説明

交絡ガラスストランドとその製造方法、及びガラス繊維強化樹脂引抜成形材

【課題】ボルト等のネジ材を構成する繊維強化樹脂複合材を製造する場合に、ネジ山の凹凸部を十分に補強でき、経済的に優れた製造原価で製造できるガラスストランドと、このガラスストランドを用いて得られるガラス繊維強化樹脂引抜成形材を提供する。
【解決手段】交絡ガラスストランドSは、2以上のガラスストランドが互いに交絡している交絡ガラスストランドであって、2以上のガラスストランドの番手の合計値に対する前記交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きく、かつJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上である。交絡ガラスストランドSの製造方法は、ストランドの番手に対して、交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きくなるように弛ませるものである。ガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、本発明の交絡ガラスストランドSを体積百分率表示で30%から50%含有してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交絡ガラスストランドとその製造方法、及び交絡ガラスストランドを用いて得られる高い機械的強度を有するガラス繊維強化樹脂引抜成形材に関する。
【0002】
構造材料として用いられるガラス繊維は、その優れた機能により様々な用途で利用されており、ガラス繊維を使用した繊維強化樹脂複合材の価値は非常に高いものである。Eガラス等の汎用性の高いガラス繊維を使用する繊維強化樹脂複合材は、カーボン繊維、或いはアルミナ繊維などの他の繊維強化樹脂複合材と比較して安価で入手しやすく、利用しやすいものであるため、その利用範囲は広範囲に拡がっている。複合化されたガラス繊維は目立たない存在ではあるが、構造材としての価値は様々な分野で極めて重要なものとなっている。
【0003】
構造材料としてのガラス繊維を使用する主要な目的は、繊維強化樹脂複合材の強度の向上にある。このため、ガラス繊維は高い強度が要求される用途に用いられる建築材料や構造材料などの様々な部材として用いられている。このような繊維強化樹脂複合材の成形方法は用途に合わせ、多様な方法が用いられている。例えば二次元方向の補強においては、ガラスロービングをカットして使用するスプレ−アップやSMC、ガラス織物やマットを使用した各種インジェクション法などが挙げられ、一定方向の補強においては、引抜成形法(プルトリュージョン法ともいう)やフィラメントワインディング法が挙げられる。その中で引抜成形やフィラメントワインディング法は一方向の補強、すなわち指向性を有する補強に適しており、その製品は補強方向を十分検討した上で使用されている。
【0004】
このような指向性を有する一方向補強材を使用し、引抜成形で得られた製品は繊維の配列する方向への引張強度特性には優れるが、それだけでは満足した性能を発揮できないケースもある。例えば、ボルトやナットのようなネジ材のネジ山部分を有する構造物など、複雑な構造を必要とする部材の強度については、これらの部材に働く力の方向に対して、この成形方法では十分に対応できない。そこでこのような問題を回避するため、これまでも多数の発明が行われてきた。例えば特許文献1には、少なくともネジ形成部に複数本の強化繊維糸を編成もしくは捻転してなる強化繊維紐を配置した繊維強化樹脂の棒体を成形し、その捧体を所定のねじ材成形型に挿入して長手方向に鍛圧する合成樹脂製ネジ材の製造方法に関わる発明が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、フィラメントを集合した芯材と、その外周に設けるフィラメントより成る凹凸組織にて芯体が構成され、その芯体と、これに含浸する合成樹脂液にてネジ素材が構成され、適宜硬化したネジ素材よりネジ体が形成され、ネジ体の雄ネジ部を凹凸組織のフィラメントで形成し繊維強化合成樹脂ボルトとするという発明が開示されている。
【0006】
特許文献3には、軽量でネジ山部分の強度を向上させ、耐薬品性も併せ持つボルト・ナットとして、ボルト又はナットのネジ山部分に、ボルト又はナットの軸径方向に放射状に配向された繊維質補強材が包埋されている構成としたプラスチック製ボルト・ナットに関わる発明が開示されている。
【0007】
さらに特許文献4には、特許文献2の発明における繊維の本来有する長さ方向の補強効果が十分発揮できないという問題を改善するため、ボルトの軸方向に、複数の繊維が略平行に配列されてなる繊維強化合成樹脂製ボルトにおいて、ボルトの軸に対して、概ね垂直な面内に繊維を配置した構成とする繊維強化合成樹脂製ボルトの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−224930号公報
【特許文献2】特開平7−279933号公報
【特許文献3】特開平7−217629号公報
【特許文献4】特開2003−56536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまで開示された発明だけでは十分ではない。特許文献1あるいは特許文献2のような製造方法によって得られる成形製品は、その構成上、繊維含有率を高く設定する必要があり、圧縮成形はその生産性が低く、いずれもコストアップに繋がる傾向が大きいものである。また特許文献3あるいは特許文献4に示される構成とするには、その製造方法に手間がかかるため、やはりコストアップという問題を抱えることになる。すなわち、一方向に補強された指向性を有する繊維強化樹脂材の他方向への強度の向上を検討する場合には、一方向以外に繊維をどのように配向させるのかという点を考慮すると同時に、その構成を実現する際の生産性の確保が必要になる。生産性の向上を実現するには、連続生産できる方法であることが重要である。そしてこのような点を考慮すると一方向に補強された繊維強化樹脂材を製造する場合に、使用されるガラス繊維の構造は、引抜成形やフィラメントワインディング法を用いる際に、何ら製造上の問題が生じないものであることが重要である。
【0010】
本発明は、係る状況に鑑み、ボルト等のネジ材のような複雑な構造の複合材を構成する繊維強化樹脂材を製造する場合に、ネジ山の凹凸部を十分に補強することのできる繊維構造を有し、経済的に優れた製造原価で製造できる交絡ガラスストランドと、その製造方法、及びこの交絡ガラスストランドを用いて得られるガラス繊維強化樹脂引抜成形材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ネジ材のような一方向の指向性を有する補強性だけでは対応困難な強度性能を有する複合材を得るために用いられるガラス繊維に関わる研究を長年に亘り行ってきた。そしてこの研究の中で、ガラス繊維や複合材の製造が経済的に容易であり、しかも十分高い補強性を実現できるガラス繊維強化樹脂複合材を得るためのガラス繊維強化樹脂複合材の製造方法として、引抜成形を選択し、この引抜成形に適用することのできる最適なガラス繊維として引抜成形工程で繊維配向に異方性を付与できる複数本の繊維が交絡状態にされたガラス繊維を見出し、ここにその内容を開示するものである。
【0012】
本発明の交絡ガラスストランドは、2以上のガラスストランドが互いに交絡している交絡ガラスストランドであって、前記2以上のガラスストランドの番手の合計値に対する前記交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きく、かつJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上であることを特徴とする。
【0013】
ここで、2以上のガラスストランドが互いに交絡している交絡ガラスストランドであって、前記2以上のガラスストランドの番手の合計値に対する前記交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きく、かつJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上であるという点について以下で説明する。交絡ガラスストランドとは、複数のガラスフィラメントが束ねられた2以上の本数のガラスストランドが、ストランド方向に局所的には不規則に互いに螺旋状に絡み合い、いずれのストランドも直線芯線をなしていない状態を呈するガラスストランドである。本発明では、「交絡番手」とは、交絡状態にあるストランドの番手を表し、「番手」とは交絡状態から分割解舒された後(すなわち、交絡する前)の各々のストランドの番手を表すものである。すなわち本発明の交絡ガラスストランドは、複数のガラスフィラメントを複数本束ねたガラスストランドが2以上あり、このガラスストランドがいずれも互いに弛んだ状態で交絡している。そして、交絡ガラスストランドの交絡番手が、交絡ガラスストランドを構成する2以上のガラスストランド各々のストランドの番手の合計値よりも3.0%以上から18.0%以下までの範囲内で大きい。さらに、この交絡ガラスストランドの長手方向の引張強度の計測をJIS R3420(2006)に従って行うと、その値は、100MPa以上となっているというものである。すなわち、交絡ガラスストランドの交絡番手は、それを構成する各ガラスストランドの弛み度合いによって決まっており、絡ませる前の各々のストランドの番手の合計値、すなわち交絡ガラスストランドを構成するガラスストランド毎の各々の番手を加え合わせた総和よりも大きくなっている。この交絡番手の大きさが、絡ませる前の各々のストランドの番手の合計値を100とした時に、103%から118%の範囲となっているということである。言い換えると、交絡ガラスストランドは、交絡ガラスストランドを構成する複数のストランドから分割解舒した各々のガラスストランの番手の合計値に対し、ガラスストランドを交絡させた後の交絡ガラスストランドの交絡番手が、3.0から18.0%の範囲内にあるということである。
【0014】
上述したように、ガラスストランドを構成するフィラメントを互いに弛ませ、さらにフィラメントが弛んだ状態の複数のガラスストランドどうしを相互に交絡させて交絡ガラスストランドを得る方法として、本発明では、例えば二方向より圧縮空気の流れるノズルにストランドを挿入するエア混繊のインターレース加工を行えばよく、より好ましくは二方向からガラスストランドを導入して交絡させるツー・フィード方式を採用すればよい。このツー・フィード方式では、ガラスストランドの挿入量と巻取り量に差がある状態で、圧縮空気に通すことでガラスストランドのフィラメントを弛ませることが可能である。この時更に挿入するガラスストランド間でその挿入量間に差を生じさせると、軸を形成するガラスストランドとそれに交絡するガラスストランドとが形成され、夫々のガラスストランドを構成するフィラメントの弛みに加え、それらガラスストランド同志が弛んで交絡することにより、より大きい弛みを形成することができる。この場合、圧縮空気の流れるノズルに挿入することでフィラメントの弛んだ状態のガラスストランド同志を、更に圧縮空気の流れるノズルに挿入することで交絡させることも可能である。挿入するガラスストランドの本数は、交絡しやすい傾向を持たせることができるため、本数を多くした方が好ましい。ただしこのような圧縮空気中にストランドを通過させると、フィラメントの弛みと同時にフィラメントの破損、切断が生じ、結果的に加工されたストランドの引張強度を低下させてしまう。またエア混繊法については、上述ではインターレース加工について述べたが、それ以外にタスラン加工や、旋回気流を利用した加工を必要に応じて使用してもよい。
【0015】
以上のような観点から、プルトルージョン法やフィラメントワインディング法に基づく成形を採用する場合に好適なガラスストランドの交絡番手についての本発明者の研究によると、その値は、交絡ガラスストランドの交絡番手が、交絡ガラスストランドを構成する2以上のそれぞれの弛ませる前のガラスストランドの番手の合計値よりも3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きくなるようにし、さらに得られた交絡ガラスストランドのJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上であるというものが優れた性能を発揮できることが判明した。
【0016】
交絡ガラスストランドの交絡番手の増大が、交絡ガラスストランドを構成する2以上のそれぞれの弛ませる前、すなわち弛緩前の夫々のガラスストランドの番手の合計値よりも3.0%未満の値であると、弛み度合い(弛緩度合いともいう)が小さいため、一方向の引張強度は高くても、その方向に対して垂直方向の強度は満足できる程大きなものとならない。その結果、こうして得られた交絡ガラスストランドは、例えば螺子材として用いるには不十分なものとなってしまう。一方、交絡ガラスストランドの交絡番手の増大が、交絡ガラスストランドを構成する2以上のそれぞれの弛ませる前の夫々のガラスストランドの番手の合計値よりも18.0%を超えるものとなると、交絡ガラスストランドの製造時に圧縮空気中に繊維を通過させる際にフィラメントどうしの接触やノズル壁との接触によってフィラメントの破損が生じ易くなる。このため、得られた交絡ガラスストランドの引張強度を計測すると、そのバラツキが大きくなって引張強度の品位が安定せず、良品率が低下するものとなる場合があるため好ましくない。また交絡ガラスストランドのJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa未満では、実使用上十分な機械的性能を発揮しがたい場合もあるため好ましくない。
【0017】
交絡ガラスストランドを構成する2つ以上のガラスストランドの夫々のストランドの番手を調べるには、交絡ガラスストランドを解除して夫々のストランドの番手を計測すればよい。ストランドの番手は、ストランド長さ1000m当たりのグラム数で表される数値であり、交絡ガラスストランドの交絡番手は、交絡ガラスストランド長さ1000m当たりのグラム数で表される数値である。よって交絡ガラスストランドを構成するガラスストランドの夫々の番手の合計値に対する交絡ガラスストランドの交絡番手の大きさは、その大きさを%表示で表す場合には、交絡ガラスストランドの交絡番手を交絡する前の夫々のガラスストランドの番手の合計値で除した値に100を掛けた値である。
【0018】
得られた交絡ガラスストランドに対し、このストランドを構成する夫々のストランドの弛み状態を確認する具体的な方法としては、例えば、以下のようにすればよい。まず、得られた交絡ガラスストランドを図2に示す検尺機Aにより、最も張力の掛かるフィラメンントが、そのストランドの長手方向に100gの荷重が加わる状態で引き揃えて1mの長さ寸法に切断する。100gの荷重は、例えば分銅などで調製すればよい。すなわち、例えば両端に各50gずつ分銅を吊り下げて、ストランドを引き揃える等すればよい。ここで、図2(A)に示した検尺機10は、鋼板Tに支柱Pと切断刃Cとを備えたものであり、交絡ガラスストランドを図2(A)に示したように支柱Pに掛けて切断刃Cで切断すると、1m長の交絡ガラスストランドが正確に切断される。次いで、切断後の1mの交絡ガラスストランドの質量を測定し、交絡ガラスストランドの交絡番手を算出する。交絡番手とはこのような検尺機などの基準器を用いることにより、測定されたストランド長さ1000m当りのグラム数で表される数値である。
【0019】
次に、交絡ガラスストランドを構成する夫々のストランドの番手の合計値の測定は次のようにして行う。まず最初に、交絡ガラスストランドを構成する複数のストランドを夫々のストランドに分割解舒する操作を行う。交絡ストランドごとに分割解舒する方法としては、まず交絡ガラスストランドの端部を粘着テープなどによって、フィラメントの位置がずれないように固定する。固定された交絡ガラスストランドの交絡している最も弛んだ部分を探して見つけ、弛んだ部分に図2(B)に示すようにこの1本のストランドSを固定するため、針Hを刺し、1本のストランドSを他の交絡ストランドと分割解舒する。この解舒の際に、交絡している部分は撚りがかかっているため、粘着テープなどで固定した端部を解舒できる方向Rに回転させながら、針Hをストランド長方向に沿って移動させ、交絡ストランドを順番に分割解舒していく。分割解舒された交絡ストランドに対してさらに弛んだ部分があれば、同作業を繰り返して交絡ストランドを順々に解いてゆく。こうして分割解舒された交絡ストランドを構成するストランド毎に、図2に示す検査尺機Aを使って、その番手を測定する。すなわち、ストランド長手方向に100gの荷重を掛け、交絡加工によって弛んだ後の各ストランドを引き揃えてその長さを計測し、さらに各ストランドの質量を夫々測定し、これらの計測に基づいて交絡ガラスストランドを構成する前のガラスストランドの番手を出することができる。そして夫々のガラスストランドの番手の値を合計することによって合計値を算出することができる。
【0020】
他の方法として、交絡ガラスストランドを構成する夫々のガラスストランドの番手は、次のような手順で求めてもよい。前述の方法で分割解舒された交絡ストランドを構成するストランド毎に、まず、JIS R3420「ガラス繊維一般試験方法」(2006)の「7.6単繊維直径」に記載のB法(横断面法)により、各ストランドの単繊維(モノフィラメント)直径とフィラメント本数を測定する。ガラス材質の種類からガラスの密度が判明するので、この単繊維直径とフィラメント本数から下記の数1に示す式によって加工処理前の番手1を算出する。
【0021】
【数1】

【0022】
また、交絡ガラスストランドの強熱減量と水分率をJIS R3420(2006)に従って測定し、下記の数2の式により加工処理前の番手2を算出する。
【0023】
【数2】

【0024】
このようにして得られた交絡ガラスストランドを構成する各ストランドの加工処理前の番手2の合計値と、先に測定した交絡ガラスストランドの交絡番手から全体の番手上昇率が算出できる。
【0025】
また本発明の交絡ガラスストランドは、上述に加え交絡ガラスストランドを構成するすべてのストランドの中で弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値と、弛みの大きいグループのガラスストランドの番手の合計値との比率が1:1より大きく、1:3以下の範囲内にあるものであれば、弛んだガラスストランドが一方向の指向性に加え、その一方向に垂直な方向の強度をも効率よく補強し、またガラスストランドを樹脂材に複合化する処理において、交絡ガラスストランドを構成するガラスフィラメントが切断されるような不具合が発生し難いため、設計強度を十分に満足する複合材が得られるものとなる。また交絡ガラスストランド中の弛みの大きい交絡するストランドの割合が大きくなるため、複合樹脂材を成形する場合に、引抜工程でよりガラスストランドが他方向にも配向するようになる。
【0026】
弛みの小さいグループのガラスストランド、あるいは弛みの大きいグループのガラスストランドは、何れも1本の交絡ガラスストランドを解除した状態で、交絡ガラスストランド10m当たりについて比較した場合に、弛み度合いが小さく、ストランド長さが短いストランドのグループと弛み度合いが大きく、ストランド長さが長いストランドのグループを意味している。ちなみに、本発明では、「グループ」と表すのは、1本のガラスストランド、あるいは1本以上のガラスストランドの束、すなわち1以上のガラスストランド束を表すために用いる。すなわち1グループとは1本のガラスストランドでもよく、2以上のガラスストランドの束でもよい。
【0027】
交絡ガラスストランドを構成するすべてのストランドの中で弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値と、弛みの大きいグループのガラスストランドの番手の合計値との比率が1:1より大きく、1:3以下の範囲内にあるとは、弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値を1とすると、弛みの大きいグループのガラスストランドとの番手の合計値が1を超えた値から3以下の値までの範囲となるようにガラスストランドの番手を所定範囲内となるように構成したものである。弛みの小さいグループのガラスストランドと、弛みの大きいグループのガラスストランドとの番手の比率が1:1より大きく、1:3以下の範囲内を超える場合、すなわち弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値を1とすると、弛みの大きいグループのガラスストランドとの番手の合計値が1以下である場合には、樹脂と複合しても十分な複合強化が図れない。一方弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値を1とすると、弛みの大きいグループのガラスストランドの番手の合計値が3を超える場合には前記したように、ガラスストランドが、複合化を行う操作、例えば引抜成形の操作において切断されるといった問題が発生し、所望の強度が得られなくなるという問題があるので好ましくない。
【0028】
本発明の交絡ガラスストランドは、上述に加えプルトルージョン法による繊維強化材に使用されるものであれば、複合材の製造が従来から用いられている引抜成形によりなされるため、製造に格段の新たな設備の付与などが不要であり、これまで蓄積されたプルトルージョン法に関わる技術を適用することができるため、安定した品位の繊維強化材を経済的に安価に得ることができるので好ましい。
【0029】
繊維強化材を得るためにプルトルージョン法を採用する場合には、ガラスストランドを樹脂に含浸させ、加熱された金型に通し、引き抜くことによって、引抜方向にストランドが配列した繊維強化樹脂材が得られる。したがって引抜方向への引張強度は非常に高い。しかしこの引抜方向以外の方向に対する強度は弱く、例えば曲げ強度やせん断強度は弱くなる。曲げ、せん断強度を向上させるためには、引抜方向以外の方向にストランドを配向させることが重要になる。本発明の交絡ガラスストランド、すなわち弛んだ状態のストランドが互いに交絡するガラスストランドを使用することによって、引抜成形において繊維を引き抜く工程で、繊維を引抜方向以外に配向させることが可能となる。しかもこの方法で行うならば、生産性は良好であり、高い効率で製造を行うことができる。また引抜成形において繊維としてガラス繊維を使用した場合、フィラメントが切断してしまう問題はあるが、上述したように最も弛みの大きいガラスストランドとの交絡番手の比率が1:1より大きく、1:3以下の範囲内にあるものとすれば、それも改善できる。こうして本発明の交絡ガラスストランドは、プルトルージョン法に特に好適な構成を有するものとなる。
【0030】
本発明の交絡ガラスストランドのガラス組成については、所望の性能を発揮できるものであれば特に限定されることはない。ただ安価で最も多量に使用されているEガラスであれば、製造方法も確立されているので、本発明に適用するのは好ましい。Eガラス以外にも、そのガラス組成が例えば酸化物換算の質量百分率表示でSiO 54〜65%、ZrO 14〜25%、LiO 0〜5%、NaO 10〜17%、KO 0〜8%、RO(ただし、R=Mg+Ca+Sr+Ba+Znを示す) 0〜10%、TiO 0〜7%、Al 0〜2%であり、より好ましくはSiO 57〜64%、ZrO16〜24%、LiO 0.5〜3%、NaO 11〜15%、KO 1〜5%、RO(ただし、R=Mg+Ca+Sr+Ba+Znを示す)0.2〜8%、TiO0.5〜5%、Al0〜1%を示す耐酸性、耐アルカリ性を有するARガラス繊維にも適用できる。また上述以外にも、DガラスやSガラス、あるいはそれ以外の新規に開発されたガラス材質であっても必要に応じて適用してよい。
【0031】
本発明の交絡ガラスストランドの製造方法は、2以上のガラスストランドを交絡させ、ガラスストランドが互いに交絡した状態の交絡ガラスストランドを得る交絡ガラスストランドの製造方法であって、交絡前の夫々のガラスストランドの番手の合計値に対して、交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きくなるように交絡させることにより、交絡ガラスストランドを製造することを特徴とする。
【0032】
ここで、2以上のガラスストランドを交絡させ、ガラスストランドが互いに交絡した状態の交絡ガラスストランドを得る交絡ガラスストランドの製造方法であって、交絡前の各々のガラスストランドの番手の合計値に対して、交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きくなるように交絡させるとは、次のような構成である。すなわち互いに弛んだ状態の2以上のガラスストランドが交絡するガラスストランドを得るために、交絡ガラスストランドを構成する弛ませる前の各々のガラスストランドの番手の合計値に対する交絡された後のガラス繊維の交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内だけ大きく、かつ交絡された後のガラス繊維のJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上となるように互いのガラスストランドが弛んだ状態にして、絡ませることで交絡ガラスストランドを得るというものである。
【0033】
交絡ガラスストランドを製造する際に、弛ませる前の各々のガラスストランドの番手の合計値より弛ませた後の交絡ガラスストランドの交絡番手の増大が3.0%未満となるように弛ませた場合には、引抜成形工程で繊維配向に異方性を付与できる構成とはならず、複合材料を構成する際に一方向の強度以外の強度を十分に確保することが難しい。また交絡ガラスストランドを製造する際に、弛ませる前の各々のストランドの番手の合計値より弛ませた後の交絡番手の増大が18.0%を超えるように弛ませた場合には、例えば引抜成形でガラスフィラメントの破損、切断が生じ易くなり、十分な強度を発揮できなくなる場合も生じるため好ましくない。
【0034】
交絡ガラスストランドを構成する全てのガラスストランドの弛ませる前の番手の合計値より弛ませた後の交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内だけ大きくなるようにするには、ツー・フィード方式で交絡ガラスストランドを製造する際にガラスストランドの挿入量と巻取り量とを調整することによって実現することができる。
【0035】
本発明の交絡ガラスストランドの製造方法は、上述に加えて交絡ガラスストランドを構成する全てのガラスストランドの中の弛みの小さいグループのガラスストランドの、弛ませる前のガラスストランドの番手に対する番手上昇率Aが1.5%以上8.0%以下であり、弛みの大きいグループのガラスストランドの、弛ませる前のガラスストランドの交絡番手に対する番手上昇率Bが4.0%以上28.0%以下であり、AとBとの比率が1:2から1:10の範囲内にあるならば、ガラス繊維強化樹脂引抜成形材を得る場合に安定した強度を有する引抜成形材を得ることができるので好ましい。
【0036】
交絡ガラスストランドを製造する際に、ツー・フィード方式により引張強度を維持しながらより大きな弛みを生じさせるには、一方向のガラスストランドの番手上昇率Aが1.5%から8.0%の範囲で大きくなるように弛ませ、他方向からそのガラスストランドに絡むガラスストランドの番手上昇率Bが4.0%から28.0%の範囲で大きくなるように弛ませて交絡させると、より効果的にストランドを引抜方向以外の方向に配向することができる。またその弛みの小さいストランドと弛みの大きいストランドの番手が大きくなる割合の比率が1:2から1:10であると、さらに好ましい。このような弛みの比率に大きく差を付けるには、ツー・フィード方式で一度圧縮空気により弛ませたストランドをさらに圧縮空気で交絡させるか、圧縮空気で同時に交絡させることが考えられるが、いずれにしても交絡時に圧縮空気内への挿入量と空気圧によって調整することが好ましい。上記の弛み比率になるように圧縮空気で交絡させた場合、弛みの小さいストランドは軸のように作用し、弛みの大きいストランドは軸部に大きく交絡し、より弛みの大きいストランドとなる。
【0037】
本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、本発明の交絡ガラスストランドを体積百分率表示で30%以上50%以下含有してなるものであるため、構造物としての外観上も何ら支障がなく高い成形性を有し、さらに性能面でも種々の強度などについて所望の性能を発揮できるものである。
【0038】
ガラス繊維強化樹脂引抜成形材が、本発明の交絡ガラスストランドを体積百分率表示で30%未満しか含有しないものであると、引抜成形を行う際に製品の形状保持ができなくなり、得られた成形体が巣の空いた成形体となってしまう場合もある。一方ガラス繊維強化樹脂引抜成形材が、本発明の交絡ガラスストランドを体積百分率表示で50%を超える含有率になると、引抜く際のストランドの体積が大きくなり、繊維の配向が強制的に引抜方向になりやすくなってしまい、ストランドの異方性が出にくくなり、本発明のストランドを弛ませる効果を得られない。このようにガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、本発明の交絡ガラスストランドを体積百分率表示で30%以上50%以下に調整することで、引抜方向以外の方向に繊維を配向しやすくなり、製品の外観上の問題もない優れた品位の成形体を得ることができる。通常のガラス繊維強化樹脂引抜成形材では、本発明のように補強用に使用するストランドを体積百分率表示で50%以下にすると成形体に空隙が発生したり、成形体の形状保持ができず形状不良を起こしたりすることに繋がる。本発明のガラスストランドを適量使用することによってストランドが弛んだ状態で嵩高になるため、引抜成形体の形態を保持する役割を十分に発揮し、さらに強度特性をそれほど必要としない成形品を得る場合であっても、ガラス繊維量を減少させることができるので、製造コストの低減が可能となる。以上のような観点から本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、本発明の交絡ガラスストランドを体積百分率表示でより好ましくは35以上45%以下含有してなるものであれば、より一層上記の効果を得やすいものとなるので好ましい。
【0039】
本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、上述に加えて螺子材として用いられるものであるならば、繊維強化樹脂複合材に切削加工などを施すことによってネジ山を加工する場合であってもガラスストランドの切断が著しく低減されたものとできるので、高い強度をもつ螺子材を経済的に安価に製造することができる。
【0040】
螺子材として本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材を用いる場合には、引抜成形において引抜方向以外の方向にストランドが配向することにより、引抜方向への引張強度の他に曲げ、せん断強度の向上がなされる。このような特性の利用が効果的になされるため、螺子材は本発明では特に好適なガラス繊維強化樹脂引抜成形材である。すなわち本発明のガラスストランドを用いて引抜成形した棒材を作成し、ネジ山部分の凹凸を切削加工してボルト等を製造する場合には有効である。この場合には、螺子材のネジ山が形成する螺旋構造について、交絡ガラスストランドの異方性により、棒材表面に加工したネジ山の強度が向上することにより、ナットをはめた状態での引張強度、ネジ材としての引張強度は著しく向上する。また本発明の繊維の形態であれば、最良の条件を選択することによって引抜成形時にガラス繊維が切断することもなくなる。
【0041】
このような螺子材は様々な用途で用いられる。例えば、耐蝕FRP分野で用いられる螺子材では、繊維強化樹脂複合材を切削加工する場合に、切削面にはガラスストランドがむき出し状態になるが、このような場合でも、耐酸性また耐アルカリ性を有するARガラス繊維を使用すると切断面が優れた耐久性を示すため、本発明のガラスストランド或いは繊維強化樹脂複合材の用途拡大に有効である。ARガラス繊維により構成された交絡ガラスストランドは、本発明のガラスストランドの形態にすることで、ストランドを構成するフィラメントの切断がなく、引抜成形が可能であって、機能的な繊維強化樹脂複合材を得ることができるからである。
【発明の効果】
【0042】
(1)以上のように本発明の交絡ガラスストランドは、2以上のガラスストランドが互いに交絡している交絡ガラスストランドであって、前記2以上のガラスストランドの番手の合計値に対する前記交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きく、かつJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上であるため、繊維の切断などがなく引抜成形が可能であって、引抜方向以外の方向に繊維を配向させることが可能である。このためボルト等のネジ材のような複合材を構成する繊維強化樹脂材を製造する場合に、ネジ山の凹凸部に加わる外力に対して十分に補強することが可能である。
【0043】
(2)また本発明の交絡ガラスストランドは、交絡ガラスストランドを構成する全てのガラスストランドの中の弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値と、弛みの大きいグループのガラスストランドの番の合計値との比率が1:1より大きく、1:3以下の範囲内にあれば、引張強度を維持しながら更に繊維の配向をより大きく変化させることができ、所望の強度を有するものとできる。
【0044】
(3)また本発明の交絡ガラスストランドは、プルトルージョン法による繊維強化材に使用されるものであれば、成形時に問題となるガラス繊維の切断を抑制しつつ経済的に安価な費用で実使用上優位な強度を有する複合材を得ることができ、所望の機械的な性能を発揮するものを得ることができる。
【0045】
(4)本発明の交絡ガラスストランドの製造方法は、2以上のガラスストランドを交絡させ、ガラスストランドが互いに交絡した状態の交絡ガラスストランドを得る交絡ガラスストランドの製造方法であって、交絡前の夫々のガラスストランドの番手の合計値に対して、交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きくなるように交絡させることにより、交絡ガラスストランドを製造するものであるため、プルトルージョン法を適用する場合にガラスフィラメント繊維の切断を伴いにくく、その結果プルトルージョン法を適用して得られた成形体に関して、その経時的な機械的強度は安定した性能が発揮されるガラスストランドを得ることができるものである。
【0046】
(5)本発明の交絡ガラスストランドの製造方法は、交絡ガラスストランドを構成する全てのガラスストランドの中の弛みの小さいグループのガラスストランドの、弛ませる前のガラスストランドの番手に対する番手上昇率Aが1.5%以上8.0%以下であり、弛みの大きいグループのガラスストランドの、弛ませる前のガラスストランドの番手に対する番手上昇率Bが4.0%以上28.0%以下であり、AとBとの比率が1:2から1:10の範囲内にあれば、交絡時に圧縮空気内への挿入量と空気圧によって調整することによって所望の性能を発揮する交絡ガラスストランドを得ることができるので、複合材の製造方法や成形された複合材の性能として要求される性能に応じて所定の異方性を有する交絡ガラスストランドを効率よく得ることができる。また本発明の製造方法では、引張強度を維持しながら大きく繊維を弛ませることが可能であり、引抜成形などの成形方法によって複合材を製造する時に繊維の配向をより大きく変化、調整させることが容易である。
【0047】
(6)本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、本発明の交絡ガラスストランドを体積百分率表示で30%以上50%以下含有してなるため、引抜方向への引張強度だけではなく、曲げ、せん断強度の向上したガラス繊維強化樹脂複合材を得ることができる。また本発明の引き抜き成形ガラス繊維強化樹脂複合材は、ネジ材として使用するものであり、繊維の異方性により、非常に高いネジ山強度が得られ、ボルトとナットに組み合わせた時の引張強度が著しく向上する。そして本発明の引き抜き成形ガラス繊維強化樹脂複合材は、経済的な製造費用で高い強度性能を発揮するものであり、多くの構造材に適用することが可能である。
【0048】
(7)本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、螺子材として用いられるものであるならば、繊維の異方性により、非常に高いネジ山強度が得られ、ボルトとナットに組み合わせた時の引張強度が著しく向上する。そしてこの高い引張強度を有するため、本発明のガラス繊維強化樹脂引抜成形材は、経時的に劣化しにくく耐久性の高い種々の安価な螺子材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の交絡ガラスストランドの写真。
【図2】交絡ガラスストランドの計測に関する説明図であって、(A)は検尺機の説明図、(B)は交絡ガラスストランドの解舒に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に本発明の交絡ガラスストランドとその製造方法及びそれを用いたガラス繊維強化樹脂引抜成形材について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0051】
表1及び表2には、本発明の実施例に相当する交絡ガラスストランドとその交絡ガラスストランドを使用したガラス繊維強化樹脂引抜成形材の性能を示す。表1及び表2にて、ガラス組成として「AR」と表記したのは、交絡ガラスストランドがARガラス組成の材質であることを表すものであって、「E」と表記したのは、いわゆる無アルカリガラスのEガラス組成の材質であることを表している。
【0052】
【表1】



【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表1及び表2に示した構成の交絡ガラスストランドは、以下の手順によって作製したものである。まずガラス溶融炉から耐熱性を有するブッシング装置を使用して、ガラスストランドを連続的に引き出して、DWR(シングルストランド)の形態に巻き取った。これらの交絡ガラスストランドは、表1及び表2に「AR」と表記したものは、ARガラス繊維(質量百分率表記でSiO61.0%、ZrO19.5%、LiO1.5%、NaO12.3%、KO2.6%、CaO0.5%、TiO2.6%)であり、「E」と表記したものは、Eガラス繊維(質量百分率表記でSiO58%、NaO0.3%、KO0.1%、CaO24.2%、TiO0.2%、MgO1.3%、SrO0.1%、Al8.6%、B7.1%)である。巻き取りの際には、予め調製して準備したサイジング剤をブッシングから引き出されたガラスフィラメントの表面にロール法を用い、強熱減量が0.1〜0.8%になるように塗布した。サイジング剤の成分は、フタル酸系ポリエステル樹脂或いはビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂を含み、メタクリルシランカップリング剤(日本ユニカ株式会社製)とポリアミン潤滑剤からなるものである。またこのDWRは、ガラスフィラメントのモノフィラメント直径がいずれも約13μmで数百本を集束させ、番手が260tex以上420tex以下になるように調整し、乾燥することにより得られるものである。
【0056】
こうして得られたDWRは、圧縮空気を使用することによって2以上のガラスストランドを互いに交絡させるノズルを有し、ガラスストランドの送り出し速度と巻き取り速度を各々調整できるツー・フィード方式のガラスストランド交絡機を使用することにより交絡加工を行った。具体的には、表1に示した構成になるように二方向より送出する各々のガラスストランドを構成するDWRの使用数を調整して、これらのDWRから解除したガラスストランドを引き出し、圧縮空気の流れるノズルを通過させ、巻取り機を使用することにより巻取り操作を行った。JIS R3420(2006)の番手の測定に従って測定した大きく弛ませたグループのストランドの番手の合計値と弛みの小さいグループのストランドの番手の合計値から下記の数3の式に従い番手比率を算出した。
【0057】
【数3】

【0058】
また、各方向から送り出されるガラスストランドは表1の番手上昇率になるように各々の送り出し速度と巻き取り速度に差を生じさせつつ交絡加工の条件調整を行った。そしてこの際にストランド番手の上昇率の調整、或いは二方向のガラスストランドどうしの交絡状態を最適なものとするため、圧縮空気の圧力条件を調節した。具体的には、ガラスストランドを絡ませるように送出する際使用する圧縮空気の圧力は、3〜10kgf/cmの範囲内となるように調整した。また、巻取り速度の条件は、250m/分以下であると、ガラスストランドを相互に弛ませる調整がしやすくなるため、この条件になるように調整した。このように交絡加工されたガラスストランドは、JIS R3420(2006)のストランド番手の測定に従って、加工する前の夫々のストランドの番手と加工した後の交絡ストランドを構成する夫々の交絡番手を測定し、下記の数4及び数5の式にそれぞれ従い、番手上昇率と番手上昇率比率を算出した。ちなみに、本実施例では、加工前の未弛緩のストランドの番手、加工後の交絡ストランドを構成する夫々の交絡ストランドの交絡番手が既知のストランドを用いているが、例えば、加工後の交絡ガラスストランドを入手した場合でも、前述したような検尺機を用いて所定長のストランドを得、その後分解解舒を行う確認手段により加工前の未弛緩のストランド交絡番手についての情報を得ることができる。
【0059】
【数4】

【0060】
【数5】

【0061】
このようにしてガラスストランドの弛み状態を調整した交絡ガラスストランドについて、JIS R3420(2006)の引張強さの測定方法に従ってその最大引張荷重の測定を行った。なお支点間距離は250mmで、引張速度300mm/分で試験を行った。得られた引張荷重から交絡番手と密度(Eガラス:2.6g/cm、ARガラス:2.8g/cm)を用い、引張強度を求めた。
【0062】
また、上記のようにして得られた1mの長さの交絡ガラスストランド10本について、解除操作を行い、交絡ガラスストランドを構成する夫々のガラスストランドに解除してガラスストランドの本数、単繊維直径の計測を行い、さらに数1、数2の各式によって計算すると、交絡ガラスストランドの交絡番手の値が設計に従う品位のものが得られていることを確認できた。
【0063】
このようにして得られた交絡ガラスストランドを数十から数百本束ねた状態のままで樹脂槽に浸漬した。そして樹脂を含浸された交絡ガラスストランドは、120mm/分の速度で金型を通過させ、引抜成形を行った。この時交絡ガラスストランドの繊維量は、樹脂が含浸した交絡ガラスストランドを金型に通過させる際に金型入り口に入るだけの量とした。また複合材を形成するための樹脂は、ビニルエステル樹脂(昭和高分子株式会社製のリポキシ(登録商標)R−802)を使用し、交絡ガラスストランドを約140℃に設定した金型を通過させることにより、引抜棒材を得た。その後この引抜棒材について、所定の切削加工装置を使用することによってネジ山部の凹凸の切削加工を行い、M12のボルトを得た。
【0064】
ネジ材引張荷重は、以上のようにして測定した。まず得られた引き抜き成形ガラス繊維強化樹脂複合材製のボルトに2個のナット(金属)を取り付ける。この際に2個のナット間の距離が100mmになるように調整した。この状態で島津製作所製オートグラフを使用して、一方のナットを台座に固定し、他方のナットにワイヤーをかけて上方に5mm/分の速度で引っ張り、その最大荷重値を計測した。試験終了後、試験片を620℃で3時間電気炉中にて焼却し、その質量減少率からガラスストランドの体積百分率を求めた。
【0065】
以上の評価の結果、本発明の実施例である試料No.1〜26については、交絡ガラスストランド全体の番手上昇率が3.7%以上17.5%以下であり、弛みの小さいストランドの番手上昇率が1.8以上8.0%以下、弛みの大きいストランドの番手上昇率が5.4%以上25.1%以下であって、番手上昇率の比率が1:2.9から1:8.6の範囲内であって、番手比率も1:1.10から1:2.93の範囲内である。すなわち交絡ガラスストランド全体の番手上昇率が3.7%以上17.5%%以下であるということは、ガラスストランドの番手に対する交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内にあり、本発明の要件を交絡ガラスストランドであるということである。また番手比率も1:1.10から1:2.93の範囲内であるということは、弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値と、弛みの大きいグループのガラスストランドの番手の合計値との比率が1:1より大きく、1:3以下という要件も満足しているということである。そしてこの交絡ガラスストランドについてJIS R3420(2006)に従う引張強度の計測結果は、120MPa以上であり、糸切れすることなく引抜成形が可能であった。そして、成形されたガラス繊維強化樹脂引抜成形材の繊維体積百分率が32%以上44%以下であるため、ネジ材引張荷重の計測を行うと、最大荷重値の最も小さい値のものでも10012N以上を有する十分に高い引張荷重の得られることが判明した。
【0066】
一方比較例として表3に示すような構成になる試料No.27〜31を準備した。比較例である試料No.27〜31は、実施例と同様の手順で交絡ガラスストランドを作製し、ガラス繊維強化樹脂引抜成形材を得た。また比較例についての各種評価試験の試験方法に関しても、実施例と同様の設定と仕様に従って評価を行った。その結果、表3に示すように弛み小さいストランドの番手上昇率が0.4%で弛みの大きいストランドの番手上昇率が2.4%であって弛ませる前の夫々のストランドの番手の合計値より弛ませた後の交絡番手が1.5%大きい試料No27は、引張強度が798MPaと高い値を示すが、ネジ材強度が7701Nと低い値を示した。また弛みの大きいストランドの番手上昇率が3.4%であって、番手上昇率の比率が1:1.1である試料No.28についても引張強度が624MPaと高い値を示すが、ネジ材強度が8204Nと低い値を示した。また番手上昇率の比率が1:1.6である試料No.29についても引張強度が423MPaと高い値を示すが、ネジ材強度が8450Nと低い値を示した。また弛みの大きいストランドと弛みの小さいストランドの番手比率が1:4.48である試料No.30と弛ませる前の夫々のストランドの番手の合計値より弛ませた後の交絡番手が19.8%大きい試料No.31は引張強度が82MPaと78MPaであり、100MPaを下回り、引抜成形時に糸切れが多発し、成形不可能であった。
【0067】
以上のように本発明の実施例である試料No.1〜26に対して、比較例である試料No.27〜31を比較することによって、本発明の交絡ガラスストランドは、複合材を形成する際に引き抜き成形法を適用する場合であっても、ガラスストランドの切断に起因する強度の低下などが発生せず、高いネジ材引張強度を有するガラス繊維強化樹脂引抜成形材を形成できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
ここでは、主として引抜成形成形法に適用する場合について、具体的に述べたが、本発明の交絡ガラスストランドは、引抜成形以外にもフィラメントワインディング法で成形されるガラス繊維強化樹脂複合材に適した性状を有するものである。また、本発明の実施例ではガラス繊維強化樹脂複合材の一例として、ネジに適用する場合について説明したが、他の形態、例えば板状材や柱状材、管状材などの多様な形態の複合材として用いる場合にも本発明は、高い機械的性能を発揮するものとなる。
【符号の説明】
【0069】
10 検尺機
T 鋼板
C 切断刃
P 支柱
R 交絡ガラスストランドの回転方向
H 針
S 交絡ガラスストランド
交絡ガラスストランドを構成する1本のストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のガラスストランドが互いに交絡している交絡ガラスストランドであって、
前記2以上のガラスストランドの番手の合計値に対する前記交絡ガラスストランドの交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きく、かつJIS R3420(2006)に従う引張強度が100MPa以上であることを特徴とする交絡ガラスストランド。
【請求項2】
交絡ガラスストランドを構成する全てのガラスストランドの中の弛みの小さいグループのガラスストランドの番手の合計値と、弛みの大きいグループのガラスストランドの番手の合計値との比率が1:1より大きく、1:3以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の交絡ガラスストランド。
【請求項3】
プルトルージョン法による繊維強化材に使用されるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の交絡ガラスストランド。
【請求項4】
2以上のガラスストランドを交絡させ、ガラスストランドが互いに交絡した状態の交絡ガラスストランドを得る交絡ガラスストランドの製造方法であって、
交絡前の各々のガラスストランドの番手の合計値に対して、交絡番手が3.0%以上18.0%以下の範囲内で大きくなるように交絡させることにより、交絡ガラスストランドを製造することを特徴とする交絡ガラスストランドの製造方法。
【請求項5】
交絡ガラスストランドを構成する全てのガラスストランドの中の弛みの小さいグループのガラスストランドの、弛ませる前のガラスストランドの番手に対する番手上昇率Aが1.5%以上8.0%以下であり、弛みの大きいグループのガラスストランドの、弛ませる前のガラスストランドの番手に対する番手上昇率Bが4.0%以上28.0%以下であり、AとBとの比率が1:2から1:10の範囲内にあることを特徴とする請求項4に記載の交絡ガラスストランドの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3の何れかに記載の交絡ガラスストランドを、体積百分率表示で30%以上50%以下含有してなることを特徴とするガラス繊維強化樹脂引抜成形材。
【請求項7】
螺子材として用いられるものであることを特徴とする請求項6に記戴のガラス繊維強化樹脂引抜成形材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−84312(P2010−84312A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202293(P2009−202293)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】