説明

位置検出装置

【課題】リニアモータの二次側の界磁を利用して移動体の位置を検出する位置検出装置は、精密機器の移動装置に適用し得る検出精度を有していない。
【解決手段】主位置演算器20は現在位置の上位桁である主位置データを出力し、従位置演算器60は現在位置の下位桁である従位置データを出力する。主位置演算器20は、磁気センサ10の検出信号から2相の矩形波信号を得て計数信号を発生し、計数信号を累積加減算して主演算データを得る。デジタルフィルタ40は、移動平均によって検出信号の振動成分を濾波する。従位置演算器60は、検出信号の逆正接を求めて従位置データを得る。位置演算器70は、主位置データと従位置データを加算して位置データを生成する。ピッチ補正器90は、移動方向に合わせて位置データをピッチ補正値で補正して移動制御装置4に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体をリニアモータで移動させるリニアモータ方式の移動装置の位置検出装置に関する。特に、リニアモータの二次側の界磁を利用して移動体の位置を検出する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直線1軸方向に往復移動する移動体をリニアモータで移動させるリニアモータ方式の移動装置がある。リニアモータ方式の移動装置は、一般的に移動体の現在位置を検出して位置の誤差を補正しながら移動体を移動させる移動制御装置を備えている。
【0003】
高精度工作機械、精密測定装置、あるいは半導体製造装置のような精密機器の移動装置では、比較的高速に移動する移動体を10μm以下の高精度で位置決めすることが要求される。高速に移動する移動体を高精度に移動制御するためには、要求される位置決め精度に相応する検出速度と検出精度を有する位置検出装置が必要である。
【0004】
リニアモータ方式の移動装置における高い検出精度を有する位置検出装置の位置検出器として、リニアエンコーダが有力である。リニアエンコーダは、光学式リニアエンコーダと磁気式リニアエンコーダとに大別される。光学式リニアエンコーダは、検出信号に対する信頼性が高く精確であるが、塵や埃の汚染に対して脆弱である。一方、磁気式リニアエンコーダは、光学式リニアエンコーダに比べて高い検出精度を得ることが難しいが、比較的低価格で取扱いが簡単である。
【0005】
リニアエンコーダの最大の短所は、高精密であることに起因するコストの高さである。1μm以下の“超高精度”であることまでは要求されない精密機器の移動装置においては、リニアエンコーダの検出精度は過剰である。そのため、リニアエンコーダに要する費用が負担になっている。しかしながら、リニアエンコーダに代えることができる低廉で信頼性がある位置検出器が存在しないのが実情である。
【0006】
特許文献1は、リニアモータの二次側の界磁を利用して移動体の位置を検出する位置検出装置を開示している。具体的には、特許文献1に開示される位置検出装置は、永久磁石列をスケールに見立てて、磁場もしくは磁界の大きさを検出するホール素子のような磁気センサの検出信号から移動体の現在位置を得る。特許文献1の発明では、塵や埃の影響に敏感であるスケールがないので、検出器の構成が比較的簡単であり、維持管理が容易である利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−56892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、磁気センサが出力するアナログの検出信号には、ノイズに因る振幅が不特定で比較的大きい振動成分が全周波数帯域で存在している。そのため、振動成分を濾波して取り除くだけでは、ノイズがない正規の正弦波波形の検出信号に十分近接した位置データを常に安定して得られるとは限らない。その結果、検出信号の信頼性が低く、精密機器の移動装置の位置検出装置として必要な程度まで検出精度を高くすることができない。
【0009】
また、リニアモータの永久磁石板には、各永久磁石毎に不可避の取付誤差が存在するので、極ピッチの間に離散的な誤差が発生する。磁気センサは、リニアモータのギャップに形成される磁場もしくは磁界の大きさを検出するものであるから、極ピッチの誤差が検出精度に直接影響を及ぼす。そのため、精密機器の移動装置の位置検出装置として必要な検出精度を得ることが困難である。
【0010】
本発明は、リニアモータの二次側の界磁を利用して移動体の位置を検出する位置検出装置であって、より高い検出精度を得ることができ、精密機器の移動装置に適用できる改良された位置検出装置を提供することを主たる目的とする。本発明の位置検出装置の具体的ないくつかの利点については、実施の形態の移動装置を説明するときに詳細に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の位置検出装置は、上記目的を達成するために、リニアモータ(2)の一次側に設けられる複数の磁気検出手段(10)と、磁気検出手段(10)が出力する検出信号で得られる90度の位相差を有する2相の矩形波信号から計数信号を得るとともに検出位置の移動方向に合わせて計数信号を累積加減算して主位置データを出力する主位置演算手段(20)と、移動平均によって検出信号から振動成分を除去する濾波手段(40)と、振動成分が除去された検出信号の逆正接を求めて従位置データを出力する従位置演算手段(60)と、主位置データと従位置データとから位置データを生成する位置生成手段(70)と、移動方向に合わせて位置データをピッチ補正値で補正して移動制御装置(4)に出力する位置補正手段(90)と、を含んでなるようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の位置検出装置は、移動平均によって磁気センサの検出信号から振動成分を除去するので、検出信号が不特定で比較的大きい振幅の振動成分を含んでいても、安定して正規の正弦波波形の検出信号に近接した位置データを得ることができる。また、予め実測して獲得している複数のピッチ誤差データからピッチ補正値を計算して、位置データをピッチ補正値で補正して移動制御装置に与える。
【0013】
そのため、リニアモータの二次側の界磁を利用して移動体の位置を検出する位置検出装置であって、多くの精密機器の移動装置で許容される十分に高い検出精度を得ることができる。その結果、構成が比較的簡単で、位置検出装置に要する費用の負担を小さくすることができる。また、位置検出器の耐久性が高く、維持管理を容易にして作業性を向上させ、維持管理に要する費用を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】リニアモータ方式の移動装置における移動体とリニアモータを模式的に示す側面断面図である。
【図2】本発明の位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】出力信号の波形を示すタイミングチャートである。
【図4】ピッチ補正値の計算方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、三相交流同期型リニアモータのモデルを示す。図2は、位置検出装置と移動制御装置の構成を示す。移動体1は、直線1軸方向Xに往復移動する直線移動体である。移動体1は、図示しないガイドを介在させて基台の上に移動可能に搭載される。移動体1は、例えば、工作機械のテーブルあるいは半導体製造装置のステージである。
【0016】
リニアモータ2は、移動体1を移動させるアクチュエータである。リニアモータ2は、一次側が励磁コイル2Aであり、二次側の界磁が複数の永久磁石2Bである永久磁石型モータである。励磁コイル2Aと永久磁石2Bは、数mm以下のギャップGを隔てて設けられる。実施の形態のリニアモータ2は、一次側が可動子で二次側が固定子である。
【0017】
励磁コイル2Aは、冷却機構を含むコイルユニットCUの鉄心CFに銅線を巻き回してなる。コイルユニットCUは、移動体1の下側に取り付けられる。励磁コイル2Aは、直線1軸方向Xに沿ってU相,V相,W相の各相の順番に等間隔に設けられる。永久磁石板MBには、直線1軸方向Xに沿って複数の平板形の永久磁石2Bが等間隔に固着されている。複数の永久磁石2Bは、上面側がN極の永久磁石と上面側がS極の永久磁石とが交互に所定の極ピッチPで直線的に配列される。
【0018】
位置検出装置3は、リニアモータ2の二次側の界磁を利用して移動体1の位置を検出する。位置検出装置3の本体3Aは、移動体1ないしはコイルユニットCUに取り付けられる。設置条件によって本体3Aの中に設けることができない部位は、図2に示されるような本体3Aから離れた場所3Bに設けられる。例えば、実施の形態の位置検出装置3では、移動制御装置4の中に本体3Aから離れた場所3Bがある。
【0019】
移動制御装置4は、図示しない指令装置から与えられる移動指令に従ってリニアモータ2を駆動制御する制御信号を出力するモータ制御装置と制御信号に基づいてリニアモータ2の一次側に所要の電流を供給する駆動装置とを含んでなる。指令装置は、入力装置と表示装置を含むヒューマンインターフェースを有する制御装置に設けられることが一般的である。
【0020】
移動制御装置4は、移動体1の現在位置に基づいて位置の誤差を補正しながら移動体1を移動制御する。移動制御装置4は、位置検出装置3から現在位置を示す位置データを入力して移動指令と現在位置との誤差がなくなるように制御信号を演算して出力する。また、移動制御装置4は、同じように速度の誤差と電流の誤差がなくなるように補正しながら移動体1を移動制御する。したがって、移動制御装置4は、サーボ制御系を有するリニアモータ2の制御装置である。
【0021】
図3は、位置検出装置の各装置の出力信号の波形を示す。図3では、各出力信号間における遅延時間を無視して各出力信号の波形が示されている。以下に、図1ないし図3を用いて位置検出装置3の構成と動作を詳しく説明する。
【0022】
位置検出装置3は、複数の磁気センサ10と、主位置データを出力する主位置演算器20と、アナログデジタル変換器30と、デジタルフィルタ40と、検出信号の波形を揃える波形補正器50と、従位置データを出力する従位置演算器60と、現在位置を示す位置データを求める位置演算器70と、パラレルシリアル変換器80と、位置データをピッチ補正値で補正するピッチ補正器90と、を含んでなる。
【0023】
磁気センサ10は、リニアモータ2のギャップGに形成される磁場もしくは磁界の大きさを検出する磁気検出手段である。磁気センサ10Aは、正弦波波形の検出信号を出力する。磁気センサ10Bは、磁気センサ10Aの検出信号に対して90度の位相差を有する正弦波波形の検出信号を出力する。言い換えると、磁気センサ10Bは、磁気センサ10Aの検出信号を基準にして余弦波波形の検出信号を出力する。例えば、複数の磁気センサ10は、図3Aに示されるような正弦波波形SINと余弦波波形COSの検出信号を出力する。
【0024】
磁気センサ10は、リニアモータ2の一次側のコイルユニットCUに設けられる。具体的に、磁気センサ10Aと磁気センサ10Bは、図1に仮想で表わされている直線1軸方向XにおけるギャップGの磁界の大きさの変化を表わすサイン曲線SCに対して互いに位相角で90度離れる位置に並設される。
【0025】
主位置演算器20は、磁気センサ10が出力する正弦波波形と余弦波波形の検出信号で得られる90度の位相差を有する2相の矩形波信号から計数信号を得るとともに磁気センサ10の移動方向に合わせて計数信号を累積加減算して主位置データを出力する主位置演算手段である。主位置演算器20は、具体的に、シュミットトリガとアップダウンカウンタを含んでなる。
【0026】
正弦波波形と余弦波波形の各検出信号は、主位置演算器20のシュミットトリガに入力される。シュミットトリガは、検出信号が所定電圧以上のときに矩形波信号を出力する。所定電圧は、実質的に0Vに設定される。したがって、各検出信号の正電圧側にある半波から90度の位相差を有するA相とB相の矩形波信号が得られる。図3Bは、シュミットトリガから出力される矩形波信号を示す。
【0027】
主位置演算器20は、矩形波信号の立上がりと立下がりのタイミングで計数信号を得る。図3Cに示されるように、正弦波波形の検出信号の1周期当たりに4つの計数信号が得られる。主位置演算器20は、A相の矩形波信号が進んで入力されるときには検出位置が直線1軸方向Xに沿って正の移動方向に移動していると判別する。A相の矩形波信号が遅れて入力されるときには検出位置が負の移動方向に移動していると判別する。
【0028】
主位置演算器20のアップダウンカウンタは、各相の計数信号を入力する各端子とカウント値をクリアするリセット端子を有する。アップダウンカウンタは、移動方向が正であるときは計数信号を加算する。一方、移動方向が負であるときは計数信号を減算する。
【0029】
主位置演算器20は、アップダウンカウンタのカウント値を主位置データに変換して出力する。実施の形態の位置検出装置3の主位置演算器20は、データ量が16ビットの主位置データを出力する。主位置データには、すでに判別されている移動方向を示すプラスマイナスの符号のデータが含まれる。
【0030】
計数信号は正弦波波形の4分の1周期(1/4π)当たりに1つ出力されるので、アップダウンカウンタの1カウント値は4分の1ピッチ(1/4P)に相当する。したがって、主位置データは、最小単位が1/4Pの現在位置の上位桁の値を示す位置データである。例えば、極ピッチPが48mmである場合では、カウント値が10であったとすると、現在位置の上位桁の値は120mmである。
【0031】
アナログデジタル変換器30は、差動増幅器で増幅された磁気センサ10のアナログの検出信号をデジタルの検出信号に変換する変換手段である。アナログデジタル変換器30は、磁気センサ10Aと磁気センサ10Bの出力に対してそれぞれ設けられる。
【0032】
アナログデジタル変換器30は、所定のサンプリング周期毎に検出信号の値を保持して所定の量子化数で量子化する。アナログデジタル変換器30の連続する出力信号は、図3Dに示されるようなデジタルの擬似正弦波波形と擬似余弦波波形の検出信号である。アナログデジタル変換器30から出力される検出信号の分解能は、正弦波波形の半波を分割する量子化数で決まる。
【0033】
実施の形態の位置検出装置3のアナログデジタル変換器30は、具体的に、アナログ信号を16ビットで量子化してデジタル信号に変換して出力する。したがって、例えば、極ピッチPが48mmである場合では、検出信号の分解能は、12mmを65536分割した約0.2μmである。
【0034】
デジタルフィルタ40は、磁気センサ10の検出信号を移動平均して振動成分を濾波する濾波手段である。移動平均の方法は、基本的には、単位時間毎に複数のデータを採取して平均する単純移動平均である。検出位置の移動に合わせて順次移動平均で振動成分を除去していくので、不特定の振幅の振動に関わらずに常に検出信号の正規の正弦波波形または余弦波波形に近接した値を得ることができる。そのため、位置検出装置3は、より高い検出精度を得ることができる。
【0035】
実施の形態のデジタルフィルタ40は、検出位置の移動にともなってn個のサンプルデータで1回の移動平均を行ないながら、m回の移動平均を行なって得られるm個の値を移動平均することによって、結果としてサンプルデータの総数がn×m個の移動平均をする。このとき、新しくm+1回目の移動平均のデータを得るたびに現在位置から一番遠い位置にある移動平均のデータを捨てる。
【0036】
したがって、十分な数のサンプルデータで移動平均を行なうので、信頼性が高い値を得ることができる。一方で、最初の4回の移動平均を除いて検出信号を出力するまでの時間は、常に1回の移動平均に要する時間とほぼ同じであるから、致命的な時間の遅れが発生しない。例えば、16個のデータで1回の移動平均を行ないながら、4回の移動平均のデータで移動平均を行なうとき、結果的に64個のデータで移動平均をしながら、移動平均に要する時間は、1回の移動平均に要する時間とほぼ同じである。
【0037】
波形補正器50は、正弦波波形と余弦波波形の各検出信号の波形を揃える波形補正手段である。磁気センサ10は、ギャップGに形成される磁場もしくは磁界の大きさをアナログ信号で出力するので、図3Aに示されるように、検出信号が正電圧側または負電圧側に偏向したり、各検出信号間で出力差が発生することがある。波形補正器50によって各検出信号に予め定められたオフセットとゲインを与えて各検出信号を補正して揃えることができる。
【0038】
波形補正器50は、デジタルフィルタ40から入力されてくる各検出信号に同一または異なる所定のオフセットを付与して各検出信号の波形の偏向がなくなるように修正する。また、波形補正器50は、偏向が修正されている各検出信号の一方または両方に同一または異なる所定のゲインを付与して検出信号間の出力差を修正する。図3Eに、波形補正器50で偏向と出力差が修正されて波形が揃えられた正弦波波形と余弦波波形の検出信号が示される。
【0039】
従位置演算器60は、振動成分が除去された検出信号の逆正接を求めて従位置データを出力する従位置演算手段である。従位置演算器60は、正弦波波形と余弦波波形の各検出信号から関数計算によって逆正接値を求める。端的に言うと、検出値のアークタンジェントを求める。従位置演算器60は、求めた逆正接値を従位置データに変換して出力する。実施の形態の従位置演算器60は、データ量が16ビットの従位置データを出力する。
【0040】
アナログデジタル変換器30から出力された検出信号が取り得る値は、正弦波波形の検出信号の半波を量子化数で分割した値である。このとき、半波の立上がり方向と立下がり方向とで同じ値を取る。したがって、従位置データは、最小単位が分解能である不特定の4分の1ピッチの間における現在位置の下位桁の値を示す位置データである。例えば、極ピッチPが48mmである場合では、現在位置の下位桁の値は、約0.2μm単位の0mm〜12mmの間の数値である。
【0041】
位置演算器70は、主位置演算器20から出力される主位置データと従位置演算器60から出力される従位置データとから現在位置を示す位置データを生成する位置生成手段である。位置演算器70は、主位置データに従位置データを加算して現在位置を求める。
【0042】
主位置データは、最小単位が4分の1ピッチの上位桁の数値である。また、従位置データは、最小単位が分解能である4分の1ピッチの間の数値である。したがって、現在位置は、主位置データと従位置データの和で得ることができる。例えば、極ピッチPが48mmである場合では、主位置データが120mmで従位置データが1.2mmであったとすると、現在位置を示す位置データは、121.2mmである。
【0043】
位置演算器70は、主位置データに従位置データを加算してから制御上不必要な桁の値を切り捨てて位置データを生成する。主位置データと従位置データを加算したときのデータ量は、主位置データのデータ量と従位置データ量の和である。実施の形態の位置検出装置3は、主位置データと従位置データのデータ量が共に16ビットであるので、データ量が32ビットの位置データを生成する。
【0044】
実施の形態の位置検出装置3は、現在位置を示す位置データを主位置データと従位置データに分割して得るようにされている。したがって、常に4分の1ピッチの間に限って桁数の多い数値を求める比較的精密な演算を行なうようにすることができる。そのため、演算器にかかる負担が小さく演算時間が短いので、致命的な時間の遅れが発生せず、高速の移動制御に十分に対応できる利点がある。
【0045】
パラレルシリアル変換器80は、位置演算器70が出力するパラレルの位置データをシリアルの位置データに変換して、主位置演算器20から出力される移動方向のデータと共にピッチ補正器90に出力する。ただし、ピッチ補正器90が位置検出装置3の本体3Aに設けられているときは、パラレルシリアル変換器80とピッチ補正器90の配置が入れ換えられる。
【0046】
ピッチ補正器90は、移動方向に合わせて位置演算器70から出力される位置データをピッチ補正値で補正する位置補正手段である。ピッチ補正器90は、ピッチ補正値で補正された位置データを位置検出装置3が出力する現在位置として移動制御装置4に与える。
【0047】
ピッチ補正器90は、予めピッチエラー測定によって獲得されて判明している単位距離毎のピッチ誤差データを記憶している。実施の形態の位置検出装置3のピッチ補正器90は、正負の移動方向で別々に固有のピッチ誤差データを記憶する。以下、単位距離で決まる直線1軸方向Xにおける特定の点を定点という。
【0048】
測定して保持しておく各定点毎の複数のピッチ誤差データは、正負の移動方向でそれぞれ複数回実施したピッチエラー測定で獲得したピッチ誤差の平均である。ピッチエラー測定の回数は任意であるが、3回が適当である。
【0049】
ピッチ補正器90は、位置演算器70から位置データを入力したときに、位置データに含まれる移動方向を検出し、移動方向に対応して記憶装置に記憶されている移動方向に合うピッチ誤差データ群の中から入力した位置データに一致する定点または直近の2つの定点のピッチ誤差データを取得する。
【0050】
位置データが定点と一致しないとき、ピッチ補正器90は、取得した2つの定点のピッチ誤差データから現在位置を示す位置データに一致する点におけるピッチ補正値を求める。具体的に、現在位置pに直近の2つの定点pとpn−1および各定点におけるピッチ誤差データfとfn−1とを既知の値として数1によって現在位置pにおけるピッチ補正値fを計算する。図4Aにピッチ誤差データからピッチ補正値を求める一例が示される。なお、図4Bは、移動方向がマイナスのときで、定点数が少ない場合の一例を示す。
【0051】
【数1】

【0052】
ピッチ補正器90は、位置演算器70から入力した位置データをピッチ補正値で補正して移動制御装置4に出力する。このときのピッチ誤差は、永久磁石の取付誤差が原因で発生するものであるため、離散的である。実施の形態の位置検出装置3は、位置データを入力するたびに予め実測して獲得している現在位置に直近の2つの定点におけるピッチ誤差データからピッチ補正値を求めて位置データを補正するので、高い検出精度を得ることができる。
【0053】
磁極センサ10の検出信号で移動体1の相対位置を検出するようにするためには、電源を投入したときに磁極の位置を検出して電気角を初期設定する必要がある。以下に、電気角を設定する一例を簡単に説明する。
【0054】
精密機器の電源を投入すると、自動的に図示しない指令装置から移動制御装置4に位置検出装置3の初期設定のための命令が与えられる。移動制御装置4は、現在位置でリニアモータ2の位相角を仮に0度と設定して定格電流の1〜2%の電流を供給する。移動体1が移動するので移動方向を検出する。そして、短い所定時間後に停止して検出した移動方向を記憶し、移動体1を元の位置に戻す。その時点から位相角を所定角度、例えば30度ずつ増加させながら同じ動作を繰り返すと、最初に記憶させた移動方向から反転するところがある。
【0055】
移動方向が反転したところで、上記所定角度を小さくして小さくした所定角度、例えば5度ずつ減少させるとともに供給する電流を少し大きく、例えば定格電流の5%程度にして電流を供給し、同じ動作を繰り返すと、再び移動方向が反転するところがある。
【0056】
移動方向が反転したところで、上記所定角度をより小さくして小さくした所定角度、例えば1度ずつ増加させるとともに供給する電流をより大きく、例えば定格電流の十数%〜二十数%程度の電流にして電流を供給し、同じ動作を繰り返すと、再び移動方向が反転するところがある。
【0057】
移動方向が反転したことを検出したら、反転した移動方向が正の方向であるときは、位相角90度をプラスしたところを電気角として初期設定する。また、反転した移動方向が負の方向であるときは、位相角90度をマイナスしたところを電気角として初期設定する。
【0058】
以上のように電気角を初期設定する方法は、プロセスが短く動作が比較的簡単であるので、より短時間で電気角を決定できる点で有利である。特に、上記方法は、リニアモータ2が磁極を検出する磁極センサを具備していない場合に有効である。なお、磁極センサが設けられている場合は、磁極センサによって電気角を決定することができる。
【0059】
実施の形態の位置検出装置3を用いて実際にリニアモータ2を駆動して移動体1を移動制御し、繰返し検出誤差を測定して検証したところ、検出誤差が最大で7μmであった。したがって、精密機器の移動装置の位置検出装置として要求される10μm以下の検出精度を常に得ることができることが判明した。
【0060】
本発明は、実施の形態の位置検出装置と全く同一の構成である必要はなく、実施の形態の位置検出装置に限定されない。すでにいくつかの例が挙げられているように、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で実施の形態の位置検出装置の構成を変更したり、応用したりすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、リニアモータ方式の移動装置に幅広く適用される。本発明は、リニアモータの二次側の界磁を利用して移動体の位置を検出する位置検出装置を精密機器の移動装置に設置することを可能にする。本発明は、精密機器の普及と発展に貢献する。
【符号の説明】
【0062】
1 移動体
2 リニアモータ
3 位置検出装置
4 移動制御装置
10 磁気センサ
20 主位置演算器
30 アナログデジタル変換器
40 デジタルフィルタ
50 波形補正器
60 従位置演算器
70 位置演算器
80 パラレルシリアル変換器
90 ピッチ補正器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアモータの一次側に設けられる複数の磁気検出手段と、前記磁気検出手段が出力する検出信号で得られる90度の位相差を有する2相の矩形波信号から計数信号を得るとともに前記磁気検出手段の移動方向に合わせて計数信号を累積加減算して主位置データを出力する主位置演算手段と、移動平均によって検出信号から振動成分を除去する濾波手段と、振動成分が除去された検出信号の逆正接を求めて従位置データを出力する従位置演算手段と、前記主位置データと前記従位置データとから位置データを生成する位置生成手段と、前記移動方向に合わせて前記位置データをピッチ補正値で補正して移動制御装置に出力する位置補正手段と、を含んでなる位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−253887(P2012−253887A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123974(P2011−123974)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】