説明

リンプホーム制御装置

【課題】DPFが過堆積したときに内燃機関のPM排出量を抑制して過堆積の進行による弊害を未然に防止できると共に、ドライバビリティの悪化を最小限に抑制できるリンプホーム制御装置を提供する。
【解決手段】DPFの過堆積が判定されたときにPMを焼却除去する強制再生を禁止した上で、PM増加領域(ハッチングで囲んだ領域)を避けるべくエンジン運転領域(破線で囲んだ領域)の目標平均有効圧Peに関する上限を低域側に制限すると共にエンジン回転速度Neに関する上限を高域側まで拡大したリンプホームモード用の制御マップに切換え、これによりエンジンの燃料噴射量を低下させてPM排出量を抑制し、CVTの変速比Rの増大と共にエンジン回転速度を高めて要求駆動力を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関から排出されるパティキュレートマターを捕集するフィルタが過堆積したときにリンプホームモードを実行するリンプホーム制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジンなどのようにリーン空燃比下で燃焼を行う内燃機関では排ガス中にHC、CO、NOx以外にパティキュレートマター(以下、PMと称する)が多く含まれており、このパティキュレートを処理するための後処理装置として、排ガス中のPMをディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと称する)に捕集して焼却除去する排気浄化装置が実用化されている。PMの焼却除去はDPF温度が所定値以上であれば通常の運転中でも自ずと行われるが、この条件が満たされない運転状態が継続すると、DPFでのPM捕集量が許容量を越えて過堆積に陥ってしまう。そこで、過堆積に至る以前にDPFを積極的に昇温することによりPMを焼却除去してDPFの再生を図る強制再生が実施されており、例えばメイン噴射後の膨張行程でポスト噴射により供給した未燃燃料をDPF上で燃焼させたり、或いはヒータにより直接的にDPFを昇温したりしてPMを焼却除去する処理が強制再生として行われている。
【0003】
適切な強制再生の実行によりDPFの過堆積は未然に防止されるが、例えばポスト噴射を実行しても十分な昇温作用が得られない運転状態が継続された場合、或いはオルタネータの故障などでバッテリ充電量が不足してヒータによるDPF昇温作用が不十分な場合などには、DPFの過堆積が発生してしまう。このような状況では、その後に強制再生可能な条件が成立したとしても過堆積したPMの急激な燃焼によりDPFが焼損する虞があるため強制再生を実行できず、その対策として、運転者への警告によりディーラでの適切なメンテナンスなどを促すと共に、内燃機関や変速機などの制御モードを最低限の走行機能を確保したリンプホームモードに切換える処置が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載された技術では、DPFの過堆積が判定されたときにリンプホームモードとしてディーゼルエンジンの回転速度を所定値以下に規制し、これによりPM排出量を抑制してDPFの過堆積がそれ以上進行するのを防止しており、回転規制に伴う車速制限は運転者への異常の報知機能も兼ねている。
【特許文献1】特開平10−246108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたリンプホーム制御装置のリンプホームモードでは、DPFの過堆積の進行を抑制できない上に、ドライバビリティを悪化させるという問題が発生する。
即ち、内燃機関のPM排出量は機関回転速度のみに依存する性質のものではなく、燃料噴射量(即ち、機関トルク)や燃料噴射量の増加率などにも依存する。例えば燃料噴射量が多い運転領域、或いは燃料噴射量が少なくてもアクセル踏込みにより急増したときには、PM排出量も増加する特性を有する。よって、特許文献1の技術によるリンプホームモードでは内燃機関のPM排出量を十分に抑制できず、過堆積の進行によりDPFの排気抵抗が極端に増大して走行不能に陥ったり、或いはディーラで保守作業として十分な配慮の下で強制再生を行ってもPMの急激な燃焼を抑制できずにDPFを焼損させてしまったりする問題がある。
【0006】
また、エンジン回転規制に伴う車速制限はドライバビリティの悪化に直結し、たとえリンプホームモードであっても極端なドライバビリティの悪化は円滑な退避走行を妨げることになり、好ましい対処とは言い難い。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、DPFが過堆積したときに内燃機関のPM排出量を抑制して過堆積の進行による弊害を未然に防止できると共に、ドライバビリティの悪化を最小限に抑制することができるリンプホーム制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、内燃機関の燃料噴射量を制御する噴射量制御手段と、内燃機関に接続された無段変速機の変速比を制御する変速制御手段と、内燃機関の排気通路に設けられて内燃機関から排出されるパティキュレートマターを捕集するフィルタと、フィルタに捕集されたパティキュレートマターを焼却除去する強制再生手段と、フィルタへのパティキュレートマターの過堆積を判定する過堆積判定手段と、過堆積判定手段によりフィルタの過堆積が判定されたときに、強制再生手段にフィルタの強制再生を禁止させると共に、内燃機関からのパティキュレートマターの排出量が増加するPM増加領域を避けるべく噴射量制御手段に燃料噴射量を制限させ、且つ変速制御手段に変速比を増大方向に制御させるリンプホーム制御手段とを備えたものである。
【0008】
従って、噴射量制御手段により内燃機関の燃料噴射量が制御されると共に、変速制御手段により無段変速機の変速比が制御され、変速比の制御状態に応じて内燃機関の回転速度が変化する。また、通常運転時には内燃機関から排出されるパティキュレートマターがフィルタにより捕集され、捕集量がDPFの許容量を越えて過堆積に至る以前に強制再生手段によりフィルタのパティキュレートマターが焼却除去される。
【0009】
何らかの要因により強制再生が行われずにフィルタが過堆積に陥ったときには過堆積判定手段によりフィルタの過堆積が判定され、リンプホーム制御手段によりフィルタの強制再生が禁止された上で、噴射量制御手段による燃料噴射量が制限されると共に、変速制御手段による変速制御が変速比の増大方向、即ち機関回転速度の上昇方向に行われる。過堆積での強制再生の実行は、フィルタ上に堆積したパティキュレートマターの急速燃焼によりフィルタ焼損を引き起こす可能性があるが、強制再生の禁止によりこのような事態が未然に防止される。
【0010】
そして、一般にPM増加領域は燃料噴射量がある程度高い領域に存在し、燃料噴射量の増加に伴って機関の運転点がPM増加領域に侵入するとパティキュレートマターの排出量が増加するが、燃料噴射量の制限により内燃機関はPM増加領域より燃料噴射量の低域側で運転されるため、パティキュレートマターの排出量が抑制されてフィルタの過堆積の進行が緩和される。よって、過堆積の進行による弊害、例えばフィルタの排気抵抗の増大により走行不能に陥る事態、或いはディーラでの保守作業としての強制再生時にPMの急速燃焼によりDPFを焼損させる事態などが未然に防止される。また、燃料噴射量の制限により機関トルクが低下するが、変速比の増大方向への制御と共に機関回転速度が上昇して駆動輪の駆動力が確保される。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、噴射量制御手段が、過程推定手段によりフィルタの過堆積が判定されていないときに、予め内燃機関の燃料噴射量及び機関回転速度により所定の機関運転領域が設定された通常時マップから燃料噴射量を決定して噴射量制御を実行し、変速制御手段が、フィルタの過堆積が判定されていないときに通常時マップから決定した機関回転速度を達成すべく変速制御を実行し、リンプホーム制御手段が、フィルタの過堆積が判定されたときに通常時マップに代えて、PM増加領域を避けるべく燃料噴射量を低域側に制限し、且つ通常時マップより機関回転速度を高域側に拡大した運転領域が設定されたリンプホーム時マップに基づいて噴射量制御手段及び変速制御手段に制御を実行させるものである。
【0012】
従って、フィルタ過堆積が判定されていないときには、通常時マップに基づいて噴射量制御手段による噴射量制御及び変速制御手段による変速制御が行われる一方、フィルタの過堆積が判定されたときには、通常時マップに代えてリンプホーム時マップに基づいて噴射量制御手段及び変速制御手段による制御が行われる。当該リンプホーム時マップでは、燃料噴射量を低域側に制限して機関回転速度を高域側に拡大するように運転領域が設定されていることから、燃料噴射量の制限によりパティキュレートマターの排出量が抑制されると共に、機関回転速度の高域側への拡大に伴い無段変速機の変速比がより増大方向に制御されて駆動輪の駆動力が確保される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように請求項1,2の発明のリンプホーム制御装置によれば、DPFが過堆積したときに強制再生を禁止して強制再生の実行によるフィルタ破損を未然に防止し、且つ燃料噴射量の制限によりパティキュレートマターの排出量を抑制して過堆積の進行による弊害を未然に防止できると共に、変速比の増大方向への制御と共に機関回転速度を上昇させることで駆動輪の駆動力を確保してドライバビリティの悪化を最小限に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化したリンプホーム制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のリンプホーム制御装置を示す全体構成図である。車両にはディーゼルエンジン(内燃機関)1が搭載され、ディーゼルエンジン1にはベルト式無段変速機(以下、CVTと称する)2が接続されている。エンジン1の駆動力はCVT2の変速比に応じて変速された後に、プロペラシャフト3、ディファレンシャルギア4及びドライブシャフト5を介して左右の後輪6に伝達されて車両を走行させる。なお、本実施形態ではディーゼルエンジン1を、コモンレールに蓄圧した高圧燃料を各気筒の燃料噴射弁の開弁に応じて筒内に噴射するコモンレール式機関として構成し、CVT2をベルト式として構成しているが、これに限ることはなく任意に変更可能である。
【0015】
エンジン1の排気通路7にはDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)8が設けられている。例えばDPF8は、ハニカム担体の通路の上流側及び下流側を交互にプラグで閉鎖し、多孔質の壁を経て排ガスを流通させるウォールフロー式フィルタとして構成され、排ガス中に含まれるPMを捕集する機能を奏する。また、DPF8はヒータ9を内蔵した電気加熱式DPFとして構成され、後述する強制再生時にはヒータ9により直接的に加熱されて昇温する。
【0016】
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU(電子制御ユニット)11が設置されており、エンジン1やCVT2などの総合的な制御を行う。ECU11は車両に搭載されたバッテリ12から電力を供給されて作動し、ECU12の入力側には、排気通路7のDPF上流側の排圧を検出する上流側排圧センサ13、同じくDPF下流側の排圧を検出する下流側排圧センサ14などの各種センサ類が接続され、ECU12の出力側には上記DPF8のヒータ9、車両の運転席に設けられたDPF8の強制再生を報知する強制再生表示灯15、同じく運転席に設けられたDPF8の過堆積を報知する過堆積表示灯16などのデバイス類が接続されている。
【0017】
エンジン1の運転中において排ガスに含まれるPMはDPF8に捕集され、捕集されたPMは主にエンジン1の運転領域が高回転高負荷域でDPF温度が所定値以上のときに所謂連続再生の作用により連続的に除去される。また、連続再生が望めない運転領域が続いてPM捕集量が許容量を越えてしまう場合、ECU11は過堆積に至る以前に強制再生を実行してPMの焼却除去を図る。具体的には、バッテリ12からの電力によりヒータ9を通電してDPF8を昇温することで、DPF8上に堆積しているPMを焼却除去する。
【0018】
また、バッテリ12からの電力不足でヒータ9によるDPF8の昇温が望めないとき、例えばオルタネータの故障によるバッテリ充電量の不足、或いはバッテリ自体の劣化時などには、強制再生によるPMの焼却除去も行われないことからDPF8は過堆積に陥る。このような状況では、その後に強制再生可能な条件が成立したとしても過堆積したPMの急激な燃焼によりDPF8が焼損する虞があるため強制再生を実行できず、その対策として、運転者への警告によりディーラでの適切なメンテナンスなどを促すと共に、エンジン1のPM排出量の抑制を目的としてリンプホームモードへの切換を実行しており、以下、当該処理の詳細を説明する。
【0019】
まず、DPF8が過堆積したときの対応処理の説明に先立って、エンジン1の燃料噴射量Q及び回転速度NeとCVT2の変速比Rとの設定手順について述べる。
図2は通常制御モードにおけるPM増加領域とエンジン運転領域との関係を示す特性図であり、エンジン運転領域を破線で囲んで示し、エンジンのPM排出量(スモーク排出量とも相関する)が増加する領域をハッチングで囲んで示している。ECU11によるエンジン1側での燃料噴射量制御及びCVT側での変速制御では同図を制御マップ(通常時マップ)として利用し、エンジン1の燃料噴射量Q及びCVT2の変速比Rを決定している(噴射量制御手段、変速制御手段)。
【0020】
即ち、アクセル操作量Acc及び車速Vに基づいて運転者が要求する後輪6の駆動力を推測でき、この後輪6の駆動力を実現するためのエンジン出力を特定できる。図2のマップにおいて縦軸の目標平均有効圧Pe(機関トルクひいては燃料噴射量Qと相関する)と横軸のエンジン回転速度Neとの積がエンジン出力に相当する。求めたエンジン出力を達成可能な目標平均有効圧Peとエンジン回転速度Neとの組み合わせは無数に存在するが、予め破線で示すエンジン運転領域が設定されており、当該エンジン運転領域内でエンジン出力と対応する所定の燃料噴射量Q及びエンジン回転速度Neが決定される。ECU11はエンジン1側では決定された燃料噴射量Qに基づいて燃料噴射制御を実行する。また、エンジン回転速度NeはCVT2の変速比R及びその時点の車速Vによって自ずと定まるため、CVT2側では決定されたエンジン回転速度Neを達成可能な変速比Rを目標値として決定して変速制御を実行する。
【0021】
図2から明らかなように通常制御モードでは、ドライバビリティ重視の観点から騒音の高まる高回転域の多用を避けるべく、全体としてエンジン回転速度Neの上昇を抑制して目標平均有効圧Peと共に機関トルクを増加させることで要求される後輪駆動力を確保している。結果として目標平均有効圧Pe(機関トルク)に関するエンジン運転領域の上限はかなり高く、その高域側においてエンジン運転領域はPM増加領域と一部重複している。
【0022】
また、後述のようにDPF8の過堆積時にはリンプホームモードへの切換が行われるが、リンプホームモード時には図2の通常制御モード用のマップに代えて図3に示す特性が制御マップ(リンプホーム時マップ)として適用される。当該リンプホームモード用の制御マップではPM排出量の抑制を最優先として特性が設定されている。即ち、図2のマップとの比較から明らかなように、当該リンプホームモード用の制御マップでは、エンジン運転領域の目標平均有効圧Peに関する上限が低域側に制限されることでPM増加領域との重複が避けられ、且つ、エンジン運転領域のエンジン回転速度Neに関する上限が高域側まで拡大されている。以上の制御マップを適用して通常制御モード及びリンプホームモードでのエンジン制御及びCVT制御が実行される。
【0023】
図4はECU11が実行するモード切換ルーチンを示すフローチャートである。まず、ステップS2で上流側及び下流側排圧センサ15,16により検出されたDPF上流側とDPF下流側との差圧ΔPからDPF8上でのPM捕集量PQを推定する。具体的には、予め台上試験によりPM捕集量PQと差圧ΔP及び排気流量との関係をマップ設定しておき、そのマップから差圧ΔP及び排気流量と対応するPM捕集量PQを求める。なお、PM捕集量PQの推定手法はこれに限らず任意に変更でき、例えば台上試験により運転領域(目標平均有効圧Pe−エンジン回転速度Ne)毎にエンジン1からのPM排出量とDPF8でのPM燃焼量とを測定し、両者の差を各運転領域での瞬間的なPM捕集量と見なして、実際の運転領域から対応するPM捕集量を順次積算して現在のPM捕集量PQを推定してもよい。
【0024】
続くステップS4ではPM捕集量PQを予め設定された閾値と比較する。当該閾値としては、DPF8に対する強制再生の要否を判定するための強制再生判定値PQ1とDPF8が過堆積か否かを判定するための過堆積判定値PQ2(>PQ1)とが設定されており、現在のPM捕集量PQが強制再生判定値PQ1未満(PQ<PQ1)のときには強制再生を要しないと見なしてステップS6で図2の制御マップに基づいて通常制御モードを実行した後にルーチンを終了する。
【0025】
ドライバビリティを重視する図2の制御マップを適用した結果、例えば運転者によりアクセルが踏込まれて車両加速が要求されたときには、CVT制御側で変速比Rをそれほど低下させずにエンジン回転速度Neの上昇を抑制した上で、エンジン制御側で目標平均有効圧Peと共に機関トルクを増加させ、これにより後輪駆動力を増加させてアクセル踏込みに応じた車両加速が実現される。このため、車両加速時のエンジン運転点は図2中に矢印で示すように主に目標平均有効圧Peの増加方向に変化してPM増加領域に侵入し、一時的にエンジン1のPM排出量が増加する。また、元々ディーゼルエンジン1は燃料噴射量Qの急増時にPM排出量が増加する特性があるが、上記のように主として燃料噴射量Qの増加により加速要求に対応するため、PM増加領域外であっても加速時には燃料噴射量Qの急増に伴ってPM排出量が増加する傾向がある。
【0026】
但し、このときのDPF8はPM捕集量PQが少なく(PQ<PQ1)過堆積に至っていないため、PM捕集量PQに基づいて強制再生(後述するステップS12)を任意に実行可能な状態にある。よって、増加した排ガス中のPMをDPF8に捕集させても何ら問題は発生せず、これにより排気中へのPMの排出も防止される。
また、上記ステップS4で現在のPM捕集量PQが強制再生判定値PQ1から過堆積判定値PQ2の間にある(PQ1≦PQ≦PQ2)と判定したときには、ステップS8に移行して通常制御モードを実行し、ステップS10で強制再生表示灯15を点灯させ、ステップS12で強制再生を実行した後にルーチンを終了する。強制再生の実行によりヒータ9が通電してDPF8を昇温し、DPF8上のPMが焼却除去される。
【0027】
一方、上記ステップS4で現在のPM捕集量PQが過堆積判定値PQ2を越える(PQ>PQ2)と判定したときにはDPF8の過堆積と見なし(過堆積判定手段)と、ステップS14に移行してリンプホームモードを実行し(リンプホーム制御手段)、続くステップS16で過堆積表示灯16を点灯させた後にルーチンを終了する。
過堆積表示灯16の点灯により運転者は車両の異常を認識し、ディーラに向けて退避走行を行う。リンプホームモードではPM排出量の抑制を最優先とする図3の制御マップを適用する結果、例えば運転者によりアクセルが踏込まれて車両加速が要求されたときには、エンジン制御側では目標平均有効圧Peと共に機関トルクをそれほど増加させることなく、CVT制御側で変速比Rを大幅に増大(有段変速機のローギアへの切換と同方向)させながらエンジン回転速度Neを上昇させ、これにより後輪駆動力を増加させてアクセル踏込みに応じた車両加速を実現する。このため、車両加速時のエンジン運転点は図4中に矢印で示すようにPM増加領域を避けるように主にエンジン回転速度Neの増加方向に変化し、エンジン運転点がPM増加領域に進入することはない。また、主としてCVT2の変速比Rの増大と共にエンジン回転速度Neを上昇させることで加速要求に対応するため、加速時でも燃料噴射量Qの増加幅が比較的小さく、燃料噴射量Qの急増と共にPM排出量が増加する傾向も軽減される。よって、このリンプホームモード中には車両加速時を含む如何なる運転状態であっても通常制御モードに比較してエンジン1のPM排出量が抑制され続ける。
【0028】
ECU11はリンプホームモードへの切換後は常にステップS4からステップS14へと移行し、ステップS12による強制再生の処理は実行されず、強制再生によりDPF8上に堆積したPMが急速に燃焼してDPF8の焼損を引き起こす事態が未然に防止される。そして、上記のようにリンプホームモードではエンジン1のPM排出量が非常に少ないため、DPF8の過堆積はほとんど進行しない。よって、過堆積の進行によりDPF8の排気抵抗が極端に増大して走行不能に陥る事態を未然に回避できると共に、その後のディーラで保守作業として強制再生を行うときにはPMの急速燃焼によるDPF8の焼損を生じることなく安全にPMを焼却除去できる。
【0029】
一方、リンプホームモードでの車両加速時には、燃料噴射量Qの増加を抑制した上で、そのエンジントルクの不足分をCVT8の変速比Rの増大と共にエンジン回転速度Neを上昇させることで補っている。従って、リンプホームモードでも運転者のアクセル操作に応じた車両加速を実現でき、例えばリンプホームモードとして単にエンジン回転速度Neを規制するだけの特許文献1のようなドライバビリティの悪化を未然に防止でき、円滑な退避走行を実現することができる。
【0030】
しかも、リンプホームモードでは通常制御モードと比較するとエンジン回転速度Neの上昇によりエンジン騒音が増大するが、この騒音増大は却って運転者への報知のためのメリットとして機能する。即ち、DPF8の過堆積は頻繁に発生する事態ではないため、運転者は過堆積表示灯16を常時確認する習慣がなく点灯を見逃し、リンプホームモードに切換えたにも拘わらずディーラへの車両持込などの適切な対処が行われない可能性がある。本実施形態によれば、このような場合でもエンジン騒音の急激な増大による運転者は異常を確実に察知でき、DPF8の過堆積に対する適切な処理を実行することができる。
【0031】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では内蔵したヒータ9によりDPF8を昇温したが、強制再生の手法はこれに限ることはなく、メイン噴射後の膨張行程でポスト噴射を実行して未燃燃料の燃焼によりDPF8を昇温してもよい。この場合でもポスト噴射を実行しても十分な昇温作用が得られない運転状態、例えばアイドル運転が継続されたときにはDPF8の過堆積が生じるが、本実施形態と同様の制御を実行することでリンプホームモード中の過堆積の進行を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態のリンプホーム制御装置を示す全体構成図である。
【図2】通常制御モードにおけるPM増加領域とエンジン運転領域との関係を示す特性図である。
【図3】リンプホームモードにおけるPM増加領域とエンジン運転領域との関係を示す特性図である。
【図4】ECUが実行するモード切換ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン(内燃機関)
8 DPF(フィルタ)
9 ヒータ(強制再生手段)
11 ECU(噴射量制御手段、変速比制御手段、過堆積判定手段、リンプホーム制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料噴射量を制御する噴射量制御手段と、
上記内燃機関に接続された無段変速機の変速比を制御する変速制御手段と、
上記内燃機関の排気通路に設けられて該内燃機関から排出されるパティキュレートマターを捕集するフィルタと、
上記フィルタに捕集されたパティキュレートマターを焼却除去する強制再生手段と、
上記フィルタへの上記パティキュレートマターの過堆積を判定する過堆積判定手段と、
上記過堆積判定手段により上記フィルタの過堆積が判定されたときに、上記強制再生手段に上記フィルタの強制再生を禁止させると共に、上記内燃機関からのパティキュレートマターの排出量が増加するPM増加領域を避けるべく上記噴射量制御手段に燃料噴射量を制限させ、且つ上記変速制御手段に変速比を増大方向に制御させるリンプホーム制御手段と
を備えたことを特徴とするリンプホーム制御装置。
【請求項2】
上記噴射量制御手段は、上記過堆積判定手段により上記フィルタの過堆積が判定されていないときに、予め上記内燃機関の燃料噴射量及び機関回転速度により所定の機関運転領域が設定された通常時マップから燃料噴射量を決定して噴射量制御を実行し、
上記変速制御手段は、上記フィルタの過堆積が判定されていないときに上記通常時マップから決定した機関回転速度を達成すべく変速制御を実行し、
上記リンプホーム制御手段は、上記フィルタの過堆積が判定されたときに上記通常時マップに代えて、上記PM増加領域を避けるべく燃料噴射量を低域側に制限し、且つ上記通常時マップより機関回転速度を高域側に拡大した運転領域が設定されたリンプホーム時マップに基づいて上記噴射量制御手段及び変速制御手段に制御を実行させることを特徴とする請求項1記載のリンプホーム制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−218196(P2007−218196A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40745(P2006−40745)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】