説明

作業車のトロイダル無段変速制御装置

【課題】作業能率を損なうことなく、簡易な操作でスムーズな逆進走行を可能とする作業車のトロイダル無段変速制御装置を提供する。
【解決手段】前後進切替具26と定車速設定具20bに沿うバリエータの伝動比制御により、所定の設定起動加速による設定車速走行を可能とする制御機能を備える作業車のトロイダル無段変速制御装置において、上記設定車速走行中における前後進切替具26の逆進操作の際は、上記設定起動加速に代えて別途定めた比較的低加速の逆進用設定加速を適用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車のトロイダル無段変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トロイダル無段変速を搭載した作業車は、特許文献1に示すように、前後進切替レバーと車速調節用のアクセルペダルの操作により走行制御装置を介してトロイダル無段変速機構のバリエータ比を制御し、定格運転のエンジン出力による高加速と幅広い変速走行を可能とする。また、所定の設定起動加速による迅速な発進と設定速度による定車速走行機能を合わせることにより、フロントローダ作業等の所定車速で頻繁な前後進切替えを要する作業走行を能率よく進めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−187288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、逆進走行に移行する際は、その都度、クラッチ操作とブレーキ操作とによって一時的に停車し、その上で前後進切替レバーの操作、クラッチおよびブレーキの解除に至る煩雑な操作を強いられるという問題があり、その解決策としての前後進切替えレバー操作のみによる逆進走行は、設定速度の定車速まで走行停止無しに逆方向の設定起動加速で発進することに伴う大きな逆行ショックを覚悟せねばならず、いずれにしても、作業能率を確保する必要から、オペレータの負担が避けられなかった。
【0005】
本発明の目的は、作業能率を損なうことなく、簡易な操作でスムーズな逆進走行を可能とする作業車のトロイダル無段変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、前後進切替具(26)と定車速設定具(20b)に沿うバリエータの伝動比制御により、所定の設定起動加速による設定車速走行を可能とする制御機能を備える作業車のトロイダル無段変速制御装置において、
上記設定車速走行中における前後進切替具(26)の逆進操作の際は、上記設定起動加速に代えて別途定めた比較的低加速の逆進用設定加速を適用することを特徴とする。
【0007】
上記走行制御装置は、走行開始時は所定の設定起動加速で発進して速やかに設定車速走行に移行し、一方、設定車速走行中における逆進走行の際は、前後進切替具の操作によって低加速の逆進用設定加速で逆方向の設定車速走行に移行する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記逆進用設定加速の適用は、作業車に昇降可能に備えた対地作業用の作業機(R)が上昇位置にある場合に条件限定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明の走行制御装置は、走行開始時は所定の設定起動加速で発進して速やかに設定車速走行に移行制御し、一方、設定車速走行中における逆進走行の際は、前後進切替具の操作によって低加速の逆進用設定加速で逆方向の設定車速走行に移行制御することから、速やかな発進の確保とともに、前後進走行を頻繁に繰り返す場合において簡易な操作によるショックの少ない逆進走行により、作業能率を損なうことなく、オペレータの負荷の軽減を図ることができる。
【0010】
請求項2の発明の走行制御装置は、請求項1の効果に加え、作業機が上位の非作業位置にある場合に限って低加速の逆進用設定加速を適用することから、路上走行等の非作業時の移動走行におけるスムーズな乗り心地を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】農用トラクタの側面図
【図2】変速伝動装置の伝動系統展開図
【図3】変速伝動装置の軸線展開断面図
【図4】機器の油圧制御回路図
【図5】変速伝動装置の油圧制御回路図
【図6】別構成の変速伝動装置の軸線展開断面図
【図7】走行制御のシステム構成図
【図8】フローチャート(1)
【図9】フローチャート(2)
【図10】フローチャート(3)
【図11】フローチャート(4)
【図12】設定特性線図
【図13】変速動作線図
【図14】フローチャート(5)
【図15】フローチャート(6)
【図16】経過線図
【図17】バリエータ比の特性線図
【図18】トルク特性図
【図19】フローチャート(7)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
最初にトラクタTの構成について説明する。
トラクタTは、図1に示すように、ボンネット11内部にエンジンEを備え、このエンジンEの回転動力をフロントミッションケース2aとミッドミッションケース2bとリヤミッションケース2cとからなるミッションケース2内の各種伝動装置を介して走行装置となる後輪9R、または前後輪9F,9Rへ伝達して走行する構成となっている。
【0013】
前記エンジンEには、ガバナ機構G近傍にアクセル位置センサを設けている。トラクタTの車体後部には、作業機昇降用油圧シリンダ14を内装するシリンダケース15を備え、同シリンダ14のピストン伸縮操作によりケース両側の作業機昇降アームとなるリフトアーム3を上下回動し、三点リンク機構16を介して対地作業機、ここではロータリ作業機Rを昇降する構成となっている。また前記リフトアーム3の基部には、作業機の高さを検出するセンサとしてリフトアーム角センサを設け、操縦席17側方の作業機昇降レバー18基部のレバー位置センサの検出角と前記リフトアーム3基部のリフトアーム角センサの検出角が一致するように、前記作業機昇降用油圧シリンダ14を駆動する構成となっている。
【0014】
前記三点リンク機構16の左右一側のロアリンクとリフトアーム3は、作業機ローリング用油圧シリンダ19を介して接続され、同シリンダ19のピストンの伸縮操作により、作業機Rの左右一側を上下操作して作業機Rの左右ローリング姿勢を調整する構成となっている。また前記ローリング用油圧シリンダ19の駆動量は、ワイヤーを介してミッションケース2上部のストロークセンサにて検出する構成となっている。
【0015】
またトラクタTの操縦席17の前方には、前記前輪9Fを左右操舵するステアリングハンドル25を設け、この下方に車両の前後進を切り替える前後進切換レバー26、及びエンジンEの回転数を調節するアクセルレバーを設けている。また前記アクセルレバーの回動基部には、摩擦材を有するレバー保持機構を設けると共に、ワイヤーを介して前記エンジンEのガバナ機構Gに接続する構成となっている。これにより、エンジンEのスロットル位置を同レバーの操作位置を変更し任意の位置で保持することができる。
【0016】
前記ステアリングハンドル25の下方には、左右ブレーキペダル7L,7R、そして車速変更用のアクセルペダル28を設け、前記アクセルペダル28の回動基部には、エンジン回転数を減速側へ戻すよう付勢したスプリングを設けると共に、前記アクセルレバーと同様に、ワイヤーを介して前記エンジンEのガバナ機構Gへ接続する構成となっている。
【0017】
これにより、前記アクセルレバーにより保持されたスロットル設定位置を下限として、アクセルペダル28の踏込み時にだけエンジン回転数を上昇させ、踏込み解除時には、前記アクセルレバーで設定された元の位置に復帰する構成となっている。
【0018】
尚、一般的に前記トラクタTのような作業車両では、作業時には変速位置を低速側に設定し、アクセルレバーをエンジン高回転位置(フルスロットル位置)に設定して一定速で走行する一方、路上走行や圃場内移動時では、変速位置を高速側に設定し、アクセルレバーを低回転位置(アイドリング位置近傍)に設定し、アクセルペダル28を踏込んでエンジン回転数、即ち車速を調節する。
【0019】
また、前記ステアリングハンドル25の前方には、液晶モニタを有するメータパネル31を設け、この裏面にメータパネル用コントローラを備え、同コントローラに入力された情報を液晶モニタや警報ブザーにて報知する構成となっている。
【0020】
また、トラクタTの操縦席17の側方には、前記作業機Rの高さを調整する作業機昇降レバー18と、後述する走行系変速装置5の変速比を無段調整する変速レバー6と、トラクタTの状態が「牽引作業」か「ローダ作業」、或いは「路上走行」状態かを指定するモード切換スイッチ20a、更に速度設定器20bを備える構成となっている。また前記変速レバー6の基部には、同レバー6の操作位置を検出するポテンショメータ式の変速レバー位置センサを設け、前記コントローラCでは同レバー6の操作に応じて走行系変速装置5の出力回転を変更する構成となっている。前記操縦席17の下方には、同トラクタTの制御部Cとなる機能別の各種コントローラや、作業機ローリング制御に利用する傾斜センサを備える構成となっている。
【0021】
次に、図2に基づいてトラクタTの動力伝達経路について説明する。
前記エンジンEの回転動力は、PTO系動力として、PTOクラッチ40及びPTO変速装置41を介して車体後部のPTO軸42へ伝達すると共に、走行系動力として、減速ギヤ組35を介して変速装置5(トロイダル型無段変速部5a、遊星ギヤ式差動機構部5b、高低切換クラッチ機構部5c)と後輪デフ機構36Rを介して左右後輪9R,9Rへ伝達すると共に、前記変速装置5にて出力された回転を前輪駆動軸37と前輪デフ機構36Fを介して左右前輪9Fへ伝達する構成となっている。
尚、図2中の符号38はトラクタTの旋回時に前輪を増速駆動させる所謂前輪増速装置を示し、等速クラッチ38aと増速クラッチ38bとを備える構成となっている。
【0022】
(変速装置)
前記走行系変速装置5について詳細に説明すると、前記トロイダル型無段変速部5aは、図3に示すように、走行系入力軸となるバリエータ入力軸45と、同軸45と一体回転する2つの入力側ディスク46a,46aと、伝動下手側の遊星ギヤ式差動機構部5bへ動力を伝える前記バリエータ入力軸45の外側に設けた筒状のバリエータ出力軸47と、同軸47と一体の出力側ディスク46bとを夫れ夫れ同一軸芯線上に備えると共に、前記入力側ディスク46a,46aと出力側ディスク46bとの間に、シリンダピストンの先端部に支持した回転ローラを複数挟持する構成(バリエータ機構)としている。そして、前記複数の回転ローラ及びシリンダピストン(以下、パワーローラ1,1…)を油圧操作で位置を変更することにより同ローラの傾倒角が変更され、前記入力側ディスク46a,46aから出力側ディスク46bへ伝わる動力伝達比が変更されてバリエータ出力軸47の回転を変速する構成となっている。
【0023】
また前記遊星ギヤ式差動機構部5bは、前記バリエータ出力軸47と、伝動下手側の低速クラッチ23Lへ動力を伝達する低速ギヤ51と、高速クラッチ23Hへ動力を伝達する高速ギヤ52を備え、前記バリエータ出力軸47後端部の出力用サンギヤ47aから前記高速ギヤ52及び低速ギヤ51を夫れ夫れ常時噛み合わせる大ギヤ54b及び小ギヤ54aを有する3つのプラネタリギヤ54,54,54を駆動する構成となっている。
【0024】
また前記3つのプラネタリギヤ54,54,54は、共通のキャリア55に支持され、前記出力用サンギヤ47aの周りを公転する構成となっている。また前記バリエータ入力軸45の後部に前記キャリア55を一体回転するように設け、該キャリア55と後側の入力側ディスク46aとを一体回転するように設ける。
【0025】
これにより、前記パワーローラ1,1…のローラ傾倒角を変更し、バリエータ入力軸45の回転とバリエータ出力軸47の回転に差を付けることにより、プラネタリギヤ54の回転が変速され、同ギヤ54に備える大小各ギヤ54b,54aから伝達される回転が変速される。
【0026】

また前記高低切換クラッチ機構部5cは,前記高速ギヤ52の回転を下手側へ伝達させるために入切操作する高速クラッチ23Hと、前記低速ギヤ51の回転を、第一カウンター軸56、第ニカウンター軸57を介して伝達させるために入切操作する低速クラッチ23Lを備え、両クラッチ23L,23Hを夫れ夫れの比例圧力制御弁23vの送油圧調整操作によって接続圧調整する構成となっている。
【0027】
これにより、前記プラネタリギヤ54の高速ギヤ54b若しくは低速ギヤ54aの回転の一方を選択して、後輪デフ機構36Rへの伝動軸58を駆動する構成となっている。
【0028】
以上のように構成した走行系変速装置5では、前記エンジンEの回転をトロイダル型無段変速部5aへ伝達し、バリエータ出力軸47とバリエータ入力軸45の回転を遊星ギヤ式差動機構部5bにて合成する。そしてこの際、前記低速クラッチ23Lを入とした状態で、前記パワーローラ1の傾倒角を変更すると、出力回転を低速域内で正転から逆転に亘って無段階で変速、即ちトラクタTを作業に適した低速域で前進と後進に亘って無段変速する構成となっている。また前記高速クラッチ23Hを入とした状態で、前記パワーローラ1の傾倒角を変更すると、出力回転を正転に保ったまま高速域、即ちトラクタTを路上走行に適した高速域で無段変速する構成となっている。
【0029】
また、前記低速クラッチ23Lを入とした状態において、前記エンジンEから前記バリエータ入力軸45へ駆動回転が入力されていても、前記パワーローラ1,1…の傾倒角を変更することにより、前記低速ギヤ51の出力回転を停止させて、機体の走行を停止維持させることができる。この状態をギヤードニュートラルと称する。尚、前記高速クラッチ23Hが入となっている状態では、前記パワーローラ1,1…の傾倒角を変更しても、ギヤードニュートラルには至らない。
【0030】
次に前記PTO系動力について詳細に説明する。
前記エンジンEの出力回転は、エンジン出力軸12からフロントミッションケース2a前部に位置するPTO伝動ギヤ63へ伝達され、同ギヤ63と一体のPTO伝動軸64にて車体後方へ伝達される。また前記PTO伝動ギヤ63には、回転方向を一方向に規制するワンウェイクラッチ66を備える構成となっている。これにより、例えば前記エンジンE停止時のエンジン出力軸12の振戻しやPTO軸42からの付き回りにより、同ギヤ63及びこれと常時噛み合うギヤ及び同ギヤと一体の軸の逆転を防止することができ、ひいては前記入出側ディスク46a,46b間に挟持された前記ローラを安定して保持することができる。
【0031】
また前記PTO伝動軸64の後部には、傘歯車状のポンプ駆動ギヤ67を設け、同ギヤ67を駆動することでミッドミッションケース2b上面に備えた第三ポンプP3を駆動する構成となっている。またPTO伝動軸64上には、側面視、前記高低切換クラッチ機構部5cと後輪デフ機構36R間にPTOクラッチ40を設け、同クラッチ40にて入切操作された回転をPTO正逆切換装置69にて正転、逆転に切り替えて、伝動下手側のPTO変速装置41へ伝達する構成となっている。またこのPTO変速装置41は、低、中、高の三段変速可能なコンスタントメッシュギヤ式変速機構であり、前記操縦席17近傍のPTO変速レバーのシフト操作によりギヤを切り替える構成となっている。
【0032】
(変速機油圧系)
次に図4と図5に基づいてトラクタTの油圧構成について説明する。
前記トラクタTのフロントミッションケース2aは、内部に中壁71を形成し、前方の区画に前記PTO伝動ギヤ63、ワンウェイクラッチ66とトロイダル型無段変速部5aを内装すると共に、後方の区画に前記遊星ギヤ式差動機構部5bと高低切換クラッチ機構部5cと、前記ポンプ駆動ギヤ67及びPTOクラッチ40等を内装する構成となっている。また前記前方の区画には、前記各パワーローラ1のシリンダ室へ送り込む特殊作動油を充填すると共に、後方の区画には、トラクタTの他のアクチュエータ、例えば昇降用油圧シリンダ14やローリング用油圧シリンダ19用の標準作動油を充填する構成となっている。
【0033】
また前記トラクタTには、第一の油圧ポンプP1にて前記標準作動油を、パワーステアリング用油圧シリンダを駆動するパワステ回路L1へ送り込み、また第二油圧ポンプP2から、同じく標準作動油を作業系回路L2と走行系油路L3へ送り込む構成となっている。
【0034】
前記作業系油路L2は、回路上手側に分流弁74を設け、同分流弁74から前記ローリング用油圧シリンダ19へ通じるローリング用油路L2aと、作業機昇降用油圧シリンダ14へ通じる作業機昇降用油路L2bとへ圧油を送る構成となっている。
【0035】
また前記走行系油路L3は、回路上手側から順に、前記等速クラッチ38a及び増速クラッチ38bを有する前輪駆動用油路、兼PTOクラッチ40へ圧油を送るPTOクラッチ用油路L3a、前記高低切換クラッチ機構部5cへ圧油を送る高低切換用油路L3bを並列分岐し、回路末端をトラクタTの左右後輪9Rを夫れ夫れ独立して制動させるブレーキ用油路L3cを構成している。
【0036】
また専用の油圧ポンプP3により、前記特殊作動油をフロントミッションケース2aの前方の区画から吸い上げ、回路下手側にて二手に分岐し、パワーローラ操作用油路L4a,L4bそれぞれに比例流量制御弁62,62及び逆止弁と絞りから成るダンパ機構75を介してパワーローラ1のシリンダピストン室に接続する構成となっている。また前記二本のパワーローラ操作用油路L4a,L4bは、夫れ夫れの比例流量制御弁62とダンパ機構75との間の油路同士を、逆止弁を備えたシャトル弁76にて接続し、同シャトル弁76にて高圧側の回路から圧油の一部を取り出し、同圧油を回路下手側に備えたリリーフバルブ77の開度を開放するパイロット圧として利用する構成としている。
【0037】
また前記パワーローラ操作用油路L4a,L4bには、前記パワーローラ1,1…のシリンダ室へ接続する油路と並列して、前記同様、高圧側の回路から圧油の一部を取り出す第二のシャトル弁79を備え、同弁79から取り出された圧油をリリーフバルブ80で一定圧に保った状態で前記入出力側ディスク46a,46bを軸方向において互いに接近する方向へ押す所謂エンドロード圧に利用する構成となっている。これにより、比例流量制御弁62にて作動油を送りパワーローラ1,1…を駆動する際、これに連動して入出力側ディスク46a,46bの押圧力を適度に増加するので、過剰なローラの滑りを防止して円滑に変速することができる。
【0038】
また、別の構成例を図6に示すように、エンジン出力軸12の軸線上にトロイダル型無段変速部5aおよび遊星ギヤ式差動機構部5bを構成し、カウンタ配置の後輪デフ機構36Rへの伝動軸58に高低切換クラッチ機構部5cを構成することもできる。
【0039】
(走行制御)
トロイダル無段変速機構による走行制御システムは、そのシステム構成図を図7に示すように、走行制御装置である制御部Cが、リニアレバーセンサー26による前後進切替具と車速設定ダイヤル20bによる定車速設定具の信号に基づいてバリエータの伝動比を制御することにより、所定の設定起動加速による設定車速走行を可能に構成する。上記設定車速走行中における前後進切替具26の逆進操作の際は、上記設定起動加速に代えて別途定めた比較的低加速の逆進用設定加速を適用する。
【0040】
上記制御部Cによる走行動作は、フローチャートを図8に示すように、設定車速走行の判定処理のステップ1(以下において、「S1」の如く略記する。)と前後進切替具の操作の判定処理(S2)により、設定車速走行中における逆進走行の際の前後進切替具の操作によって低加速の逆進用設定加速、例えば、2km/秒を適用(S3a)して逆方向の設定車速走行に移行し、一方、走行開始時は所定の設定起動加速、例えば、5km/秒(S3b)で発進して速やかに設定車速走行に移行する。したがって、速やかな発進の確保とともに、前後進走行を頻繁に繰り返す場合において簡易な操作によるショックの少ない逆進走行により、オペレータの負荷の軽減を図ることができる。
【0041】
この場合において、昇降可能に備えた対地作業用の作業機が上昇位置にある場合に限定して逆進用設定加速を適用するように制御処理を構成することにより、路上走行等の非作業時の移動走行におけるスムーズな乗り心地を確保することができる。
【0042】
また、前後進切替具の逆進操作、すなわち、「前進」→「後進」、または「後進」→「前進」の操作に際して、リニアレバーセンサー26による中立検出から高低切換クラッチ5cの伝動遮断動作までの遅延時間を通常より長く、例えば、本来の500msを1sに変更するように制御処理を構成することにより、レバー操作のもたつきがあってもクラッチの接続が維持され、クラッチの切断に伴う直後の再接続によるショックが避けられ、スムーズな乗り心地を確保することができる。
【0043】
この場合において、昇降可能に備えた対地作業用の作業機が上昇位置にある場合に限定して高低切換クラッチ5cの切断動作までの遅延時間を変更することにより、路上走行等の路面抵抗が小さいときに前後進切替具の逆進操作がもたついても、ショック無しにスムーズな乗り心地を確保することができる。
【0044】
次に、アクセルペダル28によるトルク制御モードにおいては、ローレジームまたはハイレジームのときに、アクセルペダル28の踏込量が略0であっても車速が増加する場合は、減速方向にホイールトルクを発生させるようにバリエータの制御処理を構成する。
【0045】
すなわち、図9のフローチャートに示すように、アクセルペダル28を踏んでいない時に、単位時間当たりの車速の増加度合いを検出(S11)し、所定速度以上であれば減速方向にホイールトルクを発生させ(S12,S13)るエンジンブレーキと同等の機能により、車速の増加を抑え、安全性向上、ブレーキ摩耗の防止が可能となる。
【0046】
また、アクセルペダル28の踏込量が略0であっても車速が増加して所定の車速を越えた場合について、減速方向にバリエータを制御する処理を構成する。すなわち、アクセルペダル28を踏んでいない時に、車速の増加度合いを検出し、車速が増加し、かつ、ダイヤルで設定した所定値以上の場合に限って減速方向にホイールトルクを発生させることにより、ダウンヒル等で車速が速くなりすぎるのを防止でき、特にトレーラ牽引等で安全性を向上することができる。
【0047】
また、上記制御に入った場合において、設定された制限車速を越えている場合は、制限車速以下になるまで、急激な減速にならない範囲の所定の大きさのホイールトルクを減速方向に発生させる。すなわち、測定車速と設定車速を比較(S14)し、減速方向へのホイールトルクを単位時間当たり所定の大きさで増加(S15)させていくレートリミッタ相当の動作により、滑らかな減速で運転者に安心感を与えることができる。
【0048】
次に、旋回走行制御については、トロイダルトラクタの定車速制御または定レシオ制御時において、旋回時自動ブレーキの作動が開始された時点から設定車速を増速側に変更する制御において、図10のフローチャートに示すように、増速開始後の所定時間は車速設定値をより大きくし(S21〜S25)、すなわち、車速設定を速くして所定時間(2〜3秒程度)経過すると車速設定値を元に戻す(S26、S27)。
【0049】
従来の旋回制御では、ブレーキ作動直後に車速が落ちるので動作が遅いと感じられ、増速設定値を大きくすると、旋回終了時は高速になり条合わせがしにくいという問題があったが、旋回開始時の速度低下が少なく、作業フィーリングが向上するとともに、旋回終了時の条合わせも容易になり、作業精度も向上する。
【0050】
上記旋回制御において、フットブレーキが踏込まれた場合に限って増速車速設定値を大きくすることにより、フットブレーキの仕様で車輪がロックした場合でも、速度低下が少なくなる。
【0051】
また、図11のフローチャートに示すように、旋回時自動ブレーキの作動の際に、ステアリング切れ角に応じて車速設定値を変更(S31〜S33)し、切れ角が大きいほど増速値を大きく、直進位置±所定角度以内になると元の速度に設定値を戻すことにより、上記同様の効果を得ることができる。
【0052】
次に、定車速制御または定レシオ制御時におけるトロイダルトラクタの車速設定方法については、単一の車速設定器で前進側と後進側の車速を設定する際に、後進側の最大車速を前進側と異なる設定値とする。例えば、前進側最大設定車速が30km/h、後進側が15km/hの場合に、前後進同じダイヤルで比例配分とすると解りにくいが、図12の設定特性線図に示すように、車速設定ダイヤル中間位置では前後とも15km/h、ダイヤルをいっぱいに回すと、前進は30km/h、後進の場合は15km/hで飽和する特性とすることにより、前後進同じダイヤル位置で同じ設定車速なので分かり易い。
【0053】
また、左右のブレーキペダルについて、「分離」と「連結」の2つの状態によって異なる最大車速制限を行う。例えば、「分離」は主として作業時に適用されることから、この場合の最大車速設定値は、前後進とも15km/hとし、「連結」は主として路上走行等の移動に適用されることから、この場合の最大車速設定値は、前進が30km/h、後進が15km/hとすることにより、「分離」の場合について最高車速が自動的に制限されるので、そのまま高速走行をする危険性を防止することができる。
【0054】
また、ニュートラル時については、その時の実車速を目標車速とする。すなわち、図13の変速動作線図に示すように、前後進切替用のリニヤシフトレバーまたは走行動力遮断用のクラッチペダルをオフした時に、その時の実車速に追随させ(T1→T2)、再度クラッチが接続された時点で、その時の車速から設定車速になるようにPI制御(T2→T3)を行う。発進時(T0)は、急激な変化をさけるために変化率を制限する。
このように、目標速度がその時の実車速からダイヤル設定値までスムーズに変化するため、従来のニュートラル時の目標値が0の場合に慣性で走行していて再度前進または後進に入れた時(T2)のショックが無くなる。
【0055】
次に、トルク制御において、車速制限の選択スイッチを押したときの車速を設定制限車速として記憶または記憶解除する。すなわち、図14のフローチャートに示すように、アクセルペダルを踏んでいないときに車速の増加度合いを検出し、車速が増加している時に車速制限スイッチ(モーメンタリスイッチ)を押せば、その時の車速が制限車速として記憶され(S41〜S43)、その車速を越えたら減速方向にホイールトルクを発生させ、もう一度スイッチを押せば制限が解除されるように構成することにより、運転者がこの程度の車速で制限したいと思った点で制限できることから、操作性、安全性が向上する。
【0056】
次に、移動走行に使用するトルク制御モードから定車速または定レシオモードにした場合の急激な減速ショックの問題を解決するために、定車速制御または定レシオ制御時におけるトロイダルトラクタの目標車速については、トルク制御モードにおいてもその時の実車速とする。
【0057】
すなわち、図15のフローチャートに示すように、トルク制御モードで走行中に定車速および定レシオ制御モードの目標車速を測定車速に設定し(S51,S52)、トルク制御モードで走行中に定車速または定レシオモードにした場合は、図16の経過線図に示すように、目標車速が測定車速V1から車速設定ダイヤルで設定された車速V2に除々に変更されていく(S53〜S56)。したがって、走行、定車速、定レシオモード間の移行が滑らかに行えるので、走行中でもモード切替えが可能となる。
【0058】
次に、定レシオ制御でシンクロレシオにおける問題点として、ローとハイのクラッチ切替えを繰り返す場合があり、クラッチ耐久性に悪影響を及ぼす可能性があることから、この問題を解決するために、トロイダルトラクタの設定車速がバリエータ比のシンクロレシオ以下の場合に、ローレジームの範囲内となるようにクラッチ制御を行う。
【0059】
すなわち、エンジンが定格回転状態において所望車速(例えば、10km/h)で走行車速を設定し、この設定値におけるバリエータ比がシンクロレシオ(例えば、0.39)以下であれば、ハイクラッチの接続なしに、例えば、図17のバリエータ比の特性線図に示すローレジームの範囲内でクラッチ制御をすることにより、上記問題を解消できる。
【0060】
次に、トルク制御モードにおけるブレーキペダル対応制御については、アクセルペダルオフの場合の増速抑制制御によって減速方向のホイールトルクを発生させてエンジンブレーキ機能を設けるとともに、ブレーキペダルの踏込み量に応じて車速を抑える減速トルクを作用させるブレーキアシスト制御を構成する。
【0061】
上記制御により、アクセルペダルを離すと減速方向のホイールトルクが作用し、この時のブレーキペダルの踏込みに応じて減速方向のホイールトルクがさらに作用することから、メカブレーキ単独より滑らかで素早い減速が可能となり、乗車フィーリングが向上する。
【0062】
また、走行モード(アクセルペダルモード)において、車速が所定値以上でアクセルペダルの踏込みがない状態において、車速に応じて減速方向のホイールトルクを発生させるようにバリエータを制御する。この減速トルクは、図18のトルク特性図に示すように、アクセルペダルを離した時の車速が所定値以上の場合に、テーブルを参照してトルクを決定する。このようにして、自然な感覚のエンジンブレーキの様な作用が得られることから、乗車フィーリングが向上する。
【0063】
また、上記減速トルクは、車速の減速率に応じて変更し、すなわち、車速の減速率が大きい場合に減速トルクを小さく、減速率が小さい場合に大きくすることで、走行負荷等による減速率の変化が小さくなり、安定した走行が可能となる。
【0064】
また、アクセルペダルの踏込みがない状態における減速方向のトルクは、図19のフローチャートに示すように、車速に対応して決定(S61)するとともに、ブレーキペダルの操作があれば、その踏込量に応じて減速方向のトルクを大きく(S62,S63)する。
【0065】
このときの車速対応の減速トルクは、アクセルペダルを離した時に車速が所定以上の場合はテーブルを参照して逆方向トルクの大きさを決定し、さらにブレーキペダルが踏まれた場合は、そのトルクを一定の割合で大きくすることにより、ブレーキの作用と合わせて素早い減速ができ、操作性が向上する。
【符号の説明】
【0066】
26 前後進切替具(リニヤレバーセンサ)
20b 定車速設定具(設定ダイヤル)
C 走行制御装置(制御部)
R 作業機(ロータリ作業機)
T トラクター(作業車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後進切替具(26)と定車速設定具(20b)に沿うバリエータの伝動比制御により、所定の設定起動加速による設定車速走行を可能とする制御機能を備える作業車のトロイダル無段変速制御装置において、
上記設定車速走行中における前後進切替具(26)の逆進操作の際は、上記設定起動加速に代えて別途定めた比較的低加速の逆進用設定加速を適用することを特徴とする作業車のトロイダル無段変速制御装置。
【請求項2】
前記逆進用設定加速の適用は、作業車に昇降可能に備えた対地作業用の作業機(R)が上昇位置にある場合に条件限定したことを特徴とする請求項1記載の作業車のトロイダル無段変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−255756(P2010−255756A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106773(P2009−106773)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】