説明

下水の高度処理方法及びシステム

【課題】施設を大掛かりに拡張することなく、高い窒素除去率を達成できる下水の高度処理方法及びシステムを提供する。
【解決手段】下水10を第1嫌気槽1にて嫌気性生物処理し、嫌気性処理液を好気槽3にて好気性生物処理し、該好気槽3からの好気性処理液の一部を引き抜いて第1嫌気槽1に循環させるようにした下水の高度処理方法において、第1嫌気槽1への下水流量に対する好気性処理液11の循環比(循環流量/下水流量)を5以上にするとともに、好気槽3から流出した好気性処理液を第2嫌気槽5に導入して嫌気性生物処理した後、該第2嫌気槽5からの嫌気性処理液を、曝気下に浸漬膜9が液中配置された膜分離槽7に導入して膜分離し、分離汚泥13の少なくとも一部を返送汚泥15として第1嫌気槽に返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水に含まれる窒素を活性汚泥法を用いて除去する技術に関し、特に高い窒素除去率を達成できる下水の高度処理方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水の処理においては、通常の有機物除去を主とした処理で得られる処理水質以上の水質を得る目的で高度処理が行われている。具体的には、富栄養化の防止、下水処理水の再利用等の場合に実施され、処理対象は主に窒素である。従来より、下水の高度処理方法には活性汚泥法が広く用いられている。活性汚泥法のうち最も代表的な標準活性汚泥法は、多種類の好気性微生物からなる活性汚泥に曝気を行うことで活性化させ、処理水中の除去対象物を分解させる方法である。
【0003】
標準活性汚泥法を発展させた技術として、嫌気槽を付設し、槽内の液循環を行うことにより窒素除去を図る方法が図5に示す活性汚泥循環偏法である。この処理法において、下水50は嫌気槽51を経て好気槽52に導入され、該好気槽52にて下水中のアンモニア性窒素が亜硝酸態窒、硝酸性窒素まで酸化分解された後、好気槽52から引き抜かれた循環液53は嫌気槽51に返送され、嫌気槽51にて亜硝酸態窒、硝酸性窒素を窒素として還元除去するものである。好気槽52から流出した処理水は最終沈殿池54にて沈降分離により余剰汚泥55と処理水に分離され、該余剰汚泥55の一部は返送汚泥56として生物処理槽内のMLSS濃度を維持するために返送される。
しかしながら、活性汚泥循環偏法ではT−N(全窒素)除去率が60〜70%と十分高くないこと、既存施設として圧倒的に数の多い標準活性汚泥法を改造して実施しようとした場合、HRT(水理学的滞留時間)を長くする必要があるため水槽容量の増加など大きな施設拡張が必要となること、などの問題点があった。
【0004】
一方、標準活性汚泥法の水槽容量を増加することなく、同程度のT−N除去率を達成できる方法として図6に示すような浸漬型膜分離活性汚泥法が開発され、一部実用化もされている。これは、嫌気槽51の後段に、浸漬膜を液中配置した膜分離槽57を設け、該膜分離槽57にて嫌気性処理液を固液分離し、得られた余剰汚泥55の一部を返送汚泥56として嫌気槽51に戻す方法である。
特許文献1(特開平9−225492号公報)には、膜モジュールを用いた廃水処理方法が開示されている。これは、好気槽内に膜モジュールを浸漬せず、該好気槽の後段に膜モジュールを備えた固液分離を設けた構成となっている。
【0005】
また、特許文献2(特開平5−261390号公報)には浸漬膜を用いた廃水の生物処理方法が開示されている。これは、絶対嫌気槽と無酸素槽と浸漬膜を有する好気槽とが直列に配設された構成を有し、好気槽にて分離した膜透過水を無酸素槽に返送するようになっている。
さらに、特許文献3(特開平11−277095号公報)にも同様に浸漬膜を用いた有機性排液の生物処理方法が開示されており、曝気槽と膜分離装置との間の循環液を一部引き抜き、浸漬型膜分離装置内に導入する構成となっている。このとき、浸漬型膜分離装置からの液をオゾン処理槽との間で循環させて、オゾン処理槽にて汚泥改質することにより好気槽での分解性を高くしている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−261390号公報
【特許文献2】特開平9−225492号公報
【特許文献3】特開平11−277095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの方法においてもT−N除去率は依然として60〜70%を超えるものではなく、特許文献1乃至3においても同様である。浸漬型膜分離活性汚泥法では固液分離に膜分離を適用することで生物処理水槽内のMLSS濃度を8000〜12000(mg/L)と高く採れるので、HRTを長くすることなく同等の機能を維持できる。この場合、膜分離槽から嫌気槽への循環比(循環液量/原水流量)は2程度としている。循環比を2以上にするとT−N除去率が高くなることは知られているが、膜分離槽からD(溶存酸素)が嫌気槽に持ち込まれること、循環ポンプ動力増大、槽内有機物/窒素比の低下による脱窒速度の低下、実滞留時間不足による脱窒率低下などの問題があるため、循環比は2以下に制限されていた。
【0008】
膜分離槽では有機性窒素やアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素や硝酸性窒素に酸化(硝化)され、この酸化態窒素が嫌気槽に循環されて原水中BODを有機炭素源として窒素ガスに還元分解される。下水処理水中の窒素分はいわゆる富栄養化の原因であることから除去の必要性が叫ばれて久しいが、このような窒素除去を目的とする高度処理施設の普及率は依然として低率(10%程度)であった。この大きな要因に、既存施設(標準活性汚泥法)を改造して実施しようとした場合水槽容量増加などの大掛かりな施設拡張が必要であることがあると考えられ、水槽容量を増加することなく(即ちHRTをそのままで)高いT−N除去率を達成できる経済的なシステムの提供は富栄養化対策を推進する上できわめて重要である。
【0009】
また、近年は下水処理水が上水取水源の上流側に放流される例も多く、内分泌攪乱化学物質や変異原性要因物質などの微量有害物質による水道水質安全性低下などの弊害もクローズアップされており、発生源として下水処理水からの低減対策の推進について社会的ニーズが年々高まっている。
さらに、近年の都市水循環の激変と、一過性の上下水道システム建設に起因する河川基底流量や地下水量、水辺空間など都市内水資源量の減少も重大な問題としてクローズアップされつつあり、下水処理水の再生利用など循環型水利用システムの構築も志向されている。特に、下水処理水の河川維持用水としての利用が重要であるが、河川下流部にある下水処理場からの上流への大量送水にはエネルギーが必要で、また水質に対しても不安があり、これらが制限となって進展しない。
【0010】
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、施設を大掛かりに拡張することなく、高い窒素除去率を達成できる下水の高度処理方法及びシステムを提供することを目的とする。さらに、他の目的として、内分泌攪乱化学物質や変異原性要因物質などの難生物分解物質を低減可能な下水の高度処理方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
下水を第1嫌気槽にて嫌気性生物処理し、嫌気性処理液を好気槽にて好気性生物処理し、該好気槽からの好気性処理液の一部を引き抜いて前記第1嫌気槽に循環させるようにした下水の高度処理方法において、
前記第1嫌気槽への下水流量に対する前記好気性処理液の循環比(循環流量/下水流量)を5以上にするとともに、
前記好気槽から流出した好気性処理液を第2嫌気槽に導入して嫌気性生物処理した後、該第2嫌気槽からの嫌気性処理液を、曝気下に浸漬膜が液中配置された膜分離槽に導入して膜分離し、分離汚泥の少なくとも一部を返送汚泥として第1嫌気槽に返送することを特徴とする。
【0012】
本発明では、好気槽から第1嫌気槽への好気性処理液の循環比を下水流量の5倍以上としたため、第1嫌気槽と好気槽にて高い窒素除去率が得られる。これは、窒素除去率は槽構成と循環比に基づくものであり、循環比に関してはその値が高い程窒素除去率が高くなるためである。さらに本発明では、好気槽の後段に第2嫌気槽を設けたことにより、残留する窒素化合物を除去することができ、より高い窒素除去率を達成することができる。このとき、上記したように第1嫌気槽にて高い除去率で以って窒素を除去しているため、第2嫌気槽まで残留する窒素化合物は少量であり、よって嫌気性微生物の内性呼吸による窒素還元のみでも高い窒素除去率を達成することができる。従って、第2嫌気槽における有機炭素源の外部添加を皆無若しくは低減することが可能となる。さらに、第2嫌気槽を膜分離槽の前段に設けているため、該第2嫌気槽内のMLSS濃度を維持することができ、嫌気性生物処理の分解効率を維持することが可能である。
【0013】
また、ユニット化された既存の生物処理設備内を隔壁により4領域に分割し、該4領域が上流側から順に前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽を形成し、下水が各領域を順次通過することにより窒素除去が行われることを特徴とする。
これは、従来広く用いられていた標準活性汚泥法等の既存の生物処理設備に本構成を適用することができるため、水槽容量を増加しなくても高い窒素除去性能が得られ、施設を拡張する必要がなくイニシャルコストの低減が可能となる。
【0014】
また、前記膜分離槽にて得られた分離汚泥を脱水した後、化学酸化処理装置にて脱水分離液に含有する難生物分解物質を除去し、該除去後の処理水を前記第1嫌気槽へ返送することを特徴とする。
これにより、膜分離槽で阻止された環境に有害な内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質のうち生物処理で分解されなかった難生物分解物質が脱水汚泥に混ざって環境へ流出することを防止できる。
【0015】
さらに、前記膜分離槽にて得られた分離汚泥を嫌気性消化装置にて嫌気性消化し、消化脱離液と、消化汚泥を脱水して得られた脱水分離液とを夫々前記第1嫌気槽に返送するようにし、該返送の前に前記消化脱離液若しくは前記脱水分離液を化学酸化処理することを特徴とする。
これは、既存の嫌気性消化装置を本構成に組み込む場合や、新たに嫌気性消化装置を設置する場合に適しており、この発明によればメタンガスを回収できるためエネルギー効率の向上が期待できる。また、難生物分解物質が脱水汚泥に混ざって環境へ流出することを防止できる。
【0016】
さらにまた、前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽のうち少なくとも何れか一の槽に、木質バイオマスを熱分解して得られた熱分解残渣を投入することを特徴とする。
本発明は、下水処理場の敷地内または近隣に木質バイオマス発電システムが設置された場合に好適に用いられ、熱分解装置から得られる熱分解残渣を何れかの生物処理水槽に注入することで、この残渣に内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質等の難生物分解物質を吸着させ、分解を促進させることで生物分解機能を向上させることができる。また、熱分解残渣に汚泥が吸着するため、膜分離槽における固液分離性を向上させることができる。さらに、発電システムで生成した電力を下水処理水再生利用のための送水エネルギー等に利用することが好ましい。
【0017】
また、システムの発明として、下水を嫌気性生物処理する第1嫌気槽と、該第1嫌気槽からの嫌気性処理液を好気性生物処理する好気槽と、好気性処理液を嫌気性生物処理する第2嫌気槽と、曝気下に浸漬膜が液中配置され、前記第2嫌気槽からの嫌気性処理液を膜分離して透過液と分離汚泥を得る膜分離槽と、
前記好気槽から好気性処理液を一部引き抜いて前記第1嫌気槽に循環させる循環ラインと、前記膜分離槽からの分離汚泥の少なくとも一部を前記第1嫌気槽に返送する汚泥返送ラインとを備え、
前記循環ラインは、前記第1嫌気槽への下水流量に対する前記好気性処理液の循環比(循環流量/下水流量)が5以上に設定されていることを特徴とする。
このとき、ユニット化された既存の生物処理設備内が隔壁により4領域に分割され、該4領域が上流側から順に前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽であることが好適である。
【0018】
また、前記膜分離槽からの分離汚泥を脱水する脱水装置と、脱水分離液に含有される難生物分解物質を化学酸化処理により分解除去する化学酸化処理装置と、を備え、該化学酸化処理装置からの処理液を前記第1嫌気槽へ返送する処理液返送ラインを設けたことを特徴とする。
さらに、前記膜分離槽からの分離汚泥を嫌気性消化して消化汚泥と消化分離液を得る嫌気性消化装置と、前記消化汚泥を脱水して脱水汚泥と脱水分離液を得る脱水装置と、前記消化分離液と前記脱水分離液を夫々前記第1嫌気槽に返送する分離液返送ラインを設けるとともに、該分離液返送ライン上の少なくとも何れかに、難生物分解物質を除去する化学酸化処理装置を設けたことを特徴とする。
さらにまた、前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽のうち少なくとも何れか一の槽に、木質バイオマスを熱分解して得られた熱分解残渣を投入する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上記載のごとく本発明によれば、生物処理における槽容量を増大することなく高い窒素除去率を達成できる下水の高度処理方法及びシステムを提供することができる。また、既存の設備に対してこれを拡張することなく本発明を適用することもできるため、イニシャルコストを低減できる。
さらに、環境に有害な内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質のうち生物処理で分解されなかった難生物分解物質の環境への排出を抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1乃至図4は、実施例1乃至実施例4に係る下水の高度処理システムの全体構成を夫々示す図である。本実施例は下水中に含有される窒素を主として除去する方法及びシステムであり、窒素の高除去率を達成可能な構成となっている。
【実施例1】
【0021】
図1に示す本実施例1に係る下水の高度処理システムは、下水10の処理過程のにおいて上流側から第1嫌気槽1、好気槽3、第2嫌気槽5、膜分離槽7が直列に配置された構成となっている。また、好気槽3から好気性処理液を一部引き抜いた循環液11は第1嫌気槽1に循環される。さらに、膜分離槽7にて分離された分離汚泥13の少なくとも一部は返送汚泥15として同様に第1嫌気槽1に返送される。
【0022】
第1嫌気槽1は、嫌気性条件下で嫌気性微生物の分解作用により主として亜硝酸性窒素或いは硝酸性窒素を窒素として還元する脱窒工程を行う装置であり、好適には槽内は無酸素状態で且つ遊離酸素が存在しない状態とする。また、槽内に撹拌手段2を設けることが好ましく、該撹拌手段2としては、例えば槽内に水流を発生させる手段や撹拌翼等が挙げられる。
好気槽3は、好気性条件下で好気性微生物の酸化作用により主として有機性窒素、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素或いは硝酸性窒素まで酸化分解する硝化工程を行う装置である。槽内には空気若しくは酸素を供給する曝気手段4を備えている。
【0023】
第2嫌気槽5は、撹拌手段6を備えて前記第1嫌気槽1と同様の構成を有し、好気槽3を経て残留した窒素化合物を窒素として還元除去する装置である。
膜分離槽7は、浸漬膜9が槽内の液中に浸漬配置され、該浸漬膜9の下方には曝気手段8が備えられている。該膜分離槽7は、浸漬膜9の透過側をポンプで吸引或いはサイホンなどのように水位差を利用して処理水12を得る。曝気手段8は膜分離にかける前に汚泥を好気化し、膜ファウリング物質の生成を抑制して膜分離機能を安定化させるためのものである。浸漬膜9は現在下水処理で実用されているもの(孔径0.1〜0.4μmのMF)でよいが、もちろんUFでも適用可能である。
【0024】
下水の処理過程をその作用とともに説明すると、第1嫌気槽1に導入された下水10は該第1嫌気槽1を経て好気槽3に導入される。該好気槽3では、嫌気性処理液中の有機性窒素やアンモニア性窒素がNO−N(硝酸性窒素)、NO−N(亜硝酸性窒素)まで酸化分解される。さらに、このNO−N、NO−Nを含む好気性処理液が一部引き抜かれ、循環液11として第1嫌気槽1に返送され、該第1嫌気槽1にてNO−N、NO−NはNとして還元除去される。そして、後段の好気槽3を経た後に第2嫌気槽5に導入され、該第2嫌気槽5にて残留NO−N、NO−NはNに還元された後、嫌気性処理液は膜分離槽7に流入する。該膜分離槽7では、浸漬膜9により処理水12と分離汚泥13とに膜分離され、処理水12は系外へ排出される。分離汚泥13は少なくとも一部を返送汚泥15として第1嫌気槽1に返送される。この返送汚泥15は処理槽内のMLSS濃度を維持する量だけ返送される。他の分離汚泥13は余剰汚泥14として排出され、埋立処理、汚泥処理等の処理がなされる。
【0025】
本構成では、浸漬膜9を用いて膜分離し、固形分の返送汚泥15を返送することによりMLSS濃度を8000〜12000(mg/L)程度に維持することが好ましい。また、HRT(水理学的滞留時間)は6〜8h程度である。さらに、生物処理槽の全容量は第1嫌気槽1への下水流量をQとすると(Q/4〜Q/3)m/dとなる。
ここで、好気槽3から第1嫌気槽1への循環比(循環流量/下水流量)を高くすることは従来制限されていたが、下水のような希薄な液でもMLSS濃度が8000〜12000(mg/L)では第1嫌気槽1における好気槽3からのD(溶存酸素)持込の影響や脱窒速度の低下もない。このような影響さえなければ循環比を高くすることにより高いT−N除去率となることは知られていたが、下水では長い間循環比2以下で実施されてきた。
【0026】
そこで本実施例では、膜分離槽7を設けて生物処理槽内のMLSS濃度を高くすることにより、これらの影響を最小限に抑えることができるため、循環比を5以上に設定する。
さらに、循環比5を5以上とすることにより第1嫌気槽1、好気槽3までで80%以上のT−Nを除去すれば、第2嫌気槽6で有機炭素源を全く注入することなくトータルとして90%以上のT−N除去率を達成することができる。
【0027】
即ち、第1嫌気槽1へ流入する下水流量をQとした場合、好気槽3からの循環液11の循環流量を5Q以上とすると、第1嫌気槽1と好気槽3における窒素除去率が下記式により得られる。
=R/(1+R)
=Q+Q/Qin
ここで、E:窒素除去率、R:循環比、Q:循環流量(m/d)、Q:汚泥返送量(m/d)、Qin:下水流量(m/d)である。
ここから、一例として循環液11の循環流量Qを5Qとすると、第1嫌気槽1における窒素除去率が83%となり、残留窒素が17%となる。
【0028】
さらに本実施例では、膜分離槽7の前段に第2嫌気槽5を設けており、該第2嫌気槽5により残留窒素の殆どが除去されることになる。第2嫌気槽5では、主として脱窒菌等の微生物の内性呼吸による脱窒が行われる。一般に嫌気性微生物は、基質に相当する有機物の供給が必要とされるため、槽内に十分な有機物が存在しない場合にはメタノール等の有機炭素源の添加が必要となるが、第2嫌気槽5より上流側で83%の窒素除去率が得られるため残留する窒素化合物が少なく、90%以上の除去率を達成するためには少なくとも7%の窒素化合物を除去すればよい。従って、有機物が殆ど存在しない状態であっても微生物の内性呼吸による分解で十分に窒素を除去することが可能となる。尚、内性呼吸とは、微生物が既に体内に取り込んでいる有機物を分解してエネルギーを得て、その際に体内より窒素を排出するものである。
【0029】
また好適には、既存の活性汚泥法を利用した下水の高度処理システムに適用することもでき、既存の水槽を4区画して上流側から順に第1嫌気槽1、好気槽3、第2嫌気槽5、膜分離槽7とする。さらに上記した構成と同様に、好気槽3から第1嫌気槽1への循環比を5以上とし、膜分離槽7から第1嫌気槽1に返送汚泥15を返送する。
このように、既存の設備を利用することにより、イニシャルコストの低減が可能となるとともに、設備を拡張することなく窒素除去率を向上させることができる。
【実施例2】
【0030】
図2に実施例2に係る下水の高度処理システムを示す。以下、実施例2乃至実施例4において、上記した実施例1と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
本実施例2では、実施例1と同様に処理過程において上流側から第1嫌気槽1、好気槽3、第2嫌気槽5、膜分離槽7が直列に配置された構成となっている。また、好気槽3から好気性処理液を一部引き抜いた循環液11は第1嫌気槽1に返送され、下水10とともに第1嫌気槽1に導入される。膜分離槽7にて分離された分離汚泥13の少なくとも一部は返送汚泥15として同様に第1嫌気槽1に導入される。このとき、好気槽3から第1嫌気槽1への循環比を5以上に設定する。
【0031】
さらに本実施例2では、膜分離槽7にて固液分離して得られた分離汚泥13のうち、返送汚泥15以外の汚泥を脱水する脱水装置20と、脱水分離液16から難生物分解物質を除去する化学酸化処理装置21と、を備えた構成となっている。化学酸化処理装置21から排出した処理水は第1嫌気槽1に還流される。
脱水装置20は、分離汚泥13を脱水分離液16と汚泥脱水ケーキ17に固液分離する装置で、例えば遠心分離装置やベルトプレス、スクリュープレス等が挙げられる。
化学酸化処理装置21は、生物処理により分解困難な難生物分解物質を化学酸化する装置である。ここで難生物分解物質とは、例えば内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質をいう。内分泌攪乱化学物質は環境ホルモンとも呼ばれ、動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常ホルモンの作用に影響を与える外因性の物質として疑われる化学物質である。変異原性前駆物質は、体細胞の遺伝子或いは染色体に突然変異誘引作用をもつ変異原生の前駆体物質をいう。
【0032】
化学酸化処理装置21として具体的には、オゾン酸化手段、酸化剤添加手段、若しくはこれらの手段を適宜組み合わせて併用してもよい。オゾン酸化手段は、オゾン発生器等により発生させたオゾンと処理水を気液接触させ、オゾンの強力な酸化力により難生物分解物質を酸化分解する手段である。酸化剤添加手段は、公知の過酸化水素、過酸化カルシウム、過硫酸アンモニウム等の酸化剤が使用されるが、コストや副生物等の点からみて過酸化水素が最も好ましく、該酸化剤の添加により難生物分解物質を酸化分解する手段である。
尚、化学酸化処理装置21は、これらの手段に限定されるものではなく、難生物分解物質を分解除去可能な化学的手段であれば何れでも良いが、濁水に対しても好適に利用可能な手段とすることが重要である。
【0033】
本構成では、固液分離に膜分離槽7を適用すると内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質等の難生物分解物質が阻止されるが、そのままでは埋立する汚泥脱水ケーキ17に随伴されて環境に放出されることになる。そこで脱水分離液16を生物処理に還流する段階にて化学酸化処理装置21で未分解のものを分解無害化する。化学酸化処理21の前には必要であれば前処理として懸濁物質除去設備(図示略)を設けてもよい。化学酸化処理装置21を設けることにより、内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質のうち生物分解されない難生物分解物質の酸化分解を進めて生物処理系への蓄積を防止し、未分解の難生物分解物質の環境水系への流出を防止することが可能となる。
【実施例3】
【0034】
図3に実施例3に係る下水の高度処理システムを示す。本実施例3では実施例1と同様に、処理過程において上流側から第1嫌気槽1、好気槽3、第2嫌気槽5、膜分離槽7が直列に配置された構成となっている。また、好気槽3から好気性処理液を一部引き抜いた循環液11は第1嫌気槽1に返送され、下水とともに第1嫌気槽1に導入される。膜分離槽7にて分離された分離汚泥13の少なくとも一部は返送汚泥15として同様に第1嫌気槽1に導入される。このとき、好気槽3から第1嫌気槽1への循環比を5以上に設定する。
【0035】
さらに本実施例3では、膜分離槽7にて固液分離して得られた分離汚泥13のうち、返送汚泥15以外の汚泥をメタン発酵する嫌気性消化装置22と、該メタン発酵後の消化脱離液25を実施例2と同様に化学酸化処理する化学酸化処理装置21と、を備え、該化学酸化処理装置21から排出した処理水は第1嫌気槽1に還流するようになっている。また、嫌気性消化装置22にて得られた消化汚泥26を脱水する脱水装置20が設けられ、該脱水装置20からの脱水分離液27は第1嫌気槽1に還流される。
【0036】
本構成によれば、嫌気性消化装置22を備えているため、メタンガスを回収可能でエネルギー効率の高いシステムとすることができる。また、既存の嫌気性消化装置22を併設するようにしてもよい。嫌気性消化装置22においても内分泌攪乱化学物質や変異原性前駆物質等の難生物分解物質は除去されないため、化学酸化処理装置21を備えることで、これらの有害物質を低減することが可能である。
【実施例4】
【0037】
図4に実施例4に係る下水の高度処理システムを示す。本実施例4では実施例1と同様に、処理過程において上流側から第1嫌気槽1、好気槽3、第2嫌気槽5、膜分離槽7が直列に配置された構成となっている。また、好気槽3から好気性処理液を一部引き抜いた循環液11は第1嫌気槽1に返送され、下水とともに第1嫌気槽1に導入される。膜分離槽7にて分離された分離汚泥13の少なくとも一部は返送汚泥15として同様に第1嫌気槽1に導入される。このとき、好気槽3から第1嫌気槽1への循環比を5以上に設定する。
【0038】
さらに実施例4では、木質バイオマスを熱処理して発電を行うバイオマス発電システム併設された構成となっており、木質バイオマス40を熱分解する熱分解装置31と、熱分解により発生した熱分解ガス42を燃焼させる燃焼装置32と、該燃焼装置32からの廃熱を利用して高温蒸気を生成し、該高温蒸気43により発電を行う蒸気タービン33と、該発電により得られた電力44が供給される下水処理水送水設備34とを備える。また、別の構成として、熱分解装置31からの熱分解ガス42を高温改質する改質装置と、該改質装置にて生成した改質ガスを用いて発電を行うガスエンジン、若しくは該改質ガスを原料として発電を行う燃料電池であってもよく、熱分解ガス42を利用して電力を生成する設備であれば何れを用いることもできる。
膜分離槽7で得られた処理水12は一時的に下水処理水貯槽25に貯留された後、下水処理水送水設備34に供給され、下水処理水45として電力44を利用したポンプにより下水処理水需要先へ送水される。
【0039】
熱分解装置31における熱分解は温度500〜700℃で行われ、木質バイオマス40中の易揮発分はほぼ全て可燃ガス42に転換するが、難揮発分および固定炭素は熱分解残渣41として排出する。排出した熱分解残渣(炭化物)41の全量または一部は、必要に応じて粉砕した後に第1嫌気槽1に供給される。熱分解残渣41は、その吸着機能を利用して内分泌攪乱化学物質、変異原性前駆物質等の難生物分解物質を吸着させ、生物処理水槽での分解機能を大幅に向上させる。また、熱分解残渣41は多孔質であるため、微生物担持体としても作用し、生物処理を促進する効果も有する。さらにまた、熱分解残渣41に汚泥が吸着するため、膜分離槽7における固液分離性を向上させることができる。熱分解残渣41は生物処理槽を通過した後に余剰汚泥14として系外へ排出される。
尚、本実施例4は、上記した実施例1の構成以外にも実施例2若しくは3に適用することもできる。
【0040】
本実施例は、下水処理場の敷地内または近接して木質バイオマス発電システムを併設し、そこで生産した電力44を再生処理水45の送水動力(送水設備34の動力)に利用し、また発電システムの熱分解残渣41の全量または一部を下水生物処理水槽に注入してその吸着機能を利用して内分泌攪乱化学物質、変異原性前駆物質を熱分解残渣41に吸着させ生物処理水槽での分解機能を大幅に向上させる。木質バイオマス40は森林整備で発生する間伐材や林地残材など従来未利用のものと、剪定枝などの比較的ピュアな木質廃棄物を加えたものでもよく当該地域の木質バイオマス発生特性によって種々の組合わせが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1に係る下水の高度処理システムの全体構成図である。
【図2】本発明の実施例2に係る下水の高度処理システムの全体構成図である。
【図3】本発明の実施例3に係る下水の高度処理システムの全体構成図である。
【図4】本発明の実施例4に係る下水の高度処理システムの全体構成図である。
【図5】従来の活性汚泥循環偏法を用いた下水の高度処理システムの構成図である。
【図6】従来の浸漬型膜分離活性汚泥法を用いた下水の高度処理システムの構成図である。
【符号の説明】
【0042】
1 第1嫌気槽
3 好気槽
5 第2嫌気槽
7 膜分離槽
9 浸漬膜
10 下水
11 循環液
14 余剰汚泥
15 返送汚泥
16 脱水分離液
17 脱水汚泥
20 脱水装置
21 化学酸化処理装置
22 嫌気性消化装置
25 消化分離液
26 消化汚泥
27 脱水分離液
31 熱分解装置
40 木質バイオマス
41 熱分解残渣
44 電力
45 送水用下水処理水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水を第1嫌気槽にて嫌気性生物処理し、嫌気性処理液を好気槽にて好気性生物処理し、該好気槽からの好気性処理液の一部を引き抜いて前記第1嫌気槽に循環させるようにした下水の高度処理方法において、
前記第1嫌気槽への下水流量に対する前記好気性処理液の循環比(循環流量/下水流量)を5以上にするとともに、
前記好気槽から流出した好気性処理液を第2嫌気槽に導入して嫌気性生物処理した後、該第2嫌気槽からの嫌気性処理液を、曝気下に浸漬膜が液中配置された膜分離槽に導入して膜分離し、分離汚泥の少なくとも一部を返送汚泥として第1嫌気槽に返送することを特徴とする下水の高度処理方法。
【請求項2】
ユニット化された既存の生物処理設備内を隔壁により4領域に分割し、該4領域が上流側から順に前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽を形成し、下水が各領域を順次通過することにより窒素除去が行われることを特徴とする請求項1記載の下水の高度処理方法。
【請求項3】
前記膜分離槽にて得られた分離汚泥を脱水した後、化学酸化処理装置にて脱水分離液に含有する難生物分解物質を除去し、該除去後の処理水を前記第1嫌気槽へ返送することを特徴とする請求項1記載の下水の高度処理方法。
【請求項4】
前記膜分離槽にて得られた分離汚泥を嫌気性消化装置にて嫌気性消化し、消化脱離液と、消化汚泥を脱水して得られた脱水分離液とを夫々前記第1嫌気槽に返送するようにし、該返送の前に前記消化脱離液若しくは前記脱水分離液を化学酸化処理することを特徴とする請求項1記載の下水の高度処理方法。
【請求項5】
前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽のうち少なくとも何れか一の槽に、木質バイオマスを熱分解して得られた熱分解残渣を投入することを特徴とする請求項1記載の下水の高度処理方法。
【請求項6】
下水を嫌気性生物処理する第1嫌気槽と、該第1嫌気槽からの嫌気性処理液を好気性生物処理する好気槽と、好気性処理液を嫌気性生物処理する第2嫌気槽と、曝気下に浸漬膜が液中配置され、前記第2嫌気槽からの嫌気性処理液を膜分離して透過液と分離汚泥を得る膜分離槽と、
前記好気槽から好気性処理液を一部引き抜いて前記第1嫌気槽に循環させる循環ラインと、前記膜分離槽からの分離汚泥の少なくとも一部を前記第1嫌気槽に返送する汚泥返送ラインとを備え、
前記循環ラインは、前記第1嫌気槽への下水流量に対する前記好気性処理液の循環比(循環流量/下水流量)が5以上に設定されていることを特徴とする下水の高度処理システム。
【請求項7】
ユニット化された既存の生物処理設備内が隔壁により4領域に分割され、該4領域が上流側から順に前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽であることを特徴とする請求項6記載の下水の高度処理システム。
【請求項8】
前記膜分離槽からの分離汚泥を脱水する脱水装置と、脱水分離液に含有される難生物分解物質を化学酸化処理により分解除去する化学酸化処理装置と、を備え、該化学酸化処理装置からの処理液を前記第1嫌気槽へ返送する処理液返送ラインを設けたことを特徴とする請求項6記載の下水の高度処理システム。
【請求項9】
前記膜分離槽からの分離汚泥を嫌気性消化して消化汚泥と消化分離液を得る嫌気性消化装置と、前記消化汚泥を脱水して脱水汚泥と脱水分離液を得る脱水装置と、前記消化分離液と前記脱水分離液を夫々前記第1嫌気槽に返送する分離液返送ラインを設けるとともに、該分離液返送ライン上の少なくとも何れかに、難生物分解物質を除去する化学酸化処理装置を設けたことを特徴とする請求項6記載の下水の高度処理方法。
【請求項10】
前記第1嫌気槽、前記好気槽、前記第2嫌気槽、前記膜分離槽のうち少なくとも何れか一の槽に、木質バイオマスを熱分解して得られた熱分解残渣を投入する手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の下水の高度処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−160147(P2007−160147A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356689(P2005−356689)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】