説明

内燃機関の空燃比制御装置

【課題】 空燃比制御系の故障判定の開始後における機関運転状態の変化を的確に監視し、故障判定精度を向上させることができる内燃機関の空燃比制御装置を提供する。
【解決手段】 故障判定期間中にLAFセンサ15の出力信号から算出される検出当量比KACTに含まれる周波数f1成分及び周波数f2成分を抽出し、これらの周波数成分に基づいてLAFセンサ15の応答特性劣化故障が判定される。故障判定開始後において特定運転状態パラメータXOPの変動状態を示し、かつ特定運転状態パラメータXOPの変動履歴が反映される変化量積算値IDXOPを算出し、変化量積算値IDXOPが所定閾値IDXOPTH以上であるときに、故障判定が中断(停止)される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置に関し、特に空燃比制御系における故障を判定する機能を有する空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複数気筒を有する内燃機関の排気管集合部に設けられた1つの空燃比センサを用いて、各気筒の空燃比のばらつきを判定する制御装置を開示している。この装置によれば、判定に使用するデータの取得は、吸入空気量の変化量が所定量より小さいこと、吸入空気量が所定上下限値の範囲内にあること、機関回転数の変化量が所定量より小さいこと、機関回転数が所定上下限値の範囲内にあることを含む所定条件が成立するときに行われる。
【0003】
さらに取得されたデータに基づいて1サイクル周波数成分(機関回転数に対応する周波数の1/2の周波数成分)の強度(MPOW1)が算出され、その周波数成分強度が閾値(THMP1)より大きいときに、気筒毎の空燃比が許容限度を超えてばらついていると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−220489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の装置では、機関の運転状態パラメータXOP(吸入空気量、機関回転数)の変化量を用いた判定は、一定時間DT(例えば100msec)毎の変化量DXOPと、所定量DXOPTHとを比較することにより行われるため、例えば300msec程度の期間では大きく変化しているような運転状態であっても、変化量DXOPは所定量DXOPTH以下であるような場合には、データ取得が許可される(図14(a)参照)。また運転状態パラメータXOPが大きく変動していても、所定上下限値XOPLMH,XOPLMLの範囲内の変動であれば、データ取得が許可される(図14(b)参照)。
【0006】
したがって、上記従来の装置で採用されるデータ取得条件では、運転状態パラメータXOPが大きく変動している状態において取得したデータに基づく判定が行われ、判定精度が低下するおそれがある。特に上記1サイクル周波数に近い周波数の変動が含まれているときに、判定精度が低下する可能性が高くなる。
【0007】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、空燃比制御系の故障判定の開始後における機関運転状態の変化を的確に監視し、故障判定精度を向上させることができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、複数気筒を有する内燃機関の排気通路において空燃比(KACT)を検出する空燃比検出手段と、前記複数気筒のそれぞれに供給する燃料量(TOUT)を制御する燃料量制御手段とを備える、内燃機関の空燃比制御装置において、前記機関の運転状態を示す少なくとも一つの運転状態パラメータ(XOP)を取得する運転状態パラメータ取得手段と、故障判定期間中に前記空燃比検出手段の検出信号から特定周波数成分(周波数f1成分、0.5次周波数成分)を抽出する抽出手段と、抽出された特定周波数成分に基づいて前記機関の空燃比制御系の故障判定を行う故障判定手段と、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータ(XOP)の変動状態を示す変動状態パラメータであって、前記運転状態パラメータの変動履歴が反映される変動状態パラメータ(IDXOP,IDXOPP,IDXOPN,(XOPMAX−XOPMIN),XOPBFA)を算出する変動状態パラメータ算出手段と、前記変動状態パラメータが所定閾値以上である特定変動状態が検出されたときに、前記故障判定を中断または停止する判定停止手段とを備え、前記特定変動状態は、前記抽出手段により抽出される特定周波数成分の強度に影響を与える変動状態であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータ(XOP)または前記運転状態パラメータの平均値(XOPAVE)が所定上下限値(XOPLMH,XOPLML)の範囲内にあるときに前記変動状態パラメータの算出を実行することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記運転状態パラメータ取得手段は、複数の運転状態パラメータを取得し、前記変動状態パラメータ算出手段は、前記変動状態パラメータの算出に適用される運転状態パラメータとは異なる他の運転状態パラメータ(GAIR)または該他の運転状態パラメータの平均値(GAIRAVE)が所定上下限値の範囲内にあるときに前記変動状態パラメータの算出を実行することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータの変化量絶対値(DXOPA)を積算することにより前記変動状態パラメータ(IDXOP)を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータの正の変化量を積算することにより増加量積算値(IDXOPP)を算出するとともに、前記運転状態パラメータの負の変化量の絶対値を積算することにより減少量積算値(IDXOPN)を算出し、前記増加量積算値及び減少量積算値の少なくとも一方を、前記変動状態パラメータとして算出することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後における前記運転状態パラメータの最大値(XOPMAX)及び最小値(XOPMIN)を更新するとともに前記最大値と前記最小値との差分値(XOPMAX−XOPMIN)を前記変動状態パラメータとして算出することを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後における前記運転状態パラメータに含まれる所定周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、該バンドパスフィルタ処理後の運転状態パラメータ(XOPBFA)を前記変動状態パラメータとして算出することを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記特定周波数成分は、前記機関の回転速度に対応する周波数の1/2の周波数成分である0.5次周波数成分であり、前記故障判定手段は、前記0.5次周波数成分に基づいて、前記複数気筒のそれぞれに対応する空燃比が許容限度を超えてばらついているインバランス故障を判定することを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記空燃比を設定周波数(f1)で変動させる空燃比変動手段をさらに備え、前記特定周波数成分は、前記設定周波数の成分(周波数f1成分)であり、前記故障判定手段は、前記設定周波数の成分に基づいて、前記空燃比検出手段の劣化故障を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、故障判定期間中に空燃比検出手段の検出信号から特定周波数成分が抽出され、抽出された特定周波数成分に基づいて空燃比制御系の故障判定が行われる。故障判定期間開始後において機関の運転状態を示す運転状態パラメータの変動状態を示し、かつ運転状態パラメータの変動履歴が反映される変動状態パラメータが算出され、この変動状態パラメータが所定閾値以上である特定変動状態、すなわち抽出手段によって抽出される特定周波数成分の強度に影響を与える変動状態が検出されたときに、故障判定が中断または停止される。運転状態パラメータの変動履歴が反映される変動状態パラメータを用いて特定変動状態を検出することにより、運転状態パラメータの変動が特定周波数成分の強度に影響を及ぼすことに起因する誤判定を防止し、故障判定精度を向上させることができる。なお、変動状態パラメータとして、運転状態パラメータの平均値を用いた場合には、上記特定変動状態を検出することはできないので、運転状態パラメータの平均値は、変動状態パラメータには含まれない。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、故障判定期間開始後において運転状態パラメータまたはその平均値が所定上下限値の範囲内にあるときに変動状態パラメータの算出が行われるので、運転状態パラメータが故障判定に適さない値に変化したときは、変動状態パラメータの算出が停止される。これにより、変動状態パラメータによる不適切な停止条件判定が回避され、故障判定精度の低下を防止できる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、故障判定期間開始後において、変動状態パラメータの算出に適用される運転状態パラメータとは異なる他の運転状態パラメータまたは該他の運転状態パラメータの平均値が、所定上下限値の範囲内にあるときに変動状態パラメータの算出が行われる。他の運転状態パラメータが故障判定に適さない値に変化したときは、変動状態パラメータの算出が停止されるので、変動状態パラメータによる不適切な停止条件判定が回避され、故障判定精度の低下を防止できる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、故障判定期間開始後において運転状態パラメータの変化量絶対値を積算することにより変動状態パラメータが算出されるので、比較的簡便な演算で、運転状態パラメータの変動履歴を的確に示す変動状態パラメータが得られる。その結果、制御装置の演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、故障判定期間開始後において運転状態パラメータの正の変化量を積算することにより増加量積算値が算出されるとともに、運転状態パラメータの負の変化量の絶対値を積算することにより減少量積算値が算出され、増加量積算値及び減少量積算値の少なくとも一方が、変動状態パラメータとして算出される。したがって、比較的簡便な演算で、運転状態パラメータの増加及び/または減少の履歴を的確に示す変動状態パラメータが得られる。その結果、制御装置の演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、故障判定期間開始後における運転状態パラメータの最大値及び最小値が更新されるとともに、最大値と最小値との差分値が変動状態パラメータとして算出されるので、比較的簡便な演算で、空燃比検出手段の出力特性が大きく変化する変動履歴を確実に判定することができる。その結果、制御装置の演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、故障判定期間開始後における運転状態パラメータに含まれる所定周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ処理が実行され、該バンドパスフィルタ処理後の運転状態パラメータが変動状態パラメータとして算出されるので、故障判定に使用される特定周波数成分に大きな影響を与える変動周波数成分が運転状態パラメータに含まれている状態を、比較的簡便な演算で確実に判定することができる。その結果、制御装置の演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、特定周波数成分は、機関の回転速度に対応する周波数の1/2の周波数成分である0.5次周波数成分であり、0.5次周波数成分に基づいて、複数気筒のそれぞれに対応する空燃比が許容限度を超えてばらついているインバランス故障が判定される。したがって、運転状態パラメータの変動によってインバランス故障の判定精度が低下することを防止できる。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、空燃比を設定周波数で変動させる空燃比変動制御が行われ、設定周波数の成分に基づいて、空燃比検出手段の劣化故障が判定される。したがって、運転状態パラメータの変動によって空燃比検出手段の劣化故障の判定精度が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその空燃比制御装置の構成を示す図である。
【図2】故障判定処理の全体構成を示すフローチャートである。
【図3】停止条件判定処理(第1の実施形態)のフローチャートである。
【図4】図3の処理を説明するためのタイムチャートである。
【図5】図2の処理で実行されるLAFセンサ故障判定処理のフローチャートである。
【図6】図3に示す処理の第1変形例を示すフローチャートである。
【図7】図3に示す処理の第2変形例を示すフローチャートである。
【図8】停止条件判定処理(第2の実施形態)のフローチャートである。
【図9】停止条件判定処理(第3の実施形態)のフローチャートである。
【図10】図9の処理を説明するためのタイムチャートである。
【図11】停止条件判定処理(第4の実施形態)のフローチャートである。
【図12】図2に示す処理の変形例のフローチャートである。
【図13】図12で実行されるインバランス故障判定処理のフローチャートである。
【図14】従来技術の課題を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関(以下「エンジン」という)及びその空燃比制御装置の全体構成図であり、例えば4気筒のエンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、その検出信号は電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。
【0028】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0029】
スロットル弁3の上流側には吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ7が設けられている。またスロットル弁3の下流側には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8、及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。エンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ10が装着されており、その検出信号はECU5に供給される。
【0030】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0031】
排気通路13には三元触媒14が設けられている。三元触媒14は、酸素蓄積能力を有し、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリーン側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的高い排気リーン状態では、排気中の酸素を蓄積し、逆にエンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリッチ側に設定され、排気中の酸素濃度が低く、HC、CO成分が多い排気リッチ状態では、蓄積した酸素により排気中のHC,COを酸化する機能を有する。
【0032】
三元触媒14の上流側であって各気筒に連通する排気マニホールドの集合部より下流側には、比例型酸素濃度センサ15(以下「LAFセンサ15」という)が装着されており、このLAFセンサ15は排気中の酸素濃度(空燃比)にほぼ比例した検出信号を出力し、ECU5に供給する。
【0033】
ECU5には、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ21及び当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ22が接続されており、それらセンサの検出信号がECU5に供給される。スロットル弁3は図示しないアクチュエータにより開閉駆動され、スロットル弁開度THはアクセルペダル操作量APに応じてECU5により制御される。
なお、図示は省略しているが、エンジン1には周知の排気還流機構が設けられている。
【0034】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、該CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、燃料噴射弁6に駆動信号を供給する出力回路を備えている。
【0035】
ECU5のCPUは、上述の各種センサの検出信号に基づいて、種々のエンジン運転状態を判別するとともに、該判別されたエンジン運転状態に応じて、次式(1)を用いて、TDCパルスに同期して開弁作動する燃料噴射弁6の燃料噴射時間TOUTを演算する。燃料噴射時間TOUTは、噴射される燃料量にほぼ比例するので、以下「燃料噴射量TOUT」という。
TOUT=TIM×KCMD×KAF×KTOTAL (1)
【0036】
ここに、TIMは基本燃料量、具体的には燃料噴射弁6の基本燃料噴射時間であり、吸入空気流量GAIRに応じて設定されたTIMテーブルを検索して決定される。TIMテーブルは、エンジンにおいて燃焼する混合気の空燃比AFがほぼ理論空燃比になるように設定されている。
【0037】
KCMDはエンジン1の運転状態に応じて設定される目標空燃比係数である。目標空燃比係数KCMDは、空燃比A/Fの逆数、すなわち燃空比F/Aに比例し、理論空燃比のとき値1.0をとるので、以下「目標当量比」という。後述するように、LAFセンサ15の応答特性劣化故障判定を行うときは、1.0±DAFの範囲で時間経過に伴って正弦波状に変化するように設定される。
【0038】
KAFは、空燃比フィードバック制御の実行条件が成立するときは、LAFセンサ15の検出値から算出される検出当量比KACTが目標当量比KCMDに一致するようにPID(比例積分微分)制御あるいは適応制御器(Self Tuning Regulator)を用いた適応制御により算出される空燃比補正係数である。
【0039】
KTOTALは夫々各種エンジンパラメータ信号に応じて演算される他の補正係数(エンジン冷却水温TMに応じた補正係数KTW、吸気温TAに応じた補正係数KTAなど)の積である。
【0040】
ECU5のCPUは上述のようにして求めた燃料噴射量TOUTに基づいて燃料噴射弁6を開弁させる駆動信号を出力回路を介して燃料噴射弁6に供給する。また、ECU5のCPUは、以下に説明するようにLAFセンサ15の応答特性劣化故障判定を行う。
【0041】
本実施形態における応答特性劣化故障判定は、基本的には特開2010−101289号公報に示される手法と同一のものであり、エンジン運転中に空燃比を周波数f1で振動させる空燃比振動制御を実行し、LAFセンサ15の出力信号から算出される検出当量比KACTに含まれる周波数f1の成分強度MPTf1と、周波数f1の2倍の周波数である周波数f2に対応する周波数f2の成分強度MPTf2とを用いて、応答特性劣化故障が判定される。
【0042】
図2は、故障判定処理の全体構成を示すフローチャートである。この処理は、所定クランク角度CACAL(例えば30度)毎にECU5のCPUで実行される。
ステップS1では、実行条件フラグFMCNDが「1」であるか否かを判別する。実行条件フラグFMCNDは、実行条件判定処理(図示せず)において故障判定の実行条件が成立するとき「1」に設定される。具体的には下記の条件1)〜11)がすべて満たされると、実行条件フラグFMCNDが「1」に設定される。条件1)〜11)の何れかが満たされないときは、実行条件フラグFMCNDは「0」に維持される。
【0043】
1)エンジン回転数NEが所定上下限値の範囲内にある。
2)吸気圧PBAが所定圧より高い(判定に必要な排気流量が確保されている)。
3)LAFセンサ15が活性化している。
4)LAFセンサ15の出力に応じた空燃比フィードバック制御が実行されている。
5)エンジン冷却水温TWが所定温度より高い。
6)エンジン回転数NEの単位時間当たりの変化量DNEが所定回転数変化量より小さい。
7)吸気圧PBAの単位時間当たりの変化量DPBAFが所定吸気圧変化量より小さい。
8)燃料の加速増量(急加速時に実行される)が行われていない。
9)排気還流率が所定値より大きい。
10)LAFセンサ出力が上限値または下限値に張り付いた状態ではない。
11)LAFセンサの応答特性が正常である(応答特性の劣化故障が発生しているとの判定が行われていない)。
【0044】
ステップS1で実行条件フラグFMCNDが「0」であるときは直ちに処理を終了する。実行条件フラグFMCNDが「1」に設定されると、ステップS1からステップS2に進み、目標当量比KCMDを下記式(2)によって振動させる空燃比振動制御を実行する。空燃比振動制御実行中は、空燃比補正係数KAFを「1.0」または「1.0」以外の特定の値に固定される。式(2)のKf1は、例えば振動周波数f1を0.4fNE(fNE=NE[rpm]/60)とする場合には、「0.4」に設定される第1周波数係数であり、「k」は目標当量比KCMDの算出周期CACALで離散化した離散化時刻である。
KCMD=DAF×sin(Kf1×CACAL×k)+1 (2)
【0045】
ステップS3では、空燃比振動制御フラグFPTが「1」であるか否かを判別する。空燃比振動制御フラグFPTは、空燃比振動制御の開始時点から所定安定化時間TSTBLが経過すると「1」に設定される。ステップS3の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。
【0046】
ステップS3の答が肯定(YES)であるときは、停止条件フラグFDSTPが「1」であるか否かを判別する(ステップS4)。停止条件フラグFDSTPは、図3に示す停止条件判定処理において、故障判定処理を停止すべき条件が成立するとき「1」に設定される。ステップS4の答が否定(NO)であるときは、図5に示すLAFセンサ故障判定処理を実行する(ステップS5)。
【0047】
ステップS4でFDSTP=1であるときは、実行条件フラグFMCNDを「0」に戻し(ステップS6)、処理を終了する。
【0048】
図3は、停止条件判定処理のフローチャートである。この処理は、実行条件フラグFMCNDが「1」であるときに、ECU5のCPUで所定時間(例えば100msec)毎に実行される。
ステップS11では、エンジン回転数NEが所定高回転数NETHHより低いか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、エンジン冷却水温TWが所定低水温TWTHLより高いか否かを判別する(ステップS12)。ステップS11またはS12の答が否定(NO)であるときは、故障判定を停止すべきであると判定し、停止条件フラグFDSTPを「1」に設定する。ここで、所定高回転数NETHHは、上記故障判定実行条件の1)における上限回転数と同一またはより高い値に設定され、所定低水温TWLは、上記故障判定実行条件の5)における所定温度と同一またはより低い温度に設定される。所定高回転数NETHHを実行条件1)における上限回転数より高い値に設定し、所定低水温TWLを実行条件5)における所定温度より低い温度に設定する場合には、故障判定が開始され易く、停止(中断)され難くすることができる。
【0049】
ステップS12の答が肯定(YES)であるときは、ステップS13〜S17により、特定運転状態パラメータXOPに基づく停止条件判定を行う。特定運転状態パラメータXOPとしては、吸入空気流量GAIR、気筒吸入空気量GAIRCYL、エンジン回転数NE、または吸気圧PBAの何れか1つが使用される。気筒吸入空気量GAIRCYLは、吸入空気量流量GAIRに基づいて公知の手法(例えば特開2011−144683号公報)で算出される1TDC期間(TDCパルスの発生周期)当たりの気筒吸入空気量である。
【0050】
ステップS13では、特定運転状態パラメータXOPが所定下限値XOPLMLより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、特定運転状態パラメータXOPが所定上限値XOPLMHより小さいか否かを判別する(ステップS14)。ステップS13またはS14の答が否定(NO)であるときは、前記ステップS19に進む。
【0051】
ステップS14の答が肯定(YES)であるときは、下記式(11)により、特定運転状態パラメータXOPの変化量絶対値DXOPAを算出する。式(11)のXOPZは、特定運転状態パラメータXOPの前回値である。
DXOPA=|XOP−XOPZ| (11)
【0052】
ステップS16では、変化量絶対値DXOPAを下記式(12)に適用し、変化量積算値IDXOPを算出する。式(12)のIDXOPZは、変化量積算値IDXOPの前回値である。
IDXOP=IDXOPZ+DXOPA (12)
【0053】
ステップS17では、変化量積算値IDXOPが所定閾値IDXOPTHより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、停止条件フラグFDSTPを「0」に設定する。したがって、LAFセンサ故障判定処理は継続される。
【0054】
ステップS17の答が否定(NO)であって変化量積算値IDXOPが所定閾値IDXOPTH以上であるときは、停止条件成立と判定し、前記ステップS19に進む。
変化量積算値IDXOPは、例えば図4に示す時刻t1においては、変化量絶対値DXOPA1〜DXOPA6の和に相当する値となり、特定運転状態パラメータXOPの増加方向及び減少方向の変動履歴が反映される。
【0055】
図5は、図2のステップS5で実行されるLAFセンサ故障判定処理のフローチャートである。
ステップS101では、LAFセンサ出力から算出される検出当量比KACTについて、周波数f1成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を行い、バンドパスフィルタ処理出力の絶対値(振幅)を積算することにより、周波数f1成分強度MPTf1を算出する。
【0056】
ステップS102では、周波数f2成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を行い、バンドパスフィルタ処理出力の絶対値(振幅)を積算することにより、周波数f2成分強度MPTf2を算出する。
【0057】
ステップS103では、周波数成分強度の算出開始時点から所定積算時間TINTが経過したか否かを判別し、その答が否定(NO)である間は直ちに処理を終了する。ステップS103の答が肯定(YES)となると、ステップS104に進み、周波数f1成分強度MPTf1が強度判定閾値MPTf1THより小さいか否かを判別する。
【0058】
ステップS104の答が肯定(YES)であるときは、LAFセンサ出力のリッチ側の応答特性及びリーン側の応答特性がほぼ同様に劣化する第1故障パターンの故障が発生していると判定する(ステップS105)。ステップS104の答が否定(NO)であるときは、周波数f1成分強度MPTf1及び周波数f2成分強度MPTf2を下記式(13)に適用し、判定パラメータRTLAFを算出する(ステップS106)。
RTLAF=MPTf1/MPTf2 (13)
【0059】
ステップS107では、判定パラメータRTLAFが判定閾値RTLAFTHより大きいか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、LAFセンサ出力のリッチ側の応答特性及びリーン側の応答特性が非対称に劣化する第2故障パターンの故障が発生していると判定する(ステップS108)。ステップS107の答が肯定(YES)であるときは、LAFセンサ15は正常である(応答特性劣化故障は発生していない)と判定する(ステップS109)。
【0060】
以上のように本実施形態では、故障判定期間中にLAFセンサ15の出力信号から算出される検出当量比KACTに含まれる周波数f1成分及び周波数f2成分が抽出され、これらの周波数成分に基づいてLAFセンサ15の応答特性劣化故障の判定が行われる。故障判定開始後において特定運転状態パラメータXOPの変動状態を示し、かつ特定運転状態パラメータXOPの変動履歴が反映される変化量積算値IDXOPが算出され、変化量積算値IDXOPが所定閾値IDXOPTH以上であるときに、故障判定が中断(停止)される。運転状態パラメータの変動履歴が反映される変化量積算値IDXOPを用いることにより、図14を参照して説明したような従来手法の課題を解決し、特定運転状態パラメータXOPの変動が、周波数f1成分強度MPTf1び周波数f2成分強度MPTf2に影響を及ぼすことに起因する誤判定を防止し、故障判定精度を向上させることができる。
【0061】
また故障判定開始後において特定運転状態パラメータXOPが所定上下限値XOPLMH,XOPLMLの範囲内にあるときに変化量積算値IDXOPの算出が行われるので、特定運転状態パラメータXOPが故障判定に適さない値に変化したときは、変化量積算値IDXOPが停止される。これにより、変化量積算値IDXOPによる不適切な停止条件判定が回避され、故障判定精度の低下を防止できる。
【0062】
また特定運転状態パラメータXOPの変動履歴が反映される変化量積算値IDXOPは、比較的簡便な演算で算出可能であり、しかも特定運転状態パラメータXOPの変動履歴を的確に示すパラメータであるので、ECU5のCPUの演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0063】
本実施形態では、LAFセンサ15が空燃比検出手段に相当し、吸入空気流量センサ7,吸気圧センサ8,及びクランク角度位置センサ11が運転状態パラメータ取得手段に相当し、燃料噴射弁6が燃料量制御手段及び空燃比変動手段の一部を構成し、ECU5が燃料量制御手段及び空燃比制御手段の一部、運転状態パラメータ取得手段の一部、抽出手段、故障判定手段、変動状態パラメータ算出手段、及び判定停止手段を構成する。具体的には、図5のステップS101,S102が抽出手段に相当し、ステップS104〜S109が故障判定手段に相当し、図3のステップS13〜S16が変動状態パラメータ算出手段に相当し、図3のステップS17,S19及び図2のステップS4が判定停止手段に相当する。
【0064】
[変形例1]
図3の処理は、図6に示すように変形してもよい。図6に示す処理は、図3のステップS13及びS14をそれぞれステップS13a及び14aに変更し、かつステップS12aを追加したものである。
【0065】
ステップS12aでは、特定運転状態パラメータXOPの今回値を含む所定数のデータの平均値である移動平均値XOPAVEを算出する。ステップS13aでは、移動平均値XOPAVEが所定下限値XOPLMLより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、移動平均値XOPAVEが所定上限値XOPLMHより小さいか否かを判別する(ステップS14a)。ステップS13aまたはS14aの答が否定(NO)であるときは、ステップS19に進み、ステップS14aの答が肯定(YES)であるときは、ステップS15に進む。
【0066】
この変形例によれば、変化量積算値IDXOPの算出は、移動平均値XOPAVEが所定上下限値の範囲内にあるときに行われるので、特定運転状態パラメータXOPの小さな変動の影響を排除して、停止条件判定を安定化することができる。
【0067】
[変形例2]
図3の処理は、図7に示すように変形してもよい。図7に示す処理は、図3のステップS13及びS14をそれぞれステップS13b及び14bに変更し、かつステップS12bを追加したものである。
【0068】
ステップS12bでは、吸入空気流量GAIRの今回値を含む所定数のデータの移動平均値である平均吸入空気流量GAIRAVEを算出する。ステップS13bでは、平均吸入空気流量GAIRAVEが所定下限値GAIRLMLより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、平均吸入空気流量GAIRAVEが所定上限値GAIRLMHより小さいか否かを判別する(ステップS14b)。ステップS13bまたはS14bの答が否定(NO)であるときは、ステップS19に進み、ステップS14bの答が肯定(YES)であるときは、ステップS15に進む。
【0069】
この変形例によれば、変化量積算値IDXOPの算出は、平均吸入空気流量GAIRAVEが所定上下限値の範囲内にあるときに行われるので、吸入空気流量GAIRの小さな変動の影響を排除して、停止条件判定を安定化することができる。
【0070】
[変形例3]
上述した実施形態では、特定運転状態パラメータXOPとしては、吸入空気流量GAIR、気筒吸入空気量GAIRCYL、エンジン回転数NE、または吸気圧PBAの何れか1つが使用されるが、これらの運転状態パラメータのうちの2以上のパラメータについて、図3の停止条件判定処理を実行し、何れか1つの運転状態パラメータについて停止条件が成立したとき(停止条件フラグFDSTPが「1」に設定されたとき)に、故障判定を中断(停止)するようにしてよい。
【0071】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態にかかる停止条件判定処理のフローチャートである。図8の処理は、図3のステップS15〜S19を、ステップS21〜S29に変えたものである。本実施形態は、以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0072】
ステップS21では、下記式(21)により、特定運転状態パラメータXOPの変化量DXOPを算出する。式(21)の右辺は、式(11)の絶対値記号を削除したものに相当する。
DXOP=XOP−XOPZ (21)
【0073】
ステップS22では、変化量DOXPが負の値であるか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、下記式(22)により、減少量積算値IDXOPNを算出する(ステップS25)。式(22)のIDXOPNZは、減少量積算値IDXOPNの前回値である。
IDXOPN=IDXOPNZ+|DXOP| (22)
【0074】
ステップS22の答が否定(NO)であるときは、変化量DOXPが正の値であるか否かを判別し(ステップS23)、その答が肯定(YES)であるときは、下記式(23)により、増加量積算値IDXOPPを算出する。式(23)のIDXOPPZは、増加量積算値IDXOPPの前回値である。
IDXOPP=IDXOPPZ+DXOP (23)
【0075】
ステップS23の答が否定(NO)であるとき、すなわちDXOP=0であるときは、直ちに処理を終了する。
【0076】
ステップS24またはS25実行後はステップS26に進み、増加量積算値IDXOPPが所定閾値IDXOPTHaより小さいか否かを判別する。この答が肯定(YES)であるときはさらに減少量積算値IDXOPNが所定閾値IDXOPTHaより小さいか否かを判別する(ステップS27)。
【0077】
ステップS26またはS27の答が否定(NO)であるときは、故障判定処理を停止すべきであると判定し、停止条件フラグFSTPを「1」に設定する(ステップS29)。ステップS27の答が肯定(YES)であるときは、停止条件フラグFSTPを「0」に設定する(ステップS28)。
【0078】
図8の処理によれば、増加量積算値IDXOPPは、例えば図4に示す時刻t1においては、変化量絶対値DXOPA1,DXOPA3,及びDXOPA56の和に相当する値となり、減少量積算値IDXOPNは、変化量絶対値DXOPA2,DXOPA4,及びDXOPA6の和に相当する値となり、それぞれ特定運転状態パラメータXOPの増加方向及び減少方向の変動履歴が反映される。したがって、比較的簡便な演算によって特定運転状態パラメータXOPの変動履歴を的確に示す増加量積算値IDXOPP及び減少量積算値IDXOPNが得られ、ECU5のCPUの演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0079】
本実施形態では、図8のステップS13,S14,及びS21〜24が変動状態パラメータ算出手段に相当し、ステップS26及びS27が判定停止手段に相当する。
【0080】
[変形例]
ステップS26及びS27の答がともに否定(NO)であるとき、停止条件フラグFDSTPを「1」に設定するようにしてもよい。また、本実施形態も、第1の実施形態における変形例1、2、または3と同様の変形が可能である。
【0081】
[第3の実施形態]
図9は、本発明の第3の実施形態にかかる停止条件判定処理のフローチャートである。図9の処理は、図3のステップS15〜S19を、ステップS31〜S37に変えたものである。本実施形態は、以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0082】
ステップS31では、特定運転状態パラメータXOPが最大値XOPMAXより大きいか否かを判別する。最大値XOPMAXは、特定運転状態パラメータXOPが通常とることはない小さな値に初期化されており、最初はステップS31の答は肯定(YES)となり、ステップS34で最大値XOPMAXを特定運転状態パラメータXOPの今回値に更新する。
【0083】
ステップS31の答が否定(NO)であるときは、特定運転状態パラメータXOPが最小値XOPMINより小さいか否かを判別する(ステップS32)。最小値XOPMINは、特定運転状態パラメータXOPが通常とることはない大きな値に初期化されており、最初はステップS32の答は肯定(YES)となり、ステップS33で最小値XOPMINを特定運転状態パラメータXOPの今回値に更新する。ステップS32の答が否定(NO)であるときは、直ちにステップS36に進む。
【0084】
ステップS33またはS34実行後はステップS35に進み、最大値XOPMAXと最小値XOPMINとの差分値が所定閾値DXMMTHより小さいか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、故障判定処理を停止すべきであると判定し、停止条件フラグFSTPを「1」に設定する(ステップS37)。ステップS35の答が肯定(YES)であるときは、停止条件フラグFSTPを「0」に設定する(ステップS36)。
【0085】
図9の処理によれば、図10に示すように最大値XOPMAX及び最小値XOPMINが算出され、時刻t2における両者の差分値はDMAXMINで与えられる。したがって、特定運転状態パラメータXOPの増加方向及び減少方向の変動履歴が反映され、比較的簡便な演算によってLAFセンサ15の出力特性が大きく変化する変動履歴を的確に示す変動状態パラメータとしての差分値DMAXMINが得られる。その結果、ECU5のCPUの演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0086】
本実施形態では、図9のステップS13,S14,及びS31〜34が変動状態パラメータ算出手段に相当し、ステップS35が判定停止手段に相当する。
【0087】
[変形例]
本実施形態も、第1の実施形態における変形例1、2、または3と同様の変形が可能である。
【0088】
[第4の実施形態]
図11は、本発明の第4の実施形態にかかる停止条件判定処理のフローチャートである。図11の処理は、図3のステップS15〜S19を、ステップS41〜S44に変えたものである。なお、図11の処理は所定クランク角度毎に実行される。本実施形態は、以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0089】
ステップS41では、特定運転状態パラメータXOPについて周波数f1近傍の周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後パラメータXOPBFAを算出する。バンドパスフィルタ処理は、下記式(31)を用いて行われるが、フィルタ処理後パラメータXOPBFAは、式(31)を用いて算出されるフィルタ出力XOPBFの絶対値に相当する。
【数1】

【0090】
式(31)に適用される特定運転状態パラメータXOPのデータ数(N+1)は、例えば3以上の値に設定される。式(31)のN及びMは、必要なフィルタ特性に応じた値に設定されるパラメータ(整数)であり、a及びbは、必要なフィルタ特性に応じた値に設定されるフィルタ係数である。なお、本実施形態では、ステップS41におけるバンドパスフィルタ処理の通過帯域幅は、図5のステップS101において周波数f1成分の抽出に適用されるバンドパスフィルタ処理の通過帯域幅よりも広く設定される。
【0091】
ステップS42では、フィルタ処理後パラメータXOPBFAが所定閾値XOPBFTHより小さいか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、故障判定処理を停止すべきであると判定し、停止条件フラグFSTPを「1」に設定する(ステップS44)。ステップS42の答が肯定(YES)であるときは、停止条件フラグFSTPを「0」に設定する(ステップS43)。
【0092】
図11のバンドパスフィルタ処理には、特定運転状態パラメータXOPの今回値とN個の過去値が適用されるので、フィルタ処理後パラメータXOPBFAには、特定運転状態パラメータXOPの変動履歴が反映される。したがって、故障判定に使用される周波数f1成分及び周波数f2成分に大きな影響を与える変動周波数成分が特定運転状態パラメータXOPに含まれている状態を、比較的簡便な演算で確実に判定することができる。その結果、ECU5のCPUの演算負荷を増大させることなく故障判定の実行可否をより適切に判定し、判定精度を向上させることができる。
【0093】
本実施形態では、図11のステップS13,S14,及びS41が変動状態パラメータ算出手段に相当し、ステップS42が判定停止手段に相当する。
【0094】
[変形例]
本実施形態も、第1の実施形態における変形例1、2、または3と同様の変形が可能である。
【0095】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、空燃比制御系の故障判定処理として、LAFセンサ15の応答特性劣化故障判定処理を示したが、本発明は、気筒毎の空燃比が許容限度を超えてばらついているインバランス故障を判定する処理の停止条件判定にも適用可能である。
【0096】
図12は、図2のフローチャートをインバランス故障判定処理用に変形したものであり、図2のステップS2及びS3を削除し、ステップS5をステップS5aに変えたものである。図12のステップS5aでは、LAFセンサ故障判定処理に代えて図13に示すインバランス故障判定処理が実行される。すなわち、インバランス故障判定では、空燃比振動制御は行われず、検出当量比KACTに応じた空燃比フィードバック制御実行中において、検出当量比KACTに含まれる、エンジン回転数に対応する周波数の1/2の周波数成分(0.5次周波数成分)の強度MIMBに基づいて、故障判定が行われる。
【0097】
図13のステップS111では、検出当量比KACTについて0.5次周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を行い、バンドパスフィルタ処理出力の絶対値(振幅)を積算することにより、0.5次周波数成分強度MIMBを算出する。ステップS112では、0.5次周波数成分強度MIMBが判定閾値MINBTHより大きいか否かを判別する。
【0098】
ステップS112の答が肯定(YES)であるときは、インバランス故障が発生していると判定する(ステップS113)。ステップS112の答が否定(NO)であるときは、気筒毎の空燃比ばらつきは許容限度内にある(インバランス故障は発生していない)と判定する(ステップS114)。
【0099】
図13に示すインバランス故障判定手法は、基本的には特開2009−270543号公報に示される手法と同一である。本変形例によれば、特定運転状態パラメータXOPの変動によってインバランス故障の判定精度が低下することを防止できる。
本変形例では、図13の処理が故障判定手段に相当する。
【0100】
なお、上記第4の実施形態においてこの変形例を適用する場合には、図11のステップS41では、0.5次周波数の近傍の帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ処理を実行する。そのバンドパスフィルタ処理の通過帯域幅は、図13のステップS111において0.5次周波数成分の抽出に適用されるバンドパスフィルタ処理の通過帯域幅よりも広く設定される。
【0101】
またインバランス故障の判定手法は、上述したものに限らず例えば特開2011−144754号公報に示された手法を用いてもよく、またLAFセンサ応答劣化故障の判定手法は、上述したものに限らず例えば特開2010−133418号公報に示された手法を用いてもよい。
【0102】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの空燃比制御装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(燃料量制御手段及び空燃比制御手段の一部、運転状態パラメータ取得手段の一部、抽出手段、故障判定手段、変動状態パラメータ算出手段、判定停止手段)
6 燃料噴射弁(空燃比変動手段)
7 吸入空気流量センサ(運転状態パラメータ取得手段)
8 吸気圧センサ(運転状態パラメータ取得手段)
11 クランク角度位置センサ(運転状態パラメータ取得手段)
15 比例型酸素濃度センサ(空燃比検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒を有する内燃機関の排気通路において空燃比を検出する空燃比検出手段と、前記複数気筒のそれぞれに供給する燃料量を制御する燃料量制御手段とを備える、内燃機関の空燃比制御装置において、
前記機関の運転状態を示す少なくとも一つの運転状態パラメータを取得する運転状態パラメータ取得手段と、
故障判定期間中に前記空燃比検出手段の検出信号から特定周波数成分を抽出する抽出手段と、
抽出された特定周波数成分に基づいて前記機関の空燃比制御系の故障判定を行う故障判定手段と、
前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータの変動状態を示す変動状態パラメータであって、前記運転状態パラメータの変動履歴が反映される変動状態パラメータを算出する変動状態パラメータ算出手段と、
前記変動状態パラメータが所定閾値以上である特定変動状態が検出されたときに、前記故障判定を中断または停止する判定停止手段とを備え、
前記特定変動状態は、前記抽出手段により抽出される特定周波数成分の強度に影響を与える変動状態であることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータまたは前記運転状態パラメータの平均値が所定上下限値の範囲内にあるときに、前記変動状態パラメータの算出を実行することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記運転状態パラメータ取得手段は、複数の運転状態パラメータを取得し、
前記変動状態パラメータ算出手段は、前記変動状態パラメータの算出に適用される運転状態パラメータとは異なる他の運転状態パラメータまたは該他の運転状態パラメータの平均値が所定上下限値の範囲内にあるときに、前記変動状態パラメータの算出を実行することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータの変化量絶対値を積算することにより前記変動状態パラメータを算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項5】
前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後において前記運転状態パラメータの正の変化量を積算することにより増加量積算値を算出するとともに、前記運転状態パラメータの負の変化量の絶対値を積算することにより減少量積算値を算出し、前記増加量積算値及び減少量積算値の少なくとも一方を、前記変動状態パラメータとして算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項6】
前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後における前記運転状態パラメータの最大値及び最小値を更新するとともに前記最大値と前記最小値との差分値を前記変動状態パラメータとして算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項7】
前記変動状態パラメータ算出手段は、前記故障判定期間開始後における前記運転状態パラメータに含まれる所定周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、該バンドパスフィルタ処理後の運転状態パラメータを前記変動状態パラメータとして算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項8】
前記特定周波数成分は、前記機関の回転速度に対応する周波数の1/2の周波数成分である0.5次周波数成分であり、
前記故障判定手段は、前記0.5次周波数成分に基づいて、前記複数気筒のそれぞれに対応する空燃比が許容限度を超えてばらついているインバランス故障を判定することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項9】
前記空燃比を設定周波数で変動させる空燃比変動手段をさらに備え、
前記特定周波数成分は、前記設定周波数の成分であり、
前記故障判定手段は、前記設定周波数の成分に基づいて、前記空燃比検出手段の劣化故障を判定することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2013−108459(P2013−108459A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255459(P2011−255459)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】