説明

レーザースクライブ割段方法

【課題】高精度なレーザースクライブが実現可能なレーザースクライブ割段方法
【解決手段】平面矩形状の基板2の互いに直交する第一方向Fと第二方向Sとにそれぞれ沿ってレーザーを複数列照射して格子状にスクライブ21,22を形成して基板2を割段するレーザースクライブ割段方法であって、前記基板2を複数列にレーザーを照射してスクライブ21,22を形成する前に、第一列211を形成する位置の近傍側縁に補強保持部材3を密着配置するスクライブ前処理工程と、前記補強保持部材3から近い順番に前記第一方向Fと平行な第一列211〜第n列にレーザーを照射してスクライブ21を形成する第一スクライブ工程と、この第一スクライブ工程でスクライブ21が形成された第一列211から第n列にかけて前記第二方向Sと平行な第一列221〜第m列にレーザーを照射してスクライブ22を形成する第二スクライブ工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザーを照射して格子状にスクライブを形成して基板を割段するレーザースクライブ割段方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ローパスフィルター、IRカットフィルター、UVカットフィルター、UVIRカットフィルター、その他の光学物品が種々の分野で用いられている。この光学物品は、カバーガラス等の板状の光学素子を含んで構成されており、この板状の光学素子は、ガラス等からなる大きな光学基板を切断することで製造される。
ここで、光学基板を切断する方法として、例えば、ガラス基板にレーザー光を照射して罫書きする亀裂(以下、スクライブという)を所定の深さまで導入し、その後、基板のスクライブを導入した箇所に応力を加えて基板を押し割ることが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のものは、被加工基板の縁部の一方の表面及び他方の表面が、端材クランパーに取り付けられた比較的剛性の高い弾性材料からなる部分により保持されるとともに、被加工基板の他方の表面が、割断加工時に被加工基板がその延在面に沿って変位するよう当該被加工基板を水平移動可能に支持する高さホルダにより支持されている。これによれば、被加工基板の縁部における切落とし加工等の割断加工を高品位でかつ高速に実現することができる。
【0004】
特許文献2に記載のものは、先行移動するレーザー光照射とそれに続く冷却手段の併用によって、ガラス、石英、セラミック、半導体などの脆性材料表面層に熱応力に起因するスクライブを発生させ、このスクライブに沿って機械的手段である応力印加によって材料の全厚み方向にわたるブレークを行う脆性材料の割断装置である。この装置では、材料表面のレーザースクライブ発生を材料の終端間際で停止させることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、ガラス、セラミック、シリコンウェーハ等をステージに載置してレーザービームを照射し、割段している。この際、ステージに載置されたガラス、セラミック、シリコンウェーハ等は、これらの平面が固定用治具で圧着され、ステージと固定用治具とに固定されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3887394号
【特許文献2】特開2006−137169号公報
【特許文献3】特開2002−110589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、クランパーによる被加工基板の保持固定は十分ではなく、レーザースクライブ加工により、レーザー照射による高温部が冷却ユニットにより冷却されることによる熱衝撃等により、レーザー照射されていない箇所にまで亀裂が生じる先行亀裂(先走り)の長さを抑制するには、十分ではない。また、基板端部にクランパーの保持固定代が必要となるため、歩留まりが低下するという問題もある。
【0008】
また、特許文献2に記載のものは、材料端部までレーザー照射によりスクライブを形成しないため、その後の機械応力印加により割段する際、割断面が予定する位置から乱れてしまうという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献3に記載のものは、ガラス、セラミック、シリコンウェーハ等の基板の平面が固定用治具で圧着され、ステージと固定用治具とに固定される。しかし、基板として光学物品等を用いる場合、平面に固定用治具を圧着させることによる基板の光学領域面の汚損または損傷等が問題となる。また、精密機器部品を用いる際は、基板が小さいため、固定用治具を基板平面に圧着させること自体が困難となってしまうという問題もある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、高精度なレーザースクライブ加工が実現可能なレーザースクライブ割段方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[適用例1]
本適用例に係わるレーザースクライブ割段方法は、平面矩形状の基板の互いに直交する第一方向と第二方向とにそれぞれ沿ってレーザーを複数列照射して格子状にスクライブを形成して基板を割段するレーザースクライブ割段方法であって、前記基板の複数列にレーザーを照射してスクライブを形成する前に、第一列を形成する位置の近傍側の前記基板の縁に補強保持部材を密着配置するスクライブ前処理工程と、前記補強保持部材から近い順番に前記第一方向と平行な第一列、第二列、・・・、第n列にレーザーを照射してスクライブを形成する第一スクライブ工程と、前記第二方向と平行な第一列、第二列、・・・、第m列にレーザーを照射してスクライブを形成する第二スクライブ工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記基板にレーザーを照射する前に、第一列を形成する位置の近傍側縁に補強保持部材を密着配置する。このため、基板は、補強保持部材に密着配置されることでレーザー照射による熱衝撃等により発生してしまう先走りを防止またはその長さを極力短く抑えられる。よって、熱衝撃等により予定しない箇所にスクライブが生じてしまうおそれがない。したがって、上記適用例では、レーザースクライブ加工によるスクライブを予定する箇所へ確実に形成することができる。
【0013】
[適用例2]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記第一スクライブ工程の前に、前記第一列のスクライブ予定線上のスクライブ開始側端部に初期亀裂を形成する初期亀裂形成工程を有することが好ましい。
【0014】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、第一スクライブ工程の前に、第一列のスクライブ予定線上のスクライブ開始側端部に初期亀裂を形成する初期亀裂形成工程を有するので、所定箇所に確実にスクライブを形成することができる。
【0015】
[適用例3]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記初期亀裂をダイシングにより形成したことが好ましい。
【0016】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記初期亀裂をダイシングにより形成するので、周知慣用技術により初期亀裂を容易に形成することができる。
【0017】
[適用例4]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記基板は、レーザーを照射する面側に圧縮応力を有する膜が形成されていることが好ましい。
【0018】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、基板のレーザー照射面側に圧縮応力を有する蒸着膜が形成されるので、基板のレーザー照射面側自体には抗力として引っ張り応力が生じる。このとき、レーザー照射によりスクライブが形成される箇所は、圧縮応力を有する蒸着膜と共に開裂するため、基板のスクライブ箇所は引っ張り方向へ力が作用する。その反面、レーザー照射される箇所近傍におけるレーザー照射されていない箇所、つまり、蒸着膜が開裂していない箇所においては蒸着膜が圧縮応力により基板の引っ張り方向への力を相殺する。このため、レーザー照射されてスクライブが形成される箇所以外は蒸着膜により開裂方向への力が相殺されるので、先走りの発生をより一層抑えることができる。
【0019】
[適用例5]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記膜は誘電体多層膜であることが好ましい。
【0020】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、膜が誘電体多層膜であるので、例えば、数十層からなるような多層構造を有する場合は、より強い圧縮応力を基板に作用させる。このため、基板にはより強い引っ張り応力がしょうじることとなり、先走りの発生をより一層確実に抑えることができる。
【0021】
[適用例6]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記膜はイオンアシスト法を用いて成膜された膜であることが好ましい。
【0022】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、膜がイオンアシスト法を用いて成膜されるので、周知慣用技術により膜を容易に形成することができる。
【0023】
[適用例7]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記膜は酸化ケイ素の膜を有することが好ましい。
【0024】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
[適用例8]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記初期亀裂をダイシングにより形成したことが好ましい。
【0026】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、例えば、レーザースクライブ加工する前工程として、ダイシング等によりレーザー照射開始点近傍に切欠を形成するような場合、補強保持部材の厚み寸法が基板の厚み寸法より薄いので、ダイシングする際、補強保持部材がダイシング装置と干渉することがなく、容易にダイシング作業を行うことができる。
【0027】
[適用例9]
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、前記基板は、レーザーを照射する面側に圧縮応力を有する膜が形成されていることが好ましい。
【0028】
上記適用例に係わるレーザースクライブ割段方法では、基板の厚みが0.1mm以上0.3mm以下である。このため、レーザー照射により形成されるスクライブが基板のレーザー照射面裏側まで到達してしまう、いわゆるフルカットラインを生じるおそれがない。
また、一般的に、このフルカットラインが形成されることにより、先走りの発生が促進される傾向があるが、当該基板厚みであれば、フルカットラインが生じることがなく、先走りの発生のおそれもない。したがって、上記適用例では、レーザースクライブ加工によるスクライブを予定する箇所へ確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態におけるレーザースクライブ割段装置を説明するための概略図であり、(A)は基板にレーザースクライブ割段装置が接近する状態を示す概略図、(B)はレーザースクライブ割段装置が基板をダイシングする状態を示す概略図、(C)はレーザースクライブ割段装置が基板にレーザーを照射することでスクライブを形成している状態を示す概略図である。
【図2】本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を実施した直後の状態を説明するための平面概略図である。
【図3】本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を実施した直後の状態を説明するための正面概略図である。
【図4】本実施形態におけるUVIRカットフィルター膜を設けた基板を拡大した拡大正面図である。
【図5】本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を説明するための模式図であり、(A)は基板をステージに載置した状態を示す模式図、(B)は基板と板材とを密着配置させるスクライブ前処理工程を示す模式図、(C)は基板端部をダイシングする工程を示す模式図、(D)は第一方向にレーザースクライブする第一スクライブ工程を示す模式図、(E)は第一スクライブ工程終了後の状態を示す模式図である。
【図6】本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を説明するための模式図であり、(F)は第一スクライブ工程後にステージを回転させた状態を示す模式図、(G)は基板端部をダイシングする工程を示す模式図、(H)は第二方向にレーザースクライブする第二スクライブ工程を示す模式図、(I)は第二スクライブ工程終了後の状態を示す模式図である。
【図7】本実施形態における基板端部をダイシングする状態を説明するための正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態におけるレーザースクライブ割段方法について以下に図面に基づいて説明する。
図1に基づいて、レーザースクライブ割段装置を用いたスクライブの形成方法について説明する。
図1は、本実施形態におけるレーザースクライブ割段装置を説明するための概略図であり、(A)は基板にレーザースクライブ割段装置が接近する状態を示す概略図、(B)はレーザースクライブ割段装置が基板をダイシングする状態を示す概略図、(C)はレーザースクライブ割段装置が基板にレーザーを照射することでスクライブを形成している状態を示す概略図が示されている。
【0031】
図1(A)に示すように、レーザースクライブ割段装置1は、ステージ10に載置された基板2をダイシングするダイシング装置4と、ダイシングされた箇所を開始点としてレーザー照射するレーザー照射装置5と、レーザー照射された高温の箇所に冷却水を噴射することで急冷する冷却水噴射装置6とを備えている。これらはケース1Aに一体に設けられている。このレーザースクライブ割段装置1は、直線上に移動するための図示しない駆動装置を備えており、ステージ10に載置される基板2に接近または離隔するようになっている。そして、図1(B)に示すように、基板2に近接したダイシング装置4によって、基板2の端部は、ダイシングされて後述する切欠が形成される。その後、図1(C)に示すように、レーザー照射装置5は、切欠を開始点として基板2にレーザー照射し、さらに、レーザー照射された基板2の高温箇所は冷却水噴射装置6により冷却水を噴射されることで急冷される。この急激な温度変化による熱衝撃によって基板2にスクライブ21,22が形成される。
【0032】
基板2は、ガラスまたは水晶等の透光性を有する部材であり、その厚み寸法は0.1mm以上0.3mm以下である。この基板2には光学多層膜で構成されたUVIRカットフィルター(Ultraviolet-Infrared cut filter)7が蒸着形成されている(図4参照)。また、板材3は、長尺な矩形状の平板であって、基板2と同様にガラスまたは水晶等の部材であり、その厚み寸法は基板2よりも小さい。
ここで、前記UVIRカットフィルター7は、基板2の表面上に高屈折率材料層(High)であるTiOと低屈折率材料層(Low)であるSiOとを交互に順に積層して構成されている。また、前記UVIRカットフィルター7の形成方法としては一般的なイオンアシストを用いた電子ビーム蒸着(いわゆるIAD法)により形成した。
【0033】
UVIRカットフィルター7は、反射防止膜に比べて、誘電体多層膜の積層数が極めて多く、反射防止膜の積層数:4〜5層(例えば、高屈折率材料層(High)であるTiOと低屈折率材料層(Low)であるSiOとを交互層)に比べて、UVIRカットフィルター7は、数十層からなっている。本発明に係るUVIRカットフィルターは、37層からなるものと、49層からなるもの2種類で実験並びに評価、分析を行った。
UVIRカットフィルターのような数十層の誘電体多層膜であって、低屈折率材料層(Low)にSiOを使用してIAD法にて厚みが0.1mm以上0.3mm以下の光学基板の表面に成膜すると、成膜面側が凸状に反りかえる現象が極めて強くなる。
【0034】
図2には、本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を実施した直後の状態を説明するための平面概略図が示されている。図3には、本実施形態における基板と板材との密着配置の状態を説明するための正面概略図が示されている。
【0035】
図2に示すように、矩形平面を有するステージ10に矩形状の基板2が載置される。そして、補強保持部材としての板材3は、その長辺の一辺が基板2の側縁に密着され、その短辺の一辺が基板2の側縁に直角に交わる一辺と同一直線上となるように配置される。ここで、板材3が密着配置される側縁に沿う方向を第一方向Fとし、この第一方向Fに垂直な方向を第二方向Sとする。基板2は、第一方向Fおよび第二方向Sにおいて、レーザーが照射され、格子状にスクライブ21,22が形成される。
【0036】
ここで、第一方向Fに沿って形成される第一スクライブ21は、板材3に近い方から順番に第一列211、第二列212、第三列213、・・・、21n、とする。また、第二方向Sに沿って形成される第二スクライブ22は、板材3に近い方から順番に第一列221、第二列222、第三列223、・・・、22m、とする。
また、図3に示すように、基板2および板材3は、ステージ10に設けられた吸気通路11から図示しない吸引ポンプ等により吸引されることでステージ10に吸引固定される。
【0037】
次に、図4に基づいて、基板2と、これに形成されたUVIRカットフィルター7について説明する。
図4には、本実施形態におけるUVIRカットフィルター7を設けた基板を拡大した拡大正面図が示されている。
図4に示すように、基板2には、レーザーが照射される面側にUVIRカットフィルター7が蒸着形成されている。このUVIRカットフィルター7は、基板2に対し中心線Cに向かって圧縮応力71を作用する。そして、基板2は、圧縮応力71に対し、その抗力として基板2の中心線Cから端部へと向かって引っ張り応力23を作用している。本実施形態において、基板2に形成されたUVIRカットフィルター7は、圧縮応力71と引っ張り応力23とが力の均衡により相殺されず引張り応力よりも圧縮応力が強い状態にあるので光学多層膜側が凸状に基板2が反っている。
【0038】
次に、図5および図6に基づいて本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を説明する。さらに、図7に基づいて、基板2の端部に切欠22Aを形成する方法について説明する。
図5は、本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を説明するための模式図であり、(A)は基板をステージに載置した状態を示す模式図、(B)は基板2と板材3とを密着配置させるスクライブ前処理工程を示す模式図、(C)は基板端部をダイシングする工程を示す模式図、(D)は第一方向にレーザースクライブする第一スクライブ工程を示す模式図、(E)は第一スクライブ工程終了後の状態を示す模式図が示されている。
図6は、本実施形態におけるレーザースクライブ割段方法を説明するための模式図であり、(F)は第一スクライブ工程後にステージを回転させた状態を示す模式図、(G)は基板端部をダイシングする工程を示す模式図、(H)は第二方向にレーザースクライブする第二スクライブ工程を示す模式図、(I)は第二スクライブ工程終了後の状態を示す模式図が示されている。
図7には、本実施形態における基板端部をダイシングする状態を説明するための正面模式図が示されている。
【0039】
図5(A)に示すように、先ずステージ10に基板2を載置する。このとき、基板2は、図示しない吸気通路によって吸引固定される。そして、図5(B)に示すように、板材3は、その長辺の一辺が基板2の側縁に密着され、その短辺の一辺が基板2の側縁に直角に交わる一辺と同一直線上となるように配置される(スクライブ前処理工程)。その後、図5(C)に示すように、基板2の端部において、第一方向Fにおける第一列211に相当する位置をダイシング装置4によりダイシングして切欠21Aが形成される。この切欠21Aはレーザー照射により第一スクライブ21が生じる開始点となる。そして、図5(D)に示すように、切欠21Aを開始点として第一列211にレーザー51の照射を行う。その後、第二列212から第n列まで順にダイシングとレーザー51の照射を繰り返して、図5(E)に示すように第一方向Fに第一列211から第n列まで第一スクライブ21が形成される(第一スクライブ工程)。
【0040】
次に、図6(F)に示すように、ステージ10を90度回転させる。そして、図6(G)に示すように、基板2の端部において、第二方向Sにおける第一列221にダイシング装置4によりダイシングして切欠22Aが形成される。この切欠22Aは、上述した切欠21Aと同様にレーザー照射により第二スクライブ22が生じる開始点となる。そして、図6(H)に示すように、22Aを開始点として第一列221にレーザー51の照射を行う。その後、第二列212から第n列まで順にダイシングとレーザー51の照射を繰り返して、図6(I)に示すように第二方向Sに第一列221から第m列まで第二スクライブ22が形成される(第二スクライブ工程)。
なお、これらの工程が終了した後、基板2に図示しないハンマー等で応力印加することで、スクライブ21,22に沿って割段されて光学物品が得られる。
【0041】
ここで、図7に示すように、ステージ10に載置される基板2は、その端部の稜線が、ダイシング装置4によりダイシングされることにより切欠22Aが形成される。具体的には、切欠22Aは、基板2の厚み寸法より小さい深さ寸法の切欠であり、基板2上面から下面までダイシングされない。このとき、基板2同様にステージ10に載置される板材3は、基板2の厚み寸法より、その厚み寸法が小さい。このため、ダイシング装置4が基板2の端部稜線に近接しても、板材3がダイシング装置4と接触することがなく、切欠22Aを形成する際、ダイシング装置4と干渉するおそれがない。
また、図示しない切欠21Aについては、板材3が密着される基板2側縁と平行な方向からダイシング装置4が近接するため、そもそも板材3とダイシング装置4が干渉するおそれがない。なお、図示しない切欠21Aも切欠22Aと同様に、基板2の厚み寸法より小さい深さの切欠であり、基板2上面から下面までダイシングされない。
【0042】
本実施形態では、以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、基板2にレーザー51を照射する前に、第一列211を形成する位置の近傍側縁に板材3を密着配置する。このため、基板2は、板材3に密着配置されることでレーザー51の照射による熱衝撃に起因した熱応力の変換により圧縮応力から引張り応力が発生し、スクライブによる当該引張り応力と基板2に生じている引張り応力との相乗効果により増大した引張り応力に対し、基板2に密接配置した板材3により抗力が発生するので、当該抗力によりスクライブの先走りを防止またはその長さを極力短く抑えることを実現した。よって、熱衝撃により予定しない箇所にスクライブ21,22が生じてしまうおそれがない。したがって、本実施形態では、レーザースクライブ加工によるスクライブ21,22を予定する箇所へ確実に形成することができる。
【0043】
(2)本実施形態では、第一スクライブ工程の前に、第一列211,221のスクライブ予定線上のスクライブ開始側端部に初期亀裂を形成する初期亀裂形成工程を有するので、所定箇所に確実にスクライブ21,22を形成することができる。
【0044】
(3)本実施形態では、初期亀裂をダイシング装置4により形成するので、周知慣用技術により初期亀裂を容易に形成することができる。
【0045】
(4)本実施形態では、基板2のレーザー51が照射される面側に圧縮応力71を有するUVIRカットフィルター7が形成されるので、基板2のレーザー51が照射される面側自体には抗力として引っ張り応力23が生じる。このとき、レーザー51の照射によりスクライブ21,22が形成される箇所は、圧縮応力71を有するUVIRカットフィルター7と共に開裂するため、基板2のスクライブ21,22の箇所は基板2の中心線から端部へ向かって引っ張り応力23が作用する。その反面、レーザー51の照射される箇所近傍におけるレーザー51の照射されていない箇所、つまり、UVIRカットフィルター7が開裂していない箇所においてはUVIRカットフィルター7が圧縮応力71により基板2の引っ張り応力23を相殺する。このため、レーザー51が照射されてスクライブ21,22が形成される箇所以外はUVIRカットフィルター7により開裂方向への基板2の引っ張り応力23が相殺されるので、先走りの発生をより一層抑えることができる。
【0046】
(5)本実施形態では、UVIRカットフィルター7が数十層もの誘電体多層膜であるので、数層の反射防止膜より強い圧縮応力を基板に作用させる。このため、基板にはより強い引っ張り応力が生じることとなり、先走りの発生をより一層確実に抑えることができる。
【0047】
(6)本実施形態では、UVIRカットフィルター7がイオンアシスト法を用いて成膜されるので、周知慣用技術により膜を容易に形成することができる。
【0048】
(7)本実施形態では、例えば、レーザースクライブ加工する前工程として、ダイシング装置4によりレーザー51の照射開始点近傍に切欠22Aを形成するような場合、板材3が基板2の厚さ寸法より薄いので、ダイシングする際、板材3がダイシング装置4と干渉することがなく、容易にダイシング作業を行うことができる。
【0049】
(8)本実施形態では、基板2の厚みが0.1mm以上0.3mm以下と薄い基板に数十層からなる誘電体多層膜を形成することにより基板に引張り応力が生じても、補助部材である板材3により発生する抗力により、レーザー51の照射により形成されるスクライブ21,22が基板2のレーザー51が照射される面裏側まで到達してしまう、いわゆるフルカットラインを生じるおそれがない。また、一般的に、このフルカットラインが形成されることにより、先走りの発生が促進される傾向があるが、当該基板2の厚みであれば、フルカットラインが生じることがなく、先走りの発生のおそれもない。したがって、本実施形態では、レーザースクライブ加工によるスクライブ21,22を予定する箇所へ確実に形成することができる。
【0050】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
本実施形態では、基板2にレーザー51を照射する前に、第一列211を形成する位置の近傍側縁に板材3を一つのみ密着配置したが、これに限らず、複数枚設けてもよく、例えば、第一方向Fだけでなく、第二方向においても板材3を密着配置してもよい。
また、本実施形態では、ダイシングとレーザー51の照射とを交互に行いスクライブ21,22を形成したが、これに限らず、例えば、基板2の端部各列においてまずダイシングして切欠21A,22Aを形成してから、レーザー照射してもよい。
さらに、本実施形態では、補強保持部材として板材3を採用したが、これに限らず、基板2を補強保持でき、かつ、ダイシング装置4と干渉しない構成のものであればいずれでもよい。
【0051】
また、本実施形態では、板材3を長尺矩形状の平板としたが、これに限らない。例えば、L字状の部材としてもよく、この場合、L字の二辺をそれぞれ第一方向Fおよび第二方向Sに平行する基板2の端部に密着配置させる。これにより、二方向において基板2を補強保持することができる。
さらに、本実施形態では、ステージ10に直接基板2を載置するとしたが、これに限らず、例えば、基板2とステージ10との間にダイシングテープを設ける構成としてもよい。これにより、基板2が応力印加により割段された後、光学物品が散乱するおそれがなく、作業性を良好なものとすることができる。
【符号の説明】
【0052】
2…基板、21…第一スクライブ、22…第二スクライブ、3…板材(補強保持部材)、51…レーザー、7…UVIRカットフィルター、211…第一列、212…第二列、213…第三列、221…第一列、222…第二列、223…第三列、F…第一方向、S…第二方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面矩形状の基板の互いに直交する第一方向と第二方向とにそれぞれ沿ってレーザーを複数列照射して格子状にスクライブを形成して基板を割段するレーザースクライブ割段方法であって、
前記基板の複数列にレーザーを照射してスクライブを形成する前に、第一列を形成する位置の近傍側の前記基板の縁に補強保持部材を密着配置するスクライブ前処理工程と、
前記補強保持部材から近い順番に前記第一方向と平行な第一列、第二列、・・・、第n列にレーザーを照射してスクライブを形成する第一スクライブ工程と、
前記第二方向と平行な第一列、第二列、・・・、第m列にレーザーを照射してスクライブを形成する第二スクライブ工程と、
を有することを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記第一スクライブ工程の前に、
前記第一列のスクライブ予定線上のスクライブ開始側端部に初期亀裂を形成する初期亀裂形成工程を有する
ことを特徴レーザースクライブ割段方法。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記初期亀裂をダイシングにより形成した
ことを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたレーザースクライブ割段方法において、
前記基板は、レーザーを照射する面側に圧縮応力を有する膜が形成されている
ことを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記膜は誘電体多層膜であることを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記膜はイオンアシスト法を用いて成膜された膜であることを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記膜は酸化ケイ素の膜を有することを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記補強保持部材の厚み寸法は前記基板の厚み寸法より薄いことを特徴とするレーザースクライブ割段方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のレーザースクライブ割段方法において、
前記基板の厚み寸法は、0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とするレーザースクライブ割段方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−212741(P2011−212741A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85810(P2010−85810)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】