説明

レーザ装置、該レーザ装置を備えた露光装置及び検査装置

【課題】複数段のファイバ光増幅器を備えたレーザ装置において、ファイバ光増幅器の励起を下流側から停止させ、意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制する。
【解決手段】レーザ装置は、信号光を出力する信号光出力部10と、複数のファイバ光増幅器21〜23を有し信号光を順次増幅して増幅光を出力する増幅部20とを備える。ファイバ光増幅器21〜23は、各々増幅用ファイバ(添え字a)と、励起光源(添え字b)と、励起光源により発生された励起光を増幅用ファイバに伝送する伝送用ファイバ(添え字c)とを備える。ファイバ光増幅器21〜23は、各段の伝送用ファイバのファイバ長を上流側からL1,L2,L3としたときに、L1>L2>L3となるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光を出力する信号光出力部と、複数のファイバ光増幅器を有し信号光出力部から出力された信号光を順次増幅して増幅光を出力する増幅部とを備えたレーザ装置に関する。また、このようなレーザ装置を備えた露光装置及び検査装置等のレーザシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなレーザ装置は、例えば顕微鏡や形状測定装置、露光装置、検査装置などのレーザシステムの光源として用いられている。レーザ装置の出力波長は、組み込まれるシステムの用途及び機能に応じて設定され、当該出力波長に応じた信号光出力部及びファイバ光増幅器が用いられる。ファイバ光増幅器として、例えば、石英系の光ファイバに、エルビウム(Er)がドープされたエルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器(EDFA)、イッテルビウム(Yb)がドープされたイッテルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器(YDFA)などが知られている(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−200747号公報
【特許文献2】特開2002−50815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ファイバ光増幅器は、コアにドープされたレーザ媒質に応じた増幅特性を有している。例えば、YDFA(イッテルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器)の増幅帯域は、主に1030〜1100nmである。但し、YDFAによりNd−YAGレーザの発振波長と同じ1064nmの増幅光を出力させようとした場合に、波長1030nm付近の寄生発振が発生しやすい。これは、YDFAの利得分布は、増幅帯域のなかでも短波長側で利得が高く、長波長側で利得が低くなっており、波長λ=1064nmよりもλ=1030nm付近の方が利得が顕著に高いためである。
【0005】
この結果、例えば信号光出力部を構成する機器の損傷等により、YDFAが励起された状態でファイバに入射する信号光の強度が大きく低下しあるいは0になると、イッテルビウムの反転分布密度が急激に上昇し、増幅器の利得が非常に高くなる。このとき、ファイバの入出射面や融着点、ファイバ部品等の微少な反射率を有する面で共振器が構成され、自然放出光が増幅されて波長1030nm付近で意図しない発振が起こることがある。その結果、ファイバ光増幅器の1064nm光の出力が概ね数W以上の高出力機の場合、高いパワーのASE(Amplified Spontaneous Emission)光がファイバ内を伝播して出射され、ファイバ光増幅器自身や周辺のファイバ部品、励起光源等が損傷するおそれがある。
【0006】
また、励起状態にあるYDFAの増幅部外に何らかの反射体があった場合、例えば、増幅光を導くファイバの入出射面や、増幅部から出射された光を波長変換する波長変換光学素子等の入出射面等に微少な反射があった場合に、ファイバから出射した自然放出光が反射してファイバ内に戻り、これがシード光となって1030nm付近で発振することもある。この場合にも、上記と同様にファイバ内を伝播し出射されるASE光が高パワーになり、ファイバ光増幅器自身や周辺の光学素子が損傷するおそれがある。
【0007】
特に、複数のファイバ光増幅器が直列接続された構成のレーザ装置では、各段での高い利得によってASE光のパワーが高くなり、増幅光が出射される下流側のファイバ光増幅器ほど大幅にパワーが高くなる。そのため、上記のような意図しない発振に基づく機器の損傷を防ぐためには、上流側で信号光の強度が低下するような問題(例えば、信号光出力部の損傷、励起光源の損傷、伝送用ファイバの折損、増幅用ファイバの折損等)が発生したときに、下流側のファイバ光増幅器で励起を停止させる必要がある。
【0008】
しかしながら、多段構成のファイバ光増幅器の場合、どの段で問題が発生するか明確ではない。また、電気回路の断線やシステム全体の緊急停止、停電等により電力供給が遮断される可能性もある。このような場合に、電気的なシーケンスでファイバ光増幅器の励起光源を確実に下流側から停止させることは難しいという課題があった。
【0009】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、複数段のファイバ光増幅器を備えたレーザ装置において、ファイバ光増幅器の励起を確実に下流側から順に停止させることができ、これにより意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制可能なレーザ装置を提供することを目的とする。また、レーザ装置の損傷を抑制することにより、稼働率を向上させた露光装置、検査装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明を例示する第1の態様はレーザ装置である。レーザ装置は、信号光を出力する信号光出力部と、複数のファイバ光増幅器を有し信号光出力部から出力された信号光を順次増幅して増幅光を出力する増幅部とを備える。上記複数のファイバ光増幅器は、各々コアにレーザ媒質がドープされた増幅用ファイバと、レーザ媒質を励起する励起光を発生する励起光源と、励起光源により発生された励起光を増幅用ファイバに伝送する伝送用ファイバとを備える。そして、複数のファイバ光増幅器を、信号光が入射する上流側から順に第1段、第2段・・・第n段(n≧2)とし、各段の伝送用ファイバのファイバ長をL1,L2・・・Lnとしたときに、L1>L2>・・・>Lnとなるように構成される。
【0011】
なお、前記信号光の波長は、ファイバ光増幅器における利得が最も高い波長と異なる波長とすることができる。例えば、前記ファイバ光増幅器はイッテルビウムをレーザ媒質とするイッテルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器を用い、信号光の波長は1.06μm帯とすることができる。
【0012】
また、前記増幅部から出力された増幅光の波長を変換する波長変換部を備え、増幅部から出力された赤外〜可視領域の増幅光が、波長変換部により紫外領域のレーザ光に波長変換されて出力されるように構成することができる。
【0013】
本発明を例示する第2の態様は露光装置である。この露光装置は、上記のようなレーザ装置と、所定の露光パターンが形成されたフォトマスクを保持するマスク支持部と、露光対象物を保持する露光対象物支持部と、レーザ装置から出力されたレーザ光をマスク支持部に保持されたフォトマスクに照射する照明光学系と、フォトマスクを透過した光を露光対象物支持部に保持された露光対象物に投影する投影光学系とを備えて構成される。
【0014】
本発明を例示する第3の態様は検査装置である。この検査装置は、上記のようなレーザ装置と、被検物を保持する被検物支持部と、レーザ装置から出力されたレーザ光を被検物支持部に保持された被検物に照射する照明光学系と、被検物からの光を検出器に投影する投影光学系とを備えて構成される。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様のレーザ装置は、増幅部が複数のファイバ光増幅器からなるレーザ装置において、ファイバ光増幅器を信号光が入射する上流側から順に第1段、第2段・・・第n段(n≧2)とし、各段のファイバ光増幅器における励起光の伝送用ファイバのファイバ長をL1,L2・・・Lnとしたときに、L1>L2>・・・>Lnとなるように構成される。このため、例えば信号光出力部での異常発生に基づいて励起光源をオフにしたような場合はもとより、たとえ電気回路の断線や緊急停止、停電等により電力供給が遮断されたような場合であっても、増幅用ファイバに入射する励起光が下流側から順にオフになり、励起状態にあったファイバ光増幅器を確実に下流側から停止させることができる。そのため、ASE光のパワー増大を抑制することができ、これにより意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制したレーザ装置を提供することができる。
【0016】
第2の態様の露光装置は、意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制したレーザ装置を備えている。そのため、ランニングコストを低減し、稼働率を向上させた露光装置を提供することができる。
【0017】
第3の態様の検査装置は、意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制したレーザ装置を備えている。そのため、ランニングコストを低減し、稼働率を向上させた検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の適用例として示すレーザ装置の概要構成図である。
【図2】上記レーザ装置における増幅部の概要構成図である。
【図3】信号光出力部から出力される信号光と、各段の増幅用ファイバに入射する励起光との関係を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】上記レーザ装置を備えたシステムの第1の適用例として示す露光装置の概要構成図である。
【図5】上記レーザ装置を備えたシステムの第2の適用例として示す検査装置の概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1に本発明を適用したレーザ装置LSの概要構成図を示す。レーザ装置LSは、信号光を出力する信号光出力部10と、信号光出力部から出力された信号光を増幅して出射する増幅部20と、増幅部から出力された増幅光を波長変換して出力する波長変換部30と、これらの作動を制御する制御部50とを備えて構成される。
【0020】
信号光出力部10は、シード光を発生する信号光源11と、信号光源11から出射されたシード光の一部を切り出して出力する電気光学変調器(EOM)15とを主体として構成される。信号光源11は、レーザ装置LSの用途及び機能に応じて適宜な波長帯域の光源を用いることができる。本構成形態においては、波長1064nmの光を出力可能なDFB半導体レーザを用いた構成を例示する。DFB半導体レーザは、励起電流を制御することによりCWまたはパルス発振させることができ、また温度制御することにより所定の波長範囲で狭帯域化された単一波長のシード光を出射させることができる。なおYAGレーザやガラスレーザ等の固体レーザを用いても良い。
【0021】
電気光学変調器15は、信号光源11から出射されたシード光の一部を切り出してパルス状の信号光Lsを出力する。電気光学変調器15は、例えば、マッハツェンダ型の光変調器を用いることができる。電気光学変調器15により切り出され、信号光出力部10から出力された信号光Lsは増幅部20に入射する。
【0022】
増幅部20は、信号光出力部10から出力された信号光を増幅するファイバ光増幅器を主体として構成される。本構成例では、三つのファイバ光増幅器21,22,23を直列に接続した場合を示す。波長1064nmの信号光を増幅するファイバ光増幅器21,22,23として、1000〜1100nmの波長帯域に利得を有するイッテルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器(YDFA)が好適に用いられる。
【0023】
増幅部20に入射した信号光Lsは、まず1段目のファイバ光増幅器21に入射して増幅され、続いて2段目のファイバ光増幅器22、3段目のファイバ光増幅器23に入射して順次増幅される。これら3段のファイバ光増幅器によって増幅された信号光(増幅光という)Laは増幅部20から出力され、波長変換部30に入射する。
【0024】
波長変換部30は、増幅部20から出力された増幅光Laを波長変換して出力する。波長変換部30は、レーザ装置LSが用いられるシステムの用途や機能等に応じて適宜に構成でき、例えば波長355nmの紫外光や、波長193nmの紫外光を出力するように構成することができる。本実施形態では、波長変換部30に設けた二つの波長変換光学素子31,32により、波長1064nmの増幅光Laを波長355nmの紫外光Lvに波長変換して出力する構成例を説明する。
【0025】
波長変換部30に入射した増幅光Laは、レンズを介して波長変換光学素子31に集光入射する。波長変換光学素子31では、増幅光La(基本波)の第2高調波発生が行われ、波長が532nmの2倍波(第2高調波)が発生する。波長変換光学素子31として、例えば、LBO(LiB35)結晶が好適に用いられる。なお、BBO(β-BaB24)結晶やPPLN(Periodically Poled LiNbO3)結晶等を用いても良い。波長変換光学素子31で発生した2倍波と、波長変換光学素子31を透過した基本波は、レンズを介して波長変換光学素子32に集光入射する。
【0026】
波長変換光学素子32では、波長変換光学素子31で発生した2倍波と、波長変換光学素子31を透過した基本波の和周波発生が行われ、波長が355nmの3倍波(第3高調波)が発生する。発生した3倍波は波長変換部30から出射され、波長355nmの紫外光Lvがレーザ装置LSから出力される。
【0027】
制御部50は、信号光源11や電気光学変調器15、ファイバ光増幅器21〜23、を含むレーザ装置全体の作動を制御するコントロールユニットである。制御部50には、詳細図示を省略するが、レーザ装置LSの制御プログラムや各種パラメータが格納された記憶部、制御プログラムに基づいて演算処理を実行する演算処理部、各部を駆動するドライバなどが設けられている。また、レーザ装置のオペレータが操作するキーボードや各種のスイッチ類、制御プログラムの実行状態や各種アラーム等を表示する表示パネルやランプ類などが操作盤に設けられている。
【0028】
例示するレーザ装置LSにおいて、制御部50は、信号光源11から繰り返し周波数1MHz、オン時間が10nsec程度の長パルス状のシード光を発生させ、これを電気光学変調器15により切り出してオン時間が1nsec程度の短パルス状の信号光Lsを出力させる。このとき、ファイバ光増幅器21〜23のそれぞれの励起光源21b〜23bに電力を供給してファイバ光増幅器21〜23の増幅用ファイバ21a〜23aを励起状態とし、増幅部20に入射した信号光Lsを増幅して増幅光Laを出力させる。本構成例の場合、増幅光Laのパワーは数W以上の高出力になり、例えば数十〜数百Wである。増幅光Laは波長変換部30により波長変換され、波長355nmの紫外光Lvがレーザ装置LSから出力される。
【0029】
このように概要構成されるレーザ装置LSにおいては、増幅部20のファイバ光増幅器21〜23は以下のように構成される。増幅部20の概要構成を図2に示す。
【0030】
ファイバ光増幅器21は、コアにイッテルビウム(Yb)がドープされた増幅用ファイバ21a、イッテルビウムを励起する励起光源21b、増幅用ファイバ21aと励起光源21bとの間をつなぎ励起光源21bから出射された励起光を増幅用ファイバ21aに導く伝送用ファイバ21c、及び、伝送用ファイバ21cを増幅用ファイバ21aに結合するポンプコンバイナ21dなどから構成される。ファイバ光増幅器22,23についても同様であり、増幅用ファイバ22a,23a、励起光源22b,23b、伝送用ファイバ22c,23c、ポンプコンバイナ22d,23dなどから構成される。励起光源21b,22b,23bは、例えば半導体レーザやラマンレーザが用いられる。
【0031】
但し、第1段のファイバ光増幅器21、第2段のファイバ光増幅器22、第3段のファイバ光増幅器23では、伝送用ファイバの長さが異なっている。第1段の伝送用ファイバ21cの長さをL1、第2段の伝送用ファイバ22cの長さをL2、第3段の伝送用ファイバ23cの長さをL3としたときに、各伝送用ファイバのファイバ長がL1>L2>L3の関係を有して構成される。
【0032】
この構成により、励起光源が同時にオフとなってしまった場合、第3段→第2段→第1段の順に励起光が消光して増幅用ファイバが励起状態から基底状態に緩和される。なお、励起光源をオンにするときには、上記伝送用ファイバのファイバ長を考慮して、第1段→第2段→第3段の順に励起光が各増幅用ファイバに到達するようにタイミング制御される。
【0033】
そのため、レーザ装置LSやレーザ装置が搭載されたシステムの緊急停止、停電等によって電力供給が遮断されたような場合に、増幅用ファイバに入射する励起光が下流側の第3段のファイバ光増幅器23から上流側の第1段のファイバ光増幅器21に向けて順にオフになり、励起状態にあったファイバ光増幅器が確実に下流側から停止される。このことは、もしもASE光が発生すればパワーが最も高くなる第3段の増幅用ファイバ23aが最初に励起状態から基底状態になることを意味し、ASE光のパワーが高いファイバ光増幅器から順に基底状態に遷移することを意味する。これにより意図しない発振に基づく機器の損傷を効果的に抑制することができる。
【0034】
ここで、レーザ装置LSにおいては、伝送用ファイバ21c,22c,23cの光路差が、信号光Lsのパルス光の概略1周期分となる構成を例示する。すなわち、信号光Lsの繰り返し周期を1MHzとしたときに、第2段の伝送用ファイバ22cのファイバ長L2は、第3段の伝送用ファイバ23cのファイバ長L3に比べて約300m長く、第1段の伝送用ファイバ21cのファイバ長L1は、第3段の伝送用ファイバ23cのファイバ長L3に比べて約600m長く設定している。換言すれば、第1段に約600m、第2段に約300m、第3段に0mの遅延ファイバが接続されて各伝送用ファイバ21c,22c,23cが構成されている。
【0035】
信号光出力部10から出力される信号光Lsと、各段の増幅用ファイバに入射する励起光との関係を時間的な説明するためのタイミングチャートを図3に示す。図3に上下4段に示す各線図は、上から、(1)信号光出力部10から出力される信号光Lsのオン/オフ状態、(2)第1段の増幅用ファイバ21aに入射する励起光のオン/オフ状態、(3)第2段の増幅用ファイバ22aに入射する励起光のオン/オフ状態、(4)第3段の増幅用ファイバ23aに入射する励起光のオン/オフ状態であり、横軸は時間である。
【0036】
なお、図示する例は、時刻t0に異常(例えば、信号光源11の損傷や電気光学変調器15の破損、波長変換光学素子31,32の損傷等)が発生し、制御部50により励起光源21b,22b,23bがオフにされたような場合を示す。また、増幅用ファイバ21a,22a,23aのファイバ長は、伝送用ファイバ22c,23cのファイバ長と比較して短い(例えば数m〜数十m程度である)ため、これらのファイバによる光の遅延は無視して表記している。
【0037】
図示するように、時刻t0に異常が発生して励起光源21b,22b,23bがオフになると、まず第3段の増幅用ファイバ23aに入射する励起光が時刻t1にオフになる。次いで、時刻t1から信号光Lsの光パルス1個分遅れた時刻t2に、第2段の増幅用ファイバ22aに入射する励起光がオフになり、時刻t2からさらに光パルス1個分遅れた時刻t3に、第1段の増幅用ファイバ21aに入射する励起光がオフになる。
【0038】
そのため、ゲインが最も高い(ASE光が発生した場合にパワーが最も高くなる)第3段の増幅用ファイバ23aが最初に基底状態になり、その後、パルス光の1パルスごとにASE光のパワーが高い方から順に基底状態に遷移してゆく。これにより、高パワーのASE光発生を抑制することができ、意図しない発振に基づく機器の損傷を効果的に抑制することができる。
【0039】
なお、異常発生がレーザ装置LSの波長変換部30や周辺機器等であるような場合には、信号光出力部10からの信号光Lsの出力を時刻t3まで(あるいはそれ以降の所定時刻または所定操作まで)停止しないように構成することもできる。このような構成によれば、図3(1)に点線でパルス波形を示すように、第1段の増幅用ファイバ21aに入射する励起光がオフになるまで増幅部20に信号光Lsが供給される(本例ではパルス光がオフとなるタイミングで信号光Lsの供給を停止している)。そのため、第3段→第2段→第1段の順に励起光がオフになる過程においても増幅用ファイバ21a,22a,23aに信号光が供給され、パルス光の周期以上の無信号状態を排除することができる。これにより、ファイバ光増幅器21,22,23でのASE光の発生を完全に抑止することができ、意図しない発振に基づく機器の損傷を確実に抑止することができる。
【0040】
以上の説明では、増幅部20としてイッテルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器(YDFA)を3段直列に接続した構成を例示したが、ファイバ光増幅器の種別や段数は、レーザ装置が用いられるシステムの用途や機能に応じて適宜変更して使用することができる。また、波長変換部30として、波長1064nmの赤外光(増幅光)を二つの波長変換光学素子で波長355nmの紫外光に変換して出力する構成を例示したが、入出射光の波長や波長変換光学素子の組み合わせ等は任意である。例えば、増幅部から出力された波長1547nmの赤外光を、複数の波長変換光学素子で波長193nmの紫外光に変換して出力する構成でもよい。
【0041】
以上説明したようなレーザ装置LSは、小型軽量であるとともに取り扱いが容易であり、露光装置や光造形装置等の光加工装置、フォトマスクやウェハ等の検査装置、顕微鏡や望遠鏡等の観察装置、測長器や形状測定器等の測定装置、光治療装置などのシステムに好適に適用することができる。
【0042】
次に、レーザ装置LSを備えたシステムの第1の適用例として、半導体製造や液晶パネル製造のフォトリソグラフィ工程で用いられる露光装置について、その概要構成を示す図4を参照して説明する。露光装置100は、原理的には写真製版と同じであり、石英ガラス製のフォトマスク113に精密に描かれたデバイスパターンを、フォトレジストを塗布した半導体ウェハやガラス基板などの露光対象物115に光学的に投影して転写する。
【0043】
露光装置100は、上述したレーザ装置LSと、照明光学系102と、フォトマスク113を保持するマスク支持台103と、投影光学系104と、露光対象物115を保持する露光対象物支持テーブル105と、露光対象物支持テーブル105を水平面内で移動させる駆動機構106とを備えて構成される。照明光学系102は複数のレンズ群からなり、レーザ装置LSから出力されたレーザ光を、マスク支持部103に保持されたフォトマスク113に照射する。投影光学系104も複数のレンズ群により構成され、フォトマスク113を透過した光を露光対象物支持テーブル上の露光対象物115に投影する。
【0044】
このような構成の露光装置100においては、レーザ装置LSから出力されたレーザ光が照明光学系102に入力され、所定光束に調整されたレーザ光がマスク支持台103に保持されたフォトマスク113に照射される。フォトマスク113を通過した光はフォトマスク113に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系104を介して露光対象物支持テーブル105に保持された露光対象物115の所定位置に照射される。これにより、フォトマスク113のデバイスパターンの像が、半導体ウェハや液晶パネル等の露光対象物115の上に所定倍率で結像露光される。
【0045】
このような露光装置100によれば、意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制したレーザ装置を備えている。そのため、ランニングコストを低減し、稼働率を向上させた露光装置を提供することができる。
【0046】
次に、レーザ装置LSを備えたシステムの第2の適用例として、フォトマスクや液晶パネル、ウェハ等(被検物)の検査工程で使用される検査装置について、その概要構成を示す図5を参照して説明する。図5に例示する検査装置200は、フォトマスク等の光透過性を有する被検物213に描かれた微細なデバイスパターンの検査に好適に使用される。
【0047】
検査装置200は、前述したレーザ装置LSと、照明光学系202と、被検物213を保持する被検物支持台203と、投影光学系204と、被検物213からの光を検出するTDI(Time Delay Integration)センサ215と、被検物支持台203を水平面内で移動させる駆動機構206とを備えて構成される。照明光学系202は複数のレンズ群からなり、レーザ装置LSから出力されたレーザ光を、所定光束に調整して被検物支持部203に保持された被検物213に照射する。投影光学系204も複数のレンズ群により構成され、被検物213を透過した光をTDIセンサ215に投影する。
【0048】
このような構成の検査装置200においては、レーザ装置LSから出力されたレーザ光が照明光学系202に入力され、所定光束に調整されたレーザ光が被検物支持台203に保持されたフォトマスク等の被検物213に照射される。被検物213からの光(本構成例においては透過光)は、被検物213に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系204を介してTDIセンサ215に投影され結像する。このとき、駆動機構206による被検物支持台203の水平移動速度と、TDIセンサ215の転送クロックとは同期して制御される。
【0049】
そのため、被検物213のデバイスパターンの像がTDIセンサ215により検出され、このようにして検出された被検物213の検出画像と、予め設定された所定の参照画像とを比較することにより、被検物に描かれた微細パターンの欠陥が抽出される。
【0050】
このような検査装置200によれば意図しない発振に基づく機器の損傷を抑制したレーザ装置を備えている。そのため、ランニングコストを低減し、稼働率を向上させた露光装置を提供することができる。なお、被検物213がウェハ等のように光透過性を有さない場合には、被検物からの反射光を投影光学系204に入射してTDIセンサ215に導くことにより、同様に構成することができる。
【符号の説明】
【0051】
LS レーザ装置
10 信号光出力部 20 増幅部
21 第1段のファイバ光増幅器 22 第2段のファイバ光増幅器
23 第3段のファイバ光増幅器 21a,22a,23a 増幅用ファイバ
21b,22b,23b 励起光源 21c,22c,23c 伝送用ファイバ
30 波長変換部 31,32 波長変換光学素子
Ls 信号光 La 増幅光
Lv 紫外光
100 露光装置
102 照明光学系 103 マスク支持台
104 投影光学系 105 露光対象物支持テーブル
113 フォトマスク 115 露光対象物
200 検査装置
202 照明光学系 203 被検物支持台
204 投影光学系 213 被検物
215 TDIセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光を出力する信号光出力部と、
複数のファイバ光増幅器を有し、前記信号光出力部から出力された信号光を順次増幅して増幅光を出力する増幅部とを備え、
前記複数のファイバ光増幅器は、各々コアにレーザ媒質がドープされた増幅用ファイバと、前記レーザ媒質を励起する励起光を発生する励起光源と、前記励起光源により発生された励起光を前記増幅用ファイバに伝送する伝送用ファイバとを備え、
前記複数のファイバ光増幅器を前記信号光が入射する上流側から順に第1段、第2段・・・第n段(n≧2)とし、各段の前記伝送用ファイバのファイバ長をL1,L2・・・Lnとしたときに、
前記各段の伝送用ファイバのファイバ長が、L1>L2>・・・>Lnであることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記信号光の波長は、前記ファイバ光増幅器における利得が最も高い波長と異なる波長であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記ファイバ光増幅器はイッテルビウムをレーザ媒質とするイッテルビウム・ドープ・ファイバ光増幅器であり、前記信号光の波長は1.06μm帯であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記第n段のファイバ光増幅器から出力される増幅光のパワーが数W以上の高出力であることを特徴とする請求項請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記信号光がパルス光である場合において、前記各段の伝送用ファイバの光路差が前記パルス光の1周期分程度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記増幅部から出力された増幅光の波長を変換する波長変換部を備え、
前記増幅部から出力された赤外〜可視領域の増幅光が、前記波長変換部により紫外領域のレーザ光に波長変換されて出力されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
所定の露光パターンが形成されたフォトマスクを保持するマスク支持部と、
露光対象物を保持する露光対象物支持部と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記マスク支持部に保持されたフォトマスクに照射する照明光学系と、
前記フォトマスクを透過した光を露光対象物支持部に保持された露光対象物に投影する投影光学系とを備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
被検物を保持する被検物支持部と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を前記被検物支持部に保持された被検物に照射する照明光学系と、
前記被検物からの光を検出器に投影する投影光学系とを備えたことを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−4597(P2013−4597A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131844(P2011−131844)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】