説明

二層記録媒体の製造方法

【課題】生産性を高めることが可能な二層記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板11上に非磁性基板11と平行な面内に磁化容易軸を有する軟磁性層12を堆積する軟磁性層堆積段階と、軟磁性層12上に非磁性基板11に垂直な磁化容易軸を有する記録磁性層13を堆積する記録磁性層堆積段階とを含む二層記録媒体の製造方法であって、軟磁性層堆積段階が、軟磁性層12の比透磁率がイオンアシストのない状態の1.2倍以上となるイオンアシストありのスパッタリングにより軟磁性層12を堆積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体の製造方法に係り、特に、垂直磁気記録が可能な二層記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録の高密度化の要求に伴い、磁性層を膜面に垂直な方向に磁化する垂直磁気記録を採用した記録媒体の実用化が進んでいる。
【0003】
垂直磁気記録にあっては、ヘッドが発生する磁力線は記録層を記録媒体の垂直方向に貫通するので、非磁性体の基板と記録層の間に軟磁性層を設けて磁力線のリターンパスを確保した二層記録媒体とする必要がある。
【0004】
即ち、二層記録媒体は、非磁性体基板、非磁性体基板に平行な面内に磁化容易軸を有する軟磁性層、非磁性体基板に垂直な磁化容易軸を有する記録磁性層とを順に積層した構成を有している。
【0005】
上記の構成を有する記録媒体は、真空蒸着法あるいはメッキ法によっても製造することが可能であるが、軟磁性層および記録磁性層の磁気特性の制御が容易であることからスパッタ法による二層記録媒体の製造方法が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記の従来の製造方法によれば、軟磁性層の磁化容易軸の方向を制御するために軟磁性層成膜後記録磁性層成膜前に磁界印加アニール処理を行う必要がある。
【0007】
即ち、軟磁性層は、情報の読み出し書き込みの際に磁束のリターンパスを形成できればよいので、磁壁に起因する雑音の発生を低減するために、磁界印加アニール処理により軟磁性層の磁化容易軸をリターンパスの向きと直交方向に制御する。
【0008】
図7は、磁界印加アニール処理の効果を示すグラフであって、横軸にアニール処理温度を、縦軸に比透磁率をとる。図7から判るように、摂氏200度の雰囲気中で磁界印加アニール処理することにより比透磁率を約2400にまで高めることができる。
【特許文献1】特開平3−160616号公報(3頁左上欄、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非磁性体基板上に軟磁性層をスパッタリングにより堆積した後記録磁性層堆積前に磁界印加アニール処理を施すことは生産工程が複雑となり、二層記録媒体の生産性が低下するという課題を生じる。
【0010】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであって、生産性を高めることが可能な二層記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の二層記憶媒体の製造方法は、非磁性基板上に前記非磁性基板と平行な面内に磁化容易軸を有する軟磁性層を堆積する軟磁性層堆積段階と、前記軟磁性層上に前記非磁性基板に垂直な磁化容易軸を有する記録磁性層を堆積する記録磁性層堆積段階とを含む二層記録媒体の製造方法であって、前記軟磁性層堆積段階が、イオンアシストありのスパッタリングにより前記軟磁性層を堆積することを特徴としている。
【0012】
この製造方法により、磁界印加アニール処理を施さなくても軟磁性層の比透磁化率を大きくできる。
【0013】
本発明の二層記憶媒体の製造方法は、前記軟磁性層堆積段階が、80〜120ボルトの電圧を印加したイオンアシストのある状態でのスパッタリングにより前記軟磁性層を堆積するものであってもよい。
【0014】
本発明の二層記憶媒体の製造方法は、前記イオンアシストのイオンガス種として、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)あるいはその混合ガスである不活性ガスを使用するものであってもよい。
【0015】
本発明の二層記憶媒体の製造方法は、前記軟磁性層堆積段階が、前記軟磁性層が、前記記録磁性層上の磁気ヘッドの走行方向に対して60度から120度の角度を成す磁化容易軸を有する前記軟磁性層を堆積するものである。
【0016】
この製造方法により、磁壁に起因する雑音を低減できることとなる。
【0017】
本発明の二層記憶媒体の製造方法は、前記軟磁性層堆積段階が、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)を含むパーマロイ合金をターゲットとして前記軟磁性層を堆積するものであってもよい。
【0018】
本発明の二層記憶媒体の製造方法は、前記軟磁性層堆積段階が、ニッケル(Ni)の含有率が70原子%以上81原子%未満、鉄(Fe)の含有率が30原子%未満19原子%以上である前記パーマロイ合金をターゲットとして前記軟磁性層を堆積するものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、軟磁性層をイオンアシストありのスパッタリングにより形成して最配向面(002)からのX線回折強度をイオンアシストなしのスパッタリングにより形成された軟磁性層の最配向面(002)からのX線回折強度の1.4倍以上とすることにより、磁界印加アニール処理を施さなくても軟磁性層の比透磁率を向上することのできる二層記憶媒体を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る二層記録媒体の製造方法の実施形態である二層記録磁気テープの製造方法について、図面を用いて説明する。
【0021】
図1は二層記録磁気テープ1の上面図(a)およびX−X断面図(b)であり、図2は二層記録磁気テープ1と記録ヘッド2の位置関係を示す斜視図である。
【0022】
本発明に係る二層記録媒体の製造方法は、非磁性基板11上に非磁性基板11と平行な面内に磁化容易軸を有する軟磁性層12を堆積する軟磁性層堆積段階と、軟磁性層12上に非磁性基板11に垂直な磁化容易軸を有する記録磁性層13を堆積する記録磁性層堆積段階とを含み、軟磁性層堆積段階が、イオンアシストありのスパッタリングにより軟磁性層12を堆積することを特徴とするものである。
【0023】
即ち、本発明に係る製造方法で製造した二層記録磁気テープ1は、非磁性基板11と、非磁性基板11上に堆積し非磁性基板11と平行な面内に磁化容易軸を有する軟磁性層12と、軟磁性層12上に堆積し非磁性基板11の垂直方向に磁化容易軸を有する記録磁性層13を有している。
【0024】
記録ヘッド2は、二層記録磁気テープ1の記録磁性層13上方に配置され、英小文字「h」型の形状を有する。記録ヘッド2の一方の脚は主磁極21として機能し、他方の脚はリターンパス22として機能する。なお、記録ヘッド2は、二層記録磁気テープ1の走行方向に関して前方にリターンパス22、後方に主磁極21となる方向に配置される。
【0025】
主磁極21にはコイル23が巻回されており、コイル23に書き込み信号を印加すると記録ヘッド2中に磁力線が生成される。主磁極21を出た磁力線は記録磁性層13を上から下に貫通し、軟磁性層12内を二層記録磁気テープ1の走行方向に向かい、記録磁性層13を下から上に貫通してリターンパス22に到達する。即ち、主磁極21を出て記録磁性層13を上から下に貫通する磁力線により記録磁性層13は垂直方向に磁化され情報が記憶された状態となる。
【0026】
なお、図1および図2では再生ヘッドの記載を省略している。
【0027】
軟磁性層12はイオンアシストのある状態でのスパッタリングにより形成され、軟磁性層12の比透磁率μは、イオンアシストのない状態でのスパッタリングにより形成された軟磁性層12の比透磁率μの1.2倍以上となる。
【0028】
図3は、イオンアシスト電圧と軟磁性層の比透磁率μの関係を示すグラフであって、横軸にイオンアシスト電圧Vasistを、縦軸に比透磁率μをとる。
【0029】
図3から判るように、イオンアシストのない状態でのスパッタリングにより形成された軟磁性層の比透磁率μは約1600であるが、イオンアシスト電圧Vasistを増加するにつれて軟磁性層の比透磁率μも増加し、イオンアシスト電圧Vasistが100ボルトから125ボルトであるときに軟磁性層の比透磁率μは2000以上なり、イオンアシスト電圧Vasistを125ボルト以上に増加すると軟磁性層の比透磁率μは漸減する。
【0030】
即ち、100Vから125Vのイオンアシスト電圧Vasistを印加した状態でのスパッタリングにより軟磁性層を堆積することにより、比透磁率μをイオンアシストのない状態の比透磁率μ(約1600)の1.2倍以上、即ち2000以上とすることが可能となる。
【0031】
なお、軟磁性層12は、情報書き込み時に磁路を形成すればよいので、磁壁に起因する雑音の発生を低減するために、磁化容易軸をリターンパスの方向に対して略90度を成す磁化容易軸を有することが好ましい。
【0032】
即ち、図1(a)に示すように、軟磁性層12の磁化容易軸は、記録ヘッド2の走行方向に対し、60度から120度、好ましくは90度を成すことが好ましい。
【0033】
軟磁性層12は、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)を含むパーマロイ合金、特に、ニッケル(Ni)の含有率が70原子%以上81原子%未満、鉄(Fe)の含有率が30原子%未満19原子%以上のパーマロイ合金をターゲットとするスパッタリングにより製造されるが、100Vから125Vのイオンアシスト電圧Vasistを印加した状態でのスパッタリングにより軟磁性層を堆積し、後述するように磁化容易軸を記録磁性層13上の記録ヘッド14の走行方向に対して60度から120度の角度とすることができる。
【0034】
図4は二層記録磁気テープの製造に使用されるスパッタリング装置4の上面図であって、円筒形の真空チャンバ41は2枚の防着板411および414によって第1の区画および第2の区画に区切られ、真空チャンバ41の中心に回転可能なキャン42が設置されている。
【0035】
第1の区画にはテープ状の非磁性基板11を供給する供給リール431と、完成した二層記録磁気テープ1を巻き取る巻き取りリール432とが設置されている。
【0036】
第2の区画には第1のイオン銃451、第2のイオン銃452、および第3のイオン銃453が設置されている。
【0037】
第1のイオン銃451は軟磁性層形成用のターゲットであるパーマロイ合金471に向けてイオンを放射し、第2のイオン銃452はパーマロイ合金471からスパッタされたパーマロイ粒子が衝突する非磁性基板11上の領域にアシストイオンビームを放射する。そして、第3のイオン銃453は記録磁性層形成用のターゲットであるCo-Cr合金472に向けてイオンを放射する。
【0038】
第1のイオン銃451の放出口には第1のイオン銃451に不活性ガスを供給する不活性ガスボンベ481が設置され、第2のイオン銃452の放出口には第2のイオン銃452にアシスト用の不活性ガスを供給するアシスト用不活性ガスボンベ482が設置されている。また、第3のイオン銃453の放出口には第3のイオン銃453に不活性ガスを供給する不活性ガスボンベ483が設置されている。
【0039】
なお、不活性ガスとしては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)あるいはこれらの混合ガスを使用することができる。
【0040】
第1のイオン銃451から放出されたイオンは、ターゲットであるパーマロイ合金471に衝突する。
【0041】
第1のイオン銃451から放出されたイオンによりスパッタされたパーマロイ合金471の原子は、第2のイオン銃452から放出されたイオンからエネルギを獲得し、キャン42の周囲を走行する非磁性基板11上に堆積する。
【0042】
非磁性基板11上に堆積したパーマロイ合金の磁歪係数が正となるように、かつ体心立方構造のγ相と面心立体構造のα相とが混晶構造とならないように、ターゲットとしてはニッケル(Ni)の含有率が70原子%以上81原子%未満、鉄(Fe)の含有率が30原子%未満19原子%以上の組成のパーマロイ合金を使用する。
【0043】
さらに、非磁性基板11が供給リール431と巻き取りリール432により走行方向に引っ張り応力を受けるので、磁化容易軸をテープ走行方向と略90度方向とすることができる。
【0044】
第3のイオン銃453から放出されたイオンは記録磁性層形成用のターゲットであるCo-Cr合金472に衝突する。
【0045】
イオンによりスパッタされたCo-Cr合金472の原子は、キャン42の周囲を走行し、軟磁性層12が堆積した非磁性基板11上に堆積し、記録磁性層13を形成する。
【0046】
図5は上記の製造工程により製造した軟磁性層12を構成するパーマロイの面心立方格子(002)面のX線回折強度とイオンアシスト電圧Vasistの関係を示すグラフであって、イオンアシストの無いスパッタリングにより軟磁性層12を製造したときのX線回折強度が約500であるのに対し、100〜125Vのイオンアシスト電圧を印加した状態でのスパッタリングにより軟磁性層12を製造したときのX線回折強度は約700以上となり結晶性が改善されていることが判る。
【0047】
即ち、イオンアシスト電圧を印加して軟磁性層をスパッタリングすることにより、軟磁性層の結晶性が改善され、比透磁率μが増加するものと考えることができる。
【0048】
図6は軟磁性層12の比透磁率μと二層記録磁気テープ1の再生感度の関係を示すグラフであって、比透磁率μ=1800のときの再生感度Sが約1.8dBであるのに対し、比透磁率μ=2200のときの再生感度Sは約3.0dBに向上する。なお、先に述べたように、イオンアシスト無しで軟磁性層を製造し、アニール処理を施したときの比透磁率は約2400であり、再生感度は約3.5dBである。
【0049】
即ち、イオンアシストありのスパッタリングにより軟磁性層を製造すれば、アニール処理を省略しても再生感度を確保することが可能となり、製造工程を簡略化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る実施形態の二層記録磁気テープの上面図(a)および断面図(b)
【図2】本発明に係る実施形態の二層記録磁気テープおよび記録ヘッドの斜視図
【図3】本発明に係る製造方法により製造した軟磁性層の比透磁率のグラフ
【図4】二層記録磁気テープの製造に使用されるスパッタリング装置の上面図
【図5】イオンアシスト電圧とパーマロイ合金の面心立体格子(002)面からのX線回折強度の関係を示すグラフ
【図6】軟磁性層の比透磁率と二層記録磁気テープの再生感度の関係を示すグラフ
【図7】磁界印加アニール処理の効果を示すグラフ
【符号の説明】
【0051】
1 二層記録磁気テープ
2 記録ヘッド
11 非磁性基板
12 軟磁性層
13 記録磁性層
21 主磁極
22 リターンパス
23 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に前記非磁性基板と平行な面内に磁化容易軸を有する軟磁性層を堆積する軟磁性層堆積段階と、
前記軟磁性層上に前記非磁性基板に垂直な磁化容易軸を有する記録磁性層を堆積する記録磁性層堆積段階とを含む二層記録媒体の製造方法であって、
前記軟磁性層堆積段階が、イオンアシストありのスパッタリングにより前記軟磁性層を堆積することを特徴とする二層記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記軟磁性層堆積段階が、80〜120ボルトの電圧を印加したイオンアシストのある状態でのスパッタリングにより前記軟磁性層を堆積するものである請求項1に記載の二層記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記イオンアシストのイオンガス種として、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)あるいはその混合ガスである不活性ガスを使用する請求項2に記載の二層記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記軟磁性層堆積段階が、前記軟磁性層が、前記記録磁性層上の磁気ヘッドの走行方向に対して60度から120度の角度を成す磁化容易軸を有する前記軟磁性層を堆積するものである請求項2に記載の二層記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記軟磁性層堆積段階が、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)を含むパーマロイ合金をターゲットとして前記軟磁性層を堆積するものである請求項4に記載の二層記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記軟磁性層堆積段階が、ニッケル(Ni)の含有率が70原子%以上81原子%未満、鉄(Fe)の含有率が30原子%未満19原子%以上である前記パーマロイ合金をターゲットとして前記軟磁性層を堆積するものである請求項5に記載の二層記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−280478(P2007−280478A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103990(P2006−103990)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】