説明

三次元形状測定装置

【課題】大型の揚水ポンプや遠心圧縮機,往復圧縮機の内部に設ける羽根車を、安全かつ速やかに自動三次元測定する三次元形状測定装置を提供する。
【解決手段】羽根車の測定に際し、測定対象物の設計データたる三次元CADデータから、最適なスキャンパス情報を作成し、そのスキャンパス情報に基づき、アーム型三次元測定機の測定機手先部を三次元移動させる測定機取り付け部と、取得した表面形状情報を座標点群として順次記憶する制御端末とからなる。
制御端末内に設けた仮想空間内で、測定対象物を含めた実際の三次元測定にかかる構成機器から、装置の挙動をシミュレートし、最適なスキャンパス情報を作成する。スキャンパス情報は、中継ポイントと呼ばれる測定機取り付け部の三次元移動経路点と、その経路点間における測定機手先部の姿勢に関する情報からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物に対して表面形状測定を行う三次元形状測定装置に係り、特に、複数の関節部を含む多段アームとその末端部に接触式あるいは非接触式プローブを有するアーム型三次元測定機に補助機構を設けた三次元形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大型の揚水ポンプや遠心圧縮機の内部に設ける羽根車の外観寸法検査は、その羽根の特殊な曲面形状ゆえに検査作業者に高い技量を求めている。検査要領は、検査作業者の技量に大きく左右するノギスやマイクロメータ、ハイトゲージ等による入念な手作業の測長である。これら手作業に代り近年では、測定対象物の検査したい部位に対して高精度に、そして少ない動作で大量に表面形状情報を取得可能であり、それらを自動的に行える三次元測定機を導入し、検査作業者の作業量低減に伴う製作工程のスムーズ化や、検査結果の精度向上,均一化を図っている。
【0003】
従来の三次元測定機は、形状の異なる測定対象物に対して自動測定を行うための方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、複数の関節を含む多関節アームと、その末端部に接触式ないし非接触式プローブを設けた可搬式座標測定器がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−14876号公報
【特許文献2】特開平8−261745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1は、ワーク(本発明では測定対象物に該当する)に関するパートプログラムによって測定プローブの移動経路を決定し自動計測する三次元測定機の制御システムについて開示している。ここで、本件に上記特許文献1を適用すると以下の問題が生じてしまう。すなわち、特許文献1による画像認識装置では、大型羽根車の如き複雑形状の物体の全体像を捉えるために非常に多くの撮像を行うこととなり、予備情報の算出が困難となり、パートプログラムが期待される効果を発揮せずに、十分な三次元測定が実施されない問題がある。
【0006】
上記特許文献2は、複数の関節部を含む多段アームとその末端部に接触式あるいは非接触式の測定子(本発明では接触式あるいは非接触式プローブを示す)を設けた三次元測定装置について開示している。これによれば、検査作業者の測定姿勢により測定物の隠れた測定面を三次元測定可能であるため、前述した羽根車の表面形状の三次元測定には好適である。しかしながら、そのためには検査作業者が隠れた測定面に入り込んで三次元測定を行う必要があり、検査作業者は常に作業姿勢を考慮しつつ三次元測定を行うことから、検査作業者の当該測定機取扱技能に左右され、三次元測定に時間がかかってしまう場合がある。また、羽根車の仕上げ工程によっては鋭利な角部が生じており、作業姿勢の考慮により意識が発散し思わぬ怪我を負う、といった問題がある。
【0007】
上記特許文献以外にも、上記特許文献2の如き測定子を用いた多関節アーム型の、測定ロボットによる自動三次元計測に関するシステムが提案されている。当該システムは、測定機手先部の重量を各関節部で支える構造となり、大型のワークを測定する場合、各アームを長くする必要があり、各関節の駆動部に、その自重を考慮した大型で大出力の駆動機構を設けることになる。一方で、可能な限り軽量化すればアーム部は自ずと軽量小型となってしまい、測定範囲が限定されてしまう。大型の揚水ポンプや遠心圧縮機の内部に設ける羽根車の大きさは、小型のもので羽根径0.3m 程度、大型のもので羽根径2m以上の規模のものがある。本件適用においては、単体においても比較的高コストな大小様々な測定ロボットを、複数揃えなければならない問題がある。また、当該システムでは、測定したい三次元座標を指定した場合、一旦、各関節の屈曲角度やひねり角度を演算する必要あり、その演算プログラムが複雑となる。
【0008】
上記の係る問題を解決するためには、本発明の目的は、検査作業者の技能に左右されずに三次元測定が自動的に速やかに行うために、設計データである三次元CADデータからプローブ測定移動経路等を作成した後、その情報群に基づき自動的に三次元測定することの可能な三次元形状測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の三次元測定装置に補助機構を設け、補助機構が、測定対象物の設計データである三次元CADデータから測定対象物の測定に際し最適なスキャンパス情報を作成し、そのスキャンパス情報に基づき三次元移動可能な測定器取り付け部と、取得した表面形状情報を座標点群として順次記憶するデータ記憶部とから成っており、測定器取り付け部には、多関節型三次元計測機の手先部を取り付け可能であることを特徴としている。スキャンパス情報は、中継ポイントと呼ばれる測定機取り付け部の三次元移動経路点と、その経路点間における測定機手先部の姿勢に関する情報からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。すなわち、本発明における補助機構は、測定対象物に対して測定プローブの形状なりに、その姿勢を変えつつ自動で三次元測定を行えるため、大型の揚水ポンプや遠心圧縮機の内部に設ける羽根車の如き複雑形状物体に対して、安全かつ速やかに三次元測定を行うことが可能となる。
【0011】
また、三次元測定時、本発明の補助機構が三次元移動&姿勢を制御するため、明示的な三次元位置情報やその時の姿勢情報を与えることが可能となり、前述の測定ロボットによる自動三次元計測に比べ、演算プログラムが簡単になる。さらに、測定機取り付け部が測定機関節部やアーム部の全重量を支持するため、同種の、長いアーム長のアーム型三次元測定機の搭載あるいは取り替えが可能であり、より大きな測定対象物にも対応可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に、本発明の三次元形状測定装置の概略図を示す。三次元形状測定装置は、測定対象物を載置する測定台1がスイングブラケット支持台4上に測定台昇降機構12を介して取り付けられている。スイングブラケット2の一方端側はスイングブラケット支持台4に、図示していないガイドレールや潤滑剤を介してスイングブラケット支持台4の中心を回転中心として円運動ができるように取り付けられている。スイングブラケット2の他方端側には測定機搭載台3が取り付けられている。測定機搭載台3上には、高さ情報検出手段を備え、上下方向に移動させるための測定器昇降機構6を介して測定機本体5が取り付けられている。
【0014】
まず、本発明の補助機構について説明する。スイングブラケット支持台4側のスイングブラケット2には、Y軸スライダ13が設けてある。このY軸スライダ13上には、Y軸方向に移動可能なY軸スライダ駆動機構13mが取り付けられており、そのY軸スライダ駆動機構13mにZ軸スライダ14が固定されている。Z軸スライダ14には、Z軸スライダ駆動機構14mがZ軸方向に移動可能に設けられ、このZ軸スライダ駆動機構14mにX軸スライダ駆動機構15mが固定されている。このX軸スライダ駆動機構15mにはX軸スライダをX軸方向に移動可能に取り付けてある。X軸スライダ15の一方の端部には、後述するθX軸回転ユニット18が取り付けてある。それぞれの移動機構には、エンコーダ等の位置検出機構(図示しない)が設けてある。X軸スライダの1端側は測定機手先部9に接続されており、前述の構成によって測定機手先部9を三次元移動可能に構成してある。また、X軸スライダ駆動機構15mには、XYZ各方向に対する圧力検知機構が設けられており、制御端末は圧力検知機構からの信号に応じて、実行中の三次元測定の続行あるいは中断を判定する。
【0015】
前述のX,Y,Z軸スライダが三次元形状測定装置の補助機構の役割を持っている。
【0016】
スイングブラケット2のY軸スライダ13搭載付近の下部と、測定機搭載台3の下部にはそれぞれ位置固定可能なキャスタ(図示しない)が設けてある。これらキャスタは、スイングブラケット2の各種搭載物の重量によるたわみ防止と回転運動補助の役割を果たす。なお、測定台1はスイングブラケット支持台4に固定してあり、スイングブラケット2の回転運動に追随しない。測定台1は、上下方向の位置を検出する検出手段を備えた測定台昇降機構12によって、その高さを微調整可能となっている。補助機構を構成している各スライダのストロークは後述する測定機アーム部8a,8bの屈伸に伴う測定機の測定可能距離を越えないようになっている。
【0017】
補助機構の原点は、測定台1の表面中心位置に設定してある。また、接触式プローブ
10の測定原点は先端部に設けた球形プローブ中心に設定してあり、非接触式プローブ
11の測定原点はラインレーザ出力部20としてある。このプローブの測定原点と、補助機構の原点とが一致した場合、各軸スライダの位置検出機構が原点位置(ゼロ点位置)を示すように、各軸スライダは二種類の原点位置を割り付けてある。また、後述する各θ軸ユニットは、その角度検出機構が原点位置を示した場合、測定機手先部9が測定台1底面に対して垂直に指向するように調整してある。
【0018】
三次元形状測定装置の近傍で、特に測定に支障の無い場所には、制御端末が設けてあり、各構成機器の駆動制御や状態監視,データ管理を行う。
【0019】
補助機構を設けることのできるアーム型三次元測定機は、測定機本体5上に複数の関節部とアーム部と手先部と手先部に設けられた2種類のプローブからなる。具体的には、測定機本体5上に設けた無限回転する測定機ひねり可動部19aに取り付けられた測定機関節部7aに測定機アーム部8aの一端側が取り付けられている。さらに、測定機アーム部8aの他端側に取り付けられている無限回転する測定機ひねり可動部19bに、測定機関節部7bを介して測定機アーム部8bの一端側が取り付けてある。測定機アーム部8bの他端側には、無限回転する測定機ひねり可動部19cが取り付けられ、そこに測定機関節部7cに取り付けられた測定機手先部9が設けてある。この測定機手先部9には、接触式プローブ10と、非接触式プローブ11とが取り付けてある。
【0020】
アーム型三次元測定機は、接触式プローブ10または非接触式プローブ11によって指示した非測定物の部位の位置情報を、各測定機関節部7a,7b,7c,測定機ひねり可動部19a,19b,19c,19dの7箇所設けてある各々のエンコーダ等の位置検出機構(図示しない)によって検出した各位置情報から特定可能である。各位置検出機構の検出値は、測定機本体5内部のデータ出力機構(図示しない)を介して外部の制御端末へデータ出力可能となっている。
【0021】
以上の構成により、スイングブラケット2上に構成した機器は、スイングブラケット2を含めスイングブラケット支持台4の中心に対して円運動可能となる。これにより、測定機本体5設置位置に向かって対面に位置する、見えない測定対象面に対し、円運動による測定機本体5の回り込み移動を行うことによって、容易に三次元測定を行うことが可能となる。
【0022】
図2に、補助機構を設けた三次元形状測定装置の測定機手先部9の概略図を示す。本図において、図1と同じ部品は同じ番号を付けてある。測定機手先部9の腕部には、非接触式プローブ11が取り付けてある。非接触式プローブ11はラインレーザ出力部20とラインレーザ撮像部21とを備えている。ラインレーザ出力部20からの出射光は測定物の測定対象面99にラインレーザ軌跡22を描いて照射される。図のように測定対象面99には投影ラインレーザ光24が描かれ、撮像範囲26のラインレーザ撮像部21が投影ラインレーザ光24を、図のようにラインの中心位置に撮像光軸23がくるようにして撮像する。
【0023】
補助機構には、測定機手先部9の姿勢を調整するために、θY軸回転ユニット16と、θZ軸回転ユニット17と、θX軸回転ユニット18とを備えている。これによって、測定機手先部9に取り付けてある接触式プローブ10および非接触式プローブ11の指示する向きを調整するように構成してある。
【0024】
θX軸回転ユニット18は、測定機手先部9を補助機構に固定する役割を兼ねている。すなわち、X軸スライダ15の先端に設けたθX軸回転ユニット18に取り付けられたブラケットを介して、θY軸回転ユニット16が取り付けられ、このθY軸回転ユニット
16にθZ軸回転ユニット17が設けられ、このθZ軸ユニット17が測定機手先部9に取り付けられている。
【0025】
本実施例に示すアーム型三次元測定機あるいは同種の他のアーム型三次元測定機をθZ軸回転ユニット17に取り付けることが可能である。補助機構は、取り付け可能なアタッチメント(図示しない)を介してアーム型三次元測定機から着脱できる構成となっている。さらに、このアタッチメントは、測定機手先部9に対して規定値以上の屈曲反力、または測定対象物99との接触による反力が加われば脱落するよう設けてある。これにより、プローブや測定機手先部の破損を極力防止するよう配慮してある。
【0026】
本実施例の補助機構を備えたアーム型三次元測定機では、適宜、三次元測定を行うプローブを、接触式プローブ10又は非接触式プローブ11のいずれかに切り替えて使用することが可能となっている。非接触式プローブ11の測定原理は三角測量法であり、ラインレーザ軌跡22と撮像光軸23は常に規定の角度で固定されている。ラインレーザ出力部20から出力したラインレーザ光は、測定対象部が3次元物体の場合、その表面形状に倣って走査され、場合によっては湾曲あるいは寸断されて測定対象面99に投影される。測定対象面99と非接触式プローブ11とを接写距離Lに保持すると、ラインレーザ撮像部21は投影ラインレーザ光24を捉えることが可能となる。撮像範囲26の画像から投影ラインレーザ光24の形状を抽出する。その形状とその時の接写距離に応じて三次元座標点群に変換し、制御端末へ転送する。なお、本実施例では、ラインレーザ出力部20は、測定対象面99上へ線状に投影するレーザ光を出力するものである。その出力形態は、本実施例ではラインレーザ出力部20を頂点として、測定対象物99に向かうにつれて扇状に拡大するものとなっている。しかし、これに限るものではなく、例えば拡散しないスリット光を照射するものでも良いし、ラインレーザ撮像部21が認識可能であれば収束するラインレーザ光でも良い。
【0027】
本実施例では、このような特徴の非接触式プローブ11を有する三次元測定機を用い、測定対象面99表面を、あたかもペイントブラシの如く走査させることにより、大規模な座標点群を取得する。
【0028】
図4に、スキャンパス情報の作成フローチャートを示す。また、図6に制御端末のメモリ内に定義する仮想空間の模式図を示す。スキャンパス情報とは、測定したい面毎に定義した、接触式プローブ10ないし非接触式プローブ11の移動経路である。本発明では、このスキャンパス情報に基づき、接触式プローブ10又は非接触式プローブ11を実際の測定対象物上に移動させ、接触あるいは非接触にて表面形状の三次元座標点群を取得するものである。
【0029】
また、図6では、模式図で示しているが、実際にはデータとしてメモリに記録されているものである。本図において、61はアーム型三次元測定機を含む補助機構を構成する形状データ群(図1参照)、50vは実際の測定対象物に対応する三次元CADデータ、
51vは三次元CADデータ50v内の測定対象面、62は仮想空間(装置全体を含む空間)、64は仮想空間62の原点をそれぞれ示す。
【0030】
以下、本フローチャートを参照し、スキャンパス情報の作成について説明する。
【0031】
まず仮想空間62を定義する(ステップ41)。この仮想空間62は、スキャンパス情報の作成や、三次元測定で取得した座標点群の格納のために、制御端末のメモリ内に定義するものである。仮想空間62は、実際の三次元測定における寸法の概念を有している。また、原点64は、補助機構の原点に対応しており、その座標ベクトルは、各軸スライダの進退方向に対応している。
【0032】
次に、モデルデータとして形状データ群61(ロボットアーム,補助装置,日測定物等の形状データ)を仮想空間62に入力する(ステップ42)。引き続き三次元CADデータを同じく仮想空間62に入力する(ステップ43)。
【0033】
制御端末は、入力された形状データ群61と、三次元CADデータ50v及び、X軸,Y軸,Z軸スライダからの位置情報、各θ軸ユニットの角度情報を用いて、形状データ群61を実際の状態となるように、仮想空間62上に立体的に配置,移動させることが可能となっている。なお、形状データ群61は実物と同形状となるよう作成してある。このため、制御端末の性能に応じて、スキャンパス情報の作成あるいは実際の三次元測定時に支障ない範囲で、簡略化あるいは複雑化することが可能である。
【0034】
この仮想空間62に、三次元CADデータ50vを入力する際、実際の測定台1に搭載する測定対象物と、仮想空間62の測定台1に該当する構成要素上に配置する三次元CADデータ50vとを等しい位置関係となるように位置合せする。本実施例では、測定対象物を実際の測定台1に搭載し固定した後に、測定対象物の特徴となる要素を抽出する。抽出した要素と、それに対応する三次元CADデータ50vの要素との位置関係が一致するように三次元CADデータ50vを位置合せする。本実施例において、抽出する要素は、実際の測定対象物の位置関係が把握可能な平面,軸,円,特徴点等の組合せである。アーム型三次元測定機の接触式プローブ10又は非接触式プローブ11によって自動あるいは手動で取得することとしている。ここで、図示しない撮像装置を補助機構に配置し、結果的に取得した平面,軸,円,特徴点等の輪郭情報から実際の測定対象物の位置関係を把握し、三次元CADデータ50vを位置合せしても良い。
【0035】
把握可能となった位置関係に関する情報から原点を割り出し、仮想空間62とアーム型三次元測定機にフィードバックすることで、結果、三次元形状測定装置とアーム型三次元測定機との座標系が一致する。
【0036】
図5(a)に、測定対象物の模式図を、図5(b)に、三次元CADデータ50の測定対象面情報テーブルをそれぞれ示す。本図において、図5(a)において、三次元CADデータ50、それぞれ測定対象面51a〜51eを有している。以下、前述図4の測定対象面抽出工程であるステップ44について説明する。
【0037】
本発明では、三次元CADデータ50に対応する測定対象物の三次元測定において、予め定義した測定したい面のみを三次元測定し、測定時間の短縮を行う。測定したい面すなわち測定対象面は、サーフェスと呼ばれる三次元CADデータ50における面を構成する要素毎に、図5(b)に示す測定対象面情報テーブルの如く定義してある。
【0038】
測定対象面情報テーブルは、実際に装置を稼働させて三次元測定する前に、事前に三次元CADデータに基づいて、作成された仮想被測定対象に対して、データ上のセンサをZ軸方向又はX,Y軸方向に移動して、測定対象面を検出(読み取る)する。各サーフェスの測定対象面情報の読み取り後、各サーフェスに測定優先順位を割り付ける。測定優先順位は、測定対象面情報テーブルにユーザが予め測定する部分と測定いなくとも良い部分を図5(b)に示すように、事前に定義して入力しておくものである。この定義付けは、制御端末による規定の割り付けルールによって行ってもよい。なお、割り付けルールは、測定対象物の中心から順に測定対象面の三次元測定を行う順位を割り付けるルールや、測定対象物中心に時計回りの順に測定対象面の三次元測定を行う順位を割り付けるルール等がある。また、前述した大型揚水ポンプ等の羽根車の三次元測定においては、一枚の羽根の全サーフェスを測定した後、順に次の羽根の三次元計測を行う順位を割り付けるルールを適用しても良い。さらに、測定時のスイングアーム2角度が決まっていれば、その角度でアーム型三次元測定機の非接触式プローブ11が届く範囲内で、上記ルールを適用するようにしても良い
(ステップ44)。
【0039】
図7に、仮想空間内の被測定物の1測定面(図6の50v−51vの面)を展開したときの模式図を示す。本図において、60aは中継ポイント情報の定義始点、61aは定義始点60aにおける形状データ群の中の非接触プローブ、60zは中継ポイント情報の定義終点、61zは定義終点60zにおける形状データ群の中の非接触プローブ、63は座標点群、65は走査方向、66は分割測定対象面、30は仮想空間におけるラインレーザ光、31は仮想空間における投影ラインレーザ光、51vは三次元CADデータの測定対象面、Lは仮想空間における接写距離をそれぞれ示す。なお、仮想空間におけるラインレーザ光30,仮想空間における投影ラインレーザ光31,仮想空間における接写距離Lはそれぞれ実際の三次元測定のものと同等の作用を仮想空間62内に及ぼすものとする。以下、前述図4のステップ45,46について説明する。
【0040】
まずスキャンパス情報作成面を指定する(ステップ45)。スキャンパス情報は、非接触式プローブ11が移動しつつ測定するための、複数の中継ポイント情報群からなる。次に指定された作成面に関してスキャンパス情報を作成する(ステップ46)。ところで、スキャンパス情報は、測定対象面51v毎に、制御端末内の仮想空間62内に作成される。各中継ポイント情報には、当該中継ポイントにおける測定機手先部9(図1参照)の位置姿勢情報と、次中継ポイントへの移動関連情報が格納してある。位置姿勢情報は、Y軸スライダ13,Z軸スライダ14,X軸スライダ15それぞれの位置情報と、θY軸回転ユニット16,θZ軸回転ユニット17,θX軸回転ユニット18それぞれの角度情報
(以下、姿勢情報と称す)から構成される。
【0041】
移動関連情報は主に、非接触式プローブ11の移動順位,移動速度情報,測定動作信号,姿勢モーフィング信号から構成される。本実施例では、中継ポイントの定義始点60aの移動順位が、中継ポイント情報60zより高く設定してある。ここで、測定動作信号とは、次中継ポイントへの移動時に三次元計測を行う、あるいは行わない、のいずれかの情報を格納した信号である。また、姿勢モーフィング信号とは、次中継ポイントへの移動時に、姿勢情報を徐々に、規定の増減値によって次中継ポイントの姿勢情報へと移行させる、または移行させない、のいずれかの情報を格納した信号である。この増減値は直線的であっても、多次曲線的であっても良いし、それらを各θ軸ユニット毎に任意に決めても良い。なお、各中継ポイント間の移動は、本実施例では直線的に移動することとしているが、多次曲線的であっても良いし、それらを各軸スライダ毎に任意に決めても良い。
【0042】
三次元測定中の非接触式プローブ11の移動速度について、本発明では、中継ポイント間移動速度を一定で行う場合と、走査移動速度を一定で行う場合との、二通りの測定速度を、測定したい面に応じて使い分ける。特に、測定したい面が比較的起伏が激しく、各中継ポイントにおいて頻繁に前記位置姿勢情報を変更し、そのため実際の三次元測定において装置が著しく大きく動作する場面には、中継ポイント間移動速度を一定で行うようにする。また、測定したい面内においても、この二通りの測定速度を適宜適用しても良い。いずれの測定速度も、各軸スライダもしくは各θ軸回転ユニットの最大駆動速度の範囲を超えないよう設定する。各中継ポイント情報は、測定対象面51vを任意の分割測定対象面66に分割し、各分割測定対象面66に対して三次元測定可能な前記位置姿勢情報となるように作成する。
【0043】
図9(a)ないし図9(c)に、接触判定および遮蔽判定の模式図を示す。本図群において、50vは三次元CADデータ、50vcは三次元CADデータ50vの構成要素、61dは初期状態における形状データ群の中の非接触プローブ、61fは初期状態から再構築を図った形状データ群の中の非接触プローブをそれぞれ示す。
【0044】
任意の分割測定対象面66に対して三次元測定可能な中継ポイント情報は、以下の如く作成する。まず、前記位置姿勢情報を基準状態にセットする。ここで基準状態とは、分割測定対象面66に対して、非接触プローブ61dからのラインレーザ光が垂直をなし、かつ接写距離Lvを保つことが可能な非接触プローブ61dの位置および姿勢である。非接触プローブ61dを基準状態にセットした後、形状データ群61を再構築し、三次元CADデータ50vあるいは他の三次元CADデータ構成要素51vcとの接触判定を行う。ここで、接触すると判定した場合、形状データ群61と三次元CADデータ50vと接触しない位置となるように、前記位置姿勢情報を探索する(図9(a),(b))。
【0045】
形状データ群61と三次元CADデータ50vとが接触しない非接触プローブ61dの前記位置姿勢情報を割り出した後、ラインレーザ光30vが他の三次元CADデータ構成要素51vcによって、分割測定対象面66の測定を妨げられているか遮蔽判定を行う。ここで、接触すると判定した場合、ラインレーザ光30vが遮蔽されない位置となるように、前記位置姿勢情報をさらに探索する(図9(c))。ここで、ラインレーザ光30vが遮蔽される割合に応じて、その前記位置姿勢情報でも三次元測定を行うようにしても良い。
【0046】
このように、接触判定と遮蔽判定を繰り返し、最終的に適正な前記位置姿勢情報を割り出す。前記位置姿勢情報を割り出した後、中継ポイントには移動順位を割り付ける。なお、どのような前記位置姿勢情報でも接触または遮蔽してしまうと制御端末が判断した場合、その中継ポイントと次の中継ポイント間の測定は行わないようにする。
【0047】
このスキャンパス情報によって、三次元形状測定装置は、各中継ポイント情報の移動順位に従い、実際の三次元測定において測定機手先部9を移動させつつ、三次元座標点群
63を取得する。
【0048】
図8に、スキャンパス情報作成のためのテンプレートの模式図を示す。本図において、51vは三次元CADデータの測定対象面、60aは中継ポイント情報の定義始点、60zは中継ポイント情報の定義終点、63は座標点群、65a,65b(本図群実線矢印部)は走査方向、66a(本図群点線矢印部)は送り方向をそれぞれ示す。
【0049】
次にスキャンパン情報の評価を実施する(ステップ47)。
【0050】
スキャンパス情報は、事前に定義したスキャンパス情報のパターン、いわゆるテンプレートを、測定対象面毎に適用して作成する。テンプレートは、中継ポイント情報の定義始点60aと、中継ポイント情報の定義終点60z,各走査方向,各送り方向がそれぞれ定義されている。各走査方向は、実際に三次元座標点群63を取得するための非接触式プローブ11の動作を示し、各送り方向は、三次元座標点群63を取得しない非接触式プローブ11の移動を示している。また、各送り方向の送り移動量は、各走査方向での三次元座標点群63取得幅と同じか、それよりも少なくして三次元座標点群63の端部が重複するようにする。なお、テンプレートは本図群に限定することはなく、より多くのテンプレートを考案,適用してよい。例えば、本図(a)あるいは(b)の裏返しのテンプレートでも良いし、本図群に記載のテンプレートを複合し新たなスキャンパス作成要領として適用してもよい。
【0051】
同じ測定対象面51vに対して、この複数のテンプレートに基づき各中継ポイントを定義する。規定のテンプレート数のスキャンパス情報を定義した後、その中から選定基準に基づき、実際に三次元測定に適用するスキャンパス情報を選定する。
【0052】
テンプレートの選定基準は以下の通りである。すなわち、その面に対する測定が短時間で行うことが可能であること、その面に対して比較的多くの領域が測定可能であること、である。また、この選定基準によって複数のテンプレートが候補に選出された場合、さらに、非接触式プローブ11姿勢情報を頻繁に更新しないもの、極端に鋭角をなす姿勢情報の有無やその程度を勘案し選出する。ここで、複数のテンプレート内のスキャンパス情報が相補的な測定結果となり得る場合、それらを組合せ、再構築した後、再度テンプレートの選出基準に基づき選出を行う。
【0053】
上記動作を、三次元測定が必要な測定対象面について全て適用する(ステップ48)。全ての測定対象面についてスキャンパス情報が作成されると作成が終了される。
【0054】
図3に、実施例1における三次元形状測定装置の動作フローチャートを示す。本図を用いて以下、三次元形状測定装置による三次元測定プロセスについて説明する。
【0055】
まず、三次元形状測定装置の初期設定を行う(ステップ31)。この初期設定は、各軸スライダおよび各θ軸ユニットの動作チェック、測定台1表面中心を原点とした各軸スライダおよび各θ軸ユニットの原点位置合せがある。続いて、アーム型三次元測定機の初期設定を行う(ステップ32)。この初期設定は、アーム型三次元測定機のエンコーダ動作チェック、各種プローブのキャリブレーションがある。各初期設定終了後、測定対象物
99を測定台1に搭載し(ステップ33)、測定対象物99の形状データである三次元
CADデータ50と、アーム型三次元測定機を含む三次元形状測定装置を構成する形状データ群61とから、スキャンパス情報を作成する(ステップ34)。なお、これによって、本三次元形状測定装置が有する座標系と、アーム型三次元測定機の測定座標系が一致する。
【0056】
続いて、作成したスキャンパス情報に基づき三次元測定を行う(ステップ35)。前記ステップ34で定義した測定対象面を全て三次元測定した時点(ステップ36)で計測は終了である。
【0057】
最後に、取得した座標点群63と、三次元CADデータ50vとの比較評価を行う(ステップ37)。比較評価結果は、両者の差異を可視的なカラーコンター化や、数値的なヒストグラム化等、測定者が容易に把握可能な表示形態であるのが望ましい。
【実施例2】
【0058】
本実施例は図示しないが、三次元形状測定装置そのものを有しなくとも、本発明は効果を発揮する。すなわち、アーム型三次元測定機を用いた三次元測定において、実際の測定対象物のどれだけの面が当該測定機で測定可能であるかを判定することが可能である。また、中継ポイント間の移動速度(図7記載)の累積値と、中継ポイント間の移動距離の累積値から、測定終了までの所要時間を割り出すことも可能である。
【0059】
この場合、実施例1において、アーム型三次元測定機を含む三次元形状測定装置を構成する形状データ群61(図6記載)は、アーム型三次元測定機のみとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例1の三次元形状測定装置の概略図である。
【図2】本三次元形状測定装置の測定機手先部9の概略図である。
【図3】本発明の実施例1の三次元形状測定装置の動作フローチャートである。
【図4】スキャンパス情報の作成要領フローチャートである。
【図5】(a)は測定対象面の模式図、(b)は三次元CADデータの測定対象面情報テーブルである。
【図6】制御端末メモリ内に定義する仮想空間の模式図である。
【図7】仮想空間内に展開したスキャンパス情報の模式図である。
【図8】スキャンパス情報作成のためのテンプレートの模式図である。
【図9】(a)ないし(c)それぞれ接触判定および遮蔽判定の模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1…測定台、2…スイングブラケット、3…測定機搭載台、4…スイングブラケット支持台、6…測定機昇降機構、12…測定台昇降機構、13…Y軸スライダ、13m…Y軸スライダ駆動機構、14…Z軸スライダ、14m…Z軸スライダ駆動機構、15…X軸スライダ、15m…X軸スライダ駆動機構、16…θY軸回転ユニット、17…θZ軸回転ユニット、18…θX軸回転ユニット、20…ラインレーザ出力部、21…ラインレーザ撮像部、22…ラインレーザ軌跡、23…撮像光軸、24…投影ラインレーザ光、26…撮像範囲、62…仮想空間、63…座標点群、64…原点、65…走査方向、66…分割測定対象面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触式プローブおよび非接触式プローブを有するアーム型三次元測定機と、それを固定し、前記アーム型三次元測定機の測定機手先部に三次元移動させる取り付け部を有する補助機構と、測定対象物に対応する三次元CADデータと前記補助機構のモデルデータを入力し、測定機取り付け部の位置情報を参照して実機同等に模擬する仮想空間を設けた制御端末とを備え、
前記制御端末は、前記三次元CADデータから、前記三次元CADデータの面を構成するサーフェス情報毎に、前記測定対象物の三次元測定に際してスキャンパス情報を作成し、前記スキャンパス情報に基づき前記アーム型三次元測定機の手先部を制御し、前記測定対象物を三次元形状測定して得た表面形状情報を座標点群として順次記憶することを特徴とした三次元形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元形状測定装置において、前記三次元CADデータは三次元CADデータ本体と、前記三次元CADデータ本体内における測定したい面情報と、によって構成したことを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の三次元形状測定装置において、
前記スキャンパス情報は、複数の中継ポイント情報によって構成し、前記中継ポイント情報は、前記アーム型三次元測定機の手先部の位置情報と、当該中継ポイントと次の中継ポイント情報間の姿勢情報からなることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の三次元形状測定装置において、
前記測定機取り付け部は、前記アーム型三次元測定機の手先部に接触式プローブが破損する以下の力が加わると脱落する安全装置を設け、また、前記測定機取り付け部を三次元移動させるスライダの一部に、前記制御端末へ検知信号を発信する圧力検知機構を設けたことを特徴とする三次元形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−292474(P2007−292474A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117395(P2006−117395)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】