説明

冷陰極電子源、その製造方法ならびに表示装置

【課題】安定して均一な電界放出を行う冷陰極電子源、その製造方法、ならびに冷陰極電子源を用いた表示装置を提供すること。
【解決手段】本冷陰極電子源は、低電界で電子放出が可能な電子源であって、電極20上にファイバ30が、その長手方向を電極の面に対して水平な方向に向けて配置されている構成を有する。ペースト状のファイバーを電極上に配置し、表面張力もしくは外部磁場を印加することにより、上記ファイバーを水平な方向に向けて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源、その製造方法ならびに該冷陰極電子源を備えた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノチューブを電極上にパターン形成して低電圧で均一な強度の電界電子放出が得られる冷陰極電子源は特許文献1等で知られている。このような冷陰極電子源は、例えば、フィールドエミッションディスプレイ等の薄型画像表示装置に応用することができる。冷陰極電子源としてのナノチューブは、カーボン、ボロン、窒素などを構成成分とするものが知られる。例えばカーボンナノチューブを電子源として用いた自発光型平面表示装置が数多く提供されている。自発光型平面表示装置の自発光型とは、画像表示パネルに設けられた蛍光膜に電子線や紫外線等の励起光を照射して発光させ画像を表示するものであり、自らは発光を伴わないLCD(液晶表示装置)とは区別されるものである。ナノチューブのうち例えばカーボンナノチューブは、一般的な形状は、直径0.5〜100nm、長さ1〜100μmであり、非常に細長い中空のチューブ状の炭素材料である。このようなナノチューブを用いた冷陰極電子源の製造には様々な方法が知られており、別途調製したナノチューブを電極に付着させる方法と、電極に直接ナノチューブを成長させる方法とがある。別途調製したナノチューブを電極に付着させる方法としては、ナノチューブをペーストと混ぜ、スクリーン印刷で電極にパターン形成する方法等が挙げられる。
【0003】
ところで、このようなナノチューブによる冷陰極電子源を用いて画像表示装置を作動させるには、なるべく低電圧でかつ均一な強度の電子放出をさせることが有利であり、そのため、冷陰極電子源に用いる多数本のナノチューブからなる冷陰極電子源の形状としては、電極に対して垂直方向に配向し高さが一定のものを単位とし、それらが互いに絶縁されていることが好ましい。垂直配向していれば、多数本からなるナノチューブ冷陰極電子源の総和として垂直方向に最大の電子放出強度が得られる。各単位の表面高さが一定で凹凸の無い平滑な表面であれば平面方向に対して均一な電子放出が得られる。また、電界電子放出の場合、ナノチューブの先端とアノードとの距離が近いほど電子を引き出す電圧を低くできる。そのため、各単位の冷陰極電子源の高さが一定であれば冷陰極電子源の表面近くまでアノードを設置しても距離の均一性を保つことが可能で、同じ電子放出強度を得るのに引き出し電圧を低くすることができる。
【0004】
しかしながら、このようなナノチューブを用いた冷陰極電子源では、一般的に、ペースト状にした高価なナノチューブを基板に印刷することで形成され、また垂直配向したナノチューブは耐久性に劣るため、安定した電子放出を得にくい。また、ナノチューブの先端にかかる電界はナノチューブの長短等により不均一になりやすく、異常放電等により寿命も短い。したがって、このような冷陰極電子源を画像表示装置に用いた場合、蛍光膜を励起発光させるための電子放出密度の均一性がきわめて悪化し、画面の表示むら、画質の劣化等を引き起こし、特に画像の表示パネルが大型化して表示面積が大きくなるほど、深刻な問題となる。
【特許文献1】特開2000−86216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明により解決する課題は、均一で安定した電子放出特性を有する冷陰極電子源、その製造方法、ならびに冷陰極電子源を用いた表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による冷陰極電子源は、低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源であって、電極上にファイバが、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて、配置されていることを特徴とするものである。本発明の冷陰極電子源としてのファイバの材料は、カーボンに限定されず、ボロン、窒素などの他の材料でも実施することができる。ファイバ は、多層、単層のいずれであっても良い。ファイバは、線状でも筒状でもよい。線状または筒状としては、チューブ状、繊維状またはリボン状の形態が含まれる。このようなファイバの材料として例えばカーボンを用いた場合、例えば、カーボンナノファイバ、カーボンナノコイル、グラファイトナノファイバー、グラファイトリボンなどが例示できる。ファイバは、水平もしくはほぼ水平に配置した状態でその外周面に電界集中が可能であれば、ナノメートルオーダーでもマイクロメートルオーダーでもよい。
【0007】
本発明の好ましい実施態様の一つとしては、前記ファイバは、炭素ナノ繊維素が複数集合してなる繊維状ナノ炭素から構成される。
【0008】
炭素ナノ繊維素は、一方向に伸びる中心軸を有する炭素ヘキサゴナル網面からなる。
【0009】
前記繊維状ナノ炭素は、前記中心軸を平行にして前記炭素ナノ繊維素を複数積層してなる炭素ナノ繊維素群で構成されるのが好ましい。
【0010】
繊維状ナノ炭素の代表的な構造としては、炭素ナノ繊維素群が、繊維軸に対して垂直に配列されたプレートレット(Platelet)構造、前記繊維軸に対して傾斜して配列されたヘリングボーン(Herringbone)構造、および、繊維軸に沿うように配列されたチューブラ(Tubular)構造があり、 いずれの構造の繊維状ナノ炭素を用いてもよいが、炭素ナノ繊維素群が、前記繊維軸に対して傾斜して配列されるヘリングボーン構造が好ましい。
【0011】
かかる繊維状ナノ炭素は、多数の炭素ナノ繊維素群が、繊維軸に沿って、あるいは、繊維軸に対して、垂直あるいは傾斜して集合配列されているので、多数の炭素ナノ繊維素群の端面が、電子放出点として機能することができ、繊維軸に沿って多数の電子放出点が構成されることになる。
【0012】
炭素ナノ繊維素群は、炭素ナノ繊維素がロッド状に積層したものであってもよいし、プレート状に積層したものであってもよい。
【0013】
本発明によると、ファイバがその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置されているので、ファイバの長手方向外周面から安定して電子放出が行われる。また、水平もしくはほぼ水平方向に配置されているので、配置姿勢が安定していて安定した電子放出が行われる。また、ファイバは積み重なっても安定して発光することができる。これを従来の電極の面に垂直な方向にカーボンナノチューブを配置した場合と比較すると、カーボンナノチューブは長短にばらつきがあり、カーボンナノチューブ個々の電子放出にばらつきや不安定な状態があり、発光のちらつきや寿命特性が短いのに対して、本発明では、ファイバがその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置されているので、ファイバの長手方向外周面から安定して電子放出が行われ、発光のちらつきがほとんどなく寿命も向上する。このようにして、本発明では、さらに電子放出特性が大幅に改善された冷陰極電子源を提供することができる。
【0014】
また、ファイバとして、炭素ナノ繊維素が複数集合してなる繊維状ナノ炭素を用いることにより、該繊維状ナノ炭素の繊維軸に沿って、あるいは、繊維軸に対して、垂直あるいは傾斜して集合配列されている多数の炭素ナノ繊維素群の端面が電子放出点となって電子放出が行なわれるので、電子放出特性が向上する。更に、多数の電子放出点を有するので、少ない電子放出点に電界が集中してジュール熱や蒸発によって電子放出点が劣化するといったことも抑制され、寿命特性も向上する。
【0015】
なお、ファイバをペースト状とし、そのペーストの表面張力により上記のように水平もしくはほぼ水平に簡単に配置することができるので製造プロセスを極めて簡略化することができ、製造歩留まりの向上と製造コストの大幅な低減とを図ることができる。また、ファイバに金属を含有させた場合では、単に電極に平行な方向の磁場を印加するだけで上記配置が可能であるから、この場合も、製造プロセスも極めて簡略化されたものとなり、製造コストを大幅に低減することができるだけではなく、多数のファイバをより安定して水平方向に配向させて安定した電子放出が可能となる。
【0016】
以上のような本発明の冷陰極電子源を画像表示装置に用いた場合、冷陰極電子源から安定した電子放出が行われるので、蛍光膜を励起発光させるための電子放出密度の均一性が向上し、画面の表示画質が大幅に向上し、画像の表示パネルの大型かつ大面積化に適したものとなる。
【0017】
なお、上記の場合、好ましくは、ファイバが、ナノメートルまたはマイクロメートルのオーダーである。さらに好ましくは、上記ファイバが、ペースト状とされて電極上に配置され、かつ、ペーストの表面張力によりその長手方向を電極の面に対して水平な方向に向けて、配置されている。さらに好ましくは、上記ファイバが、金属を含有している。さらに好ましくは、磁場が印加されて上記ファイバが、その長手方向を電極の面に対して水平な方向に向けて配置されている。
【0018】
本発明による第1の冷陰極電子源の製造方法は、低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源の製造方法であって、電極上にファイバをペースト状にして電極上に配置し、かつ、ペーストの表面張力によりその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置したことを特徴とするものである。
【0019】
本発明による第2の冷陰極電子源の製造方法は、低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源の製造方法であって、電極上に金属含有のファイバを電極上に配置し、磁場を印加して上記ファイバを、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置することを特徴とするものである。
【0020】
本発明による第3の冷陰極電子源の製造方法は、低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源の製造方法であって、電極上に金属含有のファイバをペースト状にして電極上に配置し、かつ、ペーストの表面張力によりその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に傾けるとともに、さらに、磁場を印加して上記ファイバを、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置することを特徴とするものである。
【0021】
本発明の第1ないし第3の製造方法によると、ナノチューブをその長手方向を電極の面に水平にして配置するので、製造プロセスが大幅に簡略化されて製造コストを低減することができる。
【0022】
本発明による表示装置は、上記冷陰極電子源を備えることを特徴とするものである。この表示装置では、冷陰極電子源が均一で安定した電子放出特性を備えるので、表示品質に優れた表示装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、均一で安定した電界放出特性を有しかつ安価な冷陰極電子源、その製造方法、ならびに冷陰極電子源を用いた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施の形態に係る冷陰極電子源、その製造方法ならびに表示装置を詳細に説明する。図1ないし図3に本実施の形態に係る冷陰極電子源の製造プロセスを図示している。
【0025】
(実施形態1)
図1には、基板10上にカソード電極20を形成した冷陰極電子源の断面図が示されている。基板10上にスパッタもしくは蒸着により金属膜を成膜する。基板の材料には特に限定されないが、例えば、石英基板、アルミナ基板、シリコン基板、Mo基板、SUS基板、Ni−Fe基板等である。この基板10上の金属膜を写真製版技術を用いて所望のパターンのカソード電極20にパターニングする。カソード電極20のパターニング方法としては、写真製版技術を用いる以外に、パターン印刷を用いる方法もある。
【0026】
図2には、カソード電極20上にファイバ30入りのペースト40が配置された冷陰極電子源の断面図が示されている。ファイバ30の製造方法は特に限定されないが、例えば、ファイバ30は、熱伝導性、電気伝導性、機械的強度等に優れた特性を有するもので、アーク放電法、レーザ蒸発法、プラズマ合成法、炭化水素触媒分解法、化学気相成長法、熱分解法等、公知の種々の生成法により生成されたものを適宜用いることができる。
ファイバ30をペースト40の状態にする手法には特に限定されないが、例えば、有機溶剤例えば樹脂と混ぜることで樹脂ペースト状にし、カソード電極20にスクリーン印刷や、スプレーや、コーティング等で形成することができる。カソード電極20とファイバ30との電気的コンタクトについては、ファイバ30とカソード電極20とが物理的に接触することにより両者間の電気的コンタクトを確保することができる。このコンタクト抵抗を下げるためには、ファイバ30とカソード電極20との間に、金属コロイド等の微細な導電性物質を配置することができる。コンタクト抵抗を低減することにより、より均一な電子放出特性を得ることが可能となり好ましい。
【0027】
図3には、ペースト40が除去されてファイバ30がカソード電極20の面に対して水平もしくはほぼ水平に配置されている冷陰極電子源の断面図が示されている。ファイバ30はペースト40の表面張力によりカソード電極20の電極面に対して水平もしくはほぼ水平に配置された状態になっている。
【0028】
以上の実施の形態においては、ファイバ30がその長手方向をカソード電極20の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置されているので、ファイバ30の長手方向外周面から安定して電子放出が行われるものとなりその電子放出特性が大幅に改善されたものとなる。さらに、ファイバ30はペースト状とし、そのペーストの表面張力により上記のように配置することができるので製造プロセスも極めて簡略化されたものとなり、製造コストを大幅に低減することができる。以上の冷陰極電子源を画像表示装置に用いた場合、冷陰極電子源から安定した電子放出が行われるので、蛍光膜を励起発光させるための電子放出密度の均一性が向上し、画面の表示画質が大幅に向上し、画像の表示パネルの大型かつ大面積化に適したものとなる。
【0029】
ファイバ30として、例えば、特開2003−342839号公報に開示されている炭素ナノ繊維素(カーボン ナノ- フィブラス- ロッド:Carbon Nano−fiberous−Rod)が三次元的に集合してなる繊維状ナノ炭素を用いることができる。
炭素ナノ繊維素は、一方向に伸びる中心軸を有する炭素ヘキサゴナル網面からなる。
炭素ヘキサゴナル網面(Hexagonal Carbon Layer:炭素六角網面)とは、現在のカーボン材料を占めている殆どの黒色を持った材料と同様のものであり、炭素原子の六角網面を構造の基本単位としている。
【0030】
上記公報に開示されているように、炭素ナノ繊維素2は、図4の模式図に示すように、一方向に伸びる中心軸を有する炭素ヘキサゴナル網面1から構成されている。炭素ナノ繊維素2は、1枚(又は1層)でも基本構成単位となるが、通常は、上記炭素ヘキサゴナル網面1が2乃至12層層状に積層して1つの構成単位を形成している。図4(a)では炭素ヘキサゴナル網面1が2層により炭素ナノ繊維素2の一構成単位を形成し、また、図4(b)では炭素ヘキサゴナル網面1が8層により炭素ナノ繊維素2の一構成単位を形成している例を示している。炭素ヘキサゴナル網面の面間距離(d002)は、0.500nm以下である。
【0031】
また、図5の模式図に示すように、この炭素ナノ繊維素2が複数最密充填積層して炭素ナノ繊維素群(以下「ナノロッド」ともいう)3を構成することで、その炭素ナノ繊維素2同志で形成される軸(図5中X軸方向)に沿ったナノ空隙4が多数存在することになる。炭素ナノ繊維素2の軸と直交する方向の断面構造は、図5(a)では円形の例を、図5(b)では六角形の例を示している。
【0032】
この炭素ナノ繊維素2を構成する炭素ヘキサゴナル網面の軸幅(D)は2.5nm±0.5nmであり、長さ(L)は17nm±15nmであるのが好ましい。
【0033】
このように炭素ナノ繊維素2からなる炭素ナノ繊維素群3であるナノロッドが複数三次元的に繊維状に集合することで、例えば、図6に示すように、繊維状ナノ炭素(いわゆるカーボンナノファイバCarbon Nano−Fiber:CNF)5を形成する。この図6は、炭素ナノ繊維素2の中心軸を平行にして紙面に上下方向に複数積層して炭素ナノ繊維素群13を構成し、繊維状ナノ炭素5を形成してなるものであり、後述のプレートレット構造である。
【0034】
上記炭素ナノ繊維素群3が複数三次元的に集合してなる繊維状ナノ炭素5の代表的な構造としては、例えば、図7(a)に示すように、炭素ナノ繊維素が複数積層された炭素ナノ繊維素群3が繊維軸(axis)に対して垂直、すなわち、炭素ヘキサゴナル網面が繊維軸に対して垂直に集合配列したプレートレット(Platelet)構造、図7(b)に示すように、炭素ナノ繊維素群13が繊維軸に対して傾斜、すなわち、炭素ヘキサゴナル網面が繊維軸に対して傾斜して集合配列したヘリングボーン(Herringbone)構造、図7(c)に示すように、炭素ナノ繊維素群13が繊維軸に沿って、すなわち、炭素ヘキサゴナル網面が繊維軸に平行に集合配列したチューブラ(Tubular)構造が挙げられる。
【0035】
このような、繊維状ナノ炭素は、鉄(Fe),コバルト(Co)、ニッケル(Ni)に代表する純粋な転移金属の単独または合金を触媒とし、400℃から1200℃の温度範囲で一酸化炭素又はメタン(CH)、エチレン(C)、プロパン(C)等の炭化水素を、水素分圧0%乃至90%の混合ガス中で一定時間触媒に接触することによって合成され、例えば、特開2003−342840号公報に、その製造方法および製造装置が開示されている。
【0036】
この実施形態では、以上のような繊維状ナノ炭素を、ファイバ30として用いるものである。かかる繊維状ナノ炭素は、上述のように、炭素ナノ繊維素群であるナノロッドが、複数三次元的に集合してなるものであり、多数のナノロッドの端面が、電子放出点として機能することができる。
【0037】
従って、例えば、ヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素を、ファイバ30として用いると、図3の一部を円Cで拡大して模式的に示す図8のように、繊維軸(axis)に対して傾斜した多数のナノロッド3の端面3aが、電子放出点となり、良好な電子放出特性が得られることなる。
【0038】
ファイバ30として、カーボンナノチューブを用いた場合、カーボンナノチューブの長手方向の両末端が電子放出点となるのに対して、ヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素では、長手方向に延びる繊維軸の両末端のみならず、繊維軸に対して傾斜して配列されている多数のナノロッドの端面も電子放出点となるので、繊維軸に沿って、すなわち、長手方向に沿って多数の電子放出点が構成されることになり、電子放出点の密度が向上する。
さらに、多数の電子放出点に電界が均等にかかることになり、電子放出点が少ない場合のように、電子放出点に電界が集中してジュール熱や蒸発によって劣化が進むことがなく、寿命特性が向上する。
【実施例】
【0039】
次に、ヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素をファイバ30として用いた冷陰極電子源の実施例について説明する。
【0040】
図9は、この冷陰極電子源の製造工程を示す図である。
先ず、ヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素(カーボンナノファイバ:CNF)を予め準備する(ステップS1)。このヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素は、例えば、上述の特開2003−342840号公報に開示されている製造装置によって製造される。
この実施例では、ヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素の繊維径は、例えば、80〜400nmであり、繊維長さは、例えば、10〜25μmである。
【0041】
このヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素を、例えば、テルピノールのようなアルコール系の溶媒に混ぜてスラリー化し(ステップS2)、更に、エチルセルロースなどの樹脂を加えてペースト化する(ステップS3)。
【0042】
次に、予め準備したカソード電極が形成されたガラス基板上に、ペースト化した繊維状ナノ炭素をスクリーン印刷などによって印刷し(ステップS4)、焼成する(ステップS5)。更に、表面の不純物を除去して活性化するための表面処理を施す(ステップS6)。
【0043】
図10は、以上のようにして得られたエミッタ表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真であり、繊維状ナノ炭素が水平に配置されていることが分かる。
【0044】
次に、エミッタ特性を、図11に示す装置を構成して評価した。すなわち、上述のようにして、繊維状ナノ炭素5がカソード電極20上に配置されたガラス基板10に対して、500μmの間隔をあけて、蛍光体6がアノード電極7上に形成されたガラス基板8を対向配置し、両ガラス基板の電極6,20間に、0〜5kVの電圧を印加して電子放出特性を評価した。
【0045】
図12が、そのときの発光状態を示す図である。この図12は、蛍光面のサイズが20×20mmであり、電界強度が10V/μm、エミッション電流が30μAのときの状態を示している。
【0046】
ヘリングボーン構造の繊維状ナノ炭素は、多数のナノロッドが繊維軸に対して傾斜しているので、多数のナノロッドの端面が、電子放出点となり、図12に示すように、多数の発光点が認められる。
【0047】
また、多数の発光点を有するので、電界の印加が、少ない発光点に集中して発光点が劣化するということも抑制されるので、寿命特性が向上する。
この実施形態では、炭素ナノ繊維素群は、ロッド状のナノロッドであったけれども、プレート状のナノプレートであってもよい。
【0048】
(実施形態2)
図13ないし図16を参照して本発明の他の実施の形態に係る冷陰極電子源、その製造方法ならびに表示装置を詳細に説明する。
【0049】
図13には、基板10上にカソード電極20を形成した冷陰極電子源の断面図が示されている。基板10上にスパッタもしくは蒸着により金属膜を成膜する。基板の材料には特に限定されないが、例えば、石英基板、アルミナ基板、シリコン基板、Mo基板、SUS基板、Ni−Fe基板等である。この基板10上の金属膜を写真製版技術を用いて所望のパターンのカソード電極20にパターニングする。カソード電極20のパターニング方法としては、写真製版技術を用いる以外に、パターン印刷を用いる方法もある。
【0050】
図14には、カソード電極20上に金属が含有されたファイバ30入りのペースト40が配置された冷陰極電子源の断面図が示されている。ファイバ30の製造方法は特に限定されないが、例えば、カーボンファイバは、熱伝導性、電気伝導性、機械的強度等に優れた特性を有するもので、アーク放電法、レーザ蒸発法、プラズマ合成法、炭化水素触媒分解法、化学気相成長法、熱分解法等、公知の種々の生成法により生成されたものを適宜用いることができる。ファイバ30の製造後あるいは製造過程で、ファイバ30の外部あるいは内部に適宜の手法により金属、好ましくは磁性金属が設けられる。これによってファイバ30は金属含有のナノチューブとなる。ファイバ30には、円Aで拡大して示すように、内部に金属50を設けてもよく、あるいは、円Bで拡大して示すように、外部に金属50を設けてもよい。このような金属50はその種類に限定されないが、例えば、磁性金属としては鉄、アルミニウム、ニッケル、これらの合金等がある。含有する金属の種類は1種類でも複数種類でもよい。ファイバ30を炭化水素ガスを流す化学気相成長法において磁性金属のイオンを含ませておいたり、あるいは、ファイバの表面に磁性金属を鍍金したり、あるいは、磁性金属を含む溶液中にファイバを浸漬したりして金属含有ファイバ30を得ることができる。
【0051】
ファイバ30をペースト40の状態にする手法には特に限定されないが、例えば、有機溶剤例えば樹脂と混ぜることで樹脂ペースト状にし、カソード電極20にスクリーン印刷や、スプレーや、コーティング等で形成することができる。カソード電極20とファイバ30との電気的コンタクトについては、ファイバ30とカソード電極20とが物理的に接触することにより両者間の電気的コンタクトを確保することができる。このコンタクト抵抗を下げるためには、ファイバ30とカソード電極20との間に、金属コロイド等の微細な導電性物質を配置することができる。コンタクト抵抗を低減することにより、より均一な電子放出特性を得ることが可能となり好ましい。
【0052】
図15には、ペースト40が除去されてファイバ30がカソード電極20上に配置されている冷陰極電子源の断面図が示されている。ペースト40は温度を上げることで除去される。この状態ではファイバ30はカソード電極20の電極面に対して水平方向に倒れ込んだ状態になっている。
【0053】
図16には、ファイバ30がカソード電極20の電極面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に配向した冷陰極電子源の断面図が示されている。カソード電極20の電極面に対して水平な方向(矢印方向)に外部磁界(磁場)Hを印加する。外部磁界Hの影響で金属を含有したファイバ30はカソード電極20上で外部磁界の方向、すなわち、カソード電極20の電極面に水平な方向に揃う。外部磁界の発生源は、所望の値を得ることができれば、電磁石でもよいし、永久磁石でもよい。
【0054】
以上説明した実施の形態においては、図17および図18で示すようにファイバ30は線径が大きくその外周面の回りに等電位面Eが形成されて電界集中が起こりやすくなり、有効な電子放出特性を有する冷陰極電子源を提供することができる。
【0055】
本実施の形態の冷陰極電子源は、表示例には限定されないが、冷陰極電子源から放出された電子の衝突による発光を利用して画像やその他を表示する表示装置に適用することができる。
【0056】
本実施の形態の冷陰極電子源は、表示例には限定されないが、例えば、アノード電極と蛍光体とを備える前面パネルと、冷陰極電子源を搭載しこの前面パネルに対向する背面パネルとを備え、冷陰極電子源から放出した電子と蛍光体との衝突による発光を利用して画像やその他を表示する表示装置にも適用することができる。
【0057】
本実施の形態の冷陰極電子源は、表示例には限定されないが、例えば、行方向に複数の配線(行方向配線)を設け、この行方向配線のそれぞれとほぼ直交して複数の配線(列方向配線)を設け、行方向配線と列方向配線のそれぞれの1つに冷陰極電子源を接続し、これら各冷陰極電子源を駆動して電子を蛍光体に放出して蛍光体(画素)を発光して画像やその他を表示する表示装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態において基板上にカソード電極を設けるプロセスを図示する図である。
【図2】図1のプロセスに次いでカソード電極上にファイバ入りのペーストを配置するプロセスを図示する図である。
【図3】図2のプロセスに次いでカソード電極上のペーストを除去するプロセスを図示する図である。
【図4】炭素ナノ繊維素の模式図である。
【図5】炭素ナノ繊維素群の模式図である。
【図6】炭素ナノ繊維素、炭素ナノ繊維素群および繊維状ナノ炭素の模式図である。
【図7】炭素ナノ繊維素群の各種構造の模式図である。
【図8】図3の一部を拡大して模式的に示す図3に対応する図である。
【図9】実施例の製造工程を示す図である。
【図10】エミッタ表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真図である。
【図11】電子放出特性の評価のための構成図である。
【図12】図11の発光状態を示す図である。
【図13】本発明の他の実施の形態においてカソード電極を設けるプロセスを図示する図である。
【図14】図13のプロセスに次いでカソード電極上にファイバ入りのペーストを配置するプロセスを図示する図である。
【図15】図14のプロセスに次いでカソード電極上のペーストを除去するプロセスを図示する図である。
【図16】図15のプロセスに次いで外部磁界を印加するプロセスを図示する図である。
【図17】冷陰極電子源の要部の断面図である。
【図18】図17の冷陰極電子源の側面断面図である。
【符号の説明】
【0059】
2 炭素ナノ繊維素
3 炭素ナノ繊維素群
5 繊維状ナノ炭素
10 基板
20 カソード電極
30 ファイバ
40 ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源であって、電極上にファイバが、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて、配置されている、ことを特徴とする冷陰極電子源。
【請求項2】
上記ファイバが、ナノメートルまたはマイクロメートルのオーダーである、ことを特徴とする請求項1に記載の冷陰極電子源。
【請求項3】
上記ファイバが、ペースト状とされて電極上に配置され、かつ、ペーストの表面張力によりその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて、配置されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の冷陰極電子源。
【請求項4】
上記ファイバが、金属を含有している、ことを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の冷陰極電子源。
【請求項5】
磁場が印加されて上記ファイバが、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて、配置されている、ことを特徴とする請求項4に記載の冷陰極電子源。
【請求項6】
前記ファイバは、炭素ナノ繊維素が複数集合してなる繊維状ナノ炭素から構成される請求項1ないし5のいずれかに記載の冷陰極電子源。
【請求項7】
前記炭素ナノ繊維素は、一方向に伸びる中心軸を有する炭素ヘキサゴナル網面からなる請求項6に記載の冷陰極電子源。
【請求項8】
前記繊維状ナノ炭素は、前記中心軸を平行にして前記炭素ナノ繊維素を複数積層してなる炭素ナノ繊維素群で構成される請求項7に記載の冷陰極電子源。
【請求項9】
前記炭素ナノ繊維素群が、前記炭素ナノ繊維素の積層方向の繊維軸に対して傾斜して配列される請求項8に記載の冷陰極電子源。
【請求項10】
低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源の製造方法であって、
電極上にファイバをペースト状にして電極上に配置し、かつ、ペーストの表面張力によりその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて配置した、ことを特徴とする冷陰極電子源の製造方法。
【請求項11】
低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源の製造方法であって、
電極上に金属含有のファイバを電極上に配置し、磁場を印加して上記ファイバを、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて、配置する、ことを特徴とする冷陰極電子源の製造方法。
【請求項12】
低電界で電子放出が可能な冷陰極電子源の製造方法であって、
電極上に金属含有のファイバをペースト状にして電極上に配置し、かつ、ペーストの表面張力によりその長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に傾けるとともに、さらに、磁場を印加して上記ファイバを、その長手方向を電極の面に対して水平もしくはほぼ水平な方向に向けて、配置する、ことを特徴とする冷陰極電子源の製造方法。
【請求項13】
前記ファイバは、炭素ナノ繊維素が複数集合してなる繊維状ナノ炭素から構成される請求項10ないし12のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項14】
前記炭素ナノ繊維素は、一方向に伸びる中心軸を有する炭素ヘキサゴナル網面からなる請求項13に記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項15】
前記繊維状ナノ炭素は、前記中心軸を平行にして前記炭素ナノ繊維素を複数積層してなる炭素ナノ繊維素群で構成される請求項14に記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項16】
前記炭素ナノ繊維素群が、前記炭素ナノ繊維素の積層方向の繊維軸に対して傾斜して配列される請求項15に記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし9のいずれかに記載の冷陰極電子源を備えることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−261108(P2006−261108A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40767(P2006−40767)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】