説明

全方向移動型電動車両およびその制御方向

【課題】障害物回避動作を行う全方向移動型電動車両は、操作した方向と異なる方向に動作するため、操作者に対し強い違和感や不安感を抱かせるという問題がある。
【解決手段】車体部14と、操作者が操作した操作方向および操作量を検出する車体部14に設けた操作入力部13と、障害物までの距離および方向を検出する障害物センサ18と、操作入力部において検出される操作方向および操作量により操作力を算出する操作力推測部17と、障害物センサ18が検出した障害物までの距離に反比例し、かつ、障害物と反対方向に作用する仮想斥力を算出する仮想斥力算出部19と、操作力および仮想斥力の和より合力を算出する合力算出部20と、車体部14を操作力の方向から合力の方向へ回転させながら、合力の方向へ移動するよう制御する制御部21とを備えた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者の操作に基づいて、前後方向、左右方向、斜め方向など全方向へ自走する全方向移動型電動車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院、介護施設等で利用される車椅子として、オムニホイールを用いて全方向へ自走する電動車椅子が提案されている。このような電動車椅子は、車体部の向きを変えることなく全方向へ移動できるため、ベッドに横付けしたり、病室の狭いスペースを移動するのに有用である。
【0003】
同様に、工場、商業施設等で利用される搬送台車においても、全方向へ自走するパワーアシストカートが提案されている。
【0004】
上述した電動車椅子およびパワーアシストカートは、全方向移動型電動車両の一例である。全方向移動型電動車両は、乗車した操作者、または、全方向移動型電動車両を押しながら歩行する操作者により、操作者と一体となって移動する。
【0005】
この時、操作に不慣れなユーザが操作した場合には、操作ミス等により、移動方向にある障害物に、全方向移動型電動車両が衝突することがある。
【0006】
そこで、移動方向に障害物が存在すると、その障害物を自動で回避する全方向移動型電動車両が望まれている。
【0007】
障害物を検出すると、その障害物を回避して走行する独立2輪駆動型パワーアシストカートが従来より提案されている。
【0008】
図6は、従来の独立2輪駆動方式のパワーアシストカート1の上面図である。パワーアシストカート1は、障害物10を回避して走行するために、制御部(図示せず)で、操舵ハンドル2に加わる力の大きさと方向である操作力Fopeを計測する。さらに、制御部で、障害物センサ5、6、7の検知出力に基づいて障害物10までの距離と方向を検出し、障害物10までの距離と方向よりパワーアシストカート1の車体部8を障害物10より遠ざける仮想斥力Fobjを演算する。そして、制御部で、操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力Fmove(=Fope+Fobj)にアシスト率Kを積算してアシスト力F(=K・Fmove)を算出し、アシスト力Fに基づいて駆動操舵輪9を動かす駆動部(図示せず)を制御する。なお、自在輪4は、駆動操舵輪9と共に車体部8を支えるための車輪である。
【0009】
アシスト力Fに基づいて駆動操舵輪9を動かすことで、パワーアシストカート1は、操作者が旋回操作を行わなくとも自動的に障害物10を回避して走行する(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
このように操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力Fmoveに基づいて動作させることにより、障害物回避を行う制御方式を、全方向に移動可能な全方向移動型電動車両に適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−55480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、合力Fmoveに基づいて移動する全方向移動型電動車両(パワーアシストカート1)が障害物回避を行う場合、操作入力部(操舵ハンドル2)の操作方向と異なる方向へ全方向移動型電動車両が移動してしまう。例えば、全方向移動型電動車両の前方斜め左に障害物がある場合、操作入力部であるジョイスティックを全方向移動型電動車両の前方に倒していても、全方向移動型電動車両は車体部の姿勢を変えず右斜め前方へ移動する。その場合、ジョイスティックで指示した方向と異なる方向へ移動することになり、乗車者でもある操作者は全方向移動型電動車両の操作に強い違和感や不安感を抱いたり、場合によっては混乱したりしてしまう。
【0013】
つまり、従来の全方向移動型電動車両は、仮想斥力によってジョイスティックの操作方向と異なる方向に移動するため、操作者に対し強い違和感や不安感を抱かせたり、場合によっては混乱させたりしてしまう場合がある。
【0014】
そこで、本発明は、操作入力部の操作方向と車体部の移動方向の差異を小さくして、操作者の違和感や不安感を解消した全方向移動型車両およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の全方向移動型電動車両の制御方法は、操作入力部に入力された操作方向および操作量を検出する操作入力検出工程と、前記操作入力部で検出された操作方向および操作量に基づいて目標移動方向を設定する目標方向設定工程と、周囲の障害物までの距離および方向を検出する障害物検出工程と、前記障害物検出工程で検出された障害物までの距離および方向に基づき、前記目標移動方向を前記障害物を回避する方向へ修正し、前記操作方向から前記目標移動方向に回転させながら、前記目標移動方向に移動させることを特徴とする。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明の全方向移動型電動車両は、車体部と、入力された操作方向および操作量を検出する操作入力部と、周囲の障害物までの距離および方向を検出する障害物センサと、前記操作方向および前記操作量に基づいて前記車体部を移動させる目標移動方向を設定し、前記障害物センサで検出された障害物までの距離および方向に基づいて前記目標移動方向を前記障害物を回避する方向へ修正し、前記車体部を前記操作方向から前記目標移動方向に回転させながら前記目標移動方向へ移動させる制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、操作者は、全方向移動型電動車両を違和感や不安感なく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における電動車椅子を示す図であり、(a)上面図、(b)要部ブロック図
【図2】本実施の形態1における電動車椅子の斜視図
【図3】本実施の形態1における制御回路部で行われる制御の第1のフローチャート
【図4】本実施の形態1における制御回路部で行われる制御の第2のフローチャート
【図5】本実施の形態1における障害物回避を行う電動車椅子を説明するための図
【図6】従来のパワーアシストカートの上面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は理解を容易にするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0020】
(実施の形態1)
図1(a)(b)は、本発明の実施の形態1における電動車椅子11を示す図であり、図1(a)は上面図であり、図1(b)は要部ブロック図である。図2は、電動車椅子11の斜視図である。なお、理解を容易にするために、電動車椅子11と共に動く車両座標系Σr(互いに直交する三つのx軸、y軸、z軸を有する座標系)を、図1(a)、図2に設定している。x軸とy軸から構成される平面は地面に対して平行な水平面とし、x軸は電動車椅子11の前方を向いているものとする。
【0021】
また、図1(a)に示すように、地面に固定された基準座標系Σ(互いに直交する三つのx軸、y軸、z軸を有する座標系)を設定している。そして、x軸の方向に対するx軸の方向を電動車椅子11の姿勢と定義する。電動車椅子11を、z軸まわりに回転させることにより、電動車椅子11の姿勢を変えることができる。
【0022】
図1(a)、図2に示す電動車椅子11は、自身の姿勢を変えずに全方向へ移動することができる全方向移動型電動車両であり、乗車者でもある操作者が操作する操作入力部13の操作方向および操作量に従って移動する。また、理解しやすくするために、操作力,仮想斥力および合力は、車両座標系Σrの原点を基準に生成されるものとする。
【0023】
電動車椅子11は、近くに障害物があると、障害物を回避するようにその移動方向を自動修正する。この時、電動車椅子11を、操作入力部13の操作方向と電動車椅子11の移動方向とが近づくようにz軸を中心に回転させることで、障害物を自動回避する場合でも操作入力部13の操作方向と電動車椅子11の移動方向とを近づけて不安感のない操作を実現する。
【0024】
次に、電動車椅子11の構成を説明する。
【0025】
電動車椅子11は、自身の姿勢を変えることなく全方向へ移動することができる車体部14と、操作者が操作する操作入力部13と、障害物までの距離および方向を検出する障害物センサ18と、を有する。
【0026】
車体部14は、底面に十字状に設置された4つのモータ24a、24b、24c、24dを有する。4つのモータ24a、24b、24c、24dのそれぞれの駆動軸には、オムニホイールである車輪25a、25b、25c、25dが取り付けられている。4つの車輪25a、25b、25c、25dの中心は、車両座標系Σrの原点と一致するものとする。そして、モータ24a、24b、24c、24dをそれぞれ独立に制御し、車輪25a、25b、25c、25dをそれぞれの回転方向および回転速度で個別に動作させることにより、車体部14を前後方向、左右方向、斜め方向など全方向へ移動させることができる。また、車両座標系Σrのz軸を中心に回転して姿勢を修正することもできる。さらに、車体部14は、操作者が座る座面部15と、アームレスト16とを有する。
【0027】
また、操作入力部13は、ジョイスティックを用いており、操作者が操作した操作方向と操作量を検出する。
【0028】
また、障害物センサ18には、レーザレンジファインダを用いており、障害物までの距離および方向を検出する。また、障害物センサ18は、本実施の形態1では、例えば障害物を検出できる検出範囲が3m以内のものを利用している。
【0029】
さらに、図1(b)に示すように、電動車椅子11は、車体部14に取り付けられた制御回路部22に、操作力推測部17と、仮想斥力算出部19と、合力算出部20と、車体部14の回転および移動を制御する制御部21とを有する。
【0030】
操作力推測部17は、操作入力部13において検出される操作方向および操作量から操作力Fopeを算出する。そして、操作入力部13に入力される操作方向が矢印Cの方向であると、矢印Cと同じ方向に操作力Fopeが発生する。なお、操作入力部13に力を直接検出する力センサを用いた場合、操作力推測部17は、検出した力から操作力Fopeを算出する。
【0031】
仮想斥力算出部19は、障害物センサ18で検出された障害物までの距離に反比例し、かつ、障害物と反対方向に作用する仮想斥力Fobjを算出する。合力算出部20は、操作力Fopeおよび仮想斥力Fobjの合力Fmoveを算出する。なお、合力Fmoveの算出の際、仮想斥力Fobjに対し、大きさが0〜1のゲインを乗じてもよい。このゲインは、操作者が操作入力部13を動かしておらず、操作力Fopeの大きさがゼロの場合、大きさが0であり、操作者が操作入力部13を動かし、操作力Fopeの大きさが大きくなるに従い、0から徐々に大きくなり、操作力Fopeの大きさが最大になった場合、大きさが1となる。
【0032】
このようにすることにより、操作者が操作入力部13を動かしていない場合には、たとえ近くに障害物があったとしても、合力Fmoveがゼロと算出されるため、操作者が意図していない場合に勝手に電動車椅子11が移動することがない。そして、操作者が操作入力部13を動かした場合、その大きさに基づいて障害物回避動作が行われる。すなわち、操作者が意図したときに意図した大きさの動作が行われるため、安全性の高い操作が可能となる。
【0033】
また、制御部21は、操作力Fopeの方向と合力Fmoveの方向とのなす角が小さくなるように、矢印Bの方向へ車体部14を回転させながら、合力Fmoveの方向(矢印Aの方向)へ車体部14が移動するように制御する。
【0034】
このように、車体部14を回転させて、矢印Cで示す操作入力部13の操作方向と電動車椅子11の移動方向とを近づけることで、障害物回避のために仮想斥力Fobjが働いても操作方向と移動方向とのなす角が小さくなるため、操作者は違和感や不安感なく電動車椅子11を利用することができる。
【0035】
図3は、制御回路部22で行われる電動車椅子11の制御の第1のフローチャートであり、図4は、制御回路部22で行われる殿堂車椅子11の制御の第2のフローチャートである。
【0036】
電動車椅子11が作動している状態で、操作者が操作入力部13を動かすと、操作入力部13で、その動きの操作方向と操作量が検出される(ステップS01)。すると、操作入力部13で検出された操作方向および操作量から操作力推測部17で操作力Fopeが算出される(ステップS02)。算出された操作力Fopeは、操作者が電動車椅子11を移動させたい移動方向および移動推進力を意味する。なお、この時、操作入力部13の操作方向と操作力Fopeの方向は同じである。
【0037】
次に、障害物センサ18で電動車椅子11周辺の障害物が検出される(ステップS03)。そして、障害物センサ18で障害物が検出されたか否かが判定される(ステップS04)。
【0038】
ステップS04で障害物が検出されると、障害物センサ18で検出された障害物までの距離および方向から仮想斥力算出部19で仮想斥力Fobjが算出される(ステップS05)。仮想斥力算出部19は、障害物までの距離に反比例し、かつ、障害物と反対方向に作用する仮想斥力Fobjを算出する。
【0039】
次に、合力算出部20で、操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力Fmoveが算出される(ステップS06)。この時の合力Fmoveの方向が電動車椅子11の移動方向となり、合力Fmoveの大きさに変換係数を乗じた値が電動車椅子11の目標移動速度となる。なお、本実施の形態1では、電動車椅子11の移動動作に関する見かけの粘性係数Dを設定し、変換係数として1/D(粘性係数)を用いる。すなわち、目標移動速度は、合力Fmoveに1/D(粘性係数)を乗じて算出され、その大きさは合力Fmoveの大きさに比例し、その方向は合力Fmoveの方向と一致する。
【0040】
また、合力Fmoveの大きさを電動車椅子11に作用させる移動推進力とし、その移動推進力に基づいて電動車椅子11を動作させてもよい。
【0041】
次に、制御部21で、操作力Fopeと合力Fmoveのなす角である補正角θaが算出される(ステップS07)。なお、電動車椅子11は合力Fmoveの方向へ移動するため、合力Fmoveの方向が電動車椅子11の移動方向である。また、操作力Fopeの方向が、操作者が操作した方向である。もし、電動車椅子11が操作方向と補正角θaずれた方向である合力Fmoveの方向に移動すると、操作した方向とは異なるため、操作者は違和感や不安感を感じてしまうことになる。
【0042】
次に、制御部21で、補正角θaが姿勢変更角以上であるか否かを判定される(ステップS08)。なお、本実施の形態1における電動車椅子11は、姿勢変更角を60°としている。人間の視野角は、水平約200°であるが、視細胞の分布や眼球の構造上、中心ほど分解能が高く注意も向けやすいという性質がある。情報受容能力に優れる有効視野は水平30°であり、頭部の運動を伴うことで無理なく対象を注視できる安定注視野は水平に60〜90°である。本実施の形態1では、安定注視野である60°を姿勢変更角と設定した。なお、加齢や障害等により、視野角は変化するため、60°に限定されるものではない。有効視野である30°から人間の視野角である200°の範囲内で、操作者の状態に応じて設定すればよい。
【0043】
そして、補正角θaが姿勢変更角以上であれば、制御部21は、車体部14の移動を止めて、操作力Fopeの方向と合力Fmoveの方向とのなす角が小さくなるように、モータ24a、24b、24c、24dを制御して、車体部14をz軸まわりに回転させる(ステップS09)。
【0044】
また、補正角θaが姿勢変更角未満であれば、制御部21は、操作力Fopeの方向と合力Fmoveの方向とのなす角が小さくなるように車体部14をz軸まわりに徐々に回転させながら、合力Fmoveに基づいて車体部14を移動させる(ステップS10)。つまり、補正角θaが姿勢変更角未満であれば、制御回路部22は、ステップS01〜ステップS08、ステップS10を繰り返す。そして、補正角θaが姿勢変更角以上であれば、制御回路部22は、ステップS10を実行する。これにより、操作者が違和感や不安感を強く感じるくらい補正角θaが大きい場合には、まず補正角θaが小さくなるまで電動車椅子11の操作方向と移動方向とを近づけることで、操作者の違和感や不安感を抑制する。
【0045】
なお、このように車体部14の姿勢をz軸まわりに回転させている回転動作について、音を発生させたり、LED等で発光させて、姿勢修正中(回転中)である旨を操作者へ伝える手段(図示せず)を更に備えるのが好ましい。このような手段を備えることで、操作者は、移動方向が変わっているのではなく、車体部14がz軸まわりに回転していることを認識することができる。
【0046】
また、ステップS03において障害物センサ18で障害物を検出し、ステップS04で障害物がないと判断されると、図4に示すように、制御部21は、車体部14を操作力Fopeに基づいて車体部14を移動させる(ステップS11)。障害物を検出しないので仮想斥力Fobjが発生せず、操作方向と移動方向は一致しているので、障害物が検出されない場合、操作者の違和感や不安感が発生することはない。
【0047】
なお、補正角θaが姿勢変更角以上の場合、車体部14の移動を止めて姿勢を修正するのではなく、操作者が不安感を抱かないように、合力Fmoveの大きさを半分以下に制限して、操作力Fopeの方向と合力Fmoveの方向とのなす角が小さくなるように車体部14の姿勢をz軸まわりに徐々に回転させながら移動させてもよい。このように合力Fmoveを制御することで、操作方向と移動方向とが大きくずれたまま車体部14が並進移動を行なっても、操作者に対する違和感や不安感を抑えることができる。
【0048】
図5は、本実施の形態1における障害物回避を行う電動車椅子11を説明するための図である。
【0049】
領域Mにある電動車椅子11は、操作力Fopeの方向に移動し続けると障害物31に衝突してしまう。この時、障害物センサ18が障害物31を検出していると、障害物31までの距離と方向に応じて仮想斥力Fobjが算出される。
【0050】
そして、操作力Fopeと仮想斥力Fobjより合力Fmoveを算出して、合力Fmoveの方向へ電動車椅子11が移動する。この時、操作力Fopeの方向と合力Fmoveの方向とのなす角が小さくなるように矢印Qの方向に電動車椅子11を回転させながら移動する。すると、操作入力部13の操作方向(操作力Fopeの方向)が電動車椅子11の移動方向(合力Fmoveの方向)に近づいていくため、操作者は、電動車椅子11の操作性に違和感や不安感なく操作することができる。また、操作者は、電動車椅子11が回転することで、障害物31が存在していることに気づくことができる。
【0051】
その後、領域Nの位置に移動する。電動車椅子11の移動に伴い、仮想斥力Fobjの大きさ及び方向は変わっていく。
【0052】
そして、領域Nの位置にある電動車椅子11は、Fmoveの方向へ移動しながら、矢印Qの方向へ回転し、領域Lに移動する。
【0053】
ただし、補正角θaが姿勢変更角以上である場合は、電動車椅子11を動かすための制御が異なる。
【0054】
補正角θaが姿勢変更角以上の角度である場合、そのまま移動すると操作した方向と移動する方向の差が大きいため、操作者は違和感や不安感を強く感じてしまう。そこで、合力Fmoveの方向へ車体部14を移動させながら車体部14を回転させて姿勢を修正するのではなく、まず、車体部14を回転させて補正角θaが姿勢変更角未満になった後、合力Fmoveの方向への車体部14の移動を行う。このような順序で車体部14を制御することで、操作方向と移動方向とが大きくずれた状態で電動車椅子11が移動することがなく、操作者に対する違和感や不安感を抑えるようにしている。なお、本実施の形態1で、姿勢変更角を60°とするが、不安感は操作者それぞれによって異なるために、60°に限定されるものではない。また、補正角θaが姿勢変更角以上の角度である場合、上記の方法では、補正角θaが姿勢変更角未満になるまで合力Fmoveの方向への移動が無効になるように制御したが、移動を無効にせず移動速度を制限する制御を行ってもよい。
【0055】
なお、操作力Fopeは、操作入力部13において検出される操作方向および操作量により操作力推測部17で算出されているが、操作者が電動車椅子11に加えた操作力Fopeを直接検出する操作力入力機構を用いてもよい。つまり、操作入力部13と操作力推測部17との代わりに、操作力入力機構を車体部14に設けてもよい。
【0056】
また、上述した内容は、操作力および仮想斥力に基づいて移動する全方向移動型電動車両に関して説明したが、上述のように力ベースの制御系に適用するのではなく、速度ベースの制御系に適用してもよい。すなわち、操作力および仮想斥力の代わりに操作速度および回避速度に基づいて移動する全方向移動型電動車両に対して、上述した内容を適用してもよい。
【0057】
この場合には、操作力推測部17の代わりに、操作速度算出部を設け、操作速度算出部にて、操作入力部13において検出される操作方向および操作量に基づき、操作速度を算出する。そして、仮想斥力算出部19の代わりに、回避速度算出部を設け、回避速度算出部にて、障害物センサが検出した障害物までの距離に反比例し、かつ、障害物と反対方向に作用する回避速度を算出する。そして、合力算出部20の代わりに、合成速度算出部を設け、合成速度算出部にて、操作速度および回避速度の合成速度を算出し、車体部を操作速度の方向から合成速度の方向へ回転させながら、合成速度の方向へ移動するように車体部14を制御してもよい。
【0058】
つまり、全方向移動型電動車両は、車体部と、操作者が操作した操作方向および操作量を検出する車体部に設けた操作入力部と、操作入力部において検出される操作方向および操作量により操作速度を算出する操作速度算出部と、障害物までの距離および方向を検出する障害物センサと、障害物センサが検出した障害物までの距離に反比例し、かつ、障害物と反対方向に作用する回避速度を算出する回避速度算出部と、操作速度および回避速度の合成速度を算出する合成速度算出部と、車体部を操作速度の方向から合成速度の方向へ回転させながら、合成速度の方向へ移動するように制御する制御部とを備えた構成であってもよい。
【0059】
また、操作速度と合成速度とのなす角が、姿勢変更角以上である場合、制御部は、車体部を操作速度の方向から合成速度の方向へ回転させ、操作速度と合成速度とのなす角が、姿勢変更角未満になったら、車体部を操作速度の方向から合成速度の方向へ回転させながら、合成速度の方向へ移動するように制御してもよい。
【0060】
また、操作速度と合成速度とのなす角が、姿勢変更角以上である場合、合成速度の方向へ移動する移動速度の大きさを制限してもよい。具体的には、合成速度の半分以下の速度に制限する。このように合成速度を制限することで、操作方向と移動方向とが大きくずれたまま並進移動を行なっても、操作者に対する違和感や不安感を抑えることができる。
【0061】
また、上述した内容は、操作力および仮想斥力、あるいは、操作速度および回避速度に基づいて移動する全方向移動型電動車両に関するが、これに限定されるものではない。操作者が操作した操作方向および操作量に基づき、車体部が移動し、障害物センサで検出される障害物情報に基づき、車体部の移動方向を修正する全方向移動型電動車両であれば、上述した内容を適用できる。
【0062】
すなわち、車体部と、操作者が操作した操作方向および操作量を検出する前記車体部に設けた操作入力部と、前記操作入力部で検出される操作方向及び操作量に基づき、前記車体部を移動させる目標移動方向を設定し、前記車体部を前記目標移動方向へ移動させる制御部と、を備えた全方向移動型電動車両において、さらに、障害物までの距離および方向を検出する障害物センサを備えてもよい。この場合、制御部は、障害物センサで検出される障害物までの距離および方向に基づき、目標移動方向を障害物を回避する方向へ修正し、車体部を操作方向から目標移動方向に回転させながら、目標移動方向に移動させる構成であってもよい。
【0063】
また、操作速度と合成速度とのなす角が姿勢変更角以上である場合、制御部は、車体部を操作速度の方向から合成速度の方向へ回転させ、操作速度と合成速度とのなす角が姿勢変更角未満になったら、車体部を操作速度の方向から合成速度の方向へ回転させながら、合成速度の方向へ移動するように制御してもよい。
【0064】
また、操作方向と目標移動方向とのなす角が姿勢変更角以上である場合、制御部は、車体部を目標移動方向へ移動させずに操作方向から目標移動方向へ回転させ、操作方向と目標移動方向とのなす角が姿勢変更角未満になったら、車体部を操作方向から目標移動方向へ回転させながら、目標移動方向へ移動させるように制御してもよい。また、操作方向と目標移動方向とのなす角が、姿勢変更角以上である場合、目標移動方向への移動速度を制限して移動させるように制御してもよい。具体的には、合成速度の半分以下の速度に制限する。
【0065】
なお、全方向移動型電動車両として全方向移動型の電動車椅子11を用いて説明しているが、全方向移動型のパワーアシストカートに、上述した内容を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の全方向移動型電動車両は、操作者の違和感や不安感が少ない全方向型電動車両を利用することができる。そのため、全方向移動型の電動椅子車椅子、パワーアシストカート等に有用である。
【符号の説明】
【0067】
11 電動車椅子
13 操作入力部
14 車体部
15 座面部
16 アームレスト
17 操作力推測部
18 障害物センサ
19 仮想斥力算出部
20 合力算出部
21 制御部
22 制御回路部
24a,24b,24c,24d モータ
25a,25b,25c,25d 車輪
31 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作入力部に入力された操作方向および操作量を検出する操作入力検出工程と、
前記操作方向および前記操作量に基づいて目標移動方向を設定する目標方向設定工程と、
周囲の障害物までの距離および方向を検出する障害物検出工程と、
前記障害物検出工程で検出された障害物までの距離および方向に基づいて前記目標移動方向を前記障害物を回避する方向へ修正し、前記操作方向から前記目標移動方向に回転させながら、前記目標移動方向に移動させる
全方向移動型電動車両の制御方法。
【請求項2】
予め姿勢変更角を設定し、
前記操作方向と前記目標移動方向とのなす角が前記姿勢変更角以上の場合は、前記目標移動方向へ移動させずに、前記操作方向から前記目標移動方向へ回転させ、
前記操作方向と前記目標移動方向とのなす角が前記姿勢変更角未満の場合は、前記操作方向から前記目標移動方向へ回転させながら、前記目標移動方向へ移動させる
請求項1に記載の全方向移動型電動車両の制御方法。
【請求項3】
前記操作方向と前記目標移動方向とのなす角が前記姿勢変更角以上である場合は、前記目標移動方向への移動速度を制限して移動させる
請求項2に記載の全方向移動型電動車両の制御方法。
【請求項4】
車体部と、
入力された操作方向および操作量を検出する操作入力部と、
周囲の障害物までの距離および方向を検出する障害物センサと、
前記操作方向および前記操作量に基づいて前記車体部を移動させる目標移動方向を設定し、前記障害物センサで検出された障害物までの距離および方向に基づいて前記目標移動方向を前記障害物を回避する方向へ修正し、前記車体部を前記操作方向から前記目標移動方向に回転させながら前記目標移動方向へ移動させる制御部と、を備えた
全方向移動型電動車両。
【請求項5】
予め姿勢変更角を設定し、
前記操作方向と前記目標移動方向とのなす角が前記姿勢変更角以上の場合は、前記目標移動方向へ移動させずに、前記操作方向から前記目標移動方向へ回転させ、
前記操作方向と前記目標移動方向とのなす角が前記姿勢変更角未満の場合は、前記操作方向から前記目標移動方向へ回転させながら、前記目標移動方向へ移動させる
請求項4に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項6】
前記操作方向と前記目標移動方向とのなす角が前記姿勢変更角以上である場合は、前記目標移動方向への移動速度を制限して移動させる
請求項5に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項7】
車体部と、
入力された操作力を検出する操作力入力部と、
障害物までの距離および方向を検出する障害物センサと、
前記障害物センサで検出された障害物までの距離に反比例し、かつ、前記障害物と反対方向に作用する仮想斥力を算出する仮想斥力算出部と、
前記操作力および前記仮想斥力の合力を算出する合力算出部と、
前記操作力の方向から前記合力の方向へ回転させながら、前記合力の方向へ移動するように、前記車体部の移動を制御する制御部と、を備えた
全方向移動型電動車両。
【請求項8】
車体部と、
入力された操作方向および操作量を検出する操作入力部と、
前記操作方向および前記操作量に基づいて操作力を推測する操作力推測部と、
障害物までの距離および方向を検出する障害物センサと、
前記障害物センサで検出された障害物までの距離に反比例し、かつ、前記障害物と反対方向に作用する仮想斥力を算出する仮想斥力算出部と、
前記操作力および前記仮想斥力の合力を算出する合力算出部と、
前記操作力の方向から前記合力の方向へ回転させながら、前記合力の方向へ移動するように、前記車体部の移動を制御する制御部と、を備えた
全方向移動型電動車両。
【請求項9】
前記合力算出部は、大きさが0から1の範囲内で、前記操作力の大きさに比例して大きくなる係数を前記仮想斥力に乗じた値および前記操作力の合力を算出する
請求項7または8に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項10】
前記制御部は、
前記操作力の方向と前記合力の方向とのなす角が予め設定された姿勢変更角以上の場合は、前記車体部を前記合力の方向へ移動させずに前記操作力の方向から前記合力の方向へ回転させ、
前記操作力の方向と前記合力の方向とのなす角が前記姿勢変更角未満の場合は、前記車体部を前記操作力の方向から前記合力の方向へ回転させながら、前記合力の方向へ移動させる
請求項7から9のいずれか1項に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項11】
前記制御部は、
前記操作力の方向と前記合力の方向とのなす角が予め設定された姿勢変更角以上の場合は、前記合力の方向への移動速度を制限して移動させる
請求項7から9のいずれか1項に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項12】
車体部と、
入力された操作方向および操作量を検出する操作入力部と、
前記操作方向および前記操作量に基づいて操作速度を算出する操作速度算出部と、
障害物までの距離および方向を検出する障害物センサと、
前記障害物センサで検出された障害物までの距離に反比例し、かつ、前記障害物と反対方向に作用する回避速度を算出する回避速度算出部と、
前記操作速度および回避速度の合成速度を算出する合成速度算出部と、
前記操作速度の方向から前記合成速度の方向へ回転させながら、前記合成速度の方向へ移動するように、前記車体部の移動を制御する制御部と、を備えた
全方向移動型電動車両。
【請求項13】
前記合成速度算出部は、大きさが0から1の範囲内で、前記操作速度の大きさに比例して大きくなる係数を前記回避速度に乗じた値および前記操作速度の合成速度を算出する
請求項12に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項14】
前記制御部は、
前記操作速度の方向と前記合成速度の方向とのなす角が予め設定された姿勢変更角以上の場合は、前記車体部を前記合成速度の方向へ移動させず、前記操作速度の方向から前記合成速度の方向へ回転させ、
前記操作速度の方向と前記合成速度の方向とのなす角が前記姿勢変更角未満の場合は、前記車体部を前記操作速度の方向から前記合成速度の方向へ回転させながら、前記合成速度の方向へ移動するように制御する
請求項12または13に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項15】
前記制御部は、
前記操作速度の方向と前記合成速度の方向とのなす角が予め設定された姿勢変更角以上の場合は、前記合成速度の方向へ移動する移動速度の大きさを制限して移動させる
請求項12または13に記載の全方向移動型電動車両。
【請求項16】
前記制御部は、
前記車体部の回転動作時に、音を発生させる、あるいは、光を発光させる
請求項4から15のいずれか1項に記載の全方向移動型電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−90409(P2012−90409A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234309(P2010−234309)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「生活支援ロボット実用化プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】