説明

分光エリプソメータを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の解析方法、複合膜の解析方法及び多層膜の解析方法

【課題】膜状の有機層の組成を非破壊状態で容易に精度よく解析することができる分光エリプソメータを用いた、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の解析方法を提供する。
【解決手段】ステップS1で解析すべき試料の単層膜の透過率スペクトル又は吸収スペクトルを分光光度計で測定する。ステップS2で前記スペクトルに基づいて試料の組成及び構造の少なくとも一方を予測して多次元の誘電関数を設定する。ステップS3で分光エリプソメータで試料のエリプソパラメータΔ,ψを測定する。ステップS4で前記誘電関数を用いて試料のエリプソパラメータΔ,ψを計算し、前記エリプソパラメータΔ,ψの計算値と分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるように回帰解析法でフィッティングを行い最適な誘電関数を推定する。ステップS5で屈折率n及び消衰係数kが求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光エリプソメータを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の解析方法、複合膜の解析方法及び多層膜の解析方法に係る。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスをELと表記する場合もある。)の製造方法において、ホスト材料とドーパント材料を所定の混合比となるように混合して発光層を構成する方法が提案されている。そして、ホスト材料に対するドーパント材料の混合比(ドーパント濃度)を求める方法として、液体クロマトグラフィーを用いることが開示されている(特許文献1参照。)。
【0003】
また、分光エリプソメータを用いた極薄膜2層構造の解析方法が提案されている(特許文献2参照。)。特許文献2の方法では、まず、分光エリプソメータを用いて計測対象の基板表面の極薄膜2層構造を測定し、入射光の波長を変えて各波長λi ごとの入射光と反射光の偏光の変化である測定スペクトルΨE (λi )とΔE (λi )を得る。そして、分光エリプソメータを用いて得たデータ(以下、エリプソデータと表記する場合もある。)の解析には、第1段階として実際の試料に良く合うと思われるモデルを複数選択して初期値を決定する。モデルをたてる際には、各薄膜の材料(Mat1,Mat2)の考えられる複素屈折率(N1,(n1,k1)),(N2,(n2,k2))、各層の膜厚(d1,d2)を利用し、いくつかのモデルをたてる。次の第2段階としてその初期値をもとに広範囲極小計算法(Extended Best Local Minimum Calculation )を行う。次に第3段階としてその結果を利用して最終的なフィッティング、確認、保存を行って各層の光学定数(屈折率n及び消衰係数k)と膜厚を求める。
【特許文献1】特開2004−134154号公報(明細書の段落[0013])
【特許文献2】特開2003−302334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体クロマトグラフィーを用いてホスト材料中のドーパント量を求めるためには、膜を溶媒に溶かす必要があり、試料である膜を非破壊状態では測定できない。また、溶解のための手間がかかり、材料によっては適正な溶媒がなく分析が困難な場合もある。
【0005】
特許文献2では、エリプソデータの解析に際して、第1段階として実際の試料に良く合うと思われるモデルを複数選択して初期値を決定する。試料が無機物の場合は、解析に使用するモデルを複数選択するためのリファレンスとして利用可能な既知のデータが多い。しかし、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の場合は、そのようなリファレンスとして利用可能な既知のデータが非常に少ない。
【0006】
従って、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の場合にはエリプソデータの解析に際して、薄膜の材料の複素屈折率を既知のデータから選択してモデルをたてることが難しい。そのため、エリプソデータの解析に際して、物質の誘電率の波長依存性を示す式である分散式を使用する。しかし、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の場合は、分子構造が複雑である上、物質の種類が多く誘電関数が複雑であることと、利用可能な既知のデータが少ないため、適当な誘電関数を設定するのが難しく、試行錯誤の回数が多くなり組成を容易に解析することが難しい。その上、解析結果の精度を上げることも困難であった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は膜状の有機層を非破壊状態で容易に精度よく解析することができる分光エリプソメータを用いた有機物質の解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、分光エリプソメータを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の解析方法である。そして、解析すべき試料の単層膜の透過率スペクトル又は吸収スペクトルを分光光度計で測定するステップと、前記スペクトルに基づいて前記試料の組成及び構造の少なくとも一方を予測して多次元の誘電関数を設定するステップと、分光エリプソメータで試料のエリプソパラメータΔ,ψを測定するステップとを備えている。また、前記誘電関数を用いて試料のエリプソパラメータΔ,ψの理論値を計算し、そのエリプソパラメータΔ,ψの理論値と前記分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるように回帰解析法で前記誘電関数のフィッティングパラメータのフィッティングを行って最適推定誘電関数を求めるステップを備えている。なお、Δはs偏光とp偏光との位相差、ψはs偏光とp偏光との振幅比である。
【0009】
この発明では、解析すべき試料の単層膜の透過率スペクトル又は吸収スペクトルを分光光度計で測定し、そのスペクトルに基づいて試料の組成及び構造の少なくとも一方を予測して多次元の誘電関数を設定するため、エリプソデータの解析に際して、適切な誘電関数が設定される確率が高くなる。設定された誘電関数を用いて試料のエリプソパラメータΔ,ψを計算した理論値と、分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるように回帰解析法でフィッティングを行う。その結果、最適に推定された誘電関数が求められる。また、この誘電関数から、物質固有の光学定数である屈折率n及び消衰係数kが求めらる。従って、膜状の有機層を非破壊状態で容易に精度よく解析することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、単層膜中に複数の有機物質が存在する複合膜の分光エリプソメータを用いた解析方法である。そして、前記複合膜の各構成材料に関して単独で単層膜を作成するとともに請求項1の手法によって最適推定誘電関数を求め、その最適推定誘電関数を使用するとともに前記複数の有機物質の組成比をフィッティングパラメータとして有効媒質近似を利用して前記複合膜に対するフィッティングを行って複合膜の組成比の推定値及び複合膜の最適推定誘電関数を求める。この発明では、複合膜を構成する複数種の有機物質に関してそれぞれ単独の適正な誘電関数を求めて、それに基づいて全体の組成が解析されるため、最初から混合状態の有機物質に対応する誘電関数を設定する場合に比較して容易に精度よく複合膜を解析することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記複合膜はホスト及びドーパントからなる有機材料で構成されている。
請求項4に記載の発明は、単層膜が複数積層された多層膜の分光エリプソメータを用いた解析方法であって、各単層膜について請求項1又は請求項2の手法によって単層膜の最適推定誘電関数を求め、各単層膜の積層順と膜厚をフィッティングパラメータとして前記分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行って積層順及び膜厚の推定値を求める。この発明では、多層膜であっても非破壊状態で容易に精度よく解析することができる。この発明では、例えば、有機EL素子の正孔輸送層、発光層、電子輸送層等の積層順や膜厚を非破壊状態で解析することができる。各層はホストとドーパントから成る層(複合膜)であっても、単独の材料からなる層であっても、あるいは両者が混合された層であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膜状の有機層を非破壊状態で容易に精度よく解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面を参照して説明する。
まず、解析すべき試料が一種類の有機物質で構成された単層膜の場合について図1のフローチャートに従って説明する。
【0014】
ステップS1において、解析すべき試料の単層膜の透過率スペクトル又は吸収スペクトルを分光光度計で測定する。測定は波長λが250〜1000nmの範囲で行われる。
次にステップS2において、ステップS1で得られたスペクトルデータに基づいて試料の組成及び構造の少なくとも一方を予測して、多次元の誘電関数を設定する。誘電関数としてGaussian振動子型の誘電関数が使用される。
【0015】
Gaussian振動子型の誘電関数及びフィッティングパラメータは次式で表される。
ε=εn1+iεn2
εn2=Amp・exp{−(E−En)/Br}+Amp・exp{−(E+En)/Br
【0016】
【数1】

εn1はKramers-Kronig(K−K)の関係を満足する。
【0017】
Amp:n番目の振動子の振幅、En:n番目の振動子の中心エネルギー
Br:n番目の振動子の広がり
次にステップS3において、分光エリプソメータで解析すべき試料の単層膜のエリプソパラメータΔ,ψを測定する。Δはs偏光とp偏光との位相差、ψはs偏光とp偏光との振幅比である。
【0018】
次にステップS4において、試料のエリプソパラメータΔ,ψの理論値と測定値との回帰解析法によるフィッティングが行われる。回帰解析法には、例えばLevenberg-Marquardt 法に基づく回帰解析法が使用される。「フィッティング」とは、モデルに含まれている未知数(層の厚さや誘電関数のパラメータ等)を変化させながら、測定値に合わせていくことを意味する。ステップS4の作業はコンピュータによって行われる。
【0019】
詳述すれば、ステップS2で設定した誘電関数のフィッティングパラメータを用いて試料のエリプソパラメータΔ,ψを計算する。そして、その計算値と、ステップS3で得られた分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差(Mean Squared Error:MSE)が許容範囲内になるようにフィッティングが回帰解析法により行われる。即ち、設定した誘電関数から理論的に求められるエリプソパラメータΔ,ψの理論値と測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内か否かを判断し、平均2乗誤差が最小又は許容範囲内でなければ、誘電関数のパラメータを変更した後、エリプソパラメータΔ,ψの理論値を計算し、測定値との平均2乗誤差を演算する。そして、フィッテイグを繰り返して平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になると最適に推定された誘電関数が求まり、ステップS5に進む。例えば、平均2乗誤差が20以下になるまでフィッテイグを繰り返す。
【0020】
ステップS5において、最適推定誘電関数から屈折率n及び消衰係数kが求められる。屈折率n及び消衰係数kは物質固有の光学定数である。
次に解析すべき試料が、単層膜中に複数の有機物質が存在する複合膜の場合について説明する。解析すべき試料が複合膜の場合は、複合膜の各構成材料に関して単独で単層膜の試料を作成する。そして、各試料に関して前記ステップS1〜ステップS4の作業を行うことにより、複合膜を構成する複数種の有機物質に関してそれぞれ単独の最適に推定された誘電関数を求める。
【0021】
次に複合膜を構成する各有機物質の構成比をフィッティングパラメータとして、有効媒質近似を利用して複合膜の誘電関数を計算する。有効媒質近似には、例えばブラグマンの有効媒質近似(Bruggeman’s Effective Medium Approximation)が利用される。
【0022】
また、分光エリプソメータで解析すべき試料の複合膜のエリプソパラメータΔ,ψを測定する。
次に複合膜の誘電関数を使用して複合膜のエリプソパラメータΔ,ψの理論値を計算する。そして、その理論値と、分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるようにフィッティングが回帰解析法により行われる。平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になると、複合膜を構成する各有機物質の組成比と、複合膜の最適推定誘電関数が求められる。
【0023】
次に解析すべき試料が、単層膜が複数積層された多層膜の場合について説明する。解析すべき試料が多層膜の場合は、各単層膜毎に上述の手法によって各単層膜の誘電関数を求める。また、分光エリプソメータで解析すべき試料の多層膜のエリプソパラメータΔ,ψを測定する。そして、各単層膜の積層順と膜厚をフィッティングパラメータとして、各単層膜の誘電関数、各単層膜の積層順及び膜厚を使用して計算したエリプソパラメータΔ,ψの理論値と、分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行う。理論値と、分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になると、積層順と膜厚の推定値が求められる。
【実施例】
【0024】
以下、有機物質として有機ELの正孔輸送層、発光層、電子輸送層の材料として使用される有機材料としての有機エレクトロルミネッセンス材料を試料とした実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、それらは例示であって、本発明を限定するものではない。各実施例において分光エリプソメータとして、J.A.Woollam社製、M−2000Uを使用した。
【0025】
<実施例1>
厚さ0.5mmのガラス基板を用意し、洗浄後、ガラス基板上に真空蒸着装置により、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を蒸着して膜厚14.9nmの単層膜の試料を作成した。その試料のGaussian振動子型の誘電関数におけるフィッティングパラメータのAmp、En及びBrを3種類ずつ次のように設定した。
【0026】
Amp1 0.784
En1 3.100
Br1 0.428
Amp2 1.719
En2 5.769
Br2 3.314
Amp3 3.741
En3 4.585
Br3 0.313
なお、上記フィッティングパラメータは、小数点第4位を四捨五入し、小数点第3位までの値を示した。
【0027】
前記単層膜の試料について分光エリプソメータによりエリプソパラメータΔ,ψを測定した。測定は入射角を60°、65°及び70°に設定して、それぞれ波長λが250〜1000nmの範囲で行った。
【0028】
そして、前記誘電関数から計算したエリプソパラメータΔ,ψの理論値と、分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行った。その結果、MSE=3.6であった。
【0029】
結果を図2〜図5に示す。図2〜図4は波長分散特性を表し、図2は透過率と波長との関係を示すグラフ(図2において、図中のExpとは、入射角を90度に設定して、透過率スペクトルを測定したものである。)、図3はΔと波長の関係を示すグラフ、図4はψと波長の関係を示すグラフ、図5は光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフである。図2〜図4からフィッティングが良好に行われ、誘電関数が精度よく推定されたことが確認される。
【0030】
<実施例2>
厚さ0.5mmのガラス基板を用意し、洗浄後、ガラス基板上に真空蒸着装置により、キナクリドンを蒸着して膜厚23.8nmの単層膜の試料を作成した。その試料のGaussian振動子型の誘電関数におけるフィッティングパラメータのAmp、En及びBrを6種類ずつ次のように設定した。
【0031】
Amp1 2.355
En1 2.189
Br1 0.162
Amp2 0.931
En2 2.360
Br2 0.107
Amp3 1.063
En3 2.395
Br3 0.446
Amp4 0.099
Br4 0.154
En5 3.685
Amp5 1.458
En5 4.375
Br5 0.518
Amp6 2.795
En6 5.635
Br6 2.246
なお、上記フィッティングパラメータは、小数点第4位を四捨五入し、小数点第3位までの値を示した。
【0032】
前記単層膜の試料について分光エリプソメータによりエリプソパラメータΔ,ψを測定した。測定は入射角を60°、65°及び70°に設定して、それぞれ波長λが250〜1000nmの範囲で行った。
【0033】
そして、前記誘電関数から計算したエリプソパラメータΔ,ψの理論値と、分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行った。その結果、MSE=14.7であった。
【0034】
結果を図6〜図9に示す。図6〜図8は波長分散特性を表し、図6は透過率と波長の関係を示すグラフ(図6において図中のExpとは、入射角を90度に設定して、透過率スペクトルを測定したものである。)、図7はΔと波長の関係を示すグラフ、図8はψと波長の関係を示すグラフ、図9は光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフである。図6〜図8からフィッティングが良好に行われ、誘電関数が精度よく推定されたことが確認される。
【0035】
<実施例3>
厚さ0.5mmのガラス基板を用意し、洗浄後、ガラス基板上に真空蒸着装置により、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(4−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM1)を蒸着して膜厚25.9nmの単層膜の試料を作成した。その試料のGaussian振動子型の誘電関数におけるフィッティングパラメータのAmp、En及びBrを6種類ずつ次のように設定した。
【0036】
Amp1 1.257
En1 2.291
Br1 0.213
Amp2 2.152
En2 2.470
Br2 0.342
Amp3 2.509
En3 2.668
Br3 0.487
Amp4 1.106
En4 3.122
Br4 0.831
Amp5 3.558
En5 9.957
Br5 5.450
Amp6 0.931
En6 4.143
Br6 1.170
なお、上記フィッティングパラメータは、小数点第4位を四捨五入し、小数点第3位までの値を示した。
【0037】
前記単層膜の試料について分光エリプソメータによりエリプソパラメータΔ,ψを測定した。測定は入射角を60°、65°及び70°に設定して、それぞれ波長λが250〜1000nmの範囲で行った。
【0038】
そして、前記誘電関数から計算したエリプソパラメータΔ,ψの理論値と、分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行った。その結果、MSE=6.7であった。
【0039】
結果を図10〜図13に示す。図10〜図12は波長分散特性を表し、図10は透過率と波長の関係を示すグラフ(図10において、図中のExpとは、入射角を90度に設定して、透過率スペクトルを測定したものである。)、図11はΔと波長の関係を示すグラフ、図12はψと波長の関係を示すグラフ、図13は光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフである。図10〜図12からフィッティングが良好に行われ、誘電関数が精度よく推定されたことが確認される。
【0040】
<実施例4>
次に解析すべき試料が、単層膜中に複数の有機物質が存在する複合膜の場合の実施例について説明する。
【0041】
厚さ0.5mmのガラス基板を用意し、洗浄後、ガラス基板上に真空蒸着装置により、
Alq3をホストとし、キナクリドンをドーパントとして膜厚16.2nmの複合膜の試料を作成した。キナクリドンはAlq3に対して5wt%になるように作成した。
【0042】
前記複合膜の試料について分光エリプソメータによりエリプソパラメータΔ,ψを測定した。測定は入射角を60°、65°及び70°に設定して、それぞれ波長λが250〜1000nmの範囲で行った。
【0043】
そして、実施例1、2で推定したAlq3とキナクリドンの誘電関数、及びフィッティンブパラメータであるこれら2つの物質の体積分率(組成比)からブラグマンの有効媒質近似を用いて計算したエリプソパラメータΔ,ψの理論値と、分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行った。その結果、MSE=10.59であった。
【0044】
結果を図14〜図17に示す。図14〜図16は波長分散特性を表し、図14は透過率と波長の関係を示すグラフ(図14において、図中のExpとは、入射角を90度に設定して、透過率スペクトルを測定したものである。)、図15はΔと波長の関係を示すグラフ、図16はψと波長の関係を示すグラフ、図17は光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフである。図14〜図16からフィッティングが良好に行われ、2つの物質の組成比と複合膜の誘電関数が精度よく推定されたたことが確認される。
【0045】
<実施例5>
次にAlq3をホストとし、キナクリドンをドーパントとした複合膜における複素屈折率波長分散の仕込み量依存性について調べた実施例について説明する。
【0046】
キナクリドンの仕込み量、即ちホストであるAlq3に対するキナクリドンの濃度を表1に示すように変えた4種類の試料を作成して、実施例4と同様にしてキナクリドンのドープ濃度(組成比)を求めた。
【0047】
結果を図18及び表1に示す。
【0048】
【表1】

表1からキナクリドンのドープ濃度(組成比)が精度よく求められていることを確認できた。
【0049】
<実施例6>
次に解析すべき試料が、単層膜が複数積層された多層膜の場合の実施例について説明する。
【0050】
有機EL層を正孔輸送層、発光層及び電子輸送層の3層構造とした場合の一例として、正孔輸送層を構成するTPTE層、発光層を構成するAlq3をホストとしキナクリドンをドーパントとしたキナクリドン/Alq3層、電子輸送層を構成するAlq3層の3層構成である多層膜の試料を作成した。そして、各層の積層順、膜厚及びキナクリドン/Alq3におけるキナクリドンのドープ濃度を求めた。
【0051】
まず、実施例1〜3と同様の手順により、TPTE、Alq3及びキナクリドンの誘電関数を推定した。次に、得られた誘電関数、積層順、Alq3とキナクリドンの組成比及び各層の膜厚からエリプソパラメータΔ、ψの理論値を計算した。ここでは、積層順、Alq3とキナクリドンの組成比及び各層の膜厚がフィッティングパラメータである。そして、エリプソパラメータの理論値と測定値とのフィッティングを行った。
【0052】
仕込み量と、エリプソパラメータΔ,ψによるフィッティングで得られた解析値の値を表2に示す。表2において、上から順に、陽極からの積層順を示す。
【0053】
【表2】

表2から、試料が多層膜であっても、積層順、キナクリドンのドープ濃度(組成比)及び各層の膜厚が比較的精度よく求められていることを確認できた。
【0054】
この実施形態では以下の効果を有する。
(1)解析すべき試料の単層膜の透過率スペクトル又は吸収スペクトルを分光光度計で測定し、そのスペクトルに基づいて試料の組成及び構造の少なくとも一方を予測して多次元の誘電関数を設定する。そして、分光エリプソメータにより測定されたエリプソデータの解析に際して、前記誘電関数を用いて計算したエリプソパラメータΔ,ψの計算値と、分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるように回帰解析法でフィッティングを行う。その結果、最適に推定された誘電関数が求められる。従って、従来の分析手法(液体クロマトグラフィー)では分析困難であった膜状の有機層を、非破壊状態で容易に精度よく解析することができる。
【0055】
(2)単層膜中に複数の有機物質が存在する複合膜を解析する場合は、複合膜の各構成材料に関して単独で単層膜を作成するとともに、各単層膜の材料に関して前記手法によって誘電関数を求め、その誘電関数を使用するとともに有効媒質近似を利用して複合膜に対するフィッティングを行う。従って、最初から混合状態の有機物質に対応する誘電関数を設定する場合に比較して容易に精度よく複合膜の解析することができる。
【0056】
(3)複合膜がホスト及びドーパントからなる有機EL材料で、膜厚が10〜30nm程度の薄い膜であっても非破壊状態で組成を解析することができる。
(4)単層膜が複数積層された多層膜の試料を解析する場合は、各単層膜毎に前記手法によって誘電関数を求め、各単層膜の積層順と膜厚を変更して分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行う。従って、多層膜であっても組成を非破壊状態で容易に解析することができる。有機EL素子は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を有する多層構成が一般的なため、有機EL素子の有機EL材料の組成を非破壊状態で解析することができる。
【0057】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成してもよい。
○ 誘電関数としてGaussian振動子型の誘電関数以外の関数を使用してもよい。例えば、Tauc-Lorentz振動子型の誘電関数を用いてもよい。
【0058】
○ ブラグマンの有効媒質近似以外の有効媒質近似法を使用してもよい。
○ 試料のエリプソパラメータΔ,ψの計算値と、分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるようにフィッティングを行う回帰解析法は、Levenberg-Marquardt 法に基づく回帰解析法に限らない。
【0059】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記誘電関数はGaussian振動子型の誘電関数である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】試料の解析方法の手順を示すフローチャート。
【図2】実施例1の透過率と波長の関係を示すグラフ。
【図3】同じくΔと波長の関係を示すグラフ。
【図4】同じくψと波長の関係を示すグラフ。
【図5】同じく光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフ。
【図6】実施例2の透過率と波長の関係を示すグラフ。
【図7】同じくΔと波長の関係を示すグラフ。
【図8】同じくψと波長の関係を示すグラフ。
【図9】同じく光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフ。
【図10】実施例3の透過率と波長の関係を示すグラフ。
【図11】同じくΔと波長の関係を示すグラフ。
【図12】同じくψと波長の関係を示すグラフ。
【図13】同じく光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフ。
【図14】実施例4の透過率と波長の関係を示すグラフ。
【図15】同じくΔと波長の関係を示すグラフ。
【図16】同じくψと波長の関係を示すグラフ。
【図17】同じく光学定数である屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフ。
【図18】実施例5の各試料の屈折率n及び消衰係数kと波長の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0061】
S1,S2,S3,S4,S5…ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光エリプソメータを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の解析方法であって、解析すべき試料の単層膜の透過率スペクトル又は吸収スペクトルを分光光度計で測定するステップと、前記スペクトルに基づいて前記試料の組成及び構造の少なくとも一方を予測して多次元の誘電関数を設定するステップと、分光エリプソメータで試料のエリプソパラメータΔ,ψを測定するステップと、前記誘電関数を用いて試料のエリプソパラメータΔ,ψの理論値を計算し、そのエリプソパラメータΔ,ψの理論値と前記分光エリプソメータによる測定値との平均2乗誤差が最小又は許容範囲内になるように回帰解析法で前記誘電関数のフィッティングパラメータのフィッティングを行って最適推定誘電関数を求めるステップとを備えた、分光エリプソメータを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機物質の解析方法。
【請求項2】
単層膜中に複数の有機物質が存在する複合膜の分光エリプソメータを用いた解析方法であって、前記複合膜の各構成材料に関して単独で単層膜を作成するとともに請求項1の手法によって最適推定誘電関数を求め、当該最適推定誘電関数を使用するとともに、前記複数の有機物質の組成比をフィッティングパラメータとして有効媒質近似を利用して前記複合膜に対するフィッティングを行って組成比の推定値及び前記複合膜の最適推定誘電関数を求める分光エリプソメータを用いた複合膜の解析方法。
【請求項3】
前記複合膜はホスト及びドーパントからなる有機材料で構成されている請求項2に記載の分光エリプソメータを用いた複合膜の解析方法。
【請求項4】
単層膜が複数積層された多層膜の分光エリプソメータを用いた解析方法であって、各単層膜について請求項1又は請求項2の手法によって単層膜の最適推定誘電関数を求め、各単層膜の積層順と膜厚をフィッティングパラメータとして前記分光エリプソメータによる測定値とのフィッティングを行って積層順および膜厚の推定値を求める分光エリプソメータを用いた多層膜の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−349648(P2006−349648A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179954(P2005−179954)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】