説明

二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、金属化フィルムおよびコンデンサー

【課題】優れた耐熱性、寸法安定性、電気特性を有し、フィルム面内の物性バラツキが少ない高品位な二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することにあり、特に積層型チップコンデンサー用として用いると耐電圧、自己回復性(セルフヒール性、SH性)が向上し、コンデンサー加工時における粒子脱落欠陥および面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサー製造時の歩留まりを向上させた信頼性の高いコンデンサーを形成しうるポリアリーレンスルフィドフィルム、この金属化フィルムおよびこれを用いたコンデンサーを提供することである。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィドと、ポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂Aとを含む熱可塑性樹脂からなるフィルムであって、熱可塑性樹脂Aが分散相を形成し、該分散相の平均分散径が50〜500nmであり、該フィルムのガラス転移温度が85℃以上95℃未満に観察され、かつ95℃以上130℃以下には観察されず、該フィルムを150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率が1.5%以下、幅方向の熱収縮率が0.2%以下―1.0%以上、該フィルムの溶融結晶化温度が170℃以上220℃以下であることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性、寸法安定性、電気特性および平面特性を有する二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、コンデンサー用二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、金属化二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよびこれらを用いたコンデンサーに関するものである。詳しくは、高温での熱寸法安定性、耐電圧等の電気特性に優れているためコンデンサー、モーター、トランス等の電気絶縁材料、回路基板材料、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料、振動板などに使用することができ、特に積層型チップコンデンサー用として用いると耐電圧、自己回復性(セルフヒール性、SH性)が向上し、コンデンサー加工時における粒子脱落欠陥および面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサー製造時の歩留まりを向上させた信頼性の高いコンデンサーを形成しうるポリアリーレンスルフィドフィルム、金属化フィルムおよびこれを用いたコンデンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(以下、PPSフィルムと略称することがある。)は、特許文献1等で開示されている。また、PPSフィルムをコンデンサーの誘電体に用い、耐熱性、周波数特性、温度特性等に優れたコンデンサーを提供できることが特許文献2等で提案されている。しかし、上記のようなコンデンサーは、その製造工程、すなわち捲回や裁断、成形等の工程において製造条件の範囲が狭く、これらの管理が不十分だとフィルム面内の物性バラツキが生じ、低電圧破壊による不良品が増加するという欠点がある。さらに、上記コンデンサーは低電圧破壊が生じたときに自己回復(セルフヒール)せずショートすることが多く、さらに不良率を増加させたり、使用時の信頼性が低い等の欠点があった。
【0003】
この問題を解決するために、特許文献3〜5で、PPSフィルムの少なくとも片面にポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂を積層してなるPPS積層フィルムをコンデンサーに用いることが提案されている。しかしながら、これら従来のPPS積層フィルムはポリエステル、ポリオレフィン樹脂層とPPS層の接着性が十分でなくコンデンサー製造過程において剥離しやすい場合が多く、自己回復性(SH性)についても十分な品質のものが得られ難かった。また、ポリエステルやポリオレフィンなどPPS以外の樹脂を積層したフィルムは実質的に自己回収ができず、トリミングエッジや製品外フィルムを再度フィルム原料として使用することはできなかった。
【0004】
特許文献6では、SH性を向上させるために非晶性ポリエステル樹脂組成物を積層してなるPPS積層フィルムが提案されている。本手法はインライン、オフラインで非晶性ポリエステル樹脂層をPPS層の上に形成するものであるが、ガラス転移温度Tgが高々90℃であり、100℃以上の高温で使用する場合、特に湿度の高い環境下で使用する場合の耐熱性や信頼性が低下するという問題点があった。
【0005】
特許文献7では、SH性を向上させるために、フィルムの厚み方向全部分が実質的にPPSで構成され、表層部が内層部より非晶性であるPPSフィルムが提案されている。本手法は、PPSフィルム表面をフレーム処理等により溶融させ非晶化させる、もしくは非晶性PPS樹脂を積層するものであるが、何れの場合でもフィルムが例えば3μm以下と薄くなると平面性が悪化し、生産性が悪化する場合があるという問題点があり、さらにSH性も不十分であった。
【0006】
特許文献8では、PPSフィルムの少なくとも片面にセラミック層が設けられたPPSフィルムが提案されているが、例えば100nmもの厚さの蒸着層でないと十分な自己回復特性(SH性)が得られないため生産性の悪さやフィルムの蒸着熱負けによる面荒れなどが問題となる場合があった。
【0007】
また、ポリマーブレンドもしくはアロイにより、ポリフェニレンスルフィドフィルムの特性を改良しようとする提案もあった(特許文献9〜12)。特許文献9ではPPSとポリエーテルイミド、特許文献11ではPPSとポリアリレートとのブレンドが提案されている。しかしながら、特許文献9では単にPPSとポリエーテルイミドを2軸押出機でブレンドすることによりフィルムの耐引き裂き性を向上させるとしているが、単に2種のポリマをブレンドしポリエーテルイミドの分散長径が30μm以下となるよう制御したことに留まり、電気特性やコンデンサー特性の改善については言及されていない。また、特許文献11ではPPSとポリアリレートの単純ブレンドによりフィルムの滑り性を改善することを目的としており、分散径制御については言及されておらず電気特性やコンデンサー特性の改善については言及されていない。一方、特許文献10ではPPSにポリエーテルイミドを相溶化させることによって、PPSフィルムのガラス転移温度を95℃以上と向上させることにより耐電圧を向上させることが提案されているが、SH性については言及されておらず、コンデンサーとしての信頼性が不十分な場合があった。さらに特許文献12ではPPSと他の熱可塑性樹脂の分散状態を制御するため相溶化剤を介してブレンドし、フィルム面内の物性バラツキを抑制し、かつ、PPSフィルムの伸度を向上させ靱性改良することが開示されているが、電気特性やコンデンサー特性の改善については言及されておらず改良の余地がある。
【特許文献1】特開昭54−142275号公報
【特許文献2】特開昭57−187327号公報
【特許文献3】特願平2−168861号公報
【特許文献4】特開平4−219236号公報
【特許文献5】特開平5−318665号公報
【特許文献6】特開2000−218738号公報
【特許文献7】特開2002−20508号公報
【特許文献8】特開昭63−189458号公報
【特許文献9】特開昭62−158312号公報
【特許文献10】特開2001―261959号公報
【特許文献11】特開平1−266146号公報
【特許文献12】特開2006−321977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記問題を解決するために、優れた耐熱性、電気特性を有し、フィルムの熱寸法安定性に優れ、面内の物性バラツキが少ない高品位な二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することである。特に積層型チップコンデンサー用として用いると高い電気特性を有し、優れた耐電圧、自己回復性(SH性)を具備し、さらにコンデンサー加工時における粒子脱落欠陥および面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサー製造時の歩留まりを向上させた信頼性の高いコンデンサーを形成しうるポリアリーレンスルフィドフィルム、この金属化フィルムおよびこれを用いたコンデンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するための本発明は、ポリアリーレンスルフィドと、ポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂Aとを含む熱可塑性樹脂からなるフィルムであって、熱可塑性樹脂Aが分散相を形成し、該分散相の平均分散径が50〜500nmであり、該フィルムのガラス転移温度が85℃以上95℃未満に観察され、かつ95℃以上130℃以下には観察されず、該フィルムを150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率が1.5%以下、幅方向の熱収縮率が0.2%以下―1.0%以上、該フィルムの溶融結晶化温度が170℃以上220℃以下であることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムである。
また、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、
(1)ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が70〜99.5重量部、熱可塑性樹脂Aの含有量が0.5〜30重量部であること、
(2)ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が70〜99.5重量部、熱可塑性樹脂Aの含有量が0.5〜30重量部であること、
(3)ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであること、
(4)熱可塑性樹脂Aが非晶性樹脂であり、そのガラス転移温度が150℃以上かつポリアリーレンスルフィドの融点以下であること、
(5)熱可塑性樹脂Aがポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマであること、
(6)ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの和を100重量部として、エポキシ基、アミノ基、イソシアナート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する相溶化剤を0.05〜5重量部含む原材料を混練してなる樹脂組成物を溶融製膜してなること、
(7)23℃、65%RH雰囲気下で30箇所測定した絶縁破壊電圧の平均値が300V/μm以上、該絶縁破壊電圧の標準偏差が30V/μm以下であること、
(8)未延伸フィルムを長手方向および幅方向に延伸し、延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行う製造方法において、その1段目の熱固定温度を(直前の延伸温度+5℃)以上240℃以下、後段の熱固定温度の最高値を200℃以上もしくは(1段目の熱固定温度+20℃)以上(フィルムを構成するポリアリーレンスルフィドの融点−5℃)以下とするポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法
(9)上記(1)〜(8)の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの少なくとも片面に金属層を形成してなる金属化フィルム、
(10)上記(9)の金属化フィルムを捲回あるいは積層してなることを特徴とするコンデンサー、
(11)上記(9)金属化フィルムを積層してなることを特徴とするコンデンサー、
をそれぞれ好ましい様態として含んでいる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下説明の通り、優れた耐熱性、電気特性を有し、フィルムの熱寸法安定性に優れ、フィルム面内の物性バラツキが少ない高品位な二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムが得られ、特に積層型チップコンデンサー用として用いると高い電気特性を有し、優れた耐電圧、自己回復性(SH性)を具備し、さらにコンデンサー加工時における粒子脱落欠陥および面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサー製造時の歩留まりを向上させた信頼性の高いコンデンサーを形成しうるポリアリーレンスルフィドフィルムおよびこれを用いたコンデンサーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、コンデンサー用二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、金属化二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよびこれらを用いたコンデンサーについて説明する。
【0012】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、優れた耐熱性、電気特性を有し、フィルムの熱寸法安定性に優れ、フィルム面内の物性バラツキが少ない高品位なポリアリーレンスルフィドフィルム、特に積層型チップコンデンサー用として用いると高い電気特性を有し、優れた耐電圧、自己回復性(SH性)を具備し、さらにコンデンサー加工時における粒子脱落欠陥および面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサー製造時の歩留まりを向上させた信頼性の高いコンデンサーを形成しうる。かかる特性を発現させるために、本発明はポリアリーレンスルフィドと、ポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂Aとを含む熱可塑性樹脂からなるフィルムであることを必須とする。ポリアリーレンスルフィド単体からなるフィルムでは、フィルム面内の物性バラツキが多く、低電圧破壊を生じやすく、SH性が不十分であり、高温・高電圧で使用するコンデンサーとした場合、信頼性の劣ったコンデンサーとなる。かかる特性を発現するため本発明では、ポリアリ−レンスルフィドが連続相(海相あるいはマトリックス)を形成し、他の熱可塑性樹脂Aが分散相(島相あるいはドメイン)を形成し、その分散相の平均分散径の平均値は50〜500nmである。平均分散径の平均値の好ましい範囲は60〜300nmであり、さらに好ましくは70〜200nmである。ポリアリ−レンスルフィドが連続相を形成することによりポリアリ−レンスルフィドの耐熱性、耐薬品性、機械特性の優れた特性をフィルムに大きく反映され、平均分散径を上記の範囲にすることにより、絶縁破壊電圧を向上させ、コンデンサーの誘電体として用いた場合にSH性をフィルムに付与することが可能となる。分散相の平均分散径の平均値が50nm未満であると、本発明のコンデンサーの誘電体として用いた場合のSH性向上効果が不十分となる。また、平均分散径の平均値が500nmより大きいと、フィルムの耐熱性や平面性が悪化し、また、延伸時にフィルム破れが発生しやすくなる。
【0013】
ここでいう分散相の平均分散径とは、(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(ウ)フィルム面に対して平行な方向に切断した面に対して観察される分散粒子径を数平均したものである。(ア)の切断面に現れる分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(la)と長手方向の最大長さ(lb)、(イ)の切断面に現れる分散相のフィルム厚さ方向の最大長さ(lc)と幅方向の最大長さ(ld)、(ウ)の切断面に現れる分散相のフィルム長手方向の最大長さ(le)と幅方向の最大長さ(lf)を求め、分散相の形状指数I=(lbの数平均値+leの数平均値)/2、形状指数J=(ldの数平均値+lfの数平均値)/2、形状指数K=(laの数平均値+lcの数平均値)/2とし、分散相の平均分散径を(I+J+K)/3とする。
【0014】
測定は、サンプルを超薄切片法で作製し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメ−ジアナライザ−に画像として取り込み、必要に応じて、画像処理を行うことにより、任意の100個の分散粒子の平均分散径を計算する。
【0015】
熱可塑性樹脂Aの分散相の形状は、球状もしくは細長い島状、小判状、あるいは繊維状であることが好ましい。分散相のアスペクト比は、1〜20の範囲であることが好ましい。さらに好ましい分散相のアスペクト比の範囲は1〜10であり、より好ましい範囲は1〜5である。これら島成分のアスペクト比を上記範囲にすることにより、引張伸度の向上した二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムを得やすいので好ましい。ここで、アスペクト比は、分散相の平均長径/平均短径の比を意味するものである。該アスペクト比は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などの手法を用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作製し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメ−ジアナライザ−に画像として取り込み、画像処理を行うことにより、アスペクト比を計算することができる(測定法の詳細は後述する)。
【0016】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムにおいて、ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂Aの含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が70〜99.5重量部、熱可塑性樹脂Aの含有量が0.5〜30重量部であることが好ましく、ポリアリーレンスルフィドの含有量が80〜98重量部、熱可塑性樹脂Aの含有量が2〜20重量部であることがより好ましく、ポリアリーレンスルフィドの含有量が90〜97重量部、熱可塑性樹脂Aの含有量が3〜10重量部であることがさらに好ましい。ポリアリーレンスルフィドとは異なる熱可塑性樹脂Aの含有量が30重量部を越えると、二軸配向ポリアリーレンスルフィドの耐熱性、機械特性、電気特性が損なわれる場合があり、また延伸性が悪く製膜性に劣る場合がある。熱可塑性樹脂Aの含有量が0.5重量部未満であると、優れた平面特性やコンデンサーの誘電体として用いた場合のSH性を付与することが困難となる。
【0017】
本発明でいうポリアリ−レンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマ−あるいはコポリマ−である。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される構成単位などが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
本発明に用いるポリアリ−レンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリ−レンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマ−の主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含む樹脂である。かかるp−フェニレンスルフィド成分が80モル%未満では、ポリマの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0020】
【化2】

【0021】
上記PPS樹脂において、繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満の繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エ−テル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの置換基を有するアリ−ル単位、ビフェニル単位、タ−フェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。これらのうち一つまたは二つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム型またはブロック型のいずれの共重合方法であってもよい。
【0022】
【化3】

【0023】
実質的にp−フェニレンスルフィドのみからなるPPS、もしくは3官能成分が1モル%以下添加され99モル%以上がp−フェニレンスルフィドからなるPPSがフィルム原料としてコスト、製膜性、特に高温でのフィルム性能などの観点から最も好ましい。なお、この場合、得られるPPS樹脂の融点は280〜290℃、ガラス転移温度は90〜95℃に観察される。
【0024】
PPS樹脂およびPPS樹脂組成物の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、温度310℃で剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜2000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。
【0025】
本発明でいうPPSは種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0026】
本発明において、得られたPPS樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネ−トおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0027】
次に、PPS樹脂の製造法を例示するが、本発明では特にこれに限定されない。例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸もしくは酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマを酸素分圧10ト−ル以下、好ましくは5ト−ル以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5ト−ル以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマ−は、実質的に線状のPPSポリマ−であるので、安定した延伸製膜が可能になる。もちろん必要に応じて、他の高分子化合物や酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、マイカ、タルクおよびカオリンなどの無機や有機化合物や熱分解防止剤、熱安定剤および酸化防止剤などを添加してもよい。
【0028】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気や酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は、通常170〜280℃が選択され、より好ましくは200〜270℃であり、また、加熱処理時間は、通常0.5〜100時間が選択され、より好ましくは2〜50時間であるが、この両者を制御することにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置であってもよいが、効率よくしかも均一に処理するためには、回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。
【0029】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法を例示することができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置でもよいが、効率よく、しかもより均一に処理するためには回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。本発明で用いるPPS樹脂は、引張破断伸度の向上の目標を達成するために熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPSであることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられるPPS樹脂は、脱イオン処理もしくは脱金属成分処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。脱イオン処理もしくは脱金属成分処理の具体的方法としては、酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理、有機溶剤洗浄処理、およびエントレーナー処理などを例示することができ、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
PPS樹脂の有機溶剤洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、有機溶剤としては、PPS樹脂を分解する作用などを有していないものであれば特に制限はなく、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエ−テル、ジプロピルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノ−ル、エタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、ペンタノ−ル、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、フェノ−ル、クレゾ−ル、ポリエチレングリコ−ルなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の中で、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムが特に好ましく用いられる。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0032】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度について特に制限はなく、常温〜300℃の範囲で任意の温度を選択することができる。洗浄温度が高くなるほど、洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の温度で十分効果が得られる。また、有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0033】
PPS樹脂の熱水洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱し攪拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の方が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0034】
PPS樹脂の酸水溶液洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。用いられる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸および酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸やジクロロ酢酸などのハロゲン置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸やクロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸やサリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸およびフマル酸などのジカルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸および珪酸などの無機酸性化合物などが挙げられる。中でも酢酸と塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いられる水は、酸処理によりPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。酸水溶液洗浄処理を施すと、PPS樹脂の酸末端成分が増加して、他の熱可塑性樹脂Aと混合する場合に分散混合性が高まり、分散相の平均分散径が小さくなる効果が得られやすくなるので好ましい。また、酸水溶液洗浄処理により、PPS中の金属量が減少し、特に高温・高電圧下での電気絶縁性を向上させることができるので好ましい。
【0035】
一方、酸水溶液洗浄処理を施したPPS樹脂(以下、酸末端PPS樹脂と称する場合がある)は、溶融結晶化温度が高く、溶融押出し後に結晶化が進行する場合があり、溶融押出し後のキャストドラム上で結晶化が進行するため、その後の延伸工程で延伸ムラやフィルム破れを発生する場合がある。
【0036】
酢酸カルシウム水溶液などのカルシウム塩水溶液で洗浄処理を施したPPS樹脂は、末端成分の一部がCa末端成分に置換すると考えられる(以下、Ca末端PPS樹脂と称する場合がある)。Ca末端PPS樹脂や、酸洗浄しないPPS樹脂(Na末端PPS樹脂と称する場合がある)は、酸末端PPS樹脂と比べ、溶融結晶化温度が低く、結晶化速度が低くなるため、溶融押出し後のポリマの結晶化を抑制するために好ましい場合がある。本発明においては、酸末端PPS樹脂に適宜Ca末端PPS樹脂、もしくは、Na末端PPS樹脂を添加し、適宜それらの割合を調整することで、延伸時の延伸ムラを抑制し、フィルム面内の物性バラツキを低減するフィルムが好ましく得られる場合がある。全PPS樹脂に占めるCa末端PPS樹脂の割合は、60重量%以上、85重量%以下が好ましく、より好ましくは、70重量%以上、85重量%以下であり、さらに好ましくは、75重量%以上、85重量%以下である。Ca末端PPS樹脂の割合が60重量%未満の場合、溶融押出し後の冷却時にPPS樹脂の結晶化が進行する場合があり、延伸工程で延伸ムラやフィルム破れが発生する場合がある。Ca末端PPS樹脂の割合が85重量%を超えると、他の熱可塑性樹脂Aとの分散性が悪化する場合がある。
【0037】
PPS樹脂の溶融結晶化温度は、上記酸末端PPS樹脂とCa末端PPS樹脂の組成により適宜調整することができる。本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの溶融結晶化温度は、170℃以上、220℃以下であることが必須である。より好ましくは、180℃以上、210℃以下であり、さらに好ましくは、185℃以上、200℃以下である。溶融結晶化温度が170℃未満の場合、他の熱可塑性樹脂Aとの分散性が悪化する場合があり、溶融結晶化温度が220℃を超えると、溶融押出し後の冷却時にPPS樹脂の結晶化が進行する場合があり、延伸工程で延伸ムラやフィルム破れが発生し、品質の劣ったフィルムとなる。
【0038】
PPS樹脂のエントレーナー処理の具体的方法としては、PPS樹脂もしくはPPSを含む樹脂組成物を溶融押出する際に、樹脂組成物に対して不活性な媒体を押出機にフィードして、溶融混練後に該押出機のベントから吸引することにより、媒体と合わせて金属や金属塩成分などの不純物を回収し、PPS樹脂中もしくはPPS樹脂組成物中のイオン・金属成分を削減させる。PPSに対して不活性な媒体としては前述の有機溶媒洗浄処理での有機溶媒や超臨界炭酸ガスなどが挙げられる。樹脂組成物に対して不活性な媒体としては、熱可塑性樹脂Aを分解するなどの作用を持たない媒体を適宜選ぶことができ、たとえば熱可塑性樹脂Aがポリエーテルイミドの場合は、エチレングリコールやプロピレングリコールなどが挙げられる。本処理に用いる押出機としては樹脂成分と媒体の接触機会を高めイオンもしくは金属成分を媒体中に分散させやすくするため混練能力の高い2軸押出機を用いることが好ましい。
【0039】
本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムに含有されるポリアリ−レンスルフィドとは異なる熱可塑性樹脂Aとしては、例えば、ポリアミド、ポリエ−テルイミド、ポリエ−テルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエ−テル、ポリエステル、ポリアリレ−ト、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン等の各種ポリマおよびこれらのポリマ−の少なくとも一種を含むブレンド物を用いることができる。熱可塑性樹脂Aは、そのガラス転移温度Tgが150℃以上かつポリアリーレンスルフィドの融点(Tm)以下の非晶性樹脂であることが好ましく、170℃以上(Tm−20)℃以下の非晶性樹脂であることが更に好ましく、180℃以上(Tm−50)℃以下の非晶性樹脂であることが最も好ましい。熱可塑性樹脂AのTgが150℃未満の場合、本フィルムをコンデンサー誘電体として用いる場合の耐熱性や電気特性向上の効果が得られにくい場合がある。また、熱可塑性樹脂AのTgがポリアリーレンスルフィドの融点(Tm)以上の場合や、熱可塑性樹脂がフィルム中で結晶性を示す場合、コンデンサー誘電体として用いる場合のSH性に劣る場合がある。
【0040】
熱可塑性樹脂Aは、ポリアリ−レンスルフィドの混合性および本発明の効果発現の観点から、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれるポリマもしくは少なくとも1種を含むブレンド物であることが好ましく、特にポリエーテルイミドの場合にポリアリーレンスルフィドへの分散性に優れ、不純物や金属成分量が少ないためか二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムとした場合に電気特性に優れており好ましい。
【0041】
ポリエ−テルイミドは、特に限定されないが、例えば、下記一般式で示されるように、ポリイミド構成成分にエ−テル結合を含有する構造単位であるポリマを好ましく挙げることができる。
【0042】
【化4】

【0043】
ただし、上記式中R1は、2〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族または脂肪族基、脂環族基からなる群より選択された2価の有機基であり、R2は、前記Rと同様の2価の有機基である。
上記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族基
【0044】
【化5】

【0045】
を挙げることができる。
【0046】
本発明で最も好ましいポリアリーレンスルフィド樹脂は、上記の通りp−フェニレンスルフィドからなるPPS、もしくは3官能成分が1モル%以下添加され99モル%以上がp−フェニレンスルフィドからなるPPS樹脂であり、通常その融点は280〜290℃であり、本発明では、ガラス転移温度がポリアリーレンスルフィドの融点(Tm)以下であることが好ましいことから280℃以下、より好ましくは260℃以下のポリエ−テルイミドを用いると本発明の効果が得やすく、ポリアリ−レンスルフィドとの相溶性、溶融成形性等の観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましい。
【0047】
【化6】

【0048】
この構造単位を有するポリエ−テルイミドは、“ウルテム”(登録商標)の商標名で、ジーイープラスチックス社より入手可能である。例えば、m−フェニレンジアミン由来の単位を含む構造単位(前者の式)を有するポリエ−テルイミドとして、“ウルテム1000”および“ウルテム1010”が挙げられる。また、p−フェニレンジアミン由来の単位を含む構造単位(後者の式)を有するポリエ−テルイミドとして、“ウルテムCRS5000”が挙げられる。
【0049】
本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムに含まれる熱可塑性樹脂Aとして用いられる他の例として、分子骨格にスルホン基を含むポリスルホンやポリエ−テルスルホンが挙げられる。ポリスルホンやポリエ−テルスルホンは、公知のものを種々使用することができる。ポリアリ−レンスルフィドとの混合性の観点から、ポリエ−テルスルホンの末端基として、塩素原子、アルコキシ基あるいはフェノ−ル性水酸基が挙げられる。また、熱可塑性樹脂Aとして、ポリアリ−レンスルフィドと分子構造が近似するポリフェニレンエ−テルやポリアリレートなども好ましく例示される。
【0050】
本発明において、ポリアリーレンスルフィドと他の熱可塑性樹脂Aを混合する時期は、特に限定されないが、溶融押出前に、ポリアリーレンスルフィドとその他の熱可塑性樹脂Aの混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法や、溶融押出時に混合して溶融混練させる方法などがある。中でも、二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いて予備混練してマスターチップ化する方法などが好ましく例示される。その場合、通常の一軸押出機に該混合されたマスターチップ原料を投入して溶融製膜してもよいし、高せん断を付加した状態でマスターチップ化せずに直接にシーティングしてもよい。特に、溶融押出前に、それぞれの樹脂の混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法が好ましく例示され、その場合、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの重量分率が99/1〜70/30のブレンド原料を作成することが好ましい。二軸押出機で混合する場合、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましく、混練部ではPPS樹脂の融点+5〜55℃の樹脂温度範囲が好ましい。さらに好ましい温度範囲はPPS樹脂の融点+10〜45℃であり、より好ましい温度範囲はPPS樹脂の融点+10〜35℃である。混練部の温度範囲を好ましい範囲にすることは、せん断応力を高めやすく、分散不良物も低減できる効果が高くなり、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。そのときの滞留時間は1〜5分の範囲が好ましい。また、スクリュー回転数を100〜500回転/分とすることが好ましく、さらに好ましくは200〜400回転/分の範囲である。スクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、高いせん断応力が付加され易く、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、二軸押出機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は20〜60の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50の範囲である。さらに、二軸スクリューにおいて、混練力を高めるためにニーディングパドルなどによる混練部を設けることは好ましく、その混練部を好ましくは2箇所以上、さらに好ましくは3箇所以上設けたスクリュー形状にする。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、プラスチック成形加工学会誌「成形加工」第15巻第6号、382〜385頁(2003年)に記載された超臨界流体を利用する方法なども好ましく例示することができる。
【0051】
本発明においては、熱可塑性樹脂Aドメインの分散径を制御するために、相溶化剤として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネ−ト基から選択される一種以上の基を有する化合物をポリアリ−レンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの和100重量部に対し、0.05〜5重量部添加することが好ましい。より好ましくは0.2〜3重量部添加することであり、さらに好ましくは0.3〜2重量部添加することである。相溶化剤の添加量が0.05重量部未満であると、ポリアリ−レンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの相溶性が不良となり、本発明の効果が得られにくかったりすることがある。また、相溶化剤の添加量が5重量部を超えると、ポリアリ−レンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの反応性が高まりすぎて、溶融粘度が増加してフィルム押出成形がしにくくなったりすることがある。
【0052】
かかる相溶化剤の具体例としては、ビスフェノ−ルA、レゾルシノ−ル、ハイドロキノン、ピロカテコ−ル、ビスフェノ−ルF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノ−ルS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4‘−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2.2.5.5.−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノ−ル類のグリシジルエ−テル、ビスフェノ−ルの替わりにハロゲン化ビスフェノ−ルを用いたもの、ブタンジオ−ルのジグリシジルエ−テルなどのグリシジルエ−テル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノ−ル樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノ−ル樹脂はフェノ−ル類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノ−ル類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリ−ブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
【0053】
本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムに用いられる相溶化剤の最も好ましい例として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネ−ト基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナネ−トプロピルトリクロロシランなどのイソシアネ−ト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。中でも、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナネ−トプロピルトリクロロシランなどのイソシアネ−ト基含有アルコキシシラン化合物を用いると、二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムの分散相の平均分散径を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなる。
【0054】
本発明において相溶化剤としてアルコキシシランを用いる場合、混練時もしくは押出時などにアルコキシシラン由来のアルコールが発生する場合がある。フィルム製膜用の原料としてアルコールの発生量の少ない樹脂組成物を得るためには、ニーディング部を少なくとも2カ所有する二軸押出機を使用して、一度ポリフェニレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aと相溶化剤を溶融混練した後に、さらに一回以上溶融混練する手法が好ましい方法として挙げられる。また、2回目以降の溶融混練する際に、ポリフェニレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの合計100重量部に対して、水を0.02部以上、より好ましくは0.1〜5部添加することが好ましい場合がある。この方法により、アルコキシシラン化合物の加水分解が促進され、得られる樹脂組成物から発生するアルコール量を低減することができる。ポリアリーレンスルフィドや熱可塑性樹脂A中の不純物やオリゴマー、相溶化剤の反応に由来して発生するアルコールなどを、混練して得られる製膜用原料チップ中からなるべく除去することが製膜安定上好ましく、そのために溶融混練時に押出機の混練ゾーン以降に真空ベントを設けることが好ましい。水の添加方法としては、特に限定しないが、押出機の途中からギアポンプ、プランジャーポンプなどの送液装置を使用して水をサイドフィードする手法や、一度溶融混練した後に、さらに一回以上溶融混練する際に、水を配合もしくは押出機の途中からサイドフィードする手法が好ましい方法として挙げられる。
【0055】
エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランを用いた場合、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの間にシロキサン結合を形成しやすく、分散相の界面近傍にシロキサン結合が存在しやすい。TEM−EDX法などを用いて分散相の界面近傍にシリコン原子を検出することができる。本発明では、熱可塑性樹脂Aからなる分散相の界面にシロキサン結合に起因するシリコン(Si)原子を含むことが好ましい。
【0056】
また本発明の二軸配向ポリアリーレンフィルムはガラス転移温度(Tg)は85℃以上95℃未満に観察される一方で95℃以上130℃以下には観察されないことが必要である。Tgが85℃未満の場合は、フィルムの耐熱性が低くなる。また、Tgが95℃以上130℃以下に観測される場合は、フィルムをコンデンサーの誘電体として用いる場合にSH性が不十分となる。ガラス転移温度(Tg)を本発明の規定する範囲内とするには、熱可塑性樹脂Aが分散相を形成し、該分散相の平均分散径が50〜500nmの範囲となるよう熱可塑性樹脂Aの種類、含有量および相溶化材の種類、含有量を適宜調整することで可能である。
【0057】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、積層型コンデンサーの作成およびコンデンサー面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサーを製造する際の歩留まり改善の観点から、フィルムを150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率が1.5%以下、幅方向の熱収縮率が0.2%以下−1.0%以上であることが必須である。より好ましくは長手方向の熱収縮率が1.3%以下、幅方向の熱収縮率が0.15%以下−0.7%以上、さらに好ましくは長手方向の熱収縮率が1.1%以下、幅方向の熱収縮率が0.12%以下−0.5%以上である。該フィルムの長手方向の熱収縮率が1.5%を超える場合、蒸着時にシワが発生したり、巻回あるいは積層時にフィルムのずれや素子が変形するためコンデンサー不良が起こり歩留まりが生じやすく、コンデンサー面実装工程での熱により寸法変化が大きくなり、コンデンサー不良になりやすい。また該フィルムの幅方向の熱収縮率が−1.0%未満の場合、フィルムの膨張によって蒸着時にシワが発生したり、コンデンサー製造時にフィルムのずれや素子が変形するため外部電極の取り付け工程で歩留まりが生じやすくなる。本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの熱収縮率を好ましい範囲内にするには、熱可塑性樹脂Aの種類、含有量および分散相の平均分散径を本発明の好ましい範囲内となるように調節し、延伸倍率は長手方向および幅方向ともに3.5倍以下とし、延伸後の熱固定温度は1段熱固定の場合の好ましい熱固定温度は170〜275℃、電気特性向上のおよび熱収縮率制御の観点からより好ましい条件としては延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行い、その1段目の熱固定温度を(直前の延伸温度+5℃)〜240℃とし、後段の熱固定温度の最高値を200℃以上もしくは(1段目の熱固定温度+20℃)以上、(フィルムを構成するポリアリーレンスルフィドの融点−5℃)以下とすることが好ましく、熱固定後の幅方向における弛緩処理率は40℃以上ポリアリーレンスルフィドの融点以下の温度で2%以上8%以下の範囲内で適宜調節でき、本発明の範囲にすることができる。
【0058】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、特にコンデンサー用として用いると高い電気特性を有し、物性のバラツキを低減し、優れた自己回復性(SH性)を発現させる観点から、23℃、65%RH雰囲気下で30箇所測定した絶縁破壊電圧の平均値が300V/μm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧の平均値が300V/μm未満では、本フィルムを用いたコンデンサーの耐電圧が低いものとなる場合がある。好ましい絶縁破壊電圧の平均値は330V/μm以上、さらに好ましくは350V/μm以上である。本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの絶縁破壊電圧の上限は特に設けないが、1000V/μm以上となる場合には、コンデンサーとした場合にSH性が機能せず貫通破壊に至る場合がある。さらにフィルムを30箇所測定した絶縁破壊電圧の標準偏差は30V/μm以下が好ましい。標準偏差が30V/μmを超える場合、フィルム面内の物性バラツキが多くなり、コンデンサーとした場合に、低電圧破壊が起こりやすく、さらに該破壊箇所で連続集中破壊が起こりやすく、SH性が機能せず信頼性を損なう。上記観点から、好ましい絶縁破壊電圧の標準偏差は25V/μm以下、さらに好ましくは20V/μm以下である。本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの絶縁破壊電圧およびその標準偏差を本発明の好ましい範囲内とするには、熱可塑性樹脂Aの種類、含有量および分散相の平均分散径を本発明の好ましい範囲内となるように調節し、延伸倍率は長手方向および幅方向ともに3.5倍以下とし、延伸後の熱固定温度は1段熱固定の場合の好ましい熱固定温度は170〜275℃、電気特性向上のおよび熱収縮率制御の観点からより好ましい条件としては延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行い、その1段目の熱固定温度を(直前の延伸温度+5℃)〜240℃とし、後段の熱固定温度の最高値を200℃以上もしくは(1段目の熱固定温度+20℃)以上、(フィルムを構成するポリアリーレンスルフィドの融点−5℃)以下とすることが好ましく、熱固定後の幅方向における弛緩処理率は40℃以上ポリアリーレンスルフィドの融点以下の温度で2%以上8%以下の範囲内で適宜調節でき、本発明の範囲にすることができる。
【0059】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは長手方向および幅方向の破断伸度がいずれも30%以上120%未満が好ましく、より好ましくは35%以上110%未満、さらに好ましくは40%以上100%未満である。フィルムの破断伸度が30%未満の場合は、折り曲げなどの加工時にワレが生じやすく、特にコンデンサー用とした場合、捲回コンデンサーを製造する際に破断し易くなり加工が困難となる。他方、フィルムの破断伸度が120%以上の場合、フィルム製膜時に延伸ムラが生じたり、得られたフィルムの面内物性バラツキが多くなり、特にコンデンサー用とした場合、低電圧破壊を生じやすく、SH性が不十分となり信頼性の劣ったコンデンサーとなりうるため好ましくない。
【0060】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは長手方向および幅方向の破断強度がいずれも150MPa以上400MPa以下、より好ましくは180MPa以上350MPa以下、さらに好ましくは200MPa以上300MPa以下である。フィルムの破断強度が150MPa未満の場合、折り曲げなどの加工時にワレが生じやすく、特にコンデンサー用とした場合、捲回コンデンサーを製造する際に破断し易くなり加工が困難となったり、フィルム製膜時に延伸ムラが生じたり、得られたフィルムの面内物性バラツキが多くなり、特にコンデンサー用とした場合、低電圧破壊を生じやすく、SH性が不十分となり信頼性の劣ったコンデンサーとなりうるため好ましくない。他方、400MPaを超えるフィルムを得るためには、製膜時の延伸倍率を極めて高倍率にする必要があり、熱収縮率が増加したり、製膜工程の延伸時にフィルム破れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0061】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは長手方向および幅方向のヤング率がいずれも2.5GPa以上5GPa未満であることが好ましく、より好ましくは2.7GPa以上4.8GPa未満、さらに好ましくは3.0GPa以上4.5GPa未満である。フィルムの長手方向および幅方向におけるヤング率が2.5GPa未満である場合は、フィルム製膜時に延伸ムラが生じたり、得られたフィルムの面内物性バラツキが多くなり、特にコンデンサー用とした場合、低電圧破壊を生じやすく、SH性が不十分となり信頼性の劣ったコンデンサーとなりうるため好ましくない。他方、フィルムの長手方向および幅方向におけるヤング率が5GPaを超える場合は、製膜時の延伸倍率を極めて高倍率にする必要があり、熱収縮率が増加したり、製膜工程の延伸時にフィルム破れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0062】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの破断伸度、破断強度、ヤング率を本発明の好ましい範囲とするには、熱可塑性樹脂Aの種類、含有量および分散相の平均分散径、また二軸延伸時の縦延伸における延伸温度や延伸倍率、横延伸前の予熱温度、横延伸における延伸温度や延伸倍率、さらに、延伸後の熱固定温度および弛緩処理率を本発明の好ましい範囲にすることにより、適宜調節でき、本発明の範囲にすることができる。
【0063】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、フィルムを構成する樹脂組成物の310℃における溶融比抵抗が1.0×10Ω・cm〜1.0×1011Ω・cmであることが、特に高温、高電圧下での電気絶縁性に優れたフィルムを得るという観点から好ましい。上記の通り、本発明で用いられるPPS樹脂は、脱イオン処理もしくは脱金属成分処理をしていることが好ましく、その具体的方法としては、酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理、有機溶剤洗浄処理、およびエントレーナー処理などを例示することができ、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いてもよいが、少なくとも酸水溶液洗浄処理を行い金属量を減少させたPPSを用いることがより好ましい。熱可塑性樹脂Aとして金属・イオン量の少ないものを選択することや、マスターチップ作成時にエントレーナー処理を行うことも好ましい。これらの手法を組み合わせることにより上記範囲を達成することができる。フィルムの電気特性、特にコンデンサーとした場合の高温特性という観点からは溶融比抵抗が高い方が好ましい。一方、溶融比抵抗については特に上限はないが、製膜時の静電キャスト性から1.0×1011Ω・cm以下であることが好ましい。
【0064】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは摩擦係数が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくは0.25以上0.6以下、さらに好ましくは0.3以上0.5未満である。摩擦係数が0.2未満の場合、フィルムに十分な滑り性を付与することが出来ず、フィルム製膜時に巻き皺が発生したり、スリットやコンデンサー加工が困難となる。他方、摩擦係数が0.8を超える場合、表面の荒れが大きく、フィルムの表面にアルミニウム、亜鉛等の蒸着膜を形成させた際、蒸着膜厚みムラが生じたり、コンデンサーとしたときフィルム間に空気介在が生じ、電気特性の不安定化、耐電圧の低下を招いたり、また使用時に電界集中が発生したり、フィルムおよび金属薄膜層の溶失または焼失が起こり、コンデンサー用フィルムとして使用した場合にコンデンサーの高性能化が困難となる。
【0065】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは中心線平均粗さRaが20nm以上200nm以下、最大高さRmaxが1000nm以下であることが好ましい。Raが30nm未満の場合、フィルムに十分な滑り性を付与することが出来ず、フィルム製膜時に巻き皺が発生したり、スリットやコンデンサー加工が困難となる。他方、Raが200nmより大きい場合、もしくはRmaxが1000nmより大きい場合、表面の荒れが大きく、フィルムの表面にアルミニウム、亜鉛等の蒸着膜を形成させた際、蒸着膜厚みムラが生じたり、コンデンサーとしたときフィルム間に空気介在が生じ、電気特性の不安定化、耐電圧の低下を招いたり、また使用時に電界集中が発生したり、フィルムおよび金属薄膜層の溶失または焼失が起こり、コンデンサー用フィルムとして使用した場合にコンデンサーの高性能化が困難となる場合がある。Rmaxの下限は特に制限されないが、適度な滑り性を付与する観点から300nmとするものである。
【0066】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、フィルムに滑り性を付与したり、加工適性を向上するために、上記のフィルムの摩擦係数範囲および表面粗さを達成するように粒子を含有させることができる。粒子としては例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナやジルコニアなどの無機粒子やシリコン粒子、架橋アクリル粒子や架橋ポリスチレン粒子などの有機粒子などの不活性粒子を例示でき、またポリマの重合時に酢酸カルシウムや酢酸リチウムなどを使用し、ポリマの重合過程で粒子を析出させることも可能である。粒子の平均粒径はフィルム厚み以下であることが好ましく、フィルム厚みの2/3以下であることがより好ましく、1/2以下であることが更に好ましい。また、本発明では粒径2μm以上もしくはフィルム厚み以上の粗大な粒子を含まないことが好ましい。粗大粒子を含んでいる場合、製膜の安定性に劣る場合があったり、コンデンサー使用中にフィルムから粒子脱落が起こり、絶縁欠点が生じコンデンサーとしての信頼性を損なう場合がある。このため、無機粒子や有機粒子などの不活性粒子はPPS重合時の溶媒中でスラリーとしサンドグラインダーなどの媒体攪拌型分散装置や超音波分散装置で分散し、その後湿式分級装置で分級したりフィルター出濾過し粗大粒子を除去するのが好ましい。
【0067】
本発明は熱可塑性樹脂Aの分散状態により表面に微細な突起構造を形成する場合があり、この場合は粒子を実質的に添加しなくとも上記の摩擦係数の範囲を達成する場合がある。熱可塑性樹脂Aの平均分散径が小さくなるほど、突起高さは小さくなる傾向があるため、平均分散径が200nmより小さくなる場合には必要な加工適性を付与させるために上記の無機または有機粒子を添加することが必要な場合がある。
【0068】
なお、本発明のフィルム中には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤防錆剤などを添加してもかまわない。
【0069】
本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムの厚さは、用途等により異なるが500μm以下が好ましい。コンデンサー用途の場合は、大容量かつ小型化の観点から0.5〜10μmが好ましく、より好ましくは1〜6μmである。電気絶縁用フィルムなどの場合は、作業性などの観点から、より好ましくは10〜300μmの範囲であり、さらに好ましくは20〜200μmの範囲である。
【0070】
本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムは、これにポリアリ−レンスルフィドやその他のポリマ−層、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニリデンまたはアクリル系ポリマからなる層を直接、あるいは接着剤などの層を介して、さらに積層させて用いてもよい。
【0071】
また、本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネ−ト、コ−ティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0072】
本発明の二軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムは、コンデンサー用誘電体、モーター、トランスなどの電気絶縁材料や成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料、振動板などに用いられる。特に、高温での電気絶縁性能に優れているため、コンデンサー、電気絶縁材料、回路基板などに好ましく用いることができる。更にコンデンサー誘電体として用いると高い電気特性を有し、SH性に優れているため、安全性が高く耐熱性に優れたコンデンサーとする事ができ好ましい。
【0073】
次いで、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法について、ポリアリーレンスルフィドとしてポリ−p−フェニレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aとしてジーイープラスチック社製のポリエーテルイミド“ウルテム1010”からなる二軸配向ポリフェニレンフィドフィルムの製造を例にとって説明する。もちろん、本発明は、下記の記載に限定されない。
【0074】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)とポリエーテルイミド(PEI)を混合する場合、溶融押出前に、それぞれの樹脂の混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法が好ましく例示される。
【0075】
本発明では、まず、上記PPSとPEIを二軸混練押出機に投入し、PPSとPEIの重量分率が99/1〜70/30のブレンド原料を作成することが好ましい。ブレンド原料の樹脂組成物の混合・混錬方法は、特に限定されることはなく各種混合・混錬手段が用いられる。例えば、各々別々に溶融押出機に供給して混合してもよいし、また、予め紛体原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、ブレンダーあるいはタンブラー等の混合機を利用して乾式予備混合し、その後、溶融混錬機にて溶融混練することでもよい。その後、前記ブレンド原料を必要に応じてPPS、これらの回収原料と共に押出機に投入して、目的とする組成としたものを原料とすることが、フィルムの品質と製膜性の観点で好ましい。上記原料を作成する場合、フィルム中への異物混入を可能な限り低減させるために、溶融押出工程で樹脂をフィルトレーションすることも好ましく行うことができる。この押出機内で異物や変質ポリマを除去するために各種のフィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンドおよび金網などの素材からなるフィルターを用いることが好ましい。また、必要に応じて、定量供給性を向上させるためにギアポンプを設けてもよい。
【0076】
上記の好ましい二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造法のより具体的な条件は、以下のとおりである。
【0077】
まず、PPSのペレットまたは顆粒とPEIのペレットとを、一定の割合で混合して、ベント式の二軸混練押出機に供給し、溶融混練してブレンドチップを得る。二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いることが好ましく、さらに、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましく、そのときの滞留時間は1〜5分の範囲が好ましい。また、混練部では290〜405℃の樹脂温度範囲であることが好ましく、さらに好ましい温度範囲は295〜355℃である。混練部の樹脂温度範囲を好ましい範囲にすることにより、せん断応力を高めやすく、分散不良物も低減できる効果が高くなり、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、スクリュー回転数を100〜500回転/分とすることが好ましく、さらに好ましくは200〜400回転/分の範囲である。スクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、高いせん断応力が付加され易く、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、二軸押出機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は20〜60の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50の範囲である。さらに、二軸スクリューにおいて、混練力を高めるためにニーディングパドルなどによる混練部を設けることは好ましく、その混練部を2箇所以上設けて、各混練部の間を通常のフィードスクリューとしたスクリュー形状にすることはさらに好ましい。
【0078】
PPSとPEIを混合する上で、PPSとPEIの混合組成物あるいは相溶化剤が添加されると、分散不良物が低減できて相溶性が高まることがある。
【0079】
その後、上記ペレタイズ作業により得られた、PPSとPEIからなるブレンドチップ、必要に応じてPPSや製膜後の回収原料や粒子を混合した原料を一定の割合で適宜混合して、180℃で3時間以上10mmHg以下の減圧で乾燥した後、300〜350℃の温度、好ましくは320〜340℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマをフィルターに通過させた後、その溶融ポリマをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
【0080】
次に、この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0081】
ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。
【0082】
未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱し、延伸倍率は電気特性向上および粒子脱落抑制の観点から長手方向(MD方向)に2.5〜4.5倍、好ましくは2.8〜4.0倍、さらに好ましくは3.0〜3.5倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+50)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+40)℃の範囲である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0083】
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg〜(Tg+60)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+10)〜(Tg+40)℃の範囲である延伸倍率は電気特性向上および粒子脱落抑制の観点から2.5〜4.5倍、好ましくは2.8〜4.0倍、さらに好ましくは3.0〜3.5倍の範囲である。
【0084】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する。1段熱固定の場合の好ましい熱固定温度は170〜275℃、好ましくは200〜265℃であり、熱固定時間は1秒〜1000秒間、好ましくは1秒〜60秒、より好ましくは1秒〜30秒である。電気特性向上のおよび熱収縮率制御の観点からより好ましい条件としては延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行い、その1段目の熱固定温度を(直前の延伸温度+5℃)〜240℃とし、後段の熱固定温度の最高値を200℃以上もしくは(1段目の熱固定温度+20℃)以上、(フィルムを構成するポリアリーレンスルフィドの融点−5℃)以下とすることが好ましく、更に好ましくは1段目の熱固定温度を(直前の延伸温度+5℃)〜220℃とし、後段の熱固定温度の最高値を230℃以上もしくは(1段目の熱固定温度+30℃)以上、(フィルムを構成するポリアリーレンスルフィドの融点−5℃)以下とすることが好ましい。多段熱固定の場合は1段目の熱固定を1秒〜1000秒間、好ましくは1秒〜60秒、更に好ましくは1秒〜30秒とし、後段の最高温度での熱固定を1秒〜1000秒間、好ましくは1秒〜60秒、更に好ましくは1秒〜10秒とし、熱固定全体の時間が2000秒、好ましくは120秒、更に好ましくは30秒を越えないようにする。
【0085】
さらにこのフィルムを40℃以上ポリアリーレンスルフィドの融点以下、より好ましくは延伸温度以上熱固定温度以下(多段熱固定の場合は最も高い熱固定温度以下)の温度ゾーンで幅方向に弛緩処理する。弛緩率は、0.1〜8%であることが好ましく、より好ましくは1.5〜7%、さらに好ましくは2〜6%の範囲である。弛緩処理は1秒〜100秒、好ましくは1秒〜60秒、更に好ましくは1秒〜10秒かけて上記温度範囲で行う。弛緩処理率が8%を超える場合、幅方向の熱収縮率が膨張側になりやすく、本発明の効果を得られにくい場合がある。
【0086】
さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
本発明の金属化フィルムは、かかる二軸配向フィルムの少なくとも片面に金属層を形成したものであって、たとえば真空蒸着やスパッタリング法等の方法で金属薄膜を形成せしめたものを使用することができる。かかる金属としては、アルミニウム、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、或いはそれらの合金などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
本発明のフィルムコンデンサーは、捲回法または積層法等の公知の方法で製造することができる。かかるコンデンサーの導電体としては、上記金属化フィルムを使用することができる。
次に本発明のコンデンサーの製造方法について述べる。コンデンサーの内部電極として金属箔が用いられる場合は金属箔と本発明の積層フィルムを箔はみだし捲回法や捲回途中でタブを挿入する方法などによって交互に重ね合わせて巻き取るなどして誘電体と電極を交互に重ね合わされ、かつ外部に電極が引き出せるような構造となるように捲回してコンデンサー素子あるいはコンデンサー母素子を得る。
【0088】
また、コンデンサーの内部電極として金属薄膜が用いられる場合は、まず上述した本発明のフィルムを金属化する。金属化の方法は蒸着による方法が好ましい。蒸着する金属はアルミニウムを主たる成分とする金属が好ましい。金属層の抵抗値は0.5〜100Ω/□の範囲であることが好ましい。抵抗値が0.5Ω/□未満では、 セルフヒーリング性が悪化したり絶縁抵 抗が悪化する傾向が出てくるなど本来のコンデンサー特性が得られないことがある。100Ω/□を越えると直接等価抵抗が増大したり、誘電正接(tanδ)が悪化したりする傾向が出てくることがある。本発明の効果が発現しやすいことから1〜50Ω/□がより好ましく、2〜30Ω/□がさらに好ましい。金属化する際、予め金属化する側のフィルム表面にコロナ放電処理、プラズマ処理などの処理によって金属薄膜とフィルムとの密着力を向上させることもできる。金属化する際、あるいは金属化後に対向電極が短絡しないようにテープマスク、オイルマージン、あるいはレーザービーム等により非金属化部分(いわゆるマージン)を設けるのが常法であるが全面に蒸着した後に放電、レーザー光線などを用いて非金属化帯を設けることもできる。その後、一方の端にマージン部分がくるように細幅のテープ状にスリットすることもある。
次にコンデンサー素子を製造する。捲回型コンデンサーを得る場合は、金属化フィルムを一方の端にマージン部分がくるように細幅のテープ状にスリットして2枚重ねて、あるいは両面金属化フィルムと非金属化フィルムを重ねて個々の素子を個別に巻いていくのが常法である。また、両面金属化フィルムにコーテイング法などで第2の誘電体を設けた1枚の複合フィルムを捲回する方法もある。
【0089】
積層型コンデンサーの場合は大径のドラム、あるいは平板に捲回してコンデンサー母素子を得る。 捲回型コンデンサーを製造する場合は、上記のようにして得たコンデンサー母素子をプレス成形するのが一般的である。このとき、100℃以上フィルムの融点以下の温度に加熱することもできる。その後、外部電極の取り付け工程(金属溶射、導電性樹脂等による)、必要なら樹脂または油含浸工程、リード付きタイプのコンデンサーとするときはリード線の取り付け工程、外装工程を経てコンデンサーを得ることができる。
積層型コンデンサーの場合は、大径のドラム、あるいは平板に捲回した母素子を熱処理する、あるいはリング等で締め付ける、あるいは平行平板等でプレスするなどフィルムの厚さ方向に圧力を加えて成形する。その際の温度範囲は常温からフィルムの融点以下である。この後、外部電極の取り付け工程(金属溶射、導電性樹脂による)、個々の素子切り出し工程、必要なら樹脂または油含浸工程を経てコンデンサーを得ることができる。
【0090】
また、本発明のコンデンサーの形状は上記いずれであっても良い。また、本発明のコンデンサーは交流および直流のいずれの用途にも展開可能である。
【0091】
本発明の特性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0092】
(1)分散相の平均分散径、アスペクト比
フィルムを(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(ウ)フィルム面に対して平行な方向に切断し、サンプルを超薄切片法で作成した。分散相のコントラストを明確にするために、オスミウム酸やルテニウム酸、リンタングステン酸などで染色してもよい。熱可塑性樹脂Aがポリアミドの場合では、リンタングステン酸による染色を用いる。切断面を透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影した。得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の100個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、次に示すようにしてそれぞれの分散相の大きさを求めた。(ア)の切断面に現れる各分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(la)と長手方向の最大長さ(lb)、(イ)の切断面に現れる各分散相のフィルム厚さ方向の最大長さ(lc)と幅方向の最大長さ(ld)、(ウ)の切断面に現れる各分散相のフィルム長手方向の最大長さ(le)と幅方向の最大長さ(lf)を求めた。次いで、分散相の形状指数I=(lbの平均値+leの平均値)/2、形状指数J=(ldの平均値+lfの平均値)/2、形状指数K=(laの平均値+lcの平均値)/2とした場合、分散相の平均分散径を(I+J+K)/3とした。さらに、I、J、Kの中から、最大値を平均長径Lと最小値を平均短径Dを決定し、分散相のアスペクト比をL/Dとした。
【0093】
(2)フィルムのガラス転移温度(Tg)、融解温度(Tm)および溶融結晶化温度(Tmc)
JIS K7121―1987に準じて測定した。示差走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上350℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融解温度(Tm)とした。なお、ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
また、試料5mgをアルミニウム製受皿上で室温から350℃まで昇温速度20℃/分で昇温して、35℃で5分間溶融保持し、350℃から室温まで20℃/分で降温した。そのとき観測される発熱ピークのピーク温度を溶融結晶化温度(Tmc)とした。
【0094】
(3)ポリアリーレンスルフィドおよび熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度および融解温度
上記(2)と同様にしてJIS K7121―1987に準じてポリアリーレンスルフィドおよび熱可塑性樹脂Aの原料チップのガラス転移温度を測定した。
【0095】
融解温度についても示差走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上で室温から340℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、340℃で5分間溶融保持し、急冷固化して5分間保持した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融解温度(Tm)とした。
【0096】
(4)フィルムの機械特性(破断伸度、破断強度、ヤング率)
ASTM−D882−97に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、試料数10にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
【0097】
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:100mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH。
【0098】
(5)フィルムの絶縁破壊電圧および標準偏差
JIS C−2151−1990に規定された方法に準じて、環境温度23℃65%RHの条件で測定した。測定は、陰極に厚さ100μm、10cm角のアルミ箔電極、陽極に、径25mm、重さ500gの真鍮製の電極を用い、この間にフィルムを挟み、春日製高電圧直流電源を用いて100V/秒の速度で昇圧し、10mA以上流れたときに絶縁破壊したと見なした。この測定を30回測定し、フィルムの厚みで割り返した値の平均値をフィルムの絶縁破壊電圧とした。このとき30回測定した値における標準偏差を求めた。
【0099】
(6)溶融比抵抗
対向面積15cm(3cm×5cm)、電極間距離0.5cmの一対の銅製平行平板電極を挿入したガラス容器内に、被測定物質(フィルム)300gを入れた後、この容器を加熱したシリコンバス中に浸す。被測定物質を窒素ガス雰囲気下310℃で2時間溶融貯留し、直流高圧発生装置から両電極間に直流5KVの電圧を印加する。この時の電流計および電圧計の指示値及び電極面積、電極間距離により、次式に従い溶融比抵抗(ρ)を求めた。
ρ=V×S/(I×D)
ρ:溶融比抵抗(Ω・cm)
V:印加電圧 (V)
S:電極の面積(cm
I:測定電流 (A)
D:電極間距離(cm)
測定回数;3回測定し、平均値を算出する。
【0100】
(7)溶融粘度
フローテスターCFT−500(島津製作所製)を用いて、口金長さを10mm、口金径を1.0mmとして、予熱時間を5分に設定して、310℃で測定した。
(8)中心線平均粗さRa、最大高さRmax、突起個数
原子間力顕微鏡を用いて、下記の条件で場所を変えて20視野測定を行った。得られた画像について、三次元面粗さ(Roughness Analysis)を算出し、中心線平均粗さRa、最大突起高さRmaxを測定した。条件は下記のとおりであり、突起高さのしきい値を、50nmに設定してしきい値以上の高さを有する突起の個数を求め、計測した。
測定装置 :NanoScopeIII AFM(Digital Instruments社製)
カンチレバー:シリコン単結晶
走査モード :タッピングモード
走査範囲 :50μm□
走査速度 :0.5Hz
Peak Thresh ref(しきい値の基準): ZERO
Peak Threshold(ピーク高さのしきい値):50nm。
【0101】
(9)摩擦係数
フィルムを幅1/2インチのテープ状にスリットしたものテープ走行試験器を用いてステンレス製ガイドピン(表面粗度;Raで100nm)上を走行させる(走行速度250m/分、巻き付け角60°出側張力90g、走行回数1回)。このとき、入側の張力をTiとして、次の式、μk=2.20log(90/Ti)により求めた。
【0102】
(10)フィルム厚み
23℃65%RHの雰囲気下でアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K−312A型)を用いて、針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0103】
(11)フィルムの熱収縮率
JIS C2318(1997)に従って、フィルム表面に、幅10mm、測定長約200mmとなるように2本のラインを引き、この2本のライン間の距離を正確に測定しこれをL0とする。このフィルムサンプルを100℃あるいは150℃のオーブン中に30分間、無荷重下で放置した後、再び2本のライン間の距離を測定しこれをL1とし、下式により熱収縮率を求める。
熱収縮率(%)={(L0−L1)/L0}×100。
【0104】
(12)フィルム中の粒子の平均粒径
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した測定フィルム表面に、スパッタリング装置を用いて真空度10−3Torr、電圧0.25kV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施す。次に同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡にて10000〜30000倍の写真を撮影する。フィルム中の粒子の平均粒径は、上記写真から100個以上n個の粒子の面積円相当径(Di)を求め、下記式により求める。ここで面積円相当径(Di)は個々の外接円の直径である。
【0105】
【数1】

【0106】
(13)フィルム中の粒子濃度フィルム中の粒子濃度
フィルムをα−クロロナフタレンに溶解し、熱時に濾過を行って粒子を分離し、フィルム全重量に対する比率(重量部)で表す。また、必要に応じて赤外分光法、蛍光X線法、SEM−XMAを利用して定量することもできる。
【0107】
(14)粒子脱落
水平に固定された直径15mmのステンレス製丸棒に20mm幅×300mm長に裁断したフィルム試料を接触させ、フィルム加重1kg/mm2、移動速度500mm/分で50回擦った。鋼製ロッド表面に付着した粉の付着幅を測定し、下記基準で表した。
◎:フィルムキズの面積が擦った面積の10%未満
○:フィルムキズの面積が擦った面積の10%以上30%未満
×:フィルムキズの面積が擦った面積の30%以上。
【0108】
(15)コンデンサー特性
(a)コンデンサーの作成
長尺のフィルムを蒸着漕の中に設置し、アルミニウムを蒸発させてフィルム表面に内部電極を2Ω/□の膜抵抗値で形成させた。次いで、この金属化フィルムを巻き出して、レーザーにより、内部電極の一部を除去しながら、フィルムを広幅状態で巻き取り、積層板状集合体を作成した。このとき、内部電極を除去する幅は0.5mmとなるようにレーザー光を調節し、積層時に電極マージンを一層毎に切り替えた。次いで、ここで得た積層板状集合体をスリットし、棒状集合体のコンデンサー条に分割し、その後、コンデンサー条に分割したスリット面の両サイドに金属溶射を施して外部電極を形成させた。この外部電極に溶融ハンダメッキを施した後、ハンダメッキを施したコンデンサー条を個別素子に切断分割して、容量が0.045μFの積層型のチップ状フィルムコンデンサーを作成した。
(b)耐電圧の評価(ステップアップ直流絶縁破壊電圧テスト)
2KV電源(ハイデン研究所製:型式HD2K2P−PS)にコンデンサー素子のリード線を接続し、常温でスタート電圧:400Vで100V毎ステップアップを行い各ステップが終了毎にLCRメータ(安藤電気株式会社製TYPE AG−4311)で1kHzの容量を測定した。また、各ステップでの保持時間は10分とした。
【0109】
フィルム各水準に対しコンデンサー素子12個でテストを行い、電圧印加前の容量に対し、容量が10%以上低下する直前のステップの印加電圧値の平均値を耐電圧とした。
(c)セルフヒール性(SH性)の評価
上記直流耐電圧評価において、容量が10%以上低下した直後のステップにおいて絶縁破壊を起こしているコンデンサー素子をSH性不良とし、不良率(%)を以下の基準により判断した。◎と○が合格である。
◎:不良率10%未満
○:不良率10%以上50%未満
×:不良率50%以上
(d)コンデンサー不良率
作成したコンデンサーを直流耐電圧試験器(春日電機製)で印可電圧昇圧速度100V/secで測定し、電流が10mA以上流れ、電圧上昇が止まったものを不良とした。コンデンサー100個を測定し、不良個数の百分率(%)で表し、以下の基準で合否を判定した。◎と○が合格である。
◎:相対偏差0.5%未満
○:相対偏差0.5%以上1.5%未満
×:相対偏差1.5%以上
(e)金属層の抵抗値
4端子法により、100mmの電極間の金属層の抵抗を測定し、測定値を測定幅と電極間距離で除し、幅10mm、電極間距離10mm当たりの金属層の抵抗値を算出した。単位はΩ/□と表示する。
【実施例】
【0110】
(参考例1)ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS―1)の重合
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5重量%水硫化ナトリウム8,267.37g(70.00モル)、96重量%水酸化ナトリウム2,957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11,434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2,583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10,500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14,780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0111】
次に、p−ジクロロベンゼン10,235.46g(69.63モル)、NMP9,009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1,260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0112】
内容物を取り出し、26,300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31,900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56,000gのイオン交換水で3回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70,000gで洗浄、濾別した。70,000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSは、溶融粘度が200Pa・s(310℃、剪断速度1,000/s)であり、ガラス転移温度が93℃、融点が285℃であった。
【0113】
(参考例2)ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS―2)の重合
参考例の洗浄工程において酢酸水溶液を用いる代わりに酢酸カルシウム水溶液を用いること以外は参考例1と同様にしてPPS樹脂を作成した。得られたPPS樹脂は溶融粘度が210Pa・s(310℃、剪断速度1,000/s)であり、ガラス転移温度が93℃、融点が285℃であった。
【0114】
(参考例3)粒子マスターチップの作成
参考例1で作成したPPS樹脂92重量部に対し、平均粒径0.55μmのシリカ球状微粒子(日本触媒社製“シーホスター”KEP−50)8重量部となるよう配合し、ベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間30秒、スクリュー回転数300回転/分、330℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして粒子マスターチップ(粒子8%含有)を作製した。
【0115】
(参考例4)共重合PPS組成物(PPS−3)の調製
オートクレーブに、100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの水酸化ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという)を仕込み、攪拌しながら徐々に220℃まで昇温して含有されている水分を蒸留により除去した。
【0116】
脱水の終了した系内へ主成分モノマとして89.8モル%のp−ジクロルベンゼン、副成分モノマとして10モル%のm−ジクロルベンゼン、および0.2モル%の1,2,4−トリクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃で窒素を3kg/cm加圧封入後、昇温し、260℃にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマを採取した。
【0117】
このポリマを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧下120℃にて乾燥して融点が250℃の白色粒子状の共重合PPS組成物を得た。
【0118】
(実施例1)
参考例1で作成したPPS―1樹脂を180℃で3時間1mmHgの減圧下で乾燥し、熱可塑性樹脂Aとしてポリエーテルイミド(ジーイープラスチックス社製 “ウルテム1010”)(PEI)を120℃で3時間1mmHgの減圧下で別々に乾燥した。上記PPS―1樹脂70重量部とPEI30重量部にさらに、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、”KBE9007”)2.4重量部を乾燥空気下で均一配合後、ニーディングパドル混練部を3箇所設けた真空ベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分、330℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。
【0119】
得られたPPS/PEI(70/30重量部)のブレンドチップ原料17重量部、参考例2で作成したPPS−2樹脂73重量部および粒子マスターチップ10重量部をドライブレンドし、更に樹脂100重量部当たり0.3重量部の水を添加したものを、上記二軸混練押出機に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分、330℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。
【0120】
得られたブレンドチップを180℃で7時間1mmHgの減圧下で乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。
【0121】
次いで押出機で溶融したポリマを温度320℃に設定したフィルターで濾過し、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。
【0122】
この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、延伸温度99℃、延伸速度30000%/分でフィルムの縦方向に3.0倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度100℃、延伸速度1100%/分、延伸倍率3.1倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度255℃で11秒間の熱処理を行った後、180℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に4%弛緩処理を6秒間行い、室温まで冷却した後フィルムエッジを除去し、巻き取り、厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0123】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落が少ないフィルムであり、コンデンサー特性および不良率も良好なものであった。
【0124】
(実施例2)
製膜条件として延伸後の熱固定温度を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落が少ないフィルムであり、コンデンサー特性および不良率も良好なものであった。
【0125】
(実施例3)
製膜条件として延伸後の熱固定工程を温度の異なる2段の工程で行い、1段目の熱固定は温度190℃で4秒間の熱処理を施し、後段の熱固定は温度255℃で7秒間の熱処理を施す工程に変更した以外は、実施例1と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは実施例1に比べ絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落が少ないフィルムであり、コンデンサーのSH性が向上しており、耐電圧および不良率も良好なものであった。
【0126】
(実施例4)
製膜条件として延伸後の熱固定温度を表1に示した通り変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは実施例1に比べ絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落が少ないフィルムであり、コンデンサーのSH性が向上しており、耐電圧および不良率も良好なものであった。
【0127】
(実施例5〜9、比較例5)
製膜条件として延伸倍率、熱固定温度、弛緩処理率を表1に示した通り変更した以外は、実施例3と同様にしてそれぞれ厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、実施例5の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落が少ないフィルムであり、耐電圧やSH性などのコンデンサー特性および不良率も良好なものであった。実施例6の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは粒子脱落が少なく、絶縁破壊電圧やコンデンサー特性は若干劣っているが、実用上問題ないレベルであった。実施例7および8の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは粒子脱落が若干起こり、コンデンサー不良率も劣っていたが、SH性に優れており、実用上問題ないレベルであった。実施例9の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは粒子脱落が少なく、絶縁破壊電圧やコンデンサー特性は若干劣っているが、実用上問題ないレベルであった。他方、比較例5の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは熱収縮率が大きく、また粒子脱落が多くコンデンサー特性が非常に劣っていた。
【0128】
(実施例10〜12、比較例4)
熱可塑性樹脂AのPEIの添加量および相溶化剤の添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例3と同様にしてそれぞれ厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、実施例10、11、12、いずれの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。他方、比較例4の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは実施例1と同様にして製膜を試みたが、フィルム破れが多発して評価できるサンプルが採取できなかった。
【0129】
(実施例13)
γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、”KBE9007”)をビスフェノール型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、“エピコート”1004)とした以外は実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差は大きいが、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0130】
(実施例14)
熱可塑性樹脂Aとしてポリアリレート(ユニチカ社製 “Uポリマ”U100)(PAR)を用いる以外は実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
(実施例15)
熱可塑性樹脂Aとしてポリフェニレンエーテル(三菱ガス化学社製 YPX−100A)(PPE)を用いる以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0131】
(実施例16)
熱可塑性樹脂Aとしてポリエーテルスルホン(アモコ社製 “RADEL”A−200A)(PES)を用いる以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0132】
(実施例17)
熱可塑性樹脂Aとしてポリスルホン(アモコ社製 “UDEL”P−1700)(PSF)を用いる以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
(実施例18)
熱可塑性樹脂Aとしてナイロン610樹脂(東レ社製ナイロン樹脂“アミランCM2001”)(ポリアミド(PA))を用いる以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、標準偏差は大きいが、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0133】
(実施例19、20)
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムのフィルム厚みを表2に示したとおり変更した以外は実施例3と同様にして製膜し、それぞれ厚み1.2μmおよび3.5μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、標準偏差は大きいが、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
(比較例21)
参考例3で作成した粒子マスターチップのシリカ球状微粒子の平均粒径を1.2μmに変更し、フィルム中の粒子濃度を表1に示す濃度に変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0134】
(実施例22)
参考例3で作成した粒子マスターチップのシリカ球状微粒子を平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末粒子に変更し、フィルム中の粒子濃度を表1に示す濃度に変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは粒子脱落が若干起こったが、コンデンサー特性に優れており、実用上問題ないレベルであった。
(実施例23)
参考例3で作成した粒子マスターチップのシリカ球状微粒子を平均粒径1.0μmおよび平均粒径0.25μmの炭酸カルシウム粉末粒子(2粒子系)に変更し、フィルム中の粒子濃度を表1に示す濃度に変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは粒子脱落が若干起こり、コンデンサー不良率も劣っていたが、SH性に優れており、実用上問題ないレベルであった。
(実施例24)
参考例1で作成したPPS―1樹脂を180℃で3時間1mmHgの減圧下で乾燥し、熱可塑性樹脂Aとしてポリエーテルイミド(ジーイープラスチックス社製 “ウルテム1010”)(PEI)を120℃で3時間1mmHgの減圧下で別々に乾燥した。上記PPS―1樹脂70重量部とPEI30重量部にさらに、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、”KBE9007”)2.4重量部を乾燥空気下で均一配合後、ニーディングパドル混練部を3箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分、330℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。
得られたPPS/PEI(70/30重量部)のブレンドチップ原料17重量部、参考例2で作成したPPS−2樹脂73重量部および粒子マスターチップ10重量部をドライブレンドし、180℃で7時間1mmHgの減圧下で乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。次いで押出機で溶融したポリマを温度320℃に設定したフィルターで濾過し、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。未延伸フィルムを実施例3と同様の製膜条件で製膜し、厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、かつ標準偏差も小さく、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0135】
(実施例25)
PPS−1を参考例2で示したPPS―2に変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは粒子脱落が若干起こり、コンデンサー不良率も劣っていたが、SH性に優れており、実用上問題ないレベルであった。
【0136】
(実施例26)
PPS−2を参考例4で示したPPS―3に変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは絶縁破壊電圧に優れ、標準偏差は大きいが、粒子脱落の少なく、コンデンサー特性も良好なものであった。
【0137】
(比較例1)
参考例2で作成したPPS―2樹脂を180℃で3時間1mmHgの減圧下で乾燥し、ニーディングパドル混練部を3箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分、330℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。
得られたPPSチップ原料90重量部、参考例4で作成した粒子マスターチップ10重量部をドライブレンドし、180℃で7時間1mmHgの減圧下で乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。
【0138】
次いで押出機で溶融したポリマを温度320℃に設定したフィルターで濾過し、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。未延伸フィルムを実施例3と同様の製膜条件で製膜し、厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および表2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは実施例3に比べ絶縁破壊電圧に劣り、かつ標準偏差も大きく、また粒子脱落の多い、コンデンサー特性も非常に劣ったものであった。
【0139】
(比較例2)
PPS―2を参考例1で作成したPPS−1に変更した以外は、比較例1と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは実施例3に比べ絶縁破壊電圧に劣り、かつ標準偏差も大きく、また粒子脱落の多い、コンデンサー特性も非常に劣ったものであった。
【0140】
(比較例3)
PPS―2を参考例1で作成したPPS−1に変更した以外は、実施例3と同様にして厚み2.0μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれを使用したコンデンサーを作成した。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果およびコンデンサー特性は、表1および2に示したとおりであり、本実施例の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは実施例3に比べ絶縁破壊電圧に劣り、かつ標準偏差も大きく、また粒子脱落の多いフィルムであり、コンデンサーのSH性に優れるが、不良率が劣っており実用上使用できないレベルであった。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、優れた耐熱性、寸法安定性、電気特性を有し、フィルム面内の物性バラツキが少ない高品位な二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、特に積層型チップコンデンサー用として用いると耐電圧、自己回復性(セルフヒール性、SH性)が向上し、コンデンサー加工時における粒子脱落欠陥および面実装工程の熱による寸法変化を低減させ、コンデンサー製造時の歩留まりを向上させた信頼性の高いコンデンサー用フィルムとして好適に使用することができる。さらに本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムはフィルムを使用したコンデンサーは小型・高容量の高性能コンデンサーとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィドと、ポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂Aとを含む熱可塑性樹脂からなるフィルムであって、熱可塑性樹脂Aが分散相を形成し、該分散相の平均分散径が50〜500nmであり、該フィルムのガラス転移温度が85℃以上95℃未満に観察され、かつ95℃以上130℃以下には観察されず、該フィルムを150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率が1.5%以下、幅方向の熱収縮率が0.2%以下−1.0%以上、該フィルムの溶融結晶化温度が170℃以上220℃以下であることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が70〜99.5重量部、熱可塑性樹脂Aの含有量が0.5〜30重量部である請求項1に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドである請求項1または2に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
熱可塑性樹脂Aが非晶性樹脂であり、そのガラス転移温度が150℃以上かつポリアリーレンスルフィドの融点以下である請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
熱可塑性樹脂Aがポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマである請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項6】
ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの和を100重量部として、エポキシ基、アミノ基、イソシアナート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する相溶化剤を0.05〜5重量部含む原材料を混練してなる樹脂組成物を溶融製膜してなる請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項7】
23℃、65%RH雰囲気下で30箇所測定した絶縁破壊電圧の平均値が300V/μm以上、該絶縁破壊電圧の標準偏差が30V/μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法であって、未延伸フィルムを長手方向および幅方向に延伸し、延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行う製造方法において、その1段目の熱固定温度を(直前の延伸温度+5℃)以上240℃以下、後段の熱固定温度の最高値を200℃以上もしくは(1段目の熱固定温度+20℃)以上、(フィルムを構成するポリアリーレンスルフィドの融点−5℃)以下とするポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの少なくとも片面に金属層を形成してなる金属化フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の金属化フィルムを捲回あるいは積層してなることを特徴とするコンデンサー。
【請求項11】
請求項9に記載の金属化フィルムを積層してなることを特徴とするコンデンサー。

【公開番号】特開2009−132874(P2009−132874A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261427(P2008−261427)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】