説明

レーザー加工装置及びレーザー出射モジュール

【課題】装置の大型化や加工効率の悪化を招くことなく、加工に最適な波長帯域の異なる複数の材質に的確に対応可能なレーザー加工装置及びレーザー出射モジュールを提供する。
【解決手段】レーザー光を出射するレーザー発振器1と、レーザー発振器1より入射したレーザー光をワーク12上に集光させる収束レンズ11と、ワーク12上におけるレーザー光の集光位置を変更する光走査部8と、を備えるレーザー加工装置において、レーザー発振器1から光走査部8に至るレーザー光の光路として、波長を変更することなくレーザー光を伝播させる第1の光路4と、レーザー光の波長を変換する波長変換器6の設けられた第2の光路5と、を有するとともに、レーザー発振器1の出射したレーザー光が通る光路として上記2つの光路のいずれか1つを選択する光路切換器2を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を出射するレーザー発振手段と、そのレーザー発振手段より入射したレーザー光をワーク上に集光させる収束レンズと、ワーク上におけるレーザー光の集光位置を変更する光走査手段と、を備えるレーザー加工装置及びそうしたレーザー加工装置に搭載されるレーザー出射モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ワークにレーザー光を照射してマーキングや切断等の加工を行うレーザー加工装置が実用されている。レーザー加工装置は、レーザー光を出射するレーザー発振器、そのレーザー光を広げて平行光とするビームエキスパンダー、その平行光となったレーザー光を走査、偏光する走査ミラー、及び走査ミラーにより方向を変更されたレーザー光をワーク上の一点に集光させるための収束レンズ(fθレンズ)を備えている。一般に、こうしたレーザー加工装置では、走査ミラーとして、ガルバノミラーが用いられており、2次元走査を可能とすべく一対のガルバノミラーを設置するのが通常となっている。また多くの場合、収束レンズには、走査ミラーによる方向の変更に伴う入射角度の変化に拘わらず、常に鉛直方向にレーザー光を出射するテレンセントリック型のfθレンズが使用されている。
【0003】
こうしたレーザー加工装置により、社名やロット番号、製造年月日、型式番号、生産国、ブランドマーク等をワークにマーキングする場合には、設定コンソールや設定ハンディーコントローラー、設定用パーソナルコンピューターなどから、マーキングする文字や記号、図形の情報(マーキング情報)を予め設定することになる。そしてその設定したマーキング情報に基づいて走査ミラーに与えるマーキング座標データを生成し、その生成した座標データに基づいて走査ミラーを駆動することで、所望の文字や記号、図形をワークに印字するようにしている。
【0004】
近年、こうしたレーザー加工装置は、その利用分野の拡大により、石英やガラスといった鉱物からABSやPE、PETなどのプラスチック/樹脂、金属、紙などの様々な材質のワークがその加工対象となっている。また複数の材質から構成された複合材料にも、その利用が求められている。
【0005】
これに対してレーザー加工装置に使用されるレーザー発振器は、使用されるレーザー媒質の種類により、出力されるレーザー光の波長が一義に決定されるものとなっている。例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、ルビーなどをレーザー媒質とする固体レーザーは、1,064μm付近の波長帯域を持ち、CO2やArなどをレーザー媒質とする気体レーザーは、10.6μm付近の波長帯域を有している。また固体レーザー、気体レーザーにあっても、レーザー媒質が異なれば、その波長は異なったものとなる。
【0006】
一方、ワークの種類が異なれば、そのワークに好適に吸収されるレーザー光の波長帯域が異なるようになる。すなわち、ワークの種類によって、その加工に最適なレーザー光の波長帯域は異なったものとなる。これに対してレーザー光の波長は、上記のように、レーザー発振器のレーザー媒質により決定されるものであるため、レーザー加工装置を複数種のワークに対応させることは困難となっている。
【0007】
そこで従来、特許文献1及び2には、レーザー媒質の異なる複数のレーザー発振器を備え、各レーザー発振器から出射された波長の異なる複数のレーザー光を同軸上に合波してワークに照射するレーザー加工装置が記載されている。また特許文献3乃至5には、レーザー発振器の出射したレーザー光を複数の光路に分割するとともに、それぞれの光路でレーザー光をそれぞれ異なる波長に変換した後、同軸上に合波してワークに照射するレーザー加工装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−181463号公報
【特許文献2】特開2010−026027号公報
【特許文献3】特開平11−326973号公報
【特許文献4】特開平11−284260号公報
【特許文献5】特開2008−217034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これら従来のレーザー加工装置では、ワークに照射されるレーザー光に、波長の異なる複数のレーザー光が含まれているため、1台のレーザー加工装置により、吸収波長帯域の異なる複数種のワークに対応可能となる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載のレーザー加工装置では、複数のレーザー発振器が必要となる。そのため、装置が大型化するとともに、製造コストが高騰してしまうようになるなどの問題がある。
【0011】
これに対して特許文献3乃至5のレーザー加工装置では、レーザー発振器は1台で良いため、装置の大型化については解決可能ではある。しかしながら、こうしたレーザー加工装置では、1台のレーザー発振器が出射したレーザー光を複数に分岐するため、1つの波長帯域のレーザーとしては低い出力しか得られないようになる。こうしたレーザー加工装置でも、最終的には、分岐したレーザー光を合波することから、ワークに照射されるレーザー光の見かけ上の出力は、レーザー発振器の出射したレーザー光の出力とほぼ等しくなる。しかしながら、ワークに照射されるレーザー光には複数の波長帯域の光が存在しており、ワークの加工に適した波長帯域の光はその一部でしかないため、加工効率が悪くなる。更に言えば、加工に適していない波長帯域のレーザー光も加工には関与するため、ワークの材質によっては複数の波長帯域のレーザー光により加工がなされることになり、加工品質がばらつく虞がある。
【0012】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、装置の大型化や加工効率の悪化を招くことなく、加工に最適な波長帯域の異なる複数の材質に的確に対応可能なレーザー加工装置及びレーザー出射モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、レーザー光を出射するレーザー発振手段と、そのレーザー発振手段より入射したレーザー光をワーク上に集光させる収束レンズと、ワーク上におけるレーザー光の集光位置を変更する光走査手段と、を備えるレーザー加工装置において、前記レーザー発振手段から前記光走査手段に至るレーザー光の光路として通過中のレーザー光波長の変換態様のそれぞれ異なる複数の光路を備えるとともに、前記レーザー発振手段の出射したレーザー光が通る光路として前記複数の光路のいずれか1つを選択する光路切換手段を備えるようにしている。
【0014】
上記構成では、レーザー発振手段の出射したレーザー光をいずれの光路を通すかによって、ワークに照射されるレーザー光の波長が切り替わるようになる。そのため、上記構成では、ワークに照射されるレーザー光の波長の切り換えを単一のレーザー発振手段のみで実現することができる。しかも、レーザー発振手段の出射したレーザー光の全てが、必要な波長に変換されるため、無駄なく高い効率で加工を行うことができる。
【0015】
なお、ここでのレーザー光波長の変換態様には、波長を変換せずにそのまま出射することも含んでいる。すなわち、請求項1に記載の発明には、レーザー光の波長を変換する波長変換手段の設けられた一つ以上の光路と、波長を変換せずにそのまま出射する光路とを上記複数の光路として備えるレーザー加工装置も含まれる。
【0016】
また請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザー加工装置において、前記複数の光路として、前記レーザー発振手段から前記光走査手段に至るレーザー光の光路として、波長を変更することなくレーザー光を伝播させる第1の光路と、レーザー光の波長を変換する波長変換手段の設けられた第2の光路と、を有するようにしている。
【0017】
上記構成では、波長を変更することなくレーザー光を通過させる第1の光路、レーザー光の波長を変換する波長変換手段の設けられた第2の光路のいずれかを通ってレーザー光が出力されるようになる。第1の光路を通ってレーザー光を出力する場合には、レーザー発振手段の出射したレーザー光は、波長が変換されることなくそのままワークに照射される。一方、第2の光路を通ってレーザー光を出力する場合には、レーザー光は、その波長が変換された上でワークに照射されるようになる。そのため、上記構成では、ワークに照射されるレーザー光の波長を2通りに切り換えることができるようになる。しかも、そうした波長の切り換えは、単一のレーザー発振手段のみで実現可能であり、またレーザー発振手段の出射したレーザー光が全てを同一の波長となるため、無駄なく高い効率で加工を行うことができる。
【0018】
なお上記の如く構成されたレーザー加工装置の光路切換手段としては、請求項3によるように、カー効果を用いた電気光学結晶を備え、その電気光学結晶に電界を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させるものを用いることができる。この場合には、比較的低い駆動電圧で光路切換が可能となり、またμ秒オーダーの高速な光路切り換えが可能となる。
【0019】
また請求項4によるように、ポッケルス効果を用いた電気光学結晶を備え、その電気光学結晶に電界を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させるものを、光路切換手段として用いることもできる。この場合にも、μ秒オーダーの高速な光路切り換えが可能となる。また出射光角度を高い精度で制御することができるようにもなる。更にこの場合には、出射光角度の変更に係る損失が小さいため、高い効率で出射光角度を変化させることができるようにもなる。
【0020】
ちなみに、収束レンズに入射するレーザー光の波長が変更されると、屈折率が変化して、レーザー光の集光位置(焦点深さ)が変化する。これに対応するには、波長の差異による光軸方向の集光位置のずれを補償する焦点位置補償手段を備えるようにすれば良い。ちなみに、請求項6によるように、収束レンズとして使用される色収差補正レンズにより、そうした焦点位置補償手段を構成することができる。
【0021】
なお、請求項7によるように、ワークの材質毎に最適な波長を記憶する記憶手段と、ワーク材質の設定に応じてその記憶手段から該当するワークの材質に最適な波長を読み出すとともに、その最適な波長のレーザー光がワークに照射されるように、光路切換手段を制御する制御手段と、を備えるようにすれば、加工するワークの材質に応じて最適な波長が自動的に設定されるようになる。
【0022】
また請求項8によるように、ワークに照射されるレーザー光の経路の座標データに対応して該当する経路部分の加工に使用されるレーザー光の波長データを設定するとともに、その設定された波長データに基づいて、設定された波長での加工がなされるように前記光路切換手段を制御する制御手段を備えるようにすれば、加工の途中でレーザー光の波長をユーザーの指定通りに変化させることができるようになる。
【0023】
上記課題を解決するため、請求項9に記載の発明は、ワークに照射されるレーザー光をレーザー加工装置の光走査モジュールに出射するレーザー出射モジュールであって、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のレーザー加工装置に用いられるものである。こうしたレーザー出射モジュールをレーザー加工装置に組み込めば、装置の大型化や加工効率の悪化を招くことなく、加工に最適な波長帯域の異なる複数の材質に対応することができるようになる。ちなみに、この場合のレーザー出射モジュールは、レーザー光を出射するレーザー発振手段と、レーザー発振手段の出射したレーザー光の通る光路として通過中のレーザー光波長の変換態様のそれぞれ異なる複数の光路と、レーザー発振手段の出射したレーザー光が通る光路として複数の光路のいずれか1つを選択する光路切換手段と、を備えたものとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のレーザー加工装置及びレーザー出射モジュールによれば、装置の大型化や加工効率の悪化を招くことなく、加工に最適な波長帯域の異なる複数の材質に対応することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のレーザー加工装置及びレーザー出射モジュールの一実施形態についてその全体構成を模式的に示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のレーザー加工装置を具体化した一実施形態を、図1を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態は、ワークの表面に文字や記号、図形等の印字、すなわちレーザーマーキングを行う加工装置(レーザーマーカー)として、本発明を具体化したものとなっている。
【0027】
図1は、本実施の形態のレーザー加工装置の全体構成を示している。同図に示すように、このレーザー加工装置は、レーザー光を出射するレーザー発振手段としてのレーザー発振器1を備えている。なお、本実施の形態では、レーザー発振器1として、直線偏光されたレーザー光を出射する直線偏光発振器が使用されている。
【0028】
レーザー発振器1の後段には、入射したレーザー光の出射方向を切り換える光路切換手段としての光路切換器2が設置されている。本実施の形態では、光路切換器2として、カー効果を用いた電気光学結晶を備え、その電気光学結晶に電界(電圧)を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させる、KTN結晶などを使用したカー効果光路切換器が採用されている。
【0029】
光路切換器2の後段には、集光レンズ3が設置されている。そして光路切換器2にて出射光角度を変更されたレーザー光は、その集光レンズ3を通過した後、光ファイバーにて形成された2つの光路4,5のいずれかに入射されるようになっている。なお、本実施の形態では、集光レンズ3として、主光線がレンズ光軸に対して平行になるように設計されたテレセントリック型のfθレンズを使用している。
【0030】
ここで第1の光路4は、波長を変更することなくレーザー光を伝播させる光路となっている。また第2の光路5には、レーザー光の波長を2倍波、3倍波といった高調波に変換する波長変換手段としての波長変換器6が設けられている。なお、本実施の形態のレーザー加工装置では、これら2つの光路4,5を、直線偏光を保持したままレーザー光を伝播させる偏光保持ファイバー(偏光面保持ファイバー、偏波面保持ファイバー)にて形成するようにしている。
【0031】
これら2つの光路4,5は、カプラー7にて合流されるようになっている。そしてそのカプラー7の後段には、レーザー加工装置の光走査部8が設置されている。
光走査部8は、レーザー光の集光位置をワーク12の鉛直方向(Z方向)に変化させるZ走査部9、レーザー光の集光位置をワーク12の平面方向(XY方向)に変化させるXY走査部10、及びワーク12上の一点にレーザー光を収束させる収束レンズ(fθレンズ)11を備えて構成されている。XY走査部10は、2枚のガルバノミラーとこれを駆動するアクチュエーターにより構成されている。また本実施の形態では、収束レンズ11として、入射光の波長に拘わらず、集光位置を一定に保持可能な色収差補正レンズを使用するようにしている。
【0032】
こうした本実施の形態のレーザー加工装置では、光路切換器2の出射光角度の切り換えにより、第1の光路4、及び第2の光路5のいずれかを通ってレーザー光を伝播させるようにしている。第1の光路4を通るときには、レーザー発振器1の出射したレーザー光は、その出射波長のまま、光走査部8に入射されるようになる。一方、第2の光路5を通るときには、レーザー発振器1の出射したレーザー光は、波長変換器6でその波長が変換された上で光走査部8に入射されるようになる。したがって、以上のように構成されたレーザー加工装置では、ワーク12に照射されるレーザー光の波長を、レーザー発振器1の出射波長と同じ基本波と、波長変換器6にて波長変換された高調波との2つの波長に切り換え可能となっている。
【0033】
こうしたレーザー加工装置では、印字する文字や記号、図形のマーキング情報の設定に際して、印字に際してワーク12に照射するレーザー光として基本波、高調波のいずれを使用するかを併せて設定するようにしている。そして加工中には、設定された波長が得られるように、光路切換器2を駆動しながらワーク12へのマーキングを行うようにしている。なお、材質の異なる2つの材料で構成された複合材の加工に際しては、材料の境界線にて光路4,5の切り換えを行うことで、各々の材料に適した波長で加工が行えるようにしている。
【0034】
ちなみに、本実施の形態のレーザー加工装置は、レーザー発振器1、第1及び第2の光路4,5、光路切換器2等からなるレーザー出射モジュールと、光走査部8からなる走査モジュールとの2つのモジュールにより構成されている。
【0035】
またこうしたレーザー加工装置には、レーザー発振器1や光路切換器2、光走査部8を制御する制御ユニット13が設けられている。制御ユニット13は、制御用のプログラムやデータの記憶された記憶部14を備えている。この記憶部14には、制御用のデータとして、ワークの材質毎に最適な波長が記憶されている。
【0036】
加工の実施に際してユーザーは、設定コンソールや設定ハンディーコントローラー、設定用パーソナルコンピューターなど入力部15から、マーキングする文字や記号、図形の情報(マーキング情報)を設定する。このとき、本実施の形態のレーザー加工装置では、加工するワークの材質についての情報を入力できるようになっている。制御ユニット13は、ワークの材質が入力されると、記憶部14から設定されたワークの材質に最適な波長を読み出すとともに、その最適な波長のレーザー光がワークに照射されるように、光路切換器2を制御するようにしている。
【0037】
また本実施の形態では、上記のような加工情報の設定に際して、ワークに照射されるレーザー光の経路の座標データに対応して該当する経路部分の加工に使用されるレーザー光の波長データを設定することができるようにもなっている。こうした波長データが設定されると、加工中に制御ユニット13は、その設定された波長データに基づいて、設定された波長での加工がなされるように光路切換器2を制御するようにしている。
【0038】
なお、こうした本実施の形態では、制御ユニット13が上記制御手段に、記憶部14が上記記憶手段にそれぞれ対応する構成となっている。
以上のように構成された本実施の形態によれば、次の効果を奏することができる。
【0039】
(1)本実施の形態のレーザー加工装置は、レーザー発振器1から光走査部8に至るレーザー光の光路として、波長を変更することなくレーザー光を伝播させる第1の光路4と、レーザー光の波長を変換する波長変換器6の設けられた第2の光路5と、を有している。また本実施の形態のレーザー加工装置は、レーザー発振器1の出射したレーザー光が通る光路として上記2つの光路4,5のいずれか1つを選択する光路切換器2を備えるようにしている。
【0040】
こうした本実施の形態では、波長を変更することなくレーザー光を通過させる第1の光路4、レーザー光の波長を変換する波長変換器6の設けられた第2の光路5のいずれかを通ってレーザー光が出力されるようになる。第1の光路4を通ってレーザー光を出力する場合には、レーザー発振器1の出射したレーザー光は、波長が変換されることなくそのままワーク12に照射される。一方、第2の光路5を通ってレーザー光を出力する場合には、波長を変換した上でワーク12にレーザー光が照射されるようになる。そのため、本実施の形態では、ワーク12に照射されるレーザー光の波長を2通りに切り換えることができるようになる。
【0041】
しかも、そうした波長の切り換えは、単一のレーザー発振器1のみで実現可能であり、またレーザー発振器の出射したレーザー光が全てを同一の波長となるため、無駄なく高い効率で加工を行うことができる。
【0042】
したがって、本実施の形態のレーザー加工装置によれば、装置の大型化や加工効率の悪化を招くことなく、加工に最適な波長帯域の異なる複数の材質に対応することができるようになる。また加工に適した波長帯域の異なる2つの材料により構成された複合材料の加工も、加工中の波長切換を通じて好適に行うことができるようにもなる。
【0043】
(2)加工に適した波長帯域の異なる複数の材料への対応を、1台のレーザー発振器1のみで実現しているため、機能向上に伴うコストの増加を必要最小限に抑えることができるようになる。
【0044】
(3)本実施の形態では、光路切換器2として、電気光学材料のカー効果を用い、電界を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させるカー効果光路切換器を採用するようにしている。そのため、比較的低い駆動電圧で波長切換が可能となり、またμ秒オーダーの高速な波長切換が可能となる。
【0045】
(4)本実施の形態では、入射光の波長に拘わらず、集光位置を一定に保持可能な色収差補正レンズを収束レンズ11として使用するようにしている。そのため、ワーク12に照射するレーザー光の波長の切り換えに拘わらず、ワーク12上へのレーザー光の集光位置(焦点深さ)を一定に保持することができるようになる。
【0046】
(5)本実施の形態では、レーザー発振器1として直線偏光発振器を用いるとともに、光路4,5を偏光保持ファイバーにて形成するようにしている。そのため、光路4,5の通過に際しても直線偏光を保持することができるようになる。こうした本実施の形態では、直線偏光を保持したままのレーザー光をワーク12に照射できるため、加工の切り口をシャープとすることができるようになる。またレーザー加工装置に設けられた、直線偏光を前提とした光学素子を適切に機能させることができるようにもなる。
【0047】
(6)本実施の形態では、レーザー発振器1として直線偏光発振器を用いるようにしている。こうした場合、ランダム偏光発振器を用いる場合に比して、波長変換が容易となり、また波長変換の効率を高くすることができるようにもなる。また、必要に応じてワークに照射するレーザー光の偏光状態の変更が容易でもあるため、加工に適した偏光状態を容易に設定することができるようにもなる。更にランダム偏光となったレーザー光を使用する場合には、出射光角度の切り換えや波長変換を単独の素子では行えないが、直線偏光となったレーザー光を用いる場合には、それらを単独の素子で行うことができるため、レーザー加工装置の構成を簡易とすることができるようにもなる。
【0048】
(7)本実施の形態では、レーザー発振器1からの出射からワークへの照射まで、レーザー光の偏光方向が維持されるようになっている。そのため、波長の切換に拘わらず、ワークに照射されるレーザー光の偏光方向を一定に維持することができ、加工中の偏光方向の変化によって加工品質が変化することを防止することができる。
【0049】
(8)本実施の形態では、集光レンズ3として、主光線がレンズ光軸に対して平行になるように設計されたテレセントリック型のfθレンズを使用している。こうしたテレセントリック型のfθレンズでは、入射角に拘わらず、レーザー光がレンズ光軸に平行に出射されるため、第1及び第2の光路4,5を構成する光ファイバーと集光レンズ3との位置決めを容易とすることができる。
【0050】
(9)本実施の形態では、ワークの材質毎に最適な波長を記憶する記憶部14と、ワーク材質の設定に応じてその記憶手段から該当するワークの材質に最適な波長を読み出すとともに、その最適な波長のレーザー光がワークに照射されるように、光路切換器2を制御する制御ユニット13とを備えるようにしている。そのため、加工するワークの材質に応じて最適な波長が自動的に設定されるようになる。
【0051】
(10)本実施の形態では、ワークに照射されるレーザー光の経路の座標データに対応して該当する経路部分の加工に使用されるレーザー光の波長データを設定するとともに、その設定された波長データに基づいて、設定された波長での加工がなされるように光路切換器2を制御する制御ユニット13を備えるようにしている。そのため、加工の途中でレーザー光の波長をユーザーの指定通りに変化させることができるようになる。
【0052】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施の形態では、集光レンズ3として、テレセントリック型のfθレンズを使用していたが、同集光レンズ3と第1及び第2の光路5を形成する光ファイバーとの位置決め精度を十分に確保できるのであれば、他のタイプのレンズを集光レンズ3に採用しても良い。
【0053】
・上記実施の形態では、第1の光路4と第2の光路5との合流をカプラー7により行うようにしていたが、コンバイナーなどの他の光ファイバー結合手段を用いて両光路4,5を合流させるようにしても良い。
【0054】
・上記実施の形態では、レーザー発振器1として直線偏光発振器を用いるとともに、光路4,5を偏光保持ファイバーにて形成するようにしていた。レーザー発振器1に直線偏光発振器を使用しない場合や、直線偏光の保持が不要な場合には、光路4,5を偏光保持型でない、通常の光ファイバーで形成するようにしても良い。
【0055】
・上記実施の形態では、第1及び第2の光路4,5を通じたレーザー光の伝播を光ファイバー系により行うようにしていたが、第1及び第2の光路4,5のレーザー光の伝播を空間伝播により行うようにしても良い。
【0056】
・上記実施の形態では、収束レンズ11に色収差補正レンズを使用することで、加工に使用するレーザー光の波長の変化に拘わらず、レーザー光の集光位置(焦点深さ)を一定に保持するようにしていた。収束レンズ11に焦点深度の大きいレンズを使用した場合にも、加工に使用するレーザー光の波長の変化に拘わらず、ワーク上の適切な位置にレーザー光の集光位置(焦点深さ)を保持することができるようになる。また色収差補正レンズや大焦点深度レンズを使用しない場合には、レーザー光の集光位置を光軸方向(Z方向)に調節する走査機構を設け、その走査機構により、波長の差異による光軸方向の集光位置のずれを補償するようにすると良い。この場合、そうした走査機構が、上記焦点位置補償手段に相当する構成となる。
【0057】
・光軸方向の集光位置の変更や、波長の差異による光軸方向の集光位置のずれの補償が必要ない場合には、Z走査部9を割愛するようにしても良い。
・上記実施の形態では、光路切換器2としてカー効果光路切換器を採用するようにしていた。その代りに、ポッケルス効果を用いた電気光学結晶を備え、その電気光学結晶に電界(電圧)を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させる、LiNbO3結晶などを使用したポッケルス効果光路切換器によって光路切換器2を構成するようにしても良い。この場合には、印加電圧が比較的高い、偏光角が小さいというデメリットはあるものの、カー効果を用いた電気光学結晶を用いた場合と同様のμ秒オーダーの高速な波長切換が可能となる。また、電界(電圧)を印加したときの出射光角度を正確に制御することができるようにもなる。
【0058】
・光路切換器2のコストを抑えたい場合には、ミラーとそのミラーを駆動するアクチュエーターとによって、幾何的に光路を切り換える機構を光路切換器2として使用するようにしても良い。
【0059】
・上記実施の形態では、波長を変更することなくレーザー光を伝播させる第1の光路4と、レーザー光の波長を変換する波長変換器6の設けられた第2の光路5との2つの光路を設けることで、2通りの波長切換を実現していた。もっとも、以下のようにすれば、3通り以上の波長切換を実現することが可能である。すなわち、まずレーザー発振器1から光走査部8に至るレーザー光の光路として通過中の波長の変換態様のそれぞれ異なる3つ以上の光路を備えるようにする。そして、レーザー発振器1の出射したレーザー光が何れの光路を通って光走査部8に至るかを選択的に切り換える光路切換器2を備えるようにする。
【0060】
・上記実施の形態では、ワークのマーキング加工を行うレーザー加工装置(レーザーマーカー)として本発明を具体化した場合を説明したが、本発明はワークの切断等、マーキング以外の加工を行うレーザー加工装置にも、上記実施の形態と同様、或いはそれに準じた態様で適用することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…レーザー発振器(レーザー発振手段)、2…光路切換器(光路切換手段)、3…集光レンズ、4…第1の光路、5…第2の光路、6…波長変換器(波長変換手段)、7…カプラー、8…光走査部(光走査手段)、9…Z走査部、10…XY走査部、11…収束レンズ、12…ワーク、13…制御ユニット(制御手段)、14…記憶部(記憶手段)、15…入力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射するレーザー発振手段と、そのレーザー発振手段より入射したレーザー光をワーク上に集光させる収束レンズと、ワーク上におけるレーザー光の集光位置を変更する光走査手段と、を備えるレーザー加工装置において、
前記レーザー発振手段から前記光走査手段に至るレーザー光の光路として通過中のレーザー光波長の変換態様のそれぞれ異なる複数の光路を備えるとともに、
前記レーザー発振手段の出射したレーザー光が通る光路として前記複数の光路のいずれか1つを選択する光路切換手段を備える
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
前記複数の光路として、前記レーザー発振手段から前記光走査手段に至るレーザー光の光路として、波長を変更することなくレーザー光を伝播させる第1の光路と、レーザー光の波長を変換する波長変換手段の設けられた第2の光路と、を有する
請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
前記光路切換手段は、カー効果を用いた電気光学結晶を備え、その電気光学結晶に電界を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させるものである
請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
前記光路切換手段は、ポッケルス効果を用いた電気光学結晶を備え、その電気光学結晶に電界を印加することで屈折率を変化させて出射光角度を変化させるものである
請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。
【請求項5】
波長の差異による光軸方向の集光位置のずれを補償する焦点位置補償手段を備える
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
【請求項6】
前記焦点位置補償手段は、前記収束レンズとして使用される色収差補正レンズにより構成される
請求項5に記載のレーザー加工装置。
【請求項7】
前記ワークの材質毎に最適な波長を記憶する記憶手段と、
ワーク材質の設定に応じて前記記憶手段から該当するワークの材質に最適な波長を読み出すとともに、その最適な波長のレーザー光がワークに照射されるように、前記光路切換手段を制御する制御手段と、
を備える請求項1乃至6のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
【請求項8】
前記ワークに照射されるレーザー光の経路の座標データに対応して該当する経路部分の加工に使用されるレーザー光の波長データを設定するとともに、その設定された波長データに基づいて、設定された波長での加工がなされるように前記光路切換手段を制御する制御手段を備える請求項1乃至7のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
【請求項9】
ワークに照射されるレーザー光をレーザー加工装置の光走査モジュールに出射するレーザー出射装置であって、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のレーザー加工装置に用いられるレーザー出射モジュール。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−245543(P2011−245543A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123899(P2010−123899)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000106221)パナソニック電工SUNX株式会社 (578)
【Fターム(参考)】