説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関が完全な冷機状態で駆動する際に吸気系と排気系との間でガスを循環させ、排気ガスの清浄化と内燃機関温度の速やかな上昇とを図ることを目的とする。
【解決手段】この発明は、内燃機関の制御装置において、制御手段は、内燃機関の冷機状態を示す吸気温の設定値と、内燃機関の冷機状態を示す冷却水温の設定値と、スロットル弁の開度が所定値以下であることを示すスロットル開度の設定値とを有し、内燃機関の運転状態が、始動後燃料制御中であり、吸気温が設定値より低く、かつ冷却水温が設定値より低い運転状態である条件が成立し、さらに、スロットル開度が設定値より小さく、かつ燃料カット状態に制御中である条件が成立する場合に、排気ガス還流手段を開放するように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内燃機関の制御装置に係り、特に、氷点下となる寒冷地等で、内燃機関が完全な冷機状態で駆動する際に吸気系と排気系との間でガスを循環させ、排気ガスの清浄化と内燃機関温度の速やかな上昇とを図った内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載した内燃機関においては、運転状態に応じて適切に燃焼状態を得るために、制御装置により燃料の噴射量や排気ガスの還流量を制御している。
内燃機関の制御装置には、内燃機関に燃料を供給する燃料供給手段と、内燃機関に供給する空気量を制御するスロットル弁の開度を検知するスロットル開度検知手段と、内燃機関の吸気の温度を検知する吸気温検知手段と、内燃機関を冷却する冷却水の温度を検知する冷却水温検知手段と、排気ガスの吸気系への還流量を制御する排気ガス還流手段と、スロットル開度と吸気温度と冷却水温を含む内燃機関の運転状態に基づいて燃料供給手段及び排気ガス還流手段を制御するものがある。
【0003】
従来の内燃機関の制御装置には、排気ガスの還流量制御弁のリフト量、大気圧、エンジン回転数、吸気圧力、付着燃料量および付着燃料隔離量により、排気ガスの還流量を制御し、空燃費を最適化するものがある。
また、従来の内燃機関の制御装置には、内燃機関の始動時、再始動時における付着燃料量を推定しまたは、掃気して、始動時における要求燃料量を最適に制御するものがある。
さらに、従来の内燃機関の制御装置には、還流される排気ガスによる熱を混合気通路に伝えることで、燃料噴射後の燃料気化を容易にするものがある。
【特許文献1】特許第3462543号公報
【特許文献2】特願2004−144030号公報
【特許文献3】実開昭58−111347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関においては、燃料が噴射される吸気系の管内が冷機(氷点下)の場合、燃焼に寄与しない付着燃料が多いため、運転性を低下させる問題がある。このような問題に対しては、前記特許文献1〜2に開示されるように、内燃機関に供給される燃料が燃焼しているときの付着燃料を補正し、空燃比を最適化するように制御するものがある。
これに対して、内燃機関には、供給される燃料が燃焼していない状態として、燃料カット状態がある。燃料カット状態では、内燃機関は慣性空回り状態であることから、吸気管内面の付着燃料が吸入空気と一緒になって燃焼せずに排出されるため、排気ガスの清浄化の妨げとなる問題がある。
また、冷機状態の内燃機関の始動時には、付着燃料が多いことから、始動性が損なわれる問題がある。この問題に対して、前記特許文献2には、付着燃料を掃気する技術が開示されているが、付着燃料がそのまま燃焼せずに排出される問題がある。また、前記特許文献3には、混合気通路を還流される排気ガスの熱で暖めて燃料気化を促進する技術が開示されているが、通常、エンジンの始動時やエンジンの停止時には排気ガスの還流を停止しているため、始動時の付着燃料を気化できない問題がある。
【0005】
この発明は、燃焼室から吸気ポートひいては吸気マニホルドの分岐管までが凍結状態となるような内燃機関を完全な冷機状態で駆動する際に、良好な始動性を確保すること、排気ガスとして大気に放出するガスの清浄化を図ること、燃焼室温度など機関内部の温度を速やかに上昇させること、そのために還流する排気ガスの使用時間を早いタイミングから行い、その利用率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給手段と、内燃機関に供給する空気量を制御するスロットル弁の開度を検知するスロットル開度検知手段と、内燃機関の吸気の温度を検知する吸気温検知手段と、内燃機関を冷却する冷却水の温度を検知する冷却水温検知手段と、排気ガスの吸気系への還流量を制御する排気ガス還流手段と、スロットル開度と吸気温と冷却水温を含む内燃機関の運転状態に基づいて前記燃料供給手段及び前記排気ガス還流手段を制御する制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、前記制御手段は、内燃機関の冷機状態を示す吸気温の設定値と、内燃機関の冷機状態を示す冷却水温の設定値と、スロットル弁の開度が所定値以下であることを示すスロットル開度の設定値とを有し、前記制御手段は、内燃機関の運転状態が、始動後燃料制御中であり、前記吸気温検知手段の検知した吸気温が吸気温の設定値より低く、かつ前記冷却水温検知手段の検知した冷却水温が冷却水温の設定値より低い運転状態である条件が成立し、さらに、前記スロットル開度検知手段の検知したスロットル開度がスロットル開度の設定値より小さく、かつ前記燃料供給手段を燃料カット状態に制御中である条件が成立する場合に、前記排気ガス還流手段を開放するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の内燃機関の制御装置は、燃焼せずに排出され得る吸気系の付着燃料の多くを吸・排気系を含めた内燃機関全体の中で循環させ、付着燃料の未燃成分(HC成分)を大気中に放出する量を抑制できる。この発明の内燃機関の制御装置は、燃焼によったり触媒の機能によったりする発熱や、その伝達によって暖められた各部の蓄熱からの放射熱、それらを受けて高い温度の排気ガスを吸気系に戻し、熱を再利用して内燃機関の温度を上昇させることができる。この発明の内燃機関の制御装置は、触媒が充分活性化していなくても、早い時期から排気ガスの還流を行うことで、燃焼状態の安定する状態に早く移行させ、結果、完全暖機するまでの時間を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。図1は内燃機関の制御装置のシステム構成図、図2は制御手段の構成図、図3の(A)は排気ガス還流制御の実行条件判定を示す図、図3の(B)は排気ガス還流制御の復帰条件判定を示す図、図4は排気ガス還流制御のタイムチャートである。
図1において、1は内燃機関、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室である。内燃機関1のシリンダヘッド3には、燃焼室5に連通する吸気ポート6と排気ポート7とを設け、吸気ポート6と排気ポート7とを夫々開閉する吸気弁8と排気弁9とを設けている。
内燃機関1は、吸気管10とスロットルボディ11と吸気マニホルド12とを順次に接続し、吸気マニホルド12の分岐管13をシリンダヘッド3に接続し、吸気ポート6に連通するた吸気通路14を形成している。また、内燃機関1は、排気マニホルド15と触媒16と排気管17とを順次に接続し、排気マニホルド15の分岐管18をシリンダヘッド3に接続し、排気ポート7に連通する排気通路19を形成している。
前記シリンダヘッド3には、混合気に点火する点火プラグ20を取り付けている。前記スロットルボディ11には、内燃機関1に供給する空気量を制御するスロットル弁21を設けている。前記吸気マニホルド12には、内燃機関1に燃料を供給する燃料供給手段22を設けている。燃料供給手段22は、インジェクタ23を備えている。インジェクタ23は、内燃機関1に並設した吸気マニホルド12の取付部24近傍に、吸気通路14に臨ませて且つ吸気弁8に指向させて設けている。インジェクタ23は、燃料タンクから送られる燃料を吸気通路14に噴射する。
この内燃機関1には、排気通路19の排気ガスの一部を吸気通路14に還流させる排気ガス還流手段25を設けている。排気ガス還流手段25は、触媒16の直下流の排気通路19に上端側端を開口し、下端側端を吸気マニホルド12のスロットルボディ11近傍の吸気通路14に開口する排気ガス還流通路26を設け、この排気ガス還流通路26に吸気通路14への排気ガスの還流量(EGR量)を制御する還流量制御弁(EGR量制御弁)27を設けている。
前記スロットルボディ11には、内燃機関1に供給する空気量を制御するスロットル弁21の開度を検知するスロットル開度検知手段28を設けている。前記吸気管10には、内燃機関1の吸気の温度を検知する吸気温検知手段29を設けている。前記シリンダブロック2には、内燃機関1を冷却する冷却水の温度を検知する冷却水温検知手段30を設けている。前記インジェクタ23と還流量制御弁27とスロットル開度検知手段28と吸気温検知手段29と冷却水温検知手段30とは、制御装置31の制御手段32に接続している。制御手段32は、スロットル開度と吸気温と冷却水温とを含む内燃機関1の運転状態に基づいて、燃料供給手段22であるインジェクタ23及び排気ガス還流手段25である還流量制御弁27を制御する。
【0010】
内燃機関1の制御装置31は、制御手段32によってインジェクタ23から噴射する燃料を制御する。制御装置31による燃料噴射制御は、インジェクタ23から噴射する燃料の噴射時期及び噴射時間(量)を制御して、最適な時期に最適な量の燃料を噴射する。燃料噴射時期及び燃料噴射時間は、内燃機関1の始動時に実行される始動時噴射制御、通常運転時に実行される始動後噴射制御により決定される。また、制御装置31による燃料噴射制御は、運転状態に応じて燃料カット制御、排気ガス還流制御(EGR制御)を行う。
始動時噴射制御の燃料噴射時期は、始動時の冷却水温に応じた噴射タイミングが定められており、クランク角センサ信号に同期したシーケンシャル噴射を行う。始動時噴射制御の燃料噴射時間は、冷却水温により決定される始動時基本噴射時間に、吸気温補正、電圧補正、エンジン回転速度補正、大気圧補正を加え決定される。なお、始動時基本噴射時間は、冷却水温が低いほど噴射時間を長くして、始動性を向上させる。
始動後噴射制御の燃料噴射時期には、同期噴射と非同期噴射とがある。同期噴射は、通常時に行われ、設定した噴射終了時期となるように噴射開始タイミングを算出し、シーケンシャル噴射を行う。非同期噴射は、減速時燃料カット復帰時、急加速時等に行われ、クランク角センサ信号に同期せず、一時的に全気筒同時噴射を行う。始動後噴射制御の燃料噴射時間は、吸入空気量とエンジン回転速度により基本噴射時間を決定し、この基本噴射時間に各センサからの信号による各種補正を加え、運転状態に応じた最適な燃料噴射時間を決定する。各種補正には、吸気温補正、電圧補正、エンジン回転速度補正、大気圧補正、暖機補正、始動直後増量補正、高温再始動補正、加速増量減速減量補正、空燃費フィードバック補正、空燃費学習補正、パージ濃度補正、吸気管圧力補正がある。
燃料カット制御には、高回転時カット、減速時カット、高車速時カット、始動時カットがある。高回転時カットは、内燃機関1の過回転を防止するため、走行時においてはエンジン回転速度が高側規定値(例えば、6,800rpm)以上の条件が成立する場合に行い、停車時においてはエンジン回転速度が低側規定値(例えば、3,000rpm)以上、かつ規定時間(例えば、180秒)継続した条件が成立する場合に行う。減速時カットは、HC抑制及び燃費向上を図るため、スロットル弁21のスロットル開度が規定値以下、車速が規定値以上、エンジン回転速度が規定値以上、かつ冷却水温度が既定値以上の条件が成立する場合に行う。高車速時カットは、車速が規定値(例えば、180km/h)以上の条件が成立する場合に行う。始動時カットは、始動時の点火プラグ20のかぶりを防止するため、アクセルペダルを規定値まで踏み込んだ状態で内燃機関1の始動を行った条件が成立する場合に行う。なお、最近では、変速時にも微小時間の燃料カット制御を行っており、燃料カット制御の頻度が非常に多くなっている。
排気ガス還流制御は、エンジン負荷及びエンジン回転速度等に応じて還流量制御弁27の開度を最適に制御することで、NOx及びポンピングロスの低域を図る。なお、内燃機関1の始動時及び停止時は、還流量制御弁27を閉塞(全閉駆動)させるイニシャライズ制御を行う。
【0011】
この制御装置31の制御手段32は、内燃機関1の冷機状態を示す吸気温ATの設定値ATs(例えば、0℃)と、内燃機関1の冷機状態を示す冷却水温WTの設定値WTs(例えば、0℃)と、スロットル弁21の開度が所定値以下であることを示すスロットル開度THRの設定値THRs(例えば、0度[deg])とを有している。制御手段32は、これら設定値ATs、WTs、THRsを記憶部33に記憶している。
制御手段32は、内燃機関1の運転状態が、始動後噴射制御中であり、吸気温検知手段29の検知した吸気温ATが吸気温の設定値ATsより低く、かつ冷却水温検知手段30の検知した冷却水温WTが冷却水温の設定値WTsより低い運転状態である条件が成立し、さらに、スロットル開度検知手段28の検知したスロットル開度THRがスロットル開度の設定値THRsより小さく、かつ燃料供給手段22のインジェクタ23を燃料カット状態FCUTに制御中である条件が成立する場合に、排気ガス還流手段25の還流量制御弁27を開放(全開)するように制御する。
この内燃機関1の制御装置31は、燃料供給手段22のインジェクタ23を、内燃機関1に併設した吸気マニホルド12の取付部24近傍に設け、制御手段32に、温度検知手段として吸気マニホルド12の温度を検知するマニホルド温度検知手段34を併設し、かつ吸気マニホルド12の低温状態を示すマニホルド温度INTの設定値INTs(例えば、0℃)を設定している。制御手段32は、マニホルド温度INTの設定値INTsを記憶部33に記憶している。
制御手段32は、内燃機関1の運転状態が、吸気温検知手段29の検知した吸気温ATが吸気温の設定値ATsより低く、かつ冷却水温検知手段30の検出した冷却水温WTが冷却水温の設定値WTsより低い運転状態である条件と、あるいは、マニホルド温度検知手段34の検知したマニホルド温度INTがマニホルド温度の設定値INTsより低い条件とのうちの、一つ以上の条件が成立する場合に、排気ガス還流手段25の還流量制御弁27を開放(全開)するように制御する。
制御手段32は、燃料供給手段22のインジェクタ23の制御を燃料供給状態に復帰制御した条件が成立する場合に、または、スロットル開度検知手段28の検知したスロットル開度THRがスロットル開度の設定値INTsより大きくなった条件が成立する場合に、排気ガス還流手段25の還流量制御弁27を閉塞(全閉)するように制御する。制御手段32は、これらの各条件を判定部35により判定する。
【0012】
次に、この実施例の作用を説明する。
内燃機関1を始動する際の始動時噴射制御において、制御装置31は、初期(1回目を含む)噴射を行う前のクランキング中(モータによる回転中)では、還流量制御弁27を閉塞とする。目的としている燃料の壁面付着がないため、実施する必要がない。この時の動作は、結果的に、従来の内燃機関1における排気ガス還流制御(イニシャライズ)と同じような動作となる。
内燃機関1の始動後噴射制御において、制御装置31は、図2に示すように、制御手段32に、吸気温ATと、冷却水温WTと、マニホルド温度INTと、スロットル開度THRと、各設定値ATs、WTs、INTs、THRsと、燃料カット状態FCUTとを判定部35に取り込み、判定部35の判定結果にしたがって排気ガス還流手段25の還流量制御弁27を目標(EGRON)まで開閉するように制御する。
制御手段32は、内燃機関1の始動後噴射制御中に、図3(A)に示すように、吸気温ATが設定値ATsより低く(AT<ATs)、かつ冷却水温WTが設定値WTsより低い(WT<WTs)条件が成立し、さらに、スロットル開度THRが設定値THRsより小さく(THR<THRs)、かつ燃料カット状態に制御中(FCUT=1)である条件が成立すると、還流量制御弁27を開放(EGRON=1)するように制御する。
また、制御手段32は、内燃機関1の始動後噴射制御中に、図3(A)に示すように、マニホルド温度INTが設定値INTsより低い(INT<INTs)条件が成立し、さらに、スロットル開度THRが設定値THRsより小さく(THR<THRs)、かつ燃料カット状態に制御中(FCUT=1)である条件が成立すると、還流量制御弁27を開放(EGRON=1)するように制御する。内燃機関1は、還流量制御弁27の開放によって、吸気通路14と燃焼室5と排気通路19と排気ガス還流通路26とが環状に連絡する循環通路を形成する。
一方、制御手段32は、還流量制御弁27の開放制御中に、図3(B)に示すように、燃料カット状態に制御中でなく(FCUT=0)、インジェクタ23の制御を燃料供給状態に復帰制御した条件が成立する場合に、または、スロットル開度THRが設定値THRsより大きく(THR≧THRs)なった条件が成立する場合に、還流量制御弁27を閉塞(EGRON=0)するように制御する。
【0013】
この内燃機関1の制御装置31は、図4に示すように、内燃機関1の始動後噴射制御中に、吸気温ATが設定値ATsより低く、かつ冷却水温WTが設定値WTsより低い状態で、時間t0において、スロットル開度THRが全開(W.O.T.)であり、かつ燃料カット状態に制御中でなく(FCUT=0)、還流量制御弁27が閉塞(EGRON=0)している状態から、時間t1において、スロットル開度THRが設定値THRsより小さく(THR<THRs)なり、かつ燃料カット状態に制御中(FCUT=1)になると、還流量制御弁27を開放(EGRON=1)する。
内燃機関1の制御装置31は、時間t2において、スロットル開度THRが設定値THRsより大きく(THR≧THRs)なり、かつ燃料カット状態に制御中でなくなる(FCUT=0)と、還流量制御弁27を閉塞(EGRON=0)する。その後、内燃機関1の制御装置31は、時間t3において、スロットル開度THRが全開(W.O.T.)から閉じ方向に動作し、時間t4において、燃料カット状態に制御中(FCUT=1)になっても、還流量制御弁27を閉塞(EGRON=0)とする。
内燃機関1の制御装置31は、時間t5において、スロットル開度THRが設定値THRsより小さく(THR<THRs)なり、かつ燃料カット状態に制御中(FCUT=1)になると、還流量制御弁27を開放(EGRON=1)する。
なお、図3のタイムチャートでは、燃料カット制御の実施/復帰タイミングと還流量制御弁27の開閉タイミングをほぼ一致させているが、インジェクタ23の臨む位置と排気ガス還流通路26の下流側端開口とが空間的に離れているので、少しの時問的なずれは許容できる。
【0014】
このように、内燃機関1の制御装置31は、内燃機関1の始動後噴射制御中に、吸気温ATが設定値ATsより低く(AT<ATs)、かつ冷却水温WTが設定値WTsより低い(WT<WTs)条件が成立し、さらに、スロットル開度THRが設定値THRsより小さく(THR<THRs)、かつ燃料カット状態に制御中(FCUT=1)である条件が成立する場合に、還流量制御弁27を開放(EGRON=1)するように制御する。
内燃機関1の制御装置31は、還流量制御弁27の開放によって、吸気通路14の吸気や付着燃料を大気に排出することなく、吸気通路14と燃焼室5と排気通路19と排気ガス還流通路26との間で循環させる。また、内燃機関1の制御装置31は、還流量制御弁27の開放によって、触媒16の浄化能力に応じた触媒通過後の排気通路19の排気ガスを吸気通路14に還流させる。触媒16の活性前では、触媒16を活性化させるのに若干寄与した後で非常に多くのHCを含む排気ガスを還流し、触媒16の活性後では、触媒16である程度浄化されHC含有量が比較的少なく、また、ある程度高温となった排気ガスを還流する。吸気マニホルド12の素材が、樹脂製のように熱伝導率が低い材質ならば、保温効果が高いだけでなく、相対的に燃料の付着しやすいインジェクタ周りの温度を上げるのを早めるのに寄与できる。
これにより、この内燃機関1の制御装置31は、燃焼せずに排出され得る吸気系の付着燃料の多くを吸・排気系を含めた内燃機関全体の中で循環させ、付着燃料の未燃成分(HC成分)を大気中に放出する量を抑制することができる。また、この内燃機関1の制御装置31は、燃焼によったり触媒16の機能によったりする発熱や、その伝達によって暖められた各部の蓄熱からの放射熱、それらを受けて高い温度の排気ガスを吸気系に戻し、熱を再利用して冷機状態の内燃機関1の温度を上昇させることができ、付着燃料の気化を促進して離脱させることができる。さらに、この内燃機関1の制御装置31は、触媒16が充分活性化していなくても、早い時期から排気ガスの還流を行うことで、燃焼状態の安定する状態に早く移行させ、結果、内燃機関1が完全暖機するまでの時間を短くすることができる。
【0015】
また、この内燃機関1の制御装置31は、インジェクタ23を設けた吸気マニホルド12にマニホルド温度検知手段34を併設し、内燃機関1の始動後噴射制御中に、吸気温ATが設定値ATsより低く(AT<ATs)、かつ冷却水温WTが設定値WTsより低い(WT<WTs)条件と、あるいは、マニホルド温度INTが設定値INTsより低い(INT<INTs)条件とのうちの、一つ以上の条件が成立する場合に、還流量制御弁27を開放(EGRON=1)するように制御する。
これにより、この内燃機関1の制御装置31は、吸気マニホルド12に取り付けたインジェクタ23周りの温度を、より直接的に検知するマニホルド温度検知手段34を併設しているので、内燃機関1の状態を正確に把握して動作させることができる。
吸気マニホルド12に設けるマニホルド温度検知手段34は、吸気マニホルド12の分岐管13に設けたインジェクタ23から噴射される燃料が、吸気マニホルド12の内面に付着し易い状態にあるかを検知する。マニホルド温度検知手段34は、インジェクタ23からの燃料が付着し易い内壁面を持つところの温度が検知できれば良いので、吸気ポート6の設けられるシリンダヘッド3に設けても良い。この場合は、インジェクタ23も、シリンダヘッド3に設けても良い。
【0016】
さらに、この内燃機関1の制御装置31は、インジェクタ23の制御を燃料供給状態に復帰制御(FCUT=0)した条件が成立する場合に、または、スロットル開度THRが設定値THRsより大きく(THR≧THRs)なった条件が成立する場合に、還流量制御弁27を閉塞(EGRON=0)するように制御する。
これにより、この内燃機関1の制御装置31は、燃料カット制御が行われない場合は、直ちにこの臨時制御を停止させるので、通常の排気ガス還流制御に戻り、触媒16の浄化機能を考慮した最適な制御に移行できる。
なお、実施例においては、内燃機関1の冷機状態を判断する閾値である吸気温AT、冷却水温WT、マニホルド温度INTの設定値の例として、0℃に統一しているが、これに限らず、より低い値としても良いし、個別に値を設定しも良い。この設定値は、機関固有の状態で燃料が内壁面に付着する状態、いわゆる結露状態を判断できれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関が完全な冷機状態で駆動する際に吸気系と排気系との間でガスを循環させ、排気ガスの清浄化と内燃機関温度のを速やかな上昇とを図るものであり、原動機としての各種の内燃機関に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】内燃機関の制御装置の実施例を示すシステム構成図である。
【図2】制御手段の構成図である。
【図3】(A)は排気ガス還流制御の実行条件判定を示す図、(B)は排気ガス還流制御の復帰条件判定を示す図である。
【図4】排気ガス還流制御のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0019】
1 内燃機関
5 燃焼室
6 吸気ポート
7 排気ポート
12 吸気マニホルド
14 吸気通路
15 排気マニホルド
16 触媒
19 排気通路
22 燃料供給手段
23 インジェクタ
25 排気ガス還流手段
26 排気ガス還流通路
27 還流量制御弁
28 スロットル開度検知手段
29 吸気温検知手段
30 冷却水温検知手段
31 制御装置
32 制御手段
33 記憶部
34 マニホルド温度検知手段
35 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料を供給する燃料供給手段と、内燃機関に供給する空気量を制御するスロットル弁の開度を検知するスロットル開度検知手段と、内燃機関の吸気の温度を検知する吸気温検知手段と、内燃機関を冷却する冷却水の温度を検知する冷却水温検知手段と、排気ガスの吸気系への還流量を制御する排気ガス還流手段と、スロットル開度と吸気温と冷却水温を含む内燃機関の運転状態に基づいて前記燃料供給手段及び前記排気ガス還流手段を制御する制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、前記制御手段は、内燃機関の冷機状態を示す吸気温の設定値と、内燃機関の冷機状態を示す冷却水温の設定値と、スロットル弁の開度が所定値以下であることを示すスロットル開度の設定値とを有し、前記制御手段は、内燃機関の運転状態が、始動後燃料制御中であり、前記吸気温検知手段の検知した吸気温が吸気温の設定値より低く、かつ前記冷却水温検知手段の検知した冷却水温が冷却水温の設定値より低い運転状態である条件が成立し、さらに、前記スロットル開度検知手段の検知したスロットル開度がスロットル開度の設定値より小さく、かつ前記燃料供給手段を燃料カット状態に制御中である条件が成立する場合に、前記排気ガス還流手段を開放するように制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料供給手段を、内燃機関に併設した吸気マニホルドの取付部近傍に設け、前記制御手段に、温度検知手段として吸気マニホルドの温度を検知するマニホルド温度検知手段を併設し、かつ吸気マニホルドの低温状態を示すマニホルド温度の設定値を設定し、前記制御手段は、内燃機関の運転状態が、前記吸気温検知手段の検知した吸気温が吸気温の設定値より低く、かつ前記冷却水温検知手段の検知した冷却水温が冷却水温の設定値より低い運転状態である条件と、あるいは、マニホルド温度検知手段の検知したマニホルド温度がマニホルド温度の設定値より低い条件とのうちの、一つ以上の条件が成立する場合に、前記排気ガス還流手段を開放するように制御する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記燃料供給手段の制御を燃料供給状態に復帰制御した条件が成立する場合に、または、前記スロットル開度検知手段の検知したスロットル開度がスロットル開度の設定値より大きくなった条件が成立する場合に、前記排気ガス還流手段を閉塞するように制御する請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−267153(P2008−267153A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106992(P2007−106992)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】