説明

レーダー装置

【課題】乗用車の屋根に搭載される場合に比しアンテナ装置の大きさが制限されず、さらに、クラッターフェンスを別個設けずに観測精度を高めることができるレーダー装置を提供することを目的とする。
【解決手段】レーダー装置1は、電波を送受信する電波レンズアンテナ装置3と、電波レンズアンテナ装置3に接続された信号処理装置5等の電子機器と、電波レンズアンテナ装置3及び電子機器を収納する輸送用コンテナ2とを備えている。輸送用コンテナ2の上部には、電波レンズアンテナ装置3において電波を送受信するための開口部24bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬可能なレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気象観測や航空管制等の目的で、種々のレーダー装置が使用されている。これらのレーダー装置は、アンテナからマイクロ波等の高周波電波を対象物に向けて放射し、対象物からの反射波または散乱波を受信することにより、対象物の大きさや形状、距離、移動速度等の検知を行うものである。例えば、気象状態を観測するための気象観測用レーダー装置の場合は、雨等の水滴に対して電波を放射し、受信した反射波の解析を行うことにより、降水域の大きさや降水量等を検知する。このようなレーダー装置は、アンテナを備えたアンテナ装置や、アンテナ装置を制御するためのアンテナ制御装置等を備えており、一般的に固定タイプのものが広く用いられている。
【0003】
ここで、任意の地点にレーダー装置を容易に設けることを目的として、可搬タイプのレーダー装置が求められている。可搬タイプのレーダー装置としては、乗用車の屋根やトラックの荷台等にアンテナが搭載されたものが知られており、例えば、衛星からの電波を受信するアンテナとこのアンテナを制御するアンテナ制御装置を移動体である車両に搭載したものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−194163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乗用車の屋根にレーダー装置を搭載する場合、アンテナ装置の大きさが制限されるという問題があり、例えば、気象観測用レーダー装置においては、気象状態の観測が可能な観測距離に制限があった。
【0005】
また、対象物以外の物からの反射波や散乱波(以下、「クラッター」という)をアンテナで受信する場合がある。このため、例えば、気象状態を観測するための気象観測用レーダー装置においては、観測精度が低下する場合があるという問題があり、レーダー装置とは別個に、アンカーボルトを用いて金属板や金網等により構成されるクラッターフェンス(即ち、対象物以外の物からの反射波や散乱波の障壁となるフェンス)を地面に固定して設けていた。
【0006】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、乗用車の屋根に搭載される場合に比しアンテナ装置の大きさが制限されず、さらに、クラッターフェンスを別個設けずに観測精度を高めることができるレーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、電波を送受信する電波レンズアンテナ装置と、電波レンズアンテナ装置に接続された電子機器と、電波レンズアンテナ装置及び電子機器を収納する輸送用コンテナとを備え、輸送用コンテナの上部には、電波レンズアンテナ装置において電波を送受信するための開口部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
同構成によれば、輸送用コンテナ内に電波レンズアンテナ装置及び電子機器が収納されているため、例えば、乗用車の屋根よりも広いトラックの荷台に積載して運搬することができる。従って、乗用車の屋根に搭載される場合に比し、電波レンズアンテナ装置の大きさが制限されず、例えば、気象観測用レーダー装置においては風向や風速の観測が可能な観測距離が制限されない。また、輸送用コンテナの上部には、電波レンズアンテナ装置において電波を送受信するための開口部が設けられている。このため、輸送用コンテナに収納された状態で電波レンズアンテナ装置から電波を対象物へ放射することができ、例えば、輸送用コンテナの側壁を、対象物以外の物からの反射波や散乱波の障壁(即ち、クラッターフェンス)として利用することができる。従って、クラッターフェンスを別個設けずに、レーダー装置の観測精度を高めることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダー装置であって、開口部が開閉自在であることを特徴とする。
同構成によれば、電波レンズアンテナ装置において電波を送受信するための開口部が開閉自在であるため、レーダー装置の運搬時には、開口部を閉じることで、輸送用コンテナ内の電波レンズアンテナ装置を保護することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のレーダー装置であって、開口部が、輸送用コンテナの上部の一部がスライドすることにより開閉されることを特徴とする。
【0011】
同構成によれば、電波レンズアンテナ装置において電波を送受信するための開口部が、輸送用コンテナの上部の一部がスライドすることにより開閉されるため、容易に開口部を開閉することができ、電波を送受信することができる状態にセットアップする時間の短縮を図ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のレーダー装置であって、電子機器として電波レンズアンテナ装置によって放射された電波の反射波または散乱波を解析するための演算装置を備えることを特徴とする。
【0013】
同構成によれば、電子機器として電波レンズアンテナ装置によって受信された電波を解析するための演算装置を備えるため、電波レンズアンテナ装置によって受信された電波を解析するために外部の電子機器に接続する必要がなく、輸送用コンテナ内において、受信した電波を解析することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のレーダー装置であって、電波レンズアンテナ装置は、水平方向における電波レンズアンテナ装置の傾きの調整が可能な支持部材により支持されていることを特徴とする。
【0015】
同構成によれば、電波レンズアンテナ装置は、水平方向における電波レンズアンテナ装置の傾きの調整が可能な支持部材により支持されているため、例えば、輸送用コンテナが傾斜地点に載置された場合であっても、天頂方向に電波を放射できるように、水平方向における電波レンズアンテナ装置の傾きを調整することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のレーダー装置であって、電波レンズアンテナ装置が電波を放射するための電力を発電する発電機をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
同構成によれば、電波レンズアンテナ装置が電波を放射するための電力を発電する発電機をさらに備えるため、外部から電力を得ずに、電波レンズアンテナ装置へ電力を供給することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のレーダー装置であって、輸送用コンテナは、トラック、貨物列車、及び貨物船に積載可能な貨物コンテナであることを特徴とする。
【0019】
同構成によれば、輸送用コンテナは、トラック、貨物列車、及び貨物船に積載可能な貨物コンテナであるため、陸上輸送機関及び海上輸送機関にまたがってレーダー装置を運搬することできる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のレーダー装置であって、気象状態を観測するために用いられる気象観測用レーダー装置に適用したことを特徴とする。
【0021】
同構成によれば、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のレーダー装置を、気象状態を観測するために用いられる気象観測用レーダー装置に適用したため、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のレーダー装置と同じ作用効果が得られる。即ち、乗用車の屋根に搭載される場合に比し、電波レンズアンテナ装置の大きさが制限されず、気象状態を観測することができる観測距離が制限されない気象観測用レーダー装置を得ることができる。また、クラッターフェンスを別個設けずに、気象状態の観測精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、乗用車の屋根に搭載される場合に比し、電波レンズアンテナ装置の大きさが制限されず、クラッターフェンスを別個設けずに、レーダー装置の観測精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明に係るレーダー装置1は、図1に示す輸送用コンテナ2の内部に、図2乃至図5に示すように、電波レンズアンテナ装置3と、データ処理装置4と、信号処理装置5と、送受信装置6と、発電機7と、自動電圧調整器8と、無停電電源装置9と、電源装置10とが設けられた、風向や風速を観測するための気象観測用レーダー装置である。
【0024】
金属製の輸送用コンテナ2は、図1乃至図4に示すように、床21と側壁22と端壁23と屋根24とを有しており、例えば、図1(b)に示すように、移動体であるトラックTに積載可能に設計された貨物コンテナである。さらに、この輸送用コンテナ2は、貨物列車(不図示)及び貨物船(不図示)に積載可能に設計されている。輸送用コンテナ2の大きさは、例えば、長さが5.5〜6.0m、幅が2.0〜2.5m、高さが2.0〜2.5mであることが好ましい。
【0025】
また、輸送用コンテナ2は、電波レンズアンテナ装置3を収納するための第1の収納部25と、第1の収納部25の前側に設けられたデータ処理装置4や信号処理装置5等を収納するための第2の収納部26と、第1の収納部25の後側に設けられた送受信装置6や発電機7等を収納するための第3の収納部27とを有している。第1の収納部25と第2の収納部26は、金属製の壁板28によって区切られるとともに、第1の収納部25と第3の収納部27は、金属製の壁板29によって区切られている。
【0026】
電波レンズアンテナ装置3が収納された第1の収納部25は、図3に示すように、四方が側壁22及び壁板28,29によって囲まれている。また、第1の収納部25における屋根24は、スライド可能なスライド板24aであって、電波レンズアンテナ装置3が上方へ電波を放射できるように、屋根24の一部(即ち、第1の収納部25における屋根24)を開放することができる構成となっている。
【0027】
第2の収納部26には、データ処理装置4と信号処理装置5と自動電圧調整器8と無停電電源装置9とが収納されており、第2の収納部26は、レーダー装置1の使用者がデータ処理装置4を操作するための操作室である。輸送用コンテナ2の側壁22には、第2の収納部26へ入るための扉22aが設けられている。また、演算処理装置であるデータ処理装置4及び信号処理装置5が収納された操作室である第2の収納部26の空気の温度を調整するために、第2の収納部26にはエアコン等の空気調和機(不図示)が設けられていることが好ましい。
【0028】
第3の収納部27には、送受信装置6と発電機7と電源装置10とが収納されており、第3の収納部27は、レーダー装置1の使用者によって操作される頻度が少ないが、製造者等による定期的な保守が必要な機器が格納された格納室である。輸送用コンテナ2の後側の端壁23には、輸送用コンテナ2の後側から第3の収納部27に収納された発電機7を操作するための扉23aが設けられている。また、格納室である第3の収納部27に収納された送受信装置6、発電機7、電源装置10は大量の熱を発生させる。従って、第3の収納部27において発生した熱を輸送用コンテナ2外へ放出するために、輸送用コンテナ2の側壁22には、通気口22bが設けられるとともに、輸送用コンテナ2の後側の端壁23には、ひさし23bで覆われた通気口23cが設けられている。
【0029】
電波レンズアンテナ装置3は、図2に示すように、電波レンズを用いて電波を送受信するアンテナ装置であって、支持部材31と、支持部材31により支持された4個の送受信用電波レンズ32(以下、「電波レンズ32」という)と、各電波レンズ32の焦点部に設けられた一次放射器(不図示)とを備えている。
【0030】
より具体的には、支持部材31は、輸送用コンテナ2の床に設けられるとともに高さが調整可能な4本の支持脚31aと、支持脚31aが四隅に固定された支持板31bと、支持板31b上に設けられた各電波レンズ32を支持する4個の支持台31cとを備えている。従って、支持脚31aを備えた支持部材31により電波レンズ32が支持されているため、各支持脚31aの高さを調整することで、水平方向Hにおける電波レンズアンテナ装置3の傾きを調整することができる。
【0031】
また、電波レンズ32は、球形状を有するルーネベルグレンズであり、中心の球核とそれを取り巻く複数の異径球殻により球形状のレンズとして形成され、誘電体を用いて比誘電率が半径方向に所定の割合で変化するように形成されたものである。このルーネベルグレンズからなる電波レンズ32は、各球殻部の比誘電率εγが、およそεγ=2−(r/R)の式に従うように形成されており、中心部の比誘電率を約2に設定するとともに、中心部から外側へ向かって比誘電率が約1となるように変化させたものである。なお、上記式において、Rは球の半径であり、rは球の中心からの距離である。また、本実施形態においては、電波レンズ32の直径が、例えば、800mmのものが使用できる。また、誘電体とは、常誘電性、強誘電性、若しくは反強誘電性を示し、かつ電気伝導性を有さないものをいう。
【0032】
このルーネベルグレンズ用の誘電体として一般的に用いられているものは、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等のポリオレフィン系の合成樹脂の発泡体であり、上記合成樹脂に酸化チタン、チタン酸塩、ジルコン酸塩等の無機高誘電フィラーを加えてそれを発泡させたものも使用できる。そして、これらの誘電発泡体の比誘電率は、発泡倍率を異ならせて比重を制御することにより目標値に調整され、高比重である程高い比誘電率を得ることができる。
【0033】
また、誘電発泡体の製造方法としては、例えば、原料(合成樹脂単体や合成樹脂と無機高誘電フィラーの混合物)に対して、加熱により分解して窒素ガス等の気体を発生する発泡剤を添加し、これを所望の形状の金型に入れて発泡させる化学発泡法が挙げられる。また、揮発性発泡剤を含浸させたペレット状材料を予め金型外で予備発泡させ、得られた予備発泡ビーズを所望の形状の金型に充填した後、水蒸気等で加熱して再度発泡させると同時に、隣接ビーズを互いに融着させるビーズ発泡法が挙げられる。
【0034】
電波レンズ32の焦点部に配設された一次放射器は、その断面形状が略矩形状や略円形状の開口部を有する電磁ホーンアンテナや、導波管に誘電体ロッドを装着した誘電体ロッドアンテナ等が一般的に使用されるが、マイクロストリップアンテナや、スロットアンテナ、又はそれらを多段に組み合わせたアンテナ等を使用することもできる。また、一次放射器により受信される電波の電界の方向性(偏波)は、直線偏波(例えば、垂直偏波や水平偏波)や円偏波(例えば、右旋偏波や左旋偏波)のいずれであっても良い。
【0035】
一次放射器を備えた電波レンズアンテナ装置3は、送受信装置6から入力されるRF(Radio Frequency、ラジオ周波数)信号を、一次放射器から電波レンズ32を経由して上方へ向けて放射する。このようにして電波を送信する電波レンズアンテナ装置3は、空間で反射または散乱されて戻ってくる微弱な電波を、電波レンズ32を経由してRF信号として一次放射器で受信する。また、一次放射器には、LNA(Low Noise Amplifier、低雑音増幅器)(不図示)が接続されており、受信したRF信号はLNAで増幅され、LNAによって増幅されたRF信号は、電波レンズアンテナ装置3から送受信装置6へ入力される。
【0036】
また、電波レンズアンテナ装置3は、電波レンズ32の各々を雨風や積雪から保護するためのレドーム33を備えている。レドーム33は、優れた電波透過性を有することが必要になるため、本実施形態では、優れた電波透過性を確保するために、レドーム33を構成する材料として、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)材が好適に使用される。また、ハニカム材をFRPで挟みこんだハニカムサンドイッチ構造のレドーム等を使用することもできる。
【0037】
以上のように構成された電波レンズアンテナ装置3は、所定の信号を電波として送信するように、信号処理装置5及び送受信装置6を介してデータ処理装置4に制御される構成となっている。また、電波レンズアンテナ装置3は、受信した反射波または散乱波の信号を、送受信装置6を介して信号処理装置5へ出力し、演算装置である信号処理装置5及びデータ処理装置4が反射波または散乱波の信号を解析する構成となっている。
【0038】
データ処理装置4は、ディスプレイを備えた汎用のPC(Personal Computer)であって、信号処理装置5に接続されており、制御信号を出力して信号処理装置5を制御するとともに、信号処理装置5から入力されるスペクトルデータを基に、風向や風速を算出する演算を行い、それらの演算結果を示すグラフをディスプレイに表示する。
【0039】
信号処理装置5は、130MHzのIF(Intermediate Frequency:中間周波数)信号を生成する発振器(不図示)と、発振器によって生成されたIF信号をパルス圧縮のために変調する変調器(不図示)を有している。信号処理装置5は、送受信装置6に接続されており、信号処理装置5の変調器によって変調されたIF信号であるコード化されたパルス信号を、信号処理装置5から送受信装置6へ出力する。
【0040】
また、信号処理装置5は、送受信装置6から入力されたIF信号をIQ直交検波する検波回路(不図示)と、IQ直交検波された信号をA/D変換するA/D変換器(不図示)とを有している。さらに、信号処理装置5は、A/D変換された信号に対してパルス圧縮のデコード等の処理を行ってスペクトルデータを生成するDSP(Digital Signal Processor)や、CPU(Central Processing Unit)や、FPGA(Field Programmable Gate Array)等(いずれも不図示)を有している。送受信装置6から入力されたIF信号に基づいて生成されるスペクトルデータは、信号処理装置5に接続されたデータ処理装置4へ出力される。
【0041】
送受信装置6は、信号処理装置5から入力されたパルス信号を、局所発振器(不図示)を用いて、例えば、1.3575GHzへ周波数アップコンバートする周波数変換器(不図示)と、周波数アップコンバートされたパルス信号を増幅してRF信号を生成するHPA(High Power Amplifier)(不図示)とを有している。送受信装置6は、電波レンズアンテナ装置3の一次放射器に接続されており、送受信装置6のHPAによって生成されたRF信号を、電波レンズアンテナ装置3へ出力して一次放射器に入力する。
【0042】
また、送受信装置6は、電波レンズアンテナ装置3から入力されたRF信号を、局所発振器を用いて、例えば、130MHz(IF)へ周波数ダウンコンバートすることでIF信号を生成する周波数変換器(不図示)を有している。RF信号を周波数ダウンコンバートすることで生成されたIF信号は、信号処理装置5へ入力される。
【0043】
発電機7は、データ処理装置4と信号処理装置5と送受信装置6と電源装置10と電波レンズアンテナ装置3の動作に必要な電力を得るものである。発電機7によって得られた電力は、自動電圧調整器8と無停電電源装置9を介してデータ処理装置4及び信号処理装置5へ供給されるとともに、自動電圧調整器8と無停電電源装置9と電源装置10を介して送受信装置6へ供給される。
【0044】
自動電圧調整器8は、データ処理装置4と信号処理装置5と送受信装置6へ安定した電力を供給するために、自動的に電圧を調整する機器(いわゆるAVR)であって、例えば、160Vから280Vまで変動する不安定な電圧を、220V±5%の電圧へ安定させる。
【0045】
無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)9は、データ処理装置4と信号処理装置5と電源装置10に接続されており、発電機7に異常が発生した場合であっても一定時間は停電することなく、データ処理装置4と信号処理装置5と電源装置10へ、電力を供給し続ける装置である。例えば、無停電電源装置9は、雷サージによる瞬間的な電圧の上昇を抑制する機能等を備えている。また、電源装置10は、送受信装置6と接続されており、発電機7により得た電力を送受信装置6のHPA等へ供給する。
【0046】
以上のように、本発明に係るレーダー装置1は、筐体として輸送用コンテナ2を備え、この輸送用コンテナ2内に、電波を放射する電波レンズアンテナ装置3と、電波レンズアンテナ装置3に接続された電子機器(即ち、データ処理装置4、信号処理装置5、送受信装置6等)を備えた構成である。
【0047】
ここで、本実施形態においては、電波レンズアンテナ装置3と、電子機器と、電波レンズアンテナ装置3及び電子機器を収納する輸送用コンテナ2とを備え、図6及び図7に示すように、輸送用コンテナ2の上部(即ち、屋根24)には、電波レンズアンテナ装置3において電波を送受信するための開口部24bが設けられていることに特徴がある。
【0048】
より具体的には、上述のごとく、電波レンズアンテナ装置3が収納された第1の収納部25における屋根24はスライド板24aであるため、スライド板24aがスライドすることによって、輸送用コンテナ2の上部の一部(屋根24の一部であって電波レンズアンテナ装置3の上方)が開閉される構成となっており、開口部24bが開閉自在となっている。
【0049】
本実施形態のレーダー装置1によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)輸送用コンテナ2内に電波レンズアンテナ装置3及び電子機器が収納されているため、レーダー装置1を乗用車の屋根よりも広いトラックTの荷台に積載して運搬することができる。従って、乗用車の屋根に搭載される場合に比し、電波レンズアンテナ装置3の大きさが制限されず、風向や風速の観測が可能な観測距離が制限されない。また、輸送用コンテナ2の上部(屋根24)には、電波レンズアンテナ装置3において電波を送受信するための開口部24bが設けられている。このため、輸送用コンテナ2に収納された状態で電波レンズアンテナ装置3から電波を対象物へ放射することができ、輸送用コンテナ2の側壁22を、対象物以外の物からの反射波や散乱波の障壁(即ち、クラッターフェンス)として利用することができる。従って、クラッターフェンスを別個設けずに、レーダー装置1の観測精度を高めることができる。
【0050】
(2)電波レンズアンテナ装置3において電波を送受信するための開口部24bが開閉自在であるため、レーダー装置1の運搬時には、開口部24bを閉じることで、輸送用コンテナ2内の電波レンズアンテナ装置3を保護することができる。
【0051】
(3)電波レンズアンテナ装置3において電波を送受信するための開口部24bが、輸送用コンテナ2の上部の一部(屋根24の一部であるスライド板24a)がスライドすることにより開閉されるため、容易に開口部24bを開閉することができる。従って、電波を送受信することができる状態にセットアップする時間の短縮を図ることができる。
【0052】
(4)レーダー装置1が備える電子機器として、電波レンズアンテナ装置3によって受信された電波(即ち、対象物からの反射波や散乱波)を解析するための演算装置(即ち、データ処理装置4及び信号処理装置5)を備えている。このため、電波レンズアンテナ装置3によって受信された電波を解析するために外部の電子機器(不図示)に接続する必要がなく、輸送用コンテナ2内において、受信した電波を解析することができる。
【0053】
(5)電波レンズアンテナ装置3は、水平方向Hにおける電波レンズアンテナ装置3の傾きの調整が可能な支持部材31により支持されているため、輸送用コンテナ2が傾斜している地点に載置された場合であっても、天頂方向に電波を放射できるように、水平方向Hにおける電波レンズアンテナ装置3の傾きを調整することができる。
【0054】
(6)電波レンズアンテナ装置3が電波を放射するための電力を発電する発電機7をさらに備えるため、外部から電力を得ずに、電波レンズアンテナ装置3へ電力を供給することができる。
【0055】
(7)輸送用コンテナ2は、トラックT、貨物列車、及び貨物船に積載可能な貨物コンテナであるため、陸上輸送機関及び海上輸送機関にまたがってレーダー装置1を運搬することができる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の設計変更をすることが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。例えば、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0057】
・輸送用コンテナ2は、トラックT、貨物列車、及び貨物船に積載可能な貨物コンテナであったが、輸送用コンテナ2は、移動体に積載できればよい。例えば、輸送用コンテナ2がトラックTのみに積載可能であってもよい。
【0058】
・レーダー装置1は発電機7を備えていたが、発電機7を備えずに、外部電源から電波レンズアンテナ装置3へ電力を供給するように構成してもよい。また、外部の演算装置(不図示)により、電波レンズアンテナ装置3によって放射された電波の反射波または散乱波を解析する構成としてもよい。
【0059】
・電波レンズアンテナ装置3において電波を送受信するための開口部24bが、輸送用コンテナ2の上部の一部(屋根24の一部であるスライド板24a)がスライドすることにより開閉されたが、開口部24bが開閉されるための機構はどのようなものであっても良い。例えば、蝶番を用いて輸送用コンテナ2の上部が開いて開口部24bが開閉されるように構成してもよい。
【0060】
上記実施形態から把握できる技術的思想について、その効果とともに以下に追記する。
(付記1)
前記電子機器として演算装置を備え、前記電波レンズアンテナ装置は、電波を送信するとともに、送信した電波の反射波または散乱波を受信して、前記反射波または散乱波の信号を前記演算装置へ出力し、前記演算装置は前記反射波または散乱波の信号を解析することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のレーダー装置。
【0061】
同構成によれば、電波レンズアンテナ装置によって受信された反射波または散乱波の信号を外部の電子機器(不図示)へ出力することなく、輸送用コンテナ内において、受信した反射波または散乱波の信号を解析することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の活用例としては、電波レンズアンテナ装置を介して、高周波電波の送受信を行う気象観測用レーダー装置が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)本発明の実施形態に係るレーダー装置を示す斜視図、(b)本発明の実施形態に係るレーダー装置が運搬される状態を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施形態に係るレーダー装置を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態に係るレーダー装置を示す断面図であって、図2のA−A断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るレーダー装置を示す断面図であって、図2のB−B断面図。
【図5】本発明の実施形態に係るレーダー装置の構成を示すブロック図。
【図6】本発明の実施形態に係るレーダー装置が使用される状態を説明するための斜視図。
【図7】本発明の実施形態に係るレーダー装置が使用される状態を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0064】
T…トラック(移動体)、H…水平方向、1…レーダー装置(気象観測用レーダー装置)、2…輸送用コンテナ、3…電波レンズアンテナ装置、4…データ処理装置、5…信号処理装置、6…送受信装置、7…発電機、8…自動電圧調整器、9…無停電電源装置、10…電源装置、21…床、22…側壁、23…端壁、24…屋根、24a…スライド板、24b…開口部、25…第1の収納部、26…第2の収納部、27…第3の収納部、28,29…壁板、31…支持部材、32…電波レンズ、33…レドーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送受信する電波レンズアンテナ装置と、前記電波レンズアンテナ装置に接続された電子機器と、前記電波レンズアンテナ装置及び前記電子機器を収納する輸送用コンテナとを備え、前記輸送用コンテナの上部には、前記電波レンズアンテナ装置において電波を送受信するための開口部が設けられていることを特徴とするレーダー装置。
【請求項2】
前記開口部が開閉自在であることを特徴とする請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項3】
前記開口部が、前記輸送用コンテナの上部の一部がスライドすることにより開閉されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダー装置。
【請求項4】
前記電子機器として前記電波レンズアンテナ装置によって受信された電波を解析するための演算装置を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のレーダー装置。
【請求項5】
前記電波レンズアンテナ装置は、水平方向における前記電波レンズアンテナ装置の傾きの調整が可能な支持部材により支持されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のレーダー装置。
【請求項6】
前記電波レンズアンテナ装置が電波を送受信するための電力を発電する発電機をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のレーダー装置。
【請求項7】
前記輸送用コンテナは、トラック、貨物列車、及び貨物船に積載可能な貨物コンテナであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のレーダー装置。
【請求項8】
気象状態を観測するために用いられる気象観測用レーダー装置に適用したことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のレーダー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−66076(P2010−66076A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231423(P2008−231423)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】