説明

レーザ溶接品質評価方法及び装置

【課題】レーザ光入射角が異なっても適確な溶接品質の評価が可能なレーザ溶接品質評価方法及び装置を提供する。
【解決手段】入射角が可変のレーザ光Aを被溶接物Wに照射して行ったレーザ溶接の品質評価において、レーザ光照射位置及びその周辺のレーザ反射光Bの分布情報を取得する反射光分布情報取得回路10と、被溶接物Wに対する入射角情報を取得する入射角情報取得回路11と、反射光分布情報取得回路10からのレーザ反射光分布情報を入射角情報取得回路11からの入射角情報に対応付けて解析した結果と予め取得しておいた入射角情報毎のレーザ反射光分布情報の解析結果群とに基づいて溶接品質を判定する溶接品質判定回路13とを設ける。レーザ光入射角に応じてレーザ反射光分布情報を解析し、変化する溶融金属及びキーホールの形成状態(溶接品質)をレーザ入射角毎に評価可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射位置から反射されるレーザ光の反射光を用いてレーザ溶接状態を把握し、評価するレーザ溶接品質評価方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては特許文献1に記載のものがあった。
これは、レーザ照射位置から反射されるレーザ光の反射光により溶融部及びその周辺を撮像し、この撮像した画像から把握される溶融部の形状的な特徴に基いて溶接品質を評価するという技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−43741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来技術では、レーザ光の使用形態等によっては被溶接物に対するレーザ光入射角を変化させる場合があるが、同じ溶接品質でもレーザ光入射角によって撮像した画像に差異が生じるので、品質評価がレーザ光入射角によって異なってしまい、従来、この点についての改善が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記のような要望に鑑みなされたもので、レーザ光入射角が異なっても適確な溶接品質の評価が可能なレーザ溶接品質評価方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のレーザ溶接品質評価方法は、被溶接物への入射角が可変のレーザ光をその被溶接物に照射して行ったレーザ溶接の品質を評価する方法において、前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報を取得すると共に、このレーザ照射時の前記レーザ光の被溶接物に対する入射角情報を取得し、前記レーザ反射光の分布情報を前記入射角情報に対応付けて解析した結果と、予め取得しておいた複数種類の入射角情報に対応付けたレーザ反射光分布情報による解析結果群とに基づいて溶接の品質を判定することを特徴とする。
請求項2に記載のレーザ溶接品質評価装置は、被溶接物への入射角が可変のレーザ光をその被溶接物に照射して行ったレーザ溶接の品質を評価する装置において、前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報を取得する反射光分布情報取得手段と、前記レーザ光の照射時の前記被溶接物に対する入射角情報を取得する入射角情報取得手段と、前記反射光分布情報取得手段からのレーザ反射光の分布情報を前記入射角情報取得手段からの入射角情報に対応付けて解析した結果と、予め取得しておいた複数種類の入射角情報に対応付けたレーザ反射光分布情報による解析結果群とに基づいて溶接の品質を判定する溶接品質判定手段とを具備することを特徴とする。
請求項3に記載のレーザ溶接品質評価装置は、請求項2に記載のレーザ溶接品質評価装置において、前記反射光分布情報取得手段は、前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光画像を撮像する撮像デバイスと、この撮像デバイスで撮像されたレーザ反射光画像から前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報を算出する反射光分布情報演算手段とを備えてなり、前記入射角情報取得手段は、前記レーザ光の制御角度情報を入射角情報として取得し、前記溶接品質判定手段は、前記反射光分布情報演算手段からのレーザ反射光分布情報を前記入射角情報取得手段からの入射角情報に対応付けて解析した結果と、前記解析結果群とに基づいて溶接の品質を判定することを特徴とする。
請求項4に記載のレーザ溶接品質評価装置は、請求項3に記載のレーザ溶接品質評価装置において、前記反射光分布情報演算手段は、前記レーザ反射光画像から溶接方向についての輝度積算プロファイルを算出し、前記被溶接物における溶融部及びキーホールの状態によって前記輝度積算プロファイルに現われる複数の山部のピーク位置と裾幅、及びピークと裾との高低比を算出し、この算出結果を前記レーザ反射光分布情報として前記溶接品質判定手段に与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーザ光入射角に応じてレーザ反射光分布情報を解析するので、レーザ光入射角が異なっても適確な溶接品質の評価が可能なレーザ溶接品質評価方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明装置の第1実施形態の構成図である。
【図2】被溶接物へのレーザ光入射角の設定例を示す斜視図である。
【図3】図1に示す第1実施形態で得られるレーザ反射光画像を溶接品質及びレーザ光入射角別に示す模式図である。
【図4】レーザ光入射角が前進角15°の場合のレーザ反射光画像における輝度積算プロファイルを溶接品質別に示す図である。
【図5】図1に示す第1実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、それに先立ち、まず、本発明に至った経緯について述べる。
レーザ溶接において、例えば、引け、溶け落ち等の現象が発生すると、キーホールの形成状態、例えば大きさ等が異なってくると共に、その周辺に形成される溶融金属の動きも大きく異なってくる。このような場合、レーザ光照射位置における一次反射及びその光を受けて反射する2次反射の状態が大きく変化する。このことから、レーザ光照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報(レーザ反射光分布情報)を算出し、解析することによって、多種の溶接現象を反映した溶接品質の評価ができることが分かる。
しかし、レーザ光の使用形態等によっては被溶接物に対するレーザ光入射角を変化させる場合があり、この場合は、同じ溶接品質であってもレーザ光入射角によってレーザ反射光分布情報に差異が生じる。したがって、レーザ反射光分布情報による溶接品質の評価がレーザ光入射角によって異なり、レーザ反射光分布情報に基づく溶接品質の評価に誤りが生じ得る。
【0010】
本発明者等は、溶接品質の差によって生じるレーザ光照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光分布情報の差がレーザ光入射角毎に特徴付けられることを見い出し、レーザ光入射角が異なっても適確な溶接品質の評価が可能なレーザ溶接品質評価方法及び装置を案出するに至った。本発明によれば、レーザ光入射角に応じてレーザ反射光分布情報を解析するので、溶接品質の変化に応じて動的に変化する溶融金属及びキーホールの形成状態をレーザ光入射角毎に評価可能となり、溶接の品質及び良否を適確に判定可能となる。
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明によるレーザ溶接品質評価装置(本発明方法を含む。)の第1実施形態の構成図である。
この図において、1はレーザトーチであり、このレーザトーチ1内には、レーザ発振器2から光ファイバ3を通して送られたレーザ光Aを溶接用熱源として被溶接物Wへ向けて照射するための光学系が内蔵されている。
被溶接物Wは、ここでは相互に重ね合された2枚の鋼板W1、W2からなり、レーザ溶接に際しては、レーザトーチ1から出射されるレーザ光Aが上側の鋼板W1上に予め決められた大きさのパターンとなるように照射され、この状態で、レーザトーチ1が被溶接物Wに対して溶接方向Fへ移動される。なお、レーザトーチ1の位置を固定して被溶接物Wを移動させてもよい。
【0012】
レーザ溶接(以下、単に溶接とも記す。)においては、図示するように、被溶接物Wに対するレーザ光Aの照射位置(レーザ光照射位置)にキーホール4が形成されると共に、このキーホール4の周りに溶融池と称される金属の溶融部5が形成される。溶融部5は溶接方向Fの後側へ延びるように形成され、溶融金属は、レーザトーチ1の移動(被溶接物Wとの相対移動)に応じて溶融部5の後端側から順次凝固する。
図中、6は、上記溶融金属の凝固跡である溶接ビードを示しており、被溶接物Wである2枚の鋼板W1、W2は、この溶接ビード6を介して相互に重ね溶接される。なお、レーザ光Aとしては、溶接用のYAGレーザ光、炭酸ガスレーザ光等の高出力レーザ光が用いられる。
【0013】
この第1実施形態において、レーザトーチ1の後端部には、レーザ光照射位置及びその周辺(計測領域E)から反射されるレーザ光Aの反射光(レーザ反射光)Bを光学フィルタ7を通してレーザ光Aと同軸で受光するCCDカメラ8が取り付けられている。上記光学フィルタ7は、レーザ光Aの波長成分を透過帯域とする干渉フィルタである。
ここで、レーザ光照射位置を中心とする一定領域に生じる光には、プルームあるいはプラズマと称される金属の蒸気発光成分、レーザ光A自身の反射光、及び溶融金属の熱放射光が含まれる。このためレーザ反射光Bは、レーザ光Aの波長(例えば1064nm)だけを透過させる干渉フィルタからなる光学フィルタ7を通してCCDカメラ8で受光される。
一般的なCCDカメラ8は赤外領域の感度が著しく低いが、レーザ反射光Bのエネルギが極めて高いため、上記干渉フィルタに減衰フィルタも加えて光学フィルタ7とすることが望ましい。
CCDカメラ8は、このような光学フィルタ7を透過したレーザ反射光Bによりレーザ光照射位置及びその周辺の画像(レーザ反射光画像)を撮像する撮像デバイスである。レーザ光照射位置及びその周辺のレーザ反射光画像を撮像できれば、CCDカメラ8以外の撮像デバイスを用いてもよい。
【0014】
反射光分布情報演算回路9は、CCDカメラ8で撮像されたレーザ反射光画像からレーザ光照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報(レーザ反射光分布情報)を算出する回路であり、CCDカメラ8とで反射光分布情報取得回路10を構成する。
なお、レーザ反射光分布情報は、レーザ反射光画像の単なる画素分布のみならず、各画素位置における輝度(レーザ反射光の強度)を含む情報であることは勿論である。
また、この第1実施形態において、反射光分布情報演算回路9は、レーザ反射光画像から溶接方向Fの輝度積算値の分布を示す輝度積算プロファイルを算出し、その算出結果をレーザ反射光分布情報として後述する溶接品質判定回路13に与えるように構成されている。
【0015】
図1は、最も一般的な面直状態(レーザ光Aが被溶接物Wに垂直に入射する状態)で溶接を行う場合を示しているが、被溶接物Wの形状や作業空間によっては必ずしも面直状態で溶接を行えない場合がある。このため、レーザトーチ1は被溶接物Wへのレーザ光入射角が可変とされている。
また、図2に示すように遠方からレーザ光Aをスキャンして溶接する工法もある。この場合、レーザトーチ1は、図2に示すように溶接ロボット21に搭載され、被溶接物Wへのレーザ光入射角が可変とされている。図2において、(a)はレーザ光Aを溶接方向Fの前進側に傾斜させる前進角設定、(b)は同じく後退側に傾斜させる後退角設定、(c)はレーザ光Aを溶接方向Fに交差する側に傾斜させるトーチ角設定の場合を示している。
いずれの場合も、図1に示す入射角情報取得回路11はレーザ溶接時におけるレーザ光入射角(入射角情報)を取得するように構成されている。
この入射角情報取得回路11は、例えばレーザトーチ1の角度制御部12におけるレーザ光Aの制御角度情報、具体的にはレーザ光Aを走査するミラー等の制御角度情報を入射角情報として取得するように構成されている。
【0016】
また、面直状態以外で溶接を行う場合には、上述したようにレーザ光入射角の違いによって、同じ品質に溶接されていてもCCDカメラ8で撮像されるレーザ反射光画像に差異が生じる。
図3にその代表例を示す。なお図3は、明瞭化を図るため、画像を模式図で示している。後掲図4においても、画像については全て模式図で示している。
図3は、焦点距離を600mmとしたリモート溶接の前進角(図2(a)参照)を変えた場合のレーザ反射光画像の例である。この図3には、レーザ光入射角の違いによってレーザ反射光画像に差異が生じる様子が示されており、レーザ光入射角に応じた解析が必要であることが分かる。図3では、面直状態から5°ステップで20°までレーザ光入射角を変えた場合のレーザ反射光画像を示しているが、その間の角度におけるレーザ反射光画像は、相関的に変化する。
【0017】
この第1実施形態では、レーザ光入射角による解析を効率よく行うために、入射角が、面直〜5°未満、5°以上から10°未満、10°以上から15°未満、15°以上から20°の4段階でレーザ反射光画像を撮像し、これら4段階のレーザ光入射角毎に、レーザ光照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光分布情報を各々取得する。そしてこのレーザ反射光分布情報による各解析結果を、同レーザ反射光分布情報取得時のレーザ光入射角(入射角情報)と共に後述する記憶装置に解析結果群として予め記録しておく。
なお、後述する溶接の良否判定時において、図3中の「正常」及び「許容引け」の画像は溶接良と判定される例を、「過剰引け」、「穴あき」及び「分離ビード」の画像は溶接不良と判定される例を示す。「許容引け」の画像も溶接不良と判定されるように設定してもよい。
【0018】
図1において、溶接品質判定回路13は、現在行われているレーザ溶接における上記レーザ反射光分布情報を、この情報取得時の入射角情報に対応付けて解析した結果と、上記のように予め取得し記憶装置14に記録しておいた多種多数の入射角情報に対応付けたレーザ反射光分布情報による解析結果(解析結果群)とに基づいて、現在行われているレーザ溶接の品質及び良否を判定する回路である。
上記解析結果群は、所定の角度ステップ、ここでは5°ステップで変化させたレーザ光入射角毎に取得されたレーザ反射光分布情報について各々解析した結果(データ群)である。つまり、ある入射角情報におけるレーザ反射光分布情報について、溶接が正常か、あるいは引け、穴あき、分離ビード等の不良が生じているか等の品質評価を行う基となるデータの集合(溶接品質解析用データ群)である。この第1実施形態では、入射角情報毎の輝度積算プロファイル、及びその輝度積算プロファイルにおける品質判定結果を示すデータ群である。
【0019】
レーザ溶接の品質や良否の判定は、現在行われているレーザ溶接における入射角情報及びレーザ反射光分布情報による解析結果に近似ないし合致する解析結果を上記解析結果群から検索することにより、又は検索された解析結果を予め設定されたしきい値と比較すること等により行われる。
溶接品質判定回路13は、判定結果を記憶装置14に記録させると共にディスプレイ15に表示させ、必要に応じてプリンタで印刷させる構成をも有している。
【0020】
次に、動作について説明する。
この第1実施形態では、溶接品質とレーザ反射光分布情報との相関を現す特徴量として、輝度積算プロファイルを用いる。具体的には、図4において、対応するレーザ反射光画像と共に示す、溶接方向Fの輝度積算プロファイルに現われる複数の山部のピーク位置と裾幅、及びピークと裾との高低比つまり輝度比(レーザ反射光強度比)を用いる。このような特徴量は、溶接品質に応じて輝度積算プロファイルに以下のように現われる。
【0021】
すなわち、溶接が正常に行われている場合(正常時)は、両端にいずれも裾幅fwが狭く輝度比も小さなピークP1,P2が現われる。許容引け(上限値を超えない引け)が生じている場合は、両端のピークP1,P2は正常時とほぼ同様であるが、この両端のピークP1,P2間に裾幅fwが広いピークP3が現われる。過剰引け(上限値を超えた引け)が生じている場合は、両端のピークP1,P2中、後方のピークP2が小さくなると同時に後退する。穴あきが生じている場合は、両端のピークP1,P2中、後方のピークP2が高くなると同時に裾幅fwが広がり、分離ビードが生じている場合は、両端のピークP1,P2中、後方のピークP2が更に高くかつ幅広になる。なお、過剰引け及び穴あきが生じている場合のピークP3は、許容引けが生じている場合のピークP1,P2間のピークP3と同様である。
【0022】
このような、多種多数の溶接品質と輝度積算プロファイル(特徴量)との関係をレーザ光入射角毎に解析結果群(溶接品質解析用データ群)として予め登録、すなわち溶接品質判定回路13に接続された記憶装置14に予め記録しておく。
なお、図4中の溶接方向に長い四角形で示す領域41は、反射光分布情報演算回路9において輝度積算プロファイルを算出するレーザ反射光画像上の領域の一例を示す。この領域41は溶接品質とレーザ反射光分布情報との相関を最も現す範囲が望ましい。
【0023】
実際の溶接時においては、反射光分布情報取得回路10、入射角情報取得回路11及び溶接品質判定回路13が図5のフローチャートに示すように動作し、溶接品質の評価を行う。
すなわち、レーザ光Aが被溶接物Wに照射され(ステップ501)、溶接が開始されると、CCDカメラ8はレーザ反射光画像を撮像し、入射角情報取得回路11はその際のレーザ光入射角(入射角情報)を取得する(ステップ502)。
【0024】
CCDカメラ8で撮像されたレーザ反射光画像は反射光分布情報演算回路9に送られ、この反射光分布情報演算回路9は、レーザ反射光分布情報として溶接方向Fの輝度積算プロファイルを算出する(ステップ503)。
溶接品質判定回路13は、算出された輝度積算プロファイルと入射角情報取得回路11で取得された入射角情報を受け、これを予め記憶装置14に記録しておいた解析結果群中の解析結果と照合し、現在行われているレーザ溶接の品質及び良否を例えば次のように判定する。
【0025】
まず、現在の入射角情報を予め記憶装置14に記録しておいた解析結果群中の多数の入射角情報と照合する(ステップ504)。
そして、この照合を経て現在の入射角情報と同じ入射角情報に対応する解析結果群中の多数の輝度積算プロファイルから、現在の入射角情報で取得し算出された輝度積算プロファイル(現在の輝度積算プロファイル)に近似ないし合致する輝度積算プロファイル、つまり適合プロファイルを検索する(ステップ505)。
適合プロファイルが解析結果群中から検索されると、その適合プロファイルに基づいて溶接の品質及び良否を判定する(ステップ506)。
ステップ507では、判定結果を記憶装置14に記録すると共にディスプレイ15に表示し、その後、レーザ溶接の品質評価を終了する。
【0026】
なお、適合プロファイルに基づく溶接の品質及び良否の判定は、例えば次のように行われる。
すなわち、解析結果群中の各輝度積算プロファイルに予め判定結果(溶接の品質及び良否)を対応付けておき、特定の輝度積算プロファイルが適合プロファイルとして検索された際に、その輝度積算プロファイルに対応付けられた上記判定結果を読み出すことで行う。あるいは、現在の輝度積算プロファイルを、適宜設定されたしきい値を用いて上記適合プロファイルと比較することにより、溶接の品質及び良否の判定を行うようにしてもよい。
【0027】
以上述べたように第1実施形態によれば、レーザ光入射角に応じてレーザ反射光の分布情報を解析するので、溶接品質の変化に応じて動的に変化する溶融金属及びキーホールの形成状態をレーザ入射角毎に評価が可能となり、溶接の品質及び良否を適確に判定できる。
特にこの第1実施形態では、レーザ反射光画像により溶接方向の輝度積算プロファイルを算出し、この輝度積算プロファイルに現われる複数の山部のピーク位置と裾幅、及びピークと裾との高低比を算出する。そして、この算出結果を溶接品質との相関を現す特徴量として用いるようにしたので、溶接の品質及び良否を高い精度で判定できる。
【0028】
なお、上述第1実施形態では、被溶接物へのレーザ光入射角につき、前進角設定とした場合について説明したが、これのみに限定されることはない。後退角設定やトーチ角設定等の場合でも、輝度積算プロファイルは異なるが、前進角設定の場合と同様に予め記録してある解析結果群中の各解析結果と比較し、対応する解析結果を検索することによって、現在行われているレーザ溶接の品質評価が可能となる。
【0029】
溶接方向についての積算プロファイルの特徴と溶接品質との関係を解析する上述第1実施形態とは別の第2実施形態について以下に概述する。
第2実施形態は、上述第1実施形態において、予め記録してあるレーザ反射光分布情報による解析結果群をより活用するために、ニューラルネットワークを適用するものである。
ここでは、ニューラルネットワークにおいて、事前の複数の溶接時のレーザ反射光画像による輝度積算プロファイルから、各々、
・前、後方両端のピーク間のピークの有無、
・前方のピークと後方のピークとの距離、
・前方のピークに対する後方のピークの裾幅の比、
・前方のピークに対する後方ピークの高低(強度)比、
及び溶接時における、
・レーザ光入射角、
を入力層として取得する。
そして、この際の溶接品質を教師データ、例えば、正常:1、許容引け:2、過剰引け:3、穴あき:4、分離ビード:5、として学習し、溶接品質に応じた上記数値1〜5のいずれかを出力するように中間層と出力層を構成する。
そして、このように構成されたニューラルネットワークに、実際の溶接時に反射光分布情報演算回路及び入射角情報取得回路で得られた、溶接品質が未知の情報が入力された場合に、自動的にその溶接品質に応じた上記数値1〜5のいずれかが出力される。そして、この出力値によって溶接品質を評価するという解析形態である。
【0030】
また、上述第1実施形態では、溶接品質の評価に際して必要なレーザ光入射角は入射角情報取得回路によって取得している。しかし、レーザ光入射角が得難い場合、例えばCAD・CAMを利用したオフラインティーチを用いず、被溶接物にて直接ティーチングを行い溶接位置・姿勢を決める場合がある。このような場合のレーザ溶接品質評価方法としては、次のような応用例が挙げられる。
すなわち、このような場合は、連続溶接時のレーザ反射光画像を、ある溶接打点毎(一定のレーザ入射角毎)に溶接品質に応じて取得する。そして、そのレーザ反射光画像の溶接方向の輝度積算プロファイルを形状的な特徴に変換し、これを上述第1実施形態におけるレーザ反射光分布情報による解析結果と同様に記録、つまり解析結果として記録しておく。そして、その記録された解析結果群を用い、上述第1実施形態と同様に溶接品質の評価を行うという方法である。
このようなレーザ溶接品質評価方法によれば、レーザ入射角情報が得難い場合であっても、連続して取得されるレーザ反射光画像について、各輝度積算プロファイルで得られる形状的な特徴から、該当する溶接品質を的確に識別、すなわちレーザ溶接の品質評価を的確に行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
1:レーザトーチ、4:キーホール、5:溶融部、7:光学フィルタ、8:CCDカメラ(撮像デバイス)、9:反射光分布情報演算回路(反射光分布情報演算手段)、10:反射光分布情報取得回路(反射光分布情報取得手段)、11:入射角情報取得回路(入射角情報取得手段)、12:角度制御部、13:溶接品質判定回路(溶接品質判定手段)、14:記憶装置、A:レーザ光、B:レーザ反射光、W:被溶接物。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物への入射角が可変のレーザ光をその被溶接物に照射して行ったレーザ溶接の品質を評価する方法において、
前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報を取得すると共に、このレーザ照射時の前記レーザ光の被溶接物に対する入射角情報を取得し、
前記レーザ反射光の分布情報を前記入射角情報に対応付けて解析した結果と、予め取得しておいた複数種類の入射角情報に対応付けたレーザ反射光分布情報による解析結果群とに基づいて溶接の品質を判定することを特徴とするレーザ溶接品質評価方法。
【請求項2】
被溶接物への入射角が可変のレーザ光をその被溶接物に照射して行ったレーザ溶接の品質を評価する装置において、
前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報を取得する反射光分布情報取得手段と、
前記レーザ光の照射時の前記被溶接物に対する入射角情報を取得する入射角情報取得手段と、
前記反射光分布情報取得手段からのレーザ反射光の分布情報を前記入射角情報取得手段からの入射角情報に対応付けて解析した結果と、予め取得しておいた複数種類の入射角情報に対応付けたレーザ反射光分布情報による解析結果群とに基づいて溶接の品質を判定する溶接品質判定手段とを具備することを特徴とするレーザ溶接品質評価装置。
【請求項3】
前記反射光分布情報取得手段は、前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光画像を撮像する撮像デバイスと、この撮像デバイスで撮像されたレーザ反射光画像から前記レーザ光の照射位置及びその周辺におけるレーザ反射光の分布情報を算出する反射光分布情報演算手段とを備えてなり、
前記入射角情報取得手段は、前記レーザ光の制御角度情報を入射角情報として取得し、
前記溶接品質判定手段は、前記反射光分布情報演算手段からのレーザ反射光分布情報を前記入射角情報取得手段からの入射角情報に対応付けて解析した結果と、前記解析結果群とに基づいて溶接の品質を判定することを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接品質評価装置。
【請求項4】
前記反射光分布情報演算手段は、前記レーザ反射光画像から溶接方向についての輝度積算プロファイルを算出し、前記被溶接物における溶融部及びキーホールの状態によって前記輝度積算プロファイルに現われる複数の山部のピーク位置と裾幅、及びピークと裾との高低比を算出し、この算出結果を前記レーザ反射光分布情報として前記溶接品質判定手段に与えることを特徴とする請求項3に記載のレーザ溶接品質評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−260095(P2010−260095A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114629(P2009−114629)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】