説明

動弁装置及びエンジン

【課題】エンジンの高さ寸法を増加させることなくロストモーション機構を備えること。
【解決手段】エンジンのシリンダヘッド(36)に設置され、カムシャフト(39)によって駆動される動弁装置(8)において、直線状に延びるステム部(811)を有し、ステム部(811)の延在方向に沿って駆動することでエンジンの燃焼室(355)に連通する吸気ポート(361)を開閉する吸気バルブ(81)と、燃焼室(355)から遠方に位置するステム部(811)の一端側とカムシャフト(39)との間に配置され、カムシャフト(39)からの動力を吸気バルブ(81)に伝達するバルブタペット(83)と、バルブタペット(83)から吸気バルブ(81)への動力伝達を遮断可能とするロストモーション機構(84)とを備え、シリンダヘッド(36)に対する設置部分が、ステム部(811)の一端部側よりも他端部側で幅狭に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドに設置される動弁装置に関し、特にバルブ休止機構を備える動弁装置及びエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの動弁装置として、カムシャフトの作動と無関係にポペットバルブ(吸気バルブ、排気バルブ)を閉位置に保持するバルブ休止機構を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のエンジンの動弁装置は、シリンダヘッドに取り付けられており、バルブタペットを介してカムシャフトからの動力をポペットバルブに伝達するように構成されている。バルブタペットには、カムシャフトからポペットバルブに対する動力伝達を一時的に遮断するロストモーション機構が設けられている。
【0003】
このロストモーション機構は、油圧等によりバルブタペットとポペットバルブのステム部の上端部との連動状態及び非連動状態を切替可能に形成されている。ロストモーション機構は、例えばエンジンの中速回転時又は高速回転時等においては、カムシャフトの回転によるバルブタペットの上下動をポペットバルブに伝達し、ポペットバルブを開閉させる。また、ロストモーション機構は、例えばエンジンの低速回転時等においては、バルブタペットの上下動に関わらず、ポペットバルブに対する動力伝達を一時的に遮断し、ポペットバルブを閉位置に保持させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−87711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した動弁装置では、カムシャフトとポペットバルブとの間にロストモーション機構が設けられるため、ポペットバルブの駆動方向における装置寸法が増加していた。これに伴い、動弁装置を収容するシリンダヘッド及びヘッドカバー等の部品寸法も増加し、結果としてエンジン全体の高さ寸法が増加するという問題があった。このため、エンジンの設置スペースの確保が困難となり、エンジンの重量が増加するという不具合が生じていた。さらに、エンジンの寸法増加により専用部品を新たに製造しなければならず、製造コストが増大していた。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、エンジンの高さ寸法を増加させることなくロストモーション機構を備えることができる動弁装置及びエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の動弁装置は、エンジンのシリンダヘッドに設置され、カムシャフトによって駆動される動弁装置において、直線状に延びるステム部を有し、前記ステム部の延在方向に沿って駆動することで前記エンジンの燃焼室に連通する流体流路を開閉するバルブと、前記燃焼室から遠方に位置する前記ステム部の一端側と前記カムシャフトとの間に配置され、前記カムシャフトからの動力を前記バルブに伝達する動力伝達部品と、前記動力伝達部品から前記バルブへの動力伝達を遮断可能とするロストモーション機構とを備え、前記シリンダヘッドに対する設置部分が、前記ステム部の一端部側よりも他端部側において幅狭に形成されることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、動弁装置においてシリンダヘッドに対する設置部分の幅狭な部分をシリンダヘッドの流体流路付近のデッドスペースに配置することができる。これにより、ロストモーション機構による動弁装置の寸法増加を吸収させて、エンジンの高さ寸法の増加を抑制できる。よって、エンジンの設置スペースの確保が容易となり、エンジンの軽量化を図ることができる。さらに、エンジンの高さ寸法の増加に伴う専用部品が不要となり、製造コストを低減できる。また、動弁装置の設置部分がステム部の他端側で幅狭なため、動弁装置がシリンダヘッドのデッドスペースから流体流路内に突出することが抑制される。
【0009】
また本発明の上記動弁装置において、前記バルブを前記動力伝達部品に向けて付勢する第1のスプリングと、前記第1のスプリングの径方向外側において前記動力伝達部品を前記カムシャフトに押し付ける第2のスプリングとを備え、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第1のスプリングの端部が前記第2のスプリングの端部よりも前記動力伝達部品から遠方に位置することで、前記シリンダヘッドに対する設置部分が、前記ステム部の一端部側よりも他端部側において幅狭に形成されている。この構成によれば、シリンダヘッドの流体流路付近のデッドスペースに、第2のスプリングよりも小径な第1のスプリングの端部が配置されることで、流体流路内への各スプリングの突出を防止、又は極力抑えて、簡易な構成でエンジンの高さ寸法の増加を抑制できる。
【0010】
また本発明の上記動弁装置において、前記第1のスプリング及び前記第2のスプリングは、前記シリンダヘッドに対してスプリングシートを介して設置され、前記スプリングシートは、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第2のスプリングの端部を受ける外側座面部と、前記第1のスプリングの端部を受ける内側座面部と、前記外側座面部の内縁と前記内側座面部の外縁とを連ねる側面部とを有している。この構成によれば、第1のスプリングの端部側の素面がスプリングシートの側面部を介してシリンダヘッドに接触される。よって、バルブの駆動時に第1のスプリングの素面がスプリングシートの側面部に摺接するため、第1のスプリングの素面がシリンダヘッドに直に摺接する構成と比較して摩耗による損傷が低減される。また、スプリングシートにより第1のスプリング及び第2のスプリングが一体的に保持されるため、第1のスプリング及び第2のスプリングの組み付け時にスプリングの脱落を防止できる。
【0011】
また本発明の上記動弁装置において、前記第1のスプリングは、第1のスプリングシートを介して前記シリンダヘッドに対して設置され、前記第2のスプリングは、第2のスプリングシートを介して前記シリンダヘッドに対して設置され、前記第1のスプリングシートは、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第2のスプリングの端部を受ける外側座面部を有し、前記第2のスプリングシートは、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第1のスプリングの端部を受ける内側座面部を有し、前記第1のスプリングシートと前記第2のスプリングシートとの間で、前記第1のスプリングの端部の素面が露出されている。この構成によれば、第1のスプリングシートと第2のスプリングシートとの間に、外側座面部と内側座面部とを連ねる側面部を有さない分だけ、シリンダヘッドに対する動弁装置の設置部分がステム部の他端側でさらに幅狭に形成される。よって、シリンダヘッドの流体流路付近のデッドスペースが狭く形成されても、流体流路内への各スプリングの突出を防止、又は極力抑えることができる。
【0012】
本発明のエンジンは、上記の動弁装置が取り付けられるエンジンであって、前記動弁装置が設置される設置空間と前記流体流路とが、当該流体流路の外壁部により仕切られており、前記外壁部の設置空間側には、前記スプリングシートの側面部及び前記内側座面部が収容される凹部が形成されている。この構成によれば、デッドスペースとしての外壁部に形成された凹部に、スプリングシートを介して第1のスプリングの一端部を配置し、簡易な構成によりエンジンの高さ寸法の増加を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジンの高さ寸法を増加させることなくロストモーション機構およびエンジンを備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】本実施の形態に係るエンジンユニットの側面図である。
【図3】本実施の形態に係るエンジンユニットの部分断面図である。
【図4】図3の吸気側の動弁装置周辺の拡大図である。
【図5】本実施の形態に係る動弁装置の斜視図である。
【図6】本実施の形態に係る動弁装置の設置構成の説明図である。
【図7】変形例に係る動弁装置の斜視図である。
【図8】変形例に係る動弁装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明の動弁装置をネイキッドタイプの自動二輪車のエンジンに適用した例について説明するが、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、本発明の動弁装置を、他のタイプの自動二輪車、四輪、船舶等のエンジンにも適用可能である。
【0016】
図1を参照して、本実施の形態に係る自動二輪車全体の概略構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。なお、以下の図においては、車体前方を矢印FR、車体後方を矢印REでそれぞれ示す。
【0017】
図1に示すように、自動二輪車1は、パワーユニット、電装系等の各部を搭載する鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム2を備えている。車体フレーム2のメインフレーム21は、前端に位置するヘッドパイプ22から後方に向けて左右二股に分岐し、後下方に傾斜して延在する。メインフレーム21の下方には、エンジンユニット3が吊下げられるようにして搭載される。メインフレーム21の上部には、燃料タンク4が配置される。燃料タンク4の後方には、メインフレーム21の後部に接続された左右一対のシートレール(不図示)の上部に運転者シート5a及び同乗者シート5bが連設される。
【0018】
シートレールは、メインフレーム21の後部から後上方に傾斜して延出し、補強用のシートピラー23と共に運転者シート5a及び同乗者シート5bを支持する。同乗者シート5bの左右両側のフレームカバーには、同乗者用のハンドル51が設けられている。運転者シート5a及び同乗者シート5bの下方には、それぞれに対応してフットレスト52、53が設けられている。車体左側の運転者用のフットレスト52の前方には、シフトペダル54が設けられ、車体右側の運転者用のフットレスト52の前方には、後輪6用のブレーキペダル(不図示)が設けられている。
【0019】
車体フレーム2の前部上側には、ヘッドパイプ22に設けられたステアリングシャフトを介して一対のフロントフォーク71が左右に揺動可能に支持されている。一対のフロントフォーク71の上部には、ハンドルバーの両端にグリップ73が装着されている。車体左側のハンドルバーには、クラッチレバー74が設けられ、車体右側のハンドルバーには、前輪7用のブレーキレバー(不図示)が設けられている。一対のフロントフォーク71の下部には、前輪7が回転可能に支持されると共に、前輪7の上部を覆うフロントフェンダ75が配置される。前輪7には、ブレーキディスク76が設けられている。
【0020】
車体フレーム2の後部下側には、スイングアーム61が上下方向に揺動可能に連結されており、車体フレーム2及びスイングアーム61間には、後輪緩衝用のサスペンション62が取り付けられている。スイングアーム61の後部には、後輪6が回転可能に支持される。後輪6には、ドリブンスプロケット63が設けられており、ドリブンスプロケット63とエンジン側のドライブスプロケットとの間にはチェーン64が架け渡されている。後輪6は、チェーン64を介してエンジンからの動力が伝達されることで回転駆動される。チェーン64の上方は、チェーンカバー65により覆われ、後輪6の上方は、同乗者シート5bの後方に配置されたリヤフェンダ66により覆われる。
【0021】
エンジンユニット3は、例えば、4サイクルV型2気筒エンジンとトランスミッションとからなり、メインフレーム21にエンジンマウントを介して支持される。エンジンユニット3は、クランクシャフトを車幅方向に向けた横置きクランク式であり、クランクシャフトを収容するクランクケース31に前後2気筒のシリンダがV字状に配置して構成される。エンジンユニット3には、インテークパイプ32(図3参照)を介して空気が取り込まれ、燃料噴射装置にて空気と燃料とが混合されて燃焼室355に供給される。エンジン内での燃焼後の排気ガスは、エンジンユニット3から下方に延出されたエキゾーストパイプ33を経てマフラ34から排気される。
【0022】
フロントフォーク71の前面には、ヘッドランプ91が設置され、ヘッドランプ91の両側方に左右一対のフロントウィンカ92が設置される。ヘッドランプ91の上方には、速度、エンジン回転数、燃料残量等を表示するメータユニット93が設置されている。ハンドルバーには、ステー94を介してバックミラー95が支持されている。リヤフェンダ66の後面には、左右一対のリヤウィンカ96が設置され、リヤウィンカ96の後方にコンビネーションランプ97が設置されている。また、詳述はしないが、車体フレーム2等には、車体外装として複数のカバーが設けられ、外観が全体の統一感を有するように形成されている。
【0023】
以下、図2から図5を参照して、本実施の形態に係る動弁装置を備えたエンジンユニットについて説明する。図2は、本実施の形態に係るエンジンユニットの側面図である。図3は、本実施の形態に係るエンジンユニットの部分断面図である。図4は、図3の吸気側の動弁装置周辺の拡大図である。図5は、本実施の形態に係る動弁装置の斜視図である。なお、図5では、説明の便宜上、アウタースプリング及びインナースプリングを省略して記載している。
【0024】
図2及び図3に示すように、エンジンユニット3は、クランクケース31上に前後2つのシリンダブロック35をV字状に配置し、各シリンダブロック35にシリンダヘッド36及びヘッドカバー37を取り付けて外形が構成される。クランクケース31内には、クランクシャフト(不図示)が車幅方向に向けて収容されている。シリンダブロック35には、複数のシリンダボア351が車幅方向に横並びに形成され、各シリンダボア351にピストン352が上下方向に往復動可能に収容されている。ピストン352は、コンロッド353を介してクランクシャフトに連結される。
【0025】
シリンダヘッド36には、エンジン内に空気を送り込む吸気ポート(流体流路)361と、エンジン外に排気ガスを送り出す排気ポート(流体流路)362とが形成されている。また、シリンダヘッド36には、吸気ポート361を開閉する吸気バルブ(バルブ)81と、排気ポート362を開閉する排気バルブ(バルブ)82とが設けられている。また、吸気ポート361及び排気ポート362は、シリンダヘッド36の下面及びシリンダボア351内のピストン352の上面によって形成される燃焼室355に連通される。燃焼室355の上部には、シリンダヘッド36に設けられた点火プラグ(不図示)が突出されている。
【0026】
そして、吸気バルブ81の開弁によりインテークパイプ32を介して混合気が燃焼室355に送り込まれ、燃焼室355内における点火プラグの点火によってピストン352が一気に押し下げられる。ピストン352の下動は、コンロッド353を介してクランクシャフトに伝達され、クランクシャフトが勢いよく回転される。ピストン352が押し下げられると、排気バルブ82の開弁により排気ポート362から排気ガスが排出される。シリンダヘッド36の上部には、これら吸気バルブ81及び排気バルブ82を備えた一対の動弁装置8が設けられている。
【0027】
また、エンジンユニット3は、直打式のDOHC(Double OverHead Camshaft)エンジンであり、各動弁装置8に対応して吸気側と排気側に独立した一対のカムシャフト39を有している。一対のカムシャフト39は、シリンダヘッド36の上部において車幅方向に延在し、それぞれにカム391が設けられている。また、一対のカムシャフト39の一端側は、スプロケット及びカムチェーン等の動力伝達機構を介してクランクシャフトに接続されている。よって、クランクシャフトの回転が、この動力伝達機構を介して一対のカムシャフト39に伝達されることにより、吸気側及び排気側の動弁装置8が作動される。
【0028】
シリンダヘッド36には、吸気ポート361及び排気ポート362の上方に一対の動弁装置8用の設置空間364が形成されている。設置空間364は、上方においてカムシャフト39が収容された収容空間371に連通し、下方において吸気ポート361及び排気ポート362の外壁部365により仕切られている。一対の動弁装置8は、この外壁部365から吸気バルブ81及び排気バルブ82を吸気ポート361及び排気ポート362内に突出させた状態で設置空間364に設置される。図4及び図5に示すように、吸気側の動弁装置8は、カム391に接するバルブタペット(動力伝達部品)83を介して、カムシャフト39からの動力を吸気バルブ81に伝達するように構成されている。
【0029】
バルブタペット83は、下面を開口した有底円筒状に形成されており、吸気バルブ81の上端部とカムシャフトとの間に配置されている。バルブタペット83の内部には、カムシャフト39から吸気バルブ81に対する動力伝達を一時的に遮断するロストモーション機構84が設けられている。ロストモーション機構84は、油圧等によりバルブタペット83と吸気バルブ81のステム部811との連動状態及び非連動状態を切替可能に形成されている。シリンダヘッド36において、バルブタペット83が支持される側壁部366には、ロストモーション機構84を駆動させるための油路367が形成されている。
【0030】
吸気バルブ81は、直線状に延びるステム部811と、ステム部811の下端に設けられた傘部812とを有している。吸気バルブ81のステム部811は、外壁部365に設けられたバルブガイド85に通され、燃焼室355に向けて往復動可能に支持される。また、バルブタペット83及び吸気バルブ81は、設置空間364内において同心円状に配置されたアウタースプリング(第2のスプリング)86及びインナースプリング(第1のスプリング)87により付勢される。バルブタペット83は、アウタースプリング86によってカムシャフト39に押し付けられており、吸気バルブ81は、ステム部811に固定されたリテーナ88を介してインナースプリング87によって閉弁作動方向(カムシャフト側)に向けて付勢されている。
【0031】
この場合、外壁部365は、一般にシリンダブロック35のデッドスペースSとなっている。外壁部365のバルブガイド85の周囲には、環状の凹部363が形成されている。凹部363の底面は、アウタースプリング86用の支持面368よりも深い位置に形成されたインナースプリング87用の支持面369となっている。したがって、ステム部811の延在方向において、インナースプリング87の下端部がアウタースプリング86の下端部よりも燃焼室355側に位置付けられる。このように、シリンダヘッド36のデッドスペースSに凹部363が設けられることで、動弁装置8が全体として低い位置に設置される。この場合、径の小さいインナースプリング87の下端部だけがデッドスペースSに位置するため、吸気ポート361内への動弁装置8の突出が防止、又は極力抑えられる。
【0032】
また、アウタースプリング86及びインナースプリング87は、スプリングシート89を介してシリンダヘッド36の支持面368、369に支持される。スプリングシート89は、合成樹脂又は金属等により段付きの円筒状に形成されており、バルブガイド85の周囲に装着される。スプリングシート89は、アウタースプリング86の下端部を受ける外側座面部891と、インナースプリング87の下端部を受ける内側座面部892と、外側座面部891の内周縁部と内側座面部892の外周縁部とを連ねる側面部893とを有している。また、外側座面部891の外縁部には、アウタースプリング86の抜け止め用の環状保持部894が立設され、内側座面部892の内縁部には、インナースプリング87の抜け止め用の環状保持部895が立設されている。
【0033】
このように、スプリングシート89は、外側座面部891と内側座面部892とを一体に形成し、さらに環状保持部894、895を設けたため、スプリング86、87の脱落を防止して動弁装置8の組み付けを容易としている。また、インナースプリング87の下端側の素面とシリンダヘッド36の凹部363の内周面との間には、スプリングシート89の側面部893が介在されている。よって、吸気バルブ81の駆動時に、インナースプリング87の下端側の素面がインナースプリング87の側面部893に摺接するため、シリンダヘッド36に直に摺接する構成と比較して摩耗による損傷が低減される。
【0034】
このように構成された動弁装置8では、カムシャフト39の回転によるバルブタペット83の下動がロストモーション機構84を介して吸気バルブ81に伝達される。このとき、ロストモーション機構84が連動状態の場合には、吸気バルブ81が開弁方向に押し下げられて吸気ポート361が開弁される。押し下げられたバルブタペット83及び吸気バルブ81は、それぞれアウタースプリング86及びインナースプリング87によって押し戻され、吸気ポート361が閉弁される。一方、ロストモーション機構84が非連動状態の場合には、吸気バルブ81への動力伝達が遮断されて閉弁状態が維持される。
【0035】
ロストモーション機構84は、バルブタペット83内に取り付けられた円筒状のプランジャ保持体841と、プランジャ保持体841内の直径方向に摺動可能に保持されたプランジャ842とを有している。プランジャ保持体841は、上面においてバルブタペット83の上面部に係合され、下面においてアウタースプリング86の上端部に係合されている。よって、バルブタペット83は、プランジャ保持体841を介してアウタースプリング86によりカムシャフト39に押し付けられる。また、プランジャ保持体841の外周面には、全周に亘って浅溝843が形成されている。この浅溝843には、シリンダヘッド36に形成された油路367が接続されている。
【0036】
また、プランジャ保持体841内には、直径方向に延びるプランジャ穴844が形成されている。プランジャ穴844は、一端が開口され、他端が閉塞されており、プランジャ842が摺動可能に収容されている。プランジャ穴844の閉塞側に位置するプランジャ842の端部には、端面から円筒状に窪んだスプリング収容部845が形成されている。スプリング収容部845の奥面とプランジャ穴844の奥面との間には、プランジャ842をプランジャ穴844の開口に向けて付勢するリターンスプリング846が収容されている。また、プランジャ842には、延在方向に直交する上下方向に、ステム部811の上端部が出入り可能な貫通孔847が貫通されている。
【0037】
このロストモーション機構84の連動状態では、油路367を介してプランジャ穴844内のプランジャ842に強い油圧が作用されると、プランジャ842がリターンスプリング846の付勢力に抗して奥方に押し込まれる。そして、貫通孔847がステム部811の軸線上から外れ、ステム部811の上端部がプランジャ842の下部に設けられた当接面848に対向する。よって、カムシャフト39によりバルブタペット83が上下動されると、プランジャ842の当接面848がステム部811の上端部に当接して、バルブタペット83と吸気バルブ81とが連動される。
【0038】
一方、非連動状態では、プランジャ穴844内のプランジャ842に対する油圧が弱められると、プランジャ842がリターンスプリング846の付勢力により押し戻される。このときの油圧は、貫通孔847がステム部811の軸線上に位置付けられるように調整される。よって、カムシャフト39によりバルブタペット83が上下動されても、ステム部811の上端部が貫通孔847内に出入りするだけであり、バルブタペット83と吸気バルブ81との連動が解除される。このようにして、ロストモーション機構84は、バルブタペット83から吸気バルブ81への動力伝達を遮断可能としている。
【0039】
なお、油圧の大きさによって貫通孔847をステム部811の軸線上に位置付ける構成に代えて位置決め部材等により、リターンスプリング846によってプランジャ842が押し戻される位置を位置決めする構成としてもよい。ロストモーション機構84は、上記した構成に限定されず、バルブタペット83から吸気バルブ81への動力伝達を遮断可能な機構であれば、どのような機構でもよい。また、排気側の動弁装置8については、吸気側の動弁装置8と略同様な構成なため、説明を省略する。
【0040】
図6を参照して、吸気側の動弁装置の設置構成について説明する。図6は、本実施の形態に係る動弁装置の設置構成の説明図である。なお、図6において、図示左側が比較例に係る動弁装置、図示右側が本実施の形態に係る動弁装置をそれぞれ示す。比較例に係る動弁装置は、アウタースプリングとインナースプリングとが同一支持面に支持される点で、本実施の形態に係る動弁装置と異なる。また、比較例において、本実施の形態と同一の用語については同一の符号を付して説明する。また、排気側の動弁装置の設置構成は、吸気側の動弁装置の設置構成と同様なため、説明を省略する。
【0041】
図6に示すように、比較例に係る動弁装置8は、アウタースプリング86とインナースプリング87とが、シリンダヘッド36における同一の支持面368で支持されている。アウタースプリング86の長さL1は、インナースプリング87の長さL2よりも長く形成され、ステム部811に固定されたリテーナ88に対してロストモーション機構84を間隔L3だけ離間させている。この距離L3によってロストモーション時におけるプランジャ842の貫通孔847に対するステム部811の出入長が確保され、バルブタペット83と吸気バルブ81との非連動を可能としている。
【0042】
このように、比較例に係る動弁装置8にロストモーション機構84を設ける場合には、吸気バルブ81の駆動方向における装置寸法が増加する。これに伴い、動弁装置8を収容するシリンダヘッド36及びヘッドカバー37等の部品の寸法も増加し、結果としてエンジンの高さ寸法が増加する。このため、比較例に係る動弁装置8では、装置寸法の増加に対応した専用部品が必要となり製造コストが増大する。図6では、ロストモーションを実現させるために吸気バルブ81のステム部811を長く形成する必要がある。
【0043】
一方、本実施の形態に係る動弁装置8は、アウタースプリング86が支持面368で支持され、インナースプリング87がアウタースプリング86よりも深い位置で支持面369に支持されている。このため、アウタースプリング86は、比較例のアウタースプリング86の長さL1よりも短い長さL4で、リテーナ88とロストモーション機構84との間の間隔L3を確保することができる。すなわち、アウタースプリング86の長さを、比較例と比べてインナースプリング87の下端部が支持面368から下がった距離aだけ短くできる。
【0044】
このように、本実施の形態に係る動弁装置8は、アウタースプリング86の長さを短くできるため、バルブタペット83及びロストモーション機構84を低い位置に配置できる。よって、ロストモーション機構84による動弁装置8の寸法増加が吸収され、エンジンの高さ寸法の増加を抑制できる。さらに、エンジンの高さ寸法の増加に伴う専用部品が不要となり、製造コストを低減できる。図6では、バルブタペット83及びロストモーション機構84が低い位置に配置されるため、ステム部811を短く形成することができ、例えば、ロストモーション機構84を備えない動弁装置8の吸気バルブ81を利用できる。
【0045】
また、本実施の形態に係る動弁装置8は、アウタースプリング86の下端部よりもインナースプリング87の下端部を傘部812側に位置付け、段付き円筒状のスプリングシート89によって支持している。したがって、動弁装置8の下端側の外形形状は、アウタースプリング86の下端部において環状保持部894によって画定される幅寸法W1よりも、インナースプリング87の下端部において側面部893によって画定される幅寸法W2が狭く形成される。このように、動弁装置8は、シリンダヘッド36に対する設置部分(即ちバルブタペット83からスプリングシート89までの部位)が、ステム部811の上端部側よりも下端部側において幅狭に形成されている。したがって、図4に示すように、シリンダヘッド36のデッドスペースSが狭く形成されていても、吸気ポート361内に動弁装置8が突出するのを防止、または極力抑えることが可能となっている。
【0046】
以上のように、本実施の形態に係る動弁装置8によれば、シリンダヘッド36のデッドスペースSに、アウタースプリング86よりも小径なインナースプリング87の端部が配置されることで、吸気ポート361及び排気ポート362への各スプリング86、87の突出を防止、又は極力抑えて、簡易な構成でエンジンの高さ寸法の増加を抑制できる。これにより、ロストモーション機構84による動弁装置8の寸法増加を吸収させて、エンジンの高さ寸法の増加を抑制できる。よって、エンジンの設置スペースの確保が容易となり、エンジンの軽量化を図ることができる。さらに、エンジンの高さ寸法の増加に伴う専用部品が不要となり、製造コストを低減できる。
【0047】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0048】
例えば、本実施の形態に係る動弁装置8は、外側座面部891と内側座面部892とが一体に形成されたスプリングシート89を備えるが、図7及び図8の変形例に係る動弁装置8のように、別体に形成されたスプリングシートを備えてもよい。変形例に係る動弁装置8は、上記の実施の形態に係る動弁装置とスプリングシートが分割された点についてのみ相違する。したがって、特に相違点についてのみ説明する。図7は、変形例に係る動弁装置の斜視図である。図8は、変形例に係る動弁装置の断面図である。なお、変形例において、上記の実施の形態と同一の用語については同一の符号を付して説明する。
【0049】
図7及び図8に示すように、変形例に係る動弁装置8は、アウタースプリング86用のスプリングシート(第2のスプリングシート)89aと、インナースプリング87用のスプリングシート(第1のスプリングシート)89bとを有している。スプリングシート89aは、アウタースプリング86の下端部を受ける外側座面部891と、外側座面部891の外縁部に立設する抜け止め用の環状保持部894とから構成されている。スプリングシート89bは、インナースプリング87の下端部を受ける内側座面部892と、内側座面部892の内縁部に立設する抜け止め用の環状保持部895とから構成されている。すなわち、スプリングシート89a、89bは、上記の実施の形態に係るスプリングシート89から側面部893を除いた構成となってなり、スプリングシート89a、89b間でインナースプリング87の下端部の素面が露出されている。
【0050】
動弁装置8の下端側の外形形状は、インナースプリング87を囲う側面部893を有さないため、インナースプリング87の外周面によって幅寸法W3が画定される。よって、インナースプリング87の下端部においては、側面部893の厚みを有さない分だけ上記の実施の形態における側面部893により画定される幅寸法W2よりも、さらに幅寸法を狭くすることが可能となる。このように、動弁装置8は、シリンダヘッド36に対する設置部分が、ステム部811の上端部側よりも下端部側において、さらに幅狭に形成されている。したがって、シリンダヘッド36のデッドスペースSが狭く形成されていても、吸気ポート361内に動弁装置8が突出するのを防止、または極力抑えることが可能となっている。
【符号の説明】
【0051】
1 自動二輪車
3 エンジンユニット
8 動弁装置
31 クランクケース
35 シリンダブロック
36 シリンダヘッド
37 ヘッドカバー
39 カムシャフト
81 吸気バルブ(バルブ)
82 排気バルブ(バルブ)
83 バルブタペット(動力伝達部品)
84 ロストモーション機構
86 アウタースプリング(第2のスプリング)
87 インナースプリング(第1のスプリング)
89、89a、89b スプリングシート(第1のスプリングシート、第2のスプリングシート)
355 燃焼室
361 吸気ポート(流体流路)
362 排気ポート(流体流路)
363 凹部
364 設置空間
365 外壁部
368、369 支持面
371 収容空間
811 ステム部
812 傘部
891 外側座面部
892 内側座面部
893 側面部
894、895 環状保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダヘッドに設置され、カムシャフトによって駆動される動弁装置において、
直線状に延びるステム部を有し、前記ステム部の延在方向に沿って駆動することで前記エンジンの燃焼室に連通する流体流路を開閉するバルブと、
前記燃焼室から遠方に位置する前記ステム部の一端側と前記カムシャフトとの間に配置され、前記カムシャフトからの動力を前記バルブに伝達する動力伝達部品と、
前記動力伝達部品から前記バルブへの動力伝達を遮断可能とするロストモーション機構とを備え、
前記シリンダヘッドに対する設置部分が、前記ステム部の一端部側よりも他端部側において幅狭に形成されることを特徴とする動弁装置。
【請求項2】
前記バルブを前記動力伝達部品に向けて付勢する第1のスプリングと、
前記第1のスプリングの径方向外側において前記動力伝達部品を前記カムシャフトに押し付ける第2のスプリングとを備え、
前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第1のスプリングの端部が前記第2のスプリングの端部よりも前記動力伝達部品から遠方に位置することで、前記シリンダヘッドに対する設置部分が、前記ステム部の一端部側よりも他端部側において幅狭に形成されることを特徴とする請求項1に記載の動弁装置。
【請求項3】
前記第1のスプリング及び前記第2のスプリングは、前記シリンダヘッドに対してスプリングシートを介して設置され、
前記スプリングシートは、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第2のスプリングの端部を受ける外側座面部と、前記第1のスプリングの端部を受ける内側座面部と、前記外側座面部の内縁と前記内側座面部の外縁とを連ねる側面部とを有することを特徴とする請求項2に記載の動弁装置。
【請求項4】
前記第1のスプリングは、第1のスプリングシートを介して前記シリンダヘッドに対して設置され、前記第2のスプリングは、第2のスプリングシートを介して前記シリンダヘッドに対して設置され、
前記第1のスプリングシートは、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第2のスプリングの端部を受ける外側座面部を有し、前記第2のスプリングシートは、前記ステム部の延在方向の他端部側において、前記第1のスプリングの端部を受ける内側座面部を有し、
前記第1のスプリングシートと前記第2のスプリングシートとの間で、前記第1のスプリングの端部の素面が露出されることを特徴とする請求項2に記載の動弁装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の動弁装置が取り付けられるエンジンであって、
前記動弁装置が設置される設置空間と前記流体流路とが、当該流体流路の外壁部により仕切られており、
前記外壁部の設置空間側には、前記スプリングシートの側面部及び前記内側座面部が収容される凹部が形成されることを特徴とするエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172609(P2012−172609A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36099(P2011−36099)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】