説明

中枢神経系への治療化合物の標的化を高めるための薬学的組成物および方法

鼻腔内投与を経由して適用され、とりわけCNSへの治療化合物の標的化を高める一方で、非標的への曝露を減少させるための薬学的組成物および方法が提供される。特定の実施形態において、少なくとも1つの血管収縮剤が、少なくとも1つの治療化合物の鼻腔内投与の前に鼻腔内に提供される。他の実施形態において、上記血管収縮剤および治療化合物は、薬学的組成物中で組み合わされ、鼻腔内に送達される。本発明は、とりわけCNSへの治療化合物の標的化を実質的に増加させる一方で、所望されず、かつ潜在的に有害な全身への曝露を実質的に減少させる。本発明の好ましい投与は、上記血管収縮剤および/または治療化合物を鼻腔の上側3分の1へ適用することであるが、鼻腔の下側3分の2への適用もまた本発明の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、同じ題名で2007年6月8日に出願された仮出願第60/942696号に対する優先権を主張する。この仮出願の内容全体が本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、治療化合物の全身への吸収を減少させながら、とりわけ鼻腔内投与による中枢神経系(CNS)への当該治療化合物または薬剤の標的化を高めるための薬学的組成物および方法に関する。より具体的には、全身への曝露を限定しながら、とりわけCNSへの標的化を増加させるために鼻腔内に送達される、前処置としての血管収縮剤、または治療薬を含む薬学的組成物中の血管収縮剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
治療化合物または治療剤の鼻腔内投与が、いくつかの場合に血液脳関門(BBB)を迂回し、特定の治療化合物または治療剤を直接CNSへ送達する際に上記化合物または薬剤の効果を増大させ得ることは公知である。したがって、治療化合物の鼻腔内投与は、特定の疾患または状態の予防および/または処置の改善を可能にし得る。
【0004】
薬品業界により開発された98%を超える低分子CNS薬物、およびほぼ100%の大分子CNS薬物がBBBを通過しないこともまた公知である。脳室内薬物投与または実質内薬物投与は、脳へ治療薬を直接送達し得る;しかし、これらの方法は、侵襲性かつ不便であり、CNS障害を処置するために治療的介入を必要とする個人の数に対して非現実的である。鼻腔内薬物投与は、さまざまな物理的特性および化学的特性の治療薬を、CNSへ迅速に標的化するための非侵襲性かつ便利な手段である。鼻の経路をCNSへ続いでいる嗅神経経路および三叉神経経路は、鼻腔の上側3分の1への鼻腔内投与により適用される治療化合物の送達に明らかに関与する。これらの神経経路に加えて、脈管周囲の経路、および脳脊髄液または鼻腔内リンパ管に関する経路が、鼻腔からCNSへの治療薬の分布において中心的役割を果たし得る。非常に多くの治療薬が、鼻腔の上側3分の1および下側3分の2の両方への鼻腔内投与の後にCNSへ送達され、動物およびヒトにおいて薬理学的効果を示してきた。
【0005】
薬物送達の鼻腔内法は、より侵襲性の経路に対する代替法としての大きな望みがあるが、多くの要素がCNSへの鼻腔内送達の効率を制限する。鼻粘膜中の毛細血管網への、鼻腔内に適用された薬物の吸収は、CNSへの直接移送に利用可能な薬物の量を減少させ得る。粘膜せん毛クリアランス機構、代謝酵素、排泄トランスポーター、および鼻の充血を含む、鼻腔内のさらなる要素もまたCNSへの送達効率を減少させ得る。特に、治療化合物は血液中へ吸収され得、そして/または周辺の(標的でない)組織に送達され得、それゆえに、標的への上記化合物の送達を減少させる。結果として、CNSへ治療薬を送達するという目的で鼻腔の下側3分の2へ治療化合物を投与することの効率は、大きく減少する。さらに、CNSへ治療薬を標的化するための手段として鼻腔の上側3分の1へ治療化合物を投与することの効率は、改良され得るものだった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鼻腔内に投与される治療化合物または治療剤の血液中への吸収および非標的組織または周辺組織への送達を減少させることが、所望される。上記治療化合物または治療剤の、とりわけCNS(例えば、嗅上皮、嗅球、およびリンパ系の内部のCNS)への蓄積および送達を増加させることがさらに所望され、血液と比較して、前頭皮質、前嗅覚核、海馬、視床下部、脳橋、中脳、髄質、小脳、および髄膜への治療化合物の標的化を増加させることが所望される。治療組成物が鼻腔の上側3分の1に送達されるか下側3分の2へ送達されるかに関係なく、CNSへの治療化合物の送達の促進に有効かつ効率的である鼻腔内送達法および薬学的組成物を提供することがさらに所望される。
【0007】
本発明は、とりわけこれらの問題に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の簡単な要旨)
鼻腔内投与により適用される治療化合物のCNSへの標的化を高めながら、非標的への曝露を減少させるための薬学的組成物および方法が提供される。特定の実施形態において、少なくとも1つの血管収縮剤が、少なくとも1つの治療化合物の鼻腔内投与の前に鼻腔内に提供される。他の実施形態において、上記血管収縮剤および治療化合物は、薬学的組成物中で組み合わされ、鼻腔内に送達される。本発明は、CNSへの治療化合物の標的化を実質的に増加させる一方で、所望されずかつ潜在的に有害な全身への曝露を実質的に減少させる。本発明の好ましい投与は、上記血管収縮剤および/または治療化合物を鼻腔の上側3分の1へ適用することであるが、鼻腔の下側3分の2への適用もまた本発明の範囲内である。
【0009】
本発明の目的は、鼻腔内投与を経由する、とりわけCNS、リンパ管、および髄膜へ標的化された治療組成物の送達およびその効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を提供することを含む。
【0010】
本発明の別の目的は、鼻腔内投与される治療組成物に対して、全身への曝露または非標的組織もしくは周辺組織への曝露を減少させるための方法および/または薬学的組成物を提供することを含む。
【0011】
本発明の別の目的は、とりわけCNS、リンパ管、および髄膜への治療化合物の標的化の効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を提供することを含む。
【0012】
本発明の別の目的は、無嗅覚、ならびにアルツハイマー病、パーキンソン病、他の神経変性障害および通常の加齢に付随する状態の処置のための、嗅上皮、嗅球および/または前嗅覚核への治療化合物の適用の効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を含む。
【0013】
本発明の別の目的は、前頭側頭葉型痴呆、人格障害、認知障害、運動機能障害およびアルツハイマー病に関する脳の標的に到達するように、前頭皮質への治療化合物の適用の効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を含む。
【0014】
本発明の別の目的は、アルツハイマー病および他の神経系障害に付随する学習障害および記憶障害の処置のための、海馬への治療化合物の適用の効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を含む。
【0015】
本発明の別の目的は、運動失調、パーキンソン病および他の運動障害を処置するために、小脳および脳幹へ到達するように治療化合物の適用の効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を含む。
【0016】
本発明の別の目的は、リンパ系に到達するように治療化合物の適用の効率を増加させ、脳腫瘍、多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ節炎,リンパ性フィラリア、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、胸腺(thumus)癌および他の形態の癌、AIDS、神経AIDS(neuroAIDS)、SCID、自己免疫疾患、シェーグレン症候群、慢性静脈洞炎、アレルギー、狼瘡および/または多発性硬化症を処置または予防するための方法および/または薬学的組成物を含む。
【0017】
本発明の別の目的は、髄膜炎および/または脳炎の処置のために、脳を囲む髄液への治療化合物の適用(限定はされないが、強力な抗生物質および/または抗ウィルス剤の投薬を含む)の効率を増加させるための方法および/または薬学的組成物を含む。
【0018】
以下に続く図および詳細な説明は、より詳細に本発明のこれらの実施形態および他の実施形態を例示する。
【0019】
(図面の簡単な説明)
本発明は、本明細書に含まれる添付された図および表と併せて、本発明の様々な実施形態の以下の詳細な説明を考慮してより完全に理解され得る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(最良の形態を含む本発明の詳細な説明)
本発明は、様々な改変および代替形態に従うものであるが、その詳細は、例えば図面中に示され、本明細書中に詳しく記載される。しかし、目的は記載される特定の実施形態に本発明を限定することではないことが理解されるべきである。反対に、目的は本発明の意図および範囲内に属する全ての改変、等価物および代替を包含することである。
【0021】
(定義)
本明細書中で使用される場合、「中枢神経系」(CNS)は脳および脊髄、ならびに付随する組織を指す。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「薬物標的化」は血液中のある薬物の濃度と比較して、組織中の当該薬物の濃度を増加させることを指す。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「効率」は、特定の生理学的位置への薬物(すなわち、治療化合物)の標的化特異性、非標的生理学的位置への最小量の残留損失での送達、またはこれら両方を指す。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「髄膜」は脳および脊髄を囲む硬膜、軟膜およびくも膜を指す。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「脳幹」は脳橋、髄質、中脳を指す。
【0026】
治療化合物または治療剤の「有効量」は、任意の参照される障害または疾患の症状、ニューロンの損傷および/または根本的な原因を予防、処置、低減および/または改善するのに十分な量である。いくつかの例において、「有効量」はそういった疾患の症状を取り除き、ことによると疾患そのものを克服するのに十分な量である。
【0027】
本発明の文脈において、用語「処置する」および「治療」および「治療の」などは、大脳虚血または神経変性または他のCNS関連の疾患および/もしくは状態の緩和、またはその進行の遅延、またはその予防、弱化、もしくは治癒を指す。
【0028】
「予防する」は、本明細書中で使用される場合、大脳虚血または神経変性または他のCNS関連の疾患および/もしくは状態の開始を延ばす、遅延させる、遅らせる、妨げる、またはさもなければ止める、弱める、もしくは改善することを指す。有効レベルの神経防御を提供する目的で、大いに十分量の上記薬剤は非毒性レベルで適用されることが好ましい。本発明の方法は、任意の動物(例えば、哺乳動物または鳥(鳥類))、より詳細には哺乳動物で使用され得る。家禽は、好ましい鳥である。哺乳動物の例としては、限定はされないがラット、猫、犬、馬、牛、羊、豚、およびより好ましくはヒトが挙げられる。
【0029】
「鼻腔内送達」は、本明細書中で使用される場合、少なくとも1つの治療剤又は治療化合物、少なくとも1つの血管収縮剤および/またはこれらの組み合わせ(すなわち薬学的組成物)の、被験体の鼻腔への適用、送達および/または投与を指す。そのような鼻腔内投与は、鼻腔全体、鼻腔の上側3分の1および/または鼻腔の下側3分の2への、化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物の適用、送達および/または投与を含む。
【0030】
鼻腔内送達は、神経系および精神医学的な疾患および障害の処置および/または予防のために、CNSへ薬物を標的化する方法である。広範に種々の薬物が、鼻腔内投与後に脳および脊髄に迅速に到達すること、そして動物およびヒトに有益な効果を有することが公知である。本発明は、とりわけ嗅上皮、嗅球およびリンパ管への鼻腔内での治療化合物の送達を高め、鼻用処方物中へ血管収縮剤を組み込むことおよび/または治療化合物の鼻腔内適用に対する前処置として血管収縮剤を適用することによって、嗅上皮、CNS、髄膜およびリンパ管への薬物標的化を高める。したがって、鼻粘膜および嗅上皮の範囲内および周辺で血管を収縮させる薬剤(すなわち、血管収縮剤)と組み合わせての治療化合物の鼻腔内送達は、血液への吸収を減少させること、CNSの選択された領域およびリンパ管中で濃度を増加させること、またはその両方によって、CNS、髄膜およびリンパ管への鼻腔内薬物標的化を高める。鼻腔中での血管収縮剤の作用の結果生じる血液の収縮は、嗅神経経路および三叉神経経路、脈管周囲の経路またはリンパ管経路に沿った脳への輸送を促進する。治療薬を含む薬学的組成物中での血管収縮剤の使用(鼻腔内で送達される)が、中枢神経系の全ての領域への治療薬の送達を増加させることは見出されていなかった。例えば、海馬、脳橋、小脳または三叉神経への送達は増加しなかった。
【0031】
本発明の方法は、治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物を哺乳類の鼻腔へ送達、投与、そして/または適用する。鼻上皮内の毛細血管へではなく、嗅神経経路に沿ったCNSへの治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物の迅速かつ効率的な送達を促進する目的で、治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物が嗅神経上皮へ送達されること、および、三叉神経経路に沿ったCNSへの治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物の迅速かつ効率的な送達を促進するために、治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物が気道上皮および嗅上皮へ送達されることが好ましい。循環器系ではなく、嗅神経経路および三叉神経経路による治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物の脳への輸送が好ましく、その結果、有害な全身性副作用、および血液中の治療剤の潜在的に短い半減期が避けられる。好ましい方法は、本発明の様々な実施形態のCNSへの直接送達ならびに髄膜およびリンパ管への直接送達を可能にする。しかし上で考察されたように、本発明は鼻腔の上側3分の1への鼻腔内送達に限定されず、したがって、特定の実施形態において、本発明の治療化合物、血管収縮剤および/または薬学的組成物は鼻腔の下側3分の2に送達され得る。
【0032】
治療化合物をとりわけCNSへ送達し、血管収縮剤および/または薬学的組成物をCNSへ送達するために、少なくとも1つの治療化合物、および/または、薬学的組成物として少なくとも1つの血管収縮剤と組み合わせて、かつ/もしくは前処置として血管収縮剤を用いる少なくとも1つの治療化合物が、鼻腔(その下側3分の2または上側3分の1のいずれか)へ投与され得る。鼻腔の上側3分の1に適用される場合、特定の実施形態において本発明の薬学的組成物を含む血管収縮剤および/または治療化合物が、鼻腔の気道上皮へ、または鼻腔の上側3分の1に位置する嗅上皮へ適用される。適用および/または投与の全ての場合において、上記組成物は、粉末もしくは液体スプレー、点鼻薬、ゲル、脂質乳濁液、脂質ナノ粒子、脂質ナノスフェア(nanosphere)もしくは軟膏としてか、チューブもしくはカテーテルを通してか、シリンジ、パックテイル(packtail)、綿撤糸によってか、または粘膜下注入によって鼻腔に投与され得る。
【0033】
活性治療剤(すなわち、治療化合物)の最適濃度、および血管収縮剤の濃度は、有効量が企図されるが、使用される特定の神経系薬剤、患者の特徴および上記薬剤が使用されている疾患または状態の性質に必然的に依存する。加えて、上記濃度は、上記薬剤が予防的量または処置量で使用されているかどうかに依存する。さらに特定の疾患または障害の段階(例えば、早期アルツハイマー病対後期アルツハイマー病)が、治療化合物の最適濃度を規定し得る。
【0034】
本発明は、鼻用処方物中に血管収縮剤を組み込むことによって、CNSへの鼻腔内での治療化合物の標的化を高める。鼻腔での血管収縮剤の作用の結果生じる血管の収縮は、嗅神経経路および三叉神経経路、脈管周囲の経路またはリンパ管経路に沿った、脳への治療化合物または治療剤の輸送を促進する。したがって、鼻腔の粘膜の範囲内または近接部で血管を収縮させる薬剤(すなわち、血管収縮剤)と組み合わせた治療化合物または治療剤の鼻腔内送達は、血液中への吸収を減少させること、CNS濃度(および他の標的化された位置)を増加させること、またはこの両方によって、とりわけCNSへの鼻腔内での薬物標的化を高める。
【0035】
本発明の方法の一実施形態に従って実施された例示的作業は以下のように実施された。
【実施例】
【0036】
(例示的実験およびデータセット1)
(方法)
本発明者らは、鼻用処方物への血管収縮剤(フェニレフリン、PHE)の組み込みが、鼻腔内で適用される神経ペプチド(ヒポクレチン(hypocretin)−1、HC)の齧歯類動物の脳への薬物標的化を高めるかどうかを調査した。いくつかの要素(血管収縮剤の用量、鼻腔内送達後の時間、および前処置時間間隔を含む)が、PHEの存在下でのHCの鼻腔内投与後のHCのCNS濃度に影響し得る。PHEは、鼻のうっ血除去のために1%の用量で一般に使用され、PHEの局所的な鼻への適用は、作用の迅速な開始および約4時間の作用の持続をもたらす。理想的には、血管収縮剤での鼻腔の前処置の必要なく、血管収縮剤およびCNS薬物が一緒に投与される鼻用処方物を有することが好ましい。明らかに、鼻腔内に前処置し、ある時間(5分または15分)待ち、次いで追加の血管収縮剤と共にCNS薬物を鼻腔内に投与しなければならないことより、こちらが簡便である。しかし、ある短い時間待つことは、血管収縮剤が鼻腔の血管上に位置するアドレナリン作用性レセプターを活性化し収縮をもたらすことを可能にするのに必要な段階であり得る。したがって、これらの実験において、3つの前処置時間間隔(0分(または前処置無し)、5分、15分)が調査され、鼻腔内に適用された1%PHEが効果を生じることを可能にするために待つことが必要な時間間隔を測定する。麻酔されたラットは、HCおよび1%PHEの鼻腔内送達後、30分で屠殺された。脳での高濃度は、代表的に鼻腔内投与の25分〜30分以内に達成されるからである。
【0037】
(結果および考察)
(データ分析)
前処置時間間隔がCNSへの鼻腔内送達に効果を有したかどうかを測定する目的で、対照動物由来の3つの群(0分、5分、15分)において組織濃度を比較する一元配置(one−way)ANOVAを実施した。PHE処置された動物由来の3つの群において組織濃度を比較する一元配置ANOVAもまた実施した。これらの統計的分析は、前処置時間間隔が、30分での屠殺の時点で、大部分のCNSおよび周辺の組織へのHCの鼻腔内送達に著しい影響を与えないことを実証した。換言すると、上記データは、血管収縮剤を用いる前処置からの治療的利点がないことを実証する。したがって、治療化合物および血管収縮剤は、本発明の完全な治療的利点を維持しながら、薬学的組成物中で組み合わされ得る。特定の組織、例えば、三叉神経、浅頚部リンパ節、深頚部リンパ節、ならびに背側髄膜および腹側髄膜は、他の群と統計的に異なることが見出されたが、他の組織の大部分は前処置時間間隔により影響を受けなかったので、これらの差異は人為的であり得る。前処置時間間隔はまた、鼻腔内送達実験の時間が経過する間、血液への送達に著しい影響を与えなかった(図1)。結果として、異なる前処置時間間隔で対照動物から得られたデータをマージし、異なる前処置時間間隔でPHE処置された動物から得られたデータをマージした。対照動物の組織濃度(n=28)とPHE処置された動物の組織濃度(n=23)との間で、統計的比較を行った。
【0038】
(鼻腔内投与の部位(血液、鼻上皮およびリンパ管)における1%PHEの効果)
鼻用処方物への1%PHEの組み込みは、血液中へのHCの吸収を著しく減少させた(65%減少)(図2)一方で、嗅上皮における濃度を著しく増加させた(表1)。また、1%PHEが、対照と比較して気道上皮中の濃度、および気道上皮と密接に関係する三叉神経(鼻粘膜の外壁および前方部に分布する)中の濃度を著しく減少させたことも観察した(表1)。浅頚部リンパ節および深頚部リンパ節においてHCの濃度増加が観測されたように、鼻リンパ管への送達もまた、1%PHEで著しく増加した(表1)。
【0039】
これらの結果は、1%PHE存在下での嗅上皮へのHCの送達が著しくさらに増加することを実証した。従って、血管収縮剤の使用は、鼻腔の嗅部へ治療剤を標的化することを要求する高価な鼻用送達デバイスに対する代替法である。嗅上皮における蓄積の増加は、血液への薬物のクリアランスが減少し、それにより鼻腔中での処方物の滞留時間が増加することに起因し得る。興味深いことに、これらの結果はまた、血管収縮剤が鼻用処方物に含有された場合、気道上皮への送達が対照と比較して著しく減少したことも示した。呼吸粘膜は、鼻粘膜のように、血管の密集した網状組織により覆われる。気道上皮はまた、呼吸粘膜中での血管へのHCのクリアランスの減少に起因して、対照と比較してPHE処置された動物においてより増加したHC濃度を有すると考えられた。血液への薬物のクリアランスを減少させ、かつ鼻腔中の滞留時間を増加させることに加えて、血管収縮剤は、そのうっ血除去効果に起因して鼻の経路を開き、鼻腔内投与されるHCのより多くが嗅上皮に到達することを可能にし、気道上皮との接触を減少させる可能性がある。
【0040】
血中濃度は血管収縮剤の存在下で著しく減少し、それゆえ、本発明者らは、全鼻腔中濃度は対照と比較してPHE処置された動物において増加するはずであると予測した。全鼻腔中濃度に注目すると、HCの濃度は対照群およびPHE処置群について同じである(24,162nM対24,787nM);差異は、鼻上皮内部の薬物の相対分布において存在する。したがって、後者のメカニズムが嗅上皮における蓄積の増加について主たる原因である蓋然性がより高い。治療化合物は、鼻腔中に留まるのではなく、鼻リンパ管へ運ばれる可能性がある。実際に、リンパチャネルを通して鼻腔へ連結される浅頚部リンパ節および深頚部リンパ節における濃度は、血管収縮剤の存在下で著しく増加した(表1)。要約すると、これらの結果は、血管収縮剤の包含が嗅上皮への送達の増加をもたらすこと、および、このことが鼻の経路が開いていることに主に起因する一方で、リンパ節への送達の増加は、鼻腔から血液への薬物のクリアランスの減少に主に起因することを示す。
【0041】
(脳およびリンパ管への鼻腔内送達における1%PHEの効果)
脳へのHCの鼻腔内送達は、鼻用処方物中の1%PHEにより影響を受けた。おそらく嗅上皮中に存在する高い濃度勾配に起因して、嗅球におけるHC濃度は、1%PHEの存在下で2.7nMから5.6nM(p<0.05)へ2倍となった(表1)。吻側の脳領域(例えば、前嗅覚核および前頭皮質)への送達は、濃度はわずかに減少したが、1%PHEにより影響を受けなかった(表1)。薬物がこれらの領域へ拡散するのに十分な時間が無く、動物がより遅い時間(すなわち、60分または120分)に屠殺された場合には濃度の増加が達成され得た可能性がある。脳の中央の領域(海馬および視床下部を含む)は、HCの著しく減少した濃度を有した(表1)。脳の尾部(例えば、脳幹および小脳)へ移動すると、濃度が減少したことが見出された(表1)。
【0042】
これらのデータは、嗅神経を経由する脳の吻部への鼻腔内送達は、血液よりも嗅上皮中濃度に依存することを実証した。吻側の脳への吸収のための主な推進力は、嗅上皮中に存在する高い濃度勾配であり、結果として、嗅球中濃度における著しい増加をPHE処置された動物において観察した。著しく減少した血中濃度もまた、三叉神経中濃度および脳内濃度の著しい減少をもたらしたので、これらの実験からの結果はまた、中央の脳および尾側の脳への鼻腔内送達における血管系および/または三叉神経の重要な役割を示唆する。三叉神経中濃度および血中濃度は関連した:血中濃度における2.8倍の減少は、同じ倍率でのHCの三叉神経中濃度における減少をもたらした。
【0043】
(周辺組織への送達/全身への送達における1%PHEの効果)
周辺組織での曝露に関しては、1%PHEを伴うHCの鼻腔内送達は、脾臓および心臓におけるHC濃度を著しく減少させたが、肝臓および腎臓への送達は1%PHEの存在下で変化しなかった(表1)。全身の循環による身体内での広範な分布に起因する有害な副作用を有する治療化合物(例えば、薬物)に対して、鼻腔内処方物中の血管収縮剤は、周辺組織および血液への送達の減少に起因して全身性副作用を減少させるための戦略であり得る。
【0044】
(CNS、リンパ管および髄膜への鼻腔内薬物標的化における1%PHEの効果)
30分での血中濃度に対して組織中濃度を正規化することにより、血液に対する組織への薬物標的化の評価が提供され、対照群とPHE処置群の間の直接比較が可能になる(図3)。ほぼ全てのCNS領域への治療化合物の標的化が著しく増加し(p<0.05)、吻側の脳組織(例えば、嗅球(6.8倍)、前嗅覚核(2.4倍)および前頭皮質(2.3倍))へ最も良く薬物が標的化された(図3)。尾側の脳組織(中脳、髄質および小脳(1.7倍)を含む)への治療化合物の標的化が、対照動物に比べて増加した(図3)。三叉神経への送達は減少したが、1%PHEを用いたより低い濃度によって立証されたように、三叉神経への薬物標的化は、対照群とPHE処置群の間で有意には異ならなかった(図3)。
【0045】
これらの結果は、脳(嗅球を除く)内の絶対濃度は血管収縮剤の存在下で減少したが、血中濃度もまた著しく減少し、脳への鼻腔内治療化合物標的化の増加という最終結果を伴ったことを示す。これらの結果は、鼻腔内処方物中での血管収縮剤の使用は、血液の吸収および身体の残りの部分への広範な分布を減少させながら、強力な治療化合物をCNSへ標的化するために極めて有益であり得ることを実証する。ナノモーラー(nM)の濃度で活性の治療化合物については、脳内濃度の減少は、所望される治療的応答を著しくは減少させないはずである。血液または周辺組織において有害な作用を有する治療化合物に対して、血管収縮剤は、治療化合物が副作用を引き起こし得る非標的部位へ薬物が分配されるのを防止するのに有用であり得る。血漿タンパク質により広範に結合される治療化合物、または血漿プロテアーゼまたは薬物代謝器官により迅速に分解される生物製剤に対して、血管収縮剤は、CNSへの吸収のための遊離かつインタクトな薬物のアベイラビリティーを増加させ得る。
【0046】
浅頚部リンパ節および深頚部リンパ節もまた、鼻用処方物中の1%PHEにより、著しく標的化された(両方とも5.7倍に増加、データ示さず)。このことはリンパ系へ免疫治療剤を標的化するために重要であり得る。鼻腔内投与後のHC標的化はまた、脳を囲む髄膜に対して増加した(腹側髄膜で2.9倍、背側髄膜で1.7倍)。このことは髄膜炎または脳炎の処置のための髄膜への薬物標的化に対する治療可能性を有し得る(データ示さず)。組織対血液の比が1%PHEの存在下でCNS組織、リンパ組織および髄膜において増加したか、または変化しなかったかのいずれかであったという事実は、鼻用処方物への血管収縮剤の組み込みは薬物標的化を改善し得、そして血液への標的化を最小化し得ることを示唆する。このことは血液および/または周辺組織における耐容不可能な副作用が伴う強力な薬物に対して有益であり得る。
【0047】
(例示的実験およびデータセット1に対する結論)
少なくとも1つの治療化合物を含む鼻用処方物(すなわち、薬学的組成物)中への少なくとも1つの血管収縮剤の組み込みは、血液への吸収を減少させるか、とりわけCNSにおける濃度を増加させるか、またはその両方によって、とりわけCNS、髄膜およびリンパ管への治療剤の鼻腔内治療化合物標的化を高める。これらの実験からの結果は、血管収縮剤の包含は、鼻腔内投与後の血液に対して、嗅上皮、嗅球およびリンパ管への治療化合物の送達を著しく高めること、および、とりわけCNS、髄膜およびリンパ管への治療化合物標的化を著しく高めることを実証する。任意の添加物の非存在下でHCの静脈内(IV)送達と鼻腔内(IN)送達を比較した以前の実験において、鼻腔内HCは脳へHCを著しく標的化した(表2、IN対IV)。鼻腔内処方物中の血管収縮剤の包含(IN PHE)は、以前の研究から、静脈内送達と比較してHCの脳への標的化をさらに高める(表2、IN PHE対IV)。加えて、添加物を含まない鼻腔内送達と比較して、1%PHEと組み合わせてのHCの鼻腔内投与は、脳への鼻腔内薬物標的化をさらに高め、嗅球(7倍増加)、前嗅覚核(2倍増加)、前頭皮質(2倍増加)、海馬(2倍増加)および視床下部(2倍増加)への標的化が増加する(表2、IN PHE対IN)。1%PHEはまた、浅頚部リンパ節および深頚部リンパ節(5倍〜6倍)ならびに脳を囲む髄膜(2倍)への鼻腔内薬物標的化を高める。したがって、鼻腔内処方物中の血管収縮剤の包含は、投与の他の経路と比較して脳およびリンパ管への鼻腔内薬物標的化をさらに高めるための新規戦略である。加えて、処方物中の血管収縮剤の包含は、CNSの他の領域(海馬、脳橋、小脳または三叉神経を含む)への送達を増加させずに、嗅上皮、リンパ管およびCNSの特定の領域(嗅球を含む)への薬物送達を選択的に増加させるための新規戦略である。
【0048】
(例示的実験およびデータセット2)
これらの実験のために選択された血管収縮剤は、イミダゾリン誘導体であるテトラヒドロゾリン(THZ,MW 200)およびアリールアルキルアミン誘導体であるフェニレフリン(PHE、MW 204)であった。この血管収縮剤は共に、短い作用持続時間(4時間〜6時間)を有するα−アドレナリン作用性アゴニストである。選択された治療化合物は、ナルコレプシーを処置するための治療可能性を有するペプチドであるヒポクレチン−1(HC、MW 3500)であった。CNS、周辺組織および血液へのヒポクレチン−1の鼻腔内送達における血管収縮剤の効果を測定することに加えて、薬物標的化指数(DTI:drug targeting index)で血管収縮剤の効果もまた試験された。
【0049】
(方法)
THZまたはPHEの存在下または非存在下での、125I−HCのCNS、周辺組織および血液への鼻腔内送達の研究を、麻酔された成体の雄性Sprague−Dawleyラットにおいて行った。鼻腔内送達開始の30分後に、ラットを生理食塩水で灌流し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。γ線計測を用いて、CNS、周辺組織および血液中の125I−HC濃度および分布を評価した。各組織に対するDTIを、血管収縮剤群の血液の曲線下面積(AUC:area under the curve)に対する平均組織中濃度の比を、対照群の血液AUCに対する平均組織中濃度の比で除算することによって算出した。DTI>1.0であることは、血管収縮剤を用いる薬物標的化が有利であることを示した。
【0050】
(結果)
(HC+0.1%THZ(表3を参照))
HCの鼻腔内処方物への0.1%THZの添加は、嗅上皮から血流へのHCの排出およびクリアランスを減少させる。0.1%THZは、対照と比較して、5分で血液中の濃度を著しく減少させ(1.1nM対0.4nM、p=0.02)、嗅上皮における濃度を著しく増加させる(1024nM対6744nM、p=0.04)。嗅球への送達が著しく増加する(2.1nM対3.3nM、p=0.03)。加えて、腎臓への送達を減少させる傾向がある(6.6nM対4.3nM、p=0.08)。肝臓、腎臓、脾臓および甲状腺に対する薬物標的化指数は1.0未満であり、このことは0.1%THZの存在下でこれらの周辺器官への薬物標的化が減少し、それにより副作用および毒性を最小化することを示す。
【0051】
加えて、HCの鼻腔内処方物中への0.1%THZの組み込みは、鼻腔内送達の間の動物における呼吸困難の発生数をより少なくさせた。
【0052】
(0.1%THZを用いる鼻腔の前処置後のHC+0.1%THZ(表4を参照))
0.1%THZを用いる前処置およびHCの鼻腔内処方物への0.1%THZの添加は、血液へのHCの吸収を減少させ、周辺器官へのHCの送達を減少させる。尾側脳組織および脊髄へのHCの送達もまた、0.1%THZを用いる前処置により減少する一方で、吻側脳組織への送達は変化しないままである。
【0053】
血液へのHCの吸収は特に、10分で(1.1nM対0.6nM、p=0.03)、15分で(2.0nM対1.2nM、p=0.01)、および20分で(3.1nM対2.1nM、p=0.03)著しく減少する。
【0054】
0.1%THZを用いる前処置は、腎臓への送達(3.9nM対1.7nM、p=0.01)および甲状腺への送達(276nM対68nM、p=0.002)を著しく減少させる。加えて、筋肉、腎臓、脾臓および甲状腺に対する薬物標的化指数は1.0未満であり、このことは、0.1%THZを用いて鼻腔を前処置することにより、これらの周辺器官への標的化が減少することを示す。気管(49nM対2.0nM、p=0.003)および食道(130nM対0.7nM、p=0.06)においてHCの濃度が著しく低下することが発見され、そして、0.1%THZを用いて処置されたラットにおいて呼吸困難の徴候が著しく少なくなったことが観察された。
【0055】
0.1%THZを用いる鼻腔の前処置、続くHC+0.1%THZの鼻腔内送達は、尾側脳領域(三叉神経(5.5nM対2.0nM、p=0.01)、中脳(0.7nM対0.5nM、p=0.07)、脳橋(0.8nM対0.5nM、p=0.06)および小脳(0.6nM対0.4nM、p=0.07)を含む)への送達の著しい減少をもたらす。さらに、上部頚部脊髄(0.9nM対0.4nM、p=0.002)および胸部脊髄(0.3nM対0.2nM、p=0.06)へ送達されるHCは著しく減少する。従って、0.1%THZは、尾側脳領域への送達を減少させる一方で、吻側脳領域(例えば、嗅球、前嗅覚核および前頭皮質)において効果を有しない。薬物の鼻腔内処方物中の血管収縮剤の包含は、特定の脳領域へ治療剤の送達を標的化する手段を提供する。
【0056】
(1%PHEを用いる鼻腔の前処置後のHC+1%PHE(表4を参照))
1%PHEを用いる前処置、およびHCの鼻腔内処方物への1%PHEの添加は、嗅上皮から血流への排出およびクリアランスを減少させる。尾側脳領域へのHCの送達もまた、1%PHEを用いる前処置により減少する一方で、吻側脳領域への送達は影響を受けない。
【0057】
1%PHEを用いる鼻腔の前処置は、全ての時点において血流への治療化合物HCの吸収を著しく減少させる(5分:0.3nM対0.03nM、p=0.004、10分:1.1nM対0.2nM、p<0.001、15分:2.0nM対0.3nM、p<0.001、20分:3.2nM対0.9nM、p<0.001、30分:3.2nM対1.1nM、p<0.001)。嗅上皮でのHCの蓄積は、1%PHEを用いる前処置後に著しく高められる(3861nM対14847nM、p<0.001)。
【0058】
さらに、1%PHEを用いる鼻腔の前処置、続くHC+1%PHEの鼻腔内送達は、三叉神経(5.5nM対2.2nM、p=0.005)および尾側脳組織(海馬(0.6nM対0.4nM、p=0.005)、視床(0.6nM対0.4nM、p=0.008)、視床下部(1.4nM対0.7nM、p=0.005)、中脳(0.7nM対0.5nM、p=0.03)、脳橋(0.8nM対0.5nM、p=0.03)および小脳(0.6nM対0.4nM、p=0.03)を含む)へのHCの送達を著しく減少させる。
【0059】
1%PHEを用いる鼻腔の前処置は、中枢神経系への治療化合物標的化において約2.5倍の増大をもたらす。1%PHEは脳および脊髄への標的化を高める一方で、血流への吸収を著しく減少させる。
【0060】
1%PHEを用いる前処置は、周辺器官(脾臓(0.9nM対0.6nM、p=0.05)および甲状腺(276nM対77nM、p=0.003)を含む)への治療化合物の送達を著しく減少させる。さらに、筋肉についての薬物標的化指数は、脳組織についての指数より低く、このことは1%PHEが筋肉への標的化を減少させる一方で、脳および脊髄への標的化を高めることを示す。
【0061】
1%PHEを用いる前処置および1%PHEの使用は、リンパ系への治療化合物HCの送達に著しい影響を与える。1%PHEを用いる前処置は、浅頚部リンパ節(5.1nM対9.2nM、p=0.05)および深頚部リンパ節(13nM対29nM、p=0.04)へのHCの送達において著しい増加をもたらす。1%PHEはまた、腋窩リンパ節(0.9nM対0.5nM、p=0.006)への送達において著しい減少を引き起こす。
【0062】
さらに、鼻腔内処方物中への1%PHEの組み込みは、嗅上皮への送達における堅実性を改善したが、鼻腔内送達の間の呼吸のいずれの改善にもつながらなかった。
【0063】
(例示的実験およびデータセット2に対する結論)
HCおよび他の治療化合物の処方物中での0.1%THZの使用は、早い時間で血流に入る治療化合物の量を減少させ、それにより、全身への曝露、周辺組織への曝露および所望されない全身的な副作用を減少させる。0.1%THZの使用は、嗅上皮および嗅球への治療化合物の標的化を増加させる。さらに、周辺組織(肝臓、腎臓、脾臓、甲状腺)への薬物標的化を減少させる。
【0064】
HCおよび他の薬物の処方物中の0.1%THZを用いる前処置、およびその0.1%THZの使用は、ほとんどの時点で血流への吸収を著しく減少させ、周辺組織への薬物標的化を減少させる。0.1%THZを用いる前処置は、脳の尾側部分へのHCの送達を減少させるが、吻側部分は影響を受けないままにする。薬学的組成物中への0.1%THZの組み込みはまた、鼻腔内投与の間の動物の呼吸を改善する。
【0065】
HCおよび他の治療化合物の処方物中の1%PHEを用いる前処置、およびその1%PHEの使用は、全ての時点で血流に入る薬物の量を著しく減少させ、それにより、全身への曝露、および所望されない全身的な副作用を減少させる。HCおよび他の治療化合物の処方物中の1%PHEを用いる前処置、およびその1%PHEの使用は、脳、脊髄、嗅上皮および三叉神経への治療化合物標的化を高める。1%PHEを用いる前処置および1%PHEの使用は、脳、嗅上皮、嗅球および三叉神経への治療化合物の送達の堅実性(consistency)を増加させる。
【0066】
HCおよび他の治療化合物の処方物中の1%PHEを用いる前処置、およびその1%PHEの使用は、0.1%THZの使用と比較して、血流への吸収を減少させること、ならびに脳および脊髄への治療化合物標的化を高めることにおいてより効果的である。
【0067】
(例示的実験およびデータセット3)
より低分子量の治療剤のCNSへの鼻腔内薬物標的化における血管収縮剤の効果もまた評価した。本発明者らは、より容易に血液中に入り得るより小さいペプチドを含む治療化合物は、より大きなペプチドを含む治療化合物より血管収縮剤によって影響を受けると仮定した。TPは強力な神経保護効果を有するトリペプチドであり、HCの約10分の1の大きさである。
【0068】
麻酔されたラットへの1%PHE存在下での14C−TPの鼻腔内投与は、30分にわたって全ての時点で血流への治療化合物TPの吸収の減少をもたらした(図4)。このことは、上で考察されたHCについての本発明者らの発見と一致する。さらに、1%PHEは、周辺組織(肺、肝臓、心臓および腎臓を含む)におけるTPの濃度を減少させた(図5)。
【0069】
1%PHEの存在下で、TPの鼻腔内標的化は、30分での血中濃度に対して組織中濃度を正規化することにより評価され、嗅上皮、嗅球、吻側皮質および尾側皮質に対して増加した(表5)。薬物標的化はまた、三叉神経、髄膜およびリンパ管に対しても増加した。三叉神経への薬物標的化の増加を除いて、著しくより小さいペプチドについてのこれらのデータは、HCのデータと一致する。したがって、血管収縮剤の有益な効果はHCに対して特有ではなく、血管収縮剤は他の治療剤について薬物標的化を増加させ得る。
【0070】
(例示的実験およびデータセット4)
本発明者らは、治療化合物L−チロシン−D−アルギニン(内因性神経ペプチドの安定なジペプチドアナログ、キョートルフィン(KTP、MW337))の鼻腔内送達における血管収縮剤の効果をさらに評価した。KTPは強力な鎮静活性を示す治療化合物である。研究では、CNSへのKTPの鼻腔内薬物標的化を調査した。最初に、静脈内投与と比較してCNSへのKTPの鼻腔内薬物標的化を評価するために、本発明者らは、両方の経路での投与(n=6〜7)後のKTPの体内分布を比較した。次に、PHEがCNSへのKTPの鼻腔内薬物標的化を高めるかどうかを評価するために、本発明者らは1%PHEを用いる鼻腔内投与(n=8)後にKTPの体内分布を調査した。血管収縮剤の効果が用量依存であるかどうかを決定するために、より高い濃度(5%)のPHEもまた評価した(n=6)。最後に、1%PHEの存在下および非存在下での、KTPの静脈内投与および鼻腔内投与後の動物(n=4〜6)の別々の群から、CSFのサンプル抽出をした。
【0071】
(方法) 非標識化神経ペプチド(KTP)および125I標識化神経ペプチド(KTP)の混合物を、麻酔されたラットへ投与した。薬物の送達の開始約30分後に動物を灌流および固定した後にCNS組織、周辺組織および血液のサンプルを抽出した。γ線計測によって組織および血液において測定された放射能に基づいて、濃度を決定した。CNS組織中濃度を、30分での血中濃度に対して正規化し、血液に対するCNSへの鼻腔内薬物標的化の評価を提供した。異なる群の間で、濃度および組織対血液濃度比の比較をした。
【0072】
(動物) 成体の雄性Sprague−Dawleyラット(200g〜300g;Harlan、Indianapolis、IN)を、任意に提供される食物および水と共に12時間の明/暗サイクルの下で収容した。動物を、規格化されたガイドラインに従って世話し、全ての実験は、Regions Hospital、HealthPartners Research Foundation Animal Care and Use Committeeにより承認された。
【0073】
(動物の手術) ペントバルビタールナトリウム(Nembutal、腹腔内に50mg/kg、Abbott Laboratories、North Chicago、IL)を用いて、動物を麻酔した。温度制御装置および加熱パッドに接続された直腸用プローブの挿入(Fine Science Tools,Inc.、Foster City,CA)によって、体温を37℃に維持した。鼻腔内実験および静脈内実験については、血液のサンプリングおよび灌流のために、3方止め栓(B.Braun Medical Inc.、Bethlehem、PA)に接続された20G、1(1/4)インチのカテーテル(Jelco、Johnson and Johnson Medical Inc.、Arlington、TX)を用いて、下行大動脈にカニューレを挿入した。さらに、静脈内実験ついては、管および3方止め栓(B.Braun Medical Inc.、Bethlehem、PA)に接続された25G、3/4インチのカテーテル(Becton、Dickinson、Franklin Lakes、NJ)を用いて、薬物投与のために大腿静脈にカニューレを挿入した。
【0074】
(処方物の調製) 鼻腔内用の用量溶液および静脈内用の用量溶液は、それぞれ48μLおよび500μLの最終体積になるようにPBS(10mMのリン酸ナトリウム、154mMの塩化ナトリウム、pH7.4)中に溶解された、非標識神経ペプチドおよび125I標識神経ペプチド(10nmol、50〜55μCi)の混合物を含有した。血管収縮剤を用いる鼻腔内実験については、10%PHE(w/v)または50%PHE(w/v)の保存溶液を調製し、神経ペプチドを含有する用量溶液へ加えて、それぞれ最終濃度の1%PHEまたは5%PHEを作製した。各実験のための用量溶液アリコートを、実験日まで−20℃で保管した。
【0075】
(薬物投与) 仰向けに横になっており、かつ、ラットの頭の位置を維持するために巻いたガーゼ(直径1(1/4)cm)が首の下に配置された動物に対して、鼻腔内投与を実施した。このガーゼは、気管および食道への用量溶液の排液を防いだ。48μLの用量溶液を14分間かけて鼻腔内投与するのに、ピペット(P20)を使用した。反対の外鼻孔をふさぎながら、外鼻孔へ交互に2分ごとに8回、6μL点鼻薬を与えた。この投与の方法は、ピペットチップを外鼻孔の中へ挿入せずに、開口部に液滴を置いて動物に液滴を鼻腔へ吸い込ませたので、非侵襲性であった。大腿静脈を通しての静脈内投与を、注入ポンプ(Harvard Apparatus、Inc.、Holliston、MA)を用いて仰向けに横になっている動物に対して実施し、等価用量を含む500μLの溶液を14分間かけて投与した。
【0076】
(組織および流体サンプリング) 血液サンプル(0.1mL)を、薬物送達開始の5分後、10分後、15分後、20分後、30分後に下行大動脈のカニューレによって得た。採血後一度おきに0.9%塩化ナトリウム(0.35mL)を替わりに入れ、実験の間の血液容量を維持した。
【0077】
薬物送達の開始30分後、麻酔された動物の安楽死の後に、注入ポンプ(15mL/分;Harvard Apparatus、Inc.、Holliston、MA)を用いて、下行大動脈のカニューレを通して60mLの0.9%塩化ナトリウム、および0.1MのSorensonのリン酸緩衝液中の4%パラホルムアルデヒド360mLを用いて灌流および固定することにより、周辺組織およびCNS組織を得た。主要な周辺器官(筋肉、肝臓、腎臓、脾臓および心臓)の大まかな解剖、ならびに、浅頚部リンパ節、深頚部リンパ節、および腋窩リンパ節の解剖を実施した。脳を取り出し、嗅球を切片に分けた。ラットの脳マトリクス(Braintree Scientific、Braintree、MA)を用いて脳の連続的(2mm)冠状切片を作製した。参考としてRat Brain Atlasを用い、冠状切片上で、特定の脳領域の顕微解剖を実施した。三叉神経の背側部分を、背側破裂孔から上記神経が脳橋に入る地点までを、頭蓋腔の基底から切断した。この組織サンプルは、三叉神経節ならびに三叉神経の眼分枝(ophthalmic branch)(V1)部分および上顎分枝(maxillary branch)(V2)部分を含んだ。脊髄を頚部切片、胸部切片、腰部切片へ切断する前に、脊髄からの髄膜を取り出し、サンプルとした。左総頚動脈および右総頚動脈を、解剖顕微鏡の補助を得て周囲組織から切断した。それぞれの組織サンプルを、前もって計量された5mLチューブ中へ配置し、湿組織重量を微量天秤(Sartorius MC210S、Goettingen、Germany)を用いて測定した。
【0078】
動物の別々の群において、薬物送達開始30分後に大槽穿刺によってCSFをサンプルとした。動物を巻いたタオル上に腹ばいにして配置し、頭を45度の角度に位置付けした。30cm長のポリエチレン管(PE90)に取り付けられた20G針を、大槽中へ挿入した。流れが止まるまでか、または血液が観察されるまで、CSFを管の中へ収集した(約50μL)。血液が観察された場合、管をすぐにクランプで締め、血液由来の放射能に起因する汚染を避けた。透明な流体を含むCSFサンプルのみを、分析に含めた。動物を灌流し、固定し、そして脳組織を上記のようにサンプルとした。
【0079】
(サンプルおよびデータ分析) 各組織サンプルにおける放射能を、Packard Cobra II Auto Gamma counter(Packard Instrument Company、Meriden、CT)でのγ線計測により測定した。125I標識神経ペプチドの崩壊が最小であるという仮定の下で、用量溶液から採取した標準から決定された125I標識神経ペプチドの比放射能、バックグラウンド放射能を差し引いた後に組織を測定したカウント毎分、およびグラムでの組織重量により、濃度を算出した。
【0080】
鼻腔内実験および静脈内実験からの30分での血液、CNS組織および周辺組織における、用量で正規化された濃度を、平均±SEとして表した。域外値を、域外値に対するGrubbsの統計的検定、およびボックスプロットを用いて視覚的に識別した。0分から30分までの血中濃度−時間曲線下面積(AUC)を、無限に外挿することなく、台形方法を用いて算出した。鼻腔内送達後のCNSにおいて観察された濃度は、鼻血管系からの吸収、およびBBBを超えての拡散、またはレセプターが介在する輸送に起因し得るので、鼻腔からの直接輸送を評価するために30分での血中濃度に対してCNS組織中濃度を正規化した。PHEを用いる鼻腔内送達後の組織対血液濃度比が、血管収縮剤を用いない静脈内投与後および鼻腔内投与後の濃度比よりも大きいことが観察される場合、このことはそこで、血管収縮剤が血管系以外の経路に沿った送達を高めることを示唆する。CNSへの鼻腔内薬物標的化は、CNS組織中濃度が増加した場合か、血中濃度が減少した場合か、またはこの両方の効果が観察された場合に、血管収縮剤を用いて高められ得た。不対2サンプルt検定を、30分での濃度および組織対血液濃度比に対して実施し、各群を鼻腔内対照動物と比較した。統計的分析を、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン3.03、GraphPad Software Inc.、San Diego、CA)を用いて実施し、p<0.05である場合、差は有意であった。
【0081】
(鼻腔内送達後および静脈内送達後のキョートルフィンの体内分布(表6を参照))
表6および添付の図において示されるデータによって示されるように、CNSへのKTPの鼻腔内薬物標的化が、鼻腔内薬物送達と静脈内薬物送達とを比較することにより確認された。KTPの静脈内投与と比較して、KTPの鼻腔内投与は、測定された全ての時点で血液中濃度の著しい低下をもたらした(図6)。14分間にわたるKTPの鼻腔内投与は、血中濃度のゆるやかな増加をもたらし、ピーク濃度は30分での11.7nMであったが、静脈内注入は10分でピーク濃度の83nMをもたらし、このピーク濃度はだんだんと30分での55nMへ減少した。鼻腔内投与後に生じるKTPの血液AUCは、著しく低下した(145.30nmol×min/L対1708.83nmol×min/L)。
【0082】
鼻腔内投与は、静脈内送達後のKTPの脳内濃度および脊髄中濃度より有意に低い脳内濃度および脊髄中濃度(約3倍)をもたらした;なお、静脈を経路とすると、血中濃度の5倍増加が同時に起きた。鼻腔内投与後のKTP脳内濃度は1.8nM〜4.3nMの範囲であり、嗅球において最高濃度であった。静脈内での脳内濃度は、脳橋における5.0nMから尾状核/被殻における7.5nMの範囲であった。脊髄において、鼻腔内でのKTPは、吻側から尾側の方向へ減少する濃度勾配をもたらしたが、静脈内送達は、脊髄の腰椎部分において最高濃度をもたらした。CSFおよび背側髄膜への分布は、鼻腔内投与と比較して、静脈内投与の場合に有意に増加した。
【0083】
鼻腔において、気道上皮および嗅上皮は、静脈内投与と比較して、鼻腔内投与後に非常に高いレベルのKTPを含有した。浅頚部リンパ節中濃度は静脈内送達の場合に有意に増加したが、深頚部リンパ節のKTP濃度は鼻腔内送達の場合に有意に増加した。統計的有意差は、三叉神経中濃度において認められなかった(p=0.41)が、KTPレベルは鼻腔内群においてわずかに上昇した。さらに、統計的有意差は頚動脈中濃度において観察されなかった(p=0.13);しかし、鼻腔内送達の場合に、濃度はより高かった。
【0084】
周囲組織において、KTPの鼻腔内送達は、静脈内投与と比較して、濃度の有意の低下をもたらした。腎臓は、投与の経路に関係なく、最も高いKTPの周辺組織中濃度を含有した。
【0085】
(PHEを用いる場合および用いない場合のキョートルフィンの体内分布)
鼻腔内処方物中のPHEの包含は、鼻腔内KTPの対照と比較して血液へのKTPの吸収を減少させた(図6)。1%PHEは、30分でのKTP血中濃度を5.1nMへ(56%減少)、そして血液AUCを71.48nmol×min/Lへ(51%減少)著しく減少させた。5%PHEを用いる場合、30分でのKTP血中濃度は4.0nMへさらに減少し(66%減少)、KTPの血液AUCは鼻腔内KTP対照と比較して、45.65nmol×min/Lへさらに減少した(69%減少)(図6)。
【0086】
PHE用量は、静脈内送達で達成された嗅球におけるKTPの濃度をより高いレベルへ、嗅球におけるKTPの濃度を従属的に増加させた一方で、ほとんどの残りの脳の領域における濃度を減少させた(表6)。表6のデータによりさらに示されるように、1%PHEは、前嗅覚核におけるKTPの濃度に有意な影響を与えなかったが、血管収縮剤の存在により、全ての残りの脳の領域および脊髄に対して半分に濃度を有意に減少させた。鼻腔内KTP対照と有意に異なるCNS組織が減少したことを除き、同様の傾向が5%PHEの場合に観察された。1%PHEは、CSFにおけるKTP濃度を0.5nMから0.3nMへ減少させたが、これらの差異は、単にぎりぎり有意でしかなかった(p=0.09)。KTPのCSF分布における5%PHEの効果を評価しなかった。KTPのCSF濃度は、薬物投与の経路に関係なく、脳内濃度と比べて比較的低かった。PHEの場合、髄膜中のKTP濃度における有意の効果は認められなかった。
【0087】
表6に再び言及すると、鼻腔において、PHE用量は、嗅上皮での蓄積を従属的に増加させた。KTPの嗅上皮中濃度は、嗅球中濃度の予測に役立ち、0.99の正の相関係数を有することが見出された(データ示さず)。1%PHEは、気道上皮におけるKTP濃度を有意に増加させたが、5%PHEは有意の効果を有さなかった。PHEは、浅頚部リンパ節におけるKTP濃度を6.5nMから、1%PHEの場合には21nMへ、5%PHEの場合には13nMへ有意に増加させた。深頚部リンパ節におけるKTP濃度は、PHEを用いてわずかに上昇した;しかし、差は有意ではなかった。頚部リンパ節中濃度は、鼻腔内投与後のCNSの外部で観察された最も高いもののうちの1つであった。PHEを用いた場合の三叉神経中濃度において、統計的有意差は認められなかった;しかし、これらの値は血管収縮剤の存在下で、わずかに減少した。さらに、頚動脈中濃度において、5%PHEは効果を有さなかった一方で、1%PHEは濃度を減少させたが、有意差は観察されなかった。
【0088】
PHEは、サンプル抽出された全ての周辺組織へのKTPの曝露を有意に減少させた(5%PHEの場合の心臓を除く)。周辺組織中濃度における同様の減少が、1%PHEおよび5%PHEを用いる場合に観察され、腎臓および肝臓において減少が最大であった。
【0089】
(CNS、リンパ管および髄膜へのキョートルフィン薬物標的化)
KTPの鼻腔内投与は、KTPの静脈内投与と比較して、脳の組織対血液濃度比の有意の増加をもたらし、そして、1%PHEではなく5%PHEは、脳および三叉神経へのKTPの鼻腔内薬物標的化を有意に高めた(図7参照)。鼻腔内を経路とする投与は、静脈内送達と比較して、CNSへKTPを標的化し、三叉神経(TN)および嗅球(OB)において最大の組織対血液濃度比を有した一方で、静脈内投与は、CNSの全体にわたって比較的均一な比をもたらした。1%PHEは、鼻腔内KTP対照と比較して、嗅球での比を著しく増加させた(5.3倍増加)。1%PHEの場合に、薬物標的化における他の有意差は観察されなかった(図10)。5%PHEの場合に、KTPの鼻腔内薬物標的化は、より多くのCNS組織に対して増加した(図10)。対照と比較して、5%PHEは、嗅球(16.1倍)、前嗅覚核(AON、3.2倍)、前頭皮質(FC、2.3倍)、海馬(HC、1.5倍)、視床下部(3.8倍)および小脳(CB、2.1倍)において比を著しく増加させた。脊髄において、頚部脊髄への薬物標的化は5%PHEの場合に増加したが、単にぎりぎりのものでしかなかった(p=0.07)。鼻腔内薬物標的化はまた、5%PHEの場合に、三叉神経に対して著しく増加した(2.2倍)(図7)。鼻用処方物中の1%PHEまたは5%PHEの包含はまた、鼻腔内KTP対照と比較して、浅部節への標的化(それぞれ5.1倍および4.6倍)および頚部リンパ節への標的化(それぞれ3.0倍および4.8倍)を著しく高めた(データ示さず)。1%PHEまたは5%PHEはまた、髄膜へのKTPの標的化を著しく高め、背側部分(それぞれ2.3倍および3.2倍)と比較して、腹側部分(それぞれ3.6倍および3.4倍)に対する標的化がわずかに増加した。
【0090】
(例示的実験およびデータセット4に対する結論)
本発明者らの結果は、30分間にわたって、鼻用処方物中の血管収縮剤の包含または治療化合物を投与する前の前処置として適用される血管収縮剤の包含が、三叉神経経路に沿った輸送を減少させながら、徹底的に血中濃度を減少させ、かつ嗅神経経路に沿ったCNSへの鼻腔内送達を高めたことを示す。PHE用量は、嗅上皮および嗅球におけるHCおよびKTPの濃度を従属的に増加させ、篩板を通る嗅神経に沿った進入と矛盾しない。このことは、嗅覚領域における蓄積は、吻側脳領域への鼻腔内で適用される薬物の効率的送達にとって不可欠であることを示唆した。組織対血液濃度比により評価される鼻腔内薬物標的化は、血管収縮剤の存在下で観察された血中濃度の減少に主に起因して、特定のCNS組織においてPHEを用いて高められた。嗅球への標的化は、HCおよびKTPについての1%PHE処方物を用いる場合に著しく増加した。1%PHEを用いて高められた薬物標的化は、脳の全体にわたってHCに対して認められたが、KTPの標的化において他の有意差は観察されなかった。これらの発見は、異なる分子量を有する神経ペプチドを含む少なくとも2つの治療化合物について、鼻用処方物中の血管収縮剤の包含が、吻側脳領域への薬物標的化を高め得ることを示す。鼻用処方物中のPHEの包含はまた、リンパ系および脳を囲む髄膜の膜へのHCおよびKTPの薬物標的化を高めた。
【0091】
上記データは、鼻用処方物中の短時間作用する血管収縮剤の包含が、投与される治療ペプチド(すなわち、治療化合物)のサイズに関係なく、30分間にわたって血液への吸収を著しく減少させながら、嗅球への鼻腔内薬物送達および標的化を高めたことを示す。これらの発見は、鼻腔内投与後の脳の吻側部分への嗅覚が介在する経路に対してさらなる証拠を提供する。さらに、この結果は、CNSへの治療剤の鼻腔内送達における三叉神経および/または血管系を含む機構を暗示する。血管収縮剤を用いるCNSへの鼻腔内送達を高めるためのこの新規戦略は、血液もしくは周辺組織において有害な作用を有するか、血液もしくは胃腸管中で酵素により迅速に分解されるか、または組織もしくは血漿タンパク質により広範に結合される、強力なCNS治療剤に最も適し得る。治療化合物を含む血管収縮剤鼻用処方物は、脳腫瘍を標的化するためか、または疼痛性障害を処置するために使用され得、従来の経路での薬物投与にしばしば付随して起こる所望されない副作用を防ぎ得る。鼻用処方物中の血管収縮剤の包含は、複数の脳領域、リンパ系および髄膜への高められた治療化合物標的化をもたらし得、このことは様々な神経系障害、自己免疫障害または髄膜炎の処置に対する関連性を有し得る。
【0092】
(全体の結論)
鼻腔の上側3分の1もしくは下側3分の2のいずれかを標的化する治療剤の鼻腔内投与、および/または鼻腔内標的化位置を無視する治療剤の鼻腔内投与は、静脈内送達と比較して、CNSへの治療化合物標的化または治療剤標的化の増加をもたらし、鼻用処方物への血管収縮剤の組み込みは、血液への吸収を著しく減少させながら、CNS、髄膜およびリンパ管への治療化合物標的化を著しく高める。このことは、鼻腔から血液へのクリアランスの減少か、または鼻の経路のうっ血除去に起因し得、そして滞留時間の増加および嗅粘膜との接触の増加を可能にし得る。鼻腔内処方物中の血管収縮剤の可能性のある適用は、血液中もしくは周辺組織中で有害な作用を有するか、血液中もしくは薬物代謝器官中で迅速に分解されるか、または血漿タンパク質に広範に結合される非常に強力な薬物に対しては限りない。血管収縮剤は、脳腫瘍を標的化する化学療法剤の鼻用処方物中で使用され得るか、または脳および脊髄を標的化するが、投与の従来の経路によって患者に所望されない副作用をもたらしもする疼痛用医薬と共に使用され得る。これらのデータはまた、特定の疾患は免疫系の崩壊を含み、かつCNS腫瘍を拒絶するために適応免疫応答を活性化する新たな治療剤が現れつつあるので、血管収縮剤と組み合わせた免疫療法剤の鼻腔内送達が、免疫系への成功する薬物標的化戦略であり得ることを示す。本発明者らは、鼻用処方物(すなわち、薬学的組成物)中の血管収縮剤の包含は、血液への吸収を減少させ、鼻上皮における治療化合物(例えば、薬物)の滞留時間を増加させ、嗅神経、三叉神経、CSFまたはリンパチャネルを含む経路に沿った脳への鼻腔内送達を促進すると仮定した。
【0093】
いくつかのCNS関連障害、疾患および/または状態は、本発明の異なる実施形態を用いて予防され得るか、またはその影響が最小化され得る。例えば、限定はされないが、アルツハイマー病の危険にさらされている患者は、本技術により助けられ得る。
【0094】
さらに、別の実施形態において、冠状動脈バイパスグラフト(CABG)手術が予定される患者もまた、手術後の脳虚血の比較的高い割合に起因して有益であり得る。
【0095】
別の実施形態において、パーキンソン病の危険にさらされている患者は、本発明の方法から利益を受け得る。
【0096】
さらに別の実施形態において、脳卒中の危険にさらされている患者は、本発明の方法により助けられ得る。そのような患者としては、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、もしくは抗リン脂質症候群、または脳卒中の病歴を有すること(それゆえ、後に脳卒中になりやすい)を含む危険因子を有する患者が挙げられる。
【0097】
上記実施形態は、特定の障害または医療手法の結果としての脳虚血に起因する認知障害、行動障害および身体障害の予防に本質的に焦点を合わせる。一連の代替の実施形態は、そのような障害と診断された後に、該障害を処置することに焦点を合わせる。
【0098】
例えば、再び限定はされないが、一実施形態において、本発明の方法は、アルツハイマー病を有する患者に対する処置計画において使用され得る。
【0099】
別の実施形態において、本発明の方法は、パーキンソン病と診断された患者を処置するために使用され得る。
【0100】
さらに別の実施形態において、脳卒中と診断され、それにより後の脳卒中の危険にさらされている患者は、本発明の方法から利益を受け得る。
【0101】
さらに別の実施形態において、本発明の方法は、ナルコレプシーと診断された患者を処置するために使用され得る。
【0102】
さらに別の実施形態において、本発明の方法は、以下を含む中枢神経系の他の障害と診断された患者を処置するために使用され得る:神経変性障害(例えば、ALSおよびハンティングトン病)、外傷性脳損傷、脊髄損傷、てんかん、出血、一過性脳虚血発作、疼痛、うつ病、不安、精神分裂病、外傷後のストレス障害、人格障害、自閉症、摂食障害および他の精神医学的障害または神経学的障害。
【0103】
別の実施形態において、薬学的組成物は少なくとも1つの治療化合物および少なくとも1つの血管収縮剤の組み合わせから構成され得る。
【0104】
別の実施形態において、少なくとも1つの血管収縮剤が、鼻腔内または他の方法(すなわち、静脈内)で、前処置として局所的にまたは少なくとも1つの治療化合物の投与と同時に適用され得る。さらに、少なくとも1つの治療化合物が、少なくとも1つの血管収縮剤と組み合わされ得、鼻腔内(もしくは静脈内、局所的など)に投与される血管収縮剤を用いる前処置後に、および/またはそのような血管収縮剤と同時に投与され得る薬学的化合物を形成し得る。
【0105】
一般的に、本明細書において記載されるまたは参照される、任意の治療剤または薬学的組成物は、外科処置(例えば、CABG)前、そのような処置の間またはそのような処置後に、本発明の方法の実施形態の下で投与され得る。
【0106】
さらに別の実施形態において、本発明の方法に従う治療剤は、HIF−1αを刺激および/または安定化する以下の物質のうちの1つ以上を含み得る:デフェロキサミン、インスリン、IGF−I、ヘレグリン(heregulin)インスリン、IGF−I、ヘレグリン、TGFβ、IL1β、TNFα、TGFβ、コバルト、ピルベート(pyruvate)、オキサロアセテート(oxalacetate)およびラクテート。1つ以上の上述の物質を少なくとも1つの血管収縮剤と組み合わせる薬学的組成物を作成することは、本発明の範囲内である。さらに、他の実施形態において、本発明は、少なくとも1つの金属キレート剤および少なくとも1つの血管収縮剤と、少なくとも1つの上述の物質を含む薬学的組成物を投与し得る。さらに、薬学的組成物は、別の実施形態において、少なくとも1つの抗酸化剤および少なくとも1つの血管収縮剤と組み合わされる、少なくとも1つの上述の物質から構成され得る。
【0107】
さらに、他の実施形態において、本発明は、治療化合物HC、TPおよび/またはKTPと少なくとも1つの血管収縮剤とを含む薬学的組成物を投与し得る。本発明の様々な実施形態における例示的な血管収縮剤は、限定はされないが、PHEおよび/またはTHZを含み得る。さらなる血管収縮剤は当業者に周知であり、そして再び限定はされないが、メトキサミン、フェニレフリン、エフェドリン、ノルエピネフリン、オキシメタゾリン、テトラヒドロゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアナベンズ、グアンファシン、α−メチルドパおよび/またはアルギニンバソプレシンが挙げられ得る。
【0108】
本明細書中で定義されるように、本発明の実施形態に従って投与される治療化合物および/または血管収縮剤の有効量は、用量の表現の最も好ましい方法である。そのような有効量は、多くの因子(限定はされないが、予想される脳虚血エピソードを引き起こす疾患または状態の種類、患者の通常の健康状態、サイズ、年齢、および処置の性質(すなわち短期間または長期間の処置)を含む)に依存する。例示の目的だけのために、本明細書中に開示される一般的に治療化合物に関連する例示的な処置レジメン(用量範囲、容量および頻度を含む)が以下に提供される。
【0109】
有効投与量範囲:0.0001mg/kg〜1.0mg/kg。
【0110】
より好ましい投与量範囲は、0.005mg/kg〜1.0mg/kgであり得る。
【0111】
最も好ましい投与量範囲は、0.05mg/kg〜1.0mg/kgであり得る。
【0112】
(鼻腔スプレーまたは点鼻薬へ適用可能な)投与容量の範囲は、0.015ml〜1.0mlであり得る。
【0113】
(鼻腔スプレーまたは点鼻薬へ適用可能な)好ましい投与容量の範囲は、0.03ml〜0.6mlであり得る。
【0114】
有効な血管収縮剤の投与量は、0.0001mg/kg〜0.3mg/kgであり得る。
【0115】
一般的に、処置は、単一用量または複数回の投与(すなわち、ある時間の期間にわたって、1日に1回、2回、3回またはより多くの回数)で与えられ得る。慢性障害(例えば、アルツハイマー病、脳卒中もしくはパーキンソン病と診断される障害、またはアルツハイマー病、脳卒中もしくはパーキンソン病の危険にさらされている障害)に対して、処置は、長期の期間にわたって1日ごとに少なくとも1回の用量からなり得る。あるいは、CABG手術を予想している患者に対して、処置は、潜在的な脳虚血という予想でCNSを前もって調整するための1回限りの用量であり得る。そのような前調整は、1回を超える用量を必要とし得、CABG手術の12時間前から1週間前までに投与され得る。
【0116】
上で提供された投与量範囲でおそらく達成される脳内濃度は、単一用量に対しては0.1nM〜50μMである。複数回の用量での処置計画の過程において、最大の脳内濃度は、500μMという高さであり得る。
【0117】
CNS関連および/または免疫関連の障害、状態および/または疾患の予防および/または処置のための、CNS治療化合物を含む鼻腔内処方物中の血管収縮剤の包含は:
(1)血液への吸収を減少させ(このことは、血液中または周辺組織中での有害な副作用を伴う薬物に対して所望される);
(2)全身への薬物曝露を減少させ(このことは、薬物代謝器官において迅速に排出される薬物に対して、または血漿タンパク質に広範に結合される薬物に対して重要である);
(3)嗅上皮へ薬物を標的化し、薬物のCNS送達のために嗅上皮へ薬物を標的化することを要求する高価な薬物送達デバイスの必要性を減少させ;
(4)鼻腔から血液への薬物のクリアランスを減少させ(このことは、滞留時間を増加させ、嗅上皮との接触を増加させる);
(5)無臭覚の処置のために、治療の可能性を有する嗅上皮、嗅球および/または前嗅覚核へ薬物を標的化し(無臭覚は、アルツハイマー病および他の神経系障害の開始と関連する);
(6)前頭側頭葉型痴呆、人格障害、認知障害、運動機能障害およびアルツハイマー病に関する脳の標的に到達するように、前頭皮質へ高い効能の薬物を標的化し;
(7)アルツハイマー病および他の神経系障害に付随する学習障害および記憶障害の処置のために、海馬へ標的化し;
(8)摂食障害または睡眠障害の処置、およびホルモン機能の制御のために、視床下部へ強力な薬物を標的化し;
(9)運動失調およびパーキンソン病、ならびに他の運動障害を処置するために、小脳および脳幹へ薬物を標的化し;
(10)脳腫瘍、多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ節炎,リンパ性フィラリア、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、胸腺癌および他の形態の癌、AIDS、神経AIDS、SCID、自己免疫疾患、シェーグレン症候群、慢性静脈洞炎、アレルギー、狼瘡および/または多発性硬化症を処置または予防するために、リンパ系への送達および薬物標的化を増加させ;
(11)髄膜炎または脳炎を処置するために使用され得る強力な抗生物質または抗ウィルス医薬を、脳を囲む髄液へ標的化し;そして
(12)血管収縮剤のうっ血除去効果が、風邪またはアレルギーに起因する鼻のうっ血を有する患者のCNS障害、リンパ系障害、髄膜の障害および他の障害の鼻腔内薬物処置を改善し得る。
【0118】
【化1】

【0119】
【化2】

【0120】
【表1】

【0121】
【化3】

【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
【化4】

【0126】
【化5】

【0127】
【表5】

【0128】
【表6】

【0129】
【化6】

【0130】
【化7】

本発明は、上記の特定の実施例に限定されると見なされるべきではなく、逆に、本発明の全ての局面を包含することが理解されるべきである。本発明が適用可能であり得る様々な改変、同等のプロセスおよび数多くの構造は、本明細書のレビューにより、本発明が関する分野の当業者にとって容易に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の疾患または状態の処置のために、該患者における標的への少なくとも1つの薬学的化合物の鼻腔内送達の効率を増加させるため方法であって、以下:
少なくとも1つの治療化合物を提供する工程であって、該標的が該患者の中枢神経系内にある工程;
少なくとも1つの血管収縮剤を提供する工程;
患者の鼻腔へ、該少なくとも1つの治療化合物および少なくとも1つの血管収縮剤の有効量を適用する工程;
該標的へ少なくとも1つの治療化合物を送達する工程;ならびに
血液および/または周辺組織へ吸収される該少なくとも1つの治療化合物の量を減少させる工程
を包含する方法。
【請求項2】
前記患者の状態がアルツハイマー病を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者の状態がパーキンソン病を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者の状態が以下:
脳血管障害、前頭側頭葉型痴呆、人格障害、認知障害、運動機能障害、摂食障害、睡眠障害、情動障害、不安障害、統合失調症、脳腫瘍および運動失調
のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標的が前頭皮質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記標的が海馬を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標的が視床下部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記標的が小脳または脳幹を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの治療化合物がデフェロキサミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの治療化合物が以下:
インスリン、IGF−I、TGFβ、IL1β、TNFα、TGFβ、コバルト、ピルベート、オキサロアセテートおよびラクテート
のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの治療化合物が以下:
HCおよびKTP
のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの血管収縮剤がPHEおよびTHZを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
患者の疾患または状態の処置のために、該患者における標的への少なくとも1つの薬学的化合物の鼻腔内送達の効率を増加させるため方法であって、以下:
少なくとも1つの治療化合物を提供する工程であって、該標的が該患者のリンパ系内にある工程;
少なくとも1つの血管収縮剤を提供する工程;
患者の鼻腔へ、該少なくとも1つの治療化合物および少なくとも1つの血管収縮剤を適用する工程;
該標的へ少なくとも1つの治療化合物を送達する工程;ならびに
血液および/または周辺組織へ吸収される該少なくとも1つの治療化合物の量を減少させる工程
を包含する方法。
【請求項14】
前記状態が脳腫瘍を含み、前記方法が脳腫瘍を処置する工程および/または予防する工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記状態が以下:
多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ節炎,リンパ性フィラリア、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、および胸腺癌
のうちの1つ以上を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記状態が以下:
AIDS、神経AIDS、SCID、自己免疫疾患、シェーグレン症候群、狼瘡および多発性硬化症
のうちの1つ以上を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記状態がアレルギーおよび/または慢性静脈洞炎を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
患者の疾患または状態の処置のために、該患者における標的への少なくとも1つの薬学的化合物の鼻腔内送達の効率を増加させるため方法であって、以下:
少なくとも1つの治療化合物を提供する工程であって、該標的が該患者の髄膜内にある工程;
少なくとも1つの血管収縮剤を提供する工程;
患者の鼻腔へ、該少なくとも1つの治療化合物および少なくとも1つの血管収縮剤を適用する工程;
該標的へ少なくとも1つの治療化合物を送達する工程;ならびに
血液および/または周辺組織へ吸収される該少なくとも1つの治療化合物の量を減少させる工程
を包含する方法。
【請求項19】
前記状態が髄膜炎および/または脳炎を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者の疾患または状態の処置のために、該患者の中枢神経系内の標的へ少なくとも1つの薬学的化合物の鼻腔内送達の効率を増加させるために鼻腔内投与される薬学的化合物であって、以下:
有効量の少なくとも1つの血管収縮剤;および
有効量の少なくとも1つの治療化合物
を含み、ここで、血液および/または周辺組織への該薬学的組成物の吸収が制限されながら、該薬学的化合物が鼻腔内投与され、該標的へ送達される
薬学的化合物。
【請求項21】
前記標的が前記患者の中枢神経系を含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記患者の状態がアルツハイマー病を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記患者の状態がパーキンソン病を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記患者の状態が以下:
脳血管障害、前頭側頭葉型痴呆、人格障害、認知障害、運動機能障害、摂食障害、睡眠障害、情動障害、不安障害、統合失調症、脳腫瘍および運動失調
のうちの1つ以上を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記標的が前頭皮質を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記標的が海馬を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
前記標的が視床下部を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項28】
前記標的が小脳および脳幹を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項29】
前記少なくとも1つの治療化合物がデフェロキサミンを含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項30】
前記少なくとも1つの治療化合物が以下:
インスリン、IGF−I、TGFβ、IL1β、TNFα、TGFβ、コバルト、ピルベート、オキサロアセテートおよびラクテート
のうちの1つ以上を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項31】
前記少なくとも1つの治療化合物が以下:
HCおよびKTP
のうちの1つ以上を含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項32】
前記少なくとも1つの血管収縮剤がPHEおよびTHZを含む、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項33】
前記状態が脳腫瘍を含み、前記方法が脳腫瘍を処置および/または予防する工程をさらに含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項34】
前記標的が前記患者のリンパ系を含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項35】
前記状態が以下:
多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ節炎,リンパ性フィラリア、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫および胸腺癌
のうちの1つ以上を含む、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項36】
前記状態が以下:
AIDS、神経AIDS、SCID、自己免疫疾患、シェーグレン症候群、狼瘡および多発性硬化症
のうちの1つ以上を含む、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項37】
前記状態がアレルギーおよび/または慢性静脈洞炎を含む、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項38】
前記標的が前記患者の髄膜を含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
前記状態が髄膜炎および/または脳炎を含む、請求項38に記載の薬学的組成物。

【公表番号】特表2011−504163(P2011−504163A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511350(P2010−511350)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/066033
【国際公開番号】WO2008/154337
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509336071)ヘルスパートナーズ リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】