説明

円すいころ軸受

【課題】疲労寿命を低下させることなく、フレッティングの発生を抑制できる円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】外輪23と、内輪22と、外輪23と内輪22との間に介在する円すいころ24と、円すいころ24を保持する保持器25とを備え、外輪23が内輪に対して空転する空転状態と、外輪23が内輪22と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受である。フレッティング抑制手段を備える。静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.4に設定して、フレッティング抑制手段を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関し、特に自動車用変速機(トランスミッション)のアイドラ部位に用いる円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
この変速機の一例として、図6に示す同期噛合式変速機がある。この変速機では、所定間隔で平行配置された主軸5と副軸(図示省略)とがミッションケース(図示せず)に回転自在に支持され、その主軸5は出力軸(駆動車輪側)に連動され、副軸は入力軸(エンジン側)に連動される。
【0003】
副軸には、副軸歯車6が一体(又は別体)に設けられ、主軸5には円すいころ軸受Aを介して主軸歯車1が回転自在に装着される。主軸歯車1の外周面の中央部分には副軸歯車6と常時噛合する歯部1aが一体に設けられ、両端部分にはクラッチギヤ7が係合連結される。クラッチギヤ7は、外周にスプライン歯7a、一側に円錐形のコーン7bを一体に有し、クラッチギヤ7に近接してシンクロ機構8が配設される。
【0004】
シンクロ機構8は、セレクタ(図示せず)の作動によって軸方向(同図で左右方向)に移動するスリーブ81と、スリーブ81の内周に軸方向移動自在に装着されたシンクロナイザーキー82と、主軸5の外周に係合連結されたハブ83と、クラッチギヤ7のコーン7bの外周に摺動自在に装着されたシンクロナイザーリング84と、シンクロナイザーキー82をスリーブ81の内周に弾性的に押圧する押さえピン85及びスプリング86とを具備する。
【0005】
同図に示す状態では、スリーブ81及びシンクロナイザーキー82が押さえピン85によって中立位置に保持されている。この時、主軸歯車1は副軸歯車6の回転を受けて主軸5に対して空転する。一方、セレクタの作動により、スリーブ81が同図に示す状態から例えば軸方向左側に移動すると、スリーブ81に従動してシンクロナイザーキー82が軸方向左側に移動し、シンクロナイザーリング84をクラッチギヤ7のコーン7bの傾斜面に押し付ける。これにより、クラッチギヤ7側の回転速度が落ち、逆にシンクロ機構8側の回転速度が高められる。
【0006】
そして、両者の回転速度が同期した頃、スリーブ81がさらに軸方向左側に移動して、クラッチギヤ7のスプライン歯7aに噛み合い、主軸歯車1と主軸5との間がシンクロ機構8を介して連結される。これにより、副軸歯車6の回転が主軸歯車1によって所定の変速比で減速されて、主軸5に伝達される。この時、主軸歯車1は、主軸5及び円すいころ軸受Aの軸受内輪2と同期回転する。
【0007】
自動車の同期噛合式変速機の主軸歯車機構に用いた前記円すいころ軸受Aは、軸受外輪と兼用した主軸歯車1と、外周面に軌道面2aを有し、主軸5の外周に嵌装された一対の軸受内輪2と、主軸歯車1の複列の軌道面1cと一対の軸受内輪2の軌道面2aとの間に配された複列の円すいころ3と、各列の円すいころ3をそれぞれ保持する一対の保持器4とで構成される。
【0008】
ところで、前述した変速時、主軸歯車1と軸受内輪2とが同期回転することにより、転動体であるころ3が軌道面1c、2a上で停止した状態となる。一方、外部からの振動などが繰り返し作用すると、ころ3と軌道面1c、2aとの間に繰り返しの微小滑りが生じ、相対的な繰り返しの微小滑りにより接触面が摩耗するフレッティングと称する現象が問題となることがある。
【0009】
そこで、前述したフレッティングを抑制するために主軸歯車及び軸受内輪の軌道面やころにパーカー処理(リン酸被膜処理)を施してころと軌道面との摩擦抵抗を低減するようにするのも可能である。しかしながら、パーカー処理被膜は損耗するおそれがあり、長期にわたる良好なフレッティング抑制効果を期待することはできない。
【0010】
また、従来には、円すいころの円周不等配、円すいころを保持する保持器の円周方向の重量アンバランス、円すいころの重量の不等によるアンバランス手段等を備えたものがある(特許文献1)。すなわち、保持器重心を回転中心からずらすことで、慣性モーメントを利用し、停止状態から相対回転を生じさせるものである。
【特許文献1】特開2000−193069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、保持器のポケットを不等ピッチ等とするには、等ピッチと比べてころ本数を減少させる必要があり、負荷容量低下を招いて軸受寿命が短くなって好ましくない。このため、トランスミッションのアイドラ部位に用いる円すいころ軸受には、耐フレッティング性向上と軸受寿命向上の両立が求められる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、疲労寿命を低下させることなく、フレッティングの発生を抑制できる円すいころ軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、フレッティング抑制手段を備え、静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.4に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したものである。
【0014】
フレッティング磨耗はころと軌道面との接触面圧が2200MPaを超える状態で同期回転すると発生することを本発明者は試験確認した。また、軸受の必要寿命から必要な動定格荷重が決まってくるが、接触面圧が2200MPaを下回るようにするためには、さらに動定格荷重に対する静定格荷重の割合も決まってくる。静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.4に設定することで、ころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らせることができる。
【0015】
本発明の第2の円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、円すいころの表面にMoS2処理を施すとともに、フレッティング抑制手段を備え、静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.3に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したものである。
【0016】
MoS2処理とは、被コーティング部材の表層部(母材表層部)にMoS2(二硫化モリブデン)を被覆する処理であって、例えば、母材表層部を熱で溶解し二硫化モリブデンを母材に取入れて再結晶させるものである。このため、この被覆層は、摩滅に対して強く、剥がれ難く、摺動抵抗低減効果に優れている。このように、円すいころの表面にMoS2処理を施すことによって、円すいころと、外輪及び内輪の転動面との摩擦抵抗を低減できる。
【0017】
本発明の第3の円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、フレッティング抑制手段を備え、外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧17.5°に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したものである。
【0018】
外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧17.5°に設定することによって、接触角を大きくし軸受軌道面にかかる荷重割合を減らすことができ、円すいころを受ける内輪のつばへの荷重割合を増加させることができる。これにより、接触角を大きくする分ころ長さを長くすることも可能となる。
【0019】
本発明の第4の円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、円すいころの表面にMoS2処理を施すとともに、フレッティング抑制手段を備え、フレッティング抑制手段を備え、外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧15°とに設定して、前記フレッティング抑制手段を構成した。
【0020】
本発明の第5の円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、フレッティング抑制手段を備え、円すいころ長さであるLに対する円すいころの大端面の径寸法であるDW1の比率をL/DW1≧1.85に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したものである。
【0021】
動定格荷重に対する静定格荷重の割合は、ころ長さLところ径DW1(ころ大端面の直径)との関係に相関がある。すなわち、動定格荷重が大きくなる場合は、ころ径が大きくなるため、L/DW1が小となる。また、静定格荷重が大きくなる場合は、ころ数を多くするため、ころ径が小さくなる。そこで、L/DW1≧1.85に設定することによって、ころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らせることができる。
【0022】
本発明の第6の円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、円すいころの表面にMoS2処理を施すとともに、フレッティング抑制手段を備え、円すいころ長さであるLに対する円すいころの大端面の径寸法であるDW1の比率をL/DW1≧1.7に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したものである。
【0023】
ころ係数γが0.94を越えるようにしたり、保持器のポケットの窓角を55°以上80°以下としたりできる。ここで、ころ係数γは、次式で定義される。また、ポケット(周方向に沿って隣合う柱部間)の窓角とは、柱部の、円すいころの転動面と接する面がなす角度をいう。
【0024】
ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)
ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径
【0025】
本円すいころ軸受は、自走車両の動力伝達軸を支持するのに使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1と第3と第5の円すいころ軸受では、円すいころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らせることができるので、疲労寿命を低下させることなく、フレッティングの発生を抑制できる。
【0027】
特に、第2と第4と第6の円すいころ軸受のように、円すいころの表面にMoS2処理を施すことによって、円すいころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らなくても、2200MPa近傍の面圧で、フレッティングの発生を防ぐことができる。このため、円すいころの表面にMoS2処理を施せば、Cor/Cr≧1.3であって、α≧15であっても、L/DW1≧1.7であってもよく、フレッティングの発生を防ぐことができる。したがって、動定格荷重と静定格荷重との関係、外輪軌道面角度、及びころ長さところ径との関係等の設定が容易となって設計の自由度が広がる。
【0028】
ころ係数γが0.94を越えるようにすれば、中立状態においては外輪と保持器との接触を避けた上で、保持器の柱幅を大きくすることができる。このため、軸受寸法を変更することなく、負荷容量を総ころ軸受(保持器を用いていない軸受)のレベルまで上げることが可能となる。これによって、接触面圧を低減でき、停止状態での面圧が緩和され、耐フレッティング性が向上する。しかも、保持器と円すいころとは良好な接触状態を確保することができ、ころは円滑な回転が得られる。
【0029】
また、保持器の窓角を55°以上としたことによって、円すいころとの良好な接触状態を確保することができ、保持器の窓角を80°以下としたことによって、半径方向への押し付け力が大きくならず、円滑な回転が得られる。
【0030】
このため、本円すいころ軸受は自走車両の動力伝達軸を支持する軸受に最適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明に係る円すいころ軸受の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0032】
図1は本発明の第1実施形態の円すいころ軸受を使用した自動車用トランスミッション(同期噛合式変速機)を示している。主軸と副軸とが所定間隔で平行に配置され、主軸が駆動車輪側の出力軸に連動され、副軸がエンジン側の入力軸に連動される。すなわち、副軸には副軸歯車が設けられ、副軸歯車に、本発明の円すいころ軸受の外輪を構成する主軸歯車が噛合している。
【0033】
すなわち、円すいころ軸受は、円すい状の軌道面22aを有する一対の内輪22と、円すい状の一対の軌道面23aを有する外輪23と、内輪22の軌道面22aと外輪23の軌道面23aとの間に転動自在に配された複数の円すいころ24と、円すいころ24を円周等間隔に保持する保持器25とを備える。内輪22は、小径側に小つば22bが設けられているとともに大径側に大つば22cが設けられている。円すいころ24は、その大端面24aが大つば22cにて受けられる。
【0034】
また、外輪23は、その外周面に副軸の副軸歯車に噛合する歯部27が設けられ、その軸方向端部には、図示省略のクラッチギヤが噛合する歯部28が設けられている。そして、図示省略するが、クラッチギヤに近接してシンクロ機構が配置される。
【0035】
すなわち、ニュートラル時には、外輪(主軸歯車)23は内輪22に対して空転するが、外輪(主軸歯車)23による変速時には、シンクロ機構を介した連動によって外輪(主軸歯車)23は内輪22及び主軸と同期回転する。
【0036】
この円すいころ軸受は、フレッティング抑制手段を備えている。すなわち、静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.4に設定する。これによって、前記フレッティング抑制手段を構成する。円すいころ24と軌道面23a及び軌道面22aとの接触面圧は、軸受の必要寿命から必要な動定格荷重と、動定格荷重に対する静定格荷重の割合等で決まる。このため、静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.4に設定することで、ころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らせることができる。
【0037】
なお、図2と図3に示すように、保持器25は小径側環状部25aと、大径側環状部25bと、小径側環状部25aと大径側環状部25bとを軸方向に繋ぐ複数の柱部25cとを備えている。柱部25cの柱面25dの窓押し角(窓角)θ(図5参照)は、例えば、55°以上80°以下とする。
【0038】
ころ係数γが0.94を越えるように設定している。ここで、ころ係数γは、次式で定義される。また、ポケット(周方向に沿って隣合う柱部間)18の窓角θとは、柱部の、円すいころ24の転動面と接する面がなす角度をいう。
【0039】
ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)
ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径
【0040】
保持器25としては、例えば、金属板を円すい台形状にプレス成形した後、各ポケット18をプレス打抜きして形成される。金属板としては、冷間圧延鋼板(SPC)や熱間圧延軟鋼板(SPH)等の圧延鋼板、及びばね鋼等を使用することができる。また、冷間圧延鋼板(SPC)や熱間圧延軟鋼板(SPH)であれば、その表面に浸炭窒化処理やガス軟窒化処理等の表面硬化処理を施すのが好ましい。
【0041】
ここで、浸炭窒化とは、浸炭と同時に窒化処理も行う方法であって、炭素Cと窒素Nを拡散させる方法であり、例えば、通常のガス浸炭性ガス雰囲気中にアンモニア(NH3)(0.5〜1.0%程度)を添加し例えば、850℃前後の温度で行う。また、ガス軟窒化処理とは、軟窒化をガスによって行う方法であり、この処理にはアンモニアガスと浸炭性ガスを混合して使う場合と、尿素を分解して用いる方法とがある。アンモニアガスと浸炭性ガスを1:1の割合で混合して用いる軟窒化は、ガス軟窒化の主流をなす。
【0042】
また、保持器25としては、鉄板製のものに代えて、樹脂製すなわちエンジニアリングプラスチック製としてもよい。ここで、エンジニアリングプラスチックとは、合成樹脂のなかで主に耐熱性が優れ、強度が必要とされる分野に使うことができるものであって、エンプラと略される。また、エンジニアリングプラスチックは、汎用エンジニアリングプラスチックとスーパーエンジニアリングプラスチックとがあり、この保持器25に用いるエンジニアリングプラスチックには両者を含む。以下に代表的なものを掲げる。なお、これらはエンジニアリングプラスチックの例示であって、エンジニアリングプラスチックが以下のものに限定されるものではない。
【0043】
汎用エンジニアリングプラスチックには、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、GF強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)等がある。また、スーパーエンジニアリングプラスチックには、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリメチルベンテン(TPX)、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド11,12 (
PA11,12)、フッ素樹脂、ポリフタルアミド(PPA)等がある。
【0044】
円すいころの表面にMoS2処理を施すのが好ましい。ここで、MoS2処理とは、被コーティング部材の表層部(母材表層部)にMoS2(二硫化モリブデン)を被覆する処理であって、例えば、母材表層部を熱で溶解し二硫化モリブデンを母材に取入れて再結晶させるものである。このため、この被覆層は、摩滅に対して強く、剥がれ難く、摺動抵抗低減少効果に優れている。
【0045】
保持器25の外径としては、図3(A)の状態から同図に矢印で示すように保持器25を軸方向小径側に移動させ(図3(B))、次に図4(A)のように径方向下側に移動させると、外輪23と保持器25の一部が接触し、この軸受が回転して図4(C)のように保持器25がセンタリングされると、保持器25と外輪23が全周にわたり所定すきまをあけて非接触となるような寸法に設定してある。言い換えれば、そのような寸法とは、保持器25が軸中心に配置され、図3(B)のように保持器25が小径側に寄った状態では保持器25と外輪23の間にすきまが存在するが、保持器25を軸中心から径方向に移動させると外輪23と保持器25が接触するような寸法である。
【0046】
これにより、運転初期(図4(B))には外輪23と保持器25は接触するが、運転中(図4(C))は非接触となることから、接触による引きずりトルクの増大や摩耗を抑制することができる。なお、鉄板製保持器の場合は底拡げやかしめ作業が必要であるが、樹脂製保持器の場合は不要となるため、必要な寸法精度を確保することが容易である。ここで、「底拡げ」とは、円すいころ24を組み込んだ保持器25を内輪22に組み付ける時、ころが内輪22の小つば22bを乗り越えるように保持器25の小径側の柱部の径を大きく拡げることをいう。「かしめ作業」とは、前述のように大きく拡げた保持器25の小径部の柱部を外側から型で押して元に戻すことをいう。
【0047】
本発明の円すいころ軸受によれば、円すいころ24と軌道面23a及び軌道面22aとの接触面圧が2200MPaを下回らせることができるので、疲労寿命を低下させることなく、フレッティングの発生を抑制できる。特に、円すいころ24の表面にMoS2処理を施すことによって、円すいころ24と、外輪23及び内輪22の転動面23aとの摩擦抵抗を低減できる。すなわち、円すいころ24の表面にMoS2処理を施すことによって、円すいころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らなくても、2200MPa近傍の面圧で、フレッティングの発生を防ぐことができる。このように、円すいころ24の表面にMoS2処理を施せば、軽度なフレッティングで抑えることが可能である。このため、動定格荷重と静定格荷重との関係設定が容易となって設計の自由度が広がる。
【0048】
保持器25の中立状態では保持器25と外輪23とが非接触となってすきまが生じ、この中立状態から径方向の保持器25の移動により保持器25の一部が外輪と接触するように窓角θを55°以上とすることで、保持器25の柱幅を大きくすることができる。このため、軸受寸法を変更することなく、負荷容量を総ころ軸受(保持器を用いていない軸受)のレベルまで上げることが可能となる。これによって、接触面圧を低減でき、停止状態での面圧が緩和され、耐フレッティング性が向上する。しかも、保持器25と円すいころ24とは良好な接触状態を確保することができ、円すいころ24は円滑な回転が得られる。
【0049】
ころ係数γが0.94を越えるようにすれば、中立状態においては外輪と保持器との接触を避けた上で、保持器の柱幅を大きくすることができる。このため、軸受寸法を変更することなく、負荷容量を総ころ軸受(保持器を用いていない軸受)のレベルまで上げることが可能となる。これによって、接触面圧を低減でき、停止状態での面圧が緩和され、耐フレッティング性が向上する。しかも、保持器と円すいころとは良好な接触状態を確保することができ、ころは円滑な回転が得られる。
【0050】
また、保持器の窓角を55°以上としたことによって、円すいころとの良好な接触状態を確保することができ、保持器の窓角を80°以下としたことによって、半径方向への押し付け力が大きくならず、円滑な回転が得られる。すなわち、窓角θが55°未満であれば、円すいころ24との良好な接触状態を得られにくく、窓角θが80°を越えれば、半径方向への押し付け力が大きくなりすぎて、円滑な回転が得られにくくなる。
【0051】
このため、本円すいころ軸受は自走車両の動力伝達軸を支持する軸受に最適となる。
【0052】
なお、保持器25を鉄板製とすることによって、保持器25の剛性を高めることができ、長期に亘って安定して円すいころ24を保持することができる。しかも、耐油性に優れ、油への浸漬による材質劣化を防止できる。保持器25を樹脂製とすれば、重量が軽く摩擦係数が小さいため、軸受起動時のトルク損失や保持器摩耗の低減に好適となる。
【0053】
第2の実施形態として、外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧17.5°に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成してもよい。外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧17.5°に設定することによって、接触角を大きくし軸受軌道面にかかる荷重割合を減らすことができ、円すいころ24を受ける内輪22のつば22aへの荷重割合を増加させることができる。これにより、接触角を大きくする分ころ長さを長くすることも可能となる。したがって、接触面圧を大幅に低減することができ、ころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らせることができる。
【0054】
また、第3の実施形態として、円すいころ長さであるLに対する円すいころ24の大端面24aの径寸法であるDW1の比率をL/DW1≧1.85に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したものである。ここで、円すいころ24の大端面24aの径寸法とは、図3に示すように、大端面24aの外径縁部の面取り部がないとした場合の最大外径寸法である。
【0055】
動定格荷重に対する静定格荷重の割合は、ころ長さLところ径DW1(ころ大端面の直径)との関係に相関がある。すなわち、動定格荷重が大きくなる場合は、ころ径が大きくなるため、L/DW1が小となる。また、静定格荷重が大きくなる場合は、ころ数を多くするため、ころ径が小さくなる。そこで、L/DW1≧1.85に設定することによって、ころと軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らせることができる。
【0056】
円すいころ24の表面にMoS2処理を施すことによって、円すいころ24と軌道面との接触面圧が2200MPaを下回らなくても、2200MPa近傍の面圧で、フレッティングの発生を防ぐことができる。このため、円すいころ24の表面にMoS2処理を施せば、α≧15°であっても、L/DW1≧1.7であってもよく、フレッチィングの発生を防ぐことができる。このため、外輪軌道面角度及びころ長さところ径との関係等の設定が容易となって設計の自由度が広がる。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、配置される円すいころ24の数は任意である。また、保持器25として、強度増強のため、これら樹脂材料またはその他のエンジニアリングプラスチックに、ガラス繊維または炭素繊維などを配合したものを使用してもよい。
【実施例1】
【0058】
静定格荷重(Cor)に対するころ動定格荷重(Cr)の比率を種々変更したサンプル品を形成して、各サンプル品についてフレッティングの発生の有無を調べた。その結果を次の表1に示す。表1において、サンプルaは、Cor=35kNであり、Cr=35kNであり、Cor/Cr=1.0である。サンプルbは、Cor=45.5kNであり、Cr=35kNであり、Cor/Cr=1.3である。サンプルcは、Cor=49kNであり、Cr=35kNであり、Cor/Cr=1.4である。サンプルeは、Cor=52.5kNであり、Cr=35kNであり、Cor/Cr=1.5である。なお、各サンプルには、標準ころ(MoS2が施されていないころ)とMoS2ころ(MoS2が施されているころ)との2種類がある。この際、サンプルaの標準ころとMoS2ころ、およびサンプルbの標準ころが従来品であり、他のサンプルc、dの標準ころとMoS2ころ、およびサンプルbのMoS2ころが本発明品である。通常従来品は、Cor/Cr<1.3となっている。
【表1】

【0059】
この表1からわかるように、Cor/Cr=1.0であれば、最大接触面圧が2300MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生があった。Cor/Cr=1.3であれば、最大接触面圧が2200MPaとなり、標準ころにフレッティングの発生があり、MoS2ころに軽度のフレッティングの発生があった。Cor/Cr=1.4であれば、最大接触面圧が2100MPaとなり、標準ころに軽度のフレッティングの発生があったが、MoS2ころにフレッティングの発生がなかった。Cor/Cr=1.5であれば、最大接触面圧が1950MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生がなかった。
【0060】
このため、標準ころの場合、Cor/Cr=1.4であれば、フレッティングの発生が軽度であり、MoS2ころの場合、Cor/Cr=1.3であれば、フレッティングの発生が軽度であることがわかる。
【実施例2】
【0061】
外輪軌道面角度(2α)を種々変更したサンプル品を形成して、各サンプル品についてフレッティングの発生の有無を調べた。その結果を次の表2に示す。表2において、サンプルeは、α=12.5°であり、サンプルfは、α=15.0°であり、サンプルgは、α=17.5°であり、サンプルhは、α=15.0°である。この場合も、各サンプルには、標準ころとMoS2ころとの2種類がある。この際、サンプルeの標準ころとMoS2ころ、およびサンプルfの標準ころが従来品であり、他のサンプルg、hの標準ころとMoS2ころ、およびサンプルfのMoS2ころが本発明品である。通常従来品は、スペースの最小化する等のため、α≦17°となっている。
【表2】

【0062】
この表2からわかるように、α=12.5°であれば、最大接触面圧が2300MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生があった。α=15.0°であれば、最大接触面圧が2200MPaとなり、標準ころにフレッティングの発生があり、MoS2ころに軽度のフレッティングの発生があった。α=17.5°であれば、最大接触面圧が2100MPaとなり、標準ころに軽度のフレッティングの発生があったが、MoS2ころにフレッティングの発生がなかった。α=20.0°であれば、最大接触面圧が1950MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生がなかった。
【0063】
このため、標準ころの場合、α=17.5°であれば、フレッティングの発生が軽度であり、MoS2ころの場合、α=15.0°であれば、フレッティングの発生が軽度であることがわかる。
【実施例3】
【0064】
ころ長さ(L)に対するころ径(DW1)の比率を種々変更したサンプル品を形成して、各サンプル品についてフレッティングの発生の有無を調べた。その結果を次の表3に示す。表3において、サンプルiは、L=10mmであり、DW1=8mmであり、L/DW1=1.25である。サンプルjは、L=11.2mmであり、DW1=8mmであり、L/DW1=1.40である。サンプルkは、L=15.5mmであり、DW1=10mmであり、L/DW1=1.55である。サンプルlは、L=15.3mmであり、DW1=9mmであり、L/DW1=1.70である。サンプルmは、L=18.5mmであり、DW1=10mmであり、L/DW1=1.85である。サンプルnは、L=15mmであり、DW1=7.5mmであり、L/DW1=2.00である。この場合も、各サンプルには、標準ころとMoS2ころと2種類がある。この際、サンプルi、j、kの標準ころとMoS2ころ、およびサンプルlの標準ころが従来品であり、他のサンプルm、nの標準ころとMoS2ころ、およびサンプルlのMoS2ころが本発明品である。通常従来品では、L/DW1<1.80である。
【表3】

【0065】
この表3からわかるように、L/DW1=1.25であれば、最大接触面圧が2500MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生があった。L/DW1=1.40であれば、最大接触面圧が2400MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生があった。L/DW1=1.55であれば、最大接触面圧が2300MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生があった。L/DW1=1.70であれば、最大接触面圧が2200MPaとなり、標準ころにフレッティングの発生があり、MoS2ころに軽度のフレッティングの発生があった。L/DW1=1.85であれば、最大接触面圧が2100MPaとなり、標準ころに軽度のフレッティングの発生があったが、MoS2ころにフレッティングの発生がなかった。L/DW1=2.00であれば、最大接触面圧が1950MPaとなり、標準ころおよびMoS2ころにフレッティングの発生がなかった。
【0066】
このため、標準ころの場合、L/DW1=1.85であれば、フレッティングの発生が軽度であり、MoS2ころの場合、L/DW1=1.70であれば、フレッティングの発生が軽度であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態を示す円すいころ軸受を使用した自動車用トランスミッションの要部断面図である。
【図2】前記円すいころ軸受の横断面図である。
【図3】前記円すいころ軸受を示し、(A)は軸方向移動前の縦断面図であり、(B)は軸方向移動後の縦断面図である。
【図4】前記円すいころ軸受を示し、(A)は静止時の保持器と外輪との関係を示す断面図であり、(B)は回転初期の保持器と外輪との関係を示す断面図であり、(B)は回転中の保持器と外輪との関係を示す断面図である。
【図5】前記円すいころ軸受の要部拡大断面図である。
【図6】従来の自動車用トランスミッションの要部断面図である。
【符号の説明】
【0068】
22 内輪
23 外輪
24 円すいころ
25 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、
フレッティング抑制手段を備え、静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.4に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、
円すいころの表面にMoS2処理を施すとともに、フレッティング抑制手段を備え、静定格荷重であるCorに対するころ動定格荷重であるCrの比率をCor/Cr≧1.3に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項3】
外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、
フレッティング抑制手段を備え、外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧17.5°に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項4】
外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、
円すいころの表面にMoS2処理を施すとともに、フレッティング抑制手段を備え、フレッティング抑制手段を備え、外輪軌道面角度を2αとしたときに、α≧15°に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項5】
外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、
フレッティング抑制手段を備え、円すいころ長さであるLに対する円すいころの大端面の径寸法であるDW1の比率をL/DW1≧1.85に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項6】
外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に介在する円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備え、外輪が内輪に対して空転する空転状態と、外輪が内輪と同期回転するシフト状態とに切り替わる自動車用変速機のアイドラ部位に用いられる円すいころ軸受において、
円すいころの表面にMoS2処理を施すとともに、フレッティング抑制手段を備え、円すいころ長さであるLに対する円すいころの大端面の径寸法であるDW1の比率をL/DW1≧1.7に設定して、前記フレッティング抑制手段を構成したことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項7】
ころ係数γが0.94を越えることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項8】
保持器のポケットの窓角を55°以上80°以下にしたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項9】
自走車両の動力伝達軸を支持することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の円すいころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−68676(P2009−68676A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240977(P2007−240977)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】