説明

乗用型芝刈り車両及びその制御方法

【課題】車輪のスリップを抑制して芝の損傷を防止することができる乗用型芝刈り車両及びその制御方法を提供する。
【解決手段】乗用型芝刈り車両1は、前輪11a,11bを回転させる駆動力を発生するモータ41を備える車両であって、モータの回転数を検出するモータ回転数センサQ1と、モータ41に流れる電流の電流値を検出するモータ電流センサQ2と、モータ回転数センサQ1及びモータ電流センサQ2の少なくとも一方の検出結果に基づいて前輪11a,11bがスリップ状態であるか否かを判定するスリップ状態判定部38aと、前輪11a,11bがスリップ状態であるとスリップ状態判定部38aで判定された場合にモータ41のトルクを減ずる制御を行うモータ制御部38cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者が乗車して運転しながら芝の刈り取りを行うことが可能な乗用型芝刈り車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型芝刈り車両は、車輪が取り付けられた車体と、車体に設けられた昇降可能な芝刈りユニット(リール)とを備えており、作業者が車両に乗車して運転しながら芝の刈り取りを行うことが可能である。このため、乗用型芝刈り車両は、作業者が車両の後側から操作する手押し式(ウォークビハインド式)芝刈り車両よりも、例えばゴルフ場におけるグリーンや競技場等の広範な領域の芝を刈り取るのに適している。
【0003】
従来の乗用型芝刈り車両は、エンジン等の内燃機関を動力発生源等として備えており、内燃機関で発生する動力を用いて車輪や油圧シリンダ(芝刈りユニットを昇降させる油圧シリンダ)を駆動するものが多かった。しかしながら、近年では、温室効果ガスの一種である二酸化炭素(CO)の排出量を低減すべく、モータの動力を用いて走行や芝刈りユニットの駆動(昇降含む)を行うハイブリッド式或いは電動式の乗用型芝刈り車両の研究・開発が盛んに行われている。
【0004】
以下の特許文献1には、エンジンを動力発生源として備える乗用型芝刈り車両やトラクタ等の車両において、停止時における芝の損傷を防止する技術が開示されている。具体的に、以下の特許文献1には、車両を停止させるため変速操作部が中立位置に操作されたときに、車両の停止が検出されてからブレーキ装置をブレーキ制動状態に切換えることで、走行輪が急制動されてロック状態となるのを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−191327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に、エンジンは、低回転域(例えば、1000rpm程度の回転域)のトルクが小さいのに対し、モータは、低回転域でも大きなトルクを得ることが可能である。このため、モータの動力を用いて走行を行う乗用型芝刈り車両(例えば、前述したハイブリッド式或いは電動式の乗用型芝刈り車両)は、作業者によりペダルの誤操作がなされると、エンジンを備える乗用型芝刈り車両よりも車輪がスリップ(空転)しやすくなると考えられる。
【0007】
ここで、上記の車輪のスリップは、走行開始時におけるペダルの誤操作が原因で生ずるばかりではなく、走行中におけるペダルの誤操作によっても生じ得る。このため、作業者は、乗用型芝刈り車両の運転中は細心の注意を払ってペダルを操作する必要があり、作業者の負担が増大する虞が考えられる。このような車輪のスリップが生ずると、例えば芝の刈り取りが行われた場所に損傷した芝が点在しているといった状況が生じ得るため、結果的に芝の刈り取り品質が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、車輪のスリップを抑制して芝の損傷を防止することができる乗用型芝刈り車両及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の乗用型芝刈り車両は、車輪(11a、11b)を回転させる駆動力を発生するモータ(41)を備える乗用型芝刈り車両(1)において、前記モータの回転数を検出する第1センサ(Q1)と、前記モータに流れる電流の電流値を検出する第2センサ(Q2)と、前記第1,第2センサの少なくとも一方の検出結果に基づいて前記車輪がスリップ状態であるか否かを判定する判定部(38a)と、前記車輪がスリップ状態であると前記判定部で判定された場合に前記モータのトルクを減ずる制御を行う制御部(38c)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記判定部が、前記第1センサの検出結果の変化率が予め設定された制限値以上である場合に前記車輪がスリップ状態であると判定する第1判定部(J1)と、前記第2センサで検出される電流値が、車両の走行状態に応じて前記モータに流れるべき電流の最低値である最低駆動電流値以下である場合に前記車輪がスリップ状態であると判定する第2判定部(J2)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、車両の速度を検出する速度センサ(36)と、車両の姿勢を検出する姿勢センサ(37)と、前記速度センサ及び姿勢センサの検出結果を用いて前記最低駆動電流値を算出する算出部(38b)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記算出部が、前記速度センサ及び姿勢センサの検出結果と路面抵抗とから走行抵抗を求め、該走行抵抗と前記第1センサの検出結果とから前記最低駆動電流値を算出することを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両は、前記制御部が、前記モータのトルクを間欠的に停止させる制御を行うことを特徴としている。
また、本発明の乗用型芝刈り車両の制御方法は、車輪(11a、11b)を回転させる駆動力を発生するモータ(41)を備える乗用型芝刈り車両(1)の制御方法であって、前記モータの回転数を検出する第1ステップ(S11)と、前記モータに流れる電流の電流値を検出する第2ステップ(S19)と、前記第1,第2ステップの少なくとも一方の検出結果に基づいて前記車輪がスリップ状態であるか否かを判定する第3ステップ(S13、S19)と、前記車輪がスリップ状態であると前記第3ステップで判定された場合に前記モータのトルクを減ずる制御を行う第4ステップ(S22)とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モータの回転数を検出する第1センサと、モータに流れる電流の電流値を検出する第2センサとの少なくとも一方の検出結果に基づいて車輪がスリップ状態であるか否かを判定し、車輪がスリップ状態であると判定部で判定された場合にモータのトルクを減ずる制御を行っているため、車輪のスリップが抑制されて芝の損傷を防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御系統の要部構成を示すブロック図である。
【図3】乗用型芝刈り車両の前輪がスリップ状態になった場合のモータの回転数及びモータに流れる電流の変化例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両及びその制御方法について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の外観を示す斜視図である。図1に示す通り、本実施形態の乗用型芝刈り車両1は、フレーム10に支持される2つの前輪11a,11b(車輪)及び1つの後輪12と、2つの前側芝刈りユニット13a,13b及び1つの後側芝刈りユニット14とを備えており、前輪11a,11b及び後輪12によって走行しつつ、走行経路に沿って前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14により芝の刈り取りを行う。
【0013】
図1に示す乗用型芝刈り車両1は、モータで発生する動力を用いて走行を行うとともに、モータで発生する動力を用いて芝の刈り取りを行う電動式の乗用型芝刈り車両である。尚、乗用型芝刈り車両1が備える前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の各々には、刈り取られた芝(刈芝)を収容するバケットが取り付けられるが、図1ではバケットが取り外されている状態を図示している。
【0014】
フレーム10の略中央上部には、作業者が着席するシート15が配設されている。このシート15の前方上部にはステアリングホイール16が設けられており、前方下部には後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19が設けられている。シート15に着席した作業者によってステアリングホイール16が操作されることで乗用型芝刈り車両1の進行方向が定められ、後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19が操作されることにより、乗用型芝刈り車両1の後進、前進、停止、及び走行速度が定められる。
【0015】
前輪11a,11bは、フレーム10の右側前方下部及び左側前方下部にそれぞれ配設されており、モータ41(図1では図示省略、図2参照)で発生する動力によって駆動される駆動輪であり、車両の左右方向に沿う回転軸の周りで回転可能にフレーム10に支持されている。後輪12は、フレーム10の中央後方下部に配設されており、ステアリングホイール16の回転量に応じて左右方向に揺動可能に構成されて操舵輪として機能する。後輪12の左右方向への揺動に合わせて後輪12の回転軸も揺動するため、ステアリングホイール16を回転させることにより乗用型芝刈り車両1の進行方向が変更される。
【0016】
前側芝刈りユニット13a,13bは、前輪11a,11bの各々の前方において昇降可能に支持されており、下降して前輪11a,11bの前方で地面に接している状態で芝の刈り取りを行う。これら前側芝刈りユニット13a,13bの各々は、前側ローラ21、電動リール22(回転刃)、不図示の後側ローラ、及びモータ24を備える。前側ローラ21及び不図示の後側ローラは、下降した状態にある前側芝刈りユニット13a,13bを地面上に支持するために設けられている。
【0017】
電動リール22は、芝を刈るための螺旋状の刃が側面に複数形成された略円柱形状の部材であって、回転軸が車両の左右方向に設定されており、モータ24によって駆動される。この電動リール22は、前側ローラ21と不図示の後側ローラとの間に配設され、刈り取った後の芝の高さの分だけ前側ローラ21及び不図示の後側ローラよりも上方に配置されている。尚、前側ローラ21及び不図示の後側ローラに対する電動リール22の高さ位置は、例えば数mm〜十数mm程度の範囲で微調整が可能である。
【0018】
フレーム10の前部には、中央部から右方向に延びる支持アーム25aと、中央部から左方向に延びる支持アーム25bとが設けられている。支持アーム25aは、その右端部において車両の前後方向における回転軸の周りで前側芝刈りユニット13aを揺動可能に支持しており、支持アーム25bは、その左端部において車両の前後方向における回転軸の周りで前側芝刈りユニット13bを揺動可能に支持している。このため、車両の左右方向に地面が傾斜していても、その傾斜に合わせて前側芝刈りユニット13a,13bを傾斜させることができる。
【0019】
支持アーム25a,25bには、電動アクチュエータとしての電動シリンダ26a,26bが取り付けられている。電動シリンダ26aが伸縮すると支持アーム25aの右端部が上下方向に移動し、これにより前側芝刈りユニット13aが昇降する。同様に、電動シリンダ26bが伸縮すると支持アーム25bの左端部が上下方向に移動し、これにより前側芝刈りユニット13bが昇降する。つまり、支持アーム25a,25b及び電動シリンダ26a,26bは、前側芝刈りユニット13a,13bを昇降させる昇降機構をなす。尚、図1では、前側芝刈りユニット13aが上昇しており、前側芝刈りユニット13bが下降している状態を図示している。
【0020】
後側芝刈りユニット14は、前輪11a,11bと後輪12との間において昇降可能に支持されており、下降して後輪12の前方で地面に接している状態で芝の刈り取りを行う。この後側芝刈りユニット14は、前側芝刈りユニット13a,13bと同様に、前側ローラ21、電動リール22(回転刃)、不図示の後側ローラ、及びモータ24を備えており、電動シリンダ26a,26bと同様の電動シリンダ(電動アクチュエータ)等を備える不図示の昇降機構によって昇降される。尚、後側芝刈りユニット14も、前側芝刈りユニット13a,13bと同様に、車両の前後方向における回転軸の周りで揺動可能に支持されており、車両の左右方向における地面の傾斜に合わせて傾斜が可能である。
【0021】
また、シート15の右側前方(ステアリングホイール16の右側)には、タッチパネル式の表示装置(例えば、液晶表示装置)27が設けられている。この表示装置27は、作業者の指示を入力するとともに、乗用型芝刈り車両1の現在の状態を示す情報等の各種情報を表示するものである。前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の昇降、及びこれらに設けられた電動リール22の始動・停止は、作業者が表示装置27を操作することによって入力される指示に応じて制御される。表示装置27に表示される情報としては、乗用型芝刈り車両1の走行速度、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の各々に設けられた電動リール22の回転速度、及び芝の育成状況を示す情報等の情報である。
【0022】
尚、ステアリングホイール16の下方であって、前進アクセルペダル18とブレーキペダル19との間には、乗用型芝刈り車両1の前方を照明する照明装置28が設けられている。また、シート15の後方のフレーム10上には、乗用型芝刈り車両1を動作させる電力を供給するバッテリBが設けられている。具体的に、バッテリBから供給される電力は、前輪11a,11bを駆動するモータ41(図2参照)、後輪12を揺動させる駆動力を発生する電動シリンダ45に内蔵されるモータ42(図2参照)、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14の各々に設けられたモータ24、及び電動シリンダ26a,26bを駆動する動力を発生するモータ43a,43b(図2参照)等を駆動するために用いられる。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御系統の要部構成を示すブロック図である。尚、図2においては、図1に示した構成に相当するものについては同一の符号を付してある。図2に示す通り、乗用型芝刈り車両1は、DC/DCコンバータ31、ACモータドライバ32、電動シリンダ用ドライバ33、電動シリンダ用ドライバ34a,34b、ACモータドライバ35a,35b、速度センサ36、3Dジャイロセンサ37(姿勢センサ)、及び制御装置38を備える。尚、図2では、電力が伝達される経路を実線で表しており、制御系統に係る信号の経路を破線で表している。
【0024】
DC/DCコンバータ31は、バッテリBと各種ドライバ(ACモータドライバ32〜ACモータドライバ35b)との間に設けられ、制御装置38の制御の下で、バッテリBから各種ドライバに供給される直流電力の電圧変換を行うとともに、前輪11a,11bを駆動するモータ41で発生してバッテリBに回収される回生電力の電圧変換を行う。具体的には、バッテリBの出力電圧を昇圧して各種ドライバに印加し、或いはモータ41で発生する起電力を降圧してバッテリBに印加する。
【0025】
ACモータドライバ32は、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、前輪11a,11bを駆動する動力を発生するモータ41を駆動する。尚、図2において、モータ41と前輪11a,11bとの間に設けられているブロック(符号44が付されたブロック)は、モータ41で発生する動力(回転動力)を、その回転数を減じて前輪11a,11bに伝達する減速ギア(減速器)を示している。また、ACモータドライバ32は、制御装置38の制御の下でモータ41を発電機として動作させ、モータ41で発生する回生電力を、DC/DCコンバータ31を介してバッテリBに回収させる。
【0026】
また、モータ41には、モータ41の回転数を検出するエンコーダ又はレゾルバ等のモータ回転数センサQ1(第1センサ)が設けられており、このモータ回転数センサQ1の検出結果を示す回転数信号S1がACモータドライバ32に入力されている。ACモータドライバ32には、モータ41に流れる電流の電流値を検出するモータ電流センサQ2(第2センサ)が設けられている。ACモータドライバ32は、制御装置38との間で通信を行って、回転数信号S1で示されるモータ41の回転数、モータ41に流れている電流、及びモータ41で発生しているトルク等の情報を送信する。
【0027】
電動シリンダ用ドライバ33は、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、後輪12を揺動させる電動シリンダ45を駆動する動力を発生するモータ42を駆動する。このモータ42には、電動シリンダ45の駆動量(即ち、後輪12の揺動角)を検出するエンコーダ(図示省略)が設けられており、このエンコーダの検出結果を示す揺動角信号S2が電動シリンダ用ドライバ33に入力されている。電動シリンダ用ドライバ33は、制御装置38との間で通信を行って、揺動角信号S2で示される後輪12の揺動角等の情報を送信する。
【0028】
電動シリンダ用ドライバ34a,34bは、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、電動シリンダ26a,26bを駆動する動力を発生するモータ43a,43bを駆動する。ACモータドライバ35a,35bは、バッテリBからDC/DCコンバータ31を介して供給される直流電力を用い、制御装置38の制御の下で、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14に設けられるモータ24を駆動する。
【0029】
ここで、前側芝刈りユニット13a,13b及び後側芝刈りユニット14に設けられるモータ24の各々には、それぞれの回転数を検出するエンコーダ又はレゾルバ(図示省略)が設けられており、このエンコーダ等の検出結果を示す回転数信号S3,S4がACモータドライバ35a,35bにそれぞれ入力されている。尚、図2では簡略化して図示しているが、ACモータドライバ35aは、前側芝刈りユニット13aに設けられるモータ24を駆動するドライバと、前側芝刈りユニット13bに設けられるモータ24を駆動するドライバとを含むものである。また、回転数信号S3は、前側芝刈りユニット13aに設けられるモータ24の回転数を示す信号と、前側芝刈りユニット13bに設けられるモータ24の回転数を示す信号とを含む信号である。
【0030】
速度センサ36は、乗用型芝刈り車両1の車速を検出するセンサである。この速度センサ36は、例えば減速ギア44と前輪11a,11bとの間の駆動軸(シャフト)に取り付けられた数十〜百超の歯を有する検出用ギア(歯車)が回転することによって発生するパルスを一定時間毎にカウントし、そのカウント結果から乗用型芝刈り車両1の車速を検出するセンサである。尚、上記のパルスの間隔(インターバル時間)から車速を検出するセンサを用いても良い。
【0031】
3Dジャイロセンサ37は、乗用型芝刈り車両1の姿勢を検出するセンサである。具体的には、水平面内における互いに直交する2つの軸(X軸,Y軸)の周りの回転角(θX,θY)及び水平面に直交する垂直方向の軸(Z軸)の周りの回転角(θZ)、並びにX軸,Y軸,Z軸各々の加速度を検出するセンサである。このため、車速の加減速及び坂の上り下りが判断できる。尚、ここでは乗用型芝刈り車両1の姿勢の検出に3Dジャイロセンサ37を用いる例について説明するが、3Dジャイロセンサ37に代えて乗用型芝刈り車両1の前後方向の傾きのみを検出する傾斜センサを用いることも可能である。以上の速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果は制御装置38に出力される。
【0032】
制御装置38は、乗用型芝刈り車両1を統括して制御する。具体的に、制御装置38は、入力される各種操作信号(操作角度信号S5及びペダル操作信号S6〜S8)と各種ドライバ(ACモータドライバ32〜ACモータドライバ35b)から送信されてくる信号とを参照しつつ、各種ドライバによる各種モータ(モータ24,41〜43b)の駆動量の制御を行う。また、制御装置38は、バッテリBの充電状態(SOC:State Of Charge)を監視し、DC/DCコンバータ31による電力消費量を制御するとともに、モータ41で発生する回生電力を用いたバッテリBの充電制御を行う。
【0033】
尚、上記の操作角度信号S5は、ステアリングホイール16の操作角度(ステアリング角度)を示す信号であり、ステアリングホイール16の操作角度を検出するエンコーダE1から出力される。また、上記のペダル操作信号S6〜S8は、後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19の各々の操作量(踏み込み量)を示す信号である。
【0034】
ここで、図2に示す通り、制御装置38は、スリップ状態判定部38a(判定部)、最低駆動電流値算出部38b(算出部)、及びモータ制御部38c(制御部)を備えており、前輪11a,11bがスリップ状態であるか否かを判定し、スリップ状態であると判定した場合にモータ41のトルクを減ずる制御を行う。かかる制御を行うのは、前輪11a,11bのスリップ(空転)を抑制して、芝の損傷(所謂、芝切れ)を防止するためである。
【0035】
スリップ状態判定部38aは、モータ41の回転数を検出するモータ回転数センサQ1とモータ41に流れる電流の電流値を検出するモータ電流センサQ2との少なくとも一方の検出結果に基づいて、前輪11a,11bがスリップ状態であるか否かを判定する。具体的に、スリップ状態判定部38aは、モータ回転数センサQ1の検出結果を用いてスリップ状態の判定を行う第1判定部J1と、モータ電流センサQ2の検出結果及び最大駆動電流値算出部38bで算出される最大駆動電流値を用いてスリップ状態の判定を行う第2判定部J2とを備える。
【0036】
第1判定部J1は、モータ回転数センサQ1の検出結果の変化率が予め設定された制限値以上である場合に、前輪11a,11bがスリップ状態であると判定する。これに対し、第2判定部J2は、モータ電流センサQ2で検出される電流値が、乗用型芝刈り車両1の走行状態に応じてモータ41に流れるべき電流の最低値である最低駆動電流値以下である場合に、前輪11a,11bがスリップ状態であると判定する。
【0037】
図3は、乗用型芝刈り車両の前輪がスリップ状態になった場合のモータの回転数及びモータに流れる電流の変化例を示す図である。尚、図3においては、時刻t1で前輪11a,11bがスリップ状態になり始め、時刻t2で前輪11a,11bのスリップ状態が解消している。図3に示す通り、前輪11a,11bがスリップ状態になり始めると前輪11a,11bの回転数が急激に上昇し、これに伴ってモータ41の回転数も急激に上昇する。このため、第1判定部J1は、予め設定された時間Δt内において、上記の制限値(Δr)を超えるようなモータ41の急激な回転数の上昇が生じたときに前輪11a,11bがスリップ状態であると判定する。
【0038】
ここで、前輪11a,11bがスリップ状態でない場合には、速度、加速度、及び姿勢、並びに路面抵抗等に応じた乗用型芝刈り車両1の走行抵抗が生ずる。これに対し、前輪11a,11bがスリップ状態である場合には、前輪が11a,11bが空転するため、走行抵抗は前輪11a,11bがスリップ状態でない場合に比べて小さくなる。一般的に、モータ41に流れる電流は、無負荷状態のときに最も小さくなり、負荷が大きくなるにつれて大きくなる傾向がある。上記の走行抵抗はモータ41にとっては負荷となるため、前輪11a,11bがスリップ状態になると、図3に示す通り、走行抵抗が小さくなってモータに流れる電流の電流値は小さくなる。このため、第2判定部J2は、モータ41に流れる電流の電流値が、上記の最大駆動電流値以下である場合に前輪11a,11bがスリップ状態であると判定する。
【0039】
最低駆動電流値算出部38bは、速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果を用いて上記の最低駆動電流値を算出する。具体的には、速度センサ36で検出される乗用型芝刈り車両1の速度、3Dジャイロセンサ37で検出される乗用型芝刈り車両1の姿勢及び加速度、並びに路面抵抗から走行抵抗を求め、この走行抵抗とモータ回転数センサQ1の検出結果とから最低駆動電流値を算出する。
【0040】
ここで、走行抵抗は、空気抵抗、転がり抵抗、勾配抵抗、加速抵抗からなる。空気抵抗は、乗用型芝刈り車両1と空気との摩擦により発生する抵抗をいい、車速の二乗に比例して大きくなる抵抗である。転がり抵抗は、前輪11a,11b及び後輪12が路面と接することによって生ずる抵抗をいい、乗用型芝刈り車両1の重量に比例する抵抗である。勾配抵抗は、登坂の際に生ずる抵抗をいい、乗用型芝刈り車両1の総重量と勾配の角度の正弦値に比例する抵抗である。加速抵抗は、加速する際に生ずる抵抗をいい、加速度及び乗用型芝刈り車両1の重量に比例する抵抗である。
【0041】
最低駆動電流値算出部38bは、速度センサ36の検出結果を用いて空気抵抗を求め、路面抵抗を用いて転がり抵抗を求める。また、3Dジャイロセンサ37の検出結果を用いて勾配抵抗及び加速抵抗を求める。そして、最低駆動電流値算出部38bは、これら空気抵抗、転がり抵抗、勾配抵抗、及び加速抵抗を加算して走行抵抗を求め、この走行抵抗とモータ回転数センサQ1の検出結果とから最低駆動電流値を算出する。
【0042】
ここで、路面抵抗は、乗用型芝刈り車両1が走行する路面に応じて様々に変化するものであり、乗用型芝刈り車両1が実際に走行している路面の路面抵抗を逐次検出することは困難である。本実施形態の乗用型芝刈り車両1は、芝の損傷を防止することを主眼とするものであるため、上記の走行抵抗を求める際に、例えば予め芝の上を走行したときに求めた平均的な路面抵抗を用いても良い。或いは、作業者の指示に応じて路面状況を選択可能にし、作業者によって選択された路面状況における路面抵抗を用いても良い。
【0043】
モータ制御部38cは、後進アクセルペダル17や前進アクセルペダル18の操作量に応じてモータ41を制御する。但し、スリップ状態判定部38aで前輪11a,12bがスリップ状態であると判定された場合に、モータ41のトルクを減ずる制御を行う。具体的には、ACモータドライバ32を制御してモータ41のトルクを間欠的に停止させる。つまり、前輪11a,11bがスリップ状態にある場合には、モータ41のトルクを断続的に弱める(或いは、零にする)ことにより、前輪11a,11bの回転数を減じて路面に対する摩擦抵抗を増大させ、スリップ状態を早急に解消して芝の損傷を防止する。
【0044】
次に、上記構成における乗用型芝刈り車両1の制御方法について説明する。図4は、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両の制御方法を示すフローチャートである。尚、図4に示すフローチャートは、乗用型芝刈り車両1上のシート15に着席した作業者によりキー操作が行われて乗用型芝刈り車両1が始動されてから、作業者によるキー操作が行われて乗用型芝刈り車両1が停止されるまで一定の時間間隔で実行される。
【0045】
乗用型芝刈り車両1の電源が投入されて制御が開始されると、まず制御装置38は、モータ回転数センサQ1からモータ41の回転数を取得する(ステップS11:第1ステップ)。次に、制御装置38に設けられたスリップ状態判定部38aの第1判定部J1は、制御装置38が前回取得したモータ41の回転数と今回取得したモータ41の回転数との差分を求め、モータ41の回転数の変化率を算出する(ステップS12)。そして、第1判定部J1は、ステップS12で算出した回転数の変化率が、予め設定された制限値(図3中のΔr)以上であるか否かを判定する(ステップS13:第3ステップ)。
【0046】
また、以上のステップS11〜S13の処理と並行して、制御装置38に設けられた最低駆動電流値算出部38bは、3Dジャイロセンサ37から車両姿勢及び加速度を取得するとともに(ステップS14,S15)、速度センサ36から車両速度を取得する(ステップS16)。そして、最低駆動電流値算出部38bは、3Dジャイロセンサ37から取得した車両姿勢及び加速度、速度センサ36から取得した速度、並びに路面抵抗から走行速度を算出する(ステップS17)。尚、路面抵抗は、前述した通り、予め芝の上を走行したときに求めた平均的な路面抵抗を用いることができる。
【0047】
次に、最低駆動電流値算出部38bは、制御装置38がステップS11で取得したモータ41の回転数と、ステップS17で算出した走行抵抗から最低駆動電流値を算出する(ステップS18)。これにより、乗用型芝刈り車両1の走行状態に応じてモータ41に流れるべき電流の最低値である最低駆動電流値が求められる。尚、最低駆動電流値は、例えば乗用型芝刈り車両1が平地を一定速度で走行している場合よりも、上り坂を同じ一定速度で上っている場合の方が大きくなる。
【0048】
また、以上の最低駆動電流値算出部38bの処理(ステップS14〜S18)と並行して、制御装置38に設けられたスリップ状態判定部38aの第2判定部J2は、モータ電流センサQ2からモータ41に流れる電流の電流値(モータ駆動電流値)を取得する(ステップS19:第2ステップ)。そして、第2判定部J2は、最低駆動電流値算出部38bで算出された最低駆動電流値とステップS19で取得したモータ駆動電流値とを比較し(ステップS20)、モータ駆動電流値が最低駆動電流値以下であるか否かを判定する(ステップS21:第3ステップ)。
【0049】
ここで、前述したステップS13において回転数の変化率が制限値(図3中のΔr)以上であると判定された場合(判断結果が「YES」の場合)、或いは上記ステップS21においてモータ駆動電流値が最低駆動電流値以下であると判定された場合(判断結果が「YES」の場合)には、モータ制御部38cがモータ41のトルクを減ずる制御を行う。具体的には、モータ制御部38cがACモータドライバ32を制御してモータ41のトルクを間欠的に停止させる(ステップS22:第4ステップ)。
【0050】
つまり、前輪11a,11bがスリップ状態にあるとスリップ状態判定部38aで判定された場合には、モータ制御部38cがモータ41のトルクを断続的に弱める(或いは、零にする)制御を行っている。かかる制御が行われることで、前輪11a,11bの回転数が減じられて路面に対する摩擦抵抗が増大し、スリップ状態が早急に解消される。尚、前輪11a,11bがスリップ状態ではないと判定された場合(ステップS13,S21の判断結果が「NO」の場合)には、ステップS22は省略される。
【0051】
以上説明した通り、本実施形態では、モータ回転数センサQ1の検出結果、又はモータ電流センサQ2の検出結果に基づいて、前輪11a,11bがスリップ状態にあるか否かを判定し、スリップ状態であると判定した場合にはモータ41のトルクを減ずる制御を行っている。このため、前輪11a,11bのスリップ状態が早急に解消され、その結果として芝の損傷を防止することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両及びその制御方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、モータ回転数センサQ1で検出されるモータ41の回転数の変化率が予め設定された制限値以上になったか、又は、モータ電流センサQ2で検出される電流が最低駆動電流値以下になったかによってスリップ状態になったか否かを判定していた。しかしながら、これらの双方が成立した場合に、前輪11a,11bがスリップ状態になったと判断しても良い。
【0053】
また、上記実施形態では、モータで発生する動力を用いて走行を行うとともに、モータで発生する動力を用いて芝の刈り取りを行う電動式の乗用型芝刈り車両を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、動力発生源としてエンジン及びモータを備えており、これらの動力発生源で発生する動力を用いて走行を行うハイブリッド式の乗用型芝刈り車両にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 乗用型芝刈り車両
11a,11b 前輪
36 速度センサ
37 3Dジャイロセンサ
38a スリップ状態判定部
38b 最低駆動電流値算出部
38c モータ制御部
41 モータ
J1 第1判定部
J2 第2判定部
Q1 モータ回転数センサ
Q2 モータ電流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転させる駆動力を発生するモータを備える乗用型芝刈り車両において、
前記モータの回転数を検出する第1センサと、
前記モータに流れる電流の電流値を検出する第2センサと、
前記第1,第2センサの少なくとも一方の検出結果に基づいて前記車輪がスリップ状態であるか否かを判定する判定部と、
前記車輪がスリップ状態であると前記判定部で判定された場合に前記モータのトルクを減ずる制御を行う制御部と
を備えることを特徴とする乗用型芝刈り車両。
【請求項2】
前記判定部は、前記第1センサの検出結果の変化率が予め設定された制限値以上である場合に前記車輪がスリップ状態であると判定する第1判定部と、
前記第2センサで検出される電流値が、車両の走行状態に応じて前記モータに流れるべき電流の最低値である最低駆動電流値以下である場合に前記車輪がスリップ状態であると判定する第2判定部と
を備えることを特徴とする請求項1記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項3】
車両の速度を検出する速度センサと、
車両の姿勢を検出する姿勢センサと、
前記速度センサ及び姿勢センサの検出結果を用いて前記最低駆動電流値を算出する算出部と
を備えることを特徴とする請求項2記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項4】
前記算出部は、前記速度センサ及び姿勢センサの検出結果と路面抵抗とから走行抵抗を求め、該走行抵抗と前記第1センサの検出結果とから前記最低駆動電流値を算出することを特徴とする請求項3記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記モータのトルクを間欠的に停止させる制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の乗用型芝刈り車両。
【請求項6】
車輪を回転させる駆動力を発生するモータを備える乗用型芝刈り車両の制御方法であって、
前記モータの回転数を検出する第1ステップと、
前記モータに流れる電流の電流値を検出する第2ステップと、
前記第1,第2ステップの少なくとも一方の検出結果に基づいて前記車輪がスリップ状態であるか否かを判定する第3ステップと、
前記車輪がスリップ状態であると前記第3ステップで判定された場合に前記モータのトルクを減ずる制御を行う第4ステップと
を有することを特徴とする乗用型芝刈り車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−75254(P2012−75254A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218230(P2010−218230)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】