説明

光ファイバケーブル、光伝送方法、及び分光分析システム

【課題】光ファイバから漏れた紫外光による不所望なガスの発生を抑制し、これにより、光学系の汚損を低減させるための技術を提供する。
【解決手段】本発明による光ファイバケーブル10は、波長が155nm以上400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバ1の束と、複数の光ファイバ1の端が挿入されている挿入孔4、7を有するキャピラリ2、3とを具備する。キャピラリ2、3は金属で形成されている。キャピラリ2、3の挿入孔4、7には、その内側方向に突出する突出部6、9が形成されている。この突出部6、9は、複数の光ファイバ1の束の側面に沿った曲面形状を挿入孔4、7に与えるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブル、光伝送方法、及び分光分析システムに関しており、特に、紫外光を伝送するために使用される光ファイバケーブル及び光伝送方法、並びに、それらを用いる分光分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、紫外光を伝送するための光ファイバの開発が広く進められている。例えば、特開平5−147966号公報(特許文献1)は、水酸基(OH基)の含有量が10〜1000ppm、フッ素の含有量が50〜5000ppmであり、且つ、実質的に塩素を含有しない石英ガラスのコアを使用することにより、紫外領域の損失を低減する技術を開示している。特開2000−103629号公報(特許文献2)は、フッ素を1重量%程度含む石英ガラスのコアをコアに水素分子が1×1016/cm以上存在するようにする工程の後、該コアにエキシマレーザー光又はγ線を照射することによって製造した光ファイバが紫外領域の損失が小さいことを開示している。特開平9−309742号公報(特許文献3)は、水素分子の濃度が1×1016/cm以上であり、且つ、微量のフッ素を含む石英ガラスのコアと、フッ素及び/又はホウ素を含むクラッドと、クラッドを被覆する水素拡散防止層を備えた光ファイバを開示している。特開平1−126602号公報(特許文献4)は、コアが石英ガラスで形成され、クラッドが主鎖に環構造を有する含フッ素ポリマーで形成された光ファイバを開示している。
【0003】
このような光ファイバを光学系に使用するためには、光ファイバを所望の位置に位置決めして実装する必要がある。光ファイバの位置決めを行う最も一般的な方法は、光ファイバの先端部をキャピラリに挿入し、そのキャピラリをフランジやガイドパイプによって支持する方法である。
【0004】
図1Aは、光ファイバを位置決めする構造の一例を示している。図1Aの構造では、光ファイバ101の先端部がキャピラリ102に挿入されている。光ファイバ101とキャピラリ102との接合は、一般的に、それらの間に接着剤を充填することによって行われる。キャピラリ102は、フランジ103に挿入され、そのフランジ103が、光ファイバ101と光学的に結合されるべき光学系の部材に機械的に連結される。キャピラリ102とフランジ103とで構成される構造体は、しばしば、フェルール104と呼ばれる。このような構造により、光ファイバ101を適正な位置に位置することができる。図1Bに示されているように、フランジ103の代わりに、ガイドパイプ105が使用されることもある。
【0005】
キャピラリは、最も一般的にはジルコニア等のセラミックやプラスチックによって形成されているが、近年では、金属で形成されたキャピラリも実用化されている。金属で形成されたキャピラリは、例えば、特許第3308266号公報(特許文献5)に開示されている。この特許公報は、複数の光ファイバの束に挿入して使用される金属キャピラリの製造方法を開示している。
【0006】
発明者は、紫外光の光を伝送する技術の開発を進めた結果、一般的に使用される光ファイバのキャピラリへの実装方法が紫外光を伝送する光ファイバケーブルに適さないことを見出した。上述のように、一般的に使用される光ファイバのキャピラリへの実装方法では、光ファイバとキャピラリとの接合は、その間に接着剤を充填することによって行われる。しかし、光ファイバによって紫外光を伝送する場合、紫外光は、光ファイバに入射されるのみならず、光ファイバの周辺にも照射され、その光ファイバの周辺に照射された紫外光によってキャピラリの入射端面の近傍の接着剤が分解されてガスが発生する。更に、キャピラリがプラスチックで形成されている場合には、キャピラリ自体が入射された紫外光によって分解されてガスが発生する。加えて、光ファイバから紫外光が漏れることは避けがたいため、光ファイバから漏れた紫外光によっても接着剤が分解されてガスが発生する。接着剤やキャピラリからのガスの発生は、光ファイバケーブルに接続されている光学系を汚損するため好ましくない。
【特許文献1】特開平5−147966号公報
【特許文献2】特開2000−103629号公報
【特許文献3】特開平9−309742号公報
【特許文献4】特開平1−126602号公報
【特許文献5】特許第3308266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、入射された紫外光や光ファイバによる不所望なガスの発生を抑制し、これにより、光学系の汚損を低減させるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段を構成する技術的事項の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付加されている。但し、付加された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0009】
本発明による光ファイバケーブル(10)は、波長が155nm以上、400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバ(1)の束と、複数の光ファイバ(1)の端が挿入されている挿入孔(11、14)を有するキャピラリ(2、3)とを具備する。キャピラリ(2、3)は金属で形成されている。キャピラリ(2、3)の挿入孔(11、14)には、その内側方向に突出する突出部(12、15)が形成されている。この突出部(12、15)は、複数の光ファイバ(1)の束の側面に沿った曲面形状を挿入孔(11、14)に与えるように形成されている。
すなわち、本発明による光ファイバケーブル(10)は、波長が155nn以上、400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバ(1)の束と、複数の光ファイバ(1)の束を挿入する挿入孔(11、14)を有する金属製のキャピラリ(2、3)とを具備し、前記挿入孔(11、14)の横断面形状は、複数の光ファイバ(1)の束の横断面の外径形状に対応する形状となっている。
本発明による光ファイバケーブル(10)は、波長が155nn以上、400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバ(1)の束と、複数の光ファイバ(1)の束を挿入する挿入孔(11、14)を有する金属製のキャピラリ(2、3)とを具備し、光ファイバ(1)の横断面はほぼ円形断面を有し、前記挿入孔(11、14)の孔内面には複数本の当該複数の光ファイバ(1)の束によって形成される横断面の外側形状の凹状部に対応する突出部が形成されている。
【0010】
本発明の光ファイバケーブルは、挿入孔(11、14)に突出部(12、15)が形成されているため、複数の光ファイバ(1)とキャピラリ(2、3)との間の隙間を小さくすることができる。従って、光ファイバ(1)とキャピラリ(2、3)とを接着する接着剤の量を少なくする、理想的には、接着剤が使用されないようにすることができる。加えて、キャピラリ(2、3)が紫外光によって分解されない金属によって形成されている。したがって、本発明の光ファイバケーブルは、紫外光によって接着剤が分解されることによるガスの発生を抑制することができる。
【0011】
紫外線によるアブレーションにより、キャピラリ(2、3)表面から金属が離脱することを避けるためには、キャピラリ(2、3)は、300Kにおける熱伝導率が50W/(K・m)以上であり、且つ、融点が1300℃以上である材料で形成されていることが好適である。熱伝導率が大きく、融点が高い材料は、アブレーションを有効に抑制する。アブレーションを抑制するという観点からは、キャピラリ(2、3)は、実質的にタンタル又はタングステンから形成されることが好適である。また、アブレーションを抑制しながら、キャピラリ(2、3)を安価に製造可能にするためには、キャピラリ(2、3)が実質的にニッケルで形成されることが好適である。
【0012】
キャピラリ(2、3)に熱伝導率が小さく、融点が低い材料を使用する場合には、アブレーションを抑制する観点からは、キャピラリ(2、3)の端面の少なくとも前記挿入孔(11、14)の周辺の部分が、保護膜(18)で被覆されることが好適である。保護膜(18)は、熱伝導率と融点とのうちの少なくとも一方がキャピラリ(2、3)を構成する金属よりも高い材料で形成されることが好適であり、保護膜(18)が実質的にタンタル又はタングステンで形成されることは、最も好適である。
【0013】
接着剤から不所望なガスが発生することを防ぐためには、前記複数の光ファイバと前記キャピラリとの間の接合に接着剤が使用されないことが好適である。接着剤を使用しない複数の光ファイバ(1)とキャピラリ(2、3)との接合は、例えば、金属の接合材(9、19)によって接合することによって達成可能である。
【0014】
本発明による光伝送方法は、端部にキャピラリ(2、3)が挿入された複数の光ファイバ(1)の束に、波長が155nm以上400nm以下の光を伝送する方法であって、上記の光ファイバケーブルを使用する。本光伝送方法によれば、光ファイバから漏れた紫外光による不所望なガスの発生を抑制しながら、紫外光を伝送することができる。
【0015】
このような光ファイバケーブル(10)は、試料から放出された光の波長スペクトルを測定する分光分析システムに応用されることが特に好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ファイバから漏れた紫外光による不所望なガスの発生を抑制し、これにより、光学系の汚損を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図2A及び図2Bは、本発明の一実施形態の光ファイバケーブル10の構造を示す図である。図2Aに示されているように、本実施形態の光ファイバケーブル10は、7本の光ファイバ1と、キャピラリ2、3と、ガイドパイプ4、5とを備えている。光ファイバ1の束の一端はキャピラリ2に挿入され、他端はキャピラリ3に挿入されている。光ファイバ1の中間部分は、光ファイバジャケット6によって被覆されている。図2Aでは、キャピラリ2には3本の光ファイバ1のみ挿入されているように図示されているが、実際は7本が挿入されている。これは、図2Bに示されているように、光ファイバ1のキャピラリ2に挿入される端では光ファイバ1が一列に並べられていないためである。キャピラリ2、3は、それぞれ、ガイドパイプ4、5に挿入されている。キャピラリ2、3は、それぞれ、ガイドパイプ4、5によって所望の位置に位置決めされる。
【0018】
図3は、各光ファイバ1の構造を示す断面図である。各光ファイバ1は、波長が155〜400nmの紫外光を伝送可能であるように構成されている。ここで、本明細書では、「伝送可能」とは、1mあたりの損失が10dB以下であることを意味することに留意されたい。
【0019】
より具体的には、図3に示されているように、各光ファイバ1は、コア7と、コア7の周りを取り囲むクラッド8とを備えている。一実施形態では、コア7は、100〜1000ppmのフッ素を含有するシリカガラス(石英ガラス)で形成される。紫外光を照射することに起因する光ファイバ1の劣化を防止する観点から、コア7は、4〜7ppmの水酸基(OH基)を含むことが好ましい。一方、クラッド8は、1000〜20000ppmのフッ素を含有するシリカガラスで形成されている。このような構成の光ファイバ1は、紫外光を少ない損失で伝送するために好適である。
【0020】
クラッド8は、紫外光を透過するフッ素樹脂で形成されることも可能である。クラッド8に使用されるフッ素樹脂としては、特に、主鎖に脂肪族環構造を有するフッ素ポリマー、例えば、アモルファスパーフロロ樹脂(商品名:サイトップ(旭ガラス(株)社製)が好適である。
【0021】
図4Aは、キャピラリ2の構造を示す正面図である。キャピラリ2は、金属でできており、その中央部に、光ファイバ1が挿入される挿入孔11が設けられている。挿入孔11は、1本の光ファイバ1を他の6本の光ファイバ1が取り囲むような配置で7本の光ファイバ1を保持するような形状を有している。すなわち、挿入孔11の横断面形状は、複数の光ファイバ1の束の横断面の外径形状にほぼ合致するような形状となっている。より具体的には、光ファイバ1の横断面はほぼ円形断面を有しているので、キャピラリ2の挿入孔11の孔内面には複数本の光ファイバ1の束によって形成される横断面の外側形状の凹状部にほぼ合致する突出部12、15が形成されている。
【0022】
図5Aは、キャピラリ3の構造を示す正面図である。キャピラリ2と同様に、キャピラリ3は金属でできており、その中央部に、光ファイバ1が挿入される挿入孔14が設けられている。挿入孔14は、7本の光ファイバ1を1列に並べて保持するような形状を有している。
【0023】
本実施形態の光ファイバケーブル10の一つの特徴は、キャピラリ2、3の挿入孔11、14に、その内側方向に突出する突出部12、15が形成され、これにより、光ファイバ1とキャピラリ2、3とを接着する接着剤の量を低減できる点にある。突出部12、15を形成することにより、光ファイバ1とキャピラリ2、3との間の隙間が小さくなり、必要な接着剤の量が少なくなる。
【0024】
詳細には、図4Aに示されているように、キャピラリ2に設けられた挿入孔11には、仮想的柱面13よりも突出している突出部12が形成されている。図4Bは、仮想的柱面13を説明する図である。仮想的柱面13とは、光ファイバ1の直径の設計値に所定の公差を加えた直径を有する円筒13aが互いに接するように密に並べられたと仮定した場合に、その円筒13aに外接する、断面が多角形(図4では正六角形)の柱面である。
【0025】
図4Aに示されているように、挿入孔11の突出部12は、挿入孔11の孔内面が光ファイバ1の束の側面に沿った曲面形状になるように形成されている。突出部12は、光ファイバ1とキャピラリ2との間の隙間を小さくし、少ない量の接着剤で光ファイバ1とキャピラリ2とを接着することを可能にする。接着剤の量の低減は、光ファイバ1から漏れた紫外光によって接着剤が分解されることによって発生するガスの量を低減し、光ファイバケーブル10に接続されている光学系の汚損を抑制するために有効である。
【0026】
同様に、図5Aに示されているように、キャピラリ3に設けられた挿入孔14には、仮想的柱面16から突出する突出部15が形成されている。図5Bは、仮想的柱面16を説明する図である。仮想的柱面16とは、光ファイバ1の直径の設計値に所定の公差を加えた直径を有する円筒16aが互いに接するように1列に並べられた場合に、その円筒16aに外接する、断面が長方形の柱面である。突出部15により、挿入孔14には、光ファイバ1の束の側面に沿った曲面形状が与えられている。突出部15がキャピラリ3の挿入孔14に設けられていることにより、少ない量の接着剤で光ファイバ1とキャピラリ3とを接着することができる。
【0027】
キャピラリ2、3が、プラスチックではなく、金属で形成されていることは重要である。キャピラリ2、3がプラスチックで形成されていると、光ファイバ1から漏れた紫外光によってプラスチックが分解され、ガスが発生する。これは、接着剤の分解によるガスの発生と同様に、光ファイバケーブルに接続されている光学系を汚損するという問題を生じさせる。キャピラリ2、3が金属で形成されていることにより、このような問題は回避できる。
【0028】
キャピラリ2、3は、300Kにおける熱伝導率が50W/(K・m)以上であり、且つ、融点が1300℃以上である材料で形成されることが好ましい。光ファイバ1で伝送される紫外光には、アブレーション作用があるからである。紫外光がキャピラリ2、3に照射されると、キャピラリ2、3を構成する金属材料が紫外光によるアブレーションによってキャピラリ2、3から離脱することがある。離脱した金属材料は、キャピラリ2、3の近傍に位置する光学部品を汚損し得る。特に、アブレーションによる金属材料の離脱は、キャピラリ2、3の入射端面において特に顕著になり得る。アブレーションを抑制するためには、キャピラリ2、3を、300Kにおける熱伝導率が50W/(K・m)以上であり、且つ、融点が1300℃以上である材料で形成することが効果的である。紫外光によるアブレーションは、紫外光が照射される材料の熱伝導率が高いほど、そして融点が高いほど起こりにくいからである。
【0029】
より具体的には、キャピラリ2、3は、実質的に、コバルト(Co)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、シリコン(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、及びそれらの合金から選択された一の材料で形成されることが好ましい。本明細書において、「実質的に」とは、不可避的な不純物を含んでいるものの、これを除いては、選択された材料のみで形成されていることを意味している。上述された材料は、いずれも、300Kにおける熱伝導率が50W/(K・m)以上であり、且つ、融点が1300℃以上である材料であり、アブレーションを有効に抑制することができる。アブレーションを抑制するという観点からは、キャピラリ2、3は、タンタル又はタングステンで形成されることが最も好適である。タンタル及びタングステンの使用は、アブレーションを抑制する効果が大きい。
【0030】
アブレーションを抑制しながらキャピラリ2、3を安価で製造するという観点からは、キャピラリ2、3が実質的にニッケルで形成されることが好ましい。ニッケルは、それ自体が廉価であるのに加え、ニッケルを使用することにより、キャピラリ2、3を電鋳(めっき)と機械加工の組み合わせによって形成することができる。これは、キャピラリ2、3を安価で製造するために好ましい。
【0031】
例えば、図5Aに図示されている構造を有するキャピラリ3は、以下のような工程で形成され得る。図6は、本実施形態のキャピラリの製造工程を説明する図である。図6に示されているように、1列に並べられた7本の線材21の周囲に電鋳によってニッケルを堆積させることによってニッケルの柱状構造体が形成される。電鋳は、線材21を電鋳液に浸した状態で線材21に電流を流すことによって行われる。線材21を柱状構造体から除去した後、その柱状構造体が所望の形状に機械加工されてキャピラリ3が形成される。線材21の配置を変更することにより、図4Aに図示されている構造を有するキャピラリ2を形成することができることは、当業者には自明であろう。
【0032】
線材21に抵抗率が高い金属材料(例えば、ステンレス)が使用される場合には、抵抗率が低い金属材料、具体的には、抵抗率が5×10−6Ω・cm以下の金属材料が電鋳によって線材21の表面に堆積されて表面層が形成され、その表面層の上にニッケルが電鋳によって堆積されることが好ましい。抵抗率が高い金属材料が線材21として使用されると、線材21に電流が線材21の長さ方向について不均一に流れる。これは、電鋳によって形成される柱状構造体の寸法を長さ方向について不均一にするため好ましくない。抵抗率が低い表面層を使用することは、電鋳によって形成される柱状構造体の寸法を線材21の長さ方向に対して均一にするために好適である。抵抗率が5×10−6Ω・cm以下の金属材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム及びこれらの合金が使用され得る。
【0033】
表面層が線材21に堆積される場合には、キャピラリ2、3の挿入孔11、14に沿った部分に、抵抗率が5×10−6Ω・cm以下である金属で形成された表面層が形成されることになる。図7は、表面層が形成されたキャピラリ2、3の構造を示す断面図である。図7に示されているように、キャピラリ3の挿入孔14に沿った部分に、抵抗率が5×10−6Ω・cm以下である金属で形成された表面層17が形成される。キャピラリ2についても同様であることは、当業者には容易に理解されよう。
【0034】
なお、キャピラリ2、3は、他の製造方法、例えば、放電加工やメタルインジェクションによっても製造可能であることに留意されたい。
【0035】
アブレーションは、キャピラリ2、3の挿入孔11、14の周辺で特に顕著に発生するから、キャピラリ2、3の端面2a、3aの、少なくとも挿入孔11の周辺の部分に、アブレーションが起こりにくい材料で形成された保護膜が形成されることも好適である。図8は、保護膜が形成されたキャピラリ2、3の構造を示す正面図である。図8に示されているように、キャピラリ2の端面2aの挿入孔11の周辺の部分が、保護膜18によって被覆されることが好適である。保護膜18は、キャピラリ2、3を構成する金属材料よりも熱伝導率と融点とのうちの少なくとも一方が高い材料で形成されることが好適である。最も好適には、保護膜18は、実質的に、タンタル又はタングステンから形成される。図7では、保護膜18が端面2aの一部分にのみ形成されているが、保護膜18は、端面2aの全面に形成されることも可能であり、また、キャピラリ2の表面の全体に形成されることも可能である。
【0036】
接着剤の使用を不要化するためには、光ファイバ1とキャピラリ2、3とを低い融点を有する金属で形成された接合材によって接合することが好適である。より具体的には、金属材料を使用した光ファイバ1とキャピラリ2、3との接合は、以下のようにして行われることが好適である。以下では、光ファイバ1とキャピラリ2との接合について言及するが、光ファイバ1とキャピラリ3とを同様の手順によって接合可能であることは、当業者には容易に理解されよう。
【0037】
図9A、図9B、図10は、金属で形成された接合材によって光ファイバ1とキャピラリ2、3とを接合する手順を説明する図である。まず、図9A及び図9Bに示されているように、光ファイバ1の先端部が、低い融点を有する金属材料、最も好適には金によって薄膜状に形成された接合材9によって被覆される。金によって形成された接合材9は、例えば、蒸着によって形成可能である。
【0038】
更に、図10に示されているように、キャピラリ2の挿入孔11が、低い融点を有する金属材料、最も好適には金によって薄膜状に形成された接合材19によって被覆される。金によって形成された接合材19は、例えば、無電解めっきによって形成可能である。
【0039】
続いて、接合材9によって被覆された光ファイバ1の先端部がキャピラリ2の挿入孔11に挿入され、キャピラリ2が短時間加熱される。これにより、光ファイバ1を被覆する接合材9とキャピラリ2の挿入孔11を被覆する接合材19とが溶着する。これにより、光ファイバ1とキャピラリ2とが接合される。
【0040】
以上に説明されているように、本実施形態の光ファイバケーブル10は、キャピラリ2、3の挿入孔11、14に、その内側方向に突出する突出部12、15が形成され、これにより、光ファイバ1とキャピラリ2、3とを接着する接着剤の量を低減することができる。これは、接着剤が分解されて発生するガスによる光学系の汚損を抑制するために有効である。
【0041】
なお、本実施形態では、7本の光ファイバ1が組み込まれている光ファイバケーブル10が提示されているが、光ファイバ1が複数であれば、光ファイバ1の本数及び配置が様々に変更され得ることは当業者にとって自明的であろう。
【0042】
このような利点を有する光ファイバケーブル10は、試料の発光の波長スペクトルを測定する分光分析システムに使用されることが特に好適である。図11は、本実施形態の光ファイバケーブルが使用されている分光分析システム30の構成の例を示す図である。分光分析システム30は、レーザ光源31と、ウインドウレンズ32と、ウインドウレンズ33と、ミラー34と、回折格子35と、ミラー36と、CCD(charge coupled device)37とを備えている。分光分析システム30は、レーザ光源31によって発せられた紫外光を試料Wに照射し、その試料Wから放出された光に対して分光分析を行うように構成されている。
【0043】
分光分析システム30には、本実施形態の光ファイバケーブル10が、2本使用されている。そのうちの一本(以下、光ファイバケーブル10Aと参照される)は、ウインドウレンズ32と試料Wとの間に設けられ、他の一本(以下、光ファイバケーブル10Bと参照される)は、ウインドウレンズ33とミラー34の間に設けられる。図2Aで図示されている光ファイバケーブル10とは異なり、光ファイバケーブル10Aには、1本の光ファイバ1を他の6本の光ファイバ1が取り囲むような配置で7本の光ファイバ1を保持するキャピラリ2がその両端において使用されている。光ファイバケーブル10Bは、図2Aで図示されている光ファイバケーブル10と同一の構成を有している。
【0044】
光ファイバケーブル10Aは、レーザ光源31によって発せられた紫外光を試料Wに導入するために使用される。レーザ光源31が発生した紫外光は、ウインドウレンズ32によって集光されて光ファイバケーブル10Aに入射される。光ファイバケーブル10Aは、入射された紫外光を伝送し、試料Wに照射する。キャピラリ2が図4Aに示されているような構造を有していることは、ウインドウレンズ32からキャピラリ2の端面2aに紫外光が照射されたときに接着剤から発生するガスを低減させるために有効である。
【0045】
一方、光ファイバケーブル10Bは、試料Wから放出される光をミラー34と、回折格子35と、ミラー36と、CCD(charge coupled device)37とからなる分光器に導入するために使用される。光ファイバケーブル10Bは、キャピラリ2がウインドウレンズ33に、キャピラリ3がミラー34に対向するように設けられる。試料Wから放出された光は、ウインドウレンズ33によって集光されて光ファイバケーブル10Bに入射される。試料Wから放出される光には、紫外光が含まれているから、光ファイバケーブル10Bが紫外光を伝送可能であることは重要である。光ファイバケーブル10Bは、入射された光を伝送して、ミラー34に入射する。光ファイバケーブル10Bからミラー34に入射された光は、ミラー34によって反射されて回折格子35に入射される。回折格子35は、入射光を波長に応じた方向に反射する。回折格子35によって反射された光は、ミラー36によって反射され、CCD37の表面の波長に応じた位置に結像される。CCD37は、各位置に入射される光の強度を測定し、測定された光の強度から、波長スペクトルが得られる。
【0046】
このような構成の分光分析システム30に光ファイバケーブル10A、10Bを使用することにより、分光分析システム30の光学系を汚損することなく波長スペクトルを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】図1Aは、光ファイバを位置合わせするための従来の構造を示す図である。
【図1B】図1Bは、光ファイバを位置合わせするための他の従来の構造を示す図である。
【図2A】図2Aは、本発明の一実施形態の光ファイバケーブルの構成を示す図である。
【図2B】図2Bは、本発明の一実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリと光ファイバの構成を示す図である。
【図3】図3は、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれた光ファイバの構成を示す断面図である。
【図4A】図4Aは、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリの構成を示す正面図である。
【図4B】図4Bは、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリに規定される仮想的柱面を示す図である。
【図5A】図5Aは、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリの構成を示す他の正面図である。
【図5B】図5Bは、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリに規定される仮想的柱面を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態のキャピラリの製造に使用される線材の配置の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリの他の構成を示す正面図である。
【図8】図8は、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリの更に他の構成を示す正面図である。
【図9A】図9Aは、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれた光ファイバの他の構成を示す側面図である。
【図9B】図9Bは、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれた光ファイバの他の構成を示す断面図である。
【図10】図10は、本実施形態の光ファイバケーブルに組み込まれたキャピラリの更に他の構成を示す正面図である。
【図11】図11は、本実施形態の光ファイバケーブルが使用されている分光分析システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1:光ファイバ
2、3:キャピラリ
2a、3a:端面
4,5:ガイドパイプ
6:光ファイバジャケット
7:コア
8:クラッド
9:接合膜
10、10A、10B:光ファイバケーブル
11、14:挿入孔
12、15:突出部
13、16:仮想的柱面
17:表面層
18:保護膜
19:接合膜
13a、16a:円筒
21:線材
30:分光分析システム
31:レーザ光源
32、33:ウインドウレンズ
34、36:ミラー
35:回折格子
37:CCD
101:光ファイバ
102:キャピラリ
103:フランジ
104:フェルール
105:ガイドパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が155nm以上400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバの束と、
前記複数の光ファイバが挿入されている挿入孔を有するキャピラリ
とを具備し、
前記キャピラリは金属で形成され、
前記キャピラリの前記挿入孔には、その内側方向に突出する突出部が形成され、
前記突出部は、前記挿入孔に前記複数の光ファイバの束の側面に沿った曲面形状を与えるように形成されている
光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバケーブルであって、
前記キャピラリは、300Kにおける熱伝導率が50W/(K・m)以上であり、且つ、融点が1300℃以上である材料で形成されている
光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバケーブルであって、
前記キャピラリは、実質的にニッケルで形成されている
光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1に記載の光ファイバケーブルであって、
前記キャピラリの端面の少なくとも前記挿入孔の周辺の部分が、保護膜で被覆されている
光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバケーブルであって、
前記保護膜は、熱伝導率と融点とのうちの少なくとも一方が前記金属よりも高い材料で形成された
光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項4に記載の光ファイバケーブルであって、
前記保護膜は、実質的にタンタル又はタングステンで形成されている
光ファイバケーブル。
【請求項7】
請求項1に記載の光ファイバケーブルであって、
前記複数の光ファイバと前記キャピラリとの間の接合に、接着剤が使用されない
光ファイバケーブル。
【請求項8】
請求項7に記載の光ファイバケーブルであって、
前記複数の光ファイバと前記キャピラリとは、金属の接合材によって接合されている
光ファイバケーブル。
【請求項9】
端部にキャピラリが挿入された複数の光ファイバの束に、波長が155nm以上400nm以下の光を伝送する方法であって、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルを使用する
光伝送方法。
【請求項10】
紫外光光源と、
前記紫外光光源から入射された紫外光を伝送して試料に照射する光ファイバケーブルと、
前記試料から放出された光の波長スペクトルを測定する分光手段
とを具備し、
前記光ファイバケーブルは、
波長が155nm以上、400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバの束と、
前記複数の光ファイバが挿入された挿入孔を有する、金属で形成されたキャピラリ
とを備え、
前記キャピラリの前記挿入孔には、その内側方向に突出する突出部が形成され、
前記突出部は、前記挿入孔に前記複数の光ファイバの束の側面に沿った曲面形状を与えるように形成されている
分光分析システム。
【請求項11】
光ファイバケーブルと、
前記光ファイバケーブルから出射される光の波長スペクトルを測定する分光手段
とを具備し、
前記光ファイバケーブルは、
波長が155nm以上400nm以下の光を伝送可能に形成された複数の光ファイバの束と、
前記複数の光ファイバが挿入された挿入孔を有する、金属で形成されたキャピラリ
とを備え、
前記キャピラリの前記挿入孔には、その内側方向に突出する突出部が形成され、
前記突出部は、前記挿入孔に前記複数の光ファイバの束の側面に沿った曲面形状を与えるように形成されている
分光器。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−279194(P2007−279194A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102863(P2006−102863)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(598118824)株式会社ワイヤードジャパン (4)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】