説明

作業機械における油圧ポンプのポンプ容量制御装置

【課題】ポンプ容量検出のための特別な手段を要することなく、追従性の高いポンプ容量の制御を可能にする。
【解決手段】油圧ポンプ21,22のポンプ容量を制御するために、ポンプ容量推定値演算部43A,43Bと、目標ポンプ容量設定部44と、補正演算部46A,46Bと、信号出力部47とを備える。ポンプ容量推定値演算部43A,43Bは、目標ポンプ容量設定部44により設定される目標ポンプ容量と各センサの検出信号とに基づき、エンジン及び油圧ポンプにより構成される回転体についての運動方程式を利用してポンプ容量の推定値を演算する。補正演算部46A,46Bは、ポンプ容量の推定値と目標ポンプ容量との対比に基づいて目標ポンプ容量の補正量を演算し、信号出力部はその補正量に基づいてポンプ容量調節のための指令信号を作成し出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを搭載する油圧ショベル等の作業機械において、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプのポンプ容量を制御するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業機械に搭載される油圧ポンプの中には、当該作業機械に搭載されるエンジンにより駆動され、かつ、そのポンプ容量が可変のものがある。
【0003】
従来、このようなエンジン駆動式の可変ポンプ容量型油圧ポンプのポンプ容量制御は、一般に、操作レバーの操作量に基づいて前記ポンプ容量についての指令値を演算するステップと、その指令値に基づいて前記ポンプ容量の調節のためのレギュレータ等に制御信号を入力するステップとにより実行されている。この制御信号は、あくまで一般的な油圧ポンプ及びその制御系の代表特性を基盤とするオープン制御を前提とするものであり、実際の油圧ポンプのポンプ容量を考慮するものではない。従って、量産される作業機械においては、油圧ポンプや制御系の特性のばらつきのために、前記操作レバーの操作量と実際のポンプ容量とが正確に対応しきれず、安定した出力性能や燃費性能が得られにくいという不都合がある。
【0004】
このような不都合を解消するための技術として、従来は次のようなものが知られている。
【0005】
1)特別なポンプ容量検出手段の付設:例えば、油圧ポンプにその実際のポンプ容量を検出するセンサが付加され、この検出されたポンプ容量の値と指令値とが対応するように当該指令値の補正が行われる。
【0006】
2)既存のセンサの検出値に基づく流量変化の予測:例えば、下記の特許文献1は、前記流量変化の予測及びその予測結果に基づいて油圧ポンプの出力トルクを操作するコントローラを開示する。このコントローラは、エンジンの回転数の検出値と、油圧ポンプの吐出側の圧力の検出値と、吐出された圧油の方向及び流量を制御するためのコントロールバルブの操作量に基づき、ファジイ推論を用いて油圧ポンプの流量変化を予測する。
【特許文献1】特開平11−303150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記1)の技術では、ポンプ容量を検出するために特別なセンサを付加しなければならない。このことは、コストの増加、油圧ポンプの構造の複雑化、故障発生要因の増加といった課題を招く。
【0008】
前記2)の技術では、特別なセンサの付加は要しないが、制御の遅れ時間が長いという課題が存する。この技術は、ファジイ推論に基づいて油圧ポンプの出力トルクを推定し、その推定値に基づいて油圧ポンプのポンプ容量を制御するものであるため、前記ファジイ推論に係る推論値と真値との適合に時間を要し、その分タイムラグを生じさせることになる。特に、運転状態が不連続的に変化しやすい作業機械の油圧システムにおいて前記のようなタイムラグのある推定方法による常時補償制御が実施されると、機械の出力が目標値とずれた状態で作動する時間が長くなることが避けられない。このことは、最終的にエンジンの実出力を目標出力に追従させたいという目的を達成することが困難であることを意味する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、ポンプ容量検出のための特別な手段を要することなく、追従性の高いポンプ容量の制御を可能にする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、エンジンと、このエンジンにより駆動される可変ポンプ容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出する作動油により駆動されるアクチュエータと、当該アクチュエータの動きを調節するために操作される操作体とを具備する作業機械の当該油圧ポンプのポンプ容量を制御するための装置であって、前記油圧ポンプのポンプ容量を変化させるポンプ容量調節手段と、前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力検出手段と、前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記操作体の操作量を検出する操作検出手段と、前記操作量の検出値に基づいて前記油圧ポンプの目標ポンプ容量を設定する目標ポンプ容量設定手段と、この目標ポンプ容量設定手段により設定される目標ポンプ容量を補正する目標ポンプ容量補正手段と、を備え、この目標ポンプ容量補正手段は、前記ポンプ圧の検出値、前記エンジンの回転速度の検出値、及び前記操作体の操作量の検出値に基づき、前記エンジン及び前記油圧ポンプにより構成される回転体についての運動方程式を利用して前記油圧ポンプのポンプ容量を推定するポンプ容量推定部と、この推定したポンプ容量と前記目標ポンプ容量との対比に基づいて当該目標ポンプ容量の補正量を演算する補正演算部と、その補正量により補正されるポンプ容量を得るための指令信号を前記ポンプ容量調節手段に出力する信号出力部と、含むものである。
【0011】
この装置では、前記エンジン及び前記油圧ポンプからなる回転体の運動方程式を利用することにより、既存の検出手段による検出値と目標容量とに基づいて実際のポンプ容量が迅速に推定される。従って、このポンプ容量の推定値に基づく目標容量の補正が行われることにより、特別なポンプ容量検出用のセンサを用いることなく、追従性の高いポンプ容量制御が実現される。
【0012】
この発明は、前記作業機械が、前記油圧ポンプとして複数の油圧ポンプを具備するものである場合にも適用が可能である。その場合、前記目標ポンプ容量補正手段は、さらに、前記操作検出手段の検出結果に基づいて、使用される油圧ポンプを判断する使用ポンプ判断手段を含み、この使用ポンプ判断手段が前記油圧ポンプのうちのいずれか一つのみが使用される油圧ポンプであると判断された場合にその油圧ポンプについてのみ前記補正量の演算を行い、それ以外の場合にはいずれの油圧ポンプについても前記補正量の演算を行わずにその目標ポンプ容量を維持するものであればよい。
【0013】
この装置によれば、複数の油圧ポンプのそれぞれのポンプ容量が互いに影響し合う複雑なシステムであっても、そのうちの一つの油圧ポンプのみが使用される単純な形態での運転状態を検出することが、ポンプ容量の推定及び目標ポンプ容量の補正を可能にする。つまり、前記運転状態では、使用されていない油圧ポンプのポンプ容量を全て既知の値として使用ポンプのポンプ容量の推定値を演算することができる。
【0014】
具体的に、前記作業機械は、前記操作体として複数の操作体を含み、前記各油圧ポンプは特定の操作体が操作された場合にのみ作動するものである場合、前記使用ポンプ判断手段は、前記操作体のうちのいずれの操作体が操作されたかの判断に基づいて、使用される油圧ポンプを判断するものであればよい。
【0015】
この装置によれば、前記操作体と使用ポンプとの関係を利用することにより、当該操作体の操作内容から使用ポンプの判断を行うことができる。
【0016】
前記目標ポンプ容量設定手段は、前記操作量の検出値に基づいて設定される目標ポンプ容量に対応する前記エンジンの負荷トルクが予め設定された制限トルクを上回る場合、当該目標ポンプ容量を、前記エンジンの負荷トルクを前記制限トルク以下にするためのポンプ容量に再設定するものであってもよい。このような目標ポンプ容量の再設定は、過度の負荷によるエンジンストップなどの不都合の未然防止を可能にする。そして、その場合にも、前記目標ポンプ容量補正手段が、前記目標ポンプ容量設定手段により再設定された目標ポンプ容量について補正を行うことにより、前記エンジンストップ等の未然防止の効果をより確実なものにする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明は、エンジン及び油圧ポンプにより構成される回転体についての運動方程式を利用して当該油圧ポンプのポンプ容量を推定し、その推定したポンプ容量と前記目標ポンプ容量との対比に基づいて目標ポンプ容量の補正量を演算するものであるので、ポンプ容量検出のための特別な手段を要することなく、追従性の高いポンプ容量の制御を可能にする効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、この実施の形態に係る油圧ショベルの全体構成を示す。この油圧ショベルは、下部走行体1と、この下部走行体1上に旋回可能に搭載される上部旋回体2とを備える。前記下部走行体1には、その走行のためのアクチュエータである左右一対の走行モータ1L,1Rが設けられる。前記上部旋回体2には、エンジン3と、この上部旋回体2の旋回駆動のためのアクチュエータである旋回モータ4と、作業アタッチメント5と、運転室12とが搭載される。
【0020】
前記作業アタッチメント5は、前記上部旋回体2に起伏可能に設けられるブーム6と、このブーム6の先端部に上下方向に揺動自在に連結されているアーム7と、このアーム7の先端部に装着されるバケット8とを有する。さらに、この作業アタッチメント5には、これらブーム6、アーム7、及びバケット8をそれぞれ作動させるためのアクチュエータとして、ブームシリンダ9、アームシリンダ10、及びバケットシリンダ11が付設される。
【0021】
なお、本発明に係る作業機械は、このような油圧ショベルに限られない。その他、油圧クレーン、破砕機、高所作業車など、種々の作業機械について本発明が適用され得る。
【0022】
図2は、前記油圧ショベルに搭載される油圧駆動システムを示す。この装置は、2台の第1油圧ポンプ21及び第2油圧ポンプ22と、各油圧ポンプ21,22に付設されるレギュレータ23,24と、油圧回路25と、制御装置40とを具備する。
【0023】
前記各油圧ポンプ21,22は、前記エンジン3の出力軸に連結され、このエンジン3によって駆動される。これらの油圧ポンプ21,22は可変ポンプ容量型のものであり、そのポンプ容量が前記レギュレータ23,24によって調節される。これらのレギュレータ23,24は、後述の指令信号の入力を受け、その指令値に基づいて前記各油圧ポンプ21,22のポンプ容量の調節(例えば斜板傾転角の調節)を行う。
【0024】
この油圧駆動システムは、ごく一般的なセンサ類を具備する。このセンサ類には、エンコーダ等からなるエンジン回転数センサ(回転速度検出手段)26、前記各油圧ポンプ21,22の吐出圧をそれぞれ検出するポンプ圧力センサ27,28(圧力検出手段)が含まれる。
【0025】
一方、前記運転室12内には、複数の操作体であるレバー29,30,31,32,33,34が回動操作を受けることが可能となるように設けられている。これらの操作レバー29〜34は前記各アクチュエータに対応している。具体的に、前記操作レバー29,30は、前記走行用駆動用モータ1L,1Rを操縦するために操作され、操作レバー31は、前記旋回モータ4を操縦するために操作される。また、操作レバー32,33,34は、それぞれ、前記ブームシリンダ9、アームシリンダ10及びバケットシリンダ11を操縦するために操作される。
【0026】
各操作レバー29,30,31,32,33,34には、レバーセンサ(レバー操作検出手段)29a,30a,31a,32a,33a,34aがそれぞれ付設される。これらのレバーセンサ29a〜34aは、例えばポテンショメータにより構成され、対応する操作レバーの回動操作量L1,L2,L3,L4,L5,L6をそれぞれ検出する。具体的には、前記操作量L1,L2,L3,L4,L5,L6を電気信号に変換し、これを操作量検出信号として出力する。
【0027】
なお、本発明に係る操作体はレバーに限られない。例えば、回転操作を受けるつまみや、ペダル等も前記の操作体に含まれ得る。
【0028】
前記制御装置40は、マイクロコンピュータ等により構成され、前記エンジン3の回転数、前記油圧回路25内の各制御弁の動作、及び、前記各油圧ポンプ21,22のポンプ容量の制御を行う。この制御装置40は、前記各センサ26,27,28,29a〜34aの検出信号の入力を受け、前記制御を行うための制御信号を作成する。特に、前記油圧ポンプ21,22のポンプ容量の制御に関しては、前記操作レバー29〜34の各操作量に対応したポンプ容量についての指令信号を演算し、出力する。
【0029】
具体的に、この制御装置40は、前記ポンプ容量制御について、図3に示すような機能を有する。すなわち、当該制御装置40は、使用ポンプ判断手段を構成する使用操作レバー判断部41及び使用ポンプ判断部42と、ポンプ容量推定部である第1ポンプ容量推定値演算部43A及び第2ポンプ容量推定値演算部43Bと、目標ポンプ容量設定手段である目標ポンプ容量設定部44と、目標ポンプ容量記憶部45と、第1補正演算部46A及び第2補正演算部46Bと、信号出力部47とを備える。これらの機能は、例えば図略のROMからCPUに読み込まれる各種プログラム等によって具現化される。
【0030】
前記使用操作レバー判断部41は、前記各レバーセンサ29a〜34aの検出信号に基づき、前記各操作レバー29〜34のうち使用されているレバーを判断する。具体的には、後にも述べるように、中立位置にあるとみなし得る範囲から逸脱するまで操作されている操作レバーを使用操作レバーと判断する。
【0031】
前記使用ポンプ判断部42は、前記使用操作レバー判断部41の判断結果に基づき、前記両油圧ポンプ21,22のうち使用されているポンプを判断する。この実施の形態では、前記第1油圧ポンプ21が前記走行モータ1L,1R及び旋回モータ4の駆動に割り当てられ、前記第2油圧ポンプ22が前記ブームシリンダ9、前記アームシリンダ10、及び前記バケットシリンダ11の駆動に割り当てられているので、前記使用操作レバーの判断は同時に使用油圧ポンプの判断を可能にする。
【0032】
前記ポンプ容量推定値演算部43Aは、前記使用ポンプ判断処理部42により前記第1油圧ポンプ21のみが使用されていると判断された場合にのみ、前記第1油圧ポンプ21のポンプ容量の推定値を演算する。この演算は、後述のように、前記エンジン回転数センサ26により検出されるエンジン3の回転角速度ωと、前記両圧力センサ27,28により検出されるポンプ吐出圧P,Pとに基づき、前記エンジン3及び前記各油圧ポンプ21,22により構成される回転体についての運動方程式を利用して行われる。
【0033】
同様に、前記第2ポンプ容量推定値演算部43Bは、前記使用ポンプ判断処理部42により前記第2油圧ポンプ22のみが使用されていると判断された場合にのみ、前記第2油圧ポンプ22のポンプ容量の推定値を演算する。この演算も、前記エンジン回転数センサ26により検出されるエンジン3の回転角速度ωと、前記両圧力センサ27,28により検出されるポンプ吐出圧P,Pとに基づき、前記エンジン3及び前記各油圧ポンプ21,22により構成される回転体についての運動方程式を利用して行われる。
【0034】
前記目標ポンプ容量設定部44は、前記第1油圧ポンプ21及び前記第2油圧ポンプ22のそれぞれについての目標ポンプ容量値を設定する。この設定は、前記エンジン回転数センサ26によるエンジン回転数の検出値と、前記各ポンプ圧センサ27,28による前記各油圧ポンプ21,22の吐出圧の検出値とに基づき、予め設定された制御周期ごとに行われる。
【0035】
前記目標ポンプ容量は、その設定の度に、前記目標ポンプ容量記憶部45に更新的に記憶される。つまり、この目標ポンプ容量記憶部45は、1周期前に設定された目標ポンプ容量値を一時的に記憶する。
【0036】
前記第1補正演算部46Aは、前記第1ポンプ容量推定値演算部43Aにより前記第1油圧ポンプ21のポンプ容量の推定値が演算された場合に、その推定値に基づいて前記第1油圧ポンプ21についての目標ポンプ容量の補正量を演算する。この補正量は、前記推定値と、前記目標ポンプ容量記憶部45に記憶された1周期前の目標ポンプ容量設定値との偏差(又は比率差でもよい。)に基づいて演算される。同様に、前記第2補正演算部46Bは、前記第2ポンプ容量推定値演算部43Bにより前記第2油圧ポンプ22のポンプ容量の推定値が演算された場合に、その推定値に基づいて前記第2油圧ポンプ22についての目標ポンプ容量の補正量を演算する。この補正量も、前記推定値と、前記目標ポンプ容量記憶部45に記憶された1周期前の目標ポンプ容量設定値との偏差(又は比率差でもよい。)に基づいて演算される。
【0037】
前記信号出力部47は、前記各レギュレータ23,24に制御信号を出力する。この制御信号は、前記補正量も加味して最終的に決定される目標ポンプ容量を得るための指令信号である。この指令信号を受けた前記各レギュレータ23,24は、それぞれ、前記目標ポンプ容量に対応したポンプ容量が実現されるように、前記第1油圧ポンプ21及び前記第2油圧ポンプ22を操作する(例えばその傾転角を変化させる)。
【0038】
次に、この制御装置40により行われるポンプ容量制御動作の流れを、図4のフローチャート、さらにはそのサブルーチンを示す図5〜図7を参照しながら説明する。なお、以下に示す目標ポンプ容量の設定及び補正動作は、常時連続的に行われてもよいが、適当なインターバルをおいて周期的に実施されてもよい。
【0039】
まず、制御装置40は、各検出量を取得する(ステップS1)。この検出量には、前記各レバーセンサ29a〜34aが検出する操作レバー29〜34の回動操作量L1〜L6と、前記エンジン回転数センサ26が検出するエンジン回転数ひいてはエンジン回転角速度ωと、前記各圧力センサ27,28が検出する各油圧ポンプ21,22の吐出圧P,Pとが含まれる。
【0040】
次に、制御装置40は、前記操作レバー29〜34のうち現在使用されている使用操作レバーを判断し、さらにその判断結果に基づいて、前記両使用ポンプ21,22のうち使用されている使用ポンプを判断する(ステップS2)。
【0041】
その詳細を図5に示す。はじめに、使用ポンプ判断のための使用ポンプフラグが初期値「0」に設定される(ステップS20)。次に、各操作レバー29〜34の操作量に基づいて使用操作レバーの判定が行われ(ステップS21〜S26)、その判定結果に基づき、前記使用ポンプフラグが適宜変更される。
【0042】
具体的には、前記各操作レバー29〜34のうち、その操作レバーについて検出された操作量L1〜L6の絶対値が中立閾値(中立位置内にあるとみなされ得る操作量の限度値)を超える操作レバーが使用操作レバーと判定される。そして、原則として、操作レバー29〜31のいずれかが使用操作レバーと判断された場合に(ステップS21,S22,S23のいずれかにおいてYES)、使用ポンプが第1油圧ポンプ21であるとして前記使用ポンプフラグが「1」に設定され(ステップS27A)、操作レバー32〜34のいずれかが使用操作レバーと判断された場合に(ステップS24,S25,S26のいずれかにおいてYES)、使用ポンプが第2油圧ポンプ22であるとして前記使用ポンプフラグが「2」に設定される(ステップS27B)。ただし、操作レバー29〜31のいずれかが使用操作レバーと判断されると同時に操作レバー32〜34のいずれかが使用操作レバーと判断された場合は(ステップS28でYES)、両油圧ポンプ21,22が使用ポンプであるとの判断により前記使用ポンプフラグが「3」に設定される(ステップS29)。それ以外の場合、すなわち使用操作レバーが存在しないと判断された場合は(ステップS21〜S26のいずれにおいてもNO)、使用ポンプフラグが初期値の「0」に維持される。
【0043】
次に、前記制御装置40は、前記各油圧ポンプ21,22の目標ポンプ容量を設定する(ステップS3)。この目標ポンプ容量は、原則として前記各操作レバー29〜34の操作量に基づいて設定される。しかし、この実施の形態では、過剰負荷によるエンジンストップの未然防止を目的として、エンジン負荷トルクを考慮した目標ポンプ容量の再設定が行われる場合がある。その詳細を図6に示す。
【0044】
まず、前記第1ポンプ21の目標ポンプ容量Vo1が、前記各操作レバー29,30,31の操作量L1,L2,L3にそれぞれ適当な係数k1,k2,k3を乗じた値の和として演算される(ステップS31)。同様に、第2ポンプ22の目標ポンプ容量Vo2が、前記各操作レバー32,33,34の操作量L4,L5,L6にそれぞれ適当な係数K4,K5,K6を乗じた値の和として演算される(ステップS32)。
【0045】
次に、エンジン負荷トルクTが演算される(ステップS33)。このトルクTは、前記各目標容量値Vo1,Vo2と各油圧ポンプ21,22の吐出圧の検出値P,Pとに基づき、次式により演算される。
【0046】
=R*(P*Vo1+P*Vo2)/2 …(1)
ここで、Rは、エンジン負荷トルクの単位と、各ポンプ吐出圧とポンプ容量との積の単位とを整合させるための適当な換算係数である。前記(1)式の右辺のR以外の部分は、第1ポンプ21の出力トルクと第2ポンプ22の出力トルクの平均値を示している。
【0047】
このように前記目標容量Vo1,Vo2を前提として演算されたエンジン負荷トルクTが、予め設定された制限トルクTqlと比較される(ステップS34)。この制限トルクTqlは、エンジン最大トルクであってもよいし、これに安全係数を乗じた制御上の制限トルクであってもよい。前記エンジン負荷トルクTが前記制限トルクTqlを上回る場合(ステップS34でYES)、当該エンジン負荷トルクTに対応する前記目標容量Vo1,Vo2ではエンジン3に過剰負荷がかかるおそれがあるため、エンジンストップ回避のために前記各目標容量Vo1,Vo2が再設定される(ステップS35,S36)。これらの目標容量値Vo1,Vo2の再設定値はいずれも次式により演算される。
【0048】
o1(=Vo2)=2*Tql/R*(P+P) …(2)
つまり、この再設定値は、前記(1)式においてT=Tql、Vo1=Vo2としたときに得られる値に相当する。
【0049】
図4のフローチャートに戻る。前記制御装置40は、前記目標ポンプ容量の設定後、前記両油圧ポンプ21,22のうち前記ステップS2において使用ポンプであると判断したポンプについてのみ、その油圧ポンプについて設定された目標ポンプ容量の補正演算を行う。具体的には、前記使用ポンプフラグが1の場合(ステップS4でYES)、第1ポンプ21についてのみその目標ポンプ容量の補正演算を行い(ステップS5)、前記使用ポンプフラグが2の場合(ステップS6でYES)、第2ポンプ22についてのみその目標ポンプ容量の補正演算を行う(ステップS7)。
【0050】
前記各補正演算の詳細を図7及び図8にそれぞれ示す。図7は前記第1油圧ポンプ21についての補正演算動作を示し、図8は前記第2油圧ポンプ22についての補正演算動作を示す。
【0051】
前記のいずれの場合も、前記補正演算にあたり、その補正対象となるである油圧ポンプについてポンプ容量の推定値V1e(またはV2e)が演算される(ステップS51またはS71)。当該推定値は、次式のような、エンジン3及び各油圧ポンプ21,22からなる回転体についての運動方程式に基づいて演算される。
【0052】
I*dω/dt+f*ω=K(ω−ω)−(P+P) ・・・(3)
ここで、Iは前記エンジン3及び前記両油圧ポンプ21,22からなる回転体の慣性モーメント、fは前記回転体の粘性抵抗係数、Kは係数、ωは目標エンジン回転角速度、Vは前記第1油圧ポンプ21の実際のポンプ容量、Vは前記第2油圧ポンプ22の実際のポンプ容量である。また、dω/dtはエンジン回転角加速度に相当し、この値は前記エンジン回転角速度ωの検出値を時間tについて微分演算することにより得ることが可能である。
【0053】
前記(3)式から、次のように、前記第1油圧ポンプ21のポンプ容量推定値V1eを演算するための(4)式(ステップS51)、及び、前記第2油圧ポンプ22のポンプ容量推定値V2eを演算するための(5)式(ステップS71)のいずれも導かれることが可能である。
【0054】
1e={K(ω−ω)−(I×dω/dt+f×ω)−Po2}/P・・・(4)
2e={K(ω−ω)−(I×dω/dt+f×ω)−Po1}/P・・・(5)
これら(4)式及び(5)式におけるVo2,Vo1、すなわち非補正対象の油圧ポンプについての目標値は、既知の値として扱うことが可能である。つまり、この推定値の演算は、油圧ポンプ21,22のうちのいずれか一方のみが使用ポンプである場合に限定され、かつ、その使用ポンプについてのみ行われること、換言すれば、補正対象となっていない油圧ポンプは使用されていないことを前提とするものであるため、前記各式のVo2,Vo1には例えば当該非補正対象ポンプ(不使用ポンプ)の最低容量値をそのまま代入することが可能である。
【0055】
このようにして演算された推定値V1e(またはV2e)と、補正前の目標ポンプ容量Vo1またはVo2との対比に基づき、補正対象となっている油圧ポンプについての目標ポンプ容量の補正量ΔVo1(またはΔVo2)が演算される(ステップS52またはS72)。この補正量は、例えば、油圧ポンプ21,22についてそれぞれ設定されたゲインをG1,G2とすると、次式により表される。
【0056】
ΔVo1=G1(Vo1−V1e) …(6)
ΔVo2=G2(Vo2−V2e) …(7)
そして、この補正量ΔVo1(またはΔVo2)を補正前の目標ポンプ容量Vo1(またはVo2)に加算した値が新たに目標ポンプ容量として設定される(ステップS53またはステップS73)。
【0057】
なお、補正対象となっていない油圧ポンプについては、その目標ポンプ容量がそのまま維持される。使用ポンプフラグが0または3の場合(ステップS4,S6でいずれもNO)、いずれの油圧ポンプについてもその目標ポンプ容量は無補正にて維持される。
【0058】
制御装置40は、以上のようにして決定された各油圧ポンプ21,22についての目標ポンプ容量に基づき、実際のポンプ容量を制御するための指令信号を作成し、これを各レギュレータ23,24に出力する(ステップS8)。
【0059】
この装置では、前記のように、エンジン3及び両油圧ポンプ21,22からなる回転体の運動方程式を利用することにより、既存のセンサによる検出値(エンジン回転角速度ωやポンプ吐出圧P,P)と目標容量Vo1,Vo2とに基づいて実際のポンプ容量が迅速に推定される。従って、このポンプ容量の推定値に基づく目標容量の補正が行われることにより、特別なポンプ容量検出用のセンサを用いることなく、追従性の高いポンプ容量制御が実現される。
【0060】
また、この実施の形態のように、複数の油圧ポンプ(油圧ポンプ21,22)が併設された作業機械であっても、そのうちのいずれか一つの油圧ポンプのみが使用されている場合にのみ補正演算を行うようにすれば、不使用ポンプのポンプ容量については例えばその最低値を適用して使用ポンプのポンプ容量の推定値を演算すること、さらにはその推定値に基づいて目標ポンプ容量の補正をすることが可能である。従って、本発明に係る目標ポンプ容量の補正は、作業機械に具備される油圧ポンプの台数にかかわらず適用されることが可能である。特に、前記実施の形態のように、操作レバー29〜34と使用ポンプとの間に対応関係がある場合には、使用操作レバーを判断するだけの簡単な構成で使用ポンプの判断を行うことができる。
【0061】
なお、本発明において利用される運動方程式は、前記(3)式と完全に合致するものに限られない。例えば、エンジン回転角速度ωが目標角速度ωに厳密に追従するような速度制御が実行される場合には、当該制御をPI制御と等価であるとみなして次の(3)′式を適用してもよい。
【0062】
I*dω/dt+f*ω
=K(ω−ω)+∫{K(ω−ω)}dt−(P+P) ・・・(3)′
ここでKは積分係数である。この(3)′式が適用される場合、前記の(4)式及び(5)式はそれぞれ次の(4)′式及び(5)′式となる。
【0063】
1e=[K(ω−ω)+∫{K(ω−ω)}dt−Po2]/P ・・・(4)
2e={K(ω−ω)+∫{K(ω−ω)}dt−Po1}/P ・・・(5)
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【図2】前記油圧ショベルに搭載される油圧駆動システムの全体構成図である。
【図3】前記油圧駆動システムに含まれる制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【図4】前記制御装置によるポンプ容量制御の内容を示すフローチャートである。
【図5】前記ポンプ容量制御に係る使用操作レバー及び使用ポンプの判断処理の内容を示すフローチャートである。
【図6】前記ポンプ容量制御に係る目標ポンプ容量の処理の内容を示すフローチャートである。
【図7】前記ポンプ容量制御に係る第1油圧ポンプについての目標ポンプ容量の補正演算処理の内容を示すフローチャートである。
【図8】前記ポンプ容量制御に係る第2油圧ポンプについての目標ポンプ容量の補正演算処理の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 下部走行体
1L,1R 走行モータ(アクチュエータ)
2 上部旋回体
3 エンジン
4 旋回モータ(アクチュエータ)
5 作業アタッチメント
9 ブームシリンダ(アクチュエータ)
10 アームシリンダ(アクチュエータ)
11 バケットシリンダ(アクチュエータ)
21 第1油圧ポンプ
22 第2油圧ポンプ
23,24 レギュレータ(ポンプ容量調節手段)
25 油圧回路
26 エンジン回転数センサ(回転速度検出手段)
27,28 圧力センサ(圧力検出手段)
29〜34 操作レバー(操作体)
29a〜34a レバーセンサ(操作検出手段)
40 制御装置
41 使用レバー操作量判断部(使用ポンプ判断手段)
42 使用ポンプ判断処理部(使用ポンプ判断手段)
43A 第1ポンプ容量推定値演算部(推定手段)
43B 第2ポンプ容量推定値演算部(推定手段)
44 目標ポンプ容量設定部
45 目標ポンプ容量記憶部
46A 第1補正演算部
46B 第2補正演算部
47 信号出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンにより駆動される可変ポンプ容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出する作動油により駆動されるアクチュエータと、当該アクチュエータの動きを調節するために操作される操作体とを具備する作業機械の当該油圧ポンプのポンプ容量を制御するための装置であって、
前記油圧ポンプのポンプ容量を変化させるポンプ容量調節手段と、
前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力検出手段と、
前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記操作体の操作量を検出する操作検出手段と、
前記操作量の検出値に基づいて前記油圧ポンプの目標ポンプ容量を設定する目標ポンプ容量設定手段と、
この目標ポンプ容量設定手段により設定される目標ポンプ容量を補正する目標ポンプ容量補正手段と、を備え、この目標ポンプ容量補正手段は、
前記ポンプ圧の検出値、前記エンジンの回転速度の検出値、及び前記操作体の操作量の検出値に基づき、前記エンジン及び前記油圧ポンプにより構成される回転体についての運動方程式を利用して前記油圧ポンプのポンプ容量を推定するポンプ容量推定部と、
この推定したポンプ容量と前記目標ポンプ容量との対比に基づいて当該目標ポンプ容量の補正量を演算する補正演算部と、
その補正量により補正されるポンプ容量を得るための指令信号を前記ポンプ容量調節手段に出力する信号出力部と、
を含むことを特徴とする作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置において、
前記作業機械は、前記油圧ポンプとして複数の油圧ポンプを具備するものであり、
前記目標ポンプ容量補正手段は、さらに、前記操作検出手段の検出結果に基づいて、使用される油圧ポンプを判断する使用ポンプ判断手段を含み、この使用ポンプ判断手段が前記油圧ポンプのうちのいずれか一つのみが使用される油圧ポンプであると判断された場合にその油圧ポンプについてのみ前記補正量の演算を行い、それ以外の場合にはいずれの油圧ポンプについても前記補正量の演算を行わずにその目標ポンプ容量を維持することを特徴とする作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置において、
前記作業機械は、前記操作体として複数の操作体を含み、前記各油圧ポンプは特定の操作体が操作された場合にのみ作動するものであり、
前記使用ポンプ判断手段は、前記操作体のうちのいずれの操作体が操作されたかの判断に基づいて、使用される油圧ポンプを判断するものであることを特徴とする作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置において、
前記目標ポンプ容量設定手段は、前記操作量の検出値に基づいて設定される目標ポンプ容量に対応する前記エンジンの負荷トルクが予め設定された制限トルクを上回る場合、当該目標ポンプ容量を、前記エンジンの負荷トルクを前記制限トルク以下にするためのポンプ容量に再設定するものであり、
前記目標ポンプ容量補正手段は、前記目標ポンプ容量設定手段により再設定された目標ポンプ容量について補正を行うことを特徴とする作業機械の油圧ポンプのポンプ容量制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−240533(P2008−240533A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78231(P2007−78231)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】