説明

加飾樹脂成形品及びその製造方法

【課題】意匠面に対する金属薄膜の高い付着性と優れた耐薬品性とを十分に確保した上で、金属表面が、よりリアルに表現され得る加飾樹脂成形品を提供する。
【解決手段】基材12の意匠面18に、物理蒸着法又は化学蒸着法により金属薄膜20を直接に形成して、金属調の加飾を実現すると共に、該金属薄膜20に対して、樹脂と金属の両方に架橋する透明な塗料の塗膜からなる第一のトップコート層22を直接に積層形成し、更に、該第一のトップコート層22に対して、ガラス転移温度が55〜120℃である透明な塗膜からなる第二のトップコート層23を直接に積層形成して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾樹脂成形品及びその製造方法に係り、特に、樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品と、そのような加飾樹脂成形品を有利に製造する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、加飾樹脂成形品の一種として、樹脂成形品からなる基材の意匠面に対して、例えば、メタリック塗装による塗膜や、金属メッキによるメッキ膜を形成することにより、金属表面を擬似的に表現する、所謂金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品が、知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この加飾樹脂成形品は、本物の金属製品に比して、軽量で、成形性や加工性に優れ、しかも、防錆加工も不要であるところから、例えば、自動車内装部品や家具、建築材、家電製品、携帯電子機器等の様々な製品や物品の表皮材や部品等として、多く利用されてきている。
【0003】
ところが、そのような従来の加飾樹脂成形品のうち、基材の意匠面にメタリック塗膜が形成されて、加飾が施されてなるものにあっては、メタリック塗膜の厚さムラに起因した反射光量の違いにより、見た目が不均一となったり、或いは「うねり」や「ゆず肌」の塗装不良が生じたりして、塗膜の表面、ひいては塗膜により加飾が施された意匠面の意匠性が損なわれるといった問題が存していた。また、基材の意匠面に金属メッキ膜が形成されて、加飾が施されてなる加飾樹脂成形品には、金属メッキ膜の形成工程中に有害な廃液が生ずるといった問題が内在していた。
【0004】
しかも、それら従来の加飾樹脂成形品では、通常、メタリック塗膜や金属メッキ膜が、数十〜数百μmの範囲の比較的に厚い膜厚で、基材の意匠面に形成される。そのため、意匠面に設けられる角部やエッジ部が、Rのかかった丸みを帯びた形状となってしまい、それらの角部やエッジ部において、金属製品の角部やエッジ部のようなシャープに角張った形状が得られなかった。また、立体的な質感のある金属表面を表現すること等を目的として、基材の意匠面に、シボ模様やヘアライン模様等を与える微細な凹部が形成されている場合には、そのような微細な凹部が、膜厚の厚いメタリック塗膜や金属メッキ膜にて埋まってしまい、そのために、意匠面表面に、繊細で且つ緻密なシボ模様やヘアライン模様を形成することが難しかった。従って、基材の意匠面にメタリック塗膜や金属メッキ膜が形成されてなる加飾樹脂成形品の何れにあっても、十分に満足し得る程に、金属表面をリアルに表現することが極めて困難であったのである。
【0005】
かかる状況下、基材の意匠面に、スパッタリングや蒸着等の物理蒸着法により金属薄膜が形成されて、金属調の加飾が施された加飾樹脂成形品も、提案されている(下記特許文献2及び3参照)。この加飾樹脂成形品においては、金属薄膜が、塗膜やメッキ膜等よりも極めて薄く且つ均一な膜厚とされ、しかも、かかる金属薄膜の形成工程中において、有害な廃液が何等生ずることがないため、メタリック塗膜や金属メッキ膜により加飾が施された従来の加飾樹脂成形品が内在する意匠性の低下の問題や製造時の安全上に問題等が、一挙に解消され得る。
【0006】
そして、かかる加飾樹脂成形品では、通常、金属薄膜と意匠面との間に、所定の塗膜からなるアンダーコート層(下地層)が設けられて、金属薄膜の意匠面への付着性が高められており、また、アンダーコート層に対して付着性のある透明な塗膜からなるトップコート層(保護層)が積層形成されている。これにより、極めて薄い膜厚を有する金属薄膜の保護が図られ、以て、加飾樹脂成形品の耐久性の向上が図られている。
【0007】
ところが、そのように、意匠面に対して、下側から順に、アンダーコート層と金属薄膜とトップコート層とが積層形成されてなる従来の加飾樹脂成形品にあっては、アンダーコート層が、所定の塗料を意匠面上に塗布してなる塗膜にて形成されて、その膜厚が、10μm以上の厚さとされている。それ故、かくの如き従来の加飾樹脂成形品にあっても、金属薄膜が十分に薄い膜厚とされているにも拘わらず、金属薄膜と意匠面との間に形成される厚い膜厚のアンダーコート層によって、意匠面に設けられる角部やエッジ部が丸みを帯びた形状となってしまい、また、意匠面に微細な凹部が設けられていても、それが埋まってしまう。そのため、メタリック塗膜や金属メッキ膜により加飾が施された従来の加飾樹脂成形品と同様に、意匠面の角部やエッジ部において、金属製品の角部やエッジ部のようなシャープに角張った形状が得ることが出来ず、また、意匠面に対して、繊細で且つ緻密なシボ模様やヘアライン模様等を形成することが難しかったのである。
【0008】
なお、スパッタリングによる金属薄膜にて意匠面に加飾が施される一方、それら金属薄膜と意匠面との間に形成されるべきアンダーコート層が省略された加飾樹脂成形品も、知られてはいる(例えば、下記特許文献4参照)。このような構造によれば、意匠面に設けられる角部やエッジ部がシャープなものとなり、また、意匠面に微細な凹部が形成されているときに、それが金属薄膜にて埋まってしまうようなことが回避されて、金属表面を、よりリアルに表現し得るようになることが、期待される。
【0009】
しかしながら、そのようなアンダーコート層が省略された従来の加飾樹脂成形品について、本発明者が様々な角度から検討を加えたところ、かかる従来の加飾樹脂成形品には、トップコート層が形成された金属薄膜は意匠面への付着性が低く、しかも、耐アルカリ性や耐酸性、該揮発油性、耐油脂性等の耐薬品性に劣るといった問題、特に車両用内装部品としての適用を困難ならしめる問題が内在していることが、判明したのである。
【0010】
【特許文献1】特開2004−300566号公報
【特許文献2】特開2001−273804号公報
【特許文献3】特開2004−174921号公報
【特許文献4】特開2004−122366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属薄膜が形成されて、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品において、意匠面に対する金属薄膜の高い付着性と優れた耐薬品性とを十分に確保した上で、金属表面が、よりリアルに表現され得るようにした新規な構造を提供することにある。また、本発明にあっては、そのような加飾樹脂成形品を有利に製造する方法をも、その解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明者は、前記せる課題を解決するために、種々検討を行って、先ず、トップコート層を形成する塗膜の架橋密度と耐薬品性との関係から、次の点を着想した。即ち、従来の加飾樹脂成形品のトップコート層を形成する塗料には、通常、樹脂製の基材に悪影響を与えないように、焼き付け温度が低く(80℃程度)、且つ金属への付着性が高い2液硬化型や熱硬化型、湿硬化型、UV硬化型等の金属用の反応硬化型塗料が用いられているが、これらの塗料は、一般に、金属の熱膨張や熱収縮に追従し得るように、塗膜の架橋密度が低い塗料設計となっている。このような架橋密度の低い塗膜は、各種の薬品に対する耐久性に劣ることが知られている。ここで、本発明者は、架橋密度の低い塗膜が、多くの場合、比較的に低いガラス転移温度(Tg)を有することに着目し、そこから、耐薬品性の高いトップコート層を形成する塗料として、塗膜のガラス転移温度が高い塗料を用いることを着想した。そして、塗膜のガラス転移温度が特定の範囲内の値となる塗料を用いて形成されたトップコート層が、優れた耐薬品性を発揮することを見出したのである。
【0013】
一方、塗膜のガラス転移温度が高い塗料は、塗膜の架橋密度が高いために塗膜内部応力が大きく、それ故、付着性の低いものなってしまう。そこで、この問題を解消すべく、本発明者が更に鋭意研究を重ねた。その結果、塗膜のガラス転移温度が高い塗料を用いて形成されたトップコート層と金属薄膜との間に、樹脂と金属の両方に架橋する塗料を用いて別のトップコート層を更に形成することで、トップコート層の樹脂製の基材への付着性が飛躍的に改善され得ることを見出した。かくして、本発明は、それらの知見に基づいて、完成に至ったのである。
【0014】
なお、本発明にあっては、上記した課題、又は本明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0015】
<1> (a)金属調の加飾が施されるべき意匠面を備えた、樹脂成形品からなる基材と、(b)該基材の前記意匠面に対して、物理蒸着法又は化学蒸着法により直接に形成されて、金属調の加飾を実現する金属薄膜と、(c)樹脂と金属の両方に架橋する透明な塗料を用いて、該金属薄膜上に直接に積層形成された塗膜からなる第一のトップコート層と、(d)該第一のトップコート層上に更に直接に積層形成された、ガラス転移温度が55〜120℃である透明な塗膜からなる第二のトップコート層とを含んで構成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【0016】
<2> 前記第一のトップコート層が、5〜40μmの膜厚を有している上記態様<1>に記載の加飾樹脂成形品。
【0017】
<3> 前記第二のトップコート層が、5〜40μmの膜厚を有している上記態様<1>又は<2>に記載の加飾樹脂成形品。
【0018】
<4> 前記第一のトップコート層を形成するのに用いられる塗料が、2液硬化型塗料である上記態様<1>乃至<3>のうちの何れか一つに記載の加飾樹脂成形品。
【0019】
<5> 前記第一のトップコート層を形成するのに用いられる2液硬化型塗料が、アクリルシリコン樹脂系2液硬化型塗料である上記態様<4>に記載の加飾樹脂成形品。
【0020】
<6> 前記金属薄膜が、0.001〜1μmの膜厚を有している上記態様<1>乃至<5>のうちの何れか一つに記載の加飾樹脂成形品。
【0021】
<7> 前記金属薄膜が、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されている上記態様<1>乃至<6>のうちの何れか一つに記載の加飾樹脂成形品。
【0022】
<8> 前記金属薄膜が、金、銀、白金、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、チタン、モリブデンのうちの何れか1種からなる金属材料、又はそれらのうちの何れか2種以上からなる合金材料を用いて形成されている上記態様<7>に記載の加飾樹脂成形品。
【0023】
<9> 前記金属薄膜が、ステンレス鋼を用いて形成されている上記態様<7>に記載の加飾樹脂成形品。
【0024】
<10> 自動車用内装部品である上記態様<1>乃至<9>のうちの何れか一つに記載の加飾樹脂成形品。
【0025】
<11> 樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品を製造する方法であって、(a)前記基材の意匠面に対して、金属薄膜を物理蒸着法又は化学蒸着法により直接に形成して、金属調の加飾を施す工程と、(b)樹脂と金属の両方に架橋する透明な塗料を用いて、前記金属薄膜に対して、透明な塗膜からなる第一のトップコート層を直接に積層形成する工程と、(c)前記第一のトップコート層に対して、ガラス転移温度が55〜120℃である透明な塗膜からなる第二のトップコート層を直接に積層形成する工程とを含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
すなわち、本発明に従う加飾樹脂成形品にあっては、意匠面に対して、金属薄膜が、物理蒸着法や化学蒸着法によって直接に形成されているため、かかる金属薄膜の膜厚が、例えばメタリック塗装や金属メッキによって形成される塗膜やメッキ膜よりも十分に薄くされており、しかも、物理蒸着法によって意匠面に金属薄膜が形成された従来の加飾樹脂成形品とは異なって、金属薄膜と意匠面との間に、アンダーコート層が何等設けられていない。それ故、意匠面に設けられる角部やエッジ部が、膜厚の極めて薄い金属薄膜にて直接に覆われて、それら角部やエッジ部が、本物の金属製品と同程度にシャープに角張った形状となる。また、意匠面にシボ模様やヘアライン模様等形成するための微細な凹部が設けられている場合にも、そのような凹部が、金属薄膜にて埋まってしまうことも、効果的に解消され得る。
【0027】
そして、本発明に係る加飾樹脂成形品においては、金属薄膜上に、透明な塗膜からなる第一のトップコート層が、樹脂と金属の両方に架橋する透明な塗料を用いて、直接に積層形成されている。そのため、従来品において、金属薄膜の意匠面への付着性を高めることを目的として、それら金属薄膜と意匠面との間に形成されるアンダーコート層が省略されているにも拘わらず、金属薄膜の意匠面への付着性が有利に高められ得る。この理由は、金属薄膜が、物理蒸着法や化学蒸着法によって形成されていることで、内部と外部とを相互に連通する連通孔を多数備えた多孔質形態とされており、そのため、金属薄膜と架橋する第一のトップコート層の一部が、金属薄膜内に連通孔を通じて浸透して、樹脂製の基材とも架橋して、金属薄膜と基材の意匠面の両方に対して確実に付着するようになることに起因すると考えられる。
【0028】
しかも、本発明に従う加飾樹脂成形品では、第一のトップコート層上に、55〜120℃の範囲内の高いガラス転移温度を有する透明な塗膜からなる第二のトップコート層が、更に直接に積層形成されている。これによって、第二のトップコート層、ひいては加飾樹脂成形品全体の耐薬品性が有利に高められている。
【0029】
従って、かくの如き本発明に従う加飾樹脂成形品にあっては、意匠面に対する金属薄膜の高い付着性と優れた耐薬品性とを十分に確保し、それによって、金属薄膜、ひいては成形品全体の耐久性を効果的に高めつつ、金属表面を、よりリアルに表現することが可能となるのである。
【0030】
また、かかる加飾樹脂成形品においては、その最外層を形成する第二のトップコート層が、高いガラス転移温度を有していることで、不粘着性が良好となる。これによって、本発明に係る加飾樹脂成形品が、意匠面に対する金属薄膜の高い付着性と優れた耐薬品性とに加えて、良好な不粘着性をも兼備して、車両用内装部品に対する要求特性を十分に満たし得るようになり、以て、そのような加飾樹脂成形品が、車両用内装部品として、好適に使用され得ることとなるのである。
【0031】
そして、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法によれば、意匠面に対する金属薄膜の高い付着性と優れた耐薬品性とを十分に確保して、金属薄膜、ひいては成形品全体の耐久性の向上を効果的に図りつつ、金属表面を更に一層リアルに表現可能な加飾樹脂成形品が、アンダーコート層が省略されている分だけ、効率的に且つ低コストに製造され得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0033】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の一実施形態として、自動車のインストルメントパネルの一部を構成する、自動車用内装部品たるカバーパネルが、その斜視形態と部分断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態のカバーパネル10は、樹脂成形品からなる基材12を有し、この基材12に対して金属調の加飾が施されて、構成されている。
【0034】
より具体的には、カバーパネル10の基材12は、略薄肉長手矩形状の平板の中央部に長手矩形の窓部13が設けられてなる矩形の枠部14と、この枠部14の長手方向両側端部に対して、板厚方向の一方側に延びるようにそれぞれ一体形成された二つの取付部16,16とを有している。また、かかる基材12においては、枠部14における取付部16形成側の面とは反対側の面、つまり、カバーパネル10の表面(インストルメントパネルへの取付状態下で、車室内に露呈する面)となる面が、意匠面18とされている。そして、この基材12の意匠面18に対して、極めて膜厚の薄い金属薄膜20が、意匠面18の全面を覆うようにして、直接に形成されている。また、この金属薄膜20の意匠面18側とは反対側(上側)には、透明な塗膜からなる第一のトップーコート層22が直接に形成され、更に、この第一のトップコート層22上に、第一のトップコート層22とは別の透明な塗膜からなる第二のトップコート層23が、直接に積層形成されている。
【0035】
すなわち、本実施形態においては、樹脂成形品からなる基材12の意匠面18に対して、下側から順番に、金属薄膜20と第一のトップーコート層22と第二のトップコート層23とが直接に積層形成されている。そして、基材12の意匠面18の全面に金属薄膜20が形成されていることで、基材12の意匠面18に金属調の加飾が施され、以て、カバーパネル10(枠部14)の表面において、金属特有の色や光沢等が発現されて、金属表面が擬似的に表現され得るようになっている。また、かかる金属薄膜20に対して第一のトップコート層22と第二のトップコート層23とが積層形成されていることにより、金属薄膜20が、それら第一及び第二のトップコート層22,23にて保護されて、金属薄膜20の他部材との接触等による摩耗や剥離、損傷等が防止されると共に、各種の薬品等に対する金属薄膜20の耐久性が十分に確保され得るようになっているのである。
【0036】
ここで、カバーパネル10の基材12は、カバーパネル10全体の優れた成形性や加工性、更には軽量性を確保するために、樹脂成形品にて構成されている。それ故、そのような点からして、基材12の形成材料として用いられる樹脂材料は、例えば、射出成形手法等の容易な成形手法が採用され得るものであれば、その種類が、特に限定されるものではない。従って、基材12の形成材料としては、例えば、ABS、AAS、AES、AS、PC、PMMA、PET、PBT、PP、PE、PA、PS等の樹脂材料のうちの何れか1種類のものが、単独で、或いはそれらのうちの2種類以上が混合されて、ポリマーアロイの形態で使用される。
【0037】
なお、例示された樹脂材料の中でも、ヒケやウエルドラインによる無用な凹凸部が生じ難いもの、例えば、ABS、AAS、AES、PC、PMMA、PS等の非晶性樹脂や、PET、PBT等の微結晶樹脂等が、より好適に使用される。何故なら、本実施形態のカバーパネル10は、基材12の意匠面18に対して、極めて膜厚の薄い金属薄膜20が直接に形成されて、従来品において、意匠面18と金属薄膜20との間に形成されていたアンダーコート層が省略されているため、アンダーコート層によって発揮される隠蔽効果が得られない。それ故、所望の意匠性を安定的に確保する上において、意匠面18に無用な凹凸部分が存在しないようにされていることが望ましいからである。
【0038】
そして、本実施形態では、かかる基材12の意匠面18に対して、金属薄膜20が、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーディング法等の物理蒸着法(PVD法)、又は熱CVD法や、プラズマCVD法、光CVD法等の化学蒸着法(CVD法)等を利用して、直接に形成されている。これによって、金属薄膜20の膜厚が、例えば、意匠面18に金属メッキやメタリック塗装を施すことで形成されるメッキ膜や塗膜等からなる金属膜の膜厚に比して、極めて薄くされており、また、金属薄膜20と意匠面18との間には、例えば、金属薄膜20の意匠面18への付着性を高めること等を目的として、従来品に設けられるアンダーコート層が、何等形成されていない。
【0039】
かくして、本実施形態のカバーパネル10にあっては、膜厚の厚いメッキ膜や塗膜が基材12の意匠面18に形成される場合や、金属薄膜20と意匠面18との間にアンダーコート層が設けられる場合とは異なって、意匠面18の外周縁のエッジ部や角部等が、より角張った形態とされ、以て、見る者に対して、金属が本来有するシャープな印象を与え得るようになっている。
【0040】
なお、薄い厚さとされる金属薄膜20の具体的な膜厚は、特に限定されるものではないものの、0.001〜1μm程度の厚さとされていることが、好ましい。何故なら、金属薄膜20の膜厚が0.001μmを下回る場合には、金属薄膜20が余りに薄過ぎるために、均一な膜厚を得ることが容易でないだけでなく、意匠面18において、金属の色や光沢等を発現させることが難しくなり、金属薄膜20にて、金属の表面を擬似的に表現することが困難となってしまうからである。また、金属薄膜20の膜厚が1μmを超える厚さとなると、今度は金属薄膜20が厚過ぎるために、意匠面18の外周縁のエッジ部や角部等が、Rがかかった丸みを帯びた形態となり、それによって、エッジ部や角部がシャープさに欠けるものとなってしまう恐れがからである。即ち、金属薄膜20の膜厚は、0.001〜1μmの範囲内の値とされることが望ましく、そうすることにより、意匠面18において、より本物感に富んだ金属表面が、確実に表現され得るのである。なお、そのような効果を更に有効に得る上では、金属薄膜20の膜厚が0.005〜0.1μmの範囲内の値とされていることが、更に望ましい。
【0041】
また、一般に、樹脂の線膨張係数は、金属の線膨張係数の1/10程度であるが、樹脂成形品からなる基材12の線膨張係数と金属薄膜20の線膨張係数との間に大きな違いがあると、カバーパネル10の急加熱や急冷等によって、基材12が熱膨張したり、熱収縮したりしたときに、金属薄膜20が、基材12に追従して熱変形することが出来ずに、金属薄膜20に割れや皺が生ずる恐れがあり、またその逆に、カバーパネル10の急加熱や急冷等による基材12の熱変形が、金属薄膜20にて阻害乃至は阻止されて、基材12に歪みが生ずるといった懸念もある。そのため、金属薄膜20の線膨張係数は、樹脂成形体からなる基材12の線膨張係数と、可及的に近い値とされていることが、望ましい。
【0042】
従って、ここでは、金属薄膜20を形成する金属材料として、例えば、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料が、好適に用いられる。これにより、金属薄膜20と基材12との間の線膨張係数の違いに起因して、カバーパネル10の熱変形時に、金属薄膜20に割れや皺が生ずることや、基材12に歪みが生ずること等が、効果的に防止され得るようになる。即ち、金属薄膜20を形成する金属材料の線膨張係数は、6.0×10-6以上とされていることが望ましく、それによって、金属薄膜20の割れや皺等を可及的に生ぜしめることなく、長期に亘って安定した品質が確保され得ることとなるのである。
【0043】
なお、このような線膨張係数の違いにより金属薄膜20に割れや皺等が生ずる問題は、金属薄膜20の膜厚が大きくなる程、顕在化し、特に金属薄膜20の膜厚が1μm以上となると顕著となる。それ故、金属薄膜20が6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されている場合にあっても、金属薄膜20の割れや皺等の発生を防止する点からすれば、金属薄膜20の膜厚が1μm未満の値となっていることが望ましい。
【0044】
そして、そのような金属薄膜20を形成する金属材料の種類は、上記の如き物理蒸着法や化学蒸着法によって、金属薄膜20を基材12の意匠面18上に直接に形成可能なものであれば、特に限定されるものではないものの、上記の如き利点を得るべく、ここでは、金属薄膜20の形成材料として、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、チタン、モリブデンのうちの何れか1種類の金属材料が、或いはそれらのうちの何れか2種類以上からなる合金材料が、好適に使用される。その他、各種のステンレス鋼も、金属薄膜20の形成材料として用いられ得る。
【0045】
また、図1及び図2から明らかなように、本実施形態のカバーパネル10においては、枠部14の表面となる基材12の意匠面18の外周部が、凹凸のない平滑面からなる被加飾平滑面部24とされて、この被加飾平滑面部24に対して、その全面を覆うように、金属薄膜20が形成されている。これによって、枠部14の表面の外周部に、鏡面加工されてなる如き金属調の加飾が施された平滑な鏡面部26が、該外周部の全周に亘って周方向に延びるように形成されている。
【0046】
さらに、基材12の意匠面18における被加飾部平滑面部24を除く全ての部分に、微細なシボ状凹部28が、互いに不均一な深さや大きさを有して、多数且つ密に直接に設けられている。そして、それら多数の微細なシボ状凹部28が設けられた部分が、凹凸のない平滑面からなる被加飾平滑面部24とは異なって、シボ模様が形成された被加飾模様形成面部30とされている。また、この被加飾模様形成面部30に対しても、それらの全面を覆うように、金属薄膜20が形成されている。これによって、枠部14の表面のうちで、その外周部に設けられた鏡面部26を除く全ての部分が、微細なシボ模様を有する金属調の加飾が施されたシボ模様部32とされている。
【0047】
かくして、本実施形態のカバーパネル10においては、唯一つの基材12からなる枠部14の表面(基材12の意匠面18)に、鏡面部26とシボ模様部32とが互いに隣り合って位置するように形成されている。それによって、枠部14の表面の隣り合う箇所に、模様の有無により互いに異なる外観とされた2種類の金属調の加飾が施されており、その結果、あたかも、立体的な質感が互いに異なる表面を有する2種類の金属部材が一体的に組み付けられて、枠部14が構成されている如き印象を、見る者に与え得るようになっている。
【0048】
そして、ここでは、意匠面18に設けられた多数のシボ状凹部28の深さや開口面積が、十分に小さくされている。具体的には、それらの多数のシボ状凹部28が設けられた意匠面18に対して、金属薄膜20よりも膜厚の厚い金属メッキ膜やメタリック塗膜が形成された際には、各シボ状凹部28が、それら金属メッキ膜やメタリック塗膜にて埋まって、金属メッキ膜やメタリック塗膜の表面が平滑面となってしまうものの、膜厚が十分に薄い金属薄膜20が、意匠面18に設けられたときには、金属薄膜20の表面に、各シボ状凹部28に対応した凹部が形成され得る程度において、シボ状凹部28の深さや開口面積が設定されている。かくして、意匠面18に対して、金属メッキ膜やメタリック塗膜が形成されて、加飾が施された従来の加飾樹脂成形品では到底得られない程の繊細で且つ緻密なシボ模様が、シボ模様部32にて付与されているのである。
【0049】
一方、意匠面18に直接に設けられた金属薄膜20に対して、更に直接に積層形成された第一のトップコート層22は、金属薄膜20の全面に、透明な塗料が塗布されること等によって形成された塗膜にて、構成されている。そして、特に、そのような第一のトップコート層22を構成する透明な塗膜が、樹脂と金属の両方に架橋する塗料を用いて形成されている。つまり、ここでは、第一のトップコート層22が、樹脂成形品からなる基材12と各種の金属材料からなる金属薄膜20の両方に対して、化学的な付着性を高度に発揮する特性を備えた、透明な塗料を用いて、形成されているのである。
【0050】
これにより、本実施形態のカバーパネル10では、従来品において、金属薄膜20の意匠面18への付着性を高めることを目的として、金属薄膜20と意匠面18との間に形成されるアンダーコート層が何等形成されていないにも拘わらず、金属薄膜20の基材12の意匠面18への付着性が有利に高められている。先に詳述せるように、この理由は、第一のトップコート層22を形成する塗料が、金属薄膜20を構成する金属材料と架橋して、金属薄膜20の表面上に付着する一方、そのような塗料の一部が、物理蒸着法又は化学蒸着法にて多孔質形態をもって形成された金属薄膜20が有する連通孔を通じて、金属薄膜20内に浸透し、そして、この金属薄膜20内に浸透した塗料の一部が、基材12を構成する樹脂材料と架橋して、基材12の意匠面18上に付着する。そうして、金属薄膜20が、第一のトップコート層22により、基材12の意匠面18に対して強固に付着させられていることによるものと考えられる。
【0051】
このような第一のトップコート層22を形成する透明な塗料は、樹脂と金属の両方に架橋する特性を備えた透明なものであれば、その種類が限定されるものではなく、例えば、UV硬化型や、熱硬化型、2液硬化型等の各種のクリヤ塗料が、何れも採用され得る。そして、ここでは、それらのクリヤ塗料のうちで、主剤と硬化剤又は架橋剤等の2液からなる2液硬化型のクリヤ塗料が、用いられている。これにより、UV硬化型や熱硬化型のクリヤ塗料を用いる場合とは異なって、紫外線照射装置や加熱装置等の特別な装置を用いることなく、クリヤ塗料を常温で硬化させることが出来、以て、第一のトップコート層22の形成作業の効率化と低コスト化とが、有利に図られ得る。なお、このような透明な2液硬化型のクリヤ塗料としては、アクリルシリコン樹脂系の2液硬化型のクリヤ塗料や、樹脂と金属の両方に架橋するシランカップリング剤が添加されたアクリルウレタン樹脂系の2液硬化型のクリヤ塗料等が、例示され得る。
【0052】
第一のトップコート層22の厚さも、特に限定されるものではないが、5〜40μm程度の範囲内の厚さとされていることが、望ましい。何故なら、第一のトップコート層22の厚さが5μmを下回る場合には、第一のトップコート層22が余りに薄過ぎるために、第一のトップコート層22の形成による金属薄膜20の基材12に対する付着性の向上効果を十分に得ることが困難となってしまうからである。また、第一のトップコート層22が40μmを超える厚さとされる場合には、第一のトップコート層22を形成するのに使用される塗料の量が増大し、それに伴って、そのような塗料の一成分たる基材12を侵食する成分(例えば、シンナー等の混合溶媒)の第一のトップコート層22中の含有量が増大する。そのために、基材12を侵食する第一のトップコート層22の含有成分が金属薄膜20を多く透過するようになって、かかる含有成分による基材12の侵食が進んで、金属薄膜20にクラックが生じたり、金属薄膜20が基材12から剥がれ易くなったりする可能性が大きくなるからである。
【0053】
また、かかる第一のトップコート層22に対して更に直接に積層形成された第二のトップコート層23も、第一のトップコート層22の全面に、透明な塗料が塗布されること等によって形成された塗膜にて、構成されている。そして、特に、そのような第二のトップコート層23を構成する塗膜が、基材との間にアンダーコート層が設けられた金属薄膜上に形成される従来のトップコート層を構成する塗膜等よりも高いガラス転移温度を有している。つまり、ここでは、第二のトップコート層23が、高いガラス転移温度を有する塗膜を形成可能なクリヤ塗料を用いて、形成されているのである。
【0054】
この第二のトップコート層23のガラス転移温度は、具体的には、55〜120℃の範囲内の値とされている必要がある。何故なら、第二のトップコート層23のガラス転移温度が55℃よりも低い値である場合には、十分な耐薬品性を得ることが出来なくなってしまうからである。また、第二のトップコート層23のガラス転移温度が120℃よりも高い値であると、良好な耐薬品性は得られるものの、内部応力が大きくなって、第二のトップコート層23にクラックが発生したり、付着性が低下したりする不具合が生ずるようにならからである。
【0055】
このような第二のトップコート層22を形成するクリヤ塗料は、ガラス転移温度が55〜120℃である透明な塗膜を形成するものであれば、その種類が限定されるものではない。具体的には、かかるクリヤ塗料として、アクリルウレタン樹脂系2液硬化型塗料や、ウレタン樹脂系塗料、フタル酸樹脂系塗料 、メラミン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料(例えば、アクリル樹脂系熱硬化型塗料、アクリル樹脂系UV硬化型塗料、アクリルラッカー)等の塗料で、且つ塗膜のガラス転移温度が55〜120℃であるクリヤ塗料等が例示される。そして、本実施形態のカバーパネル10の第二のトップコート層23を形成する際には、例示の塗料の中から、耐衝撃性や不粘着性等が良好な塗膜を形成可能で、また、塗膜の形成時における塗料の伸びが良く、更には塗膜の内部応力が低いもの等、自動車用内装部品に形成される塗膜が有するべき塗膜性能を発揮し得るものが、適宜に選択されて使用される。
【0056】
なお、第二のトップコート層22を形成するクリヤ塗料は、上記の条件を満たすものであれば、UV硬化型や、熱硬化型、2液硬化型等の各種のクリヤ塗料が、何れも採用され得るが、ここでは、第一のトップコート層22を形成する場合と同様に、2液硬化型のクリヤ塗料が、好適に用いられる。これによって、第二のトップコート層23を、第一のトップコート層22と同様に、効率的且つ低コストに形成される。
【0057】
第二のトップコート層23の厚さも、特に限定されるものではないが、5〜40μm程度の範囲内の厚さとされていることが、望ましい。何故なら、第二のトップコート層23の厚さが5μmを下回る場合には、膜厚が余りに薄過ぎるために、耐薬品性を十分に得ることが困難となってしまうからであり、また、第二のトップコート層23が40μmを超える厚さとされる場合には、耐衝撃性が低くなる傾向があるからである。
【0058】
ところで、本実施形態のカバーパネル10では、上記せる第一のトップコート層22を形成するクリヤ塗料と第二のトップコート層23を形成するクリヤ塗料とに、艶消し材が含有されている。つまり、第一のトップコート層22と第二のトップコート層23とが、何れも透明な艶消し塗膜にて構成されている。これによって、基材12の意匠面18、即ちカバーパネル10の表面全体における光の反射率が適度に下げられて、カバーパネル10が自動車のインストルメントパネルに組み付けられたときに、自動車の乗員が、特に鏡面部26において感じるまぶしさが効果的に低く抑えられ得るようになり、また、いぶし銀調の金属感が、有利に得られる。なお、ここで用いられる艶消し材としては、例えば、アルミナや微粉シリカ、マイカ、ビーズ、ポリエチレン微粒子等の公知のものが、適宜に選択されて、使用される。勿論、第一のトップコート層22や第二のトップコート層23を形成するクリヤ塗料に、艶消し材が含まれていなくても、何等差し支えない。
【0059】
また、第一のトップコート層22と第二のトップコート層23は、何れも、金属薄膜20が発する金属光沢や金属色が外部から視認され得るように、透明でなければならないが、必ずしも無色である必要はない。例えば、カバーパネル10が取り付けられるインストルメントパネルと同じ色や、カバーパネル10独自の意匠に則した、インストルメントパネルとは異なる色等に直色されていても良い。また、本物の金属製品は、周囲の色調を反射して、例えば、青みがかった色や黄みがかった色を発する場合があるところから、そのような周囲の色調を反射したとき生ずる色に、第一のトップコート層22と第二のトップコート層23とを着色しても良い。これによって、より本物の金属製品に近い印象を与えることが出来る。
【0060】
而して、かくの如き構造を有する本実施形態のカバーパネル10は、例えば、以下の作業手順に従って、製造されることとなる。
【0061】
すなわち、先ず、窓部13を備えた枠部14と二つの取付部16,16とを一体的に有する基材12を、例えば、先に例示した樹脂材料を用いた射出成形等による金型成形を行うことによって、成形する。このとき、射出成形用金型として、成形キャビティ面に、基材12における被加飾模様形成面部32に設けられる極めて微細なシボ状凹部28に対応した極めて微細な突起が多数且つ密に設けられた部分と、被加飾平滑面部24に対応して鏡面研磨された部分とが、互いに隣り合って位置するように設けられてなるものを用いる。これによって、基材12を成形すると同時に、基材12の意匠面18に対して、第一の被加飾模様形成面部32と第二の被加飾模様形成面部30と被加飾平滑面部24とを、互いに隣り合って位置するように形成する。
【0062】
なお、本工程で用いられる金型の成形キャビティ面に、極めて微細なシボ状凹部28に対応した極めて微細な突起を形成する手法としては、例えば、ショットブラストやエッチング、研磨等、金型の成形キャビティ面に対して所定の凹凸部を形成するのに一般的に実施される公知の手法が、何れも採用され得るが、それらの中でも、ショットブラストや研磨等、成形キャビティ面に形成される凹部や凸部の形状や大きさ、深さ等が不均一となる手法が、好適に採用され得る。これによって、成形キャビティ面に形成される凸部等に対応した形状をもって、目的とするカバーパネル10の表面(枠部14の表面)に形成される凹部からなるシボ模様が、形状や大きさ、深さ等においてバラツキのあるものとなり、以て、金属調の加飾が施されて、最終的に得られるカバーパネル10において、金属表面が、よりリアルに表現され得るようになる。
【0063】
また、最終的に得られるカバーパネル10において、金属表面のリアルさを更に高めるには、基材12の意匠面18に設けられる被加飾平滑面部24が、より高い平滑性を有していることが望ましい。そのため、ここでは、金型の成形キャビティ面に、例えば、3000番以上の研磨紙を用いて研磨した鏡面にて、被加飾平滑面部24対応した鏡面研磨部分が設けられ、また、型材質として、精密加工が可能なプリハードン材やピンホールの出難い材質のものが、好適に用いられる。
【0064】
そして、基材12を形成する樹脂材料には、鏡面研磨されたキャビティ面部分や極めて微細な突起が形成されたキャビティ面部分のそれぞれの表面形状が確実に転写され得るような転写性に優れた材料であって、且つヒケ等の発生を防止する上で、成形収縮率が可及的に小さいものが、望ましい。それ故、ここでは、基材12の形成材料として、先に例示したものの中でも、例えば、スパイラルフローテストによって測定されるスパイラル流動長が30以上で、成形収縮率が10/1000以下のものが、特に好適に使用される。また、基材12を形成する樹脂材料の溶融時の流動性を高める上から、かかる樹脂材料に配合される配合成分は、好適には、その粒径が微細化される。
【0065】
また、基材12の意匠面18に設けられる被加飾平滑面部24が更に高い平滑性を有すると共に、被加飾模様形成面部30に対して、極めて微細なシボ状凹部28が更に確実に形成され得るように為すには、基材12を適正な成形条件下で金型成形を実施することが、望ましい。具体的には、射出成形にて基材12を成形する場合、有利には、金型温度が95℃以上で且つ射出速度が140mm/s以上とされる。また、金型内での樹脂材料の十分な流動性を安定的に確保するためには、捨てタブを設けたり、金型の一部に棒ヒータ等を設置したりすることも有効である。更に、金型を急冷急加熱する方法で、基材12の金型成形を行っても良い。
【0066】
なお、かくして成形される基材12を形成する樹脂材料の色は、特に限定されるものではなく、所望の色が選定されるが、例えば、無色透明又は有色透明な樹脂材料を用いて、基材12を無色又は有色の透明に為すことも出来る。そうした場合、周囲が明るいときには、カバーパネル10の表面において金属の光沢が発揮され、また、周囲が暗いときには、例えば、カバーパネル10の裏面側に配設したLED等を発光させることにより、カバーパネル10の表面側にLED等の光を漏れ出させて、光による意匠性を効果的に発揮させることが出来る。更に、基材12を有色透明とし、且つ色の濃度を部分的に異ならせた上で、カバーパネル10の裏面側に配設したLED等を発光させれば、光の明るさをグラデーション表現することも可能となる。
【0067】
次に、かくして形成された基材12の意匠面18(枠部14の表面)に、その全面を覆うようにして、金属薄膜20を、物理蒸着法又は化学蒸着法等により、十分に薄い膜厚をもって形成する。なお、この金属薄膜20の形成材料としては、例えば、先に例示した幾つかの種類の金属材料の中から、所望の金属色や金属光沢等を有するものが適宜に選択される。
【0068】
そして、金属薄膜20は、前述せる如き理由から、膜厚が0.001〜1μm程度とされていることが望ましいため、本工程においては、有利には、形成されるべき金属薄膜20の膜厚が0.001〜1μm程度の厚さとされ得るような条件の下で、所望の金属材料を用いた物理蒸着法や化学蒸着法等が実施されることとなる。また、好ましくは、金属薄膜20が高密度に成膜されるような条件(例えば、スパッタリング法を採用する場合には、比較的に低圧、例えば0.1Pa程度の圧力の雰囲気下で実施する条件)が、採用される。これによって、金属薄膜20上に積層形成される第一及び第二のトップコート層22,23の含有成分の一部で、基材12を侵食する成分が金属薄膜20を浸透することが可及的に阻止され、以て、かかる成分による金属薄膜20の侵食が、より効果的に防止され得る。
【0069】
次いで、基材12の意匠面18上の金属薄膜20の全面に、樹脂と金属の両方に架橋する特性を備えた透明な塗料を、例えば、塗布する。そうして、かかる塗料の透明な塗膜からなる第一のトップコート層22を、金属薄膜20に対して、10〜40μmの範囲内の厚さで金属薄膜20の全面を覆うように、直接に形成する。
【0070】
その後、第一のトップコート層22の全面に、塗膜のガラス転移温度が55〜120℃の範囲内の値である透明な塗料を、例えば、塗布する。そうして、かかる塗料の透明な塗膜からなる第二のトップコート層23を、第一のトップコート層22に対して、10〜40μmの範囲内の厚さで第一のトップコート層22の全面を覆うように、直接に形成する。かくして、目的とするカバーパネル10を得る。
【0071】
なお、第一のトップコート層22と第二のトップコート層23の形成に際しては、例えばローラ等を用いた塗装やスプレー塗装、ディッピング塗装等の公知の塗装方法のうちから、10〜40μmの範囲内の膜厚を有する塗膜を形成し得る手法が、適宜に選択されて、実行される。
【0072】
このように、本実施形態のカバーパネル10においては、基材12の意匠面18に、金属薄膜20が物理蒸着法や化学蒸着法によって十分に薄い膜厚をもって直接に形成されて、金属調の加飾が施されていることで、枠部14の表面において視認可能な角部やエッジ部がシャープに角張った形状とされ得る。また、意匠面18上に設けられたシボ状凹部28が、金属薄膜20にて埋まってしまうことがなく、それによって、金属メッキ膜やメタリック塗膜が意匠面に形成されるか、或いは金属薄膜と基材との間にアンダーコート層が形成されてなる従来のカバーパネルでは到底得られない程の繊細で且つ緻密なシボ模様が、枠部14の表面に確実に形成され得る。そして、それらの結果として、金属表面が、より斬新な印象をもって、更に一層リアルに表現され得る。
【0073】
また、かかるカバーパネル10では、金属薄膜20の意匠面18側とは反対側の面に、基材12と金属薄膜20の両方に架橋する特性を備えた透明な塗膜からなる第一のトップコート層22が、10〜40μmの範囲内の厚さで直接に形成されている。そのため、金属薄膜20と意匠面18との間に、金属薄膜20の意匠面18への付着性を高めること等を目的としたアンダーコート層が何等形成されていないにも拘わらず、金属薄膜20が意匠面18に対して強固に付着され得るようになっており、また、第一のトップコート層22による金属薄膜20の保護機能を維持しつつ、金属薄膜20を透過した第一のトップコート層22の一部の含有成分にて基材が侵食されて、金属薄膜20が剥がれ易くなってしまうようなことが、可及的に防止され得る。
【0074】
さらに、カバーパネル10においては、55〜120℃の範囲内のガラス転移温度を有する第二のトップコート層23が、第一のトップコート層22上に、10〜40μmの範囲内の厚さで直接に形成されている。これにより、第二のトップコート層23、ひいてはカバーパネル10全体の耐薬品性が有利に高められると共に、耐衝撃性の向上も図られ得る。
【0075】
従って、かくの如き本実施形態のカバーパネル10にあっては、金属薄膜20、ひいてはカバーパネル10全体の耐久性を、より高いレベルで有利に確保しつつ、意匠面18において、金属表面が、よりリアルに表現され得ることとなるのである。
【0076】
また、かかるカバーパネル10では、その最外層を形成する第二のトップコート層が、高いガラス転移温度を有していることで不粘着性が良好となり、これによって、熱のかかる環境下でも、良好な使用状態、或いは十分な耐久性が、効果的に確保され得る。
【0077】
さらに、本実施形態にあっては、基材12の意匠面18の互いに隣り合う箇所に設けられた被加飾平滑面部24と被加飾模様形成面部30とのそれぞれの全面に金属薄膜20が形成されている。これにより、基材12の意匠面18に対して、鏡面状とシボ模様の互いに外観が異なる2種類の金属調の加飾が施されて、立体的な質感が互いに異なる表面を有する2種類の金属部材が一体的に組み付けられ、以て、枠部14が構成されている如き印象を見る者に与え得る。そして、その結果、十分な高級感が、有利に発揮され得る。
【0078】
しかも、本実施形態のカバーパネル10は、あくまでも、一つの基材12の意匠面18に、互いに外観が異なる2種類の金属調の加飾が施されてなるものであるため、例えば、実際に、2種類の金属部材が一体的に組み付けられてなるものとは異なって、各金属部材同士の接触による異音の発生の問題等が効果的に皆無ならしめられ得るのであり、また、それによって、そのような異音対策のために、製造時に余分な作業負担やコスト負担が強いられることも、完全に解消され得る。
【0079】
従って、かくの如き本実施形態のカバーパネル10にあっては、簡略且つ低コストな構造において、高い耐久性と十分な本物感に加えて、より上質な高級感が、効果的に具備せしめられ得るのである。
【0080】
さらに、本実施形態のカバーパネル10にあっては、金属薄膜20が0.001〜1μmの範囲内の値の膜厚とされていることにより、意匠面18において、金属表面が、より一層リアルに表現され得るのであり、また、金属薄膜20が6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されているところから、基材12の熱変形に起因する金属薄膜20の割れや皺等の発生が可及的に防止されて、安定した品質が有利に確保され得るのである。
【0081】
そして、本実施形態のカバーパネル10は、アンダーコート層が省略されていることで、その分だけ、製造工程の簡略化と製造コストの削減とが、有利に図られ得る。
【0082】
また、かかる本実施形態のカバーパネル10を製造する際には、成形キャビティ面に、基材12の意匠面18における被加飾平滑面部24と被加飾模様形成面部30とを形成する部分が設けられた成形金型が用いられて、基材12が成形されると同時に、基材12の意匠面18に対して、被加飾平滑面部24と被加飾模様形成面部30とが、互いに隣り合って位置するように形成される。それ故、例えば、カバーパネル10の複数個が、全て同一の加工工程によって、効率的に且つ製作性良く、しかも均一な品質をもって、容易に製造され得ることとなる。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態に関する具体的な記載によって、何等限定的に解釈されるものではない。
【0084】
例えば、前記実施形態では、基材12の意匠面18に、凹凸のない平滑面からなる被加飾平滑面部24と、微細なシボ状凹部28が多数形成された被加飾模様形成面部30の2種類の被加飾部が設けられていたが、この基材12の意匠面18に、それら被加飾平滑面部24と被加飾模様形成面部30のうちちの何れか一方の被加飾部のみが形成されていても良い。或いは、微細なシボ模様以外の模様を有する被加飾部を形成することも、勿論可能である。
【0085】
また、金属薄膜20の厚さや第一及び第二のトップコート層22,23のそれぞれの厚さは、必ずしも均一とされている必要はない。
【0086】
さらに、第一のトップコート層22と第二のトップコート層23の両方が、ガラス転移温度が55〜120℃である塗膜を形成することが出来、且つ樹脂と金属の両方に架橋する特性を備えた透明な塗膜を用いて形成されたものであっても良い。
【0087】
さらに、基材12の複数の面が、それぞれ意匠面18とされていても良い。
【0088】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品の一種たるインストルメントパネルに取り付けられるカバーパネルとその製造方法に適用したものの具体例を示したが、本発明は、かかるカバーパネル以外の自動車用内装部品、例えば、センタークラスタ、レジスタベゼル、コンソールアッパーパネル、カップホルダードア、ドアアームレスト、インサイドハンドル、オーディオモール等のモール類等とその製造方法、或いは自動車用内装部品以外の加飾樹脂成形品とその製造方法の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0089】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0090】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0091】
先ず、縦×横×厚さ=150mm×150mm×3mmの寸法を有するPC/AASアロイ製の平板からなる板状基材を、射出成形によって複数枚成形して、準備した。また、金属膜の形成材料として、線膨張係数が15.9×10-6であるSUS316Lステンレス鋼を準備した。更に、第一のトップコート層の形成材料として、塗膜のガラス転移温度が45℃で、且つ樹脂と金属の両方に架橋する特性を備えた透明のアクリルシリコン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料A)を、また、第二のトップコート層の形成材料として、塗膜のガラス転移温度が55℃である透明のアクリルウレタン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料B)を、それぞれ所定量準備した。なお、塗料Aと塗料B、更には後述する塗料C〜Eを用いて形成された各塗膜のガラス転移温度は、塗装乾燥後、24時間経過した塗膜をDSC(示差熱天秤)[DSC6200:SII・ナノテクノロジー(株)製]を用いて、サンプル量:10mgで、−30℃から300℃、昇温速度10℃/min の測定条件にて測定した。
【0092】
次いで、準備された複数の板状基材のそれぞれの表面上に、SUS316Lステンレス鋼からなる金属薄膜を、公知のスパッタリング法により、0.03μmの厚さで形成した。引き続き、金属薄膜が表面に形成された板状基材の幾つかのものを用い、それら各板状基材の金属薄膜上に、塗料Aをスプレー塗装して、第一のトップコート層を、下記表1に示される膜厚で直接に形成した後、この第一のトップコート層上に、塗料Bをスプレー塗装して、第二のトップコート層を、下記表1に示される膜厚で直接に形成した。これにより、板状基材の表面に、金属薄膜が形成されて、金属調の加飾が施されると共に、かかる金属薄膜に対して、樹脂と金属の両方に架橋した塗膜からなる第一のトップコート層と、ガラス転移温度が本発明で規定される範囲内の値である塗膜からなる第二のトップコート層とが、その順番で直接に積層形成され、しかも、下記表1に示されるように、第一のトップコート層同士の膜厚と第二のトップコート層同士の膜厚が、それぞれ互いに異なる厚さとされた5種類の加飾樹脂成形品(試験例1〜5)を得た。なお、下記表1に示される数値は膜厚を示し、また、その単位はμmである。
【0093】
また、比較のために、試験例1〜5の加飾樹脂成形品の形成に用いられた板状基材と同様な板状基材を複数枚成形して、準備する一方、金属薄膜の形成材料として、線膨張係数が15.9×10-6であるSUS316Lステンレス鋼を準備した。更に、金属薄膜上に形成するトップコート層の形成材料として、試験例1〜5の加飾樹脂成形品樹脂の金属薄膜上に直接に形成された第一のトップコート層の形成材料と同一のアクリルシリコン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料A)の所定量と、試験例1〜5の加飾樹脂成形品樹脂の第一のトップコート層上に直接に形成された第二のトップコート層の形成材料と同一のアクリルウレタン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料B)の所定量とを準備した。また、それらに加えて、トップコート層の形成材料として、塗膜のガラス転移温度が40℃で、且つ樹脂と金属の両方に架橋する特性を備えた透明のアクリルシリコン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料C)の所定量と、塗膜のガラス転移温度が47℃である透明のアクリルウレタン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料D)の所定量と、塗膜のガラス転移温度が122℃である透明のアクリルウレタン樹脂系の2液硬化型塗料(塗料E)の所定量とを、それぞれ準備した。
【0094】
次いで、準備された複数の板状基材のそれぞれの表面上に、SUS316Lステンレス鋼からなる金属薄膜を、公知のスパッタリング法により、0.03μmの厚さで形成した後、それら各板状基材の金属薄膜上に、塗料A〜Eのうちの何れかをスプレー塗装して、トップコート層を、下記表1に示される膜厚で直接に形成した。これにより、板状基材の表面に、金属薄膜が形成されて、金属調の加飾が施されると共に、かかる金属薄膜に対して、塗料A〜Eのうちの何れかの塗膜からなるトップコート層の1層のみが直接に積層形成された5種類の加飾樹脂成形品(比較例1〜5)を得た。
【0095】
【表1】

【0096】
そして、かくして得られた試験例1〜5の加飾樹脂成形品と比較例1〜5の加飾樹脂成形品の合計10種類の加飾樹脂成形品を用いて、それら各加飾樹脂成形品の金属薄膜に対する下記表2及び表3に示される如き17項目についての評価試験を行った。本発明に従う構造を有する試験例1〜5の5種類の加飾樹脂成形品の評価試験結果を下記表2に、また、トップコート層が1層からなる、本発明とは異なる構造を有する比較例1〜5の5種類の加飾樹脂成形品の評価試験結果を下記表3に、それぞれ示した。
【0097】
なお、17項目の評価試験のそれぞれの評価方向は、以下の通りとした。
【0098】
「外観」・・・各加飾樹脂成形品の金属薄膜とトップコート層とが形成された表面を外部から目視して、ゆず肌やうねり、割れ(クラック)、皺等の外観不良となる異常の有無を調べた。異常なしの場合は○、異常有りの場合は×として、評価した。
【0099】
「硬度」・・・JIS K5600−5−4に準拠して、各加飾樹脂成形品の表面に対する引っ掻き硬度試験を行って、各加飾樹脂成形品表面の鉛筆硬度を測定した。その測定結果が鉛筆硬度がF以上であれば○、それがF未満であれば×として、評価した。
【0100】
「初期付着性」・・・JIS K5600−5−6に準拠して、各加飾樹脂成形品の表面にカッターナイフを垂直に当てて、1mm角の碁盤目(100マス)を描いた(切込みを入れた)後、各加飾樹脂成形品の表面に、接着強度0.44±0.05kgf/mmの接着テープを貼り付け、その後、これを45°の角度で急激に引き剥がす付着性試験を行って、各加飾樹脂成形品の金属薄膜の剥離の有無を調べた。その結果、金属薄膜の剥離が100箇所中(100マス)で1箇所も無かったものは○、金属薄膜の剥離が100箇所中で1箇所でも認められたものは×として、評価した。
【0101】
「耐湿付着性」・・・各加飾樹脂成形品を、50±2℃、湿度95%以上の恒温槽内に収容して、240時間放置し、その後、上記の付着性試験を実施した。その結果、金属薄膜の剥離が100箇所中(100マス)で1箇所も無かったものは○、金属薄膜の剥離が100箇所中で1箇所でも認められたものは×として、評価した。
【0102】
「耐湿冷熱繰返し付着性」・・・各加飾樹脂成形品を、90℃の恒温槽内に15.5時間放置→30℃の恒温槽内に7.5時間放置→49℃、湿度95%の恒温槽内に15.5時間放置→30℃の恒温槽内に7.5時間放置するサイクルを4サイクル行った後、上記の付着性試験を実施した。その結果、金属薄膜の剥離が100箇所中(100マス)で1箇所も無かったものは○、金属薄膜の剥離が100箇所中で1箇所でも認められたものは×として、評価した。
【0103】
「耐水性」・・・各加飾樹脂成形品の表面上に内径38mmのポリエチレン製円筒体を密着させて、この円筒体の内部に蒸留水を5ml滴下した状態において、55±1℃の温度下で4時間放置した後の色差ΔEを公知の手法により求めた。その結果、色差ΔE<0.8で、且つ外観に、目視による異常(ゆず肌やうねり、割れ、皺等)のが認められなかったものを○、そうでなかったものを×として、評価した。
【0104】
「耐アルカリ性」・・・各加飾樹脂成形品の表面上に内径38mmのポリエチレン製円筒体を密着させて、この円筒体の内部に0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を5ml滴下した状態において、55±1℃の温度下で4時間放置した後の色差ΔEを公知の手法により求めた。その結果、色差ΔE<1.5で、且つ外観に、目視による異常が認められなかったものを○、そうでなかったものを×として、評価した。
【0105】
「耐酸性」・・・各加飾樹脂成形品の表面上に内径38mmのポリエチレン製円筒体を密着させて、この円筒体の内部に0.1規定の硫酸水溶液を5ml滴下した状態において、20±2℃の温度下で24時間放置した後の色差ΔEを公知の手法により求めた。その結果、色差ΔE<1.5で、且つ外観に、目視による異常が認められなかったものを○、そうでなかったものを×として、評価した。
【0106】
「耐揮発油性」・・・各加飾樹脂成形品の表面上に内径38mmのポリエチレン製円筒体を密着させて、この円筒体の内部に揮発油(体積基準でノルマルヘキサン:ノルマルへプタン=50:50の溶液)を5ml滴下した状態において、20±2℃の温度下で3時間放置した。その結果、外観に、目視による異常が認められなかったものを○、異常が認められたものを×として、評価した。
【0107】
「耐油脂性」・・・各加飾樹脂成形品の表面に牛脂を2g/100cm2 の割合で塗布した状態で、80℃の温度下で1週間放置した後、上記の付着性試験を実施した。その結果、金属薄膜の剥離が100箇所中(100マス)で1箇所も無く、且つ外観に、目視による異常が認められなかったものを○、金属薄膜の剥離が100箇所中で1箇所でも認められたもの、又は外観に、目視による異常が認められたものを×として、評価した。
【0108】
「耐サンスクリーン性」・・・各加飾樹脂成形品の表面に、日焼け止め(商品名:ウルトラシアー ドライタッチ・サンブロックSPF45、ニュートロジーナ製)0.5g/100cm2 の割合で塗布した状態で、55±2℃の温度下で2時間放置した後、日焼け止めを除去せずに、各加飾樹脂成形品の表面に対して、綿帆布を付けた、荷重5kgの摩擦子を200回往復させる摩擦試験を行った。その結果、外観に、目視による異常が認められなかったものを○、異常が認められたものを×として、評価した。
【0109】
「耐可塑剤性」・・・各加飾樹脂成形品の表面上に内径38mmのポリエチレン製円筒体を密着させて、この円筒体の内部に可塑剤(フタル酸ジオクチル:DOP)を5ml滴下した状態において、55±1℃の温度下で4時間放置した。その結果、外観に、目視による異常が認められなかったものを○、異常が認められたものを×として、評価した。
【0110】
「耐芳香剤性」・・・各加飾樹脂成形品の表面上に内径38mmのポリエチレン製円筒体を密着させて、この円筒体の内部に芳香剤[商品名:ポピー、(株)ダイヤケミカル製]を5ml滴下した状態において、55±1℃の温度下で4時間放置した。その結果、外観に、目視による異常が認められなかったものを○、異常が認められたものを×として、評価した。
【0111】
「耐衝撃性」・・・JIS K5600−5−3に準拠して、デュポン式衝撃試験機を用いて、各加飾樹脂成形品の表面に、重りを20cmの高さから2.94Nの荷重で落下させる衝撃試験を行った。その結果、目視により、塗膜と金属薄膜の何れにも割れが認められなかったものを○、割れが認められたものを×として、評価した。
【0112】
「不粘着性」・・・70±2℃に設定された恒温槽内に、500gの重りとガーゼと各加飾樹脂成形品とをそれぞれ収容して、2時間放置した後、恒温槽内で、各加飾樹脂成形品の表面上にガーゼを載せ、更にその上に500gの重りを置いて、更に2時間放置した。その後、各加飾樹脂成形品を恒温槽内から取り出して、常温となるまで放置した後、目視により、重りの跡の有無を調べる不粘着性試験を実施した。その結果、重りの跡が認められなかったものを○、重りの跡が認められたものを×として、評価した。
【0113】
「耐摩耗性」・・・JIS K5600−5−8に準拠し、テーパ形摩耗試験機を用い、これに各加飾樹脂成形品を取り付けて、その表面を、4.9Nの荷重で300回研磨した。その結果、基材の表面が目視により確認されなかったものを○、基材表面が確認されたものを×として、評価した。
【0114】
「耐光性」・・JIS K5600−7−5に準拠し、カーボンアーク式促進耐候試験機を用いて、各加飾樹脂成形品を人工光に400時間暴露した後の色差ΔEを公知の手法により求めた。その結果、色差ΔE≦3.0であったものを○、そうでなかったものを×として、評価した。
【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
表2から明らかなように、板状基材の表面に直接に形成された金属薄膜上に、樹脂と金属の両方に架橋した塗膜からなる第一のトップコート層と、ガラス転移温度が本発明で規定される範囲内の値である塗膜からなる第二のトップコート層とが、その順番で直接に積層形成されてなる試験例1〜5の加飾樹脂成形品のうち、第一のトップコート層と第二のトップコート層の膜厚が、何れも、本発明において好適範囲とされる5〜40μmの範囲内の値である試験例1の加飾樹脂成形品は、17個の評価項目の全てが○と評価されている。第一のトップコート層の膜厚が好適範囲を下回る試験例2の加飾樹脂成形品は、耐薬品性に関する全ての項目について○と評価されて、付着性に関する評価項目のうち、「耐湿冷熱繰返し付着性」についてのみが×と評価されている。第二のトップコート層の膜厚が好適範囲を下回る試験例3の加飾樹脂成形品は、付着性に関する評価項目の全てについて○と評価されて、耐薬品性に関する評価項目のうち、「耐サンスクリーン性」と「耐可塑剤性」のみが×と評価されている。第一のトップコート層の膜厚が好適範囲を上回る試験例4の加飾樹脂成形品は、付着性と耐薬品性に関する全ての項目について○と評価されて、「外観」のみが×と評価されている。第二のトップコート層の膜厚が好適範囲を上回る試験例5の加飾樹脂成形品は、「付着性」と「耐薬品性」に関する全ての項目について○と評価されて、「耐衝撃性」のみが×とされている。
【0118】
これに対して、表3から明らかなように、(ア)樹脂と金属の両方に架橋した塗膜からなるトップコート層と、(イ)ガラス転移温度が本発明で規定される範囲内の値である塗膜からなるトップコート層と、(ウ)ガラス転移温度が本発明で規定される範囲を下回る値である塗膜からなるトップコート層と、(エ)ガラス転移温度が本発明で規定される範囲を上回る値である塗膜からなるトップコート層のうちの何れかのトップコート層の1層のみが、板状基材の表面の金属薄膜上に直接に形成されてなる比較例1〜5の加飾樹脂成形品のうち、(ア)のトップコート層のみが金属薄膜上に形成された比較例1及び2の加飾樹脂成形品は、「耐薬品性」に関する評価項目において、試験例1〜5の加飾樹脂成形品のうちで最も評価の低かった試験例3の加飾樹脂成形品よりも、明らかに多くの項目数において×と評価されている。(イ)のトップコート層のみが金属薄膜上に形成された比較例4の加飾樹脂成形品は、「付着性」に関する3個の評価項目のうち、「耐湿付着性」と「耐湿冷熱繰返し付着性」の2個の評価項目について×と評価されている。(ウ)のトップコート層のみが金属薄膜上に形成された比較例3の加飾樹脂成形品は、「付着性」に関する3個の評価項目のうちの2個の評価項目について×と評価され、更に、「耐薬品性」に関する8個の評価項目のうちの4個の評価項目について×と評価されている。(エ)のトップコート層のみが金属薄膜上に形成された比較例5の加飾樹脂成形品は、「付着性」に関する3個の評価項目の全てについて×と評価されている。
【0119】
これらの結果から、板状基材の表面に直接に形成された金属薄膜上に、樹脂と金属の両方に架橋した塗膜からなる第一のトップコート層と、ガラス転移温度が本発明で規定される範囲内の値である塗膜からなる第二のトップコート層とを、その順番で直接に積層形成してなる加飾樹脂成形品が、高い「付着性」と優れた「耐薬品性」の両方を確実に発揮し得るものであることが、明確に認識され得る。そして、そのような加飾樹脂成形品において、第一のトップコート層の膜厚を5〜40μmの範囲内の値とすることによって、「付着性」が、より有利に高められ得ること、また、第二のトップコート層の膜厚を5〜40μmの範囲内の値とすることによって、「耐薬品性」が、更に効果的に高められ得ることも、把握され得る。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の一実施形態を示す斜視説明図である。
【図2】図1のII−II断面における部分拡大説明図である。
【符号の説明】
【0121】
10 カバーパネル 12 基材
18 意匠面 20 金属薄膜
22 第一のトップコート層 23 第二のトップコート層
24 被加飾平滑面部 26 鏡面部
28 シボ状凹部 30 被加飾模様形成面部
32 シボ模様部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属調の加飾が施されるべき意匠面を備えた、樹脂成形品からなる基材と、
該基材の前記意匠面に対して、物理蒸着法又は化学蒸着法により直接に形成されて、金属調の加飾を実現する金属薄膜と、
樹脂と金属の両方に架橋する透明な塗料を用いて、該金属薄膜上に直接に積層形成された塗膜からなる第一のトップコート層と、
該第一のトップコート層上に更に直接に積層形成された、ガラス転移温度が55〜120℃である透明な塗膜からなる第二のトップコート層と、
を含んで構成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【請求項2】
前記第一のトップコート層が、5〜40μmの膜厚を有している請求項1に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項3】
前記第二のトップコート層が、5〜40μmの膜厚を有している請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項4】
前記第一のトップコート層を形成するのに用いられる塗料が、2液硬化型塗料である請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項5】
前記第一のトップコート層を形成するのに用いられる2液硬化型塗料が、アクリルシリコン樹脂系2液硬化型塗料である請求項4に記載の加飾樹脂成形品
【請求項6】
前記金属薄膜が、0.001〜1μmの膜厚を有している請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項7】
前記金属薄膜が、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されている請求項1乃至請求項6のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項8】
前記金属薄膜が、金、銀、白金、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、チタン、モリブデンのうちの何れか1種からなる金属材料、又はそれらのうちの何れか2種以上からなる合金材料を用いて形成されている請求項7に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項9】
前記金属薄膜が、ステンレス鋼を用いて形成されている請求項7に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項10】
自動車用内装部品である請求項1乃至請求項9のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項11】
樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品を製造する方法であって、
前記基材の意匠面に対して、金属薄膜を物理蒸着法又は化学蒸着法により直接に形成して、金属調の加飾を施す工程と、
樹脂と金属の両方に架橋する透明な塗料を用いて、前記金属薄膜に対して、透明な塗膜からなる第一のトップコート層を直接に積層形成する工程と、
前記第一のトップコート層に対して、ガラス転移温度が55〜120℃である透明な塗膜からなる第二のトップコート層を直接に積層形成する工程と、
を含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−89399(P2010−89399A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262445(P2008−262445)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】