説明

レシプロ式エンジン

【課題】ピストン構造体にマグネシウムを主体とする合金を用いていても、ピストンスカート間隙を所定の領域に収める。
【解決手段】シリンダ(10)内を往復動するピストン(9)を有するレシプロ式エンジンにおいて、燃焼室の壁面の一部または全部(55、56)を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成すると共に、前記ピストン(9)の構造体をマグネシウムを主体とする合金で作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレシプロ式のエンジン(内燃機関)、特にレシプロ式エンジンにおけるピストンの軽量化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室の壁面の一部または全部にセラミックなどの断熱材料を貼り、冷却損失を低減することにより、低負荷時におけるエンジンの熱効率を高めるものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】「遮熱エンジンの燃焼と燃焼室」,機会学会講演論文,1996年,No.96−1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ピストン重量を軽量化することが燃費の向上に結びつくため、この点よりピストンの構造体を、アルミニウムを主体とする合金で作成したものが実用化されているが、アルミニウムよりも比重の小さいマグネシウムを採用することができれば、同じ体積でも比重の小さな分だけアルミニウムより軽量化でき、燃費をさらに向上できる。
【0004】
しかしながら、図12に示したようにピストンスカート隙間(ピストンスカートとシリンダとの間隙のこと)は所定の領域に収まる必要がある。これは、ピストンスカート隙間が所定の領域を外れて大きくなり過ぎるとスラップ音による機械騒音が許容値を超えて大きくなり、またこの逆にピストンスカート隙間が所定の領域を下回って小さくなり過ぎるとシリンダに油膜を確保できずピストンがシリンダに焼き付いてしまうためである。
【0005】
こうしたピストンスカート間隙に対する要求より、ピストンの構造体を、マグネシウムを主体とする合金で作成したものでは、ピストン温度が低い領域でスラップ音による機械騒音が許容値を超えて大きくなってしまう。なお、図12において「スラップ音NG領域」はスラップ音による機械騒音が許容値を超えて大きくなる領域を、また「潤滑NG(焼き付き)領域」はシリンダに油膜を確保できずピストンがシリンダに焼き付いてしまう領域を示している。
【0006】
そこで本発明は、ピストン構造体にマグネシウムを主体とする合金を用いていても、ピストンスカート間隙を所定の領域に収めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリンダ(10)内を往復動するピストン(9)を有するレシプロ式エンジンにおいて、燃焼室の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成すると共に、前記ピストン(9)の構造体をマグネシウムを主体とする合金で作成する。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、第一にピストンの構造体をアルミニウムに比べ比重の小さいマグネシウムを主体とする合金で作成するので、ピストンの大幅な軽量化(−30%)が可能となり、エンジンの高回転速度化など大幅な出力性能向上効果と共に、振動低減効果が得られる。
【0009】
第1の発明によれば、第二に燃焼室の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成するので、燃焼時の冷却損失を大幅に低減し、熱効率を向上させることができることから、アルミニウムに較べて熱膨張率が大きいマグネシウムを使用する場合であっても、ピストンスカート隙間を所定の領域に収めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は複リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジンの概略構成図、図10右側はピストン9及びシリンダ10の一部断面図である。
【0012】
さて、ピストン9の重量を軽量化することが燃費の向上に結びつく。この点より本実施形態では、ピストン9の構造体をマグネシウム(Mg)を主体とする合金で作成する。アルミニウム(Al)よりも比重の小さいマグネシウムを採用することで(図11参照)、同じ体積でも比重の小さな分だけアルミニウムを主体とする合金で作成されるピストンより軽量化でき、燃費をさらに向上できる。
【0013】
ただし、図12に示したようにピストンスカート間隙(ピストンスカートとシリンダ10との間隙のこと)は所定の領域に収まる必要がある。これは、ピストンスカート隙間が所定の領域を外れて大きくなり過ぎるとスラップ音による機械騒音が許容値を超えて大きくなり、またこの逆にピストンスカート隙間が所定の領域を下回って小さくなり過ぎるとシリンダ10に油膜を確保できずピストン9がシリンダ10に焼き付いてしまうためである。なお、図12において高温時には設計寸法を基準とすると隙間がマイナスとなる条件も許容されている。
【0014】
こうしたピストンスカート間隙に対する要求より、マグネシウムを主体とする合金で作成したピストンのままでは、ピストン温度が低い領域でスラップ音による機械騒音が許容値を超えて大きくなってしまう(図12の「Mgピストン(断熱なし)」を参照)。
【0015】
そこで本実施形態では、燃焼室の壁面の一部(または全部)を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成する。詳細には、図10右側に示したようにピストン9冠面にセラミック等の断熱材料(非金属材料)からなるコーティング層55を溶射等で層状に所定厚さとなるまで形成すると共に、シリンダライナー56を設け、このシリンダライナー56を同じくセラミック等の断熱材料(非金属材料)で構成する。ここで、コーティング層55及びシリンダライナー56が燃焼室の壁面の一部である。
【0016】
このように、断熱ピストン及び断熱ライナーとすることで、ピストン構造体にマグネシウムを主体とする合金を用いていても、ピストン温度が低い領域でピストンスカート間隙を所定の領域に収めることができる(図12の「Mgピストン(断熱有り)」を参照)。このような断熱ピストン及び断熱ライナーとした構成により冷却損失を低減しエンジンの熱効率を高め得ることは良く知られている。なお、図10左側には通常のピストンの場合を示しており、燃焼による熱はピストン9よりピストンリング51、52を介してシリンダ10へと逃げるのであるが、断熱ピストン及び断熱ライナーの場合には、熱の伝達がセラミック等のコーティング層55で遮断されている。
【0017】
一方、断熱及び蓄熱の効果が高い材料としてのセラミックは、上記特許文献1に記載されているように、高負荷時のような高温下で熱伝達率が上昇するため、シリンダ内の吸気の温度が上昇し、圧縮終わりの温度で200℃以上の上昇となる。また、マグネシウムはアルミニウムよりも熱伝導率が低いため(図11参照)、ピストン9内の熱が抜けにくい問題もあり、運転中のピストン温度がアルミニウムに比べ高くなる。このような温度上昇が伴うと、ガソリンエンジンではノックの発生が不可避となるため、圧縮比を下げざるをえない。このことは低負荷時の燃費効果が大幅に損なわれることを意味する。また、高負荷時には吸気の充填効率が基本的に重要であり、断熱ピストン及び断熱ライナーを採用して吸気温度が上昇すると、その分空気量が減少し、トルクが低下するトレードオフが生じる。
【0018】
本実施形態ではこのようなトレードオフの関係を解消するため、低負荷時には熱効率の向上のため圧縮比を高くしておき、断熱材の副作用としての蓄熱効果による吸気温度上昇がノック発生を招く条件、つまり高負荷時になると、複リンク型のピストンクランク機構を用いて、圧縮比を低負荷時より低減することで、ピストンの構造体をマグネシウムを主体とする合金で作成していても、高負荷時のノッキングを回避する。
【0019】
ここでは、先に、図1〜図9を用いて複リンク型のピストンクランク機構を説明し、その後に図13〜図15を用いて、圧縮比の制御方法を説明する。
【0020】
図1はエンジンをフロントからみた図(エンジンフロントビュー)で、図1左側にはピストン9が上死点位置より下死点位置へと動く途中での状態(中間行程)を、また、図1右側にはピストン9が下死点位置にある状態をそれぞれ示している。
【0021】
複リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジンそのものは、例えば特開2001−227367号公報等によって公知となっているので、公知になっている複リンク型ピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジン(この公知になっているレシプロ式エンジンを、以下「先行エンジン」という。)の概要を先に説明する。
【0022】
なお、先行エンジンは図16に示したように、シリンダ軸線Sがクランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て左右方向にオフセットしていないものであるのに対して、後述するように、本実施形態ではシリンダ軸線Sがクランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て右方向のオフセットを有すると共に、ピストン9の下死点近傍位置において、スラスト力が、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aに作用するようにしている点が先行エンジンと相違する。
【0023】
図1において、クランクシャフト2には、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック1内の主軸受(図示しない)に回転可能に支持されるクランクジャーナル3が各気筒毎に設けられている。各クランクジャーナル3は、その軸心Oがクランクシャフト2の軸心(回転中心)と一致しており、クランクシャフト2の回転軸部を構成している。
【0024】
また、クランクシャフト2は、軸心Oから偏心して各気筒毎に設けられたクランクピン4と、クランクピン4をクランクジャーナル3へ連結するクランクアーム4aと、軸心Oに対してクランクピン4と反対側に配置され、主としてピストン運動の回転1次振動成分を低減するカウンターウェイト4bとを有している。クランクアーム4aとカウンターウェイト4bとは、この実施形態では一体的に形成されている。
【0025】
そして本実施形態では、各気筒毎に形成されたシリンダ10に摺動可能に嵌合するピストン9と、上記のクランクピン4とが、複数のリンク部材、すなわち第1のリンク6(アッパーリンク)と第2のリンク5(ロアーリンク)とにより機械的に連携されている。第1のリンク6の上端側は、ピストン9に固定的に設けられたピストンピン8(第1のピン)に、軸心Oc周りに相対回転可能に外嵌している。また、第1のリンク6の下端側と第2のリンク5の、ほぼ二等分された一方の本体5aとは、両者を挿通する連結ピン7(第2のピン)によって、軸心Od周りに相対回転可能に連結されている。
【0026】
第2のリンク5は、クランクピン4を狭持するように、2つの本体5a、5bを取付けて構成されており、この狭持部分でクランクピン4と軸心Oe周りに相対回転可能に装着されている。ほぼ2等分された他方の第2のリンク本体5bと第3のリンク11の上端側とは、両者を挿通する連結ピン12(第3のピン)によって軸心Of周りに相対回転可能に連結されている。
【0027】
この第3のリンク11の下端側は、シリンダブロック1に回動可能に支持される偏心カム部14を有するコントロールシャフト13に、その軸心Ob周りに揺動可能に外嵌,支持されている。すなわち、コントロールシャフト13の外周には偏心カム部14が回転可能に設けられており、偏心カム部14の軸心Oaは、コントロールシャフト13の軸心Obに対して所定量偏心している。この偏心カム部14は、ウォームギア15を介して圧縮比制御アクチュエータ16によって、機関の運転状態に応じて回動制御されるとともに、任意の回動位置で保持されるようになっている。
【0028】
このような構成により、クランクシャフト2の回転に伴って、クランクピン4,第2のリンク5,第1のリンク6及びピストンピン8を介してピストン9がシリンダ10内を昇降するとともに、第2のリンク5に連結する第3のリンク11が、下端側の揺動軸心Obを支点として揺動する。
【0029】
また、上記の圧縮比制御アクチュエータ16により偏心カム部14を回動制御することにより、第3のリンク11の揺動軸心となるコントロールシャフト13の軸心Obが偏心カム部14の軸心Oa周りに回転し、つまり第3のリンク11の揺動中心位置Obがエンジン本体(及びクランクシャフト回転中心O)に対して移動する。これにより、ピストン9の行程が変化して、エンジンの各気筒の圧縮比が可変制御される。
【0030】
このようにピストン9を複数のリンク部材を介してクランクシャフト2により駆動する複リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジン、つまり先行エンジンを前提として、本実施形態では、シリンダ軸線Sをクランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て左右方向に所定量オフセットする。オフセットの方向はエンジンをフロント側から見てクランクシャフト2の回転方向が時計回りの場合に、右方向である。
【0031】
また、このとき、ピストン9下死点位置近傍においてピストン9の慣性力に起因するスラスト力が、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2から遠い側(図1で右側)のシリンダ10aに作用するようにする。
【0032】
図1においてカウンターウェイト4bの最外径の軌跡(クランクシャフト2の回転中心Oを中心とする円となる)をTで書き入れている。2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより近い側(図1で左側)のシリンダ10bの下端まで、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側(図1で右側)のシリンダ10aの下端と同じに下方に延長したのでは、近い側のシリンダ10bがカウンターウェイト4bと干渉してしまうので、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより近い側のシリンダ10bの下端10dは、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aの下端10cよりも下方に短く設定されている。言い換えると、シリンダ10のスラスト側の2つの下端は同じ位置にはなく、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心より遠い側のシリンダ10aの下端10cが、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心より近い側のシリンダ10bの下端10dに比べて、下方に延長されている。
【0033】
このように、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aの下端10cが、クランクシャフト2の回転中心Oより近い側のシリンダ10bの下端10dよりも下方に延長されていると、クランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aにおける下死点近傍位置でのピストン摺動面が、クランクシャフト2の回転中心Oより近い側のシリンダ10bにおける下死点近傍位置でのピストン摺動面より大きくなる。
【0034】
また、図2右側の2つの図に示したように、ピストン上死点位置でのピストン冠面9mとクランクシャフト2の回転中心Oとの間の上下方向距離を変えることなく、図2左側の2つの図に示す単リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジン(このレシプロ式エンジンを、以下「標準エンジン」という。)よりもピストン下死点位置を下げようとすれば、ピストン下死点近傍位置において、ピストン9のスカート部がカウンターウェイト4bと干渉してしまうので、この干渉を避けるためピストン9のスカート部を次のように形成する。
【0035】
これについて、図3を参照して説明すると、図3(A)はエンジンをフロントから見て、ピストンピン孔9jの軸に直交する平面で切ったときのピストン9の縦断面図、図3(B)はエンジンを右方向(または左方向)からみて、ピストンピン孔9jの軸を含む平面で切ったときのピストン9の縦断面図、図3(C)はピストン9の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【0036】
図3(A)に示したように、圧縮高さh1は標準エンジンと同様であるが、スカート長さh2は標準エンジンより短くされ、背丈の低いピストン9になっている。このように背丈の低いピストン9にできるのは、本実施形態のレシプロ式エンジンでは標準エンジンよりスラスト力が小さいためにそのぶんスカート長さh2を標準エンジンよりも短くできることによる。
【0037】
一方、図3(B)に示したように、リングランド部9aの下方に設けられるスカート部9bのうち、エンジンの前後方向の両側には、カウンターウェイト4bとの干渉を避けるため、切り欠き部9c、9dが形成される。すなわち、リングランド部9aのすぐ下方の外周からピストン軸(シリンダ軸線)に直交する平面9e、9fが、中央部に所定の幅だけ残してエンジンの前後方向の両側(図3(B)で左右の両側)に形成されると共に、左側の平面9eに直交する平面9gが下方に向けて、また右側の平面9fに直交する平面9hが下方に向けて、かつ2つの平面9g、9hがピストン軸より左右に同じ距離だけ離れた互いに平行な2平面となるように形成されている。
【0038】
そして、下方に延びる2つの平面9g、9hは底面9iと滑らかにつながっている。このようにして、直交する2平面9e、9gと、同じく直交する2平面9f、9hとでスカート部9bのエンジン前後方向の両側に切り欠き部9c、9dが形成されている。
【0039】
ピストン軸より左右に同じ距離だけ離れた互いに平行な2平面9g、9hには、この2平面9g、9hをエンジンの前後方向(図3(B)で左右方向)に貫通するピストンピン孔9jが穿設されるが、このピストンピン孔9jの長さは、スカート部9bに切り欠き部9c、9dを設けた分だけ標準エンジンよりも短くなっている(図2参照)。
【0040】
なお、スカート部9bのうちエンジンをフロントから見て左右方向の側の外周は、図3(A)にも示したように、リングランド部9aの外周をそのまま下方に延長したものとなっている。また、ピストン冠面9mには、図3(C)にも示したように標準エンジンと同じにピストンキャビティ9nやバルブリセス9oが設けられている。さらにピストンの軸心部には第1のリンク6の挿通される孔9pも形成されている。
【0041】
このようにして、ピストン9が形成されると、図4にも示したように、ピストン9が下死点近傍位置にあるとき、ピストンスカート部9bのうちエンジン前後方向の両側に設けられた切り欠き部9c、9d(空間)をカウンターウェイト4bが衝突することなく通過することになり、ピストン9が下死点近傍位置にあるときの、ピストンスカート部9bとカウンターウェイト4bとの干渉が避けられる。なお、図4ではピストンスカート部9bの左側にしかカウンターウェイト4bを示していないが、実際には図2右側の左の図に示したように、ピストンスカート部9bの両側をカウンターウェイト4bが通過することとなる。
【0042】
ここで、複リンク型のピストンクランク機構の機能によって背丈の低いピストン(図では「超低背ピストン」で表記。)が成立する原理を図5にまとめておくと、燃焼室内圧力が最大値Pmaxを採る付近で第1のリンク6が直立姿勢を維持できることから、ピストン9の挙動が安定し、スカート部9bに作用する荷重を低減することができ、スカート長さh2の短縮化(スカートレス化)を実現できる。一方、ピストン9が後述する図9のように単振動に近いストロークを行うので、最大慣性力が30%も減少するため、クランクピン8長さ(ピンボス幅)を小さくできる。これら2つにより背丈の低いピストンが可能となる。
【0043】
次に、〈1〉シリンダ軸線Sをオフセットさせた効果、〈2〉シリンダ軸線Sのオフセット方向の選定について図6〜図9を参照しながら補足説明を行う。ただし、図1と相違して図6、図7はエンジンをリアからみた図(エンジンリアビュー)であるため、図6、図7と図1とでは左右が互いに逆の関係になる。
【0044】
まず、〈1〉のオフセットの効果を図6を用いて説明する。図6はエンジンをリアからみた図であるため、図6はエンジンをフロントから見て、シリンダ軸線Sが左方向にオフセットしている場合を示している。
【0045】
図6において、上段にはエンジンをフロントから見て、シリンダ軸線Sの左方向へのオフセット(図では「Lオフセット」と表記)を小さくすると共に、ピストンストロークの拡大率(増大率)が120%となるようした場合の、これに対して下段には同じくエンジンをフロントから見て、シリンダ軸線Sの左方向へのオフセットを大きくすると共に、ピストンストロークの拡大率が140%となるようにした場合のそれぞれのリンク(6、5、11)の姿勢の変化を示す。そして、左右と中央に合計3つあるリンク姿勢のうち、左側にはピストン上死点位置での、中央にはピストン上死点とピストン下死点の中間位置での、右側にはピストン下死点位置でのリンク姿勢をそれぞれ示している。
【0046】
なお、図6において原点にはクランクシャフト2の回転中心Oを採っており、従って、原点を中心として描かれた円はカウンターウェイト4bの最外径の軌跡Tを表している。また、縦の2本の太実線はシリンダ10で、このうち左側の線が2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心より近い側のシリンダ10aを、右側の線が2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心より遠い側のシリンダ10bを表している。
【0047】
ここで、ピストンストロークの拡大率がそれぞれ120%、140%であるとは、図2にも示したように同一エンジンサイズのまま、つまりピストン上死点位置でのピストン冠面9mとクランクシャフト2の回転中心Oとの間の上下方向距離を変えることなく、ピストンストロークを下方に拡大した、図2右側の2つの図に示した複リンク型のピストンクランク機構を備える本実施形態のレシプロ式エンジンを構成することを考える場合に、標準エンジンのピストンストロークを100%としたとき、本実施形態におけるピストンストロークがそれぞれ120%、140%であることをいう。ここで、ピストンストロークが20%、40%拡大すれば、エンジンの排気量もこれに比例して20%、40%拡大する。
【0048】
さて、図6上段に示す左方向オフセットが小さい状態でピストンストロークの拡大率を120%とした場合、図6上段右側に示すピストン下死点位置で2つあるスラスト側のうちエンジンをフロントから見て右側(図6では逆の左側)のシリンダ10aに既にカウンターウェイト4bの軌跡Tが干渉している。従って、左方向オフセットが小さい状態でピストンストロークをこれ以上下方へと拡大するのは困難となる。
【0049】
ここで、上記のスラスト側とは、ピストン9が上死点か下死点で運動の方向が変わるとき、ピストン9が叩きつけられる側のことで、2つある。言い換えると、エンジンをフロントから見て左右のいずれの側もスラスト側である。従って、図6ではシリンダ10の左右のいずれの側もスラスト側である。
【0050】
これに対して、図6下段に示したように、左方向オフセットを大きくすると共にピストンストロークの拡大率が140%となるようにすると、特にピストン下死点近傍位置で、エンジンをフロントから見て左側(図6では逆の右側)のシリンダ10bにスラスト力が作用し易くなる。この場合、カウンターウェイト4bの最外径もその分拡大している(軌跡Tの半径が大きくなっている)にも拘わらず、エンジンをフロントから見て左側(図6では逆の右側)のシリンダ10bとの干渉が余裕を持って回避できている(図6下段右側参照)。
【0051】
スラスト力の作用する方向が、左方向オフセットが小さい場合にエンジンをフロントから見て右側(図6では逆の左側)のシリンダ10aとなり、この逆に左方向オフセットが大きい場合にエンジンをフロントから見て左側(図6では逆の右側)のシリンダ10bになるのは、第1のリンク6の傾きが反対になることによる。つまり、図6上段右側のように第1のリンク6がシリンダ10aに向けて傾いていれば、スラスト力はシリンダ10aに作用し、この逆に図6下段右側のように第1のリンク6がシリンダ10bに向けて傾いていれば、スラスト力はシリンダ10bに作用する。
【0052】
なお、左方向オフセットが大きい場合でも、図6下段右側に示したようにエンジンをフロントから見て右側(図6では逆の左側)のシリンダ10aとは干渉している。ただし、この側のシリンダ10aにはスラスト力が作用しないから、干渉する部分のシリンダ10aを削ることによって干渉を避けることができる。
【0053】
オフセットが大きいか小さいかの判断基準は次の通りである。すなわち、ピストン下死点位置において、シリンダ軸線Sを基準として連結ピン7部(第1のリンク6と第2のリンク5とのジョイント)の位置がクランクシャフト2の回転中心Oのある側にある場合がオフセットが大きい場合であり、この逆に、シリンダ軸線Sを基準として連結ピン7部の位置がクランクシャフト2の回転中心Oのある側と反対側にある場合がオフセットが小さい場合である。
【0054】
図6下段に示す左方向オフセット量のまま、ピストンストロークを下方にさらに増やそうとすると、ピストン下死点位置での連結ピン7部の位置がさらにクランクシャフト2の回転中心Oのある側と反対側(図6では右側)に出ることになるので、ピストンストロークを下方にさらに増やすときには図6下段に示す状態よりも左方向オフセット量を増やす必要がある。つまり、スラスト力をピストン下死点位置において2つあるスラスト側のうち所望の一方の側にのみ作用させつつピストンストローク量を増やすには、ピストンストローク量に比例して左方向オフセット量も増やす必要がある。
【0055】
なお、これと関連して次のことがいえる。すなわち、左方向オフセットが小さく、ピストンストロークの拡大率が120%である場合に、図6上段右側に示したようにスラスト力が、2つあるスラスト側のうちエンジンをフロントから見て右側(図6では逆の左側)のシリンダ10aに作用しているが、左方向オフセットが小さい場合であっても、ピストンストロークの拡大率が120%よりも小さければ(具体的な数値は不明)、スラスト力が、2つあるスラスト側のうちエンジンをフロントから見て左側(図6では逆の右側)のシリンダ10bに作用する事態が考え得る。つまり、左方向オフセット量だけで左方向オフセットの大小が決まるとは必ずしもいえないのである。
【0056】
ここで、上記のスラスト力とは、ピストン9よりシリンダ10に作用するスラスト側の力のことである。
【0057】
次に、上記〈2〉のシリンダ軸線Sのオフセット方向の選定、つまりシリンダ軸線Sのオフセット方向は2つあるスラスト側のうちどちら側を選定したらよいのかについて図7を用いて説明する。
【0058】
図7も図6と同じにエンジンをリアから見た図(エンジンリアリアビュー)である。従って、図7上段はエンジンをフロントから見て、シリンダ軸線Sのオフセット方向を右方向(図では「Rオフセット」と表記)(図7では逆の左方向)とした場合、図7下段はエンジンをフロントから見て、シリンダ軸線Sのオフセット方向を左方向(図7では逆の右方向)とした場合である。このように、シリンダ軸線Sのオフセット方向が逆になると、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダと近い側のシリンダとが逆転する。つまり、図7下段に示す左方向オフセットの場合には、シリンダ10aのほうがクランクシャフト2の回転中心Oより近い側、シリンダ10bのほうがクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側であるのに対して、図7上段に示す右方向オフセットの場合になると、シリンダ10aのほうがクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側、シリンダ10bのほうがクランクシャフト2の回転中心Oより近い側となる。
【0059】
さて、リンクアライメントの選定にもよるが、図7下段に示す左方向オフセットの場合、第1のリンク6の傾きが、図7下段中央のように行程中央で大きくなる(寝ている)のに対し、図7上段に示す右方向オフセットになると、図7上段中央のように第1のリンク6の傾きが逆に減少している(直立状態に近い)。
【0060】
さらに、エンジンをフロントから見て、シリンダ軸線Sの右方向オフセットと左方向オフセットとでピストンスラスト荷重率がどのように変わるのかを比較して示したのが図8である。
【0061】
ここで、図8縦軸のピストンスラスト荷重率がプラスであることは、グラフの右外に示した図において左側のシリンダ10aにスラスト力が作用することを、また縦軸のピストンスラスト荷重率がマイナスであることは同じくグラフの右外に示した図おいて右側のシリンダ10bにスラスト力が作用することを表す。また、TDC(ピストン上死点位置)を示しているのに対してBDC(ピストン下死点位置)を記載していないが、TDC+180度のクランク角度位置がBDCである。
【0062】
まず図8下段に示す左方向オフセットでは、ピストンスラスト荷重率が、TDCで既に増大傾向(x軸から遠ざかる傾向)にあり、行程中央で極大値をとり、BDC付近では減少傾向(x軸に近づく傾向)にある。このことは、BDCで2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側(図8下段では右側)のシリンダ10bへのスラスト力を確保するために、行程中央でのスラスト力が大幅に増えていることを意味している。
【0063】
これに対して、図8上段に示す右方向オフセットでは、ピストンスラスト荷重率が、TDCで既に減少傾向にあり、行程中央で極小値をとり、BDC付近では増大傾向にある。このことは、右方向オフセットでは、行程中央でのスラスト力が大幅に増えることがないことを表している。すなわち、BDCで2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側(図8下段では右側)のシリンダ10bへのスラスト力を確保するために行程中央のスラスト力が増えてしまう、という図8下段に示す左方向オフセットで生じている跳ね返りが、図8上段に示す右方向オフセットによれば基本的に避けられることを意味している。
【0064】
ここで、上記のピストンスラスト荷重率とは、ピストンに単位荷重を加えたときにスラスト側に作用する荷重のことである。
【0065】
このように、エンジンをフロントから見て、左方向オフセットとしたのでは、行程中央のスラスト力が増大するためにフリクションが増大するほか、スラスト力の増大に伴ってピストンスカート部への荷重が増大するために、スカート面積(スカート長さ)を狭くする、とする超ロングストロークコンセプトそのものが成立しなくなってしまう。従って、エンジンをフロントから見てクランクシャフト2が時計方向に回転する場合に、シリンダ軸線Sのオフセット方向としては、エンジンをフロントから見て右方向を選択すべきであることがわかる。
【0066】
また、エンジンをフロントから見て、右方向オフセットと左方向オフセットとでピストンストローク(ピストン行程)がどのように変わるのかを比較して示したのが図9である。比較のため、標準エンジンでのピストンストロークを細実線で示している。ただし、ここでのピストンストロークとは、クランクシャフト2の回転中心Oからピストンピン8までの間の距離のことである。
【0067】
本実施形態において、シリンダ軸線Sをオフセットした場合、標準エンジンに比べて上下死点の位置(位相)が少しずれているが、左方向オフセットの場合、右方向オフセットの場合のいずれにおいても標準エンジンに比べ、単振動に近いピストンストロークの特性となっている。
【0068】
これで、複リンク型のピストンクランク機構の説明を終える。
【0069】
次に、図13はエンジンの制御システム図である。クランク角センサ62により検出されるエンジン回転速度Ne、エンジン負荷(例えば燃料噴射制御を実行する図示しないフローでは、図示しないエアフローメータにより検出される吸入空気量と、エンジン回転速度とに基づいて基本燃料噴射パルス幅Tpが算出されているので、その基本燃料噴射パルス幅Tpをエンジン負荷として用いればよい)、水温センサ63により検出される冷却水温Twが入力されるエンジンコントローラ61(圧縮比をエンジンの運転条件に応じて可変制御する手段)では、次のようにして圧縮比の制御を行う。すなわち、図14に示したように、まずステップ1でクランク角センサ62により検出されるエンジン回転速度Ne、エンジン負荷、水温センサ63により検出される冷却水温Twを読み込み、このうち冷却水温と所定値をステップ2において比較する。冷却水温Twが所定値未満であるとき(低水温時)にはステップ3に進み、そのときのエンジン回転速度Neとエンジン負荷とから図15左側を内容とするマップを検索して低水温時の目標圧縮比を算出する。一方、冷却水温Twが所定値以上であるとき(高水温時)にはステップ2よりステップ4に進み、そのときのエンジン回転速度Neとエンジン負荷とから図15右側を内容とするマップを検索して高水温時の目標圧縮比を算出する。なお、図15においては目標圧縮比をεでしめしている。
【0070】
ステップ5ではこのようにして求めた目標圧縮比が得られるように制御量を、偏心カム部14を回動制御するための圧縮比アクチュエータ16に出力する。
【0071】
図15に示したように、低水温時、高水温時とも回転速度Neが同じ条件のとき高負荷のほうが低負荷より目標圧縮比を小さくしている。
【0072】
なお、エンジンコントローラ61により、各気筒毎に設けられているインジェクタ(図示しない)を用いた燃料噴射制御と、点火装置(図示しない)を用いた点火時期制御とが従来と同様に行われることはいうまでもない。
【0073】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0074】
本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、第一にピストン9の構造体をアルミニウムに比べ比重の小さいマグネシウムを主体とする合金で作成するので、ピストンの大幅な軽量化(−30%)が可能となり、エンジンの高回転速度化など大幅な出力性能向上効果と共に、振動低減効果が得られる。本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、第二にピストン9冠面(コーティング層55)及びシリンダライナー56(燃焼室の壁面の一部)を断熱及び蓄熱の効果が高い材料であるセラミックで構成するので、燃焼時の冷却損失を大幅に低減し、熱効率を向上させることができることから、アルミニウムに較べて熱膨張率が大きいマグネシウムを使用する場合であっても、ピストンスカート隙間を所定の領域に収めることができる(図12の「Mgピストン(断熱有り)」を参照)。
【0075】
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、圧縮比をエンジンの運転条件に応じて可変制御する(図14を参照)。例えば断熱材の副作用としての蓄熱効果による吸気温度上昇がノック発生を招く条件(高負荷時)において目標圧縮比を低負荷時より低減するので(図15を参照)、熱効率の向上とノック回避の両立を図ることができる。
【0076】
標準エンジンでは、ピストン上死点近傍位置でピストンが相対的に早く動き、下死点近傍位置で相対的にゆっくりと動き、これにより上死点近傍位置と下死点近傍位置とでクランクシャフト2の回転のアンバランスが生じ、これに伴ってクランクシャフト2の振動が大きくなるのであるが、本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、ピストン9のストロークをクランク角度に対して単振動に近い特性としたので(図9を参照)、上死点近傍位置と下死点近傍位置とで発生するクランクシャフト2の回転のアンバランスが解消されることとなり、クランクシャフト2の振動を低減できる。
【0077】
本実施形態(請求項8に記載の発明)によれば、ピストンスカート部9bに、エンジンを右方向または左方向から見て左右の両側に切り欠き部9c、9dを設け、クランクシャフトのカウンターウェイト4bの最外径が、ピストン下死点近傍位置においてこの切り欠き部9c、9dを通過する構成としたので(図2右側の左の図、図4を参照)、第1のリンク6を最小限の長さとして、ピストン下死点位置をクランクシャフト2に最接近させ、その分のピストンストロークの拡大が可能となる(図2を参照)。ピストンストロークが拡大する場合、ピストンストローク量に対応してピストン加速度も増大するため、マグネシウムの採用によるピストン軽量化は、特にこのようなロングストローク化において、効果が著しい。
【0078】
標準エンジンでは、いわゆるピストンの首振りによってピストンとシリンダ壁とが接触する(つまりスラスト力が生じる)。そこでピストン下方に所定長さのスカート部を設けてシリンダ壁との接触面積を大きくし、面圧を低下させることで、ピストンがシリンダ壁と接触しても(つまりスラスト力がシリンダに作用しても)スムーズに摺動できるようにしていた。
【0079】
これに対して、本実施形態(請求項10に記載の発明)によれば、ピストン9を複数のリンク部材(6、5、11)を介してクランクシャフト2により駆動するので、リンク(第1のリンク6)の傾きを標準エンジンのコンロッドの傾きに比べて小さくできることから、スラスト力が小さくなり、スカート長さh2を小さくできる(図3(A)を参照)。
【0080】
一方、ピストン9の下方へのロングストローク化を実現するためには、シリンダ10とカウンターウェイト4bとの干渉及び下死点近傍位置でのカウンターウェイト4bとピストンスカート部9bの干渉が問題となる。
【0081】
この場合に、上記のようにピストン9を複数のリンク部材(6、5、11)を介してクランクシャフト2により駆動することでスカート長さh2を小さくでき、さらに、本実施形態(請求項10に記載の発明)によれば、ピストン9の摺動するシリンダ10の軸線Sが、クランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て左右方向へのオフセットを有すると共に、ピストン9の下死点近傍位置において、スラスト力が2つあるスラスト側のうち片側のシリンダだけに作用するように、つまりピストン9の慣性力に起因するスラスト力が、2つあるスラスト側のうちクランクシャフトの回転中心(O)より遠い側のシリンダ10aに作用するようにしたので、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aの下方だけにシリンダ壁があればよい。
【0082】
従って、2つあるスラスト側のうちスラスト力が作用しない反対側のシリンダ壁をカウンターウェイト4bと干渉しないように削り、かつ2つあるスラスト側のうちスラスト力が作用する側のシリンダ壁を下方へと伸ばすことで、ピストンのロングストローク化が可能となった。
【0083】
このように、本実施形態(請求項10に記載の発明)のレシプロ式エンジンによれば、標準エンジンと同じサイズであっても、ピストンストロークを下方に拡大できることから、低回転速度域でのトルクが、ピストンストロークの拡大分に比例する排気量拡大分だけ向上すると共に、ピストンストローク拡大による燃焼室のS/V比(特にピストン上死点位置における)が低下し、冷却損失が排気量拡大に伴って増加するのを最小限に抑えることが可能となり、燃費の悪化を抑制できる。また、ピストンストロークの拡大(増大)によりエンジン振動の悪化を抑制することもできる。
【0084】
実施形態では、エンジンをフロントから見て、クランクシャフト2が時計方向に回転する場合に、シリンダ軸線Sはエンジンをフロントから見て右方向へのオフセットを有する場合で説明したが、これに限られるものでない。エンジンをフロントから見て、クランクシャフト2が反時計方向に回転する場合には、シリンダ軸線Sが、エンジンをフロントから見て左方向へのオフセットを有する場合であってもかまわない。
【0085】
また、燃焼室と反対側のピストン9の背面またはピストン構造体内に設けられた冷却通路にオイルを供給するオイルジェットを設けることが考えられる(請求項9に記載の発明)。このように構成することで、高負荷時のノック発生を一段と抑制できる。
【0086】
実施形態では、主にガソリンエンジンで説明したが、ディ−ゼルエンジン、2ストロークエンジンにも適用がある。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】中間行程と下死点位置とにおける作動状態の違いを示す本発明の第1実施形態のエンジンの概略構成図。
【図2】標準エンジンと比較しながらピストンストロークを拡大するコンセプトの説明図。詳細には、左側の2つの図は単リンク型ピストンクランク機構の概略構成図、右側の2つの図は複リンク型ピストンクランク機構の概略構成図。
【図3】ピストンストローク拡大用のピストンの概略構成図。詳細には、(A)はエンジンをフロントから見て、ピストンピン孔9jの軸に直交する平面で切ったときのピストン9の縦断面図、B)はエンジンを右方向(または左方向)からみて、ピストンピン孔9jの軸を含む平面で切ったときのピストン9の縦断面図、(C)はピストン9の一部を切り欠いて示す斜視図。
【図4】ピストン下死点位置におけるカウンタウェイトとピストンとの関係図。
【図5】背丈の低いピストンの成立を説明するための原理図。
【図6】左方向オフセットが大きく、ピストンストロークの拡大率が140%である場合のリンク挙動を、左方向オフセットが小さく、ピストンストロークの拡大率が120%である場合のリンク挙動と比較して示す説明図。詳細には、上段はピストンストロークの拡大率が120%である場合の、ピストン上死点位置での、ピストン上死点とピストン下死点の中間位置での、ピストン下死点位置での3つの各状態を左よりこの順に並べて示すリンク挙動図、下段は左方向オフセットが大きく、ピストンストロークの拡大率が140%である場合の、ピストン上死点位置での、ピストン上死点とピストン下死点の中間位置での、ピストン下死点位置での3つの各状態を左よりこの順に並べて示すリンク挙動図。
【図7】左方向オフセットと右方向オフセットのリンク挙動の違いを上段と下段とに並べて示す比較図。詳細には、上段は右方向オフセットが大きく、ピストンストロークの拡大率が140%である場合の、ピストン上死点位置での、ピストン上死点とピストン下死点の中間位置での、ピストン下死点位置での3つの各状態を左よりこの順に並べて示すリンク挙動図、下段は左方向オフセットが大きく、ピストンストロークの拡大率が140%である場合の、ピストン上死点位置での、ピストン上死点とピストン下死点の中間位置での、ピストン下死点位置での3つの各状態を左よりこの順に並べて示すリンク挙動図。
【図8】左方向オフセットと右方向オフセットのピストンスラスト荷重率の違いを上段と下段とに並べて示す比較図。詳細には、上段は右方向オフセットのピストンスラスト荷重率の特性図、下段は左方向オフセットのピストンスラスト荷重率の特性図。
【図9】左方向オフセットと右方向オフセットのピストンストロークの違いを上段と下段とに並べて示す比較図。詳細には、上段は右方向オフセットのピストンストロークの特性図、下段は右方向オフセットのピストンストロークの特性図。
【図10】通常のピストンと断熱ピストンとの違いを左右に並べて示すピストンとシリンダの一部断面図。詳細には、左側は通常のピストンの場合のピストンとシリンダの一部断面図、右側は断熱ピストンの場合のピストンとシリンダの一部断面図。
【図11】アルミニウムとマグネシウムの材料特性の比較図。
【図12】ピストンスカート間隙のピストン温度に対する特性図。
【図13】エンジンのシステム図。
【図14】圧縮比制御を説明するためのフローチャート。
【図15】低水温時と高水温時との違いを左右に並べて示す目標圧縮比の特性図。詳細には、左側は低水温時の目標圧縮比の特性図、右側は高水温時の目標圧縮比の特性図。
【図16】先行エンジンの概略構成図。
【符号の説明】
【0088】
1 シリンダブロック
2 クランクシャフト
4b カウンターウェイト
5 第2のリンク
6 第1のリンク
7 連結ピン(第2のピン)
8 ピストンピン(第1のピン)
9 ピストン
9b スカート部
9c、9d 切り欠き部
10 シリンダ
11 第3のリンク
12 連結ピン(第3のピン)
13 コントロールシャフト
55 コーティング層
56 シリンダライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンを有するレシプロ式エンジンにおいて、
燃焼室の壁面の一部または全部を断熱及び蓄熱の効果が高い材料で構成すると共に、前記ピストンの構造体をマグネシウムを主体とする合金で作成することを特徴とするレシプロ式エンジン。
【請求項2】
圧縮比をエンジンの運転条件に応じて可変制御する手段を有することを特徴とする請求項1に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項3】
ピストンと第1のピンを介して連結される第1のリンクと、
この第1のリンクに第2のピンを介して揺動可能に連結されると共にクランクピンに回転可能に装着される第2のリンクと、
この第2のリンクと第3のピンを介して揺動可能に連結されると共にシリンダブロックに設けられた支点を中心に揺動する第3のリンクと
を含み、前記ピストンをこれら複数のリンク部材を介してクランクシャフトにより駆動することを特徴とする請求項2に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項4】
前記圧縮比をエンジンの運転条件に応じて可変制御する手段は、前記シリンダブロックに設けられた支点の位置をエンジン運転条件に応じて可変制御する手段であることを特徴とする請求項3に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項5】
前記第1のリンクのシリンダ軸線に対する傾きが燃焼行程において小さくなるようにしたことを特徴とする請求項3または4に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項6】
前記ピストンのストロークをクランク角度に対して単振動に近い特性としたことを特徴とする請求項3または4に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項7】
エンジンを右方向または左方向から見て左右方向のピストンスカート長さを前記第1のピン長さとほぼ等しくするかまたは短くしたことを特徴とする請求項3または4に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項8】
前記ピストンのスカート部に、エンジンを右方向または左方向から見て左右の両側に切り欠き部を設け、前記クランクシャフトのカウンターウェイトの最外径が、ピストン下死点近傍位置においてこの切り欠き部を通過する構成としたことを特徴とする請求項3または4に記載のレシプロ式エンジン。
【請求項9】
燃焼室と反対側のピストンの背面またはピストン構造体内に設けられた冷却通路にオイルを供給するオイルジェットを設けたことを特徴とする請求項2から8までのいずれか一つに記載のレシプロ式エンジン。
【請求項10】
前記シリンダの軸線が、前記クランクシャフトの回転中心より、エンジンをフロントから見て左右方向へのオフセットを有すると共に、
前記ピストンの下死点近傍位置において、ピストンの慣性力に起因するスラスト力が、2つあるスラスト側のうち前記クランクシャフトの回転中心より遠い側のシリンダに作用するようにしたことを特徴とする請求項3に記載のレシプロ式エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−239509(P2007−239509A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60129(P2006−60129)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】