説明

作業車両及び作業車両の制御方法

【課題】本発明の課題は、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り替えられた直後に車速が上昇することを抑えて、燃費を向上させることにある。
【解決手段】作業車両において、制御部は、エンジン回転数とエンジン出力トルクとアクセル操作部材の操作量との関係を規定するエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。制御部は、トルクコンバータ走行時には、第1のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。制御部は、ロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。少なくともアクセル操作部材の操作量が最大より小さい所定の操作量であるときに、第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両及び作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダなどの作業車両には、トルクコンバータとロックアップクラッチとを有するトルクコンバータ装置を備えたものがある。このトルクコンバータ装置は、ロックアップクラッチが非連結状態であるときは、エンジンからの駆動力をトルクコンバータを介して走行装置に伝達する(以下、この状態を「トルコン走行」と呼ぶ)。また、ロックアップクラッチが連結状態であるときは、トルクコンバータ装置は、エンジンからの駆動力をロックアップクラッチを介して走行装置に伝達する(以下、この状態を「ロックアップ走行」と呼ぶ)。また、ロックアップクラッチの連結状態と非連結状態との切換は、制御部によって自動的に行われる。制御部は、例えば車速が所定の切換速度に達すると、ロックアップクラッチを非連結状態から連結状態に切り換える(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−103258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような作業車両では、制御部は、エンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。従来の作業車両では、ロックアップクラッチが非連結状態であるときと連結状態であるときとのいずれの場合においても、同じエンジントルクカーブに基づいてエンジンが制御される。しかし、ロックアップ走行時の車両の牽引力(図10(c)の破線F50参照)は、トルコン走行時の牽引力(図10(c)の一点差線F2TC50参照)よりも大きい。このため、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられた直後に牽引力が急激に上昇することがある(図10(c)の破線矢印参照)。この場合、図23の実線L1に示すように、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられた直後に車速が上昇するという現象が生じる。なお、図23では、時点t1においてロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられている。すなわち、時点t1においてトルコン走行からロックアップ走行への切換が行われている。このような車速の上昇はオペレータの意図しない不必要なものである。また、車速の上昇に応じた燃料を消費するため、このような現象は、燃費を低下させる要因となる。
【0005】
また、作業車両は、土砂などの掘削と積み込みとを行う作業のように、停止と発進とを繰り返す作業を行うことがある。このような作業中に上記のような現象が繰り返し発生すると、オペレータは操作性の低下を感じることになる。このため、上記のような現象を避けるために、オペレータは、スイッチなどの操作により、制御部によるロックアップクラッチの切換制御を無効にしている。従って、ロックアップ走行は、トルコン走行よりも燃費低減の効果が高いにも関わらず、上記のような作業中にはロックアップ走行が有効に利用されていないのが実情である。
【0006】
本発明の課題は、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられた直後に車速が上昇することを抑えて、燃費を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る作業車両は、エンジンと、走行装置と、油圧ポンプと、作業機と、トルクコンバータ装置と、アクセル操作部材と、アクセル操作検出部と、制御部と、を備える。走行装置は、エンジンからの駆動力により駆動されて車両を走行させる。油圧ポンプは、エンジンからの駆動力により駆動されて作動油を吐出する。作業機は、油圧ポンプからの作動油により駆動される。トルクコンバータ装置は、トルクコンバータとロックアップクラッチとを有し、エンジンからの駆動力を走行装置に伝達する。アクセル操作部材は、オペレータによって操作される部材である。アクセル操作検出部は、アクセル操作部材の操作量を検出する。制御部は、エンジン回転数とエンジン出力トルクとアクセル操作部材の操作量との関係を規定するエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。制御部は、ロックアップクラッチが非連結状態であるトルクコンバータ走行時には、第1のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。制御部は、ロックアップクラッチが連結状態であるロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。また、少なくともアクセル操作部材の操作量が最大より小さい所定の操作量であるときに、第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい。
【0008】
この作業車両では、トルクコンバータ走行時のエンジントルクカーブにおけるエンジン出力トルクによる牽引力とロックアップ走行時のエンジントルクカーブにおけるエンジン出力トルクによる牽引力との差が小さい。従って、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられた直後の車速の上昇が抑えられる。これにより、燃費を向上させることができる。また、操作性の低下が抑えられるため、ロックアップ走行が有効に利用されることにより、燃費をさらに向上させることができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る作業車両は、第1の態様に係る作業車両であって、第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、トルクコンバータ走行からロックアップ走行に切り換えられる切換速度を含む所定速度範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい。
【0010】
この作業車両では、トルクコンバータ走行からロックアップ走行に切り換えられるときにトルクコンバータ走行時の牽引力とロックアップ走行時の牽引力との差が小さい。このため、トルクコンバータ走行からロックアップ走行に切り換えられるときに車両に生じるショックを抑えることができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る作業車両は、本発明の第1又は第2の態様に係る作業車両であって、第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、アクセル操作部材の操作量の増減に応じて増減する。
【0012】
この作業車両では、アクセル操作部材の操作量を介してオペレータの意図がエンジン出力トルクの低減に反映される。このため、エンジン出力トルクが低減されて車速の急上昇が抑制されるので、オペレータが操作性の低下を感じることを抑えることができる。また、オペレータが操作性の低下を感じない操作状況でトルク低減量を大きくすることによって、燃費をさらに向上させることができる
本発明の第4の態様に係る作業車両は、本発明の第1から第3の態様に係る作業車両であって、オペレータによって操作される最高速度段設定部材をさらに備える。走行装置はトランスミッションを有する。制御部は、最高速度段設定部材によって選択された最高速度段以下の範囲でトランスミッションの自動変速を行う。そして、トランスミッションの実際の速度段が同じ速度段であっても、最高速度段設定部材によって選択された最高速度段が異なる場合は、制御部は、それぞれ異なる第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。
【0013】
この作業車両では、最高速度段設定部材の操作を介してオペレータの意図がエンジン出力トルクの低減に反映される。このため、エンジン出力トルクが低減されて車速の急上昇が抑制されるので、オペレータが操作性の低下を感じることを抑えることができる。また、オペレータが操作性の低下を感じない操作状況でトルク低減量を大きくすることによって、燃費をさらに向上させることができる
本発明の第5の態様に係る作業車両は、本発明の第1から第4の態様に係る作業車両であって、アクセル操作部材の操作量が最大であるときの第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい。
【0014】
この作業車両では、アクセル操作部材の操作量が最大であるときであってもトルコン走行からロックアップ走行に切り換えられた直後の車速の上昇が抑えられる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る作業車両は、本発明の第1から第5の態様に係る作業車両であって、制御部は、作業機負荷、又は、走行負荷の増大につながる負荷増大条件が満たされているか否かを判定する。制御部は、負荷増大条件が満たされているときのロックアップ走行時には、第3のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。第3のエンジントルクカーブは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲においてエンジン出力トルクが第2のエンジントルクカーブよりも大きい。
【0016】
この作業車両では、作業機負荷、又は、走行負荷が増大する状況では、ロックアップ走行時に第3のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。第3のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において第2のエンジントルクカーブよりも大きい。このため、第3のエンジントルクカーブに基づいてエンジンが制御されるときのエンジン出力トルクは、第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンが制御されるときのエンジン出力トルクよりも大きくなる。これにより、作業車両への負荷が増大する状況において作業機による作業性又は走行装置による走行性の低下を抑えることができる。
【0017】
本発明の第7の態様に係る作業車両の制御方法は、エンジンと走行装置と油圧ポンプと作業機とトルクコンバータ装置とアクセル操作部材とを備える作業車両の制御方法である。走行装置は、エンジンからの駆動力により駆動されて車両を走行させる。油圧ポンプは、エンジンからの駆動力により駆動されて作動油を吐出する。作業機は、油圧ポンプからの作動油により駆動される。トルクコンバータ装置は、トルクコンバータとロックアップクラッチとを有し、エンジンからの駆動力を走行装置に伝達する。アクセル操作部材は、オペレータによって操作される部材である。この制御方法は、次のステップを備える。アクセル操作部材の操作量を検出するステップ。エンジン回転数とエンジン出力トルクとアクセル操作部材の操作量との関係を規定するエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御するステップ。また、エンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御するステップでは、ロックアップクラッチが非連結状態であるトルクコンバータ走行時には、第1のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御し、ロックアップクラッチが連結状態であるロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。そして、少なくともアクセル操作部材の操作量が最大より小さい所定の操作量であるときに、第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい。
【0018】
この作業車両の制御方法では、トルクコンバータ走行時のエンジントルクカーブにおけるエンジン出力トルクによる牽引力とロックアップ走行時のエンジントルクカーブにおけるエンジン出力トルクによる牽引力との差が小さい。従って、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられた直後の車速の上昇が抑えられる。これにより、燃費を向上させることができる。また、操作性の低下が抑えられるため、ロックアップ走行が有効に利用されることにより、燃費をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられた直後に車速が上昇することを抑えて、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る作業車両の側面図。
【図2】作業車両の構成を示す模式図。
【図3】第1のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図4】エンジントルク低減制御での処理を示すフローチャート。
【図5】第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図6】第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図7】アクセル操作量が50%であるときの第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図8】アクセル操作量が70%であるときの第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図9】アクセル操作量が100%であるときの第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図10】アクセル操作量が50%であるときの走行性能線図。
【図11】アクセル操作量が70%であるときの走行性能線図。
【図12】アクセル操作量が100%であるときの走行性能線図。
【図13】トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられたときの車速の変化を示す図。
【図14】他の実施形態に係る第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図15】他の実施形態に係る第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図16】他の実施形態に係る第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図17】他の実施形態に係る第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図18】他の実施形態に係る第2のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図19】他の実施形態に係る作業車両においてトルコン走行からロックアップ走行に切り換えられたときの車速の変化を示す図。
【図20】他の実施形態に係る作業車両におけるエンジントルク低減制御での処理を示すフローチャート。
【図21】図20におけるエンジントルクカーブの選択を行う処理の詳細を示すフローチャート。
【図22】他の実施形態に係る第3のエンジントルクカーブの例を示す図。
【図23】従来の作業車両においてトルコン走行からロックアップ走行に切り換えられたときの車速の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る作業車両1を図1および図2に示す。図1は、作業車両1の外観図であり、図2は、作業車両1の構成を示す模式図である。この作業車両1は、ホイールローダであり、作業車両1は、前輪4a及び後輪4bが回転駆動されることにより自走可能であると共に作業機3を用いて所望の作業を行うことができる。
【0022】
図1に示すように、この作業車両1は、車体フレーム2、作業機3、前輪4a、後輪4b、運転室5を備えている。
【0023】
車体フレーム2は、前車体部2aと後車体部2bとを有している。前車体部2aと後車体部2bとは互いに左右方向に揺動可能に連結されている。前車体部2aと後車体部2bとに渡って一対のステアリングシリンダ11a,11bが設けられている。ステアリングシリンダ11a,11bは、ステアリングポンプ12(図2参照)からの作動油によって駆動される油圧シリンダである。ステアリングシリンダ11a,11bが伸縮することによって、前車体部2aが後車体部2bに対して揺動する。これにより、車両の進行方向が変更される。なお、図1及び図2では、ステアリングシリンダ11a,11bの一方のみを図示しており他方を省略している。
【0024】
前車体部2aには、作業機3および一対の前輪4aが取り付けられている。作業機3は、作業機ポンプ13(図2参照)からの作動油によって駆動される。作業機3は、ブーム6と、一対のリフトシリンダ14a,14bと、バケット7と、バケットシリンダ15とベルクランク9とを有する。ブーム6は、前車体部2aに装着されている。リフトシリンダ14a,14bの一端は前車体部2aに取り付けられている。リフトシリンダ14a,14bの他端はブーム6に取り付けられている。リフトシリンダ14a,14bが作業機ポンプ13からの作動油によって伸縮することによって、ブーム6が上下に揺動する。なお、図1及び図2では、リフトシリンダ14a,14bのうちの一方のみを図示しており、他方は省略している。バケット7は、ブーム6の先端に取り付けられている。バケットシリンダ15の一端は前車体部2aに取り付けられている。バケットシリンダ15の他端はベルクランク9を介してバケット7に取り付けられている。バケットシリンダ15が、作業機ポンプ13からの作動油によって伸縮することによって、バケット7が上下に揺動する。
【0025】
後車体部2bには、運転室5及び一対の後輪4bが取り付けられている。運転室5は、車体フレーム2の上部に載置されており、オペレータが着座するシートや、後述する操作部8などが内装されている。
【0026】
また、図2に示すように、作業車両1は、エンジン21、トルクコンバータ装置23、走行装置22、作業機ポンプ13、ステアリングポンプ12、操作部8、制御部10などを備えている。
【0027】
エンジン21は、ディーゼルエンジンであり、シリンダ内に噴射する燃料量を調整することによりエンジン21の出力が制御される。この調整は、エンジン21の燃料噴射ポンプ24に付設された電子ガバナ25が後述する第1制御部10aによって制御されることで行われる。ガバナ25としては、一般的にオールスピードガバナ制御方式が用いられ、エンジン回転数が、後述するアクセル操作量に応じた目標回転数となるように、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とを調整する。すなわち、ガバナ25は目標回転数と実際のエンジン回転数との偏差がなくなるように燃料噴射量を増減する。エンジン回転数は、エンジン回転数センサ91によって検出される。エンジン回転数センサ91の検出信号は、第1制御部10aに入力される。
【0028】
トルクコンバータ装置23は、ロックアップクラッチ27とトルクコンバータ28を有している。ロックアップクラッチ27は、連結状態と非連結状態とに切換可能である。ロックアップクラッチ27が非連結状態である場合には、トルクコンバータ28が、オイルを媒体としてエンジン21からの駆動力を走行装置22に伝達する(以下、この状態を「トルコン走行」と呼ぶ)。ロックアップクラッチ27が連結状態である場合には、トルクコンバータ28の入力側と出力側とが直結される。エンジン21からの駆動力はロックアップクラッチ27を介して走行装置22に伝達される(以下、この状態を「ロックアップ走行」と呼ぶ)。ロックアップクラッチ27は、油圧作動式のクラッチであり、ロックアップクラッチ27への作動油の供給がクラッチ制御弁31を介して後述する第2制御部10bによって制御されることにより、連結状態と非連結状態とが切り換えられる。
【0029】
走行装置22は、エンジン21からの駆動力により車両を走行させる装置である。走行装置22は、トランスミッション26、及び上述した前輪4a及び後輪4bなどを有する。
【0030】
トランスミッション26は、前進走行段に対応する前進クラッチCFと、後進走行段に対応する後進クラッチCRとを有している。各クラッチCF,CRの連結状態・非連結状態が切り換えられることによって、車両の前進と後進とが切り換えられる。クラッチCF,CRが共に非連結状態のときは、車両は中立状態となる。また、トランスミッション26は、複数の速度段に対応した複数の速度段クラッチC1−C4を有しており、減速比を複数段階に切り換えることができる。例えば、このトランスミッション26では、4つの速度段クラッチC1−C4が設けられており、速度段を第1速度段から第4速度段までの4段階に切り換えることができる。各速度段クラッチC1−C4は、油圧作動式の油圧クラッチである。図示しない油圧ポンプからクラッチ制御弁31を介してクラッチC1−C4へ作動油が供給される。クラッチ制御弁31が第2制御部10bによって制御されて、クラッチC1−C4への作動油の供給が制御されることにより、各クラッチC1−C4の連結状態及び非連結状態が切り換えられる。
【0031】
トランスミッション26の出力軸には、トランスミッション26の出力軸の回転数を検出するT/M出力回転数センサ92が設けられている。T/M出力回転数センサ92からの検出信号は、第2制御部10bに入力される。第2制御部10bは、T/M出力回転数センサ92の検出信号に基づいて車速を算出する。従って、T/M出力回転数センサ92は車速を検出する車速センサとして機能する。なお、トランスミッション26の出力軸ではなく他の部分の回転速度を検出するセンサが車速センサとして用いられてもよい。トランスミッション26から出力された駆動力は、シャフト32などを介して前輪4a及び後輪4bに伝達される。これにより、車両が走行する。トランスミッション26の入力軸の回転数は、T/M入力回転数センサ93によって検出される。T/M入力回転数センサ93からの検出信号は、第2制御部10bに入力される。
【0032】
エンジン21の駆動力の一部は、PTO軸33を介して作業機ポンプ13及びステアリングポンプ12に伝達される。作業機ポンプ13及びステアリングポンプ12は、エンジン21からの駆動力によって駆動される油圧ポンプである。作業機ポンプ13から吐出された作動油は、作業機制御弁34を介してリフトシリンダ14a,14b及びバケットシリンダ15に供給される。また、ステアリングポンプ12から吐出された作動油は、ステアリング制御弁35を介してステアリングシリンダ11a,11bに供給される。このように、作業機3及びステアリングシリンダ11a,11bは、エンジン21からの駆動力の一部によって駆動される。
【0033】
作業機ポンプ13から吐出された作動油の圧力(以下、「作業機ポンプ油圧」と呼ぶ)は、第1油圧センサ94によって検出される。リフトシリンダ14a,14bに供給される作動油の圧力(以下「リフトシリンダ油圧」と呼ぶ)は、第2油圧センサ95によって検出される。具体的には、第2油圧センサ95は、リフトシリンダ14a,14bを伸長させるときに作動油が供給されるシリンダボトム室の油圧を検出する。バケットシリンダ15に供給される作動油の圧力(以下「バケットシリンダ油圧」と呼ぶ)は、第3油圧センサ96によって検出される。具体的には、第3油圧センサ96は、バケットシリンダ15を伸長させるときに作動油が供給されるシリンダボトム室の油圧を検出する。ステアリングポンプ12から吐出された作動油の圧力(以下、「ステアリングポンプ油圧」と呼ぶ)は、第4油圧センサ97によって検出される。第1〜第4油圧センサ94−97からの検出信号は、第2制御部10bに入力される。
【0034】
操作部8は、オペレータによって操作される。操作部8は、アクセル操作部材81a、アクセル操作検出装置81b、ステアリング操作部材82a、ステアリング操作検出装置82b、ブーム操作部材83a、ブーム操作検出装置83b、バケット操作部材84a、バケット操作検出装置84b、変速操作部材85a、変速操作検出装置85b、FR操作部材86a、及び、FR操作検出装置86bなどを有する。
【0035】
アクセル操作部材81aは、例えばアクセルペダルであり、エンジン21の目標回転数を設定するために操作される。アクセル操作検出装置81b(アクセル操作検出部)は、アクセル操作部材81aの操作量(以下、「アクセル操作量」と呼ぶ)を検出する。アクセル操作検出装置81bは、検出信号を第1制御部10aへ出力する。
【0036】
ステアリング操作部材82aは、例えばステアリングハンドルであり、車両の進行方向を操作するために操作される。ステアリング操作検出装置82bは、ステアリング操作部材82aの位置を検出し、検出信号を第2制御部10bに出力する。第2制御部10bは、ステアリング操作検出装置82bからの検出信号に基づいてステアリング制御弁35を制御する。これにより、ステアリングシリンダ11a,11bが伸縮して、車両の進行方向が変更される。
【0037】
ブーム操作部材83a及びバケット操作部材84aは、例えば操作レバーであり、作業機3を動作させるために操作される。具体的には、ブーム操作部材83aは、ブーム6を動作させるために操作される。バケット操作部材84aは、バケット7を動作させるために操作される。ブーム操作検出装置83bは、ブーム操作部材83aの位置を検出する。バケット操作検出装置84bは、バケット操作部材84aの位置を検出する。ブーム操作検出装置83b及びバケット操作検出装置84bは、検出信号を第2制御部10bに出力する。第2制御部10bは、ブーム操作検出装置83b及びバケット操作検出装置84bからの検出信号に基づいて作業機制御弁34を制御する。これにより、リフトシリンダ14a,14b及びバケットシリンダ15が伸縮して、ブーム6及びバケット7が動作する。また、作業機3にはブーム角を検出するブーム角検出装置98が設けられている。ブーム角は、例えば、前車体部2aとブーム6との回転支持中心と、ブーム6とバケット7との回転支持中心とを結ぶ線と、前後の車輪4a,4bの軸中心を結ぶ線とに挟まれた角度をいう。ブーム角検出装置98は、検出信号を第2制御部10bに出力する。
【0038】
変速操作部材85aは、例えばシフトレバーである。変速操作部材85aは、速度段の上限(以下、「最高速度段」と呼ぶ)を設定するために操作される。変速操作検出装置85bは、変速操作部材85aの位置を検出する。変速操作検出装置85bは、検出信号を第2制御部10bに出力する。第2制御部10bは、変速操作検出装置85bからの検出信号に基づいて、トランスミッション26の変速を制御する。
【0039】
FR操作部材86aは、車両の前進と後進とを切り換えるために操作される。FR操作部材86aは、前進、中立、及び後進の各位置に切り換えられることができる。FR操作検出装置86bは、FR操作部材86aの位置を検出する。FR操作検出装置86bは、検出信号を第2制御部10bに出力する。第2制御部10bは、FR操作検出装置86bからの検出信号に基づいてクラッチ制御弁31を制御する。これにより、前進クラッチCF及び後進クラッチCRが制御され、車両の前進と後進と中立状態とが切り換えられる。
【0040】
制御部10は、第1制御部10a及び第2制御部10bを有する。第1制御部10a及び第2制御部10bは、例えばプログラムメモリやワークメモリとして使用される記憶装置と、プログラムを実行するCPUと、を有するコンピュータにより、それぞれ実現されることができる。
【0041】
第1制御部10aは、アクセル操作量に応じた目標回転数が得られるように、エンジン指令信号をガバナ25に送る。エンジン回転数とエンジン21のエンジン出力トルク(以下、「エンジントルク」と呼ぶ)とアクセル操作量との関係を規定するエンジントルクカーブに基づいてエンジン21を制御する。より具体的には、エンジントルクカーブは、エンジン21が回転数に応じて出力できる最大の出力トルク(以下、「トルク上限値」と呼ぶ)を表す。エンジントルクカーブは、アクセル操作量に応じて変化する。図3に示す第1のエンジントルクカーブE100,E70,E50は、後述するエンジントルク低減制御が行われていない時のエンジントルクカーブの例である。第1のエンジントルクカーブE100は、アクセル操作量が100%であるときのエンジントルクカーブである。この第1のエンジントルクカーブE100は、例えばエンジン21の定格又は最大のパワー出力に相当する。なお、アクセル操作量が100%とは、アクセル操作部材81aが最大に操作されている状態を意味する。第1のエンジントルクカーブE70は、アクセル操作量が70%であるときのエンジントルクカーブを示している。第1のエンジントルクカーブE50は、アクセル操作量が50%であるときのエンジントルクカーブを示している。このように、第1のエンジントルクカーブE100,E70,E50では、ガバナ25の燃料噴射量が最大となる前のレギュレーション領域におけるエンジントルクの特性TRが、アクセル操作量に応じて変化する。しかし、ガバナ25の燃料噴射量が最大となる全負荷領域におけるエンジントルクの特性TMは、アクセル操作量に応じて変化しない。
【0042】
ガバナ25は、エンジントルクがエンジントルクカーブ以下となるようにエンジン21の出力を制御する。このエンジン21の出力の制御は、例えば、エンジン21への燃料噴射量の上限値を制御することにより行われる。また、エンジントルク低減制御が行われているときには、第1制御部10aは、第2制御部10bから修正指令信号を受信する。第1制御部10aは、修正指令信号によりエンジン指令信号の指令値を修正してガバナ25に送る。
【0043】
第2制御部10bは、車両の走行状態に応じて、トランスミッション26やトルクコンバータ装置23を制御する。第2制御部10bは、車速に応じて、トランスミッション26の変速およびロックアップクラッチ27の切換を自動的に行う。具体的には、車速の増大に応じて、第2速トルコン走行、第2速ロックアップ走行、第3速トルコン走行、第3速ロックアップ走行、第4速トルコン走行及び第4速ロックアップ走行の順に変速を行う。例えば、第2速トルコン走行は、トランスミッション26の速度段が第2速であり、且つ、ロックアップクラッチ27が非連結状態である動力伝達状態を意味する。また、第2速ロックアップ走行は、トランスミッション26の速度段が第2速であり、且つ、ロックアップクラッチ27が連結状態である動力伝達状態を意味する。他の動力伝達状態についても同様に、トランスミッション26の速度段数とロックアップクラッチ27の状態との組み合わせによって定義される。ただし、最高速度段が第3速に設定されているときは、第2速トルコン走行から第3速ロックアップ走行までの範囲で変速が行われる。最高速度段が第2速に設定されているときは、第2速トルコン走行から第2速ロックアップ走行までの範囲で変速が行われる。第1速トルコン走行は、最高速度段が第1速に設定されているときに設定される。なお、図示しないロックアップ機能設定部材によって、ロックアップ走行が実行されないように設定することが可能である。この場合、第2制御部10bは、車速の増大に応じて、第2速トルコン走行、第3速トルコン走行、及び第4速トルコン走行の順に変速を行う。
【0044】
第2制御部10bには、上述した検出信号に加えて、トルクコンバータ装置23の入口圧及び出口圧などの検出信号も入力される。また、第1制御部10aと第2制御部10bとは有線又は無線によって互いに通信することができる。エンジン回転数、燃料噴射量、アクセル操作量などの検出信号が第1制御部10aから第2制御部10bに入力される。第2制御部10bは、後述するエンジントルク低減制御において、これらの信号に基づいて、エンジン指令信号の指令値を修正するための修正値を算出する。第2制御部10bは、修正値に対応する修正指令信号を第1制御部10aへ送信する。この修正値は、トルク上限値の所望の低減量を得るために必要な値である。これにより、第1制御部10aと第2制御部10bとは、トルク上限値を所望の値に制御することができる。
【0045】
第2制御部10bは、ロックアップ走行時には、上述した第1のエンジントルクカーブよりもトルク上限値を低減させた第2のエンジントルクカーブを用いてエンジン21を制御するエンジントルク低減制御を行う。以下、エンジントルク低減制御について図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0046】
まず、第1ステップS1では、各種の情報が検出される。ここでは、上述した各種の検出信号によって、第1制御部10a及び第2制御部10bに各種の情報が送られる。例えば、変速操作部材85aの位置が検出信号として第2制御部10bに送られる。また、アクセル操作量が検出信号として第1制御部10aを介して第2制御部10bへ送られる。
【0047】
第2ステップS2では、ロックアップクラッチ27が連結状態であるか否かが判定される。ここでは、第2制御部10bが、トルクコンバータ装置23の入力軸回転数及び出力軸回転数に基づいて、ロックアップクラッチ27の連結が完了しているか否か、又は、ロックアップクラッチ27の連結が完了しようとしているか否かを判定する。トルクコンバータ装置23の入力軸回転数としては、エンジン回転数センサ91が検出したエンジン回転数が用いられる。また、トルクコンバータ装置23の出力軸回転数としては、T/M入力回転数センサ93が検出したトランスミッション26の入力軸の回転数が用いられる。ロックアップクラッチ27が連結状態である場合には、第3ステップS3に進む。
【0048】
第3ステップS3では、トルク低減量の算出が行われる。ここでは、第2制御部10bは、上述した第1のエンジントルクカーブを、図5及び図6に示す第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU70,E2LU50,E3LU100,E3LU70,E3LU50のように変化させるためのトルク低減量を算出する。第2制御部10bは、変速操作部材85aの位置及びアクセル操作量に基づいてトルク低減量を算出する。図5に示す第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU70,E2LU50は、最高速度段として第2速が選択されているときのエンジントルクカーブである。特に、E2LU100は、アクセル操作量が100%であるときのエンジントルクカーブである。E2LU70は、アクセル操作量が70%であるときのエンジントルクカーブである。E2LU50は、アクセル操作量が50%であるときのエンジントルクカーブである。このように、第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU70,E2LU50のエンジントルクは、Na以上のエンジン回転数の範囲において、アクセル操作部材81aの操作量の増減に応じて増減する。
【0049】
図6に示す第2のエンジントルクカーブE3LU100,E3LU70,E3LU50は、最高速度段として第3速又は第4速が選択されており、且つ、トランスミッション26の実際の速度段が第2速であるときのエンジントルクカーブである。特に、E3LU100は、アクセル操作量が100%であるときのエンジントルクカーブである。E3LU70は、アクセル操作量が70%であるときのエンジントルクカーブである。E3LU50は、アクセル操作量が50%であるときのエンジントルクカーブである。このように、第2のエンジントルクカーブE3LU100,E3LU70,E3LU50のエンジントルクは、Na以上のエンジン回転数の範囲において、アクセル操作部材81aの操作量の増減に応じて増減する。
【0050】
図7(a)に示すように、アクセル操作量が50%である場合、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU50のエンジントルクは、Na〜Nbのエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE50のエンジントルクよりも小さい。また、図7(b)に示すように、アクセル操作量が50%である場合、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブE3LU50のエンジントルクは、Na〜Ndのエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE50のエンジントルクよりも小さい。さらに、図7(b)に示すように、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブE3LU50のエンジントルクは、Nc〜Nbのエンジン回転数の範囲において、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU50のエンジントルクよりも大きい。すなわち、Nc以上Nb以下のエンジン回転数の範囲においては、第2のエンジントルクカーブE3LU50のトルク低減量は、第2のエンジントルクカーブE2LU50のトルク低減量よりも少ない。
【0051】
また、図8(a)に示すように、アクセル操作量が70%である場合、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU70のエンジントルクは、Na〜Neのエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE70のエンジントルクよりも小さい。また、図8(b)に示すように、アクセル操作量が70%である場合、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブE3LU70のエンジントルクは、Na〜Neのエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE70のエンジントルクよりも小さい。さらに、図8(b)に示すように、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブE3LU70のエンジントルクは、Ng〜Neのエンジン回転数の範囲において、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU70のエンジントルクよりも大きい。すなわち、Ng以上Ne以下のエンジン回転数の範囲においては、第2のエンジントルクカーブE3LU70のトルク低減量は、第2のエンジントルクカーブE2LU70のトルク低減量よりも少ない。
【0052】
また、図9(a)に示すように、アクセル操作量が100%である場合、すなわちアクセル操作部材81aの操作量が最大である場合、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU100のエンジントルクは、Na以上のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE100のエンジントルクよりも小さい。また、図9(b)に示すように、アクセル操作量が100%である場合、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブE3LU100のエンジントルクは、Na〜Nhのエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE100のエンジントルクよりも小さい。さらに、図9(b)に示すように、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブE3LU100のエンジントルクは、Ni以上のエンジン回転数の範囲において、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU100のエンジントルクよりも大きい。すなわち、Ni以上のエンジン回転数の範囲においては、第2のエンジントルクカーブE3LU100のトルク低減量は、第2のエンジントルクカーブE2LU100のトルク低減量よりも少ない。
【0053】
なお、上述した第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さくなるエンジン回転数の範囲は、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられる切換速度を含む所定速度範囲を含む。例えば、図7(a)に示すエンジン回転数の範囲Na〜Nbは、第2速トルコン走行から第2速ロックアップ走行に切り換えられる切換速度を含む。
【0054】
図4のフローチャートに戻り、第4ステップS4では、修正指令信号が出力される。ここでは、第2制御部10bが、第3ステップS3で算出されたトルク低減量に相当するエンジン回転数指令の修正値を算出し、この修正値に対応する修正指令信号を第1制御部10aに送る。
【0055】
第5ステップS5では、エンジン指令信号が修正される。ここでは、第1制御部10aは、第2制御部10bから送信された修正指令信号を受信する。第1制御部10aは、修正指令信号によりエンジン指令信号の指令値を修正する。
【0056】
第6ステップS6では、エンジン指令信号が出力される。ここでは、上述したように、第1制御部10aは、ガバナ25にエンジン指令信号を送る。第2ステップS2において、ロックアップクラッチ27が非連結状態であると判定されたときには、第1制御部10aは、エンジン指令信号をエンジントルク低減制御による修正を行わずに、ガバナ25に送る。すなわち、トルコン走行時には、制御部10は、上述した第1のエンジントルクカーブに基づいてエンジン21を制御する。一方、第2ステップS2において、ロックアップクラッチ27が連結状態であると判定されたときには、第1制御部10aは、第2制御部10bからの修正指令信号によりエンジン指令信号を修正してガバナ25に送る。すなわち、ロックアップ走行時には、制御部10は、上述した第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジン21を制御する。
【0057】
本発明の実施形態に係る作業車両1は、トルコン走行時には、第1のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。また、ロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。このため、図10から図12に示すように、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられるとき及び切り換えられた後の車両の牽引力の増加量が抑えられる。図10−図12は、第2速トルコン走行から第2速ロックアップ走行に切り換えられるときの車両の走行性能線図である。各図において、縦軸は車両の牽引力であり、横軸は車速である。一点鎖線Frは、車両の走行抵抗を示している。一点鎖線F2TC50,F2TC70,F2TC100は、それぞれアクセル操作量が50%、70%、100%である第2速トルコン走行時の牽引力を示している。各図のFで始まる他の符号は、対応するエンジントルクカーブによる走行性能線であることを示している。例えば、図10(a)において、F2LU50は、第2のトルクカーブE2LU50による走行性能線であることを示している。F50は、第1のトルクカーブE50による走行性能線であることを示している。また、破線矢印は、第2速トルコン走行から第2速ロックアップ走行に切り換えられたときの車両の牽引力の変化を示している。
【0058】
具体的には、図10(a)は、アクセル操作量が50%であり、且つ、最高速度段が第2速である場合の走行性能線図である。図10(b)は、アクセル操作量が50%であり、且つ、最高速度段が第3速以上である場合の走行性能線図である。図10(c)は、比較例に係る作業車両においてアクセル操作量が50%であるときの走行性能線図である。比較例に係る作業車両では、ロックアップ走行時にエンジントルクの低減が行われずにトルコン走行時と同様に第1のエンジントルクカーブによってエンジン21が制御される。
【0059】
図11(a)は、アクセル操作量が70%であり、且つ、最高速度段が第2速である場合の走行性能線図である。図11(b)は、アクセル操作量が70%であり、且つ、最高速度段が第3速以上である場合の走行性能線図である。図11(c)は、上記と同様の比較例に係る作業車両においてアクセル操作量が70%であるときの走行性能線図である。
【0060】
図12(a)は、アクセル操作量が100%であり、且つ、最高速度段が第2速である場合の走行性能線図である。図12(b)は、アクセル操作量が100%であり、且つ、最高速度段が第3速以上である場合の走行性能線図である。図12(c)は、上記と同様の比較例に係る作業車両においてアクセル操作量が100%であるときの走行性能線図である。
【0061】
図13では、時点t1においてトルコン走行からロックアップ走行への切換が行われている。また、実線L2は、エンジントルク低減制御が行われた場合の車速の変化を示している。二点鎖線L1は、エンジントルク低減制御が行われていない場合の車速の変化を示している。
【0062】
図10−図12から明らかなように、本発明の実施形態に係る作業車両1では、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられるとき及び切り換えられた後の車両の牽引力の増加量が、比較例に係る作業車両よりも抑えられている。従って、図13に実線L2で示すように、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられた直後の車速の上昇が抑えられる。これにより、燃費を向上させることができる。また、ロックアップ機能を有効にしても車速の上昇が抑えられるので、操作性の低下が抑えられる。このため、作業中にロックアップ走行が有効に利用されることにより、さらに燃費を向上させることができる。
【0063】
第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられる切換速度を含む所定速度範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さい。このため、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられるときに車両に生じるショックを抑えることができる。
【0064】
第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、アクセル操作部材81aの操作量の増減に応じて増減する。具体的には、図5及び図6に示すように、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、アクセル操作部材81aの操作量が大きいほど大きい。すなわち、アクセル操作部材81aの操作量が大きいほど、ロックアップ走行時のトルク低減量が小さい。アクセル操作部材81aの操作量が大きいときは、オペレータが車両の加速又は作業機3の大きな出力を望んでいる状態であることが多い。従って、そのような状況ではロックアップ走行時のトルク低減量を小さくすることによって、加速性能又は作業機3の出力が低下することを抑えることができる。逆に、アクセル操作部材81aの操作量が小さいときは、オペレータが車両の加速又は作業機3の大きな出力を望んでいない状態であることが多い。従って、そのような状況ではトルク低減量を大きくしても、オペレータが操作性の低下を感じない。また、トルク低減量を大きくすることによって、燃費を向上させることができる。
【0065】
トランスミッション26の実際の速度段が同じ速度段であっても変速操作部材85aによって選択された最高速度段が異なる場合は、制御部10は、それぞれ異なる第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジンを制御する。具体的には、図7(b)、図8(b)、図9(b)に示すように、最高速度段が第3速以上であるときの第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、最高速度段が第2速であるときの第2のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも大きい。オペレータが最高速度段を第2速に設定するときは、短い距離の移動を繰り返す作業を行うときが多い。短い距離の走行と停止とが繰り返されるので、速度を上げる状況が少ないからである。一方、オペレータが最高速度段を第3速以上の速度段に設定するときは、長距離の移動が行われるときが多い。車両が長距離を走行するので、車速が高速度まで上昇し得るからである。従って、最高速度段が第3速以上であるときには、エンジントルクが大きい、すなわち、トルク低減量が小さいことにより、車両の加速性能の低下を抑えることができる。一方、最高速度段が第2速であるときには、エンジントルクが小さい、すなわち、トルク低減量が大きくても、オペレータは、操作性の低下を感じない。また、トルク低減量を大きくすることによって、燃費を向上させることができる。
【0066】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
上記の実施形態に係る作業車両では、第1制御部10aと第2制御部10bとが別に設けられているが、一体に設けられてもよい。例えば、1つのコンピュータによって第1制御部10aと第2制御部10bとの機能が実現されてもよい。逆に、第1制御部10a又は第2制御部10bの機能が複数のコンピュータによって分担されてもよい。
【0068】
上記の各種の操作部材は、例示したようにペダル或いはレバーなどの部材に限られない。他にもダイヤルやスイッチなどが用いられてもよい。
【0069】
上記の実施形態では、図10に示すように、第2のエンジントルクカーブE2LU50,E3LU50による走行性能線F2LU50,F3LU50は、トルコン走行時の走行性能線F2TC50よりも上方に位置している。図11に示すように、第2のエンジントルクカーブE2LU70,E3LU70による走行性能線F2LU70,F3LU70は、トルコン走行時の走行性能線F2TC70よりも上方に位置している。また、図12に示すように、第2のエンジントルクカーブE2LU100,E3LU100による走行性能線F2LU100,F3LU100は、トルコン走行時の走行性能線F2TC100よりも上方に位置している。つまり、車速が同じ場合に、第2速ロックアップ走行時の第2のエンジントルクカーブによる牽引力は、第2速トルコン走行時の牽引力よりも大きい。しかし、図14に示すように、第2のエンジントルクカーブE2LU50による走行性能線F2LU50が、第2速トルコン走行時の走行性能線F2TC50よりも下方に位置してもよい。すなわち、車速が同じ場合に、第2のエンジントルクカーブによる牽引力が、トルコン走行時の牽引力よりも小さくてもよい。この場合、燃費をさらに向上させることができる。
【0070】
また、図15に示すように、第2速ロックアップ走行時の第2のエンジントルクカーブE2LU50による走行性能線F2LU50が、第2速トルコン走行時の走行性能線F2TC50よりも僅かに上方に位置してもよい。すなわち、車速が同じ場合に、第2のエンジントルクカーブによる牽引力が、トルコン走行時の牽引力より僅かに大きくてもよい。この場合も、燃費をさらに向上させることができる。ただし、上記の実施形態のように、第2のエンジントルクカーブによる牽引力が、第2速トルコン走行時の牽引力よりも、より大きい方が、車両の加速性能又は作業機3の出力を向上させることができる。
【0071】
本発明の適用対象は、オールスピードガバナ制御方式のエンジンの制御に限られない。例えば、ミニマムマキシマムスピードガバナ制御方式のエンジンの制御に本発明が適用されてもよい。ただし、オールスピードガバナ制御では、上述したようにアクセル操作量に応じてレギュレーション領域でのエンジントルクの特性が変化する。一方、ガバナ25の燃料噴射量が最大となる全負荷領域におけるエンジントルクの特性TMはアクセル操作量に応じて変化しない。このため、ロックアップ走行時とトルコン走行時とで牽引力の差が大きくなる傾向が強いという問題がある。すなわち、オールスピードガバナ制御では、上述したようなトルコン走行からロックアップ走行へ切り換えた直後に車速が増大するという課題が顕著に表れる。従って、本発明は、オールスピードガバナ制御に対して適用されることで、より一層、優れた効果を奏することができる。
【0072】
上記の実施形態では、第2のエンジントルクカーブの全負荷領域においてエンジントルクが部分的に低減されているが、全負荷領域においてエンジントルクが全体的に低減されてもよい。例えば、オールスピードガバナ制御方式のエンジンの制御において、図16(a)に示す第1のエンジントルクカーブE100,E90,E80,E70に対して、図16(b)に示す第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU90,E2LU80,E2LU70が用いられてもよい。また、ミニマムマキシマムスピードガバナ制御方式のエンジンの制御において、図17(a)に示す第1のエンジントルクカーブE100,E90,E80,E70に対して、図17(b)に示す第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU90,E2LU80,E2LU70が用いられてもよい。
上記の実施形態では、アクセル操作量が同じとき、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、エンジン回転数の一部の範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さい。しかし、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが、エンジン回転数の全て範囲において、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さくてもよい。
【0073】
上記の実施形態では、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、アクセル操作量が最大である100%以下の操作量であるときに、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さい。しかし、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが、アクセル操作量が100%より小さい所定の操作量以下であるときに、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクより小さくてもよい。すなわち、アクセル操作量が100%であるときには、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクと同じであってもよい。
【0074】
例えば図18に示すように、アクセル操作量が80%以下であるときに、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが、第1のエンジントルクカーブのエンジントルクより小さくてもよい。そして、アクセル操作量が80%より大きいときに、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが、第1のエンジントルクカーブと同じでもよい。具体的には、図18(a)に示す第1のエンジントルクカーブE100,E90,E80,E70に対して、図18(b)に示すような第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU90,E2LU80,E2LU70が用いられてもよい。ここでは、アクセル操作量が100%、90%であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU100,E2LU90は、それぞれアクセル操作量が100%、90%であるときの第1のエンジントルクカーブE100,E90と同じである。これに対して、アクセル操作量が80%、70%であるときの第2のエンジントルクカーブE2LU80,E2LU70では、それぞれアクセル操作量が80%、70%であるときの第1のエンジントルクカーブE80,E70よりも、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲においてエンジントルクが小さい。
【0075】
上記の実施形態では、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクは、エンジン回転数の一部の範囲において、アクセル操作部材81aの操作量の増減に応じて増減している。しかし、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが、エンジン回転数の全ての範囲において、アクセル操作部材81aの操作量の増減に応じて増減してもよい。
【0076】
上記の実施形態では、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さくなるエンジン回転数の範囲は、トルコン走行からロックアップ走行に切り換えられる切換速度を含む所定速度範囲を含んでいる。しかし、この切換速度を含まない速度範囲において、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さくなっていてもよい。この場合、図19において実線L3で示すように、トルコン走行からロックアップ走行へ切り換えられた後の車速の増大を抑えることができるので、燃費を向上させることができる。なお、図19では、時点t1においてトルコン走行からロックアップ走行への切換が行われている。破線L2及び実線L3は、エンジントルク低減制御が行われた場合の車速の変化を示している。特に、実線L3のエンジントルク低減制御では、切換速度より大きい(切換速度を含まない)速度範囲において、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さくなっている。破線L2のエンジントルク低減制御では、切換速度を含む速度範囲において、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが第1のエンジントルクカーブのエンジントルクよりも小さくなっている。すなわち、破線L2及び実線L3のエンジントルク低減制御では、少なくとも切換速度より大きい速度範囲において、第2のエンジントルクカーブのエンジントルクが第1のエンジントルクカーブのエンジントルクより小さくなっている。なお、二点鎖線L1は、エンジントルク低減制御が行われていない場合の車速の変化を示している。
【0077】
上記の実施形態では、最高速度段が第2速であるときと第3速以上であるときとで、それぞれ異なる第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジン21が制御されている。しかし、異なる第2のエンジントルクカーブが選択される最高速度段の組み合わせは上記のものに限られない。例えば、最高速度段が第1速であるときと第2速以上であるときとで、それぞれ異なる第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジン21が制御されてもよい。或いは、最高速度段が第2速であるときと、第3速であるときと、第4速であるときとで、それぞれ異なる第2のエンジントルクカーブに基づいてエンジン21が制御されてもよい。
【0078】
トランスミッション26の速度段は第1速から第4速に限られない。変速可能な速度段がより多くても又はより少なくてもよい。また、第2制御部10bによるトランスミッション26の変速パターンは上述したものに限られない。例えば、速度の増大に応じて第1速から順に変速が行われてもよい。
【0079】
ロックアップ走行が行われている場合であっても、作業車両1の状況によっては、エンジントルクの低減量が上述した第2のエンジントルクカーブでのエンジントルクの低減量よりも小さくされてもよい。或いは、ロックアップ走行が行われている場合であっても、作業車両1の状況によっては、エンジントルクが低減されないことがあってもよい。例えば、制御部10が、負荷増大条件が満たされているか否かを判定し、負荷増大条件が満たされているときのロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブよりも大きい第3のエンジントルクカーブに基づいてエンジン21を制御してもよい。負荷増大条件とは、作業車両1が作業機3への負荷、又は、走行負荷の増大につながる状況にあることを示す条件である。負荷増大条件が考慮される場合のエンジントルク低減制御の処理を図20に示す。
【0080】
図20に示すフローチャートでは、上述した図4に示すフローチャートに対して、第2−0ステップS2−0が追加されている。すなわち、第2ステップS2において、ロックアップクラッチ27が連結状態である場合には、第2−0ステップS2−0に進む。第2−0ステップS2−0では、エンジン21の制御に用いられるエンジントルクカーブの選択が行われる。この第2−0ステップS2−0での処理内容の詳細を図21に示す。
【0081】
まず、第2−1ステップS2−1において、作業局面の判別が行われる。具体的には、第2制御部10bは、以下のようにして作業局面を判別する。
【0082】
第2制御部10bは、上述した検出信号に基づいて、車両の走行ステータスと作業ステータスとを判別する。走行ステータスには、「停止」、「前進」、及び「後進」がある。車速が所定の停止閾値以下である場合には、第2制御部10bは、走行ステータスを「停止」と判定する。所定の停止閾値は、車両が停止していると見なすことができる程度に低い値である。FR操作部材86aが前進位置に設定されており、且つ、車両が前進している場合には、第2制御部10bは、走行ステータスを「前進」と判定する。FR操作部材86aが後進位置に設定されており、且つ、車両が後進している場合には、第2制御部10bは、走行ステータスを「後進」と判定する。
【0083】
作業ステータスには、「積荷」、「空荷」、及び、「掘削」がある。第2制御部10bは、リフトシリンダ油圧が所定の積荷閾値以上である場合には、作業ステータスを「積荷」と判定する。第2制御部10bは、リフトシリンダ油圧がこの積荷閾値より小さい場合には、作業ステータスを「空荷」と判定する。すなわち、「空荷」とは、バケット7に荷物が積まれていない状態、又は少量の荷物が積まれている状態を意味する。また、「積荷」とは、バケット7に所定量以上の荷物が積まれている状態を意味する。従って、所定の積荷閾値は、バケット7に荷物が積まれていない状態、又は少量の荷物が積まれている状態でのリフトシリンダ油圧の値よりも大きな値であり、バケット7に所定量以上の荷物が積まれていると見なすことができるリフトシリンダ油圧の値である。また、第2制御部10bは、リフトシリンダ油圧が所定の掘削油圧閾値以上であり、且つ、走行ステータスが「前進」であり、且つ、ブーム角が所定の掘削角度閾値以下である場合に、「掘削」と判定する。「掘削」は、車両が前進しながらバケット7を土砂に突っ込んで持ち上げる作業を意味する。従って、掘削油圧閾値は、掘削作業中のリフトシリンダ油圧の値に相当する。また、掘削角度閾値は、掘削作業中のブーム角の値に相当する。第2制御部10bは、上記の走行ステータスと作業ステータスとの組み合わせにより、作業局面を判別する。具体的には、作業局面は、「空荷停止」、「積荷停止」「空荷前進」、「積荷前進」、「空荷後進」、「積荷後進」、「掘削」の7つの局面に判別される。
【0084】
第2−2ステップS2−2及び第2−3ステップS2−3において、負荷増大条件が満たされているか否かが判定される。具体的には、第2−2ステップS2−2では、ブーム操作部材83aの上げ操作量が所定の操作量閾値Athより大きく、且つ、トランスミッション26の速度段が第2速であるか否かが判定される。ここでは、ブーム操作検出装置83bからの検出信号に基づいて、ブーム操作部材83aの上方への操作量が所定の操作量閾値Athより大きいか否かが判定される。所定の操作量閾値Athは、例えば50%であり、ブーム6を上方へ大きく移動させることが予想される程度の値が設定される。なお、ブーム操作部材83aが中立位置に位置しているときの操作量を0%とし、ブーム操作部材83aが最大に操作されたときの操作量を100%としている。また、トランスミッション26の実際の速度段が第2速であるか否かが判定される。上記の条件が満たされないときは、第2−3ステップS2−3に進む。
【0085】
第2−3ステップS2−3では、作業局面が掘削であるか否かが判定される。ここでは、上述した第2−1ステップS2−1の判別結果に基づいて判定が行われる。
【0086】
第2−2ステップS2−2又は第2−3ステップS2−3のいずれかの条件が満たされる場合には、第2−4ステップS2−4に進む。すなわち、負荷増大条件が満たされる場合には、第2−4ステップS2−4に進む。第2−4ステップS2−4では、エンジン21の制御に用いられるエンジントルクカーブとして、第3のエンジントルクカーブが選択される。第3のエンジントルクカーブは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、第2のエンジントルクカーブよりもエンジントルクが大きいエンジントルクカーブである。また、第3のエンジントルクカーブは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブよりもエンジントルクが小さいエンジントルクカーブである。例えば、図22に示すように、第3のエンジントルクカーブE50−3は、Na以上のエンジン回転数の範囲において、第2のエンジントルクカーブE50−2よりもエンジントルクが大きい。また、第3のエンジントルクカーブE50−3は、Na以上のエンジン回転数の範囲において、第1のエンジントルクカーブE50−1よりもエンジントルクが小さい。なお、第1のエンジントルクカーブE50−1は、上述した図5の第1のエンジントルクカーブE50に相当する。また、第2のエンジントルクカーブE50−2は、上述した図5の第2のエンジントルクカーブE2LU50に相当する。ただし、アクセル操作量が50%である場合に限らず、アクセル操作量が他の値である場合にも、各アクセル操作量に対応する第3のエンジントルクカーブが設定されている。また、トランスミッション26の速度段が第2速である場合に限らず、他の速度段(例えば第3速)である場合にも、各速度段に対応する第3のエンジントルクカーブが設定されている。
【0087】
第2−2ステップS2−2又は第2−3ステップS2−3のいずれの条件も満たされない場合には、第2−5ステップS2−5に進む。すなわち、負荷増大条件が満たされない場合には、第2−5ステップS2−5に進む。第2−5ステップS2−5では、エンジン21の制御に用いられるエンジントルクカーブとして、第2のエンジントルクカーブが選択される。
【0088】
次に、図20に示すように、第3ステップS3では、トルク低減量の算出が行われる。ここでは、第2制御部10bは、上述した第1のエンジントルクカーブを、第2−0ステップS2−0で選択されたエンジントルクカーブのように変化させるためのトルク低減量を算出する。すなわち、図21の第2−4ステップS2−4において第3のエンジントルクカーブが選択された場合には、第2制御部10bは、上述した第1のエンジントルクカーブを、第3のエンジントルクカーブのように変化させるためのトルク低減量を算出する。また、図21の第2−5ステップS2−5において第2のエンジントルクカーブが選択された場合には、第2制御部10bは、上述した第1のエンジントルクカーブを、第2のエンジントルクカーブのように変化させるためのトルク低減量を算出する。詳細な算出方法は上述した図4の第3ステップS3と同様である。また、図20の他の処理についても、図4のフローチャートの各処理と同様である。
【0089】
以上のように、作業機3の負荷が増大する場合には、第3のエンジントルクカーブが用いられることにより、第2のエンジントルクカーブが用いられるときよりも、エンジントルクの低減量が小さくなる。すなわち、エンジントルクが大きい方が好ましい状況では、第2のエンジントルクカーブが用いられるときよりも、エンジントルクを増大させることができる。これにより、作業性を向上させることができる。また、上記の負荷増大条件に加えて、或いは、上記の負荷増大条件に代えて、走行負荷の増大につながる状況にあることを示す条件が用いられてもよい。走行負荷の増大につながる状況とは、例えば、登坂走行を行っている場合などがある。この場合、作業車両1の傾斜角度を検出するセンサー(傾斜角度検出部)からの検出信号に基づいて、登坂走行を行っているか否かが判定されてもよい。或いは、作業車両1の車速の加速度が検出され、加速度に基づいて登坂走行を行っているか否かが判定されてもよい。これにより、走行負荷が増大する状況において、第2のエンジントルクカーブが用いられるときよりも、エンジントルクを増大させることができる。その結果、走行性を向上させることができる。
【0090】
なお、第3のエンジントルクカーブが第1のエンジントルクカーブと同じであってもよい。すなわち、作業車両1の状況によっては、ロックアップ走行時に必ずしもエンジントルク低減制御が行われなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられた直後に車速が上昇することを抑えて、燃費を向上させることができる効果を有する。このため、本発明は、作業車両及び作業車両の制御方法として有効である。
【符号の説明】
【0092】
1 作業車両
3 作業機
10 制御部
13 作業機ポンプ(油圧ポンプ)
21 エンジン
22 走行装置
23 トルクコンバータ装置
26 トランスミッション
27 ロックアップクラッチ
28 トルクコンバータ
81a アクセル操作部材
81b アクセル操作検出装置(アクセル操作検出部)
85a 変速操作部材(最高速度段設定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンからの駆動力により駆動されて車両を走行させる走行装置と、
前記エンジンからの駆動力により駆動されて作動油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油により駆動される作業機と、
トルクコンバータとロックアップクラッチとを有し、前記エンジンからの駆動力を前記走行装置に伝達するトルクコンバータ装置と、
オペレータによって操作されるアクセル操作部材と、
前記アクセル操作部材の操作量を検出するアクセル操作検出部と、
エンジン回転数とエンジン出力トルクと前記アクセル操作部材の操作量との関係を規定するエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記ロックアップクラッチが非連結状態であるトルクコンバータ走行時には、第1のエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御し、
前記ロックアップクラッチが連結状態であるロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御し、
少なくとも前記アクセル操作部材の操作量が最大より小さい所定の操作量であるときに、前記第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、前記第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい、
作業車両。
【請求項2】
前記第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、前記トルクコンバータ走行から前記ロックアップ走行に切り換えられる切換速度を含む所定速度範囲において、前記第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、前記アクセル操作部材の操作量の増減に応じて増減する、
請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
オペレータによって操作される最高速度段設定部材をさらに備え、
前記走行装置はトランスミッションを有し、
前記制御部は、前記最高速度段設定部材によって選択された最高速度段以下の範囲で前記トランスミッションの自動変速を行い、
前記トランスミッションの実際の速度段が同じ速度段であっても前記最高速度段設定部材によって選択された最高速度段が異なる場合は、前記制御部は、それぞれ異なる前記第2のエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御する、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記アクセル操作部材の操作量が最大であるときの前記第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、前記第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい、
請求項1から4のいずれかに記載の作業車両。
【請求項6】
前記制御部は、作業機負荷、又は、走行負荷の増大につながる負荷増大条件が満たされているか否かを判定し、前記負荷増大条件が満たされているときの前記ロックアップ走行時には、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲においてエンジン出力トルクが前記第2のエンジントルクカーブよりも大きい第3のエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御する、
請求項1から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項7】
エンジンと、前記エンジンからの駆動力により駆動されて車両を走行させる走行装置と、前記エンジンからの駆動力により駆動されて作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油により駆動される作業機と、トルクコンバータとロックアップクラッチとを有し前記エンジンからの駆動力を前記走行装置に伝達するトルクコンバータ装置と、オペレータによって操作されるアクセル操作部材と、を備える作業車両の制御方法であって、
前記アクセル操作部材の操作量を検出するステップと、
エンジン回転数とエンジン出力トルクと前記アクセル操作部材の操作量との関係を規定するエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御するステップと、
を備え、
前記エンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御するステップでは、
前記ロックアップクラッチが非連結状態であるトルクコンバータ走行時には、第1のエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御し、
前記ロックアップクラッチが連結状態であるロックアップ走行時には、第2のエンジントルクカーブに基づいて前記エンジンを制御し、
少なくとも前記アクセル操作部材の操作量が最大より小さい所定の操作量であるときに、前記第2のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクは、少なくとも一部のエンジン回転数の範囲において、前記第1のエンジントルクカーブのエンジン出力トルクよりも小さい、
作業車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−202531(P2011−202531A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68327(P2010−68327)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】