説明

制御装置

【課題】内燃機関の始動に伴う、切離用係合装置の直結移行後における内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートの発生を効果的に抑制し得る制御装置を実現する。
【解決手段】内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、切離用係合装置、回転電機の順に設けられた車両用駆動装置の制御装置。内燃機関の停止状態で内燃機関始動要求があった場合に、切離用係合装置を介して伝達される回転電機のトルクにより内燃機関を始動させる始動制御部と、内燃機関が点火を開始した後に切離用係合装置をスリップ係合状態から直結係合状態へと移行させる係合制御部と、切離用係合装置の直結移行時を含む所定期間、要求駆動力に応じた内燃機関要求出力トルクに対して抑制されたトルクを内燃機関に出力させるトルク抑制指令を出力する抑制指令出力部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に回転電機が設けられていると共に、内燃機関と回転電機との間に内燃機関の切り離し用の摩擦係合装置である切離用係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置を制御対象とする制御装置として、特開2007−99141号公報(特許文献1)に記載された装置が既に知られている。以下、この背景技術の欄の説明では、〔〕内に特許文献1における符号(必要に応じて、対応する部材の名称を含む)を引用して説明する。この制御装置は、内燃機関〔エンジン1〕の停止状態且つ切離用係合装置〔第1クラッチ6〕の解放状態で内燃機関始動要求があった場合に、切離用係合装置のスリップ係合状態で、回転電機〔モータ/ジェネレータ5〕のトルクにより内燃機関を始動させる内燃機関始動制御を実行可能に構成されている。
【0003】
この内燃機関始動制御の実行に際しては、切離用係合装置のスリップ係合状態から直径係合状態への移行時及び当該移行後の所定期間、比例積分制御器〔PI制御器〕を用いて回転電機の回転速度を目標回転速度に一致させる回転速度制御が実行される。これにより、切離用係合装置の直結移行後(直結係合状態への移行後)に一体回転する内燃機関及び回転電機の回転速度を所定回転速度に極力維持させ、内燃機関の始動に伴う内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートを軽減している。
【0004】
しかし、特許文献1の装置では、あくまで内燃機関自体のオーバーシュートを一旦許容した上で、回転電機のトルクによってそのオーバーシュートを事後的に抑える制御を行うものである。つまり、内燃機関のオーバーシュートの発生を抑制できる効果は限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−99141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、内燃機関の始動に伴う、切離用係合装置の直結移行後における内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートの発生を効果的に抑制し得る制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に回転電機が設けられていると共に、前記内燃機関と前記回転電機との間に前記内燃機関の切り離し用の摩擦係合装置である切離用係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の特徴構成は、前記内燃機関の停止状態で内燃機関始動要求があった場合に、前記切離用係合装置を介して伝達される前記回転電機のトルクにより前記内燃機関を始動させる内燃機関始動制御を実行する始動制御部と、前記切離用係合装置の解放状態で実行される前記内燃機関始動制御に際して、前記切離用係合装置をスリップ係合状態とし、前記内燃機関が点火を開始した後に前記切離用係合装置をスリップ係合状態から直結係合状態へと移行させる係合制御部と、前記切離用係合装置がスリップ係合状態から直結係合状態へと移行する直結移行時を含む所定期間、前記車輪を駆動するための要求駆動力に応じた内燃機関要求出力トルクに対して抑制されたトルクを前記内燃機関に出力させるトルク抑制指令を出力する抑制指令出力部と、を備える点にある。
【0008】
なお、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
また、「解放状態」は、対象となる摩擦係合装置によって係合される2つの係合部材間で回転及び駆動力が伝達されない状態を表す。「スリップ係合状態」は、2つの係合部材が回転速度差を有する状態で駆動力を伝達可能に係合されている状態を意味する。「直結係合状態」は、2つの係合部材が一体回転する状態で係合されている状態を意味する。
【0009】
上記の特徴構成によれば、内燃機関始動制御中における切離用係合装置の直結移行時を含む所定期間、抑制指令出力部がトルク抑制指令を出力するので、そのトルク抑制指令に従い、内燃機関は要求駆動力に応じた内燃機関要求出力トルクに対して抑制されたトルクを出力する。よって、そのようなトルク抑制指令が出力されない場合と比較して、内燃機関の点火開始後の回転速度の上昇度合いを小さく抑えることができる。従って、切離用係合装置の直結移行後に一体回転することになる内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートの発生を効果的に抑制することができる。
【0010】
ここで、前記抑制指令出力部は、前記トルク抑制指令として、前記内燃機関の点火時期を調整する点火時期調整指令を出力する構成とすると好適である。
【0011】
この構成によれば、抑制指令出力部からの点火時期調整指令に従って内燃機関の点火時期を調整することで、内燃機関要求出力トルクに対して抑制されたトルクを、容易に内燃機関に出力させることができる。また、この構成では、内燃機関の点火時期の調整のみによって当該内燃機関の出力トルクを抑制できるので、例えば電子制御スロットル弁の開度や吸気弁の開閉時期等の調整による場合と比較して、トルク抑制指令としての点火時期調整指令の出力が終了した後に、内燃機関が要求駆動力に応じたトルクを出力する状態に復帰させるための時間を短くすることができる。よって、内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートの発生を抑制しつつ、要求駆動力が適切に満たされる状態を早期に実現することができる。
【0012】
また、前記抑制指令出力部は、前記内燃機関の点火開始時又は前記直結移行時を基準として所定時間経過後に前記トルク抑制指令の出力を終了する構成とすると好適である。
【0013】
この構成によれば、トルク抑制指令の出力を終了する時点を、時間基準で適切に決定することができる。すなわち、抑制指令出力部がトルク抑制指令を出力すべき期間の終期を、内燃機関の点火開始時又は直結移行時に基づいて適切に決定することができる。
【0014】
また、少なくとも前記直結移行時以後、前記回転電機の回転速度を目標回転速度に一致させるように制御する回転電機制御部を更に備える構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、切離用係合装置の直結移行後に一体回転する内燃機関及び回転電機の回転速度を、回転電機の回転速度制御における目標回転速度に追従させることで、内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートをより確実に抑制することができる。
【0016】
また、遊星歯車装置と前記切離用係合装置とは別の複数の摩擦係合装置とを有する変速機構が前記回転電機と前記車輪との間に設けられた前記車両用駆動装置を制御対象とし、
前記内燃機関始動制御の実行中、前記複数の摩擦係合装置のうちの1つである特定係合装置をスリップ係合状態に維持させる第二係合制御部を更に備え、前記内燃機関始動制御の実行時の変速段の形成に際して働く前記遊星歯車装置の複数の回転要素のうち前記車輪に駆動連結された出力回転要素以外の回転要素の1つである特定回転要素に駆動連結された摩擦係合装置が、前記特定係合装置である構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、内燃機関始動制御の実行中、変速機構が有する特定係合装置をスリップ係合状態に維持させることで、内燃機関の始動に伴うトルク変動が車輪に伝達されるのを抑制することができる。このとき、変速機構が有する複数の摩擦係合装置のうちの1つを特定係合装置として流用することで、専用の摩擦係合装置を別途導入することなく上記のような効果を得ることができる。
【0018】
また、前記抑制指令出力部は、前記内燃機関から前記回転電機に伝達されるトルクがゼロとなるトルクを前記内燃機関に出力させる指令を、前記トルク抑制指令として出力する構成とすると好適である。
【0019】
この構成によれば、トルク抑制指令に従って内燃機関にトルクを出力させることで、内燃機関から回転電機へ伝達されるトルクをゼロとすることができる。よって、切離用係合装置の直結移行後における内燃機関及び回転電機の回転速度のオーバーシュートの発生をより確実に抑制することができる。また、切離係合装置の直結移行時の前後で、回転電機の回転加速度のステップ的な変化量を小さく抑えることができるので、車輪に伝達されるトルクが急変して車輪にショックが伝達されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る車両用駆動装置及びその制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】変速機構の内部構成を示す模式図である。
【図3】変速機構の作動表である。
【図4】変速機構の速度線図である。
【図5】内燃機関始動制御を実行する際の各部の動作状態の一例を示すタイムチャートである。
【図6】切離クラッチの直結移行時における課題を説明するための速度線図である。
【図7】切離クラッチの直結移行時における課題を説明するための概念図である。
【図8】トルク抑制制御を含む内燃機関始動制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置4は、駆動装置1を制御対象とする駆動装置用制御装置である。ここで、本実施形態に係る駆動装置1は、車輪15の駆動力源として内燃機関11及び回転電機12の双方を備えた車両(ハイブリッド車両)6を駆動するための車両用駆動装置(ハイブリッド車両用駆動装置)である。以下、本実施形態に係る制御装置4について、詳細に説明する。
【0022】
なお、以下の説明では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を意味し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。ここで、「駆動力」は「トルク」と同義で用いている。
また、「係合圧」は、摩擦係合装置の一方の係合部材と他方の係合部材とを相互に押し付け合う圧力を表す。「解放圧」は、当該摩擦係合装置が定常的に解放状態となる圧を表す。「解放境界圧」は、当該摩擦係合装置が解放状態とスリップ係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(解放側スリップ境界圧)を表す。「係合境界圧」は、当該摩擦係合装置がスリップ係合状態と直結係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(係合側スリップ境界圧)を表す。「完全係合圧」は、当該摩擦係合装置が定常的に直結係合状態となる圧を表す。
【0023】
1.駆動装置の構成
本実施形態に係る制御装置4による制御対象となる駆動装置1の構成について説明する。本実施形態に係る駆動装置1は、いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。この駆動装置1は、図1に示すように、内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと車輪15に駆動連結される出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に回転電機12を備えていると共に、内燃機関11と回転電機12との間に内燃機関11の切り離し用のクラッチである切離クラッチCSを備えている。また、回転電機12と出力軸Oとの間に変速機構13を備えている。図2に示すように、変速機構13には、遊星歯車装置PGと、切離クラッチCSとは別の変速用の複数のクラッチ,ブレーキ(C1〜C4,B1,B2;以下、「変速用クラッチ」と総称する場合がある)が備えられている。これにより、駆動装置1は、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、入力軸Iの側から、切離クラッチCS、回転電機12、及び変速用クラッチ、の順に備えている。これらの各構成は、駆動装置ケース(図示せず)内に収容されている。
【0024】
内燃機関11は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機である。内燃機関11としては、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を用いることができる。内燃機関11は入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。本例では、内燃機関11のクランクシャフト等の出力軸が入力軸Iに駆動連結されている。内燃機関11は、切離クラッチCSを介して回転電機12に駆動連結されている。
【0025】
切離クラッチCSは、内燃機関11と回転電機12との間の駆動連結を解除可能に設けられている。切離クラッチCSは、入力軸Iと中間軸M及び出力軸Oとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置であり、車輪15から内燃機関11を切り離す内燃機関切離用摩擦係合装置として機能する。切離クラッチCSとしては、湿式多板クラッチや乾式単板クラッチ等を用いることができる。本実施形態では、切離クラッチCSが本発明における「切離用係合装置」に相当する。
【0026】
回転電機12は、ロータとステータとを有して構成され(図示せず)、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能である。回転電機12のロータは中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。回転電機12は、インバータ装置27を介して蓄電装置28に電気的に接続されている。蓄電装置28としては、バッテリやキャパシタ等を用いることができる。回転電機12は、蓄電装置28から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11の出力トルク(内燃機関トルクTe)や車両6の慣性力により発電した電力を蓄電装置28に供給して蓄電させる。中間軸Mは、変速機構13に駆動連結されている。すなわち、回転電機12のロータの出力軸(ロータ出力軸)としての中間軸Mは、変速機構13の入力軸(変速入力軸)となっている。
【0027】
変速機構13は、本実施形態では、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に有する自動有段変速機構である。これら複数の変速段を形成するため、図2に示すように変速機構13は、遊星歯車装置PGと、この遊星歯車装置PGの回転要素の係合又は解放を行い、変速段を切り替えるための複数の変速用クラッチとを備えている。遊星歯車装置PGは第一遊星歯車機構PG1と第二遊星歯車機構PG2とを備えている。第一遊星歯車機構PG1は、本例ではダブルピニオン型遊星歯車機構として構成され、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、及び第一リングギヤR1を備えている。第二遊星歯車機構PG2は、本例ではラビニョ型遊星歯車機構として構成され、第二サンギヤS2、第三サンギヤS3、第二キャリヤCA2、及び第二リングギヤR2を備えている。
【0028】
また本例では、変速機構13が有する変速用クラッチには、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2が含まれる。第一クラッチC1は、第一リングギヤR1と第三サンギヤS3とを選択的に駆動連結する。第二クラッチC2は、変速入力軸としての中間軸Mと第二キャリヤCA2とを選択的に駆動連結する。第三クラッチC3は、第一リングギヤR1と第二サンギヤS2とを選択的に駆動連結する。第四クラッチC4は、変速入力軸としての中間軸Mと第二サンギヤS2とを選択的に駆動連結する。第一ブレーキB1は、第二サンギヤS2を選択的に固定する。第二ブレーキB2は、第二キャリヤCA2を選択的に固定する。本実施形態では、これらの変速用クラッチは、いずれも湿式多板クラッチ又は湿式多板ブレーキとして構成されている。なお、本例では第二リングギヤR2は出力軸O及び車輪15と常時一体回転するように駆動連結されており、第二リングギヤR2が本発明における「出力回転要素」に相当する。
【0029】
変速機構13は、複数の変速用クラッチの係合状態に応じて形成される各変速段についてそれぞれ設定された所定の変速比に基づいて、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して出力軸Oに伝達する。変速機構13から出力軸Oに伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置14を介して左右2つの車輪15に分配されて伝達される。これにより、駆動装置1は、内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを車輪15に伝達して車両6を走行させることができる。
【0030】
本実施形態においては、駆動装置1は、中間軸Mに駆動連結されたオイルポンプ(図示せず)を備えている。オイルポンプは、駆動装置1の各部に油を供給するための油圧源として機能する。オイルポンプは、回転電機12及び内燃機関11の一方又は双方の駆動力により駆動されて作動し、油圧を発生させる。オイルポンプからの油は、油圧制御装置25により所定油圧に調整されてから、切離クラッチCSや複数の変速用クラッチに供給される。このオイルポンプとは別に、専用の駆動モータを有するオイルポンプを備えた構成としても良い。
【0031】
図1に示すように、この駆動装置1が搭載された車両6の各部には、複数のセンサSe1〜Se5が備えられている。入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。入力軸回転速度センサSe1により検出される入力軸Iの回転速度は、内燃機関11の回転速度に等しい。中間軸回転速度センサSe2は、中間軸Mの回転速度を検出するセンサである。中間軸回転速度センサSe2により検出される中間軸Mの回転速度は、回転電機12のロータの回転速度に等しい。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。制御装置4は、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度に基づいて、車両6の走行速度である車速を導出することもできる。
【0032】
アクセル開度検出センサSe4は、アクセルペダル17の操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。充電状態検出センサSe5は、SOC(state of charge:充電状態)を検出するセンサである。制御装置4は、充電状態検出センサSe5により検出されるSOCに基づいて蓄電装置28の蓄電量を導出することもできる。これらの各センサSe1〜Se5による検出結果を示す情報は、制御装置4へ出力される。
【0033】
2.制御装置の構成
本実施形態に係る制御装置4の構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置4は、駆動装置制御ユニット40を備えている。駆動装置制御ユニット40は、主に回転電機12、切離クラッチCS、及び変速機構13を制御する。また、車両6には、駆動装置制御ユニット40とは別に、主に内燃機関11を制御する内燃機関制御ユニット30が備えられている。
【0034】
内燃機関制御ユニット30と駆動装置制御ユニット40とは、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40に備えられる各機能部も、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、各センサSe1〜Se5による検出結果の情報を取得可能に構成されている。
【0035】
内燃機関制御ユニット30は、内燃機関制御部31を備えている。
内燃機関制御部31は、内燃機関11の動作制御を行う機能部である。内燃機関制御部31は、内燃機関トルクTe及び回転速度の制御目標としての目標トルク及び目標回転速度を決定し、この制御目標に応じて内燃機関11を動作させる。本実施形態では、内燃機関制御部31は、車両6の走行状態に応じて内燃機関11のトルク制御及び回転速度制御を切り替えることが可能である。トルク制御は、内燃機関11に目標トルクを指令し、内燃機関トルクTeをその目標トルクに一致させる(追従させる)制御である。回転速度制御は、内燃機関11に目標回転速度を指令し、内燃機関11の回転速度をその目標回転速度に一致させるように目標トルクを決定する制御である。
【0036】
駆動装置制御ユニット40は、走行モード決定部41、要求トルク決定部42、回転電機制御部43、切離クラッチ動作制御部44、変速機構動作制御部45、始動制御部46、及び抑制指令出力部47を備えている。
【0037】
走行モード決定部41は、車両6の走行モードを決定する機能部である。走行モード決定部41は、例えば出力軸回転速度センサSe3の検出結果に基づいて導出される車速や、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度、充電状態検出センサSe5の検出結果に基づいて導出される蓄電装置28の蓄電量等に基づいて、駆動装置1が実現すべき走行モードを決定する。その際、走行モード決定部41は、メモリ等の記録装置に記憶して備えられたモード選択マップ(図示せず)を参照する。
【0038】
本例では、走行モード決定部41が選択可能な走行モードには、電動走行モードとパラレル走行モード(ハイブリッド走行モードの一種)とが含まれる。電動走行モードでは、切離クラッチCSが解放状態とされ、回転電機12の出力トルク(回転電機トルクTm)のみにより車両6を走行させる。パラレル走行モードでは、切離クラッチCS及び第一クラッチC1の双方が係合状態(ここで「係合状態」は、スリップ係合状態及び直結係合状態の双方を包括する概念である)とされ、少なくとも内燃機関トルクTeにより車両6を走行させる。パラレル走行モードでは、回転電機12は、必要に応じて正の回転電機トルクTm(>0)を出力して内燃機関トルクTeによる駆動力を補助し、或いは負の回転電機トルクTm(<0)を出力して内燃機関トルクTeによって発電する。なお、ここで説明したモードは一例であり、これら以外の各種モードを備える構成を採用することも可能である。
【0039】
要求トルク決定部42は、車両6の車輪15を駆動するために必要とされる車両要求トルクTdを決定する機能部である。要求トルク決定部42は、出力軸回転速度センサSe3の検出結果に基づいて導出される車速と、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度とに基づいて、所定のマップ(図示せず)を参照する等して車両要求トルクTdを決定する。本実施形態では、車両要求トルクTdが本発明における「要求駆動力」に相当する。決定された車両要求トルクTdは、内燃機関制御部31及び回転電機制御部43等に出力される。
【0040】
回転電機制御部43は、回転電機12の動作制御を行う機能部である。回転電機制御部43は、回転電機トルクTm及び回転速度の制御目標としての目標トルク及び目標回転速度を決定し、この制御目標に応じて回転電機12を動作させる。本実施形態では、回転電機制御部43は、車両6の走行状態に応じて回転電機12のトルク制御及び回転速度制御を切り替えることが可能である。トルク制御は、回転電機12に目標トルクを指令し、回転電機トルクTmをその目標トルクに一致させる(追従させる)制御である。回転速度制御は、回転電機12に目標回転速度を指令し、回転電機12の回転速度をその目標回転速度に一致させるように目標トルクを決定する制御である。
【0041】
切離クラッチ動作制御部44は、切離クラッチCSの動作を制御する機能部である。切離クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して切離クラッチCSに供給される油圧を制御し、切離クラッチCSの係合圧を制御することにより、当該切離クラッチCSの動作を制御する。例えば、切離クラッチ動作制御部44は、切離クラッチCSに対する油圧指令値を出力し、油圧制御装置25を介して切離クラッチCSへの供給油圧を解放境界圧未満とすることにより、切離クラッチCSを解放状態とする。また、切離クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して切離クラッチCSへの供給油圧を係合境界圧以上とすることにより、切離クラッチCSを直結係合状態とする。また、切離クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して切離クラッチCSへの供給油圧を、解放境界圧以上係合境界圧未満のスリップ係合圧とすることにより、切離クラッチCSをスリップ係合状態とする。
【0042】
切離クラッチCSのスリップ係合状態では、入力軸Iと中間軸Mとが相対回転する状態で、回転速度が高い方の回転軸から低い方の回転軸に向かって駆動力が伝達される。なお、切離クラッチCSの直結係合状態又はスリップ係合状態で伝達可能なトルクの大きさは、切離クラッチCSのその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、切離クラッチCSの「伝達トルク容量Tcs」とする。本実施形態では、切離クラッチ動作制御部44は、切離クラッチCSに対する油圧指令値に応じて比例ソレノイド等で切離クラッチCSへの供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、係合圧及び伝達トルク容量Tcsの増減を連続的に制御可能である。
【0043】
また、本実施形態では、切離クラッチ動作制御部44は、車両6の走行状態に応じて切離クラッチCSのトルク容量制御及び回転速度制御を切り替えることが可能である。トルク容量制御は、切離クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを所定の目標伝達トルク容量に一致させる制御である。回転速度制御は、切離クラッチCSの一方の係合部材に連結された回転部材(本例では、入力軸I)の回転速度と他方の係合部材に連結された回転部材(本例では、中間軸M)の回転速度との間の回転速度差を所定の目標差回転速度に一致させるように、切離クラッチCSへの油圧指令値又は切離クラッチCSの目標伝達トルク容量を決定する制御である。
【0044】
変速機構動作制御部45は、変速機構13の動作を制御する機能部である。変速機構動作制御部45は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速段を決定すると共に、変速機構13に対して決定された目標変速段を形成させる制御を行う。その際、変速機構動作制御部45は、メモリ等の記録装置に記憶して備えられた変速マップ(図示せず)を参照する。変速マップは、アクセル開度及び車速に基づくシフトスケジュールを設定したマップである。変速機構動作制御部45は、決定された目標変速段に基づいて、変速機構13内に備えられる複数の変速用クラッチへの供給油圧を制御して目標変速段を形成する。
【0045】
その際、変速機構動作制御部45は、図3に示す作動表に従って複数の変速用クラッチへの供給油圧を制御する。ここでは一例として、第2速段が目標変速段に決定された場合には、変速機構動作制御部45は、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1を直結係合状態とすると共にそれ以外の変速用クラッチを解放状態とするように、それぞれの変速用クラッチへの供給油圧を制御する。これにより、遊星歯車装置PGの複数の回転要素のうち、一体回転するように駆動連結された第一リングギヤR1及び第三サンギヤS3、出力軸Oに駆動連結された出力回転要素としての第二リングギヤR2、及び固定される第二サンギヤS2、の少なくとも3つの回転要素が働く状態となって第2速段が形成される。この状態で、第一遊星歯車機構PG1によって減速された中間軸Mの回転が、第二遊星歯車機構PG2によって更に減速されて出力軸Oに伝達される(図4を参照)。なお、その他の変速段が目標変速段に決定された場合も、図3及び図4を参照して同様に考えることができる。
【0046】
これらの第一クラッチC1及び第一ブレーキB1も、当然に変速機構動作制御部45の制御対象に含まれる。ここでは、第一クラッチC1の動作を制御する機能部を、特に第一クラッチ動作制御部(図示せず)とする。第一クラッチ動作制御部は、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1に供給される油圧を制御し、第一クラッチC1の係合圧を制御することにより、当該第一クラッチC1の係合状態を制御する。また、第一ブレーキB1の動作を制御する機能部を、特に第一ブレーキ動作制御部45aとする。第一ブレーキ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一ブレーキB1に供給される油圧を制御し、第一ブレーキB1の係合圧を制御することにより、当該第一ブレーキB1の係合状態を制御する。第一クラッチ動作制御部による第一クラッチC1の動作制御及び第一ブレーキ動作制御部45aによる第一ブレーキB1の動作制御に関しては、制御対象及びそれに付随する事項が一部異なるだけで、切離クラッチ動作制御部44による切離クラッチCSの動作制御と基本的には同様である。また、その他の変速用クラッチの動作制御に関しても同様である。
【0047】
始動制御部46は、内燃機関11の停止状態且つ切離クラッチCSの解放状態で内燃機関始動要求があった場合に、内燃機関始動制御を実行する機能部である。始動制御部46は、例えば電動走行モードでの走行中に内燃機関始動条件が成立した場合に内燃機関始動制御を実行する。内燃機関始動条件は、停止状態にある内燃機関11を始動させるための条件であり、車両6が内燃機関トルクTeを必要とする状況となった場合に成立する。例えば電動走行モードでの走行中に運転者がアクセルペダル17を強く踏み込む等して、回転電機トルクTmのみでは車両要求トルクTdに応じたトルクが得られない状態となった場合等に内燃機関始動条件が成立する。本実施形態では、始動制御部46は、内燃機関始動制御において、切離用クラッチCSを介して伝達される回転電機トルクTmにより入力軸I及び内燃機関11の回転速度を上昇させて、停止状態にある内燃機関11を始動させる。
【0048】
より詳細には、内燃機関始動制御では、始動制御部46を中核として協働的に機能する内燃機関制御部31、切離クラッチ動作制御部44、回転電機制御部43、及び変速機構動作制御部45は、以下の態様で内燃機関11、切離クラッチCS、回転電機12、及び変速機構13内の後述する特定係合装置をそれぞれ制御する。なお、以下の説明では、電動走行モード且つ変速機構13において第2速段が形成された状態での走行中に内燃機関始動条件が成立し、内燃機関始動制御が実行されてパラレル走行モードに切り替えられる状況を想定している。
【0049】
内燃機関制御部31は、内燃機関始動要求があった後もしばらくの間は燃料噴射が停止されている状態を維持する。内燃機関11の回転速度がゼロから上昇し、やがて所定の点火回転速度Nf(図5を参照)以上となると、内燃機関制御部31は内燃機関11への点火を開始して内燃機関11を始動させる。なお、本実施形態では、点火回転速度Nfは、内燃機関11に点火して始動可能な回転速度(例えば、アイドリング時の回転速度)に設定されている。内燃機関制御部31は、内燃機関11への点火後は、車両要求トルクTdに応じたトルクを目標トルクとして、内燃機関11のトルク制御を行う。なお、回転電機12が発電を行う場合には、内燃機関制御部31は、車両要求トルクTdに発電のためのトルク(発電トルク)を加算したトルクを目標トルクとして、内燃機関11のトルク制御を行う。
【0050】
内燃機関制御部31は、基本的に、内燃機関11の燃焼サイクルにおいて、空気と燃料ガスとの混合気に対して予め設定された「基準点火時期(基準点火位相)」で火花点火を行う。ここで本実施形態では、このような基準点火時期は、内燃機関11の燃焼に関する条件を考慮して設定されている。より具体的には、例えば内燃機関11の出力(仕事率)の最大化、内燃機関11の燃料消費率の最大化、内燃機関11のノッキング抑制、及び内燃機関11からの排気の清浄度の最大化、のうちの少なくとも1つを考慮して基準点火時期が設定されている。このような基準点火時期は、例えば内燃機関11のピストンが上死点付近に位置する時期とすることができる。内燃機関制御部31は、内燃機関11の制御に際して上記のような基準点火時期で火花点火を行うことで、出力可能な最大トルクに近い比較的大きなトルクを内燃機関11に出力させることが可能である。
【0051】
切離クラッチ動作制御部44は、内燃機関始動要求があった後もしばらくの間は切離クラッチCSを解放状態に維持させる。そして、切離クラッチ動作制御部44は、変速機構13内の特定係合装置がスリップ係合状態となった後は、切離クラッチCSのトルク容量制御を行う。その際、切離クラッチ動作制御部44は、内燃機関11の点火前は、内燃機関11の回転速度を上昇させるためのトルクを目標伝達トルク容量に設定し、切離クラッチCSの伝達トルク容量Tcsがその目標伝達トルク容量に一致するように切離クラッチCSのトルク容量制御を行う。切離クラッチ動作制御部44は、内燃機関11の点火後は、内燃機関11の目標トルクを目標伝達トルク容量に設定し、切離クラッチCSの伝達トルク容量Tcsがその目標伝達トルク容量に一致するように切離クラッチCSのトルク容量制御を行う。切離クラッチ動作制御部44は、内燃機関11が点火を開始した後であって内燃機関11と回転電機12とが同期した後は、切離クラッチCSをスリップ係合状態から直結係合状態へと移行させる。本実施形態においては、切離クラッチ動作制御部44が本発明における「係合制御部」に相当する。なお、切離クラッチCSが直結係合状態となった後は、内燃機関トルクTeはそのまま回転電機12側に伝達される。
【0052】
回転電機制御部43は、内燃機関始動要求があった後もしばらくの間は、車両要求トルクTdに応じたトルクを目標トルクとして回転電機12のトルク制御を行う。変速機構13内の特定係合装置がスリップ係合状態となった後は、回転電機制御部43は回転速度制御を実行し、決定された目標回転速度に一致するように回転電機12の回転速度のフィードバック制御を行う。この回転電機12の回転速度制御では、回転電機制御部43は、当初停止状態にある内燃機関11に作用する負荷トルクに抗する正方向の回転電機トルクTmを、回転電機12が出力可能な最大トルクの範囲内で出力させる。この回転電機トルクTmはスリップ係合状態の切離クラッチCSを介して入力軸I及び内燃機関11に伝達され、これにより入力軸I及び内燃機関11の回転速度が次第に上昇する。回転電機制御部43は、内燃機関11の点火開始後も回転速度制御を継続して実行する。やがて変速機構13内の特定係合装置が定常的に直結係合状態となると、回転電機制御部43は所定のトルクを目標トルクとして回転電機12のトルク制御を行う。この場合、既に内燃機関11が始動して大きな内燃機関トルクTeを出力する状態となっているので、回転電機12の目標トルクに、当該回転電機12が空転するトルク(ゼロトルク)や当該回転電機12が発電を行うためのトルク(発電トルク)等を設定することができる。
【0053】
変速機構動作制御部45は、内燃機関始動要求があると、内燃機関始動制御の実行時の変速段の形成に際して働く遊星歯車装置PGの複数の回転要素のうち、出力回転要素としての第二リングギヤR2以外の回転要素の1つに駆動連結された変速用クラッチ(本実施形態では、これを「特定係合装置」としている)への供給油圧を次第に低下させる。本想定例では変速機構13において第2速段が形成されており、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1の直結係合状態で少なくとも遊星歯車装置PGの第二サンギヤS2、第二リングギヤR2、及び第三サンギヤS3が働く状態となっている。そして本想定例では、遊星歯車装置PGの第二サンギヤS2に駆動連結された第一ブレーキB1、及び第三サンギヤS3に駆動連結された第一クラッチC1のうち、第一ブレーキB1を特定係合装置としている。
【0054】
ここで、第一ブレーキB1を特定係合装置としているのは以下の理由による。すなわち、内燃機関始動制御の実行中において、目標変速段が第2速段から例えば第1速段又は第3速段等に変更される場合がある。このような場合には、第一クラッチC1を直結係合状態に維持したまま、第一ブレーキB1をスリップ係合状態とした後で解放状態とすると共に第二ブレーキB2又は第三クラッチC3をスリップ係合状態とした後で直結係合状態として変速段の切り替えを行う。第一クラッチC1を特定係合装置とする場合には、第一クラッチC1を一旦スリップ係合状態とした後で再度直結係合状態に戻してから変速動作を行う必要があるため、当該変速動作が必要以上に間延びして車両6の乗員に違和感を与える可能性がある。そこで、内燃機関始動制御の実行中に目標変速段が変更される可能性があることを考慮して、本実施形態では、変更前後の目標変速段間のいわゆる架け替え変速において直結係合状態から解放状態へと移行される変速用クラッチ(解放側係合装置;本想定例では第一ブレーキB1)を、特定係合装置としている。
【0055】
やがて特定係合装置(本想定例では第一ブレーキB1;以下同様)の両側の係合部材が滑り始めると、変速機構動作制御部45は、特定係合装置をスリップ係合状態に維持させる。本実施形態においては、変速機構動作制御部45(第一ブレーキ動作制御部45a)が本発明における「第二係合制御部」に相当する。その際、変速機構動作制御部45は、変速機構13を介して車両要求トルクTdが出力軸Oに伝達されるように特定係合装置のトルク容量制御を行う。但し、本実施形態では、切離クラッチCSが直結係合状態となった後は、変速機構動作制御部45は、実際に出力される内燃機関トルクTeや特定係合装置の実際の伝達トルク容量に誤差がある場合に生じ得るトルク段差の発生を抑制するように、特定係合装置の伝達トルク容量のフィードバック制御を行う(図5を参照)。内燃機関11が安定的に自立運転を継続できるようになると、変速機構動作制御部45は、特定係合装置を直結係合状態として、内燃機関始動制御の実行時の変速段を再度形成する。なお、内燃機関始動制御中に目標変速段が変更された場合には、変速機構動作制御部45は、特定係合装置を解放状態とすると共に、変更後の目標変速段を形成するために解放状態から直結係合状態へと移行される変速用クラッチ(係合側係合装置)を直結係合状態として、変速後の変速段を形成する。
【0056】
ところで、上述した内燃機関始動制御を通常の態様で実行した場合には、内燃機関11の点火開始後に内燃機関11と回転電機12とが同期して切離クラッチCSが直結係合状態となる際に、一体回転する内燃機関11と回転電機12とがオーバーシュートする可能性がある。すなわち、本実施形態において基準点火時期で火花点火を行うように制御された内燃機関11は、比較的大きな内燃機関トルクTeを出力可能であり、これにより点火開始後の内燃機関11の回転速度が、回転電機12の回転速度制御における目標回転速度を超えて上昇する可能性がある。このようなオーバーシュートが生じた場合、第一クラッチC1の直結係合状態且つ第一ブレーキB1のスリップ係合状態で、遊星歯車装置PGを構成する第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2の全体の速度線図が変動することになる(図6の一点鎖線を参照)。その結果、出力軸Oに伝達されるトルクに変動が生じて車両6(車輪15)にショックが伝達される可能性がある。
【0057】
また、内燃機関11の回転速度(図7において「Ne」と表示)が回転電機12の回転速度(図7において「Nm」と表示)より低く、切離クラッチCSがスリップ係合状態にある間は、切離クラッチCSの伝達トルク容量Tcsと同じ大きさのトルクが、切離クラッチCSを介して回転電機12から内燃機関11側に伝達される(図7Aを参照)。この場合、中間軸Mの回転加速度(dNm/dt)は回転電機トルクTmと車両要求トルクTdとの差分から切離クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを減算して得られるトルクに比例して決まる。なお、ここではモデルを単純化して説明を簡略化するべく、変速機構13の変速比(トルク比)を「1」と仮定している。また、図中、「Jm」及び「Je」はそれぞれ回転電機12及び内燃機関11のイナーシャである。
【0058】
一方、内燃機関11の回転速度が回転電機12の回転速度に一致し、切離クラッチCSが直結係合状態となると、内燃機関トルクTeと同じ大きさのトルクが、切離クラッチCSを介して内燃機関11から回転電機12側に伝達される状態となる(図7Bを参照)。この場合、中間軸Mの回転加速度(dNm/dt)は回転電機トルクTmと車両要求トルクTdとの差分に内燃機関トルクTeを加算して得られるトルクに比例して決まる。このように、切離クラッチCSがスリップ係合状態から直結係合状態へと移行する直結移行時の前後で、中間軸Mの回転加速度は切離クラッチCSの伝達トルク容量Tcsや内燃機関トルクTeの大きさに応じてステップ的に変化する。その結果、この点からも出力軸Oに伝達されるトルクに変動が生じて車両6にショックが伝達される可能性がある。
【0059】
そこで、このような課題の解決を図るべく、本実施形態では内燃機関トルクTeを抑制させるトルク抑制制御を、内燃機関始動制御と並行して実行する構成を採用している。このようなトルク抑制制御を実行するため、本実施形態に係る制御装置4は、抑制指令出力部47を備えている。
【0060】
3.トルク抑制制御の内容
抑制指令出力部47は、車両要求トルクTdに応じた内燃機関出力要求トルクTedに対して抑制された内燃機関トルクTe(Te<Ted)を内燃機関11に出力させるトルク抑制指令を出力する機能部である。抑制指令出力部47は、このようなトルク抑制指令を、切離クラッチCSがスリップ係合状態から直結係合状態へと移行する直結移行時を含み、当該直結移行時前の所定期間だけ出力する。本実施形態では、抑制指令出力部47は、内燃機関始動制御において内燃機関11の回転速度が点火回転速度Nfに到達して内燃機関11への点火が開始されると、その点火開始時から直ちにトルク抑制指令を出力する。また、抑制指令出力部47は、内燃機関11の点火開始時を基準として所定時間(終了判定時間Ta)経過後にトルク抑制指令の出力を終了する。この場合における終了判定時間Taは、内燃機関11の点火開始後、切離クラッチCSがスリップ係合状態から直結係合状態へと移行するまでに要する直結移行時間を実験的に求め、この直結移行時間に余裕分を加味して設定することができる。すなわち、抑制指令出力部47は、内燃機関11の点火開始時を始期とし、直結移行時間以上の長さに設定された終了判定時間Taに相当する長さの期間だけ、トルク抑制指令を出力する。
【0061】
本実施形態では、抑制指令出力部47は、トルク抑制指令として、内燃機関11の点火時期を調整する点火時期調整指令を出力する。より具体的には、抑制指令出力部47は、内燃機関11の燃焼サイクルにおいて混合気に対して火花点火を行う時期を基準点火時期に対して遅らせる(火花点火を行う位相を基準点火位相に対して遅角させる)点火遅角指令を、点火時期調整指令(トルク抑制指令)として内燃機関制御部31に出力する。抑制指令出力部47は、例えば内燃機関11のピストンが下死点付近に位置する時期で火花点火を行わせるような点火遅角指令を出力する構成とすることができる。内燃機関制御部31は、抑制指令出力部47からの点火遅角指令に従い、基準点火時期に対して遅れた時期で火花点火を行うように内燃機関11を制御する。これにより、内燃機関要求出力トルクTedよりも小さい内燃機関トルクTeを内燃機関11に出力させることができる。図5のタイムチャートには、内燃機関11への点火開始後もしばらくの間は、本実施形態に係るトルク抑制制御によって内燃機関トルクTeがゼロに抑えられている様子が示されている。
【0062】
このように本実施形態では、トルク抑制制御の実行によって内燃機関トルクTeがゼロに抑えられた状態で切離クラッチCSがスリップ係合状態から直結係合状態へと移行する。そのため、内燃機関11の点火開始後の回転速度の上昇を、切離クラッチCSを介して伝達される回転電機トルクTmによるものだけとすることができる。よって、内燃機関11の点火開始後であっても当該内燃機関11自身の出力トルクによって回転速度が上昇するのを抑えることができ、切離クラッチCSの直結移行後に一体回転することになる内燃機関11及び回転電機12の回転速度のオーバーシュートの発生を効果的に抑制することができる。また、内燃機関トルクTeがゼロに抑えられるので、切離クラッチCSの直結移行時の前後で、中間軸Mの回転加速度のステップ的な変化量を小さく抑えることができる。従って、切離クラッチCSの直結移行時に、出力軸Oに伝達されるトルクに変動が生じて車両6(車輪15)にショックが伝達されることを抑制できる。
【0063】
また、本実施形態では、抑制指令出力部47は点火時期調整指令を出力し、内燃機関制御部31を介して内燃機関11の点火時期を調整することによってトルク抑制制御を実行する。このような構成では、内燃機関11の点火時期の調整のみによって内燃機関トルクTeの大きさを調整できるので、トルク抑制指令としての点火時期調整指令の出力が終了した後に、内燃機関11が車両要求トルクTdに応じたトルクを出力する(内燃機関トルクTeが内燃機関要求出力トルクTedに一致する状態となる)までの時間を短くすることができる。よって、車両要求トルクTdが適切に満たされる状態を早期に実現することができるという利点がある。
【0064】
更に本実施形態では、回転電機制御部43は、内燃機関始動制御中において変速機構13内の特定係合装置がスリップ係合状態となっている間は、回転電機12の回転速度制御を実行し、決定された目標回転速度に一致するように回転電機12の回転速度のフィードバック制御を行う。この回転電機12の回転速度制御は、切離クラッチCSの直結移行時以後も継続して実行される。このような回転速度制御を実行することで、切離クラッチCSの直結移行後に一体回転する内燃機関11及び回転電機12の回転速度を、回転電機12の目標回転速度に追従させ、内燃機関11及び回転電機12の回転速度のオーバーシュートをより確実に抑制することが可能となっている。
【0065】
4.トルク抑制制御を含む内燃機関始動制御の具体的処理手順
本実施形態に係るトルク抑制制御を含む内燃機関始動制御の具体的内容及び処理手順について、図5のタイムチャート及び図8のフローチャートを参照して説明する。なお、図5では、これまでも一具体例として説明してきたように、電動走行モード且つ変速機構13において第2速段が形成された状態での走行中に内燃機関始動条件が成立し、内燃機関始動制御が実行されてパラレル走行モードに切り替えられる状況を想定している。
【0066】
図5に示すように、まず、電動走行モードで車両6が走行している状態で、内燃機関始動条件が成立したか否かが判定される(図8のステップ#01)。時刻T01において内燃機関始動条件が成立すると(ステップ#01:Yes)、一連の内燃機関始動制御が開始される。内燃機関始動制御では、第一ブレーキ動作制御部45aは本想定例において特定係合装置としての第一ブレーキB1への供給油圧を、時刻T01から一定の時間変化率で徐々に低下させる。回転電機12及び中間軸Mの回転速度と出力軸Oの回転速度から算出される中間軸Mの推定回転速度(図5において「同期線」として表示;以下同様)との差回転速度が時刻T02において所定のスリップ判定閾値Th1以上となると、切離クラッチ動作制御部44は切離クラッチCSのトルク容量制御を開始すると共に、第一ブレーキ動作制御部45aは第一ブレーキB1のトルク容量制御を開始する。また、回転電機制御部43は回転電機12の回転速度制御を開始する。
【0067】
切離クラッチCSのスリップ係合状態で、当該切離クラッチCSを介して伝達される回転電機トルクTmにより内燃機関11の回転速度が上昇する状態で、当該内燃機関11の回転速度が点火回転速度Nf以上となったか否かが判定される(ステップ#02)。時刻T03において点火回転速度Nf以上となると(ステップ#02:Yes)、内燃機関制御部31は内燃機関11への点火を開始すると共に、内燃機関11のトルク制御を開始する(ステップ#03)。また、抑制指令出力部47は、タイマーを用いて内燃機関11の点火開始時からの経過時間の計測を開始すると共に(ステップ#04)、点火遅角要求をオンの状態として点火遅角指令を出力し(ステップ#05)、トルク抑制制御を開始する。このようなトルク抑制制御を実行することで、内燃機関11の回転速度が上昇し、やがて時刻T04において内燃機関11と回転電機12とが同期して切離クラッチCSが直結係合状態となる際の、内燃機関11及び回転電機12の回転速度のオーバーシュートを抑制している。
【0068】
トルク抑制制御の実行中、抑制指令出力部47は、点火開始時からの経過時間が終了判定時間Taに到達したか否かを監視している(ステップ#06)。やがて時刻T05において終了判定時間Taが経過すると(ステップ#06:Yes)、抑制指令出力部47は点火遅角要求をオフの状態として点火遅角指令の出力を終了し(ステップ#07)、トルク抑制制御を終了する。これにより、時刻T05以後は基準点火時期で火花点火を行うように内燃機関11がトルク制御される。図に示した例では、点火遅角指令の出力が終了した時刻T05の後、僅かに遅れて時刻T06において内燃機関トルクTeが急激に上昇している。
【0069】
第一ブレーキB1の伝達トルク容量がある程度大きくなると、回転電機12の回転速度は出力軸Oの回転速度に応じて引き下げられて低下し始める。やがて回転電機12及び中間軸Mの回転速度と出力軸Oの回転速度から算出される中間軸Mの推定回転速度との差回転速度が時刻T07において所定の同期判定閾値Th2以下となると、回転電機制御部43は回転電機12の回転速度制御を終了し、スイープ制御を経た後、回転電機12のトルク制御を開始する。また、第一ブレーキ動作制御部45aは第一ブレーキB1への供給油圧を時刻T07から一定の時間変化率で徐々に上昇させ、所定時間経過後の時刻T08においてステップ的に完全係合圧まで上昇させる。以上で内燃機関始動制御を終了して、パラレル走行モードでの走行が開始される。
【0070】
5.その他の実施形態
最後に、本発明に係る制御装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0071】
(1)上記の実施形態では、抑制指令出力部47が、内燃機関始動制御における内燃機関11への点火開始時から直ちにトルク抑制指令を出力する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、トルク抑制指令は少なくとも切離クラッチCSの直結移行時に出力されていれば良く、抑制指令出力部47が、内燃機関11への点火開始時以降であって切離クラッチCSの直結移行時よりも前の任意の時点からトルク抑制指令を出力する構成とすることができる。例えば抑制指令出力部47が、内燃機関11への点火開始時を基準として予め定められた所定時間の経過時からトルク抑制指令を出力する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0072】
(2)上記の実施形態では、抑制指令出力部47が、内燃機関11の点火開始時を基準として所定の終了判定時間Taの経過後にトルク抑制指令の出力を終了する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば抑制指令出力部47が、切離クラッチCSの直結移行時を基準として所定時間経過後にトルク抑制指令の出力を終了する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、切離クラッチCSの直結移行時に、車両要求トルクTdに応じた内燃機関要求出力トルクTedよりも小さいトルクを、確実に内燃機関11に出力させることができる。或いは、抑制指令出力部47が、特定係合装置のスリップ係合状態への移行時、回転電機トルクTmの上昇開始時、切離クラッチCSへの供給油圧の上昇開始時、等を基準として予め定められた所定時間の経過時にトルク抑制指令の出力を終了する構成とすることも可能である。
【0073】
(3)上記の実施形態では、抑制指令出力部47が、点火時期調整指令として、内燃機関11の燃焼サイクルにおいて火花点火を行う時期を基準点火時期に対して遅らせる点火遅角指令を出力する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両要求トルクTdに応じた内燃機関要求出力トルクTedよりも小さいトルクを内燃機関11に出力させ得るものであれば、抑制指令出力部47が、火花点火を行う時期を基準点火時期に対して早める(火花点火を行う位相を基準点火位相に対して進角させる)点火進角指令を、点火時期調整指令として出力する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0074】
(4)上記の実施形態では、抑制指令出力部47が、トルク抑制指令として、内燃機関11の点火時期を調整する点火時期調整指令を出力する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両要求トルクTdに応じた内燃機関要求出力トルクTedよりも小さいトルクを内燃機関11に出力させ得るものであれば、抑制指令出力部47が出力するトルク抑制指令の内容は種々のものとすることができる。そのようなトルク抑制指令としては、例えば電子制御スロットル弁を介して内燃機関11への燃料噴射量を低減させる燃料噴射量低減指令や、内燃機関11の吸気弁及び排気弁の少なくとも一方の開閉時期やリフト量を調整する弁開閉時期調整指令等が挙げられる。或いはそのようなトルク抑制指令を、空燃比調整指令、排気再循環量調整指令、及び過給圧調整指令等とすることも可能である。
【0075】
(5)上記の実施形態では、制御装置4による制御対象となる駆動装置1に備えられる「切離用係合装置」としての切離クラッチCSや変速機構13内の変速用クラッチ(変速用係合装置)が、供給される油圧に応じて係合圧が制御される、油圧駆動式の摩擦係合装置とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、切離用係合装置及び変速用係合装置は、係合圧の増減に応じて伝達トルク容量を調整可能であれば良く、例えばこれらのうちの一方又は双方が、発生される電磁力に応じて係合圧が制御される、電磁式の摩擦係合装置として構成されることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0076】
(6)上記の実施形態では、変速機構13において第2速段が形成されている場合を想定し、変速機構13内の複数の変速用クラッチのうちの第一ブレーキB1が「特定係合装置」とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば内燃機関始動制御中に目標変速段が変更されない場合や、変速動作の完了遅延が特に問題とはならない場合等には、仮に架け替え変速を行うと仮定した場合において直結係合状態に維持される方の変速用クラッチ(直結維持係合装置;本想定例では第一クラッチC1)を特定係合装置とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。なお、変速機構13で形成される変速段が変更されれば、当然ながらそれに応じて特定係合装置も変更される。
【0077】
(7)上記の実施形態では、制御装置4による制御対象となる駆動装置1において、変速機構13内の変速用クラッチの1つが「特定係合装置」とされ、内燃機関始動制御において当該特定係合装置がスリップ係合状態に維持される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路で回転電機12と出力軸Oとの間に設けられた摩擦係合装置であれば、変速機構13内の変速用クラッチとは別のクラッチをスリップ係合状態に維持させる構成とすることも可能である。例えば回転電機12よりも出力軸O側にトルクコンバータ等の流体継手を備える場合において、当該流体継手が有するロックアップクラッチをスリップ係合状態に維持させる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。或いは、例えば回転電機12よりも出力軸O側に専用の伝達クラッチを設け、当該伝達クラッチをスリップ係合状態に維持させる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。これらの場合には、変速機構13として、自動有段変速機構に代えて、自動無段変速機構、手動有段変速機構、及び固定変速機構等を用いることもできる。また、変速機構13の位置も任意に設定することができる。
【0078】
(8)上記の実施形態では、制御装置4による制御対象となる駆動装置1が、いわゆるパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、駆動装置が、いわゆるスプリット方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されていても好適である。この場合、駆動装置は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、回転速度の順に、少なくとも第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を有する動力分配用差動歯車装置とを備える。例えば動力分配用差動歯車装置の各回転要素は、互いに他の回転要素を介することなく、第一回転要素が回転電機に駆動連結され、第二回転要素に入力部材(内燃機関)が駆動連結され、第三回転要素に出力部材(車輪)が駆動連結される。また、駆動装置は、第一回転要素と回転電機との間の駆動連結、第二回転要素と入力部材との間の駆動連結、及び第三回転要素と出力部材との間の駆動連結、の少なくともいずれか1つを解除可能な摩擦係合装置を備える。この摩擦係合装置は、解放状態で車輪15から内燃機関11を切り離すことが可能であり、本発明における「切離用係合装置」として機能する。このような駆動装置を制御対象とする場合であっても、内燃機関始動制御において抑制指令出力部47が、車両要求トルクTdに応じた内燃機関要求出力トルクTedに対して抑制されたトルクを内燃機関11に出力させるトルク抑制指令を出力することで、電動走行モードからスプリット走行モード(ハイブリッド走行モードの一種)へのモード切替の際に、上記の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0079】
なお、動力分配用差動歯車装置の各回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく、第一回転要素が回転電機に駆動連結され、第二回転要素に出力部材(車輪)が駆動連結され、第三回転要素に入力部材(内燃機関)が駆動連結される構成としても良い。この場合、摩擦係合装置は、第一回転要素と回転電機との間の駆動連結、第二回転要素と出力部材との間の駆動連結、及び第三回転要素と入力部材との間の駆動連結、の少なくともいずれか1つを解除可能なものとする。このような駆動装置を制御対象とする場合であっても、トルク抑制制御を実行することで、電動走行モードからトルクコンバータモード(ハイブリッド走行モードの一種)へのモード切替の際に、上記の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0080】
(9)上記の実施形態では、主に内燃機関11を制御するための内燃機関制御ユニット30と、主に回転電機12、第一クラッチCL1、及び変速機構13を制御するための駆動装置制御ユニット40(制御装置4)とが個別に備えられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば単一の制御装置4が内燃機関11、回転電機12、切離クラッチCS、及び変速機構13等の全てを制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。或いは、制御装置4が、回転電機12を制御するための制御ユニットと、それ以外の各種構成を制御するための制御ユニットとを更に個別に備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、上記の各実施形態で説明した機能部の割り当ては単なる一例であり、複数の機能部を組み合わせたり、1つの機能部を更に区分けしたりすることも可能である。
【0081】
(10)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に回転電機が設けられていると共に、内燃機関と回転電機との間に内燃機関の切り離し用の摩擦係合装置である切離用係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 駆動装置(車両用駆動装置)
4 制御装置
11 内燃機関
12 回転電機
13 変速機構
15 車輪
43 回転電機制御部
44 切離クラッチ動作制御部(係合制御部)
45 変速機構動作制御部(第二係合制御部)
47 抑制指令出力部
PG 遊星歯車装置
CS 切離クラッチ(切離用係合装置)
C1 第一クラッチ(特定係合装置)
B1 第一ブレーキ(特定係合装置)
Td 車両要求トルク(要求駆動力)
Te 内燃機関トルク
Te 内燃機関要求出力トルクTed
Tm 回転電機トルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に回転電機が設けられていると共に、前記内燃機関と前記回転電機との間に前記内燃機関の切り離し用の摩擦係合装置である切離用係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記内燃機関の停止状態で内燃機関始動要求があった場合に、前記切離用係合装置を介して伝達される前記回転電機のトルクにより前記内燃機関を始動させる内燃機関始動制御を実行する始動制御部と、
前記切離用係合装置の解放状態で実行される前記内燃機関始動制御に際して、前記切離用係合装置をスリップ係合状態とし、前記内燃機関が点火を開始した後に前記切離用係合装置をスリップ係合状態から直結係合状態へと移行させる係合制御部と、
前記切離用係合装置がスリップ係合状態から直結係合状態へと移行する直結移行時を含む所定期間、前記車輪を駆動するための要求駆動力に応じた内燃機関要求出力トルクに対して抑制されたトルクを前記内燃機関に出力させるトルク抑制指令を出力する抑制指令出力部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記抑制指令出力部は、前記トルク抑制指令として、前記内燃機関の点火時期を調整する点火時期調整指令を出力する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記抑制指令出力部は、前記内燃機関の点火開始時又は前記直結移行時を基準として所定時間経過後に前記トルク抑制指令の出力を終了する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
少なくとも前記直結移行時以後、前記回転電機の回転速度を目標回転速度に一致させるように制御する回転電機制御部を更に備える請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
遊星歯車装置と前記切離用係合装置とは別の複数の摩擦係合装置とを有する変速機構が前記回転電機と前記車輪との間に設けられた前記車両用駆動装置を制御対象とし、
前記内燃機関始動制御の実行中、前記複数の摩擦係合装置のうちの1つである特定係合装置をスリップ係合状態に維持させる第二係合制御部を更に備え、
前記内燃機関始動制御の実行時の変速段の形成に際して働く前記遊星歯車装置の複数の回転要素のうち前記車輪に駆動連結された出力回転要素以外の回転要素の1つである特定回転要素に駆動連結された摩擦係合装置が、前記特定係合装置である請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記抑制指令出力部は、前記内燃機関から前記回転電機に伝達されるトルクがゼロとなるトルクを前記内燃機関に出力させる指令を、前記トルク抑制指令として出力する請求項1から5のいずれか一項に記載の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28304(P2013−28304A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166706(P2011−166706)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】