説明

ロッカーアーム用軸受の製造方法

【課題】焼き入れ工程の簡素化が可能なロッカアーム用軸受を得ること。
【解決手段】一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aの内周縁に支持軸14の軸端部14aを固定手段としてかしめ固定し、支持軸14の軸中間部14bの軌道部に、複数の転動体である針状ころ16を介して外輪18を回転自在に支持させて形成したロッカーアーム用軸受組立体の全体に、硬化熱処理を実施してロッカアーム用軸受を製造するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のエンジンの動弁機構に付設されるバルブを開閉動作するロッカーアームに組み込まれるロッカーアーム用軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロッカーアームは、自動車エンジンの動弁機構に付設されて、動弁カムの回転に伴いその胴体がラッシュアジャスタ受け(ピボット受け)またはロッカーアームシャフトを中心に揺動して自動車エンジンのバルブを開閉動作させるものである。
このようなロッカーアームに組み込まれる従来のロッカーアーム用軸受は、軸受保持部材としてロッカーアーム胴体を構成する一対の対向側壁と、一対の対向側壁の軸端挿通孔の内周縁に軸端部の端面がかしめられる支持軸と、該支持軸の軸中間部の軌道部に、複数のころを介して又は直接、回転自在に支持される外輪とを備えて構成されている。
そして、支持軸の軸中間部の軌道部外表面が高周波焼入れにより表面硬化されており、両軸端部は熱処理無しとして端面かしめが可能な表面硬度とされて対向側壁の軸端挿通孔の内周縁にかしめ付けられて固定されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−156688号公報(第2頁、第11図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のロッカーアーム用軸受は、一対の対向側壁の軸端挿通孔に支持軸が挿入され、その支持軸の挿入後に軸端挿通孔の内周縁に支持軸の軸端部の端面がかしめ固定されものであり、軸受の機能上、支持軸のころ転走部である軸中央部付近は焼き入れ熱処理が予め実施されている必要があるが、支持軸の軸両端部はかしめを施すために熱処理が実施されないようにしなければならず、このような支持軸の熱処理には普通焼き入れを行うことができず、高周波誘導加熱コイルを用いた部分的な高周波焼き入れに限定され、手間がかかるという問題があった。
本発明はかかる問題点を解決するためになされたもので、焼き入れ工程の簡素化が可能なロッカーアーム用軸受の製造方法を得ること目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るロッカーアーム用軸受の製造方法は、一対の対向側壁の軸端挿通孔の内周縁に軸端部が固定される支持軸と、該支持軸の軸中間部の軌道部に、複数の転動体を介して又は直接、回転自在に支持される外輪とを備えたロッカーアーム用軸受の製造方法であって、
前記一対の対向側壁の軸端挿通孔の内周縁に前記支持軸の軸端部を固定手段で固定し、該支持軸の軸中間部の軌道部に、複数の転動体を介して又は直接、外輪を回転自在に支持させて形成したロッカーアーム用軸受組立体の全体に、硬化熱処理を実施してロッカーアーム用軸受を製造するようにしたものである。
また、前記固定手段はかしめ又は溶接によるものである。
さらに、前記ロッカーアーム用軸受組立体に対する硬化熱処理は真空又は不活性ガスの雰囲気下で実施される焼入れ熱処理である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、一対の対向側壁の軸端挿通孔の内周縁に前記支持軸の軸端部を固定手段で固定し、該支持軸の軸中間部の軌道部に、複数の転動体を介して又は直接、外輪を回転自在に支持させて形成したロッカーアーム用軸受組立体の全体に、硬化熱処理を実施してロッカーアーム用軸受を製造するようにしたので、従来のように複雑で手間のかかる高周波焼き入れを行わなくても済み、焼き入れ工程を簡素化でき、効率よくロッカーアーム用軸受を組み立てることができる。
また、固定手段はかしめ又は溶接によるものであり、簡単に固定することができる。
さらに、前記ロッカーアーム用軸受組立体に対する焼き入れ熱処理は真空又は不活性ガスの雰囲気下で実施される焼入れ熱処理であることにより、スケール等の付着が少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るロッカーアーム用軸受を備えたエンドピボットタイプのロッカーアームの側面図、図2は図1のA−A線に沿う断面図である。
図において、ロッカーアームに組み込まれる本発明の実施の形態に係るロッカーアーム用軸受は、軸受保持部材としてロッカーアーム胴体を構成する一対の対向側壁12と、一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに挿入されて固定される支持軸14と、支持軸14の軸中間部の軌道部に、複数のころ16を介して回転自在に支持される外輪18とを備えて構成されている。その外輪18の外周面にはカム20が当接してロッカーアームが構成される。
【0007】
一対の対向側壁12は例えば鋼材からなり、互いに同形状で平行に対向しており、これら対向側壁12の長手方向の両側にはそれぞれラッシュアジャスタ受け12bとバルブステム受け12cとが設けられ、一対の対向側壁12はラッシュアジャスタ受け12bとバルブステム受け12cを介して一体に構成されている。
一対の対向側壁12にそれぞれ形成される軸端挿通孔12aは、それぞれ対向側壁12を軸方向に同じ一定の孔径で貫通している。
また、支持軸14は、鋼材からなり、鋼種は特に限定されないが、SUS、SUJ、SKHなどの鋼材が好ましい。
その支持軸14は、その軸端部14aが一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに挿入され、一対の対向側壁14間の軸中間部14bには、例えば鋼材からなる転動体としての複数の針状ころ16を介して外輪18が回転自在に外装されて支持されている。外輪18の外周面には、カム20が当接している。
【0008】
次に、本発明の実施の形態1に係るロッカーアーム用軸受の製造方法について説明する。
まず、一対の対向側壁12間に入り込む長さの支持軸14と同径で、外輪18の幅以下のゴム軸に、複数の針状ころ16を介して外輪18を回転自在に組み立てた組立体を形成する。
次に、その組立体を一対の対向側壁12間に介装させ、ゴム軸の両端部を一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに整合させる。
しかる後に、支持軸14を一方の対向側壁12の軸端挿通孔12aから挿入していき、ゴム軸を他方の対向側壁12の軸端挿通孔12aから次第に飛び出させ、支持軸14の先端が他方の対向側壁12の軸端挿通孔12aに達したところで、最終的にゴム軸の代わりに支持軸14が一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに挿着され、その支持軸14に複数の針状ころ16を介して外輪18を回転自在に組み立てることができる。
【0009】
かかる支持軸14の軸端挿通孔12aに対する挿着後に、図2に示すように軸端挿通孔12aの内周縁に支持軸14の軸端部の端面をかしめ固定することにより、ロッカーアーム用軸受組立体が組み立てられる。このかしめ部分を符号24で示す。
このようにして組み立てられたロッカーアーム用軸受組立体の全体に対して例えばアルゴンガスの不活性ガスの雰囲気下で普通焼き入れ、これに続く焼き戻し等の硬化熱処理を行い、製品としてのロッカーアーム用軸受が完成する。
なお、ロッカーアーム用軸受にスケール等が付着している場合は、熱処理後に例えば酸性洗い等の化学的処理を行うことによりとることができる。
【0010】
この実施の形態1のように、一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに対する複数の針状ころ16と外輪18を備えた支持軸14の挿着後に、図2に示すように軸端挿通孔12aの内周縁に支持軸14の軸端部14aの端面をかしめ固定することにより、ロッカーアーム用軸受組立体が組み立てられ、このようにして組み立てられたロッカーアーム用軸受組立体の全体に対して例えばアルゴンガスの不活性ガスの雰囲気下で普通焼入れの熱処理を行ってロッカーアーム用軸受を完成させるようにしたので、従来のように複雑で手間のかかる高周波焼き入れを行わなくても済み、焼入れ工程を簡素化でき、効率よくロッカーアーム用軸受を組み立てることができる。
【0011】
実施の形態2.
図3は本発明の実施の形態2に係るロッカーアーム用軸受の断面図である。
この実施の形態2において、上記実施の形態1と同様の構成は同一符号を付して重複した構成の説明を省略する。
この実施の形態2は、一対の対向側壁12に対する支持軸14の取り付け方が実施の形態1と相違するものである。
即ち、上記実施の形態1では、軸端挿通孔12aの内周縁に支持軸14の軸端部14aの端面をかしめ固定することにより、ロッカーアーム用軸受組立体が組み立てられているが、この実施の形態2では支持軸14の一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに対する挿着後に、図3に示すように、軸端挿通孔12aの内周縁と支持軸14の軸端部14aの端面外縁とを溶接34して固定することにより、ロッカーアーム用軸受組立体を組み立て、その後に組み立てられたロッカーアーム用軸受組立体の全体に対して例えばアルゴンガスの不活性ガスの雰囲気下で普通焼入れの熱処理を行い、製品としてのロッカーアーム用軸受を完成させるようにしたものである。
なお、ロッカーアーム用軸受にスケール等が付着している場合は、熱処理後に例えば酸性洗い等の化学的処理を行うことによりとることができる。
【0012】
この実施の形態2のように、一対の対向側壁12の軸端挿通孔12aに対する複数の針状ころ16と外輪18を備えた支持軸14の挿着後に、図3に示すように、軸端挿通孔12aの内周縁と支持軸14の軸端部14aの端面外縁との全周を溶接34して固定することにより、ロッカーアーム用軸受組立体が組み立てられ、このようにして組み立てられたロッカーアーム用軸受組立体の全体に対して例えばアルゴンガスの不活性ガスの雰囲気下で普通焼入れの熱処理を行ってロッカーアーム用軸受を完成させるようにしたので、従来のように複雑で手間のかかる高周波焼き入れを行わなくても済み、焼き入れ工程を簡素化でき、効率よくロッカーアーム用軸受を組み立てることができる。
また、上記実施の形態では、一対の対向側壁12と支持軸14とを溶接34により固定しているので、かしめによる支持軸14における変形の発生を考慮しなくて済み、効率よくロッカーアーム用軸受が組み立てることができる。
【0013】
なお、この実施の形態2では、軸端挿通孔12aの内周縁と支持軸14の軸端部14aの端面外縁との全周を溶接34して固定しているが、充分な接合強度が保たれるのであれば、全周に溶接34を施さなくてもよい。
上記実施の形態1、2におけるロッカーアーム用軸受組立体に対する硬化熱処理として普通焼入れを示したが、浸炭や浸炭窒化処理等他の硬化熱処理も適用できることはいうまでもない。
また、上記実施の形態1、2のロッカーアーム用軸受はセンタピボットタイプのロッカーアームにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るロッカーアーム用軸受が組み込まれているロッカーアームの側面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係るロッカーアーム用軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0015】
12 対向側壁、12a 軸端挿通孔、14 支持軸、14a 軸端部、16 針状ころ、18 外輪、20 カム、24 かしめ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対向側壁の軸端挿通孔の内周縁に軸端部が固定される支持軸と、該支持軸の軸中間部の軌道部に、複数の転動体を介して又は直接、回転自在に支持される外輪とを備えたロッカーアーム用軸受の製造方法であって、
前記一対の対向側壁の軸端挿通孔の内周縁に前記支持軸の軸端部を固定手段で固定し、該支持軸の軸中間部の軌道部に、複数の転動体を介して又は直接、外輪を回転自在に支持させて形成したロッカーアーム用軸受組立体の全体に、硬化熱処理を実施してロッカーアーム用軸受を製造することを特徴とするロッカーアーム用軸受の製造方法。
【請求項2】
前記固定手段はかしめ又は溶接であることを特徴とする請求項1記載のロッカーアーム用軸受の製造方法。
【請求項3】
前記ロッカーアーム用軸受組立体に対する硬化熱処理は真空又は不活性ガスの雰囲気下で実施される焼入れ熱処理であることを特徴とする請求項1又は2記載のロッカーアーム用軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−208871(P2008−208871A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44342(P2007−44342)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】