説明

加飾合成樹脂シートの製造方法および当該製造方法によって製造された加飾合成樹脂シートを使用した合成樹脂成形品

【課題】合成樹脂シートにスタンパーをプレスすることにより微細な凹凸状ラインの集合体を転写する際に生じる合成樹脂シートの変形やそりを防止するとともに製造サイクルを短縮することができる、合成樹脂シートに装飾を転写する加飾合成樹脂シートの製造方法を提供すること
【解決手段】加飾合成樹脂シートの製造方法は、第1のガラス転移温度を有する第1の材料からなる第1のシート層1の上面に、第1のガラス転移温度より低い第2のガラス転移温度を有する第2の材料からなる第2のシート層2で形成された合成樹脂シート3を第2のガラス転移温度から第1のガラス転移温度までの間の温度に加温し、スタンパー5をプレスすることにより第2のシート層2に装飾を転写する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂シートに装飾を転写する加飾合成樹脂シートの製造方法および当該製造方法によって製造された合成樹脂シートを使用した合成樹脂成形品を提供するものである。詳細には、当該加飾合成樹脂シートの製造方法は、変形やそりを防止するとともに、製造サイクルを短縮することができる加飾合成樹脂シートの製造方法である。更に詳細には、当該製造方法によって製造され、単品での使用も対応できる加飾合成樹脂シートであり、これを使用してインモールド成形法等にて成形された合成樹脂成形品である。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の内装品や家電製品など、直接ユーザーの目に触れ、あるいはユーザーが直接手に触れる合成樹脂成形品においては、装飾性を向上させるために、合成樹脂表面に図形、模様、文字またはこれらの組み合わせの装飾を施すようになってきている。
【0003】
このような装飾を施す方法として合成樹脂シート等に印刷等を施し、加飾層を予め形成し、インモールド成形法等によりこの合成樹脂シートが成形品基材表面に配置されるようにして、一体化させる製造方法がある。
【0004】
しかし、このように合成樹脂シートの表面に印刷等を施し、加飾層を形成してもこの加飾層は平滑的なものである。さらなる高級感を得るための方法として、表面に直接微細な凹凸状ラインの集合体からなる立体感のある加飾層を形成することに対する要求があった。
【0005】
そこで、合成樹脂シートをガラス転移温度まで加温し軟化させ、スタンパーをプレスすることにより微細な凹凸状ラインの集合体を転写して装飾を施すことが行われていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし転写後、加飾合成樹脂シートを取り外す際に変形やそりを生じることがある。それを解消するために加飾合成樹脂シートを取り外せる温度にまで冷却することが必要だが、加温・冷却の温度差が大きいため製造サイクルの低下を招くという不都合があった。
【0007】
そこで本発明は、変形やそりを防止するとともに、製造サイクルを短縮することができる加飾合成樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、上記製造方法にて製造された加飾合成樹脂シートを用いて高級感のある加飾層を有する合成樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法は、例えば図1に示すように、高さまたは深さ100μm以下、幅100μm以下の微細な凹凸状ラインの集合体から構成される図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾を転写する加飾合成樹脂シート4の製造方法であって、第1のガラス転移温度を有する第1の材料からなる第1のシート層1の上面に、第1のガラス転移温度より低い第2のガラス転移温度を有する第2の材料からなる第2のシート層2が形成された合成樹脂シート3を、第2のガラス転移温度から第1のガラス転移温度までの間の温度に加温し、スタンパー5をプレスすることにより第2のシート層2に装飾を転写する工程を備える。
【0010】
本発明の第1の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法によれば、例えば図1に示すように、第2のガラス転移温度から第1のガラス転移温度までの間の温度に加温し、スタンパー5をプレスすることにより第2のシート層2に装飾を転写するので、第2のガラス転移温度を有する第2のシート層2は軟化して装飾が転写されるが、第1のガラス転移温度を有する第1のシート層1は軟化する温度に達していないので転写されず、更に変形やそりが生じないため形状を保持することが出来る。また合成樹脂シート3を構成している第1のシート層1と第2のシート層2全てを軟化させる必要がなく、転写を施すガラス転移温度の低い第2のシート層2のみ軟化すればよいので加温範囲を下げることが可能となり、それにより加温・冷却の温度差が小さくなることによって、製造サイクルを加速することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法では、第1の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法において、例えば図2に示すように、第2のシート層12は、転写するスタンパーに形成された装飾用凹凸の高さまたは深さより薄く形成されてもよい。
このように構成すると、第2のガラス転移温度を有する第2のシート層12は軟化して装飾が転写されるが、第1のガラス転移温度を有する第1のシート層11は軟化する温度に達していないのでスタンパー15が第1のシート層11に入りこむことがなく、転写される装飾の深さは最大で第2のシート層12の厚さと等しくなる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法では、第1または第2の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法において、例えば図1に示すように、第2のシート層2は、第1のシート層1に第2の材料を貼り付けることにより形成されてもよい。
このように構成すると、2つのガラス転移温度をもつ合成樹脂シート3は、材料を貼り付けることにより形成が可能となり、合成樹脂シート3を容易に製造することができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法では、第1または第2の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法において、例えば図1に示すように、第2のシート層2は、第1のシート層1に第2の材料を印刷することにより形成されてもよい。
このように構成すると、2つのガラス転移温度をもつ合成樹脂シート3は、第2の材料を印刷することにより形成が可能となり、合成樹脂シート3を容易に製造することができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法では、第1ないし第3のいずれかの態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法において、第1の材料はポリカーボネート樹脂であり、第2の材料はアクリル樹脂である。
このように構成すると、第1の材料はポリカーボネート樹脂であるので、約150℃程度のガラス転移温度を有しており、また、第2の材料はアクリル樹脂であるので、約100℃程度のガラス転移温度を有していることにより、ガラス転移温度の差を利用して、微細な凹凸状ラインの集合体を転写できる加飾合成樹脂シートの製造方法となる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法では、第1、第2、または第4のいずれかの態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法において、第1の材料はポリカーボネート樹脂であり、第2の材料はポリカーボネート樹脂よりガラス転移温度の低いインクである。
このように構成すると、第1の材料はポリカーボネート樹脂であるので、約150℃程度のガラス転移温度を有しており、また、第2の材料はポリカーボネート樹脂よりガラス転移温度の低いインクであるので、ガラス転移温度の差を利用して、微細な凹凸状ラインの集合体を転写できる加飾合成樹脂シートの製造方法となる。
【0016】
本発明の第7の態様に係る合成樹脂成形品は、第1ないし第6のいずれかの態様に係る加飾合成樹脂シートの製造方法にて製造した加飾合成樹脂シートを射出成型用金型内表面の一部に接触するように配置し、当該加飾合成樹脂シートの一面と当該加飾合成樹脂シートによって覆われない金型内面によって画成される空間に、溶融合成樹脂を射出することによって得られる、加飾合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品である。
このように構成すると、合成樹脂成形品の外表面には、加飾合成樹脂シートが配置され、微細な凹凸状ラインの集合体から構成される図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾により高級感のある加飾層を有する合成樹脂成形品となる。更に、高さ、幅、ピッチ寸法を意図して変化させ、異なった特定のラインの集合体からなる文字や模様等が、光の当たる角度により立体的に浮かび上がって見えるような、あるいは異質な材料によって構成されているような感覚を観者に与える合成樹脂成形品となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の加飾合成樹脂シートの製造方法および当該製造方法によって製造された加飾合成樹脂シートによれば、高さまたは深さ100μm以下、幅100μm以下の微細な凹凸状ラインの集合体から構成される図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾を転写する加飾合成樹脂シートの製造方法であって、第1のガラス転移温度を有する第1の材料からなる第1のシート層の上面に、第1のガラス転移温度より低い第2のガラス転移温度を有する第2の材料からなる第2のシート層が形成された合成樹脂シートを、第2のガラス転移温度から第1のガラス転移温度までの間に加温し、スタンパーをプレスすることにより第2のガラス転移温度を有する第2のシート層は軟化して装飾が転写される。しかし、第1のガラス転移温度を有する第1のシート層は第2のガラス転移温度より温度が高く、軟化する温度に達していないので転写されない。また、第1のシート層は変形やそりが生じないため形状を保持することが出来る。更に、合成樹脂シートを構成している第1のシート層と第2のシート層全てを軟化させる必要がなく、転写を施すガラス転移温度の低い第2のシート層のみ軟化すればよいので加温範囲を下げることが可能となり、それにより加温・冷却の温度差が小さくなることによって、製造サイクルを加速することができる。
【0018】
また、本発明の合成樹脂成形品は、上記の製造方法にて製造した加飾合成樹脂シートを射出成型用金型内表面の一部に接触するように配置し、当該加飾合成樹脂シートの一面と当該加飾合成樹脂シートによって覆われない金型内面によって画成される空間に、溶融合成樹脂を射出することによって得られる加飾合成樹脂シートを使用した合成樹脂成形品であるので、高級感のある加飾層を有する合成樹脂成形品を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従って第1のシート層と第2のシート層を有する合成樹脂シートに装飾を転写する工程を示す模式図で、(a)は層別された合成樹脂シートを示し、(b)は合成樹脂シートにスタンパーでプレスすることにより装飾を転写する前の状態を示し、(c)はスタンパーでプレスして装飾を転写している状態を示し、(d)は装飾を転写後に加飾合成樹脂シートをスタンパーから取り外した状態を示す。
【図2】本発明に従って第1のシート層と第2のシート層を有する合成樹脂シートに装飾を転写する工程を示す模式図で、第2のシート層が、転写するスタンパーに形成された装飾用凹凸の高さまたは深さより薄く形成されている場合を示す。(a)は層別された合成樹脂シートを示し、(b)は合成樹脂シートにスタンパーでプレスすることにより装飾を転写する前の状態を示し、(c)はスタンパーでプレスすることにより装飾を転写している状態を示し、(d)は装飾を転写後に加飾合成樹脂シートをスタンパーから取り外した状態を示す。
【図3】本発明に従って製造した加飾合成樹脂シートを使用して、インモールド成形法により、加飾合成樹脂シートと一体成形した合成樹脂成形品を製造する工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一又は相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0021】
図1は、スタンパー5により第1のシート層1と第2のシート層2とから構成される合成樹脂シート3に図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾を転写する工程を示す模式図である。図1の(a)は層別された合成樹脂シート3を示し、(b)は合成樹脂シート3にスタンパー5のプレスにより装飾を転写する前の状態を示し、(c)はスタンパー5でプレスして装飾を転写している状態を示し、(d)は装飾を転写後に加飾合成樹脂シート4をスタンパー5から取り外した状態を示す。
【0022】
図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾は、微細なラインの集合体から構成されることにより、観者に立体感あるいは素材の異質感を生じさせる装飾である。そのためには、個々のラインは、所定の長さを有する凹状の溝あるいは凸状の突起からなり、各々の凹状の溝の深さまたは凸状の突起の高さは100μm以下であり、また、凹状の溝または凸状の突起の幅は100μm以下である。このような微細なラインの集合体で装飾を構成することにより、立体感あるいは素材の異質感を生じさせることが可能となる。
【0023】
なお、凹状の溝の深さまたは凸状の突起の高さは10μm〜25μmであることが好ましく、凹状の溝または凸状の突起の幅は20μm〜50μmであることが好ましい。
【0024】
また、各々の凹状の溝あるいは凸状の突起のピッチは、200μm以下、または40μm〜100μmであることが好ましい。
【0025】
また、特定の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起と、他の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起とは、高さまたは深さが5μm以上の差、あるいは20μm以上の差が生ずるように寸法を設定することが望ましい。このような寸法を設定することにより、立体感あるいは素材の異質感を有する加飾層を作り出すことが可能となる。
【0026】
また、特定の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起と、他の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起とは、幅が5μm以上の差、あるいは10μm以上の差が生ずるように寸法を設定することが望ましい。このような寸法を設定することにより、立体感あるいは素材の異質感を有する加飾層を作り出すことが可能となる。
【0027】
また、特定の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起と、他の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起とは、ピッチが10μm以上の差、あるいは20μm以上の差が生ずるように寸法を設定することが望ましい。このような寸法を設定することにより、立体感あるいは素材の異質感を有する加飾層を作り出すことが可能となる。
【0028】
さらに、特定の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起と、他の図形、模様または文字を表わす微細なラインの集合体である凹状の溝あるいは凸状の突起とは、凹状の溝あるいは凸状の突起の方向を変えたり、複数の方向を組み合わせたりすることにより、方向性に変化をつけることが望ましい。このような設定を行うことにより、さらに立体感あるいは素材の異質感を有する加飾層を作り出すことが可能となる。
【0029】
合成樹脂シート3は、第1のシート層1の第1の面の上に、第2のシート層2を有する2層シートである。合成樹脂シート3は、第1のシート層1の第1の面と反対の第2の面に第3のシート層あるいはさらに単数または複数のシートを備えた3層以上であってもよい。合成樹脂シート3は、特に限定されるものではないが、0.1mm程度から2.0mm程度の厚さを有するのが好ましい。インモールド成形用として使用する場合には、合成樹脂シートが薄すぎると、金型内に装着する場合に腰が弱く、金型の構造によっては金型面からずれてしまうことがあり、また溶融樹脂の温度によっては合成樹脂シートが部分的に溶けてしまい、その形状を保持できない場合がある。また、合成樹脂シートが厚すぎると、金型の曲面が強かったり曲面が複雑な形状をしていると、合成樹脂シートが金型内面に沿えず、所望の成形品を得られないことがある。
【0030】
第1のシート層1は、第1のガラス転移温度を有する第1の材料で形成される。第1の材料は、一例としてポリカーボネート樹脂であり、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は約150℃程度である。
【0031】
第2のシート層2は、第1のガラス転移温度より低い第2のガラス転移温度を有する第2の材料で形成される。第2の材料は、一例としてアクリル樹脂であり、アクリル樹脂のガラス転移温度は約100℃程度である。なお、本書における「ガラス転移温度」とは、温度が上昇することにより固体状態から剛性が低下し始める温度をいう。
【0032】
合成樹脂シート3は、第2の材料で形成された第2のシート層2を第1のシート層1の上面に貼り付けることにより形成することができる。2層のシートは、周知の方法で貼り付けられればよい。シートを貼り付けることにより形成すれば、合成樹脂シート3を大量に迅速に形成することができる。
【0033】
あるいは、合成樹脂シート3は、第2の材料で形成された第2のシート層2を第1のシート層1の上面に印刷することにより形成することもできる。印刷は、スクリーン印刷、シルク印刷、インクジェット印刷等、周知の印刷法でよい。第2の材料を印刷により形成できることにより、第2のシート層2自体に色彩を施したり、多色で模様や意匠文字等を描いたりすることも可能となる。印刷により第2のシート層2を形成する第2の材料はポリカーボネート樹脂よりガラス転移温度の低いインクである。
【0034】
第1の材料と第2の材料とは上記の例に限定されるものではなく、種々の組合せが可能である。第2のシート層2の第2のガラス転移温度は、第1のシート層1の第1のガラス転移温度よりも低く、その差が大きい方が好ましい。
【0035】
スタンパー5は、合成樹脂シート3に装飾を転写するための型であって、モールドとも呼ばれる。スタンパー5は、たとえば、ガラス板にリソグラフィー・プロセスにより所望の装飾を加工した原盤を使用して、電鋳加工(Niメッキ)をして、加飾合成樹脂シートに転写される凹凸面と逆の凹凸面を形成した型である。スタンパー5は、エッチング加工、レーザ加工を含む他の加工法で製造してもよい。スタンパー5は、典型的には金属製であるが素材は限定されない。
【0036】
スタンパー5により合成樹脂シート3に装飾を転写するには、合成樹脂シート3をプレス用金型(不図示)に載置し、第2のシート層2のガラス転移温度から第1のシート層1のガラス転移温度までの温度に加温する。たとえば、第1のシート層1がポリカーボネート樹脂(ガラス転移温度約150℃)で形成され、第2のシート層2がアクリル樹脂(ガラス転移温度約100℃)で形成されている場合に、約90℃位から約150℃の間で加温することにより合成樹脂シート3に装飾を転写することが出来る。
【0037】
続いて、図1(c)に示すように、スタンパー5を合成樹脂シート3の第2のシート層2にプレスすることにより、スタンパー5に形成された装飾を第2のシート層2に転写する。第2のシート層2は、第2のガラス転移温度から第1のガラス転移温度までの間の温度に加温されているので、第2のガラス転移温度を有する第2のシート層2は軟化してスタンパー5に形成された装飾、すなわち凹凸が転写される。第2のシート層2が第2のガラス転移温度以上に加温されている方が、流動性が増し、スタンパー5に形成された装飾の転写がきれいに行われやすくなる。
【0038】
ここで、第1のガラス転移温度を有する第1のシート層1は軟化する温度に達していないので固体状態であり容易に変形はしない。すなわち、スタンパー5のプレスによっても、第1のシート層1には変形やそりが生じないため形状を保持することが出来る。またシートを構成している第1のシート層1と第2のシート層2全てを軟化させる必要がなく、転写を施すガラス転移温度の低い第2のシート層2のみ軟化すればよいので加温範囲を下げることが可能となり、それにより加温・冷却の温度差が小さくなることによって、製造サイクルを加速することができる。
【0039】
また、第1のガラス転移温度を有する第1のシート層1は軟化する温度に達していないことから容易に変形せず、材料にもよるが、充分な冷却温度を必要とせずにスタンパー5とプレス用金型(不図示)から、装飾が施された所望の加飾合成樹脂シート4を変形やそり等なく取り外すことができる。これにより更に製造サイクルを加速することができる。
【0040】
本発明の加飾合成樹脂シート4は、第1のシート層1と第2のシート層2の2層で構成された合成樹脂シート3において、第1のシート層1の第1のガラス転移温度以上には加温されずにスタンパー5のプレス加工が第2のシート層2に対して行われるので、第1のシート層1はプレスする際にそりや変形が発生せず、高級感のある加飾層を有する加飾合成樹脂シート4を形成する。
【0041】
更に、従来の単層の合成樹脂シートにスタンパーで装飾をプレスする場合には、当該合成樹脂シートのガラス転移温度まで加温し、その温度から冷却するので、加温・冷却する温度差が大きくなり製造サイクルの低下を招くが、本発明の加飾合成樹脂シート4は、合成樹脂シート3を構成している第1のシート層1と第2のシート層2全てを軟化させる必要がなく、転写を施すガラス転移温度の低い第2のシート層2のみ軟化すればよいので加温範囲を下げることが可能となり、それにより加温・冷却する温度差が小さくなることによって、製造サイクルを加速することができる。
【0042】
次に、図2は、第2のシート層12が、転写するスタンパー15に形成された装飾用凹凸の高さまたは深さより薄く形成されている場合において、スタンパー15により、第1のシート層11と第2のシート層12から構成される合成樹脂シート13に装飾を転写する工程を示す模式図である。図2の(a)は層別された合成樹脂シート13を示し、(b)は合成樹脂シート13にスタンパー15のプレスにより装飾を転写する前の状態を示し、(c)はスタンパー15でプレスして装飾を転写している状態を示し、(d)は装飾を転写後に加飾合成樹脂シート14をスタンパー15から取り外した状態を示す。
【0043】
図2に示す加飾合成樹脂シート14の製造方法は、基本的に図1に示す製造方法と同じであるので、差異についてのみ説明し、重複した説明は省略する。
【0044】
第2のシート層12は、転写するスタンパーに形成された装飾用凹凸16の高さまたは深さより薄く形成されている。よって、図2(c)に示すように、スタンパー15で合成樹脂シート13をプレスするときに、スタンパー15は、第1のシート層11に装飾用凹凸16の先端が当接する位置で制限される。すなわち、加飾合成樹脂シート14の装飾の高さまたは深さは、最大で第2のシート層12の厚さと等しくなる。したがって、所望の装飾の高さまたは深さと等しい第2のシート層12を形成することにより、スタンパー15でプレスする深さを詳細にコントロールする必要がなくなる。
【0045】
これまでの説明では、第1のシート層の第1の面にのみ第2のシート層が形成されるものとして説明したが、第1のシート層の第1の面と逆の第2の面にも第2のシート層を形成し、両面の第2のシート層に装飾を施してもよい。その際に、2つの第2のシート層は、同じ素材で形成されてもよいし、異なる素材で形成されてもよく、例えば、第1の面にシートを貼り付け、第2の面を印刷により形成してもよい。
【0046】
次に図3を参照して、加飾合成樹脂シート21を使用して、インモールド成形法により、加飾合成樹脂シート21と一体化した合成樹脂成形品23の製造方法を説明する。加飾合成樹脂シート21は、これまで説明した製造方法により製造する加飾合成樹脂シート4・14である。
【0047】
加飾合成樹脂シート21を金型27a内に装着するために、金型27aの開口部に合わせて切断加工する。加飾合成樹脂シート21の切断加工は、鋏や裁断機(シャーリング)等で切断してもよいし、打ち抜き金型によるプレス加工により切断してもよい。また、加飾合成樹脂シート21を金型27aの内面形状に合わせて予めプレス成形するなどしておくと、金型27aへの装着が容易になり、かつ、金型27aの内面形状に沿った形状に成形されやすいので、好ましい。
【0048】
金型27a内に加飾合成樹脂シート21を装着する。典型的には、加飾合成樹脂シート21の加飾層を金型27aに接するように装着する。このように装着することで、合成樹脂成形品23の外表面に装飾が現れる。
【0049】
金型27a内に加飾合成樹脂シート21を装着したら、金型27a、27bを閉じ、溶融合成樹脂を注入する空間を画成する。その後、ノズル26から溶融合成樹脂22を、スプルー25、ゲート24を通じて、加飾合成樹脂シート21の背面と金型27a、27bが画成する空間に注入する。この溶融合成樹脂22を注入する方法は、周知の方法でよい。しかし、注入された溶融合成樹脂22により、予め金型27aに装着された加飾合成樹脂シート21を破ることがないよう、例えばゲート24の向きを加飾合成樹脂シート21と直交しないようにするなどの配慮をすることが好ましい。このように加飾合成樹脂シート21の背面と金型27a、27bが成す空間に溶融合成樹脂22を注入した後、金型27a、27bを冷却する。溶融合成樹脂22の温度が下がり固化すると、加飾合成樹脂シート21と一体化した合成樹脂成形品23が成形される。
【0050】
成形された合成樹脂成形品23の外表面には、加飾合成樹脂シート21が配置され、微細な凹凸状ラインの集合体から構成される図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾により、高級感のある加飾層を有する合成樹脂成形品を形成する。更に、高さ、幅、ピッチ寸法を意図して変化させ異なった特定のラインの集合体からなる文字や模様等が光の当たる角度により立体的に浮かび上がって見えるような、あるいは、異質な材料によって構成されているような感覚を観者に与える。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、自動車や電気製品の計器盤やスイッチパネル、あるいは、オーディオ製品の操作パネルなどの他、建築内装品や日用雑貨等、幅広い分野に使用される合成樹脂成形品に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1、11 第1のシート層
2、12 第2のシート層
3、13 合成樹脂シート
4、14 加飾合成樹脂シート
5、15 スタンパー
21 加飾合成樹脂シート
22 溶融合成樹脂
23 合成樹脂成形品
24 ゲート
25 スプルー
26 ノズル
27a、27b 金型
31 透光窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インモールド成形法等に使用される合成樹脂シートに、高さまたは深さ100μm以下、幅100μm以下の微細な凹凸状ラインの集合体から構成される図形、模様、文字、またはこれらの組み合わせの装飾を転写する加飾合成樹脂シートの製造方法であって、
第1のガラス転移温度を有する第1の材料からなる第1のシート層の上面に、第1のガラス転移温度より低い第2のガラス転移温度を有する第2の材料からなる第2のシート層が形成された合成樹脂シートを、第2のガラス転移温度から第1のガラス転移温度までの間の温度に加温し、スタンパーをプレスすることにより第2のシート層に前記装飾を転写する工程を備えた、加飾合成樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記第2のシート層は、前記転写するスタンパーに形成された装飾用凹凸の高さまたは深さより薄く形成された、請求項1に記載の加飾合成樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記第2のシート層は、前記第1のシート層に前記第2の材料を貼り付けることにより形成された、請求項1または2に記載の加飾合成樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記第2のシート層は、前記第1のシート層に前記第2の材料を印刷することにより形成された、請求項1または2に記載の加飾合成樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記第1の材料はポリカーボネート樹脂であり、前記第2の材料はアクリル樹脂である、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の加飾合成樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記第1の材料はポリカーボネート樹脂であり、前記第2の材料はポリカーボネート樹脂よりガラス転移温度の低いインクである、請求項1、2または4のいずれか1項に記載の加飾合成樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の加飾合成樹脂シートの製造方法にて製造した加飾合成樹脂シートを射出成型用金型内表面の一部に接触するように配置し、当該加飾合成樹脂シートの一面と当該加飾合成樹脂シートによって覆われない金型内面によって画成される空間に、溶融合成樹脂を射出することによって得られる、加飾合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−245638(P2012−245638A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116943(P2011−116943)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(392010267)株式会社サカイヤ (24)
【Fターム(参考)】