説明

動圧軸受装置

【課題】 この種の動圧軸受装置の製造コストを低減する。
【解決手段】 軸部材2の下端より上方に樹脂製のフランジ部2bを設けるとともに、フランジ部2bの下端面2b2とスリーブ部材8の上端面8bとを対向させ、軸部材2の相対回転時に両面8b、2b2間にスラスト軸受隙間が形成されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって回転部材を非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化等が求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の1つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、ハウジングの内周に軸受スリーブを固定すると共に、軸受スリーブの内周に軸部材を配置した構造が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この軸受装置では、軸部材の回転により、軸受スリーブの内周と軸部材の外周との間のラジアル軸受隙間に流体の動圧作用で圧力を発生させ、この圧力で軸部材をラジアル方向に非接触状態で支持する。
【特許文献1】特開2002−61636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の動圧軸受装置は、ハウジング、軸受スリーブ、軸部材をはじめとする種々の部品で構成され、情報機器の益々の高性能化に伴って必要とされる高い軸受性能を確保すべく、各部品の加工精度や組立精度を高める努力がなされている。その一方で、情報機器の低価格化の傾向に伴い、この種の動圧軸受装置に対するコスト低減の要求も益々厳しくなっている。
【0005】
本発明の課題は、この種の動圧軸受装置の製造コストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る動圧軸受装置は、固定側部材と、被駆動体が装着され、固定側部材に対して相対回転する回転側部材と、固定側部材と回転側部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で回転側部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、固定側部材と回転側部材との間のスラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で回転側部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えたものにおいて、スラスト軸受部のスラスト軸受隙間は、被駆動体の側で、回転側部材と固定側部材とが対向する部分に設けられ、固定側部材のスラスト軸受隙間に面する部分、および回転側部材のスラスト軸受隙間に面する部分のうち、少なくとも何れか一方が樹脂で形成されることを特徴とする。
【0007】
このように、スラスト軸受隙間に面する部分を樹脂材料で形成することにより、旋削等の機械加工を施さずに済むため、同様の部分を金属材料で形成する場合と比べて低コストで製造することができる。また、樹脂で形成する側の部分に動圧溝を形成する場合、前記樹脂形成部の型成形と、動圧溝の成形を同時に行うことができるので、これらの成形を別工程で行う場合と比べて、工程数を削減して低コスト化を図ることができる。
【0008】
固定側部材は、例えばラジアル軸受隙間に面するスリーブ部材と、スリーブ部材を内部に固定するハウジングとを備えたものとすることができる。また、回転側部材は軸部材を含むものであって、軸部材はフランジ部を備えたものとすることができる。
【0009】
上記構成において、ラジアル軸受部は、ラジアル軸受隙間に複数のくさび状隙間を有する多円弧軸受で構成することができる。
【0010】
また、上記構成において、スラスト軸受隙間が、フランジ部の端面とこれに対向するスリーブ部材の端面との間に形成される場合、回転側部材のスラスト軸受隙間に面する部分を含む部材として、例えばフランジ部の一部または全体を樹脂で形成することができる。
【0011】
固定側部材のスラスト軸受隙間に面する部分、および回転側部材のスラスト軸受隙間に面する部分を共に樹脂で形成することもできるが、その場合には、固定側部材と回転側部材との間の接触摺動による摩耗を考慮する必要がある。樹脂で形成した部分には、通常その強度を向上させるための強化繊維を配合するが、繊維の形状やその配合量によっては、樹脂部に配合した強化繊維が相手側の樹脂部を傷付けたり摩耗させたりするおそれがある。
【0012】
本発明者らの検証によれば、樹脂に配合する強化繊維の繊維径が大きすぎると、具体的には12μmを超えると、強化繊維の剛直度が増し、摺動時に相手側の樹脂部材の傷付きや摩耗を引き起こした。また、強化繊維の配合量が多すぎても、例えば20vol%を超えた場合にも、強化繊維と相手側の樹脂部との接触頻度が増すために同様の問題を生じることが判明した。
【0013】
かかる観点から、固定側部材の樹脂部分と回転側部材の樹脂部分とのうち、少なくとも何れか一方に、充填材として繊維径1〜12μmの強化繊維を配合するのが好ましい。
【0014】
このように強化繊維の繊維径を12μm以下とすることにより、強化繊維が柔軟化されるので、これとの接触にある相手側樹脂部材の傷付きを防止することができ、スラスト軸受部における耐摩耗性を向上させることができる。
【0015】
また、さらに樹脂中における強化繊維の配合量を5〜20vol%に設定すれば、強化繊維の相手側樹脂部材との接触頻度を減じることができるので、スラスト軸受部の耐摩耗性をさらに向上させることができる。なお、強化繊維の配合量を5vol%以上としたのは、これを下回ると、補強効果が減少するために却って耐摩耗性が低下するからである。
【0016】
このように固定側部材および回転側部材の、スラスト軸受隙間を介して互いに対向する部分をそれぞれ樹脂製とすることにより、両者の軸方向の線膨張係数が概ね共通する値となるので、温度変化に対してもスラスト軸受隙間を一定幅に保持することができ、さらなる回転精度の向上を図ることができる。また、回転側部材に樹脂部が含まれることにより、これを金属製とする場合に比べて軽量化されるので、耐衝撃性の向上が図られる。
【0017】
充填材には、強化繊維の他、さらに導電化剤を含めることができる。一般に樹脂は絶縁材料であるため、上述のように各部材を樹脂化した場合、空気との摩擦によって発生した回転側部材の静電気が回転側部材に帯電し、磁気ディスクと磁気ヘッド間の電位差を生じたり、静電気の放電によって周辺機器の損傷を招くおそれがある。これに対し、樹脂部材中の充填材に導電化剤を含めれば、回転側と固定側の通電性を確保してかかる不具合を解消することができる。導電化剤の種類は特に限定されないが、例えばカーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状のものを使用することができる。
【0018】
固定側部材の樹脂部分、もしくは回転側部材の樹脂部分の何れか一方は、耐油性や成形性を考慮し、LCPで形成するのが望ましい。また、同様の観点から、固定側部材もしくは回転側部材の樹脂部分の何れか一方をPPSで形成することもできる。
【0019】
樹脂中の充填材の総量(導電化剤も配合する場合は、これを含めた充填材の総量)が30vol%を超えると、樹脂部材に他の部材を超音波溶着した際の溶着強度が著しく低下する。これを防止するため、樹脂中における充填材総量は、30vol%以下とするのが望ましい。
【0020】
強化繊維としては、強度や弾性率に優れた特性を有するPAN系の炭素繊維を使用することができる。
【0021】
固定側部材の樹脂部分と回転側部材の樹脂部分とをベース樹脂の異なる樹脂材料で形成すれば、固定側部材と回転側部材の摺動時における凝着を防止することができる。
【0022】
以上に述べた動圧軸受装置は、例えばディスク装置のスピンドルモータに組込んで使用することができる。この場合、上記被駆動体は、磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体(以下、単にディスクという。)に対応する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、固定側部材と回転側部材のうち少なくとも一方を樹脂化することで、当該部材の低コスト化を達成し、これにより、この種の動圧軸受装置の製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係る動圧軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ3の内周に取付けられている。ディスクハブ3は、その外周にディスクDを一枚または複数枚保持している。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する電磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
【0026】
図2は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7に固定されたスリーブ部材8、およびシール部材9とを主な構成要素として構成されている。この実施形態では、上記構成部品のうち、軸部材2が回転側部材の構成部品となり、ハウジング7とスリーブ部材8、およびシール部材9が固定側部材の構成部品となる。なお、説明の便宜上、ハウジング7の開口部7aの側を上側、開口部7aと反対の側を下側として以下説明する。
【0027】
軸部材2は、軸部2aと、円盤状のフランジ部2bとを備えている。軸部2aは、例えばステンレス鋼等の金属材料で形成される。これに対して、フランジ部2bは、例えば液晶ポリマー(LCP)等の樹脂材料をベース樹脂とする樹脂組成物を射出成形して形成され、軸部2aの下端よりも上方に設けられる。
【0028】
フランジ部2bは、金属製の軸部2aをインサート部品として一体に射出成形することができる。あるいは、軸部2aとは別体に成形したものを、後付けで軸部2aに固定することもできる。この他にも、フランジ部2bの抜止めを図るために、例えば図示は省略するが、軸部2aのフランジ部2b形成箇所に、周方向全周に亘って凹溝を設けてもよい。また、周方向の複数箇所に凹部あるいは凹凸部などの周方向係合部を設けることで、フランジ部2bの回り止めを図ることもできる。さらには、軸部2aのフランジ部2b形成箇所に、図示は省略するが、外径側に突出する芯金を設け、この芯金の周囲を上記樹脂組成物で被覆することでフランジ部2bを形成することもできる。これにより、フランジ部2bの固定強度を高めることができる。芯金は、金属製であることが好ましく、軸部2aと一体あるいは別体に形成可能である。
【0029】
フランジ部を形成する上記樹脂組成物のベース樹脂としては、先に例示した樹脂以外に、例えば、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非結晶性樹脂、あるいはポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の結晶性樹脂が使用可能である。
【0030】
また、上記樹脂組成物には、例えば、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカ状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボン繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、各種金属粉等の繊維状または粉末状の導電性充填材を、目的に応じて適量配合することができる。
【0031】
ハウジング7は、一端に開口部7aを有すると共に、他端を閉じた有底円筒状に形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの他端側に一体に連続した底部7cとを備えている。このハウジング7は、上記例示列挙された樹脂および充填材を適宜組合わせた樹脂組成物を射出成形することで形成される。側部7bと底部7cとを別体に形成し、両者を接着、溶着(超音波溶着等)の手段で相互に結合してもよい。なお、ハウジング7は、必ずしも樹脂で成形する必要はなく、例えば金属材料をプレス加工する等して成形することもできる。
【0032】
スリーブ部材8は、例えば、銅やアルミ(合金を含む)等の軟質金属材料、あるいは焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、スリーブ部材8は、銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。そして、スリーブ部材8の下端面8cをハウジング7の底部7cに当接させて、ハウジング7に対するスリーブ部材8の軸方向位置を定めた上で、接着、溶着などの固定手段によりスリーブ部材8をハウジング7に固定する。
【0033】
スリーブ部材8の内周面8aの上下に離隔した領域には、図3に示すように、第一ラジアル軸受部R1および第二ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる複数の円弧面8a1がそれぞれ形成される。各円弧面8a1は、回転軸心Oからそれぞれ等距離オフセットした点を中心とする偏心円弧面であり、円周方向で等間隔に形成される。各偏心円弧面8a1の間には軸方向の分離溝8a2が形成される。
【0034】
スリーブ部材8の内周面8aに軸部材2の軸部2aを挿入することにより、スリーブ部材8の偏心円弧面8a1および分離溝8a2と、軸部2aの真円状外周面2a1との間に、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2の各ラジアル軸受隙間がそれぞれ形成される。ラジアル軸受隙間のうち、偏心円弧面8a1と対向する領域は、隙間幅を円周方向の一方で漸次縮小させたくさび状隙間8a3となる。くさび状隙間8a3の縮小方向は軸部材2の回転方向に一致している。
【0035】
スリーブ部材8の上端面8bの全面または一部の環状領域には、スラスト動圧発生部として、例えば図示は省略するが、スパイラル形状の動圧溝が形成される。この上端面8bの動圧溝形成領域は、フランジ部2bの下端面2b2と対向し、軸部材2の回転時には、両面8b、2b2の間にスラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間が形成される(図2を参照)。
【0036】
シール部材9は、例えば樹脂材料、あるいは金属材料で環状に形成される。このシール部材9は、ハウジング7の開口部7a内周に配され、シール部材9の下端面9bとスリーブ部材8の上端面8bとの間にフランジ部2bを収容した状態で、超音波溶着などの溶着、あるいは接着等の固定手段によりハウジング7に固定される。この場合、シール部材9の円筒状の内周面9aは、対向する軸部2aの外周面2a1との間に所定のシール空間Sを形成する。シール部材9で密封されたハウジング7の内部空間には、スリーブ部材8の内部気孔も含めて、潤滑流体としての潤滑油が充満されており、潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。
【0037】
シール部材9の下端面9bは、フランジ部2bの上端面2b1と軸方向の隙間を介して対向している。軸部材2が上方へ変位すると、フランジ部2bの上端面2b1がシール部材9の下端面9bと軸方向で係合し、軸部材2を係止する。このように、本実施形態におけるシール部材9は、シール機能と抜け止めの機能を併せ持つ。
【0038】
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2の回転時、スリーブ部材8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間内の潤滑油がくさび状隙間8a3の縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、軸部2aを非接触支持する第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2がそれぞれ構成される。
【0039】
同時に、フランジ部2bの下端面2b2とこれに対向するスリーブ部材8の上端面8bとの間のスラスト軸受隙間にも、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜が形成され、この油膜の圧力によって、フランジ部2bをスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部T1が構成される。
【0040】
このように、フランジ部2bを樹脂材料で成形することにより、旋削等の機械加工を要する金属製のフランジ部2bの場合と比べて低コストで製造することができる。また、この実施形態では、スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間に面するスリーブ部材8の上端面8bに、動圧溝を形成した場合を説明したが、この面8bと対向するフランジ部2bの下端面2b2に動圧溝を形成することもできる。その場合には、樹脂製フランジ部2bの型成形と、動圧溝の成形を同時に行うことができ、これらの成形を別工程で行う場合と比べて、工程数を削減して低コスト化を図ることができる。
【0041】
なお、上記第1実施形態では、シール空間Sを、シール部材9の円筒状の内周面9aと、これに対向する軸部2aの外周面2a1との間に形成した場合を例示したが、これ以外の形態を採ることも可能である。例えば図4は、ハウジング7外部側(図4では上側)に向けて径方向隙間幅を漸次拡大させたテーパ状のシール空間S’を形成した場合を例示したものである。
【0042】
また、図5には、ハウジング7の軸方向寸法を縮小して、動圧軸受装置1の小サイズ化を図るため、シール部材9の内周面9aと、フランジ部2bの外周面2b3とを対向させ、この対向面間にテーパ状のシール空間S’を形成したものが例示されている。
【0043】
さらに、軸部材2の抜止めを考慮したものとして、例えば図6に示すような構成を挙げることができる。同図におけるシール空間S’は、フランジ部2bに設けられた軸方向の段差によって区画形成された外周面のうち、上側の外周面2b3と、これに対向するシール部材9の内周面9aとの間に形成される。また、段によって区画形成された上端面2b1のうち外径側の端面2b4は、シール部材9の下端面9bと対向する。
【0044】
このような構成とすることで、シール空間S’には、遠心力および毛細間力によるシール作用が生じ、潤滑油の外部への漏れ出しが防止される。また、軸部材2の上方への相対変位時、フランジ部2bの外径側端面2b4がシール部材9の下端面9bと軸方向で係合することで、軸部材2の抜止めがなされる。
【0045】
また、この図示例では、シール部材9は、その下端面9bの、外径側端面2b4と対向しない箇所を下方に向けて突出させた形態をなす。そのため、シール部材9の下方突出部9cをスリーブ部材8の上端面8bに当接させることで、シール部材9の軸方向の位置決めが容易になされる。
【0046】
以下、本発明の第2実施形態を図7、図8に基づいて説明する。なお、第1実施形態と共通の事項については、以下説明を省略する。
【0047】
図7は、第2実施形態に係る動圧軸受装置11を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を示している。このスピンドルモータも、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材12およびディスクハブ13を備えた回転側部材を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置11と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル14およびロータマグネット15と、動圧軸受装置11の外周に固定されるブラケット16を備えている。
【0048】
図8は、動圧軸受装置11を示している。この動圧軸受装置11は、ハウジング17と、ハウジング17の内周に固定されたスリーブ部材18と、スリーブ部材18の内周に挿入した軸部材12と、軸部材12の上端に固定されたディスクハブ13とを主な構成部品して構成される。この実施形態では、上記構成部品のうち、軸部材12とディスクハブ13が回転側部材の構成部品となり、ハウジング17とスリーブ部材18が固定側部材の構成部品となる。
【0049】
軸部材12は、例えばステンレス鋼等の金属材料で同一径の軸状に形成される。
【0050】
ディスクハブ13は樹脂で形成され、この実施形態では軸部材12をインサート部品として射出成形される。ディスクハブ13は、ハウジング17の開口側を覆う円盤状の主部13aと、主部13aの外周部から軸方向下方に延びた筒状部13bと、筒状部13bの外周に設けられたディスク搭載面13cとを備えている。この実施形態では図示されていないディスクは、主部13aの外周に外嵌され、ディスク搭載面13cに載置される。そして、図示しない適当な保持手段によってディスクがディスクハブ13に保持される。
【0051】
ハウジング17は有底円筒状の樹脂成形品である。図示例のハウジングは、円筒状の側部17bと、側部17bの下端に設けられた底部17cとを備えており、底部17cは側部17bと一体成形されている。
【0052】
ハウジング17の開口側端面(上端面)17dの全面または一部環状領域には、スラスト動圧発生部として、図示は省略するが、例えばスパイラル形状の動圧溝が形成される。この上端面17dの動圧溝形成領域は、ディスクハブ13の主部13aの下端面13dと対向し、軸部材2(回転体)の回転時には、両面17d、13dの間に後述するスラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間が形成される。
【0053】
ハウジング側部17bの上方部外周には、上方に向かって漸次拡径するテーパ状外壁17eが形成され、このテーパ状外壁17eと、ディスクハブ13に設けられた筒状部13bの内壁13b1との間に、上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間S’が形成される。このシール空間S’は、軸部材12およびディスクハブ13の回転時、スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。また、ディスクハブ13の筒状部13bの下端内周には、軸部材2(回転側部材)の軸方向への相対変位時、ハウジング17と軸方向で係合して、軸部材2を係止する係止部材19が取付けられている。
【0054】
上述のようにハウジング17やディスクハブ13は樹脂成形品であるが、そのベース樹脂としては、例えば第1実施形態中で例示列挙した熱可塑性樹脂が使用可能である。その中でもLCPやPPSは耐油性や寸法安定性等に優れた特性を備えるので、特にハウジング17の素材として好適である。
【0055】
この際、ハウジング17とディスクハブ13で使用するベース樹脂を異ならせておけば、ハウジング17とディスクハブ13の摺動時における凝着を防止することができる。この例として、例えばハウジング17のベース樹脂としてLCPを使用し、ディスクハブ13のベース樹脂としてPPSを使用する場合が挙げられる。
【0056】
これらベース樹脂に、例えば第1実施形態中で例示列挙した充填材を配合し、こうして得た樹脂組成物を用いてハウジング17およびディスクハブ13が個別に射出成形される。一例として、本実施形態では、強化繊維として、強度面および弾性率等の面で優れた特性を有するPAN系の炭素繊維を使用し、導電化剤として、少ない配合量で高い導電性を確保できるカーボンナノチューブを使用している。
【0057】
スリーブ部材18は例えば焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、例えば超音波溶着によってハウジング17内周の所定位置に固定される。
【0058】
この実施形態では、上述の如く、ハウジング17の上端面17dと、これに対向するディスクハブ13の下端面13dとの間にスラスト軸受隙間が形成され、流体(潤滑油)の動圧作用を生じる動圧溝がハウジング17の上端面17dに形成される。そのため、第2実施形態におけるスリーブ部材18は、その内周面18aに、図3に示すような複数の円弧面を有する一方で、上端面18bは動圧溝のない平滑な面となる。
【0059】
シール空間S’やスラスト軸受隙間を含むハウジング17の内部空間に潤滑油が充満された上記構成の動圧軸受装置11において、軸部材12(回転側部材)の回転時、スリーブ部材18の内周面18aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、軸部材12の外周面12aとラジアル軸受隙間を介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。軸部材12の回転に伴い、ラジアル軸受隙間内の潤滑油がくさび状隙間(図3を参照)の縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、軸部材12を非接触支持する第1ラジアル軸受部R11と第2ラジアル軸受部R12がそれぞれ構成される。
【0060】
同時に、ディスクハブ13の下端面13dとこれに対向するハウジング17の上端面17dとの間のスラスト軸受隙間にも、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜が形成され、この油膜の圧力によって、軸部材12(回転側部材)をスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部T2が構成される。
【0061】
このように、第2実施形態では、スラスト軸受隙間に面する部分を含むハウジング17およびディスクハブ13を樹脂で形成することにより、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。また、上記スラスト軸受隙間を介して対向するハウジング17およびディスクハブ13の双方が樹脂で形成されているので、その線膨張係数はほぼ同レベルとなる。そのため、温度変化による軸方向の膨張量を固定側と回転側で同程度とすることができ、温度変化によるスラスト軸受隙間の幅の変動を抑制して安定した軸受性能を得ることができる。
【0062】
以上の構成において、スラスト軸受隙間を介して対向するハウジング17の上端面17dとディスクハブ13の下端面13dとは、モータの起動時や停止時、あるいは回転する軸部材12の振れ回り等の原因により、一時的に摺動接触する。この両者の摺動接触に起因する問題として、摺動部Pにおける樹脂同士の摺動が挙げられる。
【0063】
本発明者らの検証によれば、強化繊維として配合した炭素繊維の平均繊維径が12μmを超えるとディスクハブ13とハウジング17の摺動部Pにおける摩耗量が著しく増大することが判明した。これは、繊維径が大きくなることによって剛直となった炭素繊維が摺動部Pで互いに相手側の軟らかな樹脂材を傷付け、こうして荒れた樹脂材の面がさらに相手側の樹脂材と摺動することによって摩耗が進行するためと考えられる。一方、炭素繊維の平均繊維径が1μmを下回ると、炭素繊維本来の目的である補強効果が不十分となるので適当でない。従って、充填剤としての炭素繊維は、平均繊維径1〜12μm(好ましくは5〜10μm)の範囲内に設定するのが望ましい。
【0064】
強化繊維が長すぎると、余剰樹脂材料を再使用する際に繊維が細かく裁断されるため、リサイクル性が害される。また、動圧溝を型成形する際の転写性も損なわれる。かかる観点から、強化繊維の平均長さは500μm以下(好ましくは300μm以下)とするのが望ましい。
【0065】
また、本発明者の検証によれば、炭素繊維の配合割合が20vol%を超えた場合にも同様に樹脂同士の摺動部Pにおける摩耗量が著しく増大することも判明した。これは、炭素繊維の配合量が増すことで、炭素繊維と相手側樹脂部材との接触頻度が高まるためと考えられる。その一方、炭素繊維の配合割合が5%を下回ると、必要な機械的強度の確保が難しく、かつ樹脂部材の耐摩耗性を確保することが難しくなる。従って、炭素繊維の配合量は5〜20vol%とするのが望ましい。
【0066】
その一方、強化繊維の繊維径や配合割合が上記範囲内にあっても、導電化剤等の他の充填材の配合量が多すぎると、ハウジング17を別部材(例えばスリーブ部材18)と超音波溶着する際の溶着強度が低下する。本発明者らが検証したところ、強化繊維や導電化剤を含む充填材総量(金属充填材または無機充填材の総量)が30vol%を超えると溶着部強度の低下幅が大きくなり、強度面で不具合を生じることが判明した。従って、充填材総量は30vol%以下にするのが望ましい。
【0067】
図9は、第1および第2実施形態におけるラジアル軸受部R1、R2(R11、R12)を構成する多円弧軸受の他の実施形態を示すものである。この実施形態では、図3に示す構成において、各偏心円弧面8a1の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ回転軸心Oを中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定となる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0068】
図10では、スリーブ部材8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が3つの円弧面8a1で形成されると共に、3つの円弧面8a1の中心は、回転軸心Oから等距離オフセットされている。3つの偏心円弧面8a1で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の両方向に対してそれぞれ漸次縮小した形状を有している。
【0069】
以上に説明したラジアル軸受部R1、R2(R11、R12)の多円弧軸受は、何れもいわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらには6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用してもよい。また、上記実施形態のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とするほか、スリーブ部材8の内周面8aの上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としてもよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1(11)の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧作用を生じ得る流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
【図2】動圧軸受装置の縦断面図である。
【図3】ラジアル軸受部の断面図である。
【図5】シール空間の他の構成例を示す拡大断面図である。
【図6】シール空間の他の構成例を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
【図8】動圧軸受装置の縦断面図である。
【図9】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図10】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1、11 動圧軸受装置
2、12 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
3、13 ディスクハブ
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7、17 ハウジング
8、18 スリーブ部材
9 シール部材
19 係止部材
S、S’ シール空間
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、被駆動体が装着され、前記固定側部材に対して相対回転する回転側部材と、前記固定側部材と前記回転側部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記回転側部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、前記固定側部材と前記回転側部材との間のスラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記回転側部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、
前記スラスト軸受部のスラスト軸受隙間は、前記被駆動体の側で、前記回転側部材と前記固定側部材とが対向する部分に設けられ、
前記固定側部材のスラスト軸受隙間に面する部分、および前記回転側部材のスラスト軸受隙間に面する部分のうち、少なくとも何れか一方が樹脂で形成されることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
前記固定側部材は、前記ラジアル軸受隙間に面するスリーブ部材と、該スリーブ部材を内部に固定するハウジングとを備えていることを特徴とする請求項1記載の動圧軸受装置。
【請求項3】
前記回転側部材は軸部材を含み、該軸部材はフランジ部を備え、該フランジ部の端面と、これに対向する前記スリーブ部材の端面との間に前記スラスト軸受隙間が形成されていることを特徴とする請求項2記載の動圧軸受装置。
【請求項4】
前記フランジ部が樹脂で形成されていることを特徴とする請求項3記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
前記ラジアル軸受部が多円弧軸受で構成されていることを特徴とする請求項1記載の動圧軸受装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載した動圧軸受装置を有するディスク装置のスピンドルモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−200666(P2006−200666A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14592(P2005−14592)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】