信号処理装置、及びレーダ装置
【課題】車両の前側方監視用レーダ装置において目標物体の位置を精度よく検出する。
【解決手段】 車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置は、前記車両の前側方をY軸、前記Y軸と交差する方向をX軸としたときに前記走査領域における目標物体の位置のX、Y座標を検出する位置検出手段と、過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測する位置予測手段と、前記検出された位置のX、Y座標が前記予測された予測位置のX、Y座標それぞれの許容範囲に含まれるときに、当該検出された位置を確定する位置確定手段とを有するので、X座標の差分値が大きい目標物体の位置を精度良く予測でき、位置検出制度を向上できる。
【解決手段】 車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置は、前記車両の前側方をY軸、前記Y軸と交差する方向をX軸としたときに前記走査領域における目標物体の位置のX、Y座標を検出する位置検出手段と、過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測する位置予測手段と、前記検出された位置のX、Y座標が前記予測された予測位置のX、Y座標それぞれの許容範囲に含まれるときに、当該検出された位置を確定する位置確定手段とを有するので、X座標の差分値が大きい目標物体の位置を精度良く予測でき、位置検出制度を向上できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置及び信号処理方法に関し、特に、前記走査領域内の目標物体の位置を検出する信号処理装置、及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両前方を走行する先行車両の位置を車載レーダ装置により検出し、これに追従走行する車両制御システムが知られている。特許文献1には、追従走行制御のための車載用レーダ装置の例が記載されている。
【0003】
かかる車両制御システムにおけるレーダ装置は、走査領域の中心(レーダ軸)が自車両前方を向くように搭載され、自車両前方の走査領域を走査する。そして、レーダ装置は、レーダ軸をY軸、Y軸と直角方向、つまり自車両の左右方向をX軸とするXY座標平面上において、目標物体(先行車両)の位置座標を検出する。
【0004】
そして、レーダ装置は、前々回、前回の検出サイクルで検出された目標物体のY座標の差分値から、新規の検出サイクルにおける目標物体のY座標を予測する。そして、自車両を中心とする車線幅相当のX座標範囲と、予測されたY座標に対する所定の許容範囲内を予測領域として、新規の検出サイクルで検出された位置(検出位置)が予測領域内にあるときに、その位置を検出位置として確定する。そうすることで、検出サイクルごとの検出結果の正確性を担保する。これは、追従走行制御において制御対象となる目標物体の位置は、そのX座標が車線幅に相当する範囲内にある状態でY軸に沿った方向に移動することによる。
【0005】
検出サイクルごとの予測領域と検出される位置との関係を図示すると、図1(A)のようになる。図1(A)は、車両1に搭載された前方監視用レーダ装置の走査領域を示す平面図であり、レーダ装置を原点OとするXY座標平面上に、n(n=1、2、3、…)番目の検出サイクルごとの検出位置P(n)と、予測領域A(n)(ハッチングにより図示)を示す。
【0006】
ここでは、目標物体が徐々に接近する場合を例として、各検出サイクルにおける予測領域A(n)がY軸方向に沿った車線幅内の領域(予測対象領域)において設定されることが示される。そして、検出位置P(n)が予測領域A(n)内にあるときに、その位置P(n)が確定される。
【特許文献1】特開2001−319299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では、車両の追従走行制御に加えて、他の車両との衝突を回避する衝突回避制御や、衝突の際に乗員を保護する衝突対応制御のための物体認識手段としてレーダ装置が用いられる。かかる衝突回避制御、衝突対応制御では、制御対象となる目標物体は対向車両や出会い頭に出くわす他車両(以下、出会い頭車両)であるので、これらの目標物体を検出しやすいように、レーダ装置は車両の前側部に設置され、レーダ軸が車両の前側方(例えば前方を0度としたときに側方45度方向)に向けられる。
【0008】
かかる前側方監視用レーダ装置が検出する目標物体の位置を、図1(B)に示す。図1(B)は、前側方監視用レーダ装置の走査領域を示す平面図である。図1(B)では、Y軸を車両1の前方45度に合わせ、レーダ装置を原点OとするXY座標平面が示される。
【0009】
ここでは、対向車両や出会い頭車両の位置は、走査領域を横切るような軌跡で移動することが示される。すなわち、これらの位置は、検出サイクルごとのX座標差分値が大きい。すると、図1(A)に示したような予測対象領域で予測領域を設定したのでは、目標物体の検出位置が予測領域を外れることによりその位置が確定できなくなる蓋然性が大きい。
【0010】
位置が確定できない場合には、予測領域内に検出位置を推定する推定処理が可能であるが、そのとき推定された位置はY座標の差分値に基づき予測対象領域内に設定されるので、目標物体の位置が予測対象領域内でY軸に沿った方向に移動する。よって、本来はすれ違う動きをする対向車や、前方を横切る他の車両の位置が、点線の矢印で示すようにY軸に沿って接近するように誤認識されるおそれがある。
【0011】
さらに、前側方監視用レーダ装置の場合、自車両が道路に沿って走行することで、路側の設置物(以下、静止物)の検出位置が走査領域を横切るように移動する頻度が高くなる。かかる静止物は、本来自車両に向かって動くものではないので、衝突回避動作や衝突対応動作の制御対象から除外することが好ましい。しかし、上記のような位置の予測を行うことにより、かかる静止物の位置が予測領域を外れ、推定処理によって点線で示すように自車両に接近するように誤認識されるおそれがある。
【0012】
このようにして対向車両や他車両、あるいは静止物の位置の誤認識が生じると、本来は接近する目標物体が存在しないにもかかわらず衝突回避動作や衝突対応動作を行うなど、車両の誤制御につながるおそれが生じる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、車両の前側方監視用レーダ装置における目標物体の位置を精度よく検出し、衝突回避動作や衝突対応動作の誤作動を生じさせない信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記車両の前側方をY軸、前記Y軸と交差する方向をX軸としたときに前記走査領域における目標物体の位置のX、Y座標を検出する位置検出手段と、過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測する位置予測手段と、前記検出された位置のX、Y座標が前記予測された予測位置のX、Y座標それぞれの許容範囲に含まれるときに、当該検出された位置を確定する位置確定手段とを有する信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記側面によれば、位置予測手段は過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測するので、X座標の差分値が大きい目標物体の位置の予測を正確に行うことができる。よって、検出位置が予測領域内にある確率が高くなり、位置検出精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0017】
図2は、本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。レーダ装置10は、車両1の前側部、例えば前部バンパー内フォグランプ近傍に設置される。そして、レーダ装置10は、車両1の前側方、つまり前方(0度)に対し側方45度方向にレーダ軸を合わせて、レーダ軸を中心とする走査領域にレーダ信号(電磁波)を送信して走査領域からの反射信号を受信し、受信信号を処理して目標物体の位置を検出する。そして、検出結果に基づいて、マイクロコンピュータ等で構成される車両制御装置100が、対向車両や出会い頭車両との衝突を回避したり、衝突を予測して乗員を保護したりするように車両1の各種アクチュエータを制御する。なお、図示するような右前側方だけでなく、左前側方にレーダ装置を設置することも可能である。そして、いずれの場合においても、本図に示す車両1に対するレーダ軸の角度は一例であり、前方0度から側方90度までの範囲で設定可能である。
【0018】
図3は、本実施形態においてレーダ装置10が検出する目標物体の位置について説明する図である。レーダ装置10は、レーダ軸方向をY軸、その直角方向をX軸、レーダ装置10を原点OとするXY座標平面において、目標物体の位置としてXY座標を検出する。このとき、レーダ装置は、後述する手順によりY軸を0度としたときの目標物体の方位角θ、目標物体の相対距離Rとを求め、方位角θと相対距離Rから、X座標:x=R・sinθ、Y座標:y=R・cosθを算出する。
【0019】
図4は、本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。レーダ装置全体の構成を示す図4(A)において、レーダ装置10は、一例としてFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式のレーダ装置であり、周波数変調を施したミリ波長の連続波(電磁波)を送信信号として送信してその反射信号を受信し、送受信信号の周波数差に対応する周波数のビート信号を生成するレーダ送受信機30と、レーダ送受信機30が生成するビート信号を処理する信号処理装置14とを有する。
【0020】
レーダ送受信機30は、三角波で周波数変調された送信信号を走査領域に向け送信し、送信信号の反射信号を受信する。そして、送受信信号を混合して、送受信信号の周波数差に対応するビート周波数のビート信号を生成すると、ビート信号をA/D変換してそのデジタルデータを信号処理装置14に出力する。
【0021】
ここで、図4(B)に、メカニカルスキャン方式の場合のレーダ送受信機30の構成を示す。レーダ送受信機30では、周波数変調指示部16が三角波状の周波数変調信号を生成すると、電圧制御発振器(VCO)18が、周波数変調指示部16が生成する信号に従って三角波の上昇区間で周波数が直線的に上昇し、三角波の下降区間で周波数が直線的に下降する送信信号を出力する。この送信信号は分配器20により電力分配され、その一部が送信アンテナ11から送出される。そして、反射信号が受信用アンテナ12により受信され、受信信号がミキサ22に入力される。ミキサ22は、電力分配された送信信号の一部と受信信号とを混合し、両者の周波数差に対応する周波数のビート信号を生成する。そして、ビート信号は、AD変換器によりデジタルデータ化され、信号処理装置14に出力される。
【0022】
また、レーダ送受信機30は、送信アンテナ11と受信アンテナ12を備えたアンテナ部11aを往復回動させる機構と、アンテナ部11aの回動角度を検出するエンコーダとを備えた回動部26を有する。回動部26のエンコーダからはアンテナ部11aの回動角度を示す角度信号が信号処理装置14に出力される。信号処理装置14は、角度信号に基づき受信信号を受信したときのアンテナ部11aの角度を検出し、目標物体の方位角を検出する。また、この場合、信号処理装置14は、アンテナ部11が走査領域に対応する角度範囲を片側に1回動して走査領域を1回走査する期間を1検出サイクルとして目標物体の検出を行う。
【0023】
次に、図4(C)に、電子スキャン方式の場合のレーダ送受信機30の構成を示す。レーダ送受信機30は、反射信号を受信する複数の受信用アンテナ12_1、12_2、…を所定間隔離間して備え、受信用アンテナ12_1、12_2、…による受信信号を時分割でミキサ22に入力するスイッチ回路28とを有する。ミキサ22は受信用アンテナ12_1、12_2、…それぞれを送信信号と混合して、ビート信号を生成する。
【0024】
この場合、信号処理装置14は、アンテナ間の受信信号の位相差を制御することでアンテナ全体としての指向性を変化させる。そして、受信信号の利得が最大となるときの指向性を求めることにより、その指向性に対応する目標物体の方位角を検出する。あるいは、電子スキャン式の一形態である位相モノパルス方式では、信号処理装置14は、アンテナ間の受信位相差から受信信号の到来方向である目標物体の方位角を直接的に検出する。こうした電子スキャン方式では、信号処理装置14は、送信信号の周波数上昇期間と周波数下降期間を1検出サイクルとして目標物体の検出処理を行う。
【0025】
図4(A)に戻り、信号処理装置14の構成について説明する。信号処理装置14は、デジタルデータ化されたビート信号に対しFFT(高速フーリエ変換)処理を実行するDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置と、ビート信号の周波数スペクトルを処理して目標物体の位置等をするマイクロコンピュータを有する。このマイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する。
【0026】
よって、ビート信号の周波数を解析して目標物体の相対距離、相対速度を検出する距離・速度検出手段14a、上記のメカニカルスキャン方式または電子スキャン方式により目標物体の方位角を検出する方位角検出手段14b、目標物体の相対距離と方位角からXY座標平面上の位置を求める位置検出手段14c、過去の検出サイクルで検出された目標物体の位置から新規検出サイクルでの目標物体の位置を予測する位置予測手段14d、検出した位置が予測した位置の許容範囲内にあるときに検出した位置を確定する位置確定手段14e、目標物体が静止物であるか否かを判定する静止物判定手段14fは、各処理手順を定めたプログラムと、これを実行するCPUにより構成される。
【0027】
また、信号処理装置14には、車両1の車速センサから車両1の速度を示す車速信号が入力される。さらに、信号処理装置14には、車両1のヨーレートセンサから車両のヨーレートを示すヨーレート信号が入力される。位置予測手段14dは、車速信号から車速を検出し、またヨーレート信号と車速から旋回半径を検出して、後述する位置予測に用いる。
【0028】
ここで、図5にレーダ装置10が適用される車両1の制御システムの構成例を示すと、上述した静止物判定手段14fは、図5(A)の構成例のようにレーダ装置10の信号処理装置14がこれを有してもよい。このとき、レーダ装置10の信号処理装置14が本実施形態における「信号処理装置」に対応する。あるいは、図5(B)の構成例のように車両1の車両制御装置100がこれを有してもよい。このとき、レーダ装置10の信号処理装置14と車両側の制御装置100とが本実施形態における「信号処理装置」に対応する。
【0029】
図6は、信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。図6に示す手順は、1検出サイクルごとに実行される。
【0030】
まず、信号処理装置14は、送信信号の周波数上昇期間、周波数下降期間ごとにビート信号をFFT処理してその周波数スペクトルを検出する(S10)。そして、距離・速度検出手段14aは、周波数上昇期間、周波数下降期間で極大値を形成するピーク信号同士を互いにペアリング(対応付け)して、それぞれの周波数を用いて目標物体の相対距離、相対速度を算出する(S12)。また、方位角検出手段14bは、各ペアリング結果について目標物体の方位角を算出する(S14)。
【0031】
そして、位置検出手段14cが、目標物体の方位角、相対距離から目標物体の位置を算出する(S16)。算出された位置は、信号処理装置14内のRAMに格納される。そして、位置予測手段14dが、RAMに格納された過去の検出サイクルでの検出位置から、新規の検出サイクルでの位置を予測する(S18)。すると、位置確定手段14eは、予測された位置の許容範囲(予測領域)内に新規の検出サイクルでの検出位置が含まれることを確認し、その位置を検出結果として確定する(S20)。
【0032】
また、静止物判定手段14fは、目標物体のうち、静止物を判定して、出力対象から除外する(S22)。そして、信号処理装置14は、検出した位置が確定した検出サイクルの回数が所定回数に達した目標物体について、その位置、相対速度などを車両1の制御に用いるデータとして車両1の車両制御装置100あるいは車両制御装置100の他のモジュールに出力する(S24)。
【0033】
次に、本実施形態における位置の予測方法と確定方法について説明する。
【0034】
図7(A)は、レーダ装置10の走査領域を示す平面図であり、レーダ装置を原点OとするXY座標平面上に、n(n=1、2、3、…)番目の検出サイクルごとに検出位置P_nと、検出サイクルごとの予測領域A_nを示す。
【0035】
位置予測手段14dは、同一の目標物体の第1検出サイクルでの検出位置P_1(x1,y1)から第2検出サイクル検出位置P_2(x2,y2)への軌跡を、位置P1、P2のX座標の差分値Δx12、Y座標の差分地Δy12の分延長し、その終点の位置を第3検出サイクルでの位置fP_3(x3´,y3´)として予測する。なお、ここでは、検出位置を黒丸で示し、予測される位置を白丸で示す。そして、予測されたX座標「x3´」の許容範囲±xRと、予測されたY座標「y3´」の許容範囲±yRを予測領域A_3とする(ハッチングで図示)。ここで、許容範囲xR、yRは任意に設定可能な正の数とする。
【0036】
そして、第3検出サイクルでの検出位置がP3(x3,y3)のとき、そのX、Y座標が予測領域A_3内にあれば、位置P_3(x3,y3)を第3検出サイクルでの検出位置として確定する。
【0037】
同様にして、レーダ装置は、第2検出サイクルでの検出位置P_2(x2,y2)と第3検出サイクルでの検出位置P_3(x3,y3)から、X座標差分値Δx23、Y座標差分値Δy23を求め、これらに基づき第4走査での位置fP_4(x4´,y4´)を予測する。そして、第4走査での検出位置P_4(x4,y4)のX、Y座標座標が予測領域A_4内にあれば、位置P_4(x4,y4)を第4走査での検出位置として確定する。そして、以降、同様の処理を繰り返す。
【0038】
このように、本実施形態では、前々回の検出位置と前回の検出位置のY座標の差分値に基づき新規の位置のY座標を予測するだけでなく、X座標の差分値に基づき新規の位置のX座標を予測する。そして、予測したX座標とY座標について、予測領域を設定し、新規に検出した位置のX、Y座標が、予測領域内にあるときに、検出位置を確定する。そうすることで、車両の前側方の走査領域を走査する場合に、走査領域を横切るような軌跡で移動する目標物体、換言すると、X座標の差分値が大きい目標物体の位置の予測を正確に行うことができる。すなわち、検出サイクルごとに検出位置が予測領域内にある確率が高くなるので、位置検出精度が向上する。
【0039】
また、仮に検出位置が予測領域から外れ、予測した位置(予測位置)を検出位置として推定する推定処理を行う場合であっても、走査領域をX軸方向に横切るような軌跡となる。よって、実際は走査領域を横切る目標物体が自車両に接近するように誤検出されることがなくなる。よって、誤検出に起因する車両の誤制御を防止することができる。
【0040】
また、本実施形態では、目標物体の1検出サイクルあたりのX、Y座標それぞれの差分値の大きさを目標物体の位置のX軸方向、Y軸方向それぞれにおける移動速度として用い、自車両が加減速したときにX軸方向、Y軸方向の移動速度が有る程度以上増減する目標物体は、路側の設置物など制御対象とならない静止物と判定する静止物判定処理を行う。これは、静止物は自ら移動しないので、その移動速度の変化と自車両の速度変化は一定の相関関係を有することによる。
【0041】
具体的な判定方法としては、X軸方向、Y軸方向の移動速度の変化量に対し基準値を設定し、いずれかの変化量(または両方の変化量としてもよい)が基準値以上のときに、その目標物体を静止物と判定することが可能である。なお、この場合の基準値は、自車両の速度変化に起因して目標物体の移動速度が変化したとみなされるような任意の値が用いられる。例えば、基準値は一律の固定値であってもよいし、自車両の速度変化に対応して動的に変化する値、例えば自車両の速度変化が大きいほど大きくなる値であってもよい。あるいは、反対に、基準値を極めて小さい値とすることで、変化量が少しでも生じた場合に静止物と判定してもよい。
【0042】
さらに、基準値は、X軸方向、Y軸方向ごとに異なる値であってもよいし、同じ値であってもよい。なお、X軸方向、Y軸方向ごとに異なる値とするときには、車両の前方の走査領域を走査する場合と比べ車両の前側方の走査領域を走査する場合にはX座標の差分値が相対的に大きく、したがってX軸方向の移動速度が相対的に大きいことを考慮し、X軸方向の基準値をY軸方向の基準値より大きい値としてもよい。
【0043】
静止物判定手段14fは、このようにして静止物を判定することで、本来は自ら向かってくるような動きをしない静止物を制御対象から除外できる。よって、車両制御装置100へ出力する検出結果を選別する処理が効率化できる。特に、多数の目標物体が検出される場合にスループットを向上させることができる。
【0044】
さらに、静止物判定処理の精度を向上させるために、次のような手順としてもよい。すなわち、静止物判定手段14fは、X、Y座標の差分値からXY座標平面上における目標物体の1検出サイクルあたりの移動量(例えば図7(A)における位置P_1からP_2までの移動量)を求める。そして、この目標物体の移動量を移動速度として用い、移動速度の変化量(例えば、位置P_1からP_2までの移動量と、位置P_2からP_3までの移動量との変化量)を求める。そして、このようにして求めたXY座標平面上における移動速度の変化量が自車速の変化量と一定の誤差範囲内で一致する目標物体を静止物と判定し、それ以外を移動物と判定する。これは、路側の設置物などの静止物は相対的に自車両の進路と平行して移動するように観測されることから、その移動方向における移動速度の変化量は自車速の変化量と一致することによる。
【0045】
さらに、上述した静止物判定処理のいずれかにおいて、直前の検出サイクルにおいて検出された移動速度と新規の検出サイクルにおいて検出された移動速度との差分を移動速度の変化量として検出してもよいし、過去複数回の検出サイクルにおいて検出された移動速度を時系列に記憶しておき、これに基づき移動速度の変化量を求めてもよい。例えば、過去複数回の移動速度の平均に対する乖離分を変化量として求めてもよいし、さらにその場合の平均として、新しい移動速度データに対し大きい重みをつけた加重平均を用いてもよい。
【0046】
ところで、特に目標物体が静止物の場合に、上述した位置の予測方法では前々回から前回の検出サイクルにおけるX座標、Y座標それぞれの差分値に基づき予測領域を求めるので、自車両が加減速することでXY座標平面上における移動量が変化するときには目標物体の検出位置が予測領域から外れる可能性が大きくなる。すると、その目標物体の移動速度の変化量を検出する機会が失われ、静止物と判定することができなくなる。
【0047】
そこで、本実施の形態では、位置予測手段14dは、自車両が加減速したときには目標物体の予測位置を補正することで、検出位置が予測領域内に収まるようにする。そうすることで、静止物の位置を精度良く検出できる。そうすることで、静止物の判定を行うことができ、静止物を制御対象から除外することができる。
【0048】
ここで、図7(B)を用いて、かかる予測位置の補正について説明する。例えば、目標物体の位置が位置P_1からP_4まで移動するときに自車両が加減速したときには、位置P_1(x1,y1)から位置P_2(x2,y2)までのX、Y座標の差分値Δx12(=x2-x1)、Δy12(=y2-y1)と、位置P_2(x2,y2)から位置P_3(x3,y3)までのX、Y座標の差分値Δx23(=x3-x2)、Δy23(=y3-y2)から、X座標差分値の変化量Δxd(=Δx12−Δx23)、Y座標差分値の変化量Δyd(=Δy12−Δy 23)を求める。そして、X座標差分値Δxd、Y座標差分値Δydがそれぞれ基準量(自車速の加減速により目標物体の移動速度に変化量が生じたとみなしうる任意に設定される値)以上のときには、位置fP_4(x4´,y4´)を次のように予測する。
【0049】
x4´=x3+Δx23+Δxd
y4´=y3+Δy23+Δyd
位置予測手段14dは、上記のような処理を、検出サイクルごとに実行することで、自車速の加減速にともない移動速度が変化する静止物を確実に検出でき、さらに静止物と判定することで、制御対象から除外できる。そうすることで、車両1の車両制御装置100の処理負荷を軽減できる。
【0050】
さらに、本実施形態の変形例としては、位置予測手段14dは、自車両が旋回するときに、予測位置を補正する。図8に、車両1が直進するときと左に旋回するときの静止物の位置の軌跡とX座標差分値を示すと、自車両1が左旋回するときには、静止物のX座標の差分値が大きくなるので、検出位置から予測位置までのX座標の差分値を通常より大きくすることで、予測をより正確に行うことができる。
【0051】
具体的には、位置予測手段14dは、ヨーレートの変化が一定値を超えて自車両1が旋回することを検出すると、次の式によりヨーレートと自車速から旋回半径を算出する。
【0052】
ω=V・T/C
なお、ここでは、ヨーレート:ω(ラジアン/秒)、ヨーレート検知周期:T(秒)、C:旋回半径(メートル)とする。
【0053】
そして、旋回半径に応じて、予測位置のX、Y座標を補正する。一例として、図9に示すようなマップにより求められる係数を上記のΔxdに乗算する補正が可能である。
【0054】
なお、レーダ装置10が車両1の左前側方の領域を走査する場合には、左右を逆転した上記手順が適用できる。
【0055】
図10は、上述の処理を行う位置予測手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。図6で示した手順S18のサブルーチンに対応する。
【0056】
位置予測手段14dは、前々回、前回の検出位置をRAMから読出し(S32)、X、Y座標差分値を算出する(S34)。
【0057】
そして、車速の変化量が基準値(車速が変化したとみなしうる任意に設定される値)以上のときであって(S36のYES)、さらに、X、Y座標の差分値の変化量が基準値以上のとき(S38のYES)には、X、Y座標の差分値の変化量に基づき位置を予測し(S40)、その予測位置をRAMに格納する(S42)。一方、車速の変化量が基準値未満のとき(S36のNO)、または、車速の変化量が基準値以上であってもX、Y座標の差分値の変化量が基準値未満のとき(S38のNO)には、X、Y座標の差分値に基づき位置を予測し(S44)、その予測位置をRAMに格納する(S42)。
【0058】
図11は、上述の処理を行う位置確定手段14eの動作手順を説明するフローチャート図である。図6で示した手順S20のサブルーチンに対応する。
【0059】
位置確定手段14eは、予測位置をRAMから読出して(S32)、所定の許容範囲をもたせた予測領域を算出する(S52)。
【0060】
そして、検出位置が予測領域内のときには(S54のYES)、検出位置を確定し(S56)、その検出位置をRAMに格納する(S58)。一方、検出位置が予測領域内でないときには(S54のNO)、予測位置を検出位置として推定し(S56)、その推定された検出位置をRAMに格納する(S58)。
【0061】
図12は、上述した処理を行う静止物判定手段14fの動作手順を示すフローチャート図である。図6で示した手順S22のサブルーチンの手順に対応する。静止物判定手段14fは、車速の変化量が基準値以上のときであって(S70のYES)、さらに、X、Y座標の差分値の変化量が基準値以上のとき(S72のYES)には、その目標物体を静止物と判定する(S74)。一方、車速の変化量が基準値未満のとき(S70のNO)、または、車速の変化量が基準値以上であってもX、Y座標の差分値の変化量が基準値未満のとき(S72のNO)にはその目標物体を移動物と判定する(S76)。
【0062】
上述の説明においては、車両の前側方の走査領域を走査するレーダ装置10の例を示したが、本実施形態は、車両の後側方(左右いずれも含む)の走査領域を走査するレーダ装置にも適用できる。この場合、移動物には後続車両や歩行者が対応し、静止物には路側設置物や駐車場などで後進するときの後方の設置物が対応する。そして、レーダ装置は、自車両が前進するときにこれに追従する後続車両や隣接車線を走行する車両、あるいは自車両が駐車場などで後進するときに後側方に位置する人物(歩行者)や設置物などを検出して、車両制御装置100に出力する。そして、車両制御装置100がこれら目標物体の追突や衝突の蓋然性が大きい場合に衝突対応・回避制御を実行する。
【0063】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、レーダ装置が車両の側方の領域を含む走査領域を走査するときに、前々回の検出位置と前回の検出位置のX座標とY座標の差分値に基づき新規の位置のX、Y座標を予測するので、X座標の差分値が大きい目標物体の位置の予測を正確に行うことができる。すなわち、検出サイクルごとに検出位置が予測領域内にある確率が高くなるので、位置検出精度が向上する。
【0064】
また、自車両が加減速したときには目標物体の予測位置を補正することで、検出位置が予測領域内に収まるようにする。そうすることで、静止物の位置を精度良く検出できる。よって、静止物の判定を行うことができ、静止物を制御対象から除外することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】前方監視用レーダ装置の検出サイクルごとの予測領域と検出される位置との関係を示す図である。
【図2】本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図3】レーダ装置10が検出する目標物体の位置について説明する図である。
【図4】本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。
【図5】レーダ装置10が適用される車両1の制御システムの構成例を示す図である。
【図6】信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図7】前側方監視用レーダ装置の検出サイクルごとの予測領域と検出される位置との関係を示す図である。
【図8】車両が旋回するときの静止物のX座標の差分値を示す図である。
【図9】旋回半径に応じてΔxdに乗算する係数の例を示す図である。
【図10】位置予測手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図11】位置確定手段14eの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図12】静止物判定手段14fの動作手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0066】
10:レーダ装置、14:信号処理装置、14c:位置検出手段、14d:位置予測手段、14e:位置確定手段、30:レーダ送受信機
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置及び信号処理方法に関し、特に、前記走査領域内の目標物体の位置を検出する信号処理装置、及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両前方を走行する先行車両の位置を車載レーダ装置により検出し、これに追従走行する車両制御システムが知られている。特許文献1には、追従走行制御のための車載用レーダ装置の例が記載されている。
【0003】
かかる車両制御システムにおけるレーダ装置は、走査領域の中心(レーダ軸)が自車両前方を向くように搭載され、自車両前方の走査領域を走査する。そして、レーダ装置は、レーダ軸をY軸、Y軸と直角方向、つまり自車両の左右方向をX軸とするXY座標平面上において、目標物体(先行車両)の位置座標を検出する。
【0004】
そして、レーダ装置は、前々回、前回の検出サイクルで検出された目標物体のY座標の差分値から、新規の検出サイクルにおける目標物体のY座標を予測する。そして、自車両を中心とする車線幅相当のX座標範囲と、予測されたY座標に対する所定の許容範囲内を予測領域として、新規の検出サイクルで検出された位置(検出位置)が予測領域内にあるときに、その位置を検出位置として確定する。そうすることで、検出サイクルごとの検出結果の正確性を担保する。これは、追従走行制御において制御対象となる目標物体の位置は、そのX座標が車線幅に相当する範囲内にある状態でY軸に沿った方向に移動することによる。
【0005】
検出サイクルごとの予測領域と検出される位置との関係を図示すると、図1(A)のようになる。図1(A)は、車両1に搭載された前方監視用レーダ装置の走査領域を示す平面図であり、レーダ装置を原点OとするXY座標平面上に、n(n=1、2、3、…)番目の検出サイクルごとの検出位置P(n)と、予測領域A(n)(ハッチングにより図示)を示す。
【0006】
ここでは、目標物体が徐々に接近する場合を例として、各検出サイクルにおける予測領域A(n)がY軸方向に沿った車線幅内の領域(予測対象領域)において設定されることが示される。そして、検出位置P(n)が予測領域A(n)内にあるときに、その位置P(n)が確定される。
【特許文献1】特開2001−319299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では、車両の追従走行制御に加えて、他の車両との衝突を回避する衝突回避制御や、衝突の際に乗員を保護する衝突対応制御のための物体認識手段としてレーダ装置が用いられる。かかる衝突回避制御、衝突対応制御では、制御対象となる目標物体は対向車両や出会い頭に出くわす他車両(以下、出会い頭車両)であるので、これらの目標物体を検出しやすいように、レーダ装置は車両の前側部に設置され、レーダ軸が車両の前側方(例えば前方を0度としたときに側方45度方向)に向けられる。
【0008】
かかる前側方監視用レーダ装置が検出する目標物体の位置を、図1(B)に示す。図1(B)は、前側方監視用レーダ装置の走査領域を示す平面図である。図1(B)では、Y軸を車両1の前方45度に合わせ、レーダ装置を原点OとするXY座標平面が示される。
【0009】
ここでは、対向車両や出会い頭車両の位置は、走査領域を横切るような軌跡で移動することが示される。すなわち、これらの位置は、検出サイクルごとのX座標差分値が大きい。すると、図1(A)に示したような予測対象領域で予測領域を設定したのでは、目標物体の検出位置が予測領域を外れることによりその位置が確定できなくなる蓋然性が大きい。
【0010】
位置が確定できない場合には、予測領域内に検出位置を推定する推定処理が可能であるが、そのとき推定された位置はY座標の差分値に基づき予測対象領域内に設定されるので、目標物体の位置が予測対象領域内でY軸に沿った方向に移動する。よって、本来はすれ違う動きをする対向車や、前方を横切る他の車両の位置が、点線の矢印で示すようにY軸に沿って接近するように誤認識されるおそれがある。
【0011】
さらに、前側方監視用レーダ装置の場合、自車両が道路に沿って走行することで、路側の設置物(以下、静止物)の検出位置が走査領域を横切るように移動する頻度が高くなる。かかる静止物は、本来自車両に向かって動くものではないので、衝突回避動作や衝突対応動作の制御対象から除外することが好ましい。しかし、上記のような位置の予測を行うことにより、かかる静止物の位置が予測領域を外れ、推定処理によって点線で示すように自車両に接近するように誤認識されるおそれがある。
【0012】
このようにして対向車両や他車両、あるいは静止物の位置の誤認識が生じると、本来は接近する目標物体が存在しないにもかかわらず衝突回避動作や衝突対応動作を行うなど、車両の誤制御につながるおそれが生じる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、車両の前側方監視用レーダ装置における目標物体の位置を精度よく検出し、衝突回避動作や衝突対応動作の誤作動を生じさせない信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記車両の前側方をY軸、前記Y軸と交差する方向をX軸としたときに前記走査領域における目標物体の位置のX、Y座標を検出する位置検出手段と、過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測する位置予測手段と、前記検出された位置のX、Y座標が前記予測された予測位置のX、Y座標それぞれの許容範囲に含まれるときに、当該検出された位置を確定する位置確定手段とを有する信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記側面によれば、位置予測手段は過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測するので、X座標の差分値が大きい目標物体の位置の予測を正確に行うことができる。よって、検出位置が予測領域内にある確率が高くなり、位置検出精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0017】
図2は、本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。レーダ装置10は、車両1の前側部、例えば前部バンパー内フォグランプ近傍に設置される。そして、レーダ装置10は、車両1の前側方、つまり前方(0度)に対し側方45度方向にレーダ軸を合わせて、レーダ軸を中心とする走査領域にレーダ信号(電磁波)を送信して走査領域からの反射信号を受信し、受信信号を処理して目標物体の位置を検出する。そして、検出結果に基づいて、マイクロコンピュータ等で構成される車両制御装置100が、対向車両や出会い頭車両との衝突を回避したり、衝突を予測して乗員を保護したりするように車両1の各種アクチュエータを制御する。なお、図示するような右前側方だけでなく、左前側方にレーダ装置を設置することも可能である。そして、いずれの場合においても、本図に示す車両1に対するレーダ軸の角度は一例であり、前方0度から側方90度までの範囲で設定可能である。
【0018】
図3は、本実施形態においてレーダ装置10が検出する目標物体の位置について説明する図である。レーダ装置10は、レーダ軸方向をY軸、その直角方向をX軸、レーダ装置10を原点OとするXY座標平面において、目標物体の位置としてXY座標を検出する。このとき、レーダ装置は、後述する手順によりY軸を0度としたときの目標物体の方位角θ、目標物体の相対距離Rとを求め、方位角θと相対距離Rから、X座標:x=R・sinθ、Y座標:y=R・cosθを算出する。
【0019】
図4は、本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。レーダ装置全体の構成を示す図4(A)において、レーダ装置10は、一例としてFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式のレーダ装置であり、周波数変調を施したミリ波長の連続波(電磁波)を送信信号として送信してその反射信号を受信し、送受信信号の周波数差に対応する周波数のビート信号を生成するレーダ送受信機30と、レーダ送受信機30が生成するビート信号を処理する信号処理装置14とを有する。
【0020】
レーダ送受信機30は、三角波で周波数変調された送信信号を走査領域に向け送信し、送信信号の反射信号を受信する。そして、送受信信号を混合して、送受信信号の周波数差に対応するビート周波数のビート信号を生成すると、ビート信号をA/D変換してそのデジタルデータを信号処理装置14に出力する。
【0021】
ここで、図4(B)に、メカニカルスキャン方式の場合のレーダ送受信機30の構成を示す。レーダ送受信機30では、周波数変調指示部16が三角波状の周波数変調信号を生成すると、電圧制御発振器(VCO)18が、周波数変調指示部16が生成する信号に従って三角波の上昇区間で周波数が直線的に上昇し、三角波の下降区間で周波数が直線的に下降する送信信号を出力する。この送信信号は分配器20により電力分配され、その一部が送信アンテナ11から送出される。そして、反射信号が受信用アンテナ12により受信され、受信信号がミキサ22に入力される。ミキサ22は、電力分配された送信信号の一部と受信信号とを混合し、両者の周波数差に対応する周波数のビート信号を生成する。そして、ビート信号は、AD変換器によりデジタルデータ化され、信号処理装置14に出力される。
【0022】
また、レーダ送受信機30は、送信アンテナ11と受信アンテナ12を備えたアンテナ部11aを往復回動させる機構と、アンテナ部11aの回動角度を検出するエンコーダとを備えた回動部26を有する。回動部26のエンコーダからはアンテナ部11aの回動角度を示す角度信号が信号処理装置14に出力される。信号処理装置14は、角度信号に基づき受信信号を受信したときのアンテナ部11aの角度を検出し、目標物体の方位角を検出する。また、この場合、信号処理装置14は、アンテナ部11が走査領域に対応する角度範囲を片側に1回動して走査領域を1回走査する期間を1検出サイクルとして目標物体の検出を行う。
【0023】
次に、図4(C)に、電子スキャン方式の場合のレーダ送受信機30の構成を示す。レーダ送受信機30は、反射信号を受信する複数の受信用アンテナ12_1、12_2、…を所定間隔離間して備え、受信用アンテナ12_1、12_2、…による受信信号を時分割でミキサ22に入力するスイッチ回路28とを有する。ミキサ22は受信用アンテナ12_1、12_2、…それぞれを送信信号と混合して、ビート信号を生成する。
【0024】
この場合、信号処理装置14は、アンテナ間の受信信号の位相差を制御することでアンテナ全体としての指向性を変化させる。そして、受信信号の利得が最大となるときの指向性を求めることにより、その指向性に対応する目標物体の方位角を検出する。あるいは、電子スキャン式の一形態である位相モノパルス方式では、信号処理装置14は、アンテナ間の受信位相差から受信信号の到来方向である目標物体の方位角を直接的に検出する。こうした電子スキャン方式では、信号処理装置14は、送信信号の周波数上昇期間と周波数下降期間を1検出サイクルとして目標物体の検出処理を行う。
【0025】
図4(A)に戻り、信号処理装置14の構成について説明する。信号処理装置14は、デジタルデータ化されたビート信号に対しFFT(高速フーリエ変換)処理を実行するDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置と、ビート信号の周波数スペクトルを処理して目標物体の位置等をするマイクロコンピュータを有する。このマイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する。
【0026】
よって、ビート信号の周波数を解析して目標物体の相対距離、相対速度を検出する距離・速度検出手段14a、上記のメカニカルスキャン方式または電子スキャン方式により目標物体の方位角を検出する方位角検出手段14b、目標物体の相対距離と方位角からXY座標平面上の位置を求める位置検出手段14c、過去の検出サイクルで検出された目標物体の位置から新規検出サイクルでの目標物体の位置を予測する位置予測手段14d、検出した位置が予測した位置の許容範囲内にあるときに検出した位置を確定する位置確定手段14e、目標物体が静止物であるか否かを判定する静止物判定手段14fは、各処理手順を定めたプログラムと、これを実行するCPUにより構成される。
【0027】
また、信号処理装置14には、車両1の車速センサから車両1の速度を示す車速信号が入力される。さらに、信号処理装置14には、車両1のヨーレートセンサから車両のヨーレートを示すヨーレート信号が入力される。位置予測手段14dは、車速信号から車速を検出し、またヨーレート信号と車速から旋回半径を検出して、後述する位置予測に用いる。
【0028】
ここで、図5にレーダ装置10が適用される車両1の制御システムの構成例を示すと、上述した静止物判定手段14fは、図5(A)の構成例のようにレーダ装置10の信号処理装置14がこれを有してもよい。このとき、レーダ装置10の信号処理装置14が本実施形態における「信号処理装置」に対応する。あるいは、図5(B)の構成例のように車両1の車両制御装置100がこれを有してもよい。このとき、レーダ装置10の信号処理装置14と車両側の制御装置100とが本実施形態における「信号処理装置」に対応する。
【0029】
図6は、信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。図6に示す手順は、1検出サイクルごとに実行される。
【0030】
まず、信号処理装置14は、送信信号の周波数上昇期間、周波数下降期間ごとにビート信号をFFT処理してその周波数スペクトルを検出する(S10)。そして、距離・速度検出手段14aは、周波数上昇期間、周波数下降期間で極大値を形成するピーク信号同士を互いにペアリング(対応付け)して、それぞれの周波数を用いて目標物体の相対距離、相対速度を算出する(S12)。また、方位角検出手段14bは、各ペアリング結果について目標物体の方位角を算出する(S14)。
【0031】
そして、位置検出手段14cが、目標物体の方位角、相対距離から目標物体の位置を算出する(S16)。算出された位置は、信号処理装置14内のRAMに格納される。そして、位置予測手段14dが、RAMに格納された過去の検出サイクルでの検出位置から、新規の検出サイクルでの位置を予測する(S18)。すると、位置確定手段14eは、予測された位置の許容範囲(予測領域)内に新規の検出サイクルでの検出位置が含まれることを確認し、その位置を検出結果として確定する(S20)。
【0032】
また、静止物判定手段14fは、目標物体のうち、静止物を判定して、出力対象から除外する(S22)。そして、信号処理装置14は、検出した位置が確定した検出サイクルの回数が所定回数に達した目標物体について、その位置、相対速度などを車両1の制御に用いるデータとして車両1の車両制御装置100あるいは車両制御装置100の他のモジュールに出力する(S24)。
【0033】
次に、本実施形態における位置の予測方法と確定方法について説明する。
【0034】
図7(A)は、レーダ装置10の走査領域を示す平面図であり、レーダ装置を原点OとするXY座標平面上に、n(n=1、2、3、…)番目の検出サイクルごとに検出位置P_nと、検出サイクルごとの予測領域A_nを示す。
【0035】
位置予測手段14dは、同一の目標物体の第1検出サイクルでの検出位置P_1(x1,y1)から第2検出サイクル検出位置P_2(x2,y2)への軌跡を、位置P1、P2のX座標の差分値Δx12、Y座標の差分地Δy12の分延長し、その終点の位置を第3検出サイクルでの位置fP_3(x3´,y3´)として予測する。なお、ここでは、検出位置を黒丸で示し、予測される位置を白丸で示す。そして、予測されたX座標「x3´」の許容範囲±xRと、予測されたY座標「y3´」の許容範囲±yRを予測領域A_3とする(ハッチングで図示)。ここで、許容範囲xR、yRは任意に設定可能な正の数とする。
【0036】
そして、第3検出サイクルでの検出位置がP3(x3,y3)のとき、そのX、Y座標が予測領域A_3内にあれば、位置P_3(x3,y3)を第3検出サイクルでの検出位置として確定する。
【0037】
同様にして、レーダ装置は、第2検出サイクルでの検出位置P_2(x2,y2)と第3検出サイクルでの検出位置P_3(x3,y3)から、X座標差分値Δx23、Y座標差分値Δy23を求め、これらに基づき第4走査での位置fP_4(x4´,y4´)を予測する。そして、第4走査での検出位置P_4(x4,y4)のX、Y座標座標が予測領域A_4内にあれば、位置P_4(x4,y4)を第4走査での検出位置として確定する。そして、以降、同様の処理を繰り返す。
【0038】
このように、本実施形態では、前々回の検出位置と前回の検出位置のY座標の差分値に基づき新規の位置のY座標を予測するだけでなく、X座標の差分値に基づき新規の位置のX座標を予測する。そして、予測したX座標とY座標について、予測領域を設定し、新規に検出した位置のX、Y座標が、予測領域内にあるときに、検出位置を確定する。そうすることで、車両の前側方の走査領域を走査する場合に、走査領域を横切るような軌跡で移動する目標物体、換言すると、X座標の差分値が大きい目標物体の位置の予測を正確に行うことができる。すなわち、検出サイクルごとに検出位置が予測領域内にある確率が高くなるので、位置検出精度が向上する。
【0039】
また、仮に検出位置が予測領域から外れ、予測した位置(予測位置)を検出位置として推定する推定処理を行う場合であっても、走査領域をX軸方向に横切るような軌跡となる。よって、実際は走査領域を横切る目標物体が自車両に接近するように誤検出されることがなくなる。よって、誤検出に起因する車両の誤制御を防止することができる。
【0040】
また、本実施形態では、目標物体の1検出サイクルあたりのX、Y座標それぞれの差分値の大きさを目標物体の位置のX軸方向、Y軸方向それぞれにおける移動速度として用い、自車両が加減速したときにX軸方向、Y軸方向の移動速度が有る程度以上増減する目標物体は、路側の設置物など制御対象とならない静止物と判定する静止物判定処理を行う。これは、静止物は自ら移動しないので、その移動速度の変化と自車両の速度変化は一定の相関関係を有することによる。
【0041】
具体的な判定方法としては、X軸方向、Y軸方向の移動速度の変化量に対し基準値を設定し、いずれかの変化量(または両方の変化量としてもよい)が基準値以上のときに、その目標物体を静止物と判定することが可能である。なお、この場合の基準値は、自車両の速度変化に起因して目標物体の移動速度が変化したとみなされるような任意の値が用いられる。例えば、基準値は一律の固定値であってもよいし、自車両の速度変化に対応して動的に変化する値、例えば自車両の速度変化が大きいほど大きくなる値であってもよい。あるいは、反対に、基準値を極めて小さい値とすることで、変化量が少しでも生じた場合に静止物と判定してもよい。
【0042】
さらに、基準値は、X軸方向、Y軸方向ごとに異なる値であってもよいし、同じ値であってもよい。なお、X軸方向、Y軸方向ごとに異なる値とするときには、車両の前方の走査領域を走査する場合と比べ車両の前側方の走査領域を走査する場合にはX座標の差分値が相対的に大きく、したがってX軸方向の移動速度が相対的に大きいことを考慮し、X軸方向の基準値をY軸方向の基準値より大きい値としてもよい。
【0043】
静止物判定手段14fは、このようにして静止物を判定することで、本来は自ら向かってくるような動きをしない静止物を制御対象から除外できる。よって、車両制御装置100へ出力する検出結果を選別する処理が効率化できる。特に、多数の目標物体が検出される場合にスループットを向上させることができる。
【0044】
さらに、静止物判定処理の精度を向上させるために、次のような手順としてもよい。すなわち、静止物判定手段14fは、X、Y座標の差分値からXY座標平面上における目標物体の1検出サイクルあたりの移動量(例えば図7(A)における位置P_1からP_2までの移動量)を求める。そして、この目標物体の移動量を移動速度として用い、移動速度の変化量(例えば、位置P_1からP_2までの移動量と、位置P_2からP_3までの移動量との変化量)を求める。そして、このようにして求めたXY座標平面上における移動速度の変化量が自車速の変化量と一定の誤差範囲内で一致する目標物体を静止物と判定し、それ以外を移動物と判定する。これは、路側の設置物などの静止物は相対的に自車両の進路と平行して移動するように観測されることから、その移動方向における移動速度の変化量は自車速の変化量と一致することによる。
【0045】
さらに、上述した静止物判定処理のいずれかにおいて、直前の検出サイクルにおいて検出された移動速度と新規の検出サイクルにおいて検出された移動速度との差分を移動速度の変化量として検出してもよいし、過去複数回の検出サイクルにおいて検出された移動速度を時系列に記憶しておき、これに基づき移動速度の変化量を求めてもよい。例えば、過去複数回の移動速度の平均に対する乖離分を変化量として求めてもよいし、さらにその場合の平均として、新しい移動速度データに対し大きい重みをつけた加重平均を用いてもよい。
【0046】
ところで、特に目標物体が静止物の場合に、上述した位置の予測方法では前々回から前回の検出サイクルにおけるX座標、Y座標それぞれの差分値に基づき予測領域を求めるので、自車両が加減速することでXY座標平面上における移動量が変化するときには目標物体の検出位置が予測領域から外れる可能性が大きくなる。すると、その目標物体の移動速度の変化量を検出する機会が失われ、静止物と判定することができなくなる。
【0047】
そこで、本実施の形態では、位置予測手段14dは、自車両が加減速したときには目標物体の予測位置を補正することで、検出位置が予測領域内に収まるようにする。そうすることで、静止物の位置を精度良く検出できる。そうすることで、静止物の判定を行うことができ、静止物を制御対象から除外することができる。
【0048】
ここで、図7(B)を用いて、かかる予測位置の補正について説明する。例えば、目標物体の位置が位置P_1からP_4まで移動するときに自車両が加減速したときには、位置P_1(x1,y1)から位置P_2(x2,y2)までのX、Y座標の差分値Δx12(=x2-x1)、Δy12(=y2-y1)と、位置P_2(x2,y2)から位置P_3(x3,y3)までのX、Y座標の差分値Δx23(=x3-x2)、Δy23(=y3-y2)から、X座標差分値の変化量Δxd(=Δx12−Δx23)、Y座標差分値の変化量Δyd(=Δy12−Δy 23)を求める。そして、X座標差分値Δxd、Y座標差分値Δydがそれぞれ基準量(自車速の加減速により目標物体の移動速度に変化量が生じたとみなしうる任意に設定される値)以上のときには、位置fP_4(x4´,y4´)を次のように予測する。
【0049】
x4´=x3+Δx23+Δxd
y4´=y3+Δy23+Δyd
位置予測手段14dは、上記のような処理を、検出サイクルごとに実行することで、自車速の加減速にともない移動速度が変化する静止物を確実に検出でき、さらに静止物と判定することで、制御対象から除外できる。そうすることで、車両1の車両制御装置100の処理負荷を軽減できる。
【0050】
さらに、本実施形態の変形例としては、位置予測手段14dは、自車両が旋回するときに、予測位置を補正する。図8に、車両1が直進するときと左に旋回するときの静止物の位置の軌跡とX座標差分値を示すと、自車両1が左旋回するときには、静止物のX座標の差分値が大きくなるので、検出位置から予測位置までのX座標の差分値を通常より大きくすることで、予測をより正確に行うことができる。
【0051】
具体的には、位置予測手段14dは、ヨーレートの変化が一定値を超えて自車両1が旋回することを検出すると、次の式によりヨーレートと自車速から旋回半径を算出する。
【0052】
ω=V・T/C
なお、ここでは、ヨーレート:ω(ラジアン/秒)、ヨーレート検知周期:T(秒)、C:旋回半径(メートル)とする。
【0053】
そして、旋回半径に応じて、予測位置のX、Y座標を補正する。一例として、図9に示すようなマップにより求められる係数を上記のΔxdに乗算する補正が可能である。
【0054】
なお、レーダ装置10が車両1の左前側方の領域を走査する場合には、左右を逆転した上記手順が適用できる。
【0055】
図10は、上述の処理を行う位置予測手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。図6で示した手順S18のサブルーチンに対応する。
【0056】
位置予測手段14dは、前々回、前回の検出位置をRAMから読出し(S32)、X、Y座標差分値を算出する(S34)。
【0057】
そして、車速の変化量が基準値(車速が変化したとみなしうる任意に設定される値)以上のときであって(S36のYES)、さらに、X、Y座標の差分値の変化量が基準値以上のとき(S38のYES)には、X、Y座標の差分値の変化量に基づき位置を予測し(S40)、その予測位置をRAMに格納する(S42)。一方、車速の変化量が基準値未満のとき(S36のNO)、または、車速の変化量が基準値以上であってもX、Y座標の差分値の変化量が基準値未満のとき(S38のNO)には、X、Y座標の差分値に基づき位置を予測し(S44)、その予測位置をRAMに格納する(S42)。
【0058】
図11は、上述の処理を行う位置確定手段14eの動作手順を説明するフローチャート図である。図6で示した手順S20のサブルーチンに対応する。
【0059】
位置確定手段14eは、予測位置をRAMから読出して(S32)、所定の許容範囲をもたせた予測領域を算出する(S52)。
【0060】
そして、検出位置が予測領域内のときには(S54のYES)、検出位置を確定し(S56)、その検出位置をRAMに格納する(S58)。一方、検出位置が予測領域内でないときには(S54のNO)、予測位置を検出位置として推定し(S56)、その推定された検出位置をRAMに格納する(S58)。
【0061】
図12は、上述した処理を行う静止物判定手段14fの動作手順を示すフローチャート図である。図6で示した手順S22のサブルーチンの手順に対応する。静止物判定手段14fは、車速の変化量が基準値以上のときであって(S70のYES)、さらに、X、Y座標の差分値の変化量が基準値以上のとき(S72のYES)には、その目標物体を静止物と判定する(S74)。一方、車速の変化量が基準値未満のとき(S70のNO)、または、車速の変化量が基準値以上であってもX、Y座標の差分値の変化量が基準値未満のとき(S72のNO)にはその目標物体を移動物と判定する(S76)。
【0062】
上述の説明においては、車両の前側方の走査領域を走査するレーダ装置10の例を示したが、本実施形態は、車両の後側方(左右いずれも含む)の走査領域を走査するレーダ装置にも適用できる。この場合、移動物には後続車両や歩行者が対応し、静止物には路側設置物や駐車場などで後進するときの後方の設置物が対応する。そして、レーダ装置は、自車両が前進するときにこれに追従する後続車両や隣接車線を走行する車両、あるいは自車両が駐車場などで後進するときに後側方に位置する人物(歩行者)や設置物などを検出して、車両制御装置100に出力する。そして、車両制御装置100がこれら目標物体の追突や衝突の蓋然性が大きい場合に衝突対応・回避制御を実行する。
【0063】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、レーダ装置が車両の側方の領域を含む走査領域を走査するときに、前々回の検出位置と前回の検出位置のX座標とY座標の差分値に基づき新規の位置のX、Y座標を予測するので、X座標の差分値が大きい目標物体の位置の予測を正確に行うことができる。すなわち、検出サイクルごとに検出位置が予測領域内にある確率が高くなるので、位置検出精度が向上する。
【0064】
また、自車両が加減速したときには目標物体の予測位置を補正することで、検出位置が予測領域内に収まるようにする。そうすることで、静止物の位置を精度良く検出できる。よって、静止物の判定を行うことができ、静止物を制御対象から除外することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】前方監視用レーダ装置の検出サイクルごとの予測領域と検出される位置との関係を示す図である。
【図2】本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図3】レーダ装置10が検出する目標物体の位置について説明する図である。
【図4】本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。
【図5】レーダ装置10が適用される車両1の制御システムの構成例を示す図である。
【図6】信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図7】前側方監視用レーダ装置の検出サイクルごとの予測領域と検出される位置との関係を示す図である。
【図8】車両が旋回するときの静止物のX座標の差分値を示す図である。
【図9】旋回半径に応じてΔxdに乗算する係数の例を示す図である。
【図10】位置予測手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図11】位置確定手段14eの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図12】静止物判定手段14fの動作手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0066】
10:レーダ装置、14:信号処理装置、14c:位置検出手段、14d:位置予測手段、14e:位置確定手段、30:レーダ送受信機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記車両の前側方をY軸、前記Y軸と交差する方向をX軸としたときに前記走査領域における目標物体の位置のX、Y座標を検出する位置検出手段と、
過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測する位置予測手段と、
前記検出された位置のX、Y座標が前記予測された予測位置のX、Y座標それぞれの許容範囲に含まれるときに、当該検出された位置を確定する位置確定手段とを有する信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記位置予測手段は、前記車両の速度が変化するときには、前記X座標差分値とY座標差分値の変化量に基づき、当該目標物体の位置を予測することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記車両の速度が変化するときに、前記目標物体の前記X座標差分値とY座標差分値のいずれかまたは両方が前記車両の速度の変化量に対応する基準値以上変化するときには当該目標物体を静止物と判定する静止物体判定手段をさらに有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記位置予測手段は、前記車両の旋回半径に基づいて前記予測位置を補正することを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。
【請求項1】
車両に搭載されるとともに前記車両の側方の領域を含む走査領域を走査するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記車両の前側方をY軸、前記Y軸と交差する方向をX軸としたときに前記走査領域における目標物体の位置のX、Y座標を検出する位置検出手段と、
過去の検出サイクルで検出された前記目標物体の位置の前記検出サイクルあたりのX座標差分値とY座標差分値とに基づき、当該目標物体の位置のX、Y座標を予測する位置予測手段と、
前記検出された位置のX、Y座標が前記予測された予測位置のX、Y座標それぞれの許容範囲に含まれるときに、当該検出された位置を確定する位置確定手段とを有する信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記位置予測手段は、前記車両の速度が変化するときには、前記X座標差分値とY座標差分値の変化量に基づき、当該目標物体の位置を予測することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記車両の速度が変化するときに、前記目標物体の前記X座標差分値とY座標差分値のいずれかまたは両方が前記車両の速度の変化量に対応する基準値以上変化するときには当該目標物体を静止物と判定する静止物体判定手段をさらに有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記位置予測手段は、前記車両の旋回半径に基づいて前記予測位置を補正することを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−38706(P2010−38706A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201387(P2008−201387)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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