内燃機関の燃料噴射制御装置
【課題】気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関において、減速運転時における空燃比のリッチ化を効果的に抑制して、減速運転時における排気性状を改善する。
【解決手段】第1燃料噴射弁及び第2燃料噴射弁の双方から燃料を噴射する機関運転状態において、機関の減速運転に伴って燃料噴射量の減量補正要求が発生した場合に、第1燃料噴射弁による燃料噴射を停止させる一方、第2燃料噴射弁による燃料噴射は、第1燃料噴射弁の噴射を停止させない場合と同様に継続させる。
【解決手段】第1燃料噴射弁及び第2燃料噴射弁の双方から燃料を噴射する機関運転状態において、機関の減速運転に伴って燃料噴射量の減量補正要求が発生した場合に、第1燃料噴射弁による燃料噴射を停止させる一方、第2燃料噴射弁による燃料噴射は、第1燃料噴射弁の噴射を停止させない場合と同様に継続させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、気筒毎の吸気通路に、上流側燃料噴射弁と下流側燃料噴射弁とを備え、高負荷運転領域において、前記上流側燃料噴射弁及び下流側燃料噴射弁の双方から燃料を噴射させる燃料噴射制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2005−220885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、内燃機関の減速運転時には、吸気通路の内壁に付着していた燃料が筒内に吸引されるため、この筒内に吸引される燃料分だけ燃料噴射弁からの燃料噴射量を減量補正する必要がある。
しかし、特許文献1のように、上流側燃料噴射弁及び下流側燃料噴射弁を備える内燃機関においては、それぞれから噴射される燃料噴霧の吸気通路壁面に対する付着特性が異なるため、係る付着特性の違いによって減速減量による空燃比の制御精度が低下し、排気性状が悪化することがあるという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関において、減速運転時における空燃比のリッチ化を効果的に抑制して、減速運転時における排気性状を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本発明では、第1燃料噴射弁及び第2燃料噴射弁の双方から燃料が噴射される機関運転状態で、機関の減速運転に伴って燃料噴射量の減量補正要求が発生した場合に、上流側に配置される第1燃料噴射弁の燃料噴射量を、下流側の第2燃料噴射弁の燃料噴射量に対して優先して減量補正するようにした。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によると、第1燃料噴射弁は、第2燃料噴射弁よりも上流側の吸気通路に配置され、吸気弁までの距離が長いため、第2燃料噴射弁に比べて、噴射された燃料が吸気通路内壁に多く付着する。
機関の減速運転時には、平衡付着量の減少に伴い、それまでに吸気通路壁面に付着していた燃料がシリンダ内に吸引され、空燃比が過渡的にリッチ化するので、燃料噴射量を減量補正してリッチ化の抑制を図る。
【0007】
ここで、前述のように、上流側の第1燃料噴射弁から噴射される燃料の多くが吸気通路壁面に付着するため、第1燃料噴射弁の燃料噴射量を優先して減量補正すれば、減速運転に伴う付着量の減少を早め、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施形態における車両用の内燃機関を示す。
図1に示す内燃機関1は、左右2つのバンクからなるV型機関であるが、直列機関や水平対向機関であってもよい。
内燃機関1の各気筒の燃焼室2内は、吸気ダクト3、吸気マニホールド4a,4b、吸気ポート5を介して大気側と連通している。
【0009】
前記燃焼室2(シリンダ)の吸気口2aは、吸気弁6で開閉され、ピストン7が降下するときに前記吸気弁6が開くと、燃焼室2内に空気が吸引される。
一方、前記吸気マニホールド4a,4bのブランチ部(吸気通路)には、各気筒それぞれに第1燃料噴射弁8a、第2燃料噴射弁8bが介装されており、該燃料噴射弁8a,8bから噴射された燃料が空気と共に燃焼室2内に吸引される。
【0010】
前記シリンダ2内の燃料は、点火プラグ9による火花点火によって着火燃焼し、このときの爆発力がピストン7を押し下げ、該押し下げ力によってクランク軸10が回転駆動される。
また、前記燃焼室2(シリンダ)の排気口2bは、排気弁11で開閉され、ピストン7が上昇するときに前記排気弁11が開くと、燃焼室2内に排気ガスが排気ポート12に排出される。
【0011】
尚、前記吸気弁6及び排気弁11は、クランク軸10からの回転力が伝達されるカム軸に一体的に設けたカムによって、軸方向に往復動し、各気筒の行程に合わせて開閉される。
ここで、吸気カム軸18a,18bのクランク軸10に対する回転位相を可変とすることで、吸気弁6のバルブ作動角の中心位相を進角・遅角変化させる、換言すれば、バルブ作動角一定のままで、吸気弁6の開時期IVO及び閉時期IVCを進角・遅角変化させる可変バルブタイミング機構(可変動弁機構)19a,19bが設けられている。
【0012】
前記排気ポート12には、排気マニホールド13a,13bの各ブランチ部が接続され、更に、排気マニホールド13a,13bの各集合部は合流して、排気ダクト14に接続されている。
前記排気ダクト14には、排気を浄化するための触媒コンバータ15が介装されている。
【0013】
また、前記吸気ダクト3には、電子制御スロットル16が介装されており、内燃機関1の吸入空気量が前記電子制御スロットル16で制御される。
前記燃料噴射弁8a,8bによる燃料噴射量及び燃料噴射時期は、ECM(エンジン・コントロール・モジュール)21によって制御される。
前記ECM21は、マイクロコンピュータを含んで構成され、各種センサからの信号を入力し、該入力信号を予め記憶されているプログラムに従って演算処理して、前記燃料噴射弁8a,8bに対して噴射パルス信号を出力する。
【0014】
前記燃料噴射弁8a,8bには、単位開弁時間当たりの噴射量が一定になるように、圧力調整された燃料が供給されるようになっており、前記燃料噴射弁8a,8bはその開弁時間(噴射パルス幅)に比例する量の燃料を噴射する。
図2は、燃料噴射弁8a,8bに対して燃料を圧送する燃料供給装置を示す。
図2において、燃料タンク51内に電動式の燃料ポンプ52が配置されており、該燃料ポンプ52は、燃料タンク51内の燃料を吸い込んで、燃料供給管53を介して燃料ギャラリー管54に燃料を圧送する。
【0015】
前記燃料ギャラリー管54には、各気筒の第1,第2燃料噴射弁8a,8bが接続されており、第1,第2燃料噴射弁8a,8bが開弁されると、燃料ギャラリー管54内の燃料を噴射する。
前記燃料ギャラリー管54内の燃料圧力を検出する燃圧センサ55が設けられており、該燃圧センサ55の検出信号は、前記ECM21に入力される。
【0016】
前記ECM21は、前記燃圧センサ55で検出される実際の燃圧が目標燃圧に近づくように、前記燃料ポンプ52の印加電圧(燃料ポンプ52の吐出量)を、通電のオン・オフのデューティ比を変化させることでフィードバック制御する。
但し、燃圧が設定圧を超えたときに開弁して燃料をリリーフする機械式のプレッシャレギュレータによって、第1,第2燃料噴射弁8a,8bへの燃料の供給圧が調整されるシステムであっても良い。
【0017】
前記ECM21が信号を入力する各種センサとしては、アクセル開度ACCを検出するアクセル開度センサ22、内燃機関1の冷却水温度TWを検出する水温センサ23、内燃機関1が搭載される車両の走行速度(車速)VSPを検出する車速センサ24、クランク軸10が単位角度だけ回転する毎の単位クランク角信号POSと基準クランク角位置毎の基準クランク角信号REFとをそれぞれに出力するクランク角センサ25、各バンクの排気マニホールド13a,13bの集合部にそれぞれ配置され、排気中の酸素濃度に基づいて各バンクの空燃比AFをそれぞれに検出する空燃比センサ26a,26b、内燃機関1の吸入空気流量QAを検出するエアフローセンサ27、前記電子制御スロットル16の開度TVOを検出するスロットル開度センサ28、電子制御スロットル16下流側の吸気通路内の圧力(吸気管負圧)PBを検出する圧力センサ(負圧センサ)29などが設けられている。
【0018】
尚、前記冷却水温度TWは機関温度を代表するパラメータであるが、この他、吸気通路温度、シリンダブロック温度、潤滑油温度などを検出させることができる。
前記第1燃料噴射弁8a、第2燃料噴射弁8bは、気筒毎に、電子制御スロットル16下流側でかつ吸気弁6よりも上流側の吸気通路に配置され、それぞれに吸気弁6に向けて燃料を噴射するが、第1燃料噴射弁8aが第2燃料噴射弁8bよりも上流側に配置される。
【0019】
更に、前記第1燃料噴射弁8aの燃料噴射率(cc/sec)、換言すれば、単位時間当たりの燃料噴射量は、下流側の第2燃料噴射弁8bよりも大きく設定されており、最大燃料噴射量として、第2燃料噴射弁8bよりも多くの燃料を噴射することが可能であり、この第1燃料噴射弁8aによって、高出力を必要とする高負荷領域でも要求される燃料を噴射することができるようになっている。
【0020】
一方、燃料噴射率及び最大燃料噴射量が比較的小さく設定されている第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射することが可能であり、第2燃料噴射弁8bから噴射される燃料噴霧は、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧よりも気化特性に優れた(気化し易い)噴霧特性となっている。
【0021】
尚、本実施形態では、上流側の第1燃料噴射弁8aを燃料噴射率がより高い燃料噴射弁としたが、逆に下流側の第2燃料噴射弁8bを燃料噴射率がより高い燃料噴射弁とすることができる。
前記ECM21は、前記第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bの燃料噴射量(噴射パルス幅)を算出し、各気筒の吸気行程にタイミングを合わせて、前記第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bに噴射パルス信号を出力する。
【0022】
ところで、機関1の減速運転時には、吸気通路壁面に対する燃料の平衡付着量が減少するのに伴って、吸気通路の内壁に付着していた燃料がシリンダ内に多量に吸引されることで、空燃比をリッチ化させてしまう。
即ち、機関1の定常運転時には、新たに吸気通路内壁に付着する燃料量と、吸気通路内壁に付着していた燃料からシリンダ内に吸引される量とが略同等であって、吸気通路の内壁に対する燃料の付着量は平衡状態を保ち、シリンダ吸入空気量に見合った量の燃料を、燃料噴射弁8a,8bから噴射することで、目標空燃比の混合気を形成させることができる。
【0023】
しかし、機関1の減速運転は、平衡付着量が減少することになり、新たに吸気通路内壁に付着する燃料量よりも、吸気通路内壁に付着していた燃料からシリンダ内に吸引される燃料量が大幅に多くなるため、シリンダ吸入空気量に見合う燃料を噴射すると、空燃比が大きくリッチ化してしまう。
そこで、前記ECM21は、前記減速運転時における空燃比のリッチ化を抑止又は低減するために、燃料噴射量の減量補正を制御するようになっており、以下では、減速運転時における噴射制御(減速減量補正制御)を詳細に説明する。
【0024】
図3のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第1実施形態を示す。
ステップS101では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
ステップS102では、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0025】
尚、低負荷低回転領域にはアイドル運転域が含まれ、高負荷高回転領域にはスロットル全開乃至最大吸入空気量となる運転領域が含まれるものとする。
具体的には、図中に示すように、機関負荷と機関回転速度NEとに応じて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域と、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域とを記憶したマップを備え、そのときの機関負荷と機関回転速度NEとが該当する領域が、いずれの領域であるかを判断する。
【0026】
尚、前記第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域とは、少なくとも第2燃料噴射弁8bのみからの燃料噴射で、機関1の要求燃料量を噴射できる領域であり、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域とは、少なくとも第2燃料噴射弁8bのみからの燃料噴射では機関1の要求燃料量を噴射できない領域である。
【0027】
次のステップS103では、ステップS102での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0028】
ステップS104では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS105へ進み、フラグF=1であればステップS106へ進む。
ステップS105では、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を設定する。
具体的には、第2燃料噴射弁8bの噴射率で目標空燃比の混合気を形成するための基本噴射パルス幅TP2を、そのときの吸入空気流量QA及び機関回転速度NEに基づいて演算し、更に、前記基本噴射パルス幅TP2を、各種補正係数COEFや空燃比フィードバック補正係数LAMBDAや空燃比学習値KBLRCなどに基づいて補正し、最終的な噴射パルス幅TI2を演算し、各気筒の吸気行程にタイミングを合わせて、前記最終的な噴射パルス幅TI2の噴射パルス信号を、各気筒の第2燃料噴射弁8bに出力する。
【0029】
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0030】
一方、ステップS106では、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
機関の減速運転状態とは、機関負荷乃至機関回転速度の減少変化時であって、具体的には、アクセル開度ACC、スロットル開度TVOが所定速度以上で減少変化しているときであり、アクセル開度ACC、スロットル開度TVOの他、トルク、シリンダ充填効率、吸入空気量、機関回転数等の低下のいずれかに基づいて、減速運転を判定させることができ、また、アクセル開度ACCまたはスロットル開度TVOが0乃至アイドル運転時の開度領域で機関回転速度が減少しているときを減速運転状態として含むものである。
【0031】
また、前記所定速度以上で減速変化している時とは、平衡付着量の減少に伴う排気空燃比のリッチ化が許容レベルを超える減速状態である。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS107へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担してそれぞれに噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅とをそれぞれに設定する。
【0032】
第1,第2燃料噴射弁8a,8bそれぞれの噴射パルス幅を設定する方法としては、機関負荷及び/又は機関回転速度や、機関温度(冷却水温度又は吸気通路温度)などの機関運転条件に応じて分担比を決定し、機関1の要求燃料量を前記分担比に従って第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとに分けて噴射させる。
燃料の気化性能(霧化性能)は吸気通路の温度に影響されるため、前記分担比を決定するための機関温度としては吸気通路温度を用いることが好ましいが、簡易には、吸気通路の温度に略相関する冷却水温度を用いることができる。
【0033】
例えば、第1燃料噴射弁8aの噴射量と第2燃料噴射弁8bの噴射量との分担比が、60%:40%に設定されるとすると、要求量の60%の燃料を第1燃料噴射弁8aの噴射率で噴射できる噴射パルス幅TIS1を演算し、要求量の40%の燃料を第2燃料噴射弁8bの噴射率で噴射できる噴射パルス幅TIS2を演算し、前記噴射パルス幅TIS1の噴射パルス信号を第1燃料噴射弁8aに出力し、前記噴射パルス幅TIS2の噴射パルス信号を第2燃料噴射弁8bに出力する。
【0034】
より具体的には、前記最終的な噴射パルス幅TI2の噴射パルス信号の40%を、噴射パルス幅TIS2に設定し、噴射パルス幅TI2から噴射パルス幅TIS2を減算した残りを、第2燃料噴射弁8bの噴射率に基づいて燃料量に換算し、該燃料量を第1燃料噴射弁8aの噴射率で噴射できるパルス幅(時間)を、前記噴射パルス幅TIS1とする。
また、第1,第2燃料噴射弁8a,8bそれぞれの噴射パルス幅を設定する方法としては、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2を、例えば、予め決定された最大値に固定し、係る第2燃料噴射弁8bの噴射では要求量に対して不足する分を前記噴射パルス幅TIS1として設定することができる。
【0035】
一方、ステップS106で機関1の減速運転状態であると判断された場合には、ステップS108へ進み、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
前記減速燃料カット条件とは、アクセル開度ACCまたはスロットル開度TVOが0乃至アイドル運転時の開度領域で、かつ、機関回転速度NEがカット回転速度を上回っている場合であり、減速燃料カット条件が成立している場合には、ステップS109へ進んで、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。これによって、減速時の燃料消費を抑え、燃費性能を向上させることができる。
【0036】
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合であって、燃料噴射して燃焼させる減速運転条件である場合には、ステップS110に進む。
ステップS110では、前記フラグFを0にリセットし、次のステップS111では、第1燃料噴射弁8aの噴射を停止させ(噴射パルス幅TIS1=0とし)、第2燃料噴射弁8bのみで燃料を噴射させるようにする。
【0037】
ここで、非減速時に噴射する場合と同様に第1燃料噴射弁8aとの分担比が設定し、分担比に応じて設定された噴射パルス幅TIS2の噴射パルス幅を第2燃料噴射弁8bに出力して燃料噴射の実行をするものとし、第1燃料噴射弁8aが噴射しない分だけ、総和としての燃料が減るようにするか、又は、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を予め設定される最大値に保持し、機関要求噴射量と第2燃料噴射弁8bの最大値の噴射パルス幅での噴射量との差分を減量分とすることができる。
【0038】
尚、前記噴射パルス幅の最大値は、予め設定される噴射タイミングで機関1に燃料を供給できる最大噴射時間であり、例えば、噴射開始タイミングが決定される場合には、該噴射開始タイミングから噴射を終了させる必要があるタイミング(例えば吸気行程の終期)までの時間である。
また、第2燃料噴射弁の燃料噴射量が非減速時と同様に設定される場合、設定された燃料噴射量が機関要求燃料噴射量に対して小さくなりすぎて燃料不足が生じて失火してしまう惧れがある。
【0039】
失火が発生すると、筒内に導入された壁流分や噴射燃料が燃焼されずに排出されるため、エミッションが悪化し、また、失火によって減速ショックが発生し、減速時の運転性が悪化する惧れがある。
そこで、失火が発生しない範囲で下限噴射量を設定して、第2燃料噴射弁の噴射量が下限噴射量を下回る場合には下限噴射量に制限することで、減速時の空燃比のリッチ化を低減し、また、失火を防止して、排気エミッションや運転性の悪化を抑制することができる。
【0040】
また、燃料噴射量を制限する他に、下限噴射量を下回る場合には、燃料カットを実施して失火による排気エミッションの悪化を低減しても良い。
図4は、前記第1実施形態におけるスロットル開度TVOの変化と噴射パルス幅の変化との相関を示すタイムチャートであり、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bで分担して要求燃料量を噴射している状態から、スロットル開度TVOが減少し始めて減速判定されると、その時点で上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅をゼロ(若しくは、実際には噴射しないパルス幅)にまでステップ的に変化させる。
【0041】
一方、下流側の第2燃料噴射弁8bの噴射量は、負荷の低下に応じて徐々に減少変化する。
上記第1実施形態によると、第1燃料噴射弁8aが噴射しない分だけ、総和としての燃料噴射量が減り、吸気通路の壁面に付着していた燃料が減速に伴ってシリンダ内に流れ込んでも、空燃比が大きくリッチ化することを抑制できる。
【0042】
更に、第1燃料噴射弁8aは、第2燃料噴射弁8bよりも吸気通路の上流側に配置され、吸気弁6までの距離が長いため、第2燃料噴射弁8bに比べて、噴射された燃料が吸気通路内壁に多く付着する。
従って、第1燃料噴射弁8aの燃料噴射を停止させれば、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
【0043】
尚、第2燃料噴射弁8bのみによって燃料を噴射させる低負荷低回転領域での減速運転時には、前記各種補正係数COEFに含められる減速減量補正係数に基づいて、第2燃料噴射弁8bからの噴射量が減量補正され、空燃比の過渡的なリッチ化が抑制されるものとする。
前記減速減量補正量(減速減量補正係数)は、後述するように、スロットル開度TVOの減少変化速度に応じた基本値を、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷などに応じて補正して設定される。
【0044】
図5のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第2実施形態を示す。
ステップS201では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
ステップS202では、前記ステップS102と同様に、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0045】
次のステップS203では、ステップS202での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0046】
ステップS204では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS205へ進み、フラグF=1であればステップS206へ進む。
ステップS205では、ステップS105と同様に、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TI2を設定する。
具体的には、第2燃料噴射弁8bの噴射率で目標空燃比の混合気を形成するための基本噴射パルス幅TP2を、そのときの吸入空気流量QA及び機関回転速度NEに基づいて演算し、更に、前記基本噴射パルス幅TPを、各種補正係数COEFや空燃比フィードバック補正係数LAMBDAや空燃比学習値KBLRCなどに基づいて補正し、最終的な噴射パルス幅TI2を演算し、各気筒の吸気行程にタイミングを合わせて、前記最終的な噴射パルス幅TI2の噴射パルス信号を、各気筒の第2燃料噴射弁8bに出力する。
【0047】
ここで、前記各種補正係数COEFに減速減量補正係数を含めることができる。
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0048】
一方、ステップS206では、前記ステップS106と同様に、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS207へ進み、前記ステップS107と同様にして、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担して噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とをそれぞれに設定する。
【0049】
ステップS207における噴射パルス幅の設定においては、減速運転状態ではないので、噴射パルス幅TIS1,TIS2に対する減速減量補正、及び、減速燃料カットは実施されない。
一方、ステップS206で減速運転状態であると判断されると、ステップS208へ進み、ステップS108と同様にして減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
【0050】
そして、減速燃料カット条件が成立していれば、ステップS209へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合には、ステップS210へ進み、前記第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2を、減速減量補正を施すことなく算出させ、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1についてのみ減速減量補正を施す。
【0051】
前記減速減量補正量(減速減量補正係数)は、スロットル開度TVOの減少変化速度ΔTVO、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷(トルク・吸気圧・QA・TP等)に基づいて設定される。
具体的には、図6に示すように、減少変化速度ΔTVOが速いほど(単位時間当たりの開度TVOの減少変化量が大きいほど)基本減量分をより大きく設定し、該基本減量分を、機関回転速度NEが低いほどより大きく増大補正し、冷却水温度TWが低いほどより大きく増大補正し、機関負荷が高いほどより大きく増大補正する。
【0052】
即ち、減少変化速度ΔTVOが速いほど、機関回転速度NEが低いほど、冷却水温度TWが低いほど、機関負荷が高いほど、より多く燃料噴射量を減量させる。
機関回転速度NEが高いほど吸気回数が増え、吸気管の負圧が増大し、吸気流速が増大することで、吸気通路の燃料付着量(平衡付着量)が減少するため、減量補正の要求としては小さくなり、逆に、低回転時には、吸気流速が低く吸気通路における燃料付着量(平衡付着量)が多くなるため、減量補正量の要求としては大きくなる。
【0053】
また、機関温度(吸気通路温度)が低いと、吸気通路の付着燃料からの気化が減少し、相対的に付着量が増えるため、減量補正の要求としては大きくなる。
更に、機関負荷が高いと、燃料噴射量の増大し、また、吸入空気の流速が低下するため、吸気通路壁面における付着燃料の平衡量が多くなり、減速時に筒内に導入される付着燃料が多くなるため、高負荷時ほど減量補正の要求としては大きくなる。
【0054】
また、本実施形態のように、可変バルブタイミング機構19a,19bが備えられ、吸気弁6の開弁時期IVOが変更される場合であって、噴射開始タイミングが開弁時期IVO前に設定される場合には、第1又は第2燃料噴射弁8a,8bの噴射開始タイミングから開弁時期IVOまでの時間(クランク角)に影響されて、吸気通路壁面に対する燃料の付着量が変化するため、前記開弁時期IVOに応じて前記減速減量補正量(減速減量補正係数)を補正することが好ましい。
【0055】
尚、可変バルブタイミング機構19a,19bに代えて、吸気弁6のバルブ作動角を可変とする可変動弁機構を備えたり、吸気弁6が電磁駆動式の弁であったりする場合にも、吸気弁6の開弁時期IVOが変更されることになり、この場合も、第1又は第2燃料噴射弁8a,8bの噴射開始タイミングから開弁時期IVOまでの時間に応じた減速減量補正量(減速減量補正係数)の補正を適用することができる。
【0056】
上記のようにして、スロットル開度TVOの減少変化速度ΔTVO、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷等に基づいて、前記減速減量補正量の初期値を設定し、その後、時間経過に伴って前記減速減量補正量を一定速度で零にまで漸減させる設定とすることができる他、例えば、機関負荷の減少変化速度が閾値以上である間は、前記パラメータに基づいて減速減量補正量を逐次更新演算し、機関負荷の減少変化速度が前記閾値を下回るようになると、その時点での減速減量補正量を初期値として、前記減速減量補正量を一定速度で零にまで漸減させる設定とすることができる。
【0057】
尚、前記減速減量補正量の更新演算は、一定の演算周期毎(例えば10msec毎)に行わせることができ、また、割り込みルーチンによって減速減量補正量の演算を行わせることで、割り込みの周期毎に行われるものであってもよく、更新演算の周期が一定でない場合を含む。
上記第2実施形態によると、図7に示すように、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bで分担して機関の要求燃料量を噴射している状態から減速運転されると、スロットル開度の変化速度ΔTVO等に基づいて減速減量補正量が設定されるが、係る減速減量補正量に基づく減量補正は、上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射量についてのみ実行され、下流側の第2燃料噴射弁8bの噴射量は、前記減速減量補正量による補正が施されない。
【0058】
上記第2実施形態によると、第1燃料噴射弁8aの噴射量を減量補正することで、総和としての燃料噴射量が減り、吸気通路の壁面に付着していた燃料が減速に伴ってシリンダ内に流れ込んでも、空燃比が大きくリッチ化することを抑止できる。
更に、第1燃料噴射弁8aは、第2燃料噴射弁8bよりも吸気通路の上流側に配置され、吸気弁6までの距離が長いため、第2燃料噴射弁8bに比べて、噴射された燃料が吸気通路内壁に多く付着する。
【0059】
従って、第2燃料噴射弁8bの噴射量を減らすよりも、第1燃料噴射弁8aの噴射量を減らした方が、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
図8のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第3実施形態を示す。
ステップS301では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
【0060】
ステップS302では、前記ステップS102と同様に、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0061】
次のステップS303では、ステップS302での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0062】
ステップS304では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS305へ進み、フラグF=1であればステップS306へ進む。
ステップS305では、ステップS105と同様に、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を設定する。
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0063】
一方、ステップS306では、前記ステップS106と同様に、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS307へ進み、前記ステップS107と同様にして、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担して噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とをそれぞれに設定する。
【0064】
ステップS307における噴射パルス幅の設定においては、減速運転状態ではないので、噴射パルス幅TIS1,TIS2に対する減速減量補正、及び、減速燃料カットは実施されない。
一方、ステップS306で減速運転状態であると判断されると、ステップS308へ進み、ステップS108と同様にして、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
【0065】
そして、減速燃料カット条件が成立していれば、ステップS309へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合には、ステップS310へ進み、前記第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2を、減速減量補正を施すことなく算出させ、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1についてのみ減速減量補正を施す。
【0066】
前記減速減量補正量(減速減量補正係数)は、前述のように、スロットル開度TVOの減少変化速度ΔTVO、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)に基づいて設定され、更に、前記開弁時期IVOに応じて補正することが好ましい。
ステップS311では、前述のように、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)で減量補正される第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1が、ゼロ(若しくは、噴射時間に対する噴射量の比例特性が得られなくなる最小噴射パルス幅)にまで低下しているか否かを判断する。
【0067】
噴射パルス幅TIS1が、ゼロ(若しくは、噴射時間に対する噴射量の比例特性が得られなくなる最小噴射パルス幅)にまで低下していなければ、更に、噴射量を減量できる余裕があるので、そのまま本ルーチンを終了させることで、ステップS307で決定した噴射パルス幅に基づいて燃料噴射を行わせる。
一方、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1が、ゼロ(若しくは、噴射時間に対する噴射量の比例特性が得られなくなる最小噴射パルス幅)にまで低下している場合には、第1燃料噴射弁8aの噴射量が最大限に減量され、それ以上の減量は行えない状態であると判断され、この場合には、ステップS312へ進む。
【0068】
ステップS312では、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)が、零(噴射量を減量補正しないレベル)にまで変化しているか否か、換言すれば、減速時の減量補正要求が無くなっているか、残っているかを判断する。
そして、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)が、零(噴射量を減量補正しないレベル)にまで変化していて、減速時の減量補正要求が無くなっていると判断される場合には、ステップS314へ進んで減速減量補正を終了させる。
【0069】
一方、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)が、零(噴射量を減量補正しないレベル)にまで変化しておらず、減速時の減量補正要求が残っていると判断される場合には、ステップS313へ進む。
ステップS313では、減速減量補正量から、第1燃料噴射弁8aの噴射量から実際に減量されている分を減算した残り分だけ、第2燃料噴射弁8bの噴射量から減らす。即ち、第1燃料噴射弁8aを最大限に減量しても要求減量量に満たない分を、第2燃料噴射弁8bの噴射量から減らすようにする。
【0070】
上記実施形態では、図9に示すように、第1,第2燃料噴射弁8a,8bによって燃料噴射を行っている状態から減速されると、まず、上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)に対して減速状態に応じた減量を施す。
そして、前記減量補正された第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)がゼロにまで減少し、それ以上の減量補正が不能になると、それまで減速減量補正が施されていなかった下流側の第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対して減速減量補正を施し、引き続き減量補正が実行されるようにする。
【0071】
尚、図9に示すように、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対する減速減量補正を開始するときに、減量補正量を徐々に大きくし、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対する減量補正量が要求レベルに到達した時点で、第1燃料噴射弁8aの減量補正量を零にまで変化させ、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)を減速補正なしのレベルまで戻すようにすることができ、これにより減速減量補正の対象を第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)から第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に切り換える場合の空燃比の変化を滑らかにできる。
【0072】
図9に示す例では、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対する減量補正量が要求レベルに到達した時点で、第1燃料噴射弁8aの減量補正量を零にリセットし、第1燃料噴射弁8aの噴射量を減量補正なしの状態に戻すようにしているが、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)をゼロに保持させることができる。
また、減量補正された燃料噴射量では失火が発生する惧れがある場合には、減量補正に制限を加えて失火を防止させることができる。
【0073】
上記の第3実施形態によると、減速初期において、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)について減量補正するので、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
また、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)について最大限に減量し、尚且つ、更なる減速減量要求が残っている場合に、減速減量補正の対象を第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に切り換えるので、第1燃料噴射弁8aの噴射量の減量では、要求の減速減量を満たすことができなくなった後も、要求の減量補正を実現でき、減速運転の後期においても空燃比のリッチ化を抑止又は低減できる。
【0074】
図10のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第4実施形態を示す。
ステップS401では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
ステップS402では、前記ステップS102と同様に、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0075】
次のステップS403では、ステップS402での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0076】
ステップS404では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS405へ進み、フラグF=1であればステップS406へ進む。
ステップS405では、ステップS105と同様に、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を設定する。
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0077】
一方、ステップS406では、前記ステップS106と同様に、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS407へ進み、前記ステップS107と同様にして、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担して噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とを、それぞれに設定する。
【0078】
ステップS407における噴射パルス幅の設定においては、減速運転状態ではないので、噴射パルス幅TIS1,TIS2に対する減速減量補正、及び、減速燃料カットは実施されない。
一方、ステップS406で減速運転状態であると判断されると、ステップS408へ進み、ステップS108と同様にして、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
【0079】
そして、減速燃料カット条件が成立していれば、ステップS409へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合には、ステップS410へ進み、前記減速減量補正量を、図6に示したように、スロットル開度TVOの減少変化速度に応じた基本値を、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷などに応じて補正して設定する。
【0080】
次のステップS411では、前記減速減量補正量を、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とに振り分けて適用させるための振り分け割合を設定する。
具体的には、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1に対する振り分け割合R1を、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2に対する振り分け割合R2(100%=R1+R2)高く設定し、第1燃料噴射弁8aの噴射量の減量割合を、第2燃料噴射弁8bの噴射量の減量割合よりも大きくすると共に、そのときの機関温度(冷却水温度又は吸気通路温度)が低いほど、振り分け割合R1(第1燃料噴射弁8aの噴射量の減量割合)をより高くする。
【0081】
燃料の気化性能(霧化性能)は吸気通路の温度に影響されるため、前記振り分け割合R1を決定するための機関温度としては吸気通路温度を用いることが好ましいが、簡易には、吸気通路の温度に略相関する冷却水温度を用いることができる。ここで、冷却水温度と吸気通路温度とのいずれを用いる場合であっても、温度に対する振り分け割合R1の特性は変わらない。
【0082】
ステップS412では、前記振り分け割合R1,R2に従って、減速減量補正量を、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とに振り分けて適用し、それぞれの噴射量について減速減量補正を施す。
上記実施形態によると、図11に示すように、第1,第2燃料噴射弁8a,8bの双方で燃料噴射を行っている状態から減速されると、スロットル開度の変化速度ΔTVO等に基づいて減速減量補正量が設定され、この減速減量補正量を、上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射量に対してより大きく割り当て、第燃料噴射弁8aの噴射量をより多く減量補正する。
【0083】
第1燃料噴射弁8aからの燃料噴霧は、第2燃料噴射弁8bからの燃料噴霧に比べて、吸気通路の壁面に付着し易いから、第1燃料噴射弁8aからの噴射量をより多く減量補正することで、吸気通路に付着する燃料の付着割合を減少させて、吸気通路における燃料付着量を減少でき、燃料付着量の減少によって減速運転に伴う燃料付着量の減少を早めることで付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくでき、空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
【0084】
更に、機関温度(吸気通路内温度)が低いほど、吸気通路に付着した燃料の気化する割合(量)が低下することで付着量が増大する、即ち、1回の燃料噴射で吸気通路に付着する燃料量は変わらないが、機関温度が低いほど付着燃料からの気化分が減ることで、相対的に付着量が増大してしまうが、本実施形態では、機関温度(冷却水温度)が低いほど、第1燃料噴射弁8aからの噴射量をより多く減量補正するので、温度条件に大きく影響されることなく、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできる。
【0085】
尚、機関負荷が高負荷側に変化する程、燃料噴射量の増大し、また、吸入空気の流速が低下するため、吸気通路壁面における付着燃料の平衡量が多くなり減速時に筒内に導入される付着燃料が多くなることに対応して、図12に示すように、減速運転時における機関負荷が高いほど前記振り分け割合R1をより高くすることができ、更に、前述の機関温度(冷却水温度または吸気通路温度)及び機関負荷に応じて前記振り分け割合R1,R2を設定させることができる。
【0086】
また、上記第4実施形態において、減量補正された燃料噴射量では失火が発生する惧れがある場合には、減量補正に制限を加えて失火を防止させることができる。
更に、前記第1〜第4実施形態において、減速燃料カットから復帰して燃料噴射を再開させるときに、減速減少補正を禁止するか、減速燃料カット中に減速減量補正量をゼロにすることで、減速燃料カットからの復帰時に噴射量が減量補正されてしまうことを防止することが好ましく、これによって、減速燃料カット状態からの復帰時に空燃比がリーン化して失火することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態における内燃機関のシステム図である。
【図2】本発明の実施形態における第1,第2燃料噴射弁に対する燃料の供給装置を示す図である。
【図3】本発明に係る減速時の噴射制御の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図4】前記第1実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図5】本発明に係る減速時の噴射制御の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態における要求減速減量の演算特性を示す図である。
【図7】前記第2実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図8】本発明に係る減速時の噴射制御の第3実施形態を示すフローチャートである。
【図9】前記第3実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図10】本発明に係る減速時の噴射制御の第4実施形態を示すフローチャートである。
【図11】前記第4実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図12】前記第4実施形態における振り分け割合を、機関負荷に応じて設定する特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0088】
1…内燃機関、2…燃焼室、3…吸気ダクト、4a,4b…吸気マニホールド、5…吸気ポート、6…吸気弁、7…ピストン、8a…第1燃料噴射弁、8b…第2燃料噴射弁、9…点火プラグ、10…クランク軸、11…排気弁、16…電子制御スロットル、21…ECM(エンジン・コントロール・モジュール)、22…アクセル開度センサ、23…水温センサ、24…車速センサ、25…クランク角センサ、26a,26b…空燃比センサ、27…エアフローセンサ、28…スロットル開度センサ、29…圧力センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、気筒毎の吸気通路に、上流側燃料噴射弁と下流側燃料噴射弁とを備え、高負荷運転領域において、前記上流側燃料噴射弁及び下流側燃料噴射弁の双方から燃料を噴射させる燃料噴射制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2005−220885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、内燃機関の減速運転時には、吸気通路の内壁に付着していた燃料が筒内に吸引されるため、この筒内に吸引される燃料分だけ燃料噴射弁からの燃料噴射量を減量補正する必要がある。
しかし、特許文献1のように、上流側燃料噴射弁及び下流側燃料噴射弁を備える内燃機関においては、それぞれから噴射される燃料噴霧の吸気通路壁面に対する付着特性が異なるため、係る付着特性の違いによって減速減量による空燃比の制御精度が低下し、排気性状が悪化することがあるという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関において、減速運転時における空燃比のリッチ化を効果的に抑制して、減速運転時における排気性状を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本発明では、第1燃料噴射弁及び第2燃料噴射弁の双方から燃料が噴射される機関運転状態で、機関の減速運転に伴って燃料噴射量の減量補正要求が発生した場合に、上流側に配置される第1燃料噴射弁の燃料噴射量を、下流側の第2燃料噴射弁の燃料噴射量に対して優先して減量補正するようにした。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によると、第1燃料噴射弁は、第2燃料噴射弁よりも上流側の吸気通路に配置され、吸気弁までの距離が長いため、第2燃料噴射弁に比べて、噴射された燃料が吸気通路内壁に多く付着する。
機関の減速運転時には、平衡付着量の減少に伴い、それまでに吸気通路壁面に付着していた燃料がシリンダ内に吸引され、空燃比が過渡的にリッチ化するので、燃料噴射量を減量補正してリッチ化の抑制を図る。
【0007】
ここで、前述のように、上流側の第1燃料噴射弁から噴射される燃料の多くが吸気通路壁面に付着するため、第1燃料噴射弁の燃料噴射量を優先して減量補正すれば、減速運転に伴う付着量の減少を早め、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施形態における車両用の内燃機関を示す。
図1に示す内燃機関1は、左右2つのバンクからなるV型機関であるが、直列機関や水平対向機関であってもよい。
内燃機関1の各気筒の燃焼室2内は、吸気ダクト3、吸気マニホールド4a,4b、吸気ポート5を介して大気側と連通している。
【0009】
前記燃焼室2(シリンダ)の吸気口2aは、吸気弁6で開閉され、ピストン7が降下するときに前記吸気弁6が開くと、燃焼室2内に空気が吸引される。
一方、前記吸気マニホールド4a,4bのブランチ部(吸気通路)には、各気筒それぞれに第1燃料噴射弁8a、第2燃料噴射弁8bが介装されており、該燃料噴射弁8a,8bから噴射された燃料が空気と共に燃焼室2内に吸引される。
【0010】
前記シリンダ2内の燃料は、点火プラグ9による火花点火によって着火燃焼し、このときの爆発力がピストン7を押し下げ、該押し下げ力によってクランク軸10が回転駆動される。
また、前記燃焼室2(シリンダ)の排気口2bは、排気弁11で開閉され、ピストン7が上昇するときに前記排気弁11が開くと、燃焼室2内に排気ガスが排気ポート12に排出される。
【0011】
尚、前記吸気弁6及び排気弁11は、クランク軸10からの回転力が伝達されるカム軸に一体的に設けたカムによって、軸方向に往復動し、各気筒の行程に合わせて開閉される。
ここで、吸気カム軸18a,18bのクランク軸10に対する回転位相を可変とすることで、吸気弁6のバルブ作動角の中心位相を進角・遅角変化させる、換言すれば、バルブ作動角一定のままで、吸気弁6の開時期IVO及び閉時期IVCを進角・遅角変化させる可変バルブタイミング機構(可変動弁機構)19a,19bが設けられている。
【0012】
前記排気ポート12には、排気マニホールド13a,13bの各ブランチ部が接続され、更に、排気マニホールド13a,13bの各集合部は合流して、排気ダクト14に接続されている。
前記排気ダクト14には、排気を浄化するための触媒コンバータ15が介装されている。
【0013】
また、前記吸気ダクト3には、電子制御スロットル16が介装されており、内燃機関1の吸入空気量が前記電子制御スロットル16で制御される。
前記燃料噴射弁8a,8bによる燃料噴射量及び燃料噴射時期は、ECM(エンジン・コントロール・モジュール)21によって制御される。
前記ECM21は、マイクロコンピュータを含んで構成され、各種センサからの信号を入力し、該入力信号を予め記憶されているプログラムに従って演算処理して、前記燃料噴射弁8a,8bに対して噴射パルス信号を出力する。
【0014】
前記燃料噴射弁8a,8bには、単位開弁時間当たりの噴射量が一定になるように、圧力調整された燃料が供給されるようになっており、前記燃料噴射弁8a,8bはその開弁時間(噴射パルス幅)に比例する量の燃料を噴射する。
図2は、燃料噴射弁8a,8bに対して燃料を圧送する燃料供給装置を示す。
図2において、燃料タンク51内に電動式の燃料ポンプ52が配置されており、該燃料ポンプ52は、燃料タンク51内の燃料を吸い込んで、燃料供給管53を介して燃料ギャラリー管54に燃料を圧送する。
【0015】
前記燃料ギャラリー管54には、各気筒の第1,第2燃料噴射弁8a,8bが接続されており、第1,第2燃料噴射弁8a,8bが開弁されると、燃料ギャラリー管54内の燃料を噴射する。
前記燃料ギャラリー管54内の燃料圧力を検出する燃圧センサ55が設けられており、該燃圧センサ55の検出信号は、前記ECM21に入力される。
【0016】
前記ECM21は、前記燃圧センサ55で検出される実際の燃圧が目標燃圧に近づくように、前記燃料ポンプ52の印加電圧(燃料ポンプ52の吐出量)を、通電のオン・オフのデューティ比を変化させることでフィードバック制御する。
但し、燃圧が設定圧を超えたときに開弁して燃料をリリーフする機械式のプレッシャレギュレータによって、第1,第2燃料噴射弁8a,8bへの燃料の供給圧が調整されるシステムであっても良い。
【0017】
前記ECM21が信号を入力する各種センサとしては、アクセル開度ACCを検出するアクセル開度センサ22、内燃機関1の冷却水温度TWを検出する水温センサ23、内燃機関1が搭載される車両の走行速度(車速)VSPを検出する車速センサ24、クランク軸10が単位角度だけ回転する毎の単位クランク角信号POSと基準クランク角位置毎の基準クランク角信号REFとをそれぞれに出力するクランク角センサ25、各バンクの排気マニホールド13a,13bの集合部にそれぞれ配置され、排気中の酸素濃度に基づいて各バンクの空燃比AFをそれぞれに検出する空燃比センサ26a,26b、内燃機関1の吸入空気流量QAを検出するエアフローセンサ27、前記電子制御スロットル16の開度TVOを検出するスロットル開度センサ28、電子制御スロットル16下流側の吸気通路内の圧力(吸気管負圧)PBを検出する圧力センサ(負圧センサ)29などが設けられている。
【0018】
尚、前記冷却水温度TWは機関温度を代表するパラメータであるが、この他、吸気通路温度、シリンダブロック温度、潤滑油温度などを検出させることができる。
前記第1燃料噴射弁8a、第2燃料噴射弁8bは、気筒毎に、電子制御スロットル16下流側でかつ吸気弁6よりも上流側の吸気通路に配置され、それぞれに吸気弁6に向けて燃料を噴射するが、第1燃料噴射弁8aが第2燃料噴射弁8bよりも上流側に配置される。
【0019】
更に、前記第1燃料噴射弁8aの燃料噴射率(cc/sec)、換言すれば、単位時間当たりの燃料噴射量は、下流側の第2燃料噴射弁8bよりも大きく設定されており、最大燃料噴射量として、第2燃料噴射弁8bよりも多くの燃料を噴射することが可能であり、この第1燃料噴射弁8aによって、高出力を必要とする高負荷領域でも要求される燃料を噴射することができるようになっている。
【0020】
一方、燃料噴射率及び最大燃料噴射量が比較的小さく設定されている第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射することが可能であり、第2燃料噴射弁8bから噴射される燃料噴霧は、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧よりも気化特性に優れた(気化し易い)噴霧特性となっている。
【0021】
尚、本実施形態では、上流側の第1燃料噴射弁8aを燃料噴射率がより高い燃料噴射弁としたが、逆に下流側の第2燃料噴射弁8bを燃料噴射率がより高い燃料噴射弁とすることができる。
前記ECM21は、前記第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bの燃料噴射量(噴射パルス幅)を算出し、各気筒の吸気行程にタイミングを合わせて、前記第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bに噴射パルス信号を出力する。
【0022】
ところで、機関1の減速運転時には、吸気通路壁面に対する燃料の平衡付着量が減少するのに伴って、吸気通路の内壁に付着していた燃料がシリンダ内に多量に吸引されることで、空燃比をリッチ化させてしまう。
即ち、機関1の定常運転時には、新たに吸気通路内壁に付着する燃料量と、吸気通路内壁に付着していた燃料からシリンダ内に吸引される量とが略同等であって、吸気通路の内壁に対する燃料の付着量は平衡状態を保ち、シリンダ吸入空気量に見合った量の燃料を、燃料噴射弁8a,8bから噴射することで、目標空燃比の混合気を形成させることができる。
【0023】
しかし、機関1の減速運転は、平衡付着量が減少することになり、新たに吸気通路内壁に付着する燃料量よりも、吸気通路内壁に付着していた燃料からシリンダ内に吸引される燃料量が大幅に多くなるため、シリンダ吸入空気量に見合う燃料を噴射すると、空燃比が大きくリッチ化してしまう。
そこで、前記ECM21は、前記減速運転時における空燃比のリッチ化を抑止又は低減するために、燃料噴射量の減量補正を制御するようになっており、以下では、減速運転時における噴射制御(減速減量補正制御)を詳細に説明する。
【0024】
図3のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第1実施形態を示す。
ステップS101では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
ステップS102では、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0025】
尚、低負荷低回転領域にはアイドル運転域が含まれ、高負荷高回転領域にはスロットル全開乃至最大吸入空気量となる運転領域が含まれるものとする。
具体的には、図中に示すように、機関負荷と機関回転速度NEとに応じて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域と、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域とを記憶したマップを備え、そのときの機関負荷と機関回転速度NEとが該当する領域が、いずれの領域であるかを判断する。
【0026】
尚、前記第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域とは、少なくとも第2燃料噴射弁8bのみからの燃料噴射で、機関1の要求燃料量を噴射できる領域であり、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域とは、少なくとも第2燃料噴射弁8bのみからの燃料噴射では機関1の要求燃料量を噴射できない領域である。
【0027】
次のステップS103では、ステップS102での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0028】
ステップS104では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS105へ進み、フラグF=1であればステップS106へ進む。
ステップS105では、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を設定する。
具体的には、第2燃料噴射弁8bの噴射率で目標空燃比の混合気を形成するための基本噴射パルス幅TP2を、そのときの吸入空気流量QA及び機関回転速度NEに基づいて演算し、更に、前記基本噴射パルス幅TP2を、各種補正係数COEFや空燃比フィードバック補正係数LAMBDAや空燃比学習値KBLRCなどに基づいて補正し、最終的な噴射パルス幅TI2を演算し、各気筒の吸気行程にタイミングを合わせて、前記最終的な噴射パルス幅TI2の噴射パルス信号を、各気筒の第2燃料噴射弁8bに出力する。
【0029】
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0030】
一方、ステップS106では、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
機関の減速運転状態とは、機関負荷乃至機関回転速度の減少変化時であって、具体的には、アクセル開度ACC、スロットル開度TVOが所定速度以上で減少変化しているときであり、アクセル開度ACC、スロットル開度TVOの他、トルク、シリンダ充填効率、吸入空気量、機関回転数等の低下のいずれかに基づいて、減速運転を判定させることができ、また、アクセル開度ACCまたはスロットル開度TVOが0乃至アイドル運転時の開度領域で機関回転速度が減少しているときを減速運転状態として含むものである。
【0031】
また、前記所定速度以上で減速変化している時とは、平衡付着量の減少に伴う排気空燃比のリッチ化が許容レベルを超える減速状態である。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS107へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担してそれぞれに噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅とをそれぞれに設定する。
【0032】
第1,第2燃料噴射弁8a,8bそれぞれの噴射パルス幅を設定する方法としては、機関負荷及び/又は機関回転速度や、機関温度(冷却水温度又は吸気通路温度)などの機関運転条件に応じて分担比を決定し、機関1の要求燃料量を前記分担比に従って第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとに分けて噴射させる。
燃料の気化性能(霧化性能)は吸気通路の温度に影響されるため、前記分担比を決定するための機関温度としては吸気通路温度を用いることが好ましいが、簡易には、吸気通路の温度に略相関する冷却水温度を用いることができる。
【0033】
例えば、第1燃料噴射弁8aの噴射量と第2燃料噴射弁8bの噴射量との分担比が、60%:40%に設定されるとすると、要求量の60%の燃料を第1燃料噴射弁8aの噴射率で噴射できる噴射パルス幅TIS1を演算し、要求量の40%の燃料を第2燃料噴射弁8bの噴射率で噴射できる噴射パルス幅TIS2を演算し、前記噴射パルス幅TIS1の噴射パルス信号を第1燃料噴射弁8aに出力し、前記噴射パルス幅TIS2の噴射パルス信号を第2燃料噴射弁8bに出力する。
【0034】
より具体的には、前記最終的な噴射パルス幅TI2の噴射パルス信号の40%を、噴射パルス幅TIS2に設定し、噴射パルス幅TI2から噴射パルス幅TIS2を減算した残りを、第2燃料噴射弁8bの噴射率に基づいて燃料量に換算し、該燃料量を第1燃料噴射弁8aの噴射率で噴射できるパルス幅(時間)を、前記噴射パルス幅TIS1とする。
また、第1,第2燃料噴射弁8a,8bそれぞれの噴射パルス幅を設定する方法としては、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2を、例えば、予め決定された最大値に固定し、係る第2燃料噴射弁8bの噴射では要求量に対して不足する分を前記噴射パルス幅TIS1として設定することができる。
【0035】
一方、ステップS106で機関1の減速運転状態であると判断された場合には、ステップS108へ進み、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
前記減速燃料カット条件とは、アクセル開度ACCまたはスロットル開度TVOが0乃至アイドル運転時の開度領域で、かつ、機関回転速度NEがカット回転速度を上回っている場合であり、減速燃料カット条件が成立している場合には、ステップS109へ進んで、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。これによって、減速時の燃料消費を抑え、燃費性能を向上させることができる。
【0036】
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合であって、燃料噴射して燃焼させる減速運転条件である場合には、ステップS110に進む。
ステップS110では、前記フラグFを0にリセットし、次のステップS111では、第1燃料噴射弁8aの噴射を停止させ(噴射パルス幅TIS1=0とし)、第2燃料噴射弁8bのみで燃料を噴射させるようにする。
【0037】
ここで、非減速時に噴射する場合と同様に第1燃料噴射弁8aとの分担比が設定し、分担比に応じて設定された噴射パルス幅TIS2の噴射パルス幅を第2燃料噴射弁8bに出力して燃料噴射の実行をするものとし、第1燃料噴射弁8aが噴射しない分だけ、総和としての燃料が減るようにするか、又は、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を予め設定される最大値に保持し、機関要求噴射量と第2燃料噴射弁8bの最大値の噴射パルス幅での噴射量との差分を減量分とすることができる。
【0038】
尚、前記噴射パルス幅の最大値は、予め設定される噴射タイミングで機関1に燃料を供給できる最大噴射時間であり、例えば、噴射開始タイミングが決定される場合には、該噴射開始タイミングから噴射を終了させる必要があるタイミング(例えば吸気行程の終期)までの時間である。
また、第2燃料噴射弁の燃料噴射量が非減速時と同様に設定される場合、設定された燃料噴射量が機関要求燃料噴射量に対して小さくなりすぎて燃料不足が生じて失火してしまう惧れがある。
【0039】
失火が発生すると、筒内に導入された壁流分や噴射燃料が燃焼されずに排出されるため、エミッションが悪化し、また、失火によって減速ショックが発生し、減速時の運転性が悪化する惧れがある。
そこで、失火が発生しない範囲で下限噴射量を設定して、第2燃料噴射弁の噴射量が下限噴射量を下回る場合には下限噴射量に制限することで、減速時の空燃比のリッチ化を低減し、また、失火を防止して、排気エミッションや運転性の悪化を抑制することができる。
【0040】
また、燃料噴射量を制限する他に、下限噴射量を下回る場合には、燃料カットを実施して失火による排気エミッションの悪化を低減しても良い。
図4は、前記第1実施形態におけるスロットル開度TVOの変化と噴射パルス幅の変化との相関を示すタイムチャートであり、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bで分担して要求燃料量を噴射している状態から、スロットル開度TVOが減少し始めて減速判定されると、その時点で上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅をゼロ(若しくは、実際には噴射しないパルス幅)にまでステップ的に変化させる。
【0041】
一方、下流側の第2燃料噴射弁8bの噴射量は、負荷の低下に応じて徐々に減少変化する。
上記第1実施形態によると、第1燃料噴射弁8aが噴射しない分だけ、総和としての燃料噴射量が減り、吸気通路の壁面に付着していた燃料が減速に伴ってシリンダ内に流れ込んでも、空燃比が大きくリッチ化することを抑制できる。
【0042】
更に、第1燃料噴射弁8aは、第2燃料噴射弁8bよりも吸気通路の上流側に配置され、吸気弁6までの距離が長いため、第2燃料噴射弁8bに比べて、噴射された燃料が吸気通路内壁に多く付着する。
従って、第1燃料噴射弁8aの燃料噴射を停止させれば、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
【0043】
尚、第2燃料噴射弁8bのみによって燃料を噴射させる低負荷低回転領域での減速運転時には、前記各種補正係数COEFに含められる減速減量補正係数に基づいて、第2燃料噴射弁8bからの噴射量が減量補正され、空燃比の過渡的なリッチ化が抑制されるものとする。
前記減速減量補正量(減速減量補正係数)は、後述するように、スロットル開度TVOの減少変化速度に応じた基本値を、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷などに応じて補正して設定される。
【0044】
図5のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第2実施形態を示す。
ステップS201では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
ステップS202では、前記ステップS102と同様に、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0045】
次のステップS203では、ステップS202での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0046】
ステップS204では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS205へ進み、フラグF=1であればステップS206へ進む。
ステップS205では、ステップS105と同様に、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TI2を設定する。
具体的には、第2燃料噴射弁8bの噴射率で目標空燃比の混合気を形成するための基本噴射パルス幅TP2を、そのときの吸入空気流量QA及び機関回転速度NEに基づいて演算し、更に、前記基本噴射パルス幅TPを、各種補正係数COEFや空燃比フィードバック補正係数LAMBDAや空燃比学習値KBLRCなどに基づいて補正し、最終的な噴射パルス幅TI2を演算し、各気筒の吸気行程にタイミングを合わせて、前記最終的な噴射パルス幅TI2の噴射パルス信号を、各気筒の第2燃料噴射弁8bに出力する。
【0047】
ここで、前記各種補正係数COEFに減速減量補正係数を含めることができる。
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0048】
一方、ステップS206では、前記ステップS106と同様に、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS207へ進み、前記ステップS107と同様にして、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担して噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とをそれぞれに設定する。
【0049】
ステップS207における噴射パルス幅の設定においては、減速運転状態ではないので、噴射パルス幅TIS1,TIS2に対する減速減量補正、及び、減速燃料カットは実施されない。
一方、ステップS206で減速運転状態であると判断されると、ステップS208へ進み、ステップS108と同様にして減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
【0050】
そして、減速燃料カット条件が成立していれば、ステップS209へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合には、ステップS210へ進み、前記第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2を、減速減量補正を施すことなく算出させ、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1についてのみ減速減量補正を施す。
【0051】
前記減速減量補正量(減速減量補正係数)は、スロットル開度TVOの減少変化速度ΔTVO、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷(トルク・吸気圧・QA・TP等)に基づいて設定される。
具体的には、図6に示すように、減少変化速度ΔTVOが速いほど(単位時間当たりの開度TVOの減少変化量が大きいほど)基本減量分をより大きく設定し、該基本減量分を、機関回転速度NEが低いほどより大きく増大補正し、冷却水温度TWが低いほどより大きく増大補正し、機関負荷が高いほどより大きく増大補正する。
【0052】
即ち、減少変化速度ΔTVOが速いほど、機関回転速度NEが低いほど、冷却水温度TWが低いほど、機関負荷が高いほど、より多く燃料噴射量を減量させる。
機関回転速度NEが高いほど吸気回数が増え、吸気管の負圧が増大し、吸気流速が増大することで、吸気通路の燃料付着量(平衡付着量)が減少するため、減量補正の要求としては小さくなり、逆に、低回転時には、吸気流速が低く吸気通路における燃料付着量(平衡付着量)が多くなるため、減量補正量の要求としては大きくなる。
【0053】
また、機関温度(吸気通路温度)が低いと、吸気通路の付着燃料からの気化が減少し、相対的に付着量が増えるため、減量補正の要求としては大きくなる。
更に、機関負荷が高いと、燃料噴射量の増大し、また、吸入空気の流速が低下するため、吸気通路壁面における付着燃料の平衡量が多くなり、減速時に筒内に導入される付着燃料が多くなるため、高負荷時ほど減量補正の要求としては大きくなる。
【0054】
また、本実施形態のように、可変バルブタイミング機構19a,19bが備えられ、吸気弁6の開弁時期IVOが変更される場合であって、噴射開始タイミングが開弁時期IVO前に設定される場合には、第1又は第2燃料噴射弁8a,8bの噴射開始タイミングから開弁時期IVOまでの時間(クランク角)に影響されて、吸気通路壁面に対する燃料の付着量が変化するため、前記開弁時期IVOに応じて前記減速減量補正量(減速減量補正係数)を補正することが好ましい。
【0055】
尚、可変バルブタイミング機構19a,19bに代えて、吸気弁6のバルブ作動角を可変とする可変動弁機構を備えたり、吸気弁6が電磁駆動式の弁であったりする場合にも、吸気弁6の開弁時期IVOが変更されることになり、この場合も、第1又は第2燃料噴射弁8a,8bの噴射開始タイミングから開弁時期IVOまでの時間に応じた減速減量補正量(減速減量補正係数)の補正を適用することができる。
【0056】
上記のようにして、スロットル開度TVOの減少変化速度ΔTVO、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷等に基づいて、前記減速減量補正量の初期値を設定し、その後、時間経過に伴って前記減速減量補正量を一定速度で零にまで漸減させる設定とすることができる他、例えば、機関負荷の減少変化速度が閾値以上である間は、前記パラメータに基づいて減速減量補正量を逐次更新演算し、機関負荷の減少変化速度が前記閾値を下回るようになると、その時点での減速減量補正量を初期値として、前記減速減量補正量を一定速度で零にまで漸減させる設定とすることができる。
【0057】
尚、前記減速減量補正量の更新演算は、一定の演算周期毎(例えば10msec毎)に行わせることができ、また、割り込みルーチンによって減速減量補正量の演算を行わせることで、割り込みの周期毎に行われるものであってもよく、更新演算の周期が一定でない場合を含む。
上記第2実施形態によると、図7に示すように、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bで分担して機関の要求燃料量を噴射している状態から減速運転されると、スロットル開度の変化速度ΔTVO等に基づいて減速減量補正量が設定されるが、係る減速減量補正量に基づく減量補正は、上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射量についてのみ実行され、下流側の第2燃料噴射弁8bの噴射量は、前記減速減量補正量による補正が施されない。
【0058】
上記第2実施形態によると、第1燃料噴射弁8aの噴射量を減量補正することで、総和としての燃料噴射量が減り、吸気通路の壁面に付着していた燃料が減速に伴ってシリンダ内に流れ込んでも、空燃比が大きくリッチ化することを抑止できる。
更に、第1燃料噴射弁8aは、第2燃料噴射弁8bよりも吸気通路の上流側に配置され、吸気弁6までの距離が長いため、第2燃料噴射弁8bに比べて、噴射された燃料が吸気通路内壁に多く付着する。
【0059】
従って、第2燃料噴射弁8bの噴射量を減らすよりも、第1燃料噴射弁8aの噴射量を減らした方が、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
図8のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第3実施形態を示す。
ステップS301では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
【0060】
ステップS302では、前記ステップS102と同様に、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0061】
次のステップS303では、ステップS302での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0062】
ステップS304では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS305へ進み、フラグF=1であればステップS306へ進む。
ステップS305では、ステップS105と同様に、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を設定する。
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0063】
一方、ステップS306では、前記ステップS106と同様に、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS307へ進み、前記ステップS107と同様にして、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担して噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とをそれぞれに設定する。
【0064】
ステップS307における噴射パルス幅の設定においては、減速運転状態ではないので、噴射パルス幅TIS1,TIS2に対する減速減量補正、及び、減速燃料カットは実施されない。
一方、ステップS306で減速運転状態であると判断されると、ステップS308へ進み、ステップS108と同様にして、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
【0065】
そして、減速燃料カット条件が成立していれば、ステップS309へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合には、ステップS310へ進み、前記第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2を、減速減量補正を施すことなく算出させ、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1についてのみ減速減量補正を施す。
【0066】
前記減速減量補正量(減速減量補正係数)は、前述のように、スロットル開度TVOの減少変化速度ΔTVO、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)に基づいて設定され、更に、前記開弁時期IVOに応じて補正することが好ましい。
ステップS311では、前述のように、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)で減量補正される第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1が、ゼロ(若しくは、噴射時間に対する噴射量の比例特性が得られなくなる最小噴射パルス幅)にまで低下しているか否かを判断する。
【0067】
噴射パルス幅TIS1が、ゼロ(若しくは、噴射時間に対する噴射量の比例特性が得られなくなる最小噴射パルス幅)にまで低下していなければ、更に、噴射量を減量できる余裕があるので、そのまま本ルーチンを終了させることで、ステップS307で決定した噴射パルス幅に基づいて燃料噴射を行わせる。
一方、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1が、ゼロ(若しくは、噴射時間に対する噴射量の比例特性が得られなくなる最小噴射パルス幅)にまで低下している場合には、第1燃料噴射弁8aの噴射量が最大限に減量され、それ以上の減量は行えない状態であると判断され、この場合には、ステップS312へ進む。
【0068】
ステップS312では、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)が、零(噴射量を減量補正しないレベル)にまで変化しているか否か、換言すれば、減速時の減量補正要求が無くなっているか、残っているかを判断する。
そして、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)が、零(噴射量を減量補正しないレベル)にまで変化していて、減速時の減量補正要求が無くなっていると判断される場合には、ステップS314へ進んで減速減量補正を終了させる。
【0069】
一方、前記減速減量補正量(減速減量補正係数)が、零(噴射量を減量補正しないレベル)にまで変化しておらず、減速時の減量補正要求が残っていると判断される場合には、ステップS313へ進む。
ステップS313では、減速減量補正量から、第1燃料噴射弁8aの噴射量から実際に減量されている分を減算した残り分だけ、第2燃料噴射弁8bの噴射量から減らす。即ち、第1燃料噴射弁8aを最大限に減量しても要求減量量に満たない分を、第2燃料噴射弁8bの噴射量から減らすようにする。
【0070】
上記実施形態では、図9に示すように、第1,第2燃料噴射弁8a,8bによって燃料噴射を行っている状態から減速されると、まず、上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)に対して減速状態に応じた減量を施す。
そして、前記減量補正された第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)がゼロにまで減少し、それ以上の減量補正が不能になると、それまで減速減量補正が施されていなかった下流側の第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対して減速減量補正を施し、引き続き減量補正が実行されるようにする。
【0071】
尚、図9に示すように、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対する減速減量補正を開始するときに、減量補正量を徐々に大きくし、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対する減量補正量が要求レベルに到達した時点で、第1燃料噴射弁8aの減量補正量を零にまで変化させ、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)を減速補正なしのレベルまで戻すようにすることができ、これにより減速減量補正の対象を第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)から第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に切り換える場合の空燃比の変化を滑らかにできる。
【0072】
図9に示す例では、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に対する減量補正量が要求レベルに到達した時点で、第1燃料噴射弁8aの減量補正量を零にリセットし、第1燃料噴射弁8aの噴射量を減量補正なしの状態に戻すようにしているが、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)をゼロに保持させることができる。
また、減量補正された燃料噴射量では失火が発生する惧れがある場合には、減量補正に制限を加えて失火を防止させることができる。
【0073】
上記の第3実施形態によると、減速初期において、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)について減量補正するので、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできるため、減速初期の空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
また、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅(噴射量)について最大限に減量し、尚且つ、更なる減速減量要求が残っている場合に、減速減量補正の対象を第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅(噴射量)に切り換えるので、第1燃料噴射弁8aの噴射量の減量では、要求の減速減量を満たすことができなくなった後も、要求の減量補正を実現でき、減速運転の後期においても空燃比のリッチ化を抑止又は低減できる。
【0074】
図10のフローチャートは、減速運転時の噴射制御の第4実施形態を示す。
ステップS401では、機関回転速度NE,吸入空気量QA,冷却水温度TW,スロットル開度TVO,吸気管負圧PBなどの各種信号を読み込む。
ステップS402では、前記ステップS102と同様に、そのときの機関負荷(トルク・吸気圧PB・吸入空気量QA・基本噴射パルス幅TP等)と機関回転速度NEとに基づいて、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域であるか、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる高負荷高回転領域であるかを判別する。
【0075】
次のステップS403では、ステップS402での領域判別の結果に基づいてフラグFの設定を行う。
前記フラグFには、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「0」をセットし、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bを用いて燃料噴射を行わせる領域に該当する場合に「1」をセットする。
【0076】
ステップS404では、前記フラグFの判別を行い、フラグF=0であればステップS405へ進み、フラグF=1であればステップS406へ進む。
ステップS405では、ステップS105と同様に、第2燃料噴射弁8bのみによって要求燃料量を噴射させるべく、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅を設定する。
前記第2燃料噴射弁8bは、低流量側での噴射精度が第1燃料噴射弁8aよりも高く、また、第1燃料噴射弁8aから噴射される燃料噴霧の粒径に比較してより粒径の小さい細かい噴霧で噴射するので、第2燃料噴射弁8bのみを用いて燃料噴射を行わせる低負荷低回転領域において、均質混合気を形成でき、燃焼安定性及び排気性状を向上させることができる。
【0077】
一方、ステップS406では、前記ステップS106と同様に、機関1の減速運転状態であるか否かを判断する。
減速運転状態ではないと判断された場合には、ステップS407へ進み、前記ステップS107と同様にして、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによって要求燃料量を噴射させるべく、換言すれば、要求燃料量を第1燃料噴射弁8aと第2燃料噴射弁8bとで分担して噴射させるように、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とを、それぞれに設定する。
【0078】
ステップS407における噴射パルス幅の設定においては、減速運転状態ではないので、噴射パルス幅TIS1,TIS2に対する減速減量補正、及び、減速燃料カットは実施されない。
一方、ステップS406で減速運転状態であると判断されると、ステップS408へ進み、ステップS108と同様にして、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判断する。
【0079】
そして、減速燃料カット条件が成立していれば、ステップS409へ進み、第1燃料噴射弁8a及び第2燃料噴射弁8bによる燃料噴射を共に停止させる。
一方、減速燃料カット条件が成立していない場合には、ステップS410へ進み、前記減速減量補正量を、図6に示したように、スロットル開度TVOの減少変化速度に応じた基本値を、機関回転速度NE,冷却水温度TW,機関負荷などに応じて補正して設定する。
【0080】
次のステップS411では、前記減速減量補正量を、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とに振り分けて適用させるための振り分け割合を設定する。
具体的には、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1に対する振り分け割合R1を、第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2に対する振り分け割合R2(100%=R1+R2)高く設定し、第1燃料噴射弁8aの噴射量の減量割合を、第2燃料噴射弁8bの噴射量の減量割合よりも大きくすると共に、そのときの機関温度(冷却水温度又は吸気通路温度)が低いほど、振り分け割合R1(第1燃料噴射弁8aの噴射量の減量割合)をより高くする。
【0081】
燃料の気化性能(霧化性能)は吸気通路の温度に影響されるため、前記振り分け割合R1を決定するための機関温度としては吸気通路温度を用いることが好ましいが、簡易には、吸気通路の温度に略相関する冷却水温度を用いることができる。ここで、冷却水温度と吸気通路温度とのいずれを用いる場合であっても、温度に対する振り分け割合R1の特性は変わらない。
【0082】
ステップS412では、前記振り分け割合R1,R2に従って、減速減量補正量を、第1燃料噴射弁8aの噴射パルス幅TIS1と第2燃料噴射弁8bの噴射パルス幅TIS2とに振り分けて適用し、それぞれの噴射量について減速減量補正を施す。
上記実施形態によると、図11に示すように、第1,第2燃料噴射弁8a,8bの双方で燃料噴射を行っている状態から減速されると、スロットル開度の変化速度ΔTVO等に基づいて減速減量補正量が設定され、この減速減量補正量を、上流側の第1燃料噴射弁8aの噴射量に対してより大きく割り当て、第燃料噴射弁8aの噴射量をより多く減量補正する。
【0083】
第1燃料噴射弁8aからの燃料噴霧は、第2燃料噴射弁8bからの燃料噴霧に比べて、吸気通路の壁面に付着し易いから、第1燃料噴射弁8aからの噴射量をより多く減量補正することで、吸気通路に付着する燃料の付着割合を減少させて、吸気通路における燃料付着量を減少でき、燃料付着量の減少によって減速運転に伴う燃料付着量の減少を早めることで付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくでき、空燃比リッチ化を効果的に抑制できる。
【0084】
更に、機関温度(吸気通路内温度)が低いほど、吸気通路に付着した燃料の気化する割合(量)が低下することで付着量が増大する、即ち、1回の燃料噴射で吸気通路に付着する燃料量は変わらないが、機関温度が低いほど付着燃料からの気化分が減ることで、相対的に付着量が増大してしまうが、本実施形態では、機関温度(冷却水温度)が低いほど、第1燃料噴射弁8aからの噴射量をより多く減量補正するので、温度条件に大きく影響されることなく、減速運転に伴う付着量の減少を早め、かつ、付着燃料からシリンダ内に吸引される燃料量を少なくできる。
【0085】
尚、機関負荷が高負荷側に変化する程、燃料噴射量の増大し、また、吸入空気の流速が低下するため、吸気通路壁面における付着燃料の平衡量が多くなり減速時に筒内に導入される付着燃料が多くなることに対応して、図12に示すように、減速運転時における機関負荷が高いほど前記振り分け割合R1をより高くすることができ、更に、前述の機関温度(冷却水温度または吸気通路温度)及び機関負荷に応じて前記振り分け割合R1,R2を設定させることができる。
【0086】
また、上記第4実施形態において、減量補正された燃料噴射量では失火が発生する惧れがある場合には、減量補正に制限を加えて失火を防止させることができる。
更に、前記第1〜第4実施形態において、減速燃料カットから復帰して燃料噴射を再開させるときに、減速減少補正を禁止するか、減速燃料カット中に減速減量補正量をゼロにすることで、減速燃料カットからの復帰時に噴射量が減量補正されてしまうことを防止することが好ましく、これによって、減速燃料カット状態からの復帰時に空燃比がリーン化して失火することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態における内燃機関のシステム図である。
【図2】本発明の実施形態における第1,第2燃料噴射弁に対する燃料の供給装置を示す図である。
【図3】本発明に係る減速時の噴射制御の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図4】前記第1実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図5】本発明に係る減速時の噴射制御の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態における要求減速減量の演算特性を示す図である。
【図7】前記第2実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図8】本発明に係る減速時の噴射制御の第3実施形態を示すフローチャートである。
【図9】前記第3実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図10】本発明に係る減速時の噴射制御の第4実施形態を示すフローチャートである。
【図11】前記第4実施形態における噴射パルス幅の変化特性を示すタイムチャートである。
【図12】前記第4実施形態における振り分け割合を、機関負荷に応じて設定する特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0088】
1…内燃機関、2…燃焼室、3…吸気ダクト、4a,4b…吸気マニホールド、5…吸気ポート、6…吸気弁、7…ピストン、8a…第1燃料噴射弁、8b…第2燃料噴射弁、9…点火プラグ、10…クランク軸、11…排気弁、16…電子制御スロットル、21…ECM(エンジン・コントロール・モジュール)、22…アクセル開度センサ、23…水温センサ、24…車速センサ、25…クランク角センサ、26a,26b…空燃比センサ、27…エアフローセンサ、28…スロットル開度センサ、29…圧力センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記第1燃料噴射弁及び前記第2燃料噴射弁の双方から燃料を噴射する機関運転状態において、機関の減速運転に伴って燃料噴射量の減量補正要求が発生した場合に、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量を、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量に対して優先して減量補正することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記減量補正要求に対して、前記第1燃料噴射弁による燃料噴射を停止させることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記減量補正要求に対して、前記第2燃料噴射弁による燃料噴射量を減量補正せずに、前記第1燃料噴射弁による燃料噴射量のみを減量補正することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記減量補正要求に対して、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合よりも、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合を大きくすることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合を、機関温度が低いほどより大きくすることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合を、減速運転判定時の機関負荷が大きいほどより大きくすることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記減量補正要求に対して、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量を最大限に減量し、該最大限の減量補正で減量補正要求に満たない分を、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量から減量補正することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
減量補正量の初期値を減速運転判定時における機関運転条件に応じて演算し、該初期値から予め決められた所定量ずつ減少変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項9】
減量補正量の初期値を演算周期毎に機関運転条件に応じて演算し、減速運転判定後に機関負荷の変化速度が所定値以下になった時点での減量補正量から、予め決められた所定量ずつ減少変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項10】
前記内燃機関が、吸気弁の開弁時期を変更する可変動弁機構を備え、
減量補正量を、前記可変動弁機構で変更される前記吸気弁の開弁時期と、前記第1燃料噴射弁又は第2燃料噴射弁の噴射開始時期に基づいて演算することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項1】
気筒毎の吸気通路に、第1燃料噴射弁と、該第1燃料噴射弁より下流側に配置される第2燃料噴射弁とを備えた内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記第1燃料噴射弁及び前記第2燃料噴射弁の双方から燃料を噴射する機関運転状態において、機関の減速運転に伴って燃料噴射量の減量補正要求が発生した場合に、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量を、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量に対して優先して減量補正することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記減量補正要求に対して、前記第1燃料噴射弁による燃料噴射を停止させることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記減量補正要求に対して、前記第2燃料噴射弁による燃料噴射量を減量補正せずに、前記第1燃料噴射弁による燃料噴射量のみを減量補正することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記減量補正要求に対して、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合よりも、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合を大きくすることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合を、機関温度が低いほどより大きくすることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量の減量割合を、減速運転判定時の機関負荷が大きいほどより大きくすることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記減量補正要求に対して、前記第1燃料噴射弁の燃料噴射量を最大限に減量し、該最大限の減量補正で減量補正要求に満たない分を、前記第2燃料噴射弁の燃料噴射量から減量補正することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
減量補正量の初期値を減速運転判定時における機関運転条件に応じて演算し、該初期値から予め決められた所定量ずつ減少変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項9】
減量補正量の初期値を演算周期毎に機関運転条件に応じて演算し、減速運転判定後に機関負荷の変化速度が所定値以下になった時点での減量補正量から、予め決められた所定量ずつ減少変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項10】
前記内燃機関が、吸気弁の開弁時期を変更する可変動弁機構を備え、
減量補正量を、前記可変動弁機構で変更される前記吸気弁の開弁時期と、前記第1燃料噴射弁又は第2燃料噴射弁の噴射開始時期に基づいて演算することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−48179(P2010−48179A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213457(P2008−213457)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]