説明

光検出器およびその製造方法

本発明はX線を電荷に変換するX線用の光検出器に関する。光検出器の活性有機層内にナノ粒子が加えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を電荷に変換するX線用光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
X線の検出に際してX線を電荷に直接変換する方法と間接的に変換する方法がある。間接法は差し当たりX線からの光子がシンチレーター内の材料と交互作用し、この材料が散乱光を作るような放出を行うという欠点を少なくとも有する。散乱光により間接法の解像度は直接法よりも劣ることになる。
【0003】
直接変換法では散乱光による不鮮明さが生じないので著しく高い解像度が達成される。フラットベッドスキャナー(FPD)の高い像解像度はフォトダイオードおよび光電導体におけるX線の電荷担体への直接変換により達成される。この種のフォトダイオードおよび光電導体の製造は、現在のところ手間が掛かり費用的に高価である。なぜなら直接変換を可能にする材料は通常アモルファスセレンであり、典型的な層厚は200μmであるからである。直接変換用のほかの材料としてはCdTe(テルル化カドミウム)またはCdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)が挙げられる。
【0004】
非特許文献1には、たとえばトリヨード化ビスマス(BiI3)などの無機材料からのナノ粒子が有機マトリクス(Nylon−11)に高い重量成分で埋め込まれている光電導体について報告されている。この技術では機械的に粉砕されたX線吸収剤が使用されるが、これはナノ粒子と呼ばれる定めにくいサイズと表面構造を有する。機械的に粉砕された粒子をポリマーマトリクスへ埋め込むのは困難であることが実証されている。さらにポリマーマトリクスとしては導電性の小さいポリマー(ポリシラン、ポリカルバゾール)が利用される。この種のハイブリッド光電導体における電流輸送は主としてヨード塩の定めにくい粒界に亘る電荷輸送により達成され、それゆえ比較的緩慢で劣っている。
【0005】
たとえば特許文献1から公知の有機フォトダイオードの利用は間接変換法との関連においてのみ公知である。そのほかは光検出器によるX線の変換技術は従来は無機の光検出器だけを利用していた。
【0006】
無機光検出器に比べて有機光検出器は大面積のものが製造可能であるという決定的な利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/017470号パンフレット
【特許文献2】未公開ドイツ特許出願第102008015290号明細書
【0008】
【非特許文献1】Y.Wang et al (Sciense 1996、632−634)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、従来技術の欠点を克服し、有機光検出器による直接変換を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象はX線を直接変換するための有機光検出器であり、課題の解決は、基板の上に1つの電極と、少なくとも1つの活性有機層と、そのうえに1つの上側電極とを有し、半導体有機マトリクスの活性層内に、X線を電荷に直接変換することを可能にする半導体ナノ粒子を加えることにある。さらに本発明の対象は、少なくとも有機活性層が溶液(湿式化学法)から作られる光検出器の製造方法である。
【0011】
本発明の有機光検出器は、電荷の発生と同じ層でX線の変換が行われるという特徴を有する。これによりX線撮影の高い解像度を達成できることが保証される。これは従来は高価な無機光検出器でしか実現できなかった。
【0012】
ごく一般的に言えば、種々の半導体ナノ粒子または種々のナノ粒子の混合物が、たとえば結晶としても使用することができる。
【0013】
有利な実施態様では、半導体層内に同様に有利には化学合成法により作られた半導体ナノ粒子が加えられる。
【0014】
ナノ粒子を作るための粉砕の際に、ナノ粒子の表面特性に影響を与える欠陥が生じることがある。
【0015】
代表的なナノ粒子はII−VI族またはIII−V族の化合物半導体である。またIV族の半導体も使用できる。理想的なナノ粒子は硫化鉛(PbS),セレン化鉛(PbSe),硫化水銀(HgS),セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)のような高いX線吸収特性を示す。エネルギーレベルの量子化が生じる(量子ドット)半導体ナノ粒子またはナノ結晶は1から典型的には20nmまでの直径、好適には1〜15nm、特に有利には1〜10nmの直径を有する。比較的大きな直径の半導体ナノ結晶はバルク特性を示し、これは同様に直接変換に利用することができる。光検出器の有機活性層の出発物質は溶液状態にあるかまたは溶剤中に懸濁液として存在し、湿式化学法による処理工程(スピンコーティング、ブレイドコーティング、プリンティング、ドクターブレイディング、スプレイコーティング、ローリングなど)により下側層の上にたとえば電荷結合素子(CCD)または薄膜トランジスタ(TFT)パネルの上に施される。層厚は製造方法次第でナノメートルまたはミクロメートル範囲である。構造化されていないトップ電極だけが必要である。
【0016】
半導体有機、特にポリマーマトリクスへの量子ドットの埋め込みは、なかんずくマルチプルスプレイコーティング法により行うことができる。この種の方法はたとえば特許文献2にポリマーベースの電子デバイスの製造用のマルチプルスプレイコーティング法として記載されている。
【0017】
特に有利な実施態様によれば、効率的なX線吸収を保証するために、直接変換用の厚さ100μm以上の厚い層が作られる。この層は上述の湿式化学法により一度にまたは全体層の構成のため半導体層と中間層との規則的な順序を持つ多重層により製造可能である。半導体層はそれぞれ湿式化学法により、たとえばスピンコーティング、ブレイドコーティング、プリンティング、ドクターブレイディング、ローリングなどにより設けられる。中間層は有利には良好な電子輸送能力または正孔輸送能力を有し、上側層を付ける際にその下にある有機半導体層の溶離を妨げる。図3にはこのような多重層構造の概略構造が示されている。
【0018】
しかし数100ミクロメートルの大きな層厚はスプレイ被覆または浸漬法によっても作ることができる。
【0019】
多重層はたとえば図4に示すように積層形のフォトダイオードまたは光電導体によっても作ることができる。
【0020】
作業工程は最大200℃の温度で行われ、フレキシブル基板上にも加工可能である。
【0021】
吸収層におけるたとえばPbSのようなナノ粒子の重量割合は本発明の一実施態様によれば極めて高く(典型的には50%以上、有利には55%以上、特に有利には60%以上)X線の高い吸収率を保証する。周囲光を遮蔽するために、例えば、特にカプセス化により、ダイオードの上に金属層が設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は有機フォトダイオードの典型的な構造を示す。
【図2】図2は活性有機層内に埋め込まれたナノ粒子を有するピクセル型光検出器を示す。
【図3】図3は厚い層を得るための多重層構造を示す。
【図4】図4は積層ダイオードの概略構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下において選択された図面に基づいて本発明の実施態様の幾つかの例を示す。
【0024】
図1は有機フォトダイオード1を示す。フォトダイオードは基板2上に有利には透明の下側電極3、その上にオプションとして正孔伝導層4、有利にはPEDOT/PSS層、その上にバルクヘテロ接合の形の有機光伝導層5、さらにその上に上側電極6を有する。たとえば有機ベースのフォトダイオードは垂直層系を有し、下側のインジウム−錫−酸化物電極(ITO電極)と上側のたとえばカルシウムおよび銀を含む電極との間にP3HT−PCBMブレンドを有するPEDOT層が存在する。吸収材および/または正孔輸送成分としてのP3HT(ポリ(ヘキシルチオフェニ)2−5−ディル)と電子アクセプタおよび/または電子ドナーとしてのPCBMフェニル−C61との両成分からなるブレンドはいわゆる「バルク−ヘテロ接合」として作用し、すなわち電荷担体の分離は全体の層体積内に形成される両材料の界面で行われる。溶液は他の材料と替えるかまたは混合することにより変更することができる。
【0025】
有機フォトダイオード1は阻止方向に駆動され、僅かな暗流を有する。
【0026】
本発明によれば、有機半導体活性層はナノ粒子(ここでは認識できない)を添加されている。1つの優れた実施態様によれば、ナノ粒子としてナノ結晶が使用される。
【0027】
ナノ粒子で修正された層をX線の変換用に適合させることは半導体結晶内のエネルギーギャップにより達成され、この半導体結晶はごく小さいナノ結晶の場合と同様に量子化されても存在し得る。半導体結晶のエネルギーギャップより大きいエネルギーを有する光子または高エネルギーX線量子が吸収されると、励起子(電子・正孔対)が発生する。ナノ結晶のサイズが3次元の全てで減少されると、エネルギーレベルの数が減少され、量子化された価電子帯と伝導帯との間のエネルギーギャップの大きさは結晶の直径に依存し、従ってその吸収または放出特性も変化する。たとえば約0.42eVのPbSのエネルギーギャップ(約3μmの光波長に相当)は約10nmの大きさのナノ結晶において1eV(1240nmの光波長に相当)に引きあげられる。
【0028】
ナノ粒子すなわちナノ結晶により吸収されるX線は励起子を発生する。そこから生じる有機半導体内の電子・正孔対は電界内でまたは有機半導体とナノ結晶との界面において分離され、パーコレーションパスにより「光子流」として相応する電極に流れることができる。
【0029】
図2は有機活性層5内に埋め込まれたナノ粒子7を備えたピクセル化されたパネル型光検出器の概略構造を示す。X線の変換は有機フォトダイオードにおいて直接行われる。半導体ナノ粒子すなわちナノ結晶を埋め込んだ電子アクセプタまたは電子ドナーからなる上述のバルクヘテロ接合は吸収材として作用する。
【0030】
図1から公知のフォトダイオードの構造のようにガラス基板2が設けられ、この基板が下側電極層3のドレイン電極13へのスルー接点9を備えた構造化されたパッシベーション層12を有しているが、ここでは有機活性層5の中にあるナノ粒子7もはっきりと示されている(全前面板)。ガラス基板はたとえば市販のa−Si-TFTすなわちアモルファスシリコン薄膜トランジスタを備えた無機のトラジスタアレイ(後面板)を有する。パッシベーション層12,8は、フォトダイオードをカプセル化する(たとえばガラスカプセル)かまたは個々のa−Si−TFTピクセル間の導電性を阻止する働きをする。
【0031】
下側電極層3の上にはオプションとして正孔輸送層4があり、その上に有機活性層5がある。この有機活性層の厚さは100〜1500μm、好適には約500μmである。この層の上に図1から公知の構造と同様に上側構造がある。
【0032】
ナノ粒子7に当たるX線14はそこで吸収され、それから励起子(図示せず)を放出する。図示のように電子15と正孔16とを含む電荷担体対が生じる。
【0033】
さらに図2は、基板2と下側のパッシベーション層12とが、構造化された下側電極3とともに市販の後面板10を形成し、これに対し活性有機層5を備えたデバイスの上側部分は前面板11を形成する。
【0034】
図3は、従来の湿式化学法により比較的厚い層の構造が可能である多重層構造を示す。この場合「通常」の薄膜技術で施される個々の有機活性層5、すなわち5a〜5dがそれぞれナノ粒子7で満たされているのが見受けられ、付加的にいわゆる「マジック層」である中間層17、すなわち17a〜17dが個々の薄膜を互いに分離している。上述のように中間層17は有利には良好な電子伝導率および/または正孔伝導率を有し、次の層を取り付ける際の溶離から下側の層を保護する。
【0035】
最後に図4は積層ダイオード1の概略構造を示す。任意の厚さの層をn個の積層されたダイオードで作ることができる。下側電極3、オプションの正孔輸送層4、ナノ粒子7を有する有機活性層5、陰極6および上側の中間層17がそれぞれ概略的に示されている。
【0036】
本発明によれば従来技術に対して以下の利点が得られる。
僅かな暗流と埋め込まれたX線吸収材(ナノ粒子またはナノ結晶)を備えた有機フォトダイオードまたは有機光電導体
b)定められた直径を備えた(溶液から作られた)ナノ粒子またはナノ結晶が機械的に粉砕されたため定めにくいナノ粒子と比べて電荷担体トラップの少ない再生可能な吸収材に導かれる。
c)湿式化学的処理により、X線の直接変換用のTFTパネルへのダイオード製造が真空技術および古典的な半導体製法技術を使用せずに実施できる。
d)半導体ポリマー内へのナノ結晶性X線吸収材の埋め込みが大面積処理を可能にする。
e)有機ダイオードの製造がフレキシブルTFT基板上で低い(200℃以下の)処理温度で行うことができる。
f)十分なX線吸収能力を有する数100μmの層がスプレイ被覆法または多重被覆法で得られる。
【0037】
本発明は、大面積の有機フォトダイオードまたは光電導体として湿式化学法によりフラットベッドスキャナー上に設けることができる有機半導体と半導体ナノ粒子との複合体に基づく直接X線変換器の費用的に有利な製造方法を含む。
【符号の説明】
【0038】
2 基板
3 下側電極
4 正孔伝導層
5 有機光伝導層
6 上側電極
7 ナノ粒子
8,12 パッシベーション層
14 X線
15 電子
16 正孔
17 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(2)の上に1つ電極(3)と、少なくとも1つの活性有機層(5)と、その上に1つの上側電極(6)とを有し、半導体有機マトリクスの活性層内に、X線を電荷に直接変換することを可能にする半導体ナノ粒子(7)が加えられているX線の直接変換用有機光検出器。
【請求項2】
ナノ粒子(7)がナノ結晶(7)として存在する請求項1記載の光検出器、
【請求項3】
ナノ粒子(7)つまりナノ結晶が化学合成により作られる請求項1または2記載の光検出器。
【請求項4】
ナノ粒子(7)がII−VI族、IV族またはIII−V族の化合物半導体である請求項1ないし3の1つに記載の光検出器。
【請求項5】
ナノ粒子(7)が硫化鉛(PbS)、セレン化鉛(PbSe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)および/またはテルル化水銀(HgTe)から成る請求項1ないし4の1つに記載の光検出器。
【請求項6】
ナノ粒子(7)が1〜20nmの典型的な直径を有する請求項1ないし5の1つに記載の光検出器。
【請求項7】
光検出器の有機活性層(5)が100μm以上の層厚を有する請求項1ないし6の1つに記載の光検出器。
【請求項8】
層厚が中間層(17)を備えた有機活性層(5)の多重化により得られる請求項7記載の光検出器(図3)。
【請求項9】
層厚がフォトダイオードの積層により生じる請求項7記載の光検出器(図4)。
【請求項10】
金属層がフォトダイオード(1)の上に配置されている請求項1ないし9の1つに記載の光検出器。
【請求項11】
活性有機層(5)内のナノ粒子(7)が少なくとも50%の体積割合にある請求項1ないし10の1つに記載の光検出器。
【請求項12】
少なくとも有機活性層(5)が溶液(湿式化学法)から作られる光検出器の製造方法。
【請求項13】
有機活性層(5)がスピンコーティング、ブレイドコーティング、プリンティング、ドクターブレイディング、スプレイコーティングおよび/またはローリングにより作られる請求項12記載の光検出器の製造方法。
【請求項14】
作業工程が最大200℃までの温度で行われる請求項12または13記載の光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526071(P2011−526071A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515364(P2011−515364)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057864
【国際公開番号】WO2009/156419
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】