説明

作業車両

【課題】ゼロ発進または微速走行性能を向上できると共に、負荷の大きい高速移動作業においても、作業能率を簡単に向上できるようにした作業車両を提供する。
【解決手段】エンジン5を搭載した走行機体2と、前記エンジン5からの動力を変速する油圧ポンプ500及び油圧モータ501付きの油圧式無段変速機29と、前記エンジン5からの動力と前記油圧モータ501からの出力とを組み合わせた前記油圧式無段変速機29の変速出力が一方向の回転力として伝達される主変速出力軸36と、前記主変速出力軸36からの一方向の回転力を正転出力又は逆転出力に切り換える前後進切換機構41,43とを備える。前記油圧モータ501からの出力が逆転方向の出力制御状態で前記エンジン5からの正転回転数と前記油圧モータ501からの逆転回転数とが一致する場合に、前記走行機体2の移動速度が零になるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業に使用されるトラクタまたは土木作業に使用されるホイルローダ等の油圧式無段変速機が搭載された作業車両に係り、より詳しくは、その作業車両を発進(前進または後進)する際の油圧式無段変速機からの出力回転数を制御する構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のトラクタまたはホイルローダ等の作業車両では、作業の能率化のため、例えば、特許文献1では、エンジンの回転動力を静油圧式無段変速機(HST)とギヤ式の副変速(低速、高速、後進の切換)を介して駆動輪へ伝達するように構成し、エンジンの出力回転数を設定保持するスロットルレバーと、前記静油圧式無段変速機の出力回転数を変速する変速ペダルとを設け、この変速ペダルを踏込んだとき、この変速ペダルによりアクセル操作部が押されて、前記スロットルレバーにより設定保持されたエンジン出力回転数を増速できるようにした構成が開示されている。
【0003】
さらに、トラクタまたはホイルローダ等の作業車両では、前進と後進との切換操作の簡略化のため、例えば、特許文献2では、前後進切換レバーの操作にて入り切り作動する前進クラッチ及び後進クラッチと、アクセルペダルの踏込み操作にて回転数を変更する油圧式無段変速機とを備え、エンジンからの動力を前進・後進クラッチ及び油圧式無段変速機を介して走行車輪に伝え、走行車輪を前進または後進駆動できるようにした構成が開示されている。
【0004】
また、トラクタまたはホイルローダ等の作業車両のような走行速度の範囲(前進時)が数km/h〜10数km/hの比較的狭い作業領域に適用するため、特許文献2では、前記静油圧式無段変速機に代えて、エンジンから動力を伝える入力軸と、左右の車輪に油圧変速出力を伝える出力軸とが、同心状に配置され、無段変速機を構成するシリンダブロックの両側に油圧ポンプ部と油圧モータ部を配置し、前記入力軸と出力軸を二重軸に構成した、いわゆるインライン式無段変速機を採用することにより、作動油の油漏れが発生せず動力伝達効率が良く、且つエンジンの燃料消費も少なくて済むことが開示されている。なお、特許文献3に示す如く、予め設定された変速比パターンに基づき、変速機の出力回転数を制御することも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−226165号公報
【特許文献2】特開2003−72430号公報
【特許文献3】特開平1−237227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ギヤミッションでは高い動力伝達効率となるが、有段変速により操作性を向上し得ない不具合がある。また、油圧式無段変速機構は初速がゼロから発進させるゼロ発進可能な無段変速により優れた操作性を得られるが、動力伝達効率に限界があり、低速での動力損失が大きくなる不具合がある。更に、Vベルト及びプーリを用いたベルト式無段変速機構は高効率の無段変速を行えるが、初速がゼロから発進させるゼロ発進を行えない不具合がある。
【0007】
油圧変速機構の出力とギヤ伝動出力とを遊星ギヤ機構のデフ作用にて合成出力してエンジン出力を変速伝達させると、高い動力伝達効率並びにゼロ発進可能な無段変速を得られる。ここで、遊星ギヤ機構からの合成出力が停止(ゼロ)を挾んで前後進(正逆転)できるように速度設定した場合、前記合成出力の逆転側の変速領域を小さくして後進出力させ、前記合成出力の正転側の変速領域を大きくして前進出力させ、一般の作業速度において、油圧変速出力が高効率になるように構成することは可能である。しかし、例えば油圧式変速機構の油の粘性が温度(連続運転または気温)などにより変化すると、合成出力の停止(ゼロ)位置が後進側または前進側に移動し、変速操作位置が停止になっているときに前進または後進の出力が生じる不具合がある。この点、合成出力の停止(ゼロ)位置を自動的に調節するための電気的な制御が必要になり、構造が複雑で製造コストが高くなる等の問題がある。
【0008】
そこで、本願発明は、これらの現状を検討して改善を施した作業車両を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、エンジンを搭載した走行機体と、前記エンジンからの動力を変速する油圧ポンプ及び油圧モータ付きの油圧式無段変速機と、前記エンジンからの動力と前記油圧モータからの出力とを組み合わせた前記油圧式無段変速機の変速出力が一方向の回転力として伝達される主変速出力軸と、前記主変速出力軸からの一方向の回転力を正転出力又は逆転出力に切り換える前後進切換機構とを備えている作業車両において、前記油圧モータからの出力が逆転方向の出力制御状態で前記エンジンからの正転回転数と前記油圧モータからの逆転回転数とが一致する場合に、前記走行機体の移動速度が零になるように構成されているというものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記油圧式無段変速機の変速比を変更する操作具と、前記油圧ポンプの斜板角度を調節するアクチュエータとを更に備えており、前記操作具を中立位置から最大前進操作位置に操作することによって、前記油圧ポンプの斜板角度を最大逆転角から最大正転角に変化させ、前記走行機体の移動速度を零から最高速度に変速させるように構成されているというものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、エンジンを搭載した走行機体と、前記エンジンからの動力を変速する油圧ポンプ及び油圧モータ付きの油圧式無段変速機と、前記エンジンからの動力と前記油圧モータからの出力とを組み合わせた前記油圧式無段変速機の変速出力が一方向の回転力として伝達される主変速出力軸と、前記主変速出力軸からの一方向の回転力を正転出力又は逆転出力に切り換える前後進切換機構とを備えている作業車両において、前記油圧モータからの出力が逆転方向の出力制御状態で前記エンジンからの正転回転数と前記油圧モータからの逆転回転数とが一致する場合に、前記走行機体の移動速度が零になるように構成されているから、零発進時の出力トルクを容易に確保でき、零発進又は微速走行性能を向上できる共に、負荷の大きい高速移動作業においても、高い動力伝達効率の出力を有効に利用して、作業能率を簡単に向上できるという効果を奏する。また、油圧変速操作を停止にしたとき(前記操作具を中立にしたとき)に前記主変速出力軸が回転して前記走行機体を前後進させてしまうといった不具合を容易になくせるという効果を奏する。
【0012】
請求項2の発明によると、前記油圧式無段変速機の変速比を変更する操作具と、前記油圧ポンプの斜板角度を調節するアクチュエータとを更に備えており、前記操作具を中立位置から最大前進操作位置に操作することによって、前記油圧ポンプの斜板角度を最大逆転角から最大正転角に変化させ、前記走行機体の移動速度を零から最高速度に変速させるように構成されているから、スムーズ且つ容易に変速操作して前進走行できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】農作業用のトラクタの側面図である。
【図2】トラクタの斜め後方斜視図である。
【図3】トラクタの側面説明図である。
【図4】トラクタ機体の斜視図である。
【図5】動力伝達のスケルトン図である。
【図6】ミッションケースの走行変速部の説明図である。
【図7】ミッションケースのPTO変速部の説明図である。
【図8】ミッションケースの無断変速機の説明図である。
【図9】ミッションケースの無段変速機の油圧回路図である。
【図10】ミッションケースの内部を示す底面説明図である。
【図11】オイルフィルタと電磁弁を示す底面斜視図である。
【図12】オイルフィルタを取り外した底面斜視図である。
【図13】無段変速機の変速操作部を示す側面図である。
【図14】無段変速機と後側壁部材を示す斜視図である。
【図15】本発明のトラクタ全体における油圧回路図である。
【図16】トラクタのキャビン部を示す平面図である。
【図17】本発明の制御手段の機能ブロック図である。
【図18】変速比線図である。
【図19】発進(ブレーキ)制御のフローチャートである。
【図20】変速比適応制御のフローチャートである。
【図21】前後進切換制御のフローチャートである。
【図22】停止制御のフローチャートである。
【図23】クラッチペダル制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、作業車両としての農作業用トラクタに適用した場合の図面について説明する。図1はトラクタの側面図、図2は同後方斜視図、図3は側面説明図、図4はトラクタ機体の斜視図、図5は動力伝達のスケルトン図、図17は制御手段の機能ブロック図、図18は変速操作レバーの操作量と変速比の関係を示す変速比パターン図、図19は発進・ブレーキ制御のフローチャート、図20は変速比適応制御のフローチャート、図21は停止制御のフローチャート、図22は前後進切換制御のフローチャート、図23はクラッチペダル制御のフローチャート、である。
【0015】
図1乃至4に示す如く、作業車両としてのトラクタ1は、走行機体2を左右一対の前車輪3と同じく左右一対の後車輪4とで支持し、前記走行機体2の前部に搭載したエンジン5にて後車輪4及び前車輪3を駆動することにより、前後進走行するように構成される。エンジン5はボンネット6にて覆われる。また、前記走行機体2の上面にはキャビン7が設置され、該キャビン7の内部には、操縦座席8と、かじ取りすることによって前車輪3を左右に動かすようにした操縦ハンドル(丸ハンドル)9とが設置される。キャビン7の外側部には、オペレータが乗降するステップ10が設けられ、該ステップ10より内側で且つキャビン7の底部より下側には、エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。
【0016】
また、前記走行機体2は、前バンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部にボルト15にて着脱自在に固定する左右の機体フレーム16とにより構成される。機体フレーム16の後部には、前記エンジン5の回転を適宜変速して後車輪4及び前車輪3に伝達するためのミッションケース17が連結されている。この場合、後車輪4は、前記ミッションケース17に対して、当該ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18、及びこの後車軸ケース18の外側端に後方に延びるように装着されたギヤケース19を介して取付けられている。
【0017】
前記ミッションケース17の後部における上面には、耕うん機等の作業機(図示せず)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構20が着脱可能に取付けられている。耕うん機等の作業機は、ミッションケース17の後部にロワーリンク21及びトップリンク22を介して連結される。さらに、ミッションケース17の後側面に、前記耕うん機等の作業機に対するPTO軸23が後向きに突出するように設けられている。
【0018】
図15は本実施形態のトラクタ1の油圧回路200を示し、後述するように、エンジン5の回転力により作動する作業機用油圧ポンプ94及び走行用油圧ポンプ95を備える。走行用油圧ポンプ95は、パワーステアリング用のコントロール弁202を介して丸ハンドル9によるパワーステアリング用の油圧シリンダ93に接続する一方、左右一対のオートブレーキ65用のブレーキシリンダ68をそれぞれ作動させる切換弁である左右オートブレーキ電磁弁67a,67bに接続する。さらに走行用油圧ポンプ95は、PTOクラッチ100のためのPTOクラッチ油圧電磁弁(比例制御弁)104と、ミッションケース17の各変速部、すなわち後述する主変速のための油圧無段変速機29に対する比例制御弁203とそれによって作動する切換弁204と、走行副変速用油圧シリンダ55の変速シフト電磁弁666と、走行の前進、後進の切換えのための前進用油圧クラッチ40、後進用油圧クラッチ42を作動させる前進用クラッチ電磁弁46、後進用クラッチ電磁弁48と、前車輪3及び後車輪4を同時に駆動するための四駆用の油圧クラッチ74に対する四駆油圧電磁弁80と、前車輪3を倍速駆動に切換えるための倍速用の油圧クラッチ76に対する倍速油圧電磁弁82とに接続する。また、作業機用油圧ポンプ94は、作業機用昇降機構20における単動式油圧シリンダ205に作動油を供給するための制御電磁弁201に接続している。この油圧回路200には、図15に示すように、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等を備えている。
【0019】
図5乃至図7は前記ミッションケース17を示す。ミッションケース17は、この内部を仕切り壁31にて前後に仕切られる。ミッションケース17の前側及び後側には、それぞれ前側壁部材32、後側壁部材33がボルトにて着脱自在に固定される。ミッションケース17は箱形に構成され、ミッションケース17の内部には、前室34と後室35とが形成される。前室34と後室35は、これらの内部の作動油(潤滑油)が相互に移動するように連通されている。
【0020】
図5に示されるように、前側壁部材32には、後述する前車輪駆動ケース69が備えられる。前室34には、後述する走行副変速ギヤ機構30と、PTO変速ギヤ機構96とが配置される。後室35には、後述する走行主変速機構である油圧無段変速機29と、差動ギヤ機構58とが配置される。
【0021】
前記エンジン5の後側面には、エンジン出力軸24が後ろ向きに突出するように設けられる。エンジン出力軸24には、フライホイール25が直結するように取付けられている。フライホイール25から後ろ向きに突出する主動軸26と、ミッションケース17の前面から前向きに突出する主変速入力軸27との間を、両端に自在軸継ぎ手を備えた伸縮式の動力伝達軸28を介して連結する。前記エンジン5の回転を、ミッションケース17における主変速入力軸27に伝達し、次いで、油圧無段変速機29と、走行副変速ギヤ機構30にて適宜変速して、差動ギヤ機構58を介して後車輪4にこの駆動力を伝達するように構成している。また、走行副変速ギヤ機構30にて適宜変速したエンジン5の回転を、前車輪駆動ケース69と前車軸ケース13の差動ギヤ機構86とを介して前車輪3に伝達するように構成している。
【0022】
次に、図8は、主変速入力軸27に主変速出力軸36が同心状に配置されたインライン式油圧無段変速機29を示す。後室35の内部には、主変速入力軸27を介して油圧無段変速機29が設置される。主変速入力軸27の入力側(前端側)に対して反対側になる主変速入力軸27の後端側は、後側壁部材33に玉軸受504にて回転自在に軸支される。
【0023】
油圧無段変速機29の前側、即ち主変速入力軸27の入力側には、円筒形の主変速出力軸36が被嵌される。油圧無段変速機29から主変速出力を取出すための主変速出力ギヤ37が主変速出力軸36に設けられる。主変速出力軸36は、この中間が仕切り壁31に貫通され、前端と後端とが前室34と後室35とにそれぞれ突出する。主変速出力軸36の中間は、二組の玉軸受502にて仕切り壁31に回転自在に軸支される。主変速出力軸36の前端部には、主変速出力ギヤ37が設けられる。主変速入力軸27の入力側(前端側)が、主変速出力軸36前端より前方に突出するように、主変速入力軸27の入力側がころ軸受503を介して主変速出力軸36の軸孔に回転自在に軸支される(図8参照)。
【0024】
油圧無段変速機29は、以下に述べるように、可変容量形の変速用油圧ポンプ部500と、この油圧ポンプ部500から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部501とを備える。前記仕切り壁31と後側壁部材33との略中間の主変速入力軸27には、油圧ポンプ部500及び油圧モータ部501のためのシリンダブロック505が被嵌される。主変速入力軸27とシリンダブロック505とはスプライン525にて連結される。主変速入力軸27の入力側と反対側でシリンダブロック505を挟んでこの一側部に油圧ポンプ部500が配置される。主変速入力軸27の入力側であるシリンダブロック505他側部に油圧モータ部501が配置される。
【0025】
前記油圧ポンプ部500には、シリンダブロック505の側面に対向するようにミッションケース17の内側面に固定する第1ホルダ510と、主変速入力軸27の軸線に対して傾斜角を変更可能に第1ホルダ510に配置するポンプ斜板509と、該ポンプ斜板509に摺動自在に設けるシュー508と、該シュー508に球体自在継手を介して連結するポンププランジャ506と、ポンププランジャ506をシリンダブロック505に出入自在に配置する第1プランジャ孔507とが備えられる。ポンププランジャ506の一端側は、シリンダブロック505の側面からポンプ斜板509方向(図8右側)に突出する。前記油圧ポンプ部500は、シリンダブロック505と、ポンププランジャ506と、シュー508と、ポンプ斜板509と、第1ホルダ510とにより構成される。
【0026】
主変速入力軸27と第1ホルダ510との間には、主変速入力軸27に被嵌するスリーブ511と、ローラ軸受512と、ラジアル及びスラスト荷重用ころ軸受513とを介在させる。主変速入力軸27の後方にころ軸受513が抜け出るのを防ぐナット514を備える。
【0027】
前記シリンダブロック505には、ポンププランジャ506と同数の第1スプール弁536が設けられる。また、第1ホルダ510には、第1ラジアル軸受537が配置される。第1ラジアル軸受537は、主変速入力軸27の軸線に対して一定の傾斜角で傾斜させて第1ホルダ510に設けられる。図8において、ポンプ斜板509に対して約90度回転した位置(図8の図面の手前側)がシリンダブロック505の側面から離れるように、約180度反対側(図8の図面の奥側)がシリンダブロック505の側面に近くなるように、第1ラジアル軸受537が傾斜されて支持されるように構成している。
【0028】
他方、前記油圧モータ部501には、シリンダブロック505の側面に対向させて配置する第2ホルダ519と、主変速入力軸27の軸線に対して傾斜角を一定に保つように第2ホルダ519に固定するモータ斜板518と、モータ斜板518に摺動自在に設けるシュー517と、該シュー517に球体自在継手を介して連結するモータプランジャ515と、モータプランジャ515をシリンダブロック505に出入自在に配置する第2プランジャ孔516とが備えられる。モータプランジャ515の一端側は、シリンダブロック505の側面からモータ斜板518方向(図8左側)に突出する。
【0029】
第2ホルダ519には、継ぎ手部材526がボルト527にて固定される。前記出力軸36と継ぎ手部材526とがスプライン528にて連結される。
【0030】
主変速入力軸27と第2ホルダ519との間には、ラジアル荷重用のローラ軸受520,521と、主変速入力軸27に被嵌するスリーブ522と、ラジアル及びスラスト荷重用のころ軸受523とが介在する。主変速入力軸27からころ軸受523が抜け出るのを防ぐナット524を備える。
【0031】
前記シリンダブロック505には、モータプランジャ515と同数の第2スプール弁540が設けられる。また、第2ホルダ519には、第2ラジアル軸受541が配置される。第2ラジアル軸受541は、主変速入力軸27の軸線に対して一定の傾斜角で傾斜させて第2ホルダ519に設けられる。図8において、モータ斜板518に対して約90度回転した位置(図8手前側)がシリンダブロック505の側面に近くなるように、約180度反対側(図8奥側)がシリンダブロック505の側面から離れるように、第2ラジアル軸受541が傾斜されて支持されるように構成している。ポンププランジャ506と、該ポンププランジャ506と同数のモータプランジャ515とは、シリンダブロック505の回転中心の同一円周上に交互に配列される。
【0032】
さらに、主変速入力軸27が挿入されるシリンダブロック505の軸孔には、輪溝形の第1油室530と、輪溝形の第2油室531とがそれぞれ形成される。シリンダブロック505には、この回転中心の同一円周上に略等間隔に配列する第1弁孔532と第2弁孔533とが形成される。第1弁孔532及び第2弁孔533は、第1油室530及び第2油室531とそれぞれ連通している。第1プランジャ孔507は第1油路534を介して第1弁孔532と連通され、第2プランジャ孔516は第2油室531を介して第2弁孔533と連通されている。
【0033】
第1弁孔532には、第1スプール弁536が挿入される。第1スプール弁536は、シリンダブロック505の回転中心の同一円周上に略等間隔に配列される。第1弁孔532から背圧バネ力の弾圧にて第1スプール弁536の先端が第1ホルダ510の方向に突出し、第1スプール弁536の先端が第1ラジアル軸受537の外輪538側面に当接される。そして、シリンダブロック505の1回転で第1スプール弁536が1往復し、第1プランジャ孔507が、第1弁孔532と第1油路534とを介して第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるように構成する。
【0034】
また、第2弁孔533には、第2スプール弁540が挿入される。第2スプール弁540は、シリンダブロック505の回転中心の同一円周上に略等間隔に配列される。第2弁孔533から背圧バネ力の弾圧にて第2スプール弁540の先端が第2ホルダ519の方向に突出し、第2スプール弁540の先端が第2ラジアル軸受541の外輪542側面に当接される。そして、シリンダブロック505の1回転で第2スプール弁540が1往復し、第2プランジャ孔516が、第2弁孔533と第2油路535とを介し、第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるように構成する。
【0035】
さらに、前記主変速入力軸27の中心部には、この軸線方向に作動油供給油路543が形成される。該供給油路543は、主変速入力軸27の後端面に開口され、上記した走行用油圧ポンプ95の吐出口に連通される。また、作動油供給油路543の作動油を第1油室530に補給する第1チャージ弁544と、作動油供給油路543の作動油を第2油室531に補給する第2チャージ弁545とが備えられる。
【0036】
そして、第1及び第2プランジャ孔507,516と、第1及び第2油室530,531との間に形成される油圧閉回路に対し、第1及び第2チャージ弁544,545を介し、作動油供給油路543から作動油が補給されるように構成する。なお、油圧ポンプ部500及びモータ部501のそれぞれの回転部分にも、それぞれ逆止弁を介して、作動油供給油路543から作動油が潤滑油として供給されるように構成している。
【0037】
さらに、前記ポンプ斜板509は、後述するように、傾斜角調節支点555を介して第1ホルダ510の小径部の外周に配置される(図13参照)。ポンプ斜板509はその傾斜角が主変速入力軸27の軸線に対して調節自在となるように設けられている。主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509の傾斜角を変更する変速用アクチュエータである主変速操作用の主変速油圧シリンダ556を備える(図13参照)。主変速油圧シリンダ556にてポンプ斜板509の傾斜角が変更されて、無段変速機29の主変速動作が行われるように構成する。なお、主変速入力軸27に対して、ポンプ斜板509が回転しないように、ミッションケース17の非回転部である後側壁部材33に、ホルダ連結部材690を介して第1ホルダ510を連結する(図13参照)。
【0038】
前記したインライン式油圧無段変速機29の主変速動作を、以下に説明する。後述する操作具である変速操作レバー232の倒し操作量に比例して作動する比例制御電磁弁203からの作動油で切換え弁204が作動して油圧シリンダ556が制御され、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509の傾斜角が変更される。
【0039】
先ず、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509が略直交するように、ポンプ斜板509の傾斜角を略零に保つとき、シリンダブロック505が回転しても、第1プランジャ孔507にポンププランジャ506が進退動しない略一定姿勢で支持され、ポンププランジャ506の吐出行程で第1プランジャ孔507の作動油が第1油路534から第1弁孔532の方向に吐出されないから、第1プランジャ孔507から第2プランジャ孔516に作動油が供給されず、モータプランジャ515が進出しない。また、ポンププランジャ506の吸入行程でも第1プランジャ孔507に作動油が吸入されないから、第1プランジャ孔507に第2プランジャ孔516から作動油が排出されず、モータプランジャ515が退入しない。
【0040】
即ち、ポンプ斜板509の傾斜角が略零(変速比1)のとき、油圧ポンプ部500にて油圧モータ部501が駆動されない。そのため、モータプランジャ515を介してシリンダブロック505にモータ斜板518が固定された状態となり、シリンダブロック505とモータ斜板518とが同一方向に略同一回転数で回転し、主変速入力軸27と略同一回転数で主変速出力軸36が回転され、主変速入力軸27の回転速度が変更されることなく主変速出力ギヤ37に伝えられる。
【0041】
次に、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を傾斜させたときには、主変速入力軸27と一体回転するシリンダブロック505の回転により、第1ラジアル軸受537の外輪538にて第1スプール弁536が往復摺動し、シリンダブロック505の半回転毎に第1プランジャ孔507に第1油室530または第2油室531が交互に連通される。また、第2ラジアル軸受541の外輪542にて第2スプール弁540が往復摺動し、シリンダブロック505の半回転毎に第2プランジャ孔506に第1油室530または第2油室531が交互に連通される。そして、第1プランジャ孔507と第2プランジャ孔516の間に閉油圧回路が形成され、ポンププランジャ506の吐出行程で第1プランジャ孔507から第2プランジャ孔516に作動油が圧送される一方、ポンププランジャ506の吸入行程で第1プランジャ孔507に第2プランジャ孔516から作動油が戻され、アキシャルピストンポンプ及びモータの動作が行われる。
【0042】
そして、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロック505と同一方向にモータ斜板518が回転され、油圧モータ部501を増速(正転)動作させ、主変速入力軸27より高い回転数で主変速出力軸36が回転され、主変速入力軸27の回転速度が増速されて主変速出力ギヤ37に伝えられる。即ち、主変速入力軸27の回転数に、油圧ポンプ部500にて駆動される油圧モータ部501の回転数が加算されて、主変速出力ギヤ37に伝えられる。そのため、主変速入力軸27の回転数よりも高い回転数の範囲で、ポンプ斜板509の傾斜(正の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ37からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板509の最大傾斜(正の傾斜角、変速比2)で最大走行速度になる。
【0043】
さらに、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロック505と逆の方向にモータ斜板518が回転され、変速モータ501を減速(逆転)動作させ、主変速入力軸27より低い回転数で主変速出力軸36が回転され、主変速入力軸27の回転速度が減速されて主変速出力ギヤ37に伝えられる。
【0044】
即ち、主変速入力軸27の回転数に、変速ポンプ500にて駆動される変速モータ501の回転数が減算されて、主変速出力ギヤ37に伝えられる。そのため、主変速入力軸27の回転数よりも低い回転数の範囲で、ポンプ斜板509の傾斜(負の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ37からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板509の最大傾斜(負の傾斜角、変速比0)で最低走行速度になる。なお、実施形態では、ポンプ斜板509の負の傾斜角が略11度のとき、変速比が零となる。また、後述の変速比パターンに応じて若干相違するが、正の傾斜角が略11度のとき、変速比が最大となるように設定されている。
【0045】
次に、図5、図6に示されるように、前記ミッションケース17の前室34には、前進と後進の切換を行う前進ギヤ41及び後進ギヤ43と、低速と高速の切換を行う走行副変速ギヤ機構30とが配置される。
【0046】
前進ギヤ41及び後進ギヤ43を介して行う前進と後進の切換を説明する。図6に示されるように、主変速出力ギヤ37が配置される前室34の内部には、走行カウンタ軸38と逆転軸39とが配設される。前記走行カウンタ軸38には、前進用の湿式多板型油圧クラッチ40にて連結される前進ギヤ41と、後進用の湿式多板型油圧クラッチ42にて連結される後進ギヤ43とが被嵌される。主変速出力ギヤ37に前進ギヤ41が噛合される。主変速出力ギヤ37には、逆転軸39に設けられた逆転ギヤ44が噛合される。前記後進ギヤ43には、逆転軸39に設けられた逆転出力ギヤ45が噛合される。
【0047】
そして、後述する変速操作レバー232の前進側倒し操作により、前進クラッチ電磁弁46にてクラッチシリンダ47が作動して前進用油圧クラッチ40が継続され、主変速出力ギヤ37と走行カウンタ軸38が前進ギヤ41にて連結されるように構成する(図5、図6参照)。
【0048】
一方、変速操作レバー232の後進側倒し操作により、後進クラッチ電磁弁48にてクラッチシリンダ49が作動して後進用の油圧クラッチ42が継続され、主変速出力ギヤ37と走行カウンタ軸38が後進ギヤ43にて連結されるように構成する(図5、図6参照)。
【0049】
なお、変速操作レバー232を前進側倒し操作または後進側倒し操作のいずれもしていない、中立位置のときには、前進用及び後進用の湿式多板型の各油圧クラッチ40,42の両方がともに切断され、前車輪3及び後車輪4に対して出力される主変速出力ギヤ37からの走行駆動力が略零(主クラッチ切の状態)になるように構成している。
【0050】
次に、走行副変速ギヤ機構30を介して行う低速と高速との切換を説明する。図5、図6に示されるように、前記ミッションケース17の前室34には、走行副変速ギヤ機構30と、副変速軸50が配置される。走行カウンタ軸38と副変速軸50の間には、副変速用の低速ギヤ51,52と、副変速用の高速ギヤ53,54とが設けられる。また、副変速油圧シリンダ55にて継続または切断される低速クラッチ56及び高速クラッチ57が備えられる。そして、後述する副変速用の高速・低速切換スイッチ222の手動操作、またはエンジン5の回転数検出などにより、副変速油圧シリンダ55にて低速クラッチ56または高速クラッチ57が継続されて、副変速軸50に低速ギヤ52または高速ギヤ54が連結され、副変速軸50から前車輪3及び後車輪4に対して走行駆動力が出力されるように構成する。
【0051】
前記副変速軸50は、この後端部が仕切り壁31を貫通してミッションケース17の後室35内部に延設される(図5参照)。副変速軸50の後端部にはピニオン59が設けられる。また、後室35の内部には、左右の後車輪4に走行駆動力を伝える差動ギヤ機構58が配置される。差動ギヤ機構58には、副変速軸50後端のピニオン59に噛合させるリングギヤ60と、該リングギヤ60に設ける差動ギヤケース61と、左右の差動出力軸62とが備えられる。差動出力軸62がファイナルギヤ63等にて後車軸64に連結され、後車軸64に設ける後車輪4を駆動するように構成している(図5参照)。
【0052】
また、左右差動出力軸62には左右ブレーキ65がそれぞれ設置され、後述する左右ブレーキペダル230の操作にて左右ブレーキ65が制動動作されるように構成している。左右ブレーキペダル230は、二つのペダルからなり、左右ブレーキペダル230と左右ブレーキ65とは、図示しないロッドまたはワイヤ及びリンク機構などを介して機械的にそれぞれ連結する。左右ブレーキペダル230を制動位置に図示しない駐車レバーを介して係止して、エンジン5停止時など、左右ブレーキ65を駐車ブレーキとして作動できる。一方、ハンドル9の操舵角検出などにより、左右オートブレーキ電磁弁67a,67bにて左右ブレーキシリンダ68がそれぞれ作動して、左右いずれか一方または両方のブレーキ65(図5参照、但し、一方のみ示す)が自動的に制動動作され、Uターンなどの旋回走行が行われるように構成している。
【0053】
次に、前後車輪3,4の二駆と四駆との切換を説明する。図5,図6に示されるように、ミッションケース17の前側壁部材32には、前車輪駆動ケース69が設けられる。前車輪駆動ケース69には、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが備えられている。前車輪入力軸72は、ギヤ70,71にて副変速軸50に連結される。また、前車輪出力軸73には、四駆用の油圧クラッチ74にて連結される四駆ギヤ75と、倍速用の油圧クラッチ76にて連結される倍速ギヤ77とが被嵌される。四駆ギヤ75と倍速ギヤ77は、各ギヤ78,79にて前車輪入力軸72にそれぞれ連結される。
【0054】
そして、二駆と四駆との切換操作用の後述する四駆モードスイッチ246の四駆操作により、四駆油圧電磁弁80にてクラッチシリンダ81が作動して四駆用の油圧クラッチ74が継続され、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが四駆ギヤ75にて連結され、後車輪4とともに前車輪3が駆動されるように構成する。
【0055】
次に、前車輪3の倍速駆動の切換を説明する。図5,図6に示されるように、操縦ハンドル9のUターン(圃場の枕地での方向転換)操作を検出するための後述する左右操舵センサ218,219の検出と、後述する倍速モードスイッチ247の入り(前輪倍速操作)とにより、倍速油圧電磁弁82にてクラッチシリンダ83が作動して倍速用の油圧クラッチ76が継続され、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが倍速ギヤ77にて連結され、四駆ギヤ75にて前車輪3が駆動されるときの速度に比べて約2倍の高速度で前車輪3が駆動されるように構成する。
【0056】
図5に示されるように、前車軸ケース13から後ろ向きに突出する前車輪入力軸84と、前記ミッションケース17の前面から前向きに突出する前車輪出力軸73との間を、前車輪3に動力を伝達する前車輪駆動軸85を介して連結する。また、前車軸ケース13の内部には、左右の前車輪3に走行駆動力を伝える差動ギヤ機構86が配置される。
【0057】
差動ギヤ機構86には、前車輪入力軸84前端のピニオン87に噛合させるリングギヤ88と、該リングギヤ88に設ける差動ギヤケース89と、左右の差動出力軸90とが備えられる。差動出力軸90にはファイナルギヤ91等にて前車軸92が連結され、前車軸92に設ける前車輪3が駆動されるように構成している。また、前車軸ケース13の外側面には、操縦ハンドル9の操舵操作にて前車輪の走行方向を左右に変更するパワーステアリング用の油圧シリンダ93が配設される。
【0058】
図5、図7に示されるように、ミッションケース17の前側壁部材32の前面側には、作業機用昇降機構20に作動油を供給するための作業機用油圧ポンプ94と、ミッションケース17の各変速部およびパワーステアリング用の油圧シリンダ93に作動油を供給するための走行用油圧ポンプ95とを備える。油タンクとしてミッションケース17が併用されて該ケース17内部の作動油が各油圧ポンプ94,95に供給されるように構成する。
【0059】
次に、図5、図7を参照して、PTO軸23の駆動速度の切換(正転4段と、逆転1段)を説明する。ミッションケース17の前室34には、エンジン5からの動力をPTO軸23に伝えるPTO変速ギヤ機構96と、エンジン5からの動力を各油圧ポンプ94,95に伝えるポンプ駆動軸97とを設ける(図7参照)。図7に示されるように、後に詳述するPTO変速ギヤ機構96には、PTOカウンタ軸98と、PTO変速出力軸99を備える。PTO用の油圧クラッチ100にて連結されるPTO入力ギヤ101をPTOカウンタ軸98に被嵌させる。PTO入力ギヤ101には、前記主変速入力軸27に設ける入力側ギヤ102と、ポンプ駆動軸97の出力側ギヤ103とが噛合され、主変速入力軸27にポンプ駆動軸97が連結される。
【0060】
そして、PTOクラッチレバー(図示省略)または後述するPTO遮断スイッチ223の継続操作により、PTOクラッチ油圧電磁弁104(図5参照)にてクラッチシリンダ105が作動してPTO用の油圧クラッチ100が継続され、主変速入力軸27とPTOカウンタ軸98とがPTO入力ギヤ101にて連結されるように構成する。
【0061】
また、前記PTO変速出力軸99には、PTO出力用として、1速ギヤ106と、2速ギヤ107と、3速ギヤ108と、4速ギヤ109と、逆転ギヤ110とを被嵌する(図5、図7参照)。
【0062】
PTO変速出力軸99には、変速シフタ111が移動自在にスプラインにて軸支される。前記の各ギヤ106,107,108,109,110がPTO変速出力軸99に変速シフタ111にて択一的に連結されるように構成する。変速シフタ111には、PTO変速レバー(図示省略)に連結する変速アーム112が係合される。そして、PTO変速レバー(図示省略)の変速操作により、変速アーム112にてPTO変速出力軸99の軸線に沿って変速シフタ111が直線的に移動して、各ギヤ106,107,108,109,110のいずれかが、択一的に選択されてPTO変速出力軸99に連結される(図5、図7参照)。従って、1速、2速、3速、4速、逆転の各PTO変速出力が、PTO変速出力軸99からPTO軸23にギヤ113,114を介して伝えられるように構成する。
【0063】
なお、図6において、逆転軸39に設けた回転検出ギヤ115と、主変速出力ギヤ37の回転を検出する電磁ピックアップ型の主変速出力部回転センサ116とを対向させて設置し、主変速機構29の出力回転数を主変速出力部回転センサ116にて検出するように構成する。また、前車輪入力軸72のギヤ78の回転を検出する電磁ピックアップ型の車速センサ117が設置され、前車輪入力軸72及び副変速軸50の回転に基づき、走行速度(車速)が車速センサ117にて検出されるように構成する。
【0064】
上記の記載及び図8などから明らかなように、エンジン5から動力が伝達されるミッションケース17を備え、前記エンジン5から動力を伝える入力軸27と、左右の車輪3,4に油圧変速出力を伝える出力軸36とが、同一の軸線上に配置されたインライン式無段変速機29をミッションケース17に配設し、該無段変速機29を構成するシリンダブロック505を挟んで一側に油圧ポンプ部500を、他側に油圧モータ部501をそれぞれ配置し、前記入力軸27に出力軸36を被嵌させて二重軸構成にした作業車において、入力軸27の入力側とシリンダブロック505との間に油圧モータ501部を配置し、入力軸27の入力側と出力軸36の出力側を同一側に配置した。そのため、例えば、トラクタ1の伝動構造のように、走行副変速ギヤ及び差動ギヤ及びPTO変速ギヤなどをミッションケース17の内部に設置するものであっても、ミッションケース17の後部に無段変速機29の設置スペースを容易に確保できる。入力軸27の入力側であるミッションケース17の前部にPTO変速ギヤまたは走行副変速ギヤなどの設置スペースが確保され、例えばトラクタ1のミッションケース17などを小型化または軽量化でき、製造コストを低減できる。
【0065】
なお、差動ギヤ機構58には、この差動の動作を停止(左右の差動出力軸62を常時等速で駆動)するデフロック機構(図示せず)が備えられる。そして、差動ギヤケースに出入自在に設けられたロックピンが図示しないデフロックレバー(又はペダル)の操作にて差動ギヤに係合したとき、差動ギヤが差動ギヤケースに固定され、差動ギヤの差動機能が停止し、左右の差動出力軸62が等速にて駆動されるように構成する。
【0066】
次に、図9、図11、図13、図14を参照して、無段変速機29を変速動作する主変速油圧シリンダ556の構造を詳述する。主変速油圧シリンダ556のシリンダ室691を後側壁部材33に形成する。主変速油圧シリンダ556のピストン557は、主変速油圧シリンダ556のシリンダ室691内に上下方向に摺動自在に配置されている。ピストン557中間の外周に形成された窪み部692に四角柱形基端ピン693を係合する。四角柱形基端ピン693を主変速アーム558の一端側に回転自在に配置する。主変速アーム558の中間を、ホルダ連結部材690にアーム軸694を介して回転自在に軸支する。主変速アーム558の他端側のアーム溝695に、四角柱形先端ピン696を摺動自在に係合する。四角柱形先端ピン696を、ポンプ斜板509の半円板形の傾斜角調節支点部555に回転自在に軸支する。傾斜角調節支点部555を支持するための回転ガイド697を、第1ホルダ510に配置する。回転ガイド697は、ポンプ斜板509の回転中心と同心状の半円筒面を形成する。回転ガイド697の案内にてポンプ斜板509の傾斜角を変更するように構成する。
【0067】
図11及び図12に示されるように、ミッションケース17(トラクタ1機体)の左右幅中央にPTO軸23を配置する。進行方向に向かってPTO軸23の右側に差動ギヤ機構58を配置する(図10)。進行方向に向かってPTO軸23の左側の斜上方に無段変速機29を配置する。進行方向に向かって無段変速機29の左側にピストン557を配置する(図14)。進行方向に向かって後側壁部材33の左側斜上方の角隅部に主変速油圧シリンダ556を配置する(図14)。
【0068】
図13に示されるように、主変速アーム558及びアーム軸694は、無段変速機29の軸線と略同一の高さ位置に配置する。図14に示されるように、主変速アーム558は、進行方向に向かって無段変速機29の左側で、この軸線と略平行に配置する。ピストン557は、上下方向に摺動するように、後側壁部材33内に略垂直に設置する。後側壁部材33の主変速油圧シリンダ556形成部の厚み幅を、ピストン557径よりも若干大きく形成するだけで、ピストン557を設置できる。
【0069】
主変速油圧シリンダ556の変速操作を説明する。変速操作レバー232の前進側倒し操作または後進側倒し操作により、対応する前進クラッチ電磁弁46または後進クラッチ電磁弁48(図5、図6及び図17参照)を切換えると、主変速油圧シリンダ556が作動する。そして、ピストン557が上昇または下降動作したときに、主変速アーム558がアーム軸694回りに回転し、傾斜角調節支点部555と回転ガイド697とがポンプ斜板509を回転案内し、ポンプ斜板509の傾斜角が変更されて、無段変速機29の主変速動作が行われるように構成する。なお、主変速入力軸27に対して、ポンプ斜板509が回転しないように、ポンプ斜板509と第1ホルダ510とが連結され、第1ホルダ510とホルダ連結部材690とが連結される。
【0070】
次に、図5、図10、図11、図12を参照して、上記前進クラッチ電磁弁46、後進クラッチ電磁弁48、左右のオートブレーキ電磁弁67a,67b、四駆油圧電磁弁80、倍速油圧電磁弁82、PTOクラッチ油圧電磁弁104の取付け構造を詳述する。
【0071】
図10乃至図12に示されるように、前側壁部材32の後側面には、副変速軸50及び差動出力軸62及び作動油566油面よりも低い位置にベース部材650が配置され、ボルトを介して着脱自在に固定される。ベース部材650の後面には、後方に突出する姿勢で前記各電磁弁46,48,67a,67b,80,82,104が設置される。各電磁弁46,48,67a,67b,80,82,104の後面を平板蓋651が覆う。平板蓋651は、ベース部材650にボルトにて着脱自在に固定される。
【0072】
図10及び図11に示されるように、作動油をろ過するオイルフィルタ652は、各電磁弁46,48,67a,67b,80,82,104に対して平板蓋651を挟んでその後方のミッションケース17内に配置される。オイルフィルタ652は、フィルタ蓋653に着脱自在に固定される。フィルタ蓋653は、締結部材654に一体的に形成される。ミッションケース17の外側面に締結部材654がボルト655を介して着脱自在に固定される。作業機用油圧ポンプ94及び走行用油圧ポンプ95の給油管656が、フィルタ蓋653に油路管657を介して連通される。
【0073】
図5に示される各クラッチシリンダ47,49,81,83,105に、各電磁弁46,48,80,82,104が、前側壁部材32及びベース部材650に形成される穿孔形油路(図示省略)を介して連通される。各電磁弁46,48,80,82,104が適宜手段によって制御されたとき、各クラッチシリンダ47,49,81,83,105がそれぞれ作動し、図5に示される各クラッチ40,42,74,76,100がそれぞれ切換えられる。
【0074】
次に、図5、図6、図9を参照して、上記副変速ギヤ機構30の変速構造を詳述する。図9に示されるように、副変速油圧シリンダ55は、ピストン660の片側にピストンロッド661を備えた複動構造に構成される。副変速油圧シリンダ55には、ピストンロッド661が内設される第1シリンダ室662と、他方の第2シリンダ室663とが形成される。ピストンロッド661先端部には、シフトアーム664を介して副変速シフタ665が連結される。副変速シフタによって低速クラッチ56または高速クラッチ57を継続し、副変速軸50を低速または高速駆動するように構成する。
【0075】
第1シリンダ室662は、走行用油圧ポンプ95の吐出側に直接連通される。第2シリンダ室663は、2位置3ポート型の変速シフト切換弁666を介して、走行用油圧ポンプ95の吐出側に連通される。変速シフト切換弁666は、変速ソレノイド667を備える。変速シフト切換弁666が変速ソレノイド667によって切換えられ、第2シリンダ室663が変速シフト切換弁666を介して走行用油圧ポンプ95の吐出側に連通されたときに、ピストン660両側の受圧力の差により、ピストンロッド661を突出する方向にピストン660が移動し、高速クラッチ57を継続して副変速軸50を高速駆動するように構成する(図9参照)。
【0076】
次に、本実施形態の作業車両(走行車両)の走行制御(変速制御)について説明する。図17は、走行制御手段の機能ブロック図であり、制御プログラムを記憶したROMと各種データを記憶したRAMとを備えたマイクロコンピュータ等の走行コントローラ210は、電源印加用キースイッチ211を介してバッテリ254に接続される。キースイッチ211は、エンジン5を始動するためのスタータ212に接続される。
【0077】
また、走行コントローラ210には、エンジン5の回転を制御する電子ガバナコントローラ213が接続されている。電子ガバナコントローラ213には、エンジン5の燃料を調節するガバナ214と、エンジン5の回転数を検出するエンジン回転センサ215とが接続される。ガバナ214に設けた燃料調節ラック(図示省略)が、手動操作するスロットルレバー206の回動位置をスロットルポテンショメータ217にて検出し、その検出値に基づいて、エンジン5の回転数が設定されたとき、電子ガバナコントローラ213からの信号にてスロットルレバー206の設定回転数とエンジン5の回転数が一致するように、燃料調節ラック駆動用の電磁ソレノイド(図示省略)を介して燃料調節ラックが自動的に位置調節され、負荷変動などによってエンジン5の回転が変化するのを防ぐ、換言すると、負荷の変動に拘らずエンジン5の回転数が略一定回転を保持するように構成されている。
【0078】
さらに、走行コントローラ210には、図17に示すように、入力系の各種センサ及びスイッチ類、即ち、丸ハンドル(操縦ハンドル)9の左方向の回動量(左操舵角度)を検出するための左操舵スイッチとしての左操舵センサ218と、丸ハンドル9の右方向の回動量(右操舵角度)を検出するための右操舵スイッチとしての右操舵センサ219と、オペレータが走行速度を変速させるための前進ポテンショメータ及び後進ポテンショメータとしての変速ポテンショメータ220と、変速比設定ダイヤル221と、副変速ギヤ機構30を高速と低速とに切換えするための高速・低速切換スイッチ222と、主変速出力部の回転数を検出するための主変速出力部回転センサ116と、前後車輪3,4の回転速度(走行速度)を検出するための車速センサ117と、PTOクラッチ100を入り切りしてPTO軸23への出力を遮断するためのPTO遮断スイッチ223と、ブレーキペダル230を踏み込むとそれを検知するためのブレーキペダルスイッチ231と、左右ブレーキ電磁弁67a,67bを自動制御可能にするオートブレーキスイッチ245と、四駆油圧電磁弁80を自動制御可能にする四駆モードスイッチ246と、倍速油圧電磁弁82を自動制御可能にする倍速モードスイッチ247と、後述するクラッチペダル227を踏み込むとそれを検知して前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁47を他の制御に対して最も優先してオフにするクラッチスイッチ248とが接続されている。なお、変速ポテンショメータ219は変速操作レバー232の前進側倒し量または後進側倒し量を換算して検知するレバー操作位置センサである。
【0079】
走行コントローラ210には、図17に示すように、出力系の各種電磁弁、即ち、主変速機構の前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48と、副変速を高速と低速とに切り換える高速クラッチ電磁弁666と、主変速油圧シリンダ556を変速操作レバー232の前進側倒し量または後進側倒し量に比例させて作動させる比例制御電磁弁203と、左右ブレーキ電磁弁67a,67bと、四駆油圧電磁弁80と、倍速油圧電磁弁82と、PTOクラッチ電磁弁104とが接続されている。
【0080】
本実施形態では図16に示す運転部(キャビン)7内の操縦座席8の前方の床板235から突出する操縦コラム234上に丸ハンドル(操縦ハンドル)9が配置され、操縦コラム234より右方にスロットルレバー206が配置され、操縦コラム234の下方にクラッチペダル227と左右ブレーキペダル230とが並列状に配置されている。一方、操縦コラム234より左方には、変速操作レバー232が前方(機体進行方向)または後方に回動可能に配置されている。変速操作レバー232の握り部232aには、車速設定ダイヤル211が配置され、オペレータが左手で握り部232aを握り、その握った手の指で車速設定ダイヤル211を操作するように構成している。
【0081】
また、操縦コラム234の右方の床板235には、スロットルレバー206にて設定したエンジン5回転数を最低の回転数として、それ以上の回転数の範囲にてエンジン5回転数を増速または減速するためのアクセルペダル226が配置されている。操縦座席8の右側コラム上には、副変速切換スイッチ222と、PTO遮断スイッチ223と、作業機昇降レバー259とが配置され、操縦座席8の左側コラム上にはPTO変速レバー224が配置されている。操縦座席8の左側コラムの前にはデフロックペダル225が配置されている。
【0082】
上記変速操作レバー232は、ハンドル9の左方において、起立した中立位置と、前方(進行方向)に倒す前進変速位置と、後方に倒す後進変速位置とに、オペレータが手動にてそれぞれ移動できるように構成されている。一方、変速操作レバー232の前進側倒し操作量(倒し角度)または後進側倒し操作量(倒し角度)を検出するためのレバー回動検出センサとしての直線ポテンショメータ等の変速ポテンショ220が設けられている。
【0083】
すなわち、図示しない摩擦ブレーキ機構の維持力により変速操作レバー232を中立位置または操作位置に保持するように構成されている一方、変速操作レバー232の前進側倒し操作量または後進側倒し操作量が所定以上になると、変速操作レバー232の倒し操作力に抵抗するバネ手段(図示省略)が設けられ、変速操作レバー232の前進側倒し操作または後進側倒し操作の中途部で倒し操作抵抗力が急激に増大するように構成されている。これにより、通常の前進側倒し操作量または後進側倒し操作量を越えて変速操作レバー232を倒し操作すると、その変速操作レバー232の倒し操作力に抵抗する抵抗力(レバー倒し操作力)が段階的に増大して、所定値以上の加速を意図することをオペレータが容易に感得できるように構成されている。
【0084】
次に、一定変速比制御(変速比適応制御)について説明する。ここで、変速比とは、エンジン5回転数に対する前記油圧式無段変速機29の出力軸36の回転数の比率をいう。以下同じ。
【0085】
走行機体2に搭載されたミッションケース17内に、エンジン5からの動力が伝達される入力軸27を配置し、入力軸27と変速用の油圧ポンプ部500と油圧モータ部501と出力軸36とが同一軸線上に配置された油圧式無段変速機29を備え、油圧モータ部501を介して出力軸36から少なくとも走行駆動力を伝達するように構成してなる作業車両において、予め設定した目標変速比に対して、環境変化や外乱(主として、走行に係る負荷)によって、実際(現実)の変速比が一致しないことがある。そこで、実際(現実)のエンジン5回転数及び前記出力軸36の回転数を電子ガバナコントローラ213にフィードバックさせて、目標変速比に近接若しくは一致させる制御を、一定変速比制御(変速比適応制御)という。換言すると、エンジン5の回転数を、負荷の変動に拘らず、略一定値に保持するように制御する一方、実際(現実)の変速比が目標変速比の所定値%以内となるように、油圧式無段変速機29の変速比を制御するための比例電磁弁203を制御するものである。そのため、エンジン5の回転数に対する油圧式無段変速機29における出力軸36の回転数の変速比の変速比パターンを走行コントローラ210におけるパターン記憶手段としてのRAM(随時読み書き可能メモリ)に記憶させる。
【0086】
この変速比パターンは、変速操作レバー232の操作量(前進側倒し操作量または後進側倒し操作量)が増大するのに比例して、変速比が大きくなるパターンであり、その比例関数は一次関数であっても良いし、2次曲線の関数であっても良い。パターン記憶手段には複数の変速比パターンが関数表形式またはマップ形式(図18に示すような変速比線図を参照)にて記憶されている。農作業の種類や圃場の条件(土壌の質や水田、畑土地等)に応じて、図18の実施形態では15種類の変速比パターン(変速比線)を準備して、予めパターン記憶手段に記憶させている。オペレータが変速比設定器(設定ダイヤル)221の目盛を選択すると、複数種類の変速比パターンのうちから任意の1つのパターンを設定(指示)することができる。換言すると、変速比設定器(設定ダイヤル)221は、変速操作レバー232の操作量に対応する変速比の変化率を変える(調節設定)ためのものである。
【0087】
なお、図18に示す実施形態では、横軸に変速操作レバー232の操作量(最大倒し操作量に対する%で示し、右向きは前進側倒し操作のもの、左向きは後進側倒し操作のもの)を採り、縦軸(左縦軸参照)にはエンジン5の回転数に対する油圧式無段変速機29における出力軸36の回転数の変速比[(出力軸36の回転数/エンジン5の回転数)=0〜2]を採って変速比パターンの線図を示す。図18において下の線から順にNo.
1〜No.15とし、前進用変速比パターンと後進用変速比パターンは同じ(左右対称)に設定されている。さらに、図18には、変速操作レバー232の操作量に対するレバー倒し操作力の変化を示す線図(破線で示す)が記載されている。すなわち、右縦軸にはレバー倒し操作力(最大値に対する%で示す)を採る。
【0088】
本実施形態では、変速操作レバー232の前進側倒し操作量または後進側倒し操作量の中途部(例えば全倒し操作量の約70%の位置)で、その変速操作レバー232の倒し操作力が前述のバネ手段により急増するようになっている。即ち、変速操作レバー232の倒し操作量が0%から約70%までは、摩擦ブレーキ機構の付勢力に抗することで、変速操作レバー232の倒し操作力が低い勾配で直線的に比例して増加する。変速操作レバー232の倒し操作量が約70%の位置では、前述のバネ手段による抵抗力が付加されるので、変速操作レバー232の倒し操作力が最大値の約20%から約50%に急変し、その後の変速操作レバー232の倒し操作量が約70%から100%までは、変速操作レバー232の倒し操作力が高い勾配で略直線的に比例して増加するのである。
【0089】
そして、各変速比パターン(変速比線)も上述の変速操作レバー232の倒し操作量が約70%の位置より少ない領域とそれより大きい領域とで異なるようにしている。図18の実施形態において、No.1〜No.11の線(図18において下の線から数えて順にNo.1〜No.11とする)では、変速操作レバー232の倒し操作量が約70%の位置より少ない領域で変速比線の勾配が低く、約70%の位置を越える領域では変速比線の勾配が高くなるように設定されている。変速比線を採用するときには、オペレータが加速を意図して、オペレータが通常の変速操作レバー232の倒し操作量の範囲(約70%内)を越えて変速操作レバー232を倒し操作する時に、その変速操作レバー232の倒し操作力の急激な増大で感得できる。また、後述するように、環境変化や外乱等に対応してオペレータが変速比設定ダイヤル221で設定した以上の速度に上昇させたいとき、オペレータが変速比設定ダイヤル221の設定変更を実行する煩わしさを回避して、変速操作レバー232を所定量以上倒し操作するだけで、簡単に増速させることができる。
【0090】
No.12の線(図18において下の線から12番目の線)では、変速操作レバー232の倒し操作量が0%〜100%まで変速比線はほぼ一直線に設定されている。
【0091】
No.13及びNo.14の線(図18において下の線から数えてNo.13及びNo.14とする)では、変速操作レバー232の倒し操作量が約70%の位置を越える領域での変速比線の勾配が、約70%の位置より少ない領域での勾配より低く設定されている。No.15の変速比線は、変速操作レバー232の倒し操作量が約70%の位置(前述のバネ手段が変速操作レバー232に作用する直前)で変速比2となる直線である。
【0092】
次に、図19に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の発進・ブレーキ制御について説明する。まず、エンジン5を始動させるときは(S1)、変速操作レバー232が中立位置であるか否かを判別する(S2)。変速操作レバー232が中立位置にないときには(S2:no)、走行コントローラ210が比例制御電磁弁203の印加電圧値を補正することにより、油圧ポンプ部500の斜板角を−11度に移行させて変速比0に移動させる(S3)。この状態では、油圧無段変速機29からの出力回転数が零になる。即ち、主変速入力軸27が回転していて、主変速出力軸36が停止することになる。
【0093】
一方、変速操作レバー232が中立位置にあるときには(S2:yes)、T1時間経過したとき(S4:yes)、変速ポテンショメータ220から変速操作レバー232の変速操作量(前進側倒し操作量または後進側倒し操作量)を走行コントローラ210に読み込む(S5)。この読み込み数値に基づいて、変速操作レバー232が前進(後進)操作位置であるか否かを判別する(S6)。変速操作レバー232が前進(後進)操作位置にないときには(S6:no)、後述する走行停止制御(図22参照)が実行される(S7)。
【0094】
他方、変速操作レバー232を、オペレータが前進(後進)操作位置に移動したときには(S6:yes)、走行コントローラ210が比例制御電磁弁203の印加電圧値を補正することにより、油圧ポンプ部500の斜板角を−11度に移行させて変速比0に移動させる(S8)。この状態では、エンジン5の出力回転数の如何に拘らず、主変速出力軸36が停止して、主変速出力部の回転数は略零に維持されることになる。
【0095】
この変速比0に移動した時点で、前進クラッチ電磁弁46(後進クラッチ電磁弁48)を作動して、前進または後進クラッチ電磁弁46,48を励磁して、前進または後進用油圧クラッチ40,42を継続するという前進(後進)クラッチ入り作動を実行する(S9)。
【0096】
そのクラッチ入り作動からT2時間経過したときは(S10:yes)、後車輪4のブレーキシリンダ68に対するオートブレーキ電磁弁67をOFFにして、左右ブレーキ65による後車輪4の制動を解除するという左右ブレーキ解除を実行する(S11)。
【0097】
さらに、その左右ブレーキ解除からT3時間経過したときは(S12:yes)、変速操作レバー232の前進(後進)操作位置を変速ポテンショメータ220にて検出して走行コントローラ210に読み込み、この読み込み数値に基づいて主変速出力軸36の回転数を増加または減少させて、油圧式無段変速機29の変速比を、変速操作レバー232位置に対応した変速比に制御するという後述する変速比適応制御(図20参照)を実行する(S13)。
【0098】
そのように、変速比適応制御を実行している途中に、変速操作レバー232が前進(後進)操作位置に操作されて前進走行している場合、前進(後進)操作位置にある変速操作レバー232を、オペレータが後進(前進)操作することにより(S14:yes)、後述する前後進切換制御(図21参照)が実行される(S15)。
【0099】
次に、変速比制御のフローチャート(図20)を参照しながら変速比適応制御態様を説明する。上述のように、変速操作レバー232の変速操作量(前進側倒し操作量または後進側倒し操作量)に比例させて比例制御電磁弁203を作動し、これからの作動油で主変速油圧シリンダ556を駆動させて主変速機構である油圧無段変速機29の油圧ポンプ部500の圧油吐出量を制御する。その場合、設定ダイヤル221で設定した変速比の終局目標値または維持目標を環境の変化に適応して遂行する自動制御であり、より詳しくは、変速操作レバー232の変速操作量(前進側倒し操作量または後進側倒し操作量)を自己監視し、その変速操作量の変化に応じて変速比設定ダイヤル221で設定した変速比の目標線に追従するように自動制御するものである。これにて主変速出力軸36の回転数を無段階に変更調節できるものである。従って、変速比適応制御では、変速比設定ダイヤル221にて、作業種類等に応じてオペレータが所望の変速比パターンを選択・決定する(S16)と、走行コントローラ210のRAM(随時読み書き可能メモリ)に記憶された所定の変速比パターンを読み出す。次に、オペレータがトラクタ1を前進(後進)させるために変速操作レバー232を前進側倒し操作(後進側倒し操作)することにより、変速ポテンショメータ220から前進側倒し操作量(後進側倒し操作量)を走行コントローラ210に読み込む(S17)。この読み込み数値に基づいて、走行コントローラ210の演算部では、上記の選択された変速比パターン上の前進側倒し操作量(後進側倒し操作量)に対応する目標変速比値を算出する(S18)。
【0100】
他方、走行コントローラ210では、走行中に常時一定時間間隔(サンプリング時間間隔)毎に、エンジン回転センサ206からエンジン回転数を読み込み、主変速出力部回転センサ116により、主変速出力部回転数を検出して読み込む(S19)。サンプリング時間(現在)でのエンジン回転数(分母)と主変速出力部回転数(分子)との比率から現在変速比値を演算し、現在変速比値が目標変速比値に略等しいか否かを判別する(S20)。
【0101】
現在変速比値が目標変速比値から大小の所定%以上離しているときは(S20:no)、走行コントローラ210が比例制御電磁弁203の印加電圧値を補正することにより、油圧ポンプ部500の斜板角度を変更調節し、油圧モータ部501への作動油吐出量を制御して主変速出力軸36の回転数を増加または減少させるという主変速操作を実行する(S21)。現在変速比値が目標変速比値に略等しければ(目標変速比値に対して現在変速比値が±所定%以内の場合)(S20:yes)、主変速出力軸36の回転数を維持させる(S22)。
【0102】
このように現在変速比値が目標変速比値に近づく(または一致させる)ようにフィードバック制御を行う。これらの場合、例えば、トラクタが乾いた土の区域から水を多く含む土の区域に進入したときのように走行の負荷が増大するなどの外乱のために、エンジン5の出力トルク変動が不足した場合や環境変化によりエンジン5回転数が所定値から外れた場合には、電子ガバナーコントローラ213を作動させて、エンジン5回転数を所定の値に維持するように制御することは勿論である。
【0103】
このような変速比適応制御を採用すれば、オペレータは一旦変速比設定ダイヤル221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速操作レバー232を操作するだけで、環境の変化や作業車両の走行負荷の変動により、現実の変速比の値が目標変速比の値からずれた時に、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御でき、作業車両の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
【0104】
また、比例制御電磁弁203の動作を補正することにより、上記自動制御を実行するので、きめ細かく且つ迅速に制御できるという効果を奏する。さらに、エンジン5の回転数を負荷によって制御するための電子ガバナー214を備えたものであるから、オペレータがエンジンスロットルを手操作で調節する必要がなく、エンジン5の回転数及び油圧式無段変速機29の出力を共に高効率に保持するように、エンジン回転数の制御とポンプ斜板509角度の制御とを実行でき、且つ作業車両の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。なお、主変速部の回転数の検出に代えて、車速(車輪の回転数)を検出して、変速比を算出することも等価の意義として採用できる。
【0105】
次に、図21に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の前後進切換制御について説明する。左右ブレーキ65の少なくとも一方が非作動状態で左右後車輪4の少なくとも一方を制動していないときは、上述した図20の変速比適応制御にて走行機体が前進(または後進)しているものと判断される。その変速比適応制御にて走行作業が行われている場合は(S23)、走行機体が前進(または後進)している状態から後進(または前進)する往復走行制御モードになる。このとき、エンジン回転センサ215からのエンジン回転数、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速を読み込む(S24)。走行機体が前進(または後進)走行しているときに(S25:yes)、走行方向とは逆側の変速操作レバー232を後進側(または前進側)に倒し操作したか否かを判別する(S25)。
【0106】
そして、走行方向とは逆側の変速操作レバー232を後進側(または前進側)に倒し操作した場合(S26:yes)、走行コントローラ210が比例制御電磁弁203の印加電圧値を補正することにより、油圧ポンプ部500の斜板角を−11度に移行させて変速比0に移動させ(S27)、油圧無段変速機29からの出力回転数を零にする。このときに、車速が所定の微小速度V1(例えば、0.1km/時間程度)以下に減速すると(S28:yes)、前進クラッチ電磁弁46(後進クラッチ電磁弁48)をOFFにして、前進用油圧クラッチ40(後進用油圧クラッチ42)を切りにする(S29)。
【0107】
その前進クラッチ40(後進クラッチ42)クラッチ切り作動からT4時間経過したときに(S30)、後進クラッチ電磁弁48(前進クラッチ電磁弁46)をONにして、後進用油圧クラッチ42(前進用油圧クラッチ40)を入りにする(S31)。
【0108】
その後進用油圧クラッチ42(前進用油圧クラッチ40)クラッチ入り作動からT5時間経過したときに(S32)、上述した図20の変速比適応制御が行われる(S33)。変速操作レバー232の後進側倒し操作量(前進側倒し操作量)と、変速比設定ダイヤル221の設定値とにより算出される速度にて、走行機体が前進(後進)走行から一時的な停止状態を経て後進(前進)走行に移行する。変速操作レバー232の前進側倒し操作と後進側倒し操作とをオペレータが交互に行うことにより、走行機体の走行方向を前進走行と後進走行とに交互に切換え、走行機体をスムーズに往復移動できる。
【0109】
上記の記載及び図17、図21などから明らかなように、変速操作レバー232を前進側倒し操作量(後進側倒し操作量)を検出する変速センサである変速ポテンショメータ220と、前記変速センサ220の検出値に基づいて前記油圧ポンプ500の斜板角度を調節するアクチュエータである主変速油圧シリンダ556と、前記出力軸36の回転数を検出する変速出力部回転センサ116と、制御手段210とを備える。前記制御手段210は、変速操作レバー232を前進側倒し操作(後進側倒し操作)しない状態では、前記走行車輪3,4にブレーキ65を掛け、且つ前進用油圧クラッチ40及び後進用油圧クラッチ42の両方を切るように制御することになる。
【0110】
また、前記変速出力部回転センサ116にて検出する変速駆動出力が前後進切換速度V1以下のときには、変速操作レバー232の前進側倒し操作(後進側倒し操作)に応じて前進用油圧クラッチ40または後進用油圧クラッチ42のいずれかを入れるように制御することになる。したがって、前進と後進の切換途中での逆走を防止できる。交互に繰り返す前進と後進の切換、走行停止と発進の各操作を頻繁に行う必要があるトラクタ1またはホイルローダなどの各作業を、至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
【0111】
なお、前記前進用油圧クラッチ40または後進用油圧クラッチ42のいずれかの入を確認したときに、前記走行車輪3,4のブレーキ65を解除するように制御することにより、登坂のときにも、逆走を防止して、走行車両をスムーズに発進できることになる。前記前進及び後進用油圧クラッチ40,42は、前記油圧式無段変速機29における出力軸36より伝動下流側に配置されているものであるから、従来のようなエンジン5と油圧式無段変速機29との間に配置する主クラッチなどを省略することができ、構造を簡単にすることができる。走行車輪として、左右前後車輪3,4に代えて左右一対の走行クローラ(図示省略)を設けてもよく、左右後車輪4に代えて左右一対の走行クローラを設けてもよい。
【0112】
さらに、油圧式無段変速機29の変速比パターンを設定する変速比設定器である変速比設定ダイヤル221と、複数の変速比パターンを記憶するパターン記憶手段210とを備え、変速操作レバー232を前進側倒し操作量(後進側倒し操作量)に応じて、変速比設定器221にて予め設定された変速比パターンに沿って油圧式無段変速機29の出力回転数を制御するものであるから、オペレータは一旦変速比設定器221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速操作レバー232を操作するだけで、環境の変化や作業車両であるトラクタ1の走行または作業負荷の変動により、現実の変速比の値が目標変速比の値からずれた時に、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御でき、作業車両1の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
【0113】
また、変速操作レバー232を前進側倒し操作(後進側倒し操作)した前進(後進)時に、変速操作レバー232を後進側倒し操作(前進側倒し操作)したときには、車速が一定以下になるとき、前進用油圧クラッチ40を切り、これに続いて後進用油圧クラッチ42を入れるように制御するものであるから、例えば、往復走行作業などにおいて、油圧式無段変速機29の超低速出力(低効率出力域)をカットし、油圧式無段変速機29が低効率出力になる前に、前進から後進に切換えることができる。前進から後進に切換えたときに走行加速性能などが低下するのを阻止でき、走行機動力を適正に維持できる。
【0114】
次に、図22に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の走行停止制御について説明する。左右ブレーキ65の少なくとも一方が非作動状態で左右後車輪4の少なくとも一方を制動していないときは、上述した図20の変速比適応制御等の走行作業が実行されて、走行機体が前進(または後進)しているものと判断される。その変速比適応制御等の走行作業中において(S34)、変速操作レバー232が中立位置にあるか否かを判断する(S35)。
【0115】
変速操作レバー232を前進側(後進側)の倒し操作位置から中立位置に戻す操作が行われて、変速操作レバー232が中立位置にあるときには(S35:yes)、油圧ポンプ部500の斜板角度を例えば略−11度に変更して変速比0に移動させる。この状態では、油圧ポンプ部500からの作動油が油圧モータ部501に供給されて、当該油圧モータ部501の相対的回転方向が入力軸27(油圧ポンプ部500)と逆になり、油圧ポンプ部500に連結されている主変速出力ギヤ37は絶対的に停止し、エンジン5の出力回転数の如何に拘らず、主変速出力部の回転数は略零となる。
【0116】
変速操作レバー232を前進側(後進側)の倒し操作位置から中立位置に戻した時点において(S35:yes)、エンジン回転センサ215からのエンジン回転数、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速を読取る(S36)。
【0117】
車速が所定の微小速度V1(例えば、0.1km/時間程度)以下になると(S37:yes)、オペレータが走行停止させる意図があるものと見做して、走行コントローラ210は、前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48の両者をOFFにして走行部への駆動力を遮断する(S38)。
【0118】
さらに、後車輪4のブレーキシリンダ68に対するオートブレーキ電磁弁67をONにして制動を掛けるというオートブレーキ作動を実行する(S39)。これにより、トラクタ1の走行は停止する(S40)から、オペレータがエンジン5始動時に、誤って、先に変速比設定ダイヤル221で変速比を設定したり、先に操作具(変速操作レバー232)を倒し操作したりしても、発進しないから安全である。
【0119】
そして、前記ステップS40の走行停止からさらにT6時間経過したか否かを判別し(S41)、T6時間経過していれば(S41:yes)、油圧ポンプ部500の斜板角度を略0度に移行させて変速比1となるようにする(S42)。この状態では油圧ポンプ部500からの作動油が油圧モータ部501に供給されず、油圧式無段変速機29の作動油の無駄な循環による油漏れが少なくなり、エンジン5の無駄な燃料消費が無くなるという効果を奏する。つまり、T6時間経過してオペレータが作業のための変速比設定ダイヤル221による変速比設定や走行開始のための変速操作レバー232の前進側倒し操作(後進側倒し操作)等の動作を実行しない状態では、エンジン5に負荷を掛けないようにし、無駄な燃料消費を回避することができる。
【0120】
次に、図23に示すフローチャートを参照しながら、クラッチペダル制御について説明する。左右ブレーキ65の少なくとも一方が非作動状態で左右後車輪4の少なくとも一方を制動していないときは、上述した図20の変速比適応制御等の走行作業が実行されて、走行機体が前進(または後進)しているものと判断される。その変速比適応制御等の走行作業中において(S43)、クラッチペダル227の踏込みがあるか否かを判断する(S44)。
【0121】
クラッチペダル227を初期位置から踏込み位置に移動させる足踏み操作が行われて、クラッチペダル227踏込み有りの状態になったときには(S44:yes)、走行コントローラ210は、前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48の両者をOFFにして走行部への駆動力を遮断するという前進・後進クラッチ切りを実行する(S45)。次に、エンジン回転センサ215からのエンジン回転数、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速を読取る(S46)。
【0122】
車速が所定の微小速度V1(例えば、0.1km/時間程度)以下になると(S47:yes)、オペレータが走行停止させる意図があるものと見做して、走行コントローラ210は、後車輪4のブレーキシリンダ68に対するオートブレーキ電磁弁67をONにして制動を掛けるというオートブレーキ65作動を実行する(S48)。これにより、トラクタ1の走行は停止する(S49)。
【0123】
そして、前記ステップS49の走行停止からさらにT7時間経過したか否かを判別し(S50)、T7時間経過していれば(S50:yes)、油圧ポンプ部500の斜板角度を略0度に移行させて変速比1となるようにする(S51)。この状態では油圧ポンプ部500からの作動油が油圧モータ部501に供給されないから、油圧式無段変速機29を駆動するためのエンジン5負荷が少なくなり、クラッチペダル227を踏込んだときに、エンジン5または油圧式無段変速機29などのトラブルを防止または低減できるという効果を奏する。
【0124】
なお、例えば電気系統の故障などにより、エンジン5の回転中に走行作業や農作業機に異常が発生した場合には、オペレータがクラッチペダル227を踏込むだけで、走行コントローラ210の変速比適応制御出力に優先して、前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48をオフ作動させて、走行系への動力伝達を強制的、且つ緊急的に遮断すると共に、オートブレーキ65が作動して、左右後車輪4を制動して走行機体を強制的、且つ緊急的に停止させ、安全を図ることができる。
【0125】
上記の記載及び図17、図19乃至図22などから明らかなように、前車輪3及び後車輪4などの走行車輪を備えた走行機体2に搭載されたエンジン5からの動力を変速する油圧式無段変速機29と、油圧式無段変速機29の変速比を変更する変速操作レバー232と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を前記走行車輪3,4に伝達する走行用クラッチとしての前進用油圧クラッチ40及び後進用油圧クラッチ42と、前記走行車輪4を制動するブレーキ65とを備えてなる作業車両において、前記変速操作レバー232の操作量及び操作方向を検出する変速ポテンショメータなどの変速センサ220と、前記油圧式無段変速機29の出力回転数を検出する変速出力部回転センサ116と、走行コントローラなどの制御手段210とを備え、前記変速出力部回転センサ116にて検出する変速駆動出力が前後進切換速度以下のときには、変速操作レバー232の操作方向に応じて前記前進用油圧クラッチ40または後進用油圧クラッチ42のいずれかを入れるように制御し、前記走行車輪4のブレーキ65解除を確認したときには、変速操作レバー232の操作量に応じて前記油圧式無段変速機29の変速比を変更するように制御するものであるから、前進用及び後進用の各油圧クラッチ40,42の入り切り動作と、前記油圧式無段変速機29の変速動作の両方を、変速操作レバー232の操作にて簡単にすることができる。例えば発進と走行停止の操作、または交互に繰り返す前進と後進の切換操作などを頻繁に行う必要があるトラクタ1またはホイルローダなどの各作業において、変速操作レバー232をオペレータが操作して、発進時の増速及び停止時の減速等の動作を至極簡単にすることができ、エンジントラブル等の防止も容易にでき、長時間の作業での疲労を少なくできる。
【0126】
上記の記載及び図17、図20などから明らかなように、制御手段210は、油圧式無段変速機29の変速比パターンを設定する変速比設定ダイヤルなどの変速比設定器221と、複数の変速比パターンを記憶するパターン記憶手段とを備え、変速操作レバー232の操作量に応じて、変速比設定器221にて予め設定された変速比パターンに沿って油圧式無段変速機29の出力回転数を制御するものであるから、オペレータは一旦変速比設定器221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速操作レバー232を操作するだけで、環境の変化や作業車両1の走行負荷の変動により、実際(現実)の変速比の値が目標変速比の値からずれた時に、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御でき、トラクタなどの作業車両1の走行操作を至極簡単にすることができ、長時間の作業での疲労を少なくできる。
【0127】
上記の記載及び図17、図20、図22などから明らかなように、制御手段210は、変速操作レバー232を中立に位置した状態では、走行車輪4にブレーキ65を掛け、且つ前進用油圧クラッチ40及び後進用油圧クラッチ42の両方を切るように制御するものであるから、例えば発進と走行停止の操作、または交互に繰り返す前進と後進の切換操作などを頻繁に行う必要があるトラクタ1またはホイルローダなどの各作業を、至極簡単にすることができ、長時間の作業での疲労を少なくできる。
【0128】
上記の記載及び図17、図20、図21などから明らかなように、制御手段210は、変速操作レバー232を前進(後進)側から後進(前進)側に操作したときには、車速が一定以下になるとき、前進(後進)用油圧クラッチ40を切るように制御し、前進(後進)用クラッチ40を切って一定時間経過したときには、後進(前進)用油圧クラッチ42を入れるように制御し、後進(前進)用油圧クラッチ42を入れて一定時間経過したときには、前記変速比パターンに沿って前記油圧式無段変速機29の出力回転数を制御する。即ち、変速操作レバー232の前進操作又は後進操作によって走行用クラッチとしての前進用油圧クラッチ40(または後進用油圧クラッチ42)が入り作動した状態で、走行車輪としての後車輪4のブレーキ解除が確認されたときに、変速操作レバー232の操作量に応じて、予め設定した変速比パターンに基づき、油圧式無段変速機29の出力回転数が制御されるように構成したものであるから、例えば、往復走行作業などにおいて、油圧式無段変速機29の超低速出力(低効率出力域)をカットし、油圧式無段変速機29が低効率出力になる前に、進行方向を前進から後進(後進から前進)に切換えることができる。したがって、進行方向を前進から後進(後進から前進)に切換えたときに走行加速性能などが低下するのを阻止でき、走行機動性を向上できる。例えば発進と走行停止の操作、又は前進と後進の繰返し操作等を頻繁に行う必要があるトラクタまたはホイルローダ等の各作業において、オペレータが変速操作レバー232を操作することによって、発進時の増速又は停止時の減速等を簡単に制御でき、エンジントラブル等も容易に防止でき、長時間の連続作業におけるオペレータの疲労を軽減できる。
【0129】
上記の記載及び図17、図20、図23などから明らかなように、前進用クラッチ40及び後進用クラッチ42の両者を切るクラッチペダル227を備え、クラッチペダル227を踏み込んだときには、前進用及び後進用の各クラッチ40,42を切るように制御し、且つ車速が一定以下になるとき、ブレーキ65を作動させるように制御し、ブレーキ65を作動させて一定時間経過したときには、油圧式無段変速機29をこの変速比が零になるように制御する。即ち、前進用油圧クラッチ40及び後進用油圧クラッチ42を切るクラッチペダル227を備え、クラッチペダル227を踏み込むことによって、車速が一定以下になったときに、ブレーキ65を作動させるように制御し、次いでブレーキ65を作動させて一定時間が経過したときに、油圧式無段変速機29の出力回転数を零にするように構成したものであるから、オペレータがクラッチペダル227を足踏み操作するだけで作業車両1を停止できる。例えば制御手段210の自動制御のトラブル等が原因の事故などを未然に防止でき、オペレータは環境や動作結果などに対して俊敏に対処できる。また、例えば前進と後進の切換操作が頻繁に行われる旋回又は往復移動作業等の運転操作性を向上できる。
【0130】
上記の記載及び図16、図17などから明らかなように、変速比設定器221を変速操作レバー232の握り部232aに配置したものであるから、例えばトラクタまたはホイルローダなどにおいて、オペレータが一方の手でハンドル9を握り、且つもう一方の手で変速操作レバー232を握り、オペレータが変速操作レバー232を握ったその手の指で前記変速比設定器221を操作できる。例えばオペレータが両手でハンドル9と変速操作レバー232とをそれぞれ握った状態で、変速操作レバー232を移動する変速操作(無段階の変速作動)中に、変速比設定器221を切換える変速操作(図18に示す変速パターンを選択する有段階の変速作動)を簡単にすることができる。
【0131】
上記の記載から明らかなように、実施形態によると、エンジン5を搭載した走行機体2と、前記エンジン5からの動力を変速する油圧ポンプ500及び油圧モータ501付きの油圧式無段変速機29と、前記エンジン5からの動力と前記油圧モータ501からの出力とを組み合わせた前記油圧式無段変速機29の変速出力が一方向の回転力として伝達される主変速出力軸36と、前記主変速出力軸36からの一方向の回転力を正転出力又は逆転出力に切り換える前後進切換機構41,43とを備えている作業車両1において、前記油圧モータ501からの出力が逆転方向の出力制御状態で前記エンジン5からの正転回転数と前記油圧モータ501からの逆転回転数とが一致する場合に、前記走行機体2の移動速度が零になるように構成されているから、零発進時の出力トルクを容易に確保でき、零発進又は微速走行性能を向上できる共に、負荷の大きい高速移動作業においても、高い動力伝達効率の出力を有効に利用して、作業能率を簡単に向上できるという効果を奏する。また、油圧変速操作を停止にしたとき(前記操作レバー232を中立にしたとき)に前記主変速出力軸36が回転して前記走行機体2を前後進させてしまうといった不具合を容易になくせるという効果を奏する。
【0132】
また、前記油圧式無段変速機29の変速比を変更する操作具232と、前記油圧ポンプ500の斜板角度を調節するアクチュエータ556とを更に備えており、前記操作具232を中立位置から最大前進操作位置に操作することによって、前記油圧ポンプ500の斜板角度を最大逆転角から最大正転角に変化させ、前記走行機体2の移動速度を零から最高速度に変速させるように構成されているから、スムーズ且つ容易に変速操作して前進走行できるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0133】
1 トラクタ(作業車両)
2 走行機体
5 エンジン
29 油圧式無段変速機
40 前進用油圧クラッチ(走行用クラッチ)
42 後進用油圧クラッチ(走行用クラッチ)
65 ブレーキ
227 クラッチペダル
232 変速操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを搭載した走行機体と、前記エンジンからの動力を変速する油圧ポンプ及び油圧モータ付きの油圧式無段変速機と、前記エンジンからの動力と前記油圧モータからの出力とを組み合わせた前記油圧式無段変速機の変速出力が一方向の回転力として伝達される主変速出力軸と、前記主変速出力軸からの一方向の回転力を正転出力又は逆転出力に切り換える前後進切換機構とを備えている作業車両において、
前記油圧モータからの出力が逆転方向の出力制御状態で前記エンジンからの正転回転数と前記油圧モータからの逆転回転数とが一致する場合に、前記走行機体の移動速度が零になるように構成されている、
作業車両。
【請求項2】
前記油圧式無段変速機の変速比を変更する操作具と、前記油圧ポンプの斜板角度を調節するアクチュエータとを更に備えており、
前記操作具を中立位置から最大前進操作位置に操作することによって、前記油圧ポンプの斜板角度を最大逆転角から最大正転角に変化させ、前記走行機体の移動速度を零から最高速度に変速させるように構成されている、
請求項1に記載した作業車両。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−7742(P2012−7742A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227203(P2011−227203)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2009−239477(P2009−239477)の分割
【原出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】