説明

内燃機関の制御装置

【課題】エンジン回転数によらず、1回のプリイグ検出で圧縮プリイグと熱源プリイグを判定することができる内燃機関の制御装置を得る。
【解決手段】点火手段による点火とは関係なく自着火する異常燃焼を検出するための異常燃焼検出手段と、異常燃焼検出情報に基づいて異常燃焼発生時期を検出し、プリイグ判定時期と異常燃焼発生時期との比較に基づいて異常燃焼がプリイグニッションか否かを判定するプリイグ判定手段と、プレイグ判定手段からの異常燃焼発生時期と熱源プリイグ判定時期との比較に基づいて熱源プリイグと圧縮プレイグを判定する熱源プリイグ判定手段と、熱源プリイグと判定された場合に熱源プリイグの回避を行う第1の回避手段と、圧縮プリイグと判定された場合に圧縮プリイグの回避を行う第2の回避手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両に搭載される内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧縮比の火花点火式内燃機関において、燃焼騒音や出力変動を引き起こす異常燃焼が発生することがある。ここでの異常燃焼とは燃焼に伴う筒内の圧力変動が過剰に大きくなる現象を指し、一般に異常燃焼には火花点火実行前に発生するプリイグニッション(以下、プリイグという)と火花点火実行後に発生するノッキングが知られている。
【0003】
プリイグには筒内の混合気(空気と燃料の混じった気体)が圧縮により高温になって自着火する異常燃焼(以下、圧縮プリイグという)と、点火プラグ先端部やデポジット等がホットスポットになり着火に至る異常燃焼(以下、熱源プリイグという)の二種類の現象があり、ノッキングは点火後の燃焼過程において燃焼室周辺のエンドガスが自着火する現象であると考えられている。
【0004】
このような現象は騒音や振動を伴うだけでなく筒内の損傷を招き、最終的には内燃機関が動作しなくなるおそれを持っている。そこで、従来からプリイグを検出し、圧縮プリイグと熱源プリイグを判定して回避手段を実施するものが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、低回転高負荷で発生する自着火と高回転高負荷で発生する自着火の発生原因が異なり、同じ回避手段では回避できないと記載されており、低回転高負荷時にアクセル開度と内燃機関の回転速度に基づいて設定された吸気弁の閉時期が、有効圧縮比が自着火によるプリイグの発生を抑制できる許容量を超えたときに、有効圧縮比が許容値となる閉時期に補正するものが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、発生回数や頻度が小さくて発生時期が遅い初期プリイグニッションと、発生回数や頻度が大きくて発生時期が早い暴走性プリイグニッションを発生回数や頻度で判定し、暴走性プリイグニッションと判定した際に、燃料カットを実施するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−159348号公報
【特許文献2】特開平11−50892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、圧縮プリイグと熱源プリイグについて記載されており、それぞれについての対策が述べられている。低回転高負荷(圧縮プリイグ)には有効圧縮比低減、高回転高負荷時(熱源プリイグ)には点火時期遅角といった手段があげられており、エンジン回転数によって手段を変更するものである。しかし、熱源プリイグは低回転時においても発生する可能性がある。通常考えられる熱源プリイグは前述のように点火プラグや堆積したデポジットに熱がたまり熱源となって自着火するものである。低回転時は点火プラグやデポジットに熱がたまる前に放熱してしまうため熱源プリイグは発生しにくい。
【0009】
しかし、冷却不良により壁面温度が上昇した部分や、筒内に2つの点火プラグを備えた2点点火システムにおいてどちらかの点火プラグが折損した場合折れた部分に熱がたまり熱源となることが考えられる。こういった場合は、低回転であっても熱源プリイグは発生することが考えられる。したがって、回転数による熱源プリイグと圧縮プリイグの判定では判定できないことが考えられる。
【0010】
また、特許文献2では、発生回数や頻度で2種類のプリイグを判定することが記載されている。この方法では、2種類のプリイグを判定するために、ある程度の期間プリイグが発生する運転負荷で走行する必要がある。ここで、発生回数を用いて判定する場合を考える。例えば10回以上発生した場合に熱源プリイグと判定し、それ以外を圧縮プリイグと判定すると仮定し、今回発生しているプリイグが熱源プリイグだったとする。
【0011】
図18に、常に熱源プリイグが発生する運転負荷で走行した場合のタイムチャートを示した。上から運転負荷、プリイグ判定フラグ、熱源プリイグを判定するダウンカウンタ、熱源プリイグ判定フラグを示している。運転負荷が所定値以上でプリイグが発生すると仮定する。プリイグが発生する所定負荷を運転負荷図中の点線で示す。一定の運転負荷であれば、図18に示すとおりプリイグを10回以上検出し熱源プリイグの判定が速やかに行える。
【0012】
しかし、プリイグは騒音を伴って発生することから運転者がアクセルペダルを戻して負荷を下げることも容易に考えられる。したがって、通常運転負荷は一定にはならず、発生回数や頻度を計数できるだけ同じ条件に留まっていないことが考えられる。
【0013】
図19に、運転負荷が一定でない場合のタイムチャートを示した。上から運転負荷、プリイグ判定フラグ、熱源プリイグを判定するダウンカウンタ、熱源プリイグ判定フラグを示している。図18と同様に、所定値以上の運転負荷時にプリイグが発生すると仮定する。プリイグが発生する所定負荷を運転負荷図中の点線で示す。一定の運転負荷ではないため、間欠的にプリイグを検出している。したがって、ダウンカウンタが進まないため熱源プリイグを判定できないことがわかる。また、上記現象が発生しやすい運転条件としては、車両停止からの加速の状態があげられる。また、熱源プリイグは前述したとおり故障が原因で発生することが考えられるため速やかな検出が求められる。
【0014】
上記のように圧縮プリイグと熱源プリイグを判定する方法はあるが、低回転での熱源プリイグの検出もれや熱源プリイグを判定するまでに同じ条件に留まる必要があるといった問題点があげられる。
【0015】
そこで、この発明は上述した点に鑑みてなされたもので、エンジン回転数によらず、1回のプリイグ検出で圧縮プリイグと熱源プリイグを判定することができる内燃機関の制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室内における混合気の点火時期を設定する点火時期設定手段にて設定された時期で点火を実施する点火手段による点火とは関係なく自着火する異常燃焼を検出するための異常燃焼検出手段と、プリイグ判定時期を設定するプリイグ判定時期設定手段と、前記異常燃焼検出手段からの異常燃焼検出情報に基づいて異常燃焼発生時期を検出し、前記プリイグ判定時期設定手段からのプリイグ判定時期と前記異常燃焼発生時期との比較に基づいて前記異常燃焼がプリイグニッションか否かを判定するプリイグ判定手段と、熱源プリイグ判定時期を設定する熱源プリイグ判定時期設定手段と、前記プレイグ判定手段からの異常燃焼発生時期と前記熱源プリイグ判定時期設定手段からの熱源プリイグ判定時期との比較に基づいて熱源プリイグと圧縮プレイグを判定する熱源プリイグ判定手段と、熱源プリイグと判定された場合に熱源プリイグの回避を行う第1の回避手段と、圧縮プリイグと判定された場合に圧縮プリイグの回避を行う第2の回避手段とを備え、前記第1の回避手段は、異常燃焼を検出した際、異常燃焼発生時期が、前記プリイグ判定時期設定手段によって設定されたプリイグ判定時期より進角側でかつ前記熱源プリイグ判定時期設定手段により設定された熱源プリイグ判定時期より進角側であるとき、熱源プリイグと判定し熱源プリイグの回避を実施し、前記第2の回避手段は、異常燃焼を検出した際、異常燃焼発生時期が、前記プリイグ判定時期設定手段によって設定されたプリイグ判定時期より進角側でかつ前記熱源プリイグ判定時期設定手段により設定された熱源プリイグ判定時期より遅角側であるとき、圧縮プリイグと判定し圧縮プリイグの回避を実施する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、一回の異常燃焼を検出し、異常燃焼の発生時期によって圧縮プリイグと熱源プリイグを判定し、両者に対応した回避手段を用意、実行することにより、効果的にプリイグの回避を行い内燃機関の損傷を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明を説明するためのもので、圧縮プリイグ発生時の筒内温度、筒内圧力変化を示す図である。
【図2】この発明を説明するためのもので、熱源プリイグ発生時の筒内温度、筒内圧力変化を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置を説明する構成図であり、内燃機関及びECUの概略を表した図である。
【図4】この発明の実施の形態1でのプリイグ判定制御の概要を示すブロック図である。
【図5】ノックセンサ信号と点火信号(プリイグ時、ノック時)の説明図である。
【図6】イオン電流と点火信号(プリイグ時、正常燃焼時)の説明図である。
【図7】実施の形態1でのプリイグ判定時回避手段選択のフローチャートである。
【図8】圧縮プリイグに対応した回避制御のフローチャートである。
【図9】熱源プリイグに対応した回避制御のフローチャートである。
【図10】プリイグ検出経路の概略図である。
【図11】各異常燃焼検出手段の検出遅れの説明図である。
【図12】運転状態による遅れ時間マップを示す図である。
【図13】実施の形態2でのプリイグ判定制御装置の概要を示すブロック図である。
【図14】実施の形態2でのプリイグ判定時回避手段選択のフローチャートである。
【図15】運転状態による遅れ時間マップ(ノックセンサによる検出)を示す図である。
【図16】運転状態による遅れ時間マップ(イオン電流センサによる検出)を示す図である。
【図17】低回転時の熱源プリイグに対応した回避制御のフローチャートである。
【図18】特開11−50892号公報でのプリイグ判定タイムチャート(一定運転)である。
【図19】特開11−50892号公報でのプリイグ判定タイムチャート(間欠運転)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、この発明の要旨について説明する。この発明では、一回の異常燃焼を検出し、異常燃焼の発生時期によって圧縮プリイグと熱源プリイグを判定し、両者に対応した回避手段を用意、実行することにより、効果的にプリイグの回避を行い内燃機関の損傷を防ぐものである。
【0020】
ここで、圧縮プリイグは、前述したとおり圧縮された混合気が高温となり高温状態が長く続いた結果生じる。図1に、圧縮プリイグ発生時の圧縮行程付近での筒内温度変化、筒内圧力変化を示す。図中実線で示したものが筒内混合気の平均温度、破線で示したものが筒内圧力である。圧縮下死点から上死点にかけて筒内圧力が高くなり、圧力に応じて混合気の温度が高温になる。圧縮上死点手前で所定の温度(図1中A)から冷炎反応が進み、その後高温状態が長く続くことで圧縮プリイグが発生する(図1中B)。冷炎反応は例えばレギュラーガソリンであれば約500℃から反応が始まる。冷炎反応開始温度は図1中に一点鎖線で示している。筒内の温度条件により異なるが冷炎反応が始まってプリイグが発生するまでに遅れが生じる。遅れの影響によって圧縮プリイグが発生するタイミングが圧縮上死点以降であることが実験により確認できたため、圧縮プリイグは圧縮上死点以降に発生すると考えられる。
【0021】
次に、熱源プリイグの発生について説明する。図2に、熱源プリイグ発生時の圧縮行程付近の筒内温度変化、筒内圧力変化を示す。図中実線で示したものが筒内混合気の平均温度、太破線で示したものが熱源近傍の混合気の温度(例えば折れたプラグの周り)、破線で示したものが筒内圧力である。冷炎反応が始まる温度を1点鎖線で示す。圧縮下死点から上死点にかけて筒内圧力が高くなり、圧力に応じて混合気の温度は高温になる。ここで熱源の温度が高温であった場合、熱源近傍の混合気は特に高温になり熱源がない場合と比べ冷炎反応が早く開始される(図2中C)。さらに混合気の温度が高い場合冷炎反応から着火までの時間は短くなり、熱源プリイグが発生する(図2中D)。一般的に、冷炎反応から着火までは混合気の温度が高いほど早くなるとされている。ただし、実際には筒内の温度が不明であるためどの時点で熱源プリイグとなるかは不明であったが、熱源プリイグが圧縮上死点前で発生することが実験によって確認できたため、熱源プリイグは圧縮上死点以前に発生すると考えられる。
【0022】
したがって、圧縮上死点以前に発生するプリイグは熱源プリイグと考えられ、圧縮上死点以降に発生するプリイグは圧縮プリイグと考えられる。この現象を用いて圧縮プリイグと熱源プリイグを判定することができる。以下、この発明の具体的な実施の形態について説明する。
【0023】
実施の形態1.
図3は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置を説明する構成図であり、内燃機関(エンジン)100及びECU(Engine Control Unit)200の概略を表したものである。内燃機関100の燃焼室1は、シリンダヘッド2、シリンダブロック3、ピストン4により形成されている。さらに、燃焼室1には、吸気ポート5と排気ポート6が接続されており、吸気ポート5と排気ポート6は、前記シリンダヘッド2に形成されている。
【0024】
ピストン4にはクランク軸7が接続されており、ピストン4が上下することによりクランク軸7は回転させられる。クランク軸7には図示しないクランクプレートが取り付けられている。クランクプレートには突起があり、クランク角検出センサ8はこの突起を検出することによりクランク軸7の回転数やクランク角度位置を検出する。
【0025】
吸気ポート5の燃焼室1側には吸気カム11によって動作する吸気バルブ9が設けられ、排気ポート6の燃焼室1側には排気カム12によって動作する排気バルブ10が設けられている。シリンダヘッド2の吸気ポート下部には燃料噴射弁13が設けられており、燃焼室1上部中央には点火プラグ14が設けられている。吸気カム11には図示しない位相可変システムが接続されており、吸気カム11の位相を可変とすることで吸気バルブ9の開閉タイミングが変更できるようになっている。
【0026】
燃焼サイクルについて説明する。まず、吸気行程にて燃焼室1に吸気ポート5から吸気バルブ9を介して導入された空気と燃料噴射弁13から噴射された燃料とが混合気を形成する。次に、圧縮行程にてピストン4により混合気は圧縮される。その後、圧縮上死点付近にて点火プラグ14により点火され、次の膨張行程にて点火された混合気はピストン4を押し下げクランク軸7を回転させる。燃焼室1内の混合気は膨張後排気行程にて排気バルブ10を介して排気ポート6を通り排出される。以上が燃焼サイクルである。
【0027】
ECU200には、前記クランク角センサ8、燃焼室1に導入される吸気量を検出する吸気量センサ15、スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ16、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサ17、吸気カム11の位相角センサ18、内燃機関の振動を検出するノックセンサ19、点火コイルに内蔵され燃焼室1内の燃焼イオンを検出するイオン電流センサ20等からの信号が入力され、内燃機関の回転速度や点火時期、燃料噴射量、吸気カム11の位相変化量等の計算が行われている。
【0028】
次に、図4を参照してECU200内で行われるプリイグ制御の概要について述べる。図4は、本実施の形態1で行うECU200によるプリイグ制御全体の構成を示したブロック図である。図4に示すECU200内のプリイグ制御部の構成について説明する。ECU200は、図示しない各種I/F回路とマイクロコンピュータからなり、マイクロコンピュータは、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、制御プログラムや制御定数を記憶しておくROM領域、プログラムを実行した際の変数を記憶しておくRAM領域等から構成されている。
【0029】
ECU200内のプリイグ制御部として備えられるプリイグ判定部21は、異常燃焼を検出するための異常燃焼検出手段として用いられるノックセンサ19、イオン電流センサ20の情報から異常燃焼を検出し、異常燃焼検出情報とクランク角センサ8から異常燃焼発生時期を検出する。さらに、プリイグ判定時期演算部22から送られたプリイグ判定時期と異常燃焼発生時期を比較してプリイグを判定する。
【0030】
異常燃焼および異常燃焼発生時期は、本実施の形態1ではノックセンサ19またはイオン電流センサ20により検出している。例えば、ノックセンサ19であれば、異常燃焼によって発生する振動をノックセンサ19によって検出する。ノックセンサ19は振動を電圧に変換して検出する。ノックセンサ19に入力される振動レベルから異常燃焼検出および異常燃焼発生時期検出を実施する。
【0031】
図5に、点火信号とノックセンサ信号の関係を表す。横軸は時間軸(角度軸)であり左側が進角側、右側が遅角側となる。上から点火信号、ノックセンサ信号の波形となっている。ノックセンサ信号の波形の縦軸は振動レベルとなっており、大きくなるほど振動が大きいことを表す。図5中に示した点火時期よりも進角側に示したノックセンサ信号波形がプリイグ時の波形であり、点火時期よりも遅角側に示したノックセンサ信号波形がノック発生時の波形である。通常、所定の異常燃焼判定閾値を設定し、ノックセンサ信号の振動レベルが前記閾値を超えた場合に異常燃焼として判定する。さらに、本実施の形態1ではノックセンサ信号の振動レベルのピーク発生時期を異常燃焼発生時期としている。
【0032】
次に、イオン電流センサ20を用いて異常燃焼を検出する場合について説明する。イオン電流センサ20は点火プラグ14の電極間に電圧をかけることで、燃焼時に筒内に発生する燃焼イオンを経路として電流(イオン電流)を検出するものである。したがって、点火時期より進角側でイオン電流が検出された場合には点火信号と関係なく燃焼していることとなり異常燃焼と判定できる。
【0033】
図6に点火信号とイオン電流波形の関係を表す。横軸は時間軸(角度軸)であり左側が進角側、右側が遅角側となる。上から点火信号、イオン電流の波形となっている。イオン電流の波形の縦軸は電流であり、大きくなるほど検出した電流が大きいことを示す。図6中に示した点火時期よりも進角側に示したイオン電流波形がプリイグ時の波形であり、点火時期よりも遅角側に示したイオン電流波形が正常燃焼時の波形である。通常、所定の燃焼判定閾値を設定し、イオン電流が前記燃焼判定閾値を超えた場合に燃焼として判定し、燃焼判定した時期を燃焼時期とする。こうすることで、燃焼と燃焼時期が検出可能となる。点火時期よりも進角側のタイミングで燃焼判定した場合、前述したとおり異常燃焼として判定する。プリイグ検出処理は例えば180degCA周期で実施される。
【0034】
当然のことながら、筒内圧センサ、回転変動等、他のセンサを用いて異常燃焼を検出しても良いことは言うまでもない。
【0035】
ECU200内で行われるプリイグ制御の概要の説明に戻る。ECU200内のプリイグ制御部として備えられる熱源プリイグ判定部23は、プリイグ判定部21から送られた各異常燃焼検出手段に応じた異常燃焼発生時期と熱源プリイグ判定時期演算部24から送られた熱源プリイグ判定時期とを比較して熱源プリイグと圧縮プリイグを判定する。判定されたプリイグに応じて熱源プリイグに対応した第1の回避手段である燃料噴射カット指示部25から図示しない燃料制御部へ燃料カットの指示を実行、または圧縮プリイグに対応した第2の回避手段である吸気カム位相変更指示部26から図示しない吸気カム位相変更実行部に指示しプリイグの回避を行う。
【0036】
ここで、熱源プリイグと第1の回避手段、圧縮プリイグと第2の回避手段について説明する。第1の回避手段は熱源プリイグに対応した回避手段であり、第2の回避手段は圧縮プリイグに対応した回避手段である。
【0037】
熱源プリイグは点火プラグ先端部の熱やデポジット、筒内に入り込んだ異物、冷却不足となった壁面等がホットスポットになり着火する異常燃焼であり、筒内が高温になる高回転高負荷の条件で起こりやすく、燃料が噴射されるたびに異常燃焼を起こし、筒内の温度が上がり、さらに異常燃焼を引き起こすという悪循環に陥る場合が多い。
【0038】
したがって、熱源プリイグの回避方法としては、燃料噴射をカットして異常燃焼を止め回転数を低減し運転ポイントを変更する方法、有効圧縮比の低減にて圧縮による筒内の温度上昇を抑制する方法などが考えられる。
【0039】
本実施の形態1では、第1の回避手段は、例えば前述したような方法のうち少なくとも一つを使用する。今回は燃料噴射をカットする方法を使用する。
【0040】
圧縮プリイグについて説明する。圧縮プリイグは筒内の混合気が圧縮され、高温となり、筒内の高温状態が長く続くことで冷炎反応が進行して自己着火に至るものである。混合気の高温状態が長く続くことが発生条件の一つとなるため各行程の時間が長くなる低回転にて起こりやすい。
【0041】
次に、圧縮プリイグの回避方法について説明する。圧縮プリイグを回避するためには混合気の高温状態を長く続かせないことが重要である。したがって、燃料噴射タイミングを遅角側に変更することで筒内に混合気を形成している期間を短くする方法、燃料噴射量を増量し燃料気化熱にて筒内温度を下げる方法、吸気バルブ9の閉じるタイミングを変更し有効圧縮比を低減して圧縮による混合気の温度上昇を抑制する方法、変速比を変更することでエンジン回転数を上昇させ混合気の高温状態が長く続かないようにする方法が考えられる。
【0042】
本実施の形態1では、第2の回避手段は、吸気バルブ9の閉じるタイミングを変更し有効圧縮比を低減して圧縮による混合気の温度上昇を抑制する方法を使用する。前述した方法でなくても圧縮プリイグ回避に効果があるものならばよい。
【0043】
本実施の形態1の処理を図7のフローチャートに沿って説明する。図7のフローチャートは、圧縮プリイグか熱源プリイグかを判断する処理であり、エンジン回転と同期したタイミング(例えば、180degCA毎の割込み処理等、degCAはクランク角度の意味)にて行われる処理である。
【0044】
まず、判断部S101にてノックセンサ19を用いて異常燃焼検出したかどうかを判断する。ノックセンサ19に入力される振動レベルが異常燃焼判定閾値以上でありかつ振動ピーク位置がプリイグ判定時期よりも進角側であるか判定し、そうであれば(YES)判断部S103へ進み、そうでなければ(NO)判断部S102へ進む。
【0045】
例えばノックセンサ19の振動レベル(ノックセンサ19の入力電圧)が2.0[V]であり、振動レベルピーク時期が−5[degCA.ATDC]であるとし、点火時期を20[degCA.ATDC]とする。ATDCはAfter Top Dead Centerの略で圧縮上死点後を示す。
【0046】
ここで、異常燃焼判定閾値は通常定常運転時の振動では起こらない値を設定する。ここでは定常運転時の振動レベルを0[V]として、異常燃焼判定閾値は通常ノック判定閾値よりも高いレベルである振動レベル:1.0[V]とする。また、プリイグは通常点火時期より早い異常燃焼のことを指すので、プリイグ判定時期は点火時期と設定する。このようにプリイグ判定時期を設定することで、マッチング工数を削減できる。
【0047】
したがって、上記の場合はノックセンサの振動レベル>異常燃焼判定閾値 かつ プリイグ判定時期よりも振動レベルピーク時期が進角側となり、判断部S103へ進む。
【0048】
判断部S102の動作について述べる。判断部S102では、イオン電流センサ20で検出されるイオン電流の発生位置がプリイグ判定時期よりも進角側である場合に、異常燃焼を検出したと判断し、判断部S103へ進み、そうでなければ処理終了となる。
【0049】
例えば、イオン電流の発生位置が−7[degCA.ATDC]であるとし、点火時期を20[degCA.ATDC]とする。プリイグ判定時期を点火時期と設定しているので、上記の場合はイオン電流の発生位置がプリイグ判定時期よりも進角側となり判断部S103へ進む。
【0050】
判断部S101,S102で用いたプリイグ判定時期は、前述したとおり点火時期を設定している。したがって、点火時期よりも進角側で異常燃焼が発生していれば、プリイグと判断される。
【0051】
判断部S103にて異常燃焼発生時期が熱源プリイグ判定時期より進角側かどうかを判断する。熱源プリイグ判定時期よりも進角側であればステップS104へ進み、そうでなければステップS105へ進む。
【0052】
判断部S103で用いた熱源プリイグ判定時期は、例えば圧縮上死点とする。実験的に圧縮上死点以前に発生する異常燃焼は熱源プリイグであり、圧縮上死点以降で発生するプリイグは圧縮プリイグとわかっているためである。こうすることでマッチング工数を削減できる。
【0053】
例えば、判断部S101,S102で用いた値を使用すると振動ピーク時期は−5[degCA.ATDC]であり、イオン電流の発生位置は−7[degCA.ATDC]であるのでともに圧縮上死点よりも進角側である。したがって、ステップS104へ進む。
【0054】
ステップS104では今回検出した異常燃焼が熱源プリイグであると判定し熱源プリイグに対応した第1の回避制御を実行し処理終了となる。熱源プリイグに対応した第1の回避制御については後述する。
【0055】
ステップS105では今回検出したプリイグが圧縮プリイグであると判定し圧縮プリイグに対応した第2の回避制御を実行し処理終了となる。圧縮プリイグに対応した第2の回避制御については後述する。
【0056】
次に、熱源プリイグ判定時の第1の回避制御について図8のフローチャートを用いて説明する。図8のフローチャートは、熱源プリイグを判定した後に熱源プリイグを回避するための制御を実施する処理である。ステップS201にて、燃料噴射カットを実施する。以上で熱源プリイグを回避するための制御は終了となる。
【0057】
次に、圧縮プリイグ判定時の第2の回避制御について図9のフローチャートを用いて説明する。図9のフローチャートは圧縮プリイグを判定した後に圧縮プリイグを回避するため制御を実施する処理である。ステップS301にて有効圧縮比を低減するよう現在設定されている吸気バルブ9の閉じタイミングが遅くなるよう吸気カム11の位相の変更指示を出す。位相の変更量は例えば1degCA程度でよい。以上で圧縮プリイグを回避するための制御は終了となる。
【0058】
以上のように、圧縮プリイグと熱源プリイグを判定し、それぞれに対応した回避制御を実施することで、プリイグの回避が効果的に行える。
【0059】
本実施の形態1では、筒内噴射型の内燃機関に適用したが、プリイグの判定自体はポート噴射型の内燃機関等他の内燃機関に対しても有効である。
【0060】
実施の形態2.
本実施の形態2は、実施の形態1で説明した内燃機関100及び車両にて実施される。本実施の形態2では、プリイグ判定時期及び熱源プリイグ判定時期を異常燃焼検出手段毎に設定している。また、低回転時熱源プリイグ判定を実施して低回転熱源プリイグに対応した回避手段を実施しており、この点で実施の形態1とは異なる。なお、本実施の形態2においても、異常燃焼検出にはノックセンサ19とイオン電流センサ20を使用する。
【0061】
プリイグ判定時期と熱源プリイグ判定時期を異常燃焼検出手段毎に設定する理由として、図10に示したとおり、検出経路の違いにより異常燃焼検出時期が異なることがあげられる。図11にその一例を示す。破線で示した部分は実際に異常燃焼が発生した時期とする、図11に示した波形のうち上の波形がイオン電流波形、下の波形がノックセンサ信号波形を示しており、図11中にそれぞれの異常燃焼発生時期の検出位置を示している。横軸は時間をあらわし、右にいくほど遅角側となる。各検出手段に対して検出遅れが発生していることを示す。イオン電流センサ20の方がノックセンサ19より早く検出できている。このように、異常燃焼検出手段毎に検出遅れが存在し、検出遅れの大きさは異常燃焼検出手段毎に異なる。この検出遅れを考慮して、プリイグ判定時期及び熱源プリイグ判定時期を設定する。この遅れは、例えばエンジン回転数や負荷によって変化するため、図12に示すようなマップを作成し、各異常燃焼検出手段についてマッチングを実施するとよい。
【0062】
次に、図13を参照してECU200内で行われるプリイグ制御の概要について述べる。図13は、本実施の形態2で行うプリイグ制御全体の構成を示したブロック図である。図13は、実施の形態1で説明した図4のブロック図において、プリイグ判定時期演算部22をプリイグ判定時期設定部27に、熱源プリイグ判定時期演算部24を熱源プリイグ判定時期設定部28に変更し、エンジン回転数判定部29と、エンジン故障モード実行指示部30を追加したものである。
【0063】
図13に示すECU200内のプリイグ制御部の構成について説明する。ECU200は、図示しない各種I/F回路とマイクロコンピュータからなり、マイクロコンピュータは、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、制御プログラムや制御定数を記憶しておくROM領域、プログラムを実行した際の変数を記憶しておくRAM領域等から構成されている。
【0064】
ECU200内のプリイグ制御部として備えられるプリイグ判定部21は、ノックセンサ19、イオン電流センサ20の情報から異常燃焼を検出し、異常燃焼検出情報とクランク角センサ8から異常燃焼発生時期を検出する。さらに、プリイグ判定時期設定部27から送られたプリイグ判定時期と異常燃焼発生時期を比較してプリイグを判定する。ここで、プリイグ判定時期設定部27から送られてくるプリイグ判定時期は、各異常燃焼検出手段(ここではノックセンサ19及びイオン電流センサ20)毎にそれぞれ設定された値が送られてくる。
【0065】
また、熱源プリイグ判定部23は、プリイグ判定部21から送られた各異常燃焼検出手段に応じた異常燃焼発生時期と熱源プリイグ判定時期設定部28から送られた熱源プリイグ判定時期を比較して熱源プリイグと圧縮プリイグを判定する。ここで、熱源プリイグ判定時期設定部28から送られてくる熱源プリイグ判定時期は、各異常燃焼検出手段(ここではノックセンサ19及びイオン電流センサ20)毎にそれぞれ設定された値が送られてくる。
【0066】
熱源プリイグ判定部23により熱源プリイグと判定された場合、エンジン回転数判定部29でエンジン回転数を判定し、エンジン回転数が低回転であれば、低回時の熱源プリイグに対応した第3の回避手段であるエンジン故障モード指示部30にてエンジン故障モード指示を実行する。高回転であれば、通常の熱源プリイグに対応した第1の回避手段である燃料噴射カット指示部25から図示しない燃料制御部へ燃料カットの指示を実行する。また、熱源プリイグ判定部23にて圧縮プリイグと判定された場合は、圧縮プリイグに対応した第2の回避手段である吸気カム位相変更指示部26から図示しない位相変更実行部に指示し、それぞれプリイグの回避を行う。
【0067】
本実施の形態2の処理を図14のフローチャートに沿って説明する。図14のフローチャートは、圧縮プリイグか熱源プリイグかを判断する処理であり、エンジン回転と同期したタイミング(例えば、180degCA毎の割込み処理等)にて行われる処理である。
【0068】
まず、判断部S401にて異常燃焼検出手段毎のプリイグ判定時期を設定する。プリイグ判定時期は異常燃焼が各異常燃焼検出手段に伝わるまでの遅れ時間を考慮する。遅れ時間は前述したとおり運転状態にて変化するため、ノックセンサ19は図15に示すようなマップにてマッチングされ、イオン電流センサ20は図16に示すようなマップにてマッチングされる。
【0069】
例えば、今回の運転条件をエンジン回転数=1000[r/min]、充填効率=50[%]とすると、図15に示すマップからノックセンサ19の検出での遅れ時間は5[degCA]と設定され、図16に示すマップからイオン電流センサ20の検出での遅れ時間は3[degCA]と設定される。プリイグ判定時期は点火時期に遅れ時間を考慮した値とする。点火時期を20[degCA.ATDC]とすると、ノックセンサ19の検出に対応したプリイグ判定時期は25[degCA.ATDC]と設定され、イオン電流センサ20の検出に対応したプリイグ判定時期は23[degCA.ATDC]と設定される。
【0070】
次に、判断部S402にてノックセンサ19を用いて異常燃焼検出したかどうかを判断する。ノックセンサ19に入力される振動レベルが異常燃焼判定閾値以上であり、かつ振動ピーク位置がノックセンサ19の検出に対応したプリイグ判定時期よりも進角側であるか判定し、進角側であればステップS404へ進み、そうでなければ判断部S403へ進む。
【0071】
例えばノックセンサ19の振動レベル(ノックセンサの入力電圧)が2.0[V]であり、振動レベルピーク時期が4[degCA.ATDC]であるとする。実施の形態1と同様に異常燃焼判定閾値を振動レベル:1.0[V]とすると、上記の場合はノックセンサの振動レベル>異常燃焼判定閾値、かつノックセンサ19の検出に対応したプリイグ判定時期よりも振動レベルピーク時期が進角側となり、ステップS404へ進む。
【0072】
次に、判断部S403の動作について述べる。判断部S403では、イオン電流センサ20で検出されるイオン電流の発生位置がイオン電流センサ20の検出に対応したプリイグ判定時期よりも進角側である場合に異常燃焼を検出したと判断し、ステップS404へ進み、そうでなければ処理終了となる。
【0073】
例えば、イオン電流の発生位置が2[degCA.ATDC]であるとする。上記の場合は、イオン電流の発生位置が設定されたイオン電流センサ20の検出に対応したプリイグ判定時期よりも進角側となりステップS404へ進む。
【0074】
次に、ステップS404にて異常燃焼検出手段毎の熱源プリイグ判定時期を設定する。例えばプリイグ判定時期で考慮した遅れ時間と同様に、図15及び図16のマップを用いて設定する。運転条件はステップS401と同様であるので、ノックセンサ19による検出に対しては5degCA、イオン電流センサ20による検出に対しては3degCAの遅れ時間である。圧縮上死点よりも進角側で異常燃焼が発生したとき熱源プリイグであると判断するので、遅れ時間を考慮したとき、ノックセンサ19による検出に対応した熱源プリイグ判定時期は5[degCa.ATDC]、イオン電流センサ20による検出に対応した熱源プリイグ判定時期は3[degCA.ATDC]となる。熱源プリイグ判定時期よりも遅角側で異常燃焼が発生していれば圧縮プリイグ、熱源プリイグ判定時期よりも進角側で異常燃焼が発生していれば熱源プリイグと判断される。
【0075】
次に、判断部S405に進み、振動ピーク時期がノックセンサ19の検出に対応した熱源プリイグ判定時期より進角側かどうかを判断する。熱源プリイグ判定時期よりも進角側であれば判断部S407へ進み、そうでなければ判断部S406へ進む。
【0076】
例えば、判断部S402で用いた値を使用すると、振動ピーク時期は4[degCA.ATDC]であり、ノックセンサ19による検出に対応した熱源プリイグ判定時期は5[degCa.ATDC]であるので、熱源プリイグ判定時期よりも進角側となる。したがって、熱源プリイグと判定し判断部S407へ進む。
【0077】
次に、判断部S406を説明する。イオン電流発生時期がイオン電流センサ20の検出に対応した熱源プリイグ判定時期より進角側かどうかを判断する。熱源プリイグ判定時期よりも進角側であれば判断部S407へ進み、そうでなければステップS410へ進む。
【0078】
例えば、判断部S403で用いた値を使用すると、イオン電流発生時期は2[degCA.ATDC]であり、イオン電流センサ20による検出に対応した熱源プリイグ判定時期は3[degCa.ATDC]であるので、熱源プリイグ判定時期よりも進角側となる。したがって、熱源プリイグと判定し判断部S407へ進む。
【0079】
次に、判断部S407では、エンジン回転数が所定回転数以下であるかを判断する。所定回転数以下であればステップS408へ進み、そうでなければステップS409へ進む。通常、高回転熱源プリイグは概ね2000[r/min]以上で発生することがわかっているため、例えば所定回転数を2000[r/min]であり、現在エンジン回転数が1000[r/min]であるとすると、所定回転数以下であるためステップS408へ進む。
【0080】
次に、ステップS408では、今回検出した異常燃焼が低回転で発生した熱源プリイグであると判定し、低回転での熱源プリイグに対応した第3の回避制御を実行し処理終了となる。低回転での熱源プリイグに対応した第3の回避制御については後述する。
【0081】
また、ステップS409では、今回検出したプリイグが熱源プリイグであると判定し、熱源プリイグに対応した第1の回避制御を実行し処理終了となる。熱源プリイグに対応した第1の回避制御については実施の形態1で述べたとおりであるため割愛する。
【0082】
また、ステップS410では、今回検出したプリイグが圧縮プリイグであると判定し、圧縮プリイグに対応した第2の回避制御を実行し処理終了となる。圧縮プリイグに対応した第2の回避制御については実施の形態1で述べたとおりであるため割愛する。
【0083】
次に、低回転での熱源プリイグ判定時の第3の回避制御について図17のフローチャートを用いて説明する。図17のフローチャートは、低回転時の熱源プリイグを判定した後に低回転時の熱源プリイグを回避するための制御を実施する処理である。
【0084】
ステップS501にてエンジン故障によるエンジンチェックランプ(図示せず)を点灯させる。ステップS502へ進み、エンジン回転数制限を実施し、エンジン回転数検出手段(図示せず)により検出されるエンジン回転数が所定回転数以上であれば燃料カット等を実施する。次にステップS503に進みエンジンへの吸気量を制御するスロットル制御手段(図示せず)によりスロットル開度制限を実施する。以上で熱源プリイグを回避するため制御は終了となる。上記の回避動作はディーラー等によるエンジン点検まで継続することが望ましい。
【0085】
例えばエンジン回転数は2000[r/min]以下、スロットル開度は30[%]以下といった制限が考えられる。エンジン回転数、負荷の制限値はともに低回転熱源プリイグが発生しない負荷であるならばよいが40[km/h]程度の走行が可能なエンジン回転数、負荷とする。
【0086】
以上のように、プリイグ判定時期、熱源プリイグ判定時期を設定することで、異常燃焼検出手段が変更されても精度よくプリイグを検出することが可能になる。また、エンジンの故障の可能性が高い低回転時の熱源プリイグに対しても適切な回避手段を実施することができる。
【0087】
以下、この発明の特徴及び効果について述べる。
この発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室内における混合気の点火時期を設定する点火時期設定手段にて設定された時期で点火を実施する点火手段による点火とは関係なく自着火したことを検出するための異常燃焼検出手段と、プリイグ判定時期を設定するプリイグ判定時期設定手段と、前記異常燃焼検出手段からの異常燃焼検出情報に基づいて異常燃焼発生時期を検出し、前記プリイグ判定時期設定手段からのプリイグ判定時期と前記異常燃焼発生時期との比較に基づいて前記異常燃焼がプリイグニッションか否かを判定するプリイグ判定手段と、熱源プリイグ判定時期を設定する熱源プリイグ判定時期設定手段と、前記プレイグ判定手段からの異常燃焼発生時期と前記熱源プリイグ判定時期設定手段からの熱源プリイグ判定時期との比較に基づいて熱源プリイグと圧縮プレイグを判定する熱源プリイグ判定手段と、熱源プリイグと判定された場合に熱源プリイグの回避を行う第1の回避手段と、圧縮プリイグと判定された場合に圧縮プリイグの回避を行う第2の回避手段とを備え、前記第1の回避手段は、異常燃焼を検出した際、異常燃焼発生時期が、前記プリイグ判定時期設定手段によって設定されたプリイグ判定時期より進角側でかつ前記熱源プリイグ判定時期設定手段により設定された熱源プリイグ判定時期より進角側であるとき、熱源プリイグと判定し熱源プリイグの回避を実施し、前記第2の回避手段は、異常燃焼を検出した際、異常燃焼発生時期が、前記プリイグ判定時期設定手段によって設定されたプリイグ判定時期より進角側でかつ前記熱源プリイグ判定時期設定手段により設定された熱源プリイグ判定時期より遅角側であるとき、圧縮プリイグと判定し圧縮プリイグの回避を実施する。
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【0088】
この構成によれば、1回の異常燃焼の異常燃焼発生時期から、熱源プリイグと圧縮プリイグを判定することが可能となる。また効果的にプリイグの回避を行い、内燃機関の損傷を防ぐことができる。
【0089】
また、前記熱源プリイグ判定時期設定手段は、熱源プリイグ判定時期を圧縮上死点とする。
【0090】
この構成によれば、熱源プリイグ判定時期をエンジンに応じて変更する必要がなくマッチング工数が低減できる。
【0091】
また、前記プレイグ判定時期設定手段は、前記プリイグ判定時期を点火時期に設定する。
【0092】
この構成によれば、異常燃焼は点火時期によらず発生するので、異常燃焼を検出した時期が点火時期よりも前であればプリイグとして判定できる。したがって、プリイグ判定時期を点火時期とすることで、エンジンに応じて変更する必要がなくマッチング工数が低減できる。
【0093】
また、前記異常燃焼検出手段は、複数備えられ、前記プレイグ判定時期設定手段は、各異常燃焼検出手段毎に前記プレイグ判定時期をそれぞれ設定し、前記プレイグ判定手段は、各異常燃焼検出手段に応じた異常燃焼発生時期と前記プレイグ判定時期設定手段からの各異常燃焼検出手段に応じたプレイグ判定時期との比較に基づいてプレイグを判定する。
【0094】
この構成によれば、複数の異常燃焼検出手段を用意することでも誤判定または検出もれする回数を低減でき、異常燃焼検出手段毎にプリイグ判定時期を設定することで、異常燃焼検出手段によって検出される異常燃焼発生時期が異なった場合にプリイグを誤判定もしくは検出もれする回数を低減することができる。
【0095】
これは、異常燃焼検出手段によって検出される異常燃焼の検出時期が、実際の発生時期とは異なることがわかっているためである。例えばイオン電流センサによるプリイグ検出とノックセンサによるプリイグ検出での違いを説明する。それぞれの検出経路の違いは図10に示される。
【0096】
イオン電流センサは点火プラグに電圧をかけ筒内の発生する燃焼イオンを経路として電流を検出するものである。図10に示したとおり筒内にてプリイグが発生しその燃焼イオンが点火プラグまで到達するには遅れが生じる。したがって、実際にプリイグが発生した時期に比べ検出した時期には遅れが生じる。
【0097】
一方、ノックセンサはエンジンブロックの振動を電気信号としてとらえるセンサである。図10に示したとおり、筒内でプリイグが発生し、プリイグによって起こった振動をエンジンブロックが伝達し、エンジンブロックの振動をノックセンサが検出することとなる。
【0098】
したがって、ノックセンサはプリイグによって発生した2次的要素であるエンジンブロックの振動を検出するため、実際にプリイグが発生した時期に比べ検出した時期には遅れが生じる。2次的要素を検出するため前述したイオン電流センサの検出に対しても遅れが生じる。
【0099】
例えばイオン電流センサによる異常燃焼検出が実際の異常燃焼の発生時期より5degCA遅れ、ノックセンサによる異常燃焼検出が実際の異常燃焼の発生時期より10degCA遅れるといったことが考えられる。各検出手段の遅れは運転状態によっても変化するため詳細なマッチングが求められる。この現象により、複数の異常燃焼検出手段を用意した場合に、一つの熱源プリイグ判定時期では誤判定や検出もれが考えられる。
【0100】
上記構成によれば、複数の異常燃焼検出手段を用意することでも誤判定または検出もれする回数を低減でき、異常燃焼発生時期検出手段毎に熱源プリイグ判定時期が設定できるため、異常燃焼検出手段によって検出される異常燃焼発生時期が異なった場合に熱源プリイグを誤判定または検出もれする回数を低減することができる。
【0101】
また、前記熱源プリイグ判定時期設定手段は、各異常燃焼検出手段毎に熱源プリイグ判定時期をそれぞれ設定し、前記熱源プリイグ判定手段は、前記プレイグ判定手段からの各異常燃焼検出手段に応じた異常燃焼検出時期と前記熱源プリイグ判定時期設定手段からの各異常燃焼検出手段に応じた熱源プリイグ判定時期との比較に基づいて熱源プリイグと圧縮プレイグを判定する。
【0102】
この構成によれば、前述したとおり、複数の異常燃焼検出手段を用意することでも誤判定または検出もれする回数を低減でき、異常燃焼検出手段毎にプリイグ判定時期を設定することで、異常燃焼検出手段によって検出される異常燃焼発生時期が異なった場合にプリイグを誤判定もしくは検出もれする回数を低減することができる。
【0103】
さらに、エンジン故障モード時に点灯するエンジンチェックランプと、エンジンへの吸気量を制御するスロットル制御手段と、エンジン回転数を検出することができるエンジン回転数検出手段と、低回転時の熱源プリイグと判定された場合に回避を行う第3の回避手段とをさらに備え、前記第3の回避手段は、低回時の熱源プリイグと判定された場合に、エンジンを故障モードとし、エンジンチェックランプを点灯させ、スロットル開度制限およびエンジン回転数制限を実施する。
【0104】
前述したとおり、低回転においても熱源プリイグは発生することが考えられる。低回転で熱源プリイグが発生した場合、エンジン冷却装置の故障や2点点火システムにおいてはどちらか一方のプラグが損傷していることが想定されるためエンジン故障モードとする必要がある。上述した構成によれば、エンジン回転数が低いときに発生する熱源プリイグを検出した際に故障モードとして低回転低負荷運転を行うことでさらなる熱源プリイグを発生することなく安全な運転が可能となり、また、エンジン故障モードとすることでエンジン修理を運転者に促すことができる。
【符号の説明】
【0105】
1 燃焼室、2 シリンダヘッド、3 シリンダブロック、4 ピストン、5 吸気ポート、6 排気ポート、7 クランク軸、8 クランク角センサ、9 吸気バルブ、10 排気バルブ、11 吸気カム、12 排気カム、13 燃料噴射弁、14 点火プラグ、15 吸気量センサ、16 スロットルポジションセンサ、17 水温センサ、18 位相角センサ、19 ノックセンサ、20 イオン電流センサ、21 プリイグ判定部、22 プリイグ判定時期演算部、23 熱源プリイグ判定部、24 熱源プリイグ判定時期演算部、25 燃料噴射カット指示部、26 吸気カム位相変更指示部、27 プリイグ判定時期設定部、28 熱源プリイグ判定時期設定部、29 エンジン回転数判定部、30 エンジン故障モード実行指示部、100 内燃機関、200 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内における混合気の点火時期を設定する点火時期設定手段にて設定された時期で点火を実施する点火手段による点火とは関係なく自着火する異常燃焼を検出するための異常燃焼検出手段と、
プリイグ判定時期を設定するプリイグ判定時期設定手段と、
前記異常燃焼検出手段からの異常燃焼検出情報に基づいて異常燃焼発生時期を検出し、前記プリイグ判定時期設定手段からのプリイグ判定時期と前記異常燃焼発生時期との比較に基づいて前記異常燃焼がプリイグニッションか否かを判定するプリイグ判定手段と、
熱源プリイグ判定時期を設定する熱源プリイグ判定時期設定手段と、
前記プレイグ判定手段からの異常燃焼発生時期と前記熱源プリイグ判定時期設定手段からの熱源プリイグ判定時期との比較に基づいて熱源プリイグと圧縮プレイグを判定する熱源プリイグ判定手段と、
熱源プリイグと判定された場合に熱源プリイグの回避を行う第1の回避手段と、
圧縮プリイグと判定された場合に圧縮プリイグの回避を行う第2の回避手段と
を備え、
前記第1の回避手段は、異常燃焼を検出した際、異常燃焼発生時期が、前記プリイグ判定時期設定手段によって設定されたプリイグ判定時期より進角側でかつ前記熱源プリイグ判定時期設定手段により設定された熱源プリイグ判定時期より進角側であるとき、熱源プリイグと判定し熱源プリイグの回避を実施し、
前記第2の回避手段は、異常燃焼を検出した際、異常燃焼発生時期が、前記プリイグ判定時期設定手段によって設定されたプリイグ判定時期より進角側でかつ前記熱源プリイグ判定時期設定手段により設定された熱源プリイグ判定時期より遅角側であるとき、圧縮プリイグと判定し圧縮プリイグの回避を実施する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記熱源プリイグ判定時期設定手段は、熱源プリイグ判定時期を圧縮上死点とする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記プレイグ判定時期設定手段は、前記プリイグ判定時期を点火時期に設定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記異常燃焼検出手段は、複数備えられ、
前記プレイグ判定時期設定手段は、各異常燃焼検出手段毎に前記プレイグ判定時期をそれぞれ設定し、
前記プレイグ判定手段は、各異常燃焼検出手段に応じた異常燃焼発生時期と前記プレイグ判定時期設定手段からの各異常燃焼検出手段に応じたプレイグ判定時期との比較に基づいてプレイグを判定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の制御装置において、
前記熱源プリイグ判定時期設定手段は、各異常燃焼検出手段毎に熱源プリイグ判定時期をそれぞれ設定し、
前記熱源プリイグ判定手段は、前記プレイグ判定手段からの各異常燃焼検出手段に応じた異常燃焼検出時期と前記熱源プリイグ判定時期設定手段からの各異常燃焼検出手段に応じた熱源プリイグ判定時期との比較に基づいて熱源プリイグと圧縮プレイグを判定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
エンジン故障モード時に点灯するエンジンチェックランプと、
エンジンへの吸気量を制御するスロットル制御手段と、
エンジン回転数を検出することができるエンジン回転数検出手段と、
低回転時の熱源プリイグと判定された場合に回避を行う第3の回避手段と
をさらに備え、
前記第3の回避手段は、低回時の熱源プリイグと判定された場合に、エンジンを故障モードとし、エンジンチェックランプを点灯させ、スロットル開度制限およびエンジン回転数制限を実施する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−190729(P2011−190729A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56332(P2010−56332)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】