制御ロジック及びフィードバック制御方式
【課題】幅広い振動数帯域において振動低減効果を有する制御ロジック及びフィードバック制御方式を提供する。
【解決手段】畳み込み積分を含みフィルタ係数を更新する制御ロジックにおいて、入力信号として、エラー信号のみを用い、フィルタ係数の更新式を次式
【数1】
のようにして制御を行うことで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減する。前記制御ロジックによりフィードバックゲインをサンプリング時間ごとに修正することで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減する。
【解決手段】畳み込み積分を含みフィルタ係数を更新する制御ロジックにおいて、入力信号として、エラー信号のみを用い、フィルタ係数の更新式を次式
【数1】
のようにして制御を行うことで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減する。前記制御ロジックによりフィードバックゲインをサンプリング時間ごとに修正することで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制振用適応制御装置における制御ロジック及びフィードバック制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室内振動、車内音を改善するために、エンジンマウントからの伝達力を低減する手段として、マウントレイアウトの最適化、マウント特性の改良などの手法が研究されてきた。さらに最近では、液体封入式マウントを基本とする電磁アクティブマウントが開発され、実用化されている。そのアクティブ制御の手法としては、LMSアルゴリズムを用いた適応制御が一般的に使われている。
【0003】
本明細書では、記号を以下の通りとする。
【0004】
x:リファレンス信号
d;伝達系(震源側伝達部材1)の出力信号
e;エラー信号
y;制御系(制御部3)の出力信号(適応フィルタの出力信号)
w;適応フィルタのフィルタ係数
N;タップ数
n;時系列データの指標
i;サンプルの番号
μ;ステップサイズパラメータ
G1; 震源側伝達部材1の伝達関数
G2;対象側伝達部材2の伝達関数
ε;2乗平均誤差
E{};期待値
【0005】
【数1】
【0006】
従来のLMSアルゴリズムのブロック線図は、図20のように表現される。e[n]=(d[n]−y[n])G2であるが簡単のためG2=1とすると従来のLMSアルゴリズムでは、式(1)のようにエラー信号e[n]は未知システムの伝達関数の出力とLMSアルゴリズムの制御出力で表される。前者の出力は未知システムのフィルタ係数hiとリファレンス信号x[n−i]の畳み込み積分となり、後者は適応フィルタ係数wiとリファレンス信号x[n−i]の畳み込み積分となる。フィルタ係数更新は式(2)となる。
【0007】
【数2】
【0008】
ここで畳み込み積分に関するリファレンス信号x、フィルタ係数wの配置を図21のように定義する。wi[n]のnは時間の指標を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−333880号公報
【特許文献2】特開2007−269050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この手法による従来技術では、車内音の低減はエンジン回転2次成分、4次成分にとどまる。これは、こもり音低減が目的と考えられるが、車内音オーバーオール低減のため幅広い周波数帯で実現できればさらに快適性が向上する。LMSアルゴリズムにおいてはリファレンス信号の数を増やすかリファレンス信号にエンジン振動を採用することで広い周波数帯の成分低減が理論的に可能である。しかし、前者についてはコスト面で問題がある。後者については実際には、例がほとんどなくエンジン振動の選び方が難しいと考えられる。
【0011】
この問題を考慮し本発明者らは、幅広い周波数帯域で車室内振動あるいは車内音の成分が低減できる制御方法について研究を行った。具体的にこの手法は、エラー信号のみを入力データとするフィードバック型制御手法である。一般的に、フィードバック制御は自動車や多くの電子機器で広く使われており、コントローラのパラメータは固定であることが多く、システム設計段階でエラーを最小化するように設計された例がほとんどである。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、幅広い振動数帯域において振動低減効果を有する制御ロジック及びフィードバック制御方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の制御ロジックは、畳み込み積分を含みフィルタ係数を更新する制御ロジックにおいて、入力信号として、エラー信号のみを用い、フィルタ係数の更新式を次式
【0014】
【数3】
【0015】
のようにして制御を行うことで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減するものである。
【0016】
また、本発明のフィードバック制御方式は、前記制御ロジックによりフィードバックゲインをサンプリング時間ごとに修正することで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、フィードバックゲインを最適化する手法として、LMSアルゴリズムを応用して行った。このフィードバックゲインを求める式を導き、収束性の検討を行った。また、単一周波数をリファレンス信号とした従来のLMSアルゴリズムと本発明をシミュレーションで比較しその効果を確認した。さらに、油圧アクティブマウントを車両に搭載し、アイドルの状態で、両手法による試験を行い、本発明に関してはエンジン回転2次成分だけでなく、200Hz〜500Hzの幅広い周波数領域でマウント〜フレームまでの伝達力や車室内振動に対して低減効果が得られることを確認し、本発明が自動車の振動騒音低減のための制御手法として有効であることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の制御ロジック及びフィードバック制御方式に基づく車両制振用適応制御装置のブロック図である。
【図2】左は本発明による特性(横軸フィルタ係数、縦軸2乗平均誤差)のグラフ、右は従来の特性のグラフである。
【図3】従来のシミュレーションモデルのブロック図である。
【図4】本発明のシミュレーションモデルのブロック図である。
【図5】従来のシミュレーション結果の棒グラフである。
【図6】本発明のシミュレーション結果の棒グラフである。
【図7】液体アクティブマウントの構造図である。
【図8】液体アクティブマウントのエンジン取り付け構造図である。
【図9】液体アクティブマウントのブロック図である。
【図10】ボイスコイルモータのブロック図である。
【図11】従来のLMSアルゴリズムによる変換された力の図である。
【図12】本発明のLMSアルゴリズムによる変換された力の図である。
【図13】図12のA部分の拡大図である。
【図14】従来のLMSアルゴリズムによるシートレール振動のグラフである。
【図15】本発明のLMSアルゴリズムによるシートレール振動のグラフである。
【図16】本発明による振動低減特性の棒グラフである。
【図17】従来の振動低減特性の棒グラフである。
【図18】本発明を適用する車両の構造図である。
【図19】電磁式アクティブマウントの構造図である。
【図20】従来のブロック図である。
【図21】フィルタの配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に示されるように、本発明の制御ロジック及びフィードバック制御方式に基づく車両制振用適応制御装置は、サイン波からなるリファレンス信号x[n](nは自然数)に応じて未知のフィルタ係数hi(iは自然数)により震源側出力d[n]を出力する震源側伝達部材1と、震源側出力d[n]に応じてエラー信号e[n]を出力する対象側伝達部材2と、エラー信号e[n]に応じてフィルタ係数wiにより制御出力y[n]を生成する制御部3とを有するものである。
【0021】
震源側伝達部材1は伝達関数G1を有し、対象側伝達部材2は伝達関数G2を有する。制御部3は、最適なフィードバックゲインを決定する機能を有する。制御部3は、エラー信号e[n]を処理して制御出力y[n]を出力する適応フィルタ部4とエラー信号e[n]からフィルタ係数wiを求めるLMSアルゴリズム処理部5とを有する。
【0022】
1.制御方法の検討
本発明の車両制振用適応制御装置における制御は、エラー信号をフィードバックする制御である。一般的にフィードバック制御において、最適フィードバックゲインを決定する必要がある。ここでは、従来のLMSアルゴリズムを応用して最適フィードバックゲインの決定を行う。
【0023】
その方法は、従来のLMSアルゴリズムと比較するとリファレンス信号をエラー信号に置き換えたものになる。修正したLMSアルゴリズムでは、式(1)の右辺第2項のリファレンス信号の変数xの代わりにエラー信号eを用いる。しかし、リファレンス信号の代わりにエラー信号eを使って表そうとするとき、i=0の場合はe[n]をe[n]で表すことになり矛盾が起きるため、近似式として、さらに、h0x[n]−w0e[n]を除去した式(3)を考えた。
【0024】
【数4】
【0025】
従来のLMSアルゴリズムではリファレンス信号にエラー信号に類似した時刻歴波形を使うとフィルタ係数の収束がよくなると考えた。そこで、リファレンス信号に直接エラー信号を用いると収束はよく幅広い周波数成分についても低減できるとの仮説を立てた。但し、エラー信号が0になると、その畳み込み積分の過程でフィードバック出力が0になるので、もとの信号からある程度低減したところで、フィードバックゲインは安定すると仮定する。よって、従来のLMSアルゴリズムより低減効果は少ないと考えられる。また、式(3)では、式(1)と同様に簡単のためG2=1とした。変数iは、i=1,2,…,Nとなり、式(1)に対して少ないが、Nが大きければ近似式自体に問題はない。
【0026】
(1)二乗平均誤差
フィルタ係数更新式を導くために、まずエラー信号の2乗平均誤差が最小になる条件を求める。2乗平均誤差は、
【0027】
【数5】
【0028】
となり、式(3)から次のようになる。
【0029】
【数6】
【0030】
式(5)の各項について検討を進める。
【0031】
a.第1項
E{d2[n]}
は外乱と考えられるので一定と定義できる。よって、
E{d2[n]}=Pd(一定)
とする。
【0032】
b.第2項
式(4)から
【0033】
【数7】
【0034】
のように式を変形でき、さらに
【0035】
【数8】
【0036】
とおくと
【0037】
【数9】
【0038】
となる。
【0039】
c.第3項
自己相関関数を、
【0040】
【数10】
【0041】
として定義するとr〔j〕は偶関数のためr〔j〕=r〔−j〕となる。
【0042】
また、式(4)からE{y2〔n〕}は、
【0043】
【数11】
【0044】
となる。式(5)の第1項から第3項までまとめると
【0045】
【数12】
【0046】
となり、r〔|i−j|〕は自己相関関数であり、i=jのとき必ずr〔|i−j|〕=r〔0〕>0となるため、wi2(i=1,2・・・N)を含むεの関数は下凸となり、最小値をもつ。r〔0〕はエラー信号e〔i〕の関数となるため、wi2の2次関数の最小値が変動する。通常のLMSアルゴリズムと異なるがエラー信号の変動が少なければその変動幅の中で2乗平均値εは収束すると考えられる。式(8)をwiで 偏微分すると次式が得られる。
【0047】
【数13】
【0048】
N元1次の方程式を解くことにより、εが最小となるwi,・・・,wNを求めることができる。
【0049】
(2)最急降下法
次に、最急降下法を用いてフィルタ更新式を求める。n時点で推定された wi〔n〕(i=1,2,・・・N)から、n+1時点でのwi〔n+1〕は勾配を使って次のように表すことができる。
【0050】
【数14】
【0051】
式(9)から勾配を求めると次式となる。
【0052】
【数15】
【0053】
式(1)を変形して次式を得る。
【0054】
【数16】
【0055】
この両辺にe〔n−i〕をかけて期待値をとる。
【0056】
【数17】
【0057】
式(12)において式(6)によりE{d〔n〕e〔n−i〕}をp〔i〕に置き換えると
【0058】
【数18】
【0059】
となり、式(13)を式(11)に代入すれば、
【0060】
【数19】
【0061】
となる。
【0062】
したがって、式(10)と式(14)から、
【0063】
【数20】
【0064】
となり、さらに、期待値を求める操作を省略すると
【0065】
【数21】
【0066】
となる。つまり、フィルタ係数の更新式は、従来のLMSアルゴリズムで式(2)右辺のx〔n−i〕をe〔n−i〕、変数iをi=1,2,・・・Nに置き換えた形となる。
【0067】
(3)解の安定性に関する検討
エラー信号の2乗平均誤差εは、各wi2で表現され下凸の放物線の和となる。最急降下法により極小値になるようなフィルタ係数を前述のように求めることができるが、これらの極小値の安定性について検討した。
【0068】
簡単のため、N=1のときの2乗平均誤差εの勾配を求める。
式(8)にN=1を代入するとi=jなので
【0069】
【数22】
【0070】
となり、
両辺をw1で 偏微分すると次式が得られる。
【0071】
【数23】
【0072】
【数24】
【0073】
とおくと
【0074】
【数25】
【0075】
となり、
εの最小値は
【0076】
【数26】
【0077】
となる。つまり、式(16)においてp〔1〕、r〔0〕はエラー信号を含む式であるため、εの最小値はエラーの関数となり変動する。そのエラー信号の変動が少なければ、解は収束するが、変動が大きければ制御は不安定になる(図2左参照)。Nが増えた場合も同様の考えが当てはまると考える。一方、従来のLMSアルゴリズムでは、最小値の関数εは、p,rを含むが、それらは式(6)、(7)におけるエラー信号eがリファレンス信号xに置き換わるため、その最小値は一定になる(図2右参照)。
【0078】
2.シミュレーション
2.1シミュレーションモデル
従来のLMSアルゴリズムと「1.制御方法の検討」で示した本発明によるLMSアルゴリズムをシミュレーションにより比較した。まず、シミュレーションモデルを用いた二つの制御ブロック図を図3、図4に示す。両者とも未知の伝達関数の出力d[n]をサイン波とし、その周波数を25,50,75,100,200,300,400,500Hzとした。簡単のため両者の伝達関数G2=lとした。従来のLMSアルゴリズムでリファレンス信号を25Hzとした。
【0079】
2.2シミュレーション結果
従来のLMSアルゴリズムと本発明に関して、シミュレーションを行った。その結果を図5、図6に示す。
【0080】
従来のLMSアルゴリズムによる方法でリファレンス信号とする25Hzの成分は図5のように30dB以上低減するが、その他の成分では低減量が少ないか無い。一方、図6に示す本発明での結果では、25〜500Hzの各周波数で一律約12dBの低減があり、広い周波数帯で低減効果があることを確認した。
【0081】
これは、エラー信号を使ってフィードバックゲインを最適化するとき、修正したLMSアルゴリズムでは、エラー信号が小さくなりすぎるとフィードバックゲインも小さくなり、エラー信号は大きくなろうとするが、結果的にあるレベルでバランスし落ち着くと推定される。
【0082】
3.油圧アクティブマウントの構造と車両への適用
3.1油圧アクティブマウントの基本構造と動作
図7に油圧アクティブマウントの構成を示す。これは、ベローズ、ボイスコイルモータ、アキュムレータ、ボイスコイルモータの位置検出センサ、ハウジングなどからなる。この油圧アクティブマウントには、作動油が充填されている。アキュムレータはボイスコイルモータを動きやすくするために機能する。ボイスコイルモータにはコイルが巻かれており、それに近接してハウジングには永久磁石が配置されている。ベローズ上部のプレートにエンジン荷重が作用する。その荷重は油圧アクティブマウント内部の油圧で支えられる。つまり、これはエンジン荷重の静荷重を支えるために動力を必要としない利点をもっている。ここで、ベローズのバネ定数は非常に小さいため力の伝達に関しては無視できると考えられる。ボイスコイルモータは、マウント〜フレーム間の伝達力を低減するために制御を行うアクチュエータである。それはベローズ室内の圧力制御を行うことになるのでベローズとハウジングの2室の間に位置させることが必要となり、伝達力を低減するボイスコイルモータの制御と同時にその位置センサによる位置フィールドバック制御を行う。
【0083】
3.2油圧アクティブマウントの車両への適用
3000ccの直噴ディーゼル4気筒エンジンを搭載したRV車の左右のフロントマウントに油圧アクティブマウントを適用した。量産仕様において、フロントマウントは傾斜マウントであるが、搭載上の制約からプレートま上に力センサ、ラバーマウント、油圧アクティブマウントの順に配置した。ベローズは横剛性が低いため、ベローズ上部プレートと内側プレートの間にガイドロッドを配置した。ガイドロッドは内側プレートに固定され、破線部に示すローラガイドには4列のローラが設けられ、鋼球の転がり接触によりスライド時の摩擦を低減しスライドを容易にした(図8参照)。
【0084】
3.3新制御方法の油圧アクティブマウントへの適用
図1の制御ブロック図に「3.2油圧アクティブマウントの車両への適用」でしめした油圧アクティブマウントを当てはめると図9のようになる。この図で、図1の未知システムの出力に相当するものを外乱としてのエンジン加振力によるベローズ内の油圧変動あるいは容積変動とした。フィードバックゲインを生成するために修正したLMSアルゴリズムのコントローラにエラー信号であるマウント〜車体の伝達力を入力する。フィードバックゲインが調整された後、コントローラからの出力をボイスコイルモータに入力して上下方向の動きを制御する。ここで、操作量はベローズ内の油圧変動あるいはオイルの容積変動となる。
【0085】
4.車両試験での本制御手法の適用
4.1制御方法
前述のように制御手法としては、従来のLMSアルゴリズムと本発明を用いた。車両試験でのボイスコイルモータまわりのブロック図を図10に示す。
【0086】
4.2実験内容
カムパルスから生成したサイン波をリファレンス信号として、LMSアルゴリズムにより制御を行った場合の結果と本発明により制御を行った場合の比較を行う。
【0087】
計測項目は、右側フロントマウント〜フレーム上下方向の伝達力と運転席右側のシートレール先端上下方向の振動とした。
【0088】
運転条件は、アイドル720〜800rpmとした。
【0089】
実験結果
(1)伝達力の比較
カムパルスから生成したサイン波をリファレンス信号としたLMSアルゴリズムと本手法における制御有無のマウント〜フレームの伝達力を図11〜13に示す。
【0090】
前者はエンジン回転2次の約24Hzの成分しか低減しないが、後者は、エンジン回転2次成分だけでなく、200〜500Hzで低減が見られる。シミュレーションとほぼ同様の傾向となっている。なお、50〜200Hzで十分な得られていないが、これは車両の伝達特性に起因するなどの理由が考えられる。
【0091】
(2)シートレール振動の比較
車室内振動として、運転席のシートレール右側先端上下方向の振動を計測した。従来のLMSアルゴリズムと本手法による制御有無のシートレール振動を図14、図15に示す。伝達力の場合と同様に、前者は、エンジン回転2次成分のみしか低減せず、本発明は、エンジン回転2次成分だけではなく、200Hz〜500Hzの幅の広い周波数帯域で各成分が低減する。
【0092】
5.結言
5.1自動車の振動騒音を低減するアクティブ制御手法には、リファレンス信号とエラー信号を併用するLMSアルゴリズムが多く使われているが、幅広い周波数成分の低減を目的とし、新しい制御手法として、エラー信号のみを入力データとするフィードバック型制御手法についてその理論と効果を研究した。
【0093】
5.2本発明におけるフィードバックゲインの最適化には、リファレンス信号にエラー信号を用いるLMSアルゴリズムを修正した手法を用いた。この中で最急降下法によりエラー信号の2乗平均値は最小値をもつが、最小値はエラー信号の影響を受け、エラー信号が大きく変動する場合は発散する可能性があることを数式により示した。
【0094】
5.3本発明と単一周波数をリファレンス信号とする従来のLMSアルゴリズムによる方法をシミュレーションで比較した。本発明ではLMSアルゴリズムより低減量が小さいが、幅広い周波数域で信号が低減することを確認した。
【0095】
5.4油圧アクティブマウントをフロントマウント部2箇所に車載し、上記二つの制御手法を車両においてアイドルの運転条件で実験し比較した。その結果、LMSアルゴリズムによる方法ではラバーマウント〜フレーム間の伝達力、シートレール振動でエンジン回転2次成分以外の低減がほとんど得られなかったのに対し、本発明では定常状態において、エンジン回転2次成分だけでなく、200Hz〜500Hzの幅の広い周波数帯域で各成分が低減することを示した。
【0096】
5.5エンジン回転過渡状態に対しては、従来のLMSアルゴリズム等の手法により振動あるいは騒音の低減を行い、定常回転においては本発明により広い周波数帯域の成分の低減を行い両者の制御方法を併用することで従来技術のみに対して快適性を向上させることが可能になると考えられる。
【0097】
図16に本発明による振動低減結果を示す。従来は図17のように爆発一次、二次成分の低減が少なかったのに対して、本発明の図16では、爆発一次、二次成分の低減も増え、広い範囲の周波数成分も低減できている。なお、4気筒の場合、エンジン1回転に(360°)につき2回爆発するので、2回転で4回爆発する。エンジン回転数600rpmのとき10Hzであり、これをエンジン回転1次とする。爆発1次はエンジン回転2次となる。よって、爆発1次は20Hzである。
【0098】
図18に示されるように、車両において、エンジンは電磁式アクティブマウントを介してフレームに取り付けられる。リファレンス信号として、エンジンパルスから得られるエンジン回転周波数の2次高調周波数を有する正弦波を用いる。例えば、エンジン回転数が600rpmのとき、1次(基調波)成分は10Hzであり、2次高調成分は20Hzである。2次高調成分をリファレンス信号とする理由は、エンジンは720°で1サイクルの動作をするので、4気筒の場合、爆発は2回転で4回となり、爆発に関する1次成分はエンジン回転の2次高調成分となるからである。エラー信号には、車内に設置されたマイクで検出される車内音、エンジンマウントに取り付けられた力センサで検出されるエンジンマウントの伝達力、エンジンマウントに取り付けられた加速度ピックアップで検出されるエンジンマウントの振動などである。
【0099】
図19に電磁式アクティブマウントを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制振用適応制御装置における制御ロジック及びフィードバック制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室内振動、車内音を改善するために、エンジンマウントからの伝達力を低減する手段として、マウントレイアウトの最適化、マウント特性の改良などの手法が研究されてきた。さらに最近では、液体封入式マウントを基本とする電磁アクティブマウントが開発され、実用化されている。そのアクティブ制御の手法としては、LMSアルゴリズムを用いた適応制御が一般的に使われている。
【0003】
本明細書では、記号を以下の通りとする。
【0004】
x:リファレンス信号
d;伝達系(震源側伝達部材1)の出力信号
e;エラー信号
y;制御系(制御部3)の出力信号(適応フィルタの出力信号)
w;適応フィルタのフィルタ係数
N;タップ数
n;時系列データの指標
i;サンプルの番号
μ;ステップサイズパラメータ
G1; 震源側伝達部材1の伝達関数
G2;対象側伝達部材2の伝達関数
ε;2乗平均誤差
E{};期待値
【0005】
【数1】
【0006】
従来のLMSアルゴリズムのブロック線図は、図20のように表現される。e[n]=(d[n]−y[n])G2であるが簡単のためG2=1とすると従来のLMSアルゴリズムでは、式(1)のようにエラー信号e[n]は未知システムの伝達関数の出力とLMSアルゴリズムの制御出力で表される。前者の出力は未知システムのフィルタ係数hiとリファレンス信号x[n−i]の畳み込み積分となり、後者は適応フィルタ係数wiとリファレンス信号x[n−i]の畳み込み積分となる。フィルタ係数更新は式(2)となる。
【0007】
【数2】
【0008】
ここで畳み込み積分に関するリファレンス信号x、フィルタ係数wの配置を図21のように定義する。wi[n]のnは時間の指標を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−333880号公報
【特許文献2】特開2007−269050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この手法による従来技術では、車内音の低減はエンジン回転2次成分、4次成分にとどまる。これは、こもり音低減が目的と考えられるが、車内音オーバーオール低減のため幅広い周波数帯で実現できればさらに快適性が向上する。LMSアルゴリズムにおいてはリファレンス信号の数を増やすかリファレンス信号にエンジン振動を採用することで広い周波数帯の成分低減が理論的に可能である。しかし、前者についてはコスト面で問題がある。後者については実際には、例がほとんどなくエンジン振動の選び方が難しいと考えられる。
【0011】
この問題を考慮し本発明者らは、幅広い周波数帯域で車室内振動あるいは車内音の成分が低減できる制御方法について研究を行った。具体的にこの手法は、エラー信号のみを入力データとするフィードバック型制御手法である。一般的に、フィードバック制御は自動車や多くの電子機器で広く使われており、コントローラのパラメータは固定であることが多く、システム設計段階でエラーを最小化するように設計された例がほとんどである。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、幅広い振動数帯域において振動低減効果を有する制御ロジック及びフィードバック制御方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の制御ロジックは、畳み込み積分を含みフィルタ係数を更新する制御ロジックにおいて、入力信号として、エラー信号のみを用い、フィルタ係数の更新式を次式
【0014】
【数3】
【0015】
のようにして制御を行うことで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減するものである。
【0016】
また、本発明のフィードバック制御方式は、前記制御ロジックによりフィードバックゲインをサンプリング時間ごとに修正することで、幅広い周波数領域で伝達力あるいは振動あるいは騒音を低減するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、フィードバックゲインを最適化する手法として、LMSアルゴリズムを応用して行った。このフィードバックゲインを求める式を導き、収束性の検討を行った。また、単一周波数をリファレンス信号とした従来のLMSアルゴリズムと本発明をシミュレーションで比較しその効果を確認した。さらに、油圧アクティブマウントを車両に搭載し、アイドルの状態で、両手法による試験を行い、本発明に関してはエンジン回転2次成分だけでなく、200Hz〜500Hzの幅広い周波数領域でマウント〜フレームまでの伝達力や車室内振動に対して低減効果が得られることを確認し、本発明が自動車の振動騒音低減のための制御手法として有効であることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の制御ロジック及びフィードバック制御方式に基づく車両制振用適応制御装置のブロック図である。
【図2】左は本発明による特性(横軸フィルタ係数、縦軸2乗平均誤差)のグラフ、右は従来の特性のグラフである。
【図3】従来のシミュレーションモデルのブロック図である。
【図4】本発明のシミュレーションモデルのブロック図である。
【図5】従来のシミュレーション結果の棒グラフである。
【図6】本発明のシミュレーション結果の棒グラフである。
【図7】液体アクティブマウントの構造図である。
【図8】液体アクティブマウントのエンジン取り付け構造図である。
【図9】液体アクティブマウントのブロック図である。
【図10】ボイスコイルモータのブロック図である。
【図11】従来のLMSアルゴリズムによる変換された力の図である。
【図12】本発明のLMSアルゴリズムによる変換された力の図である。
【図13】図12のA部分の拡大図である。
【図14】従来のLMSアルゴリズムによるシートレール振動のグラフである。
【図15】本発明のLMSアルゴリズムによるシートレール振動のグラフである。
【図16】本発明による振動低減特性の棒グラフである。
【図17】従来の振動低減特性の棒グラフである。
【図18】本発明を適用する車両の構造図である。
【図19】電磁式アクティブマウントの構造図である。
【図20】従来のブロック図である。
【図21】フィルタの配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に示されるように、本発明の制御ロジック及びフィードバック制御方式に基づく車両制振用適応制御装置は、サイン波からなるリファレンス信号x[n](nは自然数)に応じて未知のフィルタ係数hi(iは自然数)により震源側出力d[n]を出力する震源側伝達部材1と、震源側出力d[n]に応じてエラー信号e[n]を出力する対象側伝達部材2と、エラー信号e[n]に応じてフィルタ係数wiにより制御出力y[n]を生成する制御部3とを有するものである。
【0021】
震源側伝達部材1は伝達関数G1を有し、対象側伝達部材2は伝達関数G2を有する。制御部3は、最適なフィードバックゲインを決定する機能を有する。制御部3は、エラー信号e[n]を処理して制御出力y[n]を出力する適応フィルタ部4とエラー信号e[n]からフィルタ係数wiを求めるLMSアルゴリズム処理部5とを有する。
【0022】
1.制御方法の検討
本発明の車両制振用適応制御装置における制御は、エラー信号をフィードバックする制御である。一般的にフィードバック制御において、最適フィードバックゲインを決定する必要がある。ここでは、従来のLMSアルゴリズムを応用して最適フィードバックゲインの決定を行う。
【0023】
その方法は、従来のLMSアルゴリズムと比較するとリファレンス信号をエラー信号に置き換えたものになる。修正したLMSアルゴリズムでは、式(1)の右辺第2項のリファレンス信号の変数xの代わりにエラー信号eを用いる。しかし、リファレンス信号の代わりにエラー信号eを使って表そうとするとき、i=0の場合はe[n]をe[n]で表すことになり矛盾が起きるため、近似式として、さらに、h0x[n]−w0e[n]を除去した式(3)を考えた。
【0024】
【数4】
【0025】
従来のLMSアルゴリズムではリファレンス信号にエラー信号に類似した時刻歴波形を使うとフィルタ係数の収束がよくなると考えた。そこで、リファレンス信号に直接エラー信号を用いると収束はよく幅広い周波数成分についても低減できるとの仮説を立てた。但し、エラー信号が0になると、その畳み込み積分の過程でフィードバック出力が0になるので、もとの信号からある程度低減したところで、フィードバックゲインは安定すると仮定する。よって、従来のLMSアルゴリズムより低減効果は少ないと考えられる。また、式(3)では、式(1)と同様に簡単のためG2=1とした。変数iは、i=1,2,…,Nとなり、式(1)に対して少ないが、Nが大きければ近似式自体に問題はない。
【0026】
(1)二乗平均誤差
フィルタ係数更新式を導くために、まずエラー信号の2乗平均誤差が最小になる条件を求める。2乗平均誤差は、
【0027】
【数5】
【0028】
となり、式(3)から次のようになる。
【0029】
【数6】
【0030】
式(5)の各項について検討を進める。
【0031】
a.第1項
E{d2[n]}
は外乱と考えられるので一定と定義できる。よって、
E{d2[n]}=Pd(一定)
とする。
【0032】
b.第2項
式(4)から
【0033】
【数7】
【0034】
のように式を変形でき、さらに
【0035】
【数8】
【0036】
とおくと
【0037】
【数9】
【0038】
となる。
【0039】
c.第3項
自己相関関数を、
【0040】
【数10】
【0041】
として定義するとr〔j〕は偶関数のためr〔j〕=r〔−j〕となる。
【0042】
また、式(4)からE{y2〔n〕}は、
【0043】
【数11】
【0044】
となる。式(5)の第1項から第3項までまとめると
【0045】
【数12】
【0046】
となり、r〔|i−j|〕は自己相関関数であり、i=jのとき必ずr〔|i−j|〕=r〔0〕>0となるため、wi2(i=1,2・・・N)を含むεの関数は下凸となり、最小値をもつ。r〔0〕はエラー信号e〔i〕の関数となるため、wi2の2次関数の最小値が変動する。通常のLMSアルゴリズムと異なるがエラー信号の変動が少なければその変動幅の中で2乗平均値εは収束すると考えられる。式(8)をwiで 偏微分すると次式が得られる。
【0047】
【数13】
【0048】
N元1次の方程式を解くことにより、εが最小となるwi,・・・,wNを求めることができる。
【0049】
(2)最急降下法
次に、最急降下法を用いてフィルタ更新式を求める。n時点で推定された wi〔n〕(i=1,2,・・・N)から、n+1時点でのwi〔n+1〕は勾配を使って次のように表すことができる。
【0050】
【数14】
【0051】
式(9)から勾配を求めると次式となる。
【0052】
【数15】
【0053】
式(1)を変形して次式を得る。
【0054】
【数16】
【0055】
この両辺にe〔n−i〕をかけて期待値をとる。
【0056】
【数17】
【0057】
式(12)において式(6)によりE{d〔n〕e〔n−i〕}をp〔i〕に置き換えると
【0058】
【数18】
【0059】
となり、式(13)を式(11)に代入すれば、
【0060】
【数19】
【0061】
となる。
【0062】
したがって、式(10)と式(14)から、
【0063】
【数20】
【0064】
となり、さらに、期待値を求める操作を省略すると
【0065】
【数21】
【0066】
となる。つまり、フィルタ係数の更新式は、従来のLMSアルゴリズムで式(2)右辺のx〔n−i〕をe〔n−i〕、変数iをi=1,2,・・・Nに置き換えた形となる。
【0067】
(3)解の安定性に関する検討
エラー信号の2乗平均誤差εは、各wi2で表現され下凸の放物線の和となる。最急降下法により極小値になるようなフィルタ係数を前述のように求めることができるが、これらの極小値の安定性について検討した。
【0068】
簡単のため、N=1のときの2乗平均誤差εの勾配を求める。
式(8)にN=1を代入するとi=jなので
【0069】
【数22】
【0070】
となり、
両辺をw1で 偏微分すると次式が得られる。
【0071】
【数23】
【0072】
【数24】
【0073】
とおくと
【0074】
【数25】
【0075】
となり、
εの最小値は
【0076】
【数26】
【0077】
となる。つまり、式(16)においてp〔1〕、r〔0〕はエラー信号を含む式であるため、εの最小値はエラーの関数となり変動する。そのエラー信号の変動が少なければ、解は収束するが、変動が大きければ制御は不安定になる(図2左参照)。Nが増えた場合も同様の考えが当てはまると考える。一方、従来のLMSアルゴリズムでは、最小値の関数εは、p,rを含むが、それらは式(6)、(7)におけるエラー信号eがリファレンス信号xに置き換わるため、その最小値は一定になる(図2右参照)。
【0078】
2.シミュレーション
2.1シミュレーションモデル
従来のLMSアルゴリズムと「1.制御方法の検討」で示した本発明によるLMSアルゴリズムをシミュレーションにより比較した。まず、シミュレーションモデルを用いた二つの制御ブロック図を図3、図4に示す。両者とも未知の伝達関数の出力d[n]をサイン波とし、その周波数を25,50,75,100,200,300,400,500Hzとした。簡単のため両者の伝達関数G2=lとした。従来のLMSアルゴリズムでリファレンス信号を25Hzとした。
【0079】
2.2シミュレーション結果
従来のLMSアルゴリズムと本発明に関して、シミュレーションを行った。その結果を図5、図6に示す。
【0080】
従来のLMSアルゴリズムによる方法でリファレンス信号とする25Hzの成分は図5のように30dB以上低減するが、その他の成分では低減量が少ないか無い。一方、図6に示す本発明での結果では、25〜500Hzの各周波数で一律約12dBの低減があり、広い周波数帯で低減効果があることを確認した。
【0081】
これは、エラー信号を使ってフィードバックゲインを最適化するとき、修正したLMSアルゴリズムでは、エラー信号が小さくなりすぎるとフィードバックゲインも小さくなり、エラー信号は大きくなろうとするが、結果的にあるレベルでバランスし落ち着くと推定される。
【0082】
3.油圧アクティブマウントの構造と車両への適用
3.1油圧アクティブマウントの基本構造と動作
図7に油圧アクティブマウントの構成を示す。これは、ベローズ、ボイスコイルモータ、アキュムレータ、ボイスコイルモータの位置検出センサ、ハウジングなどからなる。この油圧アクティブマウントには、作動油が充填されている。アキュムレータはボイスコイルモータを動きやすくするために機能する。ボイスコイルモータにはコイルが巻かれており、それに近接してハウジングには永久磁石が配置されている。ベローズ上部のプレートにエンジン荷重が作用する。その荷重は油圧アクティブマウント内部の油圧で支えられる。つまり、これはエンジン荷重の静荷重を支えるために動力を必要としない利点をもっている。ここで、ベローズのバネ定数は非常に小さいため力の伝達に関しては無視できると考えられる。ボイスコイルモータは、マウント〜フレーム間の伝達力を低減するために制御を行うアクチュエータである。それはベローズ室内の圧力制御を行うことになるのでベローズとハウジングの2室の間に位置させることが必要となり、伝達力を低減するボイスコイルモータの制御と同時にその位置センサによる位置フィールドバック制御を行う。
【0083】
3.2油圧アクティブマウントの車両への適用
3000ccの直噴ディーゼル4気筒エンジンを搭載したRV車の左右のフロントマウントに油圧アクティブマウントを適用した。量産仕様において、フロントマウントは傾斜マウントであるが、搭載上の制約からプレートま上に力センサ、ラバーマウント、油圧アクティブマウントの順に配置した。ベローズは横剛性が低いため、ベローズ上部プレートと内側プレートの間にガイドロッドを配置した。ガイドロッドは内側プレートに固定され、破線部に示すローラガイドには4列のローラが設けられ、鋼球の転がり接触によりスライド時の摩擦を低減しスライドを容易にした(図8参照)。
【0084】
3.3新制御方法の油圧アクティブマウントへの適用
図1の制御ブロック図に「3.2油圧アクティブマウントの車両への適用」でしめした油圧アクティブマウントを当てはめると図9のようになる。この図で、図1の未知システムの出力に相当するものを外乱としてのエンジン加振力によるベローズ内の油圧変動あるいは容積変動とした。フィードバックゲインを生成するために修正したLMSアルゴリズムのコントローラにエラー信号であるマウント〜車体の伝達力を入力する。フィードバックゲインが調整された後、コントローラからの出力をボイスコイルモータに入力して上下方向の動きを制御する。ここで、操作量はベローズ内の油圧変動あるいはオイルの容積変動となる。
【0085】
4.車両試験での本制御手法の適用
4.1制御方法
前述のように制御手法としては、従来のLMSアルゴリズムと本発明を用いた。車両試験でのボイスコイルモータまわりのブロック図を図10に示す。
【0086】
4.2実験内容
カムパルスから生成したサイン波をリファレンス信号として、LMSアルゴリズムにより制御を行った場合の結果と本発明により制御を行った場合の比較を行う。
【0087】
計測項目は、右側フロントマウント〜フレーム上下方向の伝達力と運転席右側のシートレール先端上下方向の振動とした。
【0088】
運転条件は、アイドル720〜800rpmとした。
【0089】
実験結果
(1)伝達力の比較
カムパルスから生成したサイン波をリファレンス信号としたLMSアルゴリズムと本手法における制御有無のマウント〜フレームの伝達力を図11〜13に示す。
【0090】
前者はエンジン回転2次の約24Hzの成分しか低減しないが、後者は、エンジン回転2次成分だけでなく、200〜500Hzで低減が見られる。シミュレーションとほぼ同様の傾向となっている。なお、50〜200Hzで十分な得られていないが、これは車両の伝達特性に起因するなどの理由が考えられる。
【0091】
(2)シートレール振動の比較
車室内振動として、運転席のシートレール右側先端上下方向の振動を計測した。従来のLMSアルゴリズムと本手法による制御有無のシートレール振動を図14、図15に示す。伝達力の場合と同様に、前者は、エンジン回転2次成分のみしか低減せず、本発明は、エンジン回転2次成分だけではなく、200Hz〜500Hzの幅の広い周波数帯域で各成分が低減する。
【0092】
5.結言
5.1自動車の振動騒音を低減するアクティブ制御手法には、リファレンス信号とエラー信号を併用するLMSアルゴリズムが多く使われているが、幅広い周波数成分の低減を目的とし、新しい制御手法として、エラー信号のみを入力データとするフィードバック型制御手法についてその理論と効果を研究した。
【0093】
5.2本発明におけるフィードバックゲインの最適化には、リファレンス信号にエラー信号を用いるLMSアルゴリズムを修正した手法を用いた。この中で最急降下法によりエラー信号の2乗平均値は最小値をもつが、最小値はエラー信号の影響を受け、エラー信号が大きく変動する場合は発散する可能性があることを数式により示した。
【0094】
5.3本発明と単一周波数をリファレンス信号とする従来のLMSアルゴリズムによる方法をシミュレーションで比較した。本発明ではLMSアルゴリズムより低減量が小さいが、幅広い周波数域で信号が低減することを確認した。
【0095】
5.4油圧アクティブマウントをフロントマウント部2箇所に車載し、上記二つの制御手法を車両においてアイドルの運転条件で実験し比較した。その結果、LMSアルゴリズムによる方法ではラバーマウント〜フレーム間の伝達力、シートレール振動でエンジン回転2次成分以外の低減がほとんど得られなかったのに対し、本発明では定常状態において、エンジン回転2次成分だけでなく、200Hz〜500Hzの幅の広い周波数帯域で各成分が低減することを示した。
【0096】
5.5エンジン回転過渡状態に対しては、従来のLMSアルゴリズム等の手法により振動あるいは騒音の低減を行い、定常回転においては本発明により広い周波数帯域の成分の低減を行い両者の制御方法を併用することで従来技術のみに対して快適性を向上させることが可能になると考えられる。
【0097】
図16に本発明による振動低減結果を示す。従来は図17のように爆発一次、二次成分の低減が少なかったのに対して、本発明の図16では、爆発一次、二次成分の低減も増え、広い範囲の周波数成分も低減できている。なお、4気筒の場合、エンジン1回転に(360°)につき2回爆発するので、2回転で4回爆発する。エンジン回転数600rpmのとき10Hzであり、これをエンジン回転1次とする。爆発1次はエンジン回転2次となる。よって、爆発1次は20Hzである。
【0098】
図18に示されるように、車両において、エンジンは電磁式アクティブマウントを介してフレームに取り付けられる。リファレンス信号として、エンジンパルスから得られるエンジン回転周波数の2次高調周波数を有する正弦波を用いる。例えば、エンジン回転数が600rpmのとき、1次(基調波)成分は10Hzであり、2次高調成分は20Hzである。2次高調成分をリファレンス信号とする理由は、エンジンは720°で1サイクルの動作をするので、4気筒の場合、爆発は2回転で4回となり、爆発に関する1次成分はエンジン回転の2次高調成分となるからである。エラー信号には、車内に設置されたマイクで検出される車内音、エンジンマウントに取り付けられた力センサで検出されるエンジンマウントの伝達力、エンジンマウントに取り付けられた加速度ピックアップで検出されるエンジンマウントの振動などである。
【0099】
図19に電磁式アクティブマウントを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
畳み込み積分を含みフィルタ係数を更新する制御ロジックにおいて、入力信号として、エラー信号のみを用い、フィルタ係数の更新式を次式
【数1】
のようにして制御を行うことを特徴とする制御ロジック。
【請求項2】
前記制御ロジックによりフィードバックゲインをサンプリング時間ごとに修正することを特徴とするフィードバック制御方式。
【請求項1】
畳み込み積分を含みフィルタ係数を更新する制御ロジックにおいて、入力信号として、エラー信号のみを用い、フィルタ係数の更新式を次式
【数1】
のようにして制御を行うことを特徴とする制御ロジック。
【請求項2】
前記制御ロジックによりフィードバックゲインをサンプリング時間ごとに修正することを特徴とするフィードバック制御方式。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−10253(P2011−10253A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206282(P2009−206282)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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