説明

内燃機関の排気制御装置

【課題】内燃機関の排気制御装置において、排気ポートから燃焼室内へ逆流させる逆流排気を制御することで燃料噴霧の気化促進を図る技術を提供する。
【解決手段】燃焼室5内の排気流出側に向けて燃焼室5内に直接燃料噴霧を噴射する燃料噴射弁12と、燃焼室5の排気流出側上部に開口した開口部から延びる排気ポート7の開口部を開閉する排気弁9と、を備え、燃料噴射弁12が燃料噴霧を噴射する場合に、排気弁9を開弁して排気を逆流させ、燃焼室5内の排気流出側に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と燃焼室5内の排気流出側に到達する燃料噴霧とを衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気行程中に排気弁を開弁して排気ポートから逆流する排気を燃焼室内の下方領域へ導入し燃焼室内の下方領域を排気で満たし、排気弁閉弁後に燃料噴射を行い燃焼室内の上方領域を混合気で満たす技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
排気弁を開弁して燃焼室内に逆流する逆流排気を燃焼室内の外縁領域に分布させ、燃焼室内の中心領域に混合気を分布させ、環状の成層分布状態を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】実用新案登録第2524043号公報
【特許文献2】特開平11−264319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内直噴火花点火式内燃機関においては、噴射された燃料噴霧が気化せずにシリンダ内側壁やピストン頂面に衝突して付着してしまう場合があった。シリンダ内側壁に付着した燃料はオイル希釈を多量に生じさせるおそれがある。また、ピストン頂面に付着した燃料はスモークを多量に発生させるおそれがある。
【0005】
本発明の目的とするところは、内燃機関の排気制御装置において、排気ポートから燃焼室内へ逆流させる逆流排気を制御することで燃料噴霧の気化促進を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
燃焼室内の排気流出側に向けて燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内燃料噴射手段と、
前記燃焼室の排気流出側上部に開口した開口部から延びる排気ポートの前記開口部を開閉する排気弁と、
前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する場合に、前記排気弁を開弁して排気を逆流させ、前記燃焼室内の排気流出側に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の排気流出側に到達する燃料噴霧とを衝突させる第1排気制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気制御装置である。
【0007】
ここで、燃焼室内の排気流出側とは、燃焼室内において排気ポートの開口部が存在し、燃焼室内の既燃焼ガスである排気が当該開口部から排気ポートへ流出する側である。また、逆流排気とは、燃焼室内から排気ポートへ排出された既燃焼ガスが再度排気ポートから燃焼室内に逆流するものをいう。
【0008】
本発明によると、燃焼室内の排気流出側に滞留した逆流排気と燃料噴霧とが衝突する。逆流排気は高温であるため、逆流排気と衝突した燃料噴霧の気化を促進することができる。よって、燃焼室内の排気流出側に向かう燃料噴霧が気化せずにシリンダ内側壁に衝突して付着してしまうことを抑制できる。したがって、燃料噴霧がシリンダ内側壁に付着することに起因して生じるオイル希釈を抑制できる。
【0009】
前記第1排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する噴射期間の前後にわたって前記排気弁を開弁状態にするとよい。
【0010】
本発明によると、燃料噴霧が噴射される前から排気弁が開弁されるので、燃料噴霧の噴射前に予め逆流排気を燃焼室内の排気流出側に滞留させておくことができる。また、燃料噴霧の噴射後まで排気弁が開弁されるので、噴射後に燃焼室内の排気流出側に遅れて飛んでくる燃料噴霧と逆流排気とを最後まで衝突させることができる。
【0011】
前記排気ポート内を、第1通路と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を案内する第2通路とに2分割する隔壁と、前記第1通路を開閉する第1開閉弁と、を備え、前記第1排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する場合に、前記第1開閉弁を閉弁して前記第1通路を遮断すると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第2通路を介して逆流させ、前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に到達する燃料噴霧とを衝突させるとよい。
【0012】
本発明によると、燃焼室内の排気流出側の外縁部に滞留した逆流排気と当該外縁部まで到達した燃料噴霧とが衝突する。当該外縁部まで到達した燃料噴霧はシリンダ内側壁に衝突して付着してしまう可能性が高い。よって、当該外縁部まで到達した燃料噴霧に対して集中的に逆流排気を衝突させることで、燃料噴霧がシリンダ内側壁に衝突して付着してしまうことをより抑制できる。また、当該外縁部に滞留した逆流排気によって、シリンダ内側壁に付着した燃料の気化を促進できる。
【0013】
前記第1排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する噴射期間の前後にわたって前記排気弁を開弁状態にすると共に前記排気弁が開弁状態となる期間の前後にわたって前記第1開閉弁を閉弁状態にするとよい。
【0014】
本発明によると、排気弁が開弁される前から第1開閉弁が閉弁されるので、排気弁の開弁当初から逆流排気を第2通路を流通させて燃焼室内の排気流出側の外縁部に導入することができる。また、排気弁が閉弁された後まで第1開閉弁が閉弁されるので、排気弁の閉弁時まで逆流排気を第2通路を流通させて燃焼室内の排気流出側の外縁部に導入することができる。
【0015】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内燃料噴射手段と、
前記燃焼室に開口した開口部から延びる排気ポートの前記開口部を開閉する排気弁と、
前記排気ポート内を、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を案内する第1通路と第2通路とに2分割する隔壁と、
前記第2通路を開閉する第2開閉弁と、
前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する場合に、前記第2開閉弁を閉弁して前記第2通路を遮断すると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第1通路を介して逆流させ、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう燃料噴霧とを衝突させる第2排気制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気制御装置である。
【0016】
本発明によると、燃焼室内の中心部に滞留した逆流排気と燃料噴霧とが衝突する。逆流排気は高温であるため、燃焼室内の中心部で逆流排気と衝突した燃料噴霧の気化を促進することができる。よって、燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう燃料噴霧が気化せずにピストン頂面に衝突して付着してしまうことを抑制できる。また、当該中心部に滞留し
た逆流排気によって、ピストン頂面に付着した燃料の気化を促進できる。したがって、燃料噴霧がピストン頂面に付着することに起因して発生するスモークを抑制できる。
【0017】
前記第2排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する噴射期間の前後にわたって前記排気弁を開弁状態にすると共に前記排気弁が開弁状態となる期間の前後にわたって前記第2開閉弁を閉弁状態にするとよい。
【0018】
本発明によると、燃料噴霧が噴射される前から排気弁が開弁されるので、燃料噴霧の噴射前に予め逆流排気を燃焼室内の中心部に滞留させておくことができる。また、燃料噴霧の噴射後まで排気弁が開弁されるので、噴射後にピストン頂面に遅れて飛んでくる燃料噴霧と逆流排気とを最後まで衝突させることができる。排気弁が開弁される前から第2開閉弁が閉弁されるので、排気弁の開弁当初から逆流排気を第1通路を流通させて燃焼室内の中心部に導入することができる。また、排気弁が閉弁された後まで第2開閉弁が閉弁されるので、排気弁の閉弁時まで逆流排気を第1通路を流通させて燃焼室内の中心部に導入することができる。
【0019】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
燃焼室内の排気流出側に向けて燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内燃料噴射手段であって、吸気行程後半に噴射する燃料噴霧が前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に到達し、吸気行程前半に噴射する燃料噴霧が前記燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう筒内燃料噴射手段と、
前記燃焼室の排気流出側上部に開口した開口部から延びる排気ポートの前記開口部を開閉する排気弁と、
前記排気ポート内を、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を案内する第1通路と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を案内する第2通路とに2分割する隔壁と、
前記第1、第2通路の両方を開放する状態と前記第1通路を遮断する状態と前記第2通路を遮断する状態とを切換可能な切換弁と、
前記筒内燃料噴射手段が吸気行程後半に燃料噴霧を噴射する場合には、前記切換弁を前記第1通路を遮断する状態に切り換えると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第2通路を介して逆流させて、前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に到達する燃料噴霧とを衝突させると共に、前記筒内燃料噴射手段が吸気行程前半に燃料噴霧を噴射する場合には、前記切換弁を前記第2通路を遮断する状態に切り換えると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第1通路を介して逆流させて、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう燃料噴霧とを衝突させる第3排気制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気制御装置である。
【0020】
本発明によると、燃焼室内の排気流出側の外縁部に滞留した逆流排気又は燃焼室内の中心部に滞留した逆流排気と燃料噴霧とが衝突できる。逆流排気は高温であるため、逆流排気と衝突した燃料噴霧の気化を促進することができる。よって、燃焼室内の排気流出側の外縁部に向かう燃料噴霧が気化せずにシリンダ内側壁に衝突して付着してしまうことを抑制できると共に、燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう燃料噴霧が気化せずにピストン頂面に衝突して付着してしまうことを抑制できる。また、滞留した逆流排気によって、シリンダ内側壁又はピストン頂面に付着した燃料の気化を促進できる。したがって、燃料噴霧がシリンダ内側壁に付着することに起因して生じるオイル希釈を抑制できると共に、燃料噴霧がピストン頂面に付着することに起因して発生するスモークを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、内燃機関の排気制御装置において、排気ポートから燃焼室内へ逆流さ
せる逆流排気を制御することで燃料噴霧の気化を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0023】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る内燃機関の排気制御装置を適用する内燃機関の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、ガソリンを燃料とする筒内直噴火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)である。
【0024】
内燃機関1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド3とを備え、その内部にシリンダが形成されている。シリンダ内には、ピストン4が上下動可能に収容されており、シリンダ内壁とピストン頂面とに囲まれた空間によって燃焼室5を形成している。
【0025】
内燃機関1のシリンダヘッド3には、燃焼室5に連通する吸気ポート6と排気ポート7とが各々設けられている。燃焼室5には、吸気ポート6から新気(吸気)が流入し、燃焼室5内で燃焼した既燃焼ガス(排気)が排気ポート7から流出する。ここで、燃焼室5内の領域として、吸気ポート6の燃焼室5上部に開口した開口部が存在し、吸気ポート6の開口部から吸気が燃焼室5内へ流入する側(図中燃焼室内左側)を燃焼室5内の吸気流入側という。また、排気ポート7の燃焼室5上部に開口した開口部が存在し、排気ポート7の開口部から燃焼室5内の排気が流出する側(図中燃焼室内右側)を燃焼室5内の排気流出側という。
【0026】
シリンダヘッド3には、吸気ポート6の燃焼室5の吸気流入側上部に開口した開口部を開閉する吸気弁8と、排気ポート7の燃焼室5の排気流出側上部に開口した開口部を開閉する排気弁9とが設けられている。
【0027】
ここで、排気弁9には、当該排気弁9の開閉特性を変更する排気弁駆動機構10が設けられている。排気弁駆動機構10としては、排気弁の開閉特性である開閉時期(バルブタイミング)の変更を行う排気弁バルブタイミング可変機構や、それに加えて排気弁9の開閉特性である開弁期間(バルブ作用角)の変更を行う排気弁バルブ作用角可変機構を採用することができる。このような排気弁駆動機構10の機能を活用することにより、排気弁9の開閉タイミングや排気弁9のリフト量を可変制御することができる。なお、このような可変動弁機構は吸気弁についても設けられていてもよい。
【0028】
シリンダヘッド3には、内燃機関1の燃焼室5内中心上方にて火花を発生する点火プラグ11が設けられている。点火プラグ11は不図示のイグナイタを介して適宜のタイミングで通電されて火花を発生させ、燃焼室5内に充填される燃料及び空気の混合気を点火する。
【0029】
シリンダヘッド3には、燃焼室5内の吸気流入側の側方から燃焼室5内の排気流出側へ向けて燃料噴霧を噴射する燃料噴射弁12が設けられている。燃料噴射弁12は不図示の高圧ポンプによって加圧された加圧燃料を適宜の量、適宜のタイミングで噴射する。本実施例における燃料噴射弁12が本発明の筒内燃料噴射手段に相当する。
【0030】
シリンダヘッド3の排気ポート7内には、排気ポート7内を上下に2分割する隔壁13が設けられている。隔壁13の排気流れ上流側端は、排気弁9の作動を妨げない排気弁9近傍に達しており、隔壁13の上側の排気ポート上通路14は燃焼室5内の中心部に逆流排気を案内することができ、隔壁13の下側の排気ポート下通路15は燃焼室5内の排気流出側の外縁部に逆流排気を案内することができる。本実施例における排気ポート上通路
14が本発明の第1通路に相当し、排気ポート下通路15が本発明の第2通路に相当する。また、逆流排気とは、燃焼室5内から排気ポート7へ排出された排気が再度排気ポート7から燃焼室5内に逆流するものをいう。
【0031】
隔壁13の排気流れ下流側端には、排気ポート7内を回動することで、排気ポート上通路14及び排気ポート下通路15の両方を開放する状態と、排気ポート下通路15を開放しつつ排気ポート上通路14を遮断する状態と、排気ポート上通路14を開放しつつ排気ポート下通路15を遮断する状態と、を切換可能な切換弁16が設けられている。このような切換弁16の取り得る状態を切り換えることにより、排気又は逆流排気が排気ポート7内を流通する経路を可変制御することができる。
【0032】
シリンダヘッド3には、吸気ポート6に連通する吸気管18と、排気ポート7に連通する排気管19とが接続されている。
【0033】
電子制御ユニット(ECU)20には、吸気管18に配置されたエアフローメータ21に加え、内燃機関1に取り付けられた水温センサ22及びクランクポジションセンサ23などの各種センサが電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの出力信号に基づいて、排気弁駆動機構10、点火プラグ11、燃料噴射弁12、及び切換弁16を電気的に制御することが可能になっている。
【0034】
ところで、本実施例における燃料噴射弁12は、燃料噴霧を噴射した際の噴流を活用して燃焼室5内に発生させたタンブル流を強化するようにしている。このため、燃料噴霧があまり広がらないよう燃料噴射弁12の噴射角が狭角化され、噴流が強くなるよう燃料噴射弁12が噴射する燃料噴霧は高い貫徹力を有する。
【0035】
しかしながら、このような噴射角が狭角化され且つ高い貫徹力を有する燃料噴霧が吸気行程後半に噴射されると、燃焼室5内の噴射方向の先にあるシリンダ内側壁に到達するまでに液滴噴霧が気化し終わらないため、燃料噴霧はシリンダ内側壁に衝突して付着してしまう。シリンダ内側壁に付着した燃料はオイルに溶け込みオイル希釈を多量に生じさせるおそれがある。
【0036】
また、この燃料噴霧が吸気行程前半に噴射されると、吸気行程前半ではピストン4が高い位置にあり、燃焼室5内の噴射方向の先にある燃焼室5内の中心部におけるピストン頂面4aに到達するまでに液滴噴霧が気化し終わらないため、燃料噴霧はピストン頂面4aに衝突して付着してしまう。ピストン頂面4aに付着した燃料は燃焼時にスモークを多量に発生させるおそれがある。
【0037】
そこで、本実施例では、燃料噴射弁12が吸気行程後半に燃料噴霧を噴射する場合には、切換弁16を排気ポート上通路14を遮断する状態に切り換えると共に排気弁9を開弁して排気を排気ポート下通路15を介して逆流させて、燃焼室5内の排気流出側の外縁部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と燃焼室5内の排気流出側の外縁部に到達する燃料噴霧とを衝突させるようにした。
【0038】
図2は、燃料噴射弁12が吸気行程後半に燃料噴霧を噴射する場合の内燃機関1の様子を示す図である。吸気行程後半において燃料噴射弁12が燃料噴霧を噴射する第1噴射期間J1の前後にわたって排気弁駆動機構10を用いて排気弁9を開弁状態にし、この排気弁9が開弁状態となっている第1排気弁開弁期間E1の前後にわたって切換弁16を排気ポート上通路14を遮断する状態(排気ポート上通路遮断期間K1という)にする。これによって、図2に示すように、吸気行程中はピストン4が下降することに伴い燃焼室5内が負圧になるため排気が排気ポート下通路15を介して逆流し、逆流排気は排気ポート下
通路15を流通することで燃焼室5内の排気流出側の外縁部に案内され、当該外縁部に逆流排気が滞留する。一方、燃料噴射弁12から噴射された燃料噴霧は、燃焼室5内の吸気流入側の側方から燃焼室5内の排気流出側へ向かい、一部の燃料噴霧は液滴噴霧のまま燃焼室5内の排気流出側の外縁部に到達する。このため、燃焼室5内の排気流出側の外縁部に滞留した逆流排気と当該外縁部に到達する燃料噴霧とが衝突する。
【0039】
図3は、吸気上死点(吸気TDC)から下死点(BDC)までの燃料噴射弁12、排気弁9及び切換弁16の制御を示すタイムチャートである。図3に示すように、吸気行程後半に燃料噴射弁12が燃料噴霧を噴射する第1噴射期間J1を設定する。この第1噴射期間J1の前後にわたって排気弁駆動機構10を用いて排気弁9を開弁状態にする第1排気弁開弁期間E1を設定する。この第1排気弁開弁期間E1の前後にわたって切換弁16を排気ポート上通路14を遮断する状態にする排気ポート上通路遮断期間K1を設定する。ECU20によってこのような設定に燃料噴射弁12、排気弁9及び切換弁16を制御することを第1制御という。この第1制御に含まれる排気弁9及び切換弁16の制御を実行するECU20が本発明の第1排気制御手段に相当する。
【0040】
このような本実施例の第1制御によると、燃焼室5内の排気流出側の外縁部に滞留した逆流排気と当該外縁部まで到達した燃料噴霧とが衝突する。逆流排気は高温であるため、逆流排気と衝突した燃料噴霧の気化を促進することができる。また、燃焼室5内の排気流出側の外縁部まで到達した燃料噴霧はシリンダ内側壁に衝突して付着してしまう可能性が高い。よって、当該外縁部まで到達した燃料噴霧に対して集中的に逆流排気を衝突させることで、燃料噴霧がシリンダ内側壁に衝突して付着してしまうことをできる限り抑制できる。また、燃料噴霧がシリンダ内側壁に付着してしまっても、当該外縁部に滞留する高温の逆流排気により付着した燃料の気化が促進できる。したがって、燃料噴霧がシリンダ内側壁に付着することに起因して生じるオイル希釈を抑制できる。
【0041】
この第1制御によると、第1噴射期間J1の前後にわたって第1排気弁開弁期間E1が設定される。これにより、燃料噴霧が噴射される前から排気弁9が開弁されるので、燃料噴霧の噴射前に予め逆流排気を燃焼室5内の排気流出側の外縁部に滞留させておくことができる。また、燃料噴霧の噴射後まで排気弁9が開弁されるので、噴射後に燃焼室5内の排気流出側の外縁部に遅れて飛んでくる燃料噴霧と逆流排気とを最後まで衝突させることができる。
【0042】
また第1制御によると、第1排気弁開弁期間E1の前後にわたって排気ポート上通路遮断期間K1が設定される。これにより、排気弁9が開弁される前から切換弁16が排気ポート上通路14を遮断する状態にされるので、排気弁9の開弁当初から逆流排気を排気ポート下通路15を流通させて燃焼室5内の排気流出側の外縁部に導入することができる。また、排気弁9が閉弁された後まで切換弁16が排気ポート上通路14を遮断する状態にされるので、排気弁9の閉弁時まで逆流排気を排気ポート下通路15を流通させて燃焼室5内の排気流出側の外縁部に導入することができる。
【0043】
一方、燃料噴射弁12が吸気行程前半に燃料噴霧を噴射する場合には、切換弁16を排気ポート下通路15を遮断する状態に切り換えると共に排気弁9を開弁して排気を排気ポート上通路14を介して逆流させて、燃焼室5内の中心部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と燃焼室5内の中心部でピストン頂面4aに向かう燃料噴霧とを衝突させるようにした。
【0044】
図4は、燃料噴射弁12が吸気行程前半に燃料噴霧を噴射する場合の内燃機関1の様子を示す図である。吸気行程前半において燃料噴射弁12が燃料噴霧を噴射する第2噴射期間J2の前後にわたって排気弁駆動機構10を用いて排気弁9を開弁状態にし、この排気
弁9が開弁状態となっている第2排気弁開弁期間E2の前後にわたって切換弁16を排気ポート下通路15を遮断する状態(排気ポート下通路遮断期間K2という)にする。これによって、図4に示すように、吸気行程中はピストン4が下降することに伴い燃焼室5内が負圧になるため排気が排気ポート上通路14を介して逆流し、逆流排気は排気ポート上通路14を流通することで燃焼室5内の中心部に案内され、当該中心部に逆流排気が滞留する。一方、燃料噴射弁12から噴射された燃料噴霧は、ピストン4が高い位置にある吸気行程前半であるので、液滴噴霧のまま燃焼室5内の吸気流入側の側方から燃焼室5内の中心部でピストン頂面4aへ向かう。このため、燃焼室5内の中心部に滞留した逆流排気と当該中心部に到達する燃料噴霧とが衝突する。
【0045】
図5は、吸気上死点(吸気TDC)から下死点(BDC)までの燃料噴射弁12、排気弁9及び切換弁16の制御を示すタイムチャートである。図5に示すように、吸気行程前半に燃料噴射弁12が燃料噴霧を噴射する第2噴射期間J2を設定する。この第2噴射期間J2の前後にわたって排気弁駆動機構10を用いて排気弁9を開弁状態にする第2排気弁開弁期間E2を設定する。この第2排気弁開弁期間E2の前後にわたって切換弁16を排気ポート下通路15を遮断する状態にする排気ポート下通路遮断期間K2を設定する。ECU20によってこのような設定に燃料噴射弁12、排気弁9及び切換弁16を制御することを第2制御という。この第2制御に含まれる排気弁9及び切換弁16の制御を実行するECU20が本発明の第2排気制御手段に相当する。
【0046】
このような本実施例の第2制御によると、燃焼室5内の中心部に滞留した逆流排気と当該中心部まで到達した燃料噴霧とが衝突する。逆流排気は高温であるため、逆流排気と衝突した燃料噴霧の気化を促進することができる。よって、燃焼室5内の中心部においてピストン頂面4aに向かう燃料噴霧に対して集中的に逆流排気を衝突させることで、燃料噴霧がピストン頂面4aに衝突して付着してしまうことをできる限り抑制できる。また、燃料噴霧がピストン頂面4aに付着してしまっても、燃焼室5内の中心部に滞留する高温の逆流排気により付着した燃料の気化が促進できる。したがって、燃料噴霧がピストン頂面4aに付着することに起因して発生するスモークを抑制できる。
【0047】
この第2制御によると、第2噴射期間J2の前後にわたって第2排気弁開弁期間E2が設定される。これにより、燃料噴霧が噴射される前から排気弁9が開弁されるので、燃料噴霧の噴射前に予め逆流排気を燃焼室5内の中心部に滞留させておくことができる。また、燃料噴霧の噴射後まで排気弁9が開弁されるので、噴射後に燃焼室5内の中心部に遅れて飛んでくる燃料噴霧と逆流排気とを最後まで衝突させることができる。
【0048】
また第2制御によると、第2排気弁開弁期間E2の前後にわたって排気ポート下通路遮断期間K2が設定される。これにより、排気弁9が開弁される前から切換弁16が排気ポート下通路15を遮断する状態にされるので、排気弁9の開弁当初から逆流排気を排気ポート上通路14を流通させて燃焼室5内の中心部に導入することができる。また、排気弁9が閉弁された後まで切換弁16が排気ポート下通路15を遮断する状態にされるので、排気弁9の閉弁時まで逆流排気を排気ポート上通路14を流通させて燃焼室5内の中心部に導入することができる。
【0049】
次に、本実施例による燃料噴射タイミングの制御ルーチンについて説明する。図6は、本実施例による燃料噴射タイミングの制御ルーチンを示したフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎に繰り返し実行される。なお、本ルーチンを実行するECU20が本発明の第3排気制御手段に相当する。
【0050】
ステップS101では、ECU20は、各種センサの出力信号に基づいて内燃機関1の運転状態を検出する。
【0051】
ステップS102では、ECU20は、ステップS101で検出した内燃機関1の運転状態に基づいて、燃料噴射タイミングを算出する。
【0052】
ステップS103では、ECU20は、ステップS102で算出した燃料噴射タイミングが吸気行程後半で燃料噴射を行うタイミングであるか否か判別する。ステップS103において、吸気行程後半で燃料噴射を行うタイミングであると肯定判定された場合には、ステップS104へ移行する。一方、吸気行程後半で燃料噴射を行うタイミングではないと否定判定された場合には、ステップS105へ移行する。
【0053】
ステップS104では、ECU20は、図3に示す第1制御を実行する。ステップS104の処理の後、本ルーチンを一旦終了する。
【0054】
ステップS105では、ECU20は、ステップS102で算出した燃料噴射タイミングが吸気行程前半で燃料噴射を行うタイミングであるか否か判別する。ステップS105において、吸気行程前半で燃料噴射を行うタイミングであると肯定判定された場合には、ステップS106へ移行する。一方、吸気行程前半で燃料噴射を行うタイミングではないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0055】
ステップS106では、ECU20は、図5に示す第2制御を実行する。ステップS106の処理の後、本ルーチンを一旦終了する。
【0056】
以上の本ルーチンを実施することにより、内燃機関1の運転状態に合わせて排気ポート7から燃焼室5内へ逆流させる逆流排気を好適に制御でき、燃料噴霧の気化を促進でき、燃料噴霧がシリンダ内側壁やピストン頂面4aに付着して生じる弊害を抑制できる。
【0057】
なお、上記実施例では、図6に示すルーチンにより第1及び第2制御を図1に示す内燃機関1で全て実行するようにしていたが、これに限られず、第1及び第2制御のどちらかを個別に実行するようにしてもよい。
【0058】
ここで、第1制御を個別に実行する場合には、排気ポート下通路15を開閉制御するだけでよいので、切換弁16の代わりに排気ポート下通路15を開閉可能な開閉弁を用いてもよい。同じく第2制御を個別に実行する場合には、排気ポート上通路14を開閉制御するだけでよいので、切換弁16の代わりに排気ポート上通路14を開閉可能な開閉弁を用いてもよい。
【0059】
また、第1制御を個別に実行する場合として、燃料噴射弁12が噴射する燃料噴霧がシリンダ内側壁に衝突して付着することを抑制できさえすればよいことに鑑みれば、図7に示すように排気ポート7内の隔壁13や切換弁16を設けず、吸気行程後半において燃料噴射弁12が燃料噴霧を噴射する第1噴射期間J1の前後にわたって排気弁駆動機構10を用いて排気弁9を開弁状態とする第1排気弁開弁期間E1を設定するだけでもよい。これによっても、排気ポート7内の排気が逆流し、逆流排気は燃焼室5内の排気流出側に滞留する。よって、燃焼室5内の排気流出側に滞留した逆流排気と当該排気流出側に到達する燃料噴霧とが衝突することができる。
【0060】
本発明に係る内燃機関の排気制御装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る燃料噴射弁が吸気行程後半に燃料噴霧を噴射する場合の内燃機関の様子を示す図である。
【図3】実施例1に係る第1制御を示すタイムチャートである。
【図4】実施例1に係る燃料噴射弁が吸気行程前半に燃料噴霧を噴射する場合の内燃機関の様子を示す図である。
【図5】実施例1に係る第2制御を示すタイムチャートである。
【図6】実施例1に係る燃料噴射タイミングの制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】実施例1の他の例に係る燃料噴射弁が吸気行程後半に燃料噴霧を噴射する場合の内燃機関の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 内燃機関
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ピストン
4a ピストン頂面
5 燃焼室
6 吸気ポート
7 排気ポート
8 吸気弁
9 排気弁
10 排気弁駆動機構
11 点火プラグ
12 燃料噴射弁
13 隔壁
14 排気ポート上通路
15 排気ポート下通路
16 切換弁
18 吸気管
19 排気管
20 ECU
21 エアフローメータ
22 水温センサ
23 クランクポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内の排気流出側に向けて燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内燃料噴射手段と、
前記燃焼室の排気流出側上部に開口した開口部から延びる排気ポートの前記開口部を開閉する排気弁と、
前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する場合に、前記排気弁を開弁して排気を逆流させ、前記燃焼室内の排気流出側に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の排気流出側に到達する燃料噴霧とを衝突させる第1排気制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気制御装置。
【請求項2】
前記第1排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する噴射期間の前後にわたって前記排気弁を開弁状態にすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項3】
前記排気ポート内を、第1通路と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を案内する第2通路とに2分割する隔壁と、
前記第1通路を開閉する第1開閉弁と、
を備え、
前記第1排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する場合に、前記第1開閉弁を閉弁して前記第1通路を遮断すると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第2通路を介して逆流させ、前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に到達する燃料噴霧とを衝突させることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項4】
前記第1排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する噴射期間の前後にわたって前記排気弁を開弁状態にすると共に前記排気弁が開弁状態となる期間の前後にわたって前記第1開閉弁を閉弁状態にすることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項5】
燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内燃料噴射手段と、
前記燃焼室に開口した開口部から延びる排気ポートの前記開口部を開閉する排気弁と、
前記排気ポート内を、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を案内する第1通路と第2通路とに2分割する隔壁と、
前記第2通路を開閉する第2開閉弁と、
前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する場合に、前記第2開閉弁を閉弁して前記第2通路を遮断すると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第1通路を介して逆流させ、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気とピストン頂面に向かう燃料噴霧とを衝突させる第2排気制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気制御装置。
【請求項6】
前記第2排気制御手段は、前記筒内燃料噴射手段が燃料噴霧を噴射する噴射期間の前後にわたって前記排気弁を開弁状態にすると共に前記排気弁が開弁状態となる期間の前後にわたって前記第2開閉弁を閉弁状態にすることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の排気制御装置。
【請求項7】
燃焼室内の排気流出側に向けて燃焼室内に直接燃料噴霧を噴射する筒内燃料噴射手段であって、吸気行程後半に噴射する燃料噴霧が前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に到達し、吸気行程前半に噴射する燃料噴霧が前記燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう筒内燃料噴射手段と、
前記燃焼室の排気流出側上部に開口した開口部から延びる排気ポートの前記開口部を開閉する排気弁と、
前記排気ポート内を、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を案内する第1通路と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を案内する第2通路とに2分割する隔壁と、
前記第1、第2通路の両方を開放する状態と前記第1通路を遮断する状態と前記第2通路を遮断する状態とを切換可能な切換弁と、
前記筒内燃料噴射手段が吸気行程後半に燃料噴霧を噴射する場合には、前記切換弁を前記第1通路を遮断する状態に切り換えると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第2通路を介して逆流させて、前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の排気流出側の外縁部に到達する燃料噴霧とを衝突させると共に、前記筒内燃料噴射手段が吸気行程前半に燃料噴霧を噴射する場合には、前記切換弁を前記第2通路を遮断する状態に切り換えると共に前記排気弁を開弁して排気を前記第1通路を介して逆流させて、前記燃焼室内の中心部に逆流排気を滞留させ、滞留した逆流排気と前記燃焼室内の中心部でピストン頂面に向かう燃料噴霧とを衝突させる第3排気制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−133255(P2009−133255A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309992(P2007−309992)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】