説明

レーザパターニング方法及びその装置

【課題】
レーザパターニング装置において、基板移動中の時間ロスを低減してTATを向上させるとともに、フォーカスずれによる加工不良を低減する。
【解決手段】
基板走査方向(主方向)と垂直な方向(副方向に)レーザビームを走査する機構を設け、レーザパルスの発生に合わせて副方向の走査を行うことにより、低速の基板移動で複数の溝を並行して加工することを可能にし、基板移動中の時間ロスを低減してTATを向上させると共にフォーカス制御の安定性を向上させて加工不良を低減した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いた薄膜のパターニング装置一般に適用可能なものである。具体的には、近年注目を集めている薄膜太陽電池におけるセル形成のための、導電薄膜やシリコン薄膜の高速かつ確実な切断を行う方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファスシリコンや微結晶シリコンを用いた薄膜太陽電池では発電効率の向上が大きな課題となっている。このため、発電層及び透明導電膜をセルに分割し、これらを直列に接続することで高電圧を得ることが一般に行われている。このセルの分割においては、膜の除去による面積ロスを必要最小限にする必要があるため、レーザ光による加工が一般に行われている。
【0003】
図8Aに薄膜太陽電池の構成を示す。薄膜太陽電池は、非晶質光電変換膜830を、透明電極膜820と裏面電極膜840とで挟むようにしてガラス基板810上に形成した積層構造を有する。
【0004】
また、同図に示すように、この薄膜太陽電池は、ガラス基板810に積層された非晶質光電変換膜830、透明電極幕820及び裏面電極膜840からなる複数のユニットセルを電気的に直列接続して集積した構造を有し、各ユニットセルの透明電極膜820と裏面電極膜840との間に、太陽光に励起されて非晶質光電変換膜830が生じる起電力が現れる現象を利用している。従って、これら直列接続された複数のユニットセルの両端の電極の間には、各ユニットセルの起電力を足し合わせた起電力が、この太陽電池の出力電圧として現れることとなる。
【0005】
このように複数のユニットセルを集積した構造を得るため、レーザスクライブ法を用いてパターニングしながら各薄膜層を積層して薄膜太陽電池を製作する。
【0006】
図8Bに薄膜太陽電池の製造工程を示す。先ず、(a)ガラス基板810を準備し、(b)ガラス基板810の主面に透明電極膜820を形成し、(c)レーザを照射し走査して所定のピッチ(ユニットセルのピッチ:d)で透明電極膜820を除去することにより透明電極膜820に第1のスクライブ領域821,822,・・・を形成して透明電極膜820を短冊状に絶縁分割する。
【0007】
次に、(d)レーザ加工された透明電極膜820の上に、非晶質光電変換膜830を積層し、(e)先に形成された透明電極膜820の上に形成した第1のスクライブ領域821,822,・・・と重なる領域からずらした領域にレーザを照射し走査して所定のピッチdで非晶質光電変換膜830を除去することにより非晶質光電変換膜830に第2のスクライブ領域831,832,・・・を形成して非晶質光電変換膜830を短冊状に絶縁分割する。
【0008】
更に、(f)レーザ加工された非晶質光電変換膜830の上に裏面電極膜840を積層し、(g)非晶質光電変換膜830に形成した第2のスクライブ領域831,832・・・と重なる領域からずらした領域に所定のピッチdでレーザを照射し走査して裏面電極膜840を除去することにより、裏面電極膜840に第3のスクライブ領域841,842・・・を形成し、裏面電極膜840を短冊状に絶縁分割する。この裏面電極膜840は、非晶質光電変換膜830に形成した第2のスクライブ領域831,832,・・・を通じて透明電極膜820と電気的に接続されている。
【0009】
以上により、各ユニットセルが非晶質光電変換膜830を透明電極膜820と裏面電極膜840とで挟んだ構造を有すると共に、隣り合うユニットセルの透明電極膜820と裏面電極膜840とが電気的に相互に接続された薄膜太陽電池を得る。
【0010】
レーザスクライブ法による薄膜のパターニング方法の例として、特許文献1に挙げたようなものがある。この方法では、レーザを基板に照射しながら基板を主方向に走査することにより加工溝を形成するとともに、主方向の走査完了後、副方向に一定の距離を走査した後主方向に逆方向の走査を行うことにより、等間隔で複数の加工溝を形成する。また複数のレーザビームを用いて、同時に複数の溝を形成することにより、基板1枚当たりの加工に要する時間を短縮する方法が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−298017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
薄膜太陽電池の基板サイズは年々大型化する傾向にあり、現在は1100mm×1400mmの5.5G基板が一般に用いられるようになってきている。また、加工溝の幅は30〜100μm程度が要求される。ここで加工溝の幅が30μmである場合を考える。この場合、YAGレーザのスポット径を30μmに絞るため、連続した加工溝を形成するためには、基板ステージの走査ステップは30μmより小さくする必要がある。仮にビーム間の重なりを50%とすると、走査ステップは15μmである。この場合上記の1400mmの距離を加工し終わるまでに、
1400/(15/1000)=93333[回]
のビーム照射が必要である。市販のYAGレーザの発振周波数は100kHz程度であることから、この距離を移動するのにかかる時間は、
93333/(100×1000)=0.93333[s]
である。これより基板の移動速度は
1400/0.93333=1500[mm/s]
が必要である。
【0013】
ところで、加工溝は10mm程度の間隔で全面にわたって形成されるため、溝の本数は大まかに見積もって
1100/10=110[本]
となる。よって、この本数に応じて基板走査を繰り返して行う必要がある。
【0014】
1400mmの基板を1500mm/sで繰り返し走査を行う場合、走査の折り返しにともなう加減速の時間を考慮する必要がある。5.5G用のステージの加速度は1000m/s 程度で、1500mm/sの走査の折り返し(減速して停止し、停止後に逆方向に加速して1500mm/sの速度に達するまでの時間)には3sの時間を要することになる。
【0015】
したがって、1本のレーザビームの1400mmの距離に亘る走査を繰り返して1100mm幅の領域をレーザスクライブするために要する総時間は、
93333×110+3×109=429.6663(s)
となる。このうち、走査の折り返しに要する時間は330秒で、総時間の76%を占めている。
【0016】
一方、上記特許文献1には、複数のレーザビームを用いることにより、走査の回数を減らすことが記載されているが、110本のレーザビームを発生させることは、コスト的にもビーム間の特性ばらつきの点においても、実現性に乏しい。現実的には4〜8本のレーザビームを用いるにとどまる。ここで、4本のレーザビームを用いた場合には、1本の場合に比べて走査回数が約1/4の28回となり、総時間は約110秒、8本のレーザビームを用いた場合には約55秒が必要になるが、いずれの場合もステージの折り返しにかかる時間が総時間の76%前後を占めている。
【0017】
このように、高速で移動するステージの折り返しのために要する加減速の時間は大きな時間ロスであり、TAT(Turn Around Time)の向上のネックとなっている。また、基板のたわみがある場合、加工溝形状を一定とするためにはオートフォーカスが必要となるが、このステージ速度ではオートフォーカスが追従しないという問題がある。このため、基板内に加工不良個所が生じやすく、歩留まり向上のネックとなる。
【0018】
さらにまた、ステージの高速移動にともなう振動が加工溝の直線性を低下させ、加工溝がユニットセル境界となるべき位置からずれて形成されるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記問題を解決するため、本発明では、試料を載置して平面内で移動可能なステージ手段と、ステージ手段に載置された試料にレーザビームをパルス状に照射するパルスレーザビーム照射手段と、試料上のパルスレーザが照射される箇所を撮像しこの撮像して得た画像を画面上に表示するモニタ手段と、ステージ手段とパルスレーザビーム照射手段とモニタ手段とを制御する制御手段とを備えたレーザパターニング装置において、パルスレーザビーム照射手段は、レーザ光源と、レーザ光源から発射されたレーザビームを走査するビーム走査部と、ビーム走査部で走査されたレーザビームを複数の光路に分岐する光路分岐部と、光路分岐部で複数の光路に分岐されたそれぞれのレーザビームを試料の複数の箇所に同時に照射して副走査方向に走査させる光学部とを有し、制御手段は、パルスレーザビーム照射手段とステージ手段とを制御して、パルスレーザビームを副走査方向に一定に間隔で複数の箇所に照射することを繰り返しながらステージ手段を副走査方向とは直角な主走査方向に連続的に移動させることにより試料上の複数の箇所にそれぞれ主走査方向に連続する領域にパルスレーザビームを照射するようにした。
【0020】
更に本発明では、パルスレーザビームを試料に照射して試料をパターニングする方法において、パルスレーザ光源から発射されたパルスレーザビームを揺動させ、揺動させたレーザビームを複数の光路に分岐し、複数の光路に分岐されたそれぞれのレーザビームを試料の複数の箇所に同時に照射して副走査方向に走査させることにより副走査方向に一定に間隔で複数の箇所に照射し、記試料を副走査方向とは直角な主走査方向に連続的に移動させることにより試料上の一定間隔の複数の箇所でそれぞれ主走査方向に連続する領域にパルスレーザビームを照射するようにした。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、太陽電池に用いられる大型基板のレーザスクライブ加工において、基板の走査速度を大幅に低減することができるため、基板の加減速に要する時間ロスをほとんど0にすることができるとともに、オートフォーカスも容易となる。これにより、TAT及び歩留まり向上に大きな効果がある。
【0022】
また、あわせて、加工溝の直線性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の原理を説明する装置構成の概略を示すブロック図である。
【図2】実施例1の原理を説明する試料表面の加工溝形成手順を示す平面図である。
【図3】実施例1の原理を説明する試料表面の加工溝形成手順の変形例を示す平面図である。
【図4A】実施例1の装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図4B】実施例1の装置の分岐光学系の詳細を説明するブロック図である。
【図5】実施例2の実施例の光学系の原理を説明するブロック図である。
【図6】実施例3の実施例の光学系の原理を説明するブロック図である。
【図7】実施例4の実施例の光学系の原理を説明するブロック図である。
【図8A】薄膜太陽電池の構成を示す断面の斜視図である。
【図8B】薄膜太陽電池の各製造工程ごとの形状を示す薄膜太陽電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施例を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0025】
先ず、図1Aを用いて本発明の原理を説明する。 図1において、1はレーザ光源、2は基板、3はミラー、31はガルバノスキャナ、4は対物レンズ、5、51、52、53はレーザビーム、61、62、63は加工溝(スクライブライン)、7はステージ、8はコントローラ、9はシャッタ、10はカメラ、11はモニタである。対物レンズ4は、その焦点の位置がミラー3上でレーザ光源1から発射されたレーザビーム5が入射する位置と一致するように調整されている。
【0026】
レーザ光源1として、一般にYAGレーザが用いられる。基板2上の膜が透明導電膜の場合のレーザ光波長は1064nm、シリコン(非晶質光電変換膜)膜の場合のレーザ光波長は532nmが適している。レーザ光源1のパルス発生、出力されるレーザ波長の切替え(1064nmか532nmのいずれかを選択)、ガルバノスキャナ31の走査、及びステージ7の移動はコントローラ8により制御される。主方向はステージ7の移動方向であるX方向と同じであり、副方向はガルバノスキャナ31によりミラー3が移動する方向に対応している。
【0027】
図1に示した装置を用いて図8Bの(c)の工程に示すようなガラス基材810の表面に形成した透明導電膜820に加工溝821,822(透明導電膜21が除去された領域)が形成される様子を図2により説明する。なお、図2において、図8B(c)の加工溝821,822に対応する加工溝は61〜65である。加工溝61〜65は膜の上から見た加工溝である。図中の黒丸の円61−1,62−1,63−1・・・の各々はレーザビーム51、52、53・・・の1パルス毎の加工スポットを表す。レーザビーム51、52、53・・・の各加工スポット位置61−1,62−1,63−1・・・はカメラ10で撮像されてモニタ11の画面上に表示され、それぞれ所望の位置に照射されるようにコントローラ8を介してレーザ光源1から発射されるレーザビーム5のパルス発振周波数、及びガルバノスキャナ31で駆動されるミラー3の遥動角度及び速度を調整する。主方向及び副方向は図1に示したものと同一である。矢印611,621、・・・は加工の順序を示す。
【0028】
コントローラ8で制御されて1064nmの波長が選択されたレーザ光源1から発射された波長1064nmのレーザ5は最初の5パルスの間に、ガルバノスキャナ31で駆動されたミラー3の走査により、レーザビームが基板2上に照射される位置(加工スポット)が61→62→63→64→65の順に移動していく。この後ガルバノスキャナ31で駆動されたミラー3が初期位置に復帰することにより加工スポットが61の位置に戻り加工スポット61−2を照射する。65→61の復帰の間(矢印651)はレーザ5の光路をコントローラ8で制御されるシャッタ駆動部90で駆動されるシャッタ9で遮断するようにオン・オフ制御することにより、無用の加工が行われることを防ぐ。
【0029】
ミラー3で走査されたレーザ5が加工スポット61−1から65−1まで移動し61−2に戻るまでの間、ステージの移動により加工スポットが主方向に徐々に(図2の例ではレーザ5のスポット径の半分)移動していく。このようにして、ガルバノスキャナの1往復毎に、加工スポットが主方向にずれていくことにより、61〜65の各加工溝が形成されていく。すなわち、複数の光路に分岐されたパルスレーザビームはそれぞれ試料2の表面をラスタスキャンと同様に一方向に走査することにより、主方向に連続する複数の領域に照射される。
【0030】
以上により、5本の加工溝61〜65を1回のステージ走査だけで形成することが可能である。したがって、61〜65の各々の加工溝の形成毎にステージを走査する従来方式と比較して、ステージの速度は1/5でよいことになり、ステージ移動の折返し時に要するステージ加減速の時間を短縮することができる。
【0031】
またあわせてステージの高速移動にともなう振動も低減でき、加工溝の直線性が改善される。
【0032】
図1〜3においては、ガルバノスキャナ31でミラー3を駆動していたが、代わりにポリゴンミラーを用いても同様のレーザビームの走査が可能である。
【0033】
なお、透明導電膜820の上に形成されたシリコン(非晶質光電変換膜)膜830にレーザスクライブによる溝加工を行う場合には、波長が532nmのレーザを用いればよい。
【0034】
図2では加工溝が5本の場合を挙げたが、以下に定量的に従来技術との比較を示す。
加工スポットの径は30μm、スポット間の重畳率(図2において、加工スポット61−1と61−2とが径方向に重なっている割合)は50%と仮定する。すなわち主方向のスポット間隔(例えば、加工スポット61−1の中心と61−2の中心との間隔)は15μmとなる。また、加工溝の間隔は10mmと仮定する。基板サイズは主方向に1400mm、副方向に1100mmとする。
【0035】
課題の欄に記載したのと同じ条件(レーザの発信周波数100kHz,テーブルの加速度1000mm/s)で計算し、レーザビームの副走査方向の戻りの時間が走査の時間と同じ(5パルス分)とする。
【0036】
基板の主方向の移動にかかる時間は、従来技術に比べ基板移動速度が1/10(副方向の往復で各々5パルス分合計)になることから、
93333/(100×1000)×10=9.3333[s]
である。
基板移動速度は
1500/5=300[mm/s]
加速度1000mm/sでこの速度の走査の折り返しを行うには0.3sの時間を要する。
主方向の移動の繰り返し回数は
110/5=22[回]
したがって、基板全面のスクライブに要する時間は
9.3333×110/5+0.3×(110/5−1)=211.9[s]
となる。
【0037】
このうちテーブルの折り返しに要する時間は6.3秒で全体の3%程度になる。これは、課題の欄に記載した従来方式の1本のレーザビームを用いた方式に比べて、総時間が半分程度に短縮されるとともに、総時間に占めるテーブルの折り返しに要する時間の割合が大幅に低減されたことになる。
【0038】
基板2上のレーザ5の副方向への走査として図2では61→62→63→64→65→61→62・・・と一方向のみの走査で加工を行う方法を説明したが、別な走査方法として図3に示すように、361−1→363−1→365−1→364−1→362−1→361−2→363−2→365−2→364−2→362−2と両方向の走査で加工を行うようにし、照射位置が365−1と365−2との間で主方向の照射位置がレーザビーム5の半径分ずれる(スポット間の重畳率50%の場合)ステージ7の主方向への移動速度を設定しても良い。
この図3に示したような走査方法によれば、図2で説明した走査方法と比べてレーザの利用効率が高くなるが、走査の折り返し点(図3において、レーザビーム5の照射位置が365−1から365−2に移る点)においては加減速による加工間隔の乱れが生じる。そのため、走査の折り返し点ではシャッタ9によりレーザ光ビーム5を遮断し、線形移動(一定速度)の区間のみを加工に用いることで等間隔の加工溝を形成することが可能である。
【0039】
さらに、図2及び3の、61、62、63、64、65それぞれの間隔を短縮して、副
方向にも加工スポットが重なり合うようにすれば、100μm程度の幅の加工溝を形成す
ることも可能である。この溝幅は、副方向の走査速度・走査距離の可変により、さらに大
きな値に変えることもできる。これにより、スクライブと同一の装置で基板周辺部の膜除
去(エッジデリーション)を行うことも可能となる。
【0040】
この他の動作は図2を用いて説明した場合と全く同じであり、同様のTAT及び歩留まり向上の効果が得られる。
【0041】
次に、上記に説明した本発明の原理を適用した実施例を、図4A及びBを用いて説明する。図4Aに示した装置構成は、先に本発明の原理を説明した図1に示した装置構成と基本的には同じであり、同じ番号を付してある。図1に示した構成との違いは、ミラー43の後でレーザビーム5を分岐光学系40で4つに分岐し、各々の分岐したレーザの光路中に対物レンズ4−1〜4−4を設けたことである。また、4分岐の各光路の長さは互いに等しくなるような光学配置としているため、ミラー43の偏向による走査はどの光路においても等価である。この他の構成に関しては図1で説明したものと同じである。
【0042】
分岐光学系40について、図4Bにその詳細を示す。レーザ光源1から発射されたレーザビーム5は、ガルバノスキャナ431で駆動されるミラー43によりハーフミラー401の方向に反射される。ハーフミラー401は入射したレーザビーム5の光量の半分をミラー402の側へ透過し、残りをミラー407の側に反射する。即ち、ミラー402とミラー407には同じ光量のレーザが入射する。
【0043】
このうち、ミラー402に入射したレーザはハーフミラー403の方向に反射され、ハーフミラー403に入射したレーザの光量の半分はハーフミラー403を透過してミラー404に到達し、ハーフミラー403に入射したレーザの光量の残り半分はミラー405の方向に反射される。ミラー404に到達したレーザは反射されて対物レンズ4−1に入射する。一方、ミラー405の方向に反射されたレーザはミラー405で反射されてミラー406に入射し、ミラー406で反射されて対物レンズ4−2に入射する。
【0044】
また、ハーフミラー401で反射されてミラー407に入射したレーザはミラー407で反射されてハーフミラー408に入射する。ハーフミラー408に入射したレーザは入射した光量の半分がハーフミラー408を透過してミラー409に入射し、ミラー409で反射された後ミラー410に入射して反射され対物レンズ4-3に入射する。
【0045】
一方、ハーフミラー408で反射されたレーザはミラー411に入射して反射され対物レンズ4-4に入射する。
【0046】
ここで、各対物レンズ4−1〜4−4は同じ大きさで同じ特性を有するものを用い、先に説明したように、ガルバノスキャナ431で駆動されるミラー43から各対物レンズ4−1〜4−4までの光路長が全て等しくなるように各ミラー及びハーフミラーの位置を設定する。このとき、各対物レンズ4−1〜4−4の焦点位置がガルバノスキャナ431で駆動(遥動)されるミラー43のレーザビーム5が入射する位置に重なるように光路長を設定する。これにより、ガルバノスキャナ431でミラー43を駆動することにより、各対物レンズ4−1〜4−4を介して基板2に照射されるレーザビーム45−1〜45−4は基板2上を同じように走査する。
【0047】
また、各対物レンズ4−1〜4−4を介して基板2上を走査するレーザビーム45−1〜45−4は、基板2上の連続した照射スポット位置を照射するように各対物レンズ4−1〜4−4の位置及び各レーザビーム45−1〜45−4の走査範囲を設定する。このように設定することにより、ガルバノスキャナ431でミラー43を駆動することで対物レンズ4−1を介した基板2上の走査領域から対物レンズ4−4を介した走査領域まで連続した領域を走査することができ、図1で説明した基板2上の走査領域に対してテーブル7の1回の移動で4倍の領域を走査できるようになり、その分テーブルの折り返し回数が減少し、スループットが向上する。
【0048】
即ち、本発明の原理説明で掲載したのと同じ条件(レーザの発信周波数100kHz,テーブルの加速度1000mm/sレーザビームの副方向の走査の戻りの時間が走査の時間と同じ)で計算すると、基板の全領域を加工するのに要する時間(総時間)は
9.3333×110/5/4+0.3×(110/5/4−1)
端数を切り上げると
9.3333×6+0.3×(6−1)=57.5[s]
より約57秒となり、そのうちテーブルの折り返しに要する時間は1.5秒で全体の3% 程度になる。 これは、課題の欄に記載した従来方式の1本のレーザビームを用いた方式に比べて、総時間が大幅に短縮されるとともに、総時間に占めるテーブルの折り返しに要する時間の割合が大幅に低減されたことになる。
【0049】
また、このときのステージ7の移動速度は150mm/Sであり、オートフォーカスによる追従が可能な速度である。そのため、基板2のたわみやステージ7の移動時の振動などにより基板表面の高さに変動があってもフォーカスずれによる加工不良はほとんど問題とならない。
【0050】
さらに、ステージ速度が1500mm/sから150mm/sに低下することにより振動が大幅に低減でき、加工溝の直線性が向上する。
【0051】
なお、上記では副方向の走査の往復にかかる時間が等しいと仮定したが、往路すなわち加工が行われる方向は低速に移動し、復路すなわち初期位置に戻る方向は高速に移動するようにすれば、時間ロスをさらに低減可能である。
【0052】
また、ガルバノスキャナ431を用いる代わりにポリゴンミラーを用いても同様のレーザビームの走査が可能なことは、前述した通りである。
【0053】
以上により、本発明によればTAT及び歩留まり向上の効果が得られる。
【0054】
さらに、対物レンズ4を介して10mm間隔の溝を15本、すなわち図4Aに示した構成において、分岐したレーザ光路の間隔Wを150mmとし、各々のレーザ光路について副方向に150mmの走査を行うようにガルバノスキャナ431によるミラー43の駆動範囲を設定すると、4つの対物レンズ4−1〜4−4を介して基板を走査する範囲が600mmとなり、主方向に2回の走査あるいは1往復の走査を行えば、1400×1200の領域を加工できる。主方向1回の走査に要する時間は
93333/(100×1000)×(15×2)=28[s]
となる。すなわち基板全面をカバーして加工することが、
(28+0.3)×2=56.6
すなわち総時間約57秒(発明の原理説明に示した条件を適用した場合)ででき、そのときのステージ速度は1500/(15×2)=50mm/sである。
【0055】
さらにまた図4Bの光学系を拡張して8分岐として、8本のレーザビームを同時に照射して副走査の方向に10mmピッチで14箇所に照射する構成にすれば、1回の走査のみで1400×1100の領域を加工することも可能で、この場合1枚の基板を93333/(100×1000)×(14×2)=約26秒で加工可能になる。
【0056】
この場合のステージ速度は1500/(14×2)=約54mm/sであるため、オートフォーカス制御が十分に追従できる速度であり、フォーカスずれによる加工不良がほとんど問題とならない。
【0057】
また、前述のようにステージ速度の低下により振動が大幅に低減でき、加工溝の直線性が向上する。
【0058】
以上により、TATを短縮できるとともに歩留まりが向上するという効果が得られる。
【実施例2】
【0059】
実施例1においては、各対物レンズ4−1〜4−4の焦点の位置がガルバノスキャナ431によって駆動されるミラー43上でレーザ光源1から発射されたレーザが入射する位置と一致するように設定する構成に成っていたが、本実施例においては、対物レンズとしてfθレンズ54を用いる構成とした。説明を簡単にするために、実施例1において原理説明に用いた図1に対応させた構成を図5に示す。この図5に示した構成においては、図1に構成と異なる部分だけを取り出して示している。
【0060】
本実施例において、対物レンズとしてfθレンズ54を用いることで、ミラー3の偏向により対物レンズ(fθレンズ)54に入射するレーザビームの光軸の角度が変わっても同一面上にレーザ光が集光する。これにより、副方向の広範囲にわたって同一形状の加工溝551〜553を形成することが可能になる。fθレンズ54としては、1064nmまたは532nmのレーザ光を250mmの範囲で走査でき、スポット径を約30μmに絞れるものが市販されている。これを用いれば、副方向に250mmの範囲を走査することも可能である。
【0061】
また、ガルバノスキャナ431を用いる代わりにポリゴンミラーを用いても同様のレーザビームの走査が可能なことは、前述した通りである。
【0062】
ここで、実施例1の場合のようにレーザ光源1から発射されたレーザビームを図4Bで説明したような分岐光学系を用いて4分岐した後のレーザ光路上に対物レンズ4−1〜4−4に置き換えて本実施例のfθレンズ54−1〜54−4(図示せず)を設け、レーザ光路の間隔Wを250mmとし、加工溝の間隔を10mm、1回の副方向走査で形成される溝の本数を25本とすれば、1回の主方向への走査によって1400mm×1000mmの領域を加工することが可能となる。この領域は基板サイズと比べて副方向に100mm狭いが、実際の基板では端部は基板保持などに用いられるため、この程度の領域の加工でも大きな問題はない。
このときの総加工時間は実施例1と同様な計算により、93333/(100×1000)×(25×2)=約47秒になり、従来技術と比べて大幅な時間短縮を実現できる。また、このときのステージ7の移動速度は1500/(25×2)=約30mm/sであり、オートフォーカス制御が十分に追従できる速度である。
【0063】
また、実施例1と同様、ステージ速度の低下により振動が大幅に低減でき、加工溝の直線性が向上する。
以上のように、本実施例においても実施例1と同様、TATの短縮及び歩留まり向上の効果が得られる。
【実施例3】
【0064】
図6は実施例3の光学系を示したものである。612、613は補正ミラー、641〜643は対物レンズである。この他は実施例1の原理説明をした図1に記載した構成と同じであるため、図では省略している。
【0065】
本実施例では、加工溝の位置に対応して対物レンズ641〜643を個別に設けている。補正ミラー612,613はミラー3の偏向にともなう光軸の傾斜を補正し、どの対物レンズに対しても光軸が垂直に入射するようにするものである。また、これらの対物レンズは各々焦点距離のばらつきがあるにもかかわらず、個別に位置を最適化調整することにより、どの対物レンズでも基板2上では同一形状のビーム651〜653を得ることが可能である。図では加工溝が3本の例を示したが、加工溝の本数に合わせた個数の対物レンズを配置すればよいことは勿論である。
【0066】
また、対物レンズ641〜643の間隔を可変とすることにより、加工溝661〜663の間隔の可変にも対応可能である。
【0067】
或いは、加工溝651〜653の間隔を可変しない場合は、対物レンズ641〜643をレンズアレイとして形成することも可能で、この場合、対物レンズの固定治具が一体で済むという利点がある。
【0068】
ここで、実施例1の場合のようにレーザ光源1から発射されたレーザビームを図4Bで説明したような分岐光学系を用いて4分岐した後のレーザ光路上に図6で説明した対物レンズ641〜643に対応する複数の対物レンズと補正ミラー612,613に対応する補正ミラーを設け、レーザ光路の間隔Wを250mmとすれば、1回の主方向走査によって1400mm×1000mmの領域を加工することが可能となる。この領域は基板サイズと比べて副方向に100mm狭いが、実際の基板では端部は基板保持などに用いられるため、この領域の加工でも大きな問題はない。また、分岐数を5分岐に変更すれば、加工領域を1400mm×1250mmに拡大可能である。
以上のように、本実施例においても実施例1と同様、TATの短縮及び歩留まり向上の効果が得られる。
【実施例4】
【0069】
図7は実施例4の光学系を示したものである。710は回折光学素子、THはトップハット結像位置、711はコリメータレンズ、712,713は補正ミラー、741,742,743は対物レンズである。他は実施例1の原理説明をした図1に記載した構成と同じであるため図では省略している。
本実施例では、回折光学素子710によりトップハット像を得ている。この光をコリメータレンズ711によりいったん平行ビームに変換した後、ミラー3により副方向に走査を行う。この走査されたビームの各々について、対物レンズ741,742,743により基板2上にトップハット像が再結像される。このように、ガウシアンビームより均一なトップハット加工を行う場合においても、副方向の走査が適用可能である。
【0070】
実施例1と同様、TATの短縮及び歩留まり向上の効果が得られる。なお、図では加工溝が3本の例を示したが、加工溝の本数に合わせた個数の対物レンズを配置すればよいことは勿論である。また、本実施例では複数の対物レンズ741,742,743を用いているが、代わりに実施例2と同様のfθレンズを用いても同じ効果が得られることは勿論である。さらにまた、実施例1と同様、ミラー3と対物レンズ741,742,743との間でビームを複数に分岐する光学系を設けることも可能である。
以上のように、本実施例においても実施例1と同様、TATの短縮及び歩留まり向上の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、太陽電池基板の加工に用いることができるのは勿論であるが、液晶表示素子など大型基板上に形成された膜の加工により作成されるデバイス一般の製造装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・レーザ光源 2・・・基板 3・・・ミラー 31・・・ガルバノスキャナ 4、4−1,4−2,4−3,4−4、41、42、43、641、642、 643・・・対物レンズ 54・・・fθレンズ 61、62、63、64、
65・・・加工溝 7・・・ステージ 8・・・コントローラ 9・・・シャッタ 710・・・回折光学素子 711・・・コリメータレンズ 712、713・・・補正ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置して平面内で移動可能なステージ手段と、
該ステージ手段に載置された試料にレーザビームをパルス状に照射するパルスレーザビーム照射手段と、
前記試料上の前記パルスレーザが照射される箇所を撮像し該撮像して得た画像を画面上に表示するモニタ手段と、
前記ステージ手段と前記パルスレーザビーム照射手段と前記モニタ手段とを制御する制御手段と
を備えた装置であって、
前記パルスレーザビーム照射手段は、
レーザ光源と、
該レーザ光源から発射されたレーザビームを走査するビーム走査部と、
該ビーム走査部で走査されたレーザビームを複数の光路に分岐する光路分岐部と、
該光路分岐部で複数の光路に分岐されたそれぞれのレーザビームを前記試料の複数の箇所に同時に照射して副走査方向に走査させる光学部とを有し、
前記制御手段は、前記パルスレーザビーム照射手段と前記ステージ手段とを制御して、前記パルスレーザビームを前記副走査方向に一定に間隔で複数の箇所に照射することを繰り返しながら前記ステージ手段を前記副走査方向とは直角な主走査方向に連続的に移動させることにより前記試料上の複数の箇所にそれぞれ前記主走査方向に連続する領域に前記パルスレーザビームを照射する
ことを特徴とするレーザパターニング装置。
【請求項2】
前記光学部は、fθレンズを有することを特徴とする請求項1記載のレーザパターニング装置。
【請求項3】
前記パルスレーザビーム照射手段は、前記パルスレーザビームを前記試料上で一方向にスキャンして前記試料上の複数の箇所にそれぞれ前記主走査方向に連続する領域に照射することを特徴とする請求項1記載のレーザパターニング装置。
【請求項4】
前記パルスレーザビーム照射手段は、前記パルスレーザビームを前記試料上で往復させてスキャンして前記試料上の複数の箇所にそれぞれ前記主走査方向に連続する領域に照射することを特徴とする請求項1記載のレーザパターニング装置。
【請求項5】
前記パルスレーザビーム照射手段は、前記レーザ光源と前記ビーム走査部との間にシャッタ部を有し、前記制御手段は前記ビーム走査部と同期させて前記シャッタ部を制御して前記レーザ光源から発射されたパルスレーザビームをオン・オフ制御することを特徴とする請求項1記載のレーザパターニング装置。
【請求項6】
前記レーザ光源は波長が1064nm又は532nmの何れかのパルスレーザビームを切替えて発射することを特徴とする請求項1記載のレーザパターニング装置。
【請求項7】
パルスレーザビームを試料に照射して試料をパターニングする方法であって、
パルスレーザ光源から発射されたパルスレーザビームを揺動させ、
該揺動させたレーザビームを複数の光路に分岐し、
該複数の光路に分岐されたそれぞれのレーザビームを試料の複数の箇所に同時に照射して副走査方向に走査させることにより前記副走査方向に一定に間隔で複数の箇所に照射し、
前記試料を前記副走査方向とは直角な主走査方向に連続的に移動させることにより前記試料上の一定間隔の複数の箇所でそれぞれ前記主走査方向に連続する領域に前記パルスレーザビームを照射する
ことを特徴とするレーザパターニング方法。
【請求項8】
前記複数の光路に分岐されたそれぞれのレーザビームを試料の複数の箇所に同時に照射することを、fθレンズを介して行うことを特徴とする請求項7記載のレーザパターニング方法。
【請求項9】
前記パルスレーザビームを前記試料上で往復させてスキャンして前記試料上の複数の箇所にそれぞれ前記主走査方向に連続する領域に照射することを特徴とする請求項7記載のレーザパターニング方法。
【請求項10】
前記パルスレーザビームを前記試料上で一方向にスキャンして前記試料上の複数の箇所にそれぞれ前記主走査方向に連続する領域に照射することを特徴とする請求項7記載のレーザパターニング方法。
【請求項11】
前記レーザ光源から発射されたパルスレーザビームの光路を、前記パルスレーザビームの前記試料上の走査と同期させてシャッタでオン・オフ制御することを特徴とする請求項7記載のレーザパターニング方法。
【請求項12】
パルスレーザ光源から発射されたパルスレーザビームは波長が1064nmであり、前記試料上の形成された透明導電膜を加工することを特徴とする請求項7記載のレーザパターニング方法。
【請求項13】
パルスレーザ光源から発射されたパルスレーザビームは波長が532nmであり、前記試料上の形成された非晶質光電変換膜を加工することを特徴とする請求項7記載のレーザパターニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2011−121106(P2011−121106A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282953(P2009−282953)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】