説明

光半導体装置及び赤外線検出装置

【課題】製造が容易で且つ再現性の高い構造を備えた量子ドット赤外線光検出器を提供することである。
【解決手段】半導体基板と、前記半導体基板の上に形成された、導電性の半導体からなる第1の電極層と、前記第1の電極層の上に形成された前記第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層の上に形成された、導電性の半導体からなる第2の電極層と、前記第2の電極層の上に形成された、第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層の上に形成された、導電性の半導体からなる第3の電極層からなる赤外線を電気信号に変換する光半導体装置において、前記第1の光電変換層が、前記半導体基板の主面に投影した形状が、第1の方向に長軸を有する第1の量子ドットから成り、前記第2の光電変換層が、前記主面に投影した形状が、前記第1の方向にに交差する第の2の方向に長軸を有する第2の量子ドットから成ること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の波長の赤外線を同時に検出する光半導体装置及び当該光半導体装置からなる赤外線検出装置に関し、特に、複数の波長の赤外線を同時に検出し且つ赤外線の偏光方向によって感度スペクトルが異なる光半導体装置及び当該光半導体装置からなる赤外線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線を検出する光半導体装置すなわち赤外線フォトセンサは、赤外光領域におけるイメージセンサ(以下、赤外線イメージセンサと呼ぶ)の重要な構成単位である。イメージセンサは、フォトセンサが二次元アレイ状に配列され、外部の光学系により上記アレイ上に結像された光学的イメージを検出する装置である。
【0003】
赤外線イメージセンサとしては、3〜5μm帯又は8〜12μm帯で動作する装置が、熱源の探知や暗視装置用のセンサとして重要である。特に、これらの波長帯において、複数の波長で同時に赤外線を検知する赤外線イメージセンサは、熱源の温度特定を可能とするデバイスとして重要である。
【0004】
これらの要求を満たす赤外線イメージセンサとして、半導体量子井戸に形成される量子準位間の遷移(又は、量子準位から障壁層伝導帯への遷移)を利用した量子井戸赤外線光検出器(Quantum−Well Infrared Photodetector:以下、QWIPと呼ぶ)が開発された。
【0005】
量子井戸における量子準位間遷移(又は、量子準位から障壁層伝導帯への遷移)は、量子井戸に垂直に入射する光に対しては、選択則により禁止されている。
【0006】
このため、QWIPでは、その一部に、光入射面に垂直入射した赤外線を斜めに曲げる部材(例えば、回折格子)を設けて、赤外線の検出を可能にしている(特許文献1)。従って、QWIPには、構造が複雑になるという問題がある。更に、QWIPには、感度が低いという問題もある。
【0007】
そこで、量子井戸に代わりに量子ドットによって光電変換層を形成する量子ドット赤外線光検出器(Quantum−Dot Infrared Photodetector:以下、QDIPと呼ぶ)が、新たに開発された。
【0008】
図21は、二つの波長λおよびλで動作するQDIP2の構成を説明する断面図である。
【0009】
図21に示すように、QDIP2は、半絶縁性GaAs基板3の上に、n型GaAsよりなる下側電極層4と、第1の光電変換層6と、n型GaAsよりなる共通電極層8と、第2の光電変換層10と、n型GaAsよりなる上部電極層12が順次形成されている。
【0010】
そして、第1の光電変換層6は、高抵抗GaAs(不純物をドーピングしないで成長したGaAs;以下、i−GaAsと称する)からなる障壁層と、InGaAs微細粒子からなる三次元量子井戸(すなわち、量子ドット)によって構成されている(以下、第1の量子ドット構造と呼ぶ。)。同じく、第2の光電変換層10は、i−GaAsからなる障壁層とInGaAs微細粒子からなる三次元量子井戸によって構成されている(以下、第2の量子ドット構造と呼ぶ。)。ここで、第1の量子ドット構造を形成するInGaAs微細粒子は、第2の量子ドット構造を形成するInGaAs微細粒子より小さく形成される。
【0011】
また、上部電極層12、共通電極層8、及び下部電極層4には、夫々の電極層を外部回路に電気的に接続するための配線14,16,18が設けられている。
【0012】
この外部回路によって、上部電極層12と共通電極8の間(第2の光電変換層10)及び下部電極層4と共通電極8の間(第1の光電変換層6)に、負電圧が印加される。
【0013】
ところで、上述したように、量子ドット構造を形成するInGaAs微粒子は、第1の光電変換層6の方が、第2の光電変換層10より小さく形成される。従って、第1の光電変換層6では波長の短い赤外線λが吸収され、第2の光電変換層10では波長の長い赤外線λが吸収される。
【0014】
ここで、赤外線λ及び赤外線λは、光電変換層6,10に形成された量子ドットによって束縛されている電子を、基底準位から励起準位に励起する。励起された電子は、光電変換層6,10に印加された負電圧によって引き出され、光電流として、夫々別々の外部回路によって検出される。
【0015】
すなわち、赤外線λは、配線16,18に接続された外部回路によって検出され、赤外線λは、配線16,14に接続された外部回路によって検出される。
【0016】
ところで、量子ドット構造では、量子井戸構造と異なり、垂直入射光に対しても量子準位間遷移が許容されている。しかも、その遷移確率は、量子井戸における量子準位間の遷移確率より格段に大きい。
【0017】
このため、光電変換層6,10が量子ドット構造によって構成されるQDIP2は、垂直入射光20,22を電気信号に変換することができ、しかも、その光電変換効率は量子井戸赤外線光検出器(QWIP)より高い。
【0018】
すなわち、量子ドット赤外線光検出器(QDIP)によれば、垂直入射光を斜めに曲げる部材(例えば、回折格子)が不要になり、しかも、光電変換効率の高い2波長赤外線光検出器を実現することができる。
【特許文献1】特開2000−323750号公報
【特許文献2】特開平10−256588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来のQDIPでは、第1及び第2の光電変換層6,10を構成する量子ドットの大きさを異ならせることによって、異なる波長λ,λを検出していた。これらの量子ドットは、基板との間に格子不整合を有する半導体結晶を、ある膜厚(臨界膜厚)以上にエピタキシャル成長した時に成長膜が三次元的に凝集して多数の微粒子となる所謂Stranski−Krastanovモード(以下、SKモードと呼ぶ)によって形成される。
【0020】
しかし、SKモードによって形成される量子ドットの大きさを制御するためには、原料の供給速度や成長温度を精密に制御するという困難な作業が要求される上、再現性が悪いという問題がある。これらの問題を解決するため、量子ドットに直接接触している障壁層の高さを変えて、量子準位間のエネルギー差を調整する方法が開発された。しかし、この方法の再現性も、必ずしも高くない。
【0021】
そこで、本発明の第一の目的は、製造が容易で且つ再現性の高い構造を備えた量子ドット赤外線光検出器(QDIP)と、この量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を用いた赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を提供することである。
【0022】
ところで、上記「背景技術」の説明から明らかなように、従来のQDIPは、2波長の赤外線しか検出することができない。3波長以上の赤外線を検出するためには、上部電極層12の上に更に検出波長の異なる光電変換層を積層する必要がある。この場合、新たに設けた光電変換層から光電流を取り出すためには、この光電変換層の上に、更に電極層を設ける必要がある。すなわち、従来のQDIPを改良して、3波長以上の赤外線検出が可能なQDIPを形成しようとすると、光電変換層及び電極層の数が増えて素子構造が複雑になる。
【0023】
そこで、本発明の第二の目的は、3波長以上の赤外線の検出が可能で、しかも素子構造が簡単な量子ドット赤外線光検出器(QDIP)と、このQDIPを用いた赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を提供することである。
【0024】
二次元アレイ状に配置されたQDIP群と信号読出回路からなる赤外線イメージセンサは、目的物が放射する赤外線の強度を2つの波長で検出し、予め測定しておいたデータと比較して、目的物の温度を推定するために用いられる。しかし、検出波長が2つだけでは、温度推定の確度は低い。従って、3つ以上の波長で赤外線の強度を検出することが可能な、赤外線検出装置(赤外線イメージ)の実現が望まれている。
【0025】
しかし、従来のQDIPを改良して、3波長以上の赤外線の検出を可能にしようとすると、QDIPと信号読出回路を接続する配線数が膨大になり、装置構造が複雑化してしまう。これは、検出波長と同数の光電変換層をQDIPに設ける必要があるため、各光電変換層と信号読出回路を接続する配線の数が、検出波長の増加に伴って、多くならざるを得ないからである。
【0026】
そこで、本発明の第三の目的は、QDIPに接続される配線の数が少なくて済む、赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(第1の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、半導体基板と、前記半導体基板の上に形成された、導電性の半導体からなる第1の電極層と、前記第1の電極層の上に形成された前記第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層の上に形成された、導電性の半導体からなる第2の電極層と、前記第2の電極層の上に形成された、前記第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層の上に形成された、導電性の半導体からなる第3の電極層からなる、赤外線を電気信号に変換する光半導体装置において、前記第1の光電変換層が、前記半導体基板の主面に投影した形状が、第1の方向に長軸を有する第1の量子ドットから成り、前記第2の光電変換層が、前記主面に投影した形状が、前記第1の方向に交差する方向に交差する第2の方向に長軸を有するた第2の量子ドットから成ることを特徴とする。
【0028】
本発明の第1の側面によれば、製造が容易で且つ再現性の高い構造を備えた量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を提供することができる。
【0029】
(第2の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第2の側面は、第1の側面において、前記第1の光電変換層を構成する第1の半導体層が、セン亜鉛鉱構造からなる面心立方構造を有し、前記第2の光電変換層を構成する第2の半導体層が、セン亜鉛鉱構造からなる面心立方構造を有し、 前記第2の半導体層が、前記第1の半導体層を構成する第1の副格子の占有原子種と、前記第1の半導体層を構成する第2の副格子の占有原子種を交換した結晶構造を有することを特徴とする。
【0030】
本発明の第2の側面によれば、製造が特に容易で且つ再現性の高い構造を備えた量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を提供することができる。
【0031】
(第3の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第3の側面は、第1又は第2の側面において、前記第1の量子ドットの大きさ及び形状が、前記第2の量子ドットの大きさ及び形状と同じであることを特徴とする。
【0032】
本発明の第3の側面によれば、製造が特に容易で且つ再現性の高い構造を備え、2波長の検出が可能な量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を提供することができる。
【0033】
(第4の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第4の側面は、第1又は第2の側面において、前記第1及び第2の量子ドットの大きさ及び形状の何れか一方又は双方が、前記第1の量子ドットと第2の量子ドットの間で異なることを特徴とする。
【0034】
本発明の第4の側面によれば、3波長以上の赤外線の検出が可能で、しかも素子構造が簡単な量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を提供することができる。
【0035】
(第5の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第5の側面は、第1乃至第3の側面において、前記第1の方向又は第2の方向にに偏光する光のみを、前記光半導体装置の光入射面に照射する偏光ユニットを具備することを特徴とする。
【0036】
本発明の第5の側面によれば、製造が容易で且つ再現性の高い構造を備え、更に2波長の検出が可能な量子ドット赤外線光検出器(QDIP)から成る赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を提供することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、第1の光電変換層及ぶ第2の光電変換層を同一条件で成長することができるので、製造が容易で且つ再現性の高い構造を備えた量子ドット赤外線光検出器(QDIP)と、この量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を用いた赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を提供することができる。
【0038】
また、本発明によれば、入射光の偏光方向を切り替えることによって同一光電変換層から2波長の赤外線を検出することが可能になるので、3波長以上の赤外線の検出が可能で且つ素子構造が簡単な量子ドット赤外線光検出器(QDIP)を提供することができる。更に、このQDIPを用いた赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)の提供が可能になる。
【0039】
また、本発明によれば、同一光電変換層から2波長の赤外線の検出が可能になるので、QDIPに接続される配線の数が少なくて済む、赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0041】
(実施の形態1)
本実施の形態は、平面形状が楕円形の第1の量子ドットからなる第1の光電変換層と、同じく楕円形の量子ドットからなり、その長軸方向が第1の量子ドットの長軸方向と直交する第2の量子ドットからなら第2の光電変換層を具備した量子ドット赤外線光検出器(QDIP)に係わるものである。
【0042】
本実施の形態によれば、2波長の検出が可能な量子ドット赤外線光検出器(QDIP24)を、容易に、しかも再現性良く製造することができる。
【0043】
(1)構 成
(i)全体構成
図1は、本実施の形態に係わる量子ドット赤外線光検出器(QDIP)の構成を説明する断面図である。
【0044】
本実施の形態に係わるQDIP24の構成は、第1及び第2の光電変換層26,28を構成する量子ドット構造の構成を除き、図21に示す従来のQDIP2と略同一である。
【0045】
すなわち、本実施の形態に係わるQDIP24は、図1に示すように、半絶縁性のGaAs(面方位(100))からなる半導体基板3の上に、厚さ1000nmのn型GaAs(キャリア濃度2×1018cm−3)よりなる下側電極層4と、第1の光電変換層26と、厚さ1000nmのn型GaAs(キャリア濃度2×1018cm−3)よりなる共通電極層8と、第2の光電変換層28と、厚さ1000nmのn型GaAs(キャリア濃度2×1018cm−3)よりなる上部電極層12によって構成されている。
【0046】
更に、上部電極層12、共通電極層8、及び下部電極層4には、夫々外部回路を電気的に接続するための配線14,16,18が設けられている。
【0047】
この外部回路によって、上部電極層12と共通電極8の間(第2の光電変換層10)及び下部電極層4と共通電極8の間(第1の光電変換層6)に、負電圧が印加される。
【0048】
すなわち、本実施の形態に係る光半導体装置(QDIP24)は、半導体基板3と、半導体基板3の上に形成された、導電性の半導体からなる第1の電極層(下部電極4)と、第1の電極層(下部電極4)の上に形成された第1の光電変換層26と、第1の光電変換層26の上に形成された、導電性の半導体からなる第2の電極層(共通電極8)と、第2の電極層(共通電極8)の上に形成された、第2の光電変換層28と、第2の光電変換層28の上に形成された、導電性の半導体からなる第3の電極層(上部電極12)によって構成されている。
【0049】
(ii)光電変換層の構成
図2は、第1及び第2の光電変換層26,28の構成を説明する要部断面図である。
【0050】
第1及び第2の光電変換層26,28の構成は、略同じである。但し、下記「(iii)楕円形量子ドット構造の形成と90°回転操作」で説明するとおり、両者は、光電変換層を構成する量子ドットの伸展方向が異なっている。
【0051】
例えば、第1及び第2の光電変換層26,28は、図2に示すように、まず、厚さ100nmのi−GaAsからなる第1の中間層30を備えている。また、第1及び第2の光電変換層26,28は、第1の中間層30の上に積層されたIn0.4Ga0.6Asからなる第1の量子ドット32と、第1の量子ドット32の上に積層された、厚さ100nmのi−GaAsからなる第2の中間層34から成る第1層目の量子ドット層35を備えている。
【0052】
更に、第1及び第2の光電変換層26,28は、中間層34,38の上に形成された量子ドット36と、この量子ドット36の上に積層された新たな中間層38からなる量子ドット層を4層備えている。
【0053】
すなわち、第1及び第2の光電変換層26,28は、最下層の中間層30と、量子ドット32,36と中間層34,38からなる5層の量子ドット層によって構成されている。尚、量子ドット32,36には、中間層34,38と同様に、不純物はドーピングされない。
【0054】
(iii)楕円形量子ドット構造の形成と90°回転操作
図3は、第1及び第2の光電変換層26,28を構成する量子ドットの平面形状を説明する図である。図3(a)は、上側の光電変換層すなわち第2の光電変換層28を構成する量子ドットの平面形状である。図3(b)は、下側の光電変換層すなわち第1の光電変換層26を構成する量子ドットの平面形状である。尚、図3(b)には、量子ドット40,44が形成されている半導体層の結晶方位が図示されている。
【0055】
図3(a)及び(b)に示すように、第1及び第2の光電変換層26,28を形成する量子ドット40,44の平面形状は楕円形で、しかも、その大きさは、高さも含めて略同じである。
【0056】
これに対して、従来のQDIP2を構成する光電変換層6,10を構成する量子ドットの平面形状は、円形である。一方、その大きさは、第1の光電変換層6と第2の光電変換層10で異なっている。
【0057】
ここで、第1の光電変換層26を形成する第1の量子ドット40の長軸方向42は、図3(b)に示すように、半絶縁性GaAs基板3の結晶方位[0,1,−1]と平行である。一方、第2の光電変換層28を形成する第2の量子ドット44の長軸方向46は、上記第1の量子ドットの長軸方向と直交している。すなわち、第2の量子ドット44は、第1の量子ドット40を90°回転操作したものである。
【0058】
但し、第1の量子ドットの長軸方向42と第2の量子井戸44の長軸方向46は、必ずしも厳密に直交している必要はない。第1の量子井戸の長軸方向42と第2の量子ドット44の長軸方向46は、直交していなくても交差していれば、その交差の度合に応じて本実施の形態の効果が得られる。
【0059】
更に、第1及び第2の量子ドットの平面形状は、必ずしも楕円形である必要はなく、一方向に伸展した形状であればよい。
【0060】
すなわち、本実施の形態に係る光半導体装置(QDIP24)は、半導体基板の主面に投影した形状(平面形状)が、一方向に伸展した(すなわち、第1の方向に長軸を有する)第1の量子ドット40からなる第1の光電変換層26と、上記主面に投影した形状(平面形状)が、上記一方向に交差する方向に伸展した(すなわち、上記第1の方向に交差する第2の方向に長軸を有する)第2の量子ドット44からなる第2の光電変換層28を有する。
【0061】
(iv)量子ドット構造の形成方法
図3(a)及び(b)に示すような楕円形の量子ドットは、成長温度を、円形の量子ドットが成長する温度500℃より低い、例えば、450℃にすることによって形成できる。これは、成長温度が低くなるほど、GaAs(100)表面のGa原子の拡散速度が、[0,1,1]方向に比べ[0,1,−1]方向が速くなるからである。
【0062】
図3(a)及び(b)に示すように、本実施の形態に係る量子ドット40,44は、その長軸方向が直交している。このような長軸方向が直交する量子ドットは、量子ドット構造を構成する半導体結晶の副格子の占有原子種を交換する所謂副格子交換操作によって実現できる。
【0063】
GaAsやInGaAs等のIIIV族化合物半導体の結晶構造は、セン亜鉛鉱構造である。セン亜鉛鉱構造は、III族原子が占有する面心立方構造からなる第1の副格子と、その対角線の方向に1/4格子だけずれたV族原子が占有する面心立方構造からなる第2の副格子によって構成されている。
【0064】
これら副格子の占有原子種を、第1の副格子と第2の副格子の間で交換(副格子交換操作)すると、図4を参照して以下に説明するとおり、結晶格子が空間反転する。
【0065】
図4は、空間反転前のGaAs48と空間反転後のGaAs50が、Si又はGeからなる挿入層52を挟んで配置された結晶構造を説明する図である。ここで、挿入層52は、GaAs結晶に副格子交換を起こすためのものであり、Si又はGe原子層が偶数積層されたものである。
【0066】
図4には、GaAsを構成するGa原子54及びAs原子56と、挿入層52を構成するSi原子(又はGe原子)58からなる結晶構造を、 [0,1,−1]方向(空間反転前のGaAs48の方位)から見た図である。
【0067】
図4に示すように、空間反転後のGaAs50におけるGa及びAsの原子配列は、空間反転前のGaAs48において、Ga及びAsの占有位置を相互に交換したものである。
【0068】
すなわち、セン亜鉛鉱構造を有すGaAs等のIIIV族化合物半導体では、III族原子(Ga等)からなら第1の副格子を占有する原子種と、V族原子(As等)からなる第2の副格子を占有する原子種を交換することによって、空間反転が起こる。
【0069】
ところで、セン亜鉛鉱構造では、空間反転操作と、[1,0,0]軸周りの90°回転操作は、等価である。
【0070】
以上の説明から明らかなように、GaAs(100)基板の上に、まず、第1の量子ドット構造を成長した後、Si又はGeからなる挿入層を形成してから、第2の量子ドット構造を成長すると、第2の量子ドット構造で副格子交換が起きる。
【0071】
その結果、第2の量子ドット構造は、第1の量子ドット構造に対して空間反転した構造、すなわち、第1の量ドット構造を[100]軸の周りに90°回転した構造になる。
【0072】
本実施の形態では、下記「(v)副格子交換によるQDIPの形成」で説明するように、この副格子交換操作を応用することにより、第1の光電変換層26を形成する第1の量子ドット40の長軸と、第2の光電変換層28を形成する第2の量子ドット44の長軸が直交する構造を実現する(図3参照)。
【0073】
(v)副格子交換によるQDIPの形成
本実施の形態に係る光半導体装置(QDIP24)を構成する量子ドット構造は、必ずしも、SKモードによって形成する必要はない。例えば、電子線リソグラフィー技術とドライエッチング技術を組み合わせることによって、長手方向が直交する量子ドットを形成してもよい。
【0074】
しかし、生産性や出来上がった量子ドットの品質を考慮すると、SKモードによって量子ドットを形成することが好ましい。この場合、第1及び第2の光電変換層26,28を夫々構成する第1及ぶ第2の量子ドット40,44は、上記副格子交換操作によって形成することができる。
【0075】
図5は、このようにして形成したQDIP24の構成を説明する断面図である。このQDIP24の構成は、基本的には、図1に示すQDIP24と同じである。
【0076】
但し、共通電極層8の内部に、Si原子層が偶数積層(例えば、2原子層)された挿入層52が形成されている。この挿入層52より上側では、半導体結晶が、副格子反転し、[1,0,0]軸の周りを90°回転した構造になっている。尚、図5の下部には、GaAs(100)半導体基板3の結晶方位が図示されている。尚、挿入層52を設ける位置は、共通電極8の内部であれば何処でもよく、又は、共通電極8に接する位置であってもよい。
【0077】
すなわち、第2の光電変換層28を構成する第2の量子ドット44は、第1の光電変換層26を構成する第1の量子ドット40を、[100]軸の周りを90°回転したものである。
【0078】
以下、この回転操作について、もう少し詳しく説明する。
【0079】
図6は、第1及び第2の光電変換層26,28夫々に形成された量子ドット40,44の平面形状とその結晶方位の関係を説明する図である。図6(a)は、第2の光電変換層28に形成された第2の量子ドット44の平面形状である。一方、図6(b)は、第1の光電変換層26に形成された第1の量子ドット40の平面形状である。
【0080】
図6(a)及び(b)に図示された結晶方位を参照すると明らかなように、第2の光電変換層28を形成する第2の量子ドット44は、第1の光電変換層26を形成する第1の量子ドット40を、[100]軸の周りを90°回転して得られるものである。従って、第2の量子ドット44の長軸方向46は、第1の量子ドット40の長軸方向42に直交している。
【0081】
このような量子ドット40,44の長軸方向が交差する構造は、第1の光電変換層26を形成し、結晶格子を副格子交換させた後、第2の光電変換層28を形成することによって得られる。
【0082】
すなわち、本実施の形態に係る光半導体装置(QDIP24)は、第1の光電変換層26を構成する第1の半導体層が、セン亜鉛鉱構造からなる面心立方構造を有し、第2の光電変換層28を構成する第2の半導体層が、セン亜鉛鉱構造からなる面心立方構造を有している。
【0083】
そして、第2の半導体層は、第1の半導体層を構成する第1の副格子の占有原子種と、第1の半導体層を構成する第2の副格子の占有原子種を交換した結晶構造を有する。
【0084】
(2)動 作
次に、図1及び図5に図示したQDIP24の動作について説明する。
【0085】
(i)量子準位
図7は、第1及び第2の光電変換層26,28夫々に形成された第1及び第2の量子ドット40,44の量子準位を説明する図である。尚、両者の量子準位は、基本的には同じである。
【0086】
図7(a)は、第1及び第2の量子ドット40,44の平面図である。図7(a)に図示するように、楕円形の量子ドット40,44の長軸61は、[0,1,−1]方向に向いている。一方、量子ドット40,44の短軸62は、[0,1,1]方向に向いている。尚、結晶方位は、特に断らない限り、夫々の量子ドットが形成されている半導体層の結晶方位を表すものとする。
【0087】
図7(b)は、量子ドット40,44によって、三次元的に閉じ込めた電子の量子準位を説明する図である。
【0088】
上述したように、量子ドット40,44の長軸61は[0,1,−1]方向を向き、短軸62は[0,1,1]方向を向いている。従って、[0,1,−1]方向の量子ドットの幅は、 [0,1,1]方向の幅より広い。
【0089】
このため、量子ドット40,44の内部には、[0,1,−1]方向の幅の広い空間への電子閉じ込めに基づく第1の励起準位64と、[0,1,−1]方向の幅の狭い空間への電子閉じ込めに基づく第2の励起準位66が形成される。ここで、[0,1,−1]方向の幅が狭いので、第2の励起準位66は、第1の励起準位66よりエネルギーレベルが高くなる。尚、厳密に言えば、基底準位68も2つの準位に分裂しているが、そのエネルギー差は小さいので一つの量子準位として取り扱うことができる。また、基底準位は、電極層14,16,18から供給された電子70によって、満たされている。
【0090】
この電子70が、基底準位68から励起準位64,66に遷移することによって光電変換層26,28は赤外線を吸収する。この光電変換層26,28による光吸収のスペクトルは、基底準位68から2つの励起準位64,66への遷移に基づくため、双峰性のスペクトルになる。従って、第1及び第2の光電変換層26,28の感度スペクトル72も、図8のように双峰性になる。
【0091】
図8は、楕円形の量子ドットからなる上記光電変換層26,28の感度スペクトルを説明する図である。横軸は入射光の波長であり、縦軸は感度(入射光強度に対する光電流強度の比)である。
【0092】
感度スペクトル72は、上述したように、双峰性になる。ここで、波長λにおける第1のピークは、基底準位68から第2の励起準位66への電子の遷移によって生じる。一方、波長λ(>λ)における第2のピークは、基底準位68から第1の励起準位64への電子の遷移によって生じる。
【0093】
尚、従来のQDIP2の光電変換層6,10は、(平面形状が)円形の量子ドットによって構成されている。従って、従来のQDIP2では、上記第1及び第2の励起準位64,66は、同一のエネルギーレベルに縮退している。このため、従来のQDIP2の感度スペクトルは、本実施の形態のQDIP24とは異なり単峰性になる。
【0094】
(ii)偏光特性
従来のQDIP2は、入射光の偏光方向を変化させても、感度スペクトルは変化しない。
【0095】
図8に図示した感度スペクトルは、QDIP24に、偏光していない赤外線が入射した場合のスペクトルである。しかし、本実施の形態に係わるQDIP24の感度スペクトルは、入射光の偏光方向が変わると大きく変化する。
【0096】
図9は、量子ドット40,44の長軸方向に偏光した赤外線がQDIP24に入射した場合の、感度スペクトルを説明する図である。
【0097】
図9(a)は、量子ドット40,44が伸展している状態を説明する図である。図9(b)は、入射光74の(電界の)偏光方向76を説明する図である。図9(c)は、光電変換層26,28の感度スペクトルである。尚、図9(a)及び(b)は、QDIP24が形成された半導体基板3の主面が紙面に平行になるように描かれている。
【0098】
図9(c)に図示するように、量子ドット40,44の長軸61の方向に偏光した赤外線(図9(a)及び(b)参照)に対する感度スペクトルは、基底準位68に束縛された電子を(長軸方向に形成された空間への電子閉じ込めに基づく)第1の励起準位64へ励起する光の波長λで、大きなピークを形成する。
【0099】
図10は、量子ドット40,44の短軸方向に偏光した赤外線がQDIP24に入射した場合の、感度スペクトルを説明する図である。
【0100】
量子ドット40,44の短軸62の方向に偏光した赤外線(図10(a)及び(b)参照)に対する感度スペクトルは、図10(c)に図示するように、基底準位68に束縛された電子を(短軸方向に形成された空間への電子閉じ込めに基づく)第2の励起準位66へ励起する光の波長λで、大きなピークを形成する。
【0101】
このように、本実施の形態に係わるQDIP24の光電変換層26,28の感度スペクトルは、入射光の偏光方向が量子ドット40,44の長軸方向又は短軸方向の何れに偏光しているかによって、そのピーク位置が大きく異なる。すなわち、入射光が長軸61の方向に偏光している場合には、波長λで感度が最大になる。一方、入射光が短軸62の方向に偏光している場合には、波長λで感度が最大になる。
【0102】
(iii)QDIP24の動作(偏光入力)
最後にQDIP24に、偏光した赤外線を入力した場合の動作について説明する。
【0103】
図11は、偏光した入射光に対する量子ドット赤外線光検出器(QDIP24)の動作を説明する図である。図11の下部には、QDIP24の形成された半導体基板3の結晶方位が図示されている。
【0104】
上述したように第1及び第2の光電変換層26,28には、形状及び大きさの一致した(平面形状が)略楕円形の量子ドット40,44が形成されている。従って、上記「(i)量子準位」で説明したように、第1及び第2の光電変換層26,28は、λ及びλにピークを有する双峰性の感度スペクトルを有している。
【0105】
一方、第1の光電変換層26を形成する量子ドット40の長軸方向と、第2の光電変換層28を形成する量子ドット44の長軸方向は、互いに直交している。
【0106】
ここで、第1の光電変換層26の結晶軸は、半導体基板3の結晶軸と一致している。従って、第1の光電変換層26には、半導体基板3の[0,1,1]方向に短軸が向いた量子ドット40が形成されている。
【0107】
一方、第2の光電変換層28を構成する結晶は、半導体基板3を構成する結晶に対して空間反転している。従って、第2の光電変換層28の結晶軸は、[1,0,0]軸に対して90°回転している。このため、第2の光電変換層28には、半導体基板3の[0,1,1]方向に長軸方向が向いた量子ドット44が形成されている。
【0108】
ここで、半導体基板3の[0,1,1]方向に偏光した入射光78を、光入射面80に入射したとする。また、入射光78は、波長λの第1の赤外線82と波長λの第2の赤外線84を含んでいるとする。尚、波長λ及びλは、感度スペクトルのピーク波長である(図8参照)。
【0109】
上述したように、量子ドット40,44からなる光電変換層26,28は、量子ドット40,44の短軸方向に偏光した光に対しては、λで感度が最大になる。一方、量子ドット40,44の長軸方向に偏光した光に対しては、λで感度が最大になる。
【0110】
従って、第1の赤外線82(波長 λ;偏光方向、基板の [0,1,1])は、半導体基板の[0,1,1]方向に短軸が向いた量子ドット40からなる第1の光電変換層26によって吸収され、キャリアを発生する。発生したキャリアは、下部電極層4と共通電極層8の間に印加された負電圧によって引き出され、配線16,18の間に接続された外部回路によって検出される。
【0111】
一方、第2の赤外線84(波長 λ;偏光方向 、基板の[0,1,1])は、半導体基板3の[0,1,1]方向に長軸が向いた量子ドット44からなる第2の光電変換層28によって吸収され、キャリアを発生する。発生したキャリアは、上部電極層12と共通電極層8の間に印加された負電圧によって引き出され、配線16,14の間に接続された外部回路によって検出される。
【0112】
すなわち、第1の光電変換層26は波長λの光を検出し、第2の光電変換層28は波長λの光を検出する。
【0113】
一方、入射光78が半導体基板3の[0,1,−1]方向に偏光している場合には、第1の光電変換層26は波長λの光を検出し、第2の光電変換層28は波長λの光を検出する。
【0114】
すなわち、本実施の形態に係わるQDIP24は、第1及び第2の光電変換層26,28を構成する量子ドット40,44の大きさが同じであるにも拘わらず、偏光した入射光に対して、第1及び第2の光電変換層26,28は、夫々異なった波長の光を検出する。
【0115】
ところで、上述したように、本実施の形態に係わるQDIP24では、第1及び第2の光電変換層26,28を構成する量子ドット40,44の形状及び大きさが同じである。従って、量子ドット40,44は、第1の光電変換層26と第2の光電変換層28で同じ条件で成長することができる。
【0116】
すなわち、本実施の形態のQDIPは、第1の光電変換層26と第2の光電変換層28を異なる条件で成長する必要はなく、同一の条件で量子ドット40,44を形成することができる。
【0117】
上記説明から明らかなように、本実施の形態のQDIP24は、2波長(λ,λ)の検出が可能な量子ドット赤外線光検出器であって、製造が容易で且つ再現性が高い。
【0118】
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1の量子ドット赤外線光検出器(QDIP)と、その光入射面の前面に配置された偏光ユニット(例えば、偏光子)からなる赤外線検出装置に係るものである。本実施の形態によれば、実施の形態1に係るQDIP24によって、2波長の検出が可能な赤外線検出装置を形成することができる。
【0119】
図12は、本実施の形態に係る赤外線検出装置86の構成を説明する図である。図12の下部には、QDIP24の形成された半導体基板3の結晶方位が図示されている。
【0120】
本実施の形態に係る赤外線検出装置86は、実施の形態1に係る量子ドット赤外線光検出器(QDIP24)と、QDIP24の光入射面80の前面に配置された偏光ユニット(偏光子)88と、配線16,18によって共通電極8と下部電極4の間に接続された第1の検出回路(図示せず)と、配線16,14によって共通電極8と上部電極12の間に接続された第2の検出回路(図示せず)を備えている。
【0121】
ここで、偏光ユニット(偏光子)88は、GaAs(100)からなる半導体基板3の[0,1,1]方向に偏光する光のみを通過させる。従って、偏光ユニット(偏光子)88を通過し光入射面80に照射される赤外線90は、その波長がλに一致する場合には、第1の光電変換層26によって吸収され、キャリアを発生する(実施の形態1参照)。発生したキャリアは、下部電極層4と共通電極層8の間に印加された負電圧によって引き出され、配線16,18の間に接続された第1の検出回路(図示せず)によって検出される。
【0122】
一方、偏光ユニット(偏光子)88を通過し光入射面80に照射される光90は、その波長がλに一致する場合には、第2の光電変換層28によって吸収され、上部電極層12と共通電極層8の間に印加された負電圧によって引き出され、配線16,14の間に接続された第2の検出回路(図示せず)によって検出される(実施の形態1参照)。
【0123】
尚、偏光ユニット(偏光子)88は、半導体基板3の[0,1,1]方向ではなく、[0,1,−1]方向に偏光する光のみを通過させるものであってもよい。この場合には、第1の光電変換層26は波長λの光を吸収し、第2の光電変換層28は波長λの光を吸収する。
【0124】
以上説明したように、本実施の形態に係る赤外線検出装置86は、実施の形態1の光半導体装置(QDIP24)と、第1及び第2の量子ドット40,44の何れか一方が伸展する方向に偏光する光のみを、光半導体装置(QDIP24)の光入射面80に照射する偏光ユニット(例えば、偏光子)88を具備している。
【0125】
そして、本実施の形態によれば、製造が容易でその再現性の高い、実施の形態1に係るQDIP24によって、2波長の検出が可能な赤外線検出装置86を形成することができる。
【0126】
(実施の形態3)
本実施の形態は、実施の形態2の偏光ユニット(偏光子)に代えて、光入射面80の反対側の主面に回折格子が設けられた量子ドット赤外線光検出器(QDIP)に係るものである。
【0127】
本実施の形態によれば、偏光ユニット(偏光子)の助けを借りることなく、QDIP単体によって2波長を検出することができる。
【0128】
図13は、本実施の形態に係る量子ドット赤外線光検出器(QDIP91)の構成を説明する図である。図13の下部には、QDIP91の形成された半導体基板3の結晶方位が図示されている。
【0129】
QDIP91の構成は、光入射面80の反対側の主面に回折格子93が設けられた点を除き、図5を参照して説明した実施の形態1のQDIP24と略同じである。従って、実施の形態1のQDIP24と共通する構成及び動作の説明は省略する。
【0130】
図13に示す回折格子93は、光入射面80の反対側の主面すなわち第2の電極層12の上に設けられたGaAsからなる半導体層に、周期的に凹部を刻むことによって形成される。
【0131】
図14は、回折格子93をQDIP91の真上から見た平面図である。この平面図の右横には、A―A´線に沿った断面を矢印の方向から見た面が示されている。図14には、半導体基板3の結晶方位も図示されている。
【0132】
図14に示すように、回折格子93には、半導体基板3の[0,1,1]に伸展する凹部が、同[0,1,−1]方向に一定の周期で繰り返し形成されている。尚、図14には、回折格子93によって回折される赤外線の進行方向95とその電界成分の方向97が図示されている。
【0133】
光入射面80に入射した赤外線は、第1及び第2の光電変換層26,28で一部が吸収された後、回折格子93に到達し、半導体基板3の[0,1,−1]方向に偏光した成分のみが回折される。回折格子93によって回折された赤外線のうち、波長がλの赤外線が第2の光電変換層28によって検出される。一方、同赤外線のうち、波長がλの赤外線が第1の光電変換層26によって検出される。
【0134】
すなわち、実施の形態3に係る赤外線検出装置86は、偏光ユニット(偏光子)88を備えることなく、QDIP91単体と検出回路のみによって2波長の赤外線を検出することができる。
【0135】
但し、偏光していない入射光104の一部は、回折格子93に到達する前に、第1及び第2の光電変換層26,28によって吸収される。従って、この時発生した偏光方向依存性のない信号成分を、信号処理によって、除去する必要がある。
【0136】
(実施の形態4)
本実施の形態は、第1及び第2の光電変換層が大きさ(又は形状)が異なる量子ドットによって構成された量子ドット赤外線光検出器(QDIP)に係る。更に、本実施の形態は、このQDIPと、その光入射面の前面に配置された、偏光方向が変更可能な偏光ユニットからなる赤外線検出装置に係るものである。
【0137】
本実施の形態によれば、簡単な素子構造で3波長以上の赤外線の検出が可能なQDIPと、このQDIPを用いた赤外線検出装置を実現することができる。
【0138】
(i)構 成
図15は、本実施の形態に係るQDIP94と、このQDIP94を用いた赤外線検出装置92の構成を説明する図である。
【0139】
本実施の形態に係る赤外線検出装置92は、第1及び第2の光電変換層98,100が、形状が同じで大きさの異なる量子ドットによって構成された量子ドット赤外線光検出器(QDIP94)と、QDIP94の光入射面80の前面に配置された、偏光方向が変更可能な偏光ユニット96と、配線16,18によって共通電極8と下部電極4の間に接続された第1の検出回路(図示せず)と、配線16,14によって共通電極8と上部電極12の間に接続された第2の検出回路(図示せず)を備えている。
【0140】
QDIP94の構成は、第1及び第2の光電変換層98,100が、形状が同じで大きさの異なる量子ドットからなる点を除いて、実施の形態1において図5を参照して説明したQDIP24の構成と略同じである。
【0141】
ここで、第1の光電変換層98の構成は、実施の形態1に係るQDIP24の光電変換層26と同じである。すなわち、第1の光電変換層98を構成する量子ドット(以下、第1の量子ドットと呼ぶ)は楕円形であり、その長軸方向は半導体基板3の[0,1,−1]方向に伸展している。
【0142】
また、第2の光電変換層100を構成する量子ドット(以下、第2の量子ドットと呼ぶ)は、形状が第1の量子ドットと同一であり、その長軸方向が半導体基板3の[0,1,1]方向に伸展している。この点において、第2の光電変換層100の構成は、実施の形態1に係る第2の光電変換層28の構成と同じである。
【0143】
しかし、本実施の形態のQDIP94は、第2の量子ドットの大きさが、第1の量子ドットより大きい点で、実施の形態1のQDIP24(図5参照)と相違する。
【0144】
このため、第2の量子ドットにおける量子準位間の光遷移は、第1の量子ドットにおける量子準位間の光遷移波長より長波長で起こる。すなわち、第1の量子ドットにおいて光遷移が起きる波長をλ及びλ(λ<λ)とし、第2の量子ドットにおいて光遷移が起きる波長をλ及びλ(λ<λ)とすると、λ<λ<λ<λとなる。尚、第2の量子ドットの短軸は、第1の量子ドットの長軸より長いものとする。
【0145】
ここで、λ及びλに対する光吸収は、半導体基板3の[0,1,−1]方向に偏光した光に対して生じる。一方、λ及びλに対する光吸収は、半導体基板3の[0,1,1]方向に偏光した光に対して生じる。
【0146】
赤外線検出装置92は、このようなQDIP94に加え、更に、その光入射面80の前面に配置された、偏光方向が変更可能な偏光ユニット96を備えている。ここで、偏光ユニット96は、偏光子93´と、この偏光子93´をその中心軸102の周りで機械的に90°往復回転させる回転駆動ユニット(図示せず)によって構成されている。尚、偏光ユニット96は、必ずしも、偏光子93´を機械的に回転するものでもなくてもよく、偏光方向を直交する2方向の間で切り替えられるものであればよい。
【0147】
以上の例では、第1及び第2の光電変換層98,100を形成する量子ドットは、形状が同じで大きさが異なっていた。しかし、量子ドットの形状だけが異なっていていればよく、又は大きさと形状の双方が異なっていてもよい。
【0148】
すなわち、本実施の形態の光半導体装置(QDIP94)は、実施の形態1のQDIP24において、第1及び第2の光電変換層98,100を構成する第1及び第2の量子ドットの大きさ及び形状の何れか一方又は双方が、第1の量子ドットと第2の量子ドットの間で異なる。
【0149】
また、本実施の形態の赤外線検出装置92は、上記光半導体装置(QDIP94)と、第1の量子ドットが伸展する第1の方向に偏光する光のみを前記光半導体装置の光入射面に照射する第1の状態と、第2の量子ドットが伸展する第2の方向に偏光する光のみを光入射面に照射する第2の状態の双方をとりうる偏光ユニット96を具備する。
【0150】
(ii)動 作
次に、図15を参照して、本実施の形態に係るQDIP94と、このQDIP94を用いた赤外線検出装置92の動作を説明する。
【0151】
偏光子93´には、検出対象となる目的物が放射(又は、反射)した入射光(赤外線)104が入射する。入射光104は、半導体基板3の[0,1,1]方向に偏光した第1の偏光106と、半導体基板3の[0,1,−1]方向に偏光した第2の偏光108に分解することができる。
【0152】
偏光子93´は、上記回転駆動ユニットによって駆動され、まず、中心軸102の周りを反時計回りに90°回転し、到達した回転角度に一定期間(第1の期間)止まる。次に、偏光子93´は、中心軸102の周りを時計回りに90°回転し、元の回転角度に一定期間(第2の期間)止まる。更に、偏光子93´は、中心軸102の周りを反時計回りに90°回転して、最初に到達した回転角度に一定期間(第1の期間)止まる。ここで、第1及び第2の期間は、同じ長さに設定される。
【0153】
偏光子93´は、このような往復回転運動を繰り返し行い、その方向を周期的に変える。偏光子93´は、第1の期間の間は、第1の偏光106を透過させ、第2の偏光108を遮断する。この場合、偏光子93´を透過した第1の偏光106は、QDIP94の光入射面80に入射する。
【0154】
光入射面80に入射した第1の偏光106(基板3の[0,1,1]方向に偏光)のうち、波長がλの光は(第1の光電変換層98を構成する)第1の量子井戸に吸収され、基底準位から励起準位に電子を励起する。励起された電子は、共通電極8と下部電極4の間に印加された負電圧によって引き出され、共通電極8と下部電極4の間に接続された第1の検出回路によって、光電流として検出される。
【0155】
同様に、光入射面80に入射した第1の偏光106のうち、波長がλの光は(第2の光電変換層100を構成する)第2の量子井戸に吸収され、共通電極8と上部電極12の間に接続された、第2の検出回路によって検出される。
【0156】
一方、偏光子93´は、第2の期間の間は、第2の偏光108(基板3の[0,1,−1]方向に偏光)を透過させ、第1の偏光106を遮断する。この場合、偏光子93´を透過した第2の偏光108は、QDIP94の光入射面80に入射する。
【0157】
光入射面80に入射した第2の偏光108のうち、波長がλの光は(第1の光電変換層98を構成する)第1の量子井戸に吸収され、共通電極8と下部電極4の間に接続された第1の検出回路によって検出される。
【0158】
同様に、光入射面80に入射した第2の偏光108のうち、波長がλの光は(第2の光電変換層100を構成する)第2の量子井戸に吸収され、共通電極8と上部電極12の間に接続された第2の検出回路によって検出される。
【0159】
すなわち、赤外線検出装置92は、第1の期間には、共通電極8と下部電極4の間に接続された第1の検出回路によって波長λの赤外線を検出し、同時に、共通電極8と上部電極12の間に接続された第2の検出回路によって波長λの赤外線を検出する。
【0160】
一方、赤外線検出装置92は、第2の期間には、共通電極8と下部電極4の間に接続された第1の検出回路によって波長λの赤外線を検出し、同時に、共通電極8と上部電極12の間に接続された第2の検出回路によって波長λの赤外線を検出する。
【0161】
すなわち、本実施の形態の赤外線検出装置92によれば、4波長の赤外線を検出することができる。しかも、本実施の形態のQDIP92構成は、2層の光電変換層98,100と3層の電極層4,8,12のみから成るという簡単なものである。
【0162】
従って、本実施の形態によれば、簡単な素子構造で4波長の赤外線の検出が可能なQDIP94と、このQDIP94を用いた赤外線検出装置92を提供することができる。
【0163】
尚、以上の例では、第2の量子ドットは第1の量子ドットより大きいとしたが、第2の量子ドットを第1の量子ドットより小さくしてもよい。
【0164】
また、以上の例では、第1の量子ドットの第2の量子ドットの伸展方向(長軸方向)が直交する場合について説明したが、両者は平行であってもよい。すなわち、副格子反転を起こすためのSi(又はGe)からなる挿入層52は必ずしも必要ではない。この場合には、第1の期間には、第1の光電変換層98によって波長λの赤外線が検出され、第2の光電変換層100によって波長λの赤外線が検出される。一方、第2の期間には、第1の光電変換層98によって波長λの赤外線が検出され、第2の光電変換層100によって波長λの赤外線が検出される。
【0165】
(実施の形態5)
本実施の形態は、2波長λ,λの検出が可能な、実施の形態1に係るQDIP24をアレイ状に配置したQDIPアレイからなる赤外線イメージセンサ(赤外線検出装置)に係るものである。
【0166】
図16は、本実施の形態に係る赤外線イメージセンサ110(赤外線検出装置)の要部斜視図である。
【0167】
本実施の赤外線イメージセンサ110は、実施の形態1に係るQDIP24が二次元的に配置されたQDIPアレイ111と、QDIP24で発生した信号電流を読み出す信号読出回路113と、QDIPアレイ111の前面に配置された機械的に回転自在な偏光子からなる偏光ユニット96を備えている。
【0168】
QDIPアレイ111には、図5を参照して説明したQDIP24と同一構造のQDIPが、同一半導体基板上に2次元アレイ状に配列されている。ここで、QDIPアレイ111の形成された半導体基板は、偏光ユニット96に対向し、一方、QDIPアレイ111は、信号読出回路113に対向している。
【0169】
偏光ユニット96は、信号読出回路113の発生する同期信号に基づいて、入射光78のうち特定の方向に偏光した赤外線のみを透過するように制御される。ここで、特定の方向とは、上記半導体基板における[0,1,1]方向又は[0,1,−1]方向である。
【0170】
図17は、QDIPアレイ111と信号読出回路113からなる画像信号検出ユニット112の主要部を説明するブロック図である。画像信号生成ユニット112は、QDIP24とその光電流検出回路からなる画素部114と、垂直選択信号を発生する垂直シフトレジスタ116と、垂直選択信号によって開閉されるスイッチ118と、水平選択信号を発生する水平シフトレジスタ120と、水平選択信号によって開閉されるスイッチ122を備えている。
【0171】
図18は、画素部114のブロック図である。画素部114は、QDIP24と、一対のキャパシタ124,124´と、スイッチ126,128,126´,128´と、プリアンプ130,130´を備えている。そして、プリアンプ130,130´の出力は、垂直選択信号によって開閉される上記スイッチ118に接続されている。
【0172】
ここで、QDIPアレイ111と信号読出回路113からなる画像信号検出ユニット112の動作について説明する。但し、偏光ユニット96を透過した赤外線の偏光方向は、QDIPアレイ111が形成された半導体基板の[0,1,1]方向を向いているものとする。
【0173】
まず、スイッチ128,128´を開いて、一対のキャパシタ124,124´に正電圧(例えば、+5V)が印加され、電荷が蓄積される。次に、スイッチ128,128´を閉じ、スイッチ126,126´を開くと、この蓄積された電荷によって発生する正電圧が、QDIP24の第1の光電変換層26及び第2の光電変換層28に印加され、接地電極との間でQDIP24には見かけ負電圧がかかったのと同じことになる。
【0174】
QDIP24に入射光78が照射されると、例えば、第1の光電変換層26は波長λの赤外線を吸収して光電流を発生する。この光電流は、開いたままのスイッチ126を介し、キャパシタ124に蓄積された電荷を放電する方向に流れる。所定の時間が経過した後、スイッチ126は閉じられ、一方、スイッチ118が垂直選択信号によって開けられる。この時、プリアンプ130は、キャパシタ124に残留している電荷によって生成される電圧を増幅して、出力ライン1に出力する。従って、出力ライン1には、波長λの赤外線強度を反映した電圧が出力される。
【0175】
同様に、出力ライン2には、第2の光電変換層28、キャパシタ124´等の働きによって、波長λの赤外線強度を反映した出力が出力される。
【0176】
図19は、QDIPアレイ111が信号読出回路113に実装された状態を説明する断面図である。図19には、QDIPアレイ111を構成する一つのQDIP24と、信号読出回路113を構成する二つのMOSトランジスタ126が図示されている。
【0177】
図19に示すように、QDIP24の共通電極8は、配線16を介して、信号読出回路113の接地された配線128に接続されている。また、QDIP24の第1及び第2の電極層4,12は、配線14又は配線18を介して、MOSトランジスタ126のソース130に接続されている。
【0178】
QDIP24とMOSトランジスタ126の間の電気的接続は、例えば、インジウムバンプ132によって行われる。インジウムバンプ132は、QDIPアレイ111を信号読出回路113に固定する役割も担っている。
【0179】
図20は、赤外線イメージセンサ110による信号処理の流れを説明する図である。
【0180】
まず、信号読出回路113から、偏光ユニット96に同期信号が供給される。偏光ユニット96は、この同期信号に基づいて、その偏光子を中心軸の周りで往復回転して、直交する2つの方向にその出射光の偏光方向を交互に向かわせる。
【0181】
この偏光方向の切り替え操作によって、検出対象となる目的物の偏光特性を測定することが可能になる。尚、直交する2つの方向とは、QDIPアレイ111が形成された半導体基板の[0,1,1]方向と[0,1,−1]方向である。
【0182】
検出対象となる目的物が放射した赤外線(入射光78)は、図示されていないレンズ系によって、偏光ユニット96を通過した後、QDIPアレイ111の上に結像される。偏光ユニット96は、半導体基板の[0,1,1]方向及び[0,1,−1]方向の何れか一方に偏光した入射光のみを通過させる。
【0183】
画素部114は、QDIPアレイ111の上に結像された赤外線を受光し、波長λ,λに於ける赤外線強度を検出し、画像信号を発生する。
【0184】
次に、画像信号生成ユニット112は、垂直及ぶ水平レジスタ116,120を動作させて、画像信号を画素毎に読み出し、外部回路に出力する(S1)。尚、偏光ユニット96の偏光方向が変わると、波長λ,λに基づく画像信号が出力される出力ラインが入れ替わる。
【0185】
出力ライン1,2には外部回路が接続されており、画素毎に読み出した画像信号を処理する。この外部回路は、まず、QDIPが発生する暗電流を、画像信号から除去する(オフセット補正)と各画素ごとの感度を補正する(S2)。
【0186】
更に、外部回路は、大気による赤外線の透過特性を考慮して、オフセットと感度補正後の画像信号と、記録媒体に予め記録しておいた検出目的物の赤外線放射特性(偏光特性も含む)を比較して、検出した赤外線が検出目的対象物からのものであるか否かを識別する(S3)。この際、外部回路は、QDIPアレイ111の上に結像された画像データから、雲や海面による太陽光の反射すなわちクラッタを除去する。尚、検出目的物の赤外線放射特性は、その温度によって波長依存性が変化する。従って、複数の波長で、赤外線を検出することが重要である。
【0187】
最後に、外部回路は、QDIPアレイ111の上に結像された画像データと共に、上記判定結果を出力する(S4)。
【0188】
すなわち、本実施の形態によれば、製造が容易でその再現が高い、実施の形態1に係る量子ドット赤外線光検出器(QDIP24)を用いて、赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を形成することができる。
【0189】
更に、2波長を検出するQDIP24(実施の形態1)に代えて4波長を検出するQDIP86(実施の形態4)を用いると、4波長の赤外線が検出可能な赤外線イメージセンサを形成することができる。この場合、実施の形態2の説明及び図12から明らかなように、QDIPアレイ111を信号読出回路に接続するための配線数を増やす必要はない。
【0190】
すなわち、本実施の形態によれば、4波長の検出が可能な実施の形態2に係る量子ドット赤外線光検出器(QDIP24)を用いて、配線数の少ない赤外線検出装置(赤外線イメージサ)を形成することも可能である。
【0191】
すなわち、本実施の形態によれば、QDIPに接続される配線の数が少なくて済む、赤外線検出装置(赤外線イメージセンサ)を形成することができる。
【0192】
(実施の形態6)
本実施の形態は、実施の形態1に係るQDIP24の製造方法に関するものである。
【0193】
以下、図5及び図2を参照して、QDIP24の製造方法を説明する。
【0194】
(I)結晶成長
最初に、QDIP24となる半導体積層構造を、分子線エピタキシー法により成長する。
【0195】
(i)下部電極層
まず、基板温度600 ℃で、半絶縁性GaAs基板3の上に、厚さ1000 nm のn型GaAsからなる下部電極層4を成長する(図5参照)。ドーパントはSiを用い、その密度は2×1018 / cmとする。
【0196】
(ii)第1の光電変換層
次に、第1の光電変換層26を成長する(図2参照)。
【0197】
まず、膜厚100nmのi型GaAs層からなる中間層30を成長する。この中間層30を成長する間に、基板温度を、楕円形の量子ドットを成長するために適した450 ℃に低下させる。尚、円形の量子ドットを成長するための基板温度は、500℃である。
【0198】
次に、分子線の種類及び強度を、In0.6Ga0.4Asが0. 1 原子層/秒で成長するように設定する。この状態で、中間層30の上に、In0.6Ga0.4Asを2原子層分成長する。すると、In0.6Ga0.4Asの膜厚が臨界膜厚を超え、3次元成長が開始し、量子ドットが形成される。
【0199】
In0.6Ga0.4Asは、GaAs基板3に対して格子定数が整合していない。このため、成長膜厚が一定の厚さ(臨界膜厚)を超えると、In0.6Ga0.4Asは、成長膜内部に蓄積した圧縮歪によって、3次元成長を開始し、量子ドット32が形成される(Stranski−Krastanovモードによるドット形成)。尚、Asの供給源としては、As分子線を用いる。
【0200】
次に、100 nm のi型GaAsからなる中間層34を、量子ドット32の上に成長する。
【0201】
以後、量子ドット36と中間層38の成長を4回繰り返し、5層構造の量子ドット構造を成長する(図2参照)。
【0202】
以上の様にして成長した量子ドットの平面形状は楕円形であり、その長軸方向は約20nmであり、短軸方向は15nmである。また、長軸方向は、GaAs基板3の[0,1,−1]方向を向いている。一方、短軸方向は、[0,1,1]方向を向いている。
【0203】
この量子ドットの基底準位から、[0,1,1]方向の閉じ込めに基づく励起準位への光遷移は、波長8μm(λ)の赤外線によって発生する。一方、基底準位から、[0,1,−1]方向の閉じ込めに基づく励起準位への光遷移は、波長10.5μm(λ)の赤外線によって発生する。
【0204】
尚、基板温度は、最後の中間層38を成長する間に600℃に上昇させる。
【0205】
(iii)共通電極層
次に、基板温度600 ℃で、半絶縁性GaAs基板3の上に、厚さ1000 nm のn型GaAsからなる共通電極層8を成長する(図5参照)。
【0206】
この共通電極8を成長する途中で、一旦Ga分子線の供給を停止し、As分子線のみを成長中のGaAsの表面に照射する。するとGaAsの表面は、Asによって終端される。
【0207】
このAsで終端されたGaAsの表面に、Si又はGeを偶数原子層成長して挿入層52を形成する(図5参照)。この間も成長中の半導体層にAs分子線を照射し続け、Si又はGeからなる原子層の表面をAs原子で覆う。
【0208】
その後、再びGa分子線の供給を開始すると、それまで成長してきた半導体層とは副格子の原子種が交換したGaAs層の成長が開始する(副格子交換エピタキシー)。このような副格子交換は、[1,0,0]軸の周りの90°回転操作と等価である。
【0209】
尚、Si及びGeは、GaAsに対してn型のドーパントとして作用する。しかし、Si及びGeからなる挿入層52は、n型のGaAsからなる共通電極層8の内部に形成されるので、量子ドット構造が形成される第1及び第2の光電変換層26,28の電子状態に殆ど影響を及ぼさない。尚、挿入層52を設ける位置は、共通電極8の内部であれば何処でもよく、又は、共通電極8に接する位置であってもよい。
【0210】
(iv)第2の光電変換層
次に、第2の光電変換層28を、第1の光電変換層26と同じように成長する。
【0211】
但し、第2の光電変換層28は、第1の光電変換層26に対して副格子交換しているので、量子ドットは[1,0,0]軸の周りに90°回転した状態で形成される。
【0212】
すなわち、その長軸方向は、GaAs基板3の[0,1,1]方向を向いている。一方、その短軸方向は、GaAs基板3の[0,1,−1]方向を向いている。
【0213】
この量子ドットの基底準位から、GaAs基板3の[0,1,1]方向の閉じ込めに基づく励起準位への光遷移は波長10.5μm(λ)の赤外線によって発生する。一方、基底準位から、GaAs基板3の[0,1,−1]方向の閉じ込めに基づく励起準位への光遷移は波長8.0μm(λ)の赤外線によって発生する。
【0214】
(v)上部電極層
次に、基板温度600 ℃で、第2の光電変換層28の上に、厚さ1000 nm のn型GaAsからなる共通電極層12を成長する(図5参照)。ドーパントはSiを用い、その密度は2×1018 / cmとする。
【0215】
以上の結晶成長工程により、半絶縁性のGaAs基板3の上に、QDIPとなる半導体積層構造が形成される。
【0216】
(II)加 工
このように成長した半導体積層構造に対して、下部電極層4までの削掘と、共通電極層8までの削掘を行い、その後、上部電極層12、共通電極層8、下部電極層4夫々に電極を形成する。
【0217】
これらの工程は、例えば、周知のリソグラフィー、ドライエッチング、及び金属蒸着法などを用いて行う。電極としては、例えば、AuGe/Au電極を形成する。
【0218】
これらの工程により、実施の形態1で説明したQDIP24が完成する。
【0219】
(実施の形態7)
本実施の形態は、実施の形態4に係るQDIP94の製造方法に関するものである。
【0220】
本実施の形態の製造法は、実施の形態6で説明したQDIP24の製造方法と殆ど同じである。但し、第2の光電変換層100を成長する際、中間層30の上に成長するIn0.6Ga0.4Asを2原子層分より多い2.3原子層分とする点で異なる。
【0221】
その他の点は、実施の形態6と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】実施の形態1に係わる量子ドット赤外線光検出器(QDIP)の構成を説明する断面図である。
【図2】実施の形態1に係わる量子ドット赤外線光検出器(QDIP)の光電変換層の構成を説明する要部断面図である。
【図3】光電変換層を構成する量子ドットの平面形状を説明する図である。
【図4】副格子交換によるGaAs格子の空間反転を説明する図である。
【図5】副格子交換操作によって形成された量子ドット赤外線光検出器(QDIP)の構成を説明する断面図である。
【図6】副格子交換操作によって形成された量子ドット赤外線光検出器(QDIP)における、光電変換層に形成された量子ドットと結晶方位の関係を説明する図である。
【図7】楕円形の量子ドットの量子準位を説明する図である。
【図8】楕円形の量子ドットからなる光電変換層の分光感度スペクトルを説明する図である。
【図9】楕円形の量子ドットの長軸方向に偏光した光を入射した場合の、光電変換層の感度スペクトルを説明する図である。
【図10】楕円形の量子ドットの短軸方向に偏光した光を入射した場合の、光電変換層の感度スペクトルを説明する図である。
【図11】偏光入射光に対する量子ドット赤外線光検出器(QDIP)の動作を説明する図である。
【図12】実施の形態2に係る赤外線検出装置の構成を説明する図である。
【図13】実施の形態3に係る量子ドット赤外線光検出器(QDIP)の構成を説明する図である。
【図14】実施の形態3に係るQDIPに設けられた回折格子を説明する図である。
【図15】実施の形態4に係る赤外線検出装置の構成を説明する図である。
【図16】実施に形態5に係る赤外線イメージセンサの要部斜視図である。
【図17】QDIPアレイと信号読出回路からなる画像信号生成ユニットの主要部を説明するブロック図である。
【図18】画像信号生成ユニットを構成する画素部のブロック図である。
【図19】QDIPアレイが信号読出回路に実装された状態を説明する断面図である。
【図20】赤外線イメージセンサによる信号処理を説明する図である。
【図21】従来のQDIPの構成を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0223】
2・・・従来のQDIP 3・・・半導体基板 4・・・下側電極層
6・・・第1の光電変換層(従来技術) 8・・・共通電極層
10・・・第2の光電変換層(従来技術)
12・・・上部電極層 14,16,18・・・配線
20,22・・・入射光 24・・・QDIP(実施の形態1及び2)
26・・・第1の光電変換層 28・・・第2の光電変換層
30,34,38・・・中間層 32,36・・・量子ドット
35・・・第1層目の量子ドット層
40・・・第1の量子ドット
42・・・量子ドットの長軸方向(第1の光電変換層)
44・・・第2の量子ドット
46・・・量子ドットの長軸方向(第2の光電変換層)
48・・・空間反転前のGaAs 50・・・空間反転後のGaAs
52・・・挿入層 54・・・Ga原子 56・・・As原子
58・・・Si原子
61・・・量子ドットの長軸 62・・・量子ドットの短軸
64・・・[0,1,−1]方向の閉じ込めに基づく量子準位
66・・・[0,1,1]方向の閉じ込めに基づく量子準位
68・・・基底準位 70・・・電子 72・・・感度スペクトル
74・・・(偏光した)入射光 76・・・入射光の偏光方向
78・・・入射光 80・・・光入射面
82・・・第1の赤外線(波長λ) 84・・・第2の赤外線(波長λ
86・・・赤外線検出装置(実施の形態2)
88・・・偏光ユニット
90・・・偏光ユニットを通過した赤外線
91・・・QDIP(実施の形態3)
92・・・赤外線検出装置(実施の形態4)
93・・・回折格子 93´・・・偏光子
94・・・QDIP(実施の形態4)
95・・・赤外線の進行方向
96・・・偏光方向が変更可能な偏光ユニット
97・・・赤外線の電界成分の方向
98・・・第1の光電変換層(実施の形態4)
100・・・第2の光電変換層(実施の形態4)
102・・・偏光子の中心軸 104・・・入射光(赤外線)
106・・・[0,1,1]方向に偏光した第1の赤外線
108・・・[0,1,−1]方向に偏光した第2の赤外線
110・・・赤外線イメージセンサ 111・・・QDIPアレイ
112・・・画像信号生成ユニット 113・・・信号読出回路
114・・・画素部 116・・・垂直シフトレジスタ
118,122・・・スイッチ 120・・・水平シフトレジスタ
124・・・キャパシタ 126・・・MOSトランジスタ
128・・・接地配線 130・・・ソース
132・・・インジウムバンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の上に形成された、導電性の半導体からなる第1の電極層と、
前記第1の電極層の上に形成された前記第1の光電変換層と、
前記第1の光電変換層の上に形成された、導電性の半導体からなる第2の電極層と、
前記第2の電極層の上に形成された、第2の光電変換層と、
前記第2の光電変換層の上に形成された、導電性の半導体からなる第3の電極層からなる、
赤外線を電気信号に変換する光半導体装置において、
前記第1の光電変換層が、前記半導体基板の主面に投影した形状が、第1の方向に長軸を有する第1の量子ドットから成り、
前記第2の光電変換層が、前記主面に投影した形状が、前記第1の方向に交差する第2の方向に長軸を有する第2の量子ドットから成ることを
特徴とする光半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光半導体装置において、
前記第1の光電変換層を構成する第1の半導体層が、セン亜鉛鉱構造からなる面心立方構造を有し、
前記第2の光電変換層を構成する第2の半導体層が、セン亜鉛鉱構造からなる面心立方構造を有し、
前記第2の半導体層が、
前記第1の半導体層を構成する第1の副格子の占有原子種と、前記第1の半導体層を構成する第2の副格子の占有原子種を交換した結晶構造を有することを
特徴とする光半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光半導体装置において、
前記第1の量子ドットの大きさ及び形状が、前記第2の量子ドットの大きさ及び形状と同じであることを
特徴とする光半導体装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の光半導体装置において、
前記第1及び第2の量子ドットの大きさ及び形状の何れか一方又は双方が、前記第1の量子ドットと第2の量子ドットの間で異なることを
特徴とする光半導体装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光半導体装置と、
前記第1の方向又は第2の方向に偏光する光のみを、前記光半導体装置の光入射面に照射する偏光ユニットを具備した
赤外線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−231364(P2009−231364A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72021(P2008−72021)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、防衛省、「2波長赤外線センサ(その1)」試作研究請負契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】