説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排気浄化用触媒への流入SOX量を推定する。
【解決手段】燃焼室2内に供給される燃料量よりも少量でこの燃料量に比例する燃料により硫黄検出用のサンプルガスがサンプルガス生成室14内に生成される。サンプルガス中に含まれる硫黄を捕獲するセンサ部を有すると共にこのセンサ部に捕獲された硫黄の量をセンサ部の物性変化から検出可能なSOXセンサ16が設けられ、このSOXセンサ16の出力値から触媒8に流入したSOX量が推定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より排気ガス中のSOX濃度を検出するために機関排気通路内に配置されたSOX濃度センサが公知である。これら公知のSOX濃度センサは通常固体電解質を用いており、SOXが硫酸イオンに変化することにより生ずる起電力を計測して排気ガス中のSOX濃度を検出するようにしている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−239706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながらこのようなSOX濃度センサを用いた従来のSOX検出装置は高温のもとでしか作動せず、装置が大掛かりとなり、特にSOX濃度が低いときにはSOX濃度を検出しえないという大きな問題がある。このSOX濃度センサのように従来では排気ガス中のSOX濃度を瞬時に直接検出することばかりに目が向けられており、このように排気ガス中のSOX濃度を瞬時に直接検出しようとしている限りは上述した如き種々の問題が必然的に生ずる。
【0004】
そこで本発明者は発想を転換し、瞬時のSOX濃度を検出するのではなくて、長い期間に亘る硫黄Sの積算量を検出することに目を向けたのである。そしてこのような発想の転換を行うと排気ガス中のSOX濃度を直接検出しなくても排気ガス中のSOX量を容易に推定しうることが判明したのである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明では、機関排気通路内に排気ガス浄化用触媒を配置した内燃機関において、燃焼室内に供給される燃料量よりも少量でこの燃料量に比例する燃料により硫黄検出用のサンプルガスを生成し、このサンプルガス中に含まれる硫黄を捕獲するセンサ部を有すると共にセンサ部に捕獲された硫黄の量をセンサ部の物性変化から検出可能なSOXセンサを具備しており、このSOXセンサの出力値から触媒に流入したSOX量を推定するようにしている。
【発明の効果】
【0006】
触媒に流入したSOX量を容易に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1に圧縮着火式内燃機関の全体図を示す。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内に夫々燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルド、6は燃料タンクを夫々示す。排気マニホルド5は排気管7を介して排気浄化用触媒8に連結される。図1に示される実施例ではこの触媒8は触媒8の下流に配置された触媒にSOXが流入しないように排気ガス中に含まれるSOXを捕獲するSOXトラップ触媒からなる。
【0008】
燃料タンク6には燃料供給ポンプ9が取付けられており、燃料供給ポンプ9から吐出された燃料は燃料分流器10において噴射用燃料とサンプル用燃料に分流される。噴射用燃料は燃料供給管11を介して各燃料噴射弁3に燃料を分配するためのコモンレール12に連結され、サンプル用燃料は燃料供給管13を介して排気管7の周りに形成されたサンプルガス生成室14に連結される。このサンプルガス生成室14内に供給されるサンプル燃料は燃焼室2内に供給される噴射用燃料よりも極めて少量でかつ噴射量燃料に比例している。
【0009】
図1に示されるようにサンプルガス生成室14内に空気を供給するためのエアポンプ15が設けられており、燃料供給管13から供給される燃料とエアポンプ15から供給される空気によってサンプルガス生成室14内には硫黄検出用のサンプルガスが生成される。また、サンプルガス生成室14内にはサンプルガス中の硫黄を検出するためのSOXセンサ16が配置されている。
【0010】
電子制御ユニット20はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス21によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)22、RAM(ランダムアクセスメモリ)23、CPU(マイクロプロセッサ)24、入力ポート25および出力ポート26を具備する。SOXセンサ16の出力は検出回路29において較正され、較正された出力が対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。また、アクセルペダル30にはアクセルペダル30の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ31が接続され、負荷センサ31の出力電圧は対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。更に入力ポート25にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ32が接続される。一方、出力ポート26は対応する駆動回路28を介して燃料噴射弁3、燃料供給ポンプ9およびエアポンプ15に接続される。
【0011】
図2はSOXセンサ16による硫黄の検出原理を示している。SOXセンサ16のセンサ部はサンプルガス中の硫黄を捕獲しうる金属又は金属化合物から形成されており、図2(A)はSOXセンサ16のセンサ部を形成しているこの金属又は金属化合物を符号40で模式的に示している。図2(A)に示される金属又は金属化合物40は硫黄を含まない金属又は金属化合物からなる。本発明による実施例ではこの金属又は金属化合物40はアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、貴金属又はそれら金属の化合物からなる。
【0012】
次にこの金属又は金属化合物40としてアルカリ土類金属の一つであるバリウムBa又はその化合物を用いた場合を例にとって硫黄の検出方法について説明する。
バリウムBaは大気中では酸化バリウムBaOとなっている。この酸化バリウムBaOは排気ガス中に置かれると排気ガス中に含まれるCOやCO2によってただちに炭酸バリウムBaCO3に変化せしめられる。更にこの炭酸バリウムBaCO3は排気ガス中に含まれるNOXによって硝酸バリウムBa(NO32に変化せしめられる。
【0013】
即ち、バリウムBaが用いられた場合には図2(A)に示される金属又は金属化合物40は酸化バリウムBaOか炭酸バリウムBaCO3か又は硝酸バリウムBa(NO32であり、この金属又は金属化合物40が排気ガス中に置かれた場合には硝酸バリウムBa(NO32となる。本発明による実施例では図2(A)に示される金属又は金属化合物40は酸化バリウムBaOからなる。
【0014】
一方、燃料内には硫黄が含まれており、従ってサンプルガス中には硫黄が含まれている。この硫黄SはSOXの形で金属又は金属化合物40に捕獲されて図2(A)に示される硫黄を含む金属化合物41に変化する。バリウムBaが用いられた場合にはこの硫黄を含む金属化合物41は硫酸バリウムBaSO4である。従って金属又は金属化合物40がサンプルガス中に置かれている場合には図2(B)に示されるように酸化バリウムBaOからなる金属化合物40の一部の酸化バリウムBaOが硫酸バリウムBaSO4に変化する。一般的に表現すると酸化物の一部が硫酸塩に変化する。この場合、金属化合物41における硫酸塩の場合は時間が経過するにつれて、即ち捕獲される硫黄の量が増大するほど高くなる。
【0015】
なお、サンプルガスの空燃比がリーンであり、即ちサンプルガス中に十分な酸素が存在し、サンプルガスの温度が300℃程度よりも高いとサンプルガス中の硫黄がSOXの形で金属又は金属化合物40、即ちSOXセンサ16のセンサ部に捕獲されやすくなる。従って図1に示される実施例ではサンプルガスの空燃比がリーンとなるようにエアポンプ15が制御され、SOXセンサ16のセンサ部の温度を硫黄がSOXの形で捕獲されやすい温度にするためにサンプルガスの温度を高めるべくサンプルガス生成室14が排気管7の周りに形成されている。無論、サンプルガスの温度を高めるために電気ヒータ等の他の昇温手段を用いることができる。
【0016】
一方、図2(C)は金属又は金属化合物40が貴金属又はその化合物からなる場合を示している。この貴金属としてはパラジウムPd、ロジウムRh或いは白金Ptを用いることができ、図2(C)は一例としてパラジウムPdを用いた場合を示している。この場合には硫黄が捕獲されると金属酸化物PdOが硫化物PdSに変化する。
【0017】
酸化物が硫酸塩に変化すると、或いは金属酸化物が硫化物に変化すると物性が変化し、従ってこの物性の変化から捕獲された硫黄の量を検出することができる。一方、前述したようにサンプルガス生成室14に供給される燃料量は燃焼室2内に供給される燃料噴射量に比例しており、従ってサンプルガス中の硫黄の量がわかると排気ガス中の硫黄の量、即ち触媒8に流入するSOX量がわかることになる。
【0018】
そこで本発明では、サンプルガス中に含まれる硫黄を捕獲するセンサ部を有すると共にセンサ部に捕獲された硫黄の量をセンサ部の物性変化から検出可能なSOXセンサ16を設け、このSOXセンサ16の出力値から触媒8に流入したSOX量を推定するようにしている。
【0019】
次に図3から図6を参照しつつ計測すべき物性と、計測すべき物性に応じた検出方法の代表例について説明する。なお、これら図3から図6については図2(B)に示される如く酸化物が硫酸塩に変化する場合を例にとって説明する。
【0020】
図3は計測される物性が電気的物性であり、計測される電気的物性が電気抵抗である場合を示している。
図3(A)は硫黄Sの捕獲量と電気抵抗値Rとの関係を示している。図3(A)に示されるように硫黄Sの捕獲量が増大するほど、即ち酸化物から硫酸塩への変化量が多いほど電気抵抗値Rが増大する。従って電気抵抗値Rから硫黄Sの捕獲量、即ち触媒8に流入したSOX量の積算値を求めることができる。
【0021】
図3(B)は図1に示されるSOXセンサ16の検出部を示している。図3(B)に示されるようにサンプルガス生成室14内に配置されているSOXセンサ16の検出部は一対の端子50により支持された金属化合物片からなる検出用センサ部51と一対の端子52により支持された金属化合物片からなる参照用センサ部53から構成される。検出用センサ部51は酸化物から形成されており、参照用センサ部53は硫酸塩から形成されている。サンプルガスが流通すると参照用センサ部53は変化しないが検出用センサ部51は酸化物が少しずつ硫酸塩に変化する。斯くして検出用センサ部51の電気抵抗値Rは次第に増大していくことになる。
【0022】
検出用センサ部51の電気抵抗値Rは周囲の温度が高くなると高くなる。従ってこのような温度変化が電気抵抗値Rに与える影響を除去するために参照用センサ部53が設けられており、例えば図3(C)に示されるようなホイーストンブリッジからなる検出回路29(図1)を用いて検出用センサ部51の電気抵抗値と参照用センサ部53の電気抵抗値との差から硫黄Sの捕獲量を求めるようにしている。図3(C)に示すようなホイーストンブリッジを用いたときに電圧計54に現われる電圧Vは図3(D)に示されるように硫黄Sの捕集量が増大するにつれて低下する。この電圧VがAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。
【0023】
図4から図6は計測される物性が熱的物性であり、計測される熱的物性が熱容量および熱伝導性である場合を示している。
図4(A)に示されるように硫黄Sの捕獲量が増大するほど金属化合物片からなるセンサ部の熱容量は減少する。従って図4(B)に示されるようにセンサ部の周囲の温度が上昇したときにセンサ部の中心温度の上昇率は硫黄Sの捕獲量が増大するほど高くなる。
【0024】
図5(A)はSOXセンサ16の検出部を示している。図5(A)に示される例では一対のリード線60を有するサーミスタ素子61と、一対のリード線62を有するサーミスタ素子63とが設けられている。更にこの例ではサーミスタ素子61の周囲を金属化合物30により包囲することによって検出用センサ部65が形成されており、サーミスタ素子63の周囲を金属化合物66により包囲することによって参照用センサ部67が形成されている。
【0025】
この例では検出用センサ部65周りの温度が変化したときのサーミスタ素子61の抵抗値の変化の応答性から金属化合物64の熱容量が推定され、参照用センサ部67周りの温度が変化したときのサーミスタ素子63の抵抗値の変化の応答性から金属化合物63の熱容量が推定され、これら熱容量の差から硫黄Sの捕集量が求められる。
【0026】
即ち、具体的に言うと図5(B)に示されるようなホイーストンブリッジを用いてサーミスタ素子61の抵抗値とサーミスタ素子63の抵抗値との差が電圧の形で求められる。この場合、この抵抗値の差を現わしている電圧計68の電圧Vは図5(C)に示されるように検出用センサ部65に捕獲される硫黄Sが増大するほど低下する。
【0027】
図6に示される例では検出用センサ部65と参照用センサ部67とを夫々加熱するためのヒータ69,70が設けられている。この例では周囲の温度が変化しない場合でもこれらヒータ69,70を発熱させることによって金属化合物64と金属化合物66との熱容量の差を求めることができる。
【0028】
また、検出用センサ部65を高温にすると金属化合物64から捕獲されているSOXが放出され、検出用センサ部65が再生される。従ってこの例ではヒータ69を発熱することによって検出用センサ部65の温度を上昇させ、それによって検出用センサ部65を再生することができる。なお、この場合、サンプルガスの空燃比を一時的にリッチにしても検出用センサ部65を再生することができる。
【0029】
図1に示される実施例ではSOXトラップ触媒8に流入したSOXはSOXトラップ触媒8に捕獲される。従ってSOXセンサ16の出力値からSOXトラップ触媒8のSOX被毒量を推定することができる。図7はSOXトラップ触媒8のSOX被毒量を検出するためのルーチンを示している。
【0030】
図7を参照するとまず初めにステップ80において機関の運転状態に応じて算出されている燃料噴射量が読込まれる。この燃料噴射量からサンプルガス生成室14に供給される燃料量がわかる。次いでステップ81ではサンプルガスの空燃比を目標リーン空燃比とするのに必要な目標空気供給量が算出される。次いでステップ82ではサンプルガス生成室14内に供給される空気量がこの目標空気供給量となるようにエアポンプ15が制御される。次いでステップ83では例えば図3(D)においてVで示されるSOXセンサ16の出力値が読込まれ、ステップ84ではこの出力値VからSOXトラップ触媒8のSOX被毒量が推定される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】圧縮着火式内燃機関を示す図である。
【図2】硫黄の検出原理を説明するための図である。
【図3】硫黄の検出方法を説明するための図である。
【図4】硫黄の検出方法を説明するための図である。
【図5】硫黄の検出方法を説明するための図である。
【図6】別の実施例を示すSOXセンサのセンサ部周りの側面断面図である。
【図7】SOX被毒量を検出するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
2 燃焼室
3 燃料噴射弁
5 排気マニホルド
7 排気管
8 触媒
9 燃料供給ポンプ
11,13 燃料供給管
14 サンプルガス生成室
15 エアポンプ
16 SOXセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関排気通路内に排気ガス浄化用触媒を配置した内燃機関において、燃焼室内に供給される燃料量よりも少量で該燃料量に比例する燃料により硫黄検出用のサンプルガスを生成し、該サンプルガス中に含まれる硫黄を捕獲するセンサ部を有すると共に該センサ部に捕獲された硫黄の量を該センサ部の物性変化から検出可能なSOXセンサを具備しており、該SOXセンサの出力値から上記触媒に流入したSOX量を推定するようにした内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
該サンプルガスの空燃比がリーンに維持される請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
上記センサ部の温度を硫黄がSOXの形で捕獲されやすい温度にするためにサンプルガスの温度が高められる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
上記センサ部は、硫黄を捕獲したときに硫酸塩に変化する金属化合物からなる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
上記金属化合物はアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属又は貴金属の化合物からなる請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
捕獲された硫黄の量により変化する上記センサ部の物性が、電気抵抗で代表される電気的物性又は熱容量および熱伝導性で代表される熱的物性である請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
上記センサ部が、硫黄を捕獲したときに硫酸塩に変化する検出用センサ部と、もともと硫酸塩とされている参照用センサ部からなる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
上記SOXセンサの出力値から上記触媒のSOX被毒量が推定される請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−286002(P2008−286002A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128954(P2007−128954)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】