびリターダの車両における配置位置を示す図である。
【図2】図1の制御装置およびリターダの構成を示す概略図である。
【図3】図2の制御部のブロック構成図である。
【図4】図1または図2中のエネルギ変換手段の構成を部分的に示す斜視図である。
【図5】図2中の回転ヨーク体の構成を示す斜視図である。
【図6】図2中のリターダがHIGHの状態にあるときの回転ヨーク体とポールピースの位置関係を示す図である。
【図7】図2中のリターダがOFFの状態にあるときの回転ヨーク体とポールピースの位置関係を示す図である。
【図8】図2中のリターダがLOWの状態にあるときの回転ヨーク体とポールピースの位置関係を示す図である。
【図9】図2のリターダ操作部の操作に伴う図2の電磁弁の開閉状態を示す図である。
【図10】図2のリターダ操作部の操作に伴う図2のシリンダのエアの状態を示す図である。
【図11】図3の切換温度閾値決定部の動作を示すフローチャートである。
【図12】リターダをHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラムの温度の可変閾値(L1)、ドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、およびドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3)を示す図である。
【図13】図10に示す可変閾値(L1)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L11)と、従来の可変閾値(L2)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L12)を示す図である。
【図14】本発明の第二の実施の形態の勾配保持性能判定部の判定結果を示す図である。
【図15】本発明の第二の実施の形態の切換温度閾値決定部の動作を示すフローチャートである。
【図16】リターダをHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラムの温度の第1の可変閾値(L1)、ドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、ドラムの回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3)、およびドラムの温度の第2の可変閾値(L4)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一の実施の形態)
以下、本発明の第一の実施の形態に係るリターダ2の制御装置1について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、リターダ2により大きな制動力が発揮される状態をHIGHと表記し、リターダ2によりHIGHの状態よりも小さな制動力が発揮される状態をLOWと表記する。また、リターダ2により制動力が発揮されない状態をOFFと表記する。
【0016】
図1は、本発明の第一の実施の形態に係る制御装置1およびリターダ2の車両50における配置位置を示す図である。図2は、図1の制御装置1およびリターダ2の構成を示す概略図である。図3は、制御装置1の制御部7(請求項でいう制御手段)のブロック構成図である。図4は、図1または図2中のエネルギ変換手段3の構成を部分的に示す斜視図である。図5は、図2中の回転ヨーク体10の構成を示す斜視図である。図6は、図2中のリターダ2がHIGHの状態にあるときの回転ヨーク体10とポールピース11の位置関係を示す図である。図7は、図2中のリターダ2がOFFの状態にあるときの回転ヨーク体10とポールピース11の位置関係を示す図である。図8は、図2中のリターダ2がLOWの状態にあるときの回転ヨーク体10とポールピース11の位置関係を示す図である。図9は、リターダ操作部9の操作に伴う電磁弁16,17の開閉状態を示す図である。図10は、リターダ操作部9の操作に伴うシリンダ14,15のエアの状態を示す図である。
【0017】
図1に示すように、車両50では、エンジン40の出力がトランスミッション41で適宜変速され、トランスミッション41の出力がプロペラシャフト42およびデファレンシャルギア(デフと図示)43を介して車輪44に伝達される。
【0018】
リターダ2は、回転エネルギを電気エネルギに変換するためのエネルギ変換手段3と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段の一例となるドラム4とを備える。図1に示すように、エネルギ変換手段3がトランスミッション41の後部に固定されており、ドラム4がプロペラシャフト42に取り付けられている。ドラム4は、プロペラシャフト42が回転するのに伴って回転する。制御装置1は、リターダ2の制動力を充分に発揮させるために、リターダ2の動作の制御を行うための装置である。
【0019】
図2に示すように、制御装置1は、ドラム4の温度を検出する温度検出手段の一例となる温度センサ5と、ドラム4の回転速度を検出する回転速度検出手段6と、ドラム4の温度とドラム4の回転速度の検出値に基づいてリターダ2による制動力の制御を行う制御部7と、操作者の操作によってリターダ2の状態を切り換えるためのリターダ操作部9と、を有する。なお、温度検出手段として、たとえば、ドラム4の温度を直接検知する温度センサ5の代わりに、リターダ2によって吸収したエネルギからドラム4の温度を推定する手段を採用するようにしてもよい。また、回転速度検出手段6には、ドラム4の回転速度を直接検知することができるセンサを用いてもよいが、エンジン回転速度とトランスミッション41の変速比からプロペラシャフト42の回転速度を推定する手段を採用するようにしてもよい。あるいは、プロペラシャフト42の回転速度を、車速とデファレンシャルギアのギア比(以下では、デフレシオと称する)と車輪44の半径から推定することもできる。この場合、デフレシオと車輪44の半径は予め固定値としてわかっているので、回転速度検出手段6は、デフレシオと車輪44の半径は不図示のメモリなどに記憶しておき、車速の情報だけを不図示の車速センサなどから取得すればよい。さらに、制御装置1は、車両質量推定装置30から加速度情報、車両質量推定情報、および下り勾配情報を取得する。
【0020】
上述した車両質量推定装置30は、特開2008−201401号公報に記載されているものであり、その動作原理を簡単に説明すると、変速操作開始前の車両加速度と、変速操作中の車両加速度と、から推定される車両推定質量(変速時車両推定質量)を得て、得られた変速時車両推定質量を平均化し、この平均化された変速時車両推定質量に基づいて車両走行路面の勾配を推定し、推定された勾配を加速式の質量公式に代入して車両推定質量を得て、これを平均化して平均値を得ることにより、車両推定質量を真値に近づけていくものである。なお、車両加速度は、プロペラシャフト42の回転速度情報から車速を計算し、この車速を時間微分することにより得ることができる。すなわち車両質量推定装置30によれば、制御装置1は、車両50の加速度情報、車両質量推定情報、および下り勾配情報を取得することができる(車両質量推定装置30は、請求項でいう加速度計算手段であり制御手段の一部に相当する)。
【0021】
図3に示すように、制御部7は、情報収集部70(請求項でいう制御手段の一部)、補助ブレーキ力計算部71(請求項でいう減速度計算手段の一部)、減速度計算部72(請求項でいう減速度計算手段)、勾配保持性能判定部73(請求項でいう制御手段の一部)、および切換温度閾値決定部74(請求項でいう制御手段の一部)を有する。
【0022】
情報収集部70は、主に補助ブレーキ力計算部71に必要な各種の情報(以下、各種情報と称する)を取り込むための通信手段であり、たとえば情報収集の対象となる車両の各部とCAN(Control Area Network)により接続されて通信を行い情報を収集する。情報収集部70が収集する各種情報として、たとえば車両50の車速、トランスミッション41に設定されているギア段のギアレシオ、車両50の補助ブレーキ全体で発生する制動トルク、車両50の周囲の気圧、車両50のデフレシオ、車両50のタイヤ径、車両50の走行抵抗を計算するために予め定められた抵抗係数、車両50の前面投影面積などの情報がある。
【0023】
たとえば車速の情報は、不図示の車速センサから取得してもよいし、車両質量推定装置30から取得してもよい。ギアレシオの情報は、不図示のギア位置センサから通知されるギア位置情報に基づき取得することができる。制動トルクの情報は、リターダ2については、リターダ操作部9の操作情報(HIGH、LOW、またはOFFのいずれであるか)に基づき取得することができる。また、エンジンブレーキの制動トルクの情報については、上述のギア位置センサから通知されるギア位置情報および不図示のアクセル開度センサから通知されるアクセル開度情報に基づき取得することができる。すなわちエンジンブレーキは、エンジン40への燃料の供給を停止(すなわちアクセル開度ゼロ)させることにより動作を開始するが、この際、いずれのギア段でエンジンブレーキを動作させるかによって、制動トルクは異なる。たとえばギア段が3速でのエンジンブレーキによる制動力は、ギア段が4速でのエンジンブレーキによる制動力よりも大きい。よって、アクセル開度情報からエンジンブレーキのON/OFFの状態を検出し、ギア位置情報からエンジンブレーキの制動トルクの情報を取得する。さらに、気圧の情報は、不図示の気圧センサから取得することができる。取得した気圧の情報は、後述する走行抵抗の計算において「空気の密度」に換算されて用いられる。なお、上述した各種情報のうち、デフレシオ、タイヤ径、抵抗係数、および前面投影面積の情報については車種毎に予め決まっているので、制御部7のメモリMに予め記憶させておくことができる。
【0024】
また、既に説明したように、エンジンブレーキの効きを増大させるために、排気ブレーキとエンジンリターダをさらに備える場合がある。排気ブレーキは、エンジン40の排気抵抗を増すことによって、エンジン40のフリクションを増加させ、エンジンブレーキの効きを増大させる。エンジンリターダは、エンジン40の吸気行程終期から圧縮行程開始期に排気弁を開き、排気管の高圧排気を気筒に逆流させ、気筒内の圧縮圧力を高めて排気ブレーキの効果を増大させる。以下では、説明を分かり易くするために、これらのエンジンブレーキの効きを増大させるための補助ブレーキについては説明を省略し、一括してエンジンブレーキと称することとする。
【0025】
補助ブレーキ力計算部71は、情報収集部70が収集した各種情報に基づいて補助ブレーキによる制動力(以下では、補助ブレーキ力と称する)および車両50の走行抵抗を計算する。
【0026】
減速度計算部72は、補助ブレーキ力計算部71が計算した補助ブレーキ力および走行抵抗と車両重量推定装置30が推定した車両質量推定情報とに基づいて運転者がリターダ2を含む補助ブレーキを動作させた際の車両50の減速度を計算する。
【0027】
勾配保持性能判定部73は、減速度計算部72が計算した車両50の減速度と車両質量推定装置30が計算した車両50の加速度とを比較し、その比較結果に基づいて車両50の勾配保持性能を判定する。ここで車両50の勾配保持性能とは、下り勾配を走行中の車両50がサービスブレーキの制動力によらず補助ブレーキ力のみで減速可能か否かの性能である。なお、勾配保持性能判定部73は、車両50が下り勾配を走行中であるか否かの情報についても車両質量推定装置30から取得することができる。
【0028】
切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73の判定結果に応じてリターダ2の能力を切り換える温度の閾値を決定する。
【0029】
次に、リターダ2の詳細な構成および動作について説明する。図2に示すように、ドラム4はリング状の形態を有しており、このドラム4はエネルギ変換手段3の外側にプロペラシャフト42の回転に伴って回転可能な形態で配置されている。図2および図4に示すように、エネルギ変換手段3は、略リング状の形態を有する回転ヨーク体10と、この回転ヨーク体10の外周側に配置されるポールピース11とを有する。回転ヨーク体10は、ポールピース11に対して相対回転可能な形態で配置されている。図4および図5に示すように、回転ヨーク体10は、リング状の形態を有するヨーク12の外周に複数(たとえば、12個)のN極およびS極の永久磁石13を交互に配置させることにより構成される。
【0030】
図4に示すように、ポールピース11が永久磁石13と対向する位置に存在するときは、図4中の矢示に示すように、N極の永久磁石13から発生する磁束は、対向するポールピース11およびドラム4(図4では不図示)を通過し、さらに、隣接するポールピース11を通過してS極の永久磁石13に入る。すなわち、N極の永久磁石13、ドラム4およびS極の永久磁石13を通過する渦状の磁力線が形成される。
【0031】
図2に示すように、リターダ2には、回転ヨーク体10を周方向に駆動させるための2つのシリンダ14,15が備えられている。このシリンダ14,15には、2つの電磁弁16,17の開閉に基づいて、エアタンク18からの空気が供給される。具体的には、図2に示すように、電磁弁16,17は、三方弁20を介してエアタンク18に接続されている。このため、エアタンク18から送出される空気は、三方弁20を介して電磁弁16,17を通過し、シリンダ14,15に供給される(黒塗りの矢印で示す)。
【0032】
一方、シリンダ14の底部14a側には弁21が配設されており、この弁21はチューブを介してシリンダ15の底部15a側に設けられる接続部15cに接続されている。また、シリンダ14におけるロッド14bが突出する側には弁22が配設されている。この弁22はチューブを介してシリンダ15においてロッド15bが突出する側に設けられる接続部15dに接続されている。そして、電磁弁16と弁22とはチューブを介して接続されており、電磁弁17と弁21とはチューブを介して接続されている。
【0033】
なお、以下の説明では、電磁弁16,17が「開状態」において、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16,17、弁21,22、および接続部15c,15dを経由するシリンダ14,15までの空気の流路が形成される。一方、電磁弁16,17が「閉状態」では、大気から電磁弁16,17、弁21,22、および接続部15c,15dを経由するシリンダ14,15までの空気の流路が形成される。したがって、電磁弁16,17が「開状態」では、大気よりも高い圧力であるエアタンク18内の空気圧とシリンダ14,15内の空気圧とがほぼ等しくなり、電磁弁16,17が「閉状態」では、大気圧とシリンダ14,15内の空気圧とがほぼ等しくなる(白抜き矢印で示す)。
【0034】
また、シリンダ14,15のロッド14b,15bの先端は、それぞれ回転ヨーク体10に連結されている。エアタンク18の空気が電磁弁17を通過し、弁21に供給されると、弁21に送り込まれた空気は底部14a側から第1のシリンダ14の内部空間A1に供給されるとともに、この弁21を介して接続部15cに供給される。そして、接続部15cに供給された空気は底部15a側から第2のシリンダ15の内部空間A2に供給される。すると、ピストン14e,15eがロッド14b,15bをシリンダ内部から押し出す方向へ移動し、回転ヨーク体10が図2における時計回り方向に移動する。
【0035】
一方、エアタンク18の空気が電磁弁16を通過し、弁22に供給されると、弁22に送り込まれた空気はロッド14b側からシリンダ14の内部空間B1に供給されるとともに、弁22を介して接続部15dに供給される。そして、接続部15dに供給された空気はシリンダ15の内部空間B2に供給される。すると、ピストン14e,15eがロッド14b,15bをシリンダ内部に引き込む方向に移動し、回転ヨーク体10が図2における反時計回り方向に移動する。
【0036】
ここで、リターダ2の回転ヨーク体10は、周方向に向かって、永久磁石13の周方向に沿う寸法の1/2に相当する回転角をもって回転可能に構成されている。回転ヨーク体10をこのような回転角をもって周方向に移動させることで、ドラム4を通過する磁束の強弱を切り換えたり、磁束がドラム4を通過しないように切り換えることが可能となる。このような磁束の切り換えにより、補助ブレーキとなるリターダ2は、第1の状態の一例となるHIGH、第2の状態の一例となるLOWおよび第3の状態の一例となるOFFの3つの状態に切り換えられる。リターダ2のHIGH、LOWおよびOFFの状態への切り換えは、操作者によるリターダ操作部9の操作により行うことが可能であると共に、制御部7の制御により行うことが可能である。
【0037】
ここで、リターダ2により制動力が発生する原理について説明する。回転ヨーク体10が上述した所定の回転角だけ回動し、図6に示すように、永久磁石13がポールピース11と全面対向するような位置に保持されると、永久磁石13が発生する磁界は広がり、ドラム4に及ぶ。このような状態で、ドラム4が回転すると、ドラム4は磁界を通過することになり、ドラム4に渦電流(誘導電流)が生じる。ドラム4に生じた渦電流と永久磁石が発生する磁界の作用によって電磁力が生じる。この電磁力がドラム4の回転を妨げる力(制動力)となる。この制動エネルギは熱エネルギに変換されて空気中に放出される。
【0038】
また、回転ヨーク体10が所定の回転角だけ回動し、図7に示すように、永久磁石13が、ポールピース11をまたぐ位置に保持されると、永久磁石13から発生する磁界は、ポールピース11でシールドされる。すなわちこの状態においてドラム4が回転しても、ドラム4に渦電流(誘導電流)が生じないことから、ドラム4の回転を妨げる力(制動力)は発生しない。
【0039】
また、回転ヨーク体10が所定の回転角だけ回動し、図8に示すように、永久磁石13の一端がポールピース11に架かるが、他の端がポールピース11に架からない位置に保持されると、図6の例の場合に比べ、永久磁石13が発生する磁界は広がらない。その結果、図6の例の場合に比べ、ドラム4が回転することによりドラム4に発生する渦電流(誘導電流)が小さくなるので、ドラム4の回転を妨げる力(制動力)が小さくなる。一方、図7の例の場合に比べ、ドラム4に渦電流(誘導電流)が発生する分、ドラム4の回転を妨げる力(制動力)が発生する。
【0040】
ドラム4の回転を妨げる力(制動力)が最も大きくなる図6に示す状態が、HIGHの状態となり、HIGHの状態に比べ弱い制動力が発生する図8に示す状態が、LOWの状態であり、制動力が発生しない図7に示す状態がOFFの状態となる。
【0041】
上述したように、リターダ2のHIGH、LOWおよびOFFの3つの状態は、リターダ操作部9の操作および制御部7の制御によって切り換えられる。
【0042】
リターダ操作部9によるリターダ2の切り換えについて説明する。リターダ操作部9によるリターダ2の切り換えは、操作者が車両に備えられているリターダ操作部9を手動でHIGH、LOWおよびOFFのうちのいずれかに切り換えることによりなされる。ここで、操作者によりリターダ操作部9の切り換えがなされると、その信号が制御部7に送信され、制御部7がリターダ操作部9から受信した信号に基づいて、第1の電磁弁16および第2の電磁弁17を開閉させる。第1の電磁弁16もしくは第2の電磁弁17の開閉により、第1のシリンダ14および第2のシリンダ15に空気が供給され、この空気の供給に基づいてロッド14b,15bがシリンダ内部から押し出される、またはシリンダ内部に引き込まれる。さらに、このロッド14b,15bの移動に伴って、回転ヨーク体10が周方向に移動し、リターダ2の切り換えがなされる。
【0043】
具体的には、たとえば、図9に示すように、リターダがOFFの状態であるとき、電磁弁16は開状態であり、電磁弁17は閉状態である。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。エアタンク18内の空気圧は、大気圧に比べると高い圧力になっている。よって、この状態を、図10に示すように、「エア有り」の状態と称することにする。一方、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は、大気から電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路により大気圧とほぼ同じ空気圧になる。この状態を、図10に示すように、「エア無し」の状態と称することにする。このように、シリンダ14,15の内部空間B1,B2が「エア有り」の状態であるため、ピストン14e,15eがロッド14e,15eをシリンダ内部に引き込む方向に力を加えられており、図2で示す回転ヨーク体10は、最も反時計周りに移動された位置になる。
【0044】
ここで、操作者がリターダ操作部9をLOWに設定すると、制御部7はリターダ操作部9から信号を受信し、図9に示すように、電磁弁16,17を共に開状態に動作させる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路、およびエアタンク18から三方弁20、電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。これにより、シリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2の空気圧は互いに均衡を保った状態になり、図10に示すように、全て「エア有り」の状態になる。これにより、OFF状態では「エア無し」であった内部空間A1,A2にエアタンク18から空気が供給されると共に、OFF状態でも「エア有り」であった内部空間B1,B2からは内部空間A1,A2に供給された分とほぼ同じ量の空気が追い出され、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動し、リターダ2は図7に示すOFFの状態から図8に示すLOWの状態となる。
【0045】
続いて、操作者がリターダ操作部9をHIGHに設定すると、図9に示すように、電磁弁16は閉状態であり、電磁弁17は開状態になる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間A1,A2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。一方、シリンダ14,15の内部空間B1,B2は、大気から電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路により大気圧とほぼ同じ空気圧になる。このようにして、図10に示すように、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は、「エア有り」の状態になり、シリンダ14,15の内部空間B1,B2は「エア無し」の状態になる。これによれば、LOW状態でも「エア有り」であった内部空間A1,A2にエアタンク18からさらに空気が供給されると共に、LOW状態では「エア有り」であった内部空間B1,B2から空気が追い出され、図2で示す回転ヨーク体10は、最も時計周りに移動された位置になる。その結果、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動し、リターダ2は図6に示すHIGHの状態となる。
【0046】
これに対し、たとえば、リターダ2がHIGHの状態において、操作者がリターダ操作部9をLOWに設定すると、制御部7はリターダ操作部9から信号を受信し、図9に示すように、電磁弁16,17を共に開状態に動作させる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路、およびエアタンク18から三方弁20、電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。これにより、シリンダ14,15の内部空間A1,A2,B1,B2の空気圧は互いに均衡を保ち、図10に示すように、全て「エア有り」の状態になる。これにより、HIGH状態では「エア無し」であった内部空間B1,B2にエアタンク18から空気が供給されると共に、HIGH状態でも「エア有り」であった内部空間A1,A2からは内部空間B1,B2に供給された分とほぼ同じ量の空気が追い出され、回転ヨーク体10が反時計回り方向に移動し、リターダ2は図6に示すHIGHの状態から図8に示すLOWの状態となる。
【0047】
さらに、リターダ2がLOWの状態において操作者がリターダ操作部をOFFに設定すると、図9に示すように、電磁弁16は開状態であり、電磁弁17は閉状態になる。これにより、エアタンク18から三方弁20、電磁弁16、弁22、および接続部15dを経由する空気の流路によりシリンダ14,15の内部空間B1,B2は、エアタンク18内とほぼ同じ空気圧になる。一方、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は、大気から電磁弁17、弁21、および接続部15cを経由する空気の流路により大気圧とほぼ同じ空気圧になる。これにより、図10に示すように、シリンダ14,15の内部空間A1,A2は「エア無し」の状態になり、シリンダ14,15の内部空間B1,B2は「エア有り」の状態になる。これによれば、LOW状態でも「エア有り」であった内部空間B1,B2にエアタンク18からさらに空気が供給されると共に、LOW状態では「エア有り」であった内部空間A1,A2から空気が追い出され、図2で示す回転ヨーク体10は、最も反時計周りに移動された位置になる。これにより、リターダ2は図7に示すOFFの状態となる。
【0048】
次に、制御部7におけるリターダ2の切り換え制御について説明する。
【0049】
制御部7におけるリターダ2の切り換え制御は、温度センサ5によって検出されるドラム4の温度情報、回転速度検出手段6によって検出されるドラム4の回転速度情報、車両質量推定装置30によって推定された車両質量推定情報、および同じく車両質量推定装置30によって計算された車両の加速度情報、および情報収集部70が収集するその他の各種情報(車速、ギアレシオ、制動トルク、気圧、デフレシオ、タイヤ径、抵抗係数、前面投影面積)に基づいて行われる。
【0050】
情報収集部70が車両の情報収集対象となる各部から必要な各種情報をCAN通信などにより収集して補助ブレーキ力計算部71に入力すると、補助ブレーキ力計算部71は、以下に説明する方法により、車両の補助ブレーキ力および走行抵抗を計算する。以下に、計算式の一例を示す。なお、走行抵抗の計算式は、「空気抵抗の計算式」として一般的に良く知られている計算式(0.5×空気の密度×車速2×前面投影面積)に抵抗係数の乗算の項を加えた計算式(抵抗係数×0.5×空気の密度×車速2×前面投影面積)の解を、車両50の車両質量で除算したものである。すなわち空気抵抗に抵抗係数を乗じることにより、車両50の空気抵抗に加えて車両50が走行する際に路面との間に生じる摩擦抵抗なども加味して走行抵抗を計算することができる。なお、抵抗係数は、車両50のテスト走行時などに収集したデータから適宜設定することができる。
【0051】
リターダ2の減速度=
(リターダ2の制動トルク×デフレシオ)/(車両質量×タイヤ半径)
エンジンブレーキの減速度=
(エンジンブレーキの制動トルク×デフレシオ×ギアレシオ)/(車両質量×タイヤ半径)
走行抵抗=
(抵抗係数×0.5×空気の密度×車速2×前面投影面積)/車両質量
【0052】
これにより減速度計算部72は、車両の減速度として、走行抵抗による減速度とリターダ2による減速度とエンジンブレーキによる減速度とを加算した値を計算する。
【0053】
勾配保持性能判定部73は、減速度計算部72が計算した車両50の減速度と車両質量推定装置30が推定した車両50の加速度の比較結果により車両50の勾配保持性能を判定する。具体的には、車両50の減速度が加速度よりも大きければ、車両50は補助ブレーキ力のみにより下り勾配で減速可能であると判定される。反対に、車両50の減速度が加速度よりも小さければ、車両50はサービスブレーキと補助ブレーキとを併用しなければ下り勾配で減速不可能であると判定される。
【0054】
切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73の判定結果に従って切換温度閾値を決定する。なお、切換温度閾値とは、リターダ2の能力(HIGH、LOW、OFF)を、切り換えるための閾値である。たとえばリターダ2がHIGHで動作中に、リターダ2の温度が上昇し、切換温度閾値に達すると、LOWに切り換えられる(ただし、リターダ操作部9の設定はHIGHのままである)。また、リターダ2がLOWで動作中に、リターダ2の温度が上昇し、切換温度閾値に達すると、OFFに切り換えられる(ただし、リターダ操作部9の設定はLOWのままである)。反対に、たとえばリターダ2がOFFであるとき(ただし、リターダ操作部9の設定はLOWになっている)、リターダ2の温度が下降し、切換温度閾値に達すると、LOWに切り換えられる。また、リターダ2がLOWで動作中に(ただし、リターダ操作部9の設定はHIGHになっている)、リターダ2の温度が下降し、切換温度閾値に達すると、HIGHに切換えられる。
【0055】
ここで図11のフローチャートを参照して切換温度閾値決定部74の動作を説明する。切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73からの判定結果を受け取ると処理を開始(START)する。
【0056】
ステップS1において、切換温度閾値決定部74は、勾配保持性能判定部73の判定結果が補助ブレーキ力のみで減速可能か否かを判定する。ステップS1において、補助ブレーキ力のみで減速可能と判定されると手続きはステップS2に進む。一方、ステップS1において、補助ブレーキ力のみでは減速不可能と判定されると手続きはステップS3に進む。
【0057】
ステップS2において、切換温度閾値決定部74は、後述する一定閾値を選択することを決定して処理を終了する。
【0058】
ステップS3において、切換温度閾値決定部74は、後述する可変閾値を選択することを決定して処理を終了する。
【0059】
このようにして制御部7には、切換温度閾値が設定される。これにより、検出されたドラム4の温度が、検出されたドラム4の回転速度に対して設定される所定の温度(閾値)を超えると、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える。すなわち、温度センサ5によって検出されたドラム4の温度が回転速度検出手段6によって検出されたドラム4の回転速度に対応する所定の閾値を超えた場合に、このドラム4に発生する制動力を1段下げるような切り換えがなされる。
【0060】
図12は、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラム温度の可変閾値(L1:S3で設定される可変閾値)、ドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、およびドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3:S2で設定される一定閾値)を示す図である。
【0061】
勾配保持性能判定部73が補助ブレーキ力のみで車両50を減速不可能であると判定した場合、路面の下り勾配は急であり、補助ブレーキ力のみでは、運転者がサービスブレーキを踏まない限り、車両50は加速を続ける状態である。したがって、リターダ2は、下り勾配を脱するまでの区間で長時間にわたり使われ続けられる可能性が大きく、リターダ2の制動力は、長い時間にわたって持続することが要求される。この場合、切換温度閾値決定部74は、従来の一定閾値(L2)と比較してリターダ2の制動力を長い時間持続させることができる可変閾値(L1)を選択する。
【0062】
すなわちドラム温度の可変閾値(L1)は、ドラム4の回転速度に応じたものとなっている。図12の例では、ドラム4の回転速度が比較的低速の範囲では、閾値は高い温度に設定され、さらに、ドラム4の回転速度が大きくなるにつれて閾値が減少するように設定されている。たとえばドラム4の回転速度が比較的高速の範囲では、閾値は低い温度に設定されている。ドラム4の回転速度が大きいときには急激にドラム4の温度が上昇するため、切り換えがなされた後にも温度が上昇し続ける。このため、ドラム4の回転速度が大きい範囲ではドラム4が高温になるのを防止するために、比較的低い温度に設定されている。
【0063】
たとえば、リターダ2の状態がHIGHの状態になっている場合において、ドラム4の回転速度が比較的低速のときの閾値は高い温度となる。すなわちドラム4の回転速度が比較的低速の場合において、ドラム4の温度が閾値である高い温度に達したとき、制御部7の制御により、リターダ2の状態をHIGHからLOWに切り換えさせる。
【0064】
これらの制御は、温度センサ5および回転速度検出手段6からそれぞれの検出値を受信した制御部7が、受信したドラム4の温度およびドラム4の回転速度の検出値と、図10に示すドラム4の回転速度に対する温度の閾値とを比較することによりなされる。具体的には、制御部7が、温度センサ5から受信した検出値と、回転速度検出手段6により検出されたドラム4の回転速度に対応する閾値とを比較した結果、検出された温度が検出されたドラム4の回転速度に対応する閾値を超えている場合に、制御部7からリターダ2(電磁弁16,17)に向かって、リターダ2に発生する制動力を1段下げるように切り換える制御信号が送信される。すなわち、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換えるような制御信号が送信される。具体的には、制御部7から電磁弁16,17に対し、図9に示すように、電磁弁16,17を開状態または閉状態とする制御信号が送信される。これにより、リターダ2に発生する制動力が1段下がるような切り換えが行われる。
【0065】
なお、リターダ2がLOWからOFFに切り換えられるように制御されると、制動力はいったん途切れる。しかしながら、たとえばドラム4の回転速度が高い領域では、従来の一定閾値(L2)と比較して低いドラム4の温度でLOWからOFFに切り換えられるため、ドラム4は短時間で冷却され、リターダ2は再びOFFからLOWに切り換えられるように制御される。特に、ドラム4の周囲には不図示の冷却フィンが多数配設されており、ドラム4の冷却を促進させているが、ドラム4が高速で回転することによって、冷却フィンによる冷却効率は高くなる。これに加えて、リターダ2がいったんOFFに制御されると、これにより車両50の全体の制動力は小さくなり車速が上がるので、ドラム4は、さらに高速で回転し、ドラム4は効率良く冷却されることになる。これによりいったん途切れた制動力は短時間で復活するので、実質的に、リターダ2の補助ブレーキ力は、長い時間にわたって持続することと同じになる。すなわち、ここでいう「リターダ2の補助ブレーキ力が持続する」状態とは、リターダ2の制動力が弱まったり強まったり、あるいはいったん途切れたりしながらも所定の期間(たとえば数十秒間〜数分間)で制動力を平均化した場合、制動力が持続している状態である。
【0066】
以上のように構成された制御装置1では、リターダ2を切り換えるドラム4の温度(閾値)をドラム4の回転速度に対して可変にするようにしたので、各走行条件に対してリターダ2を適切に制御することが可能となる。
【0067】
ドラム4の回転速度が低速の場合には、ドラム4の温度の上昇速度が遅いので、閾値を、その上昇速度を考慮して高い温度に設定し、ドラム4の温度がその閾値に達したときにリターダ2の状態をLOWもしくはOFFに下げるようにしても、ドラム4が限界温度に達しない。そこで、図12に示す閾値(L1)のように、ドラム4の回転速度が比較的低速の場合には、閾値を高い温度に設定することにより、安全に、かつ、強い制動力を長い時間かけることができる。その結果、リターダ2の減速性能を向上させることができる。
【0068】
図13は、図12に示す可変閾値(L1)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L11)と、従来の一定閾値(L2)を利用した場合の制動開始からの車両の減速度の推移(L12)を示す図である。
【0069】
ドラム4の回転速度が低速の場合、ドラム4の温度が閾値に達した時点で、リターダ4の状態をLOWもしくはOFFに下げても限界温度に達しないのに対し、従来の一定閾値(L2)を利用した場合、比較的低い温度に達した時点でLOWもしくはOFFの状態に切り換えられる。すなわち図13に示すように、従来の一定閾値(L2)を利用した場合、可変閾値(L1)を利用した場合に比べ、リターダ2の減速性能が劣る。図13の例では、減速推移(L12)において、制動が開始されてから比較的短時間経過した後に、リターダ4の状態がLOWもしくはOFFに切り換えられている。一方、減速推移(L11)においては、制動が開始されてから比較的長時間経過するまで、リターダ4の状態がHIGHもしくはLOWに保持されている。
【0070】
ドラム4の回転速度が比較的高速の場合には、ドラム4の温度の上昇速度が早いので、閾値を、その上昇速度を考慮して低い温度に設定することによりドラム4が限界温度に達することを防止することができる。そこで、図12に示す可変閾値(L1)のように、ドラム4の回転速度が比較的高速の場合には、閾値を低い温度に設定することにより、ドラム4が高温になるのを防止できる。その結果、リターダ2の制動力を長く持続させることが可能となる。
【0071】
一方、勾配保持性能判定部73が補助ブレーキ力のみで車両50を減速可能であると判定した場合、路面の下り勾配は緩く、あるいは平坦路であり、補助ブレーキ力のみで車両50は減速する状態である。したがって、リターダ2は、減速のために、ごく短時間ずつ複数回にわたって使用される可能性が大きく、リターダ2の制動力を長い時間にわたって持続させる必要はない。その代わりに、サービスブレーキを使用しなくてもリターダ2を動作させることによって車両50を充分減速させられるように、リターダ2は、ドラム4の回転速度の広い範囲にわたり強い制動力を発生することが要求される。この場合、切換温度閾値決定部74は、従来の一定閾値(L2)と比較してリターダ2の制動力をドラム4の回転速度が高い状況下でもドラム4の温度が高くなるまで長い時間発生させることができる一定閾値(L3)を選択する。図12の例では、一定閾値(L3)は、可変閾値(L1)の最大値に設定されている。なお、一定閾値(L3)は、図12の例に限定されることなく様々に設定可能である。
【0072】
なお、実際の車両50の走行においては、路面の状況(平坦路、下り勾配、上り勾配など)および運転者による補助ブレーキ(リターダ2、エンジンブレーキ)の操作状況(リターダ2のHIGH、LOW、OFF、エンジンブレーキのギア段など)は、時々刻々変化する。したがって、図12に示した閾値(L1、L3)についても時々刻々設定が変更されながら運用されることになる。
【0073】
(効果について)
従来の一定閾値(L2)を利用した場合、回転速度が比較的高速のとき、ドラム4がより高温になるので、制動力が減少したり、リターダ2が損傷しやすくなる。これに対し、可変閾値(L1)を利用すれば、ドラム4の回転速度が比較的低速の場合に、制動時間を長く確保することにより、効果的に制動エネルギを熱エネルギに変換することが可能となる。このため、リターダ2からの吸収エネルギの向上を図ることが可能となる。また、ドラム4の回転速度が比較的高速の場合には、ドラム4が高温になるのを防止できる。その結果、リターダ2の制動力を長く持続させることが可能となる。また、リターダ2の寿命を延ばし、ひいてはサービスブレーキの消耗を軽減させることができる。
【0074】
また、可変閾値(L1)は、切り換え温度が一定値である従来の一定閾値(L2)の場合のように、車種等の仕様毎に切り換え温度を設定する必要がなく、ECUの共通化を図ることができ、その結果、ECUの設定品番を削減することが可能となる。
【0075】
また、従来の一定閾値(L2)を利用した場合、回転速度が比較的高速のとき、リターダ2は、ドラム4の温度がさほど高くなくても制動力を低減させられてしまう。これにより、リターダ2は、運転者が要求する制動力を満足させられない場合がある。これに対し、一定閾値(L3)を利用すれば、リターダ2は、ドラム4の温度が高くなっても大きな制動力を発生させられる。これにより、リターダ2は、運転者が要求する制動力を満足させることができる。また、このようにリターダ2のドラム4が高温になるまで使用しても良い走行条件か否かを制御部7が車両50の加速度と減速度とを比較して適切に判定しているのでリターダ2を損傷するようなことはない。また、これにより、リターダ2の寿命を延ばし、ひいてはサービスブレーキの消耗を軽減させることができる。
【0076】
また、制御装置1では、一定閾値(L3)は、全ての車種に対して同じ閾値としても、制御部7が車両50の加速度と減速度とを比較して必要に応じて可変閾値(L1)に閾値を切り換えるように制御する。このため、従来の一定閾値(L2)の場合のように、車種等の仕様毎に切り換え温度を設定する必要がなくなる。したがって、ECUの共通化を図ることができ、その結果、ECUの設定品番を削減することが可能となる。
【0077】
(第二の実施の形態)
本発明の第二の実施の形態の制御装置1Aについて説明する。制御装置1Aの構成は、図3に示す第一の実施の形態の制御装置1の構成と共通であるが、区別のために勾配保持性能判定部73A、切換温度閾値決定部74Aとして説明する。
【0078】
制御装置1Aは、勾配保持性能判定部73の判定種別をさらに細分化した勾配保持性能判定部73Aを設け、切換温度閾値決定部74Aが決定する温度閾値を複数設ける。図14は、勾配保持性能判定部73Aの判定種別を3とおりとした例を示している。図14の例では、判定種別♯1で「補助ブレーキ力+αで減速可能」、判定種別♯2で「補助ブレーキ力+β(<α)で減速可能」、判定種別♯3で「補助ブレーキ力のみで減速可能」という3種類の判定種別を有する。これらの判定種別♯1、♯2、♯3に対応してそれぞれ温度閾値L1,L4,L3が設定されている。なお、α、βは、補助ブレーキ力以外のサービスブレーキによる制動力であり、αは、βよりも大きな制動力である。
【0079】
すなわち補助ブレーキ力と強いサービスブレーキ力とを併用しなければ車両を減速させられない勾配保持性能を判定種別♯1とし、補助ブレーキ力と若干のサービスブレーキ力とを併用するだけで車両を減速させられる勾配保持性能を判定種別♯2とし、補助ブレーキ力のみで車両を減速させられる勾配保持性能を判定種別♯3とする。
【0080】
図15は、切換温度閾値決定部74Aの動作を示すフローチャートである。切換温度閾値決定部74Aは、勾配保持性能判定部73Aの判定結果に従って切換温度閾値を決定する。切換温度閾値決定部74Aは、勾配保持性能判定部73Aからの判定結果を受け取ると処理を開始(START)する。
【0081】
ステップS10において、切換温度閾値決定部74Aは、勾配保持性能判定部73Aの判定結果がいずれの判定種別♯1、♯2、♯3であるかを判定する。ステップS10において、判定種別♯1と判定されると手続きはステップS11に進む。ステップS10において、判定種別♯2と判定されると手続きはステップS12に進む。ステップS10において、判定種別♯3と判定されると手続きはステップS13に進む。
【0082】
ステップS11において、切換温度閾値決定部74Aは、第1の可変閾値(L1)を選択することを決定して処理を終了する。
【0083】
ステップS12において、切換温度閾値決定部74Aは、第2の可変閾値(L4)を選択することを決定して処理を終了する。
【0084】
ステップS13において、切換温度閾値決定部74Aは、一定閾値(L3)を選択することを決定して処理を終了する。
【0085】
図16は、リターダ2をHIGHからLOWもしくはLOWからOFFに切り換える際に用いられるドラム4の温度の第1の可変閾値(L1:ステップS11で設定される可変閾値)、ドラム4の温度の第2の可変閾値(L4:ステップS12で設定される可変閾値)、ドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する従来の一定閾値(L2)、およびドラム4の回転速度に関係なく一定の値を有する一定閾値(L3:ステップS13で設定される一定閾値)を示す図である。
【0086】
図16の第1の可変閾値(L1)は、図12の可変閾値(L1)と同じである。第2の可変閾値(L4)は、第1の可変閾値(L1)と比較してドラム4の回転速度が大きな領域における温度閾値が高く設定されている。この第2の可変閾値(L4)によれば、第1の可変閾値(L1)を用いた場合よりもリターダ2の動作の持続時間は短くなるが、ドラム4の高い回転速度の領域において第1の可変閾値(L1)よりもドラム4の温度が高くなるまでリターダ2が使用可能になる。これにより、第1の可変閾値(L1)よりも長い時間、ドラム4の高い回転速度の領域で強い制動力を発生させることができる。なお、可変閾値(L4)は、図14の例に限定されることなく様々に設定可能である。
【0087】
(効果について)
このように、複数の可変閾値(L1、L4)を設定することにより、さらに木目細かく車両50の勾配保持性能の複数の段階に応じてリターダ2を適切に利用できる状況を拡張することができる。また、これにより、リターダ2の寿命を延ばし、ひいてはサービスブレーキの消耗を軽減させることができる。
【0088】
また、可変閾値(L1、L4)は、切り換え温度が一定値である従来の一定閾値(L2)の場合のように、車種等の仕様毎に切り換え温度を設定する必要がなく、ECUの共通化を図ることができ、その結果、ECUの設定品番を削減することが可能となる。
【0089】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0090】
上述の実施の形態では、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段上がるような切り換えが行われ、回転ヨーク体10が反時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段下がるような切り換えが行われるように構成されているが、このような構成に限定されるものではなく、たとえば、回転ヨーク体10が反時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段上がるように切り換わり、回転ヨーク体10が時計回り方向に移動したときにリターダ2の制動力が1段下がるように切り換わるような構成としてもよい。また、回転ヨーク体10を時計回り方向に移動させることで、HIGH、LOWおよびOFFの3つ状態の間で切り換えを行うようにしてもよい。
【0091】
また、上述の実施の形態では、回転速度に対するリターダ2の切り換え温度(閾値)は図12または図16に示すような形態とされているが、閾値の形態はこれに限定されるものではなく、異なる形態としてもよい。
【0092】
また、上述の実施の形態では、電磁弁16,17は、共にシリンダ14,15に向かって空気を圧送のみする構成とされているが、電磁弁16,17が、シリンダ14,15に空気を圧送するとともに、シリンダ14,15から空気を吸引し、この空気をエアタンク18に戻すような構成としてもよい。
【0093】
また、制御装置1では、制御部7の処理はハードウェアによって実行されているが、制御部7の処理をソフトウェアによって実行するようにしてもよい。具体的には、制御部7をコンピュータ装置(請求項でいう情報処理装置)によって構成し、リターダ2の制御をこのコンピュータ装置に所定のプログラムを実行させることにより行う構成とすることが挙げられる。すなわち、このコンピュータ装置が所定のプログラムを実行すると、このコンピュータ装置に、情報収集部70、補助ブレーキ力計算部71、減速度計算部72、勾配保持性能判定部73、および切換温度閾値決定部74に相当する機能が実現される。
【0094】
また、可変閾値(L1,L4)は、HIGHからLOWおよびLOWからOFFの双方の切り換えに利用されているが、可変閾値(L1,L4)をHIGHからLOWおよびLOWからOFFの内の一方の切り換えにのみ利用し、残りの他方の切り換えに関して別の閾値を利用するようにしてもよい。
【0095】
また、設定をHIGH、LOW、OFF3段階に限定せず、さらに多数の段階(OFF、レベル1、レベル2、…、レベルnなど)を設けてもよい。反対に、ON、OFFだけの2段階としてもよい。
【0096】
また、リターダ設定部9の設定はHIGHのままで、能力がHIGHからLOWさらにOFFへと切換えられるようにしてもよい。たとえばリターダ設定部9の設定がHIGHであるときに、ドラム4の温度が切換温度閾値に達するとLOWに切り換えられるが、比較的短い時間内に頻繁にHIGHとLOWとの間の切換が繰り返されるような場合には、リターダ設定部9の設定はHIGHのままであっても、自動的に、LOWとOFFとの間で切り換えが行われるように制御してもよい。
【0097】
また、上述の実施の形態では、リターダ2として永久磁石式のリターダが採用されているが、リターダ2として電磁式リターダもしくは流体式リターダ等、他の駆動形式のリターダを採用してもよい。
【0098】
また、下り勾配の程度や距離、または車速などの情報については、車両50に搭載されているカーナビゲーション装置の地図情報、または移動情報から制御装置1が取得するようにしてもよい。
【0099】
また、空気の密度の情報については、気圧センサが検出した気圧情報から換算すると説明したが、その日の天気の情報(晴天、曇天、雨天、台風などの情報)を運転者が制御装置1に入力するなどして大まかな気圧情報を取得するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…制御装置、2…リターダ、3…エネルギ変換手段、4…ドラム(放熱手段)、5…温度センサ(温度検出手段)、6…回転速度検出手段、7…制御部(制御手段)、30…車両質量推定装置(加速度計算手段)、71…補助ブレーキ力計算部(減速度計算手段の一部)、72…減速度計算部(減速度計算手段)、73…勾配保持性能判定部(制御手段の一部)、74…切換温度閾値決定部(制御手段の一部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、
前記放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、
前記放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、前記電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、
を有するリターダの制御装置において、
前記制御手段は、
自車両の加速度を計算する加速度計算手段と、
前記リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算手段と、
を有し、
前記減速度計算手段が計算した減速度が前記加速度計算手段が計算した加速度よりも小さいときには、前記所定の閾値を、前記放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定し、
前記減速度計算手段が計算した減速度が前記加速度計算手段が計算した加速度よりも大きいときには、前記所定の閾値を、一定値に設定し、
前記温度検出手段によって検出された前記放熱手段の温度が、前記回転速度検出手段によって検出された前記放熱手段の回転速度に対応する前記所定の閾値を超える温度であるときに、前記電気エネルギの発生を低減させる制御を行う、
ことを特徴とするリターダの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のリターダの制御装置であって、
前記一定値は、前記所定の閾値が可変に設定されたときの最大値に相当する値である、
ことを特徴とするリターダの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のリターダの制御装置を有することを特徴とする車両。
【請求項4】
回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、
前記放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、
前記放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、前記電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、
を有するリターダの制御装置のリターダ制御方法において、
前記制御手段の処理として、
自車両の加速度を計算する加速度計算ステップと、
前記リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算ステップと、
前記減速度計算ステップで計算した減速度が前記加速度計算ステップで計算した加速度よりも小さいときには、前記所定の閾値を、前記放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定するステップと、
前記減速度計算ステップで計算した減速度が前記加速度計算ステップで計算した加速度よりも大きいときには、前記所定の閾値を、一定値に設定するステップと、
前記温度検出手段によって検出された前記放熱手段の温度が、前記回転速度検出手段によって検出された前記放熱手段の回転速度に対応する前記所定の閾値を超える温度であるときに、前記電気エネルギの発生を低減させる制御を行うステップと、
を有する、
ことを特徴とするリターダの制御方法。
【請求項5】
情報処理装置に、請求項1または2記載のリターダの制御装置の機能を実現させることを特徴とするプログラム。
【請求項1】
回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、
前記放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、
前記放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、前記電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、
を有するリターダの制御装置において、
前記制御手段は、
自車両の加速度を計算する加速度計算手段と、
前記リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算手段と、
を有し、
前記減速度計算手段が計算した減速度が前記加速度計算手段が計算した加速度よりも小さいときには、前記所定の閾値を、前記放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定し、
前記減速度計算手段が計算した減速度が前記加速度計算手段が計算した加速度よりも大きいときには、前記所定の閾値を、一定値に設定し、
前記温度検出手段によって検出された前記放熱手段の温度が、前記回転速度検出手段によって検出された前記放熱手段の回転速度に対応する前記所定の閾値を超える温度であるときに、前記電気エネルギの発生を低減させる制御を行う、
ことを特徴とするリターダの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のリターダの制御装置であって、
前記一定値は、前記所定の閾値が可変に設定されたときの最大値に相当する値である、
ことを特徴とするリターダの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のリターダの制御装置を有することを特徴とする車両。
【請求項4】
回転エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換手段と、この電気エネルギを熱エネルギに変換して放熱する放熱手段と、を有するリターダを備える車両に搭載され、
前記放熱手段の温度を検出する温度検出手段と、
前記放熱手段の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度が所定の閾値を超える温度を示すときに、前記電気エネルギの発生を低減させるように制御する制御手段と、
を有するリターダの制御装置のリターダ制御方法において、
前記制御手段の処理として、
自車両の加速度を計算する加速度計算ステップと、
前記リターダの動作中に生じる自車両の減速度を計算する減速度計算ステップと、
前記減速度計算ステップで計算した減速度が前記加速度計算ステップで計算した加速度よりも小さいときには、前記所定の閾値を、前記放熱手段の回転速度の変化に対応させて可変的に設定するステップと、
前記減速度計算ステップで計算した減速度が前記加速度計算ステップで計算した加速度よりも大きいときには、前記所定の閾値を、一定値に設定するステップと、
前記温度検出手段によって検出された前記放熱手段の温度が、前記回転速度検出手段によって検出された前記放熱手段の回転速度に対応する前記所定の閾値を超える温度であるときに、前記電気エネルギの発生を低減させる制御を行うステップと、
を有する、
ことを特徴とするリターダの制御方法。
【請求項5】
情報処理装置に、請求項1または2記載のリターダの制御装置の機能を実現させることを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−106661(P2012−106661A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257753(P2010−257753)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】
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